(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/52 20060101AFI20240806BHJP
B29C 43/20 20060101ALI20240806BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240806BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20240806BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20240806BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
B29C43/52
B29C43/20
B29C70/16
B29C70/42
B29K101:12
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2020149136
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】土井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】守田 仁哉
(72)【発明者】
【氏名】前川 孝生
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-229209(JP,A)
【文献】国際公開第2013/140786(WO,A1)
【文献】特開2013-224411(JP,A)
【文献】特開2013-104034(JP,A)
【文献】特開平06-297632(JP,A)
【文献】特開2015-030108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/52
B29C 43/20
B29C 70/16
B29C 70/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する不織布を、
通電用ターミナルが接合された絶縁体で挟み込み、
前記不織布を通電加熱する工程と、前記不織布をプレス成形する工程とを含む、繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項2】
前記通電加熱する工程と、前記プレス成形する工程は同時に行われる工程である、請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項3】
前記通電加熱する工程の後に、前記プレス成形する工程が設けられる、請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項4】
前記不織布の密度が0.05g/cm
3以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項5】
前記炭素繊維の数平均繊維長が3~50mmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項6】
前記不織布における前記炭素繊維の含有量は、前記不織布の全質量に対して、20~80質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項7】
前記通電加熱する工程における加熱温度が前記熱可塑性樹脂の軟化温度以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁体がセラミック、ガラス及び樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む不織布(繊維強化プラスチック成形体用基材ともいう)から成形された繊維強化プラスチック成形体は、既にスポーツ、レジャー用品、航空機用材料、電子機器部材など様々な分野で用いられている。従来、繊維強化プラスチック成形体においてマトリックスとなる樹脂には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、またはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられていた。しかし、熱硬化性樹脂を用いた場合、熱硬化性樹脂と強化繊維を混合した不織布は冷蔵保管しなければならず、長期保管ができないという難点があった。
【0003】
このため、近年は、マトリックス樹脂として、熱可塑性樹脂を用いた繊維強化プラスチック成形体の開発が進められている。このような熱可塑性樹脂と強化繊維を混合した不織布は、保存管理が容易であり、長期保管ができるという利点を有する。また、熱可塑性樹脂を含む不織布は、熱硬化性樹脂を含む不織布と比較して成形加工が容易であり、加熱加圧処理を行うことにより成形加工品を成形することができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、強化繊維の単位面積当たりの繊維量が、40~500g/m2の範囲の不織布を金型内に設置する工程(a)と、熱可塑性樹脂を金型内に射出して不織布と熱可塑性樹脂とからなる成形品を得る工程(b)とを備える繊維強化複合材の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、結合用樹脂として熱可塑性樹脂を含む複合材料層が開示されている。特許文献2には、複合材料層を加圧操作の前および/または該操作の間加熱し、任意形状の製品を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/118226号
【文献】特開平2-196625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の成形体の製造方法においては、十分な密度の成形体が得られない場合などがあり、成形性に改善の余地があった。とりわけ、特許文献1では、セットした不織布に樹脂を射出して成形するため操作が煩雑でありまた成形性も十分ではなかった。また、特許文献2では、不織布を絶縁体で包み込まないために、通電後、すぐにプレス機本体に電流が流れショートしてしまうため安全性にも問題があり、また、不十分な通電の場合、加熱不足となり、十分な密度が得られず成形性にも影響が及ぶという問題があった。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、成形性に優れた成形体の製造方法を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する不織布を通電加熱する工程と、不織布をプレス成形する工程とを含む、繊維強化プラスチック成形体の製造方法において、該不織布を絶縁体で挟み込むことにより、成形性に優れた繊維強化プラスチック成形体が得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する不織布を、絶縁体で挟み込み、
不織布を通電加熱する工程と、不織布をプレス成形する工程とを含む、繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
[2] 通電加熱する工程と、プレス成形する工程は同時に行われる工程である、[1]に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
[3] 通電加熱する工程の後に、プレス成形する工程が設けられる、[1]に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
[4] 不織布の密度が0.05g/cm3以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
[5] 炭素繊維の数平均繊維長が3~50mmである、[1]~[4]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
[6] 不織布における炭素繊維の含有量は、不織布の全質量に対して、20~80質量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
[7] 通電加熱する工程における加熱温度が熱可塑性樹脂の軟化温度以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
[8] 絶縁体がセラミック、ガラス及び樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、成形性に優れた繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、通電加熱する工程における装置の構成を説明する概略図である。
【
図2】
図2は、プレス成形する工程における装置の構成を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(繊維強化プラスチック成形体の製造方法)
本発明は、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する不織布を、絶縁体で挟み込み、不織布を通電加熱する工程と、不織布をプレス成形する工程とを含む、繊維強化プラスチック成形体の製造方法に関する。本発明の繊維強化プラスチック成形体の製造方法においては、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する不織布を、絶縁体で挟み込んだ状態で、通電加熱する工程と、不織布をプレス成形する工程とを含むため、密度の大きな繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。すなわち、本発明においては成形性に優れた繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。さらに、本発明の製造方法で得られる繊維強化プラスチック成形体は密度が大きいため、剛性(たわみ性)が小さく、また、表面均一性も良好である。このため、本発明の製造方法で得られる繊維強化プラスチック成形体は例えば、電子製品筐体、音響機器部材、スポーツシューズ用部材としての用途に適している。
【0014】
図1は、通電加熱する工程における装置の構成を説明する概略図である。
図1に示されるように、通電加熱する工程で用いられる装置は、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する不織布4を挟み込む絶縁体3を有する。そして絶縁体3の少なくとも一方には、通電加熱線1が接続された通電用ターミナル5が備え付けられている。通電加熱線1は、直流電源又は交流電源の端子に接続されており、電源を入れることにより、通電用ターミナル5に電流が流れることとなる。通電用ターミナル5に電流が流れると、通電用ターミナル5に接する不織布4が加熱され、不織布4に含まれる熱可塑性樹脂が溶融される。なお、通電加熱する工程における装は、電圧によって加熱温度を調節するトランス機構をさらに備えるものであってもよい。このような機構を備えることで、不織布4の加熱温度を所望の温度に調整することが容易となる。
【0015】
図2は、プレス成形する工程における装置の構成を説明する概略図である。
図2に示されるように、プレス成形する工程においては、一対のプレス金型6を互いに矢印の方向に締めることで、加圧成形を行う。なお、プレス成形する工程では、一対のプレス金型6の両方を矢印の方向に締めてもよく、一対のプレス金型6のうち、一方のプレス金型6を固定し、他方のプレス金型6を締めることでプレス圧がかかるようにしてもよい。
【0016】
本実施形態においては、上記構成により不織布4が加熱されるため、不織布4の内部にも熱が伝わり、不織布4全体が加熱される。また、本実施形態においては、不織布4の両面に絶縁体3が配設されるため、不織布4を均一に加熱することが可能となる。このため、得られる繊維強化プラスチック成形体の密度が高くなり、剛性(たわみ性)の小さな繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0017】
通電加熱する工程とプレス成形する工程は、同時に行われる工程であってもよい。例えば、
図2に示されるように、一対のプレス金型6で、絶縁体3に挟持された不織布4全体をプレス成形してもよい。また、通電加熱する工程の後に、プレス成形する工程が設けられてもよい。この場合、通電加熱する工程で加熱された不織布4をプレス工程に搬送して、プレス成形を行う。この際、絶縁体3に挟持された不織布4をプレス工程に搬送してもよく、不織布4のみをプレス工程に搬送してもよい。
【0018】
通電加熱する工程で用いられる絶縁体は、固体絶縁材料からなる。固体絶縁材料は、大きく分けて有機繊維質材料、有機固体絶縁材料及び無機固体絶縁材料の三つに分けられる。有機繊維質材料としては、紙、綿、ポリエステル、ナイロン、ゴム等の合成繊維や天然繊維が挙げられる。有機固体絶縁材料としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂を硬化させた材料が挙げられる。無機固体絶縁材料としては、セラミック、ガラス、マイカ、アスベスト等が挙げられる。なお、絶縁体としては、ガラスエポキシ樹脂板のように有機固体絶縁材料と無機固体絶縁材料を複合化させたものを用いてもよく、樹脂系の絶縁塗料を塗布したものを用いてもよい。中でも、本実施形態においては、耐熱性や硬度の観点から、有機固体絶縁材料や無機固体絶縁材料を使用することが好ましい。
【0019】
通電加熱する工程で用いられる絶縁体の体積抵抗率は、105Ω・cm以上であることが好ましく、108Ω・cm以上であることがより好ましく、1010Ω・cm以上であることがさらに好ましい。本実施形態においては、通電加熱する工程で用いられる絶縁体はシート状物であることが特に好ましい。絶縁体がシート上物である場合、絶縁体の厚みは0.1~100mmであることが好ましい。絶縁体を上記構成とすることにより、通電加熱する工程において、不織布をより均一に加熱することが可能となり、より成形性に優れた繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0020】
絶縁体は、不織布表面の全域を覆うものであることが好ましい。例えば、不織布の一方の面の面積をPとし、絶縁体の一方の面の面積をQとした場合、Q≧Pであることが好ましい。不織布表面の全域が絶縁体に覆われることで、通電加熱する工程において、絶縁性を担保しつつ、不織布をより均一に加熱することが可能となり、より成形性に優れた繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。また、絶縁体上にはプレス成形後の離型性を向上させる目的で離型剤を塗布したり、離型紙を置いてもよい。
【0021】
図1に示されるように、絶縁体3には通電用ターミナル5が接合されていることが好ましい。通電用ターミナル5が接合されていない場合でも直接通電による加熱は可能であるが、電極との接触箇所に過度に電流が流れ加熱されてしまうため、不織布の樹脂成分が溶解して低粘度化し過ぎる懸念がある。このため、絶縁体3には通電用ターミナル5が接合されていることが好ましく、通電用ターミナル5は、金属製のテープであることが好ましく、アルミテープであることがより好ましい。なお、通電用ターミナル5の体積抵抗率は10
-4Ω・cm以下であることが好ましく、厚みは0.01~5mmであることが好ましい。また、通電用ターミナル5の面積は絶縁体3の面積に対して0.1~30%であることが好ましい。
【0022】
通電用ターミナル5は絶縁体3に埋め込まれていてもよく、絶縁体3の上に単に積層されていてもよい。但し、取り扱い性を向上させるために、通電用ターミナル5と絶縁体3は接着剤等で接合されていることが好ましい。
【0023】
なお、本実施形態においては、不織布をSUS等の金属製の金型で挟み込んだ後に、さらにその全体を絶縁体で挟み込んでもよい。SUS等の金属製の金型で不織布を挟み込むことにより、得られる繊維強化プラスチック成形体の表面性がよくなり成形性がより向上する。この場合、加熱冷却の時間が増大することを抑制するために、金属製の金型の厚みは10mm以下とすることが好ましい。
【0024】
通電加熱する工程における加熱温度は、熱可塑性樹脂の軟化温度以上であることが好ましく、熱可塑性樹脂の軟化温度+20℃以上であることがより好ましい。例えば、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いる場合、通電加熱する工程における加熱温度は、170℃以上であることが好ましく、185℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。また、通電加熱する工程における加熱温度は、250℃以下であることが好ましい。なお、熱可塑性樹脂の軟化温度は、顕微鏡やDSC等を用いて測定ことができる。通常、結晶性の樹脂の軟化温度は融点であり、非結晶性の樹脂の軟化温度はガラス転移温度となる。
【0025】
プレス成形する工程で用いられるプレス金型としては、例えば、スチールやステンレス製の金型を用いることができる。プレス成形する工程では不織布や絶縁体の各表面と平行になるようにプレス金型が配置される。
【0026】
プレス成形する工程におけるプレス圧力は、10kgf/cm2以上であることが好ましく、20kgf/cm2以上であることがより好ましく、30kgf/cm2以上であることがさらに好ましい。また、プレス成形する工程におけるプレス圧力は、500kgf/cm2以下であることが好ましく、400kgf/cm2以下であることがより好ましく、300kgf/cm2以下であることがさらに好ましい。
【0027】
また、プレス成形する工程に供される不織布の温度は、不織布に含まれる熱可塑性樹脂の軟化温度以上であることが好ましく、熱可塑性樹脂の軟化温度以上であることがより好ましい。例えば、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いる場合、プレス成形する工程に供される不織布の温度は、150℃以上であることが好ましく、165℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。また、プレス成形する工程に供される不織布の温度は、230℃以下であることが好ましい。
【0028】
プレス成形する工程においてプレス成形がなされたあとには、不織布から成形された繊維強化プラスチック成形体を冷却する工程が設けられることが好ましい。この場合、繊維強化プラスチック成形体は少なくとも熱可塑性樹脂の軟化温度-50℃以下となるまで冷却された後に、プレス金型から取り出されることが好ましい。
【0029】
<不織布>
通電加熱する工程に供される不織布は、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する。中でも、不織布は、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維を含むものであることが好ましく、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維を含む湿式不織布であることがより好ましい。
【0030】
不織布の密度は、0.05g/cm3以上であることが好ましく、0.08g/cm3以上であることがより好ましく、0.10g/cm3以上であることがさらに好ましく、0.20g/cm3以上であることが一層好ましく、0.30g/cm3以上であることが特に好ましい。また、不織布の密度は、構成材料の理論密度の95%以下であることが好ましい。通電加熱する工程に供される不織布の密度を上記範囲内とすることにより、得られる繊維強化プラスチック成形体の剛性(たわみ性)を小さくすることができ、より成形性に優れた繊維強化プラスチック成形体が得られやすくなる。
【0031】
不織布の目付量は10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましく、30g/m2以上であることがさらに好ましい。また、不織布の目付量は1000g/m2以下であることが好ましい。不織布の目付量を上記範囲内とすることにより、得られる繊維強化プラスチック成形体の剛性(たわみ性)を小さくすることができ、より成形性に優れた繊維強化プラスチック成形体が得られやすくなる。また、本実施形態においては、トータルの目付量が上記範囲内となるように不織布を積層してもよい。
【0032】
通電加熱する工程に供される不織布は、予備プレスシート(プリプレスシート)であってもよい。ここで、予備プレスシートとは、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する加圧されていない不織布を、低圧で加熱加圧成形することにより得られるシートである。なお、本明細書において、予備プレスシート(プリプレスシート)は、成形の余地がある(残されている)程度に1回又は複数回成形体用シートを加熱加圧成形したものをいう。
【0033】
<炭素繊維>
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等の炭素繊維を用いることができる。これらの炭素繊維は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせ用いてもよい。また、これら炭素繊維の中でも、工業規模における生産性及び機械特性の観点から、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維を用いることが好ましい。
【0034】
炭素繊維の数平均繊維長は、3mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることがさらに好ましい。また、炭素繊維の数平均繊維長は、50mm以下であることが好ましく、40mm以下であることがより好ましく、30mm以下であることがさらに好ましい。炭素繊維の数平均繊維長を上記範囲内とすることにより、不織布を製造する際に炭素繊維が脱落することを抑制することができる。また、炭素繊維の数平均繊維長を上記範囲内とすることにより、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。
【0035】
炭素繊維の平均繊維径は3μm以上20μm以下であることが好ましい。炭素繊維の平均繊維径を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体の強度を高めることができる。
【0036】
炭素繊維の単繊維強度は、4500MPa以上であることが好ましく、4700MPa以上であることがより好ましい。単繊維強度とは、モノフィラメントの引っ張り強度をいう。なお、単繊維強度は、JIS R7601「炭素繊維試験方法」に準じて測定することができる。
【0037】
不織布における炭素繊維の含有量は、不織布の全質量に対して、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、不織布における炭素繊維の含有量は、不織布の全質量に対して、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。炭素繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、成形性に優れた繊維強化プラスチック成形体が得られやすくなる。また。炭素繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。
【0038】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA6、PA66、PA9T)、ABS、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリスチレン(PS)等を挙げることができる。
【0039】
本明細書において、熱可塑性樹脂は、加熱加圧処理時にマトリックス、あるいは、繊維成分の交点に結着点を形成するため、マトリックス樹脂とも呼ばれる。このような熱可塑性樹脂を用いた不織布は、熱硬化性樹脂を使用したシートに比べて、オートクレーブ処理が不要で、加工する際の加熱加圧成形時間が短時間ですみ、生産性を高めることができる。
【0040】
本実施形態で用いられる不織布では、熱可塑性樹脂が繊維形態をしていることが好ましい。熱可塑性樹脂が繊維形態をしている場合、熱可塑性樹脂繊維が加熱加圧成形前には、繊維形態を維持しているため、繊維強化プラスチック成形体を形成する前は、シート自体がしなやかでドレープ性がある。このため、不織布を巻き取りの形態で保管・輸送することが可能であり、ハンドリング性に優れるという特徴を有する。
【0041】
熱可塑性樹脂が繊維形態である場合、熱可塑性樹脂繊維の数平均繊維長は、3mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることがさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂繊維の数平均繊維長は、30mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましく、15mm以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂繊維の数平均繊維長を上記範囲内とすることにより、不織布を製造する際に熱可塑性樹脂繊維が脱落することを抑制することができる。また、熱可塑性樹脂繊維の数平均繊維長を上記範囲内とすることにより、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。
【0042】
熱可塑性樹脂が繊維形態である場合、熱可塑性樹脂繊維の平均繊維径は3μm以上50μm以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂繊維の平均繊維径を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体の強度を高めることができる。
【0043】
不織布における熱可塑性樹脂の含有量は、不織布の全質量に対して、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、不織布における熱可塑性樹脂の含有量は、不織布の全質量に対して、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、成形性に優れた繊維強化プラスチック成形体が得られやすくなる。また。熱可塑性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。
【0044】
<任意成分>
通電加熱する工程に供される不織布は、炭素繊維と熱可塑性樹脂の他に任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、バインダー成分を挙げることができる。
【0045】
バインダー成分としては、一般的に不織布製造に使用される、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂及びこれらを組み合わせた芯鞘構造のバインダー繊維、アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、PVA樹脂、各種澱粉、セルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドーアクリル酸エステルーメタクリル酸エステル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が使用できる。
【0046】
バインダー成分の含有量は、不織布の全質量に対して20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。バインダー成分の含有率を上記範囲内とすることにより、不織布の強度を高めることができ、ハンドリング性を向上させることができる。
【0047】
また、任意成分としては、例えば、カップリング剤、酸化防止剤、耐光安定剤、難燃剤、カーボンブラック等の着色剤を挙げることができる。
【0048】
なお、本実施形態において、不織布としては、目的や用途に応じて適当な樹脂フィルムを積層してプレス成形したものを用いることもできる。このような樹脂フィルムとしては、PP、PE、PC、PA、PEI、PETフィルムなどが挙げられる。
【0049】
(繊維強化プラスチック成形体)
本発明は、上述した製造方法により製造された繊維強化プラスチック成形体に関するものであってもよい。上述した製造方法により製造された繊維強化プラスチック成形体は、剛性(たわみ性)が小さく、成形性に優れている。
【0050】
繊維強化プラスチック成形体の密度は、0.70g/cm3以上であることが好ましく、0.80g/cm3以上であることがより好ましく、0.90g/cm3以上であることがさらに好ましく、1.00g/cm3以上であることが特に好ましい。また、繊維強化プラスチック成形体の密度は、理論密度以下であることが好ましい。本発明においては、上述した製造方法を採用することにより、高密度な繊維強化プラスチック成形体を製造することができる。
【0051】
繊維強化プラスチック成形体の用途としては、例えば、「OA機器、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末、タブレットPC、デジタルビデオカメラなどの携帯電子機器、エアコンその他家電製品などの筐体、及び筐体に貼り付けるリブ等の補強材、家庭用や車載用のオーディオや電子楽器のスピーカーの振動板、「ゴルフクラブ、釣竿、ランニング用シューズ」などのスポーツ・レジャー用品、航空機用材料、「支柱、パネル、補強材」などの土木、建材用部品、「各種フレーム、各種車輪用軸受、各種ビーム、ドア、トランクリッド、サイドパネル、アッパーバックパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、などの外板またはボディー部品及びその補強材」、「インストルメントパネル、シートフレームなどの内装部品」、または「ガソリンタンク、各種配管、各種バルブなどの燃料系、排気系、または吸気系部品」、「エンジン冷却水ジョイント、エアコン用サーモスタットベース、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング」などの自動車、二輪車用部品、「ウィングレット、スポイラー」などの航空機用部品、「鉄道車両用の座席用部材、外板パネル、外板パネルに貼り付ける補強材、天井パネル、エアコン等の噴出し口」などの鉄道車両用部品、「樹脂(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂)からなる成形体の補強材、樹脂と強化繊維からなる成形体の補強材、植物由来のシート(クラフト紙、段ボール、耐油紙、絶縁紙、導電紙、剥離紙、含浸紙、グラシン紙、セルロースナノファイバーシートなど)の補強材」などの部材に好適に使用される。
【実施例】
【0052】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0053】
(実施例1)
(炭素繊維抄造体の製造)
乾燥重量で、ポリプロピレン繊維(繊維径20μm、繊維長10mm)50質量部、炭素繊維(繊維径7μm、繊維長6mm)40質量部、ポリビニルアルコール繊維(繊維径11μm、繊維長3mm)10質量部を準備し、湿式抄造法により炭素繊維抄造体(目付80g/m2)を製造した。炭素繊維抄造体の密度は0.08g/cm3であった。
【0054】
(成形加工)
得られた炭素繊維抄造体に通電加熱を行った。通電加熱を行う装置としては
図1に示したものを用いた。先ず、上記炭素繊維抄造体を200mm×200mm角に裁断し、両端に通電用ターミナル(アルミニウムテープ)が接続された5mm厚のガラスエポキシ樹脂板(絶縁)上に装着した。次いで、その上にさらにガラスエポキシ樹脂板(絶縁)を置いて、炭素繊維抄造体を挟み込んだ。この状態で交流電源の電源を入れ、通電して加熱を行った。炭素繊維抄造体の端部の表面温度が200℃に到達した後、ガラスエポキシ樹脂板(絶縁)に挟み込んで通電した状態で、あらかじめ40℃に金型を加熱しておいたプレス機にセットして、圧力50kgf/cm
2で1分間成形加工した。成形加工の1分後に通電を停止して冷却した。シートの表面温度が80℃になった時、プレスを開放した。得られた繊維強化プラスチック成形体の密度は0.85g/cm
3であった。
【0055】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で製造した炭素繊維抄造体を、温度170℃、圧力10kgf/cm2で3分間熱プレスし、密度0.50g/cm3の予備プレスシートとした。得られた予備プレスシートを用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。得られた繊維強化プラスチック成形体の密度は1.00g/cm3であった。
【0056】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で製造した炭素繊維抄造体を、温度185℃、圧力10kgf/cm2で3分間熱プレスし、80℃まで冷却して密度0.80g/cm3の予備プレスシートとした。得られた予備プレスシートを用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。得られた繊維強化プラスチック成形体の密度は1.15g/cm3であった。
【0057】
(比較例1)
実施例3と同様の方法で得られた予備プレスシートを、遠赤外線ヒーターを用いて表面温度が250℃になるまで加熱した。次に予め40℃に加熱しておいたプレス機(金型はSUS製)に加熱した予備プレスシートを移動して、圧力50kgf/cm2で成形した。得られた繊維強化プラスチック成形体の密度は0.60g/cm3であった。
【0058】
(評価:表面光沢ムラ)
実施例及び比較例で得られた繊維強化プラスチック成形体の表面の光沢ムラを目視で評価した。
◎:表面の光沢ムラはなく均一である。
○:表面にやや光沢ムラが見られるが実用上問題ない。
×:表面に光沢ムラが見られ均一性がない。
【0059】
(評価:成形性)
実施例及び比較例で得られた繊維強化プラスチック成形体の成形性について以下の基準に基づいて、総合的に評価した。
◎:加熱が十分で、得られた成形体の密度も高く、光沢ムラもない。
○:加熱が十分で、得られた成形体の密度も高いが、実用上問題ないレベルの光沢ムラがある。
×:加熱が不十分で、得られた成形体の密度も低く、光沢ムラが見られる。
【0060】
【0061】
比較例1に比べて実施例1~3では、密度の高い繊維強化プラスチック成形体が得られており、表面の光沢ムラの発生が抑制されていた。このように、実施例では、成形性が良好な繊維強化プラスチック成形体が得られていた。
【符号の説明】
【0062】
1 通電加熱線
3 絶縁体
4 不織布
5 通電用ターミナル
6 プレス金型