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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ホットメルト組成物、及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20240806BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20240806BHJP
   C08L 57/02 20060101ALI20240806BHJP
   C08L 23/22 20060101ALI20240806BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240806BHJP
   C09J 123/08 20060101ALI20240806BHJP
   C09J 191/06 20060101ALI20240806BHJP
   C09J 157/02 20060101ALI20240806BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240806BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L91/06
C08L57/02
C08L23/22
C08L83/04
C09J123/08
C09J191/06
C09J157/02
C09J11/06
B32B27/28 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020153846
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047840
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥山 知裕
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-263100(JP,A)
【文献】特開2005-036067(JP,A)
【文献】特開2003-213242(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0259578(US,A1)
【文献】国際公開第2014/127093(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C09J
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、粘着付与樹脂(C)、ポリイソブチレン(D)、シリコーンオイル(E)、及び滑剤(F)を含み、
フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、及び粘着付与樹脂(C)の合計を基準として、フィッシャートロプシュワックス(A)を20~40質量%、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を20~60質量%、粘着付与樹脂(C)を15~40質量%、ポリイソブチレン(D)を1~10質量%、並びにシリコーンオイル(E)及び滑剤(F)を合計で1.5~5質量%含有するホットメルト組成物。
【請求項2】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の酢酸ビニル含有率が、20~35質量%である、請求項1に記載のホットメルト組成物。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂(C)の軟化点が、60~160℃である、請求項1または2に記載のホットメルト組成物。
【請求項4】
前記ポリイソブチレン(D)の粘度平均分子量(MV)が、30,000~90,000である、請求項1~いずれか1項に記載のホットメルト組成物。
【請求項5】
150℃における溶融粘度が、500~5,000mPa・sである、請求項1~いずれか1項に記載のホットメルト組成物。
【請求項6】
基材上に、請求項1~いずれか1項に記載のホットメルト組成物からなる層を備える積層体。
【請求項7】
前記層の表面における静摩擦係数が1.5未満である、請求項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト組成物及び該組成物を用いた積層体に関する。更に詳しくは、塗工面の滑り性に優れ、ブロッキング性が良好であり、耐寒性に優れたホットメルト組成物及び該組成物を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト組成物は、ヨーグルト、乳酸菌飲料等の容器を密閉する為の蓋材に塗工されるヒートシール剤として広く使用されている。これらの製品は低温に冷却されるため、ホットメルト組成物にも低温での耐久性すなわち耐寒性が求められている。また、蓋材の製造工程では、ホットメルト組成物が塗工された塗工物は、数十枚から数百枚重ねた状態で、容器の口径に合わせた寸法に断裁刃で打ち抜かれるため、蓋材上面と蓋材下部のホットメルト塗工面とのブロッキング性に優れるホットメルト組成物が求められている。また、容器の製造工程では、蓋材を容器にセットするために、蓋材のホットメルト塗工面を下にしてステンレス板等の金属製の工程ライン上を滑らせるため、滑り性に優れるホットメルト組成物が求められている。
【0003】
上記要求に対し、特許文献1には、エチレン又はプロピレン系のポリマー、粘着付与樹脂、ワックス、及び滑剤からなる、滑り性を改善するコーティング剤が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のコーティング剤は、ポリマーの量とワックスの量とが相関しており、滑り性と接着強度との両立が困難であるという課題がある。また、特許文献1に記載のコーティング剤は、耐寒性に劣るという課題がある。
【0004】
特許文献2には、特定の未水添芳香族(C9)系石油樹脂を使用することで、耐熱性と耐寒性とを兼備するホットメルト組成物が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載のホットメルト組成物は、未水添芳香族系石油樹脂の軟化点が高く、エチレン系共重合体の配合比が少ないことから、低温でホットメルトが硬くなりすぎ、十分な耐寒衝撃性を得ることができないという課題がある。また、特許文献2における耐寒性は、低温で段ボール表面を破壊するか否かというものであり、被着体が紙である。特許文献2には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリマーを被着体とした場合の耐寒性については記載されていない。
【0005】
特許文献3には、特定の分岐数と組成分布とを有するエチレン-酢酸ビニル共重合体と、組成と分子量とを最適化した芳香族炭化水素樹脂と、からなるホットメルト組成物が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載のホットメルト組成物では、5℃以下に冷却して用いられる際に要求される耐寒性を満たすことができない、という課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-290341号公報
【文献】特開2004-263100号公報
【文献】特開2004-197022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、良好な接着強度を有し、且つ、滑り性とブロッキング性と耐寒性とに優れるホットメルト組成物、及び、該組成物を用いてなる、接着強度と滑り性とブロッキング性と耐寒性とに優れる層を備える積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、粘着付与樹脂(C)、ポリイソブチレン(D)、シリコーンオイル(E)、及び滑剤(F)を含むホットメルト組成物に関するに関する。
【0009】
また本発明は、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、及び粘着付与樹脂(C)の合計を基準として、フィッシャートロプシュワックス(A)を20~40質量%、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を20~60質量%、粘着付与樹脂(C)を15~40質量%、ポリイソブチレン(D)を1~10質量%、シリコーンオイル(E)及び滑剤(F)を合計で1.5~5質量%含有する、上記ホットメルト組成物に関する。
【0010】
また本発明は、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の酢酸ビニル含有率が、20~35質量%である、上記ホットメルト組成物に関する。
【0011】
また本発明は、前記粘着付与樹脂(C)の軟化点が、60~160℃である、上記ホットメルト組成物に関する。
【0012】
また本発明は、前記ポリイソブチレン(D)の粘度平均分子量(MV)が、30,000~90,000である、上記ホットメルト組成物に関する。
【0013】
また本発明は、150℃における溶融粘度が、500~5,000mPa・sである、上記ホットメルト組成物に関する。
【0014】
また本発明は、基材上に、請求項1~6いずれか1項に記載のホットメルト組成物からなる層を備える積層体に関する。
【0015】
また本発明は、前記層の表面における静摩擦係数が1.5未満である、上記積層体に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、良好な接着強度を有し、且つ、滑り性とブロッキング性と耐寒性とに優れるホットメルト組成物、及び、該組成物を用いてなる、接着強度と滑り性とブロッキング性と耐寒性とに優れる層を備える積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ホットメルト組成物>
本発明のホットメルト組成物は、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、粘着付与樹脂(C)、ポリイソブチレン(D)、シリコーンオイル(E)及び滑剤(F)を含むことを特徴とする。
一般的に滑り性を良くするには、ホットメルト組成物を硬くし、表面タックを小さくし、凝集力が強く削れにくくすることが考えられる。しかし、ワックス分を多くすると、硬くなるが凝集力が低下する。一方、粘着付与樹脂を増やすと硬くなるが表面タックが大きくなる。
上記に対し、本発明のホットメルト組成物は、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、粘着付与樹脂(C)、ポリイソブチレン(D)、シリコーンオイル(E)及び滑剤(F)を組み合わせることで、接着強度に加えて、優れた滑り性、ブロッキング性及び耐寒性を発揮する。
詳細には、シリコーンオイルと滑剤とを併用することで、フィッシャートロプシュワックス(A)やエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の配合比を高めることなく、粘着付与樹脂を用いた場合の際の表面タックを抑制することができる。これにより、接着強度と滑り性及びブロッキング性とを両立することができる。さらに常温で液状であるポリイソブチレンを組み合わせることで、低温時において、ホットメルト内のポリイソブチレンが緩衝材のような働きをし、優れた耐寒性を発揮する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
<フィッシャートロプシュワックス(A)>
本発明におけるフィッシャートロプシュワックス(A)は、石炭又は天然ガス等を原料とし、そこから得られた一酸化炭素と水素ガスから合成された飽和炭化水素の合成ワックスである。フィッシャートロプシュワックス(A)としては、市販されている製品を用いることができる。このような市販されているフィッシャートロプシュワックスとしては、例えば、Sasol社のC80、又はH1があげられる。これらのフィッシャートロプシュワックスは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0019】
フィッシャートロプシュワックス(A)のDSC融点は、好ましくは60℃~100℃の範囲であり、より好ましくは65~90℃の範囲であり、さらに好ましくは70~85℃の範囲である。60℃以上であると、ヒートシール物が40℃以上のような比較的高温の雰囲気に曝された場合においても、ヒートシール物が剥がれることを抑制することができる。100℃以下であると、ヒートシール温度が比較的低い場合でも、十分な接着強度を得ることができる。
なお、本明細書におけるDSC融点は、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter)により10℃/分の昇温速度で測定するDSC曲線の熱量ピーク時の温度である。
【0020】
フィッシャートロプシュワックス(A)の含有量は、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、及び粘着付与樹脂(C)の合計を基準として、好ましくは20~40質量%であり、より好ましくは30~40質量%である。
【0021】
<エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)>
本発明におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、EVAともいう)は、その高い粘着性を利用してホットメルト組成物の成分として使用されるものである。これらのエチレン-酢酸ビニル共重合体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の酢酸ビニル含有率は、好ましくは20~35質量%である。エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が2種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含む場合、その酢酸ビニル含有率は、各エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率と配合比から算出することができる。
また、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のメルトフローレート(以下、MFR)は、好ましくは30~2000g/10分であり、より好ましくは60~1000g/10分である。なお、本明細書におけるMFRは、JIS K 7210に準拠して測定される、190℃、2160g荷重での10分間の流出量(g/10分)である。エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が2種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含む場合、そのMFRは、押出機で混錬した後の混合物を測定して求めることができる。
【0022】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の含有量は、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、及び粘着付与樹脂(C)の合計を基準として、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは35~50質量%である。
【0023】
<粘着付与樹脂(C)>
粘着付与樹脂(C)は、主にホットメルト組成物の接着強度及び耐熱性の向上などを目的に配合される。粘着付与樹脂(C)としては、例えば、ロジン系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂、スチレン系粘着付与樹脂が挙げられる。
ロジン系粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン;水素化ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、ロジンエステル(例えば、アルコール、グリセリン、ペンタエリストール等のエステル化ロジン)のようなロジン誘導体;が挙げられる。
石油系粘着付与樹脂としては、例えば、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5/C9系)石油樹脂、脂環族系石油樹脂が挙げられる。
スチレン系粘着付与樹脂としては、スチレン系、置換スチレン系石油樹脂等が挙げられる。その他に、テルペン(α-ピネン、β-ピネン)樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂等があげられ、単独で若しくは2種類以上を組み合わせて用いられる。
これらの粘着付与樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0024】
本発明において用いられる粘着付与樹脂(C)の軟化点は、好ましくは60~160℃であり、より好ましくは90~140℃である。60℃以上であると、単層あるいは多層フィルムにした場合にブロッキングがより起こり難く、160℃以下であると、より高い接着強度が得られやすいため好ましい。なお、本明細書における軟化点は、JIS K 2207に準拠して測定される環球式軟化点である。
【0025】
粘着付与樹脂(C)の含有量は、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、及び粘着付与樹脂(C)の合計を基準として、好ましくは15~40質量%であり、より好ましくは20~35質量%である。
【0026】
<ポリイソブチレン(D)>
本発明におけるポリイソブチレン(D)は、ホットメルト組成物の耐寒衝撃性の向上を目的に配合される。また、本発明におけるポリイソブチレン(D)は、ホットメルト塗工物のグラビア目の表面が滑り時に変形や削れることを防止することを目的に配合される。これらのポリイソブチレンは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0027】
ポリイソブチレン(D)の粘度平均分子量(MV)は、好ましくは30,000~90,000であり、より好ましくは40,000~80,000である。粘度平均分子量が30,000以上であると、より耐寒性が向上し、粘度平均分子量が90,000以下であると、ホットメルト組成物を適正粘度に調整し易くなるため好ましい。
【0028】
ポリイソブチレン(D)の含有量は、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、及び粘着付与樹脂(C)の合計を基準として、好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは1~4質量%である。ポリイソブチレン(D)の含有量が10質量%以下であると、ホットメルト組成物の塗工物の表面のタックを抑制しつつ、ホットメルト塗工物のブロッキング性、滑り性を発揮することができる。
【0029】
<シリコーンオイル(E)、滑剤(F)>
シリコーンオイル(E)は、主にホットメルト組成物の塗工物のブロッキング性、滑り性の向上を目的に配合される。シリコーンオイル(E)としては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジエンシリコーンオイルが挙げられる。一方、滑剤(F)としては有機滑剤が挙げられ、有機滑剤としては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド;ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド等の飽和脂肪酸アミドが挙げられる。
上記シリコーンオイル(E)と滑剤(F)とを併用して用いることで相乗効果が生まれ、より滑り性を向上させることができる。これらのシリコーンオイル及び滑剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0030】
シリコーンオイル(E)及び滑剤(F)の合計の含有量は、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、及び粘着付与樹脂(C)の合計を基準として、好ましくは1.5~5質量%であり、より好ましくは2.5~4質量%である。
【0031】
<その他の成分>
本発明のホットメルト組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、着色剤、酸化防止剤等の添加剤を含んでもよい。
着色剤としては、例えば、酸化チタンが挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、高分子量ヒンダード多価フェノール、トリアジン誘導体、ジアルキル・フェノール・スルフィド、2,2-メチレン-ビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4-メチレン-ビス-(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2、6-ジ-tert-ブチルフェノール-p-クレゾール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、2,2,4-トリメチル-1、2-ジヒドロキノン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノン、ジブチル・ジチオカルバミン酸ニッケル、1-オキシ-3-メチル-4-イソプロピルベンゼン、4,4-ブチリデンビス-(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2-メルカプトベンゾイミダゾールが挙げられる。
これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0032】
<ホットメルト組成物の性状>
本発明のホットメルト組成物は、少なくとも上記(A)~(F)を公知の方法で混合し、製造することができる。
本発明のホットメルト組成物は、150℃における溶融粘度が500~5,000mPa・sであることが好ましい。150℃における溶融粘度を上記範囲とすることにより、グラビアロール塗工においての塗工適性が、より一層優れるものとなる。
なお本明細書における溶融粘度とは、一定の温度で加熱し溶融状態となったホットメルト組成物の粘度を表し、「150℃における溶融粘度」は、ホットメルト組成物を加熱溶融し、150℃における溶融状態の粘度を、B型粘度計(回転子:ローターNo.3、測定時間:30秒間)を用いて測定した値である。
【0033】
<積層体>
本発明の積層体は、基材上に、上記ホットメルト接着剤からなる層を備えるものである。
ホットメルト組成物の塗工方法は特に制限されず、一般的にホットメルト塗工に使用されるグラビアロール塗工方法が好ましい。また、ホットメルト接着剤からなる層の厚みは、好ましくは、10~40μmである。
基材は、ホットメルト組成物を塗工可能なものであれば特に制限されず、用途に応じて適宜選択することができる。基材としては、例えば、紙、アルミニウム、ポリエステル、ポリエチレン(以下、PE)、ポリプロピレン(以下、PP)、ポリスチレン(以下、PS)、アルミ蒸着ポリエステル、アルミ蒸着ポリプロピレン、シリカ蒸着ポリエステルを挙げることができる。このような基材は、単層であってもよいし、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)/PE、PET/アルミニウム箔(以下、AL箔)/PEのような積積層基材であってもよい。
【0034】
本発明のホットメルト接着剤からなる層は、滑り性に優れ、前記層の表面における静摩擦係数は、好ましくは1.5未満であり、より好ましくは1.0未満であり、さらに好ましくは0.75未満である。なお、本明細書における静摩擦係数は、JIS K7125に準拠して測定される値である。
【実施例
【0035】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」をそれぞれ表す。
【0036】
<ホットメルト組成物の製造>
[実施例1]
撹拌機を備えたステンレスビーカーに、フィッシャートロプシュワックス(1)25部、シリコーンオイル(1)1部、及び酸化防止剤(1)0.1部、を入れ、150℃オーブン内で溶融させ、撹拌し、均一な溶融溶液を得た。
次いで、溶融溶液を150℃未満の温度に保持しながら、撹拌を続け、この溶融溶液にエチレン-酢酸ビニル共重合体(1)30部とEVA(3)15部とを徐々に添加した。
さらに撹拌を続けながら、この溶融溶液に、ポリイソブチレン(2)2部と、粘着付与樹脂(1)30部とを徐々に添加した。最後に滑剤(1)1.5部を添加し、溶け残りのないことを確認し、ホットメルト組成物を得た。
【0037】
[実施例1~16及び比較例1~5]
使用する原料及び配合量を、表1に記載の内容に変更した以外は、実施例1と同様にして、ホットメルト組成物を得た。
【0038】
<ホットメルト組成物の評価>
得られたホットメルト組成物について以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0039】
[溶融粘度測定]
ホットメルト組成物を160℃~170℃に加熱しB型粘度計にセットした。ガラス棒で撹拌しながら徐々に冷却し、ホットメルト組成物の温度が150℃となった時の粘度を測定した。
【0040】
[積層体の作製]
得られたホットメルト組成物を150℃オーブンで溶融し、PET/AL箔/PEの構成である積層基材のPE面にハンドアプリケーターを使用して塗工し、積層体を得た。ホットメルト組成物からなる層の厚みは25μmとした。
【0041】
[滑り性評価(静摩擦係数測定)]
JIS K7125 摩擦係数試験方法に準拠して、上記積層体のホットメルト面をアルミニウム箔上で滑らせて静摩擦係数を測定し、下記の基準で判定した。
◎:静摩擦係数が0.75未満(非常に良好)
○:静摩擦係数が0.75以上、1.0未満(良好)
△:静摩擦係数が1.0以上、1.5未満(使用可能)
×:静摩擦係数が1.5以上(使用不可)
【0042】
[ブロッキング性評価]
積層体を5cm×5cmのサイズに5枚裁断し、ホットメルト面に積層体のPET面が接するように重ね合わせた。重ね合わせた試料を、荷重10kgの条件で40℃24時間経時させた。試料を取り出し23℃65%RHの雰囲気で2時間放置した後、重ね合わせた試料を手で剥離した。剥離時の状態について、下記基準で評価した。
◎:抵抗なく剥がれる。(非常に良好)
〇:若干の抵抗があるが、剥離音はない(良好)
△:若干の抵抗があるが、剥離音がある(使用可能)
×:剥離時の抵抗が大きい、又は剥離不可(使用不可)
【0043】
[接着強度]
積層体を15mm幅に裁断し、厚み500μmのハイインパクトポリスチレン(以下、HIPSと表記する)である被着材にヒートシールした。ヒートシール条件は、140℃1秒間、圧力0.1MPaとした。ヒートシール後の試料を23℃65%RHの雰囲気下、剥離速度200mm/分の条件で、180°角剥離して接着強度を測定し、下記基準で評価した。
○:接着強度が10N/15mm以上、20N/15mm未満(使用可能)
×:接着強度が10N/15mm未満、又は20N/15mm以上(使用不可)
【0044】
[耐寒性評価]
積層体を15mmに裁断し、厚み500μmのHIPSである被着材にヒートシールし、ヒートシール部の寸法が15mm×20mmである試料(1)を作製した。次いで、試料(1)を30mm×100mmのSUS板2枚で挟み試料(2)を作製した。なお、SUS板と試料(1)とは両面テープで固定した。試料(2)を0℃で1時間冷却し、取り出してすぐに、試料(2)上に重さ50gの鉄球を50cmの高さから落下させた。ヒートシール部の剥がれを目視で観察し、下記基準で評価した。
◎:剥がれた面積が、ヒートシール部面積の10%未満(非常に良好)
○:剥がれた面積が、ヒートシール部面積の10%以上、20%未満(良好)
△:剥がれた面積が、ヒートシール部面積の20%以上、30%未満(使用可能)
×:剥がれた面積が、ヒートシール部面積の30%以上(使用不可)
【0045】
【表1】
【0046】
表1に記載の略称を以下に示す。
・FT(1):フィッシャートロプシュワックス(1)、DSC融点74℃
・FT(2):フィッシャートロプシュワックス(2)、DSC融点80℃
・FT(3):フィッシャートロプシュワックス(3)、DSC融点100℃
・PE(1):ポリエチレンワックス(1)、DSC融点112℃
・EVA(1):エチレン-酢酸ビニル共重合体(1)、MFR1000g/10分、酢酸ビニル含有率28質量%)
・EVA(2):エチレン-酢酸ビニル共重合体(2)、MFR400g/10分、酢酸ビニル含有率28質量%)
・EVA(3):エチレン-酢酸ビニル共重合体(3)、MFR400g/10分、酢酸ビニル含有率33質量%)
・EVA(4):エチレン-酢酸ビニル共重合体(4)、MFR150g/10分、酢酸ビニル含有率28質量%)
・EVA(5):エチレン-酢酸ビニル共重合体(5)、MFR30g/10分、酢酸ビニル含有率33質量%)
・TF(1):粘着付与樹脂(1)、芳香族系石油樹脂、軟化点100℃
・TF(2):粘着付与樹脂(2)、脂肪族系石油樹脂、軟化点100℃
・TF(3):粘着付与樹脂(3)、スチレン系石油樹脂、軟化点100℃
・TF(4):粘着付与樹脂(4)、ロジン系樹脂、軟化点100℃
・PIB(1):ポリイソブチレン(1)、粘度平均分子量(MV)40,000
・PIB(2):ポリイソブチレン(2)、粘度平均分子量(MV)60,000
・Si(1):ジメチルポリシロキサンシリコーンオイル、粘度1000cps
・K(1):滑剤、エルカ酸アマイド、融点80℃
・S(1):酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、融点120℃
【0047】
表1によれば、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、粘着付与樹脂(C)、ポリイソブチレン(D)、シリコーンオイル(E)及び滑剤(F)を含む本発明のホットメルト組成物は、接着強度に加えて、優れた滑り性、ブロッキング性及び耐寒性を示した。
特に、フィッシャートロプシュワックス(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、及び粘着付与樹脂(C)の合計を基準として、DSC融点が65~90℃であるフィッシャートロプシュワックス(A)を30~40質量%、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を35~50質量%、粘着付与樹脂(C)を15~40質量%、ポリイソブチレン(D)を1.5~4質量%、シリコーンオイル(E)及び滑剤(F)を合計で2.5~4質量%含有するホットメルト組成物(実施例2~5、8、10~13)は、良好な接着強度と耐寒性を示し、さらに、より優れる滑り性とブロッキング性を示した。
一方、(A)~(F)のいずれかを含まない比較例1~4は、滑り性、ブロッキング性、接着強度及び耐寒性をすべて満たすことはできなかった。