(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ポリカルボン酸誘導体を含む多層不織布シート
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20240806BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20240806BHJP
D04H 1/593 20120101ALI20240806BHJP
D04H 1/587 20120101ALI20240806BHJP
【FI】
B32B5/26
B32B7/12
D04H1/593
D04H1/587
(21)【出願番号】P 2020154756
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松塚 健太郎
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214687(JP,A)
【文献】特開平09-241598(JP,A)
【文献】特開平08-120235(JP,A)
【文献】特開平05-106192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/002
D04H 1/593
D04H 1/587
D06M 17/00-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの不織布層と、少なくとも1つの接着層と、を含む不織布シートであって、前記接着層は、一部がエステル化したポリカルボン酸誘導体を含み、前記一部がエステル化したポリカルボン酸誘導体が、不織布と、ポリカルボン酸とを熱圧することにより形成される、不織布シート。
【請求項2】
前記接着層が、前記ポリカルボン酸誘導体と一部でエステル結合した糖誘導体をさらに含む、請求項1に記載の不織布シート。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸誘導体がクエン酸誘導体である、請求項1または2に記載の不織布シート。
【請求項4】
前記糖誘導体がシクロデキストリン誘導体である、請求項
2に記載の不織布シート。
【請求項5】
前記接着層が、前記ポリカルボン酸誘導体を、ポリカルボン酸として1~100g/m
2の量で含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の不織布シート。
【請求項6】
前記接着層が、前記糖誘導体を、糖として1~50g/m
2の量で含む、請求項
2に記載の不織布シート。
【請求項7】
前記接着層が、前記ポリカルボン酸誘導体および前記糖誘導体を、ポリカルボン酸および糖として、10:1~1:8の重量比で含む、請求項
2に記載の不織布シート。
【請求項8】
前記不織布シートが、少なくとも2つの不織布層を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の不織布シート。
【請求項9】
前記不織布層が、繊維としてパルプ、レーヨン、アセテート、およびポリビニルアルコール樹脂からなる群から選択される繊維を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の不織布シート。
【請求項10】
前記接着層が、繊維をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の不織布シート。
【請求項11】
0.05g/cm
3~2.0g/cm
3の密度を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の不織布シート。
【請求項12】
前記エステル結合が、不織布と、ポリカルボン酸と、糖とを熱圧することにより形成される、請求項2に記載の不織布シート。
【請求項13】
少なくとも1つの不織布層と、少なくとも1つの接着層とを有する不織布シートの製造方法であって、
第1のシートを提供する工程と、
接着層組成物を提供する工程と、
熱圧して接着させる工程と、
を含み、前記接着層組成物は、ポリカルボン酸を含む、不織布シートの製造方法。
【請求項14】
前記接着層組成物が、糖をさらに含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記熱圧が、70~200℃で行われる、請求項13または14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着層にポリカルボン酸誘導体を含む不織布シートに関する。本発明はさらに、そのような不織布シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に流出したプラスチックによる環境汚染問題、特に微小なプラスチックによる海洋汚染の問題が深刻化している。プラスチックによる環境汚染への対策としては、プラスチックを紙などの天然素材に代替する脱プラスチック、および微生物などにより分解される生分解性プラスチックの利用促進などが進められている。
【0003】
不織布は、素材にパルプなどの天然繊維を使用できること、製造方法により様々な機能および性質などを付与できることなどから、プラスチックの代替としての利用が検討されている素材の1つである。しかし、天然繊維を主体とする不織布であっても、多層構造を有する不織布シートを作製する場合、または、例えばサーマルボンド法およびエアレイド法などを用いて不織布を製造する場合は、層間接着に、または繊維同士を接着させるために、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレンテレフタレート(PET)といった樹脂が使用されている(特許文献1)。プラスチックの代替として不織布を利用する場合、当然ながら、これらの樹脂の使用は好ましくない。
【0004】
このように、多層構造を有する不織布シートにおいて、PE、PPおよびPETといった樹脂を使用せずに、層間接着させる方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、層間接着にPE、PPおよびPETといった樹脂を使用しない、多層構造を有する不織布シートを提供することを目的とする。さらに、そのような不織布シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、以下の態様を有する。
【0008】
(1)少なくとも1つの不織布層と、少なくとも1つの接着層と、を含む不織布シートであって、前記接着層は、一部がエステル化したポリカルボン酸誘導体を含む、不織布シート。
(2)前記接着層が、前記ポリカルボン酸誘導体と一部でエステル結合した糖誘導体をさらに含む、(1)に記載の不織布シート。
(3)前記ポリカルボン酸誘導体がクエン酸誘導体である、(1)または(2)に記載の不織布シート。
(4)前記糖誘導体がシクロデキストリン誘導体である、(2)または(3)に記載の不織布シート。
(5)前記接着層が、前記ポリカルボン酸誘導体を、ポリカルボン酸として1~100g/m2の量で含む、(1)~(4)のいずれかに記載の不織布シート。
(6)前記接着層が、前記糖誘導体を、糖として1~50g/m2の量で含む、(2)~(5)のいずれかに記載の不織布シート。
(7)前記接着層が、前記ポリカルボン酸誘導体および前記糖誘導体を、ポリカルボン酸および糖として、10:1~1:8の重量比で含む、(2)~(6)のいずれかに記載の不織布シート。
(8)前記不織布シートが、少なくとも2つの不織布層を含む、(1)~(7)のいずれかに記載の不織布シート。
(9)前記不織布層が、繊維としてパルプ、レーヨン、キュプラ、およびポリビニルアルコール樹脂からなる群から選択される繊維を含む、(1)~(8)のいずれかに記載の不織布シート。
(10)前記接着層が、繊維をさらに含む、(1)~(9)のいずれかに記載の不織布シート。
(11)0.05g/cm3~2.0g/cm3の密度を有する、(1)~(10)のいずれかに記載の不織布シート。
(12)前記エステル結合が、不織布と、ポリカルボン酸と、存在する場合は糖とを熱圧することにより形成される、(1)~(11)のいずれかに記載の不織布シート。
(13)少なくとも1つの不織布層と、少なくとも1つの接着層とを有する不織布シートの製造方法であって、第1のシートを提供する工程と、接着層組成物を提供する工程と、熱圧して接着させる工程と、を含み、前記接着層組成物は、ポリカルボン酸を含む、不織布シートの製造方法。
(14)前記接着層組成物が、糖をさらに含む、(13)に記載の製造方法。
(15)前記熱圧が70~200℃で行われる、(13)または(14)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明者らは、層間接着にポリカルボン酸を使用することにより、PE、PPおよびPETといった樹脂を使用せずに、多層構造を有する不織布シートを作製できることを見出した。本発明によれば、層間接着にPE、PPおよびPETといった樹脂を使用しないため、従来の不織布シートよりも環境負荷が低減された不織布シートを製造することができる。
【0010】
また、本明細書において開示される、ポリカルボン酸による接着は、水中で容易に解消されるため、本発明による不織布シートの層間接着は、水中において容易に剥離する。
【0011】
また、本発明によれば、ポリカルボン酸に糖を組み合わせることにより、本発明の不織布シートの層間接着をより強いものにすることができる。
【0012】
さらに、本発明の不織布シートは、層間接着が水中において容易に剥離するため、水解性を有する不織布を積層させることにより、シート全体が水中で容易に分散する、多層構造を有する不織布シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の不織布シートの構成例を示す図である。
【
図2】本発明の不織布シートの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、図中において、同一の符号は同一の構成要素を示す。同一の構成要素に関しては、重複する説明を割愛する場合がある。
【0015】
[定義]
本明細書において、「水解性」とは、不織布について使用する場合、水中において、接着した繊維が剥離し、または絡み合った繊維がほぐれて、容易に分散することを意味する。この場合、水中でほぐれた不織布が1本の長繊維になる場合も含む。さらに、「水解性」を多層構造を有する不織布シートについて使用する場合、層を構成する不織布または繊維が水中でほぐれて容易に分散することだけでなく、層間接着が剥離し、多層構造の一部または全部が壊れることも意味する。したがって、本明細書において「水解性を有する不織布シート」、または「水解性不織布シート」とは、水中において、少なくとも1つの層間接着が容易に剥離するものと、シート全体がばらばらにほぐれて分散するものと、の両方を含む。
【0016】
[不織布シート]
本発明の不織布シート100、110、120、200、210、220は、少なくとも1つの不織布層101、201と、少なくとも1つの接着層102、202と、を含む。本発明の不織布シートは、2つ以上の不織布層および接着層を含んでもよい。本発明の不織布シートは、1つまたは複数の繊維層103、203をさらに含んでもよい。本発明において、接着層102、202は、接着層102、202を挟むように位置する2つの層を接着する役割を有する。2つの層とは、2つの不織布層でもよく、2つの繊維層でもよく、または1つの不織布層と1つの繊維層でもよい。
【0017】
(不織布層)
不織布層101、201は、不織布からなる層である。不織布層101、201を形成する不織布としては、あらゆる不織布を使用することができ、例えば、エアレイド法、スパンボンド法、サーマルボンド法、スパンレース法、メルトブロー法、ニードルパンチ法等により形成される不織布、湿式不織布、ティッシュ、タック紙、クラフト紙等が挙げられる。
【0018】
不織布層101、201を形成する不織布の繊維としては、天然繊維または化学繊維から選択される少なくとも一つの繊維を用いることができる。天然繊維としては、パルプ、麻、綿、絹、羊毛、鉱物繊維などが挙げられる。化学繊維には、再生繊維、半合成繊維、および合成繊維が含まれる。再生繊維としては、再生セルロース繊維(レーヨン、キュプラ、リヨセルなど)、再生タンパク質繊維(カゼイン繊維、大豆タンパク質繊維など)、キチン繊維、およびアルギン酸繊維などが挙げられる。半合成繊維としては、アセテート繊維などのセルロース系繊維、およびプロミックスなどのタンパク質系繊維が挙げられる。合成繊維としては、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、低融点ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリグリコール酸(PGA)樹脂、ポリカプロラクトン(PLC)樹脂、およびポリヒドロキシ酪酸樹脂(PHB)などが挙げられる。これらの繊維は、2つ以上を併用して使用してもよい。不織布層に用いる不織布は、ポリカルボン酸による接着に適するという観点から、パルプ、レーヨン、アセテート、およびPVA樹脂からなる群から選択される繊維を含むことが好ましく、パルプを含むことがより好ましい。
【0019】
一実施形態において、本発明の不織布シートが2つ以上の不織布層101、201を含む場合、それらの不織布層は同じ不織布から形成されてもよく、異なる不織布から形成されてもよい。
【0020】
また、一実施形態において、不織布層101、201を形成する不織布は、熱融着性樹脂を含んでもよい。これらの熱融着性樹脂は繊維状でもよく、粒子状でもよい。強度がより高くなる点から、熱融着性樹脂は繊維状であることが好ましい。熱融着性樹脂は、例えば、ショートカットファイバーの形態でもよい。
【0021】
熱融着性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、低融点ポリエチレンテレフタレート等のポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、低融点ポリアミド、低融点ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。環境負荷の少ない不織布シートを製造する目的から、熱融着性樹脂は、低融点ポリアミド、低融点ポリ乳酸、またはポリブチレンサクシネートからなる群から選択されることが好ましい。
【0022】
熱融着性樹脂は、2種類以上の樹脂の複合体でもよい。例えば、芯部分と鞘部分とからなる芯鞘繊維、長手方向に垂直な断面において片側の半分ともう一方の片側の半分とが異なる樹脂からなるサイドバイサイド繊維、異なる樹脂からなるコアとシェルとを有するコアシェル粒子等が挙げられる。中でも、不織布の剛度を向上させつつ熱融着性樹脂の性能を発揮させたい場合には、芯鞘繊維が好ましい。
【0023】
熱融着性樹脂は2種類以上を併用してもよい。一実施形態において、本発明の不織布シートが2つ以上の不織布層を含む場合、それぞれの層に含まれる熱融着性樹脂は同一でも異なるものでもよく、1種類でも複数種類の併用でもよい。
【0024】
一実施形態において、不織布層101、201は、水解性を有する不織布から形成することもできる。そのような不織布としては、例えば、テクセルフラッシュ(王子エフテックス株式会社)などが挙げられるが、これらに限定されない。水解性を有する不織布から不織布層101、201を形成することで、シート全体が水中で容易に分散するような水解性を有する不織布シートを作製することが可能となる。
【0025】
(接着層)
接着層102、202は、一部がエステル化したポリカルボン酸誘導体を含む層である。接着層102、202は、後述する熱圧処理により、不織布層101、201または繊維層103、203の接着面に配置された接着層組成物から形成される。理論に拘束されるものではないが、本発明の不織布シートにおいて、接着層組成物中のポリカルボン酸は、熱圧処理により隣接する層内の繊維分子とエステル結合を形成すると考えられ、この化学的な結合が層間接着に寄与しているものと考えられる。
【0026】
本明細書において、「ポリカルボン酸」は、分子内に2つ以上のカルボキシ基を有する化合物を意味し、分子内に2つのカルボキシ基を有するジカルボン酸、分子内に3つのカルボキシ基を有するトリカルボン酸、および4つ以上のカルボキシ基を有するカルボン酸を含む。本発明において、接着層に用いることのできるポリカルボン酸誘導体は、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、オキサロ酢酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の不織布シートが2つ以上の接着層を含む場合、それぞれの接着層に含まれるポリカルボン酸誘導体は、同一でも異なっていてもよい。本発明において、好ましいポリカルボン酸誘導体は、クエン酸誘導体である。
【0027】
一実施形態において、接着層102、202は、ポリカルボン酸誘導体を、ポリカルボン酸として1~100g/m2の量で、好ましくは2~70g/m2の量で、より好ましくは4~40g/m2の量で含む。本発明の不織布シートが2つ以上の接着層を含む場合、それぞれの接着層に含まれるポリカルボン酸誘導体の量は、同一でも異なっていてもよい。
【0028】
一実施形態において、接着層102、202は、ポリカルボン酸とエステル結合を形成した糖誘導体をさらに含んでもよい。糖誘導体は、後述する熱圧処理により、接着層組成物に含まれる糖の少なくとも一部が、ポリカルボン酸とエステル結合を形成することにより生ずる。したがって、接着層102、202は、未反応の糖を含み得る。
【0029】
本明細書において、「糖誘導体」は、単糖、二糖、三糖、四糖、オリゴ糖、および多糖の誘導体を含む。糖誘導体としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、デンプン、アミロース、ペクチン、アミロペクチン、およびデキストリンなどの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。デキストリンはシクロデキストリンを含む。シクロデキストリンは、グルコースが環状に結合した化合物であり、グルコース単位の数が6、7、および8のものをそれぞれ、α-、β-およびγ-シクロデキストリンと呼ぶ。本発明において、糖誘導体としては、シクロデキストリン誘導体が好ましい。本発明の不織布シートが2つ以上の接着層を含む場合、それぞれの層に含まれる糖誘導体は、同一でも異なっていてもよい。
【0030】
理論に拘束されるものではないが、接着層102、202が糖誘導体を含む場合、ポリカルボン酸と繊維分子とのエステル結合だけでなく、ポリカルボン酸と糖とのエステル結合が生じていると考えられる。したがって、接着層102、202が糖誘導体を含む場合、これらの結合の相乗効果により、より強い接着がもたらされると考えられる。
【0031】
一実施形態において、接着層102、202は、ポリカルボン酸誘導体および糖誘導体を、ポリカルボン酸および糖として、10:1~1:8、好ましくは6:1~1:4、より好ましくは4:1~1:1.5の重量比で含む。本発明の不織布シートが2つ以上の接着層を含む場合、それぞれの接着層に含まれるポリカルボン酸誘導体および糖誘導体の重量比は、同一でも異なっていてもよい。
【0032】
一実施形態において、接着層102、202はさらに繊維を含んでもよい。
【0033】
接着層102、202に使用できる繊維としては、パルプ、麻、綿、絹、羊毛、鉱物繊維などを含む天然繊維、再生セルロース繊維(レーヨン、キュプラ、リヨセルなど)、再生タンパク質繊維(カゼイン繊維、大豆タンパク質繊維など)、キチン繊維、およびアルギン酸繊維などを含む再生繊維、アセテート繊維などのセルロース系繊維、およびプロミックスなどのタンパク質系繊維などを含む半合成繊維などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの繊維は、2つ以上を併用してもよい。存在する場合、接着層102、202に含まれる繊維は、不織布層101、201または繊維層103、203を形成する繊維と同じものでもよく、異なるものでもよい。接着層102、202に含まれる繊維は、パルプ、レーヨン、またはアセテートが好ましく、パルプがより好ましい。本発明の不織布シートが2つ以上の接着層を含む場合、それぞれの接着層に含まれる繊維は、同一でも異なっていてもよい。
【0034】
本発明の不織布シートにおいて、ポリカルボン酸と、繊維または糖とのエステル結合は、水中で容易に分解されるため、接着層102、202を介して接着された2つの層は、水中で容易に剥離する。
【0035】
(繊維層)
一実施形態において、本発明の組成物は、1つまたは複数の繊維層103、203をさらに含んでもよい。本発明において、繊維層103、203は、繊維を主体とする層である。本明細書において、「繊維を主体とする」とは、層を構成する物質の中で繊維の含有量が最も多いことを意味する。繊維層103.203には、天然繊維または化学繊維から選択される少なくとも一つの繊維を用いることができる。天然繊維としては、パルプ、麻、綿、絹、羊毛、鉱物繊維などが挙げられる。化学繊維には、再生繊維、半合成繊維、および合成繊維が含まれる。再生繊維としては、再生セルロース繊維(レーヨン、キュプラ、リヨセルなど)、再生タンパク質繊維(カゼイン繊維、大豆タンパク質繊維など)、キチン繊維、およびアルギン酸繊維などが挙げられる。半合成繊維としては、アセテート繊維などのセルロース系繊維、およびプロミックスなどのタンパク質系繊維が挙げられる。合成繊維としては、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、低融点ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリグリコール酸(PGA)樹脂、ポリカプロラクトン(PLC)樹脂、およびポリヒドロキシ酪酸樹脂(PHB)などが挙げられる。これらの繊維は、2つ以上を併用して使用してもよい。これらの繊維は、例えば解繊ショートカットファイバーの形態で用いることができる。これらの繊維は、2種類以上を併用してもよい。繊維層103、203を形成する繊維は、好ましくはパルプである。また、繊維層103、203は、上述のクエン酸誘導体および糖誘導体を含んでもよい。
【0036】
繊維層103、203は、先に述べたような熱融着性樹脂をさらに含んでもよい。熱融着性樹脂を含むことより、繊維層103、203からの繊維の脱落を防ぐことができる。繊維層103、203に用いることのできる熱融着性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、低融点ポリエチレンテレフタレート等のポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、低融点ポリアミド、低融点ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。環境負荷を低減する目的から、繊維層103、203に用いる熱融着性樹脂は、低融点ポリアミド、低融点ポリ乳酸、またはポリブチレンサクシネートからなる群から選択されることが好ましい。繊維層に熱融着性樹脂が含まれる場合、繊維層103、203に含まれる熱融着性樹脂は、不織布層101、201に含まれる熱融着性樹脂と同一でも異なってもよく、1種類でも複数種類の併用でもよい。本発明の不織布シートが2つ以上の繊維層を含む場合、それぞれの繊維層に含まれる熱融着性樹脂は、同一でも異なっていてもよい。
【0037】
一実施形態において、本発明の不織布シートは、環境負荷を低減させる目的から、不織布層101、201、接着層102、202および繊維層103、203に含まれる繊維として、生分解性材料のみを使用することもできる。「生分解性材料」とは、「微生物によって完全に消費され自然的副産物(炭酸ガス、メタン、水、バイオマスなど)のみを生じるもの」を意味する。生分解性材料に含まれる繊維としては、例えば、パルプ、麻、綿、絹、および羊毛などの天然繊維、再生セルロース繊維(レーヨン、キュプラ、リヨセルなど)、再生タンパク質繊維(カゼイン繊維、大豆タンパク質繊維など)、キチン繊維、およびアルギン酸繊維などの再生繊維、セルロース系繊維およびタンパク質系繊維などの半合成繊維、ならびに、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリグリコール酸(PGA)樹脂、ポリカプロラクトン(PLC)樹脂、およびポリヒドロキシ酪酸(PHB)樹脂などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
また別の実施形態において、本発明の不織布シートは、繊維としてバイオマスプラスチックを使用することもできる。バイオマスとは、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」であり、バイオマス由来のプラスチックをバイオマスプラスチックという。バイオマスの燃焼などにより放出される二酸化炭素は、生物の成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素であることから、バイオマスは、ライフサイクルの中では大気中の二酸化炭素を増加させず、二酸化炭素の排出削減に貢献するものと考えられている。したがって、「バイオマスプラスチック」とは原料に注目した分類であり、生分解性を示すものと、示さないものとが含まれる。バイオマスプラスチックとしては、例えば、植物由来のポリ乳酸樹脂、PE樹脂、PET樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂などが挙げられる。環境負荷を低減する目的から、バイオマスプラスチックの中でも、生分解性を有する樹脂が好ましい。
【0039】
(不織布シートの構成)
図1および
図2を参照して、本発明の不織布シート100、110、120および200、210、220の実施形態をさらに説明する。
図1および
図2は、本発明の不織布シートの構成を、限定目的ではなく、例示目的で示す図である。図中において、同一の符号は同一の構成要素を示す。同一の構成要素に関しては、重複する説明を割愛する場合がある。
【0040】
図1(a)~(c)および
図2(a)~(c)は、本発明の不織布シート100、110、120、および200、210、220の構成の例を示す。
図1(a)~(c)および
図2(a)~(c)において、不織布層101、201は不織布からなる。接着層102はポリカルボン酸誘導体を含み、接着層202はポリカルボン酸誘導体および糖誘導体を含む。繊維層103、203は繊維を含む。
図1(a)および
図2(a)は、不織布層101、201と、接着層102、202と、からなる不織布シート100、200を示す。
図1(b)および
図2(b)は、不織布層101、201と、接着層102、202と、繊維層103、203と、からなる不織布シート110、210を示す。
図1(c)および
図2(c)は、2つの不織布層101、201と、2つの接着層102、202と、1つの繊維層103、203と、からなる不織布シート120、220を示す。
【0041】
図1(c)および
図2(c)に示すように、本発明の不織布シート120、220は、2つの不織布層101、201を有してもよく、3つ以上の不織布層(図示せず)を有してもよい。また、本発明の不織布シートは、
図1(c)および
図2(c)に示すように、2つの接着層102、202を有してもよく、3つ以上の接着層(図示せず)を有してもよい。本発明の不織布シートは、
図1(b)、(c)および
図2(b)、(c)に示すように、繊維層103、203を有してもよく、また、2つ以上の繊維層(図示せず)を有してもよい。繊維層103、203は、2つの接着層102、202の間、不織布層101、201と接着層102、202の間、または2つの不織布層101、201の間など、任意の位置に組み込むことができる。
【0042】
(第1の態様)
図1(a)は、2つの不織布層101と、1つの接着層102と、からなる不織布シート100を示す。
図1(a)において、不織布層101は不織布からなり、接着層102は一部がエステル化したポリカルボン酸誘導体を含む。2つの不織布層101は、接着層102を介して互いに接着されている。接着層102中のポリカルボン酸誘導体と、不織布層101中の繊維とのエステル結合は、水中で容易に分解されるため、接着層102を介して接着された2つの不織布層101は、水中で容易に剥離する。一実施形態において、不織布層101が水解性を有する場合、不織布シート100は水中において、全体が容易に分散し得る。
【0043】
(第2の態様)
図1(b)は、1つの不織布層101と、1つの接着層102と、1つの繊維層103と、からなる不織布シート110を示す。
図1(b)において、不織布層101は不織布からなり、接着層102はポリカルボン酸誘導体を含む。繊維層103は繊維を含む。
図1(b)において、不織布層101と繊維層103とは、接着層102を介して互いに接着されている。接着層102中のポリカルボン酸誘導体と、不織布層101および繊維層103中の繊維とのエステル結合は、水中で容易に分解されるため、接着層102を介して接着された不織布層101および繊維層103は、水中で容易に剥離する。一実施形態において、不織布層101および繊維層103が水解性を有する場合、不織布シート110は水中において、全体が容易に分散し得る。
【0044】
(第3の態様)
図1(c)は、2つの不織布層101と、2つの接着層102と、1つの繊維層103と、からなる不織布シート120を示す。
図2(c)において、不織布層101は不織布からなり、接着層102はポリカルボン酸誘導体を含む。繊維層103は繊維を含む。
図2(c)において、2つの不織布層101はそれぞれ、接着層102を介して繊維層103と接着されている。接着層102中のポリカルボン酸誘導体と、不織布層101および繊維層103中の繊維とのエステル結合は、水中で容易に分解されるため、接着層102を介して接着された不織布層101および繊維層103は、水中で容易に剥離する。一実施形態において、不織布層101および繊維層103が水解性を有する場合、不織布シート120は水中において、全体が容易に分散し得る。
【0045】
(第4の態様)
図2(a)は、2つの不織布層201と、1つの接着層202と、からなる不織布シート200を示す。
図2(a)において、不織布層201は不織布からなり、接着層202は、ポリカルボン酸誘導体と糖誘導体204とを含む。
図2(a)において、2つの不織布層201は、接着層202を介して互いに接着されている。接着層202中のポリカルボン酸誘導体と、不織布層201中の繊維とのエステル結合は、水中で容易に分解されるため、接着層202を介して接着された2つの不織布層201は、水中で容易に剥離する。一実施形態において、不織布層201が水解性を有する場合、不織布シート200は水中において、全体が容易に分散し得る。
【0046】
(第5の態様)
図2(b)は、1つの不織布層201と、1つの接着層202と、1つの繊維層203と、からなる不織布シート210を示す。
図2(b)において、不織布層201は不織布からなり、接着層202は、ポリカルボン酸誘導体と、糖誘導体204とを含む。繊維層203は繊維を含む。
図2(b)において、不織布層201と繊維層203とは、接着層202を介して接着されている。接着層202中のポリカルボン酸誘導体と、不織布層201および繊維層203中の繊維とのエステル結合は、水中で容易に分解されるため、接着層202を介して接着された不織布層201および繊維層203は、水中で容易に剥離する。一実施形態において、不織布層201および繊維層203が水解性を有する場合、不織布シート210は水中において、全体が容易に分散し得る。
【0047】
(第6の態様)
図2(c)は、2つの不織布層201と、2つの接着層202と、1つの繊維層203と、からなる不織布シート220を示す。
図2(c)において、不織布層201は不織布からなり、接着層202はポリカルボン酸誘導体および糖誘導体を含む。繊維層203は繊維を含む。
図2(c)において、2つの不織布層201はそれぞれ、2つの接着層202を介して繊維層203と接着されている。接着層202中のポリカルボン酸誘導体と、不織布層201および繊維層203中の繊維とのエステル結合は、水中で容易に分解されるため、接着層202を介して接着された不織布層201および繊維層203は、水中で容易に剥離する。一実施形態において、不織布層201および繊維層203が水解性を有する場合、不織布シート220は水中において、全体が容易に分散し得る。
【0048】
[不織布シートの製造方法]
本発明の不織布シートの製造方法は、第1のシートを提供する工程と、ポリカルボン酸を含む接着層組成物を提供する工程と、熱圧する工程と、を含み、これらの工程はいずれも既知の方法で行うことができる。ここで、第1のシートは、不織布層101を形成する不織布である。一実施形態において、本発明の不織布シートの製造方法は、目的とする不織布シートの構造に応じて、繊維層103を積層する工程、および/または第2のシートを提供する工程をさらに含んでもよい。ここで、第2のシートは、第1のシートとはまた別の不織布層101を形成する不織布であり、第1のシートと同じものでもよく、異なるものでもよい。それぞれの工程は、必要に応じて、複数回行うことができる。製造時における、接着層組成物の溶解または凝集等を防ぐために、本発明において、各層の積層は乾式法にて行う。
【0049】
本発明の第1の態様および第4の態様に係る不織布シート100、200の製造方法としては、例えば、既知の方法により作製した不織布を第1のシートとし、その上に接着層組成物を散布し、さらに第2のシートを積層して、熱圧する方法がある。
【0050】
本発明の第2および第5の態様に係る不織布シート110、210の製造方法としては、例えば、第1のシートの上に接着層組成物を散布し、さらに繊維層103を積層して熱圧する方法がある。必要に応じて、繊維の上にさらに第2のシート(図示せず)を積層してもよく、この場合、第2のシートは熱圧後に剥離される。
【0051】
本発明の第3および第6の態様に係る不織布シート120、220の製造方法としては、例えば、第1のシートの上に接着層組成物を散布し、繊維層103を積層し、再び接着層組成物を散布し、さらに第2のシートを積層して、熱圧する方法がある。
【0052】
(第1のシートを提供する工程)
第1のシートは不織布層101、201を形成する不織布であり、既存の不織布とすることができる。第1のシートは、例えば、ロール状に巻かれた不織布原反を連続的に繰り出すことにより提供することができる。または、任意の大きさにカットした不織布を第1のシートとして使用してもよい。一実施形態において、本発明の不織布シートが複数の不織布層を含む場合、それぞれの不織布層は同様の方法により提供することができる。
【0053】
(接着層組成物を提供する工程)
接着層組成物を提供する工程は、不織布層101、201または繊維層103、203の上に接着層組成物を配置する工程である。接着層組成物は、ポリカルボン酸を含み、熱圧処理により接着層102、202を形成する組成物である。一実施形態において、接着層組成物はさらに糖を含む。また別の実施形態において、接着層組成物は、繊維を含んでもよい。ポリカルボン酸および糖は、好ましくは粉末の形態で、接着層組成物に含まれる。
【0054】
接着層組成物の提供は、既知の方法により行うことができる。例えば、第1のシートが連続的に繰り出される場合、接着層組成物は第1のシートに連続的に散布することにより提供されてもよい。また、第1のシートがカットされている場合、接着層組成物は、シート1枚ごとに非連続的に提供されてもよい。一実施形態において、接着層組成物が繊維を含む場合、接着層組成物をエアレイド法により提供することもできる。接着層組成物を提供する工程は、目的とする不織布シートの構造に応じて、複数回行うことができる。
【0055】
(繊維層を積層する工程)
一実施形態において、本発明の不織布シートの製造方法は、繊維層103、203を積層する工程をさらに含んでもよい。繊維層103、203を積層する工程は、既知の方法により行うことができるが、繊維の凝集および溶解等を防ぐ目的から、例えばエアレイド法などの、乾式法により行うことが好ましい。繊維層103、203を積層する工程は、目的とする不織布シートの構造に応じて、複数回行うことができる。
【0056】
一例として、エアレイド法により接着層組成物および繊維層を積層する方法を以下に説明する。エアレイド法による積層方法は、解繊工程と、混合工程と、ウェブ形成工程と、を任意選択的に含む。
【0057】
解繊工程
解繊工程は、ショートカットファイバーの形態の材料を、空気流によって解繊して解繊ショートカットファイバーを得る工程である。ショートカットファイバーの空気流による解繊方法では、ブロアー等によって空気流を形成し、その空気流にショートカットファイバーを供給し、空気流の撹拌効果によって解繊する。
【0058】
解繊方法としては、旋回する空気流で解繊することが好ましい。旋回する空気流を利用した解繊方法によれば、ショートカットファイバーを充分に解繊することができ、エアレイド法によってエアレイドウェブを形成する際に、解繊ショートカットファイバーの分散性をより高めることができる。
【0059】
旋回する空気流を利用した解繊方法としては、例えば、ブロアーの中にショートカットファイバーを投入してブロアーにて解繊する方法が挙げられる。また、ブロアーによって円筒容器内に、周方向に沿うように空気を送って旋回流を形成し、その旋回流の中にショートカットファイバーを供給し、攪拌して解繊する方法が挙げられる。空気流の流速は、ショートカットファイバーの量に応じて適宜選択されるが、通常は、10~150m/秒の範囲内である。
【0060】
混合工程
混合工程は、粉末または粒子の形態の材料と、解繊ショートカットファイバーの形態の材料とを混合してウェブ原料を得る工程である。このとき同時に、任意の他の材料を混合することができる。任意の他の材料の形状は、繊維状でも粒子状でもよい。任意の他の材料の例としては、必要に応じて添加される助剤等が挙げられる。これらの材料の添加順に特に限定は無く、また、これらの材料は、混合工程よりも後の工程で、例えば散布等によって添加することもできる。
【0061】
混合に際しては、解繊ショートカットファイバーの分散性を向上させるために、解繊ショートカットファイバーと他の材料とを撹拌することが好ましい。ただし、解繊ショートカットファイバーの破断を防ぐために、機械的剪断力を利用した撹拌ではなく、空気流を用いた撹拌を適用することが好ましい。
【0062】
混合工程は、解繊工程の後でもよく、解繊工程と同時でもよい。混合工程を解繊工程と同時とする場合には、解繊工程での空気流を利用して、解繊ショートカットファイバーと任意の材料を混合する。また、解繊ショートカットファイバーのウェブ形成ラインに任意の粒子を投入し、混合してもよい。
【0063】
ウェブ形成工程
ウェブ形成工程は、エアレイド法によってウェブ原料からエアレイドウェブを得る工程である。ここで、エアレイド法とは、空気流を利用して繊維を3次元的にランダムに堆積させてウェブを形成する方法である。
【0064】
(熱圧工程)
熱圧工程は、不織布層101、201と、接着層組成物と、存在する場合は繊維層103、203とを含む積層体を、熱圧処理により接着させて不織布シートとする工程である。理論に拘束されるものではないが、熱圧処理により、接着層組成物中のポリカルボン酸と、不織布層101、201または繊維層103、203中の繊維とのエステル結合が形成され、この化学的な結合が接着に寄与するものと考えられる。熱圧は、熱プレス機または熱カレンダー装置など、既存の装置を使用して行うことができる。
【0065】
熱圧は、70~200℃で行うことが好ましく、100~180℃で行うことがより好ましく、120~180℃で行うことがさらに好ましい。これよりも低い温度だと、エステル結合の形成が十分に進まず、接着が不十分になる可能性がある。一方、これよりも高い温度だと、不織布シートが変色するおそれがある。また、接着層組成物が糖を含む場合、高温での熱圧は糖の焦げを引き起こし、結果として得られる不織布シートが望ましくない外観を呈することがある。
【0066】
熱圧における熱プレス機の圧力は任意に選択できるが、0.5~70kgf/cm3が好ましく、0.8~50kgf/cm3がより好ましい。これよりも低い圧力だと接着が不十分となる可能性がある。また、これよりも高い圧力だと、不織布シートの密度が高くなり、結果として得られる不織布シートが望ましくない風合いを呈する可能性がある。また、熱圧においては、所望する不織布シートの厚さに応じて、任意にクリアランス(間隙)を設定することができる。
【0067】
(エンボス加工)
エンボス加工は、凸凹模様を彫った押し型で強圧し、熱を加える加工である。この方法は、不織布シートに凹凸などの表面加工を施すために用いることができる。
【0068】
(密度)
不織布シートの密度は、用途に応じて適宜設定することができるが、好ましくは、0.05~2.0g/cm3、より好ましくは、0.1~1.0g/cm3、さらに好ましくは0.2~0.5g/cm3である。
【0069】
(他の実施形態)
なお、本発明の不織布シートの製造方法は、上記製造方法に限定されず、既存のあらゆる方法を使用することができる。
【0070】
(用途)
以下に、本発明の不織布シートの用途を例示する。
【0071】
本発明の不織布シートは、包装用、家庭用品用、医療用、および農業・園芸用などの用途に適する。
【0072】
包装用の具体的な例としては、卵パックまたは日用品のパッケージなどのブリスターパック、野菜または青果用トレー、食品用トレー、弁当用トレー、食品または菓子用仕切りトレー、部品トレーなどが挙げられる。
【0073】
家庭用品用としては、掃除用品などが挙げられる。掃除用品の具体的な例としては、ワイパー、化学雑巾などである。
【0074】
農業・園芸用としては、例えば、苗床用シート、植木用袋、植樹用ポットなどが挙げられる。
【0075】
医療用としては、例えば、成形マスク、創傷被覆材などが挙げられる。
【0076】
これらの用途は例示であって、本発明の不織布シートの用途を限定するものではない。また、上記分類に限定されることなく、同一の不織布シートを、多岐にわたる分野および用途において使用することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0078】
[実施例1]
2つの不織布層と、1つの接着層とからなる3層構造の不織布シートを作製し、不織布シートにおける接着層の接着性能および水解性を評価した。
【0079】
(不織布シートの作製)
キノクロス(登録商標)パルプシート(王子キノクロス株式会社、坪量40g/m2、30cm×30cm)に、表1に記載の量になるように、無水クエン酸およびシクロデキストリン(CD)を混合した接着層組成物を散布し、その上にさらにキノクロスパルプシートを積層した。積層体を剥離紙で挟み、手動熱プレス機により1分間熱圧した。熱圧時の温度は140℃または160℃とした。熱プレス機の圧力を3.2kgf/cm2に設定し、クリアランスを0.7mmに設定した。比較例は、接着層組成物として、シクロデキストリンのみ、またはポリエチレン(PE)粉末を使用した以外は、同様に作製した。
【0080】
(接着性能の評価)
接着層組成物による接着性能を、日本工業規格JIS K6854-3(はく離接着強さ試験方法-第3部:T形はく離)に従い測定した。具体的には以下のとおりに実施した。まず、作製した不織布シートを長さ150mm×幅30mmに切断し、試験片とした。試験片の端を引張試験機の2つのつかみ具(つかみ具間の距離50mm)でそれぞれ止めた。引張試験機を200mm/minのはく離速度で作動させ、つかみ具のはく離距離に対する加えられた力を記録した。試験は、約50mmがはく離するまで続けた。結果は、30mm幅の試験片が約50mmはく離するときの荷重の積分平均を剥離強度(gf/30mm)として記録した。
【0081】
(水解性評価)
水を約300mL入れた300mLビーカーに、作製した不織布シート(100mm×30mm)を浸漬させ、60秒間静置した。その後、不織布シートを取り出し、不織布層の接着状態を確認した。接着状態は、取り出した不織布シートが剥離していたものを「剥離」とし、接着していたものを「接着」とした。
【0082】
(結果)
結果は表1下部に記載した。なお、表1の中で、No.7および10は比較例である。表1に記載するとおり、接着層組成物にクエン酸を含む不織布シートではパルプシート同士の接着が認められたが、接着層組成物にクエン酸を含まないNo.7では、パルプシート同士の接着は認められず、したがって剥離強度の測定は実施しなかった。また、パルプシートの接着は、接着層組成物におけるクエン酸とシクロデキストリンの割合が1:1に近づくほど強くなる傾向にあった。
【0083】
本発明の不織布シートは、水に浸漬させると、接着していたパルプシートが容易に剥離した。一方、接着層組成物としてPE粉末を使用したNo.10では、水への浸漬後も接着されたままであった。
【0084】
【0085】
[実施例2]
2つの不織布層と、2つの接着層と、1つの繊維層とを有する不織布シートを作製し、接着層の接着性能、および水中における接着層の分解性を評価した。
【0086】
(不織布シートの作製)
レーヨンスパンレース不織布7128A-1.7T(シンワ株式会社製、坪量27g/m2、10cm×10cm)に、クエン酸およびシクロデキストリン(CD)を混合した接着層組成物(粉体)を、表2に記載の量となるように散布し、その上に解繊パルプを200g/m2となるように積層した。さらに接着層組成物を表2に記載の量で散布し、その上からレーヨンスパンレース不織布を重ね、5層の積層体を形成した。この積層体を剥離紙で挟み、手動熱プレス機で1分間熱圧した。熱圧時の温度は140℃、160℃、180℃とした。熱プレス機の圧力を3.2kgf/cm2に設定し、クリアランスを2.0mmに設定した。
【0087】
(性状)
作製した不織布シートについて、黄変の有無を目視で確認した。結果は、黄変なし:0、ほとんど黄変なし:1、わずかに黄変あり:2、明らかな黄変あり:3として評価した。
【0088】
(接着性能の評価)
作製した不織布シートから、レーヨンスパンレースを手で剥がし取り、不織布層と繊維層の層間接着の有無を確認した。結果は、接着していたもの:〇、接着が認められなかったもの:×として評価した。
【0089】
(水解性評価)
水約300mLを入れた300mLビーカーに作製した不織布シートを入れ、ガラス棒で1分間撹拌した。その後、水中における不織布シートの状態を目視で確認した。不織布シートの状態は、取り出した不織布シートが剥離していたものを「剥離」とし、接着されたままのものを「接着」とした。
【0090】
(結果)
結果は表2下部に記載した。接着層組成物にシクロデキストリンを含むNo.12、14、16および17は不織布シートの層間接着が認められたが、シクロデキストリンを含まないNo.11、13および15は接着が認められなかったため、剥離強度試験および水解性評価は実施しなかった。不織布シートは、熱圧時の温度が高くなるほど黄変が認められた。接着が認められたNo.12、14、16および17の不織布シートはいずれも、水中で容易に剥離した。
【0091】
【0092】
[実施例3]
2つの不織布層と、2つの接着層と、1つの繊維層とを有する不織布シートを作製し、接着層の接着性能、および不織布シートの水解性を評価した。
【0093】
(不織布シートの作製)
本州製紙法に基づくエアレイド法不織布製造装置を用いて、裏面シートとなるティッシュ(ニットク株式会社製、坪量14g/m2、幅670mm)を連続的に繰り出し、その上に、表3に記載の量になるように混合した接着層組成物および繊維層組成物を、接着層組成物/繊維層組成物/接着層組成物の順に積層し、エアレイドウェブを形成した。この上に、さらに表面シートとなるティッシュを重ねて積層体とし、この積層体を160℃のドライヤーに通した。その後、熱プレス機により、160℃で1分間熱圧した。熱プレス機の圧力を3.2kgf/cm2に設定し、クリアランスを2.5mmに設定した。No.18では、クエン酸およびCDの代わりにPE粉末を使用し、No.24では、クエン酸およびCDを使用しなかった以外は、同様に作製した。
【0094】
(水解性評価)
水解性の評価は日本工業規格JIS P4501を参考とし、以下の手順により実施した。まず、水約300Lを入れた300mLのビーカーに、35mmφ×12mmの撹拌子を投入し、マグネティックスターラーによって600±10rpmの回転数になるように調整した。次に、30mm×30mmに切断した不織布シートを投入し、3分間撹拌を続けた。3分後の不織布シートの崩壊状態を次の3段階で評価した。
0:形状を維持した
1:表裏面シートと繊維層が解離し、繊維層の部分的な崩壊も確認されたが、大きな断片が残留した
2:表裏面シートと繊維層が解離し、繊維層が完全に崩壊して繊維状となった
【0095】
(接着性能の評価)
作製した不織布シートの表面シートおよび裏面シートを手で剥がし、繊維層と表面シートおよび裏面シートとの接着の度合いを次の3段階で評価した。
0:ほとんど接着していなかった
1:接着しているが、表面シート/裏面シートを破壊することなく剥がすことができた
2:強固に接着し、剥がすことによって表面シート/裏面シートが破壊された
【0096】
(結果)
結果は表3下部に記載した。なお、表3の中で、No.18および24は比較例である。表3に記載するとおり、接着層組成物としてPE粉末を使用したNo.18の不織布シートは、層間接着は認められたが、水解性は認められなかった。一方、接着層組成物にクエン酸を含むNo.19~No.23の不織布シートにおいては、層間接着が認められ、さらに、水解性も認められた。また、クエン酸およびCDを使用したNo.25は、これらを使用していないNo.24に比べて接着強度は増加したが、No.24と同程度の水解性を有していた。このように、接着層組成物にクエン酸を含むことにより、水解性を有する多層不織布シートを作製できることが示された。
【0097】
【符号の説明】
【0098】
100、110、120 不織布シート
101 不織布層
102 接着層
103 繊維層
200、210、220 不織布シート
201 不織布層
202 接着層
203 繊維層
204 糖誘導体