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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20240806BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20240806BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L29/80 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020155356
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049248
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 成輝
【審査官】戸川 匠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/229702(WO,A1)
【文献】特表2016-512927(JP,A)
【文献】特表2020-526921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、前記基板側からGaNチャネル層とAlGaNバリア層とが交互に積層された半導体層と、
前記GaNチャネル層に電気的に接続されるソース電極およびドレイン電極と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に設けられ、前記半導体層の電位を制御するゲート電極と、
を備え、
前記基板に最も近いAlGaNバリア層のAl組成比は、前記基板に2番目に近いAlGaNバリア層のAl組成比より小さく、
前記ゲート電極は、前記半導体層の上面から前記基板に最も近いGaNチャネル層に達するように設けられている半導体装置。
【請求項2】
前記基板に最も近いAlGaNバリア層の厚さをT1とし、前記基板に2番目に近いAlGaNバリア層の厚さをT2としたとき、|T1-T2|/(T1+T2)<0.2である請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記基板に2番目に近いAlGaNバリア層のAl組成比は、前記基板に3番目に近いAlGaNバリア層のAl組成比より小さい請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記基板から最も遠いAlGaNバリア層のAl組成比は、前記基板から2番目に遠いAlGaNバリア層のAl組成比より小さい請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記GaNチャネル層と前記AlGaNバリア層は各々4層以上積層されている請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上にGaNチャネル層とAlGaNバリア層を交互に積層したマルチチャネルトランジスタが知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1)。このマルチチャネルトランジスタでは、GaNチャネル層に二次元電子ガス(2DEG:2 Dimensional Electron Gas)が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第10388746号明細書
【文献】米国特許第10249711号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】2019 IEEE/MTT-S International Microwave Symposium p. 1133-1135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マルチチャネルトランジスタでは、基板から放熱させるため、基板側のチャネル層で、より多くの電流を流すことが熱効率の観点から好ましいと考えられる。そのため、基板側のチャネル層の2DEGの電子濃度を高くすることが求められる。シングルチャネルトランジスタにおいては、AlGaNバリア層のAl組成比を高くすると2DEG濃度が高くなる。そこで、マルチチャネルトランジスタでは、基板側のAlGaNバリア層のAl組成比を高くすることが考えられる。しかしながら、基板に2番目に近い2DEGの電子濃度が小さくなりすぎてしまう。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑みなされたものであり、チャネル層における電子濃度を適切にする半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態は、基板と、前記基板上に設けられ、前記基板側からGaNチャネル層とAlGaNバリア層とが交互に積層された半導体層と、前記GaNチャネル層に電気的に接続されるソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に設けられ、前記半導体層の電位を制御するゲート電極と、を備え、前記基板に最も近いAlGaNバリア層のAl組成比は、前記基板に2番目に近いAlGaNバリア層のAl組成比より小さい半導体装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、チャネル層における電子濃度を適切にする半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1に係る半導体装置の平面図である。
図2図2は、図1のA-A断面図である。
図3図3は、図1のB-B断面図である。
図4図4は、シミュレーションに用いた構造の断面図である。
図5図5は、サンプルAにおけるバンドダイヤグラムを示す図である。
図6図6は、サンプルAにおける電子濃度を示す図である。
図7図7は、サンプルBにおけるバンドダイヤグラムを示す図である。
図8図8は、サンプルBにおける電子濃度を示す図である。
図9図9は、サンプルCにおけるバンドダイヤグラムを示す図である。
図10図10は、サンプルCにおける電子濃度を示す図である。
図11図11は、サンプルDにおけるバンドダイヤグラムを示す図である。
図12図12は、サンプルDにおける電子濃度を示す図である。
図13図13は、実施例2に係る半導体装置の平面図である。
図14図14は、図13のA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一実施形態は、基板と、前記基板上に設けられ、前記基板側からGaNチャネル層とAlGaNバリア層とが交互に積層された半導体層と、前記GaNチャネル層に電気的に接続されるソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に設けられ、前記半導体層の電位を制御するゲート電極と、を備え、前記基板に最も近いAlGaNバリア層のAl組成比は、前記基板に2番目に近いAlGaNバリア層のAl組成比より小さい半導体装置である。これにより、チャネル層における電子濃度を適切にすることができる。
(2)前記基板に最も近いAlGaNバリア層の厚さをT1とし、前記基板に2番目に近いAlGaNバリア層の厚さをT2としたとき、|T1-T2|/(T1+T2)<0.2であることが好ましい。
(3)前記基板に2番目に近いAlGaNバリア層のAl組成比は、前記基板に3番目に近いAlGaNバリア層のAl組成比より小さいことが好ましい。
(4)前記基板から最も遠いAlGaNバリア層のAl組成比は、前記基板から2番目に遠いAlGaNバリア層のAl組成比より小さいことが好ましい。
(5)前記ゲート電極は、前記半導体層の上面から前記基板に最も近いGaNチャネル層に達するように設けられていることが好ましい。
(6)前記GaNチャネル層と前記AlGaNバリア層は各々4層以上積層されていることが好ましい。
【0011】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態にかかる半導体装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0012】
[実施例1]
図1は、実施例1に係る半導体装置の平面図、図2および図3は、図1のそれぞれA-A断面図およびB-B断面図である。図1では、空乏層36を破線で図示し絶縁膜20の図示を省略している。基板10および半導体層12の積層方向をZ方向、基板10および半導体層の上面(主面)に平行な方向であって、ソース電極22からドレイン電極24にキャリアが伝導する方向をX方向、X方向に直交しゲート電極26が配列される方向をY方向とする。
【0013】
図1から図3に示すように、基板10上に半導体層12が設けられている。半導体層12として、基板10側から核生成層11、バッファ層13、半導体層12a、12b、12c、12dおよびキャップ層18が積層されている。半導体層12aは、チャネル層14aとチャネル層14a上に設けられたバリア層16aを有し、半導体層12bは、チャネル層14bとチャネル層14b上に設けられたバリア層16bを有し、半導体層12cは、チャネル層14cとチャネル層14c上に設けられたバリア層16cを有し、半導体層12dは、チャネル層14dとチャネル層14d上に設けられたバリア層16dを有する。チャネル層14a~14dには2DEG17a~17dが生成される。
【0014】
半導体層12に上面からバッファ層13に達するソース電極22およびドレイン電極24が設けられている。ソース電極22およびドレイン電極24はチャネル層14a~14dの2DEG17a~17dに電気的に接続されている。ソース電極22とドレイン電極24との間の半導体層12上に絶縁膜20が設けられている。複数のゲート電極26はソース電極22とドレイン電極24の間に設けられ、Y方向に配列されている。ゲート電極26の平面形状は円形状である。ゲート電極26の平面形状は矩形または楕円形等でもよい。ゲート電極26は、半導体層12の電位を制御する。
【0015】
基板10は、例えばSiC基板、サファイア基板またはGaN基板である。基板10の上面は例えば(0001)面である。半導体層12は窒化物半導体層である。核生成層11は例えばAlN層である。バッファ層13およびチャネル層14a~14dはGaN層である。バリア層16a~16dはAlGaN層である。キャップ層18は例えばGaN層である。バッファ層13とチャネル層14aは同じGaN層であるが、GaN層の下部はバッファ層13として機能し、上部はチャネル層14aとして機能する。このため、便宜上バッファ層13およびチャネル層14aとして説明する。バッファ層13、チャネル層14a~14d、バリア層16a~16dおよびキャップ層18には意図的なドーパントは添加されておらず、ドーパント濃度は例えば1×1016cm-3以下である。バリア層16a~16dは意図的にドーパントを含まなくてもよいが意図的にドーパントが添加されていてもよい。バリア層16a~16dにおけるドーパント濃度は例えば1×1016cm-3以上でもよい。
【0016】
ソース電極22およびドレイン電極24は例えば半導体層12側からチタン膜およびアルミニウム膜である。半導体層12内にチャネル層14a~14dに接続されドーパント濃度が1×1019cm-3以上のソース領域およびドレイン領域が設けられ、ソース電極22およびドレイン電極24はソース領域およびドレイン領域上にそれぞれ設けられていてもよい。ゲート電極26は例えば半導体層12側からニッケル膜および金膜である。絶縁膜20は例えば窒化シリコン膜、酸化シリコン膜または窒化酸化シリコン膜である。
【0017】
図1のように、ゲート電極26の周囲にはゲート電極26に印加されるゲート電圧に応じた空乏層36が形成される。空乏層36内のチャネル層14a~14dには2DEG17a~17dはほとんど形成されない。空乏層36以外の領域のチャネル層14a~14dには2DEG17a~17dが形成される。ゲート電極26に印加される電位によりソース電極22とドレイン電極24との間を流れる電流を制御できる。
【0018】
[シミュレーション]
各チャネル層14a~14dに生成される2DEG17a~17dの電子濃度をシミュレーションした。図4は、シミュレーションに用いた構造の断面図である。半導体層12a~12dにおいて、チャネル層14a~14dとバリア層16a~16dの間にそれぞれスペーサ層15a~15dが設けられている。バリア層16a~16dの厚さはそれぞれT16a~T16dであり、バリア層16a~16dのAl組成比はそれぞれAla~Aldである。なお、Al組成比はAlとGaに対するAlの組成比であり、バリア層16a~16dの組成をAlGa1-xNと表したときのxに相当する。
【0019】
シミュレーション条件は以下である。
各層の厚さおよび材料は以下である。
基板10: 厚さは10μm、材料はSiC
核生成層11:厚さは20nm、材料はAlN
バッファ層13+チャネル層14a: 厚さは600nm、材料はGaN
チャネル層14b~14d: 厚さは15nm、材料はGaN
スペーサ層15a~15d: 厚さは1nm、材料はAlN
バリア層16a~16d: 厚さはT16a~T16d、材料はAlGaN
キャップ層18: 厚さは3nm、材料はGaN
絶縁膜20: 厚さは20nm、材料はSiN
【0020】
各材料の物性は以下とした。Egはエネルギーバンドギャップ、EAは電子親和力である。
GaN:Eg=3.42eV、EA=4.3eV
AlN:Eg=5.76eV、EA=2.545eV
AlGaN:Eg=5.76x+3.42(1-x)-1.15x(1-x)eV、EA=4.3-0.75(2.34x-1.15x(1-x))eV
なお、xはAl組成比であり、AlGaNの組成をAlGa1-xNとしたときのxである。
SiN:Eg=5eV、EA=3.51eV
SiC:Eg=2.9eV、EA=3.5eV
【0021】
基板10および核生成層11のドーピング濃度は、半絶縁性を想定し1×1010cm-3とした。核生成層11以外の半導体層12のドーピング濃度は、意図的にドーパントを添加していないことを想定し7×1015cm-3とした。ソース電極22およびドレイン電極24の仕事関数は4.2eVとした。キャップ層18と絶縁膜20との界面に、界面準位として5×1012cm-2の正の固定電荷を仮定した。ソース電極22およびドレイン電極24の半導体層12の上面からの深さを122nmとした。
【0022】
サンプルA~Dの4つのサンプルについてシミュレーションした。サンプルA~Dのバリア層16a~16dの条件を表1に示す。
【表1】
【0023】
表1に示すように、サンプルAでは、バリア層16a~16dのAl組成比Ala~Aldは全て30%であり、厚さT16a~T16dは全て15nmである。サンプルBでは、バリア層16a~16dのAl組成比Ala~Aldはそれぞれ30%、25%、20%および15%であり、基板10から遠ざかるにしたがいAl組成比が小さくなる。厚さT16a~T16dは全て15nmである。サンプルCでは、バリア層16a~16dのAl組成比Ala~Aldはそれぞれ15%、22%、24%および15%であり、基板10に最も近いバリア層16aのAl組成比Alaが小さく、基板10から遠ざかるとAl組成比は大きくなり、最も遠いバリア層16dのAl組成比Aldは小さくなる。厚さT16a~T16dは全て15nmである。サンプルDでは、Al組成比Ala~AldはサンプルCと同じであり、厚さT16a、T16cおよびT16dは15nmであり、厚さT16bは30nmである。サンプルAおよびBは比較例に相当する。
【0024】
図5は、サンプルAにおけるバンドダイヤグラムを示す図である。Ecは伝導の底のエネルギー、Evは価電子帯の頂のエネルギー、Efはフェルミレベルを示す。横軸は図4の半導体層12と絶縁膜20との界面を0nmとしときの-Z方向の位置を示し、縦軸はフェルミレベルEfを0eVとしたエネルギーを示す。
【0025】
チャネル層14a~14dおよびバリア層16a~16dには自発分極が発生する。またチャネル層14a~14dとバリア層16a~16dとの格子定数の差による応力に起因しバリア層16a~16d内にピエゾ分極が発生する。チャネル層14aおよび14dがGaN層であり、バリア層16a~16dがAlGaN層のとき、バリア層16a~16d内の自発分極はチャネル層14a~14d内の自発分極より大きくなる。また、基板10の上面を例えば(0001)面としたとき、バリア層16a~16d内のピエゾ分極と自発分極の方向は同じである。
【0026】
以上により、バリア層16a~16dの基板10側の、それぞれスペーサ層15a~15dを介しての、チャネル層14a~14dとのそれぞれのチャネル層14a~14d側での界面30a~30dには負の電荷が生じる。その結果、界面30a~30dのEcは低くなる。一方、バリア層16a~16dの基板10と反対側のチャネル層14b~14dおよびキャップ層18とのそれぞれの界面32a~32dには正の電荷が生じる。その結果、バリア層16a~16dの基板10と反対側の界面32a~32dのEcは高くなる。なお、スペーサ層15a~15dはバリア層16a~16dに比べ厚さが1/10以下のため、スペーサ層15a~15dにおける分極はほとんど無視できる。チャネル層14a~14d内のバリア層16a~16d側との界面30a~30d付近のEcがフェルミレベルEf以下となり、2DEG17a~17dが形成される。
【0027】
図6は、サンプルAにおける電子濃度を示す図である。横軸は図5と同じであり、縦軸は電子濃度である。図6に示すように、チャネル層14a~14dの界面30a~30d付近に2DEG17a~17dが形成される。2DEG17aの電子濃度に比べ2DEG17bおよび17cの電子濃度は低い。2DEG17dの電子濃度は2DEG17bおよび17cの電子濃度より高くなる。
【0028】
チャネル層14a~14dにおいて発生した熱は基板10を介し外部に放出される。このため、基板10から遠いチャネル層ほど発生した熱が外部に放出させにくい。チャネル層の温度が上昇するとチャネル層における抵抗が高くなり、特性が劣化する。基板10から遠いチャネル層において発生した熱による温度上昇を抑制するため、基板10から遠いチャネル層における2DEGの電子濃度を低くすることが好ましい。
【0029】
個々のバリア層16a~16dにおいては、Al組成比を大きくすると、個々のバリア層16a~16dにおける自発分極およびピエゾ分極が大きくなることが予想される。よって、2DEG17a~17dの電子濃度が高くなると考えられる。そこで、サンプルBでは、基板10から遠いバリア層16dほど、基板10から近いバリア層16aに比べて、Al組成比が小さくなるようにした。
【0030】
図7は、サンプルBにおけるバンドダイヤグラムを示す図である。図7に示すように、界面30bおよび30c付近のEcが高くなり、チャネル層14bおよび14cのEcがフェルミレベルEfより高くなっている。
【0031】
図8は、サンプルBにおける電子濃度を示す図である。図8に示すように、2DEG17bおよび17cが生成されない。また、2DEG17dの電子濃度が2DEG17aの電子濃度に近くなっている。さらに、キャップ層18の電子濃度が高くなっている。
【0032】
このように、サンプルBでは、2DEG17dの電子濃度が高くなってしまう。さらに、2DEG17bおよび17cが生成されない。サンプルBのように、基板10から遠いチャネル層ほどAl組成比を大きくしても、2DEG17a~17dの電子濃度は予想通りとはならない。
【0033】
特に、サンプルBでは、基板10から近いバリア層16aにおいてAl組成比を30%とすることにより、界面30aのEcは低くなり、界面32aのEcは高くなる。一方で、サンプルBでは、バリア層16bにおいてAl組成比をサンプルAでの値30%に比べて低い値25%としている。その結果、サンプルBでは、バリア層16bにおける分極がサンプルAに比べて小さくなると考えられ、界面30aのEcはサンプルAに比べ高くなると考えられる。よって、図8に示されるように、2DEG17bが生成されないと考えられる。
【0034】
上記考察を踏まえ、サンプルCでは、基板10に最も近いバリア層16aにおいてはAl組成比を小さくする一方で、基板10に2番目に近いバリア層16bでは、より分極を大きくするためAl組成比をより大きくしている。また、基板10からさらに遠いバリア層16cではさらに分極を大きくするため、さらにAl組成比を大きくしている。サンプルCでは、バリア層16cのAl組成比を最も大きくした。
【0035】
図9は、サンプルCにおけるバンドダイヤグラムを示す図である。図9に示すように、界面30a~30d付近においてチャネル層14a~14dのEcがフェルミレベルEfより低くなっている。
【0036】
図10は、サンプルCにおける電子濃度を示す図である。図10に示すように、2DEG17a~17dが生成されている。基板10に最も近い2DEG17aの電子濃度が最も高く、基板10から遠い2DEGほど電子濃度が小さくなる。このように、理想に近い2DEG17a~17dの電子濃度を実現できた。
【0037】
図11は、サンプルDにおけるバンドダイヤグラムを示す図である。図11に示すように、サンプルCとバリア層16a~16dのAl組成比を同じとしてもバリア層16bを厚くすると、界面32bのEcが高くなり、界面30cのEcが低くならない。
【0038】
図12は、サンプルDにおける電子濃度を示す図である。図12に示すように、2DEG17cおよび17dが生成されない。
【0039】
バリア層16a~16d内の分極が大きくなることにより、界面30a~30dのEcは低くなるものの界面32a~32dのEcが高くなる。サンプルBでは、バリア層16aのAl組成比が大きいため界面32aのEcが高くなり、チャネル層14bのEcが高くなる。このため界面30bに2DEG17bが生成されないと考えられる。同様に、サンプルBでは、バリア層16bのAl組成比が大きいため界面32bのEcが高くなり、チャネル層14cのEcが高くなるため2DEG17cが生成されないと考えられる。一方、絶縁膜20とキャップ層18との間の界面の固定電荷により、バリア層16dのEcは低くなる。これにより、2DEG17dの電子濃度が高くなる。
【0040】
図11のサンプルDのように、バリア層16bが厚くなると、サンプルCより界面32bのEcが高くなる。このように、界面32a~32cのEcはバリア層16a~16cのAl組成比と厚さの積にほぼ比例して高くなる。
【0041】
実施例1によれば、半導体層12において、基板10側からGaNチャネル層14a~14dとバリア層16a~16dとが交互に積層されている。基板10に最も近いAlGaNバリア層16aのAl組成比Alaは、基板10に2番目に近いAlGaNバリア層16bのAl組成比Albより小さい。これにより、界面32aのEcが高くなりすぎることが抑制され、チャネル層14bに2DEG17bが形成される。
【0042】
サンプルDのように、バリア層16bの厚さT16bがバリア層16aの厚さT16aより厚すぎると、チャネル層14cに2DEG17cが形成されない。よって、バリア層16aの厚さT16aとバリア層16bの厚さT16bは略等しいことが好ましい。このように、バリア層16a~16dの厚さT16a~T16dは略等しいことが好ましい。なお、略等しいとは2DEG17a~17dが形成される程度に等しいことを意味し、±20%の差を許容する。すなわち、|T16a-T16b|/(T16a+T16b)≦0.2である。|T16a-T16b|/(T16a+T16b)≦0.1がより好ましい。なお、|T16a-T16b|は(T16a-T16b)の絶対値を示す。また、厚さT16a~T16dのうち最も大きい厚さをT16max、最も小さい厚さをT16minとすると、(T16max-T16min)/(T16max+T16min)≦0.2である。また、(T16max-T16min)/(T16max+T16min)≦0.1が好ましい。
【0043】
また、チャネル層14b~14dの厚さは略等しいことが好ましい。例えばチャネル層14b~14dのうち最も大きい厚さをT14max、最も小さい厚さをT14minとすると、(T14max-T14min)/(T14max+T14min)≦0.2である。また、(T14max-T14min)/(T14max+T14min)≦0.1が好ましい。
【0044】
基板10に2番目に近いバリア層16bのAl組成比Albは、基板10に3番目に近いバリア層16cのAl組成比Alcより小さい。これにより、界面32bのEcが高くなりすぎることが抑制され、チャネル層14cに2DEG17cが形成される。
【0045】
基板10から最も遠いAlGaNバリア層16dのAl組成比Aldは、基板10から2番目および3番目に近いバリア層16bおよび16cのAl組成比AlbおよびAlcより小さい。これにより、チャネル層14dに形成される2DEG17dの電子濃度を2DEG17bおよび17cの電子濃度より小さくできる。
【0046】
2DEG17a~17dを形成するためには、バリア層16a~16dのAl組成比Ala~Aldが0.1以上かつ0.4以下が好ましく、0.15以上かつ0.3以下がより好ましい。AlbとAlaとの差は0.05以上が好ましい。AlcとAlbとの差はAlbとAlaとの差より大きいことが好ましい。AlaとAldとは略等しいことが好ましい。
【0047】
バリア層16a~16dの各々内のAl組成比は製造誤差程度に略均一であり、例えば1つのバリア層内のAl組成比の最大値と最小値との差はAl組成比の平均値の10%以下である。
【0048】
GaNチャネル層14a~14dおよびAlGaNバリア層16a~16dは、それぞれGaNおよびAlGaN以外に意図的または意図しない不純物を含んでもよい。例えばドーパントとしてシリコン等を含んでもよい。
【0049】
チャネル層14a~14dとバリア層16a~16dは3層以上積層されていることが好ましく、4層以上積層されていることがより好ましく、5層以上積層されていてもよい。これにより、ドレイン電流が大きくなり、パワー密度を大きくできる。
【0050】
[実施例2]
図13は、実施例2に係る半導体装置の平面図、図14は、図13のA-A断面図である。図13および図14に示すように、ゲート電極26は半導体層12上に設けられている。ゲート電極26はY方向に延伸している。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0051】
実施例2のように、ゲート電極26が半導体層12上に設けられている場合、ゲート電極26が全てのチャネル層14a~14dを制御することが難しい。よって、実施例1のように、ゲート電極26は、半導体層12の上面から基板10に最も近いチャネル層14aに達するように設けられていることが好ましい。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
10 基板
11 核生成層
12、12a~12d 半導体層
13 バッファ層
14a~14d チャネル層
15a~15d スペーサ層
16a~16d バリア層
17a~17d 2DEG
18 キャップ層
20 絶縁膜
22 ソース電極
24 ドレイン電極
26 ゲート電極
30a~30d、32a~32d 界面
36 空乏層
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
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図13
図14