(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】建物設計方法、建物設計支援システム及び建物
(51)【国際特許分類】
G06F 30/13 20200101AFI20240806BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20240806BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20240806BHJP
E04B 7/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G06F30/13
G06F30/10
G06Q50/08
E04B7/00 Z ESW
(21)【出願番号】P 2020159982
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】堀池 隆弥
(72)【発明者】
【氏名】賀持 剛一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰
(72)【発明者】
【氏名】北村 圭亮
【審査官】三沢 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-219937(JP,A)
【文献】特開平06-348815(JP,A)
【文献】特開2013-257828(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111581712(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/13
G06F 30/10
G06Q 50/08
E04B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切土された造成地に構築する建物の建物設計方法であって、
前記造成地の周囲領域において、異なる標高を含む地形情報を取得し、
前記地形情報を用いて、前記造成地における仮想形状を予測し、
前記仮想形状を用いて、前記建物の屋根の外観形状を特定し、
前記外観形状を、建物構造に応じて調整することを特徴とする建物設計方法。
【請求項2】
前記造成地における仮想形状として、前記造成地にするための切土前の元形状として山頂形状を予測することを特徴とする請求項1に記載の建物設計方法。
【請求項3】
切土された造成地に構築する建物の設計を支援する制御部を備えた建物設計支援システムであって、
前記制御部が、
前記造成地の周囲領域において、異なる標高を含む地形情報を取得し、
前記地形情報を用いて、前記造成地における仮想形状を予測し、
前記仮想形状を用いて、前記建物の屋根の外観形状を特定し、
前記外観形状を、建物構造に応じて調整することを特徴とする建物設計支援システム。
【請求項4】
前記制御部が、前記地形情報における周囲領域の標高を用いた補間により仮想形状を予測することを特徴とする請求項3に記載の建物設計支援システム。
【請求項5】
前記制御部が、
前記造成地が属する地域の地形情報の教師データを用いて機械学習により作成された地形予測モデルを取得し、
前記地形情報を前記地形予測モデルに適用して、前記仮想形状を予測することを特徴とする請求項3に記載の建物設計支援システム。
【請求項6】
切土された造成地に構築する建物であって、
前記造成地の周囲領域において、異なる標高を含む地形情報を用いて予測された前記造成地における仮想形状に応じた屋根の外観形状を有することを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外観形状の設計を支援する建物設計方法、建物設計支援システム及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物を設計する場合、屋根等のデザインは、建物全体の外観に大きく影響する。そして、建物の設計において、CAD(Computer-Aided Design)や、BIM(Building Information Modeling)を用いることがある。このBIMを用いることにより、3次元モデルに対して、構造設計や設備設計の各種情報を管理することができる。そして、屋根に対する検討に用いる住宅屋根自動設計装置の入出力システムも検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この文献に開示された技術においては、住宅屋根自動設計手段が、住宅の外形形状に対して、予め設定された複数種類の屋根の中から単独で、或いは、複数の屋根の種類を組合せて形成される屋根形状を、設計機能により自動的に設計する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、屋根等の建物の印象は、建物の形状のみで決まるわけではない。例えば、周囲環境等を考慮しなければ、調和のとれた建物を実現することができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための設計方法では、切土された造成地に建物を構築する。この場合、前記造成地の周囲領域において、異なる標高を含む地形情報を取得し、前記地形情報を用いて、前記造成地における仮想形状を予測し、前記仮想形状を用いて、前記建物の屋根の外観形状を特定し、前記外観形状を、建物構造に応じて調整する。
【0006】
また、上記課題を解決するための設計支援システムは、切土された造成地に構築する建物の設計を支援する制御部を備える。そして、前記制御部が、前記造成地の周囲領域において、異なる標高を含む地形情報を取得し、前記地形情報を用いて、前記造成地における仮想形状を予測し、前記仮想形状を用いて、前記建物の屋根の外観形状を特定し、前記外観形状を、建物構造に応じて調整する。
【0007】
また、上記課題を解決するための切土された造成地に構築する建物は、前記造成地の周囲領域において、異なる標高を含む地形情報を用いて予測された前記造成地における仮想形状に応じた屋根の外観形状を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、周囲環境を考慮した建物の外観形状の設計を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態を、
図1~
図7に従って説明する。本実施形態では、地形を考慮して、建物の外観を構築する場合に用いる建物設計方法、建物設計支援システム及び建物として説明する。
本実施形態では、
図1に示すように、地形情報サーバ10、支援装置20を用いる。
【0011】
(ハードウェア構成の説明)
図2を用いて、地形情報サーバ10、支援装置20を構成する情報処理装置H10のハードウェア構成を説明する。情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を備える。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアにより実現することも可能である。
【0012】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースや無線インタフェース等である。
【0013】
入力装置H12は、各種情報の入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイ等である。
記憶装置H14は、地形情報サーバ10、支援装置20の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶装置である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0014】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、地形情報サーバ10、支援装置20における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各処理のための各種プロセスを実行する。
【0015】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行なうものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行なう専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、プロセッサH15は、〔1〕コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、〔2〕各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、或いは〔3〕それらの組み合わせ、を含む回路(circuitry)として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0016】
(システム構成)
次に、
図1を用いて、設計支援システムの各機能を説明する。
地形情報サーバ10は、各地の地形情報を提供するコンピュータシステム(地理情報システム)である。この地形情報サーバ10は、緯度経度に対して、各地の標高情報を管理する。これにより、BIM等で用いる地表面の3次元モデルを作成することができる。例えば、数値地図(国土基本情報)を提供する国土地理院のWebサイトを利用することができる。そして、本実施形態では、数値地図に基づいて、TIN(Triangulated Irregular Network)やテクスチャ画像等の数値標高モデルとして表現する。
【0017】
支援装置20は、BIMにおいて建物の設計を支援するコンピュータシステム(設計支援システム)である。この支援装置20は、制御部21、記憶部22を備える。
制御部21は、後述するBIMにおける3次元CAD処理を行なう。このために、オペレーティングシステム211上で動作する設計支援プログラムにより、制御部21はBIM実行部212として機能する。更に、設計支援プログラムのアドオンを実行させることにより、制御部21は設計支援部213として機能する。
【0018】
オペレーティングシステム211は、支援装置20を動作させるための基本的なアプリケーションである。
BIM実行部212は、BIM技術により、3次元モデル(オブジェクト)を仮想3次元空間上で配置することにより、3次元CAD(computer-aided design)を実現する。各3次元モデルは、建築に関する各種情報を属性として保持している。
設計支援部213は、地形情報を用いて、外観(本実施形態では、屋根の外形上)の設計を支援する処理を実行する。
【0019】
記憶部22には、地形情報221、BIM情報222が記録される。
地形情報221は、建物を建設する場所の地形についての数値標高モデルである。地形情報221は、地形情報サーバ10から取得した場合に記録される。地形情報221は、経度、緯度に対して標高を表した地形の3次元モデルを含んで構成される。
【0020】
BIM情報222には、BIMにおいて作成した設計情報が記録される。このBIM情報222は、3次元CADを用いて、建築物の設計を行なった場合に記録される。BIM情報222は、プロジェクト情報、要素モデル、配置情報、属性情報を含んで構成される。
【0021】
プロジェクト情報は、建築現場の名称、経度・緯度、建設現場の方位等に関する情報を含む。
要素モデルは、建築現場に用いる各建築要素(部材)の3次元モデル(オブジェクト)に関する情報である。
【0022】
配置情報は、各要素モデルを配置する座標に関する情報を含む。
属性情報は、この建築要素の属性情報である。この属性情報には、仕様(規格、寸法、面積、体積、素材、価格等)に関する情報が含まれる。
【0023】
(設計支援処理)
図3~
図7を用いて、設計支援処理を説明する。
まず、支援装置20の制御部21は、周囲土地の等高線の特定処理を実行する(ステップS101)。具体的には、制御部21の設計支援部213は、場所情報入力画面を表示装置H13に出力する。この場所情報入力画面には、建物を建築する場所の経度・緯度の入力欄が設けられている。そして、経度・緯度が入力された場合、設計支援部213は、地形情報サーバ10から、経度・緯度に応じて、所定範囲を含む数値標高モデルを取得する。この数値標高モデルには、経度・緯度に応じて異なる標高を含む。そして、設計支援部213は、取得した数値標高モデルを、地形情報221として記憶部22に記録する。
【0024】
図4に示すように、建物建築場所の数値標高モデル500においては、等高線501が含まれる。ここで、切土された造成地502の領域においては、平坦になっている。等高線501により、造成地502の周囲領域の斜面形状503を特定することができる。
【0025】
次に、支援装置20の制御部21は、造成地の元形状の特定処理を実行する(ステップS102)。具体的には、制御部21の設計支援部213は、地形情報221の数値標高モデルを、表示装置H13に出力する。この場合、担当者は、数値標高モデルにおいて建物を構築する造成地の場所を指定する。造成地の場所が指定された場合、設計支援部213は、造成地の周囲の所定範囲の標高を特定する。そして、設計支援部213は、特定した標高を、造成地の周囲から、造成地の内部に延長させて、造成地の切土前の元形状を推定する。この場合、特定した標高に対して、なだらかな元形状をカーブフィッティング技術(例えば、スプライン補間)により推定する。
【0026】
図5に示すように、斜面形状503を構成する標高の位置データを、周囲領域全体から造成地502内に延長して補間することにより、仮想地形510を生成する。これにより、造成地502の上方に仮想等高線511が生成される。
【0027】
次に、支援装置20の制御部21は、元形状に応じて屋根形状の特定処理を実行する(ステップS103)。具体的には、制御部21の設計支援部213は、建物の建築面積に応じて、仮想地形を外縁とする建物屋根の外観形状を特定する。
【0028】
図6に示すように、生成した仮想地形510に応じて、造成地502の上方に、屋根外観形状520を生成する。
次に、
図3に示すように、支援装置20の制御部21は、建物構造に応じて屋根形状の調整処理を実行する(ステップS104)。具体的には、制御部21のBIM実行部212は、建物の建築基準、構造情報に応じて、屋根形状を調整する。
【0029】
図7に示すように、生成した仮想地形510に応じて、造成地502の上方に、屋根外観形状520に応じた屋根形状530を生成する。ここでは、屋根外観形状520の高さ位置を維持しながら、曲面部を建物構造に応じた平面で近似した屋根形状530を生成する。
【0030】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、周囲土地の等高線の特定処理を実行する(ステップS101)。これにより、建物を構築する造成地の周囲環境を特定し、その地形を特定することができる。
【0031】
(2)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、造成地の元形状の特定処理を実行する(ステップS102)。これにより、造成地の周囲環境に応じて、造成(切土)前の地形を推定することができる。
【0032】
(3)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、元形状に応じて屋根形状の特定処理(ステップS103)、建物構造に応じて屋根形状の調整処理(ステップS104)を実行する。これにより、造成地の周囲の地形に応じた外観の建物を構築することができる。例えば、山頂における建物の場合、以前の山頂形状を模した外観を実現することができるので、周囲環境と馴染みやすく一体感がある建物を構築することができる。
【0033】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、支援装置20の制御部21は、周囲土地の等高線の特定処理(ステップS101)~元形状に応じて屋根形状の特定処理(ステップS103)を実行する。この処理を、CADを用いて、手作業により設計を行なってもよい。
【0034】
・上記実施形態では、山頂の平坦地(造成地)に建物を構築する場合を想定した。造成地である平坦地は、山頂に限定されるものではない。例えば、斜面に適用することも可能である。また、切土前の形状を特定できれば、造成地は平坦地に限定されるものではない。
【0035】
・上記実施形態では、建物の外観形状として、屋根形状の設計を支援する。建物の外観形状は屋根の形状に限定されるものではない。例えば、壁外観の設計に適用してもよい。
・上記実施形態では、支援装置20の制御部21は、造成地の元形状の特定処理を実行する(ステップS102)。ここで、周囲の地形に応じて補間された形状を形成できれば、元形状に限定されるものではない。
【0036】
・上記実施形態では、支援装置20の制御部21は、造成地の周囲から、造成地の内部に延長させて、造成地の切土前の元形状を推定する。推定方法は、補間法を用いる場合に限定されるものではない。例えば、機械学習により、造成地が属する地域の地形から造成地の元地形を予測するようにしてもよい。この場合には、支援装置20の制御部21は、地形情報サーバ10から、周囲範囲よりも広く造成地が属する地域の地形情報を取得する。そして、地域の地形情報において、造成されていない自然領域の地形情報を教師データとして用いた機械学習により、その地域の中央部の周辺地形から、中央部の地形を予測する地形予測モデルを作成する。そして、造成地の周囲地形を地形予測モデルに入力することにより、造成地の元地形を予測する。これにより、各地域の地形の起伏の特徴に応じた元地形を予測することができる。
【符号の説明】
【0037】
10…地形情報サーバ、20…支援装置、21…制御部、211…オペレーションシステム、212…設計支援部、22…記憶部、221…地形情報、222…BIM情報。