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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】回折光学部材および虚像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20240806BHJP
   G02B 5/32 20060101ALI20240806BHJP
   G02B 27/02 20060101ALI20240806BHJP
   G03H 1/02 20060101ALI20240806BHJP
   H04N 5/64 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/32
G02B27/02 Z
G03H1/02
H04N5/64 511A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020162916
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055470
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(72)【発明者】
【氏名】立木 洋幸
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-148738(JP,A)
【文献】特開平08-036351(JP,A)
【文献】特開2014-197166(JP,A)
【文献】特開2016-219341(JP,A)
【文献】特開2011-228228(JP,A)
【文献】特開2014-209060(JP,A)
【文献】国際公開第2017/013971(WO,A1)
【文献】米国特許第05095375(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/32
G02B 27/01 -02
G03H 1/02
H04N 5/64
H04N 13/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1基板と、
前記第1基板の一方の面に設けられ、前記第1基板よりも透湿性が低く水蒸気バリア層として機能する第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜に設けられるホログラム素子と、
前記ホログラム素子に対向して設けられる第2基板と、
前記第2基板の前記ホログラム素子と対向する面に設けられ、前記第2基板よりも透湿性が低く水蒸気バリア層として機能する第2誘電体膜と、
前記第1基板と前記第2基板とを接着する接着部材と、を備え
前記第1基板は、
前記ホログラム素子を支持するホログラム支持部と、
前記ホログラム支持部と一体に設けられ前記ホログラム支持部の外側に張り出した張り出し部を有する固定部と、を含み、
前記第2基板は、
前記ホログラム素子側に突出し、前記第1基板の前記張り出し部と係合する突出部を含み、
前記第1誘電体膜は、前記ホログラム支持部の上面および側面を覆うように設けられ、
前記第2誘電体膜は、前記第2基板の内面を覆うように設けられ、
前記接着部材は、前記張り出し部と前記突出部とを接着し、前記第1誘電体膜と前記第2誘電体膜とともに前記ホログラム素子を収容する収容空間を形成する
回折光学部材。
【請求項2】
前記第2基板は、
前記ホログラム素子に対向する天板部と、
前記天板部の内面から前記ホログラム素子側に向かって延びる枠状を有し、先端に前記突出部が設けられた側板部と、をさらに含み、
前記第2誘電体膜は、前記天板部の内面および前記側板部の内面を覆うように設けられる
請求項1に記載の回折光学部材。
【請求項3】
前記第1基板および前記第2基板の外面に設けられるハードコート層と、
前記ハードコート層の外周を覆うように設けられ、反射防止膜として機能する第3誘電体膜と、をさらに備える
請求項1または請求項2に記載の回折光学部材。
【請求項4】
前記収容空間には、不活性体および空気層の少なくとも一方が設けられている
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の回折光学部材。
【請求項5】
前記不活性体は、不活性ガスである
請求項に記載の回折光学部材。
【請求項6】
前記不活性体は、不活性液体である
請求項に記載の回折光学部材。
【請求項7】
請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載の回折光学部材を備える
虚像表示装置。
【請求項8】
前記ホログラム素子のサイズは、前記回折光学部材を透過して射出瞳に入射するシースルー光が通過するシースルー視野範囲よりも大きい
請求項に記載の虚像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学部材および虚像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使用者に画像を視認させる虚像表示装置としてヘッドマウントディスプレイ(HMD)がある。一般的に、ヘッドマウントディスプレイは、画像光を形成する画像形成部と、画像形成部で形成された画像光を偏向することで使用者の眼(瞳)に向けて射出する視認部とを備えており、外の景色と視認部を介した画像形成部による画像光の双方を使用者に同時に視認させることができる。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、視認部としてホログラム素子を備えたヘッドマウントディスプレイが開示されている。このヘッドマウントディスプレイでは、一対の基板と封止部材とで形成される収容空間にホログラム素子とともに吸湿部材を配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/013971号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のヘッドマウントディスプレイでは、収容空間に侵入する水分を十分に吸収することが難しく、水分の影響によってホログラム素子が膨張してしまい、偏向特性が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の1つの態様によれば、透湿性を有する第1基板と、前記第1基板の一方の面に設けられる第1誘電体膜と、前記第1誘電体膜に設けられるホログラム素子と、前記ホログラム素子に対向して設けられる第2基板と、前記第1基板と前記第2基板とを接着し、前記ホログラム素子を収容する収容空間を形成する接着部材と、を備える回折光学部材が提供される。
【0007】
本発明の1つの態様によれば、第1基板と、前記第1基板の一方の面に設けられる第1誘電体膜と、前記第1誘電体膜に設けられるホログラム素子と、前記ホログラム素子に対向して設けられる第2基板と、前記第2基板の前記ホログラム素子と対向する面に設けられる第2誘電体膜と、前記第1基板と前記第2基板とを接着し、前記ホログラム素子を収容する収容空間を形成する接着部材と、を備え、前記収容空間には、不活性体および空気層の少なくとも一方が設けられている回折光学部材が提供される。
【0008】
本発明の1つの態様によれば、上記態様の回折光学部材を備える虚像表示装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態のヘッドマウントディスプレイの概略斜視図である。
図2】ヘッドマウントディスプレイを上方から見た平面図である。
図3】ヘッドマウントディスプレイの画像表示装置の拡大平面図である。
図4】ヘッドマウントディスプレイの画像表示装置の拡大側面図である。
図5】回折光学部材の概略構成を示す断面図である。
図6】ホログラム素子の製造方法を示す図である。
図7】ホログラム素子の製造方法を示す図である。
図8】ホログラム素子の露光方法を示す概略図である。
図9】ホログラム素子の干渉縞の模様を示す概略図である。
図10】ホログラム素子の干渉縞の模様を示す概略図である。
図11】回折光学部材の製造工程を示す図である。
図12】回折光学部材に占めるホログラム素子の大きさの説明図である。
図13】第2実施形態の回折光学部材の概略構成を示す断面図である。
図14】第3実施形態の回折光学部材の概略構成を示す断面図である。
図15】回折光学部材の製造工程を示す図である。
図16】第4実施形態の回折光学部材の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の回折光学部材および虚像表示装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0011】
(第1実施形態)
まず、本発明の回折光学部材を説明するに先立って、本発明の回折光学部材を備える虚像表示装置について説明する。本実施形態の虚像表示装置は、画像とともに外界も見ることができるシースルー型のヘッドマウントディスプレイ(HMD)である。すなわち、使用者に虚像としての映像を認識させるとともに、使用者に外界像をシースルー光として観察させる。
【0012】
図1は、本実施形態のヘッドマウントディスプレイの全構成を示す概略斜視図である。図2は、図1に示すヘッドマウントディスプレイを上方から見た平面図である。図3は、図2に示すヘッドマウントディスプレイのA部の画像表示装置の構成を拡大して示す概略平面図である。図4は、図2に示すヘッドマウントディスプレイのA部の画像表示装置の構成を拡大して示す概略側面図である。
【0013】
なお、以下に示す図面では、XYZ座標系を用いて各部材の配置を説明する。
例えば、図2中では、上側を「前(Z方向)」、下側を「後(-Z方向)」、紙面手前側を「上(X方向)」、紙面奥側を「下(-X方向)」、右側を「右(Y方向)」、左側を「左(-Y方向)」として説明を行う。換言すれば、後述する回折光学部材30の縦方向(フレーム140の高さ方向)を「±X方向」、回折光学部材30の横方向(視認部131Aの幅方向)を「±Y方向」、回折光学部材30の厚さ方向(視認部131Aの厚さ方向)を「±Z方向」として説明を行う。
【0014】
ヘッドマウントディスプレイ1は、図1に示すように、眼鏡様の形状を有する本体部100と、使用者の手で持つことが可能な程度の大きさを有する制御部200とを備えている。
【0015】
本体部100と制御部200とは、本実施形態では、ケーブル300により有線で通信可能に接続されている。そして、本体部100と制御部200とは、このケーブル300を介して、画像信号や制御信号を通信する。なお、本体部100と制御部200とは、通信可能に接続されていればよく、図1に示した有線の他、無線であってもよい。
【0016】
本体部100は、右眼用表示部110Aと、左眼用表示部110Bとを有している。右眼用表示部110Aは、右眼用画像の画像光を形成する画像形成部120Aを備え、左眼用表示部110Bは、左眼用画像の画像光を形成する画像形成部120Bを備えている。
【0017】
画像形成部120Aは、眼鏡様をなす本体部100のフレーム140において、眼鏡のつる部分(右側)に収容される。画像形成部120Bは、眼鏡様をなす本体部100のフレーム140において、眼鏡のつる部分(左側)に収容されている。
【0018】
本体部100には、眼鏡のレンズ(右側)に対応する位置に、光透過性を有する視認部131Aが設けられている。視認部131Aは、右眼用画像の画像光を使用者の右眼RE(一方の眼)に向けて射出する。また、ヘッドマウントディスプレイ1においては、視認部131Aが光透過性を有し、視認部131Aを介して右眼REにより周囲を視認可能となっている。
【0019】
また、本体部100には、眼鏡のレンズ(左側)に対応する位置に、光透過性を有する視認部131Bが設けられている。視認部131Bは、左眼用画像の画像光を使用者の左眼LE(他方の眼)に向けて射出する。また、ヘッドマウントディスプレイ1においては、視認部131Bが光透過性を有し、視認部131Bを介して左眼LEにより周囲を視認可能となっている。
【0020】
このように、ヘッドマウントディスプレイ1は、本実施形態では、視認部131A、131Bを介して、右眼REおよび左眼LEにより周囲のシースルー光が視認可能となっているAR(拡張現実)型のHMDである。
【0021】
制御部200は、操作部210と操作ボタン部220とを備え、使用者は、制御部200の操作部210や操作ボタン部220に対して操作入力を行い、本体部100が備える各部に対する指示を行うよう構成されている。
【0022】
上記構成のヘッドマウントディスプレイ1において、図2に示すように、フレーム140のつる部分(右側)に配置(収容)された画像形成部120A、および、フレーム140のつる部分(左側)に配置された画像形成部120Bは、それぞれ、光源10および走査ミラー20を有している。
【0023】
さらに、レンズ(右側)に対応する位置に設けられた視認部131A、および、レンズ(左側)に対応する位置に設けられた視認部131Bは、それぞれ、使用者の右眼REおよび左眼LEの網膜上に映像を表示させるための回折光学部材30を有している。
【0024】
光源10は、本実施形態では、半導体レーザー光であり、赤色レーザー光源と、青色レーザー光源と、緑色レーザー光源とから出力される各レーザー光を合波したレーザー光である。そして、各色レーザー光源からの出力を適切に変調することで、任意の色のレーザー光が出力される。さらに、後述する走査ミラー20等と連動させて変調することで、使用者の眼の網膜上に映像を表示することができる。
【0025】
走査ミラー20は、ミラーと、このミラーをある周波数で振動制御する振動制御部とを備えるものであり、振動制御部は、例えば、MEMSによって構成されている。このように、振動制御部を、MEMSにより構成することで、走査ミラー20の小型化が実現される。
【0026】
なお、画像形成部120A、120Bは、光源10および走査ミラー20に代えて、画像情報を含む画像光を射出する画像表示素子と、射出された画像光を回折光学部材30に導いて入射させる反射ミラーとを備えるものであってもよい。また、この場合、画像表示素子としては、画像情報を含む画像光を射出し得るものであれば、特に限定されず、発光ダイオード(LED)のようなバックライトで照明された液晶表示素子(LCD)や、有機EL表示素子(OLED)、複数のマイクロLEDが平面上に格子状をなして配列された表示素子等の二次元画像表示素子が挙げられる。
【0027】
本実施形態のヘッドマウントディスプレイ1において、回折光学部材30は、走査ミラー20を介した光源10から射出された光を偏向(反射)させることにより、使用者の眼の網膜上に映像を表示させるためのものである。
【0028】
本実施形態の回折光学部材30は、後述のようにホログラム素子に対する水分の浸入を抑制することで、ホログラム素子が吸湿することに起因する偏向特性の劣化を抑制可能となっている。以下、回折光学部材30について詳述する。
【0029】
図5は、回折光学部材30の概略構成を示す断面図である。図5は回折光学部材30のYZ面に沿う面による断面図である。図6および図7は、ホログラム素子の製造方法を示す図である。図8は、平面波を用いてホログラム素子を露光する露光方法を示す概略図である。図9および図10は、ホログラム素子の干渉縞の模様を示す概略図である。
【0030】
本実施形態の回折光学部材30は、図5に示すように、第1基板321と、第1誘電体膜331と、ホログラム素子310と、第2基板322と、第2誘電体膜332と、接着部材340とを有している。
【0031】
第1基板321は透湿性を有する。
第1基板321の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
第1基板321の平均厚さは、特に限定されないが、0.5mm以上5mm以下程度であるのが好ましく、0.7mm以上2mm以下程度であるのがより好ましい。第1基板321は、実質的に透明(無色透明、着色透明または半透明)であるのが好ましい。
【0033】
第1誘電体膜331は、第1基板321の内面321aに設けられる。第1誘電体膜331は、透湿性を有する第1基板321を透過してくる水分が内部、すなわち、ホログラム素子310側に浸入することを抑制または防止する水蒸気バリア層としての機能を発揮する膜である。内面321aは「第1基板の一方の面」に相当する。本実施形態において、第1基板321は、第1誘電体膜331を介してホログラム素子310を支持する。
【0034】
ホログラム素子310は、第1基板321の内面321aに設けられた第1誘電体膜331に設けられている。ホログラム素子310は、光源10からの射出により入射した光を偏向させることで、使用者の眼の網膜上に映像を表示させるものであり、上面および下面がともに平坦な平板状を有する。本実施形態のホログラム素子310は、体積ホログラムで構成される。体積ホログラムはホログラム層と透明フィルム層とを含む。
本実施形態のホログラム素子310は体積ホログラムで構成されるため、回折光学部材30に入射された光を比較的高い効率で回折させることができる。
【0035】
この体積ホログラムからなるホログラム素子310は、樹脂層内部に屈折率分布を持って構成され、例えば、模式的には図9および図10の様に、低屈折率層と高屈折率層とにより平面状の干渉縞31によって構成される。
【0036】
このような体積ホログラムで構成されるホログラム素子310を備える回折光学部材30を用いることにより、一般的なミラーを用いた場合では、正反射方向のみにしか光の進行方向を変更できないのに対して、図3に示すように、正反射だけではない任意の方向に光の向きを変える、すなわち偏向することが可能となる。また、一般的なミラーと比較して、ホログラム素子310ひいては回折光学部材30の小型化を実現することができる。
【0037】
また、図4に示すように、例えば、右眼REに対応する回折光学部材30は、右眼REに対して正対して配置されており、ホログラム素子310は、走査ミラー20からの光を回折させ、1次回折光L1として右眼REに入射するように設計されている。なお、左眼LEに対応する回折光学部材30についても同様である。
【0038】
そして、走査ミラー20は、本実施形態では、瞳の中心に対して垂直なZ軸と、両眼の中心を結んだY軸と、を含む面(YZ面)以外の位置に配置され、本実施形態では、YZ面(眼の高さ)より高い位置の高さHに走査ミラー20が配置されている。具体的には、例えば、瞳径が4mmだとすると、少なくとも瞳の中心から2mm以上の高さHに走査ミラー20が配置される。なお、瞳の中心から離れる高さの上限としては、例えば、ヘッドマウントディスプレイ1として機能する範囲内である。このように配置することにより、走査ミラー20からホログラム素子310に入射した入射光のうち、0次回折光L0の進行方向は、左眼LEと異なる高さに進行し、その結果、左眼LEに入射しない。
【0039】
これに対して、走査ミラー20から回折光学部材30へ入射した入射光のうち1次回折光L1は、右眼REに入射し、これにより、画像を見ることができる。なお、0次回折光L0および1次回折光L1の方向は、ホログラム素子310を製造する際の、露光光学系の構成により調整することが可能である。
【0040】
以上のような回折光学部材30が備えるホログラム素子310、すなわち、低屈折率層と高屈折率層とによる平面状の干渉縞31を備える体積ホログラムは、例えば、物体光LAと参照光LBとの二光束の干渉露光により形成することができる(図6図7参照)。
【0041】
すなわち、形成すべきホログラム素子310の一方の面に平面波WAの物体光LAで露光し、他方の面に物体光LAと交差するように平面波WAの参照光LBで露光する(図8参照)。そして、この物体光LAと参照光LBとが交差する角度によって、形成されるホログラム素子310(体積ホログラム)の特性が決定される。
【0042】
なお、露光の方法として、図8に示すように、平面波WAを使用した例を示す。このように、平面波WAで記録された場合、ホログラム素子310の干渉縞31の角度は、図9に示すように、ホログラム全体でZ軸に対して垂直以外の角度で記録される。また、平面波WAを使用するので、記録される干渉縞31も直線(平面状)となる。なお、前記露光には、図8に示す平面波WAに代えて、球面波を用いることもできる。
【0043】
図9図10に示す干渉縞31は、フォトポリマーの部分を拡大して示す概略図である。干渉縞31は、屈折率の分布が斜めの線のようになっている。つまり、高屈折率層と低屈折率層とが交互に分布している。また、高屈折率層の幅w1と低屈折率層の幅w2とは、ほぼ同等の幅である。干渉縞31の幅は、例えば、200nm以上1500nm以下程度に設定される。
このように、ホログラム素子310の干渉縞31は、上から見ても(図9参照)、横から見ても(図10参照)、斜めになるように形成される。
【0044】
第2基板322はホログラム素子310に対向して設けられる。第2基板322としては、第1基板321と同様のものを用いることができる。本実施形態において、第2基板322は透湿性を有する材料で構成されている。
【0045】
第2誘電体膜332は、第2基板322の内面322aに設けられる。第2誘電体膜332は、透湿性を有する第2基板322を透過してくる水分がホログラム素子310側に浸入することを抑制または防止する水蒸気バリア層としての機能を発揮する膜である。第2誘電体膜332は、第1誘電体膜331と同様の構成を有する。なお、内面322aは「第2基板のホログラム素子と対向する面」に相当する。
【0046】
接着部材340は、第1基板321と第2基板322とを接着する。本実施形態の接着部材340は硬化後の接着剤により構成されている。接着部材340は、ホログラム素子310の周囲を枠状に囲むように第1基板321と第2基板322との間に配置されている。接着部材340は、第1基板321に設けられた第1誘電体膜331と、第2基板322に設けられた第2誘電体膜332と、を接着する。
なお、第1基板321および第2基板322は、接着部材340による接触領域について第1誘電体膜331および第2誘電体膜332を選択的に形成しなくてもよい。
【0047】
接着部材340は、第1基板321と第2基板322とを接着することで、ホログラム素子310を収容する収容空間Sを形成する。すなわち、収容空間Sは、接着部材340と、第1誘電体膜331と、第2誘電体膜332とで囲まれた空間である。本実施形態において、収容空間Sには空気層Aが設けられている。
【0048】
本実施形態の接着部材340はギャップ材Gを含む。ギャップ材Gは、所定の径を有する複数の微粒子で構成され、第1基板321と第2基板322との間隔を所定値に規定する。
【0049】
ギャップ材Gとしては、第1基板321および第2基板322よりも強度の高い微粒子を用いた。これにより、ギャップ材Gは第1基板321および第2基板322間に押圧された状態でも割れやかけ等が生じ難い。
【0050】
本実施形態の回折光学部材30はギャップ材Gを含む接着部材340を用いることで第1基板321と第2基板322とのギャップを一定に保持する構造を容易に実現可能である。これにより、回折光学部材30では、第1基板321および第2基板322が略平行に配置されるので、表面形状における歪みの発生が抑えられる。よって、回折光学部材30は表面形状の歪みが少ないので、回折光学部材30を透過するシースルー像についても歪みが少なく視認性に優れたものとなる。
【0051】
なお、接着部材340の構成材料としては接着性を付与できるものであれば、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂(接着剤)、シリコーン系樹脂(接着剤)、ポリエステル系樹脂(接着剤)、ウレタン系樹脂(接着剤)、またはポリ酢酸ビニル系樹脂(接着剤)等のうち、透明性を有するものが挙げられる。なお、本実施形態の接着部材340の構成材料としては、後述のように紫外線硬化型の材料を用いた。
【0052】
本実施形態において、第1誘電体膜331および第2誘電体膜332の構成材料としては、誘電性を備え、水蒸気バリア性および透明性を付与できるものであれば、特に限定されないが、例えば、セラミックス材料、ガラス材料のような無機材料および樹脂材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、セラミックス材料を用いることで、上述した水蒸気バリア性および透明性を確実に付与する膜を構成できる。
【0053】
セラミックス材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、シリカ、一酸化ケイ素、チタニア、酸化ハフニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタン酸バリウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、一酸化ケイ素(SiO)、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、酸化ハフニウム、(HfO)、ジルコニア(ZrO)およびチタニア(TiO)であるのが好ましい。これらによれば、前述したセラミックス材料を用いることにより得られる効果をより顕著に発揮させることができる。また、セラミックス材料で構成される第1誘電体膜331および第2誘電体膜332であれば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ化学気相成長法のような気相成長法を用いて比較的容易に形成することができる。
【0054】
なお、ガラス材料としては、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。
また、樹脂材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0055】
さらに、第1誘電体膜331および第2誘電体膜332は、上述した構成材料で構成される単層体であっても多層体であってもよいが、多層体であることが好ましい。これにより、上述した第1誘電体膜331および第2誘電体膜332としての水蒸気バリア層としての機能をより顕著に発揮させることができる。
【0056】
なお、第1誘電体膜331および第2誘電体膜332を、セラミックス材料を用いて多層体とする場合、この誘電体膜としては、例えば、一酸化ケイ素(SiO)で構成される層と、アルミナ(Al)で構成される層とを備え、一酸化ケイ素(SiO)を基板側とする多層体、または、一酸化ケイ素(SiO)で構成される層と、酸化ハフニウム、(HfO)で構成される層とを備え、一酸化ケイ素(SiO)を基板側とする多層体を用いることができる。
【0057】
第1誘電体膜331および第2誘電体膜332の平均厚さは、特に限定されないが、50nm以上1μm以下程度であるのが好ましく、100nm以上300nm以下程度であるのがより好ましい。平均厚さが上記下限値未満であると、構成材料の種類によっては十分な水蒸気バリア性を付与できないおそれがある。さらに、平均厚さが前記上限値を超えると、構成材料の種類によっては、膜割れが発生するおそれがある。
【0058】
また、第1誘電体膜331および第2誘電体膜332の水蒸気透過度は、例えば、0.1g/m・24hr(40℃、90%RH)以上2.0g/m・24hr(40℃、90%RH)以下であることが好ましく、0.1g/m・24hr(40℃、90%RH)以上1.0g/m・24hr(40℃、90%RH)以下であることがより好ましい。これにより、水分(水蒸気)のホログラム素子310への浸入を抑制または防止する水蒸気バリア層としての機能をより確実に発揮させることができる。
【0059】
本実施形態の回折光学部材30は下記工程で製造することができる。図11は本実施形態の回折光学部材30の製造工程を示す図である。
図11に示すように、本実施形態の回折光学部材30は、例えば、グローブボックス内において、第1誘電体膜331を介してホログラム素子310を形成した第1基板321と、第2誘電体膜332を形成した第2基板322とを接着部材340で押圧した状態で貼り合わせる。このとき、第1基板321と第2基板322との間の間隔がギャップ材Gにより所定間隔に保持される。なお、第1基板321と第2基板322とを貼り合わせるグローブボックス内の圧力は、大気圧よりも高い、例えば、0.1014MPa以上に設定される。
【0060】
続いて、第1基板321と第2基板322とを押圧しつつ、紫外光UVを照射することで接着部材340を硬化させる。これにより、第1基板321と第2基板322とは、ギャップ材Gにより互いの間隔が所定値に規定された状態で貼り合わされる。
【0061】
なお、接着部材340の一部にエアー排出用溝を設けておくことで、第1基板321と第2基板322との間から余分な空気を排出することができる。エアー排出用溝は接着部材340が押圧された際に潰されて閉塞される。このようにして、図5に示したように、ホログラム素子310が空気層Aを含む収容空間Sに収容された回折光学部材30を製造することができる。
【0062】
また、本実施形態のヘッドマウントディスプレイ1は、使用者に外界像をシースルー光として観察させることが可能である。以下、ヘッドマウントディスプレイ1において、使用者の眼(射出瞳SM)にシースルー光SLを入射させる範囲をシースルー視野範囲と称す。
【0063】
ここで、回折光学部材30に占めるホログラム素子310の割合(大きさ)について説明する。図12は回折光学部材30に占めるホログラム素子310の大きさを説明するための図である。
【0064】
図12に示すように、本実施形態の回折光学部材30は、左右方向(Y方向)において、ホログラム素子310が設けられた第1領域S1と、ホログラム素子310が設けられない第2領域S2と、接着部材340が設けられた第3領域S3と、を有している。なお、第1領域S1、第2領域S2および第3領域S3は、第1基板321と第2基板322との間、すなわち、第1誘電体膜331および第2誘電体膜332の間に存在する。
【0065】
ここで、第2領域S2および第3領域S3がシースルー視野範囲SA内に存在すると、シースルー光SLの像に歪みが生じ、シースルー光SLを良好に視認できなくなるおそれがある。
【0066】
これに対して本実施形態のヘッドマウントディスプレイ1では、ホログラム素子310のサイズが、回折光学部材30を透過して射出瞳SMに入射するシースルー光SLが通過するシースルー視野範囲SAよりも大きくなるように、設定している。
【0067】
具体的に本実施形態のヘッドマウントディスプレイ1において、ホログラム素子310のサイズは、左右方向(Y方向)におけるシースルー視野範囲SAと光軸AXとのなす角度で規定されるシースルー視野半角θよりも外側に位置するように、設定されている。なお、上記シースルー視野半角θの大きさは、一般的に、光軸AXに対して±30度に設定される。
【0068】
以上のように本実施形態のヘッドマウントディスプレイ1は、シースルー視野範囲SAに第2領域S2および第3領域S3が位置せず第1領域S1のみが位置するため、シースルー光SLの像に歪みが生じることがなく、良好にシースルー光SLを視認することができる。
【0069】
ところで、上述のように干渉露光により形成された干渉縞31を有する体積ホログラムからなるホログラム素子310を、例えば、第1基板321上に、第1誘電体膜331および第2誘電体膜332を設けることなく、直接、形成したとすると、以下のような問題が生じる。
【0070】
上述のように第1基板321は透湿性を有するため、第1基板321を透過した水分が体積ホログラムに侵入し、その結果、体積ホログラムが膨張することに起因して、干渉縞の位置にズレが生じ、体積ホログラムの偏向特性が劣化すると言う問題が生じてしまう。
【0071】
これに対して、本実施形態の回折光学部材30は、第1基板321とホログラム素子310との間に設けられた第1誘電体膜331と、第2基板322のホログラム素子310に対向する側の内面322aに設けられた第2誘電体膜332と、を備えている。第1誘電体膜331は、第1基板321を透過した水分が第1基板321に支持されるホログラム素子310側に侵入することを抑制または防止する水蒸気バリア層として機能し、第2誘電体膜332は、第2基板322を透過した水分がホログラム素子310を収容する収容空間S内に侵入することを抑制または防止する水蒸気バリア層として機能することができる。
【0072】
そのため、本実施形態の回折光学部材30によれば、ホログラム素子310に対して水分が浸入することが的確に抑制または防止され、ホログラム素子310が膨張して、干渉縞31の位置にズレが生じることに由来する、ホログラム素子310の偏向特性の劣化を的確に抑制または防止することができる。また、本実施形態の回折光学部材30は、ホログラム素子310が吸湿することに起因する吸湿劣化を的確に抑制または防止できる。
【0073】
また、本実施形態の回折光学部材30では、ホログラム素子310を収容する収容空間Sを形成するように第1基板321と第2基板322とを接着する接着部材340を備えている。そのため、接着部材340がホログラム素子310に直接接触することがない。
【0074】
ここで、接着部材340とホログラム素子310とが接触していると、接着部材340中の水分や、接着部材340に使用される希釈剤などの材料成分がホログラム素子310を構成する体積ホログラムにダメージを与え、ホログラム素子310の偏向特性に変動を生じさせてしまう。
【0075】
これに対して、本実施形態の回折光学部材30では、上述のように接着部材340がホログラム素子310に接触しないため、接着部材340との接触に起因する、ホログラム素子310の偏向特性の変動を的確に抑制または防止することができる。また、本実施形態の回折光学部材30は、接着部材340との接触によって生じるホログラム素子310の吸湿に起因する吸湿劣化を的確に抑制または防止できる。
【0076】
(第2実施形態)
次に、回折光学部材の第2実施形態について説明する。以下、第2実施形態の回折光学部材について、第1実施形態の回折光学部材30との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0077】
図13は、第2実施形態の回折光学部材30Aの概略構成を示す断面図である。
本実施形態の回折光学部材30Aは、図13に示すように、第1基板321と、第1誘電体膜331と、ホログラム素子310と、第2基板322と、第2誘電体膜332と、接着部材340と、第3誘電体膜333と、を有している。
【0078】
本実施形態の回折光学部材30Aは、第1実施形態の回折光学部材30の外周全体を覆う第3誘電体膜333を備えること以外は、回折光学部材30と共通の構成を有する。すなわち、第3誘電体膜333は、ホログラム素子310の周囲を囲むように第1基板321および第2基板322の外面に設けられる。
【0079】
第3誘電体膜333は、第1誘電体膜331および第2誘電体膜332と同様の構成を有する。すなわち、第3誘電体膜333は、大気中の水分が第1基板321および第2基板322に浸入することを抑制または防止する水蒸気バリア層としての機能を発揮する膜である。
【0080】
なお、本実施形態の回折光学部材30Aにおいて、第2誘電体膜332は必要に応じて省略してもよい。
【0081】
本実施形態の回折光学部材30Aによれば、第1基板321および第2基板322の外面を覆う第3誘電体膜333を備えるので、第1実施形態の効果に加えて下記効果を得ることができる。具体的に本実施形態の回折光学部材30Aによれば、第3誘電体膜333によって、大気中の水分が第1基板321および第2基板322に浸入することを抑制または防止できる。よって、本実施形態の回折光学部材30Aによれば、ホログラム素子310が吸湿することに起因する吸湿劣化をより効果的に抑制または防止できる。
【0082】
(第3実施形態)
次に、回折光学部材の第3実施形態について説明する。以下、第3実施形態の回折光学部材について、第1実施形態の回折光学部材30との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0083】
図14は、第3実施形態の回折光学部材30Bの概略構成を示す断面図である。
本実施形態の回折光学部材30Bは、図14に示すように、第1基板321と、第1誘電体膜331と、ホログラム素子310と、第2基板322と、第2誘電体膜332と、接着部材345と、を有している。
【0084】
本実施形態の回折光学部材30Bにおいて、収容空間Sには不活性体Fが設けられている。不活性体Fは、不活性ガスまたは不活性液体を含む。不活性ガスとしては、例えば、N2、He、Ne、Ar、Kr、Xe、または、これらの混合ガスを用いることができる。また、不活性液体としては、例えば、フッ素系不活性液体を用いることができる。
【0085】
なお、不活性体Fとして不活性液体を収容空間Sに充填した構造は図15に示す工程によって製造される。例えば、図15に示すように、第1基板321と第2基板322とを貼り合わせる際、第1開口345aおよび第2開口345bを形成した接着部材345を用いる。第1開口345aは収容空間S内に不活性体Fとしての不活性液体を注入するための開口であり、第2開口345bは収容空間S内に不活性液体を注入する際に収容空間S内から空気A1を排出させるための開口である。
【0086】
そして、第1開口345aを介して収容空間S内に不活性体Fとしての不活性液体を注入しつつ、第2開口345bを介して収容空間S内の空気A1を排出させる。不活性液体の注入処理が完了した後、第1開口345aおよび第2開口345bに塗布した他の接着部材345cに対して紫外光UVを照射し、他の接着部材345cを硬化させることで第1開口345aおよび第2開口345bを閉塞する。以上の工程により、本実施形態の回折光学部材30Bが製造される。
【0087】
本実施形態の回折光学部材30Bによれば、ホログラム素子310を収容する収容空間Sに不活性体Fが設けられるため、収容空間S内に空気が存在しない状態とされている。これにより、空気中に含まれる僅かな水分によるホログラム素子310への吸湿を防止することができる。よって、水分吸着に起因するホログラム素子310の偏向特性の変動をより効果的に防止できる。
【0088】
(第4実施形態)
次に、回折光学部材の第4実施形態について説明する。以下、第4実施形態の回折光学部材について、第1実施形態の回折光学部材30との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0089】
図16は、第4実施形態の回折光学部材30Cの概略構成を示す断面図である。
本実施形態の回折光学部材30Cは、図16に示すように、第1基板421と、第1誘電体膜331と、ホログラム素子310と、第2基板422と、第2誘電体膜332と、接着部材341と、第3誘電体膜333と、ハードコート層350と、を有している。本実施形態の回折光学部材30Cにおいて、第2誘電体膜332は必要に応じて省略してもよい。
【0090】
第1基板421は、ホログラム支持部421aと、固定部421bと、を含む。ホログラム支持部421aは、第1誘電体膜331を介してホログラム素子310を支持する。固定部421bは、ホログラム支持部421aと一体に設けられる。固定部421bは、ホログラム支持部421aの外側に張り出した張り出し部421b1を有する。第1誘電体膜331は、ホログラム支持部421aの上面421a1および側面421a2を覆うように設けられる。
【0091】
第2基板422は、天板部422aと、側板部422bと、突出部422cと、を含む。天板部422aは、ホログラム素子310に対向する部位である。側板部422bは、天板部422aの内面からホログラム素子310側に向かって延びる枠状の部位である。突出部422cは、側板部422bの-Z方向の先端に設けられている。左右方向(Y方向)において、突出部422cの肉厚は側板部422bの肉厚より薄い。
【0092】
本実施形態において、第1基板421および第2基板422は係合可能である。具体的に第1基板421の張り出し部421b1と第2基板422の突出部422cとが係合する。第1基板421は第2基板422に係合される張り出し部(第1係合部)421b1を有し、第2基板422は第1基板421に係合される突出部(第2係合部)422cを有している。
【0093】
本実施形態の回折光学部材30Cでは、第1基板421に対して第2基板422が蓋状に嵌め込み可能である。本実施形態の回折光学部材30Cは、第1基板421および第2基板422が互いに嵌め込まれることで機械的強度が向上するため、外力による変形が生じ難い。よって、本実施形態の回折光学部材30Cは、外力による変形に起因したシースルー像の歪みを低減することができる。
【0094】
本実施形態において、接着部材341は、張り出し部421b1および突出部422cを接着することで、第1基板421および第2基板422を接着する。なお、第1基板421に対して第2基板422が嵌め込み可能な構造を採用する場合、第1基板421および第2基板422間のギャップ管理が比較的容易となる。そのため、本実施形態の接着部材341はギャップ材を省略することが可能である。
【0095】
本実施形態の回折光学部材30Cにおいて、収容空間Sは、接着部材341と、第1誘電体膜331と、第2誘電体膜332とで囲まれた空間で構成される。本実施形態において、収容空間Sには空気層Aが設けられている。なお、収容空間Sには空気層Aに代えて不活性体Fを設けてもよい。
【0096】
ハードコート層350は、第1基板421および第2基板422からなる箱体450の全面を覆うように設けられる。ハードコート層350は樹脂材料を含有するものであり、例えば、有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)と金属酸化物とを含有する組成物(ハードコート材料)を用いて形成されたもので構成することができる。
【0097】
有機ケイ素化合物としては特に限定されないが、例えば、一般式(1):(RSi(X4-n(一般式(1)中、Rは重合可能な官能基を有する炭素数が2以上の有機基、Xは加水分解基を表わし、nは1または2の整数を表す。)で表わされるものが用いられる。
【0098】
また、金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、Al、Ti、Sb、Zr、Si、Ce、Fe、In、Sn、Zn等の金属の酸化物が挙げられ、かかる酸化物のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、特に、TiO、ZrO、CeO、ZnO、SnOおよびITO(インジウム-スズ複合酸化物)が好ましい。これらの金属酸化物のハードコート層350に含まれる含有量を適宜設定することにより、ハードコート層350の屈折率を所望の大きさに設定することができる。
【0099】
また、ハードコート層350の平均厚さは、例えば、1μm以上50μm以下程度であるのが好ましく、5μm以上30μm以下程度であるのがより好ましい。
【0100】
なお、ハードコート層350は、液状をなす組成物(ハードコート材料)を、箱体450に供給した後に、乾燥させることで形成することができる。また、箱体450に上記組成物を供給する方法としては、例えば、組成物中に箱体450を浸漬させる方法(浸漬法)、箱体450に組成物をシャワー(噴霧)する方法(噴霧法)、箱体450に組成物を塗布する方法(塗布法)等が挙げられるが、浸漬法であることが好ましい。これにより、均一な厚さを有するハードコート層350を一括して形成することができる。
【0101】
また、組成物(ハードコート材料)は、有機ケイ素化合物と金属酸化物との他に、紫外線硬化型の硬化剤を含有するものであってもよく、この場合、ハードコート層350は、箱体450における液状をなす組成物の乾燥の後に、前記組成物に紫外線を照射することで形成することができる。
【0102】
さらに、第3誘電体膜333の表面には、フッ素系材料やシリコーン系材料等で構成される撥液膜が設けられていてもよい。これにより、回折光学部材30Cの水等に対する耐液性の向上を図ることができる。
【0103】
第3誘電体膜333は、ハードコート層350の外周を覆うように設けられる。本実施形態において、第3誘電体膜333に反射防止膜としての機能を付与してもよい。第3誘電体膜333に反射防止膜の機能を付与する場合、第3誘電体膜333をセラミックス材料で構成される多層体で形成することが好ましく、具体的には、例えば、一酸化ケイ素(SiO)で構成される層と、ジルコニア(ZrO)で構成される層と、シリカ(SiO)で構成される層と、チタニア(TiO)で構成される層と、ジルコニア(ZrO)で構成される層と、シリカ(SiO)で構成される層とを備え、一酸化ケイ素(SiO)をハードコート層350側とする多層体が挙げられる。
【0104】
また、この場合、第3誘電体膜333の平均厚さは、反射防止膜としての機能が発揮されるように適宜設定されるが、例えば、100nm以上500nm以下程度であるのが好ましく、300nm以上500nm以下程度であるのがより好ましい。
【0105】
以上のように本実施形態の回折光学部材30Cによれば、上記第1実施形態と同様の効果に加えて、第1基板421および第2基板422が互いに嵌め込まれることで機械的強度が向上するため、外力による変形に起因したシースルー像の歪みを低減できる。
また、本実施形態の回折光学部材30Cは、箱体450と第3誘電体膜333との間にハードコート層350が介在することで、箱体450と第3誘電体膜333との密着性を向上させることができる。
【0106】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態において、ホログラム素子310は体積ホログラムで構成される場合を例に挙げたが、ホログラム素子310は体積ホログラムの他、表面レリーフホログラム、ブレーズ回折格子等であってもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、第1基板321およびホログラム素子310の双方が、上面および下面の双方が平板状をなす平行平板で構成される場合について説明したが、これらのうちの少なくとも一方は、その上面または下面のいずれか一方または双方が湾曲面で構成されるものであってもよい。また、第2基板322が湾曲した形状を有していてもよい。
【0108】
また、本発明の虚像表示装置を、VR等の仮想現実型のヘッドマウントディスプレイ等に適用し、第2基板322として透明性が要求されない場合には、第2基板322として不透明基板を用いることもできる。なお、不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの等が挙げられる。
【0109】
また、上記実施形態では、本発明の回折光学部材を備える虚像表示装置(画像表示装置)を、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)に適用した場合を一例に説明したが、これに限定されず、本発明の回折光学部材を備える虚像表示装置は、物に固定されたヘッドアップディスプレイや、双眼鏡型のハンドヘルドディスプレイにも適用することができる。
【0110】
その他、回折光学部材および虚像表示装置の各構成要素の形状、数、配置、材料等の具体的な記載については、上記実施形態に限らず、適宜変更が可能である。
【0111】
本発明の態様の回折光学部材は、以下の構成を有していてもよい。
本発明の第1の態様の回折光学部材は、透湿性を有する第1基板と、第1基板の一方の面に設けられる第1誘電体膜と、第1誘電体膜に設けられるホログラム素子と、ホログラム素子に対向して設けられる第2基板と、第1基板と第2基板とを接着し、ホログラム素子を収容する収容空間を形成する接着部材と、を備える。
【0112】
本発明の第1の態様の回折光学部材において、第2基板は透湿性を有し、第2基板のホログラム素子と対向する面に設けられる第2誘電体膜をさらに備える構成としてもよい。
【0113】
本発明の第2の態様の回折光学部材は、第1基板と、第1基板の一方の面に設けられる第1誘電体膜と、第1誘電体膜に設けられるホログラム素子と、ホログラム素子に対向して設けられる第2基板と、第2基板のホログラム素子と対向する面に設けられる第2誘電体膜と、第1基板と第2基板とを接着し、ホログラム素子を収容する収容空間を形成する接着部材と、を備え、収容空間には、不活性体および空気層の少なくとも一方が設けられている。
【0114】
本発明の上記態様の回折光学部材において、不活性体は、不活性ガスまたは不活性液体である構成としてもよい。
【0115】
本発明の上記態様の回折光学部材において、不活性体は、不活性ガスまたは不活性液体である構成としてもよい。
【0116】
本発明の上記態様の回折光学部材において、ホログラム素子の周囲を囲むように第1基板および第2基板の外面に設けられる第3誘電体膜をさらに備える構成としてもよい。
【0117】
本発明の上記態様の回折光学部材において、接着部材は、第1基板と第2基板との間の間隔を規定するギャップ材を含む構成としてもよい。
【0118】
本発明の上記態様の回折光学部材において、第1基板は、第2基板に係合される第1係合部を有し、第2基板は、第1基板に係合される第2係合部を有しており、接着部材は、第1係合部および第2係合部を接着している構成としてもよい。
【0119】
本発明の一つの態様の虚像表示装置は、以下の構成を有していてもよい。
本発明の一つの態様の虚像表示装置は、本発明の上記態様の回折光学部材を備える。
【0120】
本発明の上記態様の虚像表示装置において、ホログラム素子のサイズは、回折光学部材を透過して射出瞳に入射するシースルー光が通過するシースルー視野範囲よりも大きい構成としてもよい。
【符号の説明】
【0121】
30,30A,30B,30C…回折光学部材、310…ホログラム素子、321,421…第1基板、322,422…第2基板、331…第1誘電体膜、332…第2誘電体膜、333…第3誘電体膜、340,341,345…接着部材、421b1…張り出し部(第1係合部)、422c…突出部(第2係合部)、A…空気層、F…不活性体、G…ギャップ材、S…収容空間、SA…シースルー視野範囲、SL…シースルー光、SM…射出瞳。
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