(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】電解水製造装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/461 20230101AFI20240806BHJP
【FI】
C02F1/461 A
(21)【出願番号】P 2020163343
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 良庸
(72)【発明者】
【氏名】佐野 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】谷口 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】平井 良和
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅俊
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04308117(US,A)
【文献】特開2014-046227(JP,A)
【文献】特許第4713537(JP,B2)
【文献】特開2011-136333(JP,A)
【文献】特開平09-271781(JP,A)
【文献】特開2007-229565(JP,A)
【文献】米国特許第05415759(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46-1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽電極と、
前記陽電極を収容する第1の槽と、
陰電極と、
前記陰電極を収容する第2の槽と、
前記第1の槽と前記第2の槽の間に配置された第3の槽と、
前記第1の槽と前記第3の槽の間に設けられた第1の隔膜と、
前記第2の槽と前記第3の槽の間に設けられた第2の隔膜と、
前記第3の槽に収容されたバイポーラ電極と
、
前記第1の槽における電解によって生成された第1の電解水と前記第2の槽における電解によって生成された第2の電解水とを混合して出力する出力部と、
前記出力部から出力される溶液の水素イオン濃度の指定に従って、前記陽電極および前記陰電極のそれぞれに印加する電流値を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
出力されるべき溶液の水素イオン濃度と前記陽電極および前記陰電極のそれぞれに印加される電流の設定値とを関連付ける設定情報を格納し、
前記設定情報において、前記指定における水素イオン濃度に関連付けられた前記陰電極のそれぞれに印加される電流の設定値に従って、前記陽電極および前記陰電極のそれぞれに印加する電流値を制御する、電解水製造装置。
【請求項2】
前記第3の槽と電解質溶液貯留槽との間で電解質溶液を循環させるためのポンプをさらに備える、請求項1に記載の電解水製造装置。
【請求項3】
前記第1の隔膜は、陰イオン交換膜を含み、
前記第2の隔膜は、陽イオン交換膜を含む、請求項1または請求項2に記載の電解水製造装置。
【請求項4】
水素イオン濃度センサと、
弁と、をさらに備え、
前記第1の電解水と前記第2の電解水は、前記水素イオン濃度センサを通過した後、さらに前記弁を通過して、前記出力部から出力され、
前記コントローラは、前記水素イオン濃度センサによって計測される水素イオン濃度が前記指定における水素イオン濃度に対して一定の範囲を超えて相違した場合に、前記弁を閉じる、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の電解水製造装置。
【請求項5】
水素イオン濃度センサをさらに備え、
前記第1の電解水と前記第2の電解水は、前記水素イオン濃度センサを介して、前記出力部から出力され、
前記コントローラは、前記水素イオン濃度センサによって計測される水素イオン濃度が前記指定における水素イオン濃度に対して一定の範囲を超えて相違する事象が生じた場合に当該事象を報知する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の電解水製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解反応を利用して所与の特性を付加された水を供給する技術が種々提案されている。たとえば、特許第4024278号公報(特許文献1)は、原水と陽極室から排出された酸性電解水とを合流させて原水貯水槽に戻す循環構造を有するバッチ式酸性電解水製造装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸性電解水は洗浄および消毒に利用され得る一方、アルカリ性電解水は汚れ落としに利用され得る。上記のような装置において、酸性電解水だけでなくアルカリ性電解水を供給させようとして、酸性電解水の供給時とアルカリ性電解水の供給時とで電極の極性を反転させる場合、二つの電極の間の隔膜を中性膜とする必要が生じる。これにより、供給されるべき酸性電解水または供給されるべきアルカリ性電解水が生成される槽に、中性膜を通して、未分解の塩化ナトリウムが漏れ出す可能性があり得る。
【0005】
本開示は、係る実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、酸性電解水とアルカリ性電解水の双方を供給し、かつ、供給される電解水における塩化ナトリウムの混入を抑制し得る、電解水製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に従うと、陽電極と、陽電極を収容する第1の槽と、陰電極と、陰電極を収容する第2の槽と、第1の槽と第2の槽の間に配置された第3の槽と、第1の槽と第3の槽の間に設けられた第1の隔膜と、第2の槽と第3の槽の間に設けられた第2の隔膜と、第3の槽に収容されたバイポーラ電極と、を備える、電解水製造装置が提供される。
【0007】
電解水製造装置は、第3の槽と電解質溶液貯留槽との間で電解質溶液を循環させるためのポンプをさらに備えていてもよい。
【0008】
第1の隔膜は、陰イオン交換膜を含んでいてもよい。第2の隔膜は、陽イオン交換膜を含んでいてもよい。
【0009】
電解水製造装置は、第1の槽における電解によって生成された第1の電解水と第2の槽における電解によって生成された第2の電解水とを混合して出力する出力部をさらに備えていてもよい。
【0010】
電解水製造装置は、出力部から出力される溶液の水素イオン濃度の指定に従って、陽電極および陰電極のそれぞれに印加する電流値を制御するコントローラをさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、電解水製造装置が陽電極を収容する第1の槽および陰電極を収容する第2の槽だけでなくバイポーラ電極を収容する第3の槽を備えるため、酸性電解水の供給時とアルカリ性電解水の供給時との間で、陽電極および陰電極の間で極性を反転させる必要がない。したがって、極性の反転に起因した、供給される電解水における塩化ナトリウムの混入が抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】電解水製造装置の構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】
図1の電解槽220の詳細な構成を示す図である。
【
図3】
図1のコントローラ100の詳細な構成を示す図である。
【
図4】電解槽220における電極の1つ目の利用態様(以下、「利用態様(1)」とも称する)を示す図である。
【
図5】電解槽220における電極の2つ目の利用態様(以下、「利用態様(2)」とも称する)を示す図である。
【
図6】電解槽220における電極の3つ目の利用態様(以下、「利用態様(3)」とも称する)を示す図である。
【
図7】
図4~
図6のそれぞれに示された電極の利用態様(利用態様(1)~(3))に対応する、吐出された溶液の特性の具体例を示す図である。
【
図8】陽電極および陰電極のそれぞれに印加する電流値と電解水製造装置から吐出される溶液の特性の対応関係の一例を示す図である。
【
図9】電解水製造装置において利用される設定情報のデータ構成の一例を示す図である。
【
図10】電解水製造装置1において指定されたpHの溶液を吐出するための処理の一例の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照しつつ、電解水製造装置の一実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらの説明は繰り返さない。
【0014】
[1.電解水製造装置の構成]
図1は、電解水製造装置の構成の一例を概略的に示す図である。
図1に示されるように、電解水製造装置1は、コントローラ100と電解水製造ユニット200とを含む。コントローラ100は、電解水製造ユニット200を制御する。
【0015】
電解水製造ユニット200では、外部から電解槽220へ原水が供給され、塩水タンク240から電解槽220へ塩水(塩化ナトリウム水溶液)が供給される。電解槽220は、電解反応により電解水を生成する。電解槽220において生成された電解水は、蛇口218から出力される。蛇口218は、第1の槽における電解によって生成された電解水と第2の槽における電解によって生成された電解水を混合して出力する出力部の一例である。
【0016】
より具体的には、電解水製造ユニット200は、外部からの原水の供給路である配管270を含む。配管270上には、第1電磁弁210、逆止弁211、定流量弁212、および流量センサ213が設けられている。配管270を介して供給される原水は、第1電磁弁210、逆止弁211、定流量弁212、および流量センサ213を経た後、配管271と配管272へと分割される。なお、定流量弁212の代わりに定圧弁(および絞り弁)が設けられても良い。配管271上には定流量弁214が設けられ、配管272上には定流量弁215が設けられている。
【0017】
電解槽220は、陽電極251を収容する槽(
図2を参照して説明される陽極槽221)、陰電極252を収容する槽(
図2を参照して説明される陰極槽222)、およびバイポーラ電極253を収容する槽(
図2を参照して説明される中間槽223)を含む。配管271は陽極槽221に接続され、配管271は陰極槽222に接続される。陽極槽221,陰極槽222,中間槽223のそれぞれは、第1の槽,第2の槽,第3の槽の一例である。
【0018】
塩水タンク240と電解槽220とは、循環用配管290で接続されている。循環用配管290上には塩水ポンプ241が設けられている。塩水ポンプ241は、塩水タンク240内の塩水を中間槽223へと送る。中間槽223内の溶液は循環用配管290を介して塩水タンク240へと送られる。
【0019】
電解水製造ユニット200は、電源装置230を含む。電源装置230は、電源装置230と陽電極251とを電気的に接続するためのスイッチ231と、電源装置230と陰電極252とを電気的に接続するためのスイッチ232とを含む。
【0020】
電解水製造ユニット200は、陽極槽221内の電解水を蛇口218へ送るための配管281と、陰極槽222内の電解水を蛇口218へ送るための配管282とを含む。配管281と配管282とは、蛇口218の手前で配管280として統合される。配管280上には、pHセンサ216とが設けられている。配管280内の電解水は、pHセンサ216を介して、蛇口218へ到達する。
【0021】
図2は、
図1の電解槽220の詳細な構成を示す図である。陽電極251は、たとえばIr(イリジウム)を含む。陰電極252は、たとえばPt(白金)を含む。バイポーラ電極253は、陽電極251に対向する部分にはPtを含み、陰電極252に対向する部分にはIrを含む。
【0022】
図2に示されるように、陽極槽221と中間槽223との間には、隔膜261が設けられている。隔膜261は、陰イオン交換樹脂からなる膜を含む。
【0023】
陰極槽222と中間槽223との間には、隔膜262が設けられている。隔膜262は、陽イオン交換樹脂からなる膜を含む。
【0024】
陽電極251が陽極として作用するように電源装置230から電流を印加され、かつ、陰電極252が陰極として作用するように電源装置230から電流を印加されると、バイポーラ電極253の陽電極251に対向する側は陰極として作用し、バイポーラ電極253の陰電極252に対向する側は陽極として作用する。
【0025】
図3は、
図1のコントローラ100の詳細な構成を示す図である。コントローラ100は、プロセッサ101、入出力インターフェース102、記憶装置103、流量調整回路111、電流制御回路112、電流制御回路113、スイッチ制御回路114、スイッチ制御回路115、出力量調整回路116、表示装置117、スピーカ118、および、入力装置119を含む。
【0026】
プロセッサ101は、所与のプログラムを実行することにより、電解水製造ユニット200の動作を制御するための処理を実行する。電解水製造ユニット200は、プロセッサ101の代わりに、または、プロセッサ101に加えて、ASIC(application specific integrated circuit)などの、制御用の専用回路を含んでもよい。
【0027】
入出力インターフェース102は、電解水製造ユニット200内の各要素(第1電磁弁210、流量センサ213、塩水ポンプ241、電源装置230、スイッチ231,232、pHセンサ216、など)とプロセッサ101との間のインターフェースとして機能する。記憶装置103は、プロセッサ101によって実行されるプログラム、および/または、電解水製造ユニット200の制御に利用されるデータを格納する。
【0028】
プロセッサ101は、流量調整回路111、電流制御回路112、電流制御回路113、スイッチ制御回路114、スイッチ制御回路115、および、出力量調整回路116を利用して、電解水製造ユニット200の動作を制御する。より具体的には、流量調整回路111は、第1電磁弁210の開閉動作の制御に利用される。電流制御回路112は、電源装置230から陽電極251へ印加される電流の電流値の制御に利用され、電流制御回路113は、電源装置230から陰電極252へ印加される電流の電流値の制御に利用される。スイッチ制御回路114,115のそれぞれは、スイッチ231,232のそれぞれの開閉の制御に利用される。出力量調整回路116は、蛇口とpHセンサ216との間に電磁弁が設けられる場合、当該電磁弁の開閉制御に利用される。そのような電磁弁が設けられない場合、出力量調整回路116は省略されてもよい。
図1の例では、そのような電磁弁が省略されている。
【0029】
プロセッサ101は、表示装置117において情報を表示し、スピーカ118から音声を出力し、また、入力装置119(操作ボタン、タッチパネル、など)を介して情報の入力を受け付ける。ユーザは、入力装置119を介して設定情報などの種々の情報を入力でき、また、表示装置117における表示および/またはスピーカ118から出力される音声によって電解水製造装置1の状態を認識し得る。
【0030】
[2.電極の利用態様]
図4~
図6を参照して、電解槽220における電極の利用態様を説明する。
【0031】
<利用態様(1)>
図4は、電解槽220における電極の1つ目の利用態様(以下、「利用態様(1)」とも称する)を示す図である。
図4に示された態様では、陽電極251に電流が印加されることにより、陽電極251が陽極として作用する。陰電極252には電流は印加されない。これにより、バイポーラ電極253は陰極として作用する。
【0032】
利用態様(1)では、陽極槽221では電解は生じるが、陰極槽222では電解は生じない。これにより、配管281へ出力される溶液は酸性であり、配管282へ出力される溶液は中性に近い。したがって、配管280へ出力される溶液は酸性である。なお、中間槽223の溶液は、塩水タンク240へと出力される。塩水タンク240は、電解質溶液貯留槽の一例である。
【0033】
<利用態様(2)>
図5は、電解槽220における電極の2つ目の利用態様(以下、「利用態様(2)」とも称する)を示す図である。
図5に示された態様では、陰電極252に電流が印加されることにより、陰電極252が陰極として作用する。陽電極251には電流は印加されない。これにより、バイポーラ電極253は陽極として作用する。
【0034】
利用態様(2)では、陰極槽222では電解は生じるが、陽極槽221では電解は生じない。これにより、配管282から出力される溶液はアルカリ性であり、配管281から出力される溶液は中性に近い。したがって、配管280へ出力される溶液はアルカリ性である。なお、中間槽223の溶液は、塩水タンク240へと出力される。
【0035】
<利用態様(3)>
図6は、電解槽220における電極の3つ目の利用態様(以下、「利用態様(3)」とも称する)を示す図である。
図5に示された態様では、陽電極251および陰電極252の双方に電流が印加される。これにより、陽電極251は陽極として作用し、陰電極252が陰極として作用する。これにより、バイポーラ電極253において、陽電極251に対向する部分は陰極として作用し、陰電極252に対向する部分は陽極として作用する。
【0036】
利用態様(3)では、陽極槽221と陰極槽222の双方で電解が生じる。これにより、配管281から出力される溶液は酸性であり、配管282から出力される溶液はアルカリ性である。配管280へ出力される溶液の特性(酸性またはアルカリ性)は、陽電極251に印加された電流値と陰電極252に印加された電流値の大きさによって変化する。なお、中間槽223の溶液は、塩水タンク240へと出力される。
【0037】
[3.電解水製造装置から吐出される溶液の特性の具体例]
<具体例1>
図7は、
図4~
図6のそれぞれに示された電極の利用態様(利用態様(1)~(3))に対応する、吐出された溶液の特性の具体例を示す図である。
図7には、利用態様(1)~(3)のそれぞれについて1つの条件で電解水製造装置1を利用した際のデータ(試験データ)が示される。
【0038】
試験データは、利用態様(1)~(3)のそれぞれについて、流量、電流値、電解電圧、吐出溶液(陽極室)、および、吐出溶液(陰極室)とを含む。
【0039】
流量は、陽極槽221および陰極槽222のそれぞれに供給された原水の流量を表す。
図7の例では、利用態様(1)~(3)のいずれにおいても、陽極槽221および陰極槽222のそれぞれに0.2[L/min]の流量で原水が供給された。
【0040】
電流値は、電源装置230から陽電極251および陰電極252のそれぞれに印加された電流値、および、陽電極251および陰電極252に電流が印加されたことによってバイポーラ電極253に流れた電流値を表す。
図7の例では、利用態様(1)では、陽電極251に2.0[A]の電流が印加され、陰電極252には電流は印加されなかった。これにより、バイポーラ電極253には2.0[A]の電流が流れた。利用態様(2)では、陰電極252に2.0[A]の電流が印加され、陽電極251には電流は印加されなかった。これにより、バイポーラ電極253には2.0[A]の電流が流れた。利用態様(3)では、陽電極251および陰電極252に2.0[A]の電流が印加された。これにより、バイポーラ電極253には電流は流れなかった。
【0041】
電解電圧は、陽電極251および陰電極252への電流の印加による電解電圧、すなわち、陽電極251と陰電極252の間の電位差を表す。
図7の例では、利用態様(1),(2),(3)のそれぞれにおける電解電圧は、5.4[V],2.2[V],2,3[V]であった。
【0042】
吐出溶液(陽極室)は、陽極槽221から出力される溶液(配管281内の溶液)の特性(pH、電気伝導率、および、次亜塩素酸イオン濃度)を表す。
図7の例では、利用態様(1),(3)のそれぞれにおけるpHは、いずれも2.45であった。利用態様(1),(3)のそれぞれにおける電気伝導率は、1720[μS/cm],1549[μS/cm]であった。利用態様(1),(3)のそれぞれにおける次亜塩素酸イオン濃度は、59[mg/L],58[mg/L]であった。利用態様(2)では陽極槽221において電解が生じなかったので計測はなされなかった。
【0043】
吐出溶液(陰極室)は、陰極槽222から出力される溶液(配管282内の溶液)の特性(pH、および、電気伝導率)を表す。
図7の例では、利用態様(1),(2)のそれぞれにおけるpHは、11.96,11.93であった。利用態様(1),(2)のそれぞれにおける電気伝導率は、1302[μS/cm],1338[μS/cm]であった。利用態様(3)では陰極槽222において電解が生じなかったので計測はなされなかった。
【0044】
図7に示されるように、陽極槽221の陽電極251に電流が印加されると、陽極槽221からは酸性の溶液が出力された。また、陰極槽222の陰電極252に電流が印加されると、陰極槽222からはアルカリ性の溶液が出力された。
【0045】
<具体例2>
図8は、陽電極および陰電極のそれぞれに印加する電流値と電解水製造装置から吐出される溶液の特性の対応関係の一例を示す図である。
図8には、印加電流として、陽電極251および陰電極252のそれぞれに印加される電流値、ならびに、陽電極251および陰電極252への電流印加の結果としてバイポーラ電極253に流れた電流値が示される。また、吐出溶液の物性として、陽極槽221から出力された溶液と陰極槽222から出力された溶液とが混合された溶液(配管280内の溶液)のpHおよび次亜塩素酸イオン濃度が示される。なお、
図8の例では、
図7の例と同様に、陽極槽221および陰極槽222のそれぞれに0.2[L/min]の流量で原水が供給された。
【0046】
図8から理解されるように、陽電極251に印加される電流値と陰電極252に印加される電流値の組合せが変化することによって、吐出される溶液のpHおよび次亜塩素酸イオン濃度が変化する。
【0047】
たとえば、陽電極251に印加される電流値が1.9[A]である場合、陰電極252に印加される電流値が0.90[A],1.00[A],1.05[A],1.10[A]と変化すると、吐出される溶液のpHは3.64,3.91,5.45,5.90と変化した。すなわち、陽電極251に印加される電流値が一定である場合、陰電極252に印加される電流値を増加させれば、吐出される溶液のpHが高まる傾向が認識され得る。
【0048】
また、陰電極252に印加される電流値が1.00[A]である場合、陽電極251に印加される電流値が2.2[A],1.9[A]と変化すると、吐出される溶液のpHは3.48,3.91と変化した。すなわち、陰電極252に印加される電流値が一定である場合、陽電極251に印加される電流値を増加させれば、吐出される溶液のpHが低下する傾向が認識され得る。
【0049】
また、
図8の例において吐出される溶液がpH5.45~5.96であったときの条件を利用して、電解水製造装置1に弱酸性の溶液を吐出させるための陽電極251および陰電極252のそれぞれへ印加する電流値の範囲が設定され得る。
【0050】
[4.設定情報]
図9は、電解水製造装置において利用される設定情報のデータ構成の一例を示す図である。設定情報は、たとえば記憶装置103において格納され得る。
【0051】
設定情報は、電解水製造装置1から吐出されるべき溶液のpHの設定値(吐出pH)ごとの、陽電極251に印加される電流の設定値(陽電極への印加電流値)と陰電極252に印加される電流の設定値(陰電極への印加電流値)を含む。たとえば、設定情報は、吐出pHの一例である「pH(1)」に関連付けられた、陽電極251に印加される電流の設定値「PC(1)と、陰電極252に印加される電流の設定値「NC(1)」とを含む。一実現例では、
図9の設定情報は、
図7および
図8に示されたような試験結果に基づいて生成され得る。
【0052】
[5.処理の流れ]
図10は、電解水製造装置1において指定されたpHの溶液を吐出するための処理の一例の流れを示す図である。一実現例では、電解水製造装置1は、プロセッサ101に所与のプログラムを実行させることによって、
図10の処理を実現する。電解水製造装置1は、ASIC等の専用回路の動作として
図10の処理を実現してもよい。一実現例では、
図10の処理は、電解水製造装置1に溶液の吐出開始の指示が入力されたことに応じて開始される。
【0053】
図10を参照して、ステップS100にて、電解水製造装置1は、吐出pHの指定値を受け付ける。一実現例では、電解水製造装置1は、ユーザによって入力装置119に入力された吐出pHの指定値を取得する。他の実現例では、電解水製造装置1は、ネットワーク等を介して受信した吐出pHの指定値を取得する。
【0054】
ステップS102にて、電解水製造装置1は、設定情報(
図9)から、ステップS100において取得した指定値に対応した設定(陽電極251および陰電極252のそれぞれへの印加電流値)を取得する。
【0055】
ステップS104にて、電解水製造装置1は、電源装置230およびスイッチ231,232を、陽電極251および/または陰電極252にステップS102において取得された設定に従った電流値が印加されるように制御する。
【0056】
ステップS106にて、電解水製造装置1は、塩水ポンプ241の駆動を開始する。
【0057】
ステップS108にて、電解水製造装置1は、第1電磁弁210を開く。これにより、陽極槽221および陰極槽222へ原水が供給される。電解水製造装置1は、流量センサ213からの出力に基づいて第1電磁弁210の開度を調整し、これにより、陽極槽221および陰極槽222への原水の流量が調整され得る。その後、電解水製造装置1は
図10の処理を終了する。
【0058】
以上、
図10を参照して説明された処理では、陽極槽221から出力される溶液と陰極槽222から出力される溶液とが混合されて、蛇口218から出力される。電解水製造装置1は、吐出pHの指定値が変更されるまで、陽電極251および/または陰極槽222への電流の印加を継続する。
【0059】
上記処理では、電解水製造装置1は、陽電極251および陰電極252のそれぞれに印加する電流値を調整することにより、酸性の電解水およびアルカリ性の電解水を供給し得る。また、陽極槽221および陰極槽222の電解水を混合して出力することにより、強酸性、弱酸性、弱アルカリ性、および強アルカリ性の電解水を供給し得る。
【0060】
電解水製造装置1は、蛇口218とpHセンサ216との間に電磁弁などの弁をさらに備え、pHセンサ216によって計測されるpHが吐出pHの指定値に対して一定の範囲を超えて相違する場合、当該弁を閉じるように構成されていてもよい。この場合、電解水製造装置1は、吐出pHの測定値の指定値に対する装置が上記一定の範囲を超えたことを、スピーカ118から出力される音声および/または表示装置117における表示によって報知してもよい。
【0061】
図10を参照して説明された処理では、1種類の吐出pHが取得され、電解水製造装置1は、当該吐出pHに対応するpHの電解水を供給するように制御される。なお、電解水製造装置1は、複数種類の吐出pHを連続的に供給するように構成されてもよい。すなわち、電解水製造装置1は、1つ目の吐出pH(たとえば、弱アルカリ性)が取得されると、当該1つ目の吐出pHに対応する弱アルカリ性の電解水を供給するように制御される。その後、電解水製造装置1は、2つ目の吐出pH(たとえば、弱酸性)が取得されると、当該2つ目の吐出pHに対応する弱酸性の電解類を供給するように制御される。これにより、電解水製造装置1は、まず汚れ落とし用の電解水を供給した後、消毒用の電解水を供給し得る。
【0062】
今回開示された各実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態および各変形例において説明された発明は、可能な限り、単独でも、組合わせても、実施することが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 電解水製造装置、100 コントローラ、101 プロセッサ、102 入出力インターフェース、103 記憶装置、200 電解水製造ユニット、210 第1電磁弁、211 逆止弁、212,214,215 定流量弁、213 流量センサ、216 センサ、218 蛇口、220 電解槽、221 陽極槽、222 陰極槽、223 中間槽、230 電源装置、231,232 スイッチ、240 塩水タンク、241 塩水ポンプ、251 陽電極、252 陰電極、253 バイポーラ電極、261,262 隔膜、270,271,272,280,281,282 配管、290 循環用配管。