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特許7533078液体吐出ヘッド、液体吐出装置、アクチュエーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出装置、アクチュエーター
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240806BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240806BHJP
   H10N 30/88 20230101ALI20240806BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 613
H10N30/20
H10N30/88
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020163350
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055756
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古池 晴信
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 稔弘
(72)【発明者】
【氏名】山崎 泰志
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-176433(JP,A)
【文献】特開2008-277783(JP,A)
【文献】米国特許第06478412(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第104772988(CN,A)
【文献】特開2010-194832(JP,A)
【文献】特開2010-000728(JP,A)
【文献】特開2001-088294(JP,A)
【文献】特開2019-014229(JP,A)
【文献】特開2014-083761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/14
H10N 30/20
H10N 30/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッドであって、
圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiOを含む第一層、および前記第一層に積層される、ZrOを含む第二層を含む振動板と、を備え、
前記第二層は、前記第一層と接する領域である界面領域と、前記界面領域を挟んで前記第一層とは反対側の領域である表層領域とを有し、
前記第二層について、X線回折法により測定される(-211)結晶面の配向の程度を第一強度とし、
前記第二層について、前記X線回折法により測定される(-111)結晶面の前記配向の程度を第二強度とし、
前記第二層について、前記X線回折法により測定される(002)結晶面の前記配向の程度を第三強度としたとき、
前記界面領域は、前記第一強度が前記第二強度よりも大きく、且つ、前記第一強度が前記第三強度よりも大きい領域を有し、
前記表層領域は、前記第一強度が前記第三強度よりも大きく、且つ、前記第二強度が前記第三強度よりも大きい領域を有する、
液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記第一強度に対する前記第二強度の比率を第一比率としたとき、
前記界面領域における前記第一比率は、前記表層領域における前記第一比率よりも小さい、
液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記界面領域における前記第一比率は、0.4以上0.7以下である、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記表層領域は、前記第一比率が0.3以上0.7以下である領域を有する、請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記第一強度に対する前記第三強度の比率を第二比率としたとき、
前記界面領域における前記第二比率は、前記表層領域における前記第二比率よりも小さい、
液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記界面領域における前記第二比率は、0.3以上0.7以下である、請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記表層領域は、前記第二比率が0.4以上0.7以下である領域を有する、請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記界面領域において、前記第三強度は、前記第二強度以下である、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第二層を構成する前記ZrOは、柱状の結晶構造を有する、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第二層を構成する前記ZrOは、単斜晶系の結晶構造を有する、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記第二層の前記界面領域は、圧縮応力を有し、
前記第二層の前記表層領域は、引張応力を有する、
液体吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドからの吐出動作を制御する制御部と、を有する、
液体吐出装置。
【請求項13】
アクチュエーターであって、
圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiOを含む第一層、および前記第一層に積層される、ZrOを含む第二層を含む振動板と、を備え、
前記第二層は、前記第一層と接する領域である界面領域と、前記界面領域を挟んで前記第一層とは反対側の領域である表層領域とを有し、
前記第二層について、X線回折法により測定される(-211)結晶面の配向の程度を第一強度とし、
前記第二層について、前記X線回折法により測定される(-111)結晶面の前記配向の程度を第二強度とし、
前記第二層について、前記X線回折法により測定される(002)結晶面の前記配向の程度を第三強度としたとき、
前記界面領域は、前記第一強度が前記第二強度よりも大きく、且つ、前記第一強度が前記第三強度よりも大きい領域を有し、
前記表層領域は、前記第一強度が前記第三強度よりも大きく、且つ、前記第二強度が前記第三強度よりも大きい領域を有する、
アクチュエーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、アクチュエーターに関する。
【背景技術】
【0002】
ZrOからなる絶縁膜と、SiOからなる弾性膜とを有する振動板と、振動板を変位させる圧電素子とを備える液体噴射ヘッドが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-78407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁膜は、引張応力等の残留応力を有することがある。そのため、圧電素子の駆動により振動板に外力が加わると振動板が割れることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の形態によれば、液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドは、前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiOを含む第一層、および前記第一層に積層される、ZrOを含む第二層を含む振動板と、を備える。前記第二層は、前記第一層と接する領域である界面領域と、前記界面領域を挟んで前記第一層とは反対側の領域である表層領域とを有し、前記第二層について、X線回折法により測定される(-211)結晶面の配向の程度を第一強度とし、前記第二層について、前記X線回折法により測定される(-111)結晶面の前記配向の程度を第二強度とし、前記第二層について、前記X線回折法により測定される(002)結晶面の前記配向の程度を第三強度としたとき、前記界面領域は、前記第一強度が前記第二強度よりも大きく、且つ、前記第一強度が前記第三強度よりも大きい領域を有してよい。前記表層領域は、前記第一強度が前記第三強度よりも大きく、且つ、前記第二強度が前記第三強度よりも大きい領域を有してよい。
【0006】
本開示の第2の形態によれば、液体吐出装置が提供される。この液体吐出装置は、上記第1の形態における液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドからの吐出動作を制御する制御部と、を有する。
【0007】
本開示の第3の形態によれば、アクチュエーターが提供される。このアクチュエーターは、前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiOを含む第一層、および前記第一層に積層される、ZrOを含む第二層を含む振動板と、を備える。前記第二層は、前記第一層と接する領域である界面領域と、前記界面領域を挟んで前記第一層とは反対側の領域である表層領域とを有し、前記第二層について、X線回折法により測定される(-211)結晶面の配向の程度を第一強度とし、前記第二層について、前記X線回折法により測定される(-111)結晶面の前記配向の程度を第二強度とし、前記第二層について、前記X線回折法により測定される(002)結晶面の前記配向の程度を第三強度としたとき、前記界面領域は、前記第一強度が前記第二強度よりも大きく、且つ、前記第一強度が前記第三強度よりも大きい領域を有してよい。前記表層領域は、前記第一強度が前記第三強度よりも大きく、且つ、前記第二強度が前記第三強度よりも大きい領域を有してよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】液体吐出ヘッドを搭載する液体吐出装置を示す説明図。
図2】液体吐出ヘッドの平面図。
図3図2のIII-III位置の断面図。
図4】振動板を拡大して示す説明図。
図5】比較例の絶縁体膜の表面でのX線回折パターンを示すグラフ。
図6】比較例の絶縁体膜の内部領域でのX線回折パターンを示すグラフ。
図7】比較例の絶縁体膜の界面でのX線回折パターンを示すグラフ。
図8】第一サンプルの絶縁体膜の表面でのX線回折パターンを示すグラフ。
図9】第一サンプルの絶縁体膜の内部領域でのX線回折パターンを示すグラフ。
図10】第一サンプルの絶縁体膜の界面でのX線回折パターンを示すグラフ。
図11】第二サンプルの絶縁体膜の表面でのX線回折パターンを示すグラフ。
図12】第二サンプルの絶縁体膜の内部領域でのX線回折パターンを示すグラフ。
図13】第二サンプルの絶縁体膜の界面でのX線回折パターンを示すグラフ。
図14】第三サンプルの絶縁体膜の表面でのX線回折パターンを示すグラフ。
図15】第三サンプルの絶縁体膜の内部領域でのX線回折パターンを示すグラフ。
図16】第三サンプルの絶縁体膜の界面でのX線回折パターンを示すグラフ。
図17】絶縁体膜の膜厚に対する残留応力の分布を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、本実施形態の液体吐出ヘッド1を搭載する液体吐出装置100を示す説明図である。液体吐出装置100は、液体であるインクを吐出するインクジェット方式の印刷装置である。液体吐出装置100は、インクを貯留する液体容器2を備えており、液体容器2内のインクを用いて媒体PM上に画像を形成する。図1には、互いに直交するX方向、Y方向、ならびにZ方向が模式的に示されている。図1に示す各方向は、図1以降の各図において共通する。
【0010】
液体吐出装置100は、液体吐出ヘッド1と、移動機構24と、搬送機構8と、制御ユニット121と、を備えている。液体吐出ヘッド1は、液体容器2から供給されるインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドである。移動機構24は、環状のベルト24bと、液体吐出ヘッド1を保持するキャリッジ24cとを備えている。キャリッジ24cは、ベルト24bに固定されている。移動機構24は、ベルト24bを正転と逆転との双方向に回転させることにより、キャリッジ24cとともに液体吐出ヘッド1を一方向に沿って往復させる。搬送機構8は、液体吐出ヘッド1の移動方向とは交差する向きに沿って媒体PMを搬送する。
【0011】
制御ユニット121は、搬送機構8と、移動機構24と、液体吐出ヘッド1とを協働させることにより、媒体PM上に画像を形成させる制御部として機能する。より具体的には、制御ユニット121は、搬送機構8の駆動制御によって媒体PMを搬送する間に、液体吐出ヘッド1によるインクの吐出制御と、移動機構24の駆動制御による液体吐出ヘッド1の往復移動とを繰り返すことによって、媒体PM上に画像を形成する。
【0012】
図2は、液体吐出ヘッド1の平面図である。図2には、液体吐出ヘッド1において、媒体PMと対向する面には、ノズルプレート20が備えられている。ノズルプレート20には、複数のノズル21が一方向に沿って配列されている。
【0013】
図3は、図2のIII-III位置の断面図である。液体吐出ヘッド1は、流路形成基板10と、連通板15と、ノズルプレート20と、コンプライアンス基板49と、振動板50と、アクチュエーター300と、保護基板30と、ケース部材40とを備えている。図3の例において、ノズル21によるインクの吐出方向と、Z方向とは一致している。技術の理解を容易にするために、以下の説明において、一の基準位置に対するインクの吐出方向側を「下」とも呼び、一の基準位置に対するインクの吐出方向とは逆方向側を「上」とも呼ぶ。
【0014】
流路形成基板10は、平板状の部材である。流路形成基板10は、圧力室12を備えている。連通板15は、流路形成基板10の下面側に配置されている。連通板15は、インク流路を有する第一連通板151および第二連通板152が積層されることによって形成されている。連通板15のインク流路には、第一連通部16、第二連通部17、第三連通部18、第一流路201、第二流路202、ならびに供給路203が含まれる。第一流路201、第二流路202、供給路203、ならびに圧力室12は、互いに連通することによってインクの流路を形成している。第一流路201、第二流路202、供給路203、ならびに圧力室12は、ノズル21の数と同一の数だけ備えられており、ノズル21の配列方向に沿って配列されている。第一流路201、第二流路202、供給路203、ならびに圧力室12を、まとめて「個別流路200」とも呼ぶ。第一連通部16、第二連通部17、ならびに第三連通部18は、それぞれ一つずつ備えられ、複数の個別流路200に対して共通するインク流路として機能する。
【0015】
ノズルプレート20は、連通板15の下面側に配置されている。ノズルプレート20は、連通板15の下面側の開口の一部を塞いでおり、インク流路としての第一流路201、第二流路202、ならびに第三連通部18の内壁として機能する。ノズルプレート20における第一流路201を塞ぐ位置には、ノズル21が形成されている。
【0016】
コンプライアンス基板49は、連通板15の下面側において、ノズルプレート20を囲むように配置されている。コンプライアンス基板49は、連通板15の下面側の開口の一部を塞いでおり、インク流路としての第一連通部16の内壁の一部として機能する。コンプライアンス基板49は、封止膜491と、固定基板492とを備えている。固定基板492は、封止膜491の下面側に配置されている。固定基板492は、第一連通部16を封止する領域にコンプライアンス部494を備えている。コンプライアンス部494は、封止膜491が露出される固定基板492に設けられる開口である。コンプライアンス部494は、連通板15の第一連通部16を封止する領域に配置されている。これにより、封止膜491は、固定基板492の開口内に向かって弾性変形することができ、第一連通部16内の圧力変動を緩和する。
【0017】
保護基板30は、アクチュエーター300を収容する基板である。保護基板30の内部には、凹状のアクチュエーター保持部31を有する。アクチュエーター保持部31は、複数のアクチュエーター300を変形可能に収容するための空間を規定している。
【0018】
ケース部材40は、流路形成基板10、連通板15、ならびに保護基板30の上面を覆う部材である。ケース部材40には、接続孔45と、インク流路とが形成されている。接続孔45は、ケース部材40を上下に貫通する貫通孔である。接続孔45内には、駆動回路126を備えるフレキシブルケーブル120が配置されている。駆動回路126は、圧電素子32を駆動する駆動信号を供給するための半導体素子である。フレキシブルケーブル120は、接続孔45内で、リード電極90と電気的に接続されている。
【0019】
ケース部材40のインク流路には、第一液室部41、第二液室部42、導入口43、排出口44が含まれる。導入口43および排出口44は、図示しないインク貯留室と接続されている。第一液室部41は、連通板15の第一連通部16と連通し、第二液室部42は、連通板15の第二連通部17と連通する。
【0020】
図3には、インクの流動方向が矢印を用いて模式的に示されている。インク貯留部から供給されたインクは、導入口43からケース部材40内の第一液室部41に導入される。第一液室部41に供給されたインクは、連通板15の第一連通部16に流動し、複数の個別流路200のそれぞれに分流する。分流したインクは、供給路203、圧力室12、第二流路202、ならびに第一流路201をこの順に流動して、第三連通部18に至り合流する。第三連通部18に供給されたインクは、第二連通部17を経て、第二液室部42に流動し、排出口44からインク貯留部に排出される。インク貯留部に排出されたインクは、循環されて再び導入口43から導入される。
【0021】
アクチュエーター300は、流路形成基板10の上面に配置されている。アクチュエーター300は、入力された電気信号を物理的運動に変換して圧力室12内のインクに伝達する。アクチュエーター300は、圧電素子32と、振動板50とを備えている。圧電素子32は、第一電極60、圧電体層70、ならびに第二電極80を備えている。
【0022】
圧電体層70は、第一電極60と、第二電極80との間に配置されている。圧電体層70は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる層であり、電圧が印加されることによって変形する。圧電体層70は、PZTには限定されず、その他の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。
【0023】
第一電極60は、圧電体層70の下に設けられた圧電素子32の共通電極であり、第二電極80は、圧電体層70の上に設けられた圧電素子32の個別電極である。第二電極80には、リード電極90が接続されている。駆動回路126から出力される駆動信号は、フレキシブルケーブル120およびリード電極90を介して第二電極80に供給される。第一電極60と、第二電極80とによって圧電体層70に電圧が印加され、圧電体層70は変形する。なお、圧電体層70の下に設けられた第一電極60が個別電極とされ、圧電体層70の上に設けられた第二電極80が共通電極とされてもよい。
【0024】
振動板50は、流路形成基板10の上面において、アクチュエーター300に接する状態で配置されている。振動板50は、圧電素子32の駆動、すなわち圧電体層70の変形によって振動し、圧力室12内のインクに圧力を付与する。圧力室12内のインクの圧力変動が第二流路202および第一流路201内のインクに伝達されることによって、ノズル21からインクが吐出される。
【0025】
振動板50は、絶縁体膜51と、弾性膜52とを備えている。弾性膜52は、二酸化シリコン(SiO)を含む層である。本実施形態では、弾性膜52の主成分は、二酸化シリコン(SiO)であり、不純物元素を含んでいてもよい。弾性膜52を、「第一層52」とも呼ぶ。弾性膜52の厚さとしては、0.1μm以上0.5μm以下で設定されることが好ましい。
【0026】
弾性膜52は、流路形成基板10上に配置され、流路形成基板10の上面側の開口を塞いでいる。弾性膜52上には、酸化ジルコニウム(ZrO)を含む絶縁体膜51が積層されている。絶縁体膜51を、「第二層51」とも呼ぶ。本実施形態では、絶縁体膜51の主成分は、酸化ジルコニウム(ZrO)であり、後述する不純物元素を含んでいてもよい。絶縁体膜51の厚みとしては、0.1μm以上1.2μm以下で設定されることが好ましい。本実施形態では、絶縁体膜51を構成するZrOは、(-111)結晶面が絶縁体膜51の表面側に向いている状態であり、柱状の結晶構造を有している。結晶が柱状であるとは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して膜を形成している状態を意味する。また、絶縁体膜51を構成するZrOは、単斜晶系の結晶構造を有している。
【0027】
本実施形態において、絶縁体膜51には、後述するように、絶縁体膜51の結晶構造を変化させるために、例えば、合計量で10質量%未満の不純物元素が含有されている。不純物元素としては、例えば、クロム(Cr)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)等が該当する。不純物元素の形態としては、ZrO結晶中に原子として存在してもよく、酸化物などZrO結晶とは別の化合物として絶縁体膜51中に存在してもよい。本実施形態において、Crは、組成式CrOとする酸化クロム(II)として存在し、Feは、組成式FeOとする酸化鉄(II)として存在する。Tiは、組成式TiOとする一酸化チタンとして存在する。Crは、組成式Crとする酸化クロム(III)や組成式CrOとする酸化クロム(IV)、組成式CrOとする酸化クロム(VI)として存在していてもよく、Tiは、組成式TiOとする二酸化チタンや、組成式Tiとする酸化チタン(III)として存在していてもよい。Hfは、組成式HfOとする酸化ハフニウムとして存在していてもよい。
【0028】
振動板50の形成方法としては、流路形成基板10を形成するためのシリコンウェハを約1100度の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜52としての二酸化シリコン膜を形成する。形成された弾性膜52上に、例えば、スパッタリング法等によりジルコニウム(Zr)層を形成し、500度以上1200度以下の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウムを含む絶縁体膜51を形成する。絶縁体膜51に不純物元素を含有させる方法としては、例えば、スパッタリング法により絶縁体膜51を形成する際に、不純物元素を予め含有させたターゲットを用いてスパッタリングすることにより絶縁体膜51を成膜する方法が挙げられる。絶縁体膜51に含有される不純物元素の濃度は、スパッタリングターゲット内の不純物元素の濃度の増減によって調節することができる。具体的には、不純物元素の濃度は、スパッタリングターゲット内の不純物元素の濃度を高くするほど高くできる。絶縁体膜51の結晶構造を変化させる方法としては、絶縁体膜51に不純物元素をドーピングする方法のほか、例えば、絶縁体膜51であるZrO膜の膜厚や熱酸化の温度条件などを含む絶縁体膜51の成膜工程の条件変更などによって行われてもよい。
【0029】
図4は、図3の範囲ARを拡大して示す説明図である。図4には、技術の理解を容易にするために、振動板50以外の部材の図示は省略されている。絶縁体膜51は、弾性膜52と接する領域である界面領域FAと、界面領域FAを挟んで弾性膜52と反対側の領域である表層領域SAと、を有する。界面領域FAは、絶縁体膜51のうち弾性膜52と接する界面IFによって規定される領域である。界面領域FAには、界面IFのみに限らず、絶縁体膜51のうち弾性膜52と接する面から表面SR1側に連続する一部の領域が含まれている。一般に、複数の層が積層された積層体の界面は、クラックの起点となり積層体の強度を低下させる要因となり得る。
【0030】
表面領域RAは、絶縁体膜51のうち界面IFとは反対側の表面SR1によって規定される領域である。表面領域RAには、表面SR1のみに限らず、表面SR1から界面IF側に連続する一部の領域が含まれている。表層領域SAは、表面領域RAと、表面領域RAと界面領域FAとの間に位置する内部領域IA1とを含む。すなわち、表層領域SAは、絶縁体膜51のうち界面領域FA以外の領域である。絶縁体膜51の表面SR1は、図3に示すように、圧電素子32と接する面である。なお、図4には、弾性膜52の表面SR2、ならびに弾性膜52の内部領域IA2が模式的に示されている。
【0031】
本実施形態において、絶縁体膜51の界面領域FAは、X線回折パターンにおける(-211)結晶面の配向の程度である第一強度が、(-111)結晶面のX線回折パターンにおける配向の程度である第二強度よりも大きく、且つ、第一強度が、(002)結晶面のX線回折パターンにおける配向の程度である第三強度よりも大きい領域を有している。配向の程度は、X線回折パターンにおけるピーク強度で評価してもよく、半値幅に含まれるピークの積分強度で評価してもよい。以下の説明では、ピーク強度にて評価する例を用いる。また、絶縁体膜51の表層領域SAは、第一強度が第三強度よりも大きく、且つ、第二強度が第三強度よりも大きい領域を有している。これにより、クラックの起点となりやすい絶縁体膜51の界面領域FAが残留応力としての圧縮応力を有する。したがって、絶縁体膜51の界面領域FAの強度を向上し、振動板50の強度を向上することができる。
【0032】
図5から図17を用いて、本実施形態の液体吐出ヘッド1が有する振動板50の実験例と、比較例とについて説明する。図5から図16には、振動板50が有する絶縁体膜51のX線回折による解析結果が示されている。図5から図16の各図の横軸は、X線の取り込み角度を示し、縦軸は、回折X線強度(cps)を示している。X線回折による解析は、多軸X線回折計を用いた薄膜X線回折により行った。具体的には、X線源をCuとし、特性X線として波長1.5418ÅとするCuKα線を用いたアウトオブプレーン測定を行った。回折X線の検出角度は、2θ=20度から50度、γ=-95度から-85度であり、2θ軸=35度、ω軸=10度、χ(chi)軸=90度、ならびにφ(phi)軸=0度とする0次元検出器による多軸回折である。
【0033】
X線回折法による解析には、比較例としてのサンプルを含む4種類の振動板50のサンプルを用いた。より具体的には、不純物元素を含有していない絶縁体膜51を弾性膜52上に形成した比較例としてのサンプルSR、および不純物元素を含有する3種類の絶縁体膜51を弾性膜52上に形成した第一サンプルS1,第二サンプルS2,第三サンプルS3である。第一サンプルS1,第二サンプルS2,第三サンプルS3において、絶縁体膜51の厚みは異なる。具体的には、サンプルS1,S2,S3の絶縁体膜51の厚みは、それぞれ400nm,650nm,900nmである。振動板50の各サンプルの形成方法としては、上述と同様である。すなわち、基板としてのシリコンウェハの表面に弾性膜52としての二酸化シリコン膜を形成する。サンプルSRでは、形成された弾性膜52上に、不純物元素を含有しないターゲットを用いたスパッタリングによりZr層を形成する。サンプルS1,S2,S3では、弾性膜52上に、不純物元素を予め含有させたターゲットを用いて、それぞれの狙い厚みに対応する分だけスパッタリングすることによりZr層を形成する。サンプルS1,S2,S3の作製に用いられるスパッタリングターゲットは同一のものであり、不純物元素の濃度は同一である。なお、各サンプル間での厚みの関係は、第一サンプルS1<第二サンプルS2<第三サンプルS3であり、各サンプル間の不純物元素の濃度の関係は、第一サンプルS1=第二サンプルS2=第三サンプルS3である。したがって、各サンプル間の不純物元素の含有量の関係は、第一サンプルS1<第二サンプルS2<第三サンプルS3である。形成されたZr層を熱酸化することにより酸化ジルコニウムを含む絶縁体膜51が形成される。なお、各サンプルは、シリコン基板上に形成された状態で測定される。
【0034】
図5から図7では、比較例としての振動板50のサンプルSRの測定結果が示されている。図5は、サンプルSRの絶縁体膜51の表面領域RAでのX線回折パターンを示すグラフである。図6は、サンプルSRの絶縁体膜51の内部領域IA1でのX線回折パターンを示すグラフである。図7は、サンプルSRの絶縁体膜51の界面領域FAでのX線回折パターンを示すグラフである。
【0035】
図5から図7に示すように、サンプルSRの絶縁体膜51の表面領域RAから、(-211)結晶面の回折X線強度におけるピークと、(-111)結晶面の回折X線強度におけるピークと、(002)結晶面の回折X線強度におけるピークが検出された。絶縁体膜51であるZrOの単斜晶系(-111)結晶面は、2θ=27.5~28.5度で回折X線強度のピークとして検出される。各結晶面は、振動板50の膜厚方向、すなわち積層方向に沿って検出された結晶面である。単斜晶系(002)結晶面は、2θ=33.5~34.5度でピークとして検出され、単斜晶系(-211)結晶面は、2θ=40.5~41.5度でピークとして検出される。なお、42.5度近傍および47度近傍で検出されるピークは、シリコン基板のSiに由来するピークである。(-211)結晶面のX線回折パターンにおけるピーク強度を、第一強度とも呼び、(-111)結晶面のX線回折パターンにおけるピーク強度を、第二強度とも呼び、(-002)結晶面のX線回折パターンにおけるピーク強度を、第三強度とも呼ぶ。第一強度としてのピーク強度に対する第二強度としてのピーク強度の比率を、第一比率とも呼び、第一強度としてのピーク強度に対する第三強度としてのピーク強度の比率を第二比率とも呼ぶ。
【0036】
図5に示すように、サンプルSRの表面領域RAにおける第一強度は25であり、第二強度は40であり、第三強度は34であり、第一比率は1.60であり、第二比率は1.36である。サンプルSRの表面領域RAにおいて、第一強度は第二強度よりも小さく、且つ、第一強度は第三強度よりも小さい。図6に示すように、サンプルSRの内部領域IA1において、第一強度は25であり、第二強度は30であり、第三強度は35であり、第一比率は1.20であり、第二比率は1.40である。サンプルSRの内部領域IA1において、第一強度は第二強度よりも小さく、且つ、第一強度は第三強度よりも小さい。すなわち、図5および図6に示すように、サンプルSRの表層領域SAでは、第一強度が第三強度よりも小さく、且つ、第二強度が第三強度よりも小さい。図7に示すように、サンプルSRの界面領域FAにおける第一強度は19であり、第二強度は24であり、第三強度は22であり、第一比率は1.26であり、第二比率は1.16である。サンプルSRの界面領域FAにおいて、第一強度は第二強度よりも小さく、且つ、第一強度は第三強度よりも小さい。
【0037】
図8から図10では、厚さ400nmの絶縁体膜51を有する振動板50である第一サンプルS1の測定結果が示されている。図8は、第一サンプルS1の絶縁体膜51の表面領域RAでのX線回折パターンを示すグラフである。図9は、第一サンプルS1の絶縁体膜51の内部領域IA1でのX線回折パターンを示すグラフである。図10は、第一サンプルS1の絶縁体膜51の界面領域FAでのX線回折パターンを示すグラフである。
【0038】
図8に示すように、第一サンプルS1の表面領域RAにおいて、第一強度は40であり、第二強度は58であり、第三強度は22であり、第一比率は1.45であり、第二比率は0.55である。第一サンプルS1の表面領域RAにおいて、第一強度は第二強度よりも小さく、且つ、第一強度は第三強度よりも大きい。図9に示すように、第一サンプルS1の内部領域IA1において、第一強度は36であり、第二強度は22であり、第三強度は22であり、第一比率は0.61であり、第二比率は0.61である。第一サンプルS1の内部領域IA1において、第一強度は第二強度よりも大きく、且つ、第一強度は第三強度よりも大きい。すなわち、第一サンプルS1の表層領域SAには、第一強度が第三強度よりも大きく、且つ、第二強度が第三強度よりも大きい領域が含まれている。図10に示すように、第一サンプルS1の界面領域FAにおける第一強度は26であり、第二強度は18であり、第三強度は18であり、第一比率は0.69であり、第二比率は0.69である。第一サンプルS1の界面領域FAにおいて、第一強度は第二強度よりも大きく、且つ、第一強度は第三強度よりも大きい。図8および図10に示すように、第一サンプルS1では、界面領域FAにおける第一比率は、0.69であり、表層領域SAのうち表面領域RAにおける第一比率(1.45)よりも小さい。また、第一サンプルS1では、界面領域FAにおける第二比率は0.69であり、表層領域SAのうち表面領域RAにおける第二比率(0.55)よりも大きい。
【0039】
図11から図13では、厚さ650nmの絶縁体膜51を有する振動板50の第二サンプルS2の測定結果が示されている。図11は、第二サンプルS2の絶縁体膜51の表面領域RAでのX線回折パターンを示すグラフである。図12は、第二サンプルS2の絶縁体膜51の内部領域IA1でのX線回折パターンを示すグラフである。図13は、第二サンプルS2の絶縁体膜51の界面領域FAでのX線回折パターンを示すグラフである。
【0040】
図11に示すように、第二サンプルS2の表面領域RAにおける第一強度は55であり、第二強度は55であり、第三強度は30であり、第一比率は1.00であり、第二比率は0.55である。第二サンプルS2の表面領域RAにおいて、第一強度は第二強度と略同一、且つ、第一強度は第三強度よりも大きい。図12に示すように、第二サンプルS2の内部領域IA1における第一強度は55であり、第二強度は30であり、第三強度は29であり、第一比率は0.55であり、第二比率は0.53である。第二サンプルS2の内部領域IA1において、第一強度は第二強度よりも大きく、且つ、第一強度は第三強度よりも大きい。すなわち、図11および図12に示すように、第二サンプルS2の表層領域SAでは、第一強度が第三強度よりも大きく、且つ、第二強度が第三強度よりも大きい領域を有している。図13に示すように、第二サンプルS2の界面領域FAにおける第一強度は32であり、第二強度は20であり、第三強度は17であり、第一比率は0.63であり、第二比率は0.53である。第二サンプルS2の界面領域FAにおいて、第一強度は第二強度よりも大きく、且つ、第一強度は第三強度よりも大きい。図11および図13に示すように、第二サンプルS2では、界面領域FAにおける第一比率は0.63であり、表層領域SAのうち表面領域RAにおける第一比率(1.00)よりも小さい。また、第二サンプルS2では、界面領域FAにおける第二比率は0.53であり、表層領域SAのうち表面領域RAにおける第二比率(0.55)よりも小さい。
【0041】
図14から図16では、厚さ900nmの絶縁体膜51を有する振動板50の第三サンプルS3の測定結果が示されている。図14は、第三サンプルS3の絶縁体膜51の表面領域RAでのX線回折パターンを示すグラフである。図15は、第三サンプルS3の絶縁体膜51の内部領域IA1でのX線回折パターンを示すグラフである。図16は、第三サンプルS3の絶縁体膜51の界面領域FAでのX線回折パターンを示すグラフである。
【0042】
図14に示すように、第三サンプルS3の表面領域RAにおける第一強度は70であり、第二強度は50であり、第三強度は30であり、第一比率は0.71であり、第二比率は0.43である。第三サンプルS3の表面領域RAにおいて、第一強度は第二強度よりも大きく、且つ、第一強度は第三強度よりも大きい。図15に示すように、第三サンプルS3の内部領域IA1における第一強度は60であり、第二強度は20であり、第三強度は24であり、第一比率は0.33であり、第二比率は0.40である。第三サンプルS3の内部領域IA1において、第一強度は第二強度よりも大きく、且つ、第一強度は第三強度よりも大きい。すなわち、図14および図15に示すように、第三サンプルS3の表層領域SAでは、第一強度が第三強度よりも大きく、且つ、第二強度が第三強度よりも大きい領域を有している。図16に示すように、第三サンプルS3の界面領域FAにおける第一強度は38であり、第二強度は17であり、第三強度は15であり、第一比率は0.45であり、第二比率は0.39である。第三サンプルS3の界面領域FAにおいて、第一強度は第二強度よりも大きく、且つ、第一強度は第三強度よりも大きい。図14および図16に示すように、第三サンプルS3では、界面領域FAにおける第一比率は0.45であり、表層領域SAのうち表面領域RAにおける第一比率(0.71)よりも小さい。また、第三サンプルS3では、界面領域FAにおける第二比率は0.39であり、表層領域SAのうち表面領域RAにおける第二比率(0.43)よりも小さい。
【0043】
図17は、絶縁体膜51の膜厚に対する残留応力の分布を示す説明図である。図17には、比較例としての振動板50のサンプルSRおよび絶縁体膜51の厚みの異なる振動板50のサンプルS1~S3における残留応力の測定結果が示されている。図17の横軸は、絶縁体膜51の界面領域FAから表面領域RAまでの膜厚を示しており、図17の縦軸は、絶縁体膜51の残留応力を示している。残留応力の測定には、薄膜応力測定装置を用いた。残留応力は、サンプルの曲率を取得して応力に変換することによって得られる。絶縁体膜51の各サンプルの残留応力は、絶縁体膜51の表面領域RAとしての残膜厚TH4から、アルゴンイオンを用いたイオンミリングによって内部領域IA1としての残膜厚TH1~TH3、ならびに界面領域FAとしての残膜厚TH0まで削り、それぞれ測定した。
【0044】
図17に示すように、サンプルSRでは、絶縁体膜51の界面領域FAから表面領域RAまでが有するすべての残留応力が引張応力である。これに対して、図17に残膜厚TH0でのサンプルS1~S3として示すように、サンプルS1~S3における絶縁体膜51の界面領域FAは、圧縮応力を有している。界面領域FAでの圧縮応力は、絶縁体膜51の厚みが大きくなるに従って大きくなり、絶縁体膜51の厚みが最も大きい第三サンプルS3で最も大きくなる。サンプルS1~S3において、界面領域FA以外である表層領域SA、すなわち絶縁体膜51の表面領域RAである残膜厚TH4、ならびに内部領域IA1である残膜厚TH1~TH3の残留応力は、引張応力を有している。サンプルS1~S3において、表面領域RAでの引張応力は、内部領域IA1での引張応力よりも大きい。
【0045】
以上、説明したように、本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51の界面領域FAは、X線回折パターンにおける(-211)結晶面のピーク強度である第一強度が、(-111)結晶面のX線回折パターンにおけるピーク強度である第二強度よりも大きく、且つ、第一強度が、(002)結晶面のX線回折パターンにおけるピーク強度である第三強度よりも大きい領域を有している。絶縁体膜51の表層領域SAは、第一強度が第三強度よりも大きく、且つ、第二強度が第三強度よりも大きい領域を有している。これにより、クラックの起点となりやすい絶縁体膜51の界面領域FAが残留応力としての圧縮応力を有する。したがって、絶縁体膜51の界面領域FAの強度を向上し、振動板50の強度を向上することができる。
【0046】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、第二サンプルS2および第三サンプルS3が示すように、厚さ650nmから厚さ900nmの絶縁体膜51では、絶縁体膜51の界面領域FAにおける第一比率は、絶縁体膜51の表層領域SAにおける第一比率よりも小さい。したがって、絶縁体膜51の界面領域FAにおける第一比率が絶縁体膜51の表層領域SAにおける第一比率よりも小さい振動板50を備える液体吐出ヘッド1を得ることができる。
【0047】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51の界面領域FAにおける第一比率は、0.4以上0.7以下である。したがって、絶縁体膜51の界面領域FAにおける第一比率が0.4以上0.7以下である振動板50を備える液体吐出ヘッド1を得ることができる。
【0048】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51の表層領域SAは、第一比率が0.3以上0.7以下である領域を有する。したがって、絶縁体膜51の表層領域SAにおける第一比率が0.3以上0.7以下である領域を有する振動板50を備える液体吐出ヘッド1を得ることができる。
【0049】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、第二サンプルS2および第三サンプルS3が示すように、厚さ650nmから厚さ900nmでは、絶縁体膜51の界面領域FAにおける第二比率は、絶縁体膜51の表層領域SAにおける第二比率よりも小さい。したがって、絶縁体膜51の界面領域FAにおける第二比率が絶縁体膜51の表層領域SAにおける第二比率よりも小さい振動板50を備える液体吐出ヘッド1を得ることができる。
【0050】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51の界面領域FAにおける第二比率は、0.3以上0.7以下である。したがって、絶縁体膜51の界面領域FAにおける第二比率が0.3以上0.7以下である振動板50を備える液体吐出ヘッド1を得ることができる。
【0051】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51の表層領域SAは、第二比率が0.4以上0.7以下である領域を有する。したがって、絶縁体膜51の表層領域SAにおける第二比率が0.4以上0.7以下である領域を有する振動板50を備える液体吐出ヘッド1を得ることができる。
【0052】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、界面領域FAにおいて、第三強度は、第二強度以下である。したがって、界面領域FAにおいて、第三強度が第二強度以下である振動板50を備える液体吐出ヘッド1を得ることができる。
【0053】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51を構成するZrOは、柱状の結晶構造を有する。したがって、絶縁体膜51と弾性膜52との密着性を向上することができ、振動板50の剥離等の発生を低減または防止することができる。
【0054】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51を構成するZrOは、単斜晶系の結晶構造を有する。したがって、絶縁体膜51と弾性膜52との密着性を向上することができ、振動板50の剥離等の発生を低減または防止することができる。
【0055】
本実施形態の液体吐出ヘッド1によれば、絶縁体膜51の界面領域FAは、圧縮応力を有している。したがって、クラックの起点となりやすい界面領域FAが残留応力としての圧縮応力を備えることによって、振動板50の強度を向上することができる。また、表層領域SAが残留応力としての引張応力を有することにより、絶縁体膜51全体の残留応力のバランスを適正にすることができ、より強度の高い振動板50を得ることができる。
【0056】
B.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0057】
(1)本開示の一形態によれば、液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドは、前記圧電素子の駆動により振動する振動板であって、SiOを含む第一層、および前記第一層に積層される、ZrOを含む第二層を含む振動板と、を備える。前記第二層は、前記第一層と接する領域である界面領域と、前記界面領域を挟んで前記第一層とは反対側の領域である表層領域とを有し、前記第二層について、X線回折法により測定される(-211)結晶面の配向の程度を第一強度とし、前記第二層について、前記X線回折法により測定される(-111)結晶面の前記配向の程度を第二強度とし、前記第二層について、前記X線回折法により測定される(002)結晶面の前記配向の程度を第三強度としたとき、前記界面領域は、前記第一強度が前記第二強度よりも大きく、且つ、前記第一強度が前記第三強度よりも大きい領域を有してよい。前記表層領域は、前記第一強度が前記第三強度よりも大きく、且つ、前記第二強度が前記第三強度よりも大きい領域を有してよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、クラックの起点となる絶縁体膜の界面領域の強度を向上し、振動板の強度を向上することができる。
【0058】
(2)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第一強度に対する前記第二強度の比率を第一比率としたとき、前記界面領域における前記第一比率は、前記表層領域における前記第一比率よりも小さくてよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、絶縁体膜の界面領域における第一比率が、絶縁体膜の表層領域における第一比率よりも小さい振動板を備える液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0059】
(3)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記界面領域における前記第一比率は、0.4以上0.7以下であってよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、絶縁体膜の界面領域における第一比率が0.4以上0.7以下である振動板を備える液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0060】
(4)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記表層領域は、前記第一比率が0.3以上0.7以下である領域を有してよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、絶縁体膜の表層領域における第一比率が0.3以上0.7以下である振動板を備える液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0061】
(5)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第一強度に対する前記第三強度の比率を第二比率としたとき、前記界面領域における前記第二比率は、前記表層領域における前記第二比率よりも小さくてよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、絶縁体膜の界面領域における第二比率が、絶縁体膜の表層領域における第二比率よりも小さい振動板を備える液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0062】
(6)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記界面領域における前記第二比率は、0.3以上0.7以下であってよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、絶縁体膜の界面領域における第二比率が0.3以上0.7以下である振動板を備える液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0063】
(7)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記表層領域は、前記第二比率が0.4以上0.7以下である領域を有してよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、絶縁体膜の表層領域における第二比率が0.4以上0.7以下である振動板を備える液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0064】
(8)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記界面領域において、前記第三強度は、前記第二強度以下であってよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、界面領域において、第三強度が第二強度以下である振動板を備える液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0065】
(9)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第二層を構成する前記ZrOは、柱状の結晶構造を有してよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、第二層と第一層との密着性を向上することができ、振動板の剥離等の発生を低減または防止することができる。
【0066】
(10)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第二層を構成する前記ZrOは、単斜晶系の結晶構造を有してよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、第二層と第一層との密着性を向上することができ、振動板の剥離等の発生を低減または防止することができる。
【0067】
(11)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第二層の前記界面領域は、圧縮応力を有し、前記第二層の前記表層領域は、引張応力を有してよい。この形態の液体吐出ヘッドによれば、残留応力としての圧縮応力を界面領域に備え、引張応力を表層領域に備えることができ、振動板全体の強度を向上することができる。
【0068】
(12)本開示の他の形態によれば、液体吐出装置が提供される。液体吐出装置は、上記形態の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドからの吐出動作を制御する制御部と、を有する。この形態の液体吐出ヘッドによれば、振動板の強度を向上した液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置を得ることができる。
【0069】
本開示は、液体吐出ヘッド以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、アクチュエーター、印刷装置、液体吐出装置の制御方法、液体吐出ヘッドの制御方法、アクチュエーターの制御方法、液体吐出方法、それらの方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0070】
1…液体吐出ヘッド、2…液体容器、8…搬送機構、10…流路形成基板、12…圧力室、15…連通板、16…第一連通部、17…第二連通部、18…第三連通部、20…ノズルプレート、21…ノズル、24…移動機構、24b…ベルト、24c…キャリッジ、30…保護基板、31…アクチュエーター保持部、32…圧電素子、40…ケース部材、41…第一液室部、42…第二液室部、43…導入口、44…排出口、45…接続孔、49…コンプライアンス基板、50…振動板、51…絶縁体膜、52…弾性膜、60…第一電極、70…圧電体層、80…第二電極、90…リード電極、100…液体吐出装置、120…フレキシブルケーブル、121…制御ユニット、126…駆動回路、151…第一連通板、152…第二連通板、200…個別流路、201…第一流路、202…第二流路、203…供給路、300…アクチュエーター、491…封止膜、492…固定基板、494…コンプライアンス部、AR…範囲、FA…界面領域、IA1…内部領域、IA2…内部領域、IF…界面、PM…媒体、RA…表面領域、SA…表層領域、SR1…表面、SR2…表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17