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特許7533082加圧治具、それを用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】加圧治具、それを用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/46 20060101AFI20240806BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20240806BHJP
   A63B 53/10 20150101ALI20240806BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20240806BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240806BHJP
   B29L 23/00 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
B29C70/46
B29C70/16
A63B53/10 A
A63B102:32
B29K105:08
B29L23:00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020163825
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022056047
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】大貫 正秀
(72)【発明者】
【氏名】金光 由実
(72)【発明者】
【氏名】阪峯 良太
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-277532(JP,A)
【文献】特開2000-158529(JP,A)
【文献】特開平08-207134(JP,A)
【文献】特開平04-247932(JP,A)
【文献】特開昭53-108177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29C 43/00-43/58
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリプレグシートをパイプ状に積層した積層物から繊維強化樹脂製パイプを製造するために用いられる加圧治具であって、
外径、内径、軸心及び軸心方向を規定するパイプ状の治具本体を含み、
前記治具本体は、前記軸心方向に延びる螺旋状の切り込みと、この切り込みによって区分された金属製の螺旋構造部とを含み、
前記螺旋構造部は、前記積層物の内周面又は外周面の側に配置され、
前記螺旋構造部は、前記軸心の周りの捻じりモーメント、又は、前記軸心方向の力を受けることで、前記外径及び前記内径が変化する、
加圧治具。
【請求項2】
前記螺旋構造部は、前記内径を画定する内周面を有し、
前記内周面が、前記積層物の前記外周面を加圧するための加圧面とされる、請求項1に記載の加圧治具。
【請求項3】
前記螺旋構造部は、前記外径を画定する外周面を有し、
前記外周面が、前記積層物の前記内周面を加圧するための加圧面とされる、請求項1に記載の加圧治具。
【請求項4】
前記螺旋構造部は、前記軸心方向にテーパー状に延びている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の加圧治具。
【請求項5】
前記螺旋構造部は、帯状要素が前記軸心方向に螺旋状に延びており、
前記帯状要素は、前記軸心の周りの曲げ剛性が、前記軸心方向で変化する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の加圧治具。
【請求項6】
前記帯状要素の前記曲げ剛性が、前記治具本体の前記軸心方向の一方の側に向かって大きくなっている、請求項5に記載の加圧治具。
【請求項7】
前記帯状要素の前記曲げ剛性が、前記治具本体の前記軸心方向の両方の側に向かって大きくなっている、請求項5に記載の加圧治具。
【請求項8】
請求項1、2、4ないし7のいずれか1項に記載された加圧治具を用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法であって、
マンドレルの上に、前記プリプレグシートを積層してパイプ状の前記積層物を形成する積層工程と、
前記積層物の外周面の側に、前記加圧治具の前記螺旋構造部を被せる装着工程と、
前記螺旋構造部の内径を縮めることにより、前記積層物を前記マンドレルの側へ加圧する加圧工程とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項9】
前記積層物が前記螺旋構造部で加圧された状態で、前記積層物を加熱する加熱工程を含む請求項8に記載の繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項10】
前記積層工程の後、かつ、前記装着工程の前に、前記積層物が前記螺旋構造部と直接接触するのを防ぐための包囲層を形成する包囲工程をさらに含む、請求項8又は9に記載の繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項11】
請求項1、3ないし7のいずれか1項に記載された加圧治具を用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法であって、
前記加圧治具の螺旋構造部の外周面の側に、前記プリプレグシートを積層してパイプ状の前記積層物を形成する積層工程と、
前記積層物を、前記加圧治具と一緒に金型のキャビティの中に位置決めする工程と、
前記キャビティの中で、前記螺旋構造部の外径を広げることにより、前記積層物を前記キャビティの側へ加圧する加圧工程とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項12】
前記積層物が前記螺旋構造部で加圧された状態で、前記積層物を加熱する加熱工程を含む請求項11に記載の繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項13】
前記積層工程の前に、前記積層物が前記螺旋構造部と直接接触するのを防ぐための包囲層を形成する包囲工程をさらに含む、請求項11又は12に記載の繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項14】
前記包囲層が、1枚のシートをパイプ状に巻き付けたものである、請求項10又は13に記載の繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項15】
前記包囲層が、テープが螺旋状に複数回巻き付けられたものである、請求項10又は13に記載の繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項16】
前記包囲層が、樹脂製のチューブである、請求項10又は13に記載の繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項17】
繊維強化樹脂製パイプの製造装置であって、
マンドレルと、前記マンドレルの上に形成された繊維強化樹脂材料であるプリプレグシートのパイプ状の積層物を、前記マンドレルの側に加圧するための請求項1ないし7のいずれか1項に記載された前記加圧治具とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造装置。
【請求項18】
繊維強化樹脂製パイプの製造装置であって、
外周面の側に、繊維強化樹脂材料であるプリプレグシートを積層してパイプ状の積層物を形成するための請求項1ないし7のいずれか1項に記載された前記加圧治具と、前記加圧治具と一緒に前記積層物を成形するためのキャビティを備えた金型とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製パイプを製造するために用いられる加圧治具、それを用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、比強度の高い繊維強化樹脂製パイプが、例えば、ゴルフクラブシャフト、各種スポーツ用具のシャフト、釣り竿等に利用されている。この種のパイプを製作する方法としては、例えば、ラッピング法及び内圧法がある(例えば、下記特許文献1及び2参照)。
【0003】
ラッピング法では、まず、鉄製のマンドレルに繊維強化樹脂のプリプレグシートが所望の層数巻き付けられて、パイプ状の積層物が形成される。なお、プリプレグシートは、1方向又は多方向に引き揃えられた補強繊維に未硬化の樹脂材料を含浸させてシート状にしたものである。
【0004】
次に、パイプ状の積層物は、その上に、例えば、張力を掛けて樹脂製のラッピングテープが螺旋状に巻きつけられ、その後、硬化炉で加熱される。これにより、プリプレグシートの樹脂材料が硬化した繊維強化樹脂製パイプが製造される。ここで、前記ラッピングテープは、プリプレグシート積層時に、シート間に入り込んだ空気を排出させる他、プリプレグシートの樹脂材料の溶融時、プリプレグシート内に含まれていた空気をパイプ外部へと排出し、ひいては、樹脂硬化物内でのボイドの生成を抑制する。
【0005】
一方、内圧法では、まず、耐熱性の樹脂製チューブの外周面の側にプリプレグシートが所望の層数巻き付けられてパイプ状の積層物が形成される。次に、前記積層物が前記チューブと一緒に、金型のキャビティ内に設置される。その後、前記チューブは、加圧空気の供給を受けて膨張し、その外周面の側に形成された前記積層体を前記キャビティへと押し付ける。これにより、前記積層物内の空気が排出される。そして、金型を加熱することで、樹脂材料が硬化する(例えば、下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-279932号公報
【文献】特開昭51-23575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高品質の繊維強化樹脂製パイプを製造するためには、樹脂中に包含されるボイドを極力なくすことが重要である。このため、例えば、ラッピング法の場合、プリプレグシートの積層物を、前記マンドレルに向けて強く加圧する必要がある。また、内圧法の場合、プリプレグシートの積層物を前記金型のキャビティに向けて強く加圧する必要がある。
【0008】
しかしながら、ラッピング法で用いられる樹脂製のラッピングテープや、内圧法で用いられる樹脂製のチューブは、いずれも、上述のような積層物の加圧に関して、改善の余地があった。
【0009】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、プリプレグシートの積層物をより強く加圧することが可能な加圧治具、それを用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法及び装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、プリプレグシートをパイプ状に積層した積層物から繊維強化樹脂製パイプを製造するために用いられる加圧治具であって、外径、内径、軸心及び軸心方向を規定するパイプ状の治具本体を含み、前記治具本体は、前記軸心方向に延びる螺旋状の切り込みと、この切り込みによって区分された金属製の螺旋構造部とを含み、前記螺旋構造部は、前記積層物の内周面又は外周面の側に配置され、前記螺旋構造部は、前記軸心の周りの捻じりモーメント、又は、前記軸心方向の力を受けることで、前記外径及び前記内径が変化する、加圧治具である。
【0011】
前記第1の態様では、前記螺旋構造部は、前記内径を画定する内周面を有し、前記内周面が、前記積層物の前記外周面を加圧するための加圧面とされても良い。
【0012】
前記第1の態様では、前記螺旋構造部は、前記外径を画定する外周面を有し、前記外周面が、前記積層物の前記内周面を加圧するための加圧面とされても良い。
【0013】
前記第1の態様では、前記螺旋構造部は、前記軸心方向にテーパー状に延びていても良い。
【0014】
前記第1の態様では、前記螺旋構造部は、帯状要素が前記軸心方向に螺旋状に延びており、前記帯状要素は、前記軸心の周りの曲げ剛性が、前記軸心方向で変化しても良い。
【0015】
前記第1の態様では、前記帯状要素の前記曲げ剛性が、前記治具本体の前記軸心方向の一方の側に向かって大きくなるものでも良い。
【0016】
前記第1の態様では、前記帯状要素の前記曲げ剛性が、前記治具本体の前記軸心方向の両方の側に向かって大きくなるものでも良い。
【0017】
また、本発明の第2の態様は、上記加圧治具を用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法であって、マンドレルの上に、前記プリプレグシートを積層してパイプ状の前記積層物を形成する積層工程と、前記積層物の外周面の側に、前記加圧治具の前記螺旋構造部を被せる装着工程と、前記螺旋構造部の内径を縮めることにより、前記積層物を前記マンドレルの側へ加圧する加圧工程とを含む、繊維強化樹脂製パイプの製造方法である。
【0018】
前記第2の態様において、前記積層物が前記螺旋構造部で加圧された状態で、前記積層物を加熱する加熱工程を含むことができる。
【0019】
前記第2の態様において、前記積層工程の後、かつ、前記装着工程の前に、前記積層物が前記螺旋構造部と直接接触するのを防ぐための包囲層を形成する包囲工程をさらに含むことができる。
【0020】
また、本発明の第3の態様は、上記加圧治具を用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法であって、前記加圧治具の螺旋構造部の外周面の側に、前記プリプレグシートを積層してパイプ状の前記積層物を形成する積層工程と、前記積層物を、前記加圧治具と一緒に金型のキャビティの中に位置決めする工程と、前記キャビティの中で、前記螺旋構造部の外径を広げることにより、前記積層物を前記キャビティの側へ加圧する加圧工程とを含む、繊維強化樹脂製パイプの製造方法である。
【0021】
前記第3の態様において、前記積層物が前記螺旋構造部で加圧された状態で、前記積層物を加熱する加熱工程を含むことができる。
【0022】
前記第3の態様において、前記積層工程の前に、前記積層物が前記螺旋構造部と直接接触するのを防ぐための包囲層を形成する包囲工程をさらに含むことができる。
【0023】
前記第2ないし3の態様において、前記包囲層が、1枚のシートをパイプ状に巻き付けたものであっても良い。
【0024】
前記第2ないし3の態様において、前記包囲層が、テープが螺旋状に複数回巻き付けられたものであっても良い。
【0025】
前記第2ないし3の態様において、前記包囲層が、樹脂製のチューブであっても良い。
【0026】
また、本発明の第4の態様は、繊維強化樹脂製パイプの製造装置であって、マンドレルと、前記マンドレルの上に形成された繊維強化樹脂材料であるプリプレグシートのパイプ状の積層物を、前記マンドレルの側に加圧するための上記加圧治具とを含む、繊維強化樹脂製パイプの製造装置である。
【0027】
また、本発明の第5の態様は、繊維強化樹脂製パイプの製造装置であって、外周面の側に、繊維強化樹脂材料であるプリプレグシートを積層してパイプ状の積層物を形成するための上記加圧治具と、前記加圧治具と一緒に前記積層物を成形するためのキャビティを備えた金型とを含む、繊維強化樹脂製パイプの製造装置である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の加圧治具は、上記の構成を採用したことにより、プリプレグシートからなるパイプ状の積層物を、その内周面又は外周面の側から、より強く加圧することができる。
【0029】
また、本発明の繊維強化樹脂製パイプの製造方法及び製造装置では、上記の工程を採用したことにより、プリプレグシートからなるパイプ状の積層物を、マンドレルや金型に向けてより強く加圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態を示す加圧治具の斜視図である。
図2】本発明の一実施形態を示す加圧治具の側面図である。
図3図2の部分拡大図である。
図4】(A)及び(B)は、図3の螺旋構造部の変形状態を説明する図である。
図5】本発明の実施形態1にかかる製造装置の斜視図である。
図6】実施形態1の加圧工程を説明するための加圧治具の斜視図である。
図7】本発明の実施形態2にかかる製造装置の斜視図である。
図8】実施形態2の積層工程を示す加圧治具の部分断面図である。
図9】実施形態2の装着工程を示す部分断面図である。
図10】実施形態2の加圧工程を示す部分断面図である。
図11】本発明の他の実施形態を示す加圧治具の側面図である。
図12】本発明の他の実施形態を示す加圧治具の部分側面図である。
図13】本発明のさらに他の実施形態を示す加圧治具の部分側面図である。
図14】(A)及び(B)は、図2のI-I線及びII-II線に相当する位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のいくつかの実施形態が説明される。以下に開示される代表的な実施形態は、いかなる方法においても限定することを意図するものではない。さらに、本発明の実施形態は、単独で又は様々な組み合わせで使用することができる。
【0032】
[加圧治具]
図1は本発明の一実施形態を示す加圧治具1の斜視図、図2はその側面図、図3図2の部分拡大図である。図1ないし3に示されるように、本実施形態の加圧治具1は、プリプレグシートをパイプ状に積層した積層物(追って説明する。)から繊維強化樹脂製パイプを製造するために用いられる治具である。
【0033】
本実施形態の加圧治具1は、パイプ状の治具本体10を含む。治具本体10は、その外径do、内径di、軸心CL及び軸心方向Aを規定する。また、治具本体10は、軸心方向Aに延びる螺旋状の切り込み11と、この切り込み11によって区分された螺旋構造部12とを含む。
【0034】
切り込み11は、図3に示されるように、例えば、治具本体10を貫通しており、本実施形態では、幅Wを有して螺旋状に延びている。図1~3の切り込み11は、図の左側に螺旋が進むときに、この螺旋が時計回りとなる右巻き螺旋の向きを有する。他の態様では、切り込み11は、図3とは逆の左巻き螺旋の向きであっても良い。また、本実施形態の切り込み11は、図2に示されるように、一定の螺旋ピッチPで軸心方向Aに延びている。他の態様では、切り込み11は、軸心方向Aにおいて、変化する螺旋ピッチPを備えていても良い(後述)。
【0035】
本実施形態において、治具本体10が金属材料で構成されている。このため、螺旋構造部12は金属製である。なお、螺旋構造部12を構成する金属材料には、炭素鋼、ステンレス鋼等の各種の金属材料が採用され得る。
【0036】
螺旋構造部12の外周面12o及び内周面12iにより、螺旋構造部12の外径do及び内径diがそれぞれ画定される。螺旋構造部12の外径do及び内径diは、それぞれ、加圧の対象であるプリプレグシートのパイプ状の積層物の内周面又は外周面の側に配置可能なように設計される。
【0037】
また、図2に示されるように、本実施形態の加圧治具1は、治具本体10の一端又は両端に、切り込み11が形成されていない操作部13が設けられても良い。操作部13には、例えば、螺旋構造部12を捻るための各種のアクチュエータ等が連結され得る。また、操作部13には、例えば、図5に示されるように、螺旋構造部12を捻るためのレバー14等が設けられても良い。
【0038】
次に、本実施形態の加圧治具1の作用が説明される。螺旋構造部12は、軸心CLの周りの捻じりモーメント、又は、軸心方向Aの力(すなわち、軸心方向Aの引張力又は圧縮力)を受けることで、その外径do及び内径diが変化する。図4(A)及び図4(B)は、図3の螺旋構造部12の変形状態を説明する図である。
【0039】
図4(A)には、螺旋構造部12に、例えば、捻じりモーメントT1が与えられた状態が示されている。この捻じりモーメントT1は、切り込み11の幅Wを縮めるような向きとされる。このような捻じりモーメントT1が螺旋構造部12に与えられた場合、切り込み11の幅Wが減少するとともに、螺旋構造部12の外径do及び内径diは、図3のときの状態に比べて小さくなる。
【0040】
また、上記のような作用は、捻じりモーメントT1に代えて、螺旋構造部12に軸心方向Aの引張力を与えることによっても得ることができる。この場合、切込み11の幅Wを広げつつ、螺旋構造部12の外径do及び内径diは、図3のときの状態に比べて小さくなる。
【0041】
図4(B)には、螺旋構造部12に、例えば、捻じりモーメントT2が与えられた状態が示されている。捻じりモーメントT2は、切り込み11の幅Wを拡げるような向きであり、捻じりモーメントT1とは逆向きである。このような捻じりモーメントT2が螺旋構造部12に与えられた場合、切り込み11の幅Wが増加するとともに、螺旋構造部12の外径do及び内径diは、図3の状態に比べて大きくなる。
【0042】
また、このような作用は、捻じりモーメントT2に代えて、螺旋構造部12に軸心方向Aの圧縮力を与えることによっても得ることができる。この場合、切込み11の幅Wを縮めつつ、螺旋構造部12の外径do及び内径diは、図3のときの状態に比べて大きくなる。
【0043】
本実施形態の加圧治具1は、上述のような螺旋構造部12の外径do及び内径diの拡縮機能を利用して、プリプレグシートのパイプ状の積層物を、その外周面又は内周面の側から加圧することができる。また、螺旋構造部12は、金属製であることから、本実施形態の加圧治具1は、従来のラッピングテープや樹脂チューブ等に比べて、プリプレグシートのパイプ状の積層物を、より強く加圧することができる。
【0044】
さらに、本実施形態の治具本体10の外径do及び内径diは、上記捻じりモーメントT1又はT2の大きさ(すなわち、トルクの大きさ)を変えることで、パイプ状の積層物への加圧力を容易に調整することができる点でも好ましい。なお、切り込み11の幅Wを大きくすることで、螺旋構造部12の径変化もより大きくすることができる。これらの寸法は、目的とするパイプに応じて適宜設定され得る。
【0045】
次に、加圧治具1を用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法及び製造装置の具体的な実施形態方法が説明される。
【0046】
[製造方法及び製造装置の実施形態1]
図5には、実施形態1の繊維強化樹脂製パイプの製造装置100が示されている。実施形態1の製造装置100は、例えば、マンドレル20と、前記加圧治具1とを含む。マンドレル20は、例えば、金属製の円柱軸である。
【0047】
実施形態1の製造方法では、まず、マンドレル20の上に、繊維強化樹脂材料であるプリプレグシートを積層してパイプ状の積層物22を形成する積層工程が行われる。プリプレグシートの構成は、特に限定されるものではなく、製造対象のパイプ(例えば、ゴルフクラブシャフト等)に応じて、適切なものが選択される。
【0048】
次に、積層物22の外周面の側に、加圧治具1の螺旋構造部12を被せる装着工程が行われる。本実施形態では、加圧治具1に外力が作用していない自然状態において、螺旋構造部12の内径diは、マンドレル20の上に形成された積層物22の外径Doよりも大きくなるように予め設計されている。
【0049】
次に、図6に示されるように、螺旋構造部12に捻じりモーメントT1を作用させ、螺旋構造部12の内径diが縮められる。すなわち、螺旋構造部12は、積層物22の外周面の側で内径diを縮小させることで、螺旋構造部12の内周面12iを積層物22の外周面に当接させ、積層物22をマンドレル20の側に加圧することができる。これにより、積層物22のプリプレグシート間の空気が、例えば、外部へと排出される他、樹脂の内部に残る気泡は、加圧されて極めて小さくなる。このように、実施形態1では、螺旋構造部12の内周面12iが、積層物22を加圧するための加圧面として利用される。
【0050】
螺旋構造部12の内径diを縮める方法として、本実施形態では、装着工程の後、螺旋構造部12に捻じりモーメントT1が与えられるが。他の方法では、装着工程に先立ち、予め螺旋構造部12に捻じりモーメントT2を与えて内径diを拡大させておき、この状態で、螺旋構造部12が積層物22に装着されても良い。そして、その後、捻じりモーメントT2を取り除き、螺旋構造部12の内径が元の状態に復元する(縮む)復元力を用いて、積層物22を加圧しても良い。この場合、螺旋構造部12の自然状態での内径diは、例えば、積層物22の外径よりも小さく設計されるのが望ましい。
【0051】
次に、積層物22が、硬化炉等に投入されて加熱される(加熱工程)。好ましい態様では、加熱工程は、積層物22が、螺旋構造部12で加圧された状態で行われる。すなわち、加圧治具1は、螺旋構造部12で積層物22を加圧した状態のまま、積層物22及びマンドレル20と一緒に硬化炉に投入される。これにより、熱エネルギーを受けた積層物22の樹脂は、加圧治具1からのより強い加圧力を受けながら溶融し、樹脂中に内在していた空気が外部へと効果的に排出され、ひいては、ボイドの少ないパイプを製造することができる。
【0052】
なお、加熱工程の終了後、加圧治具1に与えられていた捻じりモーメントT1を取り除くと、螺旋構造部12の内径diが元の状態へ拡がる。これにより、加圧治具1は、成形されたパイプから軸心方向Aに容易に取り除くことができる。
【0053】
好ましい態様では、図5に示されるように、積層工程の後、かつ、装着工程の前に、積層物22が螺旋構造部12と直接接触するのを防ぐための包囲層24を形成する包囲工程をさらに含むことができる。このような包囲層24は、加熱工程において、積層物22の溶融した樹脂の移動を拘束することで、溶融した樹脂が、螺旋構造部12の切り込み11から外部に流出するのを効果的に防止できる。
【0054】
包囲層24は、図5に示されるように、例えば、1枚のシートを、積層物22の上にパイプ状に巻き付けて形成することができる。他の態様では、包囲層24は、テープが螺旋状に複数回巻き付けられたものであっても良く、さらには、積層物を包囲する樹脂製のチューブであっても良い(いずれも図示省略)。なお、包囲層24は、積層物22を加圧することを目的としていないため、加熱工程の温度に耐え得る耐熱性を有していればよく、高い強度は必要とされない。したがって、包囲層24には、樹脂シート、金属シート、繊維シート等、様々な材料のものが採用可能である。
【0055】
[製造方法及び製造装置の実施形態2]
図7には、実施形態2の繊維強化樹脂製パイプの製造装置200が示されている。実施形態2の製造装置200は、例えば、前記加圧治具1と、キャビティ32を備えた金型30とを含む。
【0056】
実施形態2において、加圧治具1は、その外周面12oの側で、プリプレグシートを積層してパイプ状の積層物22を形成するために用いられる。
【0057】
金型30は、例えば、上型30Aと、下型30Bとを含む。上型30A及び下型30Bには、例えば、上キャビティ32A及び下キャビティ32Bがそれぞれ形成されている。そして、金型30は、上型30Aと下型30Bとを閉じることにより、上キャビティ32A及び下キャビティ32Bが連続し、製造すべきパイプの外周面を成形するためのキャビティ32が形成される。本実施形態では、キャビティ32は、円筒形状である、キャビティ32の内径は、例えば、螺旋構造部12の上に巻きつけられた積層物22の外径よりも大きい。したがって、キャビティ32の中に、積層物22が形成された螺旋構造部12を配置することができる。
【0058】
実施形態2の製造方法では、図7及び図8に示されるように、まず、加圧治具1の螺旋構造部12の外周面12oの側に、プリプレグシートを積層してパイプ状の積層物22を形成する積層工程が行われる。
【0059】
次に、図9に示されるように、積層物22を、加圧治具1と一緒に金型30のキャビティ32の中に位置決めする工程が行われる。本実施形態では、この状態において、加圧治具1の操作部13は、例えば、金型30の外部に突出していることが望ましい。
【0060】
次に、図10に示されるように、キャビティ32の中で、螺旋構造部12の外径doを広げ、積層物22をキャビティ32の成形面の側へ加圧する加圧工程が行われる。すなわち、実施形態2では、螺旋構造部12は、積層物22の内周面の側に配され、かつ、図4(B)のように螺旋構造部12の外径doが広がるように捻じりモーメントT2が与えられる。この捻じりモーメントは、例えば、金型30の外部に位置する操作部13から容易に与え得る。
【0061】
以上により、螺旋構造部12の外周面12oが、積層物22の内周面を加圧することができる。このように、実施形態2では、螺旋構造部12の外周面12oは、積層物22を加圧する加圧面として利用できる。
【0062】
また、加圧工程の前又は後で、金型30が加熱される(加熱工程)。この実施形態2においても、加熱工程の少なくとも一部は、積層物22が螺旋構造部12で加圧された状態で行われるのが望ましい。これにより、熱エネルギーを受けた積層物22の樹脂は、加圧治具1からのより強い加圧力を受けながら溶融し、樹脂中に内在していた空気が外部へと効果的に排出され、ひいては、ボイドの少ないパイプを製造することができる。なお、金型30内の空気は、慣例に従い、ベントホール(図示省略)などで金型外部に排出され得る。
【0063】
なお、加熱工程の終了後、加圧治具1に与えられていた捻じりモーメントT2を取り除くと、螺旋構造部12の外径doが元の状態へ縮まる。これにより、加圧治具1は、成形されたパイプから軸心方向Aに容易に取り除くことができる。
【0064】
実施形態2の好ましい態様では、積層工程の前に、積層物22が螺旋構造部12と直接接触するのを防ぐための包囲層24を形成する包囲工程をさらに含むのが望ましい。このような包囲層24は、加熱工程において、積層物22の溶融した樹脂が、螺旋構造部12の切り込み11から流出するのを効果的に防止することができる。なお、包囲層24は、実施形態1で説明された様々な態様が採用可能である。
【0065】
[加圧治具の他の実施形態]
図11~14には、加圧治具1の他の実施形態が示されている。これらの実施形態は、上で説明された実施形態1及び2のいずれにも採用可能である。
【0066】
図11の実施形態]
外径又は内径が一定のパイプを製造する場合、螺旋構造部12は、例えば、図2のように、外径do及び内径diが軸心方向Aに一定であっても良い。一方、ゴルフクラブシャフトのように、径がテーパー状に変化するようなパイプを製造する場合、図11に示されるように、螺旋構造部12は、外径do及び内径diが軸心方向Aの一方に向かって小さくなるように、テーパー状とされても良い。
【0067】
図12の実施形態]
図12には、螺旋構造部12の他の実施形態として、その拡大模式図が示されている。図12に示されるように、螺旋構造部12は、切り込み11によって区分された帯状要素12aが軸心方向Aに螺旋状に延びている。この実施形態では、帯状要素12aは、軸心方向Aに沿った幅Lと、軸心方向Aと直交する径方向の厚さt(図4(A)に示す。)とを有する。幅Lは、切り込み11の螺旋ピッチPから切り込み11の幅Wを差し引いたものである。
【0068】
帯状要素12aは、軸心CLの周りの曲げ剛性が、軸心方向Aで変化しても良い。帯状要素12aの曲げ剛性は、帯状要素12aの幅L及び/又は厚さtによって調整可能である。例えば、図12の態様では、帯状要素12aの幅Lが、治具本体10の軸心方向Aの一方の側(図12では右側)に向かって大きくなっている。本実施形態では、切り込み11の幅Wを一定にしつつ、その螺旋ピッチPを軸心方向Aの一方側へ増加させることで、帯状要素12aの幅Lが、大きくなっている。また、帯状要素12aの厚さtは、軸心方向Aで、一定である。したがって、本実施形態の帯状要素12aの曲げ剛性は、図の右側ほど大きくなる。
【0069】
このような実施形態は、図12において、螺旋構造部12の前記一方側に向かって積層物22の加圧を進めるのに役立つ。例えば、螺旋構造部12の両端に捻じりモーメントを与えると、螺旋構造部12の各部に作用する曲げモーメントは軸心方向Aに均一であることから、まず、曲げ剛性の小さい帯状要素12a(図12の左側に位置する要素)から変形が始まる。そして、この変形を開始した帯状要素12aが積層物22と接触し、積層物22の抵抗力と釣り合うと、当該帯状要素12aの変形が止まる。一方、トルクは、まだ積層物22と釣り合っていない右側の帯状要素12aへと順次伝えられ、変形が進んでいく。
【0070】
このように、この実施形態では、帯状要素12aの変形が、図12の左側から始まって右側に順次進むことから、加圧時の螺旋構造部12と積層物22との間の滑りが滑らかになるという作用が得られる。このような態様は、例えば、テーパー状のパイプを製造する際に、小径側から大径側に順次加圧するときに特に有効である。また、上記実施形態では、積層物22の溶融した樹脂を軸心方向Aの一方側へと絞り出すこともできる。
【0071】
図13の実施形態]
図13は、螺旋構造部12のさらに他の実施形態が示されている。
この実施形態では、帯状要素12aの曲げ剛性が、軸心方向Aの両方の側に向かって大きくなっている。図13の態様では、帯状要素12aの幅Lが、治具本体10の軸心方向Aの両方の側に向かって大きくなっている。このような実施形態では、帯状要素12aの変形が、図13の中央部側から始まって軸心方向Aの両側に順次進む。したがって、図12の実施形態と同様に、加圧時の螺旋構造部12と積層物22との間の滑りが滑らかになるという作用が得られる。このような態様は、外径や内径が一定のパイプを製造する際に有効である。また、上記実施形態では、積層物22の溶融した樹脂を軸心方向Aの両側へと絞り出す効果も得られる。
【0072】
[図14の実施形態]
図14(A)及び(B)には、図2のI-I線及びII-II線に相当する位置の断面図がそれぞれ示されている。図14(A)に示されるように、この実施形態では、帯状要素12aの曲げ剛性を変えるために、帯状要素12aの厚さtは、軸心方向Aで変化している。例えば、帯状要素12aの厚さtが、治具本体10の軸心方向Aの一方の側に向かって大きくなっている。本実施形態では、帯状要素12aの幅Lを一定にしつつ、帯状要素12aの厚さtが軸心方向Aの一方側に増加している。したがって、本実施形態の帯状要素12aの曲げ剛性は、図14(B)の方が大きい。このような実施形態では、図12の実施形態と同様の作用が得られる。
【0073】
なお、図示していないが、帯状要素12aの厚さtが、治具本体10の軸心方向Aの両方の側に向かって大きくされても良い(図示省略)。このような実施形態では、図12の実施形態と同様の作用が得られる。
【0074】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。また、製造されるパイプは、プリプレグシートを用いて製造されるものであれば何ら限定されるものではない。
【実施例
【0075】
図1の加圧治具が試作された。自然状態での加圧治具の内径diは11.9mmであり、外径は13.1mmとされた。ステンレス製のパイプに、レーザー加工を施して、切り込み及び螺旋構造部が形成された。切り込みの幅Wは約1mmであり、帯状要素の幅Lは、約18mmとされた。この加圧治具は、90度のねじれ角が生じるような捻じりモーメントT1及びT2をそれぞれ与えたところ、外径がそれぞれ約0.6mm減少及び約0.6mm増加することが確認できた。この加圧治具の好ましい使用態様としては、実施形態1では、例えば、外径が凡そ11.5mm以下のパイプの成形に好適に利用され得、実施形態2では、例えば、内径が凡そ13.5mm以上のパイプの成形に好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0076】
1 加圧治具
10 治具本体
11 切り込み
12 螺旋構造部
12a 帯状要素
12i 内周面
12o 外周面
20 マンドレル
22 積層物
24 包囲層
30 金型
32 キャビティ
100、200 製造装置
A 軸心方向
CL 軸心
di 内径
do 外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14