(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】車両の姿勢制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240806BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20240806BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20240806BHJP
B60T 8/172 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/08
B60T8/1755 Z
B60T8/172 Z
(21)【出願番号】P 2020165899
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 勇作
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-038913(JP,A)
【文献】特開2008-247357(JP,A)
【文献】特開平05-213027(JP,A)
【文献】特開2006-282062(JP,A)
【文献】特開2006-298210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/02
B60W 40/08
B60T 8/1755
B60T 8/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、複数の車輪と、を備え
、摩擦制動力及び回生制動力が付与される車両に適用され、
前記車両の走行中において、
当該車両の制動初期に前記複数の車輪に付与する前記摩擦制動力及び前記回生制動力の双方を調整することによって、当該複数の車輪の少なくとも1つの前記車輪に対する前記車体の上下方向のストローク量及び前記ストローク量の変化速度の少なくとも一方を調整することにより、前記車両のピッチング運動の回転中心であるピッチ回転中
心の位置を調整する回転中心調整部を備える
車両の姿勢制御装置。
【請求項2】
前記車両に搭乗している乗員の数、及び、当該乗員の位置の少なくとも一方を乗員情報として取得する乗員情報取得部を備え、
前記回転中心調整部は、前記乗員情報を基に、前記ピッチ回転中
心の位置を調整する
請求項1に記載の車両の姿勢制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両旋回時において車両の乗員の乗り心地を向上させる姿勢制御装置の一例が記載されている。この姿勢制御装置では、ヨー回転中心位置が乗員の近くに設定されるように各種の制御量を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が減速したり加速したりする場合、車両はピッチング運動をする。また、車両が旋回する場合、車両はローリング運動をする。このように車両がピッチング運動をしたり、車両がローリング運動をしたりする場合における車両姿勢を制御することについて、上記特許文献1には開示がなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車両の姿勢制御装置は、車体と、複数の車輪と、を備える車両に適用される。この姿勢制御装置は、前記車両の走行中において、前記複数の車輪の少なくとも1つの前記車輪に対する前記車体の上下方向のストローク量及び前記ストローク量の変化速度の少なくとも一方を調整することにより、前記車両のピッチング運動の回転中心であるピッチ回転中心、及び、前記車両のローリング運動の回転中心であるロール回転中心の少なくとも一方の位置を調整する回転中心調整部を備えている。
【0006】
車両の前後加速度が変わる際には、車両がピッチング運動をすることがある。車両がピッチング運動をする場合、車両の前後方向における車両重心とピッチ回転中心との乖離を大きくすることにより、車両のピッチング運動に伴って乗員が受ける力が大きくなることを抑制できる。言い換えると、車両の前後方向において車両の重心を基準とするピッチ回転中心の相対位置を調整することにより、車両のピッチング運動に伴って乗員が受ける力の最大値を制御できる。
【0007】
車両の横加速度が変わる際には、車両がローリング運動をすることがある。この場合、車両の横方向における車両重心とロール回転中心との乖離を大きくすることにより、車両のローリングに伴って乗員が受ける力が大きくなることを抑制できる。言い換えると、車両の横方向において車両の重心を基準とするロール回転中心の相対位置を調整することにより、車両のローリング運動に伴って乗員が受ける力の最大値を制御できる。
【0008】
上記構成では、車輪に対する車体の上下方向のストローク量を調整することにより、ピッチ回転中心及びロール回転中心のうちの少なくとも一方の位置を可変させるようにしている。このようにピッチ回転中心及びロール回転中心のうちの少なくとも一方の位置を調整することにより、車両のピッチング挙動及びローリング挙動のうちの少なくとも一方を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の姿勢制御装置である制御装置の機能構成と、同制御装置を備える車両の概略構成とを示す図。
【
図2】制動に伴って車両の姿勢が変化した様子を示す模式図。
【
図5】同制御装置が実行する一連の処理の流れを説明するフローチャート。
【
図6】(a)~(f)は制動によって車両が減速する際のタイミングチャート。
【
図8】(a)~(d)は、第2実施形態の姿勢制御装置である制御装置を備える車両の制動時におけるタイミングチャート。
【
図9】第3実施形態の姿勢制御装置である制御装置を備える車両を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、車両の姿勢制御装置の一実施形態を
図1~
図7に従って説明する。
図1には、姿勢制御装置としての制御装置50を備える車両10が図示されている。
【0011】
<車両全体の概略構成>
図1及び
図2に示すように、車両10は、複数の車輪FL,FR,RL,RRと、車体11とを備えている。各車輪FL,FR,RL,RRのうち、左前輪FL及び右前輪FRは、運転者81の操舵によって転舵する転舵輪である。車体11は、運転者81が着座するシート12Aと、運転者81以外の乗員82が着座するシート12Bとを備えている。各シート12A,12Bは、座部121と背もたれ122とを有している。
【0012】
左前輪FLと車体11との間には、サスペンション15FLが介装されている。右前輪FRと車体11との間には、サスペンション15FRが介装されている。左後輪RLと車体11との間には、サスペンション15RLが介装されている。右後輪RRと車体11との間には、サスペンション15RRが介装されている。
【0013】
車両10の駆動装置20は、車両の動力源21と、動力源21から出力された駆動力を各前輪FL,FRに分配するディファレンシャル22とを備えている。すなわち、車両10では、各前輪FL,FRが駆動輪であり、各後輪RL,RRが従動輪である。動力源21としては、例えば、エンジン及び走行モータを挙げることができる。
【0014】
各車輪FL,FR,RL,RRには、制動機構30の作動によって制動力が付与される。各制動機構30は、ホイールシリンダ31と、車輪FL,FR,RL,RRと一体回転する回転体32と、摩擦材33とを有している。ホイールシリンダ31内の液圧が高いほど、回転体32に摩擦材33を押し付ける力が大きくなる。回転体32を摩擦材33に押し付ける力に応じた制動力が車輪FL,FR,RL,RRに付与される。そのため、車輪FL,FR,RL,RRに付与される制動力は、ホイールシリンダ31内の液圧が高いほど大きくなる。本実施形態では、制動機構30の作動によって車輪FL,FR,RL,RRに付与される制動力を「摩擦制動力」ともいう。
【0015】
車両の制動装置40は、各車輪FL,FR,RL,RRに付与する摩擦制動力を調整する。例えば、制動装置40は、液圧発生装置41と、液圧発生装置41からブレーキ液が供給される制動アクチュエータ42とを備えている。液圧発生装置41には、運転者によって操作される制動操作部材43が連結されている。制動操作部材43としては、例えば、ブレーキペダルを挙げることができる。液圧発生装置41は、運転者81による制動操作部材43の操作量である制動操作量に応じた液圧を発生する。制動アクチュエータ42は、各ホイールシリンダ31に接続されている。そのため、制動操作部材43が操作されると、制動操作量に応じた量のブレーキ液が各ホイールシリンダ31に供給される。これにより、各車輪FL,FR,RL,RRに摩擦制動力が付与される。
【0016】
制動アクチュエータ42の作動は、制御装置50によって制御することができる。制御装置50によって制動アクチュエータ42を制御することにより、各車輪FL,FR,RL,RRに付与される摩擦制動力を個別に制御できる。
【0017】
<車両制動時の姿勢について>
車両10に制動力が付与されている場合、車両10が減速する。制動によって車両10の減速度が大きくなると、車両10の姿勢が変化する。すなわち、
図2に示すように、車体11の前部が路面100に接近し、車体11の後部が路面100から離間する方向に車両10がピッチング運動をする。
【0018】
図3及び
図4を参照し、このような車両制動時における車両10の乗員が受ける力について説明する。
図3に示すように、車両10に制動力が付与されている場合、乗員80には乗員伝達力F11が付与される。乗員伝達力F11は、後述する慣性力F21と反発力F33との和に応じた大きさとなる。乗員伝達力F11が乗員80に付与されている場合、乗員80は、乗員伝達力F11に抵抗する力である抵抗力F12を発揮する。抵抗力F12は、乗員伝達力F11に対して乗員80が自ら抵抗する力である。乗員80の年齢及び車両搭乗経験などによって、抵抗力F12の精度及び乗員伝達力F11に対する抵抗の応答時間が変わる。一般的に、抵抗力F12の精度及び応答時間が悪いと、乗員80が車酔いしやすい。一方、乗員伝達力F11に対して乗員80が過剰に反応すると、乗員80の筋肉疲労などに繋がりやすい。よって、乗員80を考えた車両運動を実現する場合、乗員伝達力F11の最大値と時間とを考慮して車両10を制御することが望ましい。すなわち、乗員伝達力F11の最大値を大きくしないようにし、且つ、乗員伝達力F11を時間をかけて乗員80に伝達することにより、乗員80が適切な抵抗力F12を発揮でき、ひいては車酔い及び筋肉疲労の発生などを抑制することができる。
【0019】
そして、車両10に制動力が付与されると、車体11は並進運動をするとともに、回転運動をする。減速時の車両10の並進運動とは、車両10の前後方向D1への車両10の運動である。こうした並進運動を車両10が行っている場合、車両前方に向かう慣性力F21が乗員80に付与される。慣性力F21は、車両10の減速度に応じた大きさである。
【0020】
ここでいう「回転運動」とは、車両10のピッチング運動である。この場合、車両10の前後方向D1と上下方向D2との双方に直交する横方向D3に延びるピッチ回転中心軸を中心に車体11が回転する。車体11の回転に応じた力を回転力F31とした場合、回転力F31が乗員80に付与されるときには、回転力F31とは逆方向の力として慣性力F32が乗員80に付与される。こうした慣性力F32が乗員80に付与されている場合、慣性力F32によって乗員80がシート12の背もたれ122に押し付けられる。すると、シート12の背もたれ122では、慣性力F32に反発する力として反発力F33が発生し、当該反発力F33が乗員80に付与される。慣性力F21の発生タイミングと、反発力F33の発生タイミングとの時間差を、「時間差ΔTM1」という。
【0021】
なお、反発力F33は、並進運動による慣性力F21とも関係性を有している。反発力F33が発生するタイミングで、慣性力F21によって乗員80を背もたれ122から離間させると、反発力F33が小さくなる。すなわち、乗員伝達力F11の最大値が小さくなるように、車両10の並進運動と回転運動とを制御する。
【0022】
図4には、上記の時間差ΔTM1が小さい場合における乗員伝達力F11の時間推移が示されている。乗員伝達力F11は、乗員80が受ける力のうち、乗員80の特に上半身を車両前方に押す力であるといえる。そして、反発力F33が大きいほど、乗員伝達力F11が大きくなる。
【0023】
上記の時間差ΔTM1が短いと、慣性力F21が大きいタイミングと、反発力F33の発生タイミングとが時間的に重複してしまう。そのため、
図4において破線Zで示したように、乗員80に付与される乗員伝達力F11が短期間で大きくなる。この場合、乗員80は、抵抗力F12を適切に発揮することができない。その結果、乗員80の頭部の車両前方への移動量が多くなりやすい。なお、頭部の車両前方への移動量が多いということは、乗員80が前傾姿勢しやすいということである。
【0024】
したがって、車両制動時に乗員80を前傾姿勢にし難くするためには、上記慣性力F21を小さくしたり、乗員伝達力F11の最大値を小さくしたりすることが望ましい。一方、車両制動時に乗員80を前傾姿勢にしやすくするためには、慣性力F21を大きくしたり、乗員伝達力F11の最大値を大きくしたりすることが望ましい。
【0025】
<制御装置50の構成>
図1に示すように、制御装置50には、各種のセンサから検出信号が入力される。センサとしては、車輪速度センサ61、前後加速度センサ62、横加速度センサ63及びヨーレートセンサ64を挙げることができる。車両10は、車輪FL,FR,RL,RRと同数の車輪速度センサ61を有している。車輪速度センサ61は、対応する車輪の回転速度に相当する車輪速度VWを検出し、その検出結果を検出信号として出力する。前後加速度センサ62は、車両10の前後加速度Gxを検出し、その検出結果を検出信号として出力する。横加速度センサ63は、車両10の横加速度Gyを検出し、その検出結果を検出信号として出力する。ヨーレートセンサ64は、車両10のヨーレートYrを検出し、その検出結果を検出信号として出力する。
【0026】
また、制御装置50には、車内監視系66による監視結果が入力される。車内監視系66は、例えば、車内を撮影するカメラなどの撮像手段、及び、乗員80がシート12に着座しているか否かを検出する着座センサなどを備えている。そして、車内監視系66は、例えば、車両10に搭乗している乗員の数、及び、乗員の位置を検出する。
【0027】
そして、制御装置50は、各種のセンサ61~64の検出信号、及び、車内監視系66による監視結果を基に、走行する車両10の姿勢を制御する。
制御装置50は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)制御装置50は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)制御装置50は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)制御装置50は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0028】
制御装置50は、車両姿勢を制御するための機能部として、回転中心調整部51と、乗員情報取得部52とを有している。
回転中心調整部51は、車両10の走行中において、車輪FR,FL,FR,RL,RRに対する車体11の上下方向のストローク量及びストローク量の変化速度の少なくとも一方を調整することにより、車両10のピッチング運動の回転中心であるピッチ回転中心Xp、及び、車両10のローリング運動の回転中心であるロール回転中心Xrのうちの少なくとも一方の位置を調整する。上記のように直進走行する車両10の制動時にあっては、回転中心調整部51は、ピッチ回転中心Xpを調整する。ピッチ回転中心Xpを調整する手法については後述する。
【0029】
ローリング運動とは、車両10の前後方向D1に延びる回転軸を中心とする車体11の回転運動である。車両10が旋回する際に、車両10がローリング運動をすることがある。
【0030】
乗員情報取得部52は、車両10に搭乗している乗員80の数、及び、乗員80の位置のうちの少なくとも一方を乗員情報として取得する。本実施形態では、乗員情報取得部52は、乗員情報として、乗員80の数及び乗員80の位置の双方を取得する。
【0031】
次に、
図5を参照し、ピッチ回転中心Xpを調整するために制御装置50が実行する一連の処理の流れについて説明する。
はじめのステップS11において、制御装置50の乗員情報取得部52は、乗員情報を取得する。例えば、乗員情報取得部52は、車内監視系66の最新の監視結果を乗員情報として取得すればよい。続いて、ステップS12において、制御装置50は、車両制動が開始されたか否かを判定する。例えば、運転者が制動操作を開始した場合は車両制動が開始されたと見なす。また例えば、自動運転によって車両が走行している状況下においては、自動運転用の制御装置から制動指示が制御装置50に入力された場合は車両制動が開始されたと見なす。車両制動が開始されたとの判定がなされていない場合(S12:NO)、制御装置50は、車両制動が開始されるまでステップS12の判定を繰り返し実行する。一方、車両制動が開始されたとの判定がなされている場合(S12:YES)、制御装置50は、処理をステップS13に移行する。
【0032】
ステップS13において、制御装置50の回転中心調整部51は、ピッチ回転中心Xpの前後方向D1における位置を決定する。すなわち、回転中心調整部51は、車両10の諸元から決まる車両10の重心である車両重心CGを基準とするピッチ回転中心Xpの前後方向D1における位置を決定する。例えば、車両制動時において乗員80の頭部の車両前方への移動量を比較的小さくする場合、回転中心調整部51は、前後方向D1において車両重心CGから離れた位置をピッチ回転中心Xpとして決定する。また例えば、車両制動時において乗員80の頭部の車両前方への移動量を比較的大きくする場合、回転中心調整部51は、前後方向D1において車両重心CGの近くの位置をピッチ回転中心Xpとして決定する。
【0033】
ピッチ回転中心Xpを車両重心CGから離れた位置に決定するのか、又は、ピッチ回転中心Xpを車両重心CGの近くに決定するのかについては、乗員情報を基に決めてもよい。例えば、乗員80として、運転者81以外の乗員82が検知されている場合、回転中心調整部51は、ピッチ回転中心Xpを車両重心CGから離れた位置に決定する。また例えば、乗員80が運転者81のみである場合、回転中心調整部51は、ピッチ回転中心Xpを車両重心CGの近くの位置に決定する。
【0034】
ステップS13においてピッチ回転中心Xpの位置を決定すると、制御装置50は、処理をステップS14に移行する。ステップS14において、回転中心調整部51は、決定したピッチ回転中心Xpを基に、車輪FR,FL,FR,RL,RRに対する車体11の上下方向のストローク量を調整する調整制御を実施する。
【0035】
調整制御の一例について詳述する。
前輪FL,FRに制動力が付与されている場合、
図2に示すように車体11の前部にはアンチダイブ力FADが発生する。アンチダイブ力FADとは、車体11の前部が路面100に接近することを抑制する力である。アンチダイブ力FADを調整することにより、前輪FL,FRと車体11との間に介装するサスペンション15FL,15FRの収縮量を調整できる。すなわち、前輪FL,FRに対する車体11の前部の上下方向D2のストローク量を調整できる。
【0036】
後輪RL,RRに制動力を付与している場合、
図2に示すように車体11の後部にはアンチリフト力FALが発生する。アンチリフト力FALとは、車体11の後部が路面100から離間することを抑制する力である。アンチリフト力FALを調整することにより、後輪RL,RRと車体11との間に介装しているサスペンション15RL,15RRの伸長量を調整できる。すなわち、後輪RL,RRに対する車体11の後部の上下方向D2のストローク量を調整できる。
【0037】
前輪FL,FRに付与する制動力を前輪制動力BPfとし、後輪RL,RRに付与する制動力を後輪制動力BPrとする。そして、前輪制動力BPfと後輪制動力BPrとの和を車両制動力BPallとし、車両制動力BPallに対する後輪制動力BPrを前後制動力配分BFRとした場合、前後制動力配分BFRを調整することにより、ピッチ回転中心Xpの前後方向D1における位置を可変させることができる。すなわち、前後制動力配分BFRを大きくすることにより、アンチリフト力FALを大きくできるため、サスペンション15RL,15RRの伸長量を小さくできる。そのため、前後制動力配分BFRを大きくすることにより、ピッチ回転中心Xpを車両後方に配置できる。
【0038】
ここで、前後制動力配分BFRが基準制動力配分BFRbである場合、前後方向D1においてピッチ回転中心Xpが車両重心CGに重複するものとする。
車両重心CGからピッチ回転中心Xpを離間させる場合、回転中心調整部51は、調整制御において、基準制動力配分BFRbよりも大きい値を前後制動力配分BFRとして設定する。そして、回転中心調整部51は、調整制御において、こうした前後制動力配分BFRを基に、前輪制動力BPf及び後輪制動力BPrを制御する。
【0039】
反対に、車両重心CGの近くにピッチ回転中心Xpを配置する場合、回転中心調整部51は、調整制御において、基準制動力配分BFRbを前後制動力配分BFRとして設定する。そして、回転中心調整部51は、調整制御において、こうした前後制動力配分BFRを基に、前輪制動力BPf及び後輪制動力BPrを制御する。
【0040】
本実施形態では、回転中心調整部51は、車両制動の開始時点からの経過時間が所定の制御実施時間TMThの間、調整制御を実施する。経過時間が制御実施時間TMThに達すると、回転中心調整部51は、調整制御を終了する。なお、制御実施時間TMThとしては、数秒(例えば、数秒程度)が設定されている。
【0041】
図5に戻り、ステップS14において、調整制御の実施時間が制御実施時間TMThに達すると、制御装置50は、調整制御を終了し、処理をステップS15に移行する。ステップS15において、制御装置50の回転中心調整部51は、調整制御における制御量を「0」に戻す縮退制御を実施する。上記のように調整制御によって前後制動力配分BFRを制御した場合、回転中心調整部51は、縮退制御として、前後制動力配分BFRを基準制動力配分BFRbに向けて徐々に戻す。
【0042】
縮退制御の実施によって上記の制御量を「0」に戻した場合、制御装置50は、縮退制御を終了し、一連の処理を終了する。
<作用及び効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0043】
図6及び
図7を参照し、車両10の前後方向D1においてピッチ回転中心Xpを車両重心CGから離間させる場合の作用及び効果について説明する。
図6(a),(b),(c),(d),(e),(f)に示すように、タイミングt11で車両10への制動力の付与が開始される。
図6に示す例では、車両10には、運転者81に加え、運転者81以外の乗員82も搭乗していることが検知されている。そのため、この場合、車両重心CGから車両後方に離れた位置が、ピッチ回転中心Xpとして決定される。すると、調整制御では、基準制動力配分BFRbよりも大きい値が前後制動力配分BFRとして設定される。
図6に示す例では、「1」が前後制動力配分BFRとして設定される。
【0044】
なお、「1」を前後制動力配分BFRとして設定するのは一例であり、基準制動力配分BFRbよりも前後制動力配分BFRを大きくできるのであれば、「1」よりも小さい値を前後制動力配分BFRとして設定してもよい。例えば、後輪RL,RRの直上の位置がピッチ回転中心Xpとなるように前後制動力配分BFRを設定してもよい。
【0045】
図6に示す例では、タイミングt11からタイミングt12までの期間で、調整制御が実施される。すなわち、タイミングt11から制御実施時間TMThが経過したタイミングが、タイミングt12である。前後制動力配分BFRとして「1」が設定されている場合、当該期間では、各車輪FL,FR,RL,RRのうち、各後輪RL,RRに制動力が付与される一方で、各前輪FL,FRには制動力が付与されない。そのため、アンチリフト力FALは大きくなるものの、アンチダイブ力FADは発生しない。その結果、前輪FL,FR用のサスペンション15FL,15FRの収縮量は徐々に大きくなる。その一方で、後輪RL,RR用のサスペンション15RL,15RRはほとんど伸長しない、又はサスペンション15RL,15RRが収縮する。
【0046】
そのため、車体11の後部の路面100からの離間量はあまり大きくならず、車体11の前部の路面100への接近量が比較的大きくなる。すなわち、実際のピッチ回転中心が、車両重心CGよりも車両後方に位置することになる。このように前後方向D1でピッチ回転中心Xpを車両重心CGから離すことにより、
図3に示した時間差ΔTM1を長くできる。すなわち、車両10の並進運動に伴う慣性力F21が乗員80に作用するタイミングに対して、シート12の背もたれ122から反発力F33が乗員80に伝達されるタイミングを遅らせることができる。
【0047】
ピッチ回転中心Xpを車両重心CGから離間させることにより、反発力F33が乗員80に付与されるタイミングを遅らせることのできる理由について説明する。車両10の回転運動は、ピッチ回転中心Xpで発生する。回転運動に伴う慣性モーメントIpは、以下の関係式(式1)によって導出できる。慣性モーメントIpは、車体11の回転を抑制する力と言い換えることもできる。関係式(式1)において、「Ig」は車両重心CGの慣性モーメントである。「M」は車両10の重量である。「Lpg」は、前後方向D1における車両重心CGからピッチ回転中心Xpまでの距離である。
【0048】
Ip=Ig+M・Lpg
2 ・・・(式1)
関係式(式1)からも明らかなように、慣性モーメントIpは、距離Lpgの二乗と車両重量Mの積だけ増大する。そして、慣性モーメントIpが大きいほど、ピッチ回転中心Xpの角加速度が小さくなる。すなわち、前後方向D1においてピッチ回転中心Xpを車両重心CGから離間させるほど、車両10の回転運動は小さくなる。このように車両10の回転運動が小さくなれば、
図3に示した慣性力F32が小さくなり、ひいては反発力F33が小さくなる。
【0049】
したがって、
図4に示した場合と比較し、時間差ΔTM1を長くしたことにより、慣性力F21が大きいタイミングと、反発力F33の発生タイミングとが時間的に重複することを抑制できる。その結果、
図7に示すように、乗員伝達力F11の最大値が大きくなりにくい。これにより、乗員80を車両前方に押す力が大きくなることを抑制できる。よって、車両制動時に乗員80が前傾姿勢になりにくくなる。つまり、特に、運転者81以外の乗員82にとって、車両10の乗り心地を向上させることができる。
【0050】
ところで、運転者81にとっては、車両制動時に運転者81を車両前方に押す力、すなわち乗員伝達力F11を小さくしない方がよいという考え方もある。すなわち、乗員伝達力F11の最大値が大きいほど、運転者81が前傾姿勢になりやすい。言い換えると、乗員伝達力F11の最大値が大きいほど、運転者81の制動操作に対する車両姿勢の追随性が高いといえる。
【0051】
そこで、本実施形態では、車両10には運転者81のみが搭乗している場合、調整制御では、ピッチ回転中心Xpを車両重心CGの近くに配置されるように、前後制動力配分BFRが調整される。この場合、
図3に示した時間差ΔTM1が短くなるため、
図4に示したように乗員伝達力F11の最大値を大きくできる。これにより、車両制動時に運転者81の車両10に対するフィーリングをよいものとすることができる。
【0052】
なお、本実施形態によれば、以下の効果をさらに得ることができる。
調整制御によって前後制動力配分BFRを基準制動力配分BFRbよりも高い状態を、車両10が停止するまで継続する手法も考えられる。この場合、後輪RR,RL用の制動機構30の作動量が多い状態が継続し続けることになり、後輪RR,RL用の制動機構30の構成部品の摩耗が進んでしまうことが懸念される。
【0053】
この点、本実施形態では、調整制御の実施時間が制御実施時間TMThに達すると、調整制御が終了される。すなわち、前後制動力配分BFRが基準制動力配分BFRbに戻される。
図6に示す例では、タイミングt12で、調整制御が終了され、縮退制御が開始される。縮退制御では、前後制動力配分BFRが基準制動力配分BFRbに向けて変更される。すなわち、後輪RL,RR用の制動機構30の作動量が減少される。そして、タイミングt13で前後制動力配分BFRが基準制動力配分BFRbになるため、縮退制御が終了される。すなわち、本実施形態では、後輪RR,RL用の制動機構30の作動量が多い状態が継続し続けることを抑制できる。したがって、後輪RR,RL用の制動機構30の構成部品の摩耗が進むことを抑制できる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、車両の姿勢制御装置の第2実施形態を
図8に従って説明する。以下の説明においては、ピッチ回転中心Xpを調整する手法が第1実施形態と異なっている。そこで、第2実施形態では、第1実施形態と相違している部分について主に説明し、第1実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0055】
本実施形態の制御装置50が適用される車両10は、後輪RL,RRには摩擦制動力BPrAに加えて回生制動力BPrBも付与できる。後輪RL,RRに付与する制動力の合計を後輪制動力合計値とし、後輪制動力合計値に対する回生制動力BPrBを後輪回生制動力配分BRBとした場合、制御装置50は、後輪回生制動力配分BRBを調整できる。
【0056】
後輪RL,RRに摩擦制動力BPrAを付与した場合、車両10ではアンチリフト力FALが発生する。また、後輪RL,RRに回生制動力BPrBを付与した場合、車両10ではアンチリフト力FALが発生する。摩擦制動力BPrAは、後輪RL,RRと路面100との接地点に作用するのに対し、回生制動力BPrBは、後輪RL,RRの回転中心に作用する。すなわち、摩擦制動力BPrAと回生制動力BPrBとでは、制動力の作用点が異なる。そのため、後輪制動力合計値が同じであっても、摩擦制動力BPrAが大きいほど、アンチリフト力FALが大きくなる。つまり、後輪回生制動力配分BRBを調整することにより、アンチリフト力FALの大きさを可変させることができる。
【0057】
そこで、本実施形態において、回転中心調整部51は、調整制御では、後輪回生制動力配分BRBを調整することにより、ピッチ回転中心Xpを調整する。例えば乗員伝達力F11の最大値が大きくなることを抑制する場合、回転中心調整部51は、調整制御において、後輪回生制動力配分BRBを小さくすることにより、ピッチ回転中心Xpを車両後方に配置できるとともに、ピッチ回転中心Xpと車両重心CGとの乖離を大きくできる。一方、乗員伝達力F11の最大値を大きくする場合、回転中心調整部51は、調整制御において、車両10の前後方向D1においてピッチ回転中心Xpを車両重心CGに近づくように、後輪回生制動力配分BRBを調整すればよい。
【0058】
図8には、後輪回生制動力配分BRBを調整する場合のタイミングチャートの一例が図示されている。
図8では、車両制動時において乗員伝達力F11の最大値を比較的大きくする場合である第1パターンにおける推移が実線で示されている。一方、車両制動時において乗員伝達力F11の最大値を大きくしない場合である第2パターンにおける推移が破線で示されている。
【0059】
まず、第1パターンについて説明する。
図8(a),(b),(c),(d)に示すように、タイミングt21で制動操作が運転者81によって開始されると、車両10に制動力が付与される。第1パターンにおける制動初期では、調整制御において、後輪回生制動力配分BRBとして第1配分BRB1が設定される。そのため、第1配分BRB1に従って、各後輪RR,RLに、摩擦制動力BPrA及び回生制動力BPrBの双方が付与される。
【0060】
第1配分BRB1は比較的大きい。そのため、第1パターンにおける制動初期では、両後輪RR,RLに対して比較的大きな回生制動力BPrBが付与される。上述したように後輪制動力合計値が同じである場合、後輪制動力合計値のうち回生制動力BPrBが占める割合が高いほど、車両10のアンチリフト力FALが小さくなる。そのため、第1パターンにおける制動初期では、ピッチ回転中心Xpが車両重心CGの近くに設定される。その結果、
図8(d)において実線で示すように、制動初期において、乗員伝達力F11を一時的に大きくできる。このように乗員伝達力F11を大きくすることにより、ピッチ回転中心Xpでの角加速度が大きくなる。
【0061】
タイミングt21からの経過時間が制御実施時間TMThに達するタイミングt22で調整制御が終了され、縮退制御が開始される。第1パターンにおいては、縮退制御によって、後輪回生制動力配分BRBが、「1」に向けて徐々に増大される。そして、タイミングt23で後輪回生制動力配分BRBが「1」になると、縮退制御が終了される。
【0062】
次に、第2パターンについて説明する。
タイミングt21で制動操作が運転者81によって開始されると、車両10に制動力が付与される。第2パターンにおける制動初期では、調整制御において、後輪回生制動力配分BRBとして第2配分BRB2が設定される。そのため、第2配分BRB2に従って、両後輪RR,RLに、摩擦制動力BPrA及び回生制動力BPrBの双方が付与される。
【0063】
第2配分BRB2は、第1配分BRB1よりも小さい。そのため、第2パターンにおける制動初期では、各後輪RR,RLに対して比較的大きな摩擦制動力BPrAが付与される。すなわち、制動初期にあっては、各後輪RR,RLに付与される回生制動力BPrBがあまり大きくならない。その結果、第1パターンと比較し、車両10のアンチリフト力FALが大きくなる。そのため、第2パターンにおける制動初期では、第1パターンと比較し、ピッチ回転中心Xpを車両後方に配置できる。すなわち、ピッチ回転中心Xpを、車両重心CGから離すことができる。したがって、
図8(d)において破線で示すように、制動初期において、乗員伝達力F11が大きくなることを抑制できる。すなわち、ピッチ回転中心Xpでの角加速度が大きくなることを抑制できる。
【0064】
第2パターンであっても、タイミングt21からの経過時間が制御実施時間TMThに達するタイミングt22で調整制御が終了され、縮退制御が開始される。縮退制御によって、後輪回生制動力配分BRBが、「1」に向けて徐々に変更される。そして、タイミングt24で後輪回生制動力配分BRBが「1」になると、縮退制御が終了される。
【0065】
本実施形態では、調整制御によって後輪回生制動力配分BRBを調整することにより、ピッチ回転中心Xpの前後方向D1における位置を制御できる。すなわち、前後制動力配分BFRを可変させなくても、ピッチ回転中心Xpの位置を制御できる。もちろん、前後制動力配分BFR及び後輪回生制動力配分BRBの双方を調整することによって、ピッチ回転中心Xpの位置を制御してもよい。
【0066】
(第3実施形態)
次に、車両の姿勢制御装置の第3実施形態を
図9及び
図10に従って説明する。以下の説明においては、ロール回転中心Xrを調整する点が上記各実施形態と異なっている。そこで、第3実施形態では、上記各実施形態と相違している部分について主に説明し、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0067】
図9に示す車両10が旋回する場合、車両10には横加速度Gyが作用する。この場合、横加速度Gyに応じた慣性力F41が、車両10の乗員80に付与される。慣性力F41は、外方向に作用する。
【0068】
また、車両10の旋回時には、車両10がローリング運動をする。すなわち、ローリング運動に起因する回転力F42が乗員80に付与される。
ここで、シート12の座部121には、乗員80の横方向D3への移動を規制することを目的として凹部が形成されていることがある。こうしたシート12に乗員80が着座する場合、乗員80の臀部が凹部内に収容されるかたちとなる。
【0069】
そのため、乗員80に回転力F42が付与されている場合、当該回転力F42が乗員80を介してシート12の座部121に入力される。その結果、回転力F42への反力である反発力F43が座部121から乗員80の臀部に付与される。反発力F43の向きは慣性力F41の向きとほぼ同じである。よって、慣性力F41が大きいタイミングと反発力F43が大きいタイミングとの時間差が短いと、乗員80に付与される乗員伝達力F45の最大値が大きくなり、車両旋回時における乗員80の姿勢変化が大きくなりやすい。
【0070】
ローリング運動とは、前後方向D1に延びる回転軸を中心とする車体11の回転運動である。横方向D3において、ロール回転中心Xrを車両重心CGの近くに配置することにより、上記の時間差を短くできる。すなわち、車両旋回時における乗員80の姿勢変化を大きくできる。一方、横方向D3において、ロール回転中心Xrを車両重心CGから離すことにより、上記の時間差を長くできる。すなわち、車両旋回時における乗員80の姿勢変化が大きくなることを抑制できる。
【0071】
そこで、本実施形態において、回転中心調整部51は、車両旋回時における乗員80の姿勢変化を調整するべく、ロール回転中心Xrの横方向D3における位置を可変させる。例えば車両旋回時における乗員80の姿勢変化を大きくする場合、回転中心調整部51は、横方向D3において車両重心CGと重なる位置をロール回転中心Xrとして設定する。また例えば車両旋回時における乗員80の姿勢変化が大きくなることを抑制する場合、回転中心調整部51は、横方向D3において車両重心CGから離れた位置をロール回転中心Xrとして設定する。
【0072】
車両旋回時における乗員80の姿勢変化を大きくするか否かについては、車両10に搭乗する乗員80の数、及び、車室内での乗員80の位置を基に決めるとよい。例えば、運転者81のみが車両10に搭乗している場合、回転中心調整部51は、車両旋回時における乗員80、すなわち運転者81の姿勢変化を大きくすると決めるとよい。また例えば、運転者81を含む複数の乗員80が車両10に搭乗している場合、回転中心調整部51は、車両旋回時における各乗員80の姿勢変化を大きくしないと決めるとよい。
【0073】
車両10が旋回する際に制動力が車両10に付与されている場合、各車輪FL,FR,RL,RRに付与される制動力を調整することにより、横方向D3におけるロール回転中心Xrの位置を制御できる。
【0074】
各前輪FL,FRに制動力が付与されている場合、車体11の右前部には、右前輪FRに付与される制動力に応じたアンチダイブ力FADが付与される。車体11の左前部には、左前輪FLに付与される制動力に応じたアンチダイブ力FADが付与される。車両旋回時において、右前輪FRに付与される制動力と左前輪FLに付与される制動力との差を調整することにより、車両前部におけるロール回転中心Xrの横方向D3における位置を調整できる。
【0075】
各前輪FR,FLのうち、旋回時内側に位置する前輪を内側前輪とし、旋回時外側に位置する前輪を外側前輪とする。この場合、内側前輪に付与される制動力と、外側前輪に付与される制動力とを同じ大きさとすることにより、ロール回転中心Xrを、車両10の横方向D3における中心付近に設定できる。すなわち、横方向D3において、ロール回転中心Xrを車両重心CGの近くに配置できる。一方、外側前輪に付与される制動力を内側前輪に付与される制動力よりも大きくすることにより、車両前部における旋回時外側の部分に付与されるアンチダイブ力FADが、車両前部における旋回時内側の部分に付与されるアンチダイブ力FADよりも大きくなる。その結果、ロール回転中心Xrを、車両10の横方向D3において中心よりも外方に配置できる。また、外側前輪に付与される制動力を内側前輪に付与される制動力よりも小さくすることにより、車両前部における旋回時内側の部分に付与されるアンチダイブ力FADが、車両前部における旋回時外側の部分に付与されるアンチダイブ力FADよりも小さくなる。これにより、各前輪FR,FLのストローク量が大きくなるため、ロール回転中心Xrを、車両10の横方向D3において中心付近に配置できる。したがって、車両10の姿勢を大きく変化させることができる。
【0076】
各後輪RL,RRに制動力が付与されている場合、車体11の右後部には、右後輪RRに付与される制動力に応じたアンチリフト力FALが付与される。車体11の左後部には、左後輪RLに付与される制動力に応じたアンチリフト力FALが付与される。車両旋回時において、右後輪RRに付与される制動力と左後輪RLに付与される制動力との差を調整することにより、車両前部におけるロール回転中心Xrの横方向D3における位置を調整できる。
【0077】
各後輪RL,RRのうち、旋回時内側に位置する後輪を内側後輪とし、旋回時外側に位置する後輪を外側後輪とする。この場合、内側後輪に付与される制動力と、外側後輪に付与される制動力とを同じ大きさとすることにより、ロール回転中心Xrを、車両10の横方向D3における中心付近に設定できる。すなわち、横方向D3において、ロール回転中心Xrを車両重心CGの近くに配置できる。一方、内側後輪に付与される制動力を外側後輪に付与される制動力よりも大きくすることにより、車両後部における旋回時内側の部分に付与されるアンチリフト力FALが、車両後部における旋回時外側の部分に付与されるアンチリフト力FALよりも大きくなる。その結果、ロール回転中心Xrを、車両10の横方向D3において中心よりも内方に配置できる。また、内側後輪に付与される制動力を外側後輪に付与される制動力よりも小さくすることにより、車両後部における旋回時内側の部分に付与されるアンチリフト力FALが、車両後部における旋回時外側の部分に付与されるアンチリフト力FALよりも小さくなる。これにより、各後輪RR,RLのストローク量が大きくなるため、ロール回転中心Xrを、車両10の横方向D3において中心付近に配置できる。したがって、車両10の姿勢を大きく変化させることができる。
【0078】
ところで、車体11は前後方向D1に長い。そのため、車体11の前部のローリング運動と後部のローリング運動との態様を異ならせることにより、車体11を多少ねじらせることができる。そのため、回転中心調整部51は、調整制御において、内側前輪に付与される制動力と内側前輪に付与される制動力との差、及び、内側後輪に付与される制動力と内側後輪に付与される制動力との差を個別に調整することにより、
図9及び
図10に示すように、横方向D3において、車両前部におけるロール回転中心XrFと、車両前部におけるロール回転中心XrRとの位置をずらすことができる。
【0079】
そのため、車両前部においては、横方向D3においてロール回転中心XrFを車両重心CGの近くに配置することにより、運転者81に付与される乗員伝達力F45を大きくすることができる。これにより、車両旋回に伴う運転者81の姿勢の変化量を大きくできる。
【0080】
一方、車両後部においては、横方向D3においてロール回転中心XrFを車両重心CGから離間させることにより、後部座席に着座する乗員82に付与される乗員伝達力F45が大きくなることを抑制できる。これにより、車両旋回に伴う乗員82の姿勢の変化量を大きくできる。
【0081】
(変更例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0082】
・上記各実施形態では、車輪FL,FR,RL,RRに付与される制動力を調整することによって、車両制動時におけるサスペンション15FL,15FR,15RL,15RRの伸縮量を調整している。しかし、制動力以外の制御量を調整することにより、サスペンションの伸縮量を調整してもよい。例えば、車両10が加速する場合にあっては、各車輪に付与される駆動力を調整することにより、各サスペンションの伸縮量を調整してもよい。
【0083】
また例えば、サスペンションとして、その剛性を可変させることができるサスペンションが採用されている場合、サスペンションの剛性を調整することにより、サスペンションの伸縮量を調整するようにしてもよい。また例えばアクティブ・スタビライザが車両10に搭載されている場合、アクティブ・スタビライザを制御することにより、サスペンションの伸縮量を調整するようにしてもよい。また例えばサスペンションと並列に配置されているダンパの減衰力を可変させることができる場合、減衰力を調整することにより、サスペンションの伸縮速度を調整するようにしてもよい。なお、サスペンションの伸縮速度を調整するということは、車輪FL,FR,RL,RRに対する車体11の上下方向のストローク量の変化速度を調整することでもある。
【0084】
このように制動力以外の制御量を調整して各サスペンションの伸縮を調整する場合にあっては、各サスペンションの伸縮の態様を調整するために制動力を調整してもよいし、各サスペンションの伸縮の態様を調整するための制動力の調整を行わなくてもよい。
【0085】
なお、車輪FL,FR,RL,RRに対する車体11の上下方向のストローク量の変化速度を調整する場合には、ストローク量を調整してもよいし、ストローク量自体は調整しなくてもよい。
【0086】
・調整制御では、全ての車輪FL,FR,RL,RRに関して、車輪に対する車体11の上下方向のストローク量及びストローク量の変化速度のうち少なくとも一方を調整するようにしてもよい。また、調整制御では、一部の車輪に関して、車輪に対する車体11の上下方向のストローク量及びストローク量の変化速度のうち少なくとも一方を調整するようにしてもよい。
【0087】
・車両が無人で走行していることが乗員情報取得部52によって取得された場合にあっては、ピッチ回転中心Xp及びロール回転中心Xrのうちの少なくとも一方の位置を調整する調整制御を実施しなくてもよい。もちろん、車両が無人で走行している場合においても調整制御を実施するようにしてもよい。この場合、調整制御では、例えば車内における荷物の位置を基に、ピッチ回転中心Xp及びロール回転中心Xrのうちの少なくとも一方の位置を調整してもよい。
【0088】
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、前後方向D1において、ピッチ回転中心Xpを車両重心CGよりも前方に配置することで、ピッチ回転中心Xpを車両重心CGから離間させてもよい。例えば、「0」若しくは「0」に近い値を、前後制動力配分BFRとして設定することにより、ピッチ回転中心Xpを車両重心CGよりも前方に配置できる。
【0089】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、乗員情報に基づいてピッチ回転中心Xpの前後方向D1における位置を決定していたが、乗員情報とは異なる他の情報を基にピッチ回転中心Xpの前後方向D1における位置を決定してもよい。例えば、自動運転で車両10が走行しているか運転者による操作によって車両10が走行しているかによって、ピッチ回転中心Xpの前後方向D1における位置を決定してもよい。この場合、例えば、自動運転時にあってはピッチ回転中心Xpを車両重心CGから離れた位置に決定し、手動運転時にあってはピッチ回転中心Xpを車両重心CGの近くに決定することができる。
【0090】
・上記第3実施形態では、乗員情報に基づいてロール回転中心Xrの横方向D3における位置を決定していたが、乗員情報とは異なる他の情報を基にロール回転中心Xrの横方向D3における位置を決定してもよい。例えば、自動運転で車両10が走行しているか運転者による操作によって車両10が走行しているかによって、ロール回転中心Xrの横方向D3における位置を決定してもよい。この場合、例えば、自動運転時にあってはロール回転中心Xrを車両重心CGから離れた位置に決定し、手動運転時にあってはロール回転中心Xrを車両重心CGの近くに決定することができる。
【0091】
・乗員情報取得部52では、車両10に搭乗している乗員80の数を乗員情報として取得するのであれば、各乗員80の位置を取得しなくてもよい。
・乗員情報取得部52では、車両10に乗員80が搭乗しているか否かを乗員情報として取得するようにしてもよい。
【0092】
・乗員情報に応じて調整制御の内容を変更しなくてもよい。調整制御の実施条件が成立している場合には、例えば、乗員伝達力を小さくする方向に制御量を制御する調整制御を実施してもよい。
【0093】
・上記各実施形態では、調整制御の実施時間が制御実施時間TMThに達すると、調整制御を終了して縮退制御を開始していたが、これに限らない。例えば、上記第1実施形態及び第2実施形態において、車両制動が継続している間にあっては、調整制御を継続してもよい。また例えば、上記第3実施形態において、車両10が旋回している間にあっては、調整制御を継続してもよい。
【符号の説明】
【0094】
10…車両
11…車体
15FL,15FR,15RL,15RR…サスペンション
20…駆動装置
40…制動装置
50…姿勢制御装置の一例である制御装置
51…回転中心調整部
52…乗員情報取得部
80…乗員
81…運転者
82…乗員
FL,FR,RL,RR…車輪