(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体、および、銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体
(51)【国際特許分類】
H01L 23/13 20060101AFI20240806BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240806BHJP
C04B 37/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01L23/12 C
H01L23/36 C
C04B37/00 B
(21)【出願番号】P 2020179736
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2019200724
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】大橋 東洋
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 晶
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/087432(WO,A1)
【文献】特開2015-532531(JP,A)
【文献】特開2019-129154(JP,A)
【文献】特開2012-246173(JP,A)
【文献】特許第6130362(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00
H01L 23/36
H01L 23/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材と、窒素を含むセラミックスからなるセラミックス部材とが接合された構造のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体であって、
前記グラフェン含有炭素質部材と前記セラミックス部材との接合界面において、前記セラミックス部材の接合面に活性金属窒化物層が形成されており、この活性金属窒化物層の厚さが0.05μm以上2μm以下の範囲内とされていることを特徴とするグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記グラフェン含有炭素質部材と前記セラミックス部材との接合界面において、前記グラフェン含有炭素質部材の接合面に、活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の厚さが0.05μm以上3μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体。
【請求項3】
前記グラフェン含有炭素質部材と前記セラミックス部材との接合界面において、前記活性金属窒化物層と前記活性金属化合物層の間に、AgとCuを含む合金層が形成されており、前記合金層の厚さが1μm以上20μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項2に記載のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体。
【請求項4】
前記グラフェン含有炭素質部材は、単層又は多層のグラフェンが堆積してなるグラフェン集合体と扁平形状の黒鉛粒子とを含み、扁平形状の前記黒鉛粒子が、そのベーサル面が折り重なるように前記グラフェン集合体をバインダーとして積層され、扁平形状の前記黒鉛粒子のベーサル面が一方向に向けて配向した構造とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体。
【請求項5】
銅又は銅合金からなる銅部材と、グラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材と、窒素を含むセラミックスからなるセラミックス部材とが接合された構造の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体であって、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体の前記グラフェン含有炭素質部材と前記銅部材とが接合されていることを特徴とする銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体。
【請求項6】
前記グラフェン含有炭素質部材と前記銅部材との接合界面において、前記グラフェン含有炭素質部材の接合面に、活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の厚さが0.05μm以上3μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項5に記載の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体。
【請求項7】
前記グラフェン含有炭素質部材と前記銅部材との接合界面において、前記銅部材と前記活性金属化合物層の間に、AgとCuを含む合金層が形成されており、前記合金層の厚さが1μm以上20μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項6に記載の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、グラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材と窒素を含むセラミックスからなるセラミックス部材とが接合された構造のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体、および、このグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体に銅又は銅合金からなる銅部材が接合された銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材は、熱伝導性に優れていることから、放熱部材及び熱伝導部材等を構成する部材として特に適している。
例えば、上述のグラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材の表面にセラミックス等からなる絶縁層を形成することにより、絶縁基板として使用することが可能となる。
【0003】
ここで、例えば特許文献1には、第1方向に沿ってグラフェンシートが積層された構造体と、第1方向と交差する第2方向における上記構造体の端面に接合される中間部材(セラミックス)と、を有し、この中間部材(例えばセラミックス)が、少なくともチタンを含むインサート材を介して、上記端面に加圧接合された異方性熱伝導素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の絶縁基板においては、使用環境下において冷熱サイクルが負荷されることがある。特に、最近では、エンジンルーム等の過酷な環境下で使用されることがあり、温度差が大きな厳しい条件の冷熱サイクルが負荷されることがある。
ここで、上述の特許文献1においては、セラミックスからなる中間体とグラフェンの構造体とを、チタンを含むインサート材を介して接合しているが、接合条件によっては、セラミックスからなる中間体とグラフェンの構造体とを強固に接合することができず、厳しい条件の冷熱サイクルが負荷された際に剥離が生じるおそれがあった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セラミックス部材とグラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材とが強固に接合されており、冷熱サイクル負荷時においても剥離が生じることがなく、冷熱サイクル信頼性に優れたグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体、および、このグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体に銅又は銅合金からなる銅部材が接合された銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体は、グラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材と、窒素を含むセラミックスからなるセラミックス部材とが接合された構造のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体であって、前記グラフェン含有炭素質部材と前記セラミックス部材との接合界面において、前記セラミックス部材の接合面に活性金属窒化物層が形成されており、この活性金属窒化物層の厚さが0.05μm以上2μm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0008】
この構成のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体においては、前記グラフェン含有炭素質部材と窒素を含むセラミックスからなるセラミックス部材との接合界面において、前記セラミックス部材の接合面に活性金属窒化物層が形成されており、この活性金属窒化物層の厚さが0.05μm以上とされているので、活性金属によってセラミックス部材の接合面が十分に反応しており、グラフェン含有炭素質部材とセラミックス部材とを強固に接合することが可能となる。
また、活性金属窒化物層の厚さが2μm以下に制限されているので、冷熱サイクル負荷時において活性金属窒化物層にクラックが生じることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0009】
ここで、本発明のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体においては、前記グラフェン含有炭素質部材と前記セラミックス部材との接合界面において、前記グラフェン含有炭素質部材の接合面に、活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の厚さが0.05μm以上3μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記グラフェン含有炭素質部材と前記セラミックス部材との接合界面において、前記グラフェン含有炭素質部材の接合面に、活性金属化合物層が形成され、前記活性金属化合物層の厚さが0.05μm以上とされているので、活性金属によってグラフェン含有炭素質部材の接合面が十分に反応しており、グラフェン含有炭素質部材とセラミックス部材とをさらに強固に接合することが可能となる。また、前記活性金属化合物層の厚さが3μm以下に制限されているので、冷熱サイクル負荷時において活性金属化合物層にクラックが生じることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0010】
さらに、本発明のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体においては、前記グラフェン含有炭素質部材と前記セラミックス部材との接合界面において、前記活性金属窒化物層と前記活性金属化合物層の間に、AgとCuを含む合金層が形成されており、前記合金層の厚さが1μm以上20μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、接合材に含まれるAgとCuが十分に反応することで上述の合金層が形成されており、前記合金層の厚さが1μm以上とされているので、前記グラフェン含有炭素質部材と前記セラミックス部材との接合強度をさらに向上させることができる。また、前記合金層の厚さが20μm以下に制限されているので、冷熱サイクル負荷時において前記合金層にクラックが生じることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0011】
さらに、本発明のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体においては、前記グラフェン含有炭素質部材は、単層又は多層のグラフェンが堆積してなるグラフェン集合体と扁平形状の黒鉛粒子とを含み、扁平形状の前記黒鉛粒子が、そのベーサル面が折り重なるように前記グラフェン集合体をバインダーとして積層され、扁平形状の前記黒鉛粒子のベーサル面が一方向に向けて配向した構造とされていることが好ましい。
この場合、グラフェン含有炭素質部材における熱伝導特性をさらに向上させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、グラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材と、窒素を含むセラミックスからなるセラミックス部材とが接合された構造の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体であって、上述のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体の前記グラフェン含有炭素質部材と前記銅部材とが接合されていることを特徴としている。
【0013】
この構成の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体によれば、上述のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体の前記グラフェン含有炭素質部材と前記銅部材とが接合されているので、冷熱サイクル信頼性に優れることになる。また、銅部材によってグラフェン含有炭素質部材が保護され、前記グラフェン含有炭素質部材におけるひび割れの発生を抑制することができる。
【0014】
ここで、本発明の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体においては、前記グラフェン含有炭素質部材と前記銅部材との接合界面において、前記グラフェン含有炭素質部材の接合面に、活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の厚さが0.05μm以上3μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記グラフェン含有炭素質部材と前記銅部材との接合界面において、前記グラフェン含有炭素質部材の接合面に、活性金属化合物層が形成され、前記活性金属化合物層の厚さが0.05μm以上とされているので、活性金属によってグラフェン含有炭素質部材の接合面が十分に反応しており、グラフェン含有炭素質部材と銅部材とをさらに強固に接合することが可能となる。また、前記活性金属化合物層の厚さが3μm以下に制限されているので、冷熱サイクル負荷時において活性金属化合物層にクラックが生じることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体においては、前記グラフェン含有炭素質部材と前記銅部材との接合界面において、前記銅部材と前記活性金属化合物層の間に、AgとCuを含む合金層が形成されており、前記合金層の厚さが1μm以上20μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、接合材に含まれるAgとCuが十分に反応することで上述の合金層が形成されており、前記合金層の厚さが1μm以上とされているので、前記グラフェン含有炭素質部材と前記銅部材との接合強度をさらに向上させることができる。また、前記合金層の厚さが20μm以下に制限されているので、冷熱サイクル負荷時において前記合金層にクラックが生じることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、セラミックス部材とグラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材とが強固に接合されており、冷熱サイクル負荷時においても剥離が生じることがなく、冷熱サイクル信頼性に優れたグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体、および、このグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体に銅又は銅合金からなる銅部材が接合された銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板)を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板)の概略説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板)のグラフェン含有炭素質部材(炭素板)とセラミックス部材(セラミックス板)の接合界面の観察結果である。(a)が倍率500倍での観察結果であり、(b)が倍率5000倍での観察結果である。
【
図4】本発明の第1の実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板)のグラフェン含有炭素質部材とセラミックス部材の接合界面の模式図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板)の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態である銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁回路基板)の概略説明図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態である銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁回路基板)の銅部材(回路層および金属層)とグラフェン含有炭素質部材(炭素板)との接合界面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
(第1の実施形態)
まず、
図1から
図5を参照して本発明の第1の実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体について説明する。
本実施形態におけるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体は、グラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材と窒素を含むセラミックスとを接合した構造の絶縁基板20とされている。
【0020】
まず、本実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板20)を用いたパワーモジュールについて説明する。
図1に示すパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方の面側(
図1において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方の面側(
図1において下側)に配設されたヒートシンク31とを備えている。
【0021】
絶縁回路基板10は、絶縁層と、この絶縁層の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、絶縁層の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
絶縁層は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態である絶縁基板20で構成されている。
【0022】
回路層12は、絶縁層(絶縁基板20)の一方の面に、導電性に優れた金属板が接合されることによって形成されている。本実施形態では、回路層12を構成する金属板として、銅又は銅合金からなる銅板、具体的には無酸素銅の圧延板が用いられている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。
また、回路層12となる金属板(銅板)の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
なお、回路層12となる金属板(銅板)と絶縁基板20との接合方法は、特に制限はなく、活性金属ろう材等を用いて接合することができる。
【0023】
金属層13は、絶縁層(絶縁基板20)の他方の面に、熱伝導性に優れた金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13を構成する金属板として、銅又は銅合金からなる銅板、具体的には無酸素銅の圧延板が用いられている。
また、金属層13となる金属板(銅板)の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
なお、金属層13となる金属板(銅板)と絶縁基板20との接合方法は、特に制限はなく、活性金属ろう材等を用いて接合することができる。
【0024】
ヒートシンク31は、前述の絶縁回路基板10を冷却するためのものであり、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路32が複数設けられた構造をなしている。
このヒートシンク31は、熱伝導性が良好な材質、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金、銅又は銅合金で構成されていることが好ましく、本実施形態においては、純度が99mass%以上の2Nアルミニウムで構成されている。
なお、本実施形態では、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク31は、固相拡散接合法によって接合されている。
【0025】
半導体素子3は、例えばSiやSiC等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材からなるはんだ層2を介して回路層12上に搭載されている。
【0026】
そして、絶縁層を構成する本実施形態である絶縁基板20は、
図2に示すように、窒素を含むセラミックスからなるセラミックス板25と、グラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材からなる炭素板21と、が積層した構造とされており、セラミックス板25の両主面にそれぞれ炭素板21が接合されている。
【0027】
セラミックス板25を構成する窒素を含むセラミックスとしては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)等が挙げられる。
このセラミックス板25の厚さの下限は100μm以上であることが好ましく、250μm以上であることがさらに好ましい。一方、セラミックス板25の厚さの上限は1500μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
炭素板21を構成するグラフェン含有炭素質部材は、単層又は多層のグラフェンが堆積してなるグラフェン集合体と扁平形状の黒鉛粒子とを含み、扁平形状の黒鉛粒子が、そのベーサル面が折り重なるように、グラフェン集合体をバインダーとして積層された構造とされていることが好ましい。
【0029】
扁平形状の黒鉛粒子は、炭素六角網面が現れるベーサル面と、炭素六角網面の端部が現れるエッジ面と、を有するものである。この扁平形状の黒鉛粒子としては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛、薄片状黒鉛、キッシュグラファイト、熱分解黒鉛、高配向熱分解黒鉛等を用いることができる。
ここで、黒鉛粒子のベーサル面から見た平均粒径は、10μm以上1000μm以下の範囲内であることが好ましく、50μm以上800μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。黒鉛粒子の平均粒径を上述の範囲内とすることで、熱伝導性が向上する。
さらに、黒鉛粒子の厚さは、1μm以上50μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上20μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。黒鉛粒子の厚さを上述の範囲内とすることで、黒鉛粒子の配向性が適度に調整される。
また、黒鉛粒子の厚みがベーサル面から見た粒径の1/1000~1/2の範囲内とすることによって、優れた熱伝導性と黒鉛粒子の配向性が適度に調整される。
【0030】
グラフェン集合体は、単層又は多層のグラフェンが堆積したものであり、多層のグラフェンの積層数は、例えば100層以下、好ましくは50層以下とされている。このグラフェン集合体は、例えば、単層又は多層のグラフェンが低級アルコールや水を含む溶媒に分散されたグラフェン分散液を、ろ紙上に滴下し、溶媒を分離しながら堆積させることによって製造することが可能である。
ここで、グラフェン集合体の平均粒径は、1μm以上1000μm以下の範囲内であることが好ましい。グラフェン集合体の平均粒径を上述の範囲内とすることで、熱伝導性が向上する。
さらに、グラフェン集合体の厚さは、0.05μm以上50μm未満の範囲内であることが好ましい。グラフェン集合体の厚さを上述の範囲内とすることで、炭素質部材の強度が確保される。
なお、炭素板 21の厚さとしては、0.5mm以上5mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0031】
ここで、
図3に、グラフェン含有炭素質部材からなる炭素板21とセラミックス板25との接合界面の観察写真を、
図4に、グラフェン含有炭素質部材からなる炭素板21とセラミックス板25との接合界面の模式図を示す。
図3において、上方の黒色部が炭素板21(グラフェン含有炭素質部材)であり、その下方に位置する灰色部がセラミックス板25である。
【0032】
図3(a)及び
図4に示すように、グラフェン含有炭素質部材からなる炭素板21とセラミックス板25との接合界面40においては、セラミックス板25の接合面に、活性金属窒化物層41が形成されている。
また、
図3(b)及び
図4に示すように、接合界面40においては、炭素板21の接合面に、活性金属酸化物及び活性金属炭化物の1種又は2種を含む活性金属化合物層42が形成されている。
さらに、
図3(b)及び
図4に示すように、活性金属窒化物層41と活性金属化合物層42の間には、AgとCuを含有する合金層43が形成されている。
すなわち、本実施形態においては、接合界面40は、セラミックス板25側から順に、活性金属窒化物層41、合金層43、活性金属化合物層42が積層された構造とされている。
【0033】
活性金属窒化物層41は、接合時において炭素板21とセラミックス板25の間に介在される接合材に含まれる活性金属が、セラミックス板25に含まれる窒素と反応することによって形成されるものである。
活性金属窒化物層41を構成する活性金属としては、例えば、Ti,Zr,Hf、Nbから選択される1種又は2種以上を用いることができる。本実施形態では、活性金属はTiとされており、活性金属窒化物層41はチタン窒化物(Ti-N)で構成されている。
【0034】
ここで、活性金属窒化物層41の厚さt1が0.05μm未満であると、接合材とセラミックス板25との反応が十分ではなく、セラミックス板25の接合強度が不十分となるおそれがある。一方、活性金属窒化物層41の厚さt1が2μmを超えると、冷熱サイクル負荷時に活性金属窒化物層41においてクラックが発生するおそれがある。
よって、本実施形態では、活性金属窒化物層41の厚さt1を、0.05μm以上2μm以下の範囲内に設定している。
なお、活性金属窒化物層41の厚さt1の下限は0.1μm以上であることがさらに好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。一方、活性金属窒化物層41の厚さt1の上限は1μm以下であることがさらに好ましく、0.7μm以下であることがより好ましい。
【0035】
活性金属化合物層42は、接合時において炭素板21とセラミックス板25の間に介在される接合材に含まれる活性金属が、酸素及び炭素と反応することで形成されるものである。
上述のように、本実施形態では、活性金属はTiとされており、活性金属化合物層42は、チタン酸化物(Ti-O)及びチタン炭化物(Ti-C)の1種又は2種を含むものとされている。
【0036】
ここで、活性金属化合物層42の厚さt2が0.05μm以上であれば、接合材と炭素板21との反応が促進されており、炭素板21の接合強度が十分に確保される。一方、活性金属化合物層42の厚さt2が3μm以下であれば、冷熱サイクル負荷時に活性金属化合物層42におけるクラックの発生を抑制することができる。
よって、本実施形態においては、活性金属化合物層42の厚さt2は、0.05μm以上3μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、活性金属化合物層42の厚さt2の下限は0.1μm以上であることがさらに好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。一方、活性金属化合物層42の厚さt2の上限は2μm以下であることがさらに好ましく、1.8μm以下であることがより好ましい。
【0037】
合金層43は、接合時において炭素板21とセラミックス板25の間に介在される接合材に含まれるAg、Cuが反応することで形成されるものである。
本実施形態においては、この合金層43は、Agを30mass%以上70mass%以下の範囲内、Cuを15mass%以上45mass%以下の範囲内で含むものとされている。
【0038】
ここで、合金層43の厚さt3が1μm以上であれば、接合材の反応が十分に促進されており、炭素板21とセラミックス板25との接合強度が十分に確保される。一方、合金層43の厚さt3が20μm以下であれば、冷熱サイクル負荷時に合金層43におけるクラックの発生を抑制することができる。
よって、本実施形態においては、合金層43の厚さt3は、1μm以上20μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、合金層43の厚さt3の下限は2μm以上であることがさらに好ましく、3μm以上であることがより好ましい。一方、合金層43の厚さt3の上限は10μm以下であることがさらに好ましく、8μm以下であることがより好ましい。
【0039】
次に、本実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板20)の製造方法について、
図5に示すフロー図を参照して説明する。
【0040】
(炭素板形成工程S01)
まず、上述した扁平形状の黒鉛粒子とグラフェン集合体とを所定の配合比となるように秤量し、これをボールミル等の既存の混合装置によって混合する。
得られた混合物を、所定の形状の金型に充填して加圧することにより成形体を得る。なお、加圧時に加熱を実施してもよい。
そして、得られた成形体に対して切り出し加工を行い、炭素板21を得る。
【0041】
なお、成形時の圧力は、20MPa以上1000MPa以下の範囲内とすることが好ましく、100MPa以上300MPa以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
また、成形時の温度は、50℃以上300℃以下の範囲内とすることが好ましい。
さらに、加圧時間は、0.5分以上10分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0042】
(積層工程S02)
次に、セラミックス板25の両主面に、接合材を介して、上述の炭素板21をそれぞれ積層する。
ここで、接合材としては、AgとCuと活性金属(本実施形態ではTi)を含有するものを使用する。なお、接合材は、ペースト状であってもよいし、箔であってもよい。また、例えばCu-Ag合金と活性金属とを積層したものであってもよい。
本実施形態では、接合材として、Cuを18mass%以上34mass%以下の範囲、Tiを0.3mass%以上7mass%以下の範囲で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成のものを用いた。
【0043】
(接合工程S03)
次に、接合材を介して積層したセラミックス板25及び炭素板21を、積層方向に加圧するとともに加熱した後、冷却することにより、セラミックス板25と炭素板21とを接合する。
ここで、加熱温度は790℃以上900℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、加熱温度での保持時間は20分以上180分以下の範囲内とすることが好ましい。さらに、加圧圧力は0.1MPa以上3.5MPa以下の範囲内とすることが好ましい。また、雰囲気は減圧雰囲気や窒素ガス雰囲気などの非酸化雰囲気とされていることが好ましい。
【0044】
この接合工程S03により、接合材に含まれる活性金属(本実施形態ではTi)がセラミックス板25に含まれる窒素と反応することで、セラミックス板25の接合面に活性金属窒化物層41が形成される。
また、接合材に含まれる活性金属(本実施形態ではTi)が酸素及び炭素と反応することで、炭素板21の接合面に活性金属化合物層42が形成される。
さらに、接合材に含まれるCuとAgが反応することで、活性金属窒化物層41と活性金属化合物層42の間に合金層43が形成される。
【0045】
以上の工程により、本実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板20)が製造されることになる。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板20)によれば、グラフェン含有炭素質部材からなる炭素板21と窒素を含むセラミックスからなるセラミックス板25の接合界面40において、セラミックス板25の接合面に活性金属窒化物層41が形成されており、この活性金属窒化物層41の厚さが0.05μm以上とされているので、接合材に含まれる活性金属(本実施形態では、Ti)とセラミックス板25とが十分に反応しており、炭素板21とセラミックス板25とを強固に接合することが可能となる。
また、活性金属窒化物層41の厚さが2μm以下に制限されているので、冷熱サイクル負荷時において活性金属窒化物層にクラックが生じることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0047】
本実施形態において、炭素板21とセラミックス板25の接合界面40における炭素板21の接合面に、活性金属化合物層42が形成されており、活性金属化合物層42の厚さが0.05μm以上とされている場合には、接合材に含まれる活性金属(本実施形態では、Ti)とグラフェン含有炭素質部材からなる炭素板21の接合面が十分に反応しており、炭素板21とセラミックス板25との接合強度をさらに向上させることができる。一方、活性金属化合物層42の厚さが3μm以下に制限されている場合には、冷熱サイクル負荷時に活性金属化合物層42におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態において、炭素板21とセラミックス板25の接合界面40に、AgとCuを含む合金層43が形成されており、この合金層43の厚さが1μm以上とされている場合には、接合材に含まれるAgとCuが十分に反応しており、炭素板21とセラミックス板25との接合強度をさらに向上させることができる。一方、合金層43の厚さが20μm以下に制限されている場合には、冷熱サイクル負荷時に合金層43におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0049】
さらに、本実施形態において、炭素板21を構成するグラフェン含有炭素質部材が、単層又は多層のグラフェンが堆積してなるグラフェン集合体と扁平形状の黒鉛粒子とを含み、扁平形状の前記黒鉛粒子が、そのベーサル面が折り重なるように前記グラフェン集合体をバインダーとして積層され、扁平形状の前記黒鉛粒子のベーサル面が一方向に向けて配向した構造とされている場合には、炭素板21(グラフェン含有炭素質部材)における熱伝導特性をさらに向上させることが可能となる。
【0050】
(第2の実施形態)
次に、
図6及び
図7を参照して本発明の第2の実施形態である銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体について説明する。
本実施形態における銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、グラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材と、窒素を含むセラミックスと、を接合した構造の絶縁回路基板110とされている。
【0051】
まず、本実施形態である銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁回路基板110)を用いたパワーモジュールについて説明する。
図6に示すパワーモジュール101は、絶縁回路基板110と、この絶縁回路基板110の一方の面側(
図6において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板110の他方の面側(
図6において下側)に配設されたヒートシンク31とを備えている。
【0052】
ヒートシンク31は、前述の絶縁回路基板10を冷却するためのものであり、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路32が複数設けられた構造をなしている。
このヒートシンク31は、熱伝導性が良好な材質、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金、銅又は銅合金で構成されていることが好ましく、本実施形態においては、純度が99mass%以上の2Nアルミニウムで構成されている。
なお、本実施形態では、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク31は、固相拡散接合法によって接合されている。
【0053】
半導体素子3は、例えばSiやSiC等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材からなるはんだ層2を介して回路層12上に搭載されている。
【0054】
本実施形態である銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁回路基板110)は、第1の実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体からなる絶縁基板20と、この絶縁基板20の一方の面(
図6において上面)に配設された回路層112と、絶縁基板20の他方の面(
図6において下面)に配設された金属層113とを備えている。
【0055】
回路層112は、絶縁基板20の一方の面に、導電性に優れた銅板が接合されることによって形成されている。本実施形態では、回路層112を構成する銅板として、無酸素銅の圧延板が用いられている。
ここで、回路層112となる銅板(銅板)の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
なお、本実施形態では、
図6に示すように、回路層112の大きさは、炭素板21と同等以上とされている。
【0056】
金属層113は、絶縁基板20の他方の面に、熱伝導性に優れた銅板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113を構成する銅板として、無酸素銅の圧延板が用いられている。
ここで、金属層113となる銅板(銅板)の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
なお、本実施形態では、
図6に示すように、金属層113の大きさは、炭素板21と同等以上とされている。
【0057】
ここで、
図7に、グラフェン含有炭素質部材からなる炭素板21と回路層112(金属層113)との接合界面の模式図を示す。
図7に示すように、グラフェン含有炭素質部材からなる炭素板21と回路層112(金属層113)との接合界面140においては、炭素板21の接合面に、活性金属酸化物及び活性金属炭化物の1種又は2種を含む活性金属化合物層142が形成されている。
さらに、
図4に示すように、回路層112(金属層113)と活性金属化合物層142の間には、AgとCuを含有する合金層143が形成されている。
すなわち、本実施形態においては、接合界面140は、回路層112(金属層113)側から順に、合金層143、活性金属化合物層142が積層された構造とされている。
【0058】
活性金属化合物層142は、接合時において炭素板21と銅板の間に介在される接合材に含まれる活性金属が酸素及び炭素と反応することで形成されるものである。
ここで、本実施形態では、活性金属はTiとされており、活性金属化合物層142は、チタン酸化物(Ti-O)及びチタン炭化物(Ti-C)の1種又は2種を含むものとされている。
【0059】
ここで、活性金属化合物層142の厚さt12が0.05μm以上であれば、接合材と炭素板21との反応が促進されており、炭素板21の接合強度が十分に確保される。一方、活性金属化合物層142の厚さt12が3μm以下であれば、冷熱サイクル負荷時に活性金属化合物層142におけるクラックの発生を抑制することができる。
よって、本実施形態においては、活性金属化合物層142の厚さt2は、0.05μm以上3μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、活性金属化合物層142の厚さt12の下限は0.1μm以上であることがさらに好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。一方、活性金属化合物層142の厚さt12の上限は2μm以下であることがさらに好ましく、1.8μm以下であることがより好ましい。
【0060】
合金層143は、接合時において炭素板21と銅板の間に介在される接合材に含まれるAg、Cuが反応することで形成されるものである。
本実施形態においては、この合金層143は、Agを30mass%以上70mass%以下の範囲内、Cuを15mass%以上45mass%以下の範囲内で含むものとされている。
【0061】
ここで、合金層143の厚さt13が1μm以上であれば、接合材の反応が十分に促進されており、炭素板21と回路層112および金属層113との接合強度が十分に確保される。一方、合金層143の厚さt13が20μm以下であれば、冷熱サイクル負荷時に合金層143におけるクラックの発生を抑制することができる。
よって、本実施形態においては、合金層143の厚さt13は、1μm以上20μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、合金層143の厚さt13の下限は2μm以上であることがさらに好ましく、3μm以上であることがより好ましい。一方、合金層143の厚さt13の上限は10μm以下であることがさらに好ましく、8μm以下であることがより好ましい。
【0062】
ここで、本実施形態である銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁回路基板110)は、例えば、第1の実施形態で説明したグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板20)の炭素板21の表面に、銅板を接合することによって製造することができる。
あるいは、セラミックス板25と炭素板21とを接合してグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板20)を製造する際に、炭素板21と銅板とを同時に接合してもよい。
いずれの場合でも、炭素板21の表面に、接合材を介して銅板を積層し、積層方向に加圧しながら加熱することによって炭素板21と銅板を接合することになる。
【0063】
このとき、接合材としては、AgとCuと活性金属(本実施形態ではTi)を含有するものを使用する。なお、接合材は、ペースト状であってもよいし、箔であってもよい。また、例えばCu-Ag合金と活性金属とを積層したものであってもよい。
また、加熱温度は790℃以上900℃以下の範囲内とすることが好ましい。加熱温度での保持時間は20分以上180分以下の範囲内とすることが好ましい。加圧圧力は0.1MPa以上3.5MPa以下の範囲内とすることが好ましい。また、雰囲気は減圧雰囲気や窒素ガス雰囲気などの非酸化雰囲気とされていることが好ましい。
【0064】
そして、上述のように、炭素板21に銅板を接合する際に、接合材に含まれる活性金属(本実施形態ではTi)が酸素及び炭素と反応することで、炭素板21の接合面に活性金属化合物層142が形成される。
さらに、接合材に含まれるCuとAgが反応することで、銅板と活性金属化合物層142の間に合金層143が形成される。
【0065】
以上のような構成とされた本実施形態の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁回路基板110)によれば、第1の実施形態であるグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体(絶縁基板20)の炭素板21と回路層112および金属層113とが接合されているので、冷熱サイクル信頼性に優れることになる。また、回路層112および金属層113によって炭素板21が保護され、炭素板21におけるひび割れの発生を抑制することができる。特に、本実施形態では、回路層112および金属層113の大きさが炭素板21と同等以上とされているので、炭素板21におけるひび割れの発生をさらに抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態において、炭素板21と回路層112および金属層113との接合界面において、炭素板21の接合面に、活性金属化合物層142が形成され、活性金属化合物層142の厚さt12が0.05μm以上とされているので、活性金属によって炭素板21の接合面が十分に反応しており、炭素板21と回路層112および金属層113とをさらに強固に接合することが可能となる。また、活性金属化合物層142の厚さt12が3μm以下に制限されているので、冷熱サイクル負荷時に活性金属化合物層142にクラックが生じることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0067】
さらに、本実施形態において、炭素板21と回路層112および金属層113との接合界面において、回路層112および金属層113と活性金属化合物層142の間に、AgとCuを含む合金層143が形成されており、合金層143の厚さが1μm以上である場合には、炭素板21と回路層112および金属層113との接合強度をさらに向上させることができる。また、合金層143の厚さが20μm以下に制限されている場合には、冷熱サイクル負荷時に合金層143にクラックが生じることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層に半導体素子(パワー半導体素子)を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0069】
また、第1の実施形態では、
図1に示すように、絶縁回路基板10の絶縁層として、本実施形態である絶縁基板20を適用したものとして説明したが、これに限定されることはなく、本発明のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体の使用方法に特に制限はない。
さらに、第1の実施形態では、絶縁基板20に接合する金属板として銅板を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウム板等の他の金属板であってもよい。
【実施例】
【0070】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0071】
(実施例1)
本実施形態で開示したように、扁平形状の黒鉛粒子とグラフェン集合体を所定の配合比で配合して混合し、加圧加熱して成形することにより、扁平形状の黒鉛粒子が、そのベーサル面が折り重なるようにグラフェン集合体をバインダーとして積層された構造の成形体を得た。得られた成形体を切り出して、グラフェン含有炭素質部材となる炭素板(40mm×40mm×厚さ1.5mm)を得た。
【0072】
表1に示すセラミックス板(40mm×40mm×厚さ0.32mm)の両面に、Ag-28mass%Cu-3mass%Tiからなる組成の接合材(厚さ20μm)を介して、上述の炭素板を積層し、表1に示す条件で、炭素板とセラミックス板とを接合した。
そして、炭素板とセラミックス板との接合界面を観察し、活性金属窒化物層の厚さ、あるいは活性金属化合物層の厚さを確認した。
【0073】
具体的には、グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体の中央部から観察試料を採取し、接合界面を走査型透過電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM(EDS検出器付き))を用いて、倍率40000倍、加速電圧200kVの条件で観察を行い、エネルギー分散型X線分析法(サーモサイエンティフィック社製NSS7)を用いてマッピングを行い、活性金属窒化物層の場合は活性金属とNが重なる領域の面積、活性金属化合物層の場合は、活性金属が存在する領域の面積を測定し、測定視野(縦:2.3μm×横:3μm)の幅の寸法で除した値を求め、5視野の平均値を活性金属窒化物層あるいは活性金属化合物層の厚さとした。
【0074】
また、合金層の厚さについては、グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体の接合界面付近の断面観察試料を採取し、EPMA(日本電子株式会社製JXA-8530F、加速電圧:15kV、スポット径:1μm以下)を用いてEPMAマッピングを得て、Agを30mass%以上70mass%以下の範囲内、Cuを15mass%以上45mass%以下の領域を合金層と見なしてその面積を測定し、測定視野(縦:90μm×横:120μm)の幅の寸法で除した値を求め、5視野の平均値を合金層の厚さとした。測定箇所としては絶縁回路基板の中心点の領域と、その点を中心とする20mm×20mmの四角形の4つの頂点の領域の合計5点を観察した。
【0075】
また、得られた接合体に対して、-40℃×5分←→150℃×5分の冷熱サイクルを2000サイクル負荷した。その後、炭素板と銅板との界面の接合率について超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて評価し、以下の式から算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積とした。超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)-(非接合部面積)}/(初期接合面積)×100
【0076】
【0077】
活性金属窒化物層の厚さが2.20μm、活性金属化合物層の厚さが3.30μmである比較例1においては、冷熱サイクル試験後の接合率が75%と低くなった。
活性金属窒化物層の厚さが0.03μm、活性金属化合物層の厚さが0.03μmである比較例2においては、冷熱サイクル試験後の接合率が72%と低くなった。
【0078】
これに対して、活性金属窒化物層の厚さが0.05μm以上2μm以下の範囲内とされた本発明例1-10においては、冷熱サイクル試験後の接合率が80%以上であり、冷熱サイクル信頼性に優れていた。
【0079】
(実施例2)
上述した本発明例3,4,6,10のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体を準備し、炭素板の表面に、Ag-28mass%Cu-3mass%Tiからなる組成の接合材(厚さ20μm)を介して、無酸素銅の圧延板からなる銅板(40mm×40mm×厚さ0.8mm)を積層し、表2に示す条件で、炭素板と銅板とを接合し、銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体を得た。
そして、実施例1と同様に、炭素板と銅板との接合界面を観察し、活性金属化合物層の厚さを確認した。
【0080】
また、炭素板(グラフェン含有炭素質部材)におけるひび割れをマイクロスコープ(キーエンス社製デジタルマイクロスコープ VHX-7000)による観察によって評価した。銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体の側面から、セラミックス板の両面にそれぞれ接合された炭素板が視野に入る倍率で観察し、長さが炭素板の厚さの2/3以上となるひび割れが15本以内の場合を「〇」、15本超えの場合を「×」と評価した。なお、ひび割れの長さは、ひび割れに沿った長さとし、途中で分岐した場合には最長の長さをひび割れとした。
【0081】
【0082】
本発明例3,4,6,10のグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体に銅板を接合して形成した本発明例13,14,16,20の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体においては、いずれも炭素板(グラフェン含有炭素質部材)におけるひび割れの発生を抑制することができた。
【0083】
(実施例3)
実施例1と同様の手順により、グラフェン含有炭素質部材となる炭素板(40mm×40mm×厚さ1.5mm)を得た。
表3に示すセラミックス板(40mm×40mm×厚さ0.32mm)の両面に、Ag-28mass%Cu-3mass%Tiからなる組成の接合材(厚さ20μm)を介して、上述の炭素板を積層した。また、炭素板の表面に、Ag-28mass%Cu-3mass%Tiからなる組成の接合材(厚さ20μm)を介して、無酸素銅の圧延板からなる銅板(40mm×40mm×厚さ0.8mm)を積層した。そして、表3に示す条件で、セラミックス板と炭素板と銅板とを同時接合し、銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体を得た。
【0084】
そして、実施例1と同様に、炭素板とセラミックス板との接合界面を観察し、活性金属窒化物層の厚さ、あるいは活性金属化合物層の厚さを確認した。また、炭素板と銅板との接合界面を観察し、活性金属化合物層の厚さを確認した。
さらに、実施例2と同様に、炭素板(グラフェン含有炭素質部材)におけるひび割れをマイクロスコープによる観察によって評価した。
【0085】
【0086】
セラミックス板と炭素板と銅板とを同時接合した本発明例21-24の銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体においても、いずれも炭素板(グラフェン含有炭素質部材)におけるひび割れの発生を抑制することができた。
【0087】
以上の実験結果から、本発明例によれば、セラミックス部材とグラフェン集合体を含有するグラフェン含有炭素質部材とが強固に接合されており、冷熱サイクル負荷時においても剥離が生じることがなく、冷熱サイクル信頼性に優れたグラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体、および、銅/グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0088】
20 絶縁基板(グラフェン含有炭素質部材/セラミックス接合体)
21 炭素板(グラフェン含有炭素質部材)
25 セラミックス板(セラミックス部材)
40 接合界面
41 活性金属窒化物層
42 活性金属化合物層
43 合金層
110 絶縁回路基板
112 回路層(銅部材)
113 金属層(銅部材)
140 接合界面
142 活性金属化合物層
143 合金層