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特許7533137検査装置、検査方法、および有機発光ダイオードの製造方法
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  • 特許-検査装置、検査方法、および有機発光ダイオードの製造方法 図1
  • 特許-検査装置、検査方法、および有機発光ダイオードの製造方法 図2
  • 特許-検査装置、検査方法、および有機発光ダイオードの製造方法 図3
  • 特許-検査装置、検査方法、および有機発光ダイオードの製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】検査装置、検査方法、および有機発光ダイオードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 71/70 20230101AFI20240806BHJP
   G01N 21/956 20060101ALI20240806BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240806BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240806BHJP
【FI】
H10K71/70
G01N21/956 Z
H10K50/10
H10K59/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020186493
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076190
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】北口 貴司
(72)【発明者】
【氏名】平谷 健一
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-216974(JP,A)
【文献】特開2018-205084(JP,A)
【文献】特開2020-092349(JP,A)
【文献】特開2013-214397(JP,A)
【文献】特開平10-019532(JP,A)
【文献】特開2018-114468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 71/70
H10K 50/10
H10K 59/10
G01N 21/956
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光ダイオードの複数色の発光層を形成するに際し、前記発光層の厚みムラを検査する検査装置であって、
前記発光層に対して光を照射する照明光源と、
前記照明光源から前記発光層に対して前記光が照射されることにより生じる光を分光して、分光画像を撮影するマルチ分光カメラと、
前記分光画像に基づいて前記発光層の厚みムラを検出する検出部と、
を備え
前記照明光源は、紫外光を照射し、
前記マルチ分光カメラは、前記照明光源から前記発光層に対して前記紫外光が照射されることにより生じる発光を分光して、前記分光画像を撮影する、検査装置。
【請求項2】
前記発光層の形成に際しては、基板の一方の面に複数色の発光層用組成物を塗布する塗布工程と、前記発光層用組成物の膜を乾燥する乾燥工程とが順に行われ、
前記発光層の検査は、前記乾燥工程後に行われる、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
有機発光ダイオードの複数色の発光層を形成するに際し、前記発光層の厚みムラを検査する検査方法であって、
前記発光層に対して照明光源から光を照射する照明工程と、
マルチ分光カメラを用いて、前記照明光源から前記発光層に対して前記光が照射されることにより生じる光を分光して、分光画像を撮影する撮影工程と、
前記分光画像に基づいて前記発光層の厚みムラを検出する検出工程と、
を有し、
前記照明工程では、前記発光層に対して前記照明光源から紫外光を照射し、
前記撮影工程では、前記マルチ分光カメラで、前記照明光源から前記発光層に対して前記紫外光が照射されることにより生じる発光を分光して、前記分光画像を撮影する、検査方法。
【請求項4】
前記発光層の形成に際しては、基板の一方の面に複数色の発光層用組成物を塗布する塗布工程と、前記発光層用組成物の膜を乾燥する乾燥工程とが順に行われ、
前記発光層の検査は、前記乾燥工程後に行われる、請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
基板の一方の面に複数色の発光層用組成物を塗布する塗布工程、および、前記発光層用組成物の膜を乾燥する乾燥工程を順に有し、複数色の発光層を形成する発光層形成工程を有する有機発光ダイオードの製造方法であって、
前記発光層形成工程は、前記塗布工程後に、請求項3または請求項4に記載の検査方法により、前記発光層の厚みムラを検査する検査工程を有する、有機発光ダイオードの製造方法。
【請求項6】
前記発光層形成工程は、前記検査工程にて、前記発光層の厚みムラが検出された場合に、検出された前記発光層の厚みムラに基づいて、前記塗布工程での前記発光層用組成物の塗布条件を調整する、あるいは前記乾燥工程での前記発光層用組成物の膜の乾燥条件を調整する制御工程を有する、請求項5に記載の有機発光ダイオードの製造方法。
【請求項7】
前記制御工程では、前記塗布工程での前記発光層用組成物の塗布量を調整する、請求項6に記載の有機発光ダイオードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機発光ダイオードの複数色の発光層を形成するに際し、発光層の厚みムラを検査する検査装置および検査方法、ならびにそれを用いた有機発光ダイオードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオード(OLED:Organic Light Emitting Diode)は、有機エレクトロルミネッセンス(EL:Electroluminescence)の発光を利用した発光ダイオードである。近年、有機発光ダイオードを用いた有機ELディスプレイは、自己発色により視認性が高いこと、コントラスト比が高いこと、薄型軽量であること、消費電力が少ないこと、応答速度が速いこと、視野角が広いこと、液晶表示装置と異なり全固体ディスプレイであるため耐衝撃性に優れていること、温度変化による影響が少ないこと等の利点を有することから、次世代のフラットパネルディスプレイ(FPD)として注目されている。
【0003】
有機発光ダイオードは、陽極と陰極との間に、発光層を含む有機EL層が配置された構造を有する。有機EL層を構成する各層の膜厚は有機発光ダイオードの発光特性によって非常に重要な要素である。中でも、発光に直接寄与する発光層は、高い膜厚均一性が求められる。発光層の膜厚のバラつきは、有機発光ダイオードの輝度ムラや色ムラとして現れ、ディスプレイの品質に悪影響を及ぼす。
【0004】
発光層の形成方法としては、大別して2つの方法があり、蒸着方式、塗布方式が知られている。塗布方式は、コスト、大型化、生産性等の点で優れている。塗布方式の中でも、インクジェット方式による各色の発光層用組成物の塗り分け技術の開発が進められている。
【0005】
インクジェット方式により発光層を形成する場合、ノズル毎にインクの吐出量、吐出速度、着弾位置等にバラつきがあると、スジ状や点状の塗布ムラが生じ、これに起因して有機発光ダイオードの輝度ムラや色ムラが生じる。また、インクの乾燥条件等の要因により、発光層の膜形状が悪くなり、厚みムラが生じることもある。
【0006】
そこで、発光層を含む有機EL層を形成するに際し、有機EL層の欠陥を検査する技術が提案されている。
【0007】
例えば特許文献1には、有機発光ダイオードにおいて基板上に積層して形成される各有機層の欠陥を検査する欠陥検査装置であって、基板上の上記有機層に対して近赤外光を照射する照明部と、上記照明部から近赤外光が照射された上記有機層を撮像する撮像部と、を有する、欠陥検査装置が開示されている。また、特許文献1には、有機発光ダイオードにおいて基板上に積層して形成される各有機層の欠陥を検査する欠陥検査方法であって、照明部から基板上の上記有機層に対して近赤外光を照射し、撮像部において上記照明部から近赤外光が照射された上記有機層を撮像する、欠陥検査方法が開示されている。
【0008】
また、例えば特許文献2には、インクジェット方式によって有機材料が塗布された基板における上記有機材料が塗布された領域の一部であって、上記インクジェット方式による塗布方向と交差する方向に延在する検査領域に対して光を照射する照射部と、上記光の照射を受けた上記検査領域を撮像する撮像部と、上記撮像部によって撮像された撮像画像に基づいて上記基板の不良を検出する制御部とを備える、検査装置が開示されている。また、特許文献2には、基板に対してインクジェット方式により有機材料を塗布する塗布工程と、上記塗布工程の後、上記基板における上記有機材料が塗布された領域の一部であって、上記インクジェット方式による塗布方向と交差する方向に延在する検査領域に対して光を照射する照射工程と、上記光の照射を受けた上記検査領域を撮像する撮像部と、上記撮像部によって撮像された撮像画像に基づいて上記基板の不良を検出する検出工程とを含む、検査方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献1および特許文献2における検査装置および検査方法においては、撮像部で撮像された画像の階調に基づいて有機EL層の欠陥が検査される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許2014-232689号公報
【文献】特許2016-90287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
インクジェット方式により複数色の発光層を形成する場合、通常、複数色の発光層用組成物を同時に塗布する。そのため、発光層の欠陥の検査は、複数色の発光層用組成物が塗布された状態、複数色の発光層組成物の膜が乾燥された状態、あるいは複数色の発光層が形成された状態で行われることになる。このような状態で、特許文献1や特許文献2に記載されているような検査を行うと、照明部から複数色の発光層に光(赤外光または紫外光)を照射することにより生じる光(反射光または発光)は、各色の発光層に光(赤外光または紫外光)を照射することにより生じる光(反射光または発光)が混合された光になる。また、有機ELディスプレイにおいては、画素面積が小さいので、画素毎に照明部から光を照射するのは困難である。そのため、撮像部で撮像された画像の階調に基づいて発光層の欠陥を検査する際に、各色の発光層において階調の差が認識しにくく、検査感度が低下する。よって、赤色、緑色、青色等の発光層の各色における単色のムラを検出することは非常に困難である。
【0012】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、複数色の発光層用組成物が塗布された状態、複数色の発光層組成物の膜が乾燥された状態、あるいは複数色の発光層が形成された状態において、発光層の各色における単色のムラを検出することが可能な検査装置および検査方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一実施形態は、有機発光ダイオードの複数色の発光層を形成するに際し、上記発光層の厚みムラを検査する検査装置であって、上記発光層に対して光を照射する照明光源と、上記照明光源から上記発光層に対して上記光が照射されることにより生じる光を分光し、分光画像を撮影するマルチ分光カメラと、上記分光画像に基づいて上記発光層の厚みムラを検出する検出部と、を備える、検査装置を提供する。
【0014】
本開示における検査装置においては、上記照明光源は、可視光を照射し、上記マルチ分光カメラは、上記照明光源から上記発光層に対して上記可視光が照射されることにより生じる反射光または透過光を分光して、上記分光画像を撮影するものであってもよい。
【0015】
また、本開示における検査装置においては、上記照明光源は、近赤外光を照射し、上記マルチ分光カメラは、上記照明光源から上記発光層に対して上記近赤外光が照射されることにより生じる反射光を分光して、上記分光画像を撮影するものであってもよい。
【0016】
また、本開示における検査装置においては、上記照明光源は、紫外光を照射し、上記マルチ分光カメラは、上記照明光源から上記発光層に対して上記紫外光が照射されることにより生じる発光を分光して、上記分光画像を撮影するものであってもよい。
【0017】
また、本開示における検査装置においては、上記発光層の形成に際しては、基板の一方の面に複数色の発光層用組成物を塗布する塗布工程と、上記発光層用組成物の膜を乾燥する乾燥工程とが順に行われ、上記発光層の検査は、上記乾燥工程前に行われてもよく、上記乾燥工程後に行われてもよい。
【0018】
本開示の他の実施形態は、有機発光ダイオードの複数色の発光層を形成するに際し、上記発光層の厚みムラを検査する検査方法であって、上記発光層に対して照明光源から光を照射する照明工程と、マルチ分光カメラを用いて、上記照明光源から上記発光層に対して上記光が照射されることにより生じる光を分光して、分光画像を撮影する撮影工程と、上記分光画像に基づいて上記発光層の厚みムラを検出する検出工程と、を有する、検査方法を提供する。
【0019】
本開示における検査方法においては、上記照明工程では、上記発光層に対して上記照明光源から可視光を照射し、上記撮影工程では、上記マルチ分光カメラで、上記照明光源から上記発光層に対して上記可視光が照射されることにより生じる反射光または透過光を分光して、上記分光画像を撮影してもよい。
【0020】
また、本開示における検査方法においては、上記照明工程では、上記発光層に対して上記照明光源から近赤外光を照射し、上記撮影工程では、上記マルチ分光カメラで、上記照明光源から上記発光層に対して上記近赤外光が照射されることにより生じる反射光を分光して、上記分光画像を撮影してもよい。
【0021】
また、本開示における検査方法においては、上記照明工程では、上記発光層に対して上記照明光源から紫外光を照射し、上記撮影工程では、上記マルチ分光カメラで、上記照明光源から上記発光層に対して上記紫外光が照射されることにより生じる発光を分光して、上記分光画像を撮影してもよい。
【0022】
また、本開示における検査方法においては、上記発光層の形成に際しては、基板の一方の面に複数色の発光層用組成物を塗布する塗布工程と、上記発光層用組成物の膜を乾燥する乾燥工程とが順に行われ、上記発光層の検査は、上記乾燥工程前に行われてもよく、上記乾燥工程後に行われてもよい。
【0023】
本開示の他の実施形態は、基板の一方の面に複数色の発光層用組成物を塗布する塗布工程、および、上記発光層用組成物の膜を乾燥する乾燥工程を順に有し、複数色の発光層を形成する発光層形成工程を有する有機発光ダイオードの製造方法であって、上記発光層形成工程は、上記塗布工程後に、上述の検査方法により、上記発光層の厚みムラを検査する検査工程を有する、有機発光ダイオードの製造方法を提供する。
【0024】
本開示における有機発光ダイオードの製造方法においては、上記発光層形成工程は、上記検査工程にて、上記発光層の厚みムラが検出された場合に、検出された上記発光層の厚みムラに基づいて、上記塗布工程での上記発光層用組成物の塗布条件を調整する、あるいは上記乾燥工程での上記発光層用組成物の膜の乾燥条件を調整する制御工程を有することが好ましい。
【0025】
また、本開示における有機発光ダイオードの製造方法においては、上記制御工程では、上記塗布工程での上記発光層用組成物の塗布量を調整してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本開示においては、複数色の発光層用組成物が塗布された状態、複数色の発光層組成物の膜が乾燥された状態、あるいは複数色の発光層が形成された状態において、発光層の各色における単色のムラを検出することが可能な検査装置および検査方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本開示における検査装置を例示する模式図である。
図2】本開示における検査装置を例示する模式図である。
図3】本開示における検査装置を例示する模式図である。
図4】本開示における有機発光ダイオードにおいて複数色の発光層まで形成された積層体を例示する概略平面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
下記に、図面等を参照しながら本開示の実施の形態を説明する。ただし、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、下記に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表わされる場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0029】
本明細書において、ある部材の上に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」、あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。
【0030】
以下、本開示における検査装置、検査方法、および有機発光ダイオードの製造方法について詳細に説明する。
【0031】
A.検査装置
本開示における検査装置は、有機発光ダイオードの複数色の発光層を形成するに際し、上記発光層の厚みムラを検査する検査装置であって、上記発光層に対して光を照射する照明光源と、上記照明光源から上記発光層に対して上記光が照射されることにより生じる光を分光して、分光画像を撮影するマルチ分光カメラと、上記分光画像に基づいて上記発光層の厚みムラを検出する検出部と、を備える。
【0032】
図1は、本開示における検査装置の一例を示す模式図であり、反射方式の検査を行う例である。図1に示すように、検査装置1は、発光層に対して光L1を照射する照明光源2と、照明光源2から発光層に対して光L1が照射されることにより生じる反射光L2を分光して、分光画像を撮影するマルチ分光カメラ3と、分光画像に基づいて発光層の厚みムラを検出する検出部4と、を備える。この場合、照明光源2から照射される光L1としては、例えば近赤外光または可視光を用いることができる。また、検査装置1は、有機発光ダイオードにおいて複数色の発光層まで形成された積層体10を載置するステージ5を有することができる。
【0033】
図2は、本開示における検査装置の他の例を示す模式図であり、透過方式の検査を行う例である。図2に示すように、検査装置1は、発光層に対して光L3を照射する照明光源2と、照明光源2から発光層に対して光L3が照射されることにより生じる透過光L4を分光して、分光画像を撮影するマルチ分光カメラ3と、分光画像に基づいて発光層の厚みムラを検出する検出部4と、を備える。この場合、照明光源2から照射される光L3としては、例えば可視光を用いることができる。また、検査装置1は、有機発光ダイオードにおいて複数色の発光層まで形成された積層体10を載置するステージ5を有することができる。
【0034】
図3は、本開示における検査装置の他の例を示す模式図である。図3に示すように、検査装置1は、発光層に対して光L5を照射する照明光源2と、照明光源2から発光層に対して光L5が照射されることにより生じる発光L6を分光して、分光画像を撮影するマルチ分光カメラ3と、分光画像に基づいて発光層の厚みムラを検出する検出部4と、を備える。この場合、照明光源2から照射される光L5としては、例えば紫外光を用いることができる。また、検査装置1は、有機発光ダイオードにおいて複数色の発光層まで形成された積層体10を載置するステージ5を有することができる。
【0035】
図4(a)、(b)は、本開示における有機発光ダイオードにおいて、複数色の発光層まで形成された積層体の概略平面図および断面図である。図4(a)、(b)において、積層体10は、基板11と、基板11の一方の面に配置されたパターン状の第1電極12と、基板11の一方の面に配置され、各色の発光層用組成物が塗布される領域を区画する隔壁13と、隔壁13の開口部に配置された正孔注入層14と、正孔注入層14上に形成された赤色発光層15R、緑色発光層15B、青色発光層15Bとを有する。
【0036】
複数色の発光層は、通常、インクジェット法により形成される。インクジェット法により複数色の発光層を形成する場合、通常、複数色の発光層用組成物を同時に塗布する。そのため、発光層の厚みムラの検査は、複数色の発光層用組成物が塗布された状態、複数色の発光層用組成物の膜が乾燥された状態、あるいは複数色の発光層が形成された状態で行われることになる。
【0037】
従来の検査装置では、上記のような状態で検査を行うと、照明光源から複数色の発光層に光(赤外光または紫外光)を照射することにより生じる光(反射光または発光)は、各色の発光層に光(赤外光または紫外光)を照射することにより生じる光(反射光または発光)が混合された光になる。また、有機ELディスプレイにおいては、画素面積が小さく、画素毎に照明光源から光を照射するのは困難である。そのため、得られた画像の階調に基づいて発光層の欠陥を検査する際に、各色の発光層において階調の差を認識しにくい。よって、赤色、緑色、青色等の発光層の各色における単色のムラを検出することは非常に困難である。
【0038】
これに対し、本開示における検査装置は、照明光源から発光層に対して光が照射されることにより生じる光を分光して、分光画像を撮影するマルチ分光カメラを備えており、撮影された分光画像のうち、特定の波長または波長域の分光画像を選択して取得することができる。そのため、検出部にて、各色の発光層からの反射光、透過光または発光の色にそれぞれ対応する特定の波長または波長域の分光画像を選択して取得することができる。よって、これらの特定の波長または波長域の分光画像毎に各色の発光層の厚みムラを検査することができ、画像の階調の差を認識しやすくすることができる。したがって、発光層の各色における単色のムラを検出することが可能である。
【0039】
例えば、複数色の発光層が、赤色発光層、緑色発光層、青色発光層である場合、赤色発光層の厚みムラを検査する際には、照明光源から赤色発光層に対して近赤外光、可視光または紫外光を照射することにより生じる反射光、透過光または発光の色に対応する特定の波長または波長域の分光画像を選択して取得する。そして、この特定の波長または波長域の分光画像の階調等に基づいて赤色発光層の厚みムラを検査する。赤色発光層の厚みムラの検査に用いる分光画像は、赤色発光層からの反射光、透過光または発光の色の対応する特定の波長または波長域のみの分光画像であるため、画像の階調の差を認識しやすくすることができる。したがって、赤色の単色のムラを検出することが可能である。同様に、緑色発光層の厚みムラを検査する際や、青色発光層の厚みムラを検査する際には、緑色や青色の単色のムラを検出することが可能である。
【0040】
以下、本開示における検査装置の各構成について説明する。
【0041】
1.マルチ分光カメラ
本開示におけるマルチ分光カメラは、照明光源から発光層に対して光が照射されることにより生じる光を分光して、分光画像を撮影する。
【0042】
マルチ分光カメラとは、波長毎のイメージングが可能で、画素毎に分光スペクトルを得ることができるカメラである。マルチ分光カメラでは、多波長を一度に計測することができる。また、マルチ分光カメラでは、特定の波長帯を選択して計測したり、連続多波長を計測したりすることができる。
【0043】
マルチ分光カメラとしては、例えば、いわゆるマルチスペクトルカメラやハイパースペクトルカメラを用いることができる。
【0044】
マルチ分光カメラにおいて、分光画像の対象波長域としては、例えば、近赤外波長域、可視波長域、紫外波長域を挙げることができる。
【0045】
例えば、複数色の発光層が可視波長域に吸収を示す場合、可視光を照射する照明光源を用い、可視波長域を受光可能なマルチ分光カメラを用いることができる。また、例えば、複数色の発光層が近赤外波長域に吸収を示す場合、近赤外光を照射する照明光源を用い、近赤外波長域を受光可能なマルチ分光カメラを用いることができる。一方、複数色の発光層が可視波長域に吸収を示さない場合には、近赤外光を照射する照明光源を用い、近赤外波長域を受光可能なマルチ分光カメラを用いる、あるいは紫外光を照射する照明光源を用い、可視光波長域を受光可能なマルチ分光カメラを用いることが好ましい。
【0046】
また、マルチ分光カメラでは、例えば、照明光源から発光層に対して光が照射されることにより生じる反射光を分光して、分光画像を撮影してもよく、あるいは、照明光源から発光層に対して光が照射されることにより生じる透過光を分光して、分光画像を撮影してもよく、あるいは、照明光源から発光層に対して光が照射されることにより生じる発光を分光して、分光画像を撮影してもよい。具体的には、マルチ分光カメラでは、照明光源から発光層に対して可視光が照射されることにより生じる反射光または透過光を分光して、分光画像を撮影してもよく、あるいは、照明光源から発光層に対して近赤外光が照射されることにより生じる反射光を分光して、分光画像を撮影してもよく、あるいは、照明光源から発光層に対して紫外光が照射されることにより生じる発光を分光して、分光画像を撮影してもよい。
【0047】
中でも、マルチ分光カメラでは、照明光源から発光層に対して光が照射されることにより生じる反射光を分光して、分光画像を撮影することが好ましい。
【0048】
マルチ分光カメラの配置としては、例えば、発光層の一方の面側にマルチ分光カメラおよび照明光源が配置されていてもよく、発光層の一方の面側にマルチ分光カメラが配置され、発光層の他方の面側に照明光源が配置されていてもよい。マルチ分光カメラの配置は、例えば、反射光、透過光、発光のいずれで検査を行うかにより適宜選択される。具体的には、反射光または発光により検査を行う場合には、発光層の一方の面側にマルチ分光カメラが配置され、発光層の他方の面側に照明光源が配置される。一方、透過光により検査を行う場合には、発光層の一方の面側にマルチ分光カメラおよび照明光源が配置される。
【0049】
また、例えば照明光源が赤外光を照射する場合、上述したように、マルチ分光カメラでは、照明光源から発光層に対して赤外光が照射されることにより生じる反射光を分光して、分光画像を撮影することになる。この場合、マルチ分光カメラは、発光層に対して光軸が斜めになる向きに配置され、照明光源は、発光層に対して斜め方向から近赤外光を照射する向きに配置されることが好ましい。すなわち、マルチ分光カメラは、赤外光の正反射光の光路上に光軸が配置されることが好ましい。このような配置とすることで、コントラストの高い画像を得ることができる。
【0050】
また、例えば照明光源が紫外光を照射する場合、上述したように、マルチ分光カメラでは、照明光源から発光層に対して紫外光が照射されることにより生じる発光を分光して、分光画像を撮影することになる。そのため、マルチ分光カメラは、紫外光の正反射光をなるべく受光しないように、紫外光の拡散反射光を受光する位置に配置されることが好ましい。具体的には、マルチ分光カメラは、発光層に対して光軸が垂直になる向きに配置され、照明光源は、発光層に対して斜め方向から紫外光を照射する向きに配置されることが好ましい。また、マルチ分光カメラは、発光層に対して光軸が垂直になる向きに配置され、照明光源は、発光層に対して垂直に紫外光を照射する向きに配置されていてもよい。これらの配置であれば、紫外光の正反射光をマルチ分光カメラになるべく受光させないようにすることができる。
【0051】
さらに、上記の場合、マルチ分光カメラのレンズには、紫外波長域の成分を除去する紫外カットフィルタが設けられてもよい。これにより、マルチ分光カメラによる紫外光の反射光の受光量をさらに少なくすることができる。
【0052】
また、例えば照明光源が可視光を照射する場合、上述したように、マルチ分光カメラでは、照明光源から発光層に対して可視光が照射されることにより生じる反射光または透過光を分光して、分光画像を撮影することになる。この場合、マルチ分光カメラは、通常、照明光源からの光の入射角と出射角(カメラ角度)とが等しくなるように配置される。
【0053】
マルチ分光カメラは、例えば、エリアカメラであってもよく、ラインスキャンカメラであってもよい。また、マルチ分光カメラで発光層の幅方向全体を一度に撮像できない場合には、例えば、発光層に対してマルチ分光カメラを発光層の幅方向に移動させる、あるいは、マルチ分光カメラに対して発光層が形成された基板が載置されたステージを発光層の幅方向に移動させることによって、マルチ分光カメラで発光層の全体を撮像することができる。
【0054】
マルチ分光カメラで発光層を撮像する際には、例えば、発光層に対してマルチ分光カメラを移動させてもよく、マルチ分光カメラに対して発光層が形成された基板が載置されたステージを移動させてもよい。
【0055】
また、インクジェット法により発光層用組成物を塗布する場合、マルチ分光カメラは、例えば、発光層用組成物の塗布方向に対して平行方向に移動させてもよく、発光層用組成物の塗布方向に対して直角方向に移動させてもよい。
【0056】
2.照明光源
本開示における照明光源は、有機発光ダイオードの発光層に対して光を照射する。
【0057】
照明光源が照射する光としては、照明光源から複数色の発光層に対して光を照射することにより、各色の発光層において波長が互いに異なる反射光、透過光、または発光を生じさせることができる光であれば特に限定されるものではなく、例えば、可視光、近赤外光、紫外光を挙げることができる。照明光源が照射する光は、有機発光ダイオードの複数色の発光層の特性等に応じて適宜選択される。
【0058】
例えば、複数色の発光層が可視波長域に吸収を示す場合、可視光を照射する照明光源を用いることができる。この場合、各色の発光層は、可視光により劣化しにくいものであることが好ましい。
【0059】
また、例えば、複数色の発光層が近赤外波長域に吸収を示す場合、近赤外光を照射する照明光源を用いることができる。
【0060】
一方、複数色の発光層が可視波長域に吸収を示さない場合には、近赤外光を照射する照明光源や、紫外光を照射する照明光源を用いることが好ましい。また、紫外光を照射する照明光源を用いる場合には、各色の発光層は、紫外光により劣化しにくいものであることが好ましい。
【0061】
可視光の波長は、例えば、360nm以上830nm以下である。可視光としては、例えば、白色光を用いることができる。可視光を照射する照明光源としては、白色光を照射できれば特に限定されるものではなく、例えば、発光ダイオード(LED)を用いることができる。
【0062】
近赤外光の波長は、例えば、700nm以上2500nm以下であり、800nm以上1000nm以下であってもよい。近赤外光を照射する照明光源としては、近赤外光を照射できれば特に限定されるものではない。
【0063】
紫外光は、エネルギーが高いことから、発光層に含まれる有機材料を励起し、発光させることができる。紫外光の波長としては、発光層に含まれる有機材料を励起することができる波長であれば特に限定されるものではなく、例えば、10nm以上380nm以下であり、発光層に含まれる有機材料に応じて適宜選択される。紫外光を照射する照明光源としては、紫外光を照射できれば特に限定されるものではない。
【0064】
照明光源の配置としては、上記のマルチ分光カメラの項に記載した通りである。
【0065】
3.検出部
本開示における検出部は、上記分光画像に基づいて上記発光層の厚みムラを検出する。
【0066】
分光画像に基づいて発光層の厚みムラを検出する際には、例えば、まず、照明光源から光が照射された各色の発光層からの反射光、透過光または発光の色にそれぞれ対応する特定の波長または波長域の分光画像を選択して取得する。次に、これらの特定の波長または波長域の分光画像毎に各色の発光層の厚みムラを検出する。すなわち、ある一つの特定の波長または波長域の分光画像に基づいて、ある一色の発光層の厚みムラを検出する。
【0067】
例えば、複数色の発光層が、赤色発光層、緑色発光層、青色発光層である場合、赤色発光層の厚みムラを検査する際には、照明光源から赤色発光層に対して近赤外光、可視光または紫外光を照射することにより生じる反射光、透過光または発光の色に対応する特定の波長または波長域の分光画像を選択して取得する。そして、この特定の波長または波長域の分光画像に基づいて赤色発光層の厚みムラを検出する。また、同様に、緑色発光層の厚みムラを検査する際には、照明光源から緑色発光層に対して近赤外光、可視光または紫外光を照射することにより生じる反射光、透過光または発光の色に対応する特定の波長または波長域の分光画像を選択して取得し、この特定の波長または波長域の分光画像に基づいて緑色発光層の厚みムラを検出する。さらに、同様に、青色発光層の厚みムラを検査する際には、照明光源から青色発光層に対して近赤外光、可視光または紫外光を照射することにより生じる反射光、透過光または発光の色に対応する特定の波長または波長域の分光画像を選択して取得し、この特定の波長または波長域の分光画像に基づいて青色発光層の厚みムラを検出する。
【0068】
特定の波長または波長域の分光画像を選択して取得する際、特定の波長または波長域としては、照明光源から光が照射された各色の発光層からの反射光、透過光または発光の色に対応していればよく、適宜選択される。
【0069】
ある特定の波長または波長域の分光画像に基づいて、ある一色の発光層の厚みムラを検出する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、特定の波長または波長域の分光画像に対して一次微分処理を行い、得られた微分画像に基づいて、厚みムラが存在すると予想される評価対象領域を定め、この評価対象領域についての階調値の空間的な変化割合を、厚みムラの程度を示す評価値として用いる方法を挙げることができる。具体的な発光層の厚みムラの検出方法については、例えば特許第4363953号公報を参照することができる。
【0070】
また、ある一つの特定の波長または波長域の分光画像に基づいて、ある一色の発光層の厚みムラを検出する際には、例えば、ある一色の発光層の全体の画像において、画像の階調に基づき、発光層の厚みムラを検出することができる。また、例えば、図4(a)に示すように複数色の発光層がストライプ状に配置されている場合、ある一色の発光層の列同士を比較する、つまり、ある一色の画素の列同士を比較することで、発光層の厚みムラを検出してもよく、あるいは、ある一色の画素の一つの列の全体において、画像の階調に基づき、発光層の厚みムラを検出してもよい。また、単に、必要に応じて顕微鏡を用いて、上記画像を目視にて観察し、発光層の厚みムラを検出してもよい。
【0071】
また、例えば、マルチ分光カメラで、照明光源から発光層に対して可視光を照射することにより生じる透過光または反射光を分光して、分光画像を撮影する場合には、吸収分光を利用することができる。この場合、発光層の厚みにバラつきがあると、発光層の厚みの差が吸光度の差として現れ、画像の階調の差として現れる。そのため、分光画像の階調に基づいて発光層の厚みムラを検出することができる。
【0072】
また、例えば、マルチ分光カメラで、照明光源から発光層に対して可視光を照射することにより生じる反射光を分光して、分光画像を撮影する場合には、発光層の表面の反射光と、発光層およびその下層の界面の反射光との干渉により生じる干渉縞を利用することもできる。この場合、発光層に厚みムラがあると、そのムラな部分では干渉縞が発生する。そのため、干渉縞によって発光層の厚みムラを検出することができる。この場合、干渉縞は、光の角度で変化するため、照明光源からの光の入射角と出射角(カメラ角度)を適宜調整することが好ましい。また、上記のムラな部分で発生する干渉縞を強調させるために、可視光としては、単一波長で、波長幅が狭く、光強度が高い光を用いることが好ましい。
【0073】
また、例えば、マルチ分光カメラで、照明光源から発光層に対して近赤外光を照射することにより生じる反射光を分光して、分光画像を撮影する場合にも、吸収分光を利用することができる。この場合、発光層の厚みにバラつきがあると、発光層の厚みの差が吸光度の差として現れ、画像の階調の差として現れる。そのため、分光画像の階調に基づいて発光層の厚みムラを検出することができる。
【0074】
また、例えば、マルチ分光カメラで、照明光源から発光層に対して紫外光を照射することにより生じる発光を分光して、分光画像を撮影する場合には、発光分光を利用することができる。この場合、発光層の厚みは、発光層に含有される発光物質の濃度に比例するため、発光層の厚みが部分的に異なると、発光強度も部分的に変わることになる。よって、発光層の厚みにバラつきがあると、発光層の厚みの差が発光強度の差として現れ、画像の階調の差として現れる。そのため、分光画像の階調に基づいて発光層の厚みムラを検出することができる。
【0075】
4.制御部
本開示における検査装置は、検出された発光層の厚みムラに基づいて、発光層用組成物の塗布条件を調整する、あるいは発光層用組成物の膜の乾燥条件を調整する制御部を備えていてもよい。発光層の厚みムラが検出された場合に、発光層を形成する際の塗布工程や乾燥工程にフィードバックし、工程改善を図ることができる。また、自動的にフィードバックを行うこともできる。
【0076】
5.有機発光ダイオード
本開示における検査装置は、有機発光ダイオードの複数色の発光層を形成するに際し、発光層の厚みムラを検査する検査装置であり、工程検査を行う検査装置である。
【0077】
有機発光ダイオードの製造方法は、例えば、基板上に第1電極を形成する第1電極形成工程と、第1電極層上に複数色の発光層を含む有機EL層を形成する有機EL層形成工程と、有機EL層上に第2電極を形成する第2電極形成工程とを有する。また、有機EL層形成工程は、複数色の発光層を形成する発光層形成工程を少なくとも有する。本開示においては、発光層形成工程において、発光層の厚みムラを検査する。
【0078】
発光層形成工程は、第1電極層上に複数色の発光層用組成物を塗布する塗布工程と、発光層用組成物の膜を乾燥する乾燥工程とを順に有する。本開示において、発光層の検査は、塗布工程後に行われる。発光層の検査は、乾燥工程前に行われてもよく、乾燥工程後に行われてもよい。
【0079】
また、発光層形成工程は、上記乾燥工程後に、上記発光層用組成物の膜を焼成する焼成工程を有していてもよい。この場合、発光層の検査は、乾燥工程前に行われてもよく、乾燥工程後かつ焼成工程前に行われてもよく、焼成工程後に行われてもよい。
【0080】
例えば、照明光源が可視光を照射する場合、発光層の検査は、乾燥工程後または焼成工程後に行うことが好ましい。乾燥前や焼成前の膜は、非常に流動的であるため、化学的な活性が高く、強いエネルギーが当たると、固まったり、異なる物質に変化したりする等、変質するおそれがある。一方、乾燥後や焼成後の膜は、化学的な活性が低くなる、または化学的な活性がなくなるため、可視光を当てても、変質しにくい、または変質しない。そのため、乾燥工程後または焼成工程後に発光層の検査を行うことにより、可視光による発光層の劣化を抑制することができる。
【0081】
また、例えば、照明光源が近赤外光を照射する場合、発光層の検査は、乾燥工程前に行ってもよく、乾燥工程後に行ってもよく、焼成工程後に行ってもよい。中でも、発光層の検査は、乾燥工程前に行うことが好ましい。一般に、発光層に用いられる有機材料は溶解性があまり高くないものが多いことから、発光層用組成物の固形分濃度は数質量%以下であるので、発光層用組成物の塗布直後のウェット膜厚は、発光層用組成物の膜の乾燥後の乾燥膜厚よりもかなり厚くなる。そのため、乾燥工程には多少の時間を要することから、発光層の検査を乾燥工程前に行うことにより、発光層の厚みムラを検出した場合に、塗布工程にフィードバックし、塗布工程を改善するまでに要する時間を短縮することができる。なお、近赤外光は可視光よりもエネルギーが小さいため、近赤外光によって発光層は劣化しにくい。そのため、乾燥工程前に発光層の検査を行うことが可能である。
【0082】
また、例えば、照明光源が紫外光を照射する場合、発光層の検査は、乾燥工程後または焼成工程後に行うことが好ましい。上述したように、乾燥前や焼成前の膜は、非常に流動的であるため、化学的な活性が高く、強いエネルギーが当たると、固まったり、異なる物質に変化したりする等、変質するおそれがある。一方、乾燥後や焼成後の膜は、化学的な活性が低くなる、または化学的な活性がなくなるため、紫外光を当てても、変質しにくい、または変質しない。そのため、乾燥工程後または焼成工程後に発光層の検査を行うことにより、紫外光による発光層の劣化を抑制することができる。
【0083】
塗布工程において、発光層用組成物の塗布方法としては、通常、インクジェット法が用いられる。
【0084】
また、発光層用組成物の塗布方法がインクジェット法である場合、有機発光ダイオードの製造方法は、例えば、第1電極形成工程後かつ有機EL層形成工程前に、第1電極上に隔壁を形成する隔壁形成工程を有することができる。この場合、有機EL層形成工程では、第1電極層上の隔壁の開口部内に、複数色の発光層を含む有機EL層を形成する。
【0085】
B.検査方法
本開示における検査方法は、有機発光ダイオードの複数色の発光層を形成するに際し、上記発光層の厚みムラを検査する検査方法であって、上記発光層に対して照明光源から光を照射する照明工程と、マルチ分光カメラを用いて、上記照明光源から上記発光層に対して上記光が照射されることにより生じる光を分光して、分光画像を撮影する撮影工程と、上記分光画像に基づいて上記発光層の厚みムラを検出する検出工程と、を有する。
【0086】
本開示における検査方法は、マルチ分光カメラを用いて、照明光源から発光層に対して光が照射されることにより生じる光を分光して、分光画像を撮影する撮影工程を有しており、撮影された分光画像のうち、特定の波長または波長域の分光画像を選択して取得することができる。そのため、検出部にて、各色の発光層からの反射光、透過光または発光の色にそれぞれ対応する特定の波長または波長域の分光画像を選択して取得することができる。よって、これらの特定の波長または波長域の分光画像毎に階調等に基づいて各色の発光層の厚みムラを検査することができ、画像の階調の差を認識しやすくすることができる。したがって、発光層の各色における単色のムラを検出することが可能である。
【0087】
以下、本開示における検査方法の各工程について説明する。
【0088】
1.照明工程
本開示における照明工程では、発光層に対して照明光源から光を照射する。
【0089】
照明光源、照明光源が照射する光、照明光源の配置については、上記「A.検査装置」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0090】
2.撮影工程
本開示における撮影工程では、マルチ分光カメラを用いて、上記照明光源から上記発光層に対して上記光が照射されることにより生じる光を分光して、分光画像を撮影する。
【0091】
マルチ分光カメラ、マルチ分光カメラにおける分光画像の対象波長域、マルチ分光カメラを用いて分光画像を撮影する方法、マルチ分光カメラの配置については、上記「A.検査装置」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0092】
3.検出工程
本開示における検出工程では、上記分光画像に基づいて上記発光層の厚みムラを検出する。
【0093】
分光画像に基づく発光層の厚みムラの検出方法については、上記「A.検査装置」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0094】
4.有機発光ダイオード
本開示における検査方法は、有機発光ダイオードの複数色の発光層を形成するに際し、発光層の厚みムラを検査する検査方法であり、工程検査を行う検査方法である。
【0095】
発光層を形成する際の工程順については、上記「A.検査装置」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0096】
C.有機発光ダイオードの製造方法
本開示における有機発光ダイオードの製造方法は、基板の一方の面に複数色の発光層用組成物を塗布する塗布工程、および、上記発光層用組成物の膜を乾燥する乾燥工程を順に有し、複数色の発光層を形成する発光層形成工程を有する有機発光ダイオードの製造方法であって、上記発光層形成工程は、上記塗布工程後に、上述の検査方法により、上記発光層の厚みムラを検査する検査工程を有する。
【0097】
本開示における有機発光ダイオードの製造方法においては、発光層形成工程が、上述の検査方法により、上記発光層の厚みムラを検査する検査工程を有するため、発光層の各色における単色のムラを検出することが可能である。また、検査工程にて発光層の厚みムラが検出された場合には、塗布工程や乾燥工程にフィードバックし、塗布工程や乾燥工程を改善することができ、発光層の厚みムラの発生を抑制することができる。
【0098】
以下、本開示における有機発光ダイオードの製造方法の各工程について説明する。
【0099】
1.発光層形成工程
本開示における発光層形成工程は、基板の一方の面に複数色の発光層用組成物を塗布する塗布工程と、上記発光層用組成物の膜を乾燥する乾燥工程とを順に有し、発光層を形成する工程である。
【0100】
以下、発光層形成工程の各工程について説明する。
【0101】
(1)塗布工程
本開示における塗布工程は、基板の一方の面に複数色の発光層用組成物を塗布する工程である。
【0102】
発光層用組成物の塗布方法としては、通常、インクジェット法が用いられる。インクジェット法を用いて複数色の発光層用組成物を塗布する場合、通常、複数色の発光層用組成物を同時に塗布する。
【0103】
発光層用組成物に用いられる有機材料としては、一般的な有機発光ダイオードの発光層に用いられる有機材料を適用することができる。また、発光層用組成物は、通常、有機材料の他、溶媒を含有する。溶媒としては、有機材料を溶解または分散させることができるものであれば特に限定されない。
【0104】
(2)乾燥工程
本開示における乾燥工程は、上記発光層用組成物の膜を乾燥する工程である。発光層用組成物の膜の乾燥方法としては、一般的な乾燥方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。
【0105】
(3)焼成工程
本開示における発光層形成工程は、上記乾燥工程後、上記発光層用組成物の膜を焼成する焼成工程を有していてもよい。
【0106】
(4)検査工程
本開示における検査工程では、上記塗布工程後に、上述の検査方法により、上記発光層の厚みムラを検査する。検査方法については、上記「B.検査方法」の項に記載したとおりである。
【0107】
(5)制御工程
本開示における発光層形成工程は、上記検査工程にて、上記発光層の厚みムラが検出された場合に、検出された上記発光層の厚みムラに基づいて、上記塗布工程での上記発光層用組成物の塗布条件を調整する、あるいは上記乾燥工程での上記発光層用組成物の膜の乾燥条件を調整する制御工程を有することが好ましい。検査工程にて発光層の厚みムラが検出された場合には、塗布工程や乾燥工程にフィードバックし、塗布工程や乾燥工程を改善することができ、発光層の厚みムラの発生を抑制することができる。
【0108】
塗布工程での発光層用組成物の塗布条件を調整する場合、塗布条件としては、例えば、発光層用組成物の塗布量、塗布速度、塗布位置等が挙げられる。具体的には、インクジェット法により発光層用組成物を塗布する場合、塗布条件としては、インクの吐出量、吐出速度、着弾位置等を挙げることができる。
【0109】
また、乾燥工程での発光層用組成物の乾燥条件を調整する場合、乾燥条件としては、例えば、温度、乾燥速度、風速等が挙げられる。
【0110】
中でも、塗布工程での発光層用組成物の塗布条件を調整することが好ましい。厚みムラの主な要因は、塗布条件であるためである。さらに、塗布工程での発光層用組成物の塗布量を調整することがより好ましい。塗布ムラとしてはスジ状の塗布ムラが生じる場合が多く、スジ状の塗布ムラを抑制するためには塗布量を調整することが多いからである。
【0111】
2.有機EL層形成工程
本開示における有機発光ダイオードの製造方法は、複数色の発光層を含む有機EL層を形成し、上記発光層形成工程を有する有機EL層形成工程を有することができる。
【0112】
有機EL層を構成する層としては、発光層の他、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。
【0113】
有機EL層において、発光層以外の層の形成方法としては、例えば、塗布方式であってもよく、蒸着方式であってもよい。
【0114】
有機EL層を構成する層に用いられる材料としては、一般的な有機発光ダイオードの有機EL層の各層に用いられる材料を適用することができる。
【0115】
3.第1電極形成工程
本開示における有機発光ダイオードの製造方法は、上記有機EL層形成工程前に、基板の一方の面に第1電極を形成する第1電極形成工程を有することができる。
【0116】
第1電極は、陽極であってもよく、陰極であってもよい。また、上述の発光層形成工程の検査工程において透過方式で検査を行う場合には、第1電極には透明電極が用いられる。
【0117】
第1電極に用いられる導電性材料としては、一般的な有機発光ダイオードの電極に用いられる導電性材料を適用することができる。また、第1電極の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を採用することができる。
【0118】
4.第2電極形成工程
本開示における有機発光ダイオードの製造方法は、上記有機EL層上に第2電極を形成する第2電極形成工程を有することができる。
【0119】
第2電極は、陽極であってもよく、陰極であってもよい。第2電極に用いられる導電性材料としては、一般的な有機発光ダイオードの電極に用いられる導電性材料を適用することができる。また、第2電極の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を採用することができる。
【0120】
5.隔壁形成工程
本開示における有機発光ダイオードの製造方法は、上記第1電極形成工程後に、基板の一方の面に、各色の発光層用組成物が塗布される領域を区画する隔壁を形成する隔壁形成工程を有することができる。
【0121】
隔壁に用いられる絶縁性材料としては、一般的な有機発光ダイオードの隔壁に用いられる絶縁性材料を適用することができる。また、隔壁の形成方法としては、一般的な隔壁の形成方法を採用することができる。
【0122】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0123】
1 … 検査装置
2 … 照明光源
3 … マルチ分光カメラ
4 … 検出部
10 … 積層体
11 … 基板
12 … 第1電極
13 … 隔壁
15R … 赤色発光層
15G … 緑色発光層
15B … 青色発光層
図1
図2
図3
図4