(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】熱伝導材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20240806BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240806BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240806BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240806BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20240806BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20240806BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C08K3/38
C08K3/04
C08L101/00
C01B21/064 H
C01B21/064 M
C01B32/158
(21)【出願番号】P 2020189583
(22)【出願日】2020-11-13
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジョンハン
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】大平 喜恵
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172768(JP,A)
【文献】特開2020-169230(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136959(WO,A1)
【文献】特開2012-171842(JP,A)
【文献】特開2012-136698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/14
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C01B 15/00-23/00、32/00-32/991
C04B 35/00-35/047、35/053-35/106、
35/109-35/22、35/45-35/457、
35/547-35/553
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素の結晶質粒子とホウ酸メラミンと
該結晶質粒子よりも熱伝導率が大きい補助粒子との混合物を加熱する焼成工程を備え、
該結晶質粒子の表面に該結晶質粒子よりも小さい窒化ホウ素の非晶質粒子
が付着
していると共に該非晶質粒子に該補助粒子が担持された複合粒子
を得
る熱伝導材の製造方法。
【請求項2】
前記結晶質粒子と前記非晶質粒子の合計量に対して、該非晶質粒子は5~20体積%含まれる請求項1に記載の熱伝導材の製造方法。
【請求項3】
前記補助粒子は、炭素粒子を含む請求項1または2に記載の熱伝導材の製造方法。
【請求項4】
前記炭素粒子は、カーボンナノチューブを含む請求項3に記載の熱伝導材の製造方法。
【請求項5】
前記結晶質粒子と前記非晶質粒子と前記補助粒子の合計量に対して、該補助粒子は5~20体積%含まれる請求項1~4のいずれかに記載の熱伝導材の製造方法。
【請求項6】
前記非晶質粒子と前記補助粒子の合計量に対して、該非晶質粒子は40~80体積%含まれる請求項1~5のいずれかに記載の熱伝導材の製造方法。
【請求項7】
前記熱伝導材は、前記複合粒子を含むフィラーがマトリックスに分散してなる複合材である請求項1~6のいずれかに記載の熱伝導材の製造方法。
【請求項8】
前記フィラーの充填率は、前記複合材全体に対して50~90体積%である請求項7に記載の熱伝導材の製造方法。
【請求項9】
前記フィラーは、マトリックスとの親和性を高める表面処理がなされている請求項7または8に記載の熱伝導材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素を用いた熱伝導材等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器(半導体モジュール等)の高密度や高性能化等に伴う構造変化により、従来と異なる高放熱性の電気絶縁材料が用いられるようになった。例えば、高熱伝導率のセラミックス(AlN等)の基板に替えて、樹脂中に高熱伝導な絶縁材(フィラー)を分散させた複合材料が絶縁シート等に用いられている。このような(有機/無機)複合材料は、成形性、加工性、異種材との接着性等に優れ、比較的安価でもある。
【0003】
ところで、複合材料用のフィラーとして、種々のセラミックス粒子(繊維を含む)が用いられる。例えば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)等の粒子である。しかし、シリカやアルミナは熱伝導率が小さく、また窒化アルミニウムは水(H2O)と反応してアンモニア(NH3)を発生するため、耐湿性が低く長期信頼性に劣る。そこで、高熱伝導性および高電気絶縁性であると共に、化学的にも安定な窒化ホウ素(BN)が複合材料のフィラーとして多用されている。
【0004】
窒化ホウ素には、一般的に、六方晶系の常圧相(適宜「h-BN」ともいう。)と、立方晶系の高圧相((適宜「c-BN」ともいう。)とがある。通常、六方晶系窒化ホウ素(h-BN)がフィラーとして用いられる。
【0005】
h-BNは、黒鉛と類似した六角網目層が積層された鱗片状からなり、面方向と厚さ方向で熱伝導率が大きく異なる熱伝導異方性を有する。また、h-BN粒子は、充填される樹脂中において、面方向に配向し易い。このため、例えば、h-BN粒子を高充填しても、厚さ方向(シート状の複合材料なら、熱源側から冷却源側へ向かう方向)の放熱性(熱伝導率)が不足する傾向にあった。
【0006】
そこで、h-BN粒子を含む複合材料の熱伝導性(放熱性)を高める提案が種々なされており、例えば、下記の特許文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭59-64355
【文献】特開2010-260225
【文献】特開2011-184507
【文献】特開2012-171842
【文献】特開2012-255055
【文献】特開2018-159062
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
もっとも、いずれの特許文献でも、結晶質なh-BNからなるフィラーを用いているに過ぎない。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来と構造が異なる新たな窒化ホウ素粒子を用いた熱伝導材等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、窒化ホウ素の結晶質粒子に、窒化ホウ素の非晶質粒子を付着させた複合粒子をフィラーの骨格として利用することにより、複合材の熱伝導率を高めることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《熱伝導材》
本発明は、窒化ホウ素の結晶質粒子と該結晶質粒子よりも小さく該結晶質粒子の表面に付着した窒化ホウ素の非晶質粒子とを有する複合粒子を含む熱伝導材である。
【0012】
本発明に係る複合粒子を用いれば、高熱伝導率の熱伝導材(複合材を含む。)を得ることが可能となる。この理由は定かではないが、次のように考えられる。複合粒子中の非晶質粒子は、結晶質粒子よりも他の高熱伝導率な物質(補助粒子)等を多く担持し得る。このため、非晶質粒子および補助粒子を介して、結晶質粒子の隣接間に熱伝導パスが形成されるようになり、複合材の熱伝導率が顕著に向上するようになったと考えられる。
【0013】
《熱伝導材の製造方法》
本発明は、熱伝導材の製造方法としても把握される。例えば、本発明は、窒化ホウ素の結晶質粒子とホウ酸メラミンとの混合物を加熱する焼成工程を備え、該結晶質粒子の表面に該結晶質粒子よりも小さい窒化ホウ素の非晶質粒子を付着させた複合粒子を得る熱伝導材の製造方法でもよい。
【0014】
《複合材/熱伝導部材》
本発明は、熱伝導材の一形態である複合材または熱伝導部材としても把握される。例えば、本発明の熱伝導材は、複合粒子を含むフィラーがマトリックスに分散した複合材でもよい。また本発明の熱伝導材(複合材)は、放熱部材、基板、ケース等の熱伝導部材でもよい。
【0015】
《その他》
(1)本明細書でいう「~材」は、「材料」または「部材」を意味する。例えば、熱伝導材は、複合粒子またはその粉末、補助粒子を含む複合粒子またはその粉末からなる材料(原料)でもよい。また、熱伝導材は、それら粒子または粉末と、母材(マトリックス)または結合材(バインダ)とを有する有形な複合材(素材を含む)または所望形状の複合部材でもよい。
【0016】
(2)本明細書でいう「x~y」は、特に断らない限り、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。本明細書でいう「x~yμm」は、特に断らない限り、xμm~yμmを意味する。他の単位系(W/mK、Ωm等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例で用いた各フィラー粒子を模式的に示すモデル図である。
【
図2】試料1と試料2のフィラー粒子を観察したSEM像である。
【
図3】試料3と試料Cのフィラー粒子を観察したSEM像である。
【
図4】試料M1と試料M3の複合材を観察したSEM像である。
【
図5】試料1と試料2のフィラー粒子に係るX線回折パターンである。
【
図6】各試料の複合材の熱伝導率を示す棒グラフである。
【
図7】各試料の複合材について、比抵抗と熱伝導率の関係を示す散布図である。
【
図8】試料M31の複合材に基づいて、フィラーの充填率が熱伝導率に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図9】試料M3の複合材に基づいて、非晶質粒子と補助粒子の体積割合が熱伝導率に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図10】本発明に係る複合材を模式的に示したモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、熱伝導材(フィラー、複合材、部材を含む。)のみならず、その製造方法等にも適宜該当する。方法的な構成要素であっても物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0019】
《複合粒子》
複合粒子は、窒化ホウ素(BN)からなる結晶質粒子と、窒化ホウ素からなる非晶質粒子を備える。非晶質粒子は結晶質粒子の表面に付着している。非晶質粒子の付着は、化学結合(ファンデルワールス結合を含む)、焼結、接着等のいずれでもよい。なお、結晶質粒子の表面に付着している粒子の全てが非晶質粒子でなくてもよい。つまり、結晶質粒子に付着した粒子の一部は、結晶化していてもよい。
【0020】
非晶質粒子は、例えば、結晶質粒子と非晶質粒子の合計量に対して5~20体積%さらには7~15体積%含まれるとよい。非晶質粒子が過少では、その効果が乏しくなる。非晶質粒子が過多では、結晶質粒子が相対的に過少となり、熱伝導率が低下し得る。
【0021】
各粒子の体積割合(体積%)は、複合粒子の調製時の原料の体積割合(配合量と密度から算出される。)から特定される。補助粒子の体積割合、複合材全体に対する各粒子の体積割合等についても、同様な手法で特定され得る。なお、非晶質粒子をホウ酸メラミンから得る場合、焼成工程により、非晶質粒子の体積はホウ酸メラミンの体積の1/5となる。従って、非晶質粒子の所望体積量に対してホウ酸メラミンの配合体積量を5倍にするとよい。なお、非晶質粒子の体積割合が大きいほど、X線回折パターンのピークがブロードになり得る(
図5参照)。
【0022】
《結晶質粒子》
結晶質粒子は、例えば、六方晶構造の窒化ホウ素(h-BN)または立方晶構造の窒化ホウ素(c-BN)である。通常、h-BN粒子が結晶質粒子として用いられる。
【0023】
結晶質粒子のサイズや形態は問わない。h-BNからなる結晶質粒子のサイズは、例えば、最大長が1~100μm、10~60μmさらには20~40μm程度である。最大長は、例えば、結晶質粒子を顕微鏡の観察像(例えばSEM像)から求まる。敢えていうなら、一視野(1500μm×1000μm)あたりに存在する結晶質粒子の各最大長を算術した平均値を結晶質粒子のサイズとしてもよい。このような粒子サイズの特定は、本発明でいう非晶質粒子、複合粒子、補助粒子等にも該当する。また、粒子の形状(略鱗片状、略繊維状、略長球状、略球状等)とは関係なく、粒子サイズを単に「粒径」ともいう。
【0024】
h-BN自体(単層)は六角格子構造の網目状であるが、結晶質粒子自体は、h-BN単層でも、それらの積層体または集合体(凝集体、二次粒子)でもよい。従って結晶質粒子は、必ずしも鱗片状でなくてもよい。
【0025】
《非晶質粒子》
非晶質粒子は、結晶質粒子の表面に付着できるサイズや形態であればよい。通常、非晶質粒子は、結晶質粒子よりも小さい。なお、本明細書では、既述した観察像から特定できる最大長に基づいて粒子の大小を判断する。
【0026】
結晶質粒子に付着している各非晶質粒子の最大長は、例えば、結晶質粒子の最大長の1/1000~1/5、1/500~1/10さらには1/200~1/20程度である。敢えていうと、非晶質粒子の最大長は、例えば、0.1~30μm、0.5~15μmさらには1~5μm程度でもよい。非晶質粒子の形状は種々あり得るが、例えば、非晶質粒子は鱗片状である。勿論、非晶質粒子は、その他の形状(略繊維状、略長球状、略球状等)でもよい。
【0027】
ちなみに、窒化ホウ素の結晶性の程度(結晶質粒子と非晶質粒子の区別)は、X線回折(XRD)のプロファイルから判断される。結晶質粒子のプロファイルにはピークがあり、非晶質粒子のプロファイルには明確なピークが観られず、全体がブロード(ハローパターン)状となる。
【0028】
《補助粒子》
熱伝導材は、非晶質粒子に担持されて、結晶質粒子間の熱伝導パス形成に寄与する補助粒子を含むとよい。補助粒子として、熱伝導材の仕様等に応じて、サイズや熱伝導率等が異なる種々の粒子を用いることができる。補助粒子は、少なくとも結晶質粒子よりも小さいとよい。さらに補助粒子は、非晶質粒子よりも小さくてもよい。なお、補助粒子は、結晶質粒子および/または非晶質粒子よりも熱伝導率が大きいと好ましい。
【0029】
補助粒子の一例として、炭素粒子がある。炭素粒子として、例えば、黒鉛粒子(カーボンブラックを含む。)、ダイヤモンド粒子、ナノカーボン粒子がある。ナノカーボン粒子には、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン(CNH)、フラーレン、グラフェン等がある。CNTは、高熱伝導率である共に、アスペクト比が10以上あり、少量でも熱伝導パスの形成がされ易い点で他の炭素粒子よりも優れる。
【0030】
炭素粒子は、例えば、最大長が0.001~5μmさらには0.01~2μmである。他の粒子との大小比較は、上述した視野内における最大長の算術平均値に基づいて行うとよい。
【0031】
補助粒子は、例えば、結晶質粒子、非晶質粒子および補助粒子の合計量に対して5~20体積%さらには7~15体積%が含まれるとよい。非晶質粒子と補助粒子の合計量に対して観れば、補助粒子は20~60体積%さらには30~55体積%(非晶質粒子なら40~80体積%さらには45~70体積%)含まれるとよい。補助粒子が過少では、その効果が乏しくなる。補助粒子が過多では、結晶質粒子や非晶質粒子が相対的に過少となり、熱伝導率が低下し得る。また、高導電率な補助粒子(炭素粒子等)が過多になると、熱伝導材の比抵抗(電気抵抗率)が低下し得る。
【0032】
《複合材》
熱伝導材は、複合粒子(さらに補助粒子を含む)からなるフィラーと、フィラーを固定するマトリックス(バインダを含む。以下、単に「マトリックス」という。)とからなる複合材(素材または部材)でもよい。
【0033】
(1)フィラー
マトリックスへのフィラーの充填率は、例えば、複合材全体に対して50~90体積%さらには60~80体積%である。複合材の熱伝導率は充填率に応じて変化するが、充填率を過大にしても熱伝導率はあまり向上しない。フィラーの充填率は、製造時なら原料の配合量から特定され、複合材中におけるフィラーの充填率は既述したように、複合材(断面)の観察像から算出・特定される。
【0034】
フィラーの全体または一部(複合粒子、補助粒子)は、マトリックスとの親和性を高める表面処理がなされているとよい。これにより、マトリックス中におけるフィラーの分散性、充填性、密着性等が向上して、複合材の熱伝導率および/または比抵抗が向上し得る。
【0035】
表面処理は、例えば、疎水化処理またはカップリング処理である。マトリックスが有機材料(樹脂、ゴム・エラストマー等)なら、例えば、シランカップリング処理やフッ素プラズマ処理等の表面処理をフィラーに行えばよい。シランカップリング処理は、マトリックス側の官能基(アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、アクリル基等)に対応する反応基を備えた種々のシランカップリング剤を用いて行える。代表的なシランカップリング剤として、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS:C6H19NSi2)がある。なお、シランカップリング剤は、通常、無機材料であるフィラー(複合粒子、補助粒子等)側にある官能基(ヒドロキシキ基、メトキシ基、エトキシ基等)にも対応する反応基(シリル基等)を備える。
【0036】
表面処理剤の含有量(配合量・添加量)は、例えば、未処理前のフィラー全体100質量部に対して0.1~3質量部、0.5~2.5質量部さらには1~2質量部である。過少な表面処理剤ではその効果が乏しく、表面処理剤を過多にしても効果の向上は少ない。
【0037】
なお、混合(混練を含む。)前のフィラーに表面処理を予め行う他、マトリックスとフィラーの混合時に表面処理剤(カップリング剤等)が配合・添加等されてもよい。
【0038】
(2)マトリックス
マトリックス(バインダを含む)は、例えば、絶縁性を有する有機材料からなる。具体的にいうと、通常、樹脂やゴム・エラストマー等がマトリックスとなる。樹脂は、熱硬化性樹脂でも、熱可塑性樹脂でもよい。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等である。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド等である。ゴムは、例えば、エチレン- プロピレン- ジエンゴム( E P D M ) 、ブチルゴム等である。なお、本明細書では、特に断らない限り、ゴム・エラストマーを含めて、単に「樹脂」という。
【0039】
《製造方法》
(1)複合粒子
結晶質粒子と非晶質粒子からなる複合粒子の製造方法は種々考えられる。例えば、窒化ホウ素の結晶質粒子とホウ酸メラミン(錯体または塩)との混合物を加熱する焼成工程を経て複合粒子は得られる。より具体的にいうと、例えば、次のような各工程の一部または全部がなされるとよい。
【0040】
混合物は、例えば、窒化ほう素粉末(h-BN粉末等)とホウ酸メラミン粉末を混合して得られる。このような混合は、ボールミル、振動ミル、V型混合機等を用いてなされる(混合工程)。このとき、積層状態のh-BN粒子も粉砕され得ると好ましい。
【0041】
窒化ホウ素粉末をホウ酸メラミンを調製した溶液へ直接加えるときは、その混合前または混合後(さらには濾過後)に、溶媒(通常は水)を除去してもよい。溶媒の除去は、例えば、真空乾燥(エバポレーション)により行える(乾燥工程)。なお、溶媒の除去は、例えば、常温域(例えば10~40℃)で行えばよい。
【0042】
乾燥させた混合物をそのまま焼成してもよいし、その混合物を加圧成形した成形体を焼成してもよい。成形体は、例えば、混合物を金型成形、CIP(Cold Isostatic Pressing/冷間等方圧加工法)成形、RIP(Rubber Isostatic Pressing/ゴム等方圧加工法)成形等して得られる(成形工程)。なお、成形体は、焼成後の粉砕が可能な形状であれば足る。成形圧力もハンドリングできる成形体が得られる程度で足り、例えば、50~500MPaさらには100~300MPa程度でよい。
【0043】
混合物(その成形体を含む。)を、例えば、真空中や不活性ガス中で加熱すると、焼成体(焼結体)が得られる。その加熱温度は、例えば、1600℃~2000℃、1700~1900℃さらには1750~1850℃とすればよい。加熱時間は、例えば、0.3~3時間さらには0.7~2時間とすればよい。なお、HIP(Hot Isostatic Pressing/熱間等方圧加工法)により、上述した成形と焼成が同時になされてもよい。
【0044】
焼成体を、例えば、大気雰囲気中で粉砕することにより、複合粒子からなる粉末(「複合化粉末」という。)が得られる(粉末化工程)。なお、焼成体の粉砕は、小型粉砕機やクラッシャー機等を用いて行える。
【0045】
複合化粉末の粒度は、例えば、篩い分けにより1~100μmさらには1~53μmに分級されて用いられてもよい。粉末の平均粒径(メジアン径:D50)でいえば、例えば、5~45μmさらには16~22μmに調整されてもよい。
【0046】
(2)複合材
マトリックス中にフィラーが分散(充填)された複合材は、例えば、圧縮成形、射出成形、トランスファー成形等により形成される。マトリックスが熱硬化性樹脂からなる場合、成形後に、熱硬化処理(キュア処理)がなされるとよい。複合材は、最終製品形状またはそれに近い形状のものでもよいし、後加工される素材や中間材でもよい。
【0047】
ちなみに、ホウ酸メラミンは、公知な種々の方法により製造される。例えば、ホウ酸とメラミンの加温水溶液を冷却(放冷)すると、白色粉末が析出する。こうして得られた白色粉末を脱水、乾燥させると、無水のホウ酸メラミン(C3H6N6・2H3BO3)が得られる。
【0048】
《用途》
複合粒子を含むフィラーがマトリックス中に分散した複合材は、マトリックスの材質やフィラーの充填率に応じて、所望の熱伝導性や絶縁性を発揮し得るため、例えば、電子機器等の基板、ケース、放熱部材等、またはそれらの一部に用いられるとよい。なお、複合材の熱伝導率は、例えば、13~60W/mK、15~40W/mKさらには18~35W/mKとなり得る。複合材の比抵抗は、例えば、10~104Ωmさらには102~103Ωmとなり得る。
【実施例】
【0049】
h-BNからなる結晶質粒子を用いた種々のフィラーを用意し、各フィラーをマトリックスである樹脂中に充填した複合材を製作した。各フィラーの構造(組織)を観察すると共に、各複合材の熱伝導率と比抵抗を評価した。以下、このような具体例を示しつつ、本発明を説明する。
【0050】
《フィラーの製作》
5種類のフィラー(試料1~3、試料31および試料C)を用意した。
図1に、各フィラー(モデル)を模式的に示した。試料1のフィラーは、h-BNの結晶質粒子のみからなる。試料2のフィラーは、その結晶質粒子にBNの非晶質粒子を付着させた複合粒子からなる。試料3のフィラーは、その複合粒子をさらにカーボンナノチューブ(CNT)で修飾した粒子からなる。試料Cは、結晶質粒子をCNTで修飾した粒子からなる。なお、試料31のフィラーは、試料3の粒子に疎水化処理を施した粒子からなる。
【0051】
(1)試料1(結晶質粒子)
試料1のフィラー(結晶質粒子)には市販のh-BN粉末(デンカ株式会社製デンカボロンナイトライド粉末SGP)を用いた(20g)。この粉末は、BN純度:99%以上、粒度:18μm(D50)、結晶度(GI値):0.9であった。以下、結晶質粒子源には、そのh-BN粉末を用いた。
【0052】
(2)試料2(複合粒子)
ホウ酸メラミン粉末とh-BN粉末を原料として、複合粒子からなるフィラーを製作した。
【0053】
先ず、ホウ酸メラミン粉末は次のように調製した。ホウ酸(市販試薬:24g)を95℃に加熱した純水(800ml)に投入し、十分に撹拌して完全に溶解させた。このホウ酸水溶液へ、メラミン(市販試薬16g)を投入して、同様に完全に溶解させた。この混合水溶液を約25℃まで水冷した後、さらに真空吸引ろ過器で脱水した。得られた残留物を真空乾燥炉で真空乾燥(40℃×12時間)させた。こうして得られた白色粉末をXRDで分析したところ、無水のホウ酸メラミン(C3H6N6・2H3BO3)であることが同定された。
【0054】
次に、h-BN粉末(16g)とホウ酸メラミン粉末(20g)をアセトン160gと一緒にボールミルで混合(12時間)した(混合工程)。得られた混合粉末をろ過した後、残留物を真空常温乾燥(エバポレーション)させた(乾燥工程)。濾過・乾燥はアセトン等有機溶媒を揮発させるために行った。
【0055】
さらに、濾過・乾燥した混合粉末をCIP成形した。CIP成形は、混合粉末を2重の塩化ビニール袋に入れて行った。こうして成形塊(50mm×10mm程度)を得た。このときの成形圧力は3t/cm2(294MPa)とした。
【0056】
成形塊を加熱炉に入れて減圧した後、窒素ガスフロー下で加熱(1800℃×1時間)した(焼成工程)。得られた焼成体を卓上型クラッシャーで0.2時間粉砕した(粉砕工程)。粉砕物を篩い分級して粒度1~53μmとした。こうして複合粒子からなるフィラーを得た。このフィラー(100体積%)は、それぞれの密度と配合質量から換算すると、結晶質粒子:80体積%、非晶質粒子:20体積%に相当した。
【0057】
(3)試料3(複合粒子+補助粒子)
ホウ酸メラミン粉末、h-BN粉末およびCNT粉末を原料として、CNT(粒子)で修飾した複合粒子からなるフィラーを製作した。CNT粉末にはNanocyl社製NC7000(平均直径:9.5nm、平均長さ:1.5μm)を用いた。以下、補助粒子源には、そのCNT粉末を用いた。
【0058】
h-BN粉末(16g)、ホウ酸メラミン粉末(10g)およびCNT粉末(2g)を秤量して配合した以外は、試料2のフィラーと同様に製作した。こうしてCNT(補助粒子)で修飾された複合粒子からなるフィラーを得た。このフィラー(100体積%)は、結晶質粒子:80体積%、非晶質粒子:10体積%、CNT:10体積%に相当した。
【0059】
(4)試料31(複合粒子+補助粒子+疎水化処理)
試料3のフィラーに対して、ヘキサメチルジシラザン(HMDS/信越化学工業株式会社製SZ-31)を用いて疎水化処理(シランカップリング処理)したフィラーも製作した。HMDSはフィラー100質量部に対して5質量部加えた。疎水化処理は、具体的にいうと、トルエンとHMDSを攪拌混合(60℃×5hr)した後、常温真空乾燥炉で12hr乾燥させた。こうしてCNTで修飾された複合粒子が疎水化されたフィラーを得た。
【0060】
(5)試料C(結晶質粒子+補助粒子)
h-BN粉末とCNT粉末を原料として、CNTで修飾した結晶質粒子からなるフィラーを製作した。h-BN粉末(18g)およびCNT粉末(2g)を秤量して配合した以外は、試料3のフィラーと同様に製作した。こうしてCNT(補助粒子)で修飾された結晶質粒子からなるフィラーを得た。このフィラー(100体積%)は、結晶質粒子:90体積%、CNT:10体積%に相当した。
【0061】
《複合材の製作》
各フィラーをマトリックスに分散させた複合材を製作した。各フィラーの充填率は、特に断らない限り、複合材全体(100体積%)に対して70体積%とした。マトリックス(バインダ)には、一液加熱硬化型エポキシ樹脂(セメダイン株式会社製EP160/以降、単に「樹脂」という。)を用いた。具体的には、次のようにして複合材を製作した。
【0062】
各フィラーと樹脂をプラスチック製容器内で10分間混練した。真空乾燥させた混練物を解砕して、フィラーの粒子が樹脂で被覆されたコンパウンドを得た。このコンパウンドを金型に充填して、一軸方向に圧縮成形した。このとき、成形圧力:15MPa、金型温度:120℃とした。こうして円柱状の複合成形体(φ14mm×20mm)を得た。複合成形体を大気雰囲気中で加熱(120℃×30分)して樹脂を硬化させた。こうして、樹脂中にフィラーが分散した複合材を得た。本実施例では、試料1、試料2、試料3、試料31、試料Cの各フィラーを用いた複合材を、順に試料M1、試料M2、試料M3、試料M31、試料MCという。なお、参考試料として、CNT粉末のみをフィラーとした複合材も同様に製作した(試料MT)。
【0063】
《観察》
(1)SEM
試料1~3および試料Cの各フィラー粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。それらの観察像を
図2および
図3に示した。また試料M1と試料M3の各複合材の断面をSEMで観察した観察像を
図4に示した。
【0064】
(2)XRD
試料1と試料2のフィラー粒子をX線回折解析(XRD/Cu-Kα)した。得られた回折パターンを
図5にまとめて示した。
【0065】
《測定》
(1)熱伝導率
複合材の熱伝導率(λ)をナノフラッシュ法により求めた。具体的にいうと、ナノフラッシュ法で測定した熱拡散率(α)と、示差走査熱量計(DSC)で求めた比熱(Cp)と、アルキメデス法で求めた密度(ρ)とから、λ=α・Cp・ρとして熱伝導率を算出した。熱拡散率の測定には、円柱状の複合材から、軸方向(加圧方向)に垂直な方向に切り出した薄い板状のサンプルを用いた。こうして、複合材の加圧方向(通常、配向方向に略直交する方向)を伝熱方向と想定したときの熱伝導率を求めた。
【0066】
(2)比抵抗
各複合材の比抵抗は、上記の円板状サンプルを用いて、室温域で直流四端子法により測定した。
【0067】
得られた各試料の熱伝導率と比抵抗を
図6および
図7にまとめて示した。また、
図8には、試料M31に基づいて、フィラーの充填率と熱伝導率の関係を示した。さらに
図9には、試料M3に基づいて、非晶質粒子と補助粒子(CNT)の体積割合と熱伝導率の関係を示した。なお、
図9の場合、複合材全体に対するフィラーの充填率:70体積%と、フィラー全体に対する結晶質粒子の割合:80体積%とは不変とした。つまり、非晶質粒子とCNTの合計割合をフィラー全体に対して20体積%としたまま、非晶質粒子とCNTの体積割合を変化させた。
【0068】
《評価》
(1)構造(形態)
図2から明らかなように、試料2の粒子は、h-BN粒子(試料1の粒子)の表面に、それよりも小さい粒子(最大長1~10μm程度)が付着した複合粒子であることが確認できた。
図5から明らかなように、試料1の粒子は結晶質粒子であり、試料2に観られる小粒子は非晶質粒子であることもわかった。
【0069】
図3から明らかなように、複合粒子の表面には、CNT(補助粒子)がBNの非晶質粒子を介して結晶質粒子(h-BN粒子)の表面および側面に多く担持されることもわかった(試料3)。一方、BNの結晶質粒子のみには、CNTがその側面に僅かしか付着しないこともわかった(試料C)。
【0070】
図4から明らかなように、CNTが担持された複合粒子をフィラーとする複合材(試料M3)では、隣接する結晶質粒子(h-BN粒子)の隙間に非晶質粒子およびCNTが介在して、各粒子が密接した状態となっていた。つまり、結晶質粒子の隣接間が非晶質粒子とCNTにより連接され、熱伝導パスが形成された状態となっていることが確認された。また、試料M3の複合材では、結晶質粒子の向きも一定ではなく、その配向性は低かった。
【0071】
一方、結晶質粒子のみをフィラーとする複合材(試料M1)では、各結晶質粒子が一定方向(加圧方向に略直交する方向)に配向していると共に、各結晶質粒子間に樹脂が介在した状態となっていた。つまり、隣接する結晶質粒子同士の接触が樹脂により遮断され、それらの間に熱伝導パスが形成され難いことが確認された。
【0072】
(2)特性
図6から明らかなように、複合粒子にCNTを担持させたフィラーを用いた複合材(試料M3、M31)は、結晶質粒子のみからなるフィラーを用いた複合材(試料M1)と比較して、熱伝導率が21~43%程度も顕著に向上した。また、試料MCの複合材は、高熱伝導率なCNTを含むにもかかわらず、試料M1よりも熱伝導率が低下した。これらのことから、フィラー粒子に非晶質粒子が存在することにより、多くの補助粒子(CNT)が複合粒子の表面に担持され、それにより熱伝導率が顕著に向上することがわかった。
【0073】
図7から明らかなように、試料M3、M31の複合材は、高導電性のCNTを含むにもかかわらず、CNTを含まない試料M1、M2の複合材に近い比抵抗を示すこともわかった。また、試料M3、M31の複合材は、非晶質粒子を含まない試料MCの複合材(CNT量は同じ)よりも比抵抗が大きくなることもわかった。
【0074】
さらに、
図6および
図7に示した試料M3と試料M31の比較からわかるように、疎水化処理したフィラーを用いることにより、熱伝導率および比抵抗(電気抵抗率)がさらに向上することもわかった。
【0075】
(3)充填率
図8から明らかなように、複合材の熱伝導率は、フィラーの充填率に応じて増加するが、充填率が70体積%%付近を超えると、その増加傾向は緩やかになることもわかった。
【0076】
(4)非晶質粒子と補助粒子の割合
図9から明らかなように、非晶質粒子が補助粒子(CNT)との合計量に対して40~80体積%さらには45~75体積%となるフィラー粒子を用いると、熱伝導率の高い複合材が得られることがわかった。
【0077】
《考察》
以上の結果からわかるように、窒化ホウ素の複合粒子を骨格とするフィラーを用いることにより、複合材の熱伝導率を大幅に向上させ得ることがわかった。このような熱伝導率の飛躍的な向上は、
図10に示すように、高熱伝導性の結晶質粒子が非晶質粒子と補助粒子で連接されて熱伝導パスが形成される結果、熱伝導のパーコレーションが生じたためと考えられる。