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特許7533156コントローラ、ブーム装置、及びクレーン車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】コントローラ、ブーム装置、及びクレーン車
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/88 20060101AFI20240806BHJP
   B66C 23/00 20060101ALI20240806BHJP
   B66C 13/22 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B66C23/88 L
B66C23/00 A
B66C13/22 T
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020191734
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080589
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(72)【発明者】
【氏名】辛島 大貴
(72)【発明者】
【氏名】谷井 悟
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-172775(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027335(WO,A1)
【文献】実開昭49-101453(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/88
B66C 23/00
B66C 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台座と、
当該台座に支持され、倒伏位置と所定起立位置との間で起伏動作可能なブームと、
ワイヤドラムに巻き取られ、上記ブームの先端部に巻きかけられたワイヤを有するウインチと、
上記ワイヤに設けられた吊荷用フックを有するフック部材と、
上記ブームを起伏させる第1アクチュエータと、
上記ウインチを駆動する第2アクチュエータと、
上記台座に設けられ、上記吊荷用フックが係止される係止部材と、
上記ブームの起伏角度に応じた検出値を出力する起伏角センサと、
上記ワイヤの繰り出し長さに応じた検出値を出力するワイヤセンサと、を備えたブーム装置に搭載されるコントローラであって、
上記ブームの長さ、上記ブームの起伏中心を基準とする上記係止部材の位置に応じた第1指定値、及び上記フック部材の種別と上記係止部材の種別との少なくとも一方に応じた第2指定値を予め記憶するメモリを有しており、
上記起伏角センサの検出値から特定した上記ブームの起伏角度と、上記ブームの長さと、上記第1指定値及び第2指定値と、に基づいて、上記ブームの先端基準位置から上記フック部材までの許容最小距離及び許容最大距離を生成する生成処理と、
上記許容最小距離まで上記ワイヤを巻き上げる巻上処理と、
上記巻上処理の実行後、上記許容最小距離と上記許容最大距離との差に応じた目標値だけ上記ワイヤを繰り出す繰出処理とを、ブームの自動展開或いは自動格納における上記第1アクチュエータ及び上記第2アクチュエータの同時駆動の前に実行する、コントローラ。
【請求項2】
上記許容最小距離は、上記ワイヤが張られて上記フック部材が起こされた姿勢における上記ブームの先端部から上記フック部材までの距離であり、
上記許容最大距離は、上記フック部材が寝た姿勢における上記ブームの先端部から上記フック部材までの距離である、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項3】
上記ブーム装置は、
上記第2アクチュエータに作動油を供給する油圧供給装置をさらに備えており、
上記油圧供給装置は、上記第2アクチュエータに供給する作動油を所定圧力未満に低減するリリーフバルブを備えたリリーフ回路を有しており、
流路を上記リリーフ回路に切り替える切替処理を実行した後、上記巻上処理を実行する、請求項1または2に記載のコントローラ。
【請求項4】
上記第2指定値は、上記フック部材の長さと上記係止部材の長さとの和に応じた値である、請求項1から3のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項5】
上記繰出処理の実行後、上記ワイヤセンサの検出値から特定した上記ワイヤの繰り出し長さが上記目標値を維持するように、上記第1アクチュエータ及び第2アクチュエータを駆動させる駆動処理をさらに実行する、請求項1から4のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項6】
ワイヤ掛数を取得する取得処理と、
上記ワイヤ掛数に基いて上記目標値を補正する補正処理と、をさらに実行する、請求項1から5のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のコントローラと、上記台座、上記ブーム、上記ウインチ、上記フック部材、上記第1アクチュエータ、上記第2アクチュエータ、上記係止部材、上記起伏角センサ、及び上記ワイヤセンサと、を備えたブーム装置。
【請求項8】
請求項7に記載のブーム装置を備えたクレーン車。
【請求項9】
台座と、
当該台座に支持され、倒伏位置と所定起立位置との間で起伏動作可能なブームと、
ワイヤドラムに巻き取られ、上記ブームの先端部に巻きかけられたワイヤを有するウインチと、
上記ワイヤに設けられた吊荷用フックを有するフック部材と、
上記ブームを起伏させる第1アクチュエータと、
上記ウインチを駆動する第2アクチュエータと、
上記台座に設けられ、上記吊荷用フックが係止される係止部材と、
上記ブームの起伏角度に応じた検出値を出力する起伏角センサと、
上記ワイヤの繰り出し長さに応じた検出値を出力するワイヤセンサと、を備えたブーム装置に搭載されるコントローラであって、
上記ブームの長さ、上記ブームの起伏中心を基準とする上記係止部材の位置に応じた第1指定値、及び上記フック部材の種別と上記係止部材の種別との少なくとも一方に応じた第2指定値を予め記憶するメモリを有しており、
上記起伏角センサの検出値から特定した上記ブームの起伏角度と、上記ブームの長さと、上記第1指定値及び第2指定値と、に基づいて、上記ブームの先端基準位置から上記フック部材までの許容最小距離及び許容最大距離を生成する生成処理と、
上記許容最小距離まで上記ワイヤを巻き上げる巻上処理と、
上記許容最小距離と上記許容最大距離との差に応じた目標値だけ上記ワイヤを繰り出す繰出処理と、
ワイヤ掛数を取得する取得処理と、
上記ワイヤ掛数に基いて上記目標値を補正する補正処理と、を実行する、コントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クレーン車に関し、詳細には、クレーン車に装備されるブーム装置及びブーム装置を制御するコントローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレーン車は、一般にブーム装置を搭載している(特許文献1参照)。特許文献1に開示されたブーム装置は、伸縮可能なブーム、ブーム駆動部、ワイヤが巻回されたワイヤドラムを有するウインチ、ウインチ駆動部、上記ワイヤの先端に設けられた吊荷用フック、及びフック固定環を備えている。ブームは、旋回台に起伏可能に支持されている。ブーム駆動部は、ブームを伸縮及び起伏させる。上記ワイヤは、ワイヤドラムから引き出されてブームの先端に巻き掛けられ、当該ワイヤの端部に吊荷用フックが設けられている。ウインチ駆動部はウインチを駆動し、上記ワイヤは、ワイヤドラムに巻き取られ、或いはワイヤドラムから繰り出される。フック固定環は旋回台に設けられており、上記吊荷用フックは、クレーン走行時(非作業時)にフック固定環に掛けられ、固定される。
【0003】
特許文献1に開示されたブーム装置は、制御装置を備える。この制御装置は、作業終了時のブーム格納作業並びに作業開始時のブーム展開作業を安全に行うため、ブーム駆動部及びウインチ駆動部を制御する。たとえばブームの格納作業に際し、作業者は、ブームを縮小且つ起立させ、吊荷用フックをフック固定環に掛ける。次に、作業者は、ブーム駆動装置を操作してブームを倒伏させる。このとき、制御装置は、ワイヤの弛みを防止するため、ブームの倒伏に合わせてワイヤが巻き取られるようにブーム駆動部及びウインチ駆動部を制御する。
【0004】
具体的には、制御装置は、ワイヤの長さを検出するセンサが検出したワイヤ長さSと、起伏角センサが検出したブームの起伏角θとに基づき、これらが理想的な対応関係Dとなるように、すなわち、ワイヤが弛み過ぎず且つ張り過ぎないように、ウインチの駆動を制御する。この理想的な対応関係Dは、実機による実験やシミュレーションによって求められ、予め制御装置の記憶部に記憶される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-172775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワイヤが張られた状態から上記対応関係Dが維持されるようにウインチ及びブームが駆動されると、制御の揺らぎによって係止部材に想定以上の負荷が加わり、係止部材が破損するおそれが生じる。一方、ワイヤが弛み過ぎた状態から上記対応関係Dが維持されるようにウインチ及びブームが駆動されると、乱巻きが生じるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の主目的は、ブームの自動展開や自動格納が実行される前に、ワイヤが張り過ぎずかつ弛み過ぎないように制御するコントローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明に係るコントローラは、台座と、当該台座に支持され、倒伏位置と所定起立位置との間で起伏動作可能なブームと、ワイヤドラムに巻き取られ、上記ブームの先端部に巻きかけられたワイヤを有するウインチと、上記ワイヤに設けられた吊荷用フックを有するフック部材と、上記ブームを起伏させる第1アクチュエータと、上記ウインチを駆動する第2アクチュエータと、上記台座に設けられ、上記吊荷用フックが係止される係止部材と、上記ブームの起伏角度に応じた検出値を出力する起伏角センサと、上記ワイヤの繰り出し長さに応じた検出値を出力するワイヤセンサと、を備えたブーム装置に搭載される。本発明に係るコントローラは、上記ブームの長さ、上記ブームの起伏中心を基準とする上記係止部材の位置に応じた第1指定値、及び上記フック部材の種別と上記係止部材の種別との少なくとも一方に応じた第2指定値を予め記憶するメモリを有しており、上記起伏角センサの検出値から特定した上記ブームの起伏角度と、上記ブームの長さと、上記第1指定値及び第2指定値と、に基づいて、上記ブームの先端基準位置から上記フック部材までの許容最小距離及び許容最大距離を生成する生成処理と、上記許容最小距離まで上記ワイヤを巻き上げる巻上処理と、上記許容最小距離と上記許容最大距離との差に応じた目標値だけ上記ワイヤを繰り出す繰出処理と、を実行する。
【0009】
この構成によれば、ブームの自動展開や自動格納が実行される前に、ワイヤの繰り出し長さが許容最小距離になるまでワイヤが巻き上げられ、許容最小距離と許容最大距離との差に応じた目標値だけワイヤが繰り出される。したがって、上記自動展開又は自動格納に先立って、ワイヤの状態が張り過ぎずかつ弛み過ぎないように設定される。
【0010】
(2) 上記許容最小距離は、上記ワイヤが張られて上記フック部材が引き起こされた姿勢における上記ブームの先端部から上記フック部材までの距離であり、上記許容最大距離は、上記フック部材が寝た姿勢における上記ブームの先端部から上記フック部材までの距離であってもよい。
【0011】
この構成では、上記巻上処理によりワイヤに生じた張力によってフック部材が引き起こされた姿勢となったときに上記許容最小距離が定義され、上記繰出処理によりワイヤが繰り出されることによってフック部材が寝た姿勢となったときに上記許容最大距離が定義される。したがって、上記自動展開又は自動格納に先立って、フック部材は、上記引き起こされた姿勢と寝た姿勢との間で姿勢変化することになり、ワイヤは、確実に張り過ぎずかつ弛み過ぎないようにされる。
【0012】
(3) 上記ブーム装置は、上記第2アクチュエータに作動油を供給する油圧供給装置をさらに備えており、上記油圧供給装置は、上記第2アクチュエータに供給する作動油を所定圧力未満に低減するリリーフバルブを備えたリリーフ回路を有していてもよい。この場合、流路を上記リリーフ回路に切り替える切替処理が実行された後、上記巻上処理が実行される。
【0013】
この構成では、流路がリリーフ回路に切り替えられると、第2アクチュエータに供給される作動油の圧力が所定圧力未満となるので、巻き上げられるワイヤに生じる張力は小さい。したがって、巻上処理において係止部材が破損することが防止される。
【0014】
(4) 上記第2指定値は、上記フック部材の長さと上記係止部材の長さとの和に応じた値であってもよい。
【0015】
この構成では、どのような種類のフック部材及び係止部材が使用されても、許容最小距離及び許容最大距離が適切に生成される。
【0016】
(5) 上記繰出処理の実行後、上記ワイヤセンサの検出値から特定した上記ワイヤの繰り出し長さが上記目標値を維持するように、上記第1アクチュエータ及び第2アクチュエータを駆動させる駆動処理がさらに実行されてもよい。
【0017】
この構成では、ワイヤの状態が張り過ぎずかつ弛み過ぎないように維持される。すなわち、フック部材の姿勢が上記引き起こされた姿勢と寝た姿勢との間の姿勢となるように維持される。したがって、ブームの自動展開や自動格納において、係止部材の破損や乱巻きの発生が確実に防止される。
【0018】
(6) ワイヤ掛数を取得する取得処理と、上記ワイヤ掛数に基いて上記目標値を補正する補正処理とがさらに実行されてもよい。
【0019】
この構成では、取得処理及び補正処理が実行されることにより、ワイヤ掛数を変更可能なフック部材が使用されていても、ワイヤは、張り過ぎずかつ弛み過ぎないようにされる。
【0020】
(7) 本発明に係るブーム装置は、上記コントローラと、上記台座、上記ブーム、上記ウインチ、上記フック部材、上記第1アクチュエータ、上記第2アクチュエータ、上記係止部材、上記起伏角センサ、及び上記ワイヤセンサと、を備える。
【0021】
本発明は、ブーム装置として捉えることもできる。
【0022】
(8) 本発明に係るクレーン車は、上記ブーム装置を備える。
【0023】
本発明は、クレーン車として捉えることもできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るコントローラは、ブームの自動展開や自動格納が実行される前に、フック部材の姿勢を適切な姿勢にして、ワイヤが張り過ぎずかつ弛み過ぎないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るクレーン車10の模式図である。
図2図2は、クレーン車10の模式図である(ブーム32が全起立姿勢)。
図3図3は、クレーン車10の滑車機構60を模式的に示す図である。
図4図4は、滑車機構60の構造を模式的に示す図である。
図5図5は、クレーン車10の機能ブロック図である。
図6図6は、クレーン車10のブーム展開処理のフローチャートである。
図7図7は、クレーン車10のブーム格納処理のフローチャートである。
図8図8は、ワイヤ42の理論上の繰り出し長さを示す関数X1(θ)を説明する図である。
図9図9は、ワイヤ42の理論上の繰り出し長さを示す関数X2(θ)を説明する図である。
図10図10は、フックブロック62が中間姿勢にある状態を示す図である。
図11図11は、本発明の一実施形態の変形例1に係る関数X1(θ)を説明する図である。
図12図12は、変形例1に係るワイヤ42の理論上の繰り出し長さを示す関数X2(θ)を説明する説明図である。
図13図13は、変形例2におけるクレーン車10の模式的な側面図である。
図14図14は、変形例2におけるサブワイヤ89の理論上の繰り出し長さを示す関数Y1(θ)を説明する図である。
図15図15は、変形例2におけるサブワイヤ89の理論上の繰り出し長さを示す関数Y2(θ)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態が、適宜図面が参照されつつ説明される。なお、本実施形態は、本発明の一態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様が変更されてもよいことは、言うまでもない。例えば、後述する各処理の実行順序は、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。或いは、後述の処理の一部は、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜省略することができる。
【0027】
図1は、本実施形態に係るクレーン車10を模式的に示しており、ブーム32が倒伏位置にある状態が示されている。
【0028】
クレーン車10は、走行体11と、走行体11に搭載されたブーム装置12と、キャビン13とを主に備える。走行体11は、車体20と、車体20に搭載されたエンジン22及びバッテリ23とを備える。エンジン22は、不図示のトランスミッション等を介して車軸98、99を回転駆動する。エンジン22は、油圧供給装置24(図5参照)が備える油圧ポンプ(不図示)を駆動させ、油圧供給装置24はブーム装置12等を駆動させる油圧を発生させる。
【0029】
キャビン13は、ブーム装置12の旋回台31に搭載されている。キャビン13は、クレーン車10の運転を行う運転装置14(図5参照)と、ブーム装置12の操縦を行う操縦装置15(図5参照)とを有する。すなわち、クレーン車10は、いわゆるラフテレーンクレーンであって、クレーン車10の運転及びブーム装置12の操縦が1つのキャビン13にて行われる。但し、クレーン車10は、いわゆるオールテレーンクレーンであってもよい。
【0030】
図5が示す操縦装置15は、ブーム装置12を操作する操作レバーや操作ボタン等を有する。操縦装置15は、操作レバーの操作の向きや操作量を示す操作信号や、操作ボタンの操作の有無を示す操作信号を出力する。操縦装置15が出力した操作信号は、コントローラ50に入力される。
【0031】
キャビン13は、不図示の制御ボックスを有する。この制御ボックスは、制御基板を備える。制御基板は、マイクロコンピュータ、抵抗、コンデンサ、ダイオード、種々のICが実装されており、コントローラ50及び電源回路17を構成している。
【0032】
図1が示すように、ブーム装置12は、旋回台31と、ブーム32と、油圧供給装置24(図5参照)とを備える。旋回台31は、車体20に旋回可能に支持されている。旋回台31は、特許請求の範囲に記載された「台座」に相当する。ブーム32は、基端ブーム33、単一又は複数の中間ブーム34、及び先端ブーム35を有する。基端ブーム33、中間ブーム34、及び先端ブーム35は、入れ子状に配置されており、これらはテレスコピックを構成している。基端ブーム33は、旋回台31に起伏可能に支持されており、したがって、ブーム32は、旋回、起伏、及び伸縮可能である。ブーム32は、図1に示される縮小状態と、不図示の拡張状態との間で伸縮すると共に、図1に示される倒伏位置と、図2に示される所定起立位置との間で起伏する。クレーン車10は、ブーム32を縮小状態かつ倒伏位置にした格納状態(図1参照)で走行する。
【0033】
図5が示すように、ブーム装置12は、旋回モータ25と、ブーム32を起伏させる起伏シリンダ36と、ブーム32を伸縮させる伸縮シリンダ37とをさらに備える。旋回モータ25は、車体20(図1参照)に設けられている。旋回モータ25は、油圧供給装置24から油圧の供給を受けて回転し、旋回台31を旋回させる。起伏シリンダ36は、旋回台31に設けられている。起伏シリンダ36は、油圧供給装置24から油圧の供給を受けて伸縮する。伸縮する起伏シリンダ36は、ブーム32を起伏させる。起伏シリンダ36は、特許請求の範囲に記載された「第1アクチュエータ」に相当する。伸縮シリンダ37は、ブーム32に設けられている。伸縮シリンダ37は、油圧供給装置24から油圧の供給を受けて伸縮する。伸縮する伸縮シリンダ37は、ブーム32を伸縮させる。
【0034】
ブーム装置12は、第1油圧モータ38、メインウインチ39、滑車機構60(図3参照)、及び掛け金具41(図1参照)をさらに備える。メインウインチ39は、特許請求の範囲に記載された「ウインチ」に相当する。
【0035】
メインウインチ39は、ブーム32の基端に取り付けられている。メインウインチ39は、ワイヤドラム44と、ウインチシーブ43と、ワイヤ42とを有する。ワイヤ42は、ワイヤドラム44に巻き付けられている。ウインチシーブ43は、ブーム32が水平方向に沿う倒伏位置にある状態において、ブーム32の基端の上部に位置している。ワイヤドラム44から引き出されたワイヤ42は、ウインチシーブ43に巻き掛けられた後、滑車機構60(図3参照)まで引き出されている。
【0036】
第1油圧モータ38は、油圧供給装置24から油圧の供給を受けて回転する。回転する第1油圧モータ38は、ワイヤドラム44を回転させる。回転するワイヤドラム44は、ワイヤ42を巻き取り(巻上)、或いはワイヤ42を繰り出す(巻下)。第1油圧モータ38は、特許請求の範囲に記載された「第2アクチュエータ」に相当する。
【0037】
図3が示すように、滑車機構60は、固定シーブブロック61と、フックブロック62とを有する。
【0038】
固定シーブブロック61は、1つの第1シーブ63と、3つの第2シーブ64、65、66とを有している。第1シーブ63は、図示されていない中心軸に回転可能に支持されている。第2シーブ64、65、66は、中心軸58(図4参照)に支持されている。第2シーブ64、65、66は円盤状を呈し、中心軸58を中心として回転可能である。
【0039】
図1が示すように、第1シーブ63は、ブーム32が水平方向に沿う倒伏位置にある状態において、ブーム32の先端の上部に位置している。3つの第2シーブ64、65、66は、倒伏位置において、ブーム32の先端の下部に位置している。図4が示すように、3つの第2シーブ64、65、66は、ブーム32の幅方向に並設されている。なお、本実施形態では、固定シーブブロック61が3つの第2シーブ64、65、66を有する例が示されているが、固定シーブブロック61は、2つの第2シーブを有していてもよいし、4つ以上の第2シーブを有していてもよい。
【0040】
フックブロック62は、フレーム45と、フレーム45に取り付けられた吊荷用フック40と、3つの第3シーブ68、69、70と、を有している。第3シーブ68、69、70は、フレーム45に保持された中心軸59に支持されており、水平方向(ブーム32の幅方向)に並設されている。第3シーブ68、69、70は円盤状を呈し、上記中心軸59を中心に回転可能である。なお、フックブロック62は、2つの第3シーブを有していてもよいし、4つ以上の第3シーブを有していてもよい。フックブロック62は、特許請求の範囲に記載された「フック部材」に相当する。
【0041】
ウインチシーブ43(図1参照)から引き出されたワイヤ42は、第1シーブ63に掛け回された後、固定シーブブロック61の第2シーブ及びフックブロック62の第3シーブに掛け回される。図4が示す例では、ワイヤ42は、第2シーブ64、第3シーブ68、第2シーブ65、第3シーブ70に掛け回されている。すなわち、ワイヤ42が滑車機構60に掛け回された回数であるワイヤ掛数は、「4」である。ワイヤ掛数が増加されることにより、ブーム装置12の最大吊荷重量が増加する。
【0042】
図1が示す掛け金具41は、吊荷用フック40と係合して吊荷用フック40を固定することができる。掛け金具41の一端部は、旋回台31に回動可能に支持されている。吊荷用フック40は、掛け金具41の他端部に引っ掛けられる。掛け金具41は、ブーム32が所定起立位置まで起立され且つ全縮小された状態において、当該ブーム32の先端の直下に位置する。掛け金具41は、クレーン車10の走行中において吊荷用フック40が移動しないように、吊荷用フック40を固定する。掛け金具41は、特許請求の範囲に記載された「係止部材」に相当する。
【0043】
図5が示す油圧供給装置24は、走行体11に搭載されている。油圧供給装置24は、所定圧力の作動油を、旋回モータ25、起伏シリンダ36、伸縮シリンダ37、第1油圧モータ38、及びその他のアクチュエータ(以下、旋回モータ25等とも記載する)に供給する。
【0044】
油圧供給装置24は、不図示の電磁式流路切替弁を備えている。この流路切替弁は、後述のコントローラ50から入力される駆動信号によって作動する。流路切替弁が作動し、油圧供給ラインが変更されることにより、旋回モータ25等が駆動される。すなわち、コントローラ50は、駆動信号を出力することにより、旋回モータ25等の駆動を制御する。
【0045】
油圧供給装置24は、第1油圧モータ38に所定圧力の作動油を供給する不図示の通常回路に加え、供給される作動油の圧力を所定圧力未満に低減するために当該作動油をリリーフする第1リリーフ回路91を備える。第1リリーフ回路91は、リリーフバルブ92を有する。リリーフバルブ92は、コントローラ50から入力される駆動信号によって、通常回路と第1リリーフ回路91との間で流路を切り替える。すなわち、コントローラ50は、駆動信号をリリーフバルブ92に入力することにより、第1油圧モータ38に供給される作動油の圧力を変更することができる。コントローラ50は、後述のブーム展開処理(図6参照)及びブーム格納処理(図7参照)において、第1油圧モータ38に供給される作動油の圧力を変更する。
【0046】
図5が示すように、ブーム装置12は、ブーム長さセンサ26、起伏角センサ27、及びワイヤセンサ28をさらに備える。
【0047】
ブーム長さセンサ26は、ブーム32の長さに応じた検出値を出力するセンサである。ブーム長さセンサ26は、ブーム32の長さを直接検出するセンサであってもよいし、伸縮シリンダ37の伸長長さを検出するセンサであってもよい。すなわち、ブーム長さセンサ26は、ブーム32の長さに応じて変化する物理量を検出するセンサであればよい。
【0048】
起伏角センサ27は、ブーム32の起伏角度に応じた検出値を出力するセンサである。起伏角センサ27は、ブーム32の起伏角度を直接検出するセンサであってもよいし、起伏シリンダ36の伸長長さを検出するセンサであってもよい。すなわち、起伏角センサ27は、ブーム32の起伏角度に応じて変化する物理量を検出するセンサであればよい。起伏角センサ27は、例えば、ブーム32に取り付けられており、水平面に対する角度を出力する傾斜センサや水平センサである。
【0049】
ワイヤセンサ28は、例えば、ワイヤドラム44(図1及び図2参照)の回転量を検出するロータリエンコーダである。ワイヤセンサ28は、ワイヤドラム44の回転に応じて電圧値が変化するパルス信号を出力する。ワイヤセンサ28は、ケーブルなどの信号線によってコントローラ50と接続されている。コントローラ50は、ワイヤセンサ28から入力するパルス数からワイヤドラム44の回転量を算出し、ワイヤドラム44の回転量と、ワイヤドラム44の半径とに基づいてワイヤ42の繰り出し長さを算出する。ワイヤドラム44の半径は、後述のメモリ52に予め記憶される。なお、コントローラ50がワイヤ42の繰り出し長さを取得可能であれば、どのような種類のセンサがワイヤセンサ28に用いられてもよい。
【0050】
電源回路17は、コントローラ50等に供給する電力を生成する回路である。電源回路17は、例えばDC-DCコンバータである。電源回路17は、バッテリ23から供給された直流電圧を、安定した所定の電圧値の直流電圧に変換して出力する。
【0051】
コントローラ50は、中央演算処理装置であるCPU51と、メモリ52とを備える。メモリ52は、例えば、ROM、RAM、EEPROM等によって構成されている。
【0052】
CPU51、メモリ52、ブーム長さセンサ26、起伏角センサ27、及びワイヤセンサ28は、コントローラ50が有する不図示の通信バスに接続されている。CPU51によって実行される制御プログラム54は、通信バスを通じて、メモリ52から情報やデータを読み出し、或いは情報やデータをメモリ52に記憶させ、ブーム長さセンサ26、起伏角センサ27、及びワイヤセンサ28が出力した検出値を取得する。
【0053】
メモリ52は、オペレーティングシステムであるOS53と、ブーム装置12の駆動を制御する制御プログラム54と、ブーム32の長さL(以下、「ブーム長さL」)と、第1指定値A、Bと、第2指定値Kと、角速度定数Fと、所定起立角度φと、を記憶している。OS53及び制御プログラム54は、いわゆるマルチタスク処理により、疑似的に並行してCPU51によって実行される。
【0054】
ブーム長さLは、例えば、ブーム32が全縮小したときのブーム32の長さであって、ブーム32の基端から先端までの長さである。ブーム32の基端は、ブーム32の起伏中心P(図8参照)の位置である。ブームの先端は、例えば、ワイヤ42が架け回された第2シーブ64、65、66(図1参照)の中心軸の位置である。
【0055】
第1指定値A、Bは、図8が示す点Qの座標を示す。すなわち、点Qの座標が(A,B)である。点Qは、起伏中心Pを原点とした2次元座標系における掛け金具41の一端の位置を示す。なお、当該2次元座標系は、クレーン車10の前後方向をx軸方向とし、上下方向をy軸方向とする座標系である。
【0056】
第2指定値Kは、フックブロック62の長さと、掛け金具41の長さとの和である。フックブロックの長さとは、吊荷用フック40の先端から軸59までの距離を意味する。なお、フックブロック62の長さが無視できるほど短い場合、第2指定値Kは、掛け金具41の長さとされ、掛け金具41の長さが無視できるほど短い場合、第2指定値Kは、フックブロック62の長さとされる。すなわち、第2指定値Kは、フックブロック62の種別と、掛け金具41の種別との少なくとも一方に応じた値である。なお、掛け金具41の長さと吊荷用フック40の長さとが別個にメモリ52に記憶されていてもよい。その場合、制御プログラム54は、掛け金具41の長さに吊荷用フック40の長さを加えて第2指定値Kを算出する。
【0057】
角速度定数Fは、制御プログラム54が後述のブーム展開処理(図6参照)及びブーム格納処理(図7参照)においてブーム32を一定の角速度で起伏させる場合のブーム32の角速度である。すなわち、F=dθ/dtである。
【0058】
所定起立角度φは、ブーム32の先端が掛け金具41の真上に位置する所定起立位置でのブーム32の起伏角度である。所定起立角度φは、ブーム展開処理(図6参照)において、吊荷用フック40を掛け金具41から安全に取り外せる所定起立位置までブーム32が起立したか否かの判断に用いられる。
【0059】
制御プログラム54は、例えばクラスを有する。すなわち、クラスは、メモリ52に記憶されている。クラスは、インスタンス(オブジェクト)を生成するものである。具体的には、クラスは、メモリ52に記憶されたブーム長さLや第1指定値(A,B)や第2指定値Kを与えられることにより、インスタンスとして、図8が示す関数X1(θ)や、関数X1(θ)を時間tで微分したd/dt{X1(θ)}や、図9が示す関数X2(θ)や、関数X2(θ)を時間tで微分したd/dt{X2(θ)}を生成する。なお、制御プログラム54は、生成した関数X1(θ)、関数X2(θ)を時間tで微分してd/dt{X1(θ)}、d/dt{X2(θ)}を生成してもよい。また、上記クラスは、ブーム長さLや第1指定値(A,B)や第2指定値Kが入力フィールドに入力されることによりX1(θ)やX2(θ)を生成する演算式であってもよい。
【0060】
関数X1(θ)は、図8が示すように、フックブロック62と掛け金具41とが一直線上に並んでいる状態におけるワイヤ42の理論上の繰り出し長さを示す。関数X1(θ)は、ブーム32の起伏角度がθである場合のワイヤ42の理論上の繰り出し長さを示す。関数X1(θ)は、θを変数とし、上記A、B、L、Kを定数として、A、B、L、K、θを用いて表される。
【0061】
詳しく説明すると、ブーム32の先端の位置を示す点Sの座標は、ブーム32の長さL及びブーム32の起伏角度θを用いて、(Lcosθ,Lsinθ)と表される。したがって、点Sと点Qとの間の距離SQは、図8に示されるように、A、B、L、K、θを用いて表させる。そして、関数X1(θ)は、距離SQ-Kとなり、A、B、L、K、θを用いて表される。
【0062】
関数X2(θ)は、図9が示すように、フックブロック62が寝た姿勢におけるワイヤ42の理論上の繰り出し長さを示す。フックブロック62が寝た姿勢とは、フックブロック62が車体20に支持されて水平方向に沿っている状態である。また、関数X2(θ)は、ブーム32の起伏角度がθである場合のワイヤ42の理論上の繰り出し長さを示す。関数X2(θ)は、θを変数とし、上記A、B、L、Kを定数として、A、B、L、K、θを用いて表される。
【0063】
詳しく説明すると、ブーム32の先端の位置を示す点Sの座標は、(Lcosθ,Lsinθ)と表される。ワイヤ42と吊荷用フック40との接続位置を示す点Rの座標、すなわち、中心軸59の座標は、(A+K,B)と表せる。関数X2(θ)は、点Sと点Rとの間の距離SRであり、図9が示すように、A、B、L、K、θを用いて表される。なお、点Rは、フックブロック62のフレーム45における吊荷用フック40が設けられている側の反対側の端を示す。関数X1(θ)は、特許請求の範囲に記載された「許容最小距離」に相当する。関数X2(θ)は、特許請求の範囲に記載された「許容最大距離」に相当する。
【0064】
制御プログラム54は、倒伏位置(図1参照)にあるブーム32を所定起立位置(図2参照)まで自動で起立させるブーム展開処理と、所定起立位置にあるブーム32を倒伏位置まで自動で倒伏させるブーム格納処理とを実行する。なお、制御プログラム54が実行する処理は、コントローラ50が実行する処理でもある。
【0065】
クレーン車10が作業現場に到着すると、制御プログラム54は、ブーム展開処理を実行する。すなわち、ブーム展開処理は、作業現場においてクレーン車10が作業を開始するために実行される。この処理は、従来、作業者が操縦装置15を用いて手動で行っていたものであるが、本実施形態では、ブーム32を所定起立位置まで展開する作業を制御プログラム54が自動で行う。
【0066】
作業者は、クレーン車10を走行させて作業現場から離れるため、ブーム格納処理を制御プログラム54に実行させる。すなわち、ブーム格納処理は、作業現場においてクレーン車10が作業を終了させるために実行される。この処理は、従来、作業者が操縦装置15を用いて手動で行っていたものであるが、本実施形態では、ブーム32を格納する作業を制御プログラム54が自動で行う。
【0067】
以下、ブーム展開処理及びブーム格納処理について、図6及び図7を参照して詳しく説明する。
【0068】
作業者は、クレーン車10が作業現場に到着した後、操縦装置15を用いて、ブーム展開処理の実行を指示する操作を行う。なお、クレーン車10が作業現場に到着した状態において(図1参照)、ブーム32は、上記格納状態であり、かつ、吊荷用フック40は、掛け金具41に固定されている。
【0069】
制御プログラム54は、操縦装置15から、ブーム展開処理の実行を指示する操作信号が入力されたことに応じて、図6が示すブーム展開処理の実行を開始する。まず、制御プログラム54は、ワイヤ掛数を取得する(S11)。例えば、制御プログラム54は、メモリ52に記憶されたワイヤ掛数を読み出す。或いは、制御プログラム54は、ワイヤ掛数を自動判定する処理を実行して、ワイヤ掛数を取得する。ステップS11の処理は、特許請求の範囲に記載された「取得処理」に相当する。
【0070】
なお、フローチャートには記載されていないが、制御プログラム54は、ブーム長さセンサ26が検出したブーム32の長さが、メモリ52に記憶された「L」である場合、エラー表示を行って、ブーム展開処理の実行をキャンセルしてもよい。これにより、ブーム32が縮小されていない状態でブーム展開処理が実行されることを防止することができる。
【0071】
次に、制御プログラム54は、上記A、B、L、K、Fをメモリ52から読み出す(S12)。また、制御プログラム54は、起伏角センサ27が検出した起伏角度θを取得する(S13)。制御プログラム54は、取得したθ、A、B、L、K、F及び上記クラスを用いて、X1(θ)及びX2(θ)を生成する(S14)。ステップS14の処理は、特許請求の範囲に記載された「生成処理」に相当する。
【0072】
制御プログラム54は、生成したX1(θ)及びX2(θ)を用いて、目標値を決定する(S15)。具体的には、制御プログラム54は、目標値として、X1(θ)とX2(θ)との平均値である{X1(θ)+X2(θ)}/2を算出する。制御プログラム54は、算出した目標値に、補正係数Jを乗じて目標値を補正する。補正係数Jは、ステップS11で取得したワイヤ掛数である。例えば、ワイヤ掛数が「4」である場合、J=4である。ステップS15の処理は、特許請求の範囲に記載された「補正処理」に相当する。
【0073】
制御プログラム54は、リリーフバルブ92を介して、上記通常回路から第1リリーフ回路91に作動油の流路を切り替えて、第1油圧モータ38に供給する油圧を所定圧力未満にする(S16)。流路がリリーフ回路91に切り替えられ、第1油圧モータ38に供給される作動油の圧力が所定圧力未満となると、巻き上げられるワイヤ42に生じる張力が小さくなり、次のステップS17において掛け金具41が破損することが防止される。
【0074】
制御プログラム54は、第1油圧モータ38を介してメインウインチ39を駆動し、ワイヤ42を巻き上げる(S17)。ワイヤ42が巻き上げられたことにより、フックブロック62は、ワイヤ42に引き起こされた姿勢になる(図8参照)。ステップS16の処理は、特許請求の範囲に記載された「切替処理」に相当する。ステップS17の処理は、特許請求の範囲に記載された「巻上処理」に相当する。
【0075】
制御プログラム54は、フックブロック62が引き起こされた姿勢、すなわちワイヤ42の繰り出し長さが上記許容最小距離X1(θ)になった後、メインウインチ39の駆動を停止させる(S18)。例えば、制御プログラム54は、ワイヤセンサ28が検出する検出値からワイヤドラム44の回転速度或いはワイヤ42の繰り出し速度を算出し、算出した回転速度や繰り出し速度がゼロになったことに基づいて、フックブロック62が引き起こされた姿勢であると判断し、メインウインチ39の駆動を停止させる。或いは、制御プログラム54は、メインウインチ39を駆動したからの経過時間が、メモリ52に予め記憶された所定時間に達したことに基づいて、メインウインチ39の駆動を停止させる。或いは、ワイヤ42に加わる張力を検出する張力センサが設けられており、制御プログラム54は、当該張力センサが検出した張力が、メモリ52に予め記憶された所定張力に達したことに基づいて、メインウインチ39の駆動を停止させる。
【0076】
制御プログラム54は、第1油圧モータ38を介してメインウインチ39を駆動し、ステップS15で決定した目標値だけワイヤ42を繰り出す(S19)。具体的には、制御プログラム54は、メインウインチ39を駆動させるとともに、ワイヤセンサ28が出力するパルス信号をカウントし、カウント値が示すワイヤ42の繰り出し長さが上記目標値に達したことに基づいて、メインウインチ39の駆動を停止させる。ステップS19の処理は、特許請求の範囲に記載された「繰出処理」に相当する。
【0077】
ステップS19が実行されることにより、フックブロック62は、上記引き起こされた姿勢と上記寝た姿勢との間の中間姿勢(図10参照)となる。フックブロック62が中間姿勢にあれば、ワイヤ42に生じる張力により掛け金具41が破損するまでワイヤ42の巻取代ができ、かつワイヤ42が弛んで乱巻きが発生するまで操出代ができる。なお、乱巻きとは、ワイヤ42がワイヤドラム44に不規則に巻き取られた状態などを意味する。
【0078】
制御プログラム54は、リリーフバルブ92を介して第1リリーフ回路91から上記通常回路に作動油の流路を切り替えて、第1油圧モータ38に供給する油圧を所定圧力にする(S20)。制御プログラム54は、ステップS13で取得した起伏角度θ及びステップS12でメモリ52から読み出したL、A、B、K、Fを用いてdX1(θ)/dt及びdX2(θ)/dtを生成する(S21)。制御プログラム54は、dX1(θ)/dt及びdX2(θ)/dtの平均値である{dX(θ)/dt+dX2(θ)/dt}/2に上記補正係数Jを乗じたJ×{dX(θ)/dt+dX2(θ)/dt}/2を算出する(S22)。すなわち、制御プログラム54は、フックブロック62が上記中間姿勢を維持するワイヤ42の繰り出し速度を算出する。
【0079】
制御プログラム54は、ブーム32が一定の角速度Fで起立するように、起伏シリンダ36を所定速度で伸長させる(S23)。制御プログラム54は、ワイヤ42の繰り出し速度が{dX1(θ)/dt+dX2(θ)/dt}/2に上記補正係数Jを乗じたJ×{dX1(θ)/dt+dX2(θ)/dt}/2となるように第1油圧モータ38を介してメインウインチ39を駆動させ(S24)、ワイヤ42を繰り出す。ステップS23、S24の処理は、特許請求の範囲に記載された「駆動処理」に相当する。
【0080】
次に、制御プログラム54は、ワイヤセンサ28が検出した検出値からワイヤ42の繰り出し長さWを算出する(S25)。制御プログラム54は、算出した繰り出し長さWがJ×X1(θ)以上J×X2(θ)}以下であるか否かを判断する(S26)。すなわち、制御プログラム54は、掛け金具41が破損せず、かつ乱巻きが生じない範囲でワイヤ42が繰り出されているか否かを判断する。
【0081】
制御プログラム54は、繰り出し長さWがJ×X1(θ)以上J×X2(θ)以下でないと判断すると(S26:No)、ブーム32の起立及びメインウインチ39の駆動を停止させる停止処理を実行し(S27)、ブーム展開処理を終了する。なお、フローチャートには示されていないが、制御プログラム54は、停止処理を実行したことに基づいて、エラー報知を行う。エラー報知は、例えば、ブーム展開処理を停止したことを示すエラー画面を不図示のディスプレイに表示させ、或いはエラー音を不図示のスピーカから出力させることによって行われる。
【0082】
制御プログラム54は、繰り出し長さWがJ×X1(θ)以上J×X2(θ)以下であると判断すると(S26:Yes)、ステップS13で取得した起伏角度θが、メモリ52に記憶された所定起立角度φに到達したか否かを判断する(S28)。制御プログラム54は、起伏角度θが所定起立角度φに到達していないと判断すると(S28:No)、ステップS131、S141、S211、S221の処理を実行する。ステップS131、S141、S211、S221の処理は、ステップS13、S14、S21、S22の処理と同じ処理である。すなわち、制御プログラム54は、ブーム32が所定起立位置に到達していない場合(S33:No)、起伏角度θを再度取得して関数X1(θ)、関数X2(θ)、dX(θ)/dt、dX2(θ)/dt、J×{dX1(θ)/dt+dX2(θ)/dt}/2を生成或いは算出する。制御プログラム54は、ブーム32が所定起立位置に到達するまで、ステップS131、S141、S211、S221の一連の処理を、例えば数m秒から数十m秒の一定の時間間隔で繰り返し実行する。
【0083】
制御プログラム54は、起伏角度θが所定起立角度φに到達したと判断すると(S28:Yes)、起伏シリンダ36及び第1油圧モータ38を介してブーム32及びメインウインチ39の駆動を停止させ(S29)、ブーム展開処理を終了する。
【0084】
次に、図7が示すブーム格納処理について説明がされる。なお、ブーム展開処理(図6参照)で説明された処理と同一の処理については、同一の符号を付して説明が省略される。
【0085】
制御プログラム54は、ブーム展開処理で説明されたステップS11からS22までの処理を実行する。次に、制御プログラム54は、起伏シリンダ36を所定速度で縮小し、ブーム32を一定の角速度Fで倒伏させる(S31)。
【0086】
制御プログラム54は、ワイヤ42の巻き取り速度がJ×{dX1(θ)/dt+dX2(θ)/dt}/2となるように第1油圧モータ38を介してメインウインチ39を駆動させる(S32)。すなわち、制御プログラム54は、フックブロック62が中間姿勢(図10参照)を維持する速度でメインウインチ39にワイヤ42を巻き取らせる。
【0087】
制御プログラム54は、上記ステップS25、S26、S27の処理を実行する。制御プログラム54は、ステップS26において繰り出し長さWがJ×X1(θ)以上J×X2(θ)以下であると判断すると(S26:Yes)、ステップS13で取得した起伏角度θが、ゼロに達したか否かを判断する(S33)。すなわち、制御プログラム54は、ブーム32が格納位置まで倒されたか否かを判断する。制御プログラム54は、起伏角度θがゼロに達していないと判断すると(S33:No)、ステップS131、S141、S211、S221の処理を実行する。ステップS131、S141、S211、S221の処理は、ステップS13、S14、S21、S22の処理と同じ処理である。すなわち、制御プログラム54は、ブーム32が格納位置に到達していない場合(S33:No)、起伏角度θを再度取得して関数X1(θ)、関数X2(θ)、dX(θ)/dt、dX2(θ)/dt、J×{dX1(θ)/dt+dX2(θ)/dt}/2を生成或いは算出する。制御プログラム54は、ブーム32が格納位置に到達するまで、ステップS131、S141、S211、S221の一連の処理を、例えば数m秒から数十m秒の時間間隔で繰り返し実行する。
【0088】
制御プログラム54は、起伏角度θがゼロに達したと判断すると(S33:Yes)、起伏シリンダ36及び第1油圧モータ38を通じてブーム32及びメインウインチ39の駆動を停止させ(S29)、ブーム格納処理を終了する。
【0089】
[実施形態の作用効果]
【0090】
ステップS17の処理(巻上処理)が実行されることにより、ワイヤ42の繰り出し長さが許容最小距離であるX1(θ)になるまでワイヤ42が巻き上げられ、ワイヤ42が張られる。そして、生成処理で生成した許容最小距離であるX1(θ)と許容最大距離であるX2(θ)との平均値に応じた長さ(目標値)だけワイヤ42が繰り出されることにより、フックブロック62が上記中間姿勢にされる。その結果、コントローラ50は、ブーム32の自動展開や自動格納が実行される前に、ワイヤ42が張り過ぎずかつ弛み過ぎないようにすることができる。
【0091】
また、コントローラ50は、メモリ52に記憶されたブーム32の長さL、第1指定値であるA、B、及び第2指定値であるKに基づいて許容最小距離であるX1(θ)及び許容最大距離であるX2(θ)を生成するから、ブーム32の種類やフックブロック62の種類や掛け金具41の種類に応じた長さL、第1指定値A、B、及び第2指定値Kをメモリ52に記憶させることにより、コントローラ50は、ブーム32の種類やフックブロック62の種類や掛け金具41の種類に拘わりなく、許容最小距離X1(θ)及び許容最大距離(θ)を算出して目標値を設定することができる。したがって、コントローラ50は、ブーム装置12の種類に拘わりなく、ブーム32を安全に自動展開/格納させることができる。すなわち、コントローラ50は、種々のブーム装置に使用することができる。
【0092】
また、ワイヤ42が巻き上げられる前に、ステップS16の処理(切替処理)によって、第1油圧モータ38に供給される作動油の圧力が所定値圧力未満にされる。したがって、ステップS17の処理(巻上処理)において掛け金具41が破損することが防止される。
【0093】
また、第2指定値である「K」は、フックブロック62の種類と掛け金具41の種類とに基づいた値であるので、どのような種類のフックブロック62及び掛け金具41が使用されても、許容最小距離X1(θ)及び許容最大距離X2(θ)を適切に生成することができる。
【0094】
また、ワイヤ42は、フックブロック62が上記中間姿勢を維持するように繰り出され(S24)、或いは巻き取られる(S32)。したがって、ブーム32の自動展開や自動格納において、掛け金具41の破損や乱巻きの発生を確実に防止することができる。
【0095】
また、ステップS15において、取得したワイヤ掛数に基づいて目標値が補正されるので、ワイヤ掛数を変更可能なフックブロック62が使用されても、ブーム32の自動展開や自動格納において、掛け金具41の破損や乱巻きの発生を防止することができる。
【0096】
[変形例1]
【0097】
上記実施形態では、第1指定値A、B(起伏中心Pを原点とした2次元座標系における掛け金具41の一端の位置Qの座標)がメモリ52に記憶された例が説明された。本変形例では、図11が示すように、第1指定値A、B、C(起伏中心Pを原点とした3次元座標系における掛け金具41の一端の位置Qの座標)がメモリ52に記憶される。第1指定値Cは、上記3次元座標系におけるz軸に関する座標を示す。z軸は、クレーン車10の幅方向に沿う軸である。
【0098】
本変形例では、上記点S(ブーム32の先端位置)の座標は、(Lcosθ,Lsinθ,0)と表される。関数X1(θ)は、点Qと点Sとの間の距離SQから第2指定値Kを減じた値であり、L、A、B、C、θ、Kを用いて算出される。同様に、関数X2(θ)は、図12が示すように点R(ワイヤ42と吊荷用フック40との接続位置)と点Sとの間の距離SRであり、L、A、B、C、K、θを用いて算出される。制御プログラム54は、L、A、B、C、K、θが入力されることによって関数X1(θ)及び関数X2(θ)を生成するクラスを有する。制御プログラム54は、L、A、B、C、K、θ、及びFが入力されることによってdX1(θ)/dt及びdX2(θ)/dtを生成するクラスを有する。制御プログラム54は、ステップS14、S21において、L、A、B、C、K、F、θを及び上記クラスを用いて、X1(θ)、X2(θ)、dX1(θ)/dt、及びdX2(θ)/dtを生成する。
【0099】
本変形例では、ブーム32の先端位置と掛け金具41の位置とがクレーン車10の幅方向にずれていても、正確なX1(θ)、X2(θ)、dX1(θ)/dt、及びdX2(θ)/dtを生成することができる。その結果、ブーム32の先端及び掛け金具41の位置がクレーン車10の幅方向にずれていても、掛け金具41の破損や乱巻きの発生を防止することができる。
【0100】
[変形例2]
【0101】
本変形例では、ブーム装置12は、図5が示す第2油圧モータ81、サブウインチ82、及びサブワイヤセンサ80と、図13が示すシーブ85、86、サブフック部材71、及び掛け金具88とをさらに備える。なお、図13では、メインウインチ39、ウインチシーブ43、ワイヤ42、フックブロック62、及び掛け金具41の図示が省略されている。
【0102】
第2油圧モータ81は、油圧供給装置24から油圧の供給を受けて回転する。第2油圧モータ81は、特許請求の範囲に記載された「第2アクチュエータ」に相当する。
【0103】
図5が示すように、サブウインチ82は、第2油圧モータ81によって回転されるサブワイヤドラム83と、サブワイヤドラム83に巻き取られたサブワイヤ89と、サブウインチシーブ84とを有する。サブワイヤドラム83から引き出されたサブワイヤ89は、サブウインチシーブ84に巻き掛けられた後、シーブ85に巻き掛けられる。サブウインチ82は、特許請求の範囲に記載された「ウインチ」に相当する。サブワイヤドラム83は、特許請求の範囲に記載された「ワイヤドラム」に相当する。
【0104】
シーブ85は、第1シーブ63(図1参照)と水平方向に並んでブーム32の先端部に設けられている。シーブ86は、シーブ85と離間してブーム32の先端部に設けられている。シーブ85に巻き掛けられたサブワイヤ89は、シーブ86に巻き掛けられた後、サブフック部材71に繋がれている。
【0105】
サブフック部材71は、サブフック本体72と、サブフック73と、を有する。サブフック73は、サブフック本体72と連結されており、掛け金具88に掛けられる。
【0106】
サブフック部材71は、ワイヤシーブを有していない。すなわち、サブワイヤ89のワイヤ掛数は常に「1」である。サブフック部材71は、特許請求の範囲に記載された「フック部材」に相当する。サブフック73は、特許請求の範囲に記載された「吊荷用フック」に相当する。
【0107】
掛け金具88は、掛け金具41(図1参照)と水平方向に並んで配置されている。掛け金具88の一端は、旋回台31に回動可能に支持されている。サブフック73は、掛け金具88の他端に引っ掛けられる。掛け金具88は、特許請求の範囲に記載された「係止部材」に相当する。
【0108】
サブワイヤセンサ80(図5参照)は、例えば、サブワイヤドラム83の回転量を検出するロータリエンコーダである。サブワイヤセンサ80は、サブワイヤドラム83の回転に応じて電圧値が変化するパルス信号を出力する。サブワイヤセンサ80は、ケーブルなどの信号線によってコントローラ50と接続されている。コントローラ50は、サブワイヤセンサ80から入力するパルス数からサブワイヤドラム83の回転量を算出し、サブワイヤドラム83の回転量と、サブワイヤドラム83の半径とに基づいてサブワイヤ89の繰り出し長さを算出する。サブワイヤドラム83の半径は、メモリ52に予め記憶される。なお、コントローラ50がサブワイヤ89の繰り出し長さを取得可能であれば、どのような種類のセンサがサブワイヤセンサ80に用いられてもよい。サブワイヤセンサ80は、特許請求の範囲に記載された「ワイヤセンサ」に相当する。
【0109】
本変形例では、図5が示すように、油圧供給装置24は、第2油圧モータ81に所定圧力の作動油を供給する不図示の通常回路に加え、供給される作動油の圧力を所定圧力未満に低減するために当該作動油をリリーフする第2リリーフ回路93を備える。第2リリーフ回路93は、リリーフバルブ94を有する。リリーフバルブ94は、コントローラ50から入力される駆動信号によって上記通常回路と第2リリーフ回路93との間で流路を切り替える。すなわち、コントローラ50は、駆動信号をリリーフバルブ94に入力することにより、第2油圧モータ81に供給される作動油の圧力を変更することができる。なお、第1リリーフ回路91が、第1油圧モータ38に加え第2油圧モータ81に供給される作動油の圧力を所定圧力未満に低減する場合、第2リリーフ回路93は設けられていなくてもよい。
【0110】
メモリ52は、掛け金具88の一端の点Q’の座標を示すα及びβを第1指定値としてさらに記憶する。メモリ52は、掛け金具88の長さとサブフック部材71の長さとに応じた長さηを第2指定値としてさらに記憶する。
【0111】
図14が示すように、ブーム32の基端からシーブ86までの長さをブーム長さMとすると、ブーム32の起伏角度がθである場合のシーブ86の位置を示す点Nの座標は、(Mcosθ,Msinθ)と表せる。一方、サブワイヤ89が引き起こされた姿勢におけるサブワイヤ89の理論上の繰り出し長さである関数Y1(θ)は、点Nと点Q’との間の距離からηを減じた値である。したがって、関数Y1(θ)は、ブーム32の長さM、第1指定値α、β、及び第2指定値ηを用いて表すことができる。
【0112】
図15が示すように、サブワイヤ89が寝た姿勢におけるサブワイヤ89の理論上の繰り出し長さである関数Y2(θ)は、点Nと点R’との間の距離である。したがって、関数Y2(θ)は、ブーム長さM、第1指定値α、β、及び第2指定値ηを用いて表すことができる。なお、ブーム長さMがブーム長さLとほぼ同じである場合は、ブーム長さMに代えてブーム長さLが用いられてもよい。
【0113】
制御プログラム54は、関数Y1(θ)、関数Y2(θ)、dY1(θ)/dt、及びdY2(θ)/dtを生成するクラスを有する。なお、制御プログラム54は、関数Y1(θ)及び関数Y2(θ)を生成するクラスを有し、関数Y1(θ)及び関数Y2(θ)を時間tで微分してdY1(θ)/dt及びdY2(θ)/dtを生成してもよい。
【0114】
制御プログラム54は、ステップS12(図6参照)において、ブーム長さM、第1指定値α、β、及び第2指定値ηをメモリ52からさらに読み出す。制御プログラム54は、ステップS12で読み出したM、α、β、η、Fと、ステップS13で取得した起伏角度θと、上記クラスとを用いてY1(θ)及びY2(θ)をさらに生成する。そして、制御プログラム54は、ステップS15において、目標値としてY1(θ)及びY2(θ)の平均値を算出する。
【0115】
制御プログラム54は、ステップS16において、上記通常回路から第2リリーフ回路93に作動油の流路を切り替え、第2油圧モータ81に供給される作動油の圧力が所定圧力未満に設定される。制御プログラム54は、ステップS17、S18において、目標値だけサブワイヤ89が繰り出されるように第2油圧モータ81を介してサブウインチ82を駆動させる。すなわち、制御プログラム54は、フックブロック62と同様にして、サブフック部材71を中間姿勢にする。制御プログラム54は、ステップS20において、第1リリーフ回路91及び第2リリーフ回路93から上記通常回路に作動油の流路を切り替える。
【0116】
制御プログラム54は、ステップS21において、dY1(θ)/dt及びdY2(θ)/dtをさらに生成する。制御プログラム54は、ステップS22において{dY1(θ)/dt+dY2(θ)/dt}/2をさらに算出し、ステップS24において、{dY1(θ)/dt+dY2(θ)/dt}/2でサブワイヤ89が繰り出される回転速度でサブワイヤドラム83を回転させる。すなわち、制御プログラム54は、サブフック部材71が中間姿勢を維持するようにサブウインチ82を駆動させる。
【0117】
制御プログラム54は、ステップS25において、サブワイヤセンサ80が検出したサブワイヤ89の繰り出し長さIをさらに取得する。制御プログラム54は、ステップS26において、取得した繰り出し長さIがY1(θ)以上Y2(θ)以下であるか否かをさらに判断する。制御プログラム54は、Y1(θ)≦I≦Y2(θ)でないと判断すると(S26:No)、停止処理(S27)を実行し、Y1(θ)≦I≦Y2(θ)であると判断すると(S26:Yes)、ステップS28以降の処理を実行する。
【0118】
本変形例では、いわゆるメインフックであるフックブロック62とサブフック部材71とを備えるクレーン車10であっても、メインウインチ39及びサブウインチ82の両方のウインチにおいて乱巻きの発生を防止でき、かつ、掛け金具41、88の破損を防止することができる。
【0119】
なお、クレーン車10は、フックブロック62とともにサブフック部材71を有していてもよいし、フックブロック62に代えてサブフック部材71を有していてもよい。
【0120】
[その他の変形例]
【0121】
上記実施形態では、コントローラ50は、ワイヤ42の繰り出し長さが目標値となるように起伏シリンダ36及び第1油圧モータ38の駆動を制御してブーム32の自動展開及び自動格納を行う。しかしながら、コントローラ50は、他の制御によって、ブーム32の自動展開及び自動格納を行ってもよい。すなわち、ステップS21以降の処理については、実施形態で説明した処理以外の処理が実行されてもよい。例えば、コントローラ50は、メモリ52に予め記憶された所定の伸縮速度及び回転速度で起伏シリンダ36及び第1油圧モータ38の駆動を制御してブーム32の自動展開及び自動格納を行ってもよい。
【0122】
上記実施形態では、上記点Sの座標は、ブーム32の長さLと起伏角度θとを用いて(Lcosθ,Lsinθ)で表された。ただし、第1シーブ63の中心を(Lcosθ,Lsinθ)として、点Sの座標を(Lcosθ+G1,Lsinθ+G2)として関数X1(θ)及び関数X2(θ)が生成されてもよい。ここで、「G1」及び「G2」は、第1シーブ63の中心と第2シーブ65の中心との差分であり、定数としてメモリ52に予め記憶される。
【0123】
上記実施形態では、ステップS23、S31において、ブーム32が一定の角速度Fで起伏するように起伏シリンダ36が所定速度で伸縮される。ただし、起伏シリンダ36が一定の速度で伸縮されてもよい。その場合、起伏シリンダ36の伸縮の速度からブーム32の角速度(dθ/dt)が算出され、算出された角速度が上記角速度F(定数)に代えて用いられ、dX1(θ)/dtやdX2(θ)/dtが生成或いは算出される。
【0124】
また、ステップS23、S31において、ブーム32は、オペレータが操作する操縦装置15によって起伏されてもよい。その場合、制御プログラム54は、操縦装置15から入力する信号であって、オペレータの操作量に応じた信号に基づいた起伏速度(角速度)で起伏シリンダ36を起伏させる。この角速度(dθ/dt)が上記角速度Fに代えて用いられて、dX1(θ)/dtやdX2(θ)/dtを生成或いは算出する。
【0125】
上記実施形態では、許容最小距離であるX1(θ)及び許容最大距離であるX2(θ)の平均値に応じた値が目標値として算出される。しかしながら、許容最小距離であるX1(θ)側に寄った値が目標値とされてもよいし、許容最大距離であるX2(θ)側に寄った値が目標値とされてもよい。例えば、J×{X1(θ)+X2(θ)}×2/3やJ×{X1(θ)+X2(θ)}×1/3が目標値とされてもよい。
【0126】
上記実施形態では、上記点Qの座標を示す第1指定値A、Bがメモリ52に記憶される。ただし、関数X1(θ)及び関数X2(θ)を生成可能であれば、第1指定値A、Bに代えて他の値が第1指定値としてメモリ52に記憶されていてもよい。例えば、原点である点Pから点Qまでの距離及び所定角度がメモリ52に記憶されていてもよい。ここで、所定角度とは、例えば、直線PQが水平面となす角度(俯角)である。
【0127】
上記実施形態では、掛け金具41は、回動可能に旋回台31に設けられている。ただし、掛け金具41は、旋回台31に固定されていてもよい。この場合、掛け金具41の他端の位置が点Qとされ、第2指定値Kは、フックブロック62の長さとされる。したがって、掛け金具41が旋回台31に固定される場合であっても、コントローラ50は、ブーム展開処理及びブーム格納処理において、掛け金具41の破損やワイヤ42の乱巻きの発生を防止することができる。
【0128】
また、掛け金具41は、車体20やキャビン13など、旋回台31以外に設けられていてもよい。
【0129】
また、フックブロック62は、掛け金具41を用いずに、旋回台31や車体20やキャビン13等に設けられたバーなどに直接掛けられて係止されてもよい。その場合、当該バーの位置が点Qとされ、かつ第2指定値K=0として関数X1(θ)や関数X2(θ)等が算出される。
【符号の説明】
【0130】
10・・・クレーン車
12・・・ブーム装置
24・・・油圧供給装置
26・・・ブーム長さセンサ
27・・・起伏角センサ
28・・・ワイヤセンサ
31・・・旋回台
32・・・ブーム
36・・・起伏シリンダ
38・・・第1油圧モータ
39・・・メインウインチ
40・・・吊荷用フック
41・・・掛け金具
42・・・ワイヤ
43・・・ウインチシーブ
44・・・ワイヤドラム
50・・・コントローラ
52・・・メモリ
54・・・制御プログラム
71・・・サブフック部材
73・・・サブフック
80・・・サブワイヤセンサ
81・・・第2油圧モータ
82・・・サブウインチ
83・・・サブワイヤドラム
88・・・掛け金具
89・・・サブワイヤ
91・・・第1リリーフ回路
92・・・リリーフバルブ
93・・・第2リリーフ回路
94・・・リリーフバルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15