(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ICモジュールおよび情報媒体
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20240806BHJP
H01L 23/00 20060101ALI20240806BHJP
B42D 25/305 20140101ALI20240806BHJP
【FI】
G06K19/077 156
G06K19/077 144
H01L23/00 C
B42D25/305 100
(21)【出願番号】P 2020195011
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】小泉 綾音
(72)【発明者】
【氏名】小久保 悠
(72)【発明者】
【氏名】耳田 尚道
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-234246(JP,A)
【文献】特開2005-234684(JP,A)
【文献】特開2005-115458(JP,A)
【文献】特開2003-196632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
H01L 23/00
B42D 25/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップが封入されたIC部、中間層、補強材が順次積層されたICモジュールであって、
前記中間層は、前記IC部側、前記補強材側のうちの少なくとも一方の側に凸部が複数形成され、
前記凸部の頂部で対向する部材と接触しており、
前記凸部は、前記頂部が前記ICチップの直上とならない部位に形成されていることを特徴とするICモジュール。
【請求項2】
前記凸部は、千鳥状の配置パターンで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のICモジュール。
【請求項3】
前記凸部は、ICチップの部位を中心として放射状の配置パターンで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のICモジュール。
【請求項4】
前記凸部は、ランダムな配置パターンで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のICモジュール。
【請求項5】
前記頂部は、滑らかな曲面状であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のICモジュール。
【請求項6】
前記中間層の前記凸部の間の空隙に、前記中間層の材料よりも弾性率の低い接着剤が前記空隙を充填しない態様で含まれていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のICモジュール。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のICモジュールが搭載された情報媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード、パスポートなどICチップを搭載した媒体において、局所的な圧力によるICチップの破壊を防ぐことができるICモジュールおよびそれを搭載した情報媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ICカードに内蔵されているICチップ部分のモールドやリードフレームが外部からの局所的な圧力などで破壊されるのを保護するために、接着剤を介してSUSなどの金属製の補強材を設けてICモジュールとした構造が広く採用されている。
【0003】
この様な構造とした場合、接着剤部分を柔らかい材料(ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコン樹脂等)で構成すると、補強材側から衝撃が加わった際に接着剤部分が潰れやすくなり、厚みが十分でないと結果的に衝撃がICチップに直接伝わってしまいやすく、ICチップが破損しやすいという問題点があった。
【0004】
一方、接着剤部分を硬い材料(金属、セラミック、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等)で構成すると、衝撃が加わった際に衝撃を逃がす手段が無いため、やはり衝撃がICチップに直接伝わってしまいやすく、ICチップが破損しやすいという問題点があった。
【0005】
また、接着剤部分を繊維(ガラス、アラミド、ケブラー等)と接着剤で構成することも行われるが、その場合は接着面が平滑であるため、SUSなどの補強材全面と接触してしまい、補強材に局所的に加わった衝撃や曲げの撓みが接着剤部分の他の部分に伝わりやすく、衝撃がICチップに直接伝わってしまいやすいことは変わりがなかった。
【0006】
また特許文献1には、補強材もしくはICチップの中央部の接着剤を弾性率の高いものとし、周縁部の接着剤を弾性率の低いものとしたICカードが開示されており、強度の均一化が図れることで曲げ応力や衝撃力に強いICカードが得られるとしている。しかしこの場合、2種類の接着剤を用意しなければならず、その塗分けもばらつきが出やすく、強度の均一化が難しいという問題があった。また接着剤層が一定の厚みを持つ平坦な層となっているため、補強材と全面で接していることから、補強材に局所的に加わった衝撃や曲げの撓みが接着剤層の他の部分に伝わりやすく、ICチップにダメージが伝わりやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、補強材側から局所的な衝撃が加わった場合でも、衝撃がICチップに直接伝わりにくく、衝撃によりICチップが破壊されるのを防ぐことができるICモジュールおよび情報媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、
ICチップが封入されたIC部、中間層、補強材が順次積層されたICモジュールであっ
て、
前記中間層は、前記IC部側、前記補強材側のうちの少なくとも一方の側に、凸部が複数形成され、
前記凸部の頂部で対向する部材と接触しており、
前記凸部は、前記頂部が前記ICチップの直上とならない部位に形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記ICモジュールにおいて、前記凸部は、千鳥状の配置パターンで形成されていて良い。
【0011】
上記ICモジュールにおいて、前記凸部は、ICチップの部位を中心として放射状の配置パターンで形成されていて良い。
【0012】
上記ICモジュールにおいて、前記凸部は、ランダムな配置パターンで形成されていて良い。
【0013】
上記ICモジュールにおいて、前記頂部は、滑らかな曲面状であって良い。
【0014】
上記ICモジュールにおいて、前記中間層の前記凸部の間の空隙に、前記中間層の材料よりも弾性率の低い接着剤が前記空隙を充填しない態様で含まれていても良い。
【0015】
本発明の別側面は、上記のいずれかのICモジュールが搭載された情報媒体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の情報媒体によれば、補強材側から局所的な衝撃が加わったとき、衝撃が複数の凸部の頂点に分散して加わり、またICチップの直上に凸部の頂点が来ない様に設けることでICチップに直接衝撃が伝わらないようにすることが出来るため、ICチップの破壊を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のICモジュールの一形態の断面模式図である。
【
図2】本発明のICモジュールの一形態の層構成の説明図である。
【
図4】本発明のICモジュールに衝撃が加わったときの態様を示す断面模式図である。
【
図6】本発明のICモジュールの別形態の断面模式図である。
【
図8】本発明の情報媒体の一形態の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また以下に示す実施形態では、発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0019】
図1は、本発明のICモジュールの一形態の断面模式図である。また
図2はその層構成の説明図である。ICモジュール1は、IC部4、中間層3、補強材2が順次積層されて構成されている。IC部4は、ICチップ5がモールド樹脂中に埋設されたモールド部、ICチップ5と電気的に接続しているリードフレーム、バンプ、ワイヤボンディングなどを含んでいる。
【0020】
中間層3は、補強材2に向かって同じ高さの複数の凸部6が突出した形状であり、その頂部を接触点6aとして対向する部材、
図1の例では補強材2と接触している。なおここで言う接触点は、数学的な意味での点に限らず、ある程度の面積を持つ領域状のものも含むものである。凸部6の形状は特に限定されないが、
図2に示すような半球状に突出した形状で良く、その頂部は滑らかな曲面状となっていると好ましい。凸部6を平面視したときのその基部の形状は、凸部6が半球状であれば円形となるが、それ以外にも矩形、三角形、六角形などの多角形状、楕円形など任意の形状をとり得る。また頂部までの高さが同一であれば基部の大きさは適宜設定し得るもので、凸部6の基部を全て同一の大きさおよび形状としても、異なる大きさや形状のものが混在する態様としても良い。
【0021】
また凸部6の配置は、
図3(a)に例示した千鳥状、
図3(b)に例示した放射状、
図3(c)に例示したランダム配置、
図3(d)に例示した形状や大きさが異なるものを混在させた配置、
図3(e)に例示したハニカムの壁部分を凸部とした形状、などとすることができるが、これらに限定されない。なお凸部6は、接触点6aがIC部4中に埋設されたICチップ5の直上となる部位5´に来ないような位置に設ける。
【0022】
上記の配置の態様を具体的に例示するならば、
千鳥状:凸部6のピッチが1000μmで形状が半球形をなし、直線的に配列された凸部6が配列方向と直交する方向に半ピッチずれた状態(市松模様状とも言える)で配置されている。
ランダム配置:凸部を成す形状が半球形で、それが全方位にランダムに配置されている。放射状:凸部を成す形状が半球形(アスペクト比2:1)で、中心から放射状に移動するにしたがって疎から密に線形的に密度が変化していく。
などとすることができる。
【0023】
中間層3を形成する材料としては、弾性率が高い材料が好ましく、例えば金属、セラミック、カーボンファイバー、ガラス繊維、アラミド繊維、エポキシ系、ポリ塩化ビニル系、ポリアミド系、シアノアクリレート系等などが挙げられるが、これに限定されない。
【0024】
補強材2は、中間層3の凸部6上に積層され、接触点6aで凸部6の頂部と接触している。すなわち補強材2と中間層3は全面では接触しておらず、凸部6の頂部に対向する部位を接触点6aとして部分的に接触している。補強材2は落下や外部からの打撃などの衝撃からICチップを保護するために設けられ、従ってその材料としては強度と弾性を有するものが好ましく、SUSなどの金属、セラミック、カーボンファイバー、ガラス繊維、アラミド繊維、エポキシ系、ポリ塩化ビニル系、ポリアミド系、シアノアクリレート系等などの弾性率が高い材料が例示できるが、これに限定されない。
【0025】
上記の様な構成のICモジュール1に、例えば補強材2側から局所的な衝撃が加わると、
図4に示す様に衝撃が加わった部位およびその近傍で補強材2は変形し、その変形による応力が中間層3に伝わる。その際、応力は接触点6aから凸部6へ、そしてIC部4へと伝わってゆくが、凸部6は接触点6aがICチップ5の直上とならないように形成されているため、凸部6に伝わった衝撃はICチップ5に伝わりにくく、ICチップ5の破壊を防ぐことができる。
【0026】
補強材2と中間層3は典型的には接着剤で接着されるが、その際に、
図5に示す様に接着剤7が接触点6aの近傍だけでなく、補強材2と中間層3の間の凸部6以外の空隙部分にはみ出して、空隙部分を充填しないが部分的に埋める様な態様となることがある。ICモジュール1aの様に空隙部分に接着剤7が空隙部分を充填しない態様で含まれていても、中間層3より弾性率が低い接着剤7を用いることで、弾性率が高い中間層3に衝撃が伝搬するため、衝撃がICチップ5に伝わりにくくなる効果が同様に得られる。
【0027】
図6は本発明のICモジュールの別形態の断面模式図である。本実施形態においては、中間層3はIC部4側の表面に凸部6が形成されている。この様な形状のICモジュール1bの補強材2に衝撃が加わった場合、補強材2の変形は中間層3に伝わり、さらに凸部6に伝わるが、凸部6は接触点6aがICチップ5の直上に来ないように形成されているため、凸部6から更に下層側のIC部4からICチップ5に伝わる衝撃を小さくでき、ICチップ5の破損を防ぐことができる。
【0028】
図7は凸部の別形状の例を示す模式図である。凸部6bは中央部に貫通孔が設けられており、半ループ状(半ドーナツ状)の形態である。貫通孔があることで衝撃が加わった際に変形が起こりやすく、衝撃を吸収しやすい。
【0029】
以上説明した様な凸部は、中間層の両面、すなわちIC部側、補強材側の両面に設けても良いことは言うまでもない。
【0030】
図8は本発明の情報媒体の一形態の断面模式図である。本実施形態はICカード10の形態を例示したものである。本発明のICモジュール1を搭載したインレット8を表裏のシート材11a、11bの間に挿入し、接着剤9を充填してカード状に成形したものである。インレット8にはICモジュール1と電気的に接続する電極(図示せず)やアンテナパターン12が形成されている。カードの形態としたときに前述のようなICチップの破損を防ぐ効果が同様に得られる。本発明の情報媒体は、カードの形態に限らず、パスポートなどの冊子の形態、ICタグ、ICラベルなどの種々の形態をとり得る。
【実施例】
【0031】
補強材、中間層をIC部のリードフレームが設けられた側に貼り付け、点状の衝撃を加え、その後、搭載したICチップとの通信が正常に行えるか通信検査を行った。
<構造>
ICモジュールはレーザーかしめによりインレットに実装した。
<材料>
補強材:SUS304-H 四角型 6mm角
接着剤:スリーボンド製、刷毛付き瞬間接着剤 1743F
中間層:ガラスクロス粘着テープ(日東電工製 No.973UL-S 厚み130μm)
インレット:東洋アルミ製
モールド部のモールド樹脂はエポキシ樹脂。
【0032】
<テストとその結果>
(1)インレットにレーザーかしめにより実装したICモジュールのリードフレーム側に、モールド樹脂と同じ形、大きさのガラスクロス粘着テープを貼り付ける。
(2)補強材の縁付近に瞬問接着剤を付け、ガラスクロス表面に貼り付ける。
(3)ICチップの中央部の法線上に圧力1.96×106Paとなる点状衝撃を加えた。
(4)その後、通信検査を行ったところ、通信が問題なく行え、ICチップが破壊されていないことが確認できた。
【符号の説明】
【0033】
1・・・ICモジュール
2・・・補強材
3・・・中間層
4・・・IC部
5・・・ICチップ
6、6b・・・凸部
6a・・・接触点
7・・・接着剤
8・・・インレット
9・・・接着剤
10・・・情報媒体(ICカード)
11a、11b・・・シート材