(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】複合磁性熱硬化成型体、その複合磁性熱硬化成型体を用いて得られるコイル部品、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20240806BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240806BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F41/02 D
H01F37/00 A
(21)【出願番号】P 2020197179
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】川原井 貢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一央
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098259(JP,A)
【文献】特開2018-186212(JP,A)
【文献】特開2020-013943(JP,A)
【文献】特開2019-160942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 41/02-41/04
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、を含む複合磁性熱硬化成型体であって、
前記金属磁性粉末と前記熱硬化性樹脂との合計質量に対する前記熱硬化性樹脂の質量割合が2.0wt%以上4.5wt%以下であり、
前記複合磁性熱硬化成型体の密度が5.2g/cm
3以上
5.61g/cm
3
以下であり、
さらに前記複合磁性熱硬化成型体に直流の電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が
500V/mm以上である、
複合磁性熱硬化成型体。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂の前記質量割合が4.0wt%以下であり、さらに前記複合磁性熱硬化成型体の比透磁率が20以上である、請求項1に記載の複合磁性熱硬化成型体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合磁性熱硬化成型体にコイルが内包された、コイル部品。
【請求項4】
材料調製工程と、圧縮成型工程と、熱硬化工程と、を含む複合磁性熱硬化成型体の製造方法であって、
前記材料調製工程が、金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、を含む材料を、前記金属磁性粉末と前記熱硬化性樹脂との合計質量に対する前記熱硬化性樹脂の質量割合が2.0wt%以上4.5wt%以下となるように混合して複合磁性材料を得る工程であり、
前記圧縮成型工程が、前記複合磁性材料を、前記熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整された金型を用いて、1kg/cm
2以上30kg/cm
2以下の成型圧力により前記複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.2g/cm
3以上
5.61g/cm
3
以下となるように圧縮成型して複合磁性成型体を得る工程であり、
前記熱硬化工程が、前記複合磁性成型体を熱処理して前記複合磁性熱硬化成型体を得る工程である、
複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項5】
前記圧縮成型工程が、圧縮成型前の前記複合磁性材料を前記熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整し、温度が調整された前記複合磁性材料を、前記金型を用いて前記成型圧力により圧縮成型して前記複合磁性成型体を得る工程である、請求項4に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項6】
前記圧縮成型工程の前記金型または前記複合磁性材料が、前記熱硬化工程における熱処理温度未満の温度に調整されている、請求項4または5に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項7】
前記材料調製工程の前記金属磁性粉末が略球形である、請求項4~6のいずれか1項に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項8】
前記材料調製工程の前記金属磁性粉末が、乾燥処理が施された金属磁性乾燥粉末である、請求項4~7のいずれか1項に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項9】
前記材料調製工程の前記金属磁性粉末が、シラン系またはチタン系のカップリング剤により表面処理が施された表面処理金属磁性粉末である、請求項4~8のいずれか1項に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項10】
前記材料調製工程の前記金属磁性粉末が、リン酸塩によりリン酸塩処理が施されたリン酸塩処理金属磁性粉末である、請求項4~8のいずれか1項に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項11】
前記圧縮成型工程が、前記複合磁性材料にコイルを内包させて圧縮一体成型し、コイル内包複合磁性成型体を得る工程である、請求項4~10のいずれか1項に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合磁性熱硬化成型体、その複合磁性熱硬化成型体を用いて得られるコイル部品、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器などに用いられるコイル部品は種々の形態が知られているが、金属磁性粉末をバインダー樹脂に分散した複合磁性材料により構成された磁性コア材と、コイルあるいはコイル組立体とを一体成型したコイル部品が多く使用されている。例えば、特許文献1には、軟磁性粉末とバインダーを含む混和物により構成される粉末磁性体内に巻線コイルが封じ込められて、4.5~10.0ton/cm2の成形圧力にて加圧成形され一体化されたインダクタンス部品(コイル部品)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来、インダクタンス部品では、コイルで導通していることから端子間などにおける高い絶縁破壊電圧は必要とされていなかった。特に、車載製品では、車載バッテリーの電源が12V程度であることから、DC/DCコンバータ(直流電圧変換装置)に使用するインダクタンス部品でも数十V程度の絶縁破壊電圧で充分に対応することができた。
【0005】
しかしながら、昨今は、商用のAC100Vを直接整流してこれをDC/DCコンバータにより携帯機器の5Vに制御したり、ハイブリッド車や電気自動車において高電圧電源を利用するシステムが用いられたりするようになってきた。また LED制御のためのステップアップコンバータ等では、100V~300V程度の直流をスイッチングするため、回路に使用されるインダクタンス部品に瞬間的に高い電圧が印加されるようになってきた。そのため、インダクタンス部品に対しても高い絶縁破壊電圧が求められるようになってきている。
【0006】
一方で、上記電源回路では大電流化が進んでいることから、小型で大電流に対応するために、インダクタンス部品を構成する材料には酸化物で絶縁体であるフェライト材料ではなく重畳特性に優れた金属磁性粉末が多く使用されている。この金属磁性粉末は電気的導体であるため、樹脂とともにそのまま圧縮成型して成型体としても絶縁性が得られない。そのため、前述の特許文献1のように、絶縁性のバインダー樹脂とあらかじめ混合し、金属磁性粉末の粒子表面にバインダー樹脂の絶縁層を形成させることにより、成型体としたときの絶縁性を確保している。
【0007】
そして、従来は、このような金属磁性粉末と絶縁性の熱硬化性樹脂を混合した複合磁性材料を、常温の金型内で、前述の特許文献1などのように1~10ton/cm2程度の圧力で圧縮成型し、金型から取り出した後に必要な温度で熱硬化処理を行って成型体を製造している。しかし、この製造方法では、目的とする密度などを得るために極めて高い圧力により圧縮成型を行うため、電気的導体である金属磁性粉末どうしを絶縁する金属磁性粉末間の樹脂成分が排除され易く、金属磁性粉末間の樹脂成分の絶縁層が極めて薄くなったり、金属磁性粉末どうしが電気的に接触したりすることにより、成型体の絶縁破壊電圧が低くなってしまうという課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い密度を有しながら直流の電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が高い複合磁性熱硬化成型体、その複合磁性熱硬化成型体を用いて得られるコイル部品、およびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、を所定量含む複合磁性材料を、この熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整された金型を用いて、所定の低い成型圧力によって複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに所定の密度以上となるように圧縮成型することにより、高い密度を有しながら直流の電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が高い複合磁性熱硬化成型体を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、を含み、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との合計質量に対する熱硬化性樹脂の質量割合が2.0wt%以上4.5wt%以下であり、密度が5.2g/cm3以上であり、さらに直流の電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が300V/mm以上の複合磁性熱硬化成型体である。
【0011】
また、本発明の一態様は、上記した複合磁性熱硬化成型体にコイルが内包されたコイル部品である。
【0012】
さらに、本発明は、金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、を含む材料を、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との合計質量に対する熱硬化性樹脂の質量割合が2.0wt%以上4.5wt%以下となるように混合して複合磁性材料を得る材料調製工程と、この複合磁性材料を、上記熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整された金型を用いて、1kg/cm2以上30kg/cm2以下の成型圧力により複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.2g/cm3以上となるように圧縮成型して複合磁性成型体を得る圧縮成型工程と、この複合磁性成型体を熱処理して複合磁性熱硬化成型体を得る熱硬化工程と、を含む、金属磁性複合材料の熱硬化成型体の製造方法も包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い密度を有しながら直流の電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が高い複合磁性熱硬化成型体、およびこの複合磁性熱硬化成型体にコイルが内包されたコイル部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係るコイル部品の製造工程の一例を示す工程図(工程断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
はじめに、本発明に係る複合磁性熱硬化成型体の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体は、少なくとも、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂とを含む。なお、本発明の効果に影響を与えない範囲内において、上記以外の材料(例えば分散剤、可塑剤など)が含まれる実施形態も除外されない。
以下、各材料等について詳細に説明する。
【0017】
<金属磁性粉末>
まず、金属磁性粉末について説明する。
金属磁性粉末は、金属磁性材料を粉末化する方法などによって得ることができる磁性粉末であり、鉄を主成分として含むものである。金属磁性材料としては、例えば、鉄、鉄を含む合金(鉄-珪素、鉄アルミ珪素合金、鉄ニッケル合金等)などを用いることができる。ただし、これらは一例に過ぎず、他の金属磁性材料を採用しても良い。また、この金属磁性粉末は、1種類の金属磁性材料の粉末でも、2種類以上の金属磁性材料が混合された粉末でも良い。
【0018】
特に、磁気特性や入手し易さなどの観点から、鉄を主成分として含み、副成分として、クロム(Cr)、珪素(Si)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、カーボン(C)、ホウ素(B)などを含む金属磁性粉末を用いるのがより好ましい。また、アモルファス金属粉末や純鉄粉を用いても良い。具体的には、Fe-Ni系(パーマロイ)、Fe-Si系(ケイ素鋼)、Fe-Al系、Fe-Co系(パーメンジュール)、Fe-Si-Cr系、Fe-Al-Cr系、Fe-Si-Al系(センダスト)などの合金粉末や、Fe-Si-B-Cr系のアモルファス粉末のような非結晶性金属粉末、カルボニル鉄粉などの結晶性鉄粉などが挙げられる。そして、上記材料のうち略球形の金属磁性粉末とすることが可能な材料(例えばFe-Si-B-Cr系のアモルファス粉末やFe-Si-Cr系合金粉末など)を用いるのがより好ましい。この金属磁性粉末を含む複合磁性材料の圧縮成型がよりし易くなるからである。
【0019】
金属磁性粉末の主成分である鉄の含有率は、85wt%以上であることが好ましく、87wt%以上であることがより好ましい。また、98wt%以下であることが好ましく、97wt%以下であることがより好ましい。そして、上記のような副成分から選ばれる1以上を含み、残部が鉄および不可避的不純物であることが好ましい。
【0020】
また、この金属磁性粉末は、クロムの含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、3wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。
クロムは、大気中の酸素と結合して、化学的に安定な酸化物(例えば、Cr2O3等)を容易に生成する。このため、クロムを含む複合磁性熱硬化成型体は、耐食性に特に優れたものとなる。さらにクロムの酸化物は比抵抗が大きいため、複合磁性熱硬化成型体を構成する粒子の表面付近にクロムの酸化物層が形成されることにより、粒子間をより絶縁し易くなる。
したがって、クロムの含有率を上記範囲内とすることにより、耐食性に優れるとともに、渦電流損失のより小さいコイル部品等を製造可能な金属磁性粉末が得られる。
【0021】
同様の理由により、この金属磁性粉末は、ニッケルの含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、3wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。そして、同様に、この金属磁性粉末は、アルミニウムの含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、3wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。
【0022】
さらに、この金属磁性粉末は、珪素の含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、3wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。
珪素は、金属磁性粉末を含む複合磁性熱硬化成型体を用いて得られるコイル部品等の比透磁率を高め得る成分である。また、金属磁性粉末が珪素を含むと比抵抗が高くなるため、粒子間渦電流損失を抑制し得る成分でもある。したがって、珪素の含有率を上記範囲内とすることにより、比透磁率を高めつつ、渦電流損失のより小さいコイル部品等を製造可能な金属磁性粉末が得られる。
【0023】
そして、この金属磁性粉末は、上記成分より含有率の小さい成分として、ホウ素(B)、チタン(Ti)、V(バナジウム)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、Ga(ガリウム)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、およびタンタル(Ta)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。その場合、これらの成分の含有率の総和は、1wt%以下とするのが好ましい。
また、製造過程で不可避的に混入するリン(P)、硫黄(S)等の成分を含んでいても良いが、その場合、それらの成分の含有率の総和は、1wt%以下であるのが好ましい。
【0024】
金属磁性粉末の平均粒子径(D50)は、8μm以上25μm以下であるのが好ましく、10μm以上20μm以下であるのがより好ましい。さらに、金属磁性粉末の粒子形状は、前述したように、この金属磁性粉末を含む複合磁性材料の圧縮成型がよりし易くなることから、略球形(例えば、長径を短径で除した値が2以下、さらには1.5以下の略球体である形状)であるのが好ましい。
【0025】
ここで、この「平均粒子径(D50)」とは、レーザ回折・散乱法(マイクロトラック法)による粒子径分布測定装置を用いて求めた体積基準粒度分布における積算値50%での粉子径(メディアン径)を意味する。粒子が凝集している場合には、その凝集体の粒子径を意味する。なお、平均粒子径(D50)の具体的な測定機器としては、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布)LA-960(HORIBA製作所社製)を挙げることができる。
【0026】
また、金属磁性粉末は、金属磁性材料が水アトマイズ法やガスアトマイズ法により粉末化されたものを用いるのが好適である。
ここで、「水アトマイズ法」とは、溶湯(溶融金属)を、高速で噴射した水(アトマイズ水)に衝突させることにより、溶湯を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。
また、「ガスアトマイズ法」とは、溶湯の流れに周囲から不活性ガスや空気などのジェット気流を吹き付けて溶湯の流れを粉化し、擬固させて金属粉末とする方法である。
【0027】
この水アトマイズ法またはガスアトマイズ法により製造された金属磁性粉末は、その形状が略球形となる(球形に近くなる)ため、この金属磁性粉末を含む複合磁性材料を用いて複合磁性熱硬化成型体を製造する際に、その充填率を容易に高めることができる。また、前述したように、この金属磁性粉末を含む複合磁性材料の圧縮成型がよりし易くなる。その結果、より高密度・高比透磁率の複合磁性熱硬化成型体が得られ易い。
【0028】
なお、この金属磁性粉末として、粉末表面の吸着水を除去するために乾燥処理が施されたもの、つまり粉末を乾燥処理して得られた金属磁性乾燥粉末を用いても良い。粉末の乾燥処理方法としては、熱風処理や乾熱処理などが例示され、乾燥処理条件としては、100~150℃の温度で30~120分間処理する条件などが例示される。
【0029】
また、この金属磁性粉末として、熱硬化性樹脂との濡れ性を向上させるためにシラン系またはチタン系のカップリング剤により表面処理が施されたもの、つまり粉末をシラン系またはチタン系のカップリング剤により表面処理して得られた表面処理金属磁性粉末を用いても良い。シラン系またはチタン系のカップリング剤としては、後述する熱硬化性樹脂との親和性などの観点から、エポキシ基、アミノ基、またはイソシアネート基を官能基として有するシラン系またはチタン系のカップリング剤を用いるのがより好ましい。そして、粉末の表面処理方法としては、粉末をミキサー等により攪拌させながらカップリング剤を含む溶液を滴下または噴霧する乾式処理法や、粉末に溶媒を加えてスラリー状とし、このスラリーにカップリング剤を含む溶液を加えて攪拌した後、濾過および乾燥する湿式処理法などが例示される。なお、この表面処理は、前述した乾燥処理と組み合わせて行っても良い。
【0030】
さらに、この金属磁性粉末として、表面を絶縁膜でコーティングするためにリン酸塩処理が施されたもの、つまり粉末をリン酸塩によりリン酸塩処理して得られたリン酸塩処理金属磁性粉末を用いても良い。リン酸塩としては、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛-カルシウム、リン酸マンガン、リン酸鉄などが例示され、特に、鉄を主成分とする磁性粉末での絶縁膜形成のし易さという観点から、リン酸亜鉛を用いるのがより好ましい。そして、粉末のリン酸塩処理方法としては、粉末を必要に応じて酸洗浄または水洗浄した後にリン酸塩処理し、その後に水洗浄および乾燥を行う方法などが例示される。なお、このリン酸塩処理も、前述した乾燥処理と組み合わせて行っても良い。
【0031】
そして、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体において、この金属磁性粉末の含有率は90~98wt%であることが好ましく、92~97.5wt%であることがより好ましい。
【0032】
なお、半導体の封止材料においては、フィラーとして、導電性を有さない、つまり絶縁性の金属酸化物粉末(フェライト粉末)やガラスビーズ等が用いられているが、本発明の金属磁性粉末には、このような絶縁性の材料の粉末は包含されない。つまり、本発明の金属磁性粉末は、導電性を有する材料により構成されたものである。
【0033】
<熱硬化性樹脂>
次に、熱硬化性樹脂について説明する。
熱硬化性樹脂は、官能基を持つプレポリマーを主成分(含有率90wt%以上)とする反応性の樹脂組成物であり、加熱により軟化および流動し、次第に三次元網目構造を形成する架橋反応を起こして硬化する樹脂組成物である。なお、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体に含まれているのは熱硬化された樹脂組成物であるが、本発明ではこの熱硬化された樹脂組成物も「熱硬化性樹脂」と称している。そして、この熱硬化性樹脂としては、バインダー樹脂としての役割を果たし且つ加熱により硬化可能なもの(例えば半導体の封止材料に使用されている樹脂など)であれば特に限定されず、熱硬化型の、エポキシ系樹脂(ビスフェノール型、ナフタレン型、ノボラック型、脂肪族型、グリシジルアミン型など)、シリコン系樹脂(メチルフェニルシリコン樹脂など)、フェノール系樹脂(ノボラック型、レゾール型など)、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、メラミン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等を用いることができる。そして、2種類以上の熱硬化性樹脂が混合されたものを用いても良い。特に、熱耐性などの観点から、エポキシ系樹脂を用いるのがより好ましく、ノボラック型エポキシ系樹脂を用いるのがさらに好ましい。
【0034】
また、この熱硬化性樹脂の熱硬化反応前における軟化温度は、限定されるものではないが、0℃以上であるのがより好ましく、40℃以上であるのがさらに好ましい。そして、これも限定されるものではないが、この熱硬化性樹脂の熱硬化反応前における軟化温度は100℃以下であるのが好ましい。
【0035】
さらに、熱硬化性樹脂は、熱硬化のし易さなどの観点から、硬化剤が混合されたものであるのが好ましい。硬化剤としては、フェノールノボラック型の硬化剤(フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂など)、ポリアミド系硬化剤(ポリアミド樹脂など)、無水マレイン酸、無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤、ジシアンジアミド、イミダゾール等の潜在性アミン系硬化剤、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン類などを用いることができる。これらの硬化剤は、単独で使用しても、2種類以上併用してもよい。
また、本発明の効果に影響を与えない範囲内において、さらに希釈剤、充填剤、離型剤などの他の添加剤が混合されたものであっても良い。
【0036】
なお、複合磁性材料を調製するにあたり、熱硬化性樹脂を樹脂溶液とするために、熱硬化性樹脂に溶剤を混合しても良い。この溶剤は、製造工程などにおいて乾燥等により除去されるものであるが、除去のし易さという観点から、溶剤の使用量は少ない方が好ましい(例えば、溶剤を除く複合磁性材料に用いる材料の合計体積に対する溶剤の体積の比率が5.0vol%未満、さらには0.5vol%以上2.0vol%以下など)。溶剤としては、後述する複合磁性熱硬化成型体の製造方法における材料調製工程や、その後の圧縮成型工程、熱硬化工程などにおいて乾燥等により除去可能なものであるのが好ましく、アルコール、トルエン、クロロホルム、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒が好適例として示される。
【0037】
そして、この熱硬化性樹脂を用いて製造する複合磁性熱硬化成型体が所定の密度および絶縁破壊電圧を得られるようにするために、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体における熱硬化性樹脂の含有量は、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との合計質量に対する熱硬化性樹脂の質量割合、つまり[熱硬化性樹脂の含有量(質量)/金属磁性粉末の含有量(質量)+熱硬化性樹脂の含有量(質量)]×100の計算値として2.0wt%以上4.5wt%以下となるようにする。なお、この質量割合の下限は2.5wt%以上であるのがより好ましい。また、上限は4.0wt%以下であるのがより好ましく、3.5wt%以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
<複合磁性熱硬化成型体>
次に、前述した金属磁性粉末および熱硬化性樹脂を含む複合磁性材料が所定の条件によって圧縮成型され熱硬化された、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体について説明する。
【0039】
本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体は、前述した金属磁性粉末および熱硬化性樹脂を所定量含む複合磁性材料が、後述する所定の温度および成型圧力により圧縮成型され、さらに所定の温度により熱処理を行って熱硬化されたものである。そして、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の密度は5.2g/cm3以上であり、直流の電圧を印加したときの絶縁破壊電圧(成型体内の特定距離間において電気抵抗が急激に低下して大電流が流れる電圧)が300V/mm以上であり、比透磁率も高い。
【0040】
なお、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の密度は、5.4g/cm3以上であるのがより好ましく、5.5g/cm3以上であるのがさらに好ましい。また、この密度の上限は、限定されるものではないが、7.0g/cm3以下であっても良く、6.5g/cm3以下であっても良く、6.2g/cm3以下であっても良く、6.0g/cm3以下であっても良く、5.8g/cm3以下であっても良い。さらに、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体に直流の電圧を印加したときの絶縁破壊電圧は、400V/mm以上であるのがより好ましく、500V/mm以上であるのがさらに好ましく、550V/mm以上であるのがさらに好ましく、600V/mm以上であるのがさらに好ましい。さらに、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の比透磁率は、20以上であるのがより好ましく、22以上であるのがさらに好ましい。
【0041】
<コイル部品>
次に、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体にコイルが内包されたコイル部品の実施形態について詳細に説明する。
つまり、本実施形態に係るコイル部品は、上記した複合磁性熱硬化成型体により構成された磁性コア材と、この複合磁性熱硬化成型体に内包されたコイルと、を備える。そして、端子となるコイルの端部が複合磁性熱硬化成型体から複数(例えば2つ)露出されている。
【0042】
ここで、コイルは、丸線や平線などのワイヤが巻回されたものであり、このワイヤの形状や本数、巻回数(ターン数)などは特段限定されるものではない。また、このワイヤは表面が絶縁被覆されたものであっても良い。
また、磁性コア材は、上記コイルの磁心(コイルの中芯部に備わるインナーコア材)や上記コイルを包埋する磁性外装体(コイルが包埋されたアウターコア材)となるものであり、本実施形態に係るコイル部品においては、磁性外装体あるいは磁心と磁性外装体との両方が上記した複合磁性熱硬化成型体により構成されている。
【0043】
なお、本実施形態に係るコイル部品において「複合磁性熱硬化成型体により構成された磁性コア材」とは、複合磁性熱硬化成型体を主成分として(磁性コア材の90質量%以上、より好ましくは95質量%以上)含むことである。
【0044】
このような本実施形態に係るコイル部品は、端子間の絶縁破壊電圧が高く、コイル(チョークコイルを含む)やメタルインダクタなどとして好適に用いられる。
例えば、本実施形態に係るコイル部品は、端子間にインパルス電圧を印加したときの絶縁破壊電圧(インダクタンス値が初期値から-20%となる電圧)が300V以上、さらには350V以上となる。
【0045】
<複合磁性熱硬化成型体の製造方法>
次に、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の製造方法について説明する。
【0046】
本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の製造方法は、少なくとも、以下のような材料調製工程、圧縮成形工程および熱硬化工程を含む。なお、この製造方法により製造される複合磁性熱硬化成型体には、内部にコイル等を埋め込んでいない非埋め込みタイプの磁性コア材だけでなく、内部にコイルが埋め込まれたコイル部品も包含される。
以下、上記各工程について詳細に説明する。
【0047】
[材料調製工程]
材料調製工程は、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂とを含む複合磁性材料を調製する工程である。具体的には、前述したような金属磁性粉末および熱硬化性樹脂を用意し、熱硬化性樹脂(必要であれば溶剤を添加した樹脂溶液)に、ミキサー等を用いて金属磁性粉末を混合分散し、必要であれば乾燥して、粒状(造粒粉)またはペースト状の複合磁性材料を調製する。ここで、必要に応じてさらに分散剤、可塑剤などを適宜配合してから混合分散を行っても良い。また、前述した理由から、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との合計質量に対する熱硬化性樹脂の質量割合は2.0wt%以上4.5wt%以下となるようにする。この質量割合の下限は2.5wt%以上であるのがより好ましく、上限は4.0wt%以下であるのがより好ましく、3.5wt%以下であるのがさらに好ましい。
【0048】
なお、この金属磁性粉末、熱硬化性樹脂および溶剤の混合の順番は限定されるものではないが、混合分散のし易さという観点から、熱硬化性樹脂と溶剤とを混合して得られた樹脂溶液に金属磁性粉末(および他の材料)を混合するのがより好ましい。そして、上記の混合は、混錬造粒であってもよい。また、造粒により粒状(造粒粉)の金属磁性粉末を得る場合、混合した後、分級を施してもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。溶剤を用いている場合には、混合後に乾燥を行って溶剤含有率をほぼ0vol%としておくことが好ましい。
【0049】
[圧縮成型工程]
圧縮成型工程は、材料調製工程において得られた複合磁性材料を所定の条件により圧縮成型して成型体とする工程である。具体的には、まずプレス機械の金型を、この複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整しておき、金型開口から複合磁性材料をインジェクターなどによって金型内に充填する。なお、金型の形状や大きさは特に限定されない。また、複合磁性材料を金型内に投入する際に、金型内部で複合磁性材料が十分に充填されない箇所を生じにくくするために、振動を加えながら投入を行っても良い。
【0050】
ここで、より短時間で所定の密度まで圧縮成型できることから、圧縮成型前の複合磁性材料も熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整するのが好ましい。例えば、熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整された金型内に複合磁性材料を投入し、10~120秒間程度保持することにより、金型だけでなく、圧縮成型前の複合磁性材料の温度も熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整することができる。また、金型への投入前に、複合磁性材料を他の方法により加温して、熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整しても良い。
【0051】
さらに、この金型は、圧縮成型前および圧縮成型中において複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化反応を進行させ難くすることができるため、後述する熱硬化工程における熱処理温度未満の温度に調整されたものであるのがより好適である。また、複合磁性材料の温度も、同様に、後述する熱硬化工程における熱処理温度未満の温度に調整されているのがより好適である。具体的な温度としては、複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の種類などによって適宜設定すれば良いが、例えば、160℃未満、さらには150℃未満の温度が例示される。
【0052】
さらには、圧縮成型工程における金型や複合磁性材料の温度は、複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の軟化温度に55℃を加えた温度(軟化温度+55℃)以下、より好ましくは軟化温度+50℃以下に調整するのが好ましい。この場合、後述する熱硬化工程において、この軟化温度+55℃超、さらには軟化温度+50℃超の温度で熱処理を行うのが好適である。
【0053】
そして、この温度調整後、金型の可動性パンチ(プレスヘッド)の上下両方またはどちらか一方から1kg/cm2以上30kg/cm2以下の低い成型圧力により、複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.2g/cm3以上、より好ましくは5.4g/cm3以上、さらに好ましくは5.5g/cm3以上となるように圧縮成型し、複合磁性成型体を得る。なお、熱硬化後の複合磁性熱硬化成型体の絶縁破壊電圧をより向上させ易いことから、この成型圧力は、15kg/cm2以下であるのがより好ましく、12kg/cm2以下であるのがさらに好ましく、10kg/cm2以下であるのがさらに好ましい。
【0054】
ここで、「複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.2g/cm3以上となるように圧縮成型する」とは、複合磁性材料の密度が5.2g/cm3以上となるまでに、複合磁性材料が流動性を有する状態が保たれていること(例えば複合磁性材料の溶融粘度が1300Ps・s以下、さらには1100Ps・s以下であるなど)、つまり複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化反応が実質的に進行する前に密度が5.2g/cm3以上となるように圧縮成型することである。複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の種類などによって異なるが、目安としては、例えばエポキシ系樹脂を含む場合などでは圧縮成型開始から5~120秒間、さらには5~90秒間で密度が5.2g/cm3以上となるように圧縮成型するのが好適である。
なお、密度が5.2g/cm3以上となった後においては、複合磁性材料が流動性を有さない状態(含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化反応が実質的に進行した状態)となっていても良い。
【0055】
このような条件で複合磁性材料を圧縮成型して得られた複合磁性成型体は、従来に比べて大幅に低い成型圧力で所定の密度まで圧縮成型されているため、高い密度を有しながら電気的導体である金属磁性粉末間に存在する熱硬化性樹脂が排除されず、金属磁性粉末間に十分な厚さの絶縁層が形成されており、これを熱硬化することによって、高い密度を有し且つ高い絶縁破壊電圧を示す複合磁性熱硬化成型体を得ることができる。
【0056】
[熱硬化工程]
熱硬化工程は、圧縮成型工程において得られた複合磁性成型体を熱処理して熱硬化し、複合磁性熱硬化成型体を得る工程である。具体的には、圧縮成型工程後に金型から取り出した複合磁性成型体を、含まれる熱硬化性樹脂の推奨されている熱硬化温度以上の温度により熱処理して熱硬化させる。この熱処理の温度は、複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の種類などに応じて適宜設定すれば良いが、例えば、150℃以上230℃以下、さらには160℃以上200℃以下の温度が例示される。熱処理時間も、例えば0.1時間以上5時間以下であって良く、さらには0.2時間以上3時間以下であって良い。なお、この熱処理は、金型内において行っても良く、金型内と金型から取り出した後の両方で行っても良い。その後、得られた複合磁性熱硬化成型体は、更に必要に応じて、表面の研磨やコーティングなどの工程を選択的に施すことができる。
【0057】
このようにして、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との合計質量に対する熱硬化性樹脂の質量割合が2.0wt%以上4.5wt%以下であり、密度が5.2g/cm3以上であり、さらに直流の電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が300V/mm以上である、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体を製造することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体にコイルが内包されたコイル部品を製造する場合には、これも限定されるものではないが、前述した本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の製造方法の変形例として、例えば
図1に示すような方法により製造することができる。
【0059】
具体的には、まず丸線等のワイヤからなる巻線の空芯コイル11を用意する。この空芯コイル11は、絶縁被覆されたワイヤが巻回された巻回部11bと、この巻回部11bから引き出された巻線の端部11aとにより構成されている。次に、プレス機械の下側パンチ21aを含む金型21を複合磁性材料31に含まれる熱硬化性樹脂の軟化温度以上および熱硬化工程における熱処理温度未満の温度となるように調整し(
図1の(a))、空芯コイル11をこの金型21内に置き、金型21の開口からコイルの巻回部11(巻回されたワイヤのループ内側およびループどうしの隙間も含む)およびその上下空間を埋設するように、前述した材料調製工程により調製された複合磁性材料31を充填する。ただし、巻線の2つの端部11aは複合磁性材料31から露出させる(
図1の(b))。そして、複合磁性材料31の温度が含まれる熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度となるまで数十秒から数分間保持する。その後、同様に温度調整された上側パンチ21bにより、前述した成型圧力で複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.2g/cm
3以上となるように圧縮成型し、複合磁性材料31と空芯コイル11とを圧縮一体成型して、コイル内包複合磁性成型体を得る(
図1の(c))。その後、金型からコイル内包複合磁性成型体を取り出し、所定の温度での熱処理により熱硬化を行って、複合磁性材料31が略直方体状に成型および熱硬化された本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体32(磁性外装体および磁心となる磁性コア材)に空芯コイル11が包埋され、2つの巻線の端部11aは外部に露出して端子となっているコイル部品を得ることができる(
図1の(d))。
【0060】
なお、空芯コイルの代わりにコイルと磁心となる他の磁性コア材とからなるコイル組立体を用意し、これを用いて上記と同様の方法によりコイル部品を製造しても良い。この場合、磁性外装体(アウターコア材)は本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体により構成されるが、磁心(インナーコア材)は本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体とは異なる材料(例えばフェライトコアなど)により構成されるコイル部品となる。けれども、アウターコア材およびインナーコア材がいずれも本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体により構成されたコイル部品とするのがより好適である。
【0061】
コイルを内包させたコイル部品を製造する場合、従来の方法では、得られる成型体を所定の密度とするために非常に高い(少なくとも100kg/cm2超の)成型圧力によって圧縮成型することから、内包されているコイルのワイヤ(特に丸線ワイヤ)の断面形状がつぶれてしまい、ワイヤの絶縁被覆損傷などが発生し易いという課題もあった。しかしながら、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の製造方法によれば、密度が高い成型体を得ることができ且つ内包するコイルのワイヤの断面形状がつぶれてしまう懸念がなく、また金属磁性粉末の粒子間やワイヤ間の絶縁層なども十分保たれた好適なコイル部品を製造することができる。
【0062】
以上、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体、この複合磁性熱硬化成型体にコイルが内包されたコイル部品、およびこれらの製造方法を説明したが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の実施態様も含む。
また、上記の各実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、適宜に組み合わせることができる。
【0063】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでもなく、前述のように、本発明の技術的思想内において様々な変形等が可能である。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
複合磁性材料に用いる金属磁性粉末として、平均粒子径(D50)が11μmであり略球形のFe-Si-B-Cr系のアモルファス粉末(Feの含有率は85wt%以上、SiおよびCrの含有率はいずれも3wt%以上8wt%以下、Bの含有率は1wt%以下)を用意した。なお、このアモルファス粉末は、粉末表面の吸着水を除去するために、120℃で1時間の乾燥処理を行ったものである。また、上記平均粒子径(D50)は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布)LA-960(HORIBA製作所社製)を用いて測定した値である(以下も同様である)。
【0065】
さらに、複合磁性材料に用いる熱硬化性樹脂として、ノボラック型エポキシ樹脂に硬化剤としてフェノールノボラック型の硬化剤を必要量添加したものを用意した。なお、この熱硬化性樹脂は、軟化温度が異なる3種類(軟化温度100℃、60℃、および0℃)を用意した。
【0066】
そして、まず所定量秤量した上記熱硬化性樹脂を、メチルエチルケトン(MEK)を溶剤として希釈した。充分に溶解して樹脂溶液とし、この樹脂溶液に所定量秤量した上記金属磁性粉末を混合し、プラネタリーミキサーで充分に攪拌混合した(各サンプルにおける金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との合計質量に対する熱硬化性樹脂の量(質量割合)は下記表1に示した)。さらに、プラネタリーミキサーで攪拌しながら希釈溶剤であるメチルエチルケトン(MEK)を乾燥させ、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との混合物を得た。更に、この混合物を高速破砕機で粉砕し、平均粒子径(D50)が500μm未満の造粒粉である複合磁性材料を作製した。なお、作製された各複合磁性材料について、含まれる熱硬化性樹脂の軟化温度+40℃での硬化前の溶融粘度を東洋精機製作所社製キャピログラフF-1により測定したところ、いずれもおよそ1000Ps・sであった。
【0067】
次に、エアシリンダーが組み込まれた温度調整制御が可能なプレス機械の、下側パンチを含む金型を所定の温度に調整した(各サンプルの圧縮成型に使用した金型の温度(成型温度)は下記表1に示した)。金型温度が安定したところで金型内に上記の複合磁性材料を投入し、30秒間そのまま保持して複合磁性材料の温度を金型温度とほぼ同一とした。30秒経過後、同じ温度に調整された上側パンチを挿入し、所定の成型圧力を上側パンチにかけて圧縮成型を行った(各サンプルの成型圧力は下記表1に示した)。参考として、サンプルの1つは、金型および複合磁性材料を温度調整しないで常温のまま使用し、高圧(3000kg/cm2)で圧縮成型を行った。そして、それぞれ圧縮した状態で5分間保持した後、得られた複合磁性成型体を金型から取り出した。さらに、金型から取り出した複合磁性成型体を、160℃-2時間熱処理を行い、熱硬化性樹脂の熱硬化(アフターキュア)を行ってサンプル1~55の複合磁性熱硬化成型体を得た。なお、成型形状は、直径15mm-厚さ3mmの円盤状とした。
【0068】
密度および絶縁破壊電圧の評価には、この円盤状の複合磁性熱硬化成型体を使用した。また、この円盤状の複合磁性熱硬化成型体の中心に直径8mmの穴加工を施したトロイダル形状の複合磁性熱硬化成型体を作製し、比透磁率の評価にはこのトロイダル形状の複合磁性熱硬化成型体を使用した。
【0069】
サンプルの評価方法は、成型体の密度については、円盤状の複合磁性熱硬化成型体の外径、高さ、および質量の計測値から算出して評価し、5.20g/cm3未満を×、5.20g/cm3以上5.50g/cm3未満を〇、5.50g/cm3以上を◎として判定した。成型体の絶縁破壊電圧については、円盤状の複合磁性熱硬化成型体の主面の両面を、導電性ゴムシート(厚さ0.3mm)を介して二極の銅板電極で挟んで直流の電圧を印加して計測した。計測には日置電機社製、絶縁抵抗計SM7110を使用して、電圧スイープにより絶縁破壊電圧を評価し、300V/mm未満を×、300V/mm以上600V/mm未満を〇、600V/mm以上を◎として判定した。また、成型体の比透磁率については、トロイダル形状の複合磁性熱硬化成型体に絶縁被覆銅線(エナメル線)を20ターン巻回し、LCRメーター(Agilent社製 E4980A LCR Meter)によってインダクタンス値を測定し、トロイダル形状の複合磁性熱硬化成型体の外径、内径、および厚さからコア乗数を計算して、インダクタンス値から比透磁率を算出し、20未満を×、20以上22未満を〇、22以上を◎として判定した。これらの結果を下記表1に示した。
【0070】
この結果から、従来の製造方法である、成型圧力として3000kg/cm2の条件で常温(熱硬化性樹脂の軟化温度未満の温度)により圧縮成型した場合、得られる複合磁性熱硬化成型体の絶縁破壊電圧が150V/mm未満とかなり低くなるが(表1のサンプル55)、使用する金型および複合磁性材料の温度を圧縮成型前に熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度となるように調整し、成型圧力として1kg/cm2以上30kg/cm2以下の条件で複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.2g/cm3以上となるように圧縮成型を行うことによって、得られる複合磁性熱硬化成型体は、密度が5.2g/cm3以上であり、且つ500V/mm以上という高い絶縁破壊電圧を有するものとなることが明らかとなった(表1のサンプル2-4、7-12、17-21、23-28、32-37、39-44、49-53)。
【0071】
また、特に、成型圧力を1kg/cm2以上10kg/cm2以下の条件とすると得られる複合磁性熱硬化成型体の絶縁破壊電圧がより高まること、ならびに、含まれる金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との合計質量に対する熱硬化性樹脂の質量割合を2.0wt%以上4.0wt%以下とすると得られる複合磁性熱硬化成型体の比透磁率がより高まることも明らかとなった(表1)。
【0072】
一方、成型圧力が1kg/cm2未満であると密度を5.2g/cm3以上とできず、得られる複合磁性熱硬化成型体の比透磁率も19未満となってしまうこと(表1のサンプル6、22、38)、ならびに、成型圧力が30kg/cm2超であると得られる複合磁性熱硬化成型体の絶縁破壊電圧が300V/mm未満となってしまうこと(表1のサンプル13-15、29-31、45-47)も示された。
【0073】
また、使用する金型および圧縮成型前の複合磁性材料の温度が熱硬化性樹脂の軟化温度未満であると、あるいは、複合磁性材料が圧縮成型中に流動性を失うような高い温度で圧縮成形すると、密度を5.2g/cm3以上とできず、得られる複合磁性熱硬化成型体の比透磁率も19未満となってしまうこと(表1のサンプル1、5、16)も示された。
【0074】
さらに、含まれる金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との合計質量に対する熱硬化性樹脂の質量割合が2.0wt%未満であると密度を5.2g/cm3以上とできないこと(表1のサンプル48)、ならびに、含まれる金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との合計質量に対する熱硬化性樹脂の質量割合が4.5wt%超であると密度を5.2g/cm3以上とできず、得られる複合磁性熱硬化成型体の比透磁率も18未満となってしまうこと(表1のサンプル54)も示された。
【0075】
【0076】
(実施例2)
複合磁性材料に用いる金属磁性粉末として、実施例1と同じものを用意した。また、複合磁性材料に用いる熱硬化性樹脂として、実施例1の軟化温度60℃の熱硬化性樹脂を用意した。そして、実施例1と同様の方法により、造粒粉である複合磁性材料を作製した。さらに、ワイヤ径が0.3mmの絶縁被覆銅線を用いて、内径4mm、外径6mmで巻回数が23ターンの空芯コイルを用意した。そして、この空芯コイルの二つの端部を外部電極となるスズメッキ銅板に溶接し、コイルアッセンブリーとした。
【0077】
次に、実施例1と同じプレス機械の下側パンチを含む金型を所定の温度に調整した(各サンプルの圧縮成型に使用した金型の温度(成型温度)は下記表2に示した)。金型温度が安定したところで金型内に上記空芯コイルの巻回部の下部および上部に上記の複合磁性材料が配置され且つ空芯コイルの端部が露出するように上記コイルアッセンブリーと上記複合磁性材料とを投入し、30秒間そのまま保持して複合磁性材料の温度を金型温度とほぼ同一とした。30秒経過後、同じ温度に調整された上側パンチを挿入し所定の圧力で圧縮成型を行った(各サンプルにおける成型圧力は下記表2に示した)。ここでも、参考として、サンプルの1つは、金型および複合磁性材料を温度調整しないで常温のまま使用し、高圧で圧縮成型を行った。そして、それぞれ圧縮した状態で5分間保持した後、得られた複合磁性成型体を金型から取り出した。さらに、金型から取り出した複合磁性成型体を、160℃-2時間熱処理を行い、熱硬化性樹脂の熱硬化(アフターキュア)を行ってサンプル101~104のコイル部品を得た。なお、成型形状は、直径8mm-厚さ5mmの円盤状とし、インダクタンス値はおよそL=22μHであった。
【0078】
サンプルの評価方法は、コイル部品の端子間の絶縁破壊電圧について、インパルス試験機(電子制御国際社製、DWX-01A)を用いて行った。具体的には、外部電極に印加するインパルス電圧を上げていき、インダクタンス値が初期値から-20%となった電圧を絶縁破壊電圧とした。そして、300V未満を×、300V以上を◎として判定した。この結果を下記表2に示した。
【0079】
なお、実施例1の複合磁性熱硬化成型体の絶縁破壊試験は直流の電圧での成型体の絶縁破壊試験であるのに対し、実施例2のコイル部品の絶縁破壊試験はインパルス電圧での端子間の絶縁破壊試験のため、これらは単位が異なり、数値も異なっている。
【0080】
この結果から、従来の製造方法である、成型圧力が3000kg/cm2の条件により常温で圧縮成型した場合、得られるコイル部品の端子間の絶縁破壊電圧が95Vとかなり低くなるが(表2のサンプル104)、使用する金型および複合磁性材料の温度を圧縮成型前に含まれる熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度となるように調整し、成型圧力として10kg/cm2以上30kg/cm2以下の条件で複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.2g/cm3以上となるように圧縮成型を行うことによって、得られるコイル部品の端子間の絶縁破壊電圧が300V以上と高くなることが明らかとなった(表2のサンプル101、102)。
一方、温度調整した金型を用いても、成型圧力が30kg/cm2超であると、得られるコイル部品の端子間の絶縁破壊電圧が130Vとかなり低くなること(表2のサンプル103)も示された。
【0081】
【0082】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、を含む複合磁性熱硬化成型体であって、前記金属磁性粉末と前記熱硬化性樹脂との合計質量に対する前記熱硬化性樹脂の質量割合が2.0wt%以上4.5wt%以下であり、前記複合磁性熱硬化成型体の密度が5.2g/cm3以上であり、さらに前記複合磁性熱硬化成型体に直流の電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が300V/mm以上である、複合磁性熱硬化成型体。
(2)前記熱硬化性樹脂の前記質量割合が4.0wt%以下であり、さらに前記複合磁性熱硬化成型体の比透磁率が20以上である、(1)に記載の複合磁性熱硬化成型体。
(3)(1)または(2)に記載の複合磁性熱硬化成型体にコイルが内包された、コイル部品。
(4)材料調製工程と、圧縮成型工程と、熱硬化工程と、を含む複合磁性熱硬化成型体の製造方法であって、前記材料調製工程が、金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、を含む材料を、前記金属磁性粉末と前記熱硬化性樹脂との合計質量に対する前記熱硬化性樹脂の質量割合が2.0wt%以上4.5wt%以下となるように混合して複合磁性材料を得る工程であり、前記圧縮成型工程が、前記複合磁性材料を、前記熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整された金型を用いて、1kg/cm2以上30kg/cm2以下の成型圧力により前記複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.2g/cm3以上となるように圧縮成型して複合磁性成型体を得る工程であり、前記熱硬化工程が、前記複合磁性成型体を熱処理して前記複合磁性熱硬化成型体を得る工程である、複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(5)前記圧縮成型工程が、圧縮成型前の前記複合磁性材料を前記熱硬化性樹脂の軟化温度以上の温度に調整し、温度が調整された前記複合磁性材料を、前記金型を用いて前記成型圧力により圧縮成型して前記複合磁性成型体を得る工程である、(4)に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(6)前記圧縮成型工程の前記金型または前記複合磁性材料が、前記熱硬化工程における熱処理温度未満の温度に調整されている、(4)または(5)に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(7)前記材料調製工程の前記金属磁性粉末が略球形である、(4)~(6)のいずれか1つに記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(8)前記材料調製工程の前記金属磁性粉末が、乾燥処理が施された金属磁性乾燥粉末である、(4)~(7)のいずれか1つに記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(9)前記材料調製工程の前記金属磁性粉末が、シラン系またはチタン系のカップリング剤により表面処理が施された表面処理金属磁性粉末である、(4)~(8)のいずれか1つに記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(10)前記材料調製工程の前記金属磁性粉末が、リン酸塩によりリン酸塩処理が施されたリン酸塩処理金属磁性粉末である、(4)~(8)のいずれか1つに記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(11)前記圧縮成型工程が、前記複合磁性材料にコイルを内包させて圧縮一体成型し、コイル内包複合磁性成型体を得る工程である、(4)~(10)のいずれか1つに記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【符号の説明】
【0083】
11 空芯コイル
11a 空芯コイルの端部
11b 空芯コイルの巻回部
21 金型
21a 金型の下側パンチ
21b 金型の上側パンチ
31 複合磁性材料
32 複合磁性熱硬化成型体