(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/367 20210101AFI20240806BHJP
H01M 50/392 20210101ALI20240806BHJP
H01M 50/35 20210101ALI20240806BHJP
H01M 50/317 20210101ALI20240806BHJP
H01M 50/114 20210101ALI20240806BHJP
H01M 50/15 20210101ALI20240806BHJP
H01M 10/12 20060101ALI20240806BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M50/367
H01M50/392
H01M50/35 101
H01M50/317 101
H01M50/114
H01M50/15 101
H01M10/12 Z
H01M4/62 B
(21)【出願番号】P 2020197586
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 佳樹
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-041299(JP,A)
【文献】特開2022-120197(JP,A)
【文献】特開2013-004436(JP,A)
【文献】国際公開第2019/097575(WO,A1)
【文献】特開平07-220706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/30
H01M 50/10
H01M 10/12
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液と極板群と外装体とを含み、
前記外装体は、前記電解液および前記極板群が収容される電槽と、前記電槽の開口部に配置された蓋部とを含み、
前記蓋部は、前記電槽内で発生したガスを前記外装体の外部に放出するためのガス流路を構成するガス流路部を含み、
前記蓋部は、前記ガス流路において結露した液体を前記電槽内に送るための環流構造を有し、
前記ガス流路部の表面の少なくとも一部には、親水性基を有する化合物、および、ポリマー化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物が配置されており、
前記ポリマー化合物は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される
1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池。
【請求項2】
電解液と極板群と外装体とを含み、
前記外装体は、前記電解液および前記極板群が収容される電槽と、前記電槽の開口部に配置された蓋部とを含み、
前記蓋部は、前記電槽内で発生したガスを前記外装体の外部に放出するためのガス流路を構成するガス流路部を含み、
前記蓋部は、前記ガス流路において結露した液体を前記電槽内に送るための環流構造を有し、
前記ガス流路部の表面の少なくとも一部には、親水性基を有する化合物、および、ポリマー化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物が配置されており、
前記ポリマー化合物は、オキシC
2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む、鉛蓄電池。
【請求項3】
前記ポリマー化合物は、前記オキシC
2-4アルキレンユニットの前記繰り返し構造を含むヒドロキシ化合物、前記ヒドロキシ化合物のエーテル化物、および前記ヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記少なくとも1つの化合物は、前記親水性基を有する前記化合物を含み、
前記親水性基を有する前記化合物は、リグニン類、ビスフェノールユニットを含む縮合物、ナフタレン誘導体、および、フェノールスルホン酸ユニットを含む縮合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記極板群中の負極板の負極電極材料は、前記ポリマー化合物を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で30ppm~500ppmの範囲にある、請求項5に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記蓋部は、第1の蓋と第2の蓋とを含み、
前記第2の蓋の少なくとも一部は、前記第1の蓋の外側に配置されており、
前記第1の蓋の一部は前記ガス流路部の少なくとも一部を構成し、
前記環流構造は、前記結露した液体が前記電槽内に送られるように前記第1の蓋に形成された貫通孔を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、通常、電槽と、電槽に収納される負極板、正極板、セパレータ(またはマット)、および電解液とを含む。電槽は、蓋部によって蓋がされている。電槽と蓋部とは、外装体を構成する。
【0003】
鉛蓄電池を充放電したときに、電解液中の水分が電気分解されて水素ガスと酸素ガスとが発生する場合がある。それらのガスが外装体の外部に放出されると、電解液が減少する。また、それらのガスが外装体の外部に放出される際に、それらのガスに含まれる水蒸気や電解液のミストが外装体の外部に放出される場合がある。それによって、電解液がさらに減少する。電解液の減少を抑制する方策の1つは、外装体内の水蒸気や電解液のミストが外装体の外部に放出されることを抑制することである。
【0004】
特許文献1(特開2013-004436号公報)は、「内部に電解液を有する電槽と、この電槽の上面開口部を閉じる蓋体とを備え、前記蓋体により閉じられた電槽内部とこの電槽外部とが、気体を通過させ、液体を通過不能とする、機能膜により隔離されていることを特徴とする鉛蓄電池。」を開示している。
【0005】
特許文献2(国際公開第2019/097575号)は、「(請求項1)セル室を有し、上面が開口している電槽と、前記セル室に収容された電極群及び電解液と、前記開口を閉じる蓋と、を備え、前記電極群は、複数の負極及び複数の正極を有し、前記複数の負極同士は、Pb及びSnを含有する合金で形成されたストラップで接続されている、鉛蓄電池。」および「前記蓋は、第1の蓋部と、前記第1の蓋部上に設けられた第2の蓋部と、前記第1の蓋部と前記第2の蓋部との間に形成された排気室と、を有し、前記排気室と前記セル室との間を隔てる前記第1の蓋部の底壁には、前記電解液をセル室内に還流させる還流孔が設けられている、請求項1に記載の鉛蓄電池。」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-004436号公報
【文献】国際公開第2019/097575号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉛蓄電池では、電解液の減液量をさらに減らすことが求められている。このような状況において、本発明は、電解液の減液量を低減できる新たな鉛蓄電池を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、鉛蓄電池に関する。当該鉛蓄電池は、電解液と極板群と外装体とを含み、前記外装体は、前記電解液および前記極板群が収容される電槽と、前記電槽の開口部に配置された蓋部とを含み、前記蓋部は、前記電槽内で発生したガスを前記外装体の外部に放出するためのガス流路を構成するガス流路部を含み、前記蓋部は、前記ガス流路において結露した液体を前記電槽内に送るための環流構造を有し、前記ガス流路部の表面の少なくとも一部には、親水性基を有する化合物、および、ポリマー化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物が配置されており、前記ポリマー化合物は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。
【0009】
本発明の他の一側面は、他の鉛蓄電池に関する。当該他の鉛蓄電池は、電解液と極板群と外装体とを含み、前記外装体は、前記電解液および前記極板群が収容される電槽と、前記電槽の開口部に配置された蓋部とを含み、前記蓋部は、前記電槽内で発生したガスを前記外装体の外部に放出するためのガス流路を構成するガス流路部を含み、前記蓋部は、前記ガス流路において結露した液体を前記電槽内に送るための環流構造を有し、前記ガス流路部の表面の少なくとも一部には、親水性基を有する化合物、および、ポリマー化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物が配置されており、前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電解液の減液量が少ない鉛蓄電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【
図2A】第1の蓋の一例を模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。なお、この明細書において、「数値A~数値B」という場合、当該範囲は、数値Aおよび数値Bを含む。
【0013】
(鉛蓄電池)
本実施形態に係る鉛蓄電池は、電解液と極板群と外装体とを含む。外装体は、電解液および極板群が収容される電槽と、電槽の開口部に配置された蓋部とを含む。蓋部は、電槽内で発生したガスを外装体の外部に放出するためのガス流路を構成するガス流路部を含む。さらに、蓋部は、ガス流路において結露した液体を電槽内に送るための環流構造を有する。ガス流路部の表面の少なくとも一部には、親水性基を有する化合物、および、ポリマー化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物が配置されている。当該親水性基を有する化合物、当該ポリマー化合物、および当該少なくとも1つの化合物をそれぞれ、以下では、「化合物(HC)」、「ポリマー化合物(P)」、および「化合物(C)」と称する場合がある。
【0014】
ポリマー化合物(P)の第1の例は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有するポリマー化合物である。この明細書において、1H-NMRスペクトルは、特に記載がない限り、重クロロホルムを溶媒として用いて測定されるスペクトルである。ポリマー化合物(P)の第2の例は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物である。ポリマー化合物(P)の第1の例に含まれるポリマー化合物と、ポリマー化合物(P)の第2の例に含まれるポリマー化合物とは、少なくとも一部で重複している。ポリマー化合物(P)には、市販のものを用いてもよい。あるいは、公知の方法でポリマー化合物(P)を合成してもよい。
【0015】
上述したように、鉛蓄電池では、電解液の減少を抑制することが非常に重要である。検討した結果、本願発明者らは、蓋部のガス流路部の表面に特定の化合物を配置することによって電解液の減少を抑制できることを見出した。本発明は、この新たな知見に基づくものである。
【0016】
本実施形態に係る鉛蓄電池では、蓋部のガス流路部に化合物(C)が配置されている。実施例で説明するように、本実施形態に係る鉛蓄電池では、電解液の減少が抑制される。それは、ガス流路部に配置された化合物(C)によって、水蒸気や電解液のミストの結露が促されるためであると考えられる。これは、水蒸気や電解液のミストが最も多く壁面と衝突する蓋部のガス流路部において、親水性基を有する化合物の表面で水分子が吸着しやすくなるためであると考えられる。ガス流路部で結露した液体は、環流構造によって電槽内に送られる。その結果、電解液の減少が抑制される。
【0017】
ガス流路部に配置される化合物(C)の量は、合計で、0.05mg~2000mgの範囲(例えば1mg~1000mgの範囲)にあってもよい。この範囲とすることによって、本発明の効果を高めることができる。
【0018】
極板群中の負極板の負極電極材料は、ポリマー化合物(P)を含んでもよい。負極電極材料がポリマー化合物(P)を含むことによって、過充電電気量を低減することが可能である。さらに、過充電電気量を低減することによって、電解液の減少を抑制することが可能である。
【0019】
ポリマー化合物(P)によって過充電電気量を低減できるのは、次のような理由によるものと考えられる。ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造などを含むため、線状構造を取り易い。そのため、負極電極材料に添加されたポリマー化合物(P)は、負極電極材料中の鉛の表面を薄く広く覆う。ポリマー化合物(P)で鉛の表面が覆われることによって、水素過電圧が上昇し、その結果、過充電時に水素が発生する副反応が起こり難くなる。その結果、ポリマー化合物(P)によって過充電電気量を低減できる。
【0020】
負極電極材料がポリマー化合物(P)を含む場合、負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で30ppm~500ppmの範囲(例えば、50ppm~200ppmの範囲)にあってもよい。当該含有量は、30ppm未満であってもよいし、500ppmより多くてもよい。当該含有量は、質量基準で、10ppm~1000ppmの範囲(例えば、30ppm~200ppmの範囲や、50ppm~400ppmの範囲)にあってもよい。
【0021】
負極電極材料にポリマー化合物(P)を添加する場合、ガス流路部に配置される化合物(C)と負極電極材料に添加されるポリマー化合物(P)とは異なってもよいが、通常は、同じであることが好ましい。ガス流路部に配置される化合物(C)は、徐々に電解液に流れ込む場合がある。ガス流路部に配置される化合物(C)と負極電極材料に添加されるポリマー化合物(P)とを同じとすることによって、化合物(C)が電解液に流れ込んでも、負極電極材料に添加したポリマー化合物(P)による効果を得ることが可能である。この観点からは、ガス流路部に配置される化合物(C)と負極電極材料に添加されるポリマー化合物(P)とは、同じであることが好ましい。
【0022】
蓋部の材料に特に限定はなく、公知の材料で形成してもよい。蓋部は、主に合成樹脂で形成してもよい。ガス流路部の表面の少なくとも一部は合成樹脂で構成される。ガス流路部の表面の50%以上(面積比)が合成樹脂で構成されてもよい。ガス流路部の表面のうち合成樹脂で構成される面積の割合は、50~100%の範囲(80~100%の範囲)にあってもよい。蓋部の材料として用いられる合成樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンコポリマー、スチレンアクリロニトリルコポリマー、ポリアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂などが含まれる。
【0023】
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。この構成によれば、ガス流路部の表面(例えば合成樹脂で形成された表面)に対するポリマー化合物(P)の吸着力が強くなる。その結果、ガス流路部の表面に、ポリマー化合物(P)を長期にわたって配置することができ、本発明の効果が長期にわたって得られる。ガス流路部の表面に対する化合物(C)の吸着力が弱い場合、ガス流路部で結露した液体とともに、化合物(C)が電槽に流れやすくなる。
【0024】
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むヒドロキシ化合物、当該ヒドロキシ化合物のエーテル化物、および当該ヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。これらの化合物の例については後述する。これらのポリマー化合物(P)は、電解液の減少を抑制する点で特に好ましい。これらのポリマー化合物(P)を負極電極材料に添加することによって、過充電電気量を特に低減できる。
【0025】
ポリマー化合物(P)は、アルキレン基の炭素数が2~4の範囲にあるポリアルキレングリコールのエステル化物であってもよい。ポリマー化合物(P)は、例えば、ポリエチレングリコールのエステル化物およびポリプロピレングリコールのエステル化物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0026】
化合物(C)は、親水性基を有する化合物(HC)を含んでもよい。親水性基を有する化合物(HC)は、リグニン類、ビスフェノールユニットを含む縮合物、ナフタレン誘導体、および、フェノールスルホン酸ユニットを含む縮合物からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。これらは、親水性基によって、結露を促す。親水性基の例には、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、スルホ基、アルデヒド基、ニトロ基、リン酸基などが含まれる。化合物(HC)は、これらの親水性基からなる群より選ばれる少なくとも1つの親水性基を含んでもよい。リグニン類、ビスフェノールユニットを含む縮合物、ナフタレン誘導体、および、フェノールスルホン酸ユニットを含む縮合物の例には、負極電極材料に含まれる化合物(後述)が含まれる。
【0027】
化合物(HC)の例には、後述する有機防縮剤の例の一部が含まれる。例えば、リグニン類の例には、有機防縮剤として用いられるリグニンおよびリグニン化合物が含まれる。ビスフェノールユニットを含む縮合物の例には、後述する芳香族化合物のユニットを含む縮合物のうち、芳香族化合物としてビスフェノール化合物を用いた縮合物が含まれる。ナフタレン誘導体の例には、ナフタレン環を有する有機防縮剤が含まれる。フェノールスルホン酸ユニットを含む縮合物の例には、後述する単環式の芳香族化合物(ヒドロキシアレーン化合物)のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む縮合物のうち、ヒドロキシアレーン化合物としてフェノールスルホン酸を用いた縮合物が含まれる。
【0028】
蓋部は、第1の蓋と第2の蓋とを含んでもよい。その場合の一例では、第2の蓋の少なくとも一部は、第1の蓋の外側に配置されており、第1の蓋の一部はガス流路部の少なくとも一部を構成し、環流構造は、結露した液体が電槽内に送られるように第1の蓋に形成された貫通孔を含む。このような構造を有する蓋部は公知であるため、公知の蓋部を用いてもよい。通常、第2の蓋がガス流路部の一部を構成し、第1の蓋がガス流路部の他の一部を構成する。その場合、化合物(C)は、第2の蓋のガス流路部の表面、および/または、第1の蓋のガス流路部の表面に配置される。
【0029】
第2の蓋の全体が第1の蓋の外側に配置されていてもよい。ここで、外側とは、鉛蓄電池の中央とは反対側を意味する。第2の蓋は、上蓋と称される場合があり、第1の蓋は、中蓋と称される場合がある。
【0030】
蓋部のガス流路部の表面に化合物(C)を配置する方法に限定はない。例えば、化合物(C)または化合物(C)を含む液体を、ガス流路部の表面に塗布してもよい。化合物(C)を含む液体の液体成分(溶媒または分散媒)に特に限定はなく、蒸発するものか、残存しても電池特性に与える影響が小さいものが好ましく選択される。そのような液体の例には、水、エタノール等のアルコール類、クロロホルム、アセトン、トルエン、ヘキサンなどの一般的な有機溶媒が含まれる。
【0031】
電池の製造の際には、ガス流路部の表面に化合物(C)が配置された蓋部を用いて電槽の開口部に蓋をしてもよい。あるいは、蓋部が第1および第2の蓋を含む場合、第1の蓋(内蓋)で電槽に蓋をしてから、ガス流路部の表面に化合物(C)を配置してもよい。その後、第2の蓋を所定の位置に配置すればよい。
【0032】
鉛蓄電池は、例えば、液式(ベント式)鉛蓄電池である。
【0033】
本明細書中、負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板について求められる。
【0034】
(用語の説明)
(電極材料)
負極電極材料および正極電極材料の各電極材料は、通常、集電体に保持されている。電極材料とは、極板から集電体を除いた部分である。極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は極板と一体として使用されるため、極板に含まれるものとする。極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、電極材料は、極板から集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0035】
(ポリマー化合物(P))
ポリマー化合物(P)は、下記(i)および(ii)の少なくとも一方の条件を充足する。
条件(i)
ポリマー化合物(P)は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。
条件(ii)
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む。
【0036】
条件(i)において、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来するものである。つまり、条件(ii)を充足するポリマー化合物(P)は、条件(i)を充足するポリマー化合物(P)でもある。条件(i)を充足するポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニット以外のモノマーユニットの繰り返し構造を含んでもよく、ある程度の分子量を有すればよい。上記(i)または(ii)を充足するポリマー化合物(P)の数平均分子量(Mn)は、例えば、300以上であってもよい。
【0037】
(オキシC2-4アルキレンユニット)
オキシC2-4アルキレンユニットは、-O-R1-で表されるユニットである。ここで、R1はC2-4アルキレン基(炭素数が2~4の範囲にあるアルキレン基)を示す。R1は、炭素数が異なるアルキレン基を含んでもよい。
【0038】
(有機防縮剤)
有機防縮剤とは、鉛蓄電池の充放電を繰り返したときに負極活物質である鉛の収縮を抑制する機能を有する化合物のうち、有機化合物を言う。
【0039】
(数平均分子量)
数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるものである。Mnを求める際に使用する標準物質は、ポリエチレングリコールとする。
【0040】
(重量平均分子量)
重量平均分子量(Mw)は、GPCにより求められるものである。Mwを求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
【0041】
(有機防縮剤中の硫黄元素含有量)
有機防縮剤中の硫黄元素の含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0042】
(満充電状態)
液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、定格容量として記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで、鉛蓄電池を充電した状態を満充電状態とする。
【0043】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0044】
(鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素の上下方向)
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素(極板、電槽、セパレータなど)の上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。正極板および負極板の各極板は、外部端子と接続するための耳部を備えている。横置き型の制御弁式鉛蓄電池など、耳部が、極板の側部に側方に突出するように設けられることもあるが、多くの鉛蓄電池では、耳部は、通常、極板の上部に上方に突出するように設けられている。
【0045】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0046】
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、負極集電体と、負極集電体に支持された負極電極材料とを含む。
【0047】
(負極集電体)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0048】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
【0049】
(負極電極材料)
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(具体的には、鉛もしくは硫酸鉛)を含む。負極電極材料は、ポリマー化合物(P)を含んでもよい。負極電極材料は、炭素質材料および他の添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。添加剤としては、有機防縮剤、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0050】
(ポリマー化合物(P))
ポリマー化合物(P)について以下に説明する。以下に説明するポリマー化合物(P)は、ガス流路部の表面の少なくとも一部に配置されてもよいし、負極電極材料に含有されてもよい。ポリマー化合物(P)の第1の例は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。このようなポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットを有する。ポリマー化合物(P)に含まれるオキシC2-4アルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット、オキシトリメチレンユニット、オキシ2-メチル-1,3-プロピレンユニット、オキシ1,4-ブチレンユニット、オキシ1,3-ブチレンユニットなどが挙げられる。ポリマー化合物(P)は、このようなオキシC2-4アルキレンユニットを一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0051】
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。繰り返し構造は、一種のオキシC2-4アルキレンユニットを含んでもよく、二種以上のオキシC2-4アルキレンユニットを含んでもよい。ポリマー化合物(P)には、一種の上記繰り返し構造が含まれていてもよく、二種以上の上記繰り返し構造が含まれていてもよい。
【0052】
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物(P)には、界面活性剤(より具体的には、ノニオン界面活性剤)に分類されるものも包含される。
【0053】
ポリマー化合物(P)としては、例えば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物(ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、ポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物など)、これらのヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物などが挙げられる。ポリC2-4アルキレングリコールの例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが含まれる。
【0054】
共重合体としては、異なるオキシC2-4アルキレンユニットを含む共重合体などが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0055】
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)において、全構成単位に占めるオキシC2-4アルキレンユニットの割合は、50mol%~100mol%の範囲にあってもよく、60mol%~100mol%の範囲(例えば75mol%~100mol%の範囲)にあってもよく、60mol%~95mol%の範囲(例えば75mol%~95mol%の範囲)にあってもよい。ここで、オキシC2-4アルキレンユニットは、オキシエチレンユニットおよび/またはオキシプロピレンユニットであってもよい。
【0056】
ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、および複素環式ポリオールなどのいずれであってもよい。ポリマー化合物(P)が鉛表面に薄く広がり易い観点からは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール(例えば、ポリヒドロキシシクロヘキサン、ポリヒドロキシノルボルナンなど)などが好ましく、中でも脂肪族ポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖または糖アルコールなど)などが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、炭素数が5以上のアルキレングリコールなどが挙げられる。アルキレングリコールは、例えば、C5~14アルキレングリコールまたはC5-10アルキレングリコールであってもよい。糖または糖アルコールとしては、例えば、ショ糖、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。糖または糖アルコールは、鎖状構造および環状構造のいずれであってもよい。ポリオールのポリアルキレンオキサイド付加物においては、アルキレンオキサイドは、ポリマー化合物(P)のオキシC2-4アルキレンユニットに相当し、少なくともC2-4アルキレンオキサイドを含む。ポリマー化合物(P)が線状構造を取りやすい観点からは、ポリオールはジオールであることが好ましい。
【0057】
エーテル化物は、上記のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエーテル化された-OR2基を有する(式中、R2は有機基である。)。ポリマー化合物(P)の末端のうち、一部の末端がエーテル化されていてもよく、全ての末端がエーテル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物(P)の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-OR2基であってもよい。
【0058】
エステル化物は、上記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエステル化された-O-C(=O)-R3基を有する(式中、R3は有機基である。)。ポリマー化合物(P)の末端のうち、一部の末端がエステル化されていてもよく、全ての末端がエステル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物(P)の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-O-C(=O)-R3基であってもよい。
【0059】
有機基R2およびR3のそれぞれとしては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、および/またはカルボキシ基など)を有するものであってもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)を有するものであってもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~30であってもよく、1~20であってもよく、1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。
【0060】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が24以下(例えば、6~24)の芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基の炭素数は、20以下(例えば、6~20)であってもよく、14以下(例えば、6~14)または12以下(例えば、6~12)であってもよい。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ビスアリール基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。ビスアリール基としては、例えば、ビスアレーンに対応する一価基が挙げられる。ビスアレーンとしては、ビフェニル、ビスアリールアルカン(例えば、ビスC6-10アリールC1-4アルカン(2,2-ビスフェニルプロパンなど)など)が挙げられる。
【0061】
脂環族炭化水素基としては、例えば、炭素数が16以下の脂環族炭化水素基が挙げられる。脂環族炭化水素基は、架橋環式炭化水素基であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、10以下または8以下であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上であり、6以上であってもよい。
【0062】
脂環族炭化水素基の炭素数は、5(または6)以上16以下、5(または6)以上10以下、あるいは5(または6)以上8以下であってもよい。
【0063】
脂環族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基など)、シクロアルケニル基(シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基など)などが挙げられる。脂環族炭化水素基には、上記の芳香族炭化水素基の水素添加物も包含される。
【0064】
炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭素炭素二重結合を2つ有するジエニル基、炭素炭素二重結合を3つ有するトリエニル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0065】
脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上、トリエニル基では4以上である。中でもアルキル基やアルケニル基が好ましい。
【0066】
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、i-デシル、ウンデシル、ラウリル(ドデシル)、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、イコシル、ヘンイコシル、ベヘニルなどが挙げられる。
【0067】
アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリル、シス-9-ヘプタデセン-1-イル、パルミトレイル、オレイルなどが挙げられる。アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
【0068】
ポリマー化合物(P)のうち、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を用いてもよい。これらを負極電極材料に添加することによって、充電受入性の低下を特に抑制でき、過充電電気量を特に低減することができる。オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造および/またはオキシエチレンユニットの繰り返し構造であってもよい。
【0069】
ポリマー化合物(P)は、1つ以上の疎水性基を有するポリマー化合物であってもよい。疎水性基としては、上記の炭化水素基のうち、例えば、芳香族炭化水素基、脂環族炭化水素基、長鎖脂肪族炭化水素基が挙げられる。長鎖脂肪族炭化水素基としては、上記の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基など)のうち、炭素数が8以上のものが挙げられ、12以上が好ましく、16以上がより好ましい。ポリマー化合物(P)は、疎水性基の少なくとも1つが、長鎖脂肪族炭化水素基であるものであってもよい。長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、30以下、26以下、または22以下であってもよい。
【0070】
長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、8以上(または12以上)30以下、8以上(または12以上)26以下、8以上(または12以上)22以下、10以上30以下(または26以下)、あるいは10以上22以下であってもよい。
【0071】
疎水性基を有し、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)としては、ポリエチレングリコールのエーテル化物(アルキルエーテルなど)、ポリエチレングリコールのエステル化物(カルボン酸エステルなど)、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエーテル化物(アルキルエーテルなど)、上記ポリオール(トリオール以上のポリオールなど)のポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物(カルボン酸エステルなど)などが挙げられる。このようなポリマー化合物(P)の具体例としては、オレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどが挙げられるが、ポリマー化合物(P)はこれらに限定されない。中でも、ポリエチレングリコールのエステル化物、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物などが好ましく用いられる。
【0072】
オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造が少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む場合も好ましい。オキシプロピレンユニットを含むポリマー化合物(P)は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm~3.8ppmの範囲に、オキシプロピレンユニットの-CH<および-CH2-に由来するピークを有する。これらの基における水素原子の原子核の周囲の電子密度が異なるため、ピークがスプリットした状態となる。このようなポリマー化合物(P)は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、例えば、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲と、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲とのそれぞれにピークを有する。3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲のピークは、-CH2-に由来し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲のピークは、-CH<および-CH2-に由来する。
【0073】
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)としては、ポリプロピレングリコール、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む共重合体、上記ポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物、またはこれらのエーテル化物もしくはエステル化物などが挙げられる。共重合体としては、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体(ただし、オキシアルキレンは、オキシプロピレン以外のC2-4アルキレン)などが挙げられる。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体としては、オキシプロピレン-オキシエチレン共重合体、オキシプロピレン-オキシトリメチレン共重合体などが例示される。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ポリオキシプロピレン-ポリオキシアルキレン共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体)と称することがある。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ブロック共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体)であってもよい。エーテル化物としては、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のアルキルエーテル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のアルキルエーテルなど)などが挙げられる。エステル化物としては、カルボン酸のポリプロピレングリコールエステル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のカルボン酸エステル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のカルボン酸エステルなど)などが挙げられる。
【0074】
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体など)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル(上記R2が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(ブチルエーテルなど)など)、カルボン酸ポリプロピレングリコール(上記R3が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるカルボン酸ポリプロピレングリコール(酢酸ポリプロピレングリコールなど)など)、トリオール以上のポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物(グリセリンのポリプロピレンオキサイド付加物など)が挙げられるが、ポリマー化合物(P)はこれらに限定されない。
【0075】
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)において、オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、5mol%以上であり、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、100mol%以下である。上記共重合体においては、オキシプロピレンユニットの割合は、90mol%以下であってもよく、75mol%以下または60mol%以下であってもよい。
【0076】
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)において、オキシプロピレンユニットの割合は、5mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、10mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、20mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、5mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、10mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、あるいは20mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)であってもよい。
【0077】
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットを多く含むことが好ましい。このようなポリマー化合物(P)は、例えば、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH2-基および/または-CH<基とを含んでいる。ポリマー化合物(P)の1H-NMRスペクトルでは、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値V1が、所定のピークの積分値の合計VSUMに占める割合が大きい。ここで、ピークの積分値の合計VSUMは、積分値V1と、-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計である。この割合は、例えば、50%以上であり、80%以上であってもよい。上記の割合は、85%以上が好ましく、90%以上であることがより好ましい。例えば、ポリマー化合物(P)が末端に-OH基を有するとともに、この-OH基の酸素原子に結合した-CH2-基や-CH<基を有する場合、1H-NMRスペクトルにおいて、-CH2-基や-CH<基の水素原子のピークは、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲にある。
【0078】
負極電極材料は、ポリマー化合物(P)を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0079】
ポリマー化合物(P)は、例えば、Mnが500万以下の化合物を含んでもよく、300万以下または200万以下の化合物を含んでもよく、50万以下または10万以下の化合物を含んでもよく、50000以下または20000以下の化合物を含んでもよい。ポリマー化合物(P)は、Mnが10000以下の化合物を含むことが好ましく、5000以下または4000以下の化合物を含んでもよく、3000以下または2500以下の化合物を含んでもよい。このような化合物のMnは、300以上または400以上であってもよく、500以上であってもよい。過充電電気量を低減する効果がさらに高まる観点からは、このような化合物のMnは、1000以上が好ましく、1500以上または1800以上がより好ましい。ポリマー化合物(P)としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物(P)は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有するポリマー化合物であってもよい。
【0080】
ポリマー化合物(P)のMnは、300以上(または400以上)500万以下、300以上(または400以上)300万以下、300以上(または400以上)200万以下、300以上(または400以上)50万以下、300以上(または400以上)10万以下、300以上(または400以上)50000以下、300以上(または400以上)20000以下、300以上(または400以上)10000以下、300以上(または400以上)5000以下、300以上(または400以上)4000以下、300以上(または400以上)3000以下、300以上(または400以上)2500以下、500以上(または1000以上)500万以下、500以上(または1000以上)300万以下、500以上(または1000以上)200万以下、500以上(または1000以上)50万以下、500以上(または1000以上)10万以下、500以上(または1000以上)50000以下、500以上(または1000以上)20000以下、500以上(または1000以上)10000以下、500以上(または1000以上)5000以下、500以上(または1000以上)4000以下、500以上(または1000以上)3000以下、500以上(または1000以上)2500以下、1500以上(または1800以上)500万以下、1500以上(または1800以上)300万以下、1500以上(または1800以上)200万以下、1500以上(または1800以上)50万以下、1500以上(または1800以上)10万以下、1500以上(または1800以上)50000以下、1500以上(または1800以上)20000以下、1500以上(または1800以上)10000以下、1500以上(または1800以上)5000以下、1500以上(または1800以上)4000以下、1500以上(または1800以上)3000以下、あるいは1500以上(または1800以上)2500以下であってもよい。
【0081】
負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、例えば、8ppm以上であり、10ppm以上であってもよい。過充電電気量の低減効果をさらに高める観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、20ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましい。負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、例えば、1000ppm以下であり、1000ppm未満であってもよく、700ppm以下であってもよく、600ppm以下または500ppm以下であってもよい。より高い充電受入性を確保し易い観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、400ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましく、200ppm以下または160ppm以下であってもよく、150ppm以下または120ppm以下であってもよく、100ppm以下であってもよい。
【0082】
負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量(質量基準)は、8ppm以上(または10ppm以上)1000ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)1000ppm未満、8ppm以上(または10ppm以上)700ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)600ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)500ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)400ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)300ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)200ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)160ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)150ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)120ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)100ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)1000ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)1000ppm未満、20ppm以上(または30ppm以上)700ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)600ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)500ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)400ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)300ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)200ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)160ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)150ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)120ppm以下、あるいは20ppm以上(または30ppm以上)100ppm以下であってもよい。
【0083】
(有機防縮剤)
有機防縮剤は、通常、リグニン化合物と合成有機防縮剤とに大別される。合成有機防縮剤は、リグニン化合物以外の有機防縮剤であるとも言える。負極電極材料に含まれる有機防縮剤としては、リグニン化合物および合成有機防縮剤などが挙げられる。負極電極材料は、有機防縮剤を、一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0084】
リグニン化合物としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。
【0085】
合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0086】
有機防縮剤として、少なくともリグニン化合物を用いてもよい。
【0087】
有機防縮剤としては、少なくとも芳香族化合物のユニットを含む縮合物を用いる場合も好ましい。このような縮合物としては、例えば、芳香族化合物の、アルデヒド化合物(アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)およびその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種など)による縮合物が挙げられる。有機防縮剤は、一種の芳香族化合物のユニットを含んでもよく、二種以上の芳香族化合物のユニットを含んでいてもよい。
なお、芳香族化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットを言う。
【0088】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基またはアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基またはアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(具体的には、アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。
【0089】
芳香族化合物としては、ビスアレーン化合物[ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)、ヒドロキシアレーン化合物(ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物など)、アミノアレーン化合物(アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)など)など]が好ましい。芳香族化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
【0090】
縮合物は、少なくとも硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含むことが好ましい。中でも、硫黄含有基を有するビスフェノール化合物のユニットを少なくとも含む縮合物を用いると、より高い充電受入性を確保する上で有利である。過充電電気量を低減する効果が高まる観点からは、硫黄含有基を有するとともに、ヒドロキシ基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種を有するナフタレン化合物のアルデヒド化合物による縮合物を用いることも好ましい。
【0091】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基としては、特に制限されないが、例えば、スルホニル基、スルホン酸基またはその塩などが挙げられる。
【0092】
また、有機防縮剤として、例えば、上記のビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物(ヒドロキシアレーン化合物、および/またはアミノアレーン化合物など)のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む縮合物を少なくとも用いてもよい。有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと単環式芳香族化合物(中でも、ヒドロキシアレーン化合物)のユニットとを含む縮合物を少なくとも含んでもよい。このような縮合物としては、ビスアレーン化合物と単環式の芳香族化合物との、アルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。ヒドロキシアレーン化合物としては、フェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)が好ましい。すなわち、有機縮合物は、フェノールスルホン酸ユニットを含む縮合物であってもよい。アミノアレーン化合物としては、アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸などが好ましい。単環式の芳香族化合物としては、ヒドロキシアレーン化合物が好ましい。
【0093】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.005質量%以上であり、0.01質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量がこのような範囲である場合、高い低温ハイレート放電容量を確保することができる。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。充電受入性の低下を抑制する効果がさらに高まる観点からは、有機防縮剤の含有量は、0.3質量%以下が好ましく、0.25質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下または0.15質量%以下がさらに好ましく、0.12質量%以下であってもよい。これらの下限と上限とは、矛盾がない限り、任意に組み合わせることができる。
【0094】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)1.0質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.5質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.3質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.25質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.2質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.15質量%以下、あるいは0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.12質量%以下であってもよい。
【0095】
(炭素質材料)
負極電極材料に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0096】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば、5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。
【0097】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下、0.10質量%以上5質量%以下、または0.10質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0098】
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。
【0099】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0100】
(ガス流路部に配置された化合物の分析)
ガス流路部に配置された化合物は、ガス流路部を含む蓋を水洗し、硫酸分を除去したのち、乾燥させる。乾燥させた上記蓋をクロロホルム溶液、または、水酸化ナトリウム溶液に浸漬させることで、化合物を抽出する。その後、負極電極材料中の化合物の分析方法に準じて、定性分析および定量分析を行う。
【0101】
(負極電極材料または構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。測定または分析に先立ち、満充電状態の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。負極板に貼付部材が含まれている場合、必要に応じて、貼付部材を除去する。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aと称する)を入手する。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
【0102】
(1)ポリマー化合物(P)の分析
(1-1)ポリマー化合物(P)の定性分析
負極電極材料中のポリマー化合物(P)を分析する場合には、粉砕した試料Aを用いる。100.0±0.1gの試料Aに150.0±0.1mLのクロロホルムを加え、20±5℃で16時間撹拌し、ポリマー化合物(P)を抽出する。その後、ろ過によって固形分を除く。抽出により得られるポリマー化合物(P)が溶解したクロロホルム溶液またはクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物(P)について、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、LC-MSおよび熱分解GC-MSから選択される少なくとも1つから情報を得ることで、ポリマー化合物(P)を特定する。
【0103】
抽出により得られるポリマー化合物(P)が溶解したクロロホルム溶液から、クロロホルムを減圧下で留去することによりクロロホルム可溶分を回収する。クロロホルム可溶分を重クロロホルムに溶解させて、下記の条件で1H-NMRスペクトルを測定する。この1H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークを確認する。また、この範囲のピークから、オキシC2-4アルキレンユニットの種類を特定する。
【0104】
装置:日本電子(株)製、AL400型核磁気共鳴装置
観測周波数:395.88MHz
パルス幅:6.30μs
パルス繰り返し時間:74.1411秒
積算回数:32
測定温度:室温(20~35℃)
基準:7.24ppm
試料管直径:5mm
【0105】
1H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に存在するピークの積分値(V1)を求める。また、ポリマー化合物(P)の末端基に結合した酸素原子に対して結合した-CH2-基および-CH<基の水素原子のそれぞれについて、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値の合計(V2)を求める。そして、V1およびV2から、V1がV1およびV2の合計に占める割合(=V1/(V1+V2)×100(%))を求める。
【0106】
なお、定性分析で、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値を求める際には、1H-NMRスペクトルにおいて、該当するピークを挟むように有意なシグナルがない2点を決定し、この2点間を結ぶ直線をベースラインとして各積分値を算出する。例えば、ケミカルシフトが3.2ppm~3.8ppmの範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.2ppmと3.8ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。例えば、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.8ppmと4.0ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。
【0107】
(1-2)ポリマー化合物(P)の定量分析
上記のクロロホルム可溶分の適量を、±0.0001gの精度で測定したmr(g)のテトラクロロエタン(TCE)と共に重クロロホルムに溶解させて、1H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(Sa)とTCEに由来するピークの積分値(Sr)を求め、以下の式から負極電極材料中のポリマー化合物(P)の質量基準の含有率Cn(ppm)を求める。
【0108】
Cn=Sa/Sr×Nr/Na×Ma/Mr×mr/m×1000000
(式中、Maはケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲にピークを示す構造の分子量(より具体的には、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造の分子量)であり、Naは繰り返し構造の主鎖の炭素原子に結合した水素原子の数である。Nr、Mrはそれぞれ基準物質の分子に含まれる水素数、基準物質の分子量であり、m(g)は抽出に使用した負極電極材料の質量である。)
なお、本分析での基準物質はTCEであるため、Nr=2、Mr=168である。また、m=100である。
【0109】
例えば、ポリマー化合物(P)がポリプロピレングリコールの場合、Maは58であり、Naは3である。ポリマー化合物(P)がポリエチレングリコールの場合、Maは44であり、Naは4である。NaおよびMaは、各モノマー単位のNa値およびMa値を繰り返し構造に含まれる各モノマー単位のモル比率(モル%)を用いて平均化した値である。
【0110】
なお、定量分析では、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値は、日本電子(株)製のデータ処理ソフト「ALICE」を用いて求める。
【0111】
(1-3)ポリマー化合物(P)のMn測定
上記のクロロホルム可溶分を用いて、ポリマー化合物(P)のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMnと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線およびポリマー化合物(P)のGPC測定結果に基づき、ポリマー化合物(P)のMnを算出する。ただし、エステル化物またはエーテル化物などは、クロロホルム可溶分中で分解した状態であり得る。
【0112】
分析システム:20A system((株)島津製作所製)
カラム:GPC KF-805L(Shodex社製)2本を直列接続
カラム温度:30℃±1℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min.
濃度:0.20質量%
注入量:10μL
標準物質:ポリエチレングリコール(Mn=2,000,000、200,000、20,000、2,000、200)
検出器:示差屈折率検出器(Shodex社製、Shodex RI-201H)
【0113】
(2)有機防縮剤の分析
(2-1)負極電極材料中の有機防縮剤の定性分析
負極電極材料中の有機防縮剤を分析する場合には、粉砕した試料Aを用いる。粉砕した試料Aを1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。次に、抽出物から、必要に応じて、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを分離する。各有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて、不溶成分を濾過で取り除き、得られた溶液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、溶液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、溶液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料(以下、試料Bと称する)が得られる。
【0114】
このようにして得た有機防縮剤の試料Bを用いて測定した赤外分光スペクトル、試料Bを蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、試料Bを重水等の所定の溶媒で溶解することにより得られる溶液のNMRスペクトル、または物質を構成している個々の化合物の情報をえることができる熱分解GC-MSなどから得た情報を組み合わせて、有機防縮剤の種類を特定する。
【0115】
(2-2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(2-1)と同様に、有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた各溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。各有機防縮剤に特徴的なピークの強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の各有機防縮剤の含有量を求める。
【0116】
なお、有機防縮剤の含有量が未知の鉛蓄電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できないことがある。この場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機高分子を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定するものとする。
【0117】
(3)炭素質材料と硫酸バリウムの定量
粉砕した試料A10gに対し、20質量%濃度の硝酸50mlを加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0118】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料(以下、試料Cと称する)とメンブレンフィルタとの合計質量からメンブレンフィルタの質量を差し引いて、試料Cの質量(Mm)を測定する。その後、試料Cをメンブレンフィルタとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(MB)を求める。質量Mmから質量MBを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0119】
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、例えば、鉛粉と、ポリマー化合物(P)と、必要に応じて、有機防縮剤、炭素質材料、他の添加剤からなる群より選択される少なくとも一種とに、水および硫酸(または硫酸水溶液)を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0120】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0121】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。クラッド式の正極板の構成は前述の通りである。
【0122】
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0123】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみや、耳部分のみ、枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0124】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0125】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0126】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0127】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、不織布、および微多孔膜から選択される少なくとも一種などが用いられる。
【0128】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0129】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。造孔剤としては、ポリマー粉末およびオイルからなる群より選択される少なくとも一種などが挙げられる。
【0130】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0131】
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0132】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液には、上記のポリマー化合物(P)が含まれていてもよい。
【0133】
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))を含んでいてもよい。金属カチオンとしては、例えば、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0134】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。
【0135】
電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0136】
(その他)
鉛蓄電池は、電槽のセル室に極板群と電解液とを収容する工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の各セルは、各セル室に収容された極板群および電解液を備える。極板群は、セル室への収容に先立って、正極板、負極板、およびセパレータを、正極板と負極板との間にセパレータが介在するように積層することにより組み立てられる。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、極板群の組み立てに先立って、準備される。鉛蓄電池の製造方法は、極板群および電解液をセル室に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含んでもよい。極板群における各極板は、1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。
【0137】
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例を、図面を参照しながら以下に説明する。以下で説明する実施形態には、上述した説明を適用できる。また、以下で説明する実施形態を、上述した説明に基づいて変更してもよい。また、以下で説明する事項を、上述した実施形態に適用してもよい。また、以下で説明する事項のうち、本発明に必須ではない事項は省略してもよい。以下の図面では、理解を容易にするために一部の符号の図示を省略する場合がある。
【0138】
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。鉛蓄電池1は、電解液(図示せず)、極板群11、および外装体10を含む。外装体10は、電解液および極板群11が収容される電槽12と、電槽12の開口部に配置された蓋部20とを含む。
【0139】
電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋部20で閉じられる。
【0140】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋部20の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋部20の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0141】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式やバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
【0142】
蓋部20は、第1の蓋21と第2の蓋22とを含む。このような構造を有する蓋部を、「二重蓋」と称する場合がある。第2の蓋22は、第1の蓋21の外側に配置されている。蓋部20は、排気口20aを有する。排気口20aには、ゴミが外装体10の内部に入ったりすることを抑制するためのフィルタが配置されていてもよい。第1の蓋21には、各セル室14に対応するように開口18が形成されている。第1の蓋21の一例の上面図を
図2Aに示す。
図2Aの線IIB-IIBにおける断面図を
図2Bに示し、
図2Aの線IIC-IICにおける断面図を
図2Cに示す。
図2Bおよび
図2Cには、第1の蓋21に装着されている状態の第2の蓋22も示す。なお、蓋部20は、蓋部20を電槽12に固定するための部分、および、第2の蓋22を第1の蓋21に固定するための部分を含むが、それらの図示は省略する。
【0143】
図2Aに示すように、蓋部20には、ガスが流れるガス流路GPが形成されている。第1の蓋21は、複数のガス流路部21a、複数の貫通孔(環流孔)21b、および複数の通気孔(貫通孔)21cを含む。複数のガス流路部21a、複数の貫通孔21b、および複数の通気孔21cはそれぞれ、各セル室14に対応するように形成されている。
【0144】
ガス流路部21aは、ガス流路GPに面する底面部21abと、壁部21awとを含む。壁部21awは、ガス流路部21aの流路長が長くなるように形成されている。
図2A~
図2Cに示す一例では、壁部21awが第1の蓋21のみに形成されている一例を示しているが、壁部21awは第2の蓋22のみに形成されてもよいし、第1の蓋21と第2の蓋22の両方に形成されてもよい。第2の蓋22の表面のうち、ガス流路GPに面する部分は、ガス流路部22aとして機能する(
図2B参照)。上述したように、ガス流路部21aおよび22aの表面の少なくとも一部には、化合物(C)が配置されている。
【0145】
図2Bに示すように、ガス流路GPに面する底面部21abは、ガス流路部で結露した液体が貫通孔21bに向かって流れるように傾斜している。傾斜している底面部21abは、環流構造の一部とみなすことも可能である。
【0146】
図2Cに示すように、各セル室14の極板群11で発生したガスは、通気孔21cを通り、ガス流路GPを通過する。
図2Cに示すように、貫通孔21bと通気孔21cとの間の壁部は、ガスが通過可能なように形成されている。各セル室14に対応する各ガス流路部21aはすべて、排気口20aにつながっている。そのため、極板群11で発生したガスの少なくとも一部は、排気口20aから外装体10の外部に放出される。以上のように、蓋部20は、電槽12内で発生したガス(例えば水素ガスおよび酸素ガス)を外装体10の外部に放出するためのガス流路GPを構成するガス流路部を含む。
【0147】
ガスがガス流路部を通過する際に、ガスに含まれる水蒸気や電解液のミストが、ガス流路部で結露する。本発明の鉛蓄電池によれば、電解液の減少が抑制される。これは、ガス流路部の表面の少なくとも一部に化合物(C)を配置することによって、ガス流路部における結露が促進されるためであると考えられる。
【0148】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
【0149】
(1)鉛蓄電池であって、
電解液と極板群と外装体とを含み、
前記外装体は、前記電解液および前記極板群が収容される電槽と、前記電槽の開口部に配置された蓋部とを含み、
前記蓋部は、前記電槽内で発生したガスを前記外装体の外部に放出するためのガス流路を構成するガス流路部を含み、
前記蓋部は、前記ガス流路において結露した液体を前記電槽内に送るための環流構造を有し、
前記ガス流路部の表面の少なくとも一部には、親水性基を有する化合物、および、ポリマー化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物が配置されており、
前記ポリマー化合物は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池。
【0150】
(2)鉛蓄電池であって、
電解液と極板群と外装体とを含み、
前記外装体は、前記電解液および前記極板群が収容される電槽と、前記電槽の開口部に配置された蓋部とを含み、
前記蓋部は、前記電槽内で発生したガスを前記外装体の外部に放出するためのガス流路を構成するガス流路部を含み、
前記蓋部は、前記ガス流路において結露した液体を前記電槽内に送るための環流構造を有し、
前記ガス流路部の表面の少なくとも一部には、親水性基を有する化合物、および、ポリマー化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物が配置されており、
前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む、鉛蓄電池。
【0151】
(3)上記(2)の鉛蓄電池において、前記ポリマー化合物は、前記オキシC2-4アルキレンユニットの前記繰り返し構造を含むヒドロキシ化合物、前記ヒドロキシ化合物のエーテル化物、および前記ヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0152】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の鉛蓄電池において、前記少なくとも1つの化合物は、前記親水性基を有する前記化合物を含んでもよい。前記親水性基を有する前記化合物は、リグニン類、ビスフェノールユニットを含む縮合物、ナフタレン誘導体、および、フェノールスルホン酸ユニットを含む縮合物からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0153】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記極板群中の負極板の負極電極材料は、前記ポリマー化合物を含んでもよい。
【0154】
(6)上記(5)において、前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で30ppm~500ppmの範囲にあってもよい。
【0155】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1項において、前記蓋部は、第1の蓋と第2の蓋とを含んでもよい。前記第2の蓋の少なくとも一部は、前記第1の蓋の外側に配置されていてもよい。前記第1の蓋の一部は前記ガス流路部の少なくとも一部を構成してもよい。前記環流構造は、前記結露した液体が前記電槽内に送られるように前記第1の蓋に形成された貫通孔を含んでもよい。
【0156】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0157】
《鉛蓄電池A1~A8、C1~C9、B1》
(1)鉛蓄電池の準備
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、有機防縮剤(リグニンスルホン酸ナトリウム)と、必要に応じてポリマー化合物(P)とを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。ポリマー化合物(P)は、負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量が表1の含有量(質量基準)となるように負極ペーストに添加する。同様に、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量が0.1質量%、硫酸バリウムの含有量が0.4質量%、カーボンブラックの含有量が0.2質量%となるように各成分を混合する。負極ペーストに添加するポリマー化合物(P)には、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル(分子量:500)を用いる。次に、負極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0158】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0159】
(c)ガス流路部への化合物(C)の配置
電池C1およびC4~C6の電池の蓋部には、二重蓋ではない通常の蓋部を用いる。それ以外の電池の蓋部には、上述した第1および第2の蓋で構成された蓋部(二重蓋)を用いる。蓋部のガス流路部の表面には、以下の方法で化合物(C)を配置する。まず、化合物(C)を含む液体を調製する。液状の化合物(C)はそのまま用いてもよいし、溶媒で希釈してもよい。固体状の化合物(C)は、溶媒を用いて化合物(C)を含む液体(溶液または分散液)を調製する。次に、上記液体を、上述した第1の蓋の流路部の表面に塗布したのち、乾燥させる。このようにして、第1の蓋のガス流路部の表面に化合物(C)を配置する。
【0160】
化合物(C)としては、以下の化合物を用いる。なお、電池C3では、化合物(C)の代わりに、ダフニーメカニックオイル(出光興産株式会社製の工業用潤滑オイル)を用いる。
電池B1:スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:5000μmol/g、Mw=9600)(ビスフェノール系縮合物)
電池A1~A4:ポリプロピレングリコール(PPG)
電池A5~A8:上記のポリオキシエチレンオレイン酸エステル(PEGエステル化物)
【0161】
(d)試験電池の作製
試験電池は定格電圧2V、定格5時間率容量は32Ahである。試験電池の極板群は、正極板7枚と負極板7枚で構成する。負極板はポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、正極板と交互に積層し、極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液(硫酸水溶液)とともに収容して、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を作製する。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.28である。電槽を封じる蓋部には、上述した蓋部を用いる。
【0162】
(2)減液量(電解液の減少量)の評価
まず、上記の試験電池(鉛蓄電池)について、高温耐久性試験を行う。具体的には、75℃±3℃の水槽中で、上記試験電池について、下記の放電および充電を1サイクルとする充放電サイクルを5000回繰り返す。充放電サイクルを5000回繰り返した後の電解液の量を測定する。試験電池を作製する際の電解液の注液量と、充放電サイクル後の電解液の量とから、電解液の減少量を算出する。鉛蓄電池C1における電解液の減少量を100%としたときの比率(%)で、各電池の電解液の減少量を評価する。
放電:25A、2分
充電:14.8V、25A、10分
【0163】
製造条件および評価結果の一部を表1に示す。
【0164】
【0165】
表1の結果を、
図3に示す。表1に示す電解液の減少量(減液量)は、75%以下であることが好ましい。減液量が75%よりも多いと、充分な効果が得られているとはいえない。
【0166】
ここで、負極電極材料にポリマー化合物(P)が添加されておらず且つ二重蓋構造を有する電池C2、B1、A1、およびA5を比較する。ガス流路部に化合物(C)を配置する電池B1、A1、およびA5では、減液量を充分に低減できる。一方、ガス流路部に化合物(C)を配置しない電池C2の減液量は多い。同様に、ガス流路部にオイルを配置する電池C3の減液量は多い。また、電池B1、A1、およびA5を比較すると、ポリアルキレングリコールのエステル化物(例えばPEGエステル化物)を用いる電池A5の減液量は、より少なかった。
【0167】
負極電極材料にポリマー化合物(P)を添加することによって、減液量を大幅に低減できる。その場合でも、ガス流路部に化合物(C)を配置することによって、減液量をさらに低減できる。負極電極材料にポリアルキレングリコールのエステル化物(例えばPEGエステル化物)を添加し、ガス流路部にポリアルキレングリコールのエステル化物(例えばPEGエステル化物)を配置することによって、減液量を特に低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明は、鉛蓄電池に利用できる。本発明の鉛蓄電池は、例えば、PSOC条件下で充放電されるIS用鉛蓄電池としてアイドリングストップ車に用いるのに適している。また、鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源や、産業用蓄電装置(例えば、電動車両(フォークリフトなど)などの電源)などとして好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されない。
【符号の説明】
【0169】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
10:外装体
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
16:負極端子
17:正極端子
18:開口
20:蓋部
20a:排気口
21:第1の蓋
21a、22a:ガス流路部
21b:貫通孔(環流構造)
22:第2の蓋
GP:ガス流路