(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】蓄電池の価値評価装置、価値評価システム及び価値評価方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 30/02 20230101AFI20240806BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240806BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240806BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240806BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240806BHJP
G06Q 30/0645 20230101ALI20240806BHJP
【FI】
G06Q30/02 450
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
G01R31/392
G06Q10/04
G06Q30/0645
(21)【出願番号】P 2020197883
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】川合 喜典
(72)【発明者】
【氏名】熊野 和也
【審査官】山田 倍司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-169871(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131824(WO,A1)
【文献】特開2014-059270(JP,A)
【文献】特表2013-516614(JP,A)
【文献】特開2006-197765(JP,A)
【文献】特開2014-123393(JP,A)
【文献】特開2018-050457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H01M 10/48
H02J 7/00
G01R 31/392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用された蓄電池の価値を評価する価値評価装置であって、
所定時点より前の時点における前記蓄電池の劣化状態を示す劣化指標と、該所定時点までに前記蓄電池に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値とに基づいて、該劣化指標と該累積経済価値との関係を示す劣化価値関係情報を取得する関係情報取得部と、
前記所定時点以降の時点における前記蓄電池の前記劣化指標の予測値である劣化指標予測値を取得する劣化指標予測値取得部と、
前記所定時点以降の時点における前記蓄電池の前記劣化指標予測値と、前記劣化価値関係情報とに基づいて、前記所定時点以降の時点までの前記蓄電池の前記累積経済価値を推定する将来価値推定部と、
推定された前記所定時点以降の時点までの前記蓄電池の前記累積経済価値に基づいて、該所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を推定する価値推定部と、
を備えたことを特徴とする蓄電池の価値評価装置。
【請求項2】
前記累積経済価値は、起算時点から前記所定時点までに前記蓄電池に関して得られた経済的な価値の累積値であることを特徴とする請求項1に記載の蓄電池の価値評価装置。
【請求項3】
前記劣化価値関係情報は、前記劣化指標を変数とする多項式を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電池の価値評価装置。
【請求項4】
前記劣化指標は、SOH(State Of Health)、SOC(State Of Charge)、DoD(Depth Of Discharge)及び充放電回数の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蓄電池の価値評価装置。
【請求項5】
推定された前記所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を出力する出力部を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蓄電池の価値評価装置。
【請求項6】
推定された前記所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を外部装置に送信する送信部を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の蓄電池の価値評価装置。
【請求項7】
前記所定時点より前の時点における前記蓄電池の劣化状態を示す劣化指標を記憶した劣化指標履歴記憶部と、
前記所定時点までに前記蓄電池に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値を記憶した累積経済価値記憶部と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の蓄電池の価値評価装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の蓄電池の価値評価装置と、
前記蓄電池と、
前記蓄電池の充放電を管理する蓄電池管理部と、
前記蓄電池による充放電の回数を測定する充放電回数測定部と、
を備えたことを特徴とする蓄電池の価値評価システム。
【請求項9】
使用された蓄電池の価値を評価する価値評価方法であって、
所定時点より前の時点における前記蓄電池の劣化状態を示す劣化指標と、該所定時点までに前記蓄電池に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値とに基づいて、該劣化指標と該累積経済価値との関係を示す劣化価値関係情報を取得するステップと、
前記所定時点以降の時点における前記蓄電池の前記劣化指標の予測値である劣化指標予測値を取得するステップと、
前記所定時点以降の時点における前記蓄電池の前記劣化指標予測値と、前記劣化価値関係情報とに基づいて、前記所定時点以降の時点までの前記蓄電池の前記累積経済価値を推定するステップと、
推定された前記所定時点以降の時点までの前記蓄電池の前記累積経済価値に基づいて、該所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を評価するステップと、
を含むことを特徴とする蓄電池の価値評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の価値評価装置、価値評価システム及び今後得られるであろう価値の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電池の寿命を推定する方法として種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、蓄電池の電流や電圧の特性に基づいて寿命を推定する方法が記載されている。また、特許文献2には、蓄電池の内部抵抗に基づいて寿命を推定する方法が記載されている。さらに、蓄電池の充放電回数や充放電深度に基づいて寿命を推定する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、これらの寿命推定方法によって、蓄電池の今後使用可能な期間を推定することはできるが、蓄電池に関して今後得られる金銭的な価値を含む経済価値までは推定できない。
【0004】
このため、使用された蓄電池の経済価値を正確に評価することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-119658号公報
【文献】特開2020-85599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、使用された蓄電池の経済価値をより正確に評価することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明は、
使用された蓄電池の価値を評価する価値評価装置であって、
所定時点より前の時点における前記蓄電池の劣化状態を示す劣化指標と、該所定時点までに前記蓄電池に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値とに基づいて、該劣化指標と該累積経済価値との関係を示す劣化価値関係情報を取得する関係情報取得部と、
前記所定時点以降の時点における前記蓄電池の前記劣化指標の予測値である劣化指標予測値を取得する劣化指標予測値取得部と、
前記所定時点以降の時点における前記蓄電池の前記劣化指標予測値と、前記劣化価値関係情報とに基づいて、前記所定時点以降の時点までの前記蓄電池の前記累積経済価値を推定する将来価値推定部と、
推定された前記所定時点以降の時点までの前記蓄電池の前記累積経済価値に基づいて、該所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を推定する価値推定部と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、蓄電池の価値評価装置は、関係情報取得部により、所定時点より前の時点における蓄電池の劣化状態を示す劣化指標と、所定時点までに蓄電池に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値とに基づいて、劣化指標と累積経済価値との関係を示す劣化価値関係情報を取得する。所定時点まで使用された蓄電池の経済価値を、所定時点以降に蓄電池に関して得られる経済価値によって評価することが考えられる。このような
観点からの価値評価は、リースを受けて蓄電池を使用する場合のリース契約の終了時点で、購入、再リース、リース契約の終了のいずれを選択すべきかを判断する場合等に、その蓄電池を使用することによって、どの程度の経済価値が得られるかは有益な判断材料である。しかし、単に、所定時点までに蓄電池に関して得られた経済的な価値である累積経済価値を外挿するのみでは、使用に伴って劣化する蓄電池の経済価値をより正確に評価することができない。本発明では、使用に伴う蓄電池の劣化状態を考慮するために、上述の劣化価値関係情報を用いる。すなわち、劣化指標予測値取得部によって、所定時点以降の時点における蓄電池の劣化指標の予測値である劣化指標予測値を取得し、将来価値推定部によって、この劣化指標予測値と、劣化価値関係情報とに基づいて、所定時点以降の時点までの蓄電池の累積経済価値を推定する。このようにすれば、蓄電池の劣化を考慮して、所定時点以降の時点までの蓄電池の累積経済価値を推定することができる。さらに、このようにして推定された所定時点以降の時点までの蓄電池の累積経済価値に基づいて、該所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を推定するので、蓄電池の将来的な使用により得られる経済価値を、劣化を考慮して推定することができる。従って、所定時点まで使用された蓄電池の経済価値を、より正確に評価することができる。
【0009】
また、本発明においては、
前記累積経済価値は、起算時点から前記所定時点までに前記蓄電池に関して得られた経済的な価値の累積値であるようにしてもよい。
【0010】
これによれば、累積経済価値が、起算時点から所定時点までに蓄電池に関して得られた経済的な価値の累積値となるので、劣化状態を考慮して耐用年数を設定した場合に、当該耐用年数経過時までの累積経済価値から、所定時点までの累積経済価値を減算することによって、所定時点以降耐用年数経過時までに蓄電池に関して得られれる経済価値を簡単に得ることができ、演算処理の負担を軽減できる。
累積経済価値は、起算時点からではなく、1年等の単位期間ごとの経済価値の累積値としてもよい。
【0011】
また、本発明においては、
前記劣化価値関係情報は、前記劣化指標を変数とする多項式を含むようにしてもよい。
【0012】
これによれば、劣化価値関係情報の精度、演算処理負荷に応じて、劣化価値関係情報の形式を適宜選択することができる。
劣化指標を変数とする多項式は、劣化指標の1次関数、2次関数及び3次関数の少なくともいずかを含んでもよいし、劣化指標の4次以上の高次関数を含む多項式であってもよい。
【0013】
また、本発明においては、
前記劣化指標は、SOH(State Of Health)、SOC(State Of Charge)、DoD(Depth Of Discharge)及び充放電回数の少なくともいずれかを含むようにしてもよい。
【0014】
SOH(State Of Health)、SOC(State Of Charge)、DoD(Depth Of Discharge)及び充放電回数は、蓄電池を用いたシステムにおいて、容易に取得できる指標であることから劣化指標として好適に採用することができる。劣化指標はこれらに限られず、蓄電池の劣化状態を示す指標であれば種々の指標を採用することができる。
【0015】
また、本発明においては、
推定された前記所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を出力する出力部を備えるようにしてもよい。
【0016】
これによれば、所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を、出力部によって出力された画像又は記録媒体により認識することができる。
【0017】
また、本発明においては、
推定された前記所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を外部装置に送信する送信部を備えるようにしてもよい。
【0018】
これによれば、所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を、スマートフォン、PC等の外部装置を通じて認識することができる。
【0019】
また、本発明においては、
前記所定時点より前の時点における前記蓄電池の劣化状態を示す劣化指標を記憶した劣化指標履歴記憶部と、
前記所定時点までに前記蓄電池に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値を記憶した累積経済価値記憶部と、
を備えるようにしてもよい。
【0020】
これによれば、取得した劣化指標を劣化指標記憶部及び累積経済価値を、劣化指標履歴記憶部及び累積経済価値記憶部に記憶しておき、関係取得部は、劣化指標履歴記憶部及び累積経済価値記憶部から、劣化指標及び累積経済価値をそれぞれ取得することができる。
【0021】
また、本発明は、
前記蓄電池の価値評価装置と、
前記所定時点より前の時点における前記蓄電池の劣化状態を示す劣化指標を記憶した劣化指標記憶部と、
前記所定時点までに前記蓄電池に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値を記憶した累積経済価値記憶部と、
前記蓄電池と、
前記蓄電池の充放電を管理する蓄電池管理部と、
前記蓄電池による充放電の回数を測定する充放電回数測定部と、
を備えたことを特徴とする蓄電池の価値評価システムである。
【0022】
このようにすれば、蓄電池を含み、将来的な使用により得られる経済価値を、劣化を考慮して推定し、所定時点まで使用された蓄電池の経済価値を、より正確に評価することができる価値評価システムを構築することができる。
【0023】
また、本発明は、
使用された蓄電池の価値を評価する価値評価方法であって、
所定時点より前の時点における前記蓄電池の劣化状態を示す劣化指標と、該所定時点までに前記蓄電池に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値とに基づいて、該劣化指標と該累積経済価値との関係を示す劣化価値関係情報を取得するステップと、
前記所定時点以降の時点における前記蓄電池の前記劣化指標の予測値である劣化指標予測値を取得するステップと、
前記所定時点以降の時点における前記蓄電池の前記劣化指標予測値と、前記劣化価値関係情報とに基づいて、前記所定時点以降の時点までの前記蓄電池の前記累積経済価値を推定するステップと、
推定された前記所定時点以降の時点までの前記蓄電池の前記累積経済価値に基づいて、該所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を評価するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、所定時点より前の時点における蓄電池の劣化状態を示す劣化指標と、所定時点までに蓄電池に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値とに基づいて、劣化指標と累積経済価値との関係を示す劣化価値関係情報を取得する。所定時点まで使用された蓄電池の経済価値を、所定時点以降に蓄電池に関して得られる経済価値によって評価することが考えられる。このような観点からの価値評価は、リースを受けて蓄電池を使用する場合のリース契約の終了時点で、購入、再リース、リース契約の終了のいずれを選択すべきかを判断する場合等に、その蓄電池を使用することによって、どの程度の経済価値が得られるかは有益な判断材料である。しかし、単に、所定時点までに蓄電池に関して得られた経済的な価値である累積経済価値を外挿するのみでは、使用に伴って劣化する蓄電池の経済価値をより正確に評価することができない。本発明では、使用に伴う蓄電池の劣化状態を考慮するために、上述の劣化価値関係情報を用いる。すなわち、所定時点以降の時点における蓄電池の劣化指標の予測値である劣化指標予測値を取得し、この劣化指標予測値と、劣化価値関係情報とに基づいて、所定時点以降の時点までの蓄電池の累積経済価値を推定する。このようにすれば、蓄電池の劣化を考慮して、所定時点以降の時点までの蓄電池の累積経済価値を推定することができる。さらに、このようにして推定された所定時点以降の時点までの蓄電池の累積経済価値に基づいて、該所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を推定するので、蓄電池の将来的な使用により得られる経済価値を、劣化を考慮して推定することができる。従って、所定時点まで使用された蓄電池の経済価値を、より正確に評価することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、使用された蓄電池の経済価値をより正確に評価することが可能な技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施例に係る価値評価システムの概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施例に係る価値評価部の機能ブロック図である。
【
図3】本発明の実施例に係る価値評価処理の手順を説明するフローチャートである。
【
図4】本発明の実施例1に係るSOH及び累積経済価値の実績値を示す表である。
【
図5】本発明の実施例1に係るSOHと累積経済価値の実績値の関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例1に係るSOHの実績値及び予測値と累積経済価値の実績値を示す表である。
【
図7】本発明の実施例1に係るSOH及び累積経済価値の実績値及び予測値を示す表である。
【
図8】本発明の実施例1に係るSOHと累積経済価値の実績値及び予測値の関係を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施例2に係る劣化指標及び累積経済価値の実績値を示す表である。
【
図10】本発明の実施例2に係る充放電回数の実績値(
図10(A))、実績値及び予測値(
図10(B))の関係を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施例2に係る劣化指標の実績値及び予測値と累積経済価値の実績値を示す表である。
【
図12】本発明の実施例2に係る劣化指標及び累積経済価値の実績値及び予測値を示す表である。
【
図13】本発明の実施例2に係る累積経済価値の実績値及び予測値を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施例3に係る価値評価システムの概略構成を示す図である。
【
図15】本発明の実施例3の変形例に係る価値評価システムの概略構成を示す図である。
【
図16】本発明の実施例1に係る価値評価処理の原理を説明するグラフである。
【
図17】本発明の実施例2に係る価値評価処理の原理を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔適用例〕
以下、本発明の適用例について、図面を参照しつつ説明する。
図1に本発明が適用され、得られる価値評価装置1含む価値評価システム100の概略構成を示し、
図2に価値評価装置1を構成する価値評価部12の機能ブロック図を示し、
図3に価値評価処理の手順を説明するフローチャートを示す。
【0028】
価値評価装置1は、少なくとも価値評価部12を含んで構成され、使用された蓄電池5の価値評価時点現在における経済価値を評価する。蓄電池5は、需要家の構内等に定置される定置型蓄電池であってもよいし、EV(Electric Vehicle)等に搭載される車載用蓄電池であってもよい。
価値評価部12の関係情報取得部121では、劣化指標履歴記憶部10から、蓄電池5が設置されてから評価時現在までの蓄電池5の劣化状態を示す劣化指標を取得し、累積経済価値記憶部11から、蓄電池5が設置されてから評価時現在までの蓄電池5に関して得られた経済的な利益を示す累積経済価値を取得する(ステップS1)。そして、これらの関係を示す近似式を回帰分析する(ステップS2)。
【0029】
本発明では、劣化指標として、SOH(State Of Health)を採用する。
図16に、こ
の場合の、本発明の原理を説明するグラフを示す。
図16では、SOHは充電可能容量f(t)として示されており、併せて累積経済価値V(t)が示されている。蓄電池5のSOHは、使用による劣化に応じて減少し、累積経済価値は使用に応じて累積され増加するので、設置からの時間tの経過により、
図16に示されているように変化する。使用された蓄電池5の評価時現在の価値を、評価時現在以降に蓄電池5に関して得られる経済価値によって評価する。このように、評価時現在以降に蓄電池5に関してどれだけの経済価値が得られるのかをより正確に知ることができれば、リースを受けて蓄電池5を設置している場合に、リース期間が終了した段階で、蓄電池を購入した方がよいのか、再リースを受けた方がよいのか、再リースを受ける場合の妥当なリース料はどの程度かを判断する際に適切な判断が可能になる。
【0030】
このような、評価時現在以降に蓄電池5に関して得られる経済価値をより正確に推定するためには、単に累積価値V(t)の実績値を評価時現在以降に外挿することにより推定するのでは十分ではない。設置してから評価時現在までの蓄電池5の累積経済価値は、その間における蓄電池5の劣化状態を示すSOHの変化を含むものであるから、それらの関係式を回帰分析によって取得し、この関係式を、評価時現在以降のSOHの予測値(ステップS3)に適用することにより、蓄電池5の劣化も考慮した経済価値のより正確な推定が可能となる(ステップS4)。そして、評価時現在以降に蓄電池5に関して得られる累積経済価値から、評価時現在の累積経済価値を減算することにより、評価時現在以降に蓄電池5に関して得られる経済価値、すなわち、評価時現在における蓄電池5の経済価値を得ることができる(ステップS5)。
【0031】
また、本発明では、劣化指標として、蓄電池5の充放電回数、SOC(State Of Charge)、DoD(Depth Of Discharge)を採用することもできる。この場合の、本発明の原
理を説明するグラフを
図17に示す。
図17では、充放電回数はf1(t)、SOCはf2(t)、DoDはf3(t)として示されており、併せて累積経済価値V(t)が示されている。蓄電池5の充放電回数は使用に応じて増加し、SOC、DoDは、使用による劣化に応じて減少するので、
図17に示されているように変化する。この場合も同様に、
使用された蓄電池5の評価時現在の価値を、蓄電池5の評価時現在以降の劣化状態を考慮して評価時現在以降に蓄電池5に関して得られる経済価値によって評価する。これにより、評価時現在以降に蓄電池5に関してどれだけの経済価値が得られるのかをより正確に知ることができる。
【0032】
〔実施例1〕
以下では、本発明の実施例1に係る価値評価装置1について、図面を用いて、より詳細に説明する。
図1に、本発明の実施例に係る価値評価装置1含む価値評価システム100の概略構成を示す。
【0033】
価値評価装置1は、少なくとも、価値評価部12を含んで構成され、劣化指標履歴記憶部10、累積経済価値記憶部11、表示部13及び送信部14を含んでもよい。また、価値評価システム100は、価値評価装置1に加え、蓄電池5、PCS6、充放電測定部7、BMS8、蓄電池制御部9を含んで構成される。
【0034】
電力系統2に接続される電路3には、需要家の負荷4と蓄電池5が接続される。負荷4には、電力系統2及び蓄電池5から電力が供給される。蓄電池5は、電力系統から供給された電力を充電する。蓄電池5に充電された電力は、電路3を介して、負荷4又は電力系統2に供給される。蓄電池5としては、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、鉛電池等を用いることができる。
【0035】
蓄電池5は、電力系統から供給される交流電力を直流に変換するとともに、蓄電池から放電された電力を交流に変換するAC-DCコンバータや電圧を変換するインバータ等を含むパワーコンディショナー(PCS)6を介して電路3に接続される。また、PCS6と電路3との間には、蓄電池に充放電される電力量を測定する充放電測定部7が接続される。充放電測定部7及び蓄電池制御部9は、PCS6に設けられてもよい。充放電測定部7は、本発明の充放電回数測定部に相当する。
【0036】
さらに、蓄電池5には、バッテリマネジメントシステム(BMS)8が接続される。BMS8は、蓄電池5の管理装置であり、蓄電池5の充放電の管理、過電流や過電圧等の異常の有無等を管理する。また、BMS8は、SOH(State Of Health)、SOC(State
Of Health)、DoD(Depth Of Discharge)等の蓄電池5の劣化状態を示す劣化指標を算出する。BMS8は、本発明の蓄電池管理部に相当する。
【0037】
BMS8は、上位の蓄電池制御部9からの充電指示及び放電指示に基づいて、蓄電池5及びPCS6を制御して、蓄電池5への充電制御及び放電制御を行う。
【0038】
劣化指標履歴記憶部10は、BMS8から、例えば、蓄電池5の使用開始から1年ごとの時点におけるSOH、SOC、DoD等の劣化指標を取得して記憶する。また、劣化指標履歴記憶部10は、充放電測定部7から、使用開始から1年ごとの時点における充放電回数(累積値)を取得して記憶する。劣化指標の履歴を取得する時点は、上述のように、蓄電池5の使用開始から1年ごとの時点に限られず、半年、1か月等の適宜の期間経過時点を設定することができる。後述の累積経済価値を取得する時点についても同様に、使用開始から1年ごとの時点に限られず、半年、1か月等の適宜の期間経過時点を設定することができる。
【0039】
累積経済価値記憶部11は、蓄電池5の使用開始からの1年ごとの時点において、蓄電池5に関して得られた経済な価値を示す累積経済価値を取得して記憶する。この累積経済価値の内容は、蓄電池5の使用態様に応じて異なる。例えば、蓄電池5がリースを受けた
ものか購入したものかによって累積経済価値の内容は異なる。また、電力系統2から供給を受けた電力によって蓄電池5を充電し、蓄電池5から放電された電力を需要家の負荷4で消費するのみに留まるのか、蓄電池5による充放電を調整力として提供するのか、BCP用として一定の蓄電量を保持するのか等によって、累積経済価値の内容は異なる。従って、累積経済価値記憶部11に記憶される累積経済価値の取得先も、蓄電池5の使用態様に応じて異なる。例えば、蓄電池5を購入したのであれば、購入価格情報は、販売者のサーバから取得してもよいし、購入した需要家が入力してもよい。また、蓄電池5がリースを受けているものであれば、リース料情報は、リース会社のサーバから取得してもよいし、リースを受けている需要家が入力してもよい。また、電力系統2からの電気料金については、電力系統2に電力を供給する小売電気事業者のサーバから需要家の電気料金情報を取得してもよいし、需要家に設置されたスマートメータやHEMS(Home Energy Management System)等のエネルギーマネジメントシステムのコントローラから取得してもよい
。また、蓄電池5の充放電を調整力として供給するのであれば、複数の蓄電池を統合して調整力を供給する事業者のサーバや、調整力を取り引きする市場のサーバや、調整力を購入する事業者のサーバから調整力の提供に対する報酬情報を取得することができる。また、需要家の目的に応じて蓄電池5の充放電計画を策定し、蓄電池5の充放電制御サービスを提供する事業者がある場合には、当該事業者のサーバから、累積経済価値を取得してもよい。
【0040】
価値評価部12は、後述するように、所定時点、例えば、評価時現在まで使用された蓄電池5の価値として、当該評価時現在以降に蓄電池5に関して得られる経済的な価値を評価する。
表示部13は、価値評価部12によって評価された蓄電池5の価値に関する情報を文字等の画像情報として表示する手段であり、ディスプレイ等によって構成される。表示部13は、本発明の出力部に相当する。
送信部14は、価値評価部12に評価された蓄電池5の価値に関する情報を、ネットワークを介してスマートフォンやコンピュータ装置等の外部装置に送信する。
【0041】
図2は、価値評価部12の機能ブロック図を示す。
図3は、蓄電池5の価値評価処理の手順(価値評価方法)を示すフローチャートである。
価値評価部12は、関係情報取得部121、将来劣化指標推定部122、将来価値推定部123及び価値推定部124を含んで構成される。価値評価部12は、例えば、CPU等のプロセッサ、ROM、RAM等の主記憶部、EPROM等の補助記憶部を有する。補助記憶部には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。このような補助記憶部に記憶された価値評価処理方法のプログラムを主記憶部の作業領域にロードして実行することにより、価値評価部12の上述の各機能部が実現される。価値評価部12の一部又は全部の機能部はASICやFPGAのようなハードウェア回路によって実現されてもよい。また、価値評価部12は、単一の物理的構成によって実現される必要はなく、互いに連携する複数台のコンピュータによって構成されてもよい。
価値評価部12の各機能部の詳細は、価値評価処理の手順と併せて説明する。
【0042】
まず、蓄電池5の劣化指標として、充電可能容量を用いる場合について説明する。蓄電池5は、充放電を繰り返すことにより、充電可能容量が徐々に減少する。このような充電可能容量を示す物理量としては、SOH(State Of Health)が用いられる。ある時点で
の蓄電池5のSOHは、当該時点での蓄電池5の残容量[Ah]をCrdとし、初期の蓄電池5の満充電量をCf
0[Ah]としたとき、以下の式(1)によって表される。
【数1】
上述のように、使用によって変化するSOHは、時間を変数すると関数f(t)[%]と表すことができる。ここで、蓄電池5を設置したときの時間をt=0とし、蓄電池5の価値評価を行う時点(価値評価時現在)をt=Tとする。ここでは、蓄電池5を設置した時点が、本発明の起算時点に相当し、蓄電池5の価値評価を行う時点が本発明の所定時点に相当する。
【0043】
蓄電池5に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値については、上述したように、蓄電池5の使用態様によって種々の価値を含みうるが、最終的には金銭的な収支として算出し得るものである。また、累積経済価値は、所定期間にわたって得られた経済的な価値を累積・積算されるので、蓄電池5を設置したときからの時間tを変数とする関数V(t)[円]と表すことができる。すなわち、V(T)は、蓄電池5を設置してから、価値評価現在までに蓄電池5に関して得られた経済的な価値を表す。
【0044】
ある時点における蓄電池5のSOHは、BMS8によって推定され、当該時点と関連付けて劣化指標履歴記憶部10に記憶される。また、ある時点における蓄電池5の累積経済価値は、累積経済価値を構成する情報を算出又は記憶する装置から取得され、累積経済価値記憶部11に記憶される。
【0045】
価値評価部12の関係情報取得部121は、蓄電池5の設置から価値評価時現在までのf(t)及びV(t)を取得する(ステップS1)。
図4は、これらの数値例をテーブルで表現したものである。期間の単位は適宜設定すればよいが、ここでは、設置からの年単位で、各年経過時のf(t)と、設置から各年経過時までのV(t)を用いる。評価時現在は設置から4年経過時のt=4である。の蓄電池5が新品で設置されたとして、設置当初のt=0では、f(0)=100、1年経過時のt=1では、f(1)=99、2年経過時のt=2ではf(2)=96、3年経過時のt=3ではf(3)=91、4年経過時のt=4ではf(4)=84となっている。一方、設置当初のt=0では、蓄電池5の充放電がまだ行われていないので、V(0)=0であり、1年経過時のt=1では、V(1)=49,500、2年経過時のt=2では、V(2)=97,500、3年経過時のt
=3では、V(3)=143,000、4年経過時のt=4ではV(4)=185,000となっている。
図4に示されたf(t)とV(t)を、f(t)を横軸、V(t)を縦軸にとったグラフ上にプロットしたものを
図5に示す。
【0046】
価値評価部12の関係情報取得部121では、上述のように取得した、蓄電池5の設置t=0から価値評価時現在t=Tまでのf(t)とV(t)とに対して回帰分析を行い、f(t)とV(t)の関係を表す近似式を取得する(ステップS2)。ここでは、f(t)とV(t)との関係を表す近似式(関係式)が本発明の劣化価値関係情報に相当する。
具体的には、例えば、f(t)とV(t)が、以下の式(2)で表されるとして、その係数k1、k2、k3、k4等を回帰分析により求める。
【数2】
ここでは、V(t)がf(t)の1次から4次以上の関数であるが、V(t)は、1次関数、2次関数、3次関数の少なくともいずれかを含むようにしてもよいし、また、4次以上の高次の関数を含むf(t)の多項式であってもよい。以下では、V(t)がf(t
)の1次関数及び2次関数まで含むものとして近似式を導出している。
回帰分析の手法としては、最小二乗法、k近傍法、回帰木、サポートベクター回帰、射影追跡回帰等の既知の手法を適宜採用することができる。
【0047】
図4及び
図5に示したf(t)及びV(t)に対して、回帰分析を行うことにより、以下の式(3)が得られる。ここでは、V(t)をy、f(t)をxで表している。
【数3】
【0048】
次に、価値評価部12の将来劣化指標推定部122は、評価時現在以降の時点、すなわち、t=5以降の将来の時点におけるf(t)を推定して取得する(ステップS3)。将来劣化指標推定部は、本発明の劣化指標予測値取得部に相当する。t=5以降の将来の時点におけるf(t)が、本発明の劣化指標予測値に相当する。t=5以降の将来の時点におけるf(t)の予測値の推定は、予め補助記憶装置に記憶されている数式やグラフ等を用いて行うことができるが、推定方法はこれに限られない。
このようにして取得されたf(t)の予測値を、
図4の表にさらに追加した表を
図6に示す。ここでは、5年経過時のt=5ではf(5)=75、6年経過時のt=6ではf(6)=64、7年経過時のt=7ではf(7)=51、8年経過時のt=8ではf(8)=36、9年経過時のt=9ではf(9)=19となる。
【0049】
次に、価値評価部12の将来価値推定部123は、このようにしてステップS3で得られたt=5以降の将来の時点におけるf(t)に対して、ステップS2で得られた関係式である式(3)を適用し、t=5以降の将来の時点までの蓄電池5の累積経済価値を推定する(ステップS4)。
このようにして推定されたV(t)の値を
図6の表にさらに追加した表を
図7に示し、
図5のグラフに推定されたV(t)を追加したグラフを
図8に示す。
ここでは、5年経過時のt=5では、V(5)=222,500、6年経過時のt=6では、V(6)=254,500、7年経過時のt=7では、V(7)=280,000、8年経過時のt=8ではV(8)=298,000、9年経過時のt=9ではV(9)=307,500となっている。
【0050】
次に、価値評価部12の価値推定部124は、評価時現在における蓄電池5の価値を推定する(ステップS5)。ここでは、蓄電池5を設置から9年経過時まで使用するとした場合に得られる累積経済価値であるV(9)=307,500から、設置から評価時現在までの累積経済価値であるV(4)=185,000を減算して得られる今後5年間に得られる経済価値122,500円を、評価値現在における蓄電池5の経済価値であると評価している。
【0051】
次に、価値評価部12は、ステップS5において評価された評価時現在における蓄電池5の経済価値を、表示部13に表示させ、送信部14を介して外部装置に送信する(ステップS6)。
【0052】
このようにすれば、価値評価部12によって、蓄電池5の累積経済価値を、蓄電池5の劣化状態を反映してより正確に推定することができる。このようにして得られた累積経済価値から、評価時現在における蓄電池5の経済価値を、蓄電池5に関して得られる経済的価値という観点から、より正確に評価することができる。
【0053】
〔実施例2〕
次に、本発明の実施例2に係る価値評価装置1について説明する。
実施例1に係る価値評価装置1と同様の符号を用いて詳細な説明を省略する。実施例2に係る価値評価装置1のブロック構成及び価値評価処理の手順(価値評価方法)の概略は、実施例1と同様であるが、劣化指標の内容が実施例1とは異なる。
【0054】
実施例2に係る価値評価装置1では、蓄電池5の劣化指標として、充放電回数、SOC(State Of Charge)、DoD(Depth Of Discharge)を用いる。ここで、SOCは、蓄
電池の残容量を表す指標であり、蓄電池5の残容量をCr[Ah]、満充電量をCf[Ah]としたとき、以下の式(4)によって表される。
【数4】
そして、DoDは、放電深度と呼ばれ、蓄電池5を満充電状態にし、標準的な条件で放電した場合の放電容量を100%としたときに何%放電したかによって表される。このように、使用によって変化する充放電回数、SOC、DoDは、それぞれ時間を変数とする関数f1(t)[回]、f2(t)[%]、f3(t)[%]と表すことができる。ここでも、蓄電池5を設置したときの時間をt=0とし、蓄電池5の価値評価を行う時点(価値評価時現在)をt=Tとする。
【0055】
蓄電池の設置からある時点までの蓄電池5の充放電回数の情報は、充放電測定部7から取得され、当該時点と関連付けて劣化指標履歴記憶部10に記憶される。また、ある時点における蓄電池5のSOC及びDoDは、BMS8によって推定され、当該時点と関連付けて劣化指標履歴記憶部10に記憶される。ある時点における蓄電池5の累積経済価値は、累積経済価値を構成する情報を算出又は記憶する装置から取得され、累積経済価値記憶部11に記憶される。
【0056】
価値評価部12の関係情報取得部121は、蓄電池5の設置から価値評価時現在までのf1(t)、f2(t)、f3(t)及びV(t)を取得する(ステップS1)。
図9は、これらの数値例をテーブルで表現したものである。ここでは、設置からの年単位で、各年経過時のf1(t)、f2(t)、f3(t)と、設置から各年経過時までのV(t)を用いる。評価時現在は設置から4年経過時のt=4である。設置当初のt=0では、f1(0)=100、1年経過時のt=1では、f1(1)=200、2年経過時のt=2ではf1(2)=300、3年経過時のt=3ではf1(3)=400、4年経過時のt=4ではf1(4)=500となっている。同様に、f2(0)=90、f2(1)=90、f2(2)=80、f2(3)=80、f2(4)=70となっている。また、f3(0)=50、f3(1)=50、f3(2)=50、f3(3)=50、f3(4)=40となっている。一方、設置当初のt=0では、蓄電池5の充放電がまだ行われていないので、V(0)=0であり、1年経過時のt=1では、V(1)=1,062,000、2年経過時のt=2では、V(2)=1,955,000、3年経過時のt=3では、
V(3)=2,849,000、4年経過時のt=4ではV(4)=3,504,000となっている。
【0057】
価値評価部12の関係情報取得部121では、上述のように取得した、蓄電池5の設置t=0から価値評価時現在t=Tまでのf1(t)、f2(t)、f3(t)とV(t)とに対して回帰分析を行い、f1(t)、f2(t)、f3(t)とV(t)の関係を表す近似式を取得する(ステップS2)。ここでは、f1(t)、f2(t)、f3(t)とV(t)との関係を表す近似式(関係式)が本発明の劣化価値関係情報に相当する。
具体的には、例えば、f1(t)、f2(t)、f3(t)とV(t)が、以下の式(5)で表されるとして、その係数k11、k21、k31等を回帰分析により求める。
【数5】
ここでは、V(t)がf1(t)、f2(t)、f3(t)の1次から3次以上の関数であるが、1次関数、2次関数、3次関数の少なくともいずれかを含むようにしてもよい。以下では、V(t)がf(t)の1次関数及び2次関数まで含むものとして近似式を導出している。
回帰分析の手法としては、最小二乗法、k近傍法、回帰木、サポートベクター回帰、射影追跡回帰等の既知の手法を適宜採用することができる。
【0058】
次に、価値評価部12の将来劣化指標推定部122は、評価時現在以降の時点、すなわち、t=5以降の将来の時点におけるf1(t)、f2(t)、f3(t)を推定して取得する(ステップS3)。t=5以降の将来の時点におけるf1(t)、f2(t)、f3(t)が、本発明の劣化指標予測値に相当する。t=5以降の将来の時点におけるf1(t)、f2(t)、f3(t)の予測値の推定は、予め補助記憶装置に記憶されている数式やグラフ等を用いて行うことができるが、推定方法はこれに限られない。
【0059】
ここでは、過去の実績からf1(t)の近似式を求め、この近似式からt=5以降の将来の時点におけるf1(t)の予測値を推定する。t=0~4までのf1(t)の変化を横軸に時間t(年)をとり、縦軸にf1(t)をとってプロットしたグラフを
図10(A)に示す。このようなf1(t)の過去実績から、f1(t)の近似式は、tをx、f1(t)をyとしたとき、以下の式(6)によって表される。
【数6】
このようにして取得されたf1(t)の予測値を、
図10(A)に追加してプロットしたグラフを
図10(B)に示す。同様に、t=5以降の将来のf1(t)の予測値を
図9の表にさらに追加した表を
図11(A)に示す。ここでは、5年経過時のt=5ではf1(5)=600、6年経過時のt=6ではf1(6)=700、7年経過時のt=7ではf1(7)=800、8年経過時のt=8ではf1(8)=900、9年経過時のt=9ではf1(9)=1000となる。
【0060】
同様に、t=5以降の将来のf2(t)の予測値を推定して
図11(A)に追加した表を
図11(B)に示す。ここでは、5年経過時のt=5ではf2(5)=70、6年経過時のt=6ではf2(6)=60、7年経過時のt=7ではf2(7)=50、8年経過時のt=8ではf2(8)=40、9年経過時のt=9ではf2(9)=30となる。
【0061】
同様に、t=5以降の将来のf3(t)の予測値を推定して
図11(B)に追加した表を
図11(C)に示す。ここでは、5年経過時のt=5ではf3(5)=40、6年経過時のt=6ではf3(6)=40、7年経過時のt=7ではf3(7)=30、8年経過時のt=8ではf3(8)=30、9年経過時のt=9ではf3(9)=30となる。
【0062】
次に、価値評価部12の将来価値推定部123は、このようにしてステップS3で得られたt=5以降の将来の時点におけるf1(t)、f2(t)、f3(t)に対して、ス
テップS2で得られた関係式である式(5)を適用し、t=5以降の将来の時点までの蓄電池5の累積経済価値を推定する(ステップS4)。
このようにして推定されたV(t)の値を
図11(C)の表にさらに追加した表を
図12に示し、
図13に、設置されてから9年経過時までの累積経済価値V(t)を、横軸に時間t(年)、縦軸にV(t)(円)をとって、プロットしたグラフを示す。
ここでは、5年経過時のt=5では、V(5)=4,160,000、6年経過時のt=6では、V(6)=4,687,000、7年経過時のt=7では、V(7)=5,035,000、8年経過時のt=8ではV(8)=5,294,000、9年経過時のt=9ではV(9)=5,484,000となっている。
【0063】
次に、価値評価部12の価値推定部124は、評価時現在における蓄電池5の価値を推定する(ステップS5)。ここでは、蓄電池5を設置から9年経過時まで使用するとした場合に得られる累積経済価値であるV(9)=5,484,000から、設置から評価時現在までの累積経済価値であるV(4)=3,504,000を減算して得られる今後5年間に得られる経済価値1,980,000円を、評価値現在における蓄電池5の経済価値であると評価している。
【0064】
次に、価値評価部12は、ステップS5において評価された評価時現在における蓄電池5の経済価値を、表示部13に表示させ、送信部14を介して外部装置に送信する(ステップS6)。
【0065】
このようにすれば、価値評価部12によって、蓄電池5の累積経済価値を、蓄電池5の劣化状態を反映してより正確に推定することができる。このようにして得られた累積経済価値から、評価時現在における蓄電池5の経済価値を、蓄電池5に関して得られる経済的価値という観点から、より正確に評価することができる。
【0066】
〔実施例3〕
以下に、本発明の実施例3に係る価値評価システム200について、図面を用いて説明する。
図14に、実施例3に係る価値評価システム200の概略構成を示す。実施例1及び実施例2と同様の構成については同様の符号を用いて、詳細な説明は省略する。
【0067】
実施例3に係る価値評価システム200における価値評価装置1の構成は、実施例1及び2と同様である。価値評価システム200では、蓄電池25及びBMS28がEV(Electric Vehicle)等の自動車20に搭載されている。自動車20は、EVに限らず、充放電可能な蓄電池を搭載した自動車であればよい。BMS28は、蓄電池25の管理装置であり、蓄電池25の充放電の管理、過電流や過電圧等の異常の有無等を管理する。また、BMS28は、SOH(State Of Health)、SOC(State Of Health)、DoD(Depth Of Discharge)等の蓄電池5の劣化状態を示す劣化指標を算出する。BMS28は、本発明の蓄電池管理部に相当する。
価値評価システム200に含まれるPCS26としては、例えば、蓄電池25に充電された電力を家庭で利用するV2H(Vehicle to Home)等のシステムに用いられるPCS
が挙げられる。PCS26は、自動車20に搭載された蓄電池25に充電され、又は蓄電池25から放電される電力を変換する機能を有するパワーコンディショナーであればよく、蓄電池25から放電された電力の供給先・利用先は家庭に限られず、オフィスビル等の種々の施設、設備、系統への供給が可能である。充放電測定部7及び蓄電池制御部9については、実施例1及び実施例2と同様である。
【0068】
このように、自動車20に搭載された蓄電池25及びBMS28を含む価値評価システム200を構築することにより、価値評価部12によって、車載用の蓄電池25の累積経
済価値を、車載用の蓄電池25の劣化状態を反映してより正確に推定することができる。このようにして得られた累積経済価値から、評価時現在における車載用の蓄電池25の経済価値を、車載用の蓄電池25に関して得られる経済的価値という観点から、より正確に評価することができる。
【0069】
また、価値評価システム200におけるPCS26は、
図15に示すように、充放電測定部27及び蓄電池制御部29を含んでもよい。充放電測定部27及び蓄電池制御部29の機能は、実施例1及び2に係る充放電測定部7及び蓄電池制御部9と同様である。
【0070】
なお、以下には本発明の構成要件と実施例の構成とを対比可能とするために、本発明の構成要件を図面の符号付きで記載しておく。
<発明1>
使用された蓄電池(5)の価値を評価する価値評価装置(1)あって、
所定時点より前の時点における前記蓄電池(5)の劣化状態を示す劣化指標と、該所定時点までに前記蓄電池(5)に関して得られた経済的な価値を示す累積経済価値とに基づいて、該劣化指標と該累積経済価値との関係を示す劣化価値関係情報を取得する関係情報取得部(121)と、
前記所定時点以降の時点における前記蓄電池(5)の前記劣化指標の予測値である劣化指標予測値を取得する劣化指標予測値取得部(122)と、
前記所定時点以降の時点における前記蓄電池の前記劣化指標予測値と、前記劣化価値関係情報とに基づいて、前記所定時点以降の時点までの前記蓄電池の前記累積経済価値を推定する将来価値推定部(123)と、
推定された前記所定時点以降の時点までの前記蓄電池の前記累積経済価値に基づいて、該所定時点以降に該蓄電池に関して得られる経済的な価値を推定する価値推定部(124)と、
を備えたことを特徴とする蓄電池の価値評価装置(1)。
【符号の説明】
【0071】
1 :価値評価装置
12 :価値評価部
121 :関係情報取得部
122 :将来劣化指標推定部
123 :将来価値推定部
124 :価値推定部