(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】浮体検知装置
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20240101AFI20240806BHJP
【FI】
G01V1/00 A
(21)【出願番号】P 2020217196
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】津久井 智也
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-186028(JP,A)
【文献】特開平02-095293(JP,A)
【文献】特開2012-168122(JP,A)
【文献】特開2020-133453(JP,A)
【文献】特開2002-243840(JP,A)
【文献】特開平09-043360(JP,A)
【文献】特表平09-505895(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0063708(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に向かって音波を複数回にわたって送信する送波器と、
前記音波の反射波を受信する受波器と、
前記反射波を処理することによって得られる評価信号の振幅
の変動からインコヒーレント成分のエネルギーに対するコヒーレント成分のエネルギーの割合を推定し、前記割合と予め定められた閾値とを比較することによって、浮体の有無を判定する分析判定部と、
を備える、浮体検知装置。
【請求項2】
水面に向かって音波を複数回にわたって送信する送波器と、
前記音波の反射波を受信する受波器と、
前記反射波を処理することによって得られる評価信号の振幅
の変動からインコヒーレント成分のエネルギーに対するコヒーレント成分のエネルギーの割合を推定し、前記割合の平均値に基づいて前記割合を規格化した評価値を算出し、前記評価値と予め定められた閾値とを比較することによって、浮体の有無を判定する分析判定部と、
を備える、浮体検知装置。
【請求項3】
水面に向かって音波を複数回にわたって送信する送波器と、
前記音波の反射波を受信する受波器と、
前記反射波を処理することによって得られる評価信号の
位相の変動
から平均位相の標準偏差を算出し、前記標準偏差と予め定められた閾値とを比較することによって、浮体の有無を判定する分析判定部と、
を備える、浮体検知装置。
【請求項4】
水面に向かって音波を複数回にわたって送信する送波器と、
前記音波の反射波を受信する受波器と、
前記反射波を処理することによって得られる評価信号の
位相の変動
から平均位相の標準偏差を算出し、前記標準偏差の平均値に基づいて前記標準偏差を規格化した評価値を算出し、前記評価値と予め定められた閾値とを比較することによって、浮体の有無を判定する分析判定部と、
を備える、浮体検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、浮体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水面に浮かんでいる物体(浮体)を水中から検知する装置が知られている。例えば、特許文献1には、水面に浮かんでいる船舶等の浮体から発せられる音波を、水中に配設した複数の受波器で受波することによって、船舶等の浮体の位置を検知する装置が記載されている。かかる装置は、一般にパッシブソナーなどと言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パッシブソナーは、自ら音を発する浮体しか検知できない。自ら音を発しない浮体を検知するために、音波を送波して、浮体等から反射される音波を受波することによって、浮体を検知する装置(アクティブソナー)も考えられている。アクティブソナーは、自ら音を発しない浮体を検知することは可能であるが、装置が複雑かつ高価になる。
【0005】
本開示は、簡易な構成で、自ら音を発しない浮体であっても検知可能な浮体検知装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る浮体検知装置は、水面に向かって音波を複数回にわたって送信する送波器と、音波の反射波を受信する受波器と、反射波を処理することによって得られる評価信号の振幅又は位相の変動に基づいて浮体の有無を判定する分析判定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、簡易な構成で、自ら音を発しない浮体であっても検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、浮体検知システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、水中における音波及び反射波の伝播状況を説明するための図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る浮体検知装置の概略構成図である。
【
図4】
図4は、
図3に示されるインパルス応答計算部、評価信号発生部、直交検波部、及び振幅・位相演算部の詳細構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、
図3に示されるデータ分析部の詳細構成の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、
図3に示される浮体検知装置が実施する浮体検知方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7(a)は、コヒーレント成分に係る割合γの変動特性を示すグラフである。
図7(b)は、水面変動に係る標準偏差σθの変動特性を示すグラフである。
【
図8】
図8(a)は、コヒーレント成分に係る評価値[γ/<γ>]の変動特性を示すグラフである。
図8(b)は、水面変動に係る標準偏差σθに係る評価値[σθ/<σθ>]の変動特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]実施形態の概要
本開示の一側面に係る浮体検知装置は、水面に向かって音波を複数回にわたって送信する送波器と、音波の反射波を受信する受波器と、反射波を処理することによって得られる評価信号の振幅又は位相の変動に基づいて浮体の有無を判定する分析判定部と、を備える。
【0010】
この浮体検知装置では、評価信号の振幅又は位相の変動に基づいて、浮体の有無が判定される。評価信号は、水面に向かって複数回にわたって送信された音波の反射波を処理することによって得られる。したがって、自ら音を発しない浮体であっても、上記評価信号の振幅又は位相の変動に基づいて、検知することができる。上記評価信号を得るためには、1つの送波器及び1つの受波器が設けられていればよいので、浮体検知装置の構成を簡単化することができる。その結果、簡易な構成で、自ら音を発しない浮体であっても検知することが可能となる。
【0011】
分析判定部は、評価信号の振幅の変動からコヒーレント成分に係る値を推定し、コヒーレント成分に係る値に基づいて、浮体の有無を判定してもよい。波が発生している水面は時間的に上下変動しているため、水面からの反射波を処理することによって得られる評価信号の振幅の変動から推定されるコヒーレント成分に係る値は小さくなる。他方、波が発生している水面に比べて、浮体の時間的な上下変動が極めて小さいため、浮体からの反射波を処理することによって得られる評価信号の振幅の変動から推定されるコヒーレント成分に係る値は大きくなる。このようなコヒーレント成分に係る値の変動特性を利用して、コヒーレント成分に係る値の変動、すなわち、水面の変動を観測することで浮体の有無の判定を簡易化することができる。
【0012】
分析判定部は、コヒーレント成分に係る値の平均値に基づいてコヒーレント成分に係る値を規格化した第1評価値を算出し、第1評価値に基づいて、浮体の有無を判定してもよい。水面の波高に応じて、コヒーレント成分に係る値の絶対値が変動し得る。したがって、コヒーレント成分に係る値そのものを用いて浮体の有無が判定されると、波高が小さい場合には、浮体が存在すると誤判定されるおそれがある。これに対し、第1評価値は、コヒーレント成分に係る値の平均値に基づいてコヒーレント成分に係る値を規格化した値であるので、コヒーレント成分に係る値の平均値に対するコヒーレント成分に係る値の変動を示す。したがって、第1評価値に基づいて浮体の有無を判定することによって、波高の影響を低減することができ、浮体の有無の判定精度を向上させることが可能となる。
【0013】
分析判定部は、評価信号の位相の変動から標準偏差を算出し、標準偏差に基づいて、浮体の有無を判定してもよい。波が発生している水面は時間的に上下変動するため、水面から反射される反射波を処理することによって得られる評価信号の位相は水面の上下変動に応じて変動すると考えられる。すなわち、評価信号の位相変動と水面の上下変動とは相関関係にあると考えられる。そして、評価信号の位相変動は正規分布に従うことが知られているから、位相の標準偏差から水面の上下変動が推定され得る。波が発生している水面の上下変動に比べて、浮体の時間的な上下変動は極めて小さいと考えられるため、水面からの反射波を処理することによって得られる評価信号の位相変動は、浮体からの反射波を処理することによって得られる評価信号の位相変動よりも大きくなる。この評価信号の位相の変動特性を利用して、標準偏差の変動、すなわち水面の上下変動を観測することで浮体の有無の判定を簡易化することができる。
【0014】
分析判定部は、標準偏差の平均値に基づいて標準偏差を規格化した第2評価値を算出し、第2評価値に基づいて、浮体の有無を判定してもよい。水面の波高に応じて、評価信号の標準偏差の絶対値が変動し得る。したがって、標準偏差そのものを用いて浮体の有無が判定されると、波高が小さい場合には、浮体が存在すると誤判定されるおそれがある。これに対し、第2評価値は、標準偏差の平均値に基づいて標準偏差を規格化した値であるので、標準偏差の平均値に対する標準偏差の変動を示す。したがって、第2評価値に基づいて浮体の有無を判定することによって、波高の影響を低減することができ、浮体の有無の判定精度を向上させることが可能となる。
【0015】
[2]実施形態の例示
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略される。
【0016】
図1を参照して、まず浮体検知システムの概要を説明する。
図1は、浮体検知システムの概略構成図である。
図1に示される浮体検知システム1は、例えば、水中UWにおいて各種作業及び探査等を行う水中機器に搭載され、水中機器が安全に水面Wに浮上できるように制御するシステムである。水中機器の例としては、水中航走体、及び水流発電装置が挙げられる。浮体検知システム1は、管制装置5と浮体検知装置6とを備えている。
【0017】
管制装置5は、水中機器を管制する装置である。管制装置5は、水中機器が浮上する際に、浮体検知装置6に浮上確認指示を送信することによって、浮体検知装置6に浮遊物(浮体)の有無を判定させる。管制装置5は、浮体検知装置6から浮上指示を受信すると、水中機器を浮上させる。管制装置5は、浮体検知装置6から待機指示を受信すると、水中機器を水中に待機させる。
【0018】
浮体検知装置6は、浮体71を検知する装置である。浮体検知装置6は、管制装置5から浮上確認指示を受信すると、後述の浮体検知処理(浮体検知方法)を実施する。浮体検知装置6は、水面Wに浮体71が存在しないと判定したことに応じて、管制装置5に浮上指示を送信する。浮体検知装置6は、水面Wに浮体71が存在すると判定したことに応じて、管制装置5に待機指示を送信する。浮体検知装置6は、送波器2と、受波器3と、分析判定部4と、を備えている。本実施形態では、送波器2の数は1つであり、受波器3の数は1つである。
【0019】
送波器2は、水面Wに向けて音波Wtを送波する機器である。送波器2は、例えば、浮体検知装置6の真上に音波Wtを送波可能なように配置されている。送波器2は、例えば、水面Wの定位置に向けて所定の時間間隔で繰り返し音波Wtを送波する。送波器2は、分析判定部4からの基準信号s(t)に応じて音波Wtを送波する。送波器2は、DAC(Digital Analog Converter)と、増幅器と、圧電素子と、を含む。DACは、分析判定部4からの基準信号s(t)をアナログ信号に変換する。増幅器は、DACによって変換されたアナログ信号を増幅する。圧電素子は、増幅器によって増幅されたアナログ信号に応じて音波Wtを発生する。
【0020】
受波器3は、音波Wtの反射波Wrを受波する機器である。受波器3は、例えば、浮体検知装置6の真上からの反射波Wrを受波可能なように配置されている。受波器3は、反射波Wrを反射信号y(t)に変換し、反射信号y(t)を浮体検知装置6に送信する。受波器3は、圧電素子と、増幅器と、ADC(Analog Digital Converter)と、を含む。圧電素子は、反射波Wrを電気信号に変換する。増幅器は、圧電素子によって変換された電気信号を増幅する。ADCは、増幅器によって増幅された電気信号をデジタル信号である反射信号y(t)に変換する。
図2に示されているように、反射波Wrの例として、水面Wからの反射波Wr1と、浮体71からの反射波Wr2と、が挙げられる。水面Wの上下変動に比べて浮体71の上下変動は極めて小さいため、反射信号y(t)に係る振幅及び位相成分の変動特性は異なることが考えられる。
【0021】
分析判定部4は、反射信号y(t)に基づいて、反射信号y(t)に係る振幅又は位相成分の変動特性を分析し、水面W上に浮体71が存在するか否かを判定する。分析判定部4は、プロセッサ、メモリ、及び通信回路等のハードウェアを備えるコンピュータとして構成される。プロセッサの例としては、CPU(Central Processing Unit)が挙げられる。メモリは、主記憶装置、及び補助記憶装置を含み得る。主記憶装置は、例えば、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)によって構成される。補助記憶装置の例としては、ハードディスク及びフラッシュメモリが挙げられる。通信回路は、他の機器との間の通信を行う。これらの構成要素が動作することにより、分析判定部4の各機能部が実現される。
【0022】
次に、
図3~
図5を参照して、分析判定部4の機能構成を詳述する。
図3は、一実施形態に係る浮体検知装置の概略構成図である。
図4は、
図3に示されるインパルス応答計算部10、評価信号発生部20、直交検波部30、及び振幅・位相演算部40の詳細構成の一例を示す図である。
図5は、
図3に示されるデータ分析部50の詳細構成の一例を示す図である。
図3に示されるように、分析判定部4は、インパルス応答計算部10、評価信号発生部20、直交検波部30、振幅・位相演算部40、データ分析部50及び浮体判定部60を備えている。後述の浮体検知方法の説明において、各機能部の機能(動作)を詳細に説明するので、ここでは各機能部の機能を簡単に説明する。
【0023】
[インパルス応答計算部10]
インパルス応答計算部10は、反射信号y(t)に基づいて、インパルス応答信号h(t)を算出する機能部である。インパルス応答計算部10は、基準信号s(t)を生成し、基準信号s(t)を送波器2に送信する。インパルス応答計算部10は、受波器3から反射信号y(t)を受信し、反射信号y(t)を処理することによって、インパルス応答信号h(t)を生成する。インパルス応答計算部10は、インパルス応答信号h(t)を評価信号発生部20に出力する。
図4に示されるように、インパルス応答計算部10は、DFT部11と、基準信号発生部12と、基準DFT部13と、除算部14と、IDFT部15と、を備えている。これらの機能部については、後述の浮体検知方法の説明において詳述する。
【0024】
[評価信号発生部20]
評価信号発生部20は、インパルス応答信号h(t)に基づいて、評価信号w(t)を生成する機能部である。評価信号発生部20は、インパルス応答計算部10からインパルス応答信号h(t)を受け取ると、インパルス応答信号h(t)にトーンバースト信号u(t)を畳み込むことによって、評価信号w(t)を生成する。水面Wからの反射波Wrを利用するような線形システムであれば、インパルス応答信号h(t)に任意の信号を畳み込むことによって任意の信号を水面Wに照射した際と同等な信号を計算によって得ることができる。ここで、畳み込みとは、インパルス応答信号h(t)を平行移動しながら任意の信号を重ね足し合わせる二項演算である。本実施形態においては、任意の信号として公知のトーンバースト信号u(t)が使用されている。つまり、評価信号発生部20は、トーンバースト信号u(t)を水面Wに照射した際に得られる信号と同等の評価信号w(t)を算出している。評価信号発生部20は、評価信号w(t)を直交検波部30に出力する。
図4に示されるように、評価信号発生部20は、畳み込み演算部21と、トーンバースト信号発生部22と、を備えている。これらの機能部については、後述の浮体検知方法の説明において詳述する。
【0025】
[直交検波部30]
直交検波部30は、評価信号w(t)に対して直交検波を実施する機能部である。直交検波部30は、評価信号発生部20から評価信号w(t)を受け取ると、評価信号w(t)の直交成分である信号a(t)及び信号b(t)を求める。直交検波部30は、信号a(t)及び信号b(t)を振幅・位相演算部40に出力する。
図4に示されるように、直交検波部30は、遅延発生部31と、乗算部32と、乗算部33と、乗算部34と、乗算部35と、加算部36と、加算部37と、を備えている。これらの機能部については、後述の浮体検知方法の説明において詳述する。
【0026】
[振幅・位相演算部40]
振幅・位相演算部40は、評価信号w(t)の平均振幅x及び平均位相φを演算する機能部である。振幅・位相演算部40は、直交検波部30から信号a(t)及びb(t)を受け取ると、平均振幅x及び平均位相φを算出してデータ分析部50に出力する。
図4に示されるように、振幅・位相演算部40は、振幅演算部41と、平均処理部42と、位相演算部43と、平均処理部44と、を備えている。これらの機能部については、後述の浮体検知方法の説明において詳述する。
【0027】
[データ分析部50]
データ分析部50は、平均振幅x及び平均位相φに基づいて、水面Wの変動を示すパラメータの値を算出する機能部である。本実施形態では、水面Wの変動を示すパラメータとして、割合γと、標準偏差σθと、が用いられる。割合γは、評価信号w(t)のインコヒーレント成分のエネルギーに対する評価信号w(t)のコヒーレント成分のエネルギーの割合である。標準偏差σθは、平均位相φの標準偏差である。データ分析部50は、複数の平均振幅xを統計的に解析することによって、割合γを算出する。データ分析部50は、複数の平均位相φを統計的に解析することによって、標準偏差σθを算出する。データ分析部50は、割合γ及び標準偏差σθを浮体判定部60に出力する。
図5に示されるように、データ分析部50は、記憶部51と、統計量推定部52と、コヒーレント成分推定部53と、統計量推定部54と、を備えている。これらの機能部については、後述の浮体検知方法の説明において詳述する。
【0028】
[浮体判定部60]
浮体判定部60は、割合γ及び標準偏差σθに基づいて、浮体71の有無を判定する機能部である。浮体判定部60は、所定の判定条件が満たされている場合に浮体71が存在すると判定し、判定条件が満たされていない場合に浮体71が存在しないと判定する。判定条件としては、例えば、割合γが閾値Thaよりも大きく、かつ、標準偏差σθが閾値Thbよりも小さいという条件が用いられる。閾値Tha及び閾値Thbは、実験などによって予め定められている。浮体判定部60は、浮体71が存在しないと判定した場合には、管制装置5に浮上指示を送信する。浮体判定部60は、浮体71が存在すると判定した場合には、待機指示を管制装置5に送信する。
【0029】
次に、
図6を参照して、浮体検知装置6が実施する浮体検知方法を説明する。
図6は、
図3に示される浮体検知装置6が実施する浮体検知方法を示すフローチャートである。浮体検知装置6が管制装置5から浮上確認指示を受信すると、浮体検知方法の一連の処理が開始される。
【0030】
まず、インパルス応答計算部10がインパルス応答信号h(t)を計算する(ステップS1)。ステップS1では、受波器3から送信された反射信号y(t)とインパルス応答計算部10内部で生成された基準信号s(t)とを使用して、インパルス応答信号h(t)を計算する処理が実行される。ステップS1の処理を具体的に説明する。
【0031】
まず、基準信号発生部12が基準信号s(t)を発生(生成)する。インパルス応答信号h(t)を得るために純粋なインパルス信号(デルタ関数)を基準信号s(t)として使用できればよいが、実際には送波器2の周波数帯域の制限などにより純粋なインパルス信号を使用することは困難である。したがって、本実施形態では、基準信号s(t)として、インパルス応答を計測可能な信号が使用される。すなわち、後処理において、自己相関関数を取ることによってインパルス信号が得られるような信号が、基準信号s(t)として使用される。このような基準信号s(t)の例としては、チャープ信号、M系列(Maximum Length Sequence)信号、TSP(Time Stretched Pulse)信号、及びGold系列信号が挙げられる。このような基準信号s(t)の反射信号y(t)を処理することにより、純粋なインパルス信号を送信したのと同じ効果が得られる。基準信号発生部12は、公知の手法により基準信号s(t)を生成する。
【0032】
そして、基準信号発生部12は、基準信号s(t)を送波器2及び基準DFT部13に出力する。なお、基準信号発生部12は、所定の時間間隔で基準信号s(t)を繰り返し送波器2及び基準DFT部13に出力する。以降の処理においては、1つの基準信号s(t)について主に説明を行うが、他の基準信号s(t)についても同様である。
【0033】
送波器2は、基準信号発生部12から基準信号s(t)を受け取ると、基準信号s(t)に応じた音波Wtを生成し、音波Wtを水面Wに向けて送波する。この音波Wtが水面W又は浮体71によって反射され、受波器3が音波Wtの反射波Wrを受波する。そして、受波器3は、反射波Wrを反射信号y(t)に変換し、浮体検知装置6(DFT部11)に送信する。そして、DFT部11は、受波器3から反射信号y(t)を受け取ると、反射信号y(t)をフーリエ変換することによって反射信号Y(f)を生成し、反射信号Y(f)を除算部14に出力する。一方、基準DFT部13は、基準信号発生部12から基準信号s(t)を受け取ると、基準信号s(t)をフーリエ変換することによって基準信号S(f)を生成し、基準信号S(f)を除算部14に出力する。
【0034】
そして、除算部14は、DFT部11から反射信号Y(f)を受け取り、基準DFT部13から基準信号S(f)を受け取ると、反射信号Y(f)を基準信号S(f)で除算することによって、信号H(f)を得る。そして、除算部14は、信号H(f)をIDFT部15に出力する。そして、IDFT部15は、除算部14から信号H(f)を受け取ると、信号H(f)を逆フーリエ変換することによって、インパルス応答信号h(t)を計算し、インパルス応答信号h(t)を評価信号発生部20に出力する。
【0035】
続いて、評価信号発生部20は、評価信号w(t)を発生する(ステップS2)。ステップS2では、インパルス応答計算部10から出力されたインパルス応答信号h(t)と、評価信号発生部20内部で生成されたトーンバースト信号u(t)とを使用して、評価信号w(t)を発生する処理が実行される。ステップS2の処理を具体的に説明する。
【0036】
まず、トーンバースト信号発生部22がトーンバースト信号u(t)を生成(発生)し、トーンバースト信号u(t)を畳み込み演算部21に出力する。トーンバースト信号発生部22は、公知の手法によりトーンバースト信号u(t)を生成する。そして、畳み込み演算部21は、インパルス応答計算部10(IDFT部15)からインパルス応答信号h(t)を受け取り、トーンバースト信号発生部22からトーンバースト信号u(t)を受け取ると、インパルス応答信号h(t)とトーンバースト信号u(t)とを畳み込むことによって評価信号w(t)を算出し、評価信号w(t)を直交検波部30に出力する。
【0037】
続いて、直交検波部30は、評価信号w(t)に対して直交検波処理を行う(ステップS3)。ステップS3では、評価信号w(t)の直交成分である信号a(t)及び信号b(t)を算出するための処理が実行される。ステップS3の処理を具体的に説明する。
【0038】
まず、乗算部32は、評価信号発生部20(畳み込み演算部21)から評価信号w(t)を受け取ると、評価信号w(t)と余弦波cos(ωt)とを乗算し、乗算結果を加算部36に出力する。同様に、乗算部33は、評価信号発生部20(畳み込み演算部21)から評価信号w(t)を受け取ると、評価信号w(t)と正弦波-sin(ωt)とを乗算し、乗算結果を加算部37に出力する。遅延発生部31は、評価信号発生部20(畳み込み演算部21)から評価信号w(t)を受け取ると、評価信号w(t)をπ/2[rad]だけ遅延させることによって、遅延信号w(t-π/2)を得て、遅延信号w(t-π/2)を乗算部34及び乗算部35に出力する。
【0039】
そして、乗算部34は、遅延発生部31から遅延信号w(t-π/2)を受け取ると、遅延信号w(t-π/2)と正弦波sin(ωt)とを乗算し、乗算結果を加算部36に出力する。同様に、乗算部35は、遅延発生部31から遅延信号w(t-π/2)を受け取ると、遅延信号w(t-π/2)と余弦波cos(ωt)とを乗算し、乗算結果を加算部37に出力する。そして、加算部36は、乗算部32及び乗算部34からそれぞれ乗算結果を受け取ると、これらの乗算結果を加算することによって信号a(t)を算出し、信号a(t)を振幅・位相演算部40に出力する。他方、加算部37は、乗算部33及び乗算部35からそれぞれ乗算結果を受け取ると、これらの乗算結果を加算することによって信号b(t)を算出し、信号b(t)を振幅・位相演算部40に出力する。
【0040】
続いて、振幅・位相演算部40は、評価信号w(t)の平均振幅x及び平均位相φを演算する(ステップS4)。ステップS4では、信号a(t)及び信号b(t)を使用して、評価信号w(t)の平均振幅x及び平均位相φを演算するための処理が実行される。ステップS4の処理を具体的に説明する。
【0041】
評価信号w(t)は、式(1)で表現され得る。
【数1】
【0042】
まず、振幅演算部41は、直交検波部30から信号a(t)及び信号b(t)を受け取ると、信号a(t)及び信号b(t)を用いて式(2)に示される計算を行うことによって、振幅x(t)を算出する。そして、振幅演算部41は、振幅x(t)を平均処理部42に出力する。
【数2】
【0043】
ここで、評価信号w(t)はある程度の時間幅Δtで発信されているので、平均処理部42は、振幅演算部41から振幅x(t)を受け取ると、振幅x(t)を時間幅Δtで切り出して、平均振幅xを算出する。そして、平均処理部42は、平均振幅xをデータ分析部50に出力し、平均振幅xを記憶部51に格納する。本実施形態では、時間幅Δtはトーンバースト信号u(t)のトーンバースト長に相当する。
【0044】
また、位相演算部43は、直交検波部30から信号a(t)及び信号b(t)を受け取ると、信号a(t)及び信号b(t)を用いて式(3)に示される計算を行うことによって、位相φ(t)を算出する。そして、位相演算部43は、位相φ(t)を平均処理部44に出力する。
【数3】
【0045】
そして、平均処理部44は、位相演算部43から位相φ(t)を受け取ると、位相φ(t)を時間幅Δtで切り出して、平均位相φを算出する。そして、平均処理部44は、平均位相φをデータ分析部50に出力し、平均位相φを記憶部51に格納する。以上のように、1つの基準信号s(t)及びインパルス応答信号h(t)、すなわち1つの評価信号w(t)に対して1つの平均振幅x及び1つの平均位相φが算出される。上述のように、基準信号s(t)が繰り返し出力されるので、各基準信号s(t)に対して、平均振幅x及び平均位相φが算出される。
【0046】
続いて、データ分析部50は、評価信号w(t)(反射波Wr)のコヒーレント成分(コヒーレント成分に係る値)を推定する(ステップS5)。ステップS5では、記憶部51に保存されている平均振幅xのデータ群(x1,x2,x3,・・・,xn)を使用して統計的な解析を行って、インコヒーレント成分のエネルギーに対するコヒーレント成分のエネルギーの割合γを推定する処理が実行される。平均振幅x1,x2,x3,・・・,xnは、例えば、時系列順に配列された平均振幅xである。平均振幅xiは、i番目の平均振幅xであり、i番目に算出された平均振幅xである。ステップS5の処理を具体的に説明する。
【0047】
波は時々刻々と上下変動しているため、波が発生している水面Wからの反射波Wrを処理することにより得られる評価信号w(t)の平均振幅x及び平均位相φも変動する。平均振幅xの分布は、ライス分布に従うことが知られており、平均位相φの分布は、正規分布に従うことが知られている。
【0048】
まず、統計量推定部52は、記憶部51から平均振幅xのデータ群を読み出し、平均振幅xのデータ群を統計的に解析する。統計量推定部52は、例えば、記憶部51に格納されている平均振幅xのうち、最新のn個の平均振幅xを読み出す。上述のように、平均振幅xの変動はライス分布に従うと仮定して、最尤法を用いて非深度パラメータA及びスケールパラメータσが推定される。そして、統計量推定部52は、非深度パラメータA及びスケールパラメータσをコヒーレント成分推定部53に出力する。そして、コヒーレント成分推定部53は、非深度パラメータAとスケールパラメータσを用いて、式(4)に示される計算を行うことによって、インコヒーレント成分のエネルギーに対するコヒーレント成分のエネルギーの割合γを推定する。そして、コヒーレント成分推定部53は、割合γを浮体判定部60に出力する。
【数4】
【0049】
続いて、データ分析部50は、水面変動を推定する(ステップS6)。ステップS6では、記憶部51に保存されている平均位相φのデータ群(φ1,φ2,φ3,・・・φn)を使用して統計的な解析を行って、平均位相φの標準偏差σθを推定する処理が実行される。平均位相φ1,φ2,φ3,・・・,φnは、例えば、時系列順に配列された平均位相φである。平均位相φiは、i番目の平均位相φであり、i番目に算出された平均位相φである。ステップS6の処理を具体的に説明する。
【0050】
まず、統計量推定部54は、記憶部51から平均位相φのデータ群を読み出し、平均位相φのデータ群を統計的に解析する。統計量推定部54は、例えば、記憶部51に格納されている平均位相φのうち、最新のn個の平均位相φを読み出す。上述のように、平均位相φの変動は正規分布に従うと仮定して、平均値μ及び標準偏差σθが算出される。そして、統計量推定部54は、水面変動を推定するパラメータとして標準偏差σθを浮体判定部60に出力する。
【0051】
続いて、浮体判定部60は、割合γ及び標準偏差σθが判定条件を満たすか否かを判定する(ステップS7)。ここでは、判定条件として、割合γが閾値Thaよりも大きく、かつ、標準偏差σθが閾値Thbよりも小さいという条件が用いられる。浮体判定部60は、割合γと閾値Thaとを比較し、標準偏差σθと閾値Thbとを比較する。そして、割合γが閾値Thaよりも大きく、かつ、標準偏差σθが閾値Thbよりも小さい場合(ステップS7;YES)、浮体判定部60は、浮体71が存在する(浮体有)と判定する(ステップS8)。そして、浮体判定部60は、待機指示を管制装置5に送信する。以上により、浮体検知方法の一連の処理が終了する。
【0052】
一方、ステップS7において、割合γが閾値Thaよりも小さいか、標準偏差σθが閾値Thbよりも大きい場合に、浮体判定部60は、浮体71が存在しない(浮体無)と判定する(ステップS9)。そして、浮体判定部60は、浮上指示を管制装置5に送信する。以上により、浮体検知方法の一連の処理が終了する。
【0053】
なお、ステップS6は、ステップS5よりも先に行われてもよく、ステップS5と並行して行われてもよい。
【0054】
次に、
図7(a)及び
図7(b)を参照して、本実施形態の作用効果を説明する。
図7(a)は、割合γの変動特性を示すグラフである。縦軸は割合γを示し、横軸は時間tを示す。期間Tr2は、例えば、送波器2及び受波器3の真上の水面Wを浮体71が通過している期間、すなわち反射波Wr2が受波器3により受波されている期間を表している。期間Tr1は、例えば、水面Wからの反射波Wr1が受波器3により受波されている期間を表している。実線は割合γの変動を示しており、浮体71が通過する期間Tr2において、割合γが上昇している。この割合γの上昇局面をとらえることにより、浮体71が水面Wに存在するか否かを判定することができる。上昇局面は、例えば、割合γと閾値Thaとの比較により容易にとらえることができる。なお、グラフに示される破線の意味については、後述する。
【0055】
図7(b)は、標準偏差σθの変動特性を示すグラフである。縦軸は標準偏差σθを示し、横軸は時間tを示す。期間Tr1及び期間Tr2については
図7(a)のグラフと同じである。実線は、標準偏差σθの変動を示しており、期間Tr2において、標準偏差σθの値が下降している。この標準偏差σθの下降局面をとらえることにより、浮体71が存在するか否かを判定することができる。この下降局面は、例えば、標準偏差σθと閾値Thbとの比較により容易にとらえることができる。破線の意味については、後述する。
【0056】
以上説明した浮体検知装置6では、評価信号w(t)の平均振幅x及び平均位相φの変動に基づいて、浮体71の有無が判定される。評価信号w(t)は、水面Wに向かって複数回にわたって送波された音波Wtの反射波Wrを処理することによって得られる。したがって、自ら音を発しない浮体71であっても、評価信号w(t)の平均振幅x及び平均位相φの変動に基づいて、検知することができる。評価信号w(t)を得るためには、1つの送波器2及び1つの受波器3が設けられていればよいので、浮体検知装置6の構成を簡単化することができる。その結果、簡易な構成で、自ら音を発しない浮体71であっても検知することが可能となる。
【0057】
具体的には、分析判定部4は、評価信号w(t)の平均振幅xの変動からコヒーレント成分に係る値を推定し、コヒーレント成分に係る値に基づいて、浮体71の有無を判定する。波が発生している水面Wは時間的に上下変動しているため、水面Wからの反射波Wr1の反射点が不規則に変動する。その結果、インコヒーレント成分が支配的になり、水面Wからの反射波Wr1を処理することによって得られる評価信号w(t)の平均振幅xから推定されるコヒーレント成分に係る値は小さくなる。他方、波が発生している水面Wに比べて、浮体71の時間的な上下変動が極めて小さいため、浮体71からの反射波Wr2の反射点の変動は極めて小さい。その結果、コヒーレント成分が支配的となり、浮体71からの反射波Wr2を処理することによって得られる評価信号w(t)の平均振幅xから推定されるコヒーレント成分に係る値は大きくなる。このようなコヒーレント成分に係る値の変動特性を利用して、コヒーレント成分に係る値の変動、すなわち、水面Wの変動を観測することで浮体71の有無の判定を簡易化することができる。
【0058】
分析判定部4は、評価信号w(t)の平均位相φの変動から標準偏差σθを算出し、標準偏差σθに基づいて、浮体71の有無を判定する。波が発生している水面Wは時間的に上下変動しているため、水面Wからの反射波Wr1の反射点が不規則に変動する。その結果、水面Wから反射される反射波Wr1を処理することによって得られる評価信号w(t)の平均位相φは水面Wの上下変動に応じて変動すると考えられる。すなわち、評価信号w(t)の平均位相φの変動と水面Wの上下変動とは相関関係にあると考えられる。そして、評価信号w(t)の平均位相φの変動は正規分布に従うことが知られているから、平均位相φの標準偏差σθから水面Wの上下変動が推定され得る。波が発生している水面Wの上下変動に比べて、浮体71の時間的な上下変動は極めて小さいと考えられるため、浮体71からの反射波Wr2の反射点の変動は極めて小さい。その結果、水面Wからの反射波Wr1を処理することによって得られる評価信号w(t)の平均位相φの変動は、浮体71からの反射波Wr2を処理することによって得られる評価信号w(t)の平均位相φの変動よりも大きくなる。このような平均位相φの変動特性を利用して、標準偏差σθの変動、すなわち水面Wの上下変動を観測することで浮体71の有無の判定を簡易化することができる。
【0059】
なお、本開示に係る浮体検知装置は上記実施形態に限定されない。
【0060】
例えば、上記実施形態では、送波器2と受波器3とは別体で構成されているが、送受波器として一体に構成されてもよい。この場合、浮体検知装置6の構成を更に簡単化することができる。
【0061】
上記実施形態では、データ分析部50は、平均振幅xのデータ群を統計的に解析することによって、コヒーレント成分に係る値を推定しているが、振幅x(t)のデータ群を統計的に解析することによって、コヒーレント成分に係る値を推定してもよい。同様に、上記実施形態では、データ分析部50は、平均位相φのデータ群を統計的に解析することによって、水面変動を推定しているが、位相φ(t)のデータ群を統計的に解析することによって、水面変動を推定してもよい。
【0062】
上記実施形態では、判定条件として、割合γが閾値Thaよりも大きく、かつ、標準偏差σθが閾値Thbよりも小さいという条件が用いられているが、判定条件はこの条件に限られない。例えば、判定条件として、割合γが閾値Thaよりも大きいか、標準偏差σθが閾値Thbよりも小さいという条件が用いられてもよい。
【0063】
また、判定条件として、割合γが閾値Thaよりも大きいという条件のみが用いられてもよい。この場合、振幅・位相演算部40は、位相演算部43及び平均処理部44を備えていなくてもよい。データ分析部50は、統計量推定部54を備えていなくてもよい。したがって、浮体検知装置6の構成を更に簡単化することができる。判定条件として、標準偏差σθが閾値Thbよりも小さいという条件のみが用いられてもよい。この場合、振幅・位相演算部40は、振幅演算部41及び平均処理部42を備えていなくてもよい。データ分析部50は、統計量推定部52及びコヒーレント成分推定部53を備えていなくてもよい。したがって、浮体検知装置6の構成を更に簡単化することができる。
【0064】
さらに、割合γ及び標準偏差σθそれ自体が浮体の有無の判定のための指標に使用されるのではなく、割合γ及び標準偏差σθの平均値に基づいて規格化した第1評価値及び第2評価値が指標として利用されてもよい。以下詳述する。
【0065】
波が発生している水面Wの波高が比較的小さいとき、すなわち水面変動が小さいときは、波高が大きいときと比べると、水面Wからの反射波Wr1に基づいて推定される割合γの絶対値は、コヒーレント成分が支配的になるため相対的に大きくなる。
図7(a)の破線は、例えば、波高が比較的小さいときの浮体71が送波器2及び受波器3の真上を通過する前後及び通過時の割合γの変動特性を示している。この変動特性では、期間Tr1に対する期間Tr2の割合γの上昇度合いは小さくなっている。仮に、浮体71の有無の判定のための閾値Thaが、水面変動が大きいときの割合γと水面変動がほとんどないときの割合γ(例えば、浮体71からの反射波Wr2に基づいて推定される割合γ)との中間値程度に設定された場合には、水面変動が小さい水面Wからの反射波Wr1を受波器3で受波しているにもかかわらず、浮体71からの反射波Wr2を受波していると誤って判定される可能性がある。
【0066】
また、波高が比較的小さいとき、すなわち水面変動が小さいときは、波高が大きいときと比べると、水面からの反射波Wr1に基づいて推定される標準偏差σθの絶対値が相対的に小さくなる。
図7(b)の破線は、波高が比較的小さいときの浮体71が送波器2及び受波器3の真上を通過する前後及び通過時の標準偏差σθの変動特性を示している。この変動特性では、期間Tr1に対する期間Tr2の標準偏差σθの下降度合いは小さくなっている。仮に、浮体71の有無の判定のための閾値Thbが、水面変動が大きいときの標準偏差σθと、水面変動がほとんどないときの標準偏差σθ(例えば、浮体71からの反射波Wr2に基づいて推定される標準偏差σθ)との中間値程度に設定された場合には、水面変動が小さい水面Wからの反射波Wr1を受波器3で受波しているにもかかわらず、浮体71からの反射波Wr2を受波していると誤って判定される可能性がある。
【0067】
一般に水面Wに発生する波は時々刻々変動するが、波高(海象)は数時間単位で変化するとされており、短時間ではほとんど変化しないものとみなせる。したがって、短時間の観測で、水面Wからの反射波Wr1から推定される割合γの絶対値は、ほぼ一定になると考えられる。ここで、短時間の観測で推定される割合γの平均値を基準値<γ>とする。基準値<γ>は、波高が小さいとき、すなわち水面変動が小さいときは大きくなり、波高が大きいとき、すなわち水面変動が大きいときは小さくなる。同様に、水面Wからの反射波Wr1から推定される標準偏差σθの平均値を基準値<σθ>とする。基準値<σθ>は、波高が大きいとき、すなわち水面変動が大きいときは大きくなり、波高が小さいとき、すなわち水面変動が小さいときは小さくなる。
【0068】
浮体71の有無の判定が行われる前に、基準値<γ>及び基準値<σθ>が予め求められ、この基準値<γ>及び基準値<σθ>を用いて観測値の規格化が行われる。具体的には、浮体判定部60は、観測されたγを基準値<γ>で除算することによって得られた第1評価値[γ/<γ>]と、観測されたσθを基準値<σθ>で除算することによって得られた第2評価値[σθ/<σθ>]と、を用いて浮体71の有無を判定する。第1評価値[γ/<γ>]は、割合γの平均値に対する割合γの変動を示し、第2評価値[σθ/<σθ>]は、標準偏差σθの平均値に対する標準偏差σθの変動を示す。水面W上を浮体71が通過しない限り、割合γ及び標準偏差σθは変動しないとみなせるから、期間Tr1において、第1評価値[γ/<γ>]及び第2評価値[σθ/<σθ>]は、ほぼ1になる。
【0069】
図8(a)及び
図8(b)を参照して、実施形態の作用効果を説明する。
図8(a)は、第1評価値[γ/<γ>]の変動特性を示すグラフである。横軸は時間tを示し、縦軸は第1評価値[γ/<γ>]を示している。期間Tr2は、例えば、送波器2及び受波器3の真上の水面Wを浮体71が通過している期間、すなわち反射波Wr2が受波器3により受波されている期間を表している。期間Tr1は、例えば、水面Wからの反射波Wr1が受波器3により受波されている期間を表している。第1評価値[γ/<γ>]は、期間Tr1において、ほぼ一定(≒1)であるが、期間Tr2において上昇している。したがって、閾値Thcを1より少し大きい値に適宜に定めることにより、第1評価値[γ/<γ>]の変化をとらえることができ、浮体71の有無を判定することができる。
【0070】
図8(b)は、第2評価値[σθ/<σθ>]の変動特性を示すグラフである。横軸は時間tを示し、縦軸は第2評価値[σθ/<σθ>]を示している。期間Tr1,Tr2については、
図8(a)と同じである。第2評価値[σθ/<σθ>]は、期間Tr1において、ほぼ一定(≒1)であるが、期間Tr2において下降している。したがって、閾値Thdを1より少し小さい値に適宜に定めることにより、第2評価値[σθ/<σθ>]の変化をとらえることができ、浮体71の有無を判定することができる。
【0071】
この変形例によれば、波高及び水面変動が小さく、コヒーレント成分が支配的になるような状況下、すなわち割合γの絶対値が大きくなるような状況下、あるいは、波高及び水面変動が小さく、標準偏差σθの絶対値が小さくなるような状況下θであっても、判定精度を維持して、浮体71の有無を判定することが可能になる。
【0072】
上述のように、水面Wの波高に応じて、コヒーレント成分の絶対値が変動し得る。したがって、コヒーレント成分そのものを用いて浮体71の有無が判定されると、波高が小さい場合には、浮体71が存在すると誤判定されるおそれがある。これに対し、第1評価値[γ/<γ>]は、基準値<γ>を用いて割合γを規格化した値であるので、割合γの平均値に対する割合γの変動を示す。したがって、第1評価値[γ/<γ>]に基づいて浮体71の有無を判定することによって、波高の影響を低減することができ、浮体71の有無の判定精度を向上させることが可能となる。
【0073】
同様に、水面の波高に応じて、標準偏差σθの絶対値が変動し得る。したがって、標準偏差σθそのものを用いて浮体71の有無が判定されると、波高が小さい場合には、浮体71が存在すると誤判定されるおそれがある。これに対し、第2評価値[σθ/<σθ>]は、基準値<σθ>に基づいて標準偏差σθを規格化した値であるので、標準偏差の平均値に対する標準偏差σθの変動を示す。したがって、第2評価値[σθ/<σθ>]に基づいて浮体71の有無を判定することによって、波高の影響を低減することができ、浮体71の有無の判定精度を向上させることが可能となる。
【0074】
上記変形例において、波高に応じて閾値Thc,Thdが変更されてもよい。
【0075】
浮体検知装置6は、音波Wtを用いているので、音波Wtの波長よりも小さい浮体71を検知できないおそれがある。検出範囲と浮体71の大きさを固定とした場合、トーンバースト信号の周波数を広範囲に変えると、低い周波数(波長が大)では浮体71が認識できず滑らかな反射境界として作用するようになるため、コヒーレント成分に係る割合γが上昇する。高い周波数から低い周波数に徐々に周波数を変化させ割合γの変化を観察することによって、割合γの上昇変化が現れたときの音波Wtの波長に基づいて、浮体71のおおよその寸法を推定することもできる。
【符号の説明】
【0076】
2 送波器
3 受波器
4 分析判定部
6 浮体検知装置
71 浮体
W 水面
Wt 音波
Wr 反射波
w(t) 評価信号
x(t) 振幅
φ(t) 位相
γ 割合
σθ 標準偏差