(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】光学フィルム、偏光板、および光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2020534644
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029738
(87)【国際公開番号】W WO2020027085
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018144425
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 栞
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-068271(JP,A)
【文献】国際公開第2011/138913(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/076250(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/159645(WO,A1)
【文献】特開2018-155809(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124007(WO,A1)
【文献】特開2015-057664(JP,A)
【文献】特開平05-288929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系樹脂と、架橋重合体を含むコア部および当該コア部を覆うシェル部を有するゴム粒子とを含む、単層の光学フィルムであって、
前記(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位と、それと共重合可能な前記メタクリル酸メチル以外の共重合モノマーに由来する構造単位とを含み、
前記共重合モノマーは、
マレイミド類、および、シクロ環を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる共重合モノマーを含み、
前記ゴム粒子の存在密度は、前記光学フィルムの厚み方向において、前記光学フィルムの内部から表層部に向かって連続的に増加しており、
前記光学フィルムの一方の面から前記光学フィルムの厚みの20%以下の領域を領域A1、前記光学フィルムの他方の面から前記光学フィルムの厚みの20%以下の領域を領域A2、前記光学フィルムの一方または他方の面から前記光学フィルムの厚みの20%超80%未満の領域を領域Bとしたとき、
前記領域A1におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
A1の、前記領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
Bに対する比(R
A1/R
B)、および前記領域A2におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
A2の、前記領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
Bに対する比(R
A2/R
B)は、それぞれ1.01以上2.0未満である、
光学フィルム。
【請求項2】
前記面積率R
A1の前記面積率R
Bに対する比(R
A1/R
B)、および前記面積率R
A2の、前記面積率R
Bに対する比(R
A2/R
B)は、それぞれ1.02~1.5である、
請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記架橋重合体に対する前記シェル部の質量比は、25~200%である、
請求項1または請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
無機微粒子またはガラス転移温度(Tg)が80℃以上の有機微粒子をさらに含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の有機微粒子をさらに含む、
請求項4に記載の光学フィルム。
【請求項6】
(メタ)アクリル系樹脂と、架橋重合体を含むコア部および当該コア部を覆うシェル部を有するゴム粒子とを含む光学フィルムであって、
前記(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位と、それと共重合可能な前記メタクリル酸メチル以外の共重合モノマーに由来する構造単位とを含み、
前記共重合モノマーは、
マレイミド類、および、シクロ環を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる共重合モノマーを含み、
前記ゴム粒子の存在密度は、前記光学フィルムの厚み方向において、前記光学フィルムの内部から表層部に向かって連続的に増加しており、
前記光学フィルムの一方の面から前記光学フィルムの厚みの20%以下の領域を領域A1、前記光学フィルムの他方の面から前記光学フィルムの厚みの20%以下の領域を領域A2、前記光学フィルムの一方または他方の面から前記光学フィルムの厚みの20%超80%未満の領域を領域Bとしたとき、
前記領域A1におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
A1の、前記領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
Bに対する比(R
A1/R
B)、および前記領域A2におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
A2の、前記領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
Bに対する比(R
A2/R
B)は、それぞれ1.02~1.5である、
光学フィルム。
【請求項7】
偏光子と、
前記偏光子の少なくとも一方の面に配置された、請求項1~6のいずれか一項に記載の光学フィルムと
を含む、偏光板。
【請求項8】
(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子と、溶媒とを含むドープを得る工程と、
前記ドープを支持体上に流延した後、乾燥および剥離して、残留溶媒量が25質量%以上の膜状物を得る工程と、
前記膜状物を、前記(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)以下の温度で延伸する工程と、
延伸後の前記膜状物を、前記(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)以下の温度でさらに乾燥させる工程と、
を含む、光学フィルムの製造方法であって、
前記(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位と、それと共重合可能な前記メタクリル酸メチル以外の共重合モノマーに由来する構造単位とを含み、
前記共重合モノマーは、
マレイミド類、および、シクロ環を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる共重合モノマーを含む、
光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、偏光板、および光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置に用いられる光学フィルムとしては、優れた透明性や寸法安定性、低吸湿性を有することから、ポリメチルメタクリレートなどの(メタ)アクリル系樹脂フィルムが用いられている。
【0003】
近年のディスプレイ市場の拡大に伴い、表示装置の大型化、薄膜化やフレキシブル化などが要求されており、偏光板などの各部材の高機能化が進んでいる。特に車用途では、デザイン性を重視した表示装置が求められている。このため、偏光板を、従来の長方形ではなく、角が丸い形状、複雑な曲面を持った形状、または中央部に穴が開いた形状に打ち抜いて製造することがある。このような自由な形状のディスプレイを、異形パネルまたはフリーフォームディスプレイ(FFD)ともいう。このようなディスプレイは、自動車のメーターなどへの利用が考えられている。
【0004】
図1は、車載用フリーフォームディスプレイの一例を示す概略図である。
図1に示されるような自動車のメーターのカーブに合わせた形状の表示装置を得るために、偏光板を、円形などの異形に良好に打ち抜くことができること(異形打ち抜き性の改善)が望まれている。
【0005】
一方で、(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、一般的に、脆い(しなやかさがない)ことから、ゴム粒子を添加して用いられている。例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含む熱可塑性樹脂組成物を延伸して得られる光学フィルムが開示されている。
【0006】
特許文献2には、ポリメチルメタクリレート樹脂と、ゴム粒子とを含むコア層と、ポリメチルメタクリレート樹脂を含み、ゴム粒子を含まないスキン層とを含む保護フィルムが開示されている。このような保護フィルムは、良好な表面硬度を有しつつ、偏光子との密着性に優れるとされている。
【0007】
特許文献3には、(メタ)アクリル系樹脂を含む第1アクリル系樹脂層と、(メタ)アクリル系樹脂とゴム成分とを含む第2アクリル系樹脂層とを有する光学フィルムが開示されている。このような光学フィルムは、光学特性を損なうことなく、機械的強度(脆さ)を改善できるとされている。なお、特許文献1~3のフィルムは、いずれも溶融流延方式で製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/158968号
【文献】特開2008-40275号公報
【文献】特表2011-508257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のフィルムは、ゴム粒子がフィルム厚み方向に均一に分散しているため、コシがなく、搬送性に劣っていた。また、当該フィルムは、依然として脆い(しなやかさが不足する)ことから、屈曲性や異形加工性も十分なものではなかった。
【0010】
特許文献2のフィルムは、ゴム粒子が、フィルム厚み方向の中央部に偏在している。つまり、フィルムの表層部はゴム粒子が少なく、脆いことから、フィルムを異形に打ち抜き加工する際に、フィルム表層部に刃の先端が入るとフィルムに負荷がかかりやすく、クラック(ひび割れや割れ)が生じやすかった。また、フィルムを屈曲させた際に、応力が集中しやすいフィルムの表層部が脆いため、クラックが生じやすかった。このように、特許文献2のフィルムも、屈曲性や異形加工性が十分なものではなかった。
【0011】
特許文献3のフィルムは、ゴム粒子が、フィルム厚み方向の表層部に偏在している。したがって、特許文献3のフィルムは、特許文献1や2のフィルムよりも屈曲性や異形加工性は改善されていると考えられる。しかしながら、特許文献3のフィルムは、第1アクリル系樹脂層の上に、ゴム粒子を含む第2アクリル系樹脂層を積層した積層フィルムであることから、異形に打ち抜き加工した後の高温耐久試験時に、第1アクリル系樹脂層と第2アクリル系樹脂層との間で応力の差が生じやすく、これらの層間で剥離故障が生じやすいという問題があった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、脆性が良好に改善され、異形の打ち抜き加工や屈曲時にクラックや層間剥離などを生じることがなく、かつ搬送性に優れる光学フィルムおよびそれを有する偏光板、ならびに光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0014】
本発明の光学フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂と、架橋重合体を含むコア部および当該コア部を覆うシェル部を有するゴム粒子とを含む、単層の光学フィルムであって、前記ゴム粒子は、前記光学フィルムの厚み方向において、前記光学フィルムの表層部に偏在している。
【0015】
また、本発明の光学フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂と、架橋重合体を含むコア部および当該コア部を覆うシェル部を有するゴム粒子とを含む光学フィルムであって、前記ゴム粒子の存在密度は、前記光学フィルムの厚み方向において、前記光学フィルムの内部から表層部に向かって連続的に増加しており、前記光学フィルムの一方の面から前記光学フィルムの厚みの20%以下の領域を領域A1、前記光学フィルムの他方の面から前記光学フィルムの厚みの20%以下の領域を領域A2、前記光学フィルムの一方または他方の面から前記光学フィルムの厚みの20%超80%未満の領域を領域Bとしたとき、前記領域A1におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA1の、前記領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RBに対する比(RA1/RB)、および前記領域A2におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA2の、前記領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RBに対する比(RA2/RB)は、それぞれ1.02~1.5である。
【0016】
本発明の偏光板は、偏光子と、前記偏光子の少なくとも一方の面に配置された、本発明の光学フィルムとを含む。
【0017】
本発明の光学フィルムの製造方法は、(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子と、溶媒とを含むドープを得る工程と、前記ドープを支持体上に流延した後、乾燥および剥離して、残留溶媒量が25質量%以上の膜状物を得る工程と、前記膜状物を、前記(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)以下の温度で延伸する工程と、延伸後の前記膜状物を、前記(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)以下の温度でさらに乾燥させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、脆性が良好に改善され、異形の打ち抜き加工や屈曲時にクラックや層間剥離などを生じることがなく、かつ搬送性に優れる光学フィルムおよびそれを有する偏光板、ならびに光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、車載用フリーフォームディスプレイの一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の光学フィルムの一例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の偏光板の一例を示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、実施例で試験用に異形打抜きを行ったフィルムの形状および寸法を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは鋭意検討した結果、(メタ)アクリル系樹脂と、コアシェル型のゴム粒子とを含む単層フィルムであって、当該ゴム粒子がフィルムの表層部に偏在した光学フィルムは、異形の打ち抜き加工時にクラックや層間剥離などを生じることがなく、脆性が改善され、かつ搬送性に優れることを見出した。
【0021】
この理由は明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、ゴム粒子をフィルムの表層部に偏在させることで、フィルム全体に均一に分散させた場合よりもフィルムのコシが損なわれにくいため、搬送性が高まりやすい。また、異形打ち抜き加工時や屈曲時に最も負荷がかかるフィルムの表層部にゴム粒子が偏在しているため、表層部の脆性を大幅に改善することができる。それにより、フィルムの表層部の応力を分散させることができるため、異形打ち抜き加工時や屈曲時に、フィルムの表層部にクラックなどが生じるのを抑制することもできる。さらに、単層フィルムにおいて、コアシェル型のゴム粒子を、フィルムの表層部に偏在させる;すなわち、ゴム粒子の存在密度(光学フィルムの断面における、ゴム粒子の単位面積当たりの含有量)を、フィルムの厚み方向で連続的に変化させることで、従来のような積層フィルムとは異なり、層間での応力差を少なくすることができる。それにより、異形打ち抜き加工時などにおける層間剥離を抑制しうる。
【0022】
単層フィルム中でゴム粒子を偏在させる方法は、特に制限されないが、例えば溶液流延方式によるフィルム製膜時において、剥離時の残留溶媒量を高くしたり、延伸後の膜状物の乾燥温度を低くしたり、溶媒の揮発性の良好な(メタ)アクリル系樹脂や溶媒との親和性が高いゴム粒子などを選択したり、有機微粒子や無機微粒子などをさらに添加したりすることによって調整することができる。
【0023】
1.光学フィルム
本発明の光学フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含む。
【0024】
1-1.(メタ)アクリル系樹脂
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体であってもよいし、(メタ)アクリル酸エステルとそれと共重合可能な共重合モノマーとの共重合体であってもよい。なお、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸メチルであることが好ましい。
【0025】
すなわち、(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含み、メタクリル酸メチル以外の共重合モノマー(以下、単に「共重合モノマー」という)に由来する構造単位をさらに含むことが好ましい。
【0026】
共重合モノマーの例には、
アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、六員環ラクトン(メタ)アクリル酸エステルなどのアルキル基の炭素数が1~20のアクリル酸エステルまたはアルキル基の炭素数が2~20のメタクリル酸エステル類;
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル類;
ビニルシクロヘキサンなどの脂環式ビニル類;
(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリロニトリル-スチレン共重合体などの不飽和ニトリル類;
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステルなどの不飽和カルボン酸類;
酢酸ビニル、エチレンやプロピレンなどのオレフィン類;
塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類;
(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、プロピル(メタ)アクリルアミド、ブチル(メタ)アクリルアミド、tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、フェニル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類;
(メタ)アクリル酸グリシジルなどの不飽和グリシジル類;
N-フェニルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミドなどのマレイミド類が含まれる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
中でも、後述する溶液流延方式において、ドープ中の溶媒フィルム製膜時の溶媒の揮発を促進し、ゴム粒子をフィルムの表層部に偏在させやすくする観点では、嵩高い構造を有する共重合モノマーが好ましい。
【0028】
嵩高い構造を有する共重合モノマーの例には、
(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、六員環ラクトン(メタ)アクリル酸エステルなどのシクロ環を有する(メタ)アクリル酸エステル;ビニルシクロヘキサンなどの脂環式ビニル類;およびN-フェニルマレイミドなどのマレイミド類からなる群より選ばれるシクロ環を有する共重合モノマー;
(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどの共重合モノマーが含まれる。
中でも、嵩高い構造を有する共重合モノマーは、シクロ環を有する(メタ)アクリル酸エステル類、マレイミド類からなる群より選ばれるシクロ環を有する共重合モノマー、分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、およびそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0029】
共重合モノマーに由来する構造単位の含有量(好ましくは嵩高い構造を有する共重合モノマーに由来する構造単位の含有量)は、(メタ)アクリル系樹脂を構成する構造単位の合計100質量%に対して0~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のモノマーの種類や組成は、1H-NMRにより特定することができる。
【0030】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、115~160℃であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のTgが115℃以上であると、光学フィルムの耐熱性が高まりやすく、160℃以下であると、例えばシクロ環またはマレイミド環を有する共重合モノマーに由来する構造単位の含有量を多くしすぎる必要がないため、光学フィルムの靱性が損なわれにくい。(メタ)アクリル系樹脂のTgは、125~160℃であることが好ましく、125~150℃であることがより好ましい。
【0031】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012に準拠して測定することができる。
【0032】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、モノマーの種類や組成によって調整することができる。(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を高めるためには、例えば前述のシクロ環を有する共重合モノマーの含有比率を多くすればよい。
【0033】
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば20万~200万であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量Mwが上記範囲であると、フィルムに十分な機械的強度(靱性)を付与しつつ、製膜性も損なわれにくい。(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量Mwは、上記観点から、30万~200万であることがより好ましく、50万~100万であることがさらに好ましい。重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定することができる。
【0034】
1-2.ゴム粒子
ゴム粒子は、光学フィルムに柔軟性や靱性を付与しつつ、光学フィルムの表面に凹凸を形成して滑り性を付与する機能を有しうる。
【0035】
ゴム粒子は、ゴム状重合体(架橋重合体)を含むグラフト共重合体、すなわち、ゴム状重合体(架橋重合体)からなるコア部と、それを覆うシェル部とを有するコアシェル型のゴム粒子であることが好ましい。
【0036】
ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、-10℃以下であることが好ましい。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)が-10℃以下であると、フィルムに十分な靱性を付与しやすい。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、-15℃以下であることがより好ましく、-20℃以下であることがさらに好ましい。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、前述と同様の方法で測定される。
【0037】
ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、例えば構成するモノマー組成などによって調整することができる。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)を低くするためには、後述するように、例えばコア部のアクリル系ゴム状重合体(a)を構成するモノマー混合物(a’)における、アルキル基の炭素数が4以上のアクリル酸エステル/共重合可能なモノマーの合計の質量比を多くする(例えば3以上、好ましくは4以上10以下とする)ことが好ましい。
【0038】
ゴム状重合体は、ガラス転移温度が上記範囲内となるものであればよく、特に制限されないが、その例には、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、およびオルガノシロキサン系架橋重合体が含まれる。中でも、(メタ)アクリル系樹脂との屈折率差が小さく、光学フィルムの透明性が損なわれにくい観点では、(メタ)アクリル系架橋重合体が好ましく、アクリル系架橋重合体(アクリル系ゴム状重合体)がより好ましい。
【0039】
すなわち、ゴム粒子は、アクリル系ゴム状重合体(a)を含むアクリル系グラフト共重合体、すなわち、アクリル系ゴム状重合体(a)を含むコア部と、それを覆うシェル部とを有するコアシェル型の粒子であることが好ましい。当該コアシェル型の粒子は、アクリル系ゴム状重合体(a)の存在下で、メタクリル酸エステルを主成分とするモノマー混合物(b)を少なくとも1段以上重合して得られる多段重合体(または多層構造重合体)である。重合は、乳化重合法で行うことができる。
【0040】
(コア部:アクリル系ゴム状重合体(a)について)
アクリル系ゴム状重合体(a)は、アクリル酸エステルを主成分とする架橋重合体である。アクリル系ゴム状重合体(a)は、アクリル酸エステルを50~100質量%と、それと共重合可能な他のモノマー50~0質量%とを含むモノマー混合物(a’)、および、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性モノマー0.05~10質量部(モノマー混合物(a’)100質量部に対して)を重合させて得られる架橋重合体である。当該架橋重合体は、これらのモノマーを全部混合して重合させて得てもよいし、モノマー組成を変化させて2回以上で重合させて得てもよい。
【0041】
アクリル系ゴム状重合体(a)を構成するアクリル酸エステルは、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチルなどのアルキル基の炭素数1~12のアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。アクリル酸エステルは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。ゴム粒子のガラス転移温度を-15℃以下にする観点では、アクリル酸エステルは、少なくとも、炭素数4~10のアクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。
【0042】
アクリル酸エステルの含有量は、モノマー混合物(a’)100質量%に対して50~100質量%であることが好ましく、60~99質量%であることがより好ましく、70~99質量%であることがさらに好ましい。アクリル酸エステルの含有量が50重量%以上であると、フィルムに十分な靱性を付与しやすい。
【0043】
また、アクリル系ゴム状重合体(a)のガラス転移温度を-10℃以下にしやすくする観点では、前述の通り、モノマー混合物(a’)における、アルキル基の炭素数が4以上のアクリル酸アルキルエステル/それ以外の共重合可能なモノマーの合計の質量比は、3以上であることが好ましく、4以上10以下であることがより好ましい。
【0044】
共重合可能なモノマーの例には、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル;スチレン、メチルスチレンなどのスチレン類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類なども含まれる。
【0045】
多官能性モノマーの例には、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチルロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトロメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0046】
多官能性モノマーの含有量は、モノマー混合物(a’)の合計100質量%に対して0.05~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。多官能性モノマーの含有量が0.05質量%以上であると、得られるアクリル系ゴム状重合体(a)の架橋度を高めやすいため、得られるフィルムの硬度、剛性が損なわれすぎず、10質量%以下であると、フィルムの靱性が損なわれにくい。
【0047】
(シェル部:モノマー混合物(b)について)
モノマー混合物(b)は、アクリル系ゴム状重合体(a)に対するグラフト成分であり、シェル部を構成する。モノマー混合物(b)は、メタアクリル酸エステルを主成分として含むことが好ましい。
【0048】
モノマー混合物(b)を構成するメタクリル酸エステルは、メタクリル酸メチルなどのアルキル基の炭素数1~12のメタクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。メタクリル酸エステルは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0049】
メタクリル酸エステルの含有量は、モノマー混合物(b)100質量%に対して50質量%以上であることが好ましい。メタクリル酸エステルの含有量が50質量%以上であると、得られるフィルムの硬度、剛性を低下させにくくしうる。また、メチレンクロライドなどの溶媒との親和性を高める観点では、メタクリル酸エステルの含有量は、モノマー混合物(b)100質量%に対して70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0050】
モノマー混合物(b)は、必要に応じて他のモノマーをさらに含んでもよい。他のモノマーの例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルなどのアクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルなどの脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリル系モノマー類(環構造含有(メタ)アクリル系モノマー)が含まれる。
【0051】
(コアシェル型のゴム粒子:アクリル系グラフト共重合体について)
コアシェル型のゴム粒子の例には、(メタ)アクリル系ゴム状重合体(a)としてのアクリル系ゴム状重合体5~90質量部(好ましくは5~75質量部)の存在下で、メタクリル酸エステルを主成分とするモノマー混合物(b)95~25質量部を少なくとも1段階で重合させた重合体が含まれる。
【0052】
アクリル系グラフト共重合体は、必要に応じて、アクリル系ゴム状重合体(a)の内側に硬質重合体をさらに含んでもよい。そのようなアクリル系グラフト共重合体は、以下の(I)~(III)の重合工程を経て得ることができる。
(I)メタクリル酸エステル40~100質量%と、これと共重合可能な他のモノマー60~0質量%からなるモノマー混合物(c1)、および多官能性モノマー0.01~10質量部(モノマー混合物(c1)の合計100質量部に対して)を重合して硬質重合体を得る工程
(II)アクリル酸エステル60~100質量%と、これと共重合可能な他のモノマー0~40質量%からなるモノマー混合物(a1)、および多官能性モノマー0.1~5質量部(モノマー混合物(a1)の合計100質量部に対して)を重合して軟質重合体を得る工程
(III)メタクリル酸エステル60~100質量%と、これと共重合可能な他のモノマー40~0質量%からなるモノマー混合物(b1)、および多官能性モノマー0~10質量部(モノマー混合物(b1)の合計100質量部に対して)を重合して硬質重合体を得る工程
【0053】
(I)~(III)の各重合工程の間に、他の重合工程がさらに含まれてもよい。
【0054】
アクリル系グラフト共重合体は、さらに(IV)の重合工程を経て得られてもよい。
(IV)メタクリル酸エステル40~100質量%、アクリル酸エステル0~60質量%、および共重合可能な他のモノマー0~5質量%からなるモノマー混合物(b2)、ならびに多官能性モノマー0~10質量部(モノマー混合物(b2)100質量部に対して)を重合して硬質重合体を得る。
【0055】
各工程で用いられるメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、共重合可能な他のモノマー、および多官能性モノマーは、前述と同様のものを用いることができる。
【0056】
軟質層は、光学フィルムに衝撃吸収性を付与しうる。軟質層の例には、アクリル酸エステルを主成分とするアクリル系ゴム状重合体(a)からなる層が含まれる。硬質層は、光学フィルムの靱性を損ないにくくし、かつゴム粒子の製造時に、粒子の粗大化や塊状化を抑制しうる。硬質層の例には、メタクリル酸エステルを主成分とする重合体からなる層が含まれる。
【0057】
アクリル系グラフト共重合体のグラフト率(アクリル系ゴム状重合体(a)に対するグラフト成分(シェル部)の質量比)は、10~250%であることが好ましく、25~200%であることがより好ましく、40~200%であることがより好ましく、60~150%であることがさらに好ましい。グラフト率が10%以上であると、シェル部の割合が少なくなりすぎないため、フィルムの硬度や剛性が損なわれにくい。アクリル系グラフト共重合体のグラフト率が250%以下であると、アクリル系ゴム状重合体(a)の割合が少なくなりすぎないため、フィルムの靱性や脆性改善効果が損なわれにくい。
【0058】
アクリル系グラフト共重合体のグラフト率は、以下の方法で測定される。
1)アクリル系グラフト共重合体2gを、メチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpm、温度12℃にて1時間遠心し、不溶分と可溶分とに分離する(遠心分離作業を合計3回セット)。
2)得られた不溶分の重量を下記式に当てはめて、グラフト率を算出する。
グラフト率(%)=[{(メチルエチルケトン不溶分の重量)-(アクリル系ゴム状重合体(a)の重量)}/(アクリル系ゴム状重合体(a)の重量)]×100
【0059】
ゴム粒子(アクリル系グラフト共重合体)の平均粒子径は、100~400nmであることが好ましく、150~300nmであることがより好ましい。平均粒子径が100nm以上であると、フィルムに十分な靱性を付与しやすく、400nm以下であると、フィルムの透明性が低下しにくい。
【0060】
ゴム粒子(アクリル系グラフト共重合体)の平均粒子径は、フィルム表面および切片のSEM撮影またはTEM撮影によって得た粒子100個の円相当径の平均値として特定される。円相当径は、撮影によって得られた粒子の投影面積を、同じ面積を持つ円の直径に換算することによって求めることができる。この際、倍率5000倍のSEM観察および/またはTEM観察によって観察されるゴム粒子(アクリル系グラフト共重合体)を、平均粒子径の算出に使用する。なお、分散液でのゴム粒子(アクリル系グラフト共重合体)の平均粒子径は、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)で測定することができる。
【0061】
ゴム粒子の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂に対して5~40質量%であることが好ましい。ゴム粒子の含有量が5質量%以上であると、(メタ)アクリル系樹脂フィルムに十分な柔軟性や靱性を付与しやすいだけでなく、表面に凹凸を形成して滑り性も付与しうる。40質量%以下であると、ヘイズが上昇しすぎない。ゴム粒子の含有量は、上記観点から、(メタ)アクリル系樹脂に対して7~30質量%であることがより好ましく、8~25質量%であることがさらに好ましい。
【0062】
1-3.微粒子
本発明の光学フィルムは、光学フィルムの滑り性をさらに高めつつ、フィルムの表層部にゴム粒子をより偏在させやすくする観点などから、無機微粒子または有機微粒子をさらに含むことが好ましい。
【0063】
無機微粒子を構成する無機材料の例には、二酸化珪素(SiO2)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、およびリン酸カルシウムが含まれる。中でも、得られるフィルムのヘイズの増大を少なくするためには、二酸化ケイ素が好ましい。
【0064】
有機微粒子は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の粒子であることが好ましい。有機微粒子のガラス転移温度が80℃以上であると、延伸時に有機微粒子が膜状物の表面に出てきやすいため、表面に凹凸を形成しやすい。それにより、得られる光学フィルムの滑り性を高めやすい。有機微粒子のガラス転移温度は、100℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度は、前述と同様の方法で測定される。
【0065】
有機微粒子のガラス転移温度(Tg)は、有機微粒子を構成するモノマー組成によって調整されうる。有機微粒子のガラス転移温度(Tg)を高くするためには、例えば後述する多官能モノマーに由来する構造単位の含有量を多くすることが好ましい。
【0066】
有機微粒子を構成する樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が上記範囲となるようなものであればよく、その例には、(メタ)アクリル酸エステル類、イタコン酸ジエステル類、マレイン酸ジエステル類、ビニルエステル類、オレフィン類、スチレン類、(メタ)アクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルケトン類、不飽和ニトリル類、不飽和カルボン酸類、および多官能モノマー類からなる群より選ばれる1以上に由来する構造単位を含む重合体や、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリフェニレンスルフィドなどが含まれる。
【0067】
上記重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル類、オレフィン類、スチレン類、(メタ)アクリルアミド類、不飽和ニトリル類、不飽和カルボン酸類および多官能モノマー類は、上記(メタ)アクリル系樹脂や上記アクリル系ゴム状重合体(a)を構成するモノマーとして挙げたものと同様のものを用いることができる。イタコン酸ジエステル類の例には、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジプロピルが含まれる。マレイン酸ジエステル類の例には、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピルが含まれる。ビニルエステル類の例には、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルフェニルアセテート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニルが含まれる。アリル化合物の例には、酢酸アリル、カプロン酸アリル、ラウリン酸アリル、安息香酸アリルなどが含まれる。ビニルエーテル類の例には、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテルなどが含まれる。ビニルケトン類の例には、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メトキシエチルビニルケトンなどが含まれる。
【0068】
中でも、(メタ)アクリル系樹脂との親和性が高く、応力に対する柔軟性があり、かつガラス転移温度を上記範囲に調整しやすい観点などから、(メタ)アクリル酸エステル類、ビニルエステル類、スチレン類、オレフィン類からなる群より選ばれる1以上に由来する構造単位と、多官能モノマー類に由来する構造単位とを含む共重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル類に由来する構造単位と、多官能モノマー類に由来する構造単位とを含む共重合体がより好ましく、(メタ)アクリル酸エステル類に由来する構造単位と、スチレン類に由来する構造単位と、多官能モノマー類に由来する構造単位とを含む共重合体がさらに好ましい。
【0069】
有機微粒子が、多官能モノマーに由来する構造単位を含む場合、有機微粒子における多官能モノマーに由来する構造単位の含有量は、通常、ゴム粒子における多官能モノマーに由来する構造単位の含有量よりも多い。具体的には、上記共重合体を構成する多官能モノマー以外のモノマーに由来する構造単位の合計100質量%に対して、例えば50~500質量%でありうる。
【0070】
このような重合体からなる粒子(重合体粒子)は、任意の方法、例えば乳化重合、懸濁重合、分散重合、シード重合などの方法により製造されうる。中でも、粒子径が揃った重合体粒子が得られやすい観点などから、水性媒体下でのシード重合や乳化重合が好ましい。
【0071】
重合体粒子の製造方法としては、例えば、
・単量体混合物を水性媒体に分散させた後、重合させる1段重合法、
・単量体を水性媒体中で重合させることで種粒子を得た後、単量体混合物を種粒子に吸収させた後、重合させる2段重合法、
・2段重合法の種粒子を製造する工程を繰り返す多段重合法などが挙げられる。これらの重合法は、重合体粒子の所望する平均粒子径に応じて適宜選択できる。なお、種粒子を製造するための単量体は、特に限定されず、重合体粒子用の単量体をいずれも使用できる。
【0072】
有機微粒子は、コアシェル型の粒子であってもよい。そのような有機微粒子は、例えば(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体あるいは共重合体を含む低Tgのコア部と、高Tgのシェル部とを有する粒子などでありうる。
【0073】
有機微粒子と(メタ)アクリル系樹脂との屈折率差の絶対値Δnは、得られるフィルムのヘイズ上昇を高度に抑制する観点では、0.1以下であることが好ましく、0.085以下であることがより好ましく、0.065以下であることがさらに好ましい。
【0074】
有機微粒子の平均粒子径は、0.04~2μmであることが好ましく、0.08~1μmであることがより好ましい。有機微粒子の平均粒子径が0.04μm以上であると、得られるフィルムに十分な滑り性を付与しやすい。有機微粒子の平均粒子径が2μm以下であると、ヘイズの上昇を抑制しやすい。有機微粒子の平均粒子径は、ゴム粒子の平均粒子径と同様の方法で測定することができる。
【0075】
有機微粒子の平均粒子径は、凝集性の粒子であれば、凝集体の平均大きさ(平均二次粒径)を意味し、非凝集性の粒子であれば、一粒子のサイズを測定した平均値を意味する。
【0076】
中でも、光学フィルムのヘイズを増大させにくく、かつ光学フィルムの靱性が損われにくい観点では、光学フィルムは、有機微粒子を含むことがより好ましい。
【0077】
微粒子の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂に対して0.3~3質量%であることが好ましい。微粒子の含有量が0.03質量%以上であると、光学フィルムに十分な滑り性を付与しうるだけでなく、溶液流延方式におけるフィルム製膜時に、樹脂同士の間に隙間(ボイド)を形成しやすい。それにより、ドープ中または膜状物中における溶媒の揮発速度を高めやすいため、得られる光学フィルムの表層部にゴム粒子を偏在させやすい。微粒子の含有量が1.0質量%以下であると、ヘイズの上昇を抑制しやすい。微粒子の含有量は、0.5~2質量%であることがより好ましく、0.7~2質量%であることがさらに好ましい。
【0078】
1-4.その他の成分
本発明の光学フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分の例には、残留溶媒や紫外線吸収剤、酸化防止剤などが含まれる。
【0079】
例えば、本発明の光学フィルムは、後述するように溶液流延方式により製造されることから、溶液流延方式で用いられるドープの溶媒に由来する残留溶媒を含んでいてもよい。
【0080】
残留溶媒量は、光学フィルムに対して700ppm以下であることが好ましく、30~700ppmであることがより好ましい。残留溶媒の含有量は、後述する光学フィルムの製造工程における、支持体上に流延させたドープの乾燥条件によって調整されうる。
【0081】
光学フィルムにおける残留溶媒の含有量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより測定することができる。ヘッドスペースガスクロマトグラフィー法では、試料を容器に封入し、加熱し、容器中に揮発成分が充満した状態で速やかに容器中のガスをガスクロマトグラフに注入し、質量分析を行って化合物の同定を行いながら揮発成分を定量するものである。ヘッドスペース法では、ガスクロマトグラフにより、揮発成分の全ピークを観測することを可能にするとともに、電磁気的相互作用を利用した分析法を用いることによって、高精度で揮発性物質やモノマー等を定量をも併せて行うことができる。
【0082】
1-5.層構成・物性
(RA1/RBおよびRA2/RB)
本発明の光学フィルムは、1つの層(単層)で構成された単層フィルムであることが好ましい。単層フィルムとは、具体的には、複数のフィルムや層の貼り合わせや共押出、共流延などの工程を経て得られた積層フィルムとは異なるものである。単層フィルムであるかどうかは、例えば光学フィルムの断面をTEM観察したときに、フィルムの表面から1~20μmの厚みの範囲で、層と層の境界線が確認できないことによって確認することができる。
【0083】
そして、本発明の光学フィルムにおいて、ゴム粒子は、光学フィルムの厚み方向において、光学フィルムの表層部に偏在している。ゴム粒子は、光学フィルムの厚み方向において、光学フィルムの一方の表層部のみに偏在していてもよいし、光学フィルムの一方の表層部と他方の表層部にそれぞれ偏在していてもよい。中でも、屈曲性を高めやすくする観点では、ゴム粒子は、光学フィルムの一方の表層部と他方の表層部の両方に偏在していることが好ましい。
【0084】
図2は、本発明の光学フィルム100の一例を示す断面模式図である。
【0085】
図2に示されるように、本発明の光学フィルム100は、その厚み方向において、光学フィルム100の一方の面から光学フィルム100の厚みの20%以下の領域を領域A1、光学フィルム100の他方の面から光学フィルム100の厚みの20%以下の領域を領域A2、光学フィルム100の一方の面または他方の面から光学フィルム100の厚みの20%超80%未満の領域を領域B(領域A1とA2とで挟まれた領域)としたとき、領域A1におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
A1および領域A2におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
A2は、領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R
Bよりも高いことが好ましい。
【0086】
領域A1におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA1は、下記式で表される。
面積率RA1(%)=領域A1におけるゴム粒子の合計面積/領域A1の面積×100
領域A2におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA2、および領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RBも、それぞれ同様に定義される。
【0087】
具体的には、面積率RA1の面積率RBに対する比(RA1/RB)、および面積率RA2の面積率RBに対する比(RA2/RB)は、それぞれ1.01以上2.0未満であることが好ましい。RA1/RBおよびRA2/RBがそれぞれ1.01以上であると、ゴム粒子がフィルムの表層部に十分に偏在している。そのため、異形打ち抜き加工や屈曲時に最も応力が加わる光学フィルムの表層部に十分な柔軟性や靱性を付与しうるため、異形打ち抜き加工時や屈曲時のクラックなどを十分に抑制することができる。また、RA1/RB(RA2/RB)が2.0未満であると、フィルムの表層部と内部とで靱性の差が大きくなりすぎないため、光学フィルムを屈曲させた時や偏光板の状態でヒートサイクル試験を行った時でも、光学フィルムの内部で応力差が生じにくい。これらの観点から、光学フィルム100のRA1/RBおよびRA2/RBは、それぞれ1.02~1.5であることがより好ましく、1.25~1.45であることがさらに好ましい。
【0088】
得られた光学フィルムのRA1/RBおよびRA2/RBは、以下の方法で測定することができる。
1)光学フィルムをミクロトームで切断し、光学フィルムの表面に垂直な切断面を得る。得られた光学フィルムの切断面を、TEM観察する。観察条件は、加速電圧(試料に照射する電子エネルギー):30kV、作動距離(レンズと試料の間の距離):8.6mm×倍率:3.00kとしうる。観察領域は、光学フィルムの厚み方向の全部を含む領域とする。
2)得られたTEM画像を、NiVision(ナショナルインスツルメンツ社製)の画像処理ソフトを用いて輝度傾斜を除去した後、オープニング処理を行い、バルクとゴム粒子とのコントラスト差を検出する。それにより、ゴム粒子の分布状態を特定することができる。
3)上記2)で得られた画像処理後の画像において、光学フィルムの厚み方向において、光学フィルムの一方の面からフィルム厚みの20%以下の領域A1におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA1、光学フィルムの他方の面からフィルム厚みの20%以下の領域A2におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA2、および領域A1と領域A2で挟まれた領域B(光学フィルムの一方の面または他方の面からフィルム厚みの20%超80%未満の領域)におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RBをそれぞれ算出する。
4)上記3)で得られた結果から、領域A1におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA1の、領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RBに対する比(RA1/RB)を算出する。同様に、領域A2におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA2の、領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RBに対する比(RA2/RB)を算出する。
【0089】
ゴム粒子を偏在させる方法は、特に制限されないが、主に、溶液流延方式による製膜時において、流延されたドープ中や剥離後の膜状物中のゴム粒子の拡散挙動によって調整することができる。ゴム粒子の拡散挙動は、例えばドープや膜状物の乾燥条件(剥離時の残留溶媒量や乾燥温度、時間など)や(メタ)アクリル系樹脂の種類、ゴム粒子と溶媒との親和性などによって調整できる。したがって、光学フィルムの表層部(領域A1、A2)にゴム粒子を多く偏在させるためには、後述するように、剥離時の膜状物の残留溶媒量を多くし、かつ剥離後の膜状物の乾燥温度をTg以下と低くすることが好ましい。さらには、(メタ)アクリル系樹脂として、溶媒を揮発させやすい嵩高い共重合モノマーに由来する構造単位を含む(メタ)アクリル系樹脂を選択したり、溶媒との親和性が高いゴム粒子を選択したりすることがより好ましい。
【0090】
また、光学フィルム100は、当該フィルムの断面において、ゴム粒子の存在密度が、当該フィルムの厚み方向に連続的に変化している。具体的には、光学フィルム100は、ゴム粒子の存在密度が、光学フィルムの厚み方向の内部から表層部に向かうにつれて連続的に増加している、つまり、本発明の光学フィルムの断面において、ゴム粒子の単位面積当たりの面積率が、光学フィルムの厚み方向の内部から表層部に向かうにつれて、連続的に増加している。連続的に増加しているとは、直線的に増加する態様、曲線的に増加する態様、多段階的で増加する態様のいずれであってもよい。
【0091】
そのため、ゴム粒子を含まない(メタ)アクリル系樹脂層を、ゴム粒子を含む(メタ)アクリル系樹脂層で挟んだ積層フィルムと比べて、層間での応力差を少なくすることができるため、層間剥離なども高度に抑制できる。
【0092】
(ヘイズ)
本発明の光学フィルムは、透明性が高いことが好ましい。光学フィルムのヘイズは、4.0%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。ヘイズは、試料40mm×80nmを25℃、60%RHでヘイズメーター(HGM-2DP、スガ試験機)でJISK-6714に従って測定することができる。
【0093】
(位相差RoおよびRt)
本発明の光学フィルムは、例えばIPSモード用の位相差フィルムとして用いる観点では、測定波長550nm、23℃55%RHの環境下で測定される面内方向の位相差Roは、0~10nmであることが好ましく、0~5nmであることがより好ましい。本発明の光学フィルムの厚み方向の位相差Rtは、-20~20nmであることが好ましく、-10~10nmであることがより好ましい。
【0094】
RoおよびRtは、それぞれ下記式で定義される。
式(2a):Ro=(nx-ny)×d
式(2b):Rt=((nx+ny)/2-nz)×d
(式中、
nxは、フィルムの面内遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率を表し、
nyは、フィルムの面内遅相軸に直交する方向の屈折率を表し、
nzは、フィルムの厚み方向の屈折率を表し、
dは、フィルムの厚み(nm)を表す。)
【0095】
本発明の光学フィルムの面内遅相軸とは、フィルム面において屈折率が最大となる軸をいう。(メタ)アクリル系樹脂フィルムの面内遅相軸は、自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)により確認することができる。
【0096】
RoおよびRtは、以下の方法で測定することができる。
1)本発明の光学フィルムを23℃55%RHの環境下で24時間調湿する。このフィルムの平均屈折率をアッベ屈折計で測定し、厚みdを市販のマイクロメーターを用いて測定する。
2)調湿後のフィルムの、測定波長550nmにおけるリターデーションRoおよびRtを、それぞれ自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)を用いて、23℃55%RHの環境下で測定する。
【0097】
本発明の光学フィルムの位相差RoおよびRtは、例えば(メタ)アクリル系樹脂の種類によって調整することができる。光学フィルムの位相差RoおよびRtを低くするためには、延伸によって位相差が出にくい(メタ)アクリル系樹脂を用いる(例えば負の複屈折を有するモノマー由来の構造単位と、正の複屈折を有するモノマー由来の構造単位とで位相差を相殺できるようなモノマー比率にする)ことが好ましい。
【0098】
(厚み)
本発明の光学フィルムの厚みは、例えば5~100μm、好ましくは5~40μmとしうる。
【0099】
2.光学フィルムの製造方法
本発明の光学フィルムは、溶液流延方式(キャスト法)で製造されてもよいし、溶融流延方式(メルト)で製造されてもよい。中でも、使用できる材料の制限が少ない観点などから、溶液流延方式(キャスト法)が好ましい。
【0100】
すなわち、本発明の光学フィルムは、1)少なくとも前述の(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子と、溶媒とを含むドープを得る工程と、2)得られたドープを支持体上に流延し、乾燥および剥離して、膜状物を得る工程と、3)得られた膜状物を、所定の温度で延伸する工程と、4)延伸後の膜状物を、所定の温度でさらに乾燥させる工程と、を経て製造されうる。
【0101】
1)の工程について
前述の(メタ)アクリル系樹脂とゴム粒子とを、溶媒に溶解または分散させて、ドープを調製する。
【0102】
ドープに用いられる溶媒は、少なくとも(メタ)アクリル系樹脂を溶解させうる有機溶媒(良溶媒)を含む。良溶媒の例には、メチレンクロライドなどの塩素系有機溶媒や;酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフランなどの非塩素系有機溶媒が含まれる。中でも、メチレンクロライドが好ましい。
【0103】
ドープに用いられる溶媒は、貧溶媒をさらに含んでいてもよい。貧溶媒の例には、炭素原子数1~4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールが含まれる。ドープ中のアルコールの比率が高くなると、膜状物がゲル化しやすく、金属支持体からの剥離が容易になりやすい。炭素原子数1~4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールを挙げることができる。これらのうちドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいことなどからエタノールが好ましい。
【0104】
ドープの調製は、前述の溶媒に、(メタ)アクリル系樹脂、およびゴム粒子をそれぞれ直接添加し、混合して調製してもよいし;前述の溶媒に、(メタ)アクリル系樹脂を溶解させた樹脂溶液と、前述の溶媒に、ゴム粒子および必要に応じて有機微粒子を分散させた微粒子分散液とを予め調製しておき、それらを混合して調製してもよい。
【0105】
有機微粒子の添加方法は、特に制限されず、有機微粒子を個別に溶媒に添加してもよいし、有機微粒子の集合体として溶媒に添加してもよい。有機微粒子の集合体は、相互の連結(融着)が抑制された複数の有機微粒子の集合体からなる。そのため、取り扱い性に優れ、(メタ)アクリル系樹脂や溶媒に、有機微粒子の集合体を分散させれば、容易に有機微粒子に別れるため、有機微粒子の分散性を良好としうる。有機微粒子の集合体は、例えば、有機微粒子と、無機粉末とを含むスラリーを噴霧乾燥させることによって得ることができる。
【0106】
2)の工程について
得られたドープを、支持体上に流延する。ドープの流延は、流延ダイから吐出させて行うことができる。
【0107】
次いで、支持体上に流延されたドープ中の溶媒を蒸発させ、乾燥させる。乾燥されたドープを支持体から剥離して、膜状物を得る。
【0108】
支持体から剥離する際のドープの残留溶媒量(剥離時の膜状物の残留溶媒量)は、得られる光学フィルムの表層部にゴム粒子を偏在させやすくする観点では、25質量%以上であることが好ましく、30~37質量%であることがより好ましく、30~35質量%であることがさらに好ましい。剥離時の残留溶媒量が25質量%以上であると、剥離後の膜状物から溶媒を一気に揮発させやすくなるため、光学フィルムの一方の表層部と他方の表層部に、それぞれゴム粒子を偏在させやすい。また、剥離時の残留溶媒量が37質量%以下であると、剥離による膜状物が伸びすぎるのを抑制できる。
【0109】
剥離時のドープの残留溶媒量は、下記式で定義される。以下においても同様である。
ドープの残留溶媒量(質量%)=(ドープの加熱処理前質量-ドープの加熱処理後質量)/ドープの加熱処理後質量×100
尚、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、140℃30分の加熱処理をいう。
【0110】
剥離時の残留溶媒量は、支持体上でのドープの乾燥温度や乾燥時間、支持体の温度などによって調整することができる。
【0111】
3)の工程について
剥離して得られた膜状物を、乾燥させながら延伸する。
【0112】
延伸は、求められる光学特性に応じて行えばよく、少なくとも一方の方向に延伸することが好ましく、互いに直交する二方向に延伸(例えば、膜状物の幅方向(TD方向)と、それと直交する搬送方向(MD方向)の二軸延伸)してもよい。
【0113】
延伸倍率は、光学フィルムを、例えばIPS用の位相差フィルムとして用いる観点では、1.01~2倍とすることができる。延伸倍率は、(延伸後のフィルムの延伸方向大きさ)/(延伸前のフィルムの延伸方向大きさ)として定義される。なお、二軸延伸を行う場合は、TD方向とMD方向のそれぞれについて、上記延伸倍率とすることが好ましい。
【0114】
なお、光学フィルムの面内遅相軸方向(面内において屈折率が最大となる方向)は、通常、延伸倍率が最大となる方向である。
【0115】
延伸温度(乾燥温度)は、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、主成分となる溶媒の沸点以上かつTg(℃)以下であることが好ましく、(Tg-60)℃~Tg℃であることがより好ましく、(Tg-60)℃~(Tg-30)℃であることがさらに好ましい。延伸温度が(Tg-60)℃以上であると、溶媒が適度に揮発しやすいため、溶媒を膜状物の表層部に拡散させやすくすると共に、(溶媒とともに)ゴム粒子も膜状物の表層部に拡散させやすくしうる。延伸温度がTg以下であると、溶媒が揮発しすぎないため、剥離時の残留溶媒量を一定以上に調整しやすい。延伸温度は、具体的には、38~90℃としうる。
【0116】
延伸温度は、(a)テンター延伸機などのように非接触加熱型で乾燥させる場合は、延伸機内温度または熱風温度などの雰囲気温度、(b)熱ローラーなどの接触加熱型で乾燥させる場合は、接触加熱部の温度、あるいは(c)膜状物(被乾燥面)の表面温度のいずれかの温度として測定することができる。中でも、(a)延伸機内温度または熱風温度などの雰囲気温度を測定することが好ましい。
【0117】
延伸開始時の膜状物中の残留溶媒量は、剥離時の膜状物中の残留溶媒量と同程度であることが好ましく、例えば20~30質量%であることが好ましく、25~30質量%であることがより好ましい。
【0118】
膜状物のTD方向(幅方向)の延伸は、例えば膜状物の両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げる方法(テンター法)で行うことができる。膜状物のMD方向の延伸は、例えば複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用する方法(ロール法)で行うことができる。
【0119】
4)の工程について
延伸後に得られた膜状物をさらに乾燥させる。具体的には、延伸後に得られた膜状物を、ロールなどで搬送しながらさらに乾燥させた後、例えばロール状に巻き取り、光学フィルムを得る。
【0120】
乾燥温度は、上記3)の工程の延伸温度と同様に、(Tg-60)℃~Tg℃であることがより好ましく、(Tg-60)℃~(Tg-30)℃であることがさらに好ましい。それにより、延伸後の膜状物中で(メタ)アクリル系樹脂が流動しにくいため、形成されたゴム粒子の偏在状態を維持しやすくしうる。乾燥温度は、上記3)の工程の延伸温度と同じであってもよいし、それよりも低い温度であってもよい。
【0121】
乾燥温度は、前述と同様に、(a)乾燥炉や熱風送風機などのように非接触加熱型の乾燥装置で乾燥させる場合は、炉内温度または熱風温度などの雰囲気温度、(b)熱ローラーなどの接触加熱型で乾燥させる場合は、接触加熱部の温度、あるいは(c)膜状物(被乾燥面)の表面温度のいずれかの温度として測定することができる。中でも、(a)延伸機内温度または熱風温度などの雰囲気温度を測定することが好ましい。
【0122】
得られる本発明の光学フィルムは、搬送性に優れる。そのため、搬送時のフィルムの滑りも良好であり、得られるフィルムに傷なども付きにくくしうる。
【0123】
なお、本発明の光学フィルムは、上記方法以外の他の方法、例えば(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含むベースフィルムの表面に、ゴム粒子との親和性が高い溶媒を塗布した後、乾燥させて(溶媒処理して)得ることもできる。
【0124】
ベースフィルムは、溶液流延方式(キャスト法)で製造されたものであってもよいし、溶融流延方式(メルト法)で製造されたものであってもよい。ゴム粒子との親和性が高い溶媒の例には、上記良溶媒と同様のものが挙げられ、好ましくはメチレンクロライドである。
【0125】
溶媒の塗布量や静置時間・温度は、ベースフィルム中のゴム粒子が表層部に拡散しうる程度であればよい。溶媒の塗布量は、例えば湿潤厚みでベースフィルムの20%以下の範囲でありうる。静置温度は、溶媒が揮発しない程度の温度であればよく、溶媒の沸点よりも8℃以上低い温度でありうる。静置時間は、例えば10~20分間でありうる。
【0126】
乾燥温度は、溶媒が揮発する温度であればよく、例えば(Tg-60)~Tg℃であることがより好ましく、(Tg-60)~(Tg-30)℃であることがさらに好ましい。例えば、38~90℃である。乾燥温度は、上記3)や4)の工程における乾燥温度と同様に定義されうる。
【0127】
このように、ゴム粒子を含むベースフィルムの表面に、ゴム粒子との親和性が高い溶媒を塗布および乾燥させる。それにより、ベースフィルム中のゴム粒子を、溶媒との親和性を利用して、フィルムの表層部に偏在させることができる。
【0128】
得られる光学フィルムは、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの各種表示装置における偏光板保護フィルム(位相差フィルムも含む)として好ましく用いられる。
【0129】
3.偏光板
本発明の偏光板は、偏光子と、その少なくとも一方の面に配置された本発明の光学フィルムとを有する。
【0130】
図3は、本発明の偏光板200の一例を示す断面模式図である。
【0131】
図3に示されるように、本発明の偏光板200は、偏光子210と、その両面に配置された偏光板保護フィルム220Aおよび220Bと、偏光板保護フィルム220Aおよび220Bと偏光子210との間に配置された接着剤層230Aおよび230Bとを有する。偏光板保護フィルム220Aおよび220Bのうち少なくとも一方が、本発明の光学フィルムである。
【0132】
3-1.偏光子210
偏光子210は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、ポリビニルアルコール系偏光フィルムである。ポリビニルアルコール系偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
【0133】
ポリビニルアルコール系偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸した後、ヨウ素または二色性染料で染色したフィルム(好ましくはさらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよいし;ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素または二色性染料で染色した後、一軸延伸したフィルム(好ましくは、さらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよい。偏光子の吸収軸は、通常、最大延伸方向と平行である。
【0134】
例えば、特開2003-248123号公報、特開2003-342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1~4モル%、重合度2000~4000、けん化度99.0~99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールが用いられる。
【0135】
偏光子210の厚みは、5~30μmであることが好ましく、偏光板を薄型化するため等から、5~20μmであることがより好ましい。
【0136】
3-2.偏光板保護フィルム220Aおよび220B
偏光板保護フィルム220Aおよび220Bは、偏光子210の両面に、接着剤層230Aおよび230Bを介してそれぞれ配置されている。偏光板保護フィルム220Aおよび220Bの少なくとも一方は、本発明の光学フィルムである。偏光板保護フィルム220Aおよび220Bの一方のみが本発明の光学フィルムである場合、他方は、他の光学フィルムであってもよい。
【0137】
他の光学フィルムの例には、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタックKC8UX、KC5UX、KC4UX、KC8UCR3、KC4SR、KC4BR、KC4CR、KC4DR、KC4FR、KC4KR、KC8UY、KC6UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY-HA、KC2UA、KC4UA、KC6UA、KC8UA、KC2UAH、KC4UAH、KC6UAH、以上コニカミノルタ(株)製、フジタックT40UZ、フジタックT60UZ、フジタックT80UZ、フジタックTD80UL、フジタックTD60UL、フジタックTD40UL、フジタックR02、フジタックR06、以上富士フィルム(株)製)などが含まれる。
【0138】
他の光学フィルムの厚みは、偏光板のクラックを抑制する観点では厚いほうが好ましく、例えば5~100μm、好ましくは40~80μmとしうる。
【0139】
3-3.接着剤層230Aおよび230B
接着剤層230Aおよび230Bは、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液(水糊)、または活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化物でありうる。活性エネルギー線硬化性接着剤は、光ラジカル重合を利用した光ラジカル重合型組成物、光カチオン重合を利用した光カチオン重合型組成物、またはそれらの併用物のいずれであってもよい。
【0140】
3-3.偏光板の製造方法
本発明の偏光板200は、偏光子210と、偏光板保護フィルム220Aおよび220Bとを、接着剤を介して貼り合わせて得ることができる。接着剤は、前述の接着剤を用いることができる。
【0141】
得られた偏光板200は、用途に応じて任意の形状または大きさに打ち抜き加工される。例えば、偏光板200は、角が丸い形状、複雑な曲面を持った形状、または中央部に穴が開いた形状などの任意の形状に打ち抜かれる。このように、偏光板200を異形に打ち抜く際、偏光板保護フィルム220Aおよび220Bには、刃の先端の力が集中しやすい。また、偏光板200を屈曲させた際にも、偏光板保護フィルム220Aや220Bの表層部に応力が集中しやすい。
【0142】
これに対して本発明の偏光板200は、偏光板保護フィルム220Aおよび220Bの少なくとも一方が、本発明の光学フィルムである。本発明の光学フィルムは、前述の通り、フィルムの表層部の脆性が良好に改善されているため、偏光板200を異形に打ち抜き加工する際の光学フィルムのクラックや、それによる偏光板200のクラックを抑制できる。また、本発明の光学フィルムは、前述の通り、ゴム粒子がフィルムの厚み方向に連続的に変化している。そのため、偏光板200のヒートサイクル試験(低温保持と高温保持を繰り返す試験)においても、光学フィルムの表層部と内部との間で極端な応力差がないため、光学フィルムの層間剥離も抑制できる。
【0143】
4.液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、液晶セルの一方の面に配置された第1偏光板と、液晶セルの他方の面に配置された第2偏光板とを含む。
【0144】
液晶セルの表示モードは、例えばSTN(Super-Twisted Nematic)、TN(Twisted Nematic)、OCB(Optically Compensated Bend)、HAN(Hybridaligned Nematic)、VA(Vertical Alignment、MVA(Multi-domain Vertical Alignment)、PVA(Patterned Vertical Alignment))、IPS(In-Plane-Switching)などでありうる。中でも、VA(MVA,PVA)モードおよびIPSモードが好ましい。
【0145】
第1および第2偏光板のうち一方または両方が、本発明の偏光板である。本発明の偏光板は、本発明の光学フィルムが液晶セル側となるように配置されることが好ましい。
【実施例】
【0146】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0147】
1.光学フィルムの材料
(1)(メタ)アクリル系樹脂
(メタ)アクリル系樹脂A:ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(ガラス転移温度(Tg):100℃、重量平均分子量Mw:100万)
(メタ)アクリル系樹脂B:メタクリル酸メチル(MMA)/メタクリル酸アダマンチル(MADMA)共重合体(MMA/MADMA:85/15(質量比)、ガラス転移温度(Tg):110℃、重量平均分子量Mw:100万)
(メタ)アクリル系樹脂C:メタクリル酸メチル(MMA)/N-フェニルマレイミド(PMI)共重合体(MMA/PMI:85/15(質量比)、ガラス転移温度(Tg):120℃、重量平均分子量Mw:100万)
【0148】
(メタ)アクリル系樹脂A~Cのガラス転移温度(Tg)および重量平均分子量(Mw)は、以下の方法で測定した。
【0149】
(ガラス転移温度(Tg))
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012に準拠して測定した。
【0150】
(重量平均分子量(Mw))
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製 HLC8220GPC)、カラム(東ソー社製 TSK-GEL G6000HXL-G5000HXL-G5000HXL-G4000HXL-G3000HXL 直列)を用いて測定した。試料20mg±0.5mgをテトラヒドロフラン10mlに溶解し、0.45mmのフィルターで濾過した。この溶液をカラム(温度40℃)に100ml注入し、検出器RI温度40℃で測定し、スチレン換算した値を用いた。
【0151】
(2)ゴム粒子
<ゴム粒子C1の調製>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の化合物を仕込んだ。
脱イオン水:175質量部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸:0.104質量部
ホウ酸:0.4725質量部
炭酸ナトリウム:0.04725質量部
【0152】
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、モノマー混合物(c1)27質量部(メタクリル酸メチル97質量%、アクリル酸ブチル3質量%)およびメタクリル酸アリル0.135質量部からなる混合物の26質量%を重合機に一括で追加し、その後、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレート0.0645質量部、エチレンジアミン四酢酸-2-ナトリウム0.0056質量部、硫酸第一鉄0.0014質量部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.0207質量部を追加し、その15分後にt-ブチルハイドロパーオキサイド0.0345質量部を追加し、さらに15分重合を継続させた。
次に、水酸化ナトリウム0.0098質量部を2質量%水溶液の形態で、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.0852質量部をそのまま追加し、上記混合物の残り74質量%を60分かけて連続的に添加した。添加終了30分後に、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.069質量部を追加し、さらに30分重合を継続することにより、重合物を得た。重合転化率は100.0%であった。
【0153】
その後、水酸化ナトリウム0.0267質量部を2質量%水溶液の形態で、過硫酸カリウム0.08質量部を2質量%水溶液の形態で添加し、次いで、モノマー混合物(a1)(アクリル酸ブチル82質量%、メタクリル酸メチル18質量%)50質量部およびメタクリル酸アリル0.75質量部からなる混合物を150分かけて連続的に添加した。添加終了後、過硫酸カリウム0.015質量部を2質量%水溶液の形態で添加し、120分重合を継続し、ゴム状重合体を得た。重合転化率は99.0%であり、平均粒子径は225nmであった。
【0154】
その後、過硫酸カリウム0.023質量部を2質量%水溶液の形態で添加し、モノマー混合物(b1)15質量部(メタクリル酸メチル95質量%、アクリル酸ブチル5質量%)を45分かけて連続的に添加し、さらに30分重合を継続した。
【0155】
その後、モノマー混合物(b2)8質量部(メタクリル酸メチル52質量%、アクリル酸ブチル48質量%)を25分かけて連続的に添加し、さらに60分重合を継続することにより、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。
【0156】
得られたラテックスを塩化マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(ゴム粒子C1)を得た。ゴム粒子C1のグラフト率は24.2%であり、ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は-30℃、平均粒子径は250nmであった。
【0157】
<ゴム粒子C2の調製>
モノマー混合物(b2)の重合時間を長くした以外はゴム粒子C1と同様にしてグラフト共重合体(ゴム粒子C2)を得た。ゴム粒子C2のグラフト率は78%であり、ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は-30℃であり、平均粒子径は300nmであった。
【0158】
(3)微粒子
P1:無機微粒子(アエロジル(登録商標)R812、日本アエロジル株式会社製)
P2:以下の方法で調製した有機微粒子
【0159】
(種粒子の作製)
攪拌機、温度計を備えた重合器に、脱イオン水1000gを入れ、そこへメタクリル酸メチル50g、t-ドデシルメルカプタン6gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで加温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム1gを溶解した脱イオン水20gを添加した後、10時間重合させた。得られたエマルジョン中の種粒子の平均粒子径は、0.05μmであった。
【0160】
(有機微粒子の作製)
攪拌機、温度計を備えた重合器に、ゲル化抑制剤としてラウリル硫酸ナトリウム2.4gを溶解した脱イオン水800gを入れ、そこへモノマー混合物としてメタクリル酸メチル66g、スチレン20gおよびエチレングリコールジメタクリレート64gと、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1gとの混合液を入れた。次いで、混合液をT.Kホモミキサー(特殊機化工業社製)にて攪拌して、分散液を得た。
【0161】
得られた分散液に、上記種粒子を含むエマルジョン60gを加え、30℃で1時間攪拌して種粒子にモノマー混合物を吸収させた。次いで、吸収させたモノマー混合物を、窒素気流下で50℃、5時間加温して重合させた後、室温(約25℃)まで冷却して、重合体微粒子(有機微粒子1)のスラリーを得た。得られた有機微粒子の平均粒子径は、0.14μmであり、ガラス転移温度(Tg)は、280℃であった。
【0162】
(有機微粒子の集合体の作製)
このエマルジョンを噴霧乾燥機としての坂本技研社製のスプレードライヤー(型式:アトマイザーテイクアップ方式、型番:TRS-3WK)で次の条件下にて噴霧乾燥して、有機微粒子の集合体を得た。有機微粒子の集合体の平均粒子径は、30μmであった。
供給速度:25ml/min
アトマイザー回転数:11000rpm
風量:2m3/min
噴霧乾燥機のスラリー入口温度:100℃
重合体粒子集合体出口温度:50℃
【0163】
ゴム粒子および有機微粒子の平均粒子径は、以下の方法で測定した。
【0164】
(平均粒子径)
得られた分散液中のゴム粒子または有機微粒子の分散粒径を、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)で測定した。なお、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)を用いて測定されるゴム粒子または有機微粒子の平均粒子径は、光学フィルムをTEM観察して測定されるゴム粒子または有機微粒子の平均粒子径とほぼ一致するものである。
【0165】
2.光学フィルムの作製および評価
<光学フィルム1の作製>
(メタ)アクリル系樹脂Aのペレットを、乾燥機にて80℃で4時間乾燥させた後、φ65mm単軸押出機に供給した。押出機出口で樹脂温度が270℃となるように加熱溶融し、Tダイから溶融樹脂を押し出した。Tダイ出口における吐出直後の樹脂温度は270℃であった。吐出された溶融樹脂を、70℃に調整したキャストロールと70℃に調整したタッチロールとで挟み込み、冷却固化して、厚み140μmの原反フィルムを得た。
【0166】
得られた原反フィルムを、同時二軸延伸機(熱処理ゾーン長/延伸ゾーン長=1.0)にて、縦方向と横方向とを同時に2倍、132℃(Tg+10℃)の条件で延伸した後、熱処理ゾーンにおいて、135℃において熱処理を施し、縦方向および横方向同時に5%緩和させて、Tg以下まで冷却させた。得られたフィルムの両端を連続的にスリットした後、引き取りロールで引き取りながら巻き取り、厚み40μmの光学フィルム1を得た。
【0167】
<光学フィルム2の作製>
(ゴム粒子分散液の調製)
11.3質量部のゴム粒子C1と、200質量部のメチレンクロライドとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マイルダー分散機マイルダー分散機(大平洋機工株式会社製)を用いて1500rpm条件下で分散し、ゴム粒子分散液を得た。
【0168】
(ドープの調製)
次いで、下記組成のドープを調製した。まず、加圧溶解タンクにメチレンクロライド、およびエタノールを添加した。次いで、加圧溶解タンクに、(メタ)アクリル系樹脂を撹拌しながら投入した。次いで、上記調製した微粒子分散液を投入して、これを撹拌しながら、完全に溶解させた。得られた溶液の粘度は、16000mmPa・sであり、含水率は0.50%であった。これを、(株)ロキテクノ製のSHP150を使用して、濾過流量300L/m2・h、濾圧1.0×106Paにて濾過し、ドープを得た。
(ドープの組成)
アクリル樹脂:100質量部
メチレンクロライド:150質量部
エタノール:30質量部
ゴム分散液:200質量部
【0169】
(製膜)
無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度30℃、1800mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は28℃に制御した。ステンレスベルトの搬送速度は20m/minとした。
【0170】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したドープ中の残留溶剤量が30質量%になるまで溶媒を蒸発させた。次いで、剥離張力128N/mで、ステンレスベルト支持体から剥離し、膜状物を得た。つまり、剥離時の膜状物の残留溶媒量は30質量%であった。剥離したフィルムを多数のローラーで搬送させながら、得られた膜状物を、テンターにて60℃(Tg-60℃)の条件下で幅方向に1.2倍延伸した。その後、ロールで搬送しながら、140℃(Tg+40℃)でさらに乾燥させ、テンタークリップで挟んだ端部をレーザーカッターでスリットして巻き取り、膜厚40μmの光学フィルム2を得た。
【0171】
<光学フィルム3の作製>
(メタ)アクリル系樹脂1、ゴム粒子C1、および無機微粒子P1を表1で示される量比で含むペレットを、ダブルフライト型一軸押出機(スクリュー有効長さLとスクリュー径Dとの比L/D=28)に投入し、押出機出口温度260℃、押出機のギヤポンプの回転数6rpmで、溶融樹脂をダイスリップのマルチマニホールドダイの一方に供給した。
【0172】
同時に、(メタ)アクリル系樹脂1を含み、ゴム粒子C1を含まないペレットを、当該ダブルフライト型の一軸押出機に投入し、押出機出口温度260℃で溶融樹脂をダイスリップのマルチマニホールドダイの他方に供給した。
【0173】
そして、これらの溶融樹脂を、マルチマニホールドダイから260℃でそれぞれ吐出(共流延)させ、130℃に調整された冷却ロールにキャストし、その後、50℃に温度調整された冷却ロールに通して巻き取った。それにより、ゴム粒子C1を含まない(メタ)アクリル系樹脂層/ゴム粒子C1を含む(メタ)アクリル系樹脂層/ゴム粒子C1を含まない(メタ)アクリル系樹脂層の3層構造を有する、厚み40μmの光学フィルム3(積層フィルム)を得た。
【0174】
<光学フィルム4の作製>
(メタ)アクリル系樹脂1を含み、ゴム粒子を含まないペレットの溶融樹脂をダイスリップのマルチマニホールドダイの一方に供給し、(メタ)アクリル系樹脂1とゴム粒子C1とを含むペレットの溶融樹脂をマルチマニホールドダイの他方に供給し、ゴム粒子C1を含む(メタ)アクリル系樹脂層/ゴム粒子C1を含まない(メタ)アクリル系樹脂層/ゴム粒子C1を含む(メタ)アクリル系樹脂層の3層構造とした以外は光学フィルム3と同様にして光学フィルム4(積層フィルム)を得た。
【0175】
<光学フィルム5の作製>
ステンレスベルト支持体からの剥離時の膜状物の残留溶媒量を10%とし、かつテンターで幅方向に延伸した後の、ロール搬送時の乾燥温度を60℃(Tg-60℃)に変更した以外は光学フィルム2と同様にして、光学フィルム5を得た。
【0176】
<光学フィルム6の作製>
剥離時の膜状物の残留溶媒量を表1に示されるように変更し、かつテンターで幅方向に延伸した後のロール搬送時の乾燥温度を60℃(Tg-60)℃に変更した以外は光学フィルム2と同様にして、膜厚40μmの光学フィルム6を得た。
【0177】
<光学フィルム7の作製>
剥離時の膜状物の残留溶媒量を表1に示されるように変更した以外は光学フィルム6と同様にして、膜厚40μmの光学フィルム7を得た。
【0178】
<光学フィルム8、15の作製>
(メタ)アクリル系樹脂の種類を表1に示されるように変更した以外は光学フィルム6と同様にして、膜厚40μmの光学フィルム8および15を得た。
【0179】
<光学フィルム9の作製>
(微粒子分散液1の調製)
11.3質量部の無機微粒子P1(アエロジル(登録商標)R812、日本アエロジル株式会社製)と、84質量部のエタノールとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散し、添加液を得た。
溶解タンク中の十分攪拌されているメチレンクロライド(100質量部)に、5質量部の上記添加液を、ゆっくりと添加した。さらに、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線株式会社製のファインメットNFでろ過し、微粒子分散液1を得た。
【0180】
(ドープの調製、製膜)
得られた微粒子分散液1を、下記組成となるようにさらに添加した以外は光学フィルム8と同様にしてドープを調製し、膜厚40μmの光学フィルム9を得た。
(ドープの組成)
(メタ)アクリル系樹脂B:100質量部
メチレンクロライド:150質量部
エタノール:30質量部
ゴム分散液:200質量部
微粒子分散液1:125質量部
【0181】
<光学フィルム10の作製>
(ベースフィルムの製膜)
(メタ)アクリル系樹脂Cのペレット、ゴム粒子C1、および無機微粒子P1(アエロジル(登録商標)R812)をφ65mm単軸押出機に供給し、樹脂温度が270℃となるように加熱溶融し、Tダイから溶融樹脂を押し出した。Tダイ出口における吐出直後の樹脂温度は270℃であった。吐出された溶融樹脂を、70℃に調整したキャストロールと70℃に調整したタッチロールとで挟み込み、冷却固化して原反フィルムを得た。
【0182】
得られた原反フィルムを、同時二軸延伸機(熱処理ゾーン長/延伸ゾーン長=1.0)にて、縦方向と横方向とを同時に2倍、132℃(Tg+10℃)の条件で延伸した後、熱処理ゾーンにおいて、135℃において熱処理を施し、縦方向および横方向同時に5%緩和させて、Tg以下まで冷却させた。得られたフィルムの両端を連続的にスリットした後、引き取りロールで引き取りながら巻き取り、厚み40μmのベースフィルムを得た。
【0183】
(溶媒処理)
得られたベースフィルムの両面に、塗工機〔第一理化(株)製のバーコーター〕を用いて、メチレンクロライドを23℃の雰囲気下で塗工した。溶媒塗布後、室温~30℃で10分間静置した後、乾燥炉に10分間入れて、60℃で乾燥させて、光学フィルム10を得た。
【0184】
<光学フィルム11、12の作製>
(微粒子分散液2の調製)
1質量部の有機微粒子P2と、100質量部のメチレンクロライドとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マイルダー分散機(大平洋機工株式会社製)を用いて1500rpm条件下で分散し、微粒子分散液2を得た。
【0185】
上記調製した微粒子分散液2を用い、(メタ)アクリル系樹脂およびゴム粒子の種類、およびフィルム組成を表1に示されるようにそれぞれ変更した以外は光学フィルム9と同様にして、膜厚40μmの光学フィルム11および12を得た。
【0186】
<光学フィルム13の作製>
剥離時の膜状物の残留溶媒量を表1に示されるように変更した以外は光学フィルム12と同様にして、膜厚40μmの光学フィルム13を得た。
【0187】
<光学フィルム14の作製>
剥離時の膜状物の残留溶媒量および微粒子の含有量を表1に示されるように変更した以外は光学フィルム11と同様にして、膜厚40μmの光学フィルム14を得た。
【0188】
得られた光学フィルム1~14の、ゴム粒子の偏在状態(RA1/RB、またはRA2/RB)、MIT屈曲性、搬送性、および異形打ち抜き性を、それぞれ以下の方法で評価した。
【0189】
(RA1/RBまたはRA2/RB)
得られた光学フィルムのRA/RBは、以下の方法で測定した。
1)光学フィルムをミクロトームで切断し、光学フィルムの表面に垂直な切断面を得た。得られた光学フィルムの切断面をTEM観察した。観察条件は、加速電圧:30kV、作動距離:8.6mm×倍率:3.00kとした。観察領域は、光学フィルムの厚み方向の全部を含む領域とした。
2)得られたTEM画像を、NiVision(ナショナルインスツルメンツ社製)の画像処理ソフトを用いて輝度傾斜を除去した後、オープニング処理を行い、バルクとゴム粒子とのコントラスト差を検出した。それにより、ゴム粒子の分布状態を特定した。
3)上記2)で得られた画像処理後の画像において、光学フィルムの厚み方向において、光学フィルムの一方の面からフィルム厚みの20%以下の領域A1におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA1、光学フィルムの他方の面からフィルム厚みの20%以下の領域A2におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA2、および領域A1と領域A2で挟まれた領域B(光学フィルムの一方の面または他方の面からフィルム厚みの20%超80%未満の領域)におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RBをそれぞれ算出した。
4)上記3)で得られた結果から、領域A1におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA1の、領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RBに対する比(RA1/RB)を算出した。同様に、領域A2におけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RA2の、領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率RBに対する比(RA2/RB)を算出した。
【0190】
(MIT屈曲性)
得られた光学フィルムを、幅15mm×長さ150mmに切り出して、試験片とした。この試験片を、温度25℃、相対湿度65%RHの状態に1時間以上静置させた後、荷重500gの条件で、JIS P8115:2001に準拠してMIT屈曲試験を行い、破断するまでの回数を測定した。MIT屈曲試験は、耐折度試験機(テスター産業株式会社製、MIT、BE-201型、折り曲げ曲率半径0.38mm)を用いて行った。そして、そして、下記の評価基準で評価した。
◎:2000回以上
○:1500回以上2000回未満
△:1000回以上1500回未満
△×:500回以上1000回未満
×:500回未満
破断するまでの回数が多いほど屈曲性に優れており、繰り返しの折り曲げ耐性に優れていることを表す。
△以上であれば、良好と判断した。
【0191】
(ブロッキング:搬送性)
巻き取った光学フィルムを室温で3ヶ月間した後、フィルムを繰り出し、重なり合うフィルム同士のブロッキング(貼付き)状態を目視観察して、以下の基準で評価した。
◎:ブロッキングなし
○:ブロッキングほとんどなし
△:ブロッキング僅かにあり
×:ブロッキング著しくあり
△以上であれば、良好と判断した。
【0192】
(異形打ち抜き性)
図4は、実施例において、試験用に異形打抜きを行ったフィルムの形状および寸法を示した概略図である。得られた光学フィルムを、
図4に示される車載メーター用の形状に断裁した。なお、
図4においては、上部の凹んだカーブ部は、図形内部の2つの円と接すると想定した半径60mmの真円の外周に沿うものである。
異形に断裁したフィルムに破断が生じているか否かを光学顕微鏡にて確認し、発生したクラックの個数および剥がれをカウントした。以下の評価基準に基づき、クラックの発生した偏光板の枚数から異形打抜き性を評価した。
◎:0~1個、または剥がれ0~1か所
〇:2~3個、または剥がれ2~3か所
△:4~5個、または剥がれ4~5か所
×:6個以上、または剥がれ多数
△以上であれば、良好と判断した。
【0193】
得られた光学フィルム1~15の評価結果を、表1に示す。
【0194】
【0195】
表1に示されるように、単層フィルムであって、ゴム粒子が光学フィルムの表層部に偏在している(RA1/RBまたはRA2/RBが1超)である光学フィルム6~15は、良好なMIT屈曲性、搬送性、および異形打ち抜き性を有することがわかる。
【0196】
これに対して、ゴム粒子を含まない単層フィルムである光学フィルム1は、MIT屈曲性、搬送性および異形打ち抜き性のいずれも低いことがわかる。また、単層フィルムであっても、ゴム粒子が光学フィルムの表層部に偏在していない(RA1/RBまたはRA2/RBが1である)光学フィルム2および5は、ゴム粒子を含まない光学フィルム1よりはMIT屈曲性はいくらか改善されるものの未だ不十分であり、搬送性および異形打ち抜き性も低いことがわかる。また、積層フィルムである光学フィルム3は、表層部の脆性が低いことから、積層フィルムである光学フィルム4は、表層部と内部とで応力差が大きいことから、いずれも異形打ち抜き性が特に低いことがわかる。
【0197】
なお、光学フィルム6~15のヘイズを、ヘイズメーター(HGM-2DP、スガ試験機)を用いて、25℃60%RHでJISK-6714に従って測定したところ、いずれも0.5%以下と小さく、良好であった。
【0198】
本出願は、2018年7月31日出願の特願2018-144425に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明によれば、脆性が良好に改善され、異形の打ち抜き加工や屈曲時にクラックや層間剥離などを生じることがなく、かつ搬送性に優れる光学フィルムおよびそれを有する偏光板、ならびに光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0200】
100 光学フィルム
A1、A2、B 領域
200 偏光板
210 偏光子
220A、220B 偏光板保護フィルム
230A、230B 接着剤層