(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ガス拡散電極およびその製造方法ならびに膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20240806BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240806BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20240806BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240806BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M4/88 C
H01M8/1004
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020544861
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2020028493
(87)【国際公開番号】W WO2021020288
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2019138579
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三宅 徹
(72)【発明者】
【氏名】蓑毛 路子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 頌
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-167651(JP,A)
【文献】特開2007-005122(JP,A)
【文献】国際公開第2012/035591(WO,A1)
【文献】特開2006-114397(JP,A)
【文献】特開2003-045443(JP,A)
【文献】特開2008-198526(JP,A)
【文献】特開2016-091997(JP,A)
【文献】特開2019-200841(JP,A)
【文献】特開2019-167650(JP,A)
【文献】特開2009-079319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 4/88
H01M 8/10
C25B 9/00
C25B 11/00
D04H 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を含む導電性多孔質基材と、前記導電性多孔質基材の少なくとも片面に微多孔層を有するガス拡散電極であって、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たすガス拡散電極。
(1)平面視において端部から20μm以上突出する炭素繊維の数が端部の長さに対し1.0本/cm未満である。
(2)端部の側面視において前記ガス拡散電極の面内方向に対して30°以上傾きかつ長さ10μm以上の炭素繊維が端部の長さに対し1.0本/cm未満である。
【請求項2】
端部の直線性指数が10μm以下である、請求項1に記載のガス拡散電極。
【請求項3】
端部の直線性指数が7μm以下である、請求項2に記載のガス拡散電極。
【請求項4】
端部の微多孔層欠落指数が20μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載のガス拡散電極。
【請求項5】
端部の微多孔層欠落指数が5μm以下である、請求項4に記載のガス拡散電極。
【請求項6】
前記導電性多孔質基材がカーボンペーパーである、請求項1~5のいずれかに記載のガス拡散電極。
【請求項7】
前記導電性多孔質基材の空隙率が80%以上である、請求項1~6のいずれかに記載のガス拡散電極。
【請求項8】
前記導電性多孔質基材の厚みが220μm以下である、請求項1~7のいずれかに記載のガス拡散電極。
【請求項9】
前記導電性多孔質基材が10μm以上100μm以下の領域に細孔径のピークを有する、請求項1~8のいずれかに記載のガス拡散電極。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のガス拡散電極を用いてなる膜電極接合体であって、前記ガス拡散電極の外縁部に保護膜を有しない膜電極接合体。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載のガス拡散電極を製造する方法であって、レーザー加工を用いる裁断工程を含むことを特徴とする、ガス拡散電極の製造方法。
【請求項12】
前記レーザー加工がYAGレーザーによるものである、請求項11に記載のガス拡散電極の製造方法。
【請求項13】
前記レーザー加工において、前記微多孔層の形成されていない面からレーザーを照射する、請求項11または12に記載のガス拡散電極の製造方法。
【請求項14】
前記レーザー加工におけるエネルギー密度が50kW・分/m
2以下である、請求項11~13のいずれかに記載のガス拡散電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特に、主に車載用途向けに開発が進められている固体高分子型燃料電池に用いられるガス拡散電極に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は水素と酸素を反応させて水が生成する際に生起するエネルギーを電気的に取り出す装置であり、エネルギー効率が高く排出物が水しかないことからクリーンエネルギーとして期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池に使用される電極は、高分子電解質膜の両面において、高分子電解質膜の表面に形成される触媒層と、この触媒層の外側に形成されるガス拡散層とからなる構造を有する。電極でのガス拡散層を形成するための個別の部材として、ガス拡散電極が流通している。このガス拡散電極は、導電性多孔質基材に微多孔層(Micro Porous Layer:MPL)と呼ばれる緻密な層を形成したものが一般的に用いられる。ガス拡散電極の導電性多孔質基材としては、化学的な安定性から、炭素繊維を含む基材が一般的に用いられている。
【0004】
燃料電池の一つのセルは、電解質膜の両側に触媒層、さらに両外側にガス拡散電極を配し、両サイドからプレスして膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)と呼ばれる部材を形成し、このMEAをさらにガス流路のついたセパレータを介して積層した構造となっている。このプレスの際、ガス拡散電極の外縁部に圧力が集中し、導電性多孔質基材を構成する炭素繊維が触媒層あるいは電解質膜に突き刺さり、ダメージを与える可能性がある。これを避けるため、特許文献1などに示されるように、ガス拡散電極の外縁部に保護膜を配置する技術が知られている。
【0005】
さらに、特許文献1に記載されているような保護膜がガス拡散層に乗り上げることによる段差の発生を回避するために、特許文献2には、MEAとした場合に保護膜の厚みが相殺されるように、予めガス拡散電極の外縁部をプレスする、あるいはガス拡散電極の外縁部にのみ微多孔層を設けないことにより、段差を形成しておく技術が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3368907号公報
【文献】特開2005-149803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ガス拡散電極の外縁部を局所的にプレスすると、導電性多孔質基材中の炭素繊維が電解質膜にダメージを与える場合がある。また、ガス拡散電極の外縁部に微多孔層を設けない場合、保護膜との接触状態によってはガスが微多孔層を通過することなく基材のみを通過することにより、ガスリークや水蒸気の局所的凝縮の一因となる場合がある。このように、特許文献2に記載の技術は、保護膜のガス拡散層への乗り上げによる悪影響は回避できる一方で、新たな発電性能の低下要因を内包するものであった。
【0008】
本発明は、MEAを作製する際に外縁部における電解質膜などへのダメージが少ないガス拡散電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、炭素繊維を含む導電性多孔質基材と、前記導電性多孔質基材の少なくとも片面に微多孔層を有するガス拡散電極であって、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たすガス拡散電極である。
(1)平面視において端部から20μm以上突出する炭素繊維の数が端部の長さに対し1.0本/cm未満である。
(2)端部の側面視においてガス拡散電極の面内方向に対して30°以上傾きかつ長さ10μm以上の炭素繊維が1.0本/cm未満である。
【0010】
また本発明は、本発明のガス拡散電極を製造する方法であって、レーザー加工を用いる裁断工程を含むことを特徴とする、ガス拡散電極の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガス拡散電極は、エッジ部分に毛羽が存在しないか、存在したとしても非常に少ないため、電解質膜に毛羽がダメージを及ぼす可能性が低く、またエッジ部分に保護膜を適用することによる弊害もなく、燃料電池のガス拡散層として使用することにより耐久性の高い燃料電池を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、シェアカットされたガス拡散電極の端部を含む平面のレーザー顕微鏡である。
【
図2】
図2は、シェアカットされたガス拡散電極の端部の断面のレーザー顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、レーザーでカットされた本発明のガス拡散電極の端部を含む平面のレーザー顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、レーザーでカットされた本発明のガス拡散電極の端部の断面のレーザー顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、トムソンカッターでカットされた従来のガス拡散電極の端部を含む平面のレーザー顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、トムソンカッターでカットされた従来のガス拡散電極の端部の断面のレーザー顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、ガス拡散電極の端部の直線性評価方法を示す説明図である。
【
図8】
図8は、ガス拡散電極端部の微多孔層欠落の評価方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のガス拡散電極は、導電性多孔質基材を有する。本発明において、導電性多孔質基材(以下、単に「基材」という場合がある)は、炭素繊維を含む。本発明における、炭素繊維を含む導電性多孔質基材の具体的な態様としては、炭素繊維織物、炭素繊維抄紙体、炭素繊維不織布、カーボンフェルト、カーボンペーパー(炭素繊維抄紙体を樹脂炭化物で結着してなるシートを指すものとする)、カーボンクロスなどを挙げることができる。中でも、耐腐食性が優れることから、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスが好ましく、さらには、電解質膜の厚み方向の寸法変化を吸収する特性、すなわち「ばね性」に優れることから、カーボンペーパーがより好ましい。
【0014】
導電性多孔質基材は、細孔径の分布のピークを10μm以上100μm以下の領域に有することが好ましい。そうすることで本発明のガス拡散電極は、固体高分子型燃料電池においてセパレータから供給されるガスを触媒へと拡散するための高いガス拡散性、および電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性を得ることができる。
【0015】
細孔径とその分布は、水銀ポロシメーターによる細孔径分布測定により求めることができる。導電性多孔質基材の細孔径は、導電性多孔質基材のみを測定してもよいし、微多孔層形成後のガス拡散電極を測定してもよい。ガス拡散電極を測定する場合、ガス拡散電極の面直断面(以下、面直とは厚み方向を意味し、面直断面とは厚み方向に平行な断面を意味する。)の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により各層構造を確認し、SEM像によって細孔部分の径を概略求める。続いて、水銀ポロシメーターによって得られる各層の細孔径のピークと、前記SEM像による概略値との対応付けをしながら、各層の細孔径を決める。
【0016】
ガス拡散電極のガス拡散性を高めるため、導電性多孔質基材の空隙率は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上である。空隙率の上限は、導電性多孔質基材がその構造を保ちうる限界である95%である。導電性多孔質基材の空隙率は、以下のように測定するものとする。まず、イオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製 IM4000型およびその同等品が使用可能)により厚み方向の面直断面を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。そして、断面に接した空隙部と非空隙部を2値化し、全体の面積に対する空隙部の面積の割合(百分率)を空隙率(%)とする。なお、導電性多孔質基材の空隙率は、微多孔層形成前の導電性多孔質基材を直接用いて測定してもよいし、微多孔層形成後のガス拡散電極を用いて測定してもよい。
【0017】
また、導電性多孔質基材の厚みを薄くすることによってもガス拡散電極のガス拡散性を高めることができるので、導電性多孔質基材の厚みは220μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。
【0018】
導電性多孔質基材は、撥水処理が施されたものが好適に用いられる。撥水処理は、フッ素樹脂などの撥水性樹脂を用いて行うことが好ましい。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(たとえば“テフロン”(登録商標))、FEP(四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ化樹脂)、ETFE(エチレン四フッ化エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等が挙げられるが、強い撥水性を発現するPTFE、あるいはFEPが好ましい。
【0019】
撥水性樹脂の量は特に限定されないが、導電性多孔質基材の全体を100質量%として、0.1質量%以上20質量%以下が好ましい。この範囲であると、撥水性が十分に発揮される一方、ガスの拡散経路あるいは排水経路となる細孔を塞いでしまったり、電気抵抗が上がったりする可能性が低い。
【0020】
導電性多孔質基材を撥水処理する方法は、一般的に知られている撥水性樹脂を含むディスパージョンに導電性多孔質基材を浸漬する方法のほか、ダイコート、スプレーコートなどによって導電性多孔質基材に撥水性樹脂を塗布する方法も適用可能である。また、フッ素樹脂のスパッタリングなどのドライプロセスによる加工も適用できる。
【0021】
なお、撥水処理の後、必要に応じて乾燥工程、さらには焼結工程を加えても良い。
【0022】
本発明のガス拡散電極は、導電性多孔質基材の少なくとも片面に微多孔層を有する。微多孔層は、
(1)触媒の保護、
(2)目の粗い導電性多孔質基材の表面が電解質膜に転写しないようにする化粧直し効果、
(3)カソードで発生する水蒸気の凝縮防止
などに重要な役割を果たす。
【0023】
微多孔層は、導電性微粒子を含むことが好ましい。導電性微粒子としては、化学的な安定性から炭素系の微粒子が好ましく、具体的にはカーボンブラック、カーボンナノファイバー(昭和電工製VGCF等)、カーボンナノチューブ、グラフェン、炭素繊維のミルドファイバーなどが用いられる。なかでも安価なカーボンブラックが好適に用いられ、導電性、撥水性が高いアセチレンブラックが特に好ましく用いられる。
【0024】
微多孔層は、撥水剤を含むことも好ましい。撥水剤としては、化学的な安定性、撥水性などの点からフッ素系樹脂が好適であり、導電性多孔質基材を撥水する際に好適に用いられるフッ素樹脂と同様、PTFE、FEP、PFA、ETFE等が挙げられる。中でも、特に高い撥水性を有するPTFE、あるいはFEPが好ましく用いられる。
【0025】
微多孔層形成用の塗液は、一般には分散剤を用いて導電性微粒子と撥水剤を水等の分散媒中に分散して調製することが好ましい。その際、導電性微粒子と分散剤の合計を100質量%とすると、分散剤は0.1質量%以上5質量%以下用いることが好ましい。分散剤としては、金属成分が少ないことからノニオン系の界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル系の“トリトン”X100などがその例として挙げられる。
【0026】
また、塗液を高粘度に保つために、増粘剤を添加することが有効である。増粘剤としては、例えば、メチルセルロース系、ポリエチレングリコール系、ポリビニルアルコール系などの増粘剤が好適に用いられる。
【0027】
これらの分散剤や増粘剤は、同じ物質に二つの機能を持たせても良く、またそれぞれの機能に適した素材を選んでも良い。ただし、増粘剤と分散剤を別個に選定する場合には、導電性微粒子の分散系および撥水剤の分散系を壊さないものを選ぶことが好ましい。分散剤と増粘剤の総量は、導電性微粒子の添加量100質量部に対し、50質量部以上が好ましく、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上である。一方、分散剤と増粘剤の総量が500質量部以下であると、後の焼結工程において蒸気や分解ガスが発生しにくく、安全性、生産性を確保しやすい。
【0028】
微多孔層形成用の塗液の導電性多孔質基材への塗布は、市販されている各種の塗布装置を用いて行うことができる。塗布方式としては、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、ダイコーター塗布、バー塗布、ブレード塗布、ロールナイフコーター塗布などが使用できる。また、燃料電池にガス拡散電極を組み込んだ場合に触媒層との密着を高めるため塗布面の平滑性を求める場合には、ブレードコーターやロールナイフコーターによる塗布が好適に用いられる。
【0029】
微多孔層を形成するための塗液は、染み込みを抑制するためには粘度が1.0Pa・s以上であることが好ましく、5Pa・s以上がより好ましく、さらに好ましくは7Pa・s以上である。一方、粘度が高すぎると、塗膜表面が荒れたり、場合によっては塗膜が形成できなかったりするので、20Pa・s以下とすることが好ましい。
【0030】
微多孔層が塗布されたガス拡散電極は、塗液中の溶媒を蒸発乾燥するための乾燥工程および分散剤、増粘剤として用いられる界面活性剤を熱分解、また撥水性樹脂を溶解して導電性微粒子に付着させてバインダーとしての機能を発現させるために焼結工程を経ることが好ましい。
【0031】
上記のような、導電性多孔質基材に微多孔層塗液を塗布してから、乾燥、焼結までの工程は、長尺の基材のロールを巻き出して、上記工程を経た後に巻き取る、いわゆるロール・トゥ・ロールで行うことが生産性の観点から好ましい。
【0032】
本発明のガス拡散電極の製造方法は、レーザー加工を用いる裁断工程を含むことが重要である。
【0033】
ガス拡散電極の製造においては、通常、微多孔層の形成後に一旦巻き取ってからエッジトリミングを行うか、インラインでエッジトリミングを行いそのまま巻き取る。
【0034】
エッジトリミングにおいては通常シェアカットで裁断するが、このとき裁断された端部において、
図1に示すような、平面視において端部から突出した炭素繊維が発生しやすい。特に、上記のように空隙率が高く、厚みも薄い導電性多孔質基材を用いた場合は裁断時にこのような炭素繊維の突出が発生する可能性が高くなる。製造工程上エッジトリミング面がガス拡散電極の端面として残る場合には、エッジトリミングも、通常のシェアカッター等ではなく、レーザー光線を用いて行うことが好ましい。
【0035】
また、矩形のシート状に切り抜いてガス拡散電極とする場合は、通常トムソンカッターあるいはそれに類似の刃物で打ち抜くところを、レーザー光線を用いて裁断する。トムソンカッターによる打ち抜きでは、刃の状態により、微多孔層が局所的に引き延ばされ、垂れた状態(平面視において、端面から突出して観察される状態)になりがちである。このように微多孔層の端部に垂れが発生するとその部分が後の工程で脱落して微多孔層の欠落を生じ、MEAに組み込んだ際に欠落部分と触媒層の間に空間が生じて、そこに水が溜まりガス拡散性を阻害したり(フラッディング)、脱落した微多孔層の破片が触媒層とガス拡散電極表面との間の密着を局所的に阻害したりする可能性があり好ましくないが、レーザー加工による裁断工程を採用することによりこれを防ぐことができる。
【0036】
レーザー光線の種類については、裁断ができるものであればよいが、YAGレーザーによる裁断の方が、低出力密度で裁断できるため熱によるMPLやカーボンペーパーのダメージが少なく好ましい。
【0037】
レーザーのスポット径は、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましい。
【0038】
レーザーのエネルギー密度は、ガス拡散電極の厚みや密度によって異なるが、熱による対象物の蒸発を小さくするため、50kW・分/m2以下が好ましく、20kW・分/m2以下よりが好ましく、10kW・分/m2以下がより好ましい。この出力密度を超えると、微多孔層からの照射の場合、微多孔層の溶融による欠落が大きくなる傾向がある。この微多孔層の欠落部分はMEAとしたときに触媒層との接触を損なう要因となるため、接触していない空間に水が溜まって発電性能を低下させたり、触媒層と微多孔層の接触抵抗を上昇させたりするなどの弊害を起こす可能性がある。また、レーザーの出力密度は、3kW・分/m2以上が好ましい。本発明の実施例において用いた厚み150μm、密度0.3g/m2、空隙率85%の導電性多孔質基材を用い、微多孔層を15g/m2塗布した場合には、YAGレーザーを用いた場合には、3kW・分/m2以上であれば、本発明の特性を得ることができた。
【0039】
レーザー光線の照射は、他の条件の設定次第では微多孔層(MPL)の形成面側からでもMPLの非形成面(基材面)側からでも可能であるが、MPLの形成されていない面からであることが好ましい。MPLはレーザーの熱により溶融ダメージを受けやすいが、MPLの形成されていない面からレーザーを照射することにより、MPLが受けるレーザーを必要最小限に設定することが可能となり、MPLの溶融ダメージを抑えることができる。特に、高出力のレーザーで裁断する場合や基材の厚みが大きい場合には、MPL非形成面側からの照射が効果的である。どの程度の基材厚み等の場合にMPL非形成面側からの照射が効果的であるかは、基材の目付、密度、さらには微多孔層の目付、染み込み量にもよるが、一般に、厚み150μmを超える、あるいは基材の密度が0.35g/cm2を超える場合には裏面(MPL非形成面側)からの照射が効果的である。
【0040】
本発明のガス拡散電極は、
(1)平面視において裁断された端部から20μ以上突出する炭素繊維(以下、「面内方向の毛羽」とも呼ぶ)の数が端部の長さに対し1.0本/cm未満、好ましくは0.5本/cm以下、より好ましくは0.3本/cm以下であること
(2)裁断された端部の側面視においてガス拡散電極の面内方向に対して30°以上傾きかつ長さ10μm以上の炭素繊維(以下、「面外方向の毛羽」とも呼ぶ)が端部の長さに対し1.0本/cm未満、好ましくは0.5本/cm以下、より好ましくは0.2本/cm以下、さらに好ましくは0.1本/cm以下であること
の少なくとも一方を満たすことが重要であり、(1)および(2)の両者を満たすことがより好ましい。そうすることで、電解質膜に毛羽がダメージを及ぼす可能性が低く、またエッジ部分に保護膜を適用することによる弊害もなく、燃料電池のガス拡散層として使用することにより耐久性の高い燃料電池を得ることができる。
【0041】
このように毛羽(面方向の毛羽と面直方向の毛羽を総称し、単に「毛羽」という場合がある)が少ないガス拡散電極は、前述のようにレーザー光線を用いて裁断することにより好ましく製造することができる。
【0042】
欠落が顕在化、すなわち、ガス拡散電極の平面視において基材の露出が確認される場合の微多孔層の欠落の大小の指標として、
図8に示すように欠落した部分の平面視内の深さに相当する指数(微多孔層欠落指数)を用いることができる。微多孔層欠落指数は、裁断による端部を含む平面視において、裁断線方向軸をx軸、x軸と直交しかつガス拡散電極の外側に向かう方向をy軸方向、裁断面の各点のy座標をyi、裁断面の平均y座標をysとしたとき、次式により求められる値である。
微多孔層欠落指数=(1/n)Σf(yi)
ここに、
f(yi)=ys-yi (yi<ysのとき)
f(yi)=0 (yi≧ysのとき)
すなわち、y=ysで規定される平均線による面(平均面)を仮想した際の、平均面から欠けている部分の平均線(平均面)からの偏差を用いて評価するものである。
図8において符号13は、f(yi)を説明するための点である。平均線11から点13までの距離の絶対値が、f(yi)に相当する。
【0043】
本発明において、微多孔層欠落指数は20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。またレーザー加工の精度や導電性多孔質基材あるいは微多孔層の構造上、0.1μmが微多孔層欠落指数の実質的な下限である。
【0044】
また、前述のような微多孔層の垂れの評価指標として、裁断面の直線性指数を用いることができる。裁断面の直線性指数は、裁断による端部を含む平面視において、裁断線方向軸をx軸、x軸と直交しかつガス拡散電極の外側に向かう方向をy軸方向、裁断面の各測定点のy座標をyi、裁断面の平均y座標をysとしたとき、次式により求められる値である。
直線性指数=[(1/n)Σ(yi-ys)2]1/2
すなわち、y=ysで規定される平均線による面(平均面)を仮想した際の、平均線(平均面)からの標準偏差を用いて評価するものである。
【0045】
この直線性指数は、小さければ小さいほど、ゼロに近ければ近いほど良好で、10μm以下が好ましく、10μmを越えると微多孔層の破片や基材から突出した炭素繊維片がガス拡散電極の端部から脱落し、MEA組み立ての際にガス拡散電極と触媒層の間に入ってしまい、空間ができることにより、そこに水が溜まってガス拡散性を低下させたりする可能性がある。直線性指数のさらに好ましい範囲は7μm以下、さらに好ましくは5μ以下である。
【0046】
上記のようなガス拡散電極の毛羽は、MEAに組み込んだ際に触媒層や電解質膜にダメージを与える可能性をもたらすが、その実害性は短絡電流密度を測定することにより、評価することができる。
【0047】
このようにして所定の大きさに切り出されたガス拡散電極の微多孔層表面に触媒インクが塗った上で電解質膜に熱圧着するか、または、電解質膜に触媒層が形成されたCCM(Catalyst Coated Membrane)にガス拡散電極を熱圧着することにより、MEAが形成される。本発明のガス拡散電極により、この際、ガス拡散電極の外縁部に保護膜を配置せずとも、電解質膜に毛羽がダメージを及ぼす可能性が低い膜電極接合体(MEA)を得ることが出来る。
【0048】
本発明の膜電極接合体は、本発明のガス拡散電極を用いてなる。
【0049】
本発明の膜電極接合体は、本発明のガス拡散電極の外縁部に保護膜を有しない構造であることが好ましい。かかる構造とすることで、ガス拡散電極と保護膜間に段差が形成され面圧分布が不均一となって燃料電池としての性能を低下させるのを、特に複雑な構造にすることなく防ぐことができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。実施例で用いた材料の作製方法および各種の評価方法を次に示す。
【0051】
<材料>
[導電性多孔質基材(カーボンペーパー)]
厚み150μm、空隙率85%のカーボンペーパーを以下のように調製して得た。
【0052】
東レ(株)製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300(平均単繊維径:7μm)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10質量%水溶液に浸漬し、乾燥する抄紙工程を経て、ロール状に巻き取って、目付けが15g/m2の、炭素繊維からなる長尺の抄紙体(炭素繊維抄紙体)を得た。当該抄紙体100質量部に対して、ポリビニルアルコールの付着量は20質量部に相当する。
【0053】
次に、鱗片状黒鉛(平均粒子径:5μm)、フェノール樹脂(レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂の質量比1:1の混合物)およびメタノールを5:10:85の質量比で混合した分散液を用意した。そして、上記の炭素繊維抄紙体に、炭素短繊維100質量部に対して樹脂成分(フェノール樹脂+鱗片状黒鉛)が130質量部になるように、上記分散液を連続的に含浸し、100℃で5分間乾燥する樹脂含浸工程を経た後、ロール状に巻き取った。
【0054】
平板プレスを、熱板が互いに平行になるようにセットし、下熱板上にスペーサーを配置して、その上に前記樹脂含浸工程を経た炭素繊維抄紙体を置き、熱板温度180℃で5分間加熱・加圧処理した。その後、窒素ガス雰囲気に保たれた最高温度が2400℃の加熱炉に導入して焼成・炭化した後、ロール状に巻き取ってカーボンペーパーを得た。得られたカーボンペーパーは、厚さ150μm、密度0.25g/cm3、空隙率85%、細孔径のピークは30μmであった。
【0055】
[微多孔層形成用塗液]
導電性微粒子としてアセチレンブラック(デンカブラック(登録商標);デンカ(株))を使用し、その他の材料としてPTFEディスパージョン(ポリフロン(登録商標)D-210C;ダイキン工業(株))、分散剤として“トリトン”X100(ナカライテスク製)、精製水を用い、配合比をアセチレンブラック/PTFE樹脂=75質量部/25質量部、また固形分(アセチレンブラックおよびPTFE)が全体量に対して23%になるように調整した。この塗液のE型粘度計により測定した粘度は、剪断速度17/sにおいて、8.7Pa・sであった。
【0056】
<評価方法>
[端部の平面レーザー画像の取得]
レーザー顕微鏡としてキーエンス社製VK X-100を用いて、裁断された端部が入るように、対物レンズ倍率10倍でレーザーの焦点を微多孔層表面の高さレベルの上下200μmの間に合わせ、1000μm×1412μmの視野における各位置において焦点が合っている状態を全面に渡って深度合成した、ガス拡散電極の平面レーザー画像を作成した。
【0057】
[端部の側面レーザー画像の取得]
レーザー顕微鏡としてキーエンス社製VK X-100を用い、ガス拡散電極の裁断された端部の側面(裁断面)を、対物レンズ50倍で、約0.2mmの長さの画面にて、レーザーの焦点を裁断面の高さレベルの中心から上下約200μmの間に合わせ、200μm×275μmの視野における各レンズ高さ位置において焦点が合っている状態を全面に渡って深度合成した、ス拡散電極の側面レーザー画像を作成した。
【0058】
[面方向の毛羽の数]
上記のように作成した平面レーザー画像において、裁断された端部より突出している炭素繊維のうち長さが20μm以上のものをカウントした。この作業を1視野あたり端部の長さ約20mmで20視野について行い、端部の長さ1cmあたりの平均値を算出した。
【0059】
[端部の直線性指数]
直線性指数は、裁断による端部を含む平面視において、裁断線方向軸をx軸、x軸と直交しかつガス拡散電極の外側に向かう方向をy軸方向、裁断面の各測定点のy座標をyi、裁断面の平均y座標をysとしたとき、下記式により求められる。
直線性指数=[(1/n)Σ(yi-ys)
2]
1/2
具体的には、前述の端部の平面レーザー画像において、
図7に概略を示すように、裁断線方向に平行に任意の基準線(y=0)(9)を引き、x軸102方向に20μm間隔で、裁断面の端部の座標点(10)を100点指定した上で、各座標点の座標(xi,yi)を測定し(単位はμm)、yiの平均座標ysを求めた。
図7においては、平均座標ysを通り基準線(9)と並行な直線を平均線(11)で表している。そして、ysと各測定点yiの偏差の二乗平均(yiの値の標準偏差)を裁断面の直線性指数とし、これを裁断面の直線性の指標とした。
【0060】
[端部の微多孔層欠落指数]
微多孔層欠落指数は 、裁断による端部を含む平面視において、裁断線方向軸をx軸、x軸と直交しかつガス拡散電極の外側に向かう方向をy軸方向、裁断面の各点のy座標をyi、裁断面の平均y座標をysとしたとき、次式により求められる。
微多孔層欠落指数=(1/n)Σf(yi)
ここに、
f(yi)=ys-yi (yi<ysのとき)
f(yi)=0 (yi≧ysのとき)
具体的には、
図8に概略を示すように、前述のように求めた平均線(11)に対して、微多孔層の端部の座標のうち、平均線の内側(ガス拡散電極側)に存在する座標点のy座標yiについては、平均線からの偏差が、微多孔層欠落指数に算入されるようにした(yi<ysのとき、f(yi)=ys-yi)。また、平均線の外側にある座標点については、偏差は一律0とした(yi≧ysのとき、f(yi)=0)。これらの偏差の平均値を微多孔層の欠落指数とし、微多孔層の欠落の大きさの指標とした。
【0061】
[面外方向の毛羽の数]
上記のように作成した側面レーザー画像において、ガス拡散電極の面内方向に対して30°以上傾いていて、かつ長さが10μm以上の炭素繊維破片を断面における面外方向の毛羽と判定した。この作業を200μm×275μmの視野で20視野について行い、端部の長さ1cmあたりの平均を算出した。
【0062】
[短絡電流密度評価]
短絡電流密度は、以下の(1)~(3)の手順により測定した。
【0063】
(1)低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム(膜厚10μm)を、ガス拡散電極の微多孔層の面と重ねる。ここでガス拡散電極は1辺2.24cmの正方形、LDPEは1辺6cm以上の正方形として、LDPEフィルムの各辺とガス拡散電極の各辺とを平行にして、LDPEフィルムの中心とガス拡散電極の中心とが一致するように重ねる。
【0064】
(2)前記重ねたLDPEフィルムとガス拡散電極を、金メッキした1辺3cmの正方形のステンレスブロック電極2個で挟み、ガス拡散電極の5cm2(2.24cm×2.24cm)の面積に圧力が5.38MPaとなるように加圧する。この際、ステンレスブロック電極の挟む面の各辺とガス拡散電極の各辺とを平行にして、ステンレスブロック電極の中心とガス拡散電極の中心とが一致するように挟む。
【0065】
(3)デジタルマルチメーター(INSTEK Digital Dual Measurement Multimeter GDM-826)を用いて、金メッキしたステンレスブロック電極間に2.0Vの直流電圧を印加し、電極間の電流を測定し、得られた値を短絡電流とする。短絡電流を、加圧印加を受けたガス拡散電極の面積5cm2で除して短絡電流密度とする。短絡電流密度は、ガス拡散電極の測定サンプルを変更して(1)から(3)を10回繰り返して平均値を求める。短絡電流密度が15mA/cm2以下であれば、従来のガス拡散電極よりも優れた耐短絡性能を有すると考えられる。
また、各10回の測定のうち、得られた値が10mA/cm2を超える確率(短絡確率)によっても評価した。
【0066】
[耐フラッディング性]
各実施例の膜電極接合体を燃料電池用単セルに組み込み、電池温度40℃、燃料利用効率が70%、空気利用効率が40%、アノード側の水素の露点が75℃、カソード側の空気の露点が60℃となるように加湿して発電させ、電流密度を高くしていき発電が停止する電流密度の値(限界電流密度)を耐フラッディング性の指標とした。
なお、膜電極接合体とする前の状態のガス拡散電極から耐フラッディング性を評価する場合には、実施例1に記載した膜電極接合体(MEA)の作製手順を基準とすることができる。
【0067】
(実施例1)
(ガス拡散電極)
上記に従い作製したカーボンペーパーを巻き取り式の搬送装置を用いて搬送しながら、フッ素樹脂ディスパージョン(ダイキン工業製PTFEディスパージョン D-210Cを水でPTFEが2質量%濃度になるように薄めたもの)を満たした浸漬槽に浸漬して撥水処理を行い、100℃に設定した乾燥機で乾燥した後に巻き取って、撥水処理した導電性多孔質基材を得た。
【0068】
次に、連続式のコーターに塗布幅500mmのダイコーターを取り付けて、前述の微多孔層塗液を、焼結後の微多孔層の目付が25g/m2となるように塗布し、乾燥して合い紙とともに巻き取った。このロール状物をシェアカッターの設置された巻き出し巻取り式の裁断機にセットし、速度10m/分でエッジトリミングを行った。トリミング幅は片側5mm、両端合わせて10mmとした。
【0069】
このロール状物から、YAGレーザーを用い、一辺の長さが22.4mmの正方形のパターンに切り出すよう4辺全てを裁断し、ガス拡散電極を作製した。レーザー照射は、微多孔層形成面(A面)側から、出力2W、スポット径30μm、切り出し速度(レーザーのスキャン速度)3m/分の条件で行った。
【0070】
(膜電極接合体)
電解質膜“ゴアセレクト”(登録商標)(日本ゴア製)の両面に、触媒層“PRIMEA”(登録商標)(日本ゴア製)を積層させ、電解質膜・触媒層一体化品とした。各実施例のガス拡散電極を用い、電解質膜・触媒層一体化品の両側の触媒層にガス拡散電極の微多孔層が接するように挟み、130℃にてホットプレスすることにより、膜電極接合体(MEA)を作製した。なお、膜電極接合体に保護膜は設けなかった。
【0071】
(実施例2)
レーザー照射による切り出し速度を6m/分(レーザー照射による被照射面積あたりのエネルギーは2分の1になる)とした以外は、すべて実施例1と同様にして、ガス拡散電極および膜電極接合体(MEA)を作成した。
【0072】
(実施例3)
レーザー照射による切り出し速度を12m/分とした以外は、すべて実施例1と同様にして、ガス拡散電極および膜電極接合体(MEA)を作製した。
【0073】
(実施例4)
レーザー照射を微多孔層非形成面側(B面)からとした以外は、すべて実施例3と同様にして、ガス拡散電極および膜電極接合体(MEA)を作製した。
【0074】
(実施例5)
レーザー照射を微多孔層非形成面側からとした以外は、すべて実施例2と同様にして、ガス拡散電極および膜電極接合体(MEA)を作製した。
【0075】
(実施例6)
レーザー照射による切り出し速度を20m/分とし、レーザー照射を微多孔層非形成面側からとした以外は、すべて実施例1と同様にして、ガス拡散電極および膜電極接合体(MEA)を作製した。
【0076】
(比較例1)
切り出しを、レーザーを使用せず、一辺2.24cmのトムソンカッター(TBC)を用いて行った以外は、すべて実施例1と同様にして、ガス拡散電極を作成した。この比較例1の端部平面視においては、微多孔層の欠落による基材の露出は見られなかったので微多孔層欠落指数は評価しなかった(表中「-」)が、微多孔層の一部が垂れ下がり突き出た状態となっていた。
【0077】
(実施例7)
レーザー照射を微多孔層形成面側からとした以外は、すべて実施例6と同様にして、ガス拡散電極および膜電極接合体(MEA)を作製した。
【0078】
(実施例8)
レーザー種を炭酸ガスレーザー(CDL)に変更し、出力10.5W、スポット径72μm、切り出し速度1.5m/分で照射した以外は、すべて実施例4と同様にして、ガス拡散電極および膜電極接合体(MEA)を作製した。
【0079】
(実施例9)
炭酸ガスレーザーの出力を15W、切り出し速度3.0m/分とした以外は、すべて実施例7と同様にしてガス拡散電極および膜電極接合体(MEA)を作製した。
【0080】
(実施例10)
炭酸ガスレーザーの出力を15W、切り出し速度1.5m/分とした以外は、すべて実施例7と同様にしてガス拡散電極および膜電極接合体(MEA)を作製した。
【0081】
(比較例2)
炭酸ガスレーザーの出力を7.5W、切り出し速度1.5m/分とした以外は、すべて実施例7と同様にしてガス拡散電極を作成しようと試みたが、この条件では切断できない部位が発生し、ガス拡散電極を切り出すことができなかった。
【0082】
実施例1~10および比較例1,2で作製したガス拡散電極の裁断面の比較、および短絡電流評価の結果を表1に示す。
【0083】
【符号の説明】
【0084】
1.ガス拡散電極(端部の平面レーザー画像)
2.微多孔層(表面)
3.面内方向の毛羽
4.ガス拡散電極(端部の側面レーザー画像)
5.面外方向の毛羽
6.微多孔層(側面)
7.導電性多孔質基材(カーボンペーパー)
8.微多孔層の垂れ
9.基準線(y=0)
10.ガス拡散電極端部の座標点
11.平均線
12.微多孔層の欠落部分(基材の露出部分)
13.f(yi)を説明するための点
101.ガス拡散電極の面方向を示す矢印
102.x軸方向を示す矢印
103.Y軸方向を示す矢印