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特許7533220樹脂膜、電子デバイス、樹脂膜の製造方法および電子デバイスの製造方法
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  • 特許-樹脂膜、電子デバイス、樹脂膜の製造方法および電子デバイスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】樹脂膜、電子デバイス、樹脂膜の製造方法および電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/312 20060101AFI20240806BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240806BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01L21/312 B
C08G73/10
C08J5/18
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020552044
(86)(22)【出願日】2020-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2020034784
(87)【国際公開番号】W WO2021060058
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2019173522
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019173521
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦部 友樹
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 大地
(72)【発明者】
【氏名】宮内 拓也
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-236886(JP,A)
【文献】特開2019-116563(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049517(WO,A1)
【文献】特開2005-187768(JP,A)
【文献】特開2019-124771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/312
C08G 73/10
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドを含む樹脂膜であって、
波長470nm、強度4.0μW/cm2の光を30分間照射した際の、前記光の照射前に対する当該樹脂膜中の電荷変化量である膜中電荷変化量が、1.0×1016cm-3以下であ
0.05%重量減少温度が490℃以上である、
ことを特徴とする樹脂膜。
【請求項2】
ポリイミドを含む樹脂膜であって、
波長470nm、強度4.0μW/cm 2 の光を30分間照射した際の、前記光の照射前に対する当該樹脂膜中の電荷変化量である膜中電荷変化量が、1.0×10 16 cm -3 以下であり、
当該樹脂膜の膜厚を10μmに換算した際の、波長470nmにおける光透過率が60%以上である、
ことを特徴とする樹脂膜。
【請求項3】
ポリイミドを含む樹脂膜であって、
波長470nm、強度4.0μW/cm 2 の光を30分間照射した際の、前記光の照射前に対する当該樹脂膜中の電荷変化量である膜中電荷変化量が、1.0×10 16 cm -3 以下であり、
前記ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基のモル数を、前記ポリイミドに含まれるジアミン残基のモル数で除した値が、1.001以上1.100以下である、
ことを特徴とする樹脂膜。
【請求項4】
ポリイミドを含み、導電付与剤を含まない樹脂膜であって、
波長470nm、強度4.0μW/cm 2 の光を30分間照射した際の、前記光の照射前に対する当該樹脂膜中の電荷変化量である膜中電荷変化量が、1.0×10 16 cm -3 以下である、
ことを特徴とする樹脂膜。
【請求項5】
0.05%重量減少温度が490℃以上である、
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか一つに記載の樹脂膜。
【請求項6】
当該樹脂膜の膜厚を10μmに換算した際の、波長470nmにおける光透過率が60%以上である、
ことを特徴とする請求項3~5のいずれか一つに記載の樹脂膜。
【請求項7】
前記ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基の100モル%のうち50モル%以上が、ピロメリット酸残基およびビフェニルテトラカルボン酸残基から選ばれる少なくとも一つからなり、
前記ポリイミドに含まれるジアミン残基の100モル%のうち50モル%以上が、p-フェニルレンジアミン残基からなる、
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の樹脂膜。
【請求項8】
前記ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基のモル数を、前記ポリイミドに含まれるジアミン残基のモル数で除した値が、1.001以上1.100以下である、
ことを特徴とする請求項のいずれか一つに記載の樹脂膜。
【請求項9】
前記ポリイミドが、化学式(1)で表される構造および化学式(2)で表される構造のうち少なくとも一つを含む、
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の樹脂膜。
【化1】
(化学式(1)中、R11は、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示す。R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R13は、炭素数2以上の2価のジカルボン酸残基を示す。)
(化学式(2)中、R11は、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示す。R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R14は、炭素数1以上の1価のカルボン酸残基を示す。)
【請求項10】
請求項1~のいずれか一つに記載の樹脂膜と、
前記樹脂膜上に形成された半導体素子と、
を備えることを特徴とする電子デバイス。
【請求項11】
前記半導体素子が薄膜トランジスタである、
ことを特徴とする請求項10に記載の電子デバイス。
【請求項12】
更に画像表示素子を備える、
ことを特徴とする請求項10または11に記載の電子デバイス。
【請求項13】
請求項1~のいずれか一つに記載の樹脂膜を製造する樹脂膜の製造方法であって、
ポリイミド前駆体および溶剤を含む樹脂組成物を支持体に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程によって得られた塗膜を加熱して樹脂膜を得る加熱工程と、
を含むことを特徴とする樹脂膜の製造方法。
【請求項14】
前記加熱工程における前記塗膜の加熱温度が420℃以上490℃以下である、
ことを特徴とする請求項13に記載の樹脂膜の製造方法。
【請求項15】
前記ポリイミド前駆体が、化学式(3)で表される構造を有する、
ことを特徴とする請求項13または14に記載の樹脂膜の製造方法。
【化2】
(化学式(3)中、R11は、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示す。R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R15は、化学式(4)で表される構造を示す。R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。)
(化学式(4)中、αは、炭素数2以上の1価の炭化水素基を示す。βおよびγは、それぞれ独立して、酸素原子または硫黄原子を示す。)
【請求項16】
前記ポリイミド前駆体が、化学式(5)で表される構造を有する、
ことを特徴とする請求項1315のいずれか一つに記載の樹脂膜の製造方法。
【化3】
(化学式(5)中、R11は、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示す。R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R16は、化学式(6)で表される構造または化学式(7)で表される構造を示す。)
(化学式(6)中、R13は、炭素数2以上の2価のジカルボン酸残基を示す。)
(化学式(7)中、R14は、炭素数1以上の1価のモノカルボン酸残基を示す。)
【請求項17】
前記樹脂組成物が、化学式(8)で表される構造の化合物および化学式(9)で表される構造の化合物のうち少なくとも一つを、前記ポリイミド前駆体の100質量部に対して0.05質量部以上5.0質量部以下含む、
ことを特徴とする請求項1316のいずれか一つに記載の樹脂膜の製造方法。
【化4】
(化学式(8)中、R13は、炭素数2以上の2価のジカルボン酸残基を示す。R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。)
(化学式(9)中、R14は、炭素数1以上の1価のモノカルボン酸残基を示す。R5は、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。)
【請求項18】
請求項1317のいずれか一つに記載の樹脂膜の製造方法によって支持体上に樹脂膜を製造する膜製造工程と、
前記樹脂膜の上に半導体素子を形成する素子形成工程と、
前記支持体から前記樹脂膜を剥離する剥離工程と、
を含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項19】
前記半導体素子が薄膜トランジスタである、
ことを特徴とする請求項18に記載の電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂膜、電子デバイス、樹脂膜の製造方法および電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、その優れた電気絶縁性、耐熱性、機械特性により、半導体、ディスプレイといった、様々な電子デバイスの材料として使用されている。最近では、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、カラーフィルタなどの画像表示装置やタッチパネルなどの基板(特にフレキシブル基板)にポリイミド膜を使用した、フレキシブルな電子デバイスの開発が進められている。
【0003】
ポリイミドを基板の材料として使用する場合、ポリアミド酸溶液(以下、ワニスと適宜いう)を支持体に塗布し、塗膜を焼成することにより、ポリイミド膜が成膜される。基板用のポリイミドは、優れた機械特性や、製造時の基板の反りを抑制するために線熱膨張率(以下、CTEと適宜いう)が低いこと、電子デバイスの製造時の温度に耐え得る高い耐熱性を有すること等が求められる。
【0004】
例えば、特許文献1では、機械強度に優れたポリイミド膜を製造し、この膜上に半導体素子である薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)および有機EL素子を形成することで、フレキシブルな有機ELディスプレイを製造する例が開示されている。また、特許文献2では、機械強度や耐熱性に優れ、線熱膨張率が低いポリイミド膜を製造し、この膜上にTFTおよび有機EL素子を形成することで、フレキシブルな有機ELディスプレイを製造する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/099183号
【文献】国際公開第2019/049517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載されたポリイミド膜では、有機ELディスプレイ内のTFTの基板として使用した場合、有機ELディスプレイの長期駆動時にTFTの閾値電圧がシフトする恐れがある。これに起因して、有機EL素子の発光輝度が経時変化したり、電源をOFFにしても有機EL素子の微弱な発光が意図せず持続するなど、有機ELディスプレイの信頼性の低下を招く事態が生じるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、TFT等の半導体素子の基板として使用した際に、長期駆動時の半導体素子の特性変化を抑制して電子デバイスの信頼性の向上に寄与し得る樹脂膜を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、このような樹脂膜を半導体素子の基板として使用することにより、信頼性を向上させることができる電子デバイスを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る樹脂膜は、ポリイミドを含む樹脂膜であって、波長470nm、強度4.0μW/cm2の光を30分間照射した際の、前記光の照射前に対する当該樹脂膜中の電荷変化量である膜中電荷変化量が、1.0×1016cm-3以下である、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る樹脂膜は、上記の発明において、0.05%重量減少温度が490℃以上である、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る樹脂膜は、上記の発明において、当該樹脂膜の膜厚を10μmに換算した際の、波長470nmにおける光透過率が60%以上である、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る樹脂膜は、上記の発明において、前記ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基の100モル%のうち50モル%以上が、ピロメリット酸残基およびビフェニルテトラカルボン酸残基から選ばれる少なくとも一つからなり、前記ポリイミドに含まれるジアミン残基の100モル%のうち50モル%以上が、p-フェニルレンジアミン残基からなる、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る樹脂膜は、上記の発明において、前記ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基のモル数を、前記ポリイミドに含まれるジアミン残基のモル数で除した値が、1.001以上1.100以下である、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る樹脂膜は、上記の発明において、前記ポリイミドが、化学式(1)で表される構造および化学式(2)で表される構造のうち少なくとも一つを含む、ことを特徴とする。
【0014】
【化1】
(化学式(1)中、R11は、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示す。R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R13は、炭素数2以上の2価のジカルボン酸残基を示す。)
(化学式(2)中、R11は、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示す。R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R14は、炭素数1以上の1価のカルボン酸残基を示す。)
【0015】
また、本発明に係る電子デバイスは、上記の発明のいずれか一つに記載の樹脂膜と、前記樹脂膜上に形成された半導体素子と、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る電子デバイスは、上記の発明において、前記半導体素子が薄膜トランジスタである、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る電子デバイスは、上記の発明において、更に画像表示素子を備える、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る樹脂膜の製造方法は、上記の発明のいずれか一つに記載の樹脂膜を製造する樹脂膜の製造方法であって、ポリイミド前駆体および溶剤を含む樹脂組成物を支持体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程によって得られた塗膜を加熱して樹脂膜を得る加熱工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る樹脂膜の製造方法は、上記の発明において、前記加熱工程における前記塗膜の加熱温度が420℃以上490℃以下である、ことを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る樹脂膜の製造方法は、上記の発明において、前記ポリイミド前駆体が、化学式(3)で表される構造を有する、ことを特徴とする。
【0021】
【化2】
(化学式(3)中、R11は、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示す。R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R15は、化学式(4)で表される構造を示す。R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。)
(化学式(4)中、αは、炭素数2以上の1価の炭化水素基を示す。βおよびγは、それぞれ独立して、酸素原子または硫黄原子を示す。)
【0022】
また、本発明に係る樹脂膜の製造方法は、上記の発明において、前記ポリイミド前駆体が、化学式(5)で表される構造を有する、ことを特徴とする。
【0023】
【化3】
(化学式(5)中、R11は、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示す。R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R16は、化学式(6)で表される構造または化学式(7)で表される構造を示す。)
(化学式(6)中、R13は、炭素数2以上の2価のジカルボン酸残基を示す。)
(化学式(7)中、R14は、炭素数1以上の1価のモノカルボン酸残基を示す。)
【0024】
また、本発明に係る樹脂膜の製造方法は、上記の発明において、前記樹脂組成物が、化学式(8)で表される構造の化合物および化学式(9)で表される構造の化合物のうち少なくとも一つを、前記ポリイミド前駆体の100質量部に対して0.05質量部以上5.0質量部以下含む、ことを特徴とする。
【0025】
【化4】
(化学式(8)中、R13は、炭素数2以上の2価のジカルボン酸残基を示す。R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。)
(化学式(9)中、R14は、炭素数1以上の1価のモノカルボン酸残基を示す。R5は、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。)
【0026】
また、本発明に係る電子デバイスの製造方法は、上記の発明のいずれか一つに記載の樹脂膜の製造方法によって支持体上に樹脂膜を製造する膜製造工程と、前記樹脂膜の上に半導体素子を形成する素子形成工程と、前記支持体から前記樹脂膜を剥離する剥離工程と、を含むことを特徴とする。
【0027】
また、本発明に係る電子デバイスの製造方法は、上記の発明において、前記半導体素子が薄膜トランジスタである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る樹脂膜は、半導体素子の基板として使用した際に、長期駆動時の半導体素子の特性変化を抑制することができ、これにより、当該半導体素子を備える電子デバイスの信頼性の向上に寄与できるという効果を奏する。また、本発明に係る電子デバイスは、このような樹脂膜を半導体素子の基板として備えることにより、長期駆動時の信頼性を向上できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る電子デバイスの一構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0031】
(樹脂膜)
本発明の実施の形態に係る樹脂膜(以下、「本発明の樹脂膜」と適宜略記する)は、ポリイミドを含む樹脂膜であって、以下に示す膜中電荷変化量の条件を満足するものである。すなわち、本発明の樹脂膜は、「波長470nm、強度4.0μW/cm2の光を30分間照射した際の膜中電荷変化量が、1.0×1016cm-3以下である」という条件を満足する樹脂膜である。本発明において、膜中電荷変化量とは、上記光を30分間照射した際の、上記光の照射前に対する樹脂膜中の電荷変化量である。このような膜中電荷変化量は、例えば、上記光を30分間照射した際に樹脂膜中に蓄積されている電荷量から、上記光の照射前における当該樹脂膜中の電荷量を減じることにより、算出することができる。
【0032】
上記の構成を有する本発明の樹脂膜は、半導体素子の基板(例えばフレキシブル基板)として使用した際に、長期駆動時の半導体素子の特性変化を抑制することができる。また、本発明の樹脂膜は、半導体素子の基板として電子デバイスに設けられた際に、この電子デバイスの信頼性を向上させることができる。特に、半導体素子がTFTであり、電子デバイスが有機ELディスプレイである場合、本発明の樹脂膜は、TFTの閾値電圧のシフトを抑制することができ、これにより、有機ELディスプレイの信頼性を向上させることができる。
【0033】
本発明の実施の形態に係る樹脂膜が上記効果を発現する理由は、以下のように推定される。すなわち、基板上に形成された半導体素子では、基板中に電荷が存在すると、この電荷に起因する電界の影響により、半導体素子中のキャリア密度が変化して半導体素子の電気特性が変化する。例えば、基板上にトップゲート型TFTが形成されている場合、基板中に電荷が存在すると、この基板がバックゲートとして機能するため、当該TFTの閾値電圧が変化する。半導体素子の駆動中に基板中の電荷量が変化すると、半導体素子の電気特性が経時変化するため、当該半導体素子を備える電子デバイスの信頼性が損なわれることとなる。具体的には、基板としてポリイミド膜を使用した際には、ポリイミド膜上の半導体素子の駆動に伴い、このポリイミド膜中の電荷量(以下、膜中電荷量と適宜いう)が変化していると推定される。
【0034】
ポリイミド膜を使用した際に膜中電荷量が変化する機構については、以下の通り推定される。すなわち、高い耐熱性を有するポリイミドの多くにおいては、最高被占軌道(HOMO)がジアミン部位に偏在し、最低空軌道(LUMO)が酸二無水物部位に偏在している。そのため、ポリイミド膜中におけるHOMOからLUMOへの電子遷移は、ジアミン部位から酸二無水物部位への電荷移動を伴う、電荷移動遷移である。電荷移動遷移が起こった際には、この電荷移動遷移に伴ってポリイミド膜中で電荷が発生し、更に、この発生した電荷がポリイミド膜中にトラップされる。この結果、膜中電荷量が変化すると推定される。
【0035】
半導体素子の基板には、基板上の半導体素子の駆動に伴い、光(環境光および表示デバイスから発せられる光等)、熱(ジュール熱等)および電界等の外部ストレスがかかる。そのため、基板の材料としてポリイミドを使用した場合は、半導体素子の駆動に伴い、上記の外部ストレスに起因してポリイミドの電荷移動遷移が起こることから、当該基板の膜中電荷量が変化すると考えられる。特に、ポリイミドの電荷移動遷移は、波長470nmの光を含む可視域の光励起によって起こることが知られており、上記の外部ストレスの中でも光の影響が大きいと推定される。更に、電子デバイスが有機ELディスプレイである場合は、有機ELディスプレイ(具体的には有機EL素子)から発せられる青色光に波長470nmの光が含まれる。このため、有機ELディスプレイでは、ポリイミドの電荷移動遷移が顕著に起こり、有機ELディスプレイの駆動に伴い、基板の膜中電荷量が変化しやすいものと推定される。
【0036】
本発明の実施の形態に係る樹脂膜は、上述したように、ポリイミドを含む樹脂膜であって、「波長470nm、強度4.0μW/cm2の光を30分間照射した際の膜中電荷変化量が、1.0×1016cm-3以下である」という条件を満足するものである。すなわち、本発明の樹脂膜は、ポリイミドを含んでいても、上記の外部ストレスによる膜中電荷変化量が少ない樹脂膜である。そのため、本発明の樹脂膜を半導体素子の基板として使用した際には、半導体素子の駆動に伴う膜中電荷変化量が少なく、半導体素子のキャリア量の変化を抑制できることから、半導体素子の特性変化を抑制して信頼性に優れた電子デバイスを得ることができる。
【0037】
(膜中電荷変化量)
本発明における膜中電荷変化量は、以下の手法によって求められる値である。本発明における膜中電荷変化量の導出手法では、まず、測定サンプルとして、半導体層をなすシリコンウェハと、熱酸化膜と、ポリイミドを含む樹脂膜(測定対象の樹脂膜)とをこの順に積層してなる積層体を準備する。ついで、静電容量-電圧特性(CV特性)の測定装置における暗室内に測定サンプルを入れ、当該測定装置が備える一対の電極の間に測定サンプルを挟み込むことにより、測定サンプルを含むキャパシタ構造を形成する。続いて、このキャパシタ構造に対して直流バイアス電圧と交流電圧とを印加し、電圧印加による電荷が蓄積された状態のキャパシタ構造の静電容量と印加電圧とを測定する。得られた静電容量及び印加電圧の各測定値をもとに、このキャパシタ構造のCV特性を測定する。その後、このCV特性の測定結果をもとに、このキャパシタ構造のフラットバンド電圧VFB1を導出する。
【0038】
つぎに、上記キャパシタ構造を構成する測定サンプルの樹脂膜に対し、当該測定装置の光源から光を照射し、これにより、この樹脂膜中に光励起による電荷を発生させる。この際、上記キャパシタ構造において測定サンプルを挟む一対の電極のうち、光源側の電極は、測定サンプルの樹脂膜から離間させ、当該樹脂膜に対する光照射の後に再び測定サンプルに接触させる。本実施の形態において、この光源からの光の波長は470nmであり、当該光の強度は4.0μW/cm2である。当該光の照射時間は、30分間である。続いて、この光照射後のキャパシタ構造に対して、上記と同様の直流バイアス電圧と交流電圧とを印加し、電圧印加による電荷と光励起による電荷とが蓄積された状態である光照射後のキャパシタ構造の静電容量と印加電圧とを測定する。得られた静電容量及び印加電圧の各測定値をもとに、この光照射後のキャパシタ構造のCV特性を測定する。その後、このCV特性の測定結果をもとに、この光照射後のキャパシタ構造のフラットバンド電圧VFB2を導出する。
【0039】
続いて、上述のように得られた光照射前および光照射後の各フラットバンド電圧VFB1、VFB2を用い、下記の式(F1)に基づいて、フラットバンド電圧差ΔVFBを導出する。その後、得られたフラットバンド電圧差ΔVFBおよび電荷蓄積状態の静電容量CIを用い、下記の式(F2)に基づいて、当該樹脂膜中の単位体積当たりの光励起による電荷の増加量、すなわち、当該樹脂膜の膜中電荷変化量Q[cm-3]を導出する。

ΔVFB=|VFB2-VFB1| ・・・(F1)
Q=CI×ΔVFB/(qSt) ・・・(F2)

なお、式(F2)において、qは電気素量(1.6×10-19[C])であり、Sは光源側の電極の面積[cm2]であり、tは測定対象の樹脂膜の膜厚[cm]である。
【0040】
上述のようにして得られた膜中電荷変化量Qが1.0×1016cm-3以下となった測定サンプルの樹脂膜が、本発明における樹脂膜として採用される。なお、上記キャパシタ構造のCV特性の測定において、一対の電極のうち光源側の電極は、測定サンプルの樹脂膜に対して離間可能に接触する可動型の電極である水銀プローブとする。
【0041】
(ポリイミド)
本発明の実施の形態に係る樹脂膜は、ポリイミドを含む。このポリイミドは、化学式(10)で表される繰り返し単位を有する樹脂であることが好ましい。
【0042】
【化5】
【0043】
化学式(10)中、R11は、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示す。R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。本発明において、化学式(10)中、R11は、炭素数2~80の4価の炭化水素基であることが好ましい。また、R11は、水素および炭素を必須成分とし、ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンから選ばれる1以上の原子を含む炭素数2~80の4価の有機基であってもよい。この有機基に含まれるホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンの各原子の数は、それぞれ独立に、20以下の範囲であることが好ましく、10以下の範囲であることがより好ましい。
【0044】
11を与えるテトラカルボン酸としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例えば、このテトラカルボン酸として、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸や、国際公開第2017/099183号に記載のテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0045】
これらのテトラカルボン酸は、そのままの状態、あるいは酸無水物、活性エステルまたは活性アミドの状態でも使用できる。また、R11を与えるテトラカルボン酸として、これらを2種以上用いてもよい。
【0046】
本発明の樹脂膜の耐熱性を向上させるという観点から、上記ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基の100モル%のうち50モル%以上は、芳香族テトラカルボン酸残基からなることが好ましい。中でも、上記テトラカルボン酸残基の50モル%以上は、ピロメリット酸残基およびビフェニルテトラカルボン酸残基から選ばれる少なくとも一つからなることがより好ましい。更には、上記テトラカルボン酸残基の100モル%のうち80モル%以上は、ピロメリット酸残基およびビフェニルテトラカルボン酸残基から選ばれる少なくとも一つからなることがより好ましい。これらのテトラカルボン酸から得られるポリイミドであれば、CTEが低い樹脂膜を得ることができる。
【0047】
また、R11を与えるテトラカルボン酸としては、支持体に対する塗布性や、洗浄などに用いられる酸素プラズマ、UVオゾン処理に対する耐性を高めるため、ジメチルシランジフタル酸、1,3-ビス(フタル酸)テトラメチルジシロキサンなどのケイ素含有テトラカルボン酸を用いてもよい。これらケイ素含有テトラカルボン酸を用いる場合、テトラカルボン酸全体の1~30モル%用いることが好ましい。
【0048】
上記のように例示したテトラカルボン酸において、テトラカルボン酸の残基に含まれる水素の一部は、メチル基、エチル基などの炭素数1~10の炭化水素基、トリフルオロメチル基などの炭素数1~10のフルオロアルキル基、F、Cl、Br、Iなどの基で置換されていてもよい。さらには、当該残基に含まれる水素の一部がOH、COOH、SO3H、CONH2、SO2NH2などの酸性基で置換されていると、ポリイミドおよびその前駆体のアルカリ水溶液に対する溶解性が向上することから、後述の感光性樹脂組成物として用いる場合に好ましい。
【0049】
化学式(10)中、R12は、炭素数2~80の2価の炭化水素基であることが好ましい。また、R12は、水素および炭素を必須成分とし、ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンから選ばれる1以上の原子を含む炭素数2~80の2価の有機基であってもよい。R12に含まれるホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンの各原子の数は、それぞれ独立に、20以下の範囲であることが好ましく、10以下の範囲であることがより好ましい。
【0050】
12を与えるジアミンとしては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例えば、このジアミンとして、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジ(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(4-アミノフェノキシフェニル)スルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタンジアミン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)や、国際公開第2017/099183号に記載のジアミンなどが挙げられる。
【0051】
これらのジアミンは、そのままの状態、あるいは対応するトリメチルシリル化ジアミンとしても使用できる。また、R12を与えるジアミンとして、これらを2種以上用いてもよい。
【0052】
本発明の樹脂膜の耐熱性を向上させるという観点から、上記ポリイミドに含まれるジアミン残基の100モル%のうち50モル%以上は、芳香族ジアミン残基からなることが好ましい。中でも、上記ジアミン残基の50モル%以上は、p-フェニレンジアミン残基からなることがより好ましい。更には、上記ジアミン残基の100モル%のうち80モル%以上は、p-フェニレンジアミン残基からなることがより好ましい。p-フェニレンジアミンを用いて得られるポリイミドであれば、CTEが低い樹脂膜を得ることができる。
【0053】
本発明の樹脂膜に含まれるポリイミドとして特に好ましいのは、当該ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基の100モル%のうち50モル%以上が、ピロメリット酸残基およびビフェニルテトラカルボン酸残基から選ばれる少なくとも一つからなり、且つ、当該ポリイミドに含まれるジアミン残基の100モル%のうち50モル%以上が、p-フェニルレンジアミン残基からなることである。そのような構造のポリイミドであれば、CTEが好適に低い樹脂膜を得ることができる。
【0054】
また、上記ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基のモル数を、上記ポリイミドに含まれるジアミン残基のモル数で除した値(除算値Ka)は、1.001以上であることが好ましく、1.005以上であることがより好ましい。また、上記除算値Kaは、1.100以下であることが好ましく、1.060以下であることがより好ましい。上記除算値Kaが1.001以上であれば、ポリイミドの末端構造は酸無水物となりやすく、ポリイミドにおいて電荷がトラップされやすいアミン末端を低減することができる。このため、ポリイミドを含む樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化を抑制することができる。上記除算値Kaが1.100以下であれば、ポリイミドの分子量が高くなるから、樹脂膜中に存在するポリイミドの末端構造が少なくなる。このため、ポリイミドを含む樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化を抑制することができる。
【0055】
また、R12を与えるジアミンとしては、支持体に対する塗布性や、洗浄などに用いられる酸素プラズマ、UVオゾン処理に対する耐性を高めるために、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アニリノ)テトラメチルジシロキサンなどのケイ素含有ジアミンを用いてもよい。これらケイ素含有ジアミン化合物を用いる場合、ジアミン化合物全体の1~30モル%用いることが好ましい。
【0056】
上記のように例示したジアミン化合物において、ジアミン化合物に含まれる水素の一部は、メチル基、エチル基などの炭素数1~10の炭化水素基、トリフルオロメチル基などの炭素数1~10のフルオロアルキル基、F、Cl、Br、Iなどの基で置換されていてもよい。さらには、当該ジアミン化合物に含まれる水素の一部がOH、COOH、SO3H、CONH2、SO2NH2などの酸性基で置換されていると、ポリイミドおよびその前駆体のアルカリ水溶液に対する溶解性が向上することから、後述の感光性樹脂組成物として用いる場合に好ましい。
【0057】
また、本発明の樹脂膜に含まれるポリイミドは、末端が末端封止剤により封止されたものであってもよい。上記ポリイミドは、その末端が封止されたものである場合、化学式(1)で表される構造および化学式(2)で表される構造のうち少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0058】
【化6】
【0059】
化学式(1)中、R11およびR12は、それぞれ、上述した化学式(10)中のR11およびR12と同じものである。R13は、炭素数2以上の2価のジカルボン酸残基を示す。また、化学式(2)中、R11は、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示す。R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R14は、炭素数1以上の1価のモノカルボン酸残基を示す。
【0060】
化学式(1)中、R13は、炭素数2~80の2価の炭化水素基であることが好ましい。また、R13は、水素および炭素を必須成分とし、ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンから選ばれる1以上の原子を含む炭素数2~80の2価の有機基であってもよい。R13に含まれるホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンの各原子の数は、それぞれ独立に、20以下の範囲であることが好ましく、10以下の範囲であることがより好ましい。
【0061】
13を与えるジカルボン酸としては、特に制限はないが、樹脂膜の耐熱性向上の観点から、芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。この芳香族ジカルボン酸の例として、フタル酸、3,4-ビフェニルジカルボン酸、2,3-ビフェニルジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸などがあげられる。
【0062】
化学式(2)中、R14は、炭素数1~80の1価の炭化水素基であることが好ましい。また、R14は、水素および炭素を必須成分とし、ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンから選ばれる1以上の原子を含む炭素数1~80の1価の有機基であってもよい。R14に含まれるホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンの各原子の数は、それぞれ独立に、20以下の範囲であることが好ましく、10以下の範囲であることがより好ましい。
【0063】
14を与えるモノカルボン酸としては、特に制限はないが、樹脂膜の耐熱性向上の観点から、芳香族モノカルボン酸であることが好ましい。この芳香族モノカルボン酸の例として、安息香酸、2-ビフェニルカルボン酸、3-ビフェニルカルボン酸、4-ビフェニルカルボン酸、1-ナフタレンカルボン酸、2-ナフタレンカルボン酸などがあげられる。
【0064】
化学式(1)で表される構造は、ポリイミドのアミン末端をジカルボン酸化合物によって封止した構造である。また、化学式(2)で表される構造は、ポリイミドのアミン末端をモノカルボン酸化合物によって封止した構造である。したがって、ポリイミドがこれらの構造を有する場合、樹脂膜中に存在するポリイミドのアミン末端が少なくなる、このため、ポリイミドを含む樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化を抑制することができる。
【0065】
また、化学式(1)で表される構造を有する樹脂(化学式(1)の樹脂)は、以下に示す条件を満足することが好ましい。すなわち、化学式(1)の樹脂に含まれるテトラカルボン酸残基のモル数を、当該樹脂に含まれるジアミン残基のモル数で除した値(除算値Ka)は、1.001以上であることが好ましく、1.005以上であることがより好ましい。また、上記除算値Kaは、1.100以下であることが好ましく、1.060以下であることがより好ましい。上記除算値Kaが1.001以上であれば、化学式(1)の樹脂の末端構造は酸無水物となりやすく、当該樹脂において電荷がトラップされやすいアミン末端を低減することができる。このため、ポリイミドを含む樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化を抑制することができる。上記除算値Kaが1.100以下であれば、ポリイミドの分子量が高くなるから、樹脂膜中に存在するポリイミドの末端構造が少なくなる。このため、ポリイミドを含む樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化を抑制することができる。
【0066】
これと同様に、化学式(2)で表される構造を有する樹脂(化学式(2)の樹脂)は、以下に示す条件を満足することが好ましい。すなわち、化学式(2)の樹脂における除算値Kaは、1.001以上であることが好ましく、1.005以上であることがより好ましい。また、上記除算値Kaは、1.100以下であることが好ましく、1.060以下であることがより好ましい。上記除算値Kaが1.001以上であれば、化学式(2)の樹脂の末端構造は酸無水物となりやすく、当該樹脂において電荷がトラップされやすいアミン末端を低減することができる。このため、ポリイミドを含む樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化を抑制することができる。上記除算値Kaが1.100以下であれば、ポリイミドの分子量が高くなるから、樹脂膜中に存在するポリイミドの末端構造が少なくなる。このため、ポリイミドを含む樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化を抑制することができる。
【0067】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の実施の形態に係る樹脂膜は、ポリイミドまたはその前駆体および溶剤を含む樹脂組成物を支持体に塗布し、焼成することにより得ることができる。ポリイミド前駆体とは、加熱処理や化学的処理等により、ポリイミドへと変換可能な樹脂を指す。本発明に好ましく用いることができるポリイミド前駆体は、ポリアミド酸である。なお、ポリアミド酸は、化学式(11)で表される繰り返し単位を有する樹脂であることが好ましい。
【0068】
【化7】
【0069】
化学式(11)中、R1およびR2は、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、炭素数1~10の炭化水素基または炭素数1~10のアルキルシリル基を示す。R11およびR12は、それぞれ、上述した化学式(10)中のR11およびR12と同じものである。化学式(11)中のR11の具体例としては、上述した化学式(10)中のR11の具体例として記載した構造が挙げられる。化学式(11)中のR12の具体例としては、上述した化学式(10)中のR12の具体例として記載した構造が挙げられる。
【0070】
また、本発明において、ポリイミド前駆体は、末端が末端封止剤により封止されたものであってもよい。ポリイミド前駆体の末端を封止することにより、ポリイミド前駆体の分子量を好ましい範囲に調整することができる。
【0071】
ポリイミド前駆体の末端のモノマーがジアミン化合物である場合は、このジアミン化合物のアミノ基を封止するために、ジカルボン酸無水物、モノカルボン酸、モノカルボン酸クロリド化合物、モノカルボン酸活性エステル化合物、二炭酸ジアルキルエステルなどを末端封止剤として用いることができる。また、ポリイミド前駆体の末端のモノマーが酸二無水物である場合は、この酸二無水物の酸無水物基を封止するために、モノアミン、モノアルコールなどを末端封止剤として用いることができる。
【0072】
ポリイミド前駆体がアミン末端を封止したものである場合、このポリイミド前駆体は、化学式(3)で表される構造を有することが好ましい。
【0073】
【化8】
【0074】
化学式(3)中、R11およびR12は、それぞれ、上述した化学式(10)中のR11およびR12と同じものである。R15は、樹脂の末端構造を示し、具体的には、化学式(4)で表される構造を示す。R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。
【0075】
化学式(4)中、αは、炭素数2以上の1価の炭化水素基を示す。αは、炭素数2~10の1価の炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは、αは、脂肪族炭化水素基である。この脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのものであってもよい。また、化学式(4)中、βおよびγは、それぞれ独立して、酸素原子または硫黄原子を示す。βおよびγとして好ましくは、酸素原子である。
【0076】
このような炭化水素基としては、例えば、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などの直鎖状炭化水素基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基などの分岐鎖状炭化水素基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの環状炭化水素基が挙げられる。
【0077】
これらの炭化水素基のうち、炭素数2~10の1価の分岐鎖状炭化水素基および環状炭化水素基が好ましく、イソプロピル基、シクロヘキシル基、tert-ブチル基、tert-ペンチル基がより好ましく、tert-ブチル基が最も好ましい。
【0078】
化学式(3)で表される構造を有する樹脂を加熱すると、R15が熱分解して樹脂の末端にアミノ基が発生する。末端に発生したアミノ基は、テトラカルボン酸を末端に有する他の樹脂と反応することができる。このため、化学式(3)で表される構造を有する樹脂を加熱して得られる樹脂は、分子量が高く末端構造が少ないものとなる。このような樹脂(具体的にはポリイミド)を含む樹脂膜は、光照射時の膜中電荷量の変化を抑制することができる。
【0079】
また、化学式(3)で表される構造を有する樹脂は、以下の条件を満足することが好ましい。すなわち、当該樹脂に含まれるテトラカルボン酸残基のモル数を、当該樹脂に含まれるジアミン残基のモル数で除した値(除算値Kb)は、1.001以上であることがより好ましく、1.005以上であることが更に好ましい。また、上記除算値Kbは、1.100以下であることがより好ましく、1.060以下であることが更に好ましい。上記除算値Kbが1.001以上であれば、当該樹脂の加熱時にR15が熱分解して発生したアミノ基のほぼ全てが、他の樹脂の末端に存在する酸無水物基と反応するため、加熱して得られる樹脂(具体的にはポリイミド)は分子量が極めて高く、かつアミン末端が特に少ないものとなる。このため、ポリイミドを含む樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化を好適に抑制することができる。上記除算値Kbが1.100以下であれば、加熱して得られる樹脂(具体的にはポリイミド)の分子量が高くなるから、樹脂膜中に存在するポリイミドの末端構造が少なくなる。このため、ポリイミドを含む樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化を抑制することができる。
【0080】
また、ポリイミド前駆体がアミン末端を封止したものである場合、このポリイミド前駆体は、化学式(5)表される構造を有することも好ましい。
【0081】
【化9】
【0082】
化学式(5)中、R11およびR12は、それぞれ、上述した化学式(10)中のR11およびR12と同じものである。R16は、樹脂の末端構造を示し、具体的には、化学式(6)で表される構造または化学式(7)で表される構造を示す。化学式(6)中、R13は、炭素数2以上の2価のジカルボン酸残基を示す。化学式(7)中、R14は、炭素数1以上の1価のモノカルボン酸残基を示す。
【0083】
化学式(5)中のR16が化学式(6)で表される構造である場合、化学式(5)で表される構造を有する樹脂を加熱することにより、上述した化学式(1)で表される構造を有する樹脂が得られる。化学式(5)中のR16が化学式(7)で表される構造である場合、化学式(5)で表される構造を有する樹脂を加熱することにより、上述した化学式(2)で表される構造を有する樹脂が得られる。
【0084】
上記樹脂組成物に含まれる溶剤は、ポリイミドおよびその前駆体を溶解するものであれば、特に制限なく使用可能である。このような溶剤として、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N‘-ジメチルプロピレン尿素、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテートなどのエステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類や、国際公開第2017/099183号に記載の溶剤などが挙げられる。上記溶剤としては、これらのうち何れかを単独で使用することもできれば、これらのうち2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0085】
ポリイミドまたはその前駆体は、既知の方法によって重合することができる。例えば、ポリイミド前駆体としてポリアミド酸を製造する場合、テトラカルボン酸、あるいは対応する酸二無水物、活性エステル、活性アミドなどを酸成分とし、ジアミンあるいは対応するトリメチルシリル化ジアミンなどをジアミン成分として反応溶媒中で重合させることにより、ポリアミド酸を得ることができる。また、このポリアミド酸は、カルボキシ基がアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンと塩を形成したり、炭素数1~10の炭化水素基または炭素数1~10のアルキルシリル基でエステル化されたものであってもよい。
【0086】
末端が封止されたポリイミドまたはその前駆体を製造する場合、末端封止剤を、重合前のモノマーと反応させたり、重合中および重合後のポリイミドまたはその前駆体と反応させたりすることにより、目的とするポリイミドまたはその前駆体を得ることができる。例えば、末端が封止されたポリイミドまたはその前駆体として、前述の化学式(3)または化学式(5)で表される構造を有する樹脂は、以下の2通りの方法によって製造することができる。
【0087】
第1の製造方法は、以下に示す2段階の方法によって、化学式(3)または化学式(5)で表される構造を有する樹脂を製造する方法である。具体的には、この製造方法において、1段階目では、ジアミン化合物と末端アミノ基封止剤とを反応させて、化学式(41)または化学式(51)で表される化合物を生成する。本発明において、末端アミノ基封止剤は、ポリイミドまたはその前駆体の末端を封止するための末端封止剤の一例であり、具体的には、ジアミン化合物のアミノ基と反応して、化学式(41)または化学式(51)で表される化合物を生成させる化合物である。続く2段階目では、化学式(41)または化学式(51)で表される化合物と、ジアミン化合物と、テトラカルボン酸とを反応させて、化学式(3)または化学式(5)で表される構造を有する樹脂を製造する。
【0088】
【化10】
【0089】
化学式(41)中、R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R15は、化学式(4)で表される構造を示す。また、化学式(51)中、R12は、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R16は、化学式(6)で表される構造または化学式(7)で表される構造を示す。
【0090】
第2の製造方法は、以下に示す2段階の方法によって、化学式(3)または化学式(5)で表される構造を有する樹脂を製造する方法である。具体的には、この製造方法において、1段階目では、ジアミン化合物とテトラカルボン酸とを反応させて、化学式(42)で表される構造を有する樹脂を生成する。続く2段階目では、化学式(42)で表される構造を有する樹脂と上記の末端アミノ基封止剤とを反応させて、化学式(3)または化学式(5)で表される構造を有する樹脂を製造する。
【0091】
【化11】
【0092】
化学式(42)中、R11およびR12は、それぞれ、上述した化学式(10)中のR11およびR12と同じものである。R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。
【0093】
上記の反応溶媒としては、樹脂組成物に含まれる溶剤の具体例として記載した溶剤などを、単独、または2種以上使用することができる。上記の反応溶剤の使用量は、テトラカルボン酸およびジアミン化合物の合計量が反応溶液の全体の0.1~50質量%となるように、調整することが好ましい。
【0094】
また、反応温度は、-20℃~150℃であることが好ましく、0℃~100℃であることがより好ましい。さらに、反応時間は、0.1~24時間であることが好ましく、0.5~12時間であることがより好ましい。
【0095】
ポリイミド前駆体として得られたポリアミド酸の溶液は、そのまま樹脂組成物として使用してもよい。この場合、反応溶剤に樹脂組成物として使用する溶剤と同じものを用いたり、反応終了後に溶剤を添加したりすることで、樹脂を単離することなく目的の樹脂組成物を得ることができる。
【0096】
また、上記のように得られたポリアミド酸は、更にポリアミド酸の繰り返し単位の一部をイミド化させたり、エステル化させたりしてもよい。この場合、ポリアミド酸の重合で得られたポリアミド酸溶液をそのまま反応に用いてもよいし、ポリアミド酸を単離したうえで反応に用いてもよい。
【0097】
また、上記樹脂組成物は、化学式(8)で表される構造を有する化合物および化学式(9)で表される構造を有する化合物のうち、少なくとも一つを含むことも好ましい。これらの化合物は、ポリアミド酸の焼成中に当該ポリアミド酸のアミン末端と反応する。そのため、これらの化合物のうち少なくとも一つを含む樹脂組成物を焼成することにより、ポリアミド酸の分子量を低下させることなく、上述した化学式(1)または化学式(2)で表される構造を有する樹脂(具体的にはポリイミド)が得られる。
【0098】
【化12】
【0099】
化学式(8)中、R13は、炭素数2以上の2価のジカルボン酸残基を示す。R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。R13の具体例としては、上述した化学式(1)中のR13の具体例として記載した構造が挙げられる。また、化学式(9)中、R14は、炭素数1以上の1価のモノカルボン酸残基を示す。R5は、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。R14の具体例としては、上述した化学式(2)中のR14の具体例として記載した構造が挙げられる。
【0100】
化学式(8)で表される構造の化合物および化学式(9)で表される構造の化合物のうち少なくとも一つの、上記樹脂組成物における含有量は、上記樹脂組成物中のポリイミド前駆体の100質量部に対して0.05質量部以上であること好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。また、当該含有量は、上記樹脂組成物中のポリイミド前駆体の100質量部に対して5.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましい。当該含有量が0.05質量部以上であれば、ポリアミド酸のアミン末端を低減できるため、ポリイミドを含む樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化を抑制することができる。当該含有量が5.0質量以下であれば、アミン末端と反応しなかった残留成分による上記樹脂膜の耐熱性低下を抑制することができる。
【0101】
また、上記樹脂組成物は、必要に応じて、光酸発生剤(a)、熱架橋剤(b)、熱酸発生剤(c)、フェノール性水酸基を含む化合物(d)、密着改良剤(e)、および界面活性剤(f)から選ばれる少なくとも一つの添加剤を含んでも良い。これらの添加剤の具体例としては、例えば、国際公開第2017/099183号に記載のものを挙げることができる。
【0102】
(光酸発生剤(a))
上記樹脂組成物は、光酸発生剤(a)を含有することで感光性樹脂組成物とすることができる。光酸発生剤(a)を含有することで、樹脂組成物の光照射部に酸が発生して、この光照射部のアルカリ水溶液に対する溶解性が増大し、この光照射部が溶解するポジ型のレリーフパターンを得ることができる。また、光酸発生剤(a)とエポキシ化合物または後述する熱架橋剤(b)とを含有することで、この光照射部に発生した酸がエポキシ化合物や熱架橋剤(b)の架橋反応を促進し、この光照射部が不溶化するネガ型のレリーフパターンを得ることができる。
【0103】
光酸発生剤(a)としては、例えば、キノンジアジド化合物、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩などが挙げられる。樹脂組成物は、これらを2種以上含有してもよく、これにより、高感度な感光性樹脂組成物を得ることができる。
【0104】
(熱架橋剤(b))
上記樹脂組成物は、熱架橋剤(b)を含有することで、加熱して得られる樹脂膜の耐薬品性や硬度を高めることができる。熱架橋剤(b)の含有量は、樹脂組成物の100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下であることが好ましい。熱架橋剤(b)の含有量が10質量部以上100質量部以下であれば、得られる樹脂膜の強度が高く、樹脂組成物の保存安定性にも優れる。
【0105】
(熱酸発生剤(c))
上記樹脂組成物は、さらに熱酸発生剤(c)を含有してもよい。熱酸発生剤(c)は、後述する現像後加熱により酸を発生し、ポリイミドまたはその前駆体と熱架橋剤(b)との架橋反応を促進するほか、硬化反応を促進する。このため、得られる耐熱性樹脂膜(具体的にはポリイミドを含む樹脂膜)の耐薬品性が向上し、膜減りを低減することができる。熱酸発生剤(c)から発生する酸は、強酸であることが好ましく、例えば、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などのアリールスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸などが好ましい。熱酸発生剤(c)の含有量は、架橋反応をより促進するという観点から、樹脂組成物の100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、10質量部以下であることが好ましい。
【0106】
(フェノール性水酸基を含む化合物(d))
上記樹脂組成物は、必要に応じて、感光性樹脂組成物のアルカリ現像性を補う目的で、フェノール性水酸基を含む化合物(d)を含有してもよい。フェノール性水酸基を含む化合物(d)を含有することで、得られる感光性樹脂組成物は、露光前はアルカリ現像液にほとんど溶解せず、露光すると容易にアルカリ現像液に溶解するため、現像による膜減りが少なく、かつ短時間で、容易に現像が行えるようになる。そのため、感度が向上しやすくなる。このようなフェノール性水酸基を含む化合物(d)の含有量は、樹脂組成物の100質量部に対して、好ましくは3質量部以上40質量部以下である。
【0107】
(密着改良剤(e))
上記樹脂組成物は、密着改良剤(e)を含有してもよい。密着改良剤(e)を含有することにより、感光性樹脂組成物を現像する場合などに、シリコンウェハ、ITO、SiO2、窒化ケイ素などの下地基材と感光性樹脂組成物との密着性を高めることができる。また、感光性樹脂組成物と下地の基材との密着性を高めることにより、洗浄などに用いられる酸素プラズマやUVオゾン処理に対する感光性樹脂組成物の耐性を高めることもできる。また、焼成時やディスプレイ製造時の真空プロセスで樹脂膜が基板から浮く膜浮き現象を抑制することができる。密着改良剤(e)の含有量は、樹脂組成物の100質量部に対して、0.005質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0108】
(界面活性剤(f))
上記樹脂組成物は、塗布性を向上させるために界面活性剤(f)を含有してもよい。界面活性剤(f)としては、例えば、住友3M社製の“フロラード”(登録商標)、DIC社製の“メガファック”(登録商標)、旭硝子社製の“スルフロン”(登録商標)などのフッ素系界面活性剤、信越化学工業社製のKP341、チッソ社製のDBE、共栄社化学社製の“ポリフロー”(登録商標)、“グラノール”(登録商標)、ビック・ケミー社製のBYKなどの有機シロキサン界面活性剤、共栄社化学社製のポリフローなどのアクリル重合物界面活性剤が挙げられる。界面活性剤(f)の含有量は、樹脂組成物の100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0109】
上述した光酸発生剤(a)、熱架橋剤(b)、熱酸発生剤(c)、フェノール性水酸基を含む化合物(d)、密着改良剤(e)および界面活性剤(f)等の添加剤を樹脂組成物に溶解させる方法としては、撹拌や加熱が挙げられる。光酸発生剤(a)を含む場合、加熱温度は、感光性樹脂組成物としての性能を損なわない範囲で設定することが好ましく、通常、室温~80℃である。また、各成分の溶解順序は特に限定されず、例えば、溶解性の低い化合物から順次溶解させる方法がある。また、界面活性剤(f)など、撹拌溶解時に気泡を発生しやすい成分については、他の成分を溶解してから最後に添加することで、気泡の発生による他成分の溶解不良を防ぐことができる。
【0110】
上述した製造方法によって得られた樹脂組成物の一例であるワニスは、フィルターを用いて濾過し、ゴミなどの異物を除去することが好ましい。このフィルターの孔径は、例えば、10μm、3μm、1μm、0.5μm、0.2μm、0.1μm、0.07μm、0.05μmなどがあるが、これらに限定されない。このフィルターの材質には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン(NY)、ポリテトラフルオロエチエレン(PTFE)などがあるが、ポリエチレンやナイロンが好ましい。
【0111】
(樹脂膜の製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係る樹脂膜の製造方法について説明する。この樹脂膜の製造方法は、上述した樹脂組成物から本発明の実施の形態に係る樹脂膜を製造する方法の一例である。詳細には、この樹脂膜の製造方法は、ポリイミドまたはポリイミド前駆体と溶剤とを含む樹脂組成物を支持体に塗布する塗布工程と、この塗布工程によって得られた塗膜を加熱して樹脂膜を得る加熱工程とを含む。
【0112】
塗布工程では、まず、本発明における樹脂組成物の一つであるワニスを支持体上に塗布する。支持体としては、シリコン、ガリウムヒ素などのウェハ基板、サファイアガラス、ソーダ石灰硝子、無アルカリガラスなどのガラス基板、ステンレス、銅などの金属基板あるいは金属箔、セラミックス基板、などが挙げられる。中でも、表面平滑性、加熱時の寸法安定性の観点から、無アルカリガラスが好ましい。
【0113】
ワニスの塗布方法としては、スピン塗布法、スリット塗布法、ディップ塗布法、スプレー塗布法、印刷法などが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。樹脂膜をディスプレイ用基板(例えばディスプレイに設けられるTFT等の半導体素子の基板)として用いる場合には、大型サイズの支持体上に塗布する必要があるため、特にスリット塗布法が好ましく用いられる。
【0114】
塗布に先立ち、支持体を予め前処理してもよい。この前処理の方法としては、例えば、前処理剤をイソプロパノール、エタノール、メタノール、水、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチル、アジピン酸ジエチルなどの溶媒に0.5~20質量%溶解させた溶液を用いて、スピンコート、スリットダイコート、バーコート、ディップコート、スプレーコート、蒸気処理などの方法で支持体表面を処理する方法が挙げられる。また、必要に応じて、減圧乾燥処理を施し、その後、50℃~300℃の熱処理により支持体と前処理剤との反応を進行させることができる。
【0115】
塗布後は、ワニスの塗膜を乾燥させることが一般的である。乾燥方法としては、減圧乾燥や加熱乾燥、あるいはこれらを組み合わせて用いることができる。減圧乾燥の方法としては、例えば、真空チャンバー内に塗膜を形成した支持体を置き、真空チャンバー内を減圧することで塗膜を乾燥するものが挙げられる。また、加熱乾燥の方法としては、ホットプレート、オーブン、赤外線などを使用して塗膜を乾燥するものが挙げられる。ホットプレートを用いる場合、プレート上に直接、もしくは、プレート上に設置したプロキシピン等の治具上に、塗膜を形成した支持体を保持して当該塗膜を加熱乾燥する。加熱温度は、ワニスに用いられる溶剤の種類や目的により様々であり、室温から180℃の範囲で1分間~数時間、加熱を行うことが好ましい。
【0116】
塗布対象の樹脂組成物に光酸発生剤(a)が含まれる場合、次に説明する方法により、乾燥後の塗膜からパターンを形成することができる。例えば、この方法では、塗膜上に所望のパターンを有するマスクを通して化学線を照射し、露光する。露光に用いられる化学線としては、紫外線、可視光線、電子線、X線などがあるが、本発明では水銀灯のi線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)を用いることが好ましい。塗膜がポジ型の感光性を有する場合、この塗膜における露光部が現像液に溶解する。塗膜がネガ型の感光性を有する場合、この塗膜における露光部が硬化し、現像液に不溶化する。
【0117】
露光後、現像液を用いて、ポジ型の場合は露光部を除去し、また、ネガ型の場合は非露光部を除去することにより、塗膜に所望のパターンを形成する。現像液としては、ポジ型およびネガ型のいずれの場合も、テトラメチルアンモニウムなどのアルカリ性を示す化合物の水溶液が好ましい。また、場合によっては、これらのアルカリ水溶液に、N-メチル-2-ピロリドンなどの極性溶媒、アルコール類、エステル類、ケトン類などを単独あるいは複数種類組み合わせたものを添加してもよい。
【0118】
その後、支持体上の塗膜を加熱処理して樹脂膜を製造する加熱工程が行われる。この加熱工程では、180℃以上600℃以下、好ましくは220℃以上600℃以下、更に好ましくは420℃以上490℃以下の範囲で塗膜を加熱処理して、この塗膜を焼成する。これにより、支持体上に樹脂膜を製造することができる。加熱工程における塗膜の加熱温度(焼成温度)が220℃以上であれば、イミド化が十分に進行し、機械特性に優れた樹脂膜が得られる。当該加熱温度が420℃以上であれば、耐熱性に優れた樹脂膜が得られる。また、当該加熱温度が490℃以下であれば、電荷移動遷移が起こりにくい樹脂膜が得られる。このため、当該加熱温度が420℃以上490℃以下であれば、ポリイミドを含む樹脂膜等、機械特性および耐熱性に優れた樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化をより容易に抑制することができる。
【0119】
以上の塗布工程および加熱工程などを経て得られた樹脂膜は、支持体から剥離して用いることができるし、あるいは、支持体から剥離せずに、そのまま用いることもできる。
【0120】
剥離方法の例としては、機械的な剥離方法、水に浸漬する方法、塩酸やフッ酸などの薬液に浸漬する方法、紫外光から赤外光の波長範囲のレーザー光を樹脂膜と支持体との界面に照射する方法などが挙げられる。特に、ポリイミドを含む樹脂膜の上にデバイスを作製してから剥離を行う場合は、デバイスへ損傷を与えることなく剥離を行う必要があるため、紫外光のレーザーを用いた剥離が好ましい。なお、剥離を容易にするために、樹脂組成物を支持体へ塗布する前に、支持体に離型剤を塗布したり犠牲層を製膜したりしておいてもよい。離型剤としては、シリコーン系、フッ素系、芳香族高分子系、アルコキシシラン系等が挙げられる。犠牲層としては、金属膜、金属酸化物膜、アモルファスシリコン膜等が挙げられる。
【0121】
本発明の実施の形態に係る樹脂膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、4μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、6μm以上であることが更に好ましい。また、当該樹脂膜の膜厚は、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることが更に好ましい。当該樹脂膜の膜厚が4μm以上であれば、半導体素子の基板として十分な機械特性が得られる。当該樹脂膜の膜厚が40μm以下であれば、半導体素子の基板として十分な靭性が得られる。
【0122】
また、本発明の実施の形態に係る樹脂膜において、0.05%重量減少温度は、特に限定されるものではないが、490℃以上であることが好ましく、495℃以上であることがより好ましい。当該樹脂膜の0.05%重量減少温度が490℃以上であれば、樹脂膜上に形成した無機膜がデバイス製造の高温プロセスに起因して膜面から浮く膜浮き現象を抑制することができる。
【0123】
また、本発明の実施の形態に係る樹脂膜において、その膜厚を10μmに換算した際の、波長470nmにおける光透過率は、特に限定されるものではないが、60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。当該光透過率が60%以上であれば、樹脂膜の光励起が起こりにくいため、樹脂膜における光照射時の膜中電荷量の変化をより容易に抑制することができる。
【0124】
(電子デバイス)
次に、本発明の実施の形態に係る電子デバイスについて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る電子デバイスの一構成例を示す断面模式図である。図1に示すように、この電子デバイス1は、樹脂膜10と、樹脂膜10上に形成された半導体素子21とを備える。また、電子デバイス1は、例えば画像表示装置である場合、更に画像表示素子31~33を備える。
【0125】
樹脂膜10は、本発明の実施の形態に係る樹脂膜であり、図1に示すように、電子デバイス1の基板(例えばフレキシブル基板)として機能する。樹脂膜10の上には、図1に示すように、半導体素子21が形成されている。半導体素子21は、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)であり、図1に示すように、半導体層22と、ゲート絶縁膜23と、ゲート電極24と、ドレイン電極25と、ソース電極26とを備える。半導体層22は、ドレイン電極25とソース電極26との間に設けられている。ゲート絶縁膜23は、半導体層22とゲート電極24とを電気的に絶縁する。また、ゲート電極24とドレイン電極25およびソース電極26との間には、これらの電極同士を電気的に絶縁し得る層間絶縁膜27が設けられている。ドレイン電極25およびソース電極26の上には、層間絶縁膜28が設けられている。電子デバイス1は、樹脂膜10の上に、複数の半導体素子21および層間絶縁膜27、28を含む素子層20を備える。
【0126】
また、図1に示すように、電子デバイス1は、素子層20の上に発光層30を備える。発光層30には、複数の画像表示素子31~33と、画素電極34と、隔壁35と、対向電極36と、封止膜37とが含まれる。画像表示素子31~33は、各々、画像の表示に必要な色の光を発する素子である。例えば、電子デバイス1が有機ELディスプレイである場合、画像表示素子31~33は、赤色光、緑色光、青色光を各々発する有機EL素子である。これらの画像表示素子31~33は、各々、画素電極34を介して半導体素子21のソース電極26と電気的に接続されている。発光層30内の画素電極34は、層間絶縁膜28によって素子層20内のドレイン電極25と電気的に絶縁されている。また、画像表示素子31~33の各間には、隔壁35が設けられている。画像表示素子31~33および隔壁35の上には、対向電極36が形成される。封止膜37は、対向電極36の上に形成され、画像表示素子31~35等を保護する。
【0127】
なお、図1には、画像表示装置として機能する電子デバイス1が例示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、電子デバイス1は、タッチパネル等、画像表示装置以外の装置であってもよい。この場合、電子デバイス1は、素子層20の上に、タッチパネル用ユニット等、発光層30以外の部品を備えていてもよい。また、電子デバイス1が備える半導体素子21は、図1に示すTFTに限定されず、トップゲート型またはボトムゲート型のいずれのTFTであってもよいし、TFT以外の半導体素子であってもよい。さらに、本発明において、電子デバイス1における半導体素子や画像表示素子の配置数は、特に問われない。
【0128】
(電子デバイスの製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係る電子デバイスの製造方法について説明する。以下では、図1に例示した電子デバイス1を適宜参照しながら、本発明の実施の形態に係る樹脂膜を基板として備える電子デバイスの製造方法の一例を説明する。この電子デバイスの製造方法では、上述した樹脂膜の製造方法によって支持体上に樹脂膜を製造する膜製造工程と、この樹脂膜の上に半導体素子を形成する素子形成工程と、上記支持体から樹脂膜(詳細には半導体素子が形成された樹脂膜)を剥離する剥離工程とを含む。
【0129】
まず、膜製造工程では、上述した樹脂膜の製造方法に従い、塗布工程および加熱工程等を行って、ガラス基板などの支持体の上に上述の樹脂膜を製造する。このように製造された樹脂膜は、支持体上に形成された状態または支持体から剥離された状態のいずれであっても、電子デバイスにおける半導体素子の基板(以下、素子基板と適宜いう)として用いることができる。また、樹脂膜の上には、必要に応じて無機膜が設けられる。これにより、基板外部から水分や酸素が樹脂膜を通過して画素駆動素子や発光素子の劣化を引き起こすのを防ぐことができる。無機膜としては、例えば、ケイ素酸化物(SiOx)、ケイ素窒化物(SiNy)、ケイ素酸窒化物(SiOxNy)などが挙げられる。これらは、単層をなすように用いることもできれば、複数の種類を積層して複数層をなすように用いることもできる。また、これらの無機膜は、例えば、ポリビニルアルコールなどの有機膜と交互に積層して用いることもできる。これらの無機膜の成膜方法は、化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)などの蒸着法を用いて行われることが好ましい。また、必要に応じて無機膜の上に樹脂膜を形成したり、更に無機膜を形成したりすることで、無機膜や樹脂膜を複数層具備する素子基板を製造することができる。なお、プロセスの簡略化の観点から、各樹脂膜の製造に用いられる樹脂組成物は、同一の樹脂組成物であることが好ましい。
【0130】
つづいて、素子形成工程では、上記のように得られた樹脂膜の上に半導体素子を形成する。具体的には、半導体素子がTFTである場合、トップゲート型TFTまたはボトムゲート型TFT等のTFTが樹脂膜上に形成される。例えば、半導体素子がトップゲート型TFTである場合、図1に示したように、樹脂膜10上に、半導体層22と、ゲート絶縁膜23と、ゲート電極24とを形成し、これらを覆うように層間絶縁膜27を形成する。続いて、この層間絶縁膜27にコンタクトホールを形成し、コンタクトホールを埋め込むようにして、一対のドレイン電極25およびソース電極26を形成する。更に、これらを覆うように、層間絶縁膜28を形成する。
【0131】
半導体層(図1に例示した半導体層22等)は、ゲート電極と対向する領域にチャネル領域(活性層)を含んでいる。半導体層は、低温多結晶シリコン(LTPS)または非結晶シリコン(a-Si)等から構成されていてもよく、酸化インジウム錫亜鉛(ITZO)、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO:InGaZnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムガリウム(IGO)、酸化インジウム錫(ITO)および酸化インジウム(InO)等の酸化物半導体から構成されていてもよい。なお、これらの半導体層を形成する場合に、上記樹脂膜等の構造体は、高温プロセスを通過することが一般的である。例えば、LTPSを形成する場合に、a-Si形成後に、脱水素を目的とした450℃、120分等のアニールを実施することがある。これらの高温プロセスにおいて、樹脂膜の耐熱性が不足している場合、樹脂膜上の無機膜が膜浮きし、半導体層が破壊される等により、TFTが破損することがある。
【0132】
ゲート絶縁膜(図1に例示したゲート絶縁膜23等)は、例えば、酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiNx)、酸窒化シリコン(SiON)および酸化アルミニウム(AlOx)等のうちの1種からなる単層膜、またはそれらのうちの2種以上からなる積層膜により構成されていることが好ましい。
【0133】
ゲート電極(図1に例示したゲート電極24等)は、印加されるゲート電圧によって半導体層中のキャリア密度を制御すると共に、電位を供給する配線としての機能を有するものである。このゲート電極の構成材料としては、例えば、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、ネオジウム(Nd)、銅(Cu)のうちの少なくとも1種を含む、単体および合金が挙げられる。あるいは、このゲート電極の構成材料は、それらのうちの少なくとも1種を含む化合物、および2種以上を含む積層膜であってもよい。また、このゲート電極の構成材料としては、例えば、ITO等の透明導電膜が用いられてもよい。
【0134】
層間絶縁膜(図1に例示した層間絶縁膜27、28等)は、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド(PI)、ノボラック系樹脂等の有機材料により構成されている。あるいは、層間絶縁膜には、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜および酸化アルミニウム等の無機材料が用いられてもよい。
【0135】
ソース電極およびドレイン電極(図1に例示したソース電極26およびドレイン電極25等)は、各々、TFTにおけるソースまたはドレインとして機能するものである。ソース電極およびドレイン電極は、例えば、上記したゲート電極の構成材料として列挙したものと同様の金属または透明導電膜を含んで構成されている。これらのソース電極およびドレイン電極としては、電気伝導性の良い材料が選択されることが望ましい。
【0136】
上述したように半導体素子の一例として得られたTFTは、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、電子ペーパー、μLEDディスプレイ等の画像表示装置に使用することができる。本発明における電子デバイスが有機ELディスプレイである場合、この有機ELディスプレイに用いられる画像表示素子が、以下の手順によってTFT上に形成される。すなわち、TFT上に、画素電極、有機EL素子、対向電極、封止膜が、この順に形成される。画素電極は、例えば、上記したソース電極およびドレイン電極に接続されている。対向電極は、例えば、配線などを通じて、各画素に共通のカソード電位が供給されるように構成されている。封止膜(図1に例示した封止膜37等)は、有機EL素子を外部から保護するための層である。この封止膜は、例えば、酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiNx)、酸窒化シリコン(SiON)などの無機材料や、その他の有機材料により構成されていてもよい。
【0137】
最後に、剥離工程では、上記のように半導体素子が形成された樹脂膜を支持体から剥離し、この樹脂膜を備える電子デバイスが製造される。支持体と樹脂膜とをこれらの界面で剥離する方法としては、レーザーを用いる方法、機械的な剥離方法、支持体をエッチングする方法などが挙げられる。レーザーを用いる方法では、ガラス基板などの支持体に対し、半導体素子が形成されていない側からレーザーを照射することで、半導体素子にダメージを与えることなく、支持体と樹脂膜との剥離を行うことができる。また、支持体と樹脂膜とを剥離しやすくするためのプライマー層を、支持体と樹脂膜との間に設けても構わない。レーザー光としては、紫外光から赤外光の波長範囲のレーザー光を用いることができるが、紫外光が特に好ましい。より好ましいレーザー光は、308nmのエキシマレーザーである。支持体と樹脂膜との剥離における剥離エネルギーは、250mJ/cm2以下であることが好ましく、200mJ/cm2以下であることがより好ましい。
【実施例
【0138】
以下、実施例等をあげて本発明を説明するが、本発明は、下記の実施例等によって限定されるものではない。まず、下記の実施例および比較例で行った評価、測定および試験等について説明する。
【0139】
(第1項目:樹脂膜の膜中電荷変化量)
第1項目では、樹脂膜の膜中電荷変化量の測定について説明する。この測定では、各実施例で得られた樹脂膜別に、樹脂膜と熱酸化膜付きSiウェハとの積層体を作製し、作製した積層体について、以下の手順で膜中電荷変化量の測定を実施した。
【0140】
まず、暗室内の測定ステージとなる電極上に、Siウェハ側が接触するように測定サンプルとしての上記積層体を載置し、載置した積層体の樹脂膜上に、電極面積が0.026cm2の水銀プローブを接触させて、当該樹脂膜を含むキャパシタ構造を形成した。つぎに、このキャパシタ構造に対して直流バイアス電圧と交流電圧とを印加して、このキャパシタ構造のCV特性を測定し、このCV特性の測定結果をもとに、このキャパシタ構造のフラットバンド電圧VFB1[V]と電荷蓄積状態の静電容量C[F]とを求めた。このCV特性の測定条件は、交流周波数を100kHzとし、直流バイアス電圧(掃引電圧)を-60Vから+60Vとした。
【0141】
続いて、積層体の樹脂膜から水銀プローブを離間させ、波長470nm、強度4.0μW/cmの光を当該樹脂膜に対して30分間照射した。この樹脂膜に対する光照射が完了した後、再度、水銀プローブを当該樹脂膜に接触させ、上記と同様にCV特性の測定を行い、得られたCV特性の測定結果から、光照射後のフラットバンド電圧VFB2[V]を求めた。
【0142】
以上のようにして得られた光照射前後の各フラットバンド電圧VFB1、VFB2および静電容量Cと、電気素量q、水銀プローブの電極面積Sおよび樹脂膜の膜厚tとを用い、前述の式(F1)、(F2)に基づいて、測定対象である樹脂膜の膜中電荷変化量Qを算出した。
【0143】
(第2項目:樹脂膜の光透過率)
第2項目では、樹脂膜の光透過率の測定について説明する。この測定では、各実施例で得られた樹脂膜別に、樹脂膜とガラス基板との積層体を作製し、作製した積層体について、紫外可視分光光度計(島津製作所社製、MultiSpec1500)を用い、波長470nmにおける樹脂膜の光透過率を測定した。
【0144】
(第3項目:樹脂膜の0.05%重量減少温度)
第3項目では、樹脂膜の0.05%重量減少温度の測定について説明する。この測定では、各実施例で得られた樹脂膜(試料)について、熱重量測定装置(島津製作所社製、TGA-50)を用い、0.05%重量減少温度の測定を実施した。この際、第1段階において、10℃/minという昇温レートで試料を150℃まで昇温し、これにより、この試料の吸着水を除去した。続く第2段階において、10℃/minという降温レートで試料を室温まで空冷した。続く第3段階において、10℃/minという昇温レートで試料の0.05%重量減少温度を測定した。
【0145】
(第4項目:樹脂膜のCTE)
第4項目では、樹脂膜のCTEの測定について説明する。この測定では、各実施例で得られた樹脂膜(試料)について、熱機械分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、EXSTAR6000TMA/SS6000)を用い、CTEの測定を実施した。この際、第1段階において、5℃/minという昇温レートで試料を150℃まで昇温し、これにより、この試料の吸着水を除去した。続く第2段階において、5℃/minという降温レートで試料を室温まで空冷した。続く第3段階において、5℃/minという昇温レートで試料のCTEを測定した。目的とする樹脂膜のCTEは、本測定の50℃~150℃の温度範囲で求めた。
【0146】
(第5項目:膜浮き評価)
第5項目では、膜浮き評価について説明する。この評価では、各実施例で得られた樹脂膜別に、樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を作製し、作製した積層体について、樹脂膜上にCVDによって厚さ50nmのSiO膜を成膜した後、450℃、120分間の加熱処理を行った。その後、樹脂膜からSiO膜が浮く膜浮きの数を、目視および光学顕微鏡での観察によって導出した。
【0147】
(第6項目:TFTの信頼性試験)
第6項目では、TFTの信頼性試験について説明する。この試験では、各実施例で得られた有機ELディスプレイについて、半導体デバイス・アナライザ(Agilent社製、B1500A)を用い、初期の閾値電圧Vthと、1時間駆動させた後の閾値電圧Vthとの変化量ΔVth=Vth-Vthを測定した。変化量ΔVthは、その測定値が小さいほど、TFTの信頼性が長期間保たれることを意味する。なお、TFTの駆動条件として、ドレイン電圧Vdは15Vとし、ソース電圧Vsは0Vとし、ゲート電圧Vgは15Vとした。
【0148】
(化合物)
実施例および比較例では、下記に示す化合物が適宜使用される。実施例および比較例で適宜使用される化合物および略称は、以下に示す通りである。
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PDA:p-フェニレンジアミン
BPAF:9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物
CHDA:trans-1,4-シクロヘキサンジアミン
DIBOC:二炭酸ジ-tert-ブチル
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0149】
(合成例1)
合成例1のワニスについて説明する。合成例1では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(160g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(8.84g(81.7mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、DIBOC(0.54g(2.5mmol))をNMP(10g)で希釈したものを、10分かけて滴下しながら加えた。この滴下が完了してから1時間後に、BPDA(9.76g(33.2mmol))とPMDA(10.86g(49.8mmol))とを投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0150】
(合成例2)
合成例2のワニスについて説明する。合成例2では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(160g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(7.85g(72.6mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、DIBOC(0.48g(2.2mmol))をNMP(10g)で希釈したものを、10分かけて滴下しながら加えた。この滴下が完了してから1時間後に、BPDA(21.67g(73.7mmol))を投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0151】
(合成例3)
合成例3のワニスについて説明する。合成例3では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(160g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらCHDA(8.17g(71.5mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、DIBOC(0.48g(2.2mmol))をNMP(10g)で希釈したものを、10分かけて滴下しながら加えた。この滴下が完了してから1時間後に、BPDA(21.36g(72.6mmol))を投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0152】
(合成例4)
合成例4のワニスについて説明する。合成例4では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(160g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(6.32g(58.4mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、DIBOC(0.39g(1.8mmol))をNMP(10g)で希釈したものを、10分かけて滴下しながら加えた。この滴下が完了してから1時間後に、BPDA(6.98g(23.7mmol))とBPAF(16.31g(35.6mmol))とを投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0153】
(合成例5)
合成例5のワニスについて説明する。合成例5では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(160g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(8.84g(81.7mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、DIBOC(0.54g(2.5mmol))をNMP(10g)で希釈したものを、10分かけて滴下しながら加えた。この滴下が完了してから1時間後に、BPDA(9.76g(33.2mmol))とPMDA(10.86g(49.8mmol))とを投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フタル酸(0.45g(2.7mmol))を添加した。最後に、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0154】
(合成例6)
合成例6のワニスについて説明する。合成例6では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(170g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(9.00g(83.2mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、BPDA(9.94g(33.8mmol))とPMDA(11.06g(50.7mmol))とを投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フタル酸(0.45g(2.7mmol))を添加した。最後に、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0155】
(合成例7)
合成例7のワニスについて説明する。合成例7では、添加するフタル酸の量を2.1g(12.6mmol)に変更したこと以外は、合成例5と同様にして、ワニスを得た。
【0156】
(合成例8)
合成例8のワニスについて説明する。合成例8では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(160g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(8.89g(82.2mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、DIBOC(0.89g(4.1mmol))をNMP(10g)で希釈したものを、10分かけて滴下しながら加えた。この滴下が完了してから1時間後に、BPDA(9.58g(32.5mmol))とPMDA(10.65g(48.8mmol))とを投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0157】
(合成例9)
合成例9のワニスについて説明する。合成例9では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(170g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(9.00g(83.2mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、BPDA(9.94g(33.8mmol))とPMDA(11.06g(50.7mmol))とを投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0158】
(合成例10)
合成例10のワニスについて説明する。合成例10では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(160g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(8.28g(76.6mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、DIBOC(0.56g(2.6mmol))をNMP(10g)で希釈したものを、10分かけて滴下しながら加えた。この滴下が完了してから1時間後に、BPDA(10.02g(34.0mmol))とPMDA(11.14g(51.1mmol))とを投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0159】
(合成例11)
合成例11のワニスについて説明する。合成例11では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(170g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(8.15g(75.4mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、BPDA(21.85g(74.3mmol))を投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0160】
(合成例12)
合成例12のワニスについて説明する。合成例12では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(160g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(8.88g(82.1mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、フタル酸無水物(0.41g(2.5mmol))をNMP(10g)で希釈したものを、10分かけて滴下しながら加えた。この滴下が完了してから1時間後に、BPDA(9.81g(33.3mmol))とPMDA(10.90g(50.0mmol))とを投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0161】
(合成例13)
合成例13のワニスについて説明する。合成例13では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(170g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(8.06g(74.6mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、BPDA(21.94g(74.6mmol))を投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0162】
(合成例14)
合成例14のワニスについて説明する。合成例14では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(170g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(7.97g(73.7mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、BPDA(22.03g(74.9mmol))を投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0163】
(合成例15)
合成例15のワニスについて説明する。合成例15では、300mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(170g)を投入し、40℃に昇温した。昇温後、攪拌しながらPDA(9.21g(85.2mmol))を投入し、溶解したことを確認した後、BPDA(9.65g(32.8mmol))とPMDA(11.14g(51.1mmol))とを投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、フィルター孔径0.2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0164】
合成例1~15において各々得られた各ワニスの組成については、表1-1、1-2に示す。
【0165】
【表1-1】
【0166】
【表1-2】
【0167】
(実施例1)
実施例1では、合成例1で得られたワニスを使用して以下の評価を行った。なお、所望の膜厚の塗膜が形成できない場合は、必要に応じてワニスをNMPで希釈して使用した。
【0168】
まず、スピン塗布装置を用いて、厚さ50nmの熱酸化膜付きP型Siウェハの熱酸化膜面上に、合成例1のワニスを塗布した。続いて、ガスオーブン(INH-21CD、光洋サーモシステム社製)を用いて、このワニスの塗膜を、窒素雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)、400℃で30分間加熱して、熱酸化膜付きP型Siウェハ上に膜厚0.7μmの樹脂膜を形成した。得られた樹脂膜と熱酸化膜付きP型Siウェハとの積層体を用いて、上記第1項目の方法で樹脂膜の膜中電荷変化量を測定した。
【0169】
また、縦100mm×横100mm×厚さ0.5mmの無アルカリガラス基板(AN-100、旭硝子社製)上に合成例1のワニスを塗布し、このワニスの塗膜を上記加熱条件と同じ条件で加熱した。これにより、このガラス基板上に膜厚10μmの樹脂膜を形成した。得られた樹脂膜とガラス基板との積層体を用いて、上記第2項目の方法で樹脂膜の光透過率を測定した。
【0170】
つづいて、上記ガラス基板をフッ酸に4分間浸漬して、樹脂膜をガラス基板から剥離し、風乾して樹脂膜を得た。得られた樹脂膜について、上記第3項目の方法による樹脂膜の0.05%重量減少温度の測定と、上記第4項目の方法による樹脂膜のCTEの測定とを行った。
【0171】
つづいて、上記ガラス基板から剥離する前の樹脂膜とガラス基板との積層体を用いて、上記第5項目の方法で膜浮き評価を実施した。
【0172】
つづいて、上記ガラス基板から剥離する前の樹脂膜上に、CVD法によりSiO膜を形成した。ついで、このSiO膜上にTFTを形成した。具体的には、半導体層を成膜し、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、この半導体層を所定の形状にパターニングした。続いて、この半導体層上に、CVD法によってゲート絶縁膜を成膜した。この後、ゲート絶縁膜上に、ゲート電極をパターン形成し、このゲート電極をマスクとしてゲート絶縁膜をエッチングすることで、ゲート絶縁膜をパターニングした。続いて、ゲート電極等を覆うように層間絶縁膜を形成し、その後、半導体層の一部と対向する領域に、コンタクトホールを形成した。この後、層間絶縁膜上に、このコンタクトホールを埋め込むようにして、金属材料からなる一対のソース電極およびドレイン電極を形成した。そして、これらの層間絶縁膜、一対のソース電極およびドレイン電極を覆うようにして、層間絶縁膜を形成した。このようにして、TFTを形成した。最後に、上記ガラス基板に対し、樹脂膜が成膜されていない側からレーザー(波長:308nm)を照射し、樹脂膜とガラス基板とをこれらの界面で剥離した。このようにして得られたTFTについて、上記第6項目の方法でTFTの信頼性試験を実施した。
【0173】
つづいて、上記ガラス基板から剥離する前のTFTについて、TFTのソース電極と接続するように画素電極をパターン形成した。つぎに、画素電極の周辺を覆う形状の隔壁を形成した。つづいて、真空蒸着装置内で所望のパターンマスクを介して、画素電極上に正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層を順次蒸着して設けた。ついで、対向電極をパターン形成した後、CVD法によって封止膜を形成した。最後に、上記ガラス基板に対し、樹脂膜が成膜されていない側からレーザー(波長:308nm)を照射して、樹脂膜との界面で剥離を行った。
【0174】
以上のようにして、上記樹脂膜を基板として備える有機ELディスプレイを得た。得られた有機ELディスプレイについて、駆動回路を介して電圧を印加し、発光させた。このとき、電圧印加直後の発光輝度Lと、1時間駆動後の発光輝度Lとの比L/Lを求めた。L/Lは、1に近い値であるほど、有機ELディスプレイの信頼性が長期間保たれることを示す。
【0175】
(実施例2~12および比較例1~8)
実施例2~12および比較例1~8では、表2、3-1、3-2に記載されるように、使用するワニスを合成例1~15の各ワニスのうちいずれかに変更し、塗膜の加熱温度を350℃、400℃、450℃、500℃のいずれかに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価を行った。
【0176】
実施例1~12および比較例1~8の各評価結果は、表2、3-1、3-2に示す。
【0177】
【表2】
【0178】
【表3-1】
【0179】
【表3-2】
【産業上の利用可能性】
【0180】
以上のように、本発明に係る樹脂膜、電子デバイス、樹脂膜の製造方法および電子デバイスの製造方法は、半導体素子の基板として使用した際に長期駆動時の半導体素子の特性変化を抑制し得る樹脂膜の実現と、当該樹脂膜を半導体素子の基板として備えることによる電子デバイスの信頼性の向上とに適している。
【符号の説明】
【0181】
1 電子デバイス
10 樹脂膜
20 素子層
21 半導体素子
22 半導体層
23 ゲート絶縁膜
24 ゲート電極
25 ドレイン電極
26 ソース電極
27、28 層間絶縁膜
30 発光層
31、32、33 画像表示素子
34 画素電極
35 隔壁
36 対向電極
37 封止膜
図1