(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】船舶推進機の操作装置
(51)【国際特許分類】
B63H 21/22 20060101AFI20240806BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20240806BHJP
G05G 1/04 20060101ALI20240806BHJP
G05G 5/06 20060101ALI20240806BHJP
G05G 5/04 20060101ALI20240806BHJP
G05G 5/03 20080401ALI20240806BHJP
【FI】
B63H21/22 Z
B63H20/00 800
G05G1/04 Z
G05G5/06 C
G05G5/04 B
G05G5/03 A
(21)【出願番号】P 2021001449
(22)【出願日】2021-01-07
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】金原 匡利
(72)【発明者】
【氏名】片岡 俊哉
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-100593(JP,A)
【文献】特開昭51-051696(JP,A)
【文献】特開2018-118552(JP,A)
【文献】特開2014-237399(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0085259(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1603939(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 1/00-25/04
B63H 20/00-20/36,21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に設けられた船舶推進機により生成される前記船舶の推進力に関する操作を行う操作装置であって、
回動軸を中心に回動可能であり、回動させることによって前記船舶の推進力に関する操作を行うレバーと、
前記船舶または前記船舶に設けられた部品に固定され、前記レバーを回動可能に支持するホルダと、
前記レバーの前記ホルダに対する回動範囲を、前記船舶を前進させる推進力を増加または減少させる操作を行う前進操作域、前記船舶を後退させる推進力を増加または減少させる操作を行う後退操作域、および前記船舶の推進力が生成されない位置であるニュートラル位置を含む所定の回動範囲に制限する回動制限機構と、
前記レバーを前記ニュートラル位置に保持するレバー保持機構とを備え、
前記レバーは、前記回動軸を中心に回動可能となるように前記ホルダに支持された基部と、前記基部に接続され、前記回動軸と交わる方向に伸長し、手で握って動かすことにより前記基部を前記ホルダに対して回動させる操作部とを有し、前記操作部は前記基部に対して前記操作部の伸長方向に移動可能となるように前記基部に接続され、
前記レバー保持機構は、前記レバーが前記ニュートラル位置に位置し、かつ前記操作部が前記基部に対して前記操作部の伸長方向の一側に移動したときに、前記レバーを前記ニュートラル位置に回動不能に保持し、前記レバーが前記ニュートラル位置に位置し、かつ前記操作部が前記基部に対して前記操作部の伸長方向の他側に移動したときに、前記レバーを前記ニュートラル位置から回動可能な状態に
し、
当該操作装置は、前記レバーが前記レバー保持機構によって前記ニュートラル位置に回動不能に保持されないようにする移動制限部材をさらに備え、
前記移動制限部材を前記レバーに設けることにより、前記操作部が前記基部に対して前記操作部の伸長方向の一側に移動することが阻止され、または前記操作部が前記基部に対して前記操作部の伸長方向の一側に移動する量が減少し、前記レバーが前記レバー保持機構によって前記ニュートラル位置に回動不能に保持されなくなることを特徴とする操作装置。
【請求項2】
前記操作部には、当該操作部から前記ホルダに向かって突出する突出部が設けられ、
前記回動制限機構は、
前記突出部と、
前記ホルダにおいて前記操作部に対向する対向面に設けられ、前記レバーの回動方向に伸長した溝または穴により形成され、前記突出部の先端部が挿入される回動制限部とを有し、
前記レバー保持機構は、
前記突出部と、
前記ホルダの前記対向面に設けられ、前記回動制限部に接続され、前記ニュートラル位置を通りかつ前記回動軸と直交する直線と平行に伸長した溝または穴により形成されたレバー保持部とを有し、
前記レバーに前記移動制限部材が設けられていない場合において、前記レバーが前記ニュートラル位置に位置しているとき、前記操作部が前記基部に対して前記操作部の伸長方向の一側に移動して前記突出部が前記レバー保持部内に入ることにより、前記レバーが前記ニュートラル位置に回動不能に保持されることを特徴とする請求項1に記載の操作装置。
【請求項3】
前記レバーには、前記操作部を前記基部に対して前記操作部の伸長方向の一側に付勢する付勢部材が設けられていることを特徴とする請求項1
または2に記載の操作装置。
【請求項4】
前記ホルダには、前記レバーに加える摩擦力の強さを変えることにより、前記レバーを回動操作させる際の前記レバーの重さを調節する重さ調節機構が設けられていることを特徴とする請求項1ないし
3のいずれかに記載の操作装置。
【請求項5】
前記ホルダは、前記船舶または前記船舶に設けられた部品において垂直方向に拡がる面に、前記回動軸が当該面と直交するように取り付けられることを特徴とする請求項1ないし
4のいずれかに記載の操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進機の操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶には、船内機、船内外機または船外機等の船舶推進機が設けられる。通常、船舶推進機は、内燃機関または電動モータ等の動力源、ドライブシャフト、ギヤ機構、プロペラシャフト、およびプロペラを備えている。動力源の動力によりドライブシャフトが回転し、ドライブシャフトの回転がギヤ機構を介してプロペラシャフトに伝達される。これにより、プロペラシャフト、およびプロペラシャフトに固定されたプロペラが回転し、プロペラの回転によって船舶の推進力が生成される。
【0003】
さらに、船舶推進機はクラッチを備えている。クラッチは、動力源の動力をプロペラシャフトに伝達するか否かを選択する機能、および動力源の動力をプロペラシャフトに伝達する場合に、プロペラシャフトの回転方向を選択する機能を有している。すなわち、ギヤ機構には、船舶を前進させる方向の推進力を生成すべくプロペラシャフトを一の方向に回転させるためのフォワードギヤ、および船舶を後退させる方向の推進力を生成すべくプロペラシャフトを逆方向に回転させるためのリバースギヤが設けられている。クラッチは、フォワードギヤおよびリバースギヤのうちのいずれか一方をプロペラシャフトに選択的に接続する。フォワードギヤとプロペラシャフトとが接続されたときには、船舶を前進させる方向の推進力が生成され、船舶が前進する。また、リバースギヤとプロペラシャフトとが接続されたときには、船舶を後退させる方向の推進力が生成され、船舶が後退する。また、クラッチは、フォワードギヤおよびリバースギヤのいずれもがプロペラシャフトに接続されない状態を作り出すこともできる。フォワードギヤおよびリバースギヤのいずれもがプロペラシャフトに接続されていない状態では、船舶の推進力は生成されない。これにより、動力源を作動させつつ船舶が停止した状態を維持することができる。
【0004】
また、船舶には、船舶推進機により生成される船舶の推進力に関する操作を行う操作装置が設けられる。この操作装置は、一般に、リモートコントロール装置と呼ばれる。操作装置は、通常、船舶を操縦するためのコンソール、または船体の内側の側面であって操縦席に近い位置に取り付けられる。
【0005】
また、操作装置は、例えば前後方向に回動可能なレバーを備え、レバーの回動方向に応じて船舶の推進力の方向を切り換える機能、およびレバーの回動角度(回動量)に応じて船舶の推進力を増加または減少させる機能を有している。例えば、動力源が作動している状態において、利用者が操作装置のレバーを前側に回動させると、船舶推進機のクラッチが作動し、フォワードギヤとプロペラシャフトとが接続される。これにより、船舶の推進力の方向が船舶を前進させる方向となる。一方、利用者がレバーを後側に回動させると、クラッチが作動し、リバースギヤとプロペラシャフトとが接続される。これにより、船舶の推進力の方向が船舶を後退させる方向となる。また、利用者がレバーをニュートラル位置(中立位置)にすると、クラッチにより、フォワードギヤおよびリバースギヤのいずれもがプロペラシャフトに接続されない状態となり、船舶の推進力が生成されなくなる。
【0006】
また、動力源が作動している状態において、利用者がレバーを前側に回動させる角度を大きくするに従って、動力源の回転数が増加し、船舶を前進させる方向の推進力が大きくなり、船舶の前進速度が増加する。また、利用者がレバーを後側に回動させる角度を大きくするに従って、動力源の回転数が増加し、船舶を後退させる方向の推進力が大きくなり、船舶の後退速度が増加する。
【0007】
下記の特許文献1にはリモートコントロール装置の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、船舶、船舶推進機またはこれらに関連する機器の市場においては、操作装置のレバーがニュートラル位置に位置しているときに、レバーをニュートラル位置から容易に回動しないように保持する機能を要望する市場と、そのような機能を要望しない市場とが存在する。レバーをニュートラル位置から容易に回動しないように保持する機能を要望する市場には、従来、レバーがニュートラル位置に位置しているときにレバーを回動不能に保持する機構と、そのようなレバーの回動不能な保持状態を解除する解除ボタンとを備えた操作装置が提供されている。この従来の操作装置において、上記解除ボタンは、指で押すように設計されたボタンである。解除ボタンは、レバーのグリップを握っている手の指で押すことができるように、レバーのグリップの一部、またはグリップの近傍に設けられている。
【0010】
この従来の操作装置には、船舶を操縦する利用者の操縦姿勢によっては解除ボタンが押し難くなることがあるという問題がある。すなわち、利用者が船舶の前方を向いて正しい操縦姿勢でレバーのグリップをしっかりと握っている場合には、グリップを握っている手の指で解除ボタンを押すという操作は、通常、やり難くはない。しかしながら、利用者が横や斜め後ろを向き、操縦姿勢が崩れた状態であり、そのためにレバーのグリップをしっかりと握ることができない場合には、グリップを握っている手の指で解除ボタンを押すという操作がやり難いことがある。また、冬期など、気温が低いときに、手が悴んでいる場合には指を思うように動かすことができなくなる。このような場合には、利用者が正しい運転姿勢でグリップをしっかりと握っている場合でも、グリップを握っている手の指で解除ボタンを押すという操作が困難になることがある。
【0011】
この点につき、上記特許文献1に記載されたリモートコントロール装置(16)を例にあげて説明する。上記特許文献1に記載されたリモートコントロール装置(16)は、コントロールボックス(33)と、コントロールボックス(33)に揺動可能に支持されたコントロールレバー(34)とを備えている。また、コントロールボックス(33)にはストッパ(49)が設けられ、コントロールレバー(34)にはニュートラルロックレバー(44)が設けられている。ニュートラルロックレバー(44)はスプリング(48)によって下向きに付勢されており、このスプリング(48)の付勢力により、ニュートラルロックレバー(44)の下端部がストッパ(49)に係止されている。ニュートラルロックレバー(44)の下端部がストッパ(49)に係止された状態では、コントロールレバー(34)がニュートラル位置に略固定状態で位置づけられる。
【0012】
また、リモートコントロール装置(16)において、ニュートラルロックレバー(44)の上部は、コントロールレバー(34)のグリップ(42)の近傍に位置している。ニュートラルロックレバー(44)の上部は、コントロールレバー(34)がニュートラル位置に固定されている状態を解除する解除ボタンに相当する。すなわち、利用者がグリップ(42)を握っている手の指でニュートラルロックレバー(44)を上向きに押すと、スプリング(48)の付勢力に抗してニュートラルロックレバー(44)が上方に移動し、ニュートラルロックレバー(44)の下端部とストッパ(49)との係止が解除される。これにより、コントロールレバー(34)をニュートラル位置から揺動させることが可能になる。
【0013】
このような構成を有するリモートコントロール装置(16)において、利用者がコントロールレバー(34)のグリップ(42)をしっかりと握ることができない場合、または手が悴んでいて指を思うように動かすことができない場合には、グリップ(42)を握っている手の指で、ニュートラルロックレバー(44)の上部をスプリング(48)の付勢力に抗して上向きに押すという操作がやり難いことがある。
【0014】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、レバーをニュートラル位置に回動不能に保持する機構を有する船舶推進機の操作装置において、レバーの回動不能な保持状態を解除する操作の容易性を高めることができる操作装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の操作装置は、船舶に設けられた船舶推進機により生成される前記船舶の推進力に関する操作を行う操作装置であって、回動軸を中心に回動可能であり、回動させることによって前記船舶の推進力に関する操作を行うレバーと、前記船舶または前記船舶に設けられた部品に固定され、前記レバーを回動可能に支持するホルダと、前記レバーの前記ホルダに対する回動範囲を、前記船舶を前進させる推進力を増加または減少させる操作を行う前進操作域、前記船舶を後退させる推進力を増加または減少させる操作を行う後退操作域、および前記船舶の推進力が生成されない位置であるニュートラル位置を含む所定の回動範囲に制限する回動制限機構と、前記レバーを前記ニュートラル位置に保持するレバー保持機構とを備え、前記レバーは、前記回動軸を中心に回動可能となるように前記ホルダに支持された基部と、前記基部に接続され、前記回動軸と交わる方向に伸長し、手で握って動かすことにより前記基部を前記ホルダに対して回動させる操作部とを有し、前記操作部は前記基部に対して前記操作部の伸長方向に移動可能となるように前記基部に接続され、前記レバー保持機構は、前記レバーが前記ニュートラル位置に位置し、かつ前記操作部が前記基部に対して前記操作部の伸長方向の一側に移動したときに、前記レバーを前記ニュートラル位置に回動不能に保持し、前記レバーが前記ニュートラル位置に位置し、かつ前記操作部が前記基部に対して前記操作部の伸長方向の他側に移動したときに、前記レバーを前記ニュートラル位置から回動可能な状態にする。
また、本発明の操作装置は、前記レバーが前記レバー保持機構によって前記ニュートラル位置に回動不能に保持されないようにする移動制限部材をさらに備え、前記移動制限部材を前記レバーに設けることにより、前記操作部が前記基部に対して前記操作部の伸長方向の一側に移動することが阻止され、または前記操作部が前記基部に対して前記操作部の伸長方向の一側に移動する量が減少し、前記レバーが前記レバー保持機構によって前記ニュートラル位置に回動不能に保持されなくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レバーをニュートラル位置に回動不能に保持する機構を有する操作装置において、レバーの回動不能な保持状態を解除する操作の容易性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施例の操作装置としてのリモートコントロール装置が設けられた船舶を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置および船外機を示す説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置を示す斜視図である。
【
図4】本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置を右方から見た状態を示す説明図である。
【
図5】
図4中の切断線V-Vで切断したリモートコントロール装置の断面を
図4における左方から見た状態を示す断面図である。
【
図6】本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置におけるホルダを右方から見た状態を示す説明図である。
【
図7】本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置における回動制限機構およびレバー保持機構の動作を示す説明図である。
【
図8】本発明の第2の実施例のリモートコントロール装置を示す断面図である。
【
図9】本発明の第3の実施例のリモートコントロール装置を示す断面図である。
【
図10】本発明の第3の実施例のリモートコントロール装置におけるホルダを右方から見た状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態の操作装置は、船舶に設けられた船舶推進機により生成される船舶の推進力に関する操作を行う装置である。船舶推進機は例えば船内機、船内外機または船外機である。また、船舶推進機の動力源は、内燃機関でもよいし、電動モータでもよいし、内燃機関と電動モータとを組み合わせたハイブリット型のものでもよい。
【0019】
操作装置は、レバーと、レバーを支持するホルダと、レバーの回動範囲を制限する回動制限機構と、レバーをニュートラル位置に保持するレバー保持機構とを備えている。レバーは、回動軸を中心に回動可能に設けられている。利用者はレバーを回動させることにより船舶の推進力に関する操作を行うことができる。ホルダは、レバーを回動可能に支持する部材である。ホルダは、船舶、または船舶に設けられた部品に固定される。
【0020】
回動制限機構は、レバーのホルダに対する回動範囲を所定の回動範囲に制限する機構である。この所定の回動範囲には、船舶を前進させる推進力を増加または減少させる操作を行う前進操作域、船舶を後退させる推進力を増加または減少させる操作を行う後退操作域、および船舶の推進力が生成されない位置であるニュートラル位置が含まれている。以下、船舶を前進させる推進力を「前進推進力」といい、船舶を後退させる推進力を「後退推進力」という。
【0021】
操作装置は、レバーの回動に応じて船舶推進機を制御し、船舶の推進力を増加または減少させ、船舶の推進力の方向を切り換え、または船舶の推進力が生成されないようにする。操作装置により船舶推進機を制御する方式は、操作装置と船舶推進機とをケーブルを介して機械的に接続し、レバーの回動に応じてケーブルを押し引きすることにより船舶推進機を制御する方式でもよいし、レバーの回転角度を検出し、レバーの回転角度を示す電気信号を出力するセンサを操作装置に設け、そのセンサと船舶推進機とを電線を介して電気的に接続し、センサから出力された電気信号に基づいて船舶推進機を制御する方式でもよい。
【0022】
利用者は、レバーを手で握り、レバーを回動させてレバーの回動方向または回動角度(回動量)を変えることにより、船舶の推進力に関する操作、すなわち、船舶の推進力を増加または減少させる操作、船舶の推進力の方向を切り換える操作、または船舶の推進力が生成されないようにする操作を行うことができる。
【0023】
具体的には、船舶推進機の動力源が作動している状態において、利用者がレバーを例えば前側に回動させて前進操作域内に位置させると、船舶推進機により前進推進力が生成される。また、利用者が前進操作域内においてレバーの回動角度を変えると、船舶推進機により生成される前進推進力が変化する。一方、船舶推進機の動力源が作動している状態において、利用者がレバーを例えば後側に回動させて後退操作域内に位置させると、船舶推進機により後退推進力が生成される。また、利用者が後退操作域内においてレバーの回動角度を変えると、船舶推進機により生成される後退推進力が変化する。
【0024】
また、船舶推進機の動力源が作動している状態において、利用者がレバーをニュートラル位置に位置させると、船舶推進機により船舶の推進力が生成されなくなる。具体的には、船舶推進機の動力原の動力がプロペラシャフトに伝達されなくなり、動力源が作動している状態であるものの、プロペラの回転が停止する。
【0025】
また、本発明の実施形態の操作装置において、レバーは基部および操作部を有している。基部は、回動軸を中心に回動可能となるようにホルダに支持されている。操作部は、基部に接続され、回動軸と交わる方向に伸長している。利用者は操作部を手で握って動かすことにより基部をホルダに対して回動させる。上述したように、利用者は、レバーを用いて、船舶の推進力を増加または減少させる操作、船舶の推進力の方向を切り換える操作、または船舶の推進力が生成されないようにする操作を行うが、利用者は、このような操作を、手で操作部を握って動かして基部(レバー全体)を回動させることにより行う。
【0026】
また、操作部は、基部に対して操作部の伸長方向に移動可能となるように基部に接続されている。
【0027】
また、レバー保持機構は、レバーがニュートラル位置に位置し、かつ操作部が基部に対して操作部の伸長方向の一側に移動したときに、レバーをニュートラル位置に回動不能に保持する。また、レバー保持機構は、レバーがニュートラル位置に位置し、かつ操作部が基部に対して操作部の伸長方向の他側に移動したときに、レバーの回動不能な保持状態を解除し、レバーをニュートラル位置から回動可能にする。
【0028】
利用者は、レバーが前進操作域内または後退操作域内に位置しているときに、操作部を手で握り、レバーを回動させてニュートラル位置に移動させ、操作部を当該操作部の伸長方向の一側に動かすことにより、レバーをニュートラル位置に回動不能に保持させることができる。また、レバーがニュートラル位置に回動不能に保持されている状態であるときには、利用者は、操作部を手で握り、操作部を当該操作部の伸長方向の他側に動かすことにより、レバーの回動不能な保持状態を解除することができる。レバーの操作部を手で握り、操作部を当該操作部の伸長方向の他側に動かす操作は、例えば、利用者が横や斜め後ろを向いており、操縦姿勢が崩れた状態である場合でも容易に行うことができる。また、レバーの操作部を手で握り、操作部を当該操作部の伸長方向の他側に動かす操作は、手が悴んでいて指を思うように動かすことができない場合でも容易に行うことができる。したがって、利用者は、操縦姿勢が崩れている場合でも、または指を思うように動かすことができない場合でも、レバーがニュートラル位置に回動不能に保持されている状態を容易に解除することができる。このように、本発明の実施形態の操作装置によれば、レバーの回動不能な保持状態を解除する操作の容易性を高めることができる。
【実施例1】
【0029】
(船外機)
図1は、本発明の第1の実施例の操作装置としてのリモートコントロール装置31が設けられた船舶1を示している。
図1中の右下の矢印は船舶1における前(Fd)、後(Bd)、上(Ud)、下(Dd)、左(Ld)、右(Rd)の方向を示している。
【0030】
図1に示すように、船舶1には、船舶1の推進力を生成する船舶推進機としての船外機11が設けられている。船外機11は、クランプブラケット12により船舶1の船体2の後部に取り付けられている。また、船体2の前後方向中央部、または、それよりも前寄りの部分にはコンソール3が設けられている。コンソール3の上面には、エンジン始動ボタン4およびステアリングホイール5が設けられている。エンジン始動ボタン4は、船外機11のエンジンを始動させるボタンである。ステアリングホイール5は船舶1の操舵を行う装置である。また、コンソール3にはリモートコントロール装置31が設けられている。リモートコントロール装置31は、船外機11により生成される船舶1の推進力に関する操作を行う装置である。リモートコントロール装置31はコンソール3の右面上部に取り付けられている。また、リモートコントロール装置31は、レバー32の回動軸A(
図5参照)がコンソール3の右面と直交し、かつレバー32がニュートラル位置N(
図4参照)に位置するときにレバー32の操作部42の伸長方向が垂直方向となるように取り付けられている。
【0031】
図2はリモートコントロール装置31および船外機11を示している。
図2に示すように、船外機11は、動力源としてのエンジン13(内燃機関)、ドライブシャフト14、ギヤ機構15、プロペラシャフト19およびプロペラ20を備えている。エンジン13は船外機11の上部に設けられている。ドライブシャフト14は上下方向に伸長し、その上端部がエンジン13のクランクシャフトに接続されている。プロペラシャフト19は船外機11の下部に設けられ、前後方向に伸長している。プロペラ20はプロペラシャフト19の後端側に固定されている。ギヤ機構15は、ドライブシャフト14の回転をプロペラシャフト19に伝達する機構であり、ドライブギヤ16、フォワードギヤ17およびリバースギヤ18を有している。ドライブギヤ16、フォワードギヤ17およびリバースギヤ18はいずれもベベルギヤである。ドライブギヤ16はドライブシャフト14の下端部に固定されている。フォワードギヤ17およびリバースギヤ18はドライブギヤ16とそれぞれ噛合している。フォワードギヤ17はドライブギヤ16の回転を受けて一の方向に回転する。リバースギヤ18はドライブギヤ16の回転を受けて、フォワードギヤ17とは逆の方向に回転する。
【0032】
また、船外機11は、クラッチ21、シフトロッド22およびシフトアクチュエータ23を備えている。クラッチ21は、フォワードギヤ17およびリバースギヤ18のうちのいずれか一方をプロペラシャフト19に選択的に接続する機構である。エンジン13の作動時に、フォワードギヤ17とプロペラシャフト19とが接続されたとき、プロペラ20が一の方向に回転し、船舶1を前進させる推進力(前進推進力)が生成される。また、エンジン13の作動時に、リバースギヤ18とプロペラシャフト19とが接続されたとき、プロペラ20が逆方向に回転し、船舶1を後退させる推進力(後退推進力)が生成される。また、クラッチ21は、フォワードギヤ17およびリバースギヤ18のいずれもがプロペラシャフト19に接続されない状態を作り出すこともできる。エンジン13の作動時に、フォワードギヤ17およびリバースギヤ18のいずれもがプロペラシャフト19に接続されない状態となったとき、エンジン13の動力がプロペラシャフト19に伝達されなくなるので、プロペラ20の回転が停止し、船舶1の推進力が生成されなくなる。クラッチ21はシフトロッド22を介してシフトアクチュエータ23に接続されている。シフトアクチュエータ23はクラッチ21の作動を制御するアクチュエータである。シフトアクチュエータ23は、後述するコントロールユニット24から出力された制御信号に従ってクラッチ21を作動させる。
【0033】
また、船外機11はコントロールユニット24を備えている。コントロールユニット24は、エンジン13をはじめ、船外機11に設けられた各装置を制御する装置である。コントロールユニット24は演算処理装置および記憶装置等を有している。コントロールユニット24にはエンジン始動ボタン4およびリモートコントロール装置31等が電線を介して電気的に接続されている。コントロールユニット24は、エンジン13が停止している間に、利用者によりエンジン始動ボタン4が押されたときにエンジン13の作動を開始させる。また、コントロールユニット24は、利用者によるリモートコントロール装置31の操作に応じてクラッチ21を制御し、ギヤ機構15におけるギヤの切換を行う。また、コントロールユニット24は、利用者によるリモートコントロール装置31の操作に応じてエンジン13を制御し、エンジン13の回転数を増加または減少させる。
【0034】
(リモートコントロール装置)
図3はリモートコントロール装置31を右上後方から見た状態を示している。なお、
図3においては、レバー32の基部33を二点鎖線で示し、基部33を透視することによって基部33で覆われて隠れている部分を示している。
図4はリモートコントロール装置31を右方から見た状態を示している。
図5は、
図4中の切断線V-Vで切断したリモートコントロール装置31の断面を
図4における左方から見た状態を示している。なお、説明の便宜上、リモートコントロール装置31が、
図1に示すように船舶1のコンソール3の右面に取り付けられている状態において、船舶1の前、後、上、下、左、右を、リモートコントロール装置31の前、後、上、下、左、右とする。
図3~
図10中の右下の矢印は、リモートコントロール装置31における前(Fd)、後(Bd)、上(Ud)、下(Dd)、左(Ld)、右(Rd)の方向を示している。
【0035】
リモートコントロール装置31は、
図3に示すように、レバー32と、レバー32を支持するホルダ51と、レバー32の回動範囲を制限する回動制限機構61と、レバー32をニュートラル位置Nに保持するレバー保持機構65と、レバー32の回動を検出する検出部71とを備えている。
【0036】
レバー32は、船外機11により生成される船舶1の推進力に関する操作を行う部分である。レバー32は、
図4に示すように、基部33、操作部42およびグリップ46を有している。レバー32は、その全体が、ホルダ51に対して、回動軸Aを中心に、
図4中の矢印Cが示す方向に回動する。また、レバー32の操作部42は、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、レバー32の基部33に対して、
図4中の矢印Dが示すように上下方向に移動することができる。
【0037】
基部33は、例えば金属材料により形成され、
図5に示すように、レバー32の支軸として機能する支軸部34と、操作部42を基部33に接続する接続部37とを有している。
【0038】
支軸部34は、左右方向に伸長した回動軸Aを軸とする円柱状の外形を有している。支軸部34の外周面には、後述する重さ調節機構75の接触部材76が挿入される環状溝35が形成されている。環状溝35は支軸部34の全周に亘って形成されている。また、支軸部34の左端部には、レバー32と検出部71とを接続するための接続軸部36が形成されている。
【0039】
接続部37は、支軸部34の右端側に位置し、支軸部34と一体形成されている。また、接続部37は、支軸部34と同軸の円柱状の外形を有しているが、支軸部34よりも径寸法が大きい。また、接続部37の外周側の一部には、回動軸Aと直交する方向(レバー32がニュートラル位置Nに位置している場合には上方)に突出した突出部38が形成されている。
【0040】
接続部37には、操作部42を挿入する挿入穴39が形成されている。挿入穴39は、接続部37の突出部38の突出側端面から、回動軸Aと直交する方向(レバー32がニュートラル位置Nに位置している場合には上下方向)に伸長している。本実施例においては、挿入穴39は、突出部38の突出側端面から回動軸Aを越えた位置まで伸長している。
【0041】
また、接続部37の突出部38の内部には、ばね収容部40が形成されている。ばね収容部40は、挿入穴39と同軸に配置され、かつ挿入穴39よりも大径の空間である。また、接続部37の突出部38の左部において、ホルダ51の右面53と対向する部分には連通穴41が形成されている。連通穴41は挿入穴39およびばね収容部40と連通している。これにより、挿入穴39およびばね収容部40はホルダ51に向かって開口している。
【0042】
操作部42は、例えば金属材料により形成された棒状の部材であり、回動軸Aと直交する方向(レバー32がニュートラル位置Nに位置している場合には上下方向)に伸長している。操作部42は基部33に対して操作部42の伸長方向に移動可能となるように基部33に接続されている。すなわち、操作部42は、その基端側(レバー32がニュートラル位置Nに位置している場合には下端側)が基部33の接続部37の挿入穴39内に挿入されることによって基部33に接続されている。また、操作部42の径寸法は挿入穴39の径寸法よりも僅かに小さい。それゆえ、操作部42は挿入穴39内において、操作部42の伸長方向に移動することができる。
【0043】
また、操作部42の基端側部分には保持ピン43が設けられている。保持ピン43は、例えば金属材料により形成され、操作部42と直交し、かつ回動軸Aと平行な方向(左右方向)に伸長している。保持ピン43は操作部42に固定されている。具体的には、操作部42の基端側部分には、操作部42をその径方向に貫通するピン固定穴44が形成され、ピン固定穴44に保持ピン43が圧入されている。なお、ピン固定穴44の内周面および保持ピン43の外周面のそれぞれにねじを形成し、保持ピン43をピン固定穴44に螺着して固定してもよい。また、保持ピン43の長さ寸法は操作部42の径寸法よりも大きい。保持ピン43の左端側は操作部42の外周面からホルダ51に向かって左方に突出している。また、保持ピン43の左端側は連通穴41を通って接続部37の外部に突出している。一方、保持ピン43の右端側は操作部42の外周面から右方に突出している。なお、保持ピン43は突出部の具体例である。
【0044】
また、基部33の接続部37のばね収容部40内には、操作部42を、基部33に対して操作部42の伸長方向の一側、具体的には、回動軸Aに接近する方向に付勢する付勢部材としての保持ばね45が設けられている。本実施例においては、保持ばね45はコイルばねであり、操作部42の外周側に取り付けられている。保持ばね45は、弾性変形して収縮した状態でばね収容部40内に設けられている。保持ばね45において回動軸Aから離れている側の端部は、ばね収容部40において回動軸Aから離れている側の内面40Aに接触している。一方、保持ばね45において回動軸Aに接近している側の端部は、保持ピン43において操作部42から突出した部分の外周面に接触している。これにより、操作部42は保持ばね45によって回動軸Aに接近する方向に押圧されている。また、操作部42は、このように保持ばね45によって回動軸Aに接近する方向に押圧されているが、保持ピン43において操作部42から突出した部分の外周面が、ばね収容部40において回動軸Aに接近している側の内面40Bに当たることにより、操作部42の回動軸Aに接近する方向への移動が制限される。
【0045】
グリップ46は、操作部42の先端側(レバー32がニュートラル位置Nに位置している場合には上端側)に固定されている。グリップ46は例えば樹脂材料により形成されている。グリップ46は、レバー32を操作するときに利用者が手で握る部分である。利用者はグリップ46を手で握って動かすことにより、レバー32をホルダ51に対して回動させることができる。また、後述するように、レバー保持機構65によりレバー32がニュートラル位置Nで回動不能に保持されているときには、利用者はグリップ46を手で握って動かすことにより、レバー32の回動不能な保持状態を解除することができる。
【0046】
ホルダ51は、例えば金属材料により形成され、
図3および
図4に示すように、回動軸Aを軸とする円柱状または円板状の外形を有している。また、ホルダ51の径寸法は、基部33の接続部37の径寸法よりも大きい。
【0047】
また、ホルダ51には、
図5に示すように、レバー32の基部33の支軸部34を挿通させる挿通穴52が形成されている。挿通穴52は回動軸Aの方向(左右方向)に伸長し、ホルダ51を貫通している。また、挿通穴52の横断面形状は円形であり、挿通穴52の中心は回動軸Aと一致している。レバー32の基部33の支軸部34は、挿通穴52内に挿入され、回動軸Aを中心に回動可能となるように挿通穴52内に支持されている。また、レバー32の支軸部34の左端部には、支軸部34を挿通穴52内に抜け止めするためのストッパ57が設けられている。
【0048】
また、ホルダ51の左面は、ホルダ51を船舶、または船舶に固定された部品に取り付ける取付面54となっている。ホルダ51において回動軸Aと直交する面が取付面54となっているので、ホルダ51を、船舶、または船舶に設けられた部品において垂直方向(上下前後方向、または上下左右方向)に拡がる面(本実施例においてはコンソール3の右面)に、回動軸Aが当該面と直交するように取り付けることができる。
【0049】
また、ホルダ51には、重さ調節機構75の接触部材76、押圧ばね77および調節ボルト78を取り付けるための取付穴55が形成されている。取付穴55はホルダ51の径方向に伸長し、取付穴55の一端側は挿通穴52の内面において開口し、取付穴55の他端側はホルダ51の外周面において開口している。また、ホルダ51は例えば3本の固定部材58(例えばボルト)を用いてコンソール3の右面に固定される。ホルダ51の外周部には、例えば3本の固定部材58を挿入するための3つの固定部材挿入穴56が形成されている。
【0050】
回動制限機構61は、操作部42に固定された保持ピン43、およびホルダ51に形成された回動制限溝62により構成されている。回動制限溝62は、ホルダ51において操作部42に対向する面、すなわちホルダ51の右面53に形成された溝である。
図6はホルダ51を右方から見た状態を示している。
図6に示すように、回動制限溝62はレバー32の回動方向に伸長している。回動制限溝62は、回動軸Aを中心とし、中心角が例えば180度の円弧状に形成されている。回動制限溝62は、ホルダ51の右面53の上半分の領域内において、挿通穴52の外側に配置されている。
図3を見るとわかる通り、保持ピン43の左端部は回動制限溝62内に挿入される。これにより、保持ピン43の移動範囲が回動制限溝62によって制限され、その結果、レバー32の回動範囲が制限される。
【0051】
回動制限機構61は、
図4に示すように、レバー32のホルダ51に対する回動範囲を、船舶1の前進推進力を増加または減少させる操作を行う前進操作域F、船舶1の後退推進力を増加または減少させる操作を行う後退操作域B、および船舶1の推進力が生成されない位置であるニュートラル位置Nを含む所定の回動範囲に制限する。例えば、レバー32の回動範囲において、ニュートラル位置Nは前進操作域Fと後退操作域Bとの間に設定されている。また、前進操作域Fは、ニュートラル位置Nから時計回り方向におよそ30度から90度までの範囲に設定されている。また、後退操作域Bは、ニュートラル位置Nから反時計回り方向におよそ30度から90度までの範囲に設定されている。回動制限溝62の中心角は、レバー32のホルダ51に対する回動範囲がこのような所定の回動範囲に制限されるように設定されている。
【0052】
なお、ニュートラル位置N、前進操作域Fおよび後退操作域Bは、
図4に示すものに限定されない。例えば、前進操作域Fをニュートラル位置Nから反時計回り方向におよそ30度から90度までの範囲に設定し、後退操作域Bをニュートラル位置Nから時計回り方向におよそ30度から90度までの範囲に設定してもよい。また、前進操作域Fまたは後退操作域Bの開始角度をニュートラル位置Nから30度よりも小さくし、または30度よりも大きくしてもよい。また、前進操作域Fまたは後退操作域Bの終了角度をニュートラル位置Nから90度よりも小さくし、または90度よりも大きくしてもよい。また、回動制限溝62を、ホルダ51を左右方向に貫通する回動制限穴に変更することができる。なお、回動制限溝62は回動制限部の具体例である。
【0053】
レバー保持機構65は、操作部42に固定された保持ピン43、およびホルダ51に形成されたレバー保持溝66により構成されている。レバー保持溝66は、
図6に示すように、ホルダ51の右面53に形成された溝である。レバー保持溝66は、ニュートラル位置Nを通りかつ回動軸Aと直交する直線Sと平行に伸長している。ホルダ51を右方から見た場合には、レバー保持溝66は直線Sと重なり合っている。
【0054】
レバー保持溝66は上下方向に伸長し、レバー保持溝66の上端部は回動制限溝62に接続されている。すなわち、レバー保持溝66の上端部は、回動制限溝62においてニュートラル位置Nに位置する部分と交わっており、レバー保持溝66は当該位置から下方に伸長している。また、レバー保持溝66は回動制限溝62と連続している。レバー保持溝66の深さは回動制限溝62の深さと同じであり、レバー保持溝66の底面と回動制限溝62の底面との間に段差はない。また、レバー保持溝66は挿通穴52の上方に位置し、レバー保持溝66の下端部は挿通穴52に接近している。また、レバー保持溝66の上下方向の長さは、保持ピン43の半径よりも長く、例えば、保持ピン43の直径と略等しい。なお、レバー保持溝66はレバー保持部の具体例である。
【0055】
レバー保持機構65は、レバー32がニュートラル位置Nにあり、かつ操作部42が基部33に対して操作部42の伸長方向の一側、すなわち、回動軸Aに接近する方向(具体的には下方)に移動したときに、レバー32をニュートラル位置Nに回動不能に保持する。
図7(A)は、
図5中の切断線VII-VIIで切断したリモートコントロール装置31の断面を
図5中の右方から見た状態を示している。
図7(A)に示すように、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているとき、操作部42が、保持ばね45の付勢力によって下方に押され、基部33に対して下方に移動する。これにより、保持ピン43の左端部がレバー保持溝66内に入り、レバー保持溝66内の下端部に移動する。このように保持ピン43の左端部がレバー保持溝66内に入ってレバー保持溝66内の下端部に移動することにより、レバー32がニュートラル位置Nに回動不能に保持される。
【0056】
操作部42は保持ばね45により回動軸Aに接近する方向に付勢されているので、利用者がレバー32をニュートラル位置Nに回動させると、操作部42が保持ばね45の付勢力により自動的に下方に移動し、保持ピン43がレバー保持溝66内に自動的に入る。利用者は保持ピン43をレバー保持溝66内に入れるためにグリップ46を下方に押す必要はない。
【0057】
また、操作部42(保持ピン43)が保持ばね45により回動軸Aに接近する方向に付勢されているので、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときには、操作部42が下方に移動して保持ピン43がレバー保持溝66内に入った状態が維持され、レバー32が回動不能に保持された状態が維持される。これにより、リモートコントロール装置31に振動が加わることによって保持ピン43がレバー保持溝66から出てしまい、レバー保持機構65によるレバー32の回動不能な保持状態が利用者の意に反して解除されてしまうことを抑制することができる。
【0058】
また、レバー保持溝66の上下方向の長さは保持ピン43の半径よりも長いので、保持ピン43の左端部がレバー保持溝66内に入ってレバー保持溝66内の下端部まで移動すると、レバー32は回動不能な状態となる。すなわち、利用者がグリップ46を握ってレバー32を時計回り方向に押し、またはレバー32を反時計回り方向に引いても、保持ピン43がレバー保持溝66の内面(前面または後面)に当たってレバー32は回動しない。
【0059】
一方、レバー保持機構65によってレバー32がニュートラル位置Nに回動不能に保持されている状態は、操作部42が基部33に対して操作部42の伸長方向の他側、すなわち、回動軸Aから離れる方向(具体的には上方)に移動することによって解除される。
図7(B)は操作部42が上方に移動した状態を示している。レバー32がニュートラル位置Nにおいてレバー保持機構65により保持されている状態において、利用者がグリップ46を握り、操作部42を、保持ばね45の付勢力に抗して引き上げると、操作部42が基部33に対して上方に移動し、保持ピン43の左端部がレバー保持溝66から出る。これにより、レバー32の回動不能な保持状態が解除され、レバー32をニュートラル位置Nから回動させることができるようになる。
図7(C)はレバー32をニュートラル位置Nから時計回り方向に90度回動させ、前進操作域Fの終了位置に位置させた状態を示している。
【0060】
検出部71は、例えば角度センサであり、
図3に示すように、ホルダ51の左部に取付部材72を介して取り付けられている。また、
図5に示すように、レバー32の基部33の支軸部34に形成された接続軸部36が検出部71に接続され、これにより、レバー32の回動が検出部71に入力される。また、検出部71は、
図2に示すように、電線を介して、船外機11のコントロールユニット24に電気的に接続されている。検出部71は、例えば、レバー32の回動方向および回動角度(回動量)を示す検出信号をコントロールユニット24に出力する。
【0061】
また、リモートコントロール装置31には、レバー32を回動操作させる際のレバー32の重さを調節する重さ調節機構75が設けられている。重さ調節機構75は、
図5に示すように、例えば金属材料により球状に形成された接触部材76、押圧ばね77、および調節ボルト78を有している。接触部材76、押圧ばね77および調節ボルト78は、ホルダ51の取付穴55内に挿入されており、ホルダ51の径方向において中心側から外周側に向かってこの順番で配置されている。接触部材76は支軸部34の環状溝35の内面に接触している。取付穴55においてホルダ51の外周側に位置する部分の内面にはねじが形成されており、調節ボルト78は取付穴55に螺着されている。調節ボルト78は押圧ばね77をホルダ51の中心側に向かって押し、押圧ばね77は接触部材76をホルダ51の中心側に向かって押している。これにより、接触部材76は押圧ばね77の付勢力により環状溝35の内面に押し付けられている。このような接触部材76と環状溝35の内面との接触により、ホルダ51に対するレバー32の回動を妨げる摩擦力が生成される。利用者は、調節ボルト78の取付穴55へのねじ込み量を変えることにより、レバー32に加える摩擦力の強さを変えることができ、レバー32を回動操作させる際のレバー32の重さを調節することができる。
【0062】
リモートコントロール装置31の動作、およびリモートコントロール装置31の操作に基づく船外機11の動作は次の通りである。
【0063】
リモートコントロール装置31のレバー32がニュートラル位置Nに位置し、レバー32がレバー保持機構65により回動不能に保持されている状態において、利用者がエンジン始動ボタン4を押すと、船外機11のコントロールユニット24による制御に従い、船外機11のエンジン13が作動を開始する。エンジン13が作動すると、エンジン13の動力によりドライブシャフト14が回転し、これに伴い、ドライブギヤ16、フォワードギヤ17およびリバースギヤ18が回転する。しかしながら、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときには、フォワードギヤ17およびリバースギヤ18がいずれもプロペラシャフト19に接続されないので、エンジン13の動力がプロペラシャフト19に伝達されない。したがって、プロペラ20は回転せず、船舶1の推進力は生成されない。それゆえ、船舶1は停止した状態を維持する。このとき、リモートコントロール装置31のレバー32は、レバー保持機構65により回動不能に保持されている。したがって、利用者の意に反してレバー32がニュートラル位置Nから回動してしまうことを防止することができる。例えば、利用者の意に反して、利用者の体の一部や何らかの物体がレバー32にぶつかってレバー32がニュートラル位置Nから回動し、そのために船舶1が前進または後退してしまうといったことを防止することができる。
【0064】
レバー32がレバー保持機構65によりニュートラル位置Nに回動不能に保持され、船舶1が停止している状態において、船舶1を前進させる場合には、利用者は、グリップ46を握り、グリップ46を上方に引き上げつつ、グリップ46を前方に押す。グリップ46が上方に引き上げられることにより、操作部42が基部33に対して上方に移動し、保持ピン43がレバー保持溝66から出る。これにより、レバー保持機構65によるレバー32の回動不能な保持状態が解除される。そして、グリップ46が前方に押されることにより、保持ピン43が回動制限溝62内を前方へ移動し、レバー32が前方(
図4においては時計回り方向)に回動する。
【0065】
図4に示すように、レバー32のニュートラル位置Nからの時計回り方向の回動角度がおよそ30度以上になり、レバー32の位置が前進操作域F内に入ると、検出部71から出力された検出信号に基づき、船外機11のコントロールユニット24が、シフトアクチュエータ23およびシフトロッド22を介してクラッチ21を作動させ、フォワードギヤ17とプロペラシャフト19とを接続する。これにより、エンジン13の動力がフォワードギヤ17を介してプロペラシャフト19に伝達され、プロペラ20が一の方向に回転し、船舶1の前進推進力が生成される。よって、船舶1が前進する。
【0066】
利用者は前進操作域F内においてレバー32の回動角度を変えることで、船舶1の前進速度を変えることができる。すなわち、利用者が前進操作域F内においてレバー32の時計回り方向の回動角度を大きくしたとき、検出部71から出力された検出信号に基づき、コントロールユニット24がエンジン13の回転数を増加させる。これにより、プロペラ20の回転数が増加し、船舶1の前進推進力が大きくなり、船舶1が前進する速度が上昇する。また、利用者が前進操作域F内においてレバー32の時計回り方向の回動角度を小さくしたときには、同様の制御により、船舶1の前進する速度が低下する。
【0067】
一方、レバー32がレバー保持機構65によりニュートラル位置Nに回動不能に保持され、船舶1が停止している状態において、船舶1を後退させる場合には、利用者は、グリップ46を握り、グリップ46を上方に引き上げつつ、グリップ46を後方に引く。これにより、レバー保持機構65によるレバー32の回動不能な保持状態が解除され、レバー32が後方(
図4においては反時計回り方向)に回動する。
【0068】
レバー32のニュートラル位置Nからの反時計回り方向の回動角度がおよそ30度以上になり、レバー32の位置が後退操作域B内に入ると、船外機11のコントロールユニット24がクラッチ21を作動させ、リバースギヤ18とプロペラシャフト19とを接続する。これにより、エンジン13の動力がリバースギヤ18を介してプロペラシャフト19に伝達され、プロペラ20が逆方向に回転し、船舶1の後退推進力が生成される。よって、船舶1が後退する。
【0069】
利用者は後退操作域B内においてレバー32の回動角度を変えることで、船舶1の後退速度を変えることができる。船舶1の後退速度を変える制御は、船舶1の前進速度を変える制御と同様である。利用者が後退操作域B内においてレバー32の反時計回り方向の回動角度を大きくしたとき、船舶1が後退する速度が上昇する。また、利用者が後退操作域B内においてレバー32の反時計回り方向の回動角度を小さくしたとき、船舶1が後退する速度が低下する。
【0070】
船舶1を前進または後退させた後、エンジン13を作動させた状態を維持しつつ船舶1を停止させる場合には、利用者は、グリップ46を握り、レバー32をニュートラル位置Nに回動させる。レバー32がニュートラル位置Nに到達したとき、回動制限溝62内の保持ピン43がレバー保持溝66の上方に到達する。このとき、保持ばね45の付勢力により、操作部42と共に保持ピン43が下方に移動し、保持ピン43がレバー保持溝66内に入り、レバー32がレバー保持機構65により回動不能に保持される。また、レバー32が前進操作域Fからニュートラル位置Nに向かって回動する過程で、レバー32が前進操作域Fから出たとき、またはレバー32が後退操作域Bからニュートラル位置Nに向かって回動する過程で、レバー32が後退操作域Bから出たとき、検出部71から出力された検出信号に基づき、コントロールユニット24がクラッチ21を制御し、フォワードギヤ17およびリバースギヤ18のいずれもがプロペラシャフト19と接続されない状態にする。これにより、エンジン13の動力がプロペラシャフト19に伝達されなくなるので、プロペラ20の回転が停止する。したがって、エンジン13が作動しているものの、船舶1の推進力が生成されなくなり、船舶1が停止する。
【0071】
以上説明した通り、本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置31において、レバー32は、操作部42および基部33を有し、操作部42がその伸長方向に移動可能となるように基部33に接続されている。また、レバー保持機構65は、レバー32がニュートラル位置Nに位置し、かつ操作部42が基部33に対して下方に移動したときに、レバー32をニュートラル位置Nに回動不能に保持する。また、レバー保持機構65は、ニュートラル位置Nに位置しているレバー32の操作部42が基部33に対して上方に移動したときに、レバー32の回動不能な保持状態を解除し、レバー32をニュートラル位置Nから回動可能な状態にする。この構成によれば、利用者は、レバー32がレバー保持機構65によりニュートラル位置Nにおいて回動不能に保持されている状態において、レバー32のグリップ46を握り、操作部42を上方へ引き上げることにより、レバー保持機構65によるレバー32の回動不能な保持状態を解除することができる。グリップ46を握って操作部42を引き上げる操作は、例えば、利用者が横や斜め後ろを向いており、操縦姿勢が崩れた状態である場合でも容易に行うことができる。また、グリップ46を握って操作部42を引き上げる操作は、手が悴んでいるために、または一部の指が負傷しているために、指を思うように動かすことができない場合でも容易に行うことができる。したがって、利用者は、操縦姿勢が崩れている場合でも、または指を思うように動かすことができない場合でも、レバー32がニュートラル位置Nに回動不能に保持されている状態を容易に解除することができる。このように、本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置31によれば、レバー32の回動不能な保持状態を解除する操作の容易性を高めることができる。
【0072】
また、本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置31には、操作部42を基部33に対して回動軸Aに接近する方向に付勢する保持ばね45が設けられている。利用者がレバー32をニュートラル位置Nに回動させたときには、保持ばね45により、操作部42が自動的に下方に移動し、レバー32がレバー保持機構65により回動不能に保持される。この構成により、レバー32をニュートラル位置Nに回動不能に保持する操作の容易性を高めることができる。すなわち、利用者は、レバー32をニュートラル位置Nに回動不能に保持するために、レバー32をニュートラル位置Nに回動させるだけでよい。
【0073】
また、本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置31は、保持ピン43が操作部42に固定され、レバー保持溝66がホルダ51に形成され、保持ピン43の端部がレバー保持溝66内に挿入されることにより、レバー32がニュートラル位置Nに回動不能に保持される構成を有している。この構成よれば、レバー32をニュートラル位置Nに回動不能に保持することができ、かつレバー32の回動不能な保持状態を容易に解除することができるリモートコントロール装置31を簡単な構造により実現することができ、リモートコントロール装置31の小型化、軽量化および低コスト化を図ることができる。
【0074】
また、本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置31は、レバー32を回動操作させる際のレバー32の重さを調節する重さ調節機構75を有している。重さ調節機構75により、レバー32の重さを、個々の利用者の好みに応じて設定することができる。
【0075】
また、本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置31において、ホルダ51の左面が取付面54となっている。これにより、ホルダ51を、船舶、または船舶に設けられた部品において垂直方向に拡がる面に、回動軸Aが当該面と直交するように取り付けることができる。本実施例では、ホルダ51をコンソール3の右面に取り付ける場合を例にあげたが、ホルダ51を、例えば船舶1の船体2の内面であって操縦席に近い位置等に取り付けることもできる。
【実施例2】
【0076】
図8は、本発明の第2の実施例のリモートコントロール装置81のホルダ51、レバー32、回動制限機構61およびレバー保持機構65を示している。なお、
図8におけるリモートコントロール装置81の断面の位置(切断位置)は、
図5におけるリモートコントロール装置31の断面の位置と同じである。また、
図8に示す第2の実施例のリモートコントロール装置81において、第1の実施例のリモートコントロール装置31と同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0077】
図8に示すように、第2の実施例のリモートコントロール装置81のレバー32には、操作部42が基部33に対して、操作部42の伸長方向の一側、具体的には、回動軸Aに接近する方向に移動することを制限する移動制限部材82が設けられている。この点を除き、第2の実施例のリモートコントロール装置81の構成は、第1の実施例のリモートコントロール装置31と同じである。
【0078】
移動制限部材82は、操作部42が基部33に対して回動軸Aに接近する方向に移動することを阻止することにより、または操作部42が基部33に対して回動軸Aに接近する方向に移動する量を減少させることにより、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、レバー32がレバー保持機構65によってニュートラル位置Nに回動不能に保持されないようにする機能を有している。
【0079】
移動制限部材82は、例えば金属材料または樹脂材料により形成された環状、筒状またはC字状の部材である。移動制限部材82として例えばワッシャを用いることができる。移動制限部材82は、保持ピン43の下方に配置され、操作部42の外周側に装着されている。また、移動制限部材82において回動軸Aから離れている側の端面は、保持ピン43において操作部42から突出した部分の外周面に接触している。また、移動制限部材82において回動軸Aに接近している側の端面は、ばね収容部40において回動軸Aに接近している側の内面40Bに接触している。また、
図8中のTは移動制限部材82の厚さを示している。
【0080】
図5に示すように操作部42に移動制限部材82が装着されていない場合と、
図8に示すように操作部42に移動制限部材82が装着されている場合とを比較すると、操作部42に移動制限部材82が装着されている場合の方が、操作部42に移動制限部材82が装着されていない場合よりも、操作部42が回動軸Aに接近する方向に最大限移動したときの操作部42の位置が回動軸Aから離れた位置となる。したがって、移動制限部材82が操作部42に装着されることにより、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、レバー32の下方への移動が阻止されてレバー32が下方へ全く移動しなくなり、あるいは、レバー32が下方へ移動するものの、その移動量が、操作部42に移動制限部材82が装着されていない場合と比較して減少する。
【0081】
移動制限部材82が操作部42に装着されることにより、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、レバー32が下方に全く移動しなくなるか、あるいはレバー32が下方へ移動するものの、その移動量が、操作部42に移動制限部材82が装着されていない場合と比較して減少するようになるかは、移動制限部材82の厚さTによって決まる。具体的には、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、レバー32が下方に全く移動しなくなるように設定した移動制限部材82の厚さTは、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、レバー32が下方へ移動するものの、その移動量が、操作部42に移動制限部材82が装着されていない場合と比較して減少するように設定した移動制限部材82の厚さTよりも大きくなる。
【0082】
移動制限部材82が操作部42に装着されることにより、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、レバー32が下方に全く移動しなくなるように設定された場合には、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、保持ピン43がレバー保持溝66内に全く入らなくなる。その結果、レバー32がレバー保持機構65により全く保持されなくなり、レバー保持機構65の機能が無効化される。
【0083】
また、移動制限部材82が操作部42に装着されることにより、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、レバー32が下方へ移動するものの、その移動量が、操作部42に移動制限部材82が装着されていない場合と比較して減少するように設定された場合には、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、保持ピン43がレバー保持溝66内に入る量が、操作部42に移動制限部材82が装着されていない場合と比較して減少する。移動制限部材82の厚さTを調整して、レバー32がニュートラル位置Nに位置しているときに、保持ピン43がレバー保持溝66内に入る量を、保持ピン43の半径未満に設定することにより、レバー保持機構65はデテント機構として機能するようになる。
【0084】
レバー保持機構65がデテント機構として機能するように設定された場合には、利用者がレバー32を回動させている間に、レバー32がニュートラル位置に到達したときに、保持ピン43の左端部がレバー保持溝66内に入るため、レバー32の回動がニュートラル位置Nで停止する。しかしながら、レバー保持溝66内に入るのは保持ピン43の左端部の下側の部分のみであるため、レバー32はニュートラル位置Nで回動不能に保持された状態にはならない。利用者がニュートラル位置Nで停止したレバー32を前側に押し、または後側に引くことにより、保持ピン43の左端部はレバー保持溝66から出るので、利用者はニュートラル位置Nで停止したレバー32を容易に回動させることができる。ニュートラル位置Nで停止したレバー32を回動させるために、操作部42を基部33に対して引き上げる操作をする必要はない。
【0085】
本発明の第2の実施例のリモートコントロール装置81によれば、本発明の第1の実施例のリモートコントロール装置31の操作部42に移動制限部材82を装着することにより、レバー32をニュートラル位置Nに回動不能に保持するというレバー保持機構65の機能を無効化することができ、またはレバー保持機構65がデテント機構として機能するようにレバー保持機構65の機能を変更することができる。このようにレバー保持機構65の機能が無効化または変更された第2の実施例のリモートコントロール装置81は、第1の実施例のリモートコントロール装置31の部品に移動制限部材82を追加し、かつ第1の実施例のリモートコントロール装置31の製造工程に、移動制限部材82を操作部42に装着する工程を追加するだけで製造することが可能である。したがって、本発明の第1および第2の実施例のリモートコントロール装置31、81によれば、レバー32をニュートラル位置Nに回動不能に保持する機能を有するリモートコントロール装置31と、レバー32をニュートラル位置Nに回動不能に保持する機能を有しないリモートコントロール装置81とを、略共通の部品を用いて、略共通の製造工程により製造することができる。
【0086】
船舶、船舶推進機またはこれらに関連する機器の市場においては、リモートコントロール装置のレバーがニュートラル位置に位置しているときに、レバーをニュートラル位置から容易に回動しないように保持する機能を要望する市場と、そのような機能を要望しない市場とが存在する。レバーをニュートラル位置から容易に回動しないように保持する機能を要望する市場には、第1の実施例のリモートコントロール装置31が適合する。レバーをニュートラル位置から容易に回動しないように保持する機能を要望しない市場には、第2の実施例のリモートコントロール装置81が適合する。本発明の第1および第2の実施例によれば、要望が互いに異なる2種類の市場にそれぞれ適合した2種類のリモートコントロール装置31、81を、略共通の部品を用いて、略共通の製造工程により製造することができるので、総合的に見て、リモートコントロール装置31、81の製造コストを下げることができる。また、リモートコントロール装置31の製造と、リモートコントロール装置81の製造とを少ない製造数量ごとに(例えばロット単位で)切り換えることが容易となり、リモートコントロール装置31とリモートコントロール装置81との製造数量の比率を柔軟に調整することが可能になる。
【0087】
また、本発明の第2の実施例のリモートコントロール装置81によれば、移動制限部材82の厚さTを選択することにより、レバー保持機構65の機能を無効にするか、レバー保持機構65がデテント機構として機能するようにレバー保持機構65の機能を変更するかを容易に選択することができる。したがって、レバー32をニュートラル位置Nに容易に回動可能な状態で止めるデテント機能を有するリモートコントロール装置と、そのようなデテント機能を有しないリモートコントロール装置とを容易にかつ低コストで製造することができる。
【実施例3】
【0088】
図9は、本発明の第3の実施例のリモートコントロール装置91を示している。
図9におけるリモートコントロール装置91の断面の位置(切断位置)は、
図5におけるリモートコントロール装置31の断面の位置と同じである。また、
図10はリモートコントロール装置91のホルダ51を右方から見た状態を示している。なお、
図9および
図10に示す第3の実施例のリモートコントロール装置91において、第1の実施例のリモートコントロール装置31と同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0089】
上述した第1の実施例のリモートコントロール装置31は、操作部42を引き上げることにより、レバー保持機構65によるレバー32の回動不能な保持状態を解除する構成を有しているのに対し、第3の実施例のリモートコントロール装置91は、操作部42を押し下げることにより、レバー保持機構96によるレバー92の回動不能な保持状態を解除する構成を有している。
【0090】
図9に示すように、第3の実施例のリモートコントロール装置91においては、レバー92の接続部37に形成された挿入穴39の底側部分(レバー32がニュートラル位置Nに位置している場合には下端側部分)にばね収容部93が設けられ、ばね収容部93内に保持ばね94が設けられている。保持ばね94の一端部(
図9においては下端部)は挿入穴39の底面39Aに接触し、保持ばね94の他端部(
図9においては上端部)は操作部42の基端部42Aに接触している。保持ばね94は操作部42を回動軸Aから離れる方向(レバー32がニュートラル位置Nに位置している場合には上方)に付勢している。このように第3の実施例のリモートコントロール装置91のレバー92は、ばね収容部93および保持ばね94の配置、および保持ばね94が操作部42を付勢する方向が第1の実施例のリモートコントロール装置31のレバー32と異なるが、これらの点を除き、第1の実施例のリモートコントロール装置31のレバー32と同じである。
【0091】
また、第3の実施例のリモートコントロール装置91のレバー保持機構96は、操作部42に固定された保持ピン43、およびホルダ95に形成されたレバー保持溝97により構成されている。レバー保持溝97は、
図10に示すように、ホルダ95の右面に形成された溝である。レバー保持溝97は、ニュートラル位置Nを通りかつ回動軸Aと直交する直線Sと平行に伸長している。ホルダ95を右方から見た場合には、レバー保持溝97は直線Sと重なり合っている。また、レバー保持溝97は、回動制限溝62においてニュートラル位置Nに位置する部分から上方に伸長している。レバー保持溝97は、その下端部が、回動制限溝62においてニュートラル位置Nに位置する部分と交わっており、当該部分に接続されている。
【0092】
レバー保持機構96は、レバー92がニュートラル位置Nにあり、かつ操作部42が基部33に対して、回動軸Aから離れる方向(具体的には上方)に移動したときに、レバー92をニュートラル位置Nに回動不能に保持する。すなわち、レバー92がニュートラル位置Nに位置しているとき、操作部42が、保持ばね94の付勢力によって上方に押され、基部33に対して上方に移動する。これにより、保持ピン43の左端部がレバー保持溝97内に入ってレバー保持溝97内の上端部に移動する。このようにして、レバー92がニュートラル位置Nに回動不能に保持される。
【0093】
操作部42は保持ばね94により回動軸Aから離れる方向に付勢されているので、利用者がレバー92をニュートラル位置Nに回動させると、操作部42が保持ばね94により自動的に上方に移動し、保持ピン43がレバー保持溝97に自動的に入る。また、操作部42(保持ピン43)が保持ばね94により回動軸Aから離れる方向に付勢されているので、レバー92がニュートラル位置Nに位置しているときには、操作部42が上方に移動して保持ピン43がレバー保持溝97内に入った状態が維持され、レバー92が回動不能に保持された状態が維持される。
【0094】
一方、レバー92がニュートラル位置Nにおいてレバー保持機構96により保持されている状態において、利用者がグリップ46を握り、操作部42を、保持ばね94の付勢力に抗して下方に押すと、操作部42が基部33に対して下方に移動し、保持ピン43の左端部がレバー保持溝97から出る。これにより、レバー32の回動不能な保持状態が解除され、レバー92をニュートラル位置Nから回動させることができるようになる。
【0095】
第3の実施例のリモートコントロール装置91のホルダ95は、上述したようにレバー保持溝97が、第1の実施例のリモートコントロール装置31のレバー保持溝66と異なる点を除き、第1の実施例のリモートコントロール装置31のホルダ51と同じである。また、第3の実施例のリモートコントロール装置91において、回動制限機構61、検出部71および重さ調節機構75については、第1の実施例のリモートコントロール装置31と同じである。
【0096】
このような構成を有する第3の実施例のリモートコントロール装置91によっても、第1の実施例のリモートコントロール装置31と同様の作用効果が得られる。
【0097】
また、上述したように、第2の実施例のリモートコントロール装置81は、第1の実施例のリモートコントロール装置31に移動制限部材82を追加することによって、レバー保持機構65の機能を無効化し、またはレバー保持機構65がデテント機構として機能するようにレバー保持機構65の機能を変更したものである。これと同様に、第3の実施例のリモートコントロール装置91に移動制限部材82を追加することによっても、レバー保持機構96の機能を無効化し、またはレバー保持機構96がデテント機構として機能するようにレバー保持機構96の機能を変更することができる。この場合、移動制限部材82を、操作部42において保持ピン43の上側(
図9において二点鎖線で示した位置)に装着する。
【0098】
なお、上記各実施例のリモートコントロール装置31(81、91)は、船舶1または船舶1に設けられた部品において垂直方向に拡がる面に、回動軸が当該面と直交するように取り付ける構成を有する、いわゆるサイドマウントタイプまたはフラッシュマウントタイプのリモートコントロール装置であるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、船舶1または船舶1に設けられた部品において水平方向に拡がる面(上面)に、回動軸が当該面と平行となるように取り付ける構成を有する、いわゆるトップマウントタイプのリモートコントロール装置(操作装置)にも適用することができる。
【0099】
また、上記第1または第2の実施例において、保持ばね45を設けなくてもよい。すなわち、レバー32がニュートラル位置Nに位置するときに、操作部42がその自重により基部33に対して下方に移動するようにしてもよい。
【0100】
また、上記各実施例のリモートコントロール装置31(81、91)は、船外機11を制御する方式として、検出部71によりレバー32(92)の回転方向および回転角度を検出し、その検出結果を示す検出信号を検出部71から船外機11へ出力する方式を採用したが、本発明はこれに限らない。本発明は、船外機を制御する方式として、リモートコントロール装置と船外機とをケーブルを介して機械的に接続し、レバーの回動に応じてケーブルを押し引きすることにより、船外機を制御する方式を採用したリモートコントロール装置(操作装置)にも適用することができる。
【0101】
また、リモートコントロール装置31(81、91)により制御される船外機11の動力源はエンジンに限らず、電動モータでもよく、また、エンジンと電動モータとを組み合わせたハイブリッド型の動力源でもよい。また、船外機11の動力源を電動モータとした場合には、コントロールユニット24による制御に基づいて電動モータの出力軸の回転方向を切り換えることでプロペラ20の回転方向を切り換えることができる。このような構成とした場合には、船外機11にクラッチ21を設けなくてもよい。この場合、リモートコントロール装置31(81、91)のレバー32(92)がニュートラル位置Nに位置したときには、コントロールユニット24による制御に基づいて電動モータを停止させるようにする。
【0102】
また、リモートコントロール装置31(81、91)により船外機以外の船舶推進機、例えば船内機または船内外機を制御するようにしてもよい。また、リモートコントロール装置31(81、91)を設ける船舶は、
図1に示すような小型の船舶に限定されず、リモートコントロール装置31(81、91)を設ける船舶の大きさおよび種類は問わない。
【0103】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う船舶推進機の操作装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0104】
1 船舶
11 船外機(船舶推進機)
31、81、91 リモートコントロール装置(操作装置)
32、92 レバー
33 基部
42 操作部
43 保持ピン(突出部)
45、94 保持ばね(付勢部材)
51、95 ホルダ
53 右面
61 回動制限機構
62 回動制限溝
65、96 レバー保持機構
66、97 レバー保持溝
75 重さ調節機構
82 移動制限部材
A 回動軸
F 前進操作域
B 後退操作域
N ニュートラル位置