(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】車両シート用サイドエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/231 20110101AFI20240806BHJP
B60R 21/2346 20110101ALI20240806BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240806BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/2346
B60R21/207
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2021003573
(22)【出願日】2021-01-13
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 重希
(72)【発明者】
【氏名】鶴井 健司
(72)【発明者】
【氏名】徳山 美惠
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 勇介
(72)【発明者】
【氏名】国定 正人
(72)【発明者】
【氏名】山田 喜大
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-100493(JP,A)
【文献】特開2011-246095(JP,A)
【文献】特開2011-162012(JP,A)
【文献】特開2009-292348(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0103625(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設置されるシートのシートバックにおけるシート幅方向の側部に設けられ、前記車両の側面衝突時にインフレータから内部に供給されるガスによって膨張展開されたときに、前記シートに着座した乗員の腰部と対向する下部チャンバ及び前記乗員の頭部と対向する上部チャンバを有するバッグ本体と、
開口された一端が前記下部チャンバの内部に配置されたインナーチューブと、
前記バッグ本体の外側に位置し、自身の内部空間が前記インナーチューブの内部空間と連通するように前記バッグ本体及び前記インナーチューブに接続され、且つ前記バッグ本体の外側に位置する前記インフレータの一部が挿入されるインフレータ挿入部と、
を備え、
縫製されることにより前記インナーチューブの外形を構成するチューブ構成布、縫製されることにより前記バッグ本体の外形を構成するバッグ基布及び縫製されることにより前記インフレータ挿入部の外形を構成する挿入部構成布が単一の基布により形成された車両シート用サイドエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両シート用サイドエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、シートのシートバックの内部に設けられ、インフレータから供給されたガスによって膨張展開されるサイドエアバッグが開示されている。このサイドエアバッグは、膨張展開されたときにシートに着座した乗員の腰部と対向する下部チャンバと、頭部と対向する上部チャンバと、を有する。このサイドエアバッグは、下部チャンバ及び上部チャンバを有するバッグ本体と、バッグ本体の内部に設けられ且つ内部にインフレータが挿入されるインナーチューブと、を有する。インフレータから噴出されたガスはインナーチューブの両端開口から下部チャンバと上部チャンバに供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インフレータがバッグ本体の外側においてインナーチューブに接続されるように、サイドエアバッグを構成することが可能である。このサイドエアバッグは、例えば、バッグ本体の製造後に、バッグ本体に形成された孔からインナーチューブの大部分をバッグ本体内に入れて、インナーチューブのバッグ本体内に入れられた部位とバッグ本体を互いに縫製することにより製造可能である。この場合は、インナーチューブのバッグ本体の外側に位置する部位に、インフレータが接続される。
【0005】
しかし可撓性を有するインナーチューブをバッグ本体内の所望の位置に配置するように、上記孔からバッグ本体内へ挿入する作業は困難である。特にインナーチューブの一端を上部チャンバ内に位置させるためにインナーチューブの全長を長くした場合は、この作業はより困難になる。
【0006】
さらにインナーチューブ全体をバッグ本体に縫製しない限り、インフレータからガスが供給されたときにインナーチューブが大きく揺動する。この場合は、上部チャンバを所定位置において速やかに膨張展開させることが難しくなる。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、内部にインフレータが挿入されないインナーチューブを、バッグ本体内の所望の位置に簡単に配置可能であり、ガスが供給されたときにインナーチューブが揺動し難い車両シート用サイドエアバッグ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の車両シート用サイドエアバッグ装置は、車両に設置されるシートのシートバックにおけるシート幅方向の側部に設けられ、前記車両の側面衝突時にインフレータから内部に供給されるガスによって膨張展開されたときに、前記シートに着座した乗員の腰部と対向する下部チャンバ及び前記乗員の頭部と対向する上部チャンバを有するバッグ本体と、開口された一端が前記下部チャンバの内部に配置されたインナーチューブと、前記バッグ本体の外側に位置し、自身の内部空間が前記インナーチューブの内部空間と連通するように前記バッグ本体及び前記インナーチューブに接続され、且つ前記バッグ本体の外側に位置する前記インフレータの一部が挿入されるインフレータ挿入部と、を備え、縫製されることにより前記インナーチューブの外形を構成するチューブ構成布、縫製されることにより前記バッグ本体の外形を構成するバッグ基布及び縫製されることにより前記インフレータ挿入部の外形を構成する挿入部構成布が単一の基布により形成された。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において「単一の基布」には、一枚の布を裁断して作られた一枚の基布及び複数枚の布同士を縫い合わせることにより一体化された一枚の基布が含まれる。
【0010】
請求項1に記載の車両シート用サイドエアバッグ装置のチューブ構成布及びバッグ基布は、単一の基布の一部である。そのためインナーチューブの一端が下部チャンバの内部に位置するように基布を縫製すれば、内部にインフレータが挿入されていないインナーチューブをバッグ本体内に簡単に配置可能である。
【0011】
バッグ本体の縫製後にインナーチューブをバッグ本体内に挿入する作業が不要になる。そのため、インナーチューブの全長を長くした場合においても、サイドエアバッグ装置の生産性を高くし且つ製造コストを低くできる。
【0012】
さらにチューブ構成布及びバッグ基布が基布の一部であるため、ガスが供給されたときにインナーチューブ(チューブ構成布)の揺動がバッグ本体(バッグ基布)によって抑制される。即ち、インナーチューブが揺動し難い。そのため、ガスがインナーチューブの一端から上部チャンバに円滑に供給され、上部チャンバが速やかに膨張展開される。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明に係る車両シート用サイドエアバッグ装置は、内部にインフレータが挿入されないインナーチューブを、バッグ本体内の所望の位置に簡単に配置可能であり、ガスが供給されたときにインナーチューブが揺動し難い、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る車両シート用サイドエアバッグ装置、前席及び乗員の模式的な側面図である。
【
図2】
図1に示された前席及び乗員の模式的な正面図である。
【
図3】
図1に示されたサイドエアバッグ及びインフレータの側面図である。
【
図4】
図3に示されたサイドエアバッグの構成部材である基布の展開図である。
【
図5】
図4の基布の下部構成部を折り返したときの展開図である。
【
図7】第1実施形態の変形例の
図6と同様の拡大断面図である。
【
図10】膨張展開状態にあるサイドエアバッグの一部のサイドエアバッグの内部側から見た模式的な斜視図である。
【
図11】第2実施形態に係る車両シート用サイドエアバッグ装置の構成部材である基布の展開図である。
【
図12】第2実施形態の基布の下部構成部を折り返したときの展開図である。
【
図16】第2実施形態のサイドエアバッグの
図9と同様の拡大断面図である。
【
図17】膨張展開状態にあるサイドエアバッグの一部のサイドエアバッグの外部側から見た模式的な斜視図である。
【
図18】第3実施形態に係る車両シート用サイドエアバッグ装置の斜視図である。
【
図20】内部にガスが供給されたエアバッグの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る車両シート用サイドエアバッグ装置の第1実施形態について、
図1~
図10を参照しながら説明する。本実施形態の車両シート用サイドエアバッグ装置は、サイドエアバッグ10及びインフレータ50を有する。なお、各図に記載された矢印UPは車両上下方向の上方側を示し、矢印FRは車両前後方向の前方側を示し、矢印LHは車両左右方向(車両幅方向)の左側を示す。以下の説明中の上下方向、前後方向、左右方向は、車両上下方向、車両前後方向、車両左右方向をそれぞれ意味する。
【0016】
図1及び
図2に示されるように、サイドエアバッグ10を備える車両の車室には前席12(シート)が設けられている。前席12は左側の座席である。前席12は、シートクッション12Aと、シートバック12Bと、ヘッドレスト12Cと、を有する。シートバック12Bの車両幅方向の内側及び外側の側部にはサイドサポート部12B1が設けられている。シートバック12Bの表面(即ち、シート表皮の表面)にはティアシーム(図示省略)が設けられている。シートバック12Bの内部にはシートバックフレーム(図示省略)が設けられている。
【0017】
図1及び
図2では衝突試験用のダミーP1が前席12に着座している。ダミーP1は国際統一側面衝突ダミー(World Side Impact Dummy: WorldSID)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。各ダミーP1は、側面衝突試験法に規定される着座方法で前席12に着座している。ダミーP1には3点式シートベルト装置14のウェビング16が装着されている。以下、ダミーP1を乗員P1ということがある。シートクッション12Aは乗員P1の腰部P1w及び大腿部P1tを支持し、シートバック12Bは胸部P1bの背面を支持し、ヘッドレスト12Cは頭部P1hを支持する。
【0018】
シートバック12Bの車両幅方向外側の側部に形成されたサイドサポート部12B1の内部には、サイドエアバッグ10及びインフレータ50が設けられている。
【0019】
図3に示されるように、サイドエアバッグ10は、バッグ本体21、インナーチューブ26及びインフレータ挿入部28を有する。
【0020】
バッグ本体21は、互いに連通する下部チャンバ22及び上部チャンバ23を有する。バッグ本体21の後縁部の下部には連通孔24が形成されている(
図3、
図10参照)。両端が開口するインナーチューブ26は、下部チャンバ22及び上部チャンバ23の内部に設けられている。インナーチューブ26の上端部は上部チャンバ23内において開口し、下端部は下部チャンバ22内において開口する。インナーチューブ26はソック又はディフューザと呼ばれることもある。側面形状が略L字形をなし且つ両端が開口する筒状のインフレータ挿入部28は、バッグ本体21の外側に位置する。
図10に示されるように、インフレータ挿入部28の前端は連通孔24に接続されている。インフレータ挿入部28の内部空間はインナーチューブ26の内部空間と連通する。さらにバッグ本体21の外側に位置するインフレータ50の下端部が、上端開口である接続口28Aからインフレータ挿入部28の内部に挿入されている。
【0021】
車両に衝突が発生していない通常時において、サイドエアバッグ10は折り畳まれた状態で、シートバック12Bの左側のサイドサポート部12B1の内部に収納されている。上部チャンバ23の一部及び下部チャンバ22はサイドサポート部12B1の内部に収納されている。
図2に鎖線で示されるように、正面視において、サイドエアバッグ10の下部チャンバ22は上下方向と略平行であり、上部チャンバ23の一部は左右方向と略平行である。
【0022】
図2に示されるように、シートベルト装置14のタング17が前席12に設けられたバックル18に装着されると、ウェビング16のショルダウェビング16Aは、正面視で上下方向の下方側に向かうにつれて車両幅方向内側に延在するように上下方向に対して傾斜する。正面視において上部チャンバ23の車両幅方向内側の端部が、ショルダウェビング16Aの上部チャンバ23と同じ高さに位置する部位より車両幅方向内側に位置する。
【0023】
折り畳まれた状態のサイドエアバッグ10及びインフレータ50は、インフレータ50の軸線方向がシートバック12Bの上下方向に沿うようにサイドサポート部12B1の内部に収納される。なお、
図1及び
図2では、インフレータ挿入部28及びインフレータ50の図示が省略されている。インフレータ50のインフレータ挿入部28に挿入された部位にはガス噴出口が形成されている。さらにインフレータ50のインフレータ挿入部28に挿入された部位に設けられ且つインフレータ挿入部28及びシートバックフレームを貫通するスタッドボルト(図示省略)が、ナットを用いてシートバックフレームに固定されている。
【0024】
図1に示されるように、車両にはECU(エレクトリックコントロールユニット)55が設けられている。ECU55には、インフレータ50が電気的に接続されている。ECU55は、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含むマイクロコンピュータを主要構成部品として有する電子制御回路である。CPUは、メモリ(ROM)に格納されたインストラクションを実行することにより後述する各種機能を実現する。
【0025】
さらに車両には側突センサ57が設けられている。側突センサ57は、車両の側面衝突を検知又は予知したときにECU55に側突信号を出力するように構成されている。
【0026】
続いて、サイドエアバッグ10の構造及び製造方法について詳細に説明する。
【0027】
サイドエアバッグ10は、一枚の布を裁断することにより作られた単一の可撓性を有する基布30を縫製することにより製造される。
図4に基布30の展開状態が示されている。なお、
図4では紙面の手前側が「後方側」である。基布30は、バッグ基布35、チューブ構成布40及び挿入部構成布45を有する。バッグ基布35は基布30の中で最も大きな面積を有する部位である。中心線CLは、基布30が展開状態にあるときに基布30の中心を通り且つ基布30を二等分する線である。バッグ基布35は、基布30が展開状態にあるときに、中心線CLに関して左右対称をなし且つ略L字形をなす左側部36L及び右側部36Rを有する。
【0028】
左側部36L及び右側部36Rを接続するチューブ構成布40は、基布30が展開状態にあるときに中心線CLに関して左右対称である。チューブ構成布40は互いに上下方向に離れた上部構成部41と下部構成部42を有する。上部構成部41は、中心線CLより右方側に位置する右側部41Rと、中心線CLより左側に位置する左側部41Lとを有する。下部構成部42は、中心線CLより右方側に位置する右側部42Rと、中心線CLより左側に位置する左側部42Lと、を有する。
【0029】
挿入部構成布45は、左側部36L及び右側部36Rを接続し且つ上部構成部41と下部構成部42との間に位置する部位である。基布30が展開状態にあるときに、挿入部構成布45は中心線CLに関して左右対称である。挿入部構成布45は、挿入部構成布45の中央部を構成する接続口構成部45Aと、左右両側部をなし且つその上縁部が略V字形をなす接続端部45Bと、を有する。
【0030】
図4に太線で示されたように、上部構成部41の下縁部と挿入部構成布45の上縁部との間に第1スリット48Aが設けられている。挿入部構成布45の下縁部と下部構成部42の上縁部との間に第2スリット48Bが設けられている。下部構成部42の上端部を除く部位の左側縁部と左側部36Lの間及び下部構成部42の上端部を除く部位の右側縁部と右側部36Rとの間には、左右一対の第3スリット48Cが設けられている。
【0031】
展開状態にある基布30からサイドエアバッグ10を製造する際は、まず
図5及び
図6に示されるように、下部構成部42の第3スリット48Cが形成された部位を上方側に折り返して挿入部構成布45の前方側に位置させ、且つ第1スリット48Aを通して上部構成部41の直後に位置させる。以下、下部構成部42の折り返された部位を折返部42Aと称し、折返部42Aと第2スリット48Bとの間の部位を下部チューブ形成部42Bと称し、折返部42Aより下方側に位置する部位を重合部42Cと称する。
図6では下部チューブ形成部42Bは折返部42Aより後方側に位置する。但し、
図7に示されるように、下部チューブ形成部42Bが折返部42Aより前方側に位置してもよい。
【0032】
続いて、
図5及び
図6(
図7)に一点鎖線で示されるように、上部構成部41の下端部と重合部42Cの互いに重ねられた部位同士を第1縫製糸49Aにより縫製する。以下、本明細書において第1縫製糸49A及び後述する第2縫製糸49Bを用いた「縫製」とは、縫製対象である複数の部位(布)同士の間から気体が漏れないように第1縫製糸49A(第2縫製糸49B)を用いて縫い合わせることをいう。
【0033】
続いて
図3に示されるように、基布30の左側部36L及び右側部36Rを、互いに接近するように中心線CLを中心に折り返す。このとき
図8及び
図9に示されるように、上部構成部41及び下部構成部42が左側部36L及び右側部36Rの後縁部より前方側に位置するように、上部構成部41及び下部構成部42を中心線CLに沿って折り畳む。
【0034】
さらに
図9に示されるように、挿入部構成布45が左側部36L及び右側部36Rの後縁部より後方側に位置するように、挿入部構成布45を中心線CLを中心に折り畳む。この結果、挿入部構成布45に、中心線CLより右方側に位置する右側部45Rと、中心線CLより左側に位置する左側部45Lが形成される。
【0035】
図3及び
図10に一点鎖線で示されるように、左側部36Lと右側部36R、左側部36L及び右側部36Rとチューブ構成布40、並びに左側部45Lと右側部45R、を第2縫製糸49Bを用いて縫製する。第2縫製糸49Bによって左側部36Lと右側部36Rが縫製されると、バッグ基布35がバッグ本体21を構成し、左側部36Lと右側部36Rの間に、第2縫製糸49Bによって囲まれた下部チャンバ22及び上部チャンバ23が形成される。
【0036】
図8及び
図10に示されるように、第2縫製糸49Bは上部構成部41の上端と上部構成部41の下端(連通孔24の上端)との間において、左側部36L、右側部36R、左側部41L、右側部41R、並びに重合部42Cの上部の左側部42L及び右側部42Rを、左側部36L及び右側部36Rの後縁部に沿って縫製する。これにより、左側部41L、右側部41R、並びに重合部42Cの上部の左側部42L及び右側部42Rがインナーチューブ26の上部26Aを構成する。なお
図3は、上部26Aの中間部より上方部分を省略して示している。
【0037】
第2縫製糸49Bは、連通孔24の下端と折返部42Aとの間において、左側部36L、右側部36R、左側部42L及び右側部42Rを、左側部36L及び右側部36Rの後縁部に沿って縫製する。これにより左側部42L及び右側部42Rによって、連通孔24より下方側に位置するインナーチューブ26の下部26Cが構成される。第2縫製糸49Bは、連通孔24に沿って、重合部42C、左側部36L及び右側部36Rの連通孔24と同じ高さに位置する部位同士を互いに縫製する。これにより重合部42Cの連通孔24と同じ高さに位置する部位が、上部26Aと下部26Cとを接続する中間部26Bを構成する。そして上部26A、中間部26B及び下部26Cによってインナーチューブ26が構成される。
図3に示されるように、上部26Aの上端開口は上部チャンバ23内に位置し、下部26Cの下端開口は下部チャンバ22内に位置する。
【0038】
第2縫製糸49Bは、左側部45L及び右側部45Rの接続端部45Bの上縁部同士、及び、左側部45L及び右側部45Rの下縁部同士を縫製する。これにより挿入部構成布45がインフレータ挿入部28を構成する。インフレータ挿入部28の前端部は、左側部36L、右側部36R及び中間部26Bに接続される。
【0039】
このように基布30によってサイドエアバッグ10が構成される。インフレータ挿入部28の後端部には接続口28Aが形成される。インフレータ50の下端部は、接続口28Aからインフレータ挿入部28内へ挿入される。インフレータ挿入部28の内部と中間部26Bの内部は、連通孔24を介して互いに連通する。
【0040】
(作用及び効果)
次に、第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0041】
例えば、走行中の車両の左側部に側突が発生すると、側突センサ57が側突信号をECU55へ出力する。これによりインフレータ50のガス噴出口からガスが噴射され、噴射されたガスがインフレータ挿入部28の内部からインナーチューブ26の内部へ流入する。さらにガスは、上部26Aの上端開口から上部チャンバ23内に流入し、下部26Cの下端開口から下部チャンバ22内に流入する。これにより、
図1及び
図2の仮想線で示されるように、サイドエアバッグ10が、前席12のシートバック12Bのティアシームを開裂させながら、サイドサポート部12B1の前方側、下方側及び上方側へ膨張展開される。
【0042】
バッグ本体21を構成するバッグ基布35とインナーチューブ26を構成するチューブ構成布40が基布30の一部である。そのためガスがインナーチューブ26内に供給されたときに、インナーチューブ26(チューブ構成布40)の揺動がバッグ本体21(バッグ基布35)によって抑制される。そのためインナーチューブ26が揺動し難い。従って、ガスがインナーチューブ26の両端から下部チャンバ22及び上部チャンバ23へ円滑に供給され、下部チャンバ22及び上部チャンバ23が速やかに膨張展開される。
【0043】
図2に示されるように、サイドエアバッグ10の展開完了状態を前後方向に見たときに、上部チャンバ23は乗員P1の外側の肩部P1sの上方側において乗員P1の上体を拘束するショルダウェビング16Aの後面と頭部P1hの側面との間に膨張展開される。このため、側面衝突時に乗員P1の頭部P1hが左側へ変位すると、頭部P1hの左側面とショルダウェビング16Aの後面との間に上部チャンバ23が挟まれる。これにより上部チャンバ23は、ショルダウェビング16Aの後面から反力を受けながら頭部P1hを拘束する。その結果、上部チャンバ23はショルダウェビング16Aの後面から頭部P1hに接近する方向の反力を受けながら頭部P1hと対向する。さらに膨張展開した下部チャンバ22が、乗員P1の腰部P1w及び胸部P1bに対して左側から対向する。このように膨張展開したサイドエアバッグ10によって、車両に対して左側に相対移動した乗員P1の腰部P1w、胸部P1b及び頭部P1hが拘束される。
【0044】
さらにインナーチューブ26とバッグ本体21が基布30の一部である。そのため第1縫製糸49A及び第2縫製糸49Bを用いて基布30を縫製すれば、全長が大きく且つ内部にインフレータ50が挿入されていないインナーチューブ26を、上部26Aの上端部が上部チャンバ23内に位置し且つ下部26Cが下部チャンバ22内に位置するように、バッグ本体21内に簡単に配置できる。
【0045】
さらにバッグ本体21の縫製後にインナーチューブ26をバッグ本体21内に挿入する作業が不要になる。そのためインナーチューブ26の両端を下部チャンバ22及び上部チャンバ23の内部にそれぞれ配置するために、インナーチューブ26の全長を長くした場合においても、サイドエアバッグ10(車両シート用サイドエアバッグ装置)の生産性を高くし且つ製造コストを低くできる。
【0046】
さらに下部構成部42の重合部42Cを折返部42Aを中心に上方側へ折り返すことにより中間部26Bを構成する。そしてインナーチューブ26の中間部26Bが、インナーチューブ26の内部へ流入したガスが、上部26Aの下端と下部26Cの上端との間から下部チャンバ22内に流入することを防止する。
【0047】
<第2実施形態>
次に、
図11~
図17を参照しながら、本発明に係る車両シート用サイドエアバッグ装置の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。本実施形態の車両シート用サイドエアバッグ装置は、サイドエアバッグ60及びインフレータ50を有する。
【0048】
図11に示されるように、第2実施形態のサイドエアバッグ60の可撓性を有する基布61は、主部構成部62と、主部構成部62とは別体の下部構成部40Aと、を有する。主部構成部62及び下部構成部40Aは、共に一枚の布を裁断することにより作られる。主部構成部62は、バッグ基布35、上部構成部41及び挿入部構成布45を有する。上部構成部41及び下部構成部40Aは、チューブ構成布の構成要素である。
【0049】
図11及び
図14に示されるように下部構成部40Aは、下部構成部42と同じ形状である基部40A1と、基部40A1の両側部に突設された一対の補強部40A2と、を有する。各補強部40A2は、接続口構成部40A3及び接続端部40A4を有する。接続口構成部40A3は、挿入部構成布45の接続口構成部45Aを中心線CLに沿って二等分した形状である。基部40A1に接続する接続端部40A4は、接続端部45Bと略同一形状である。
【0050】
続いて、サイドエアバッグ60の構造及び製造方法について詳細に説明する。
【0051】
展開状態にある主部構成部62及び下部構成部40Aからサイドエアバッグ60を製造する際は、まず
図14に示されるように、下部構成部40Aの各補強部40A2を基部40A1と重なるように内側に折り畳む。
【0052】
続いて、
図12及び
図13に示されるように、折り畳まれた下部構成部40Aを、挿入部構成布45の前方側に位置させながら、下部構成部40Aの上部を、第1スリット48Aを通して上部構成部41の下部の直後に位置させる。即ち、展開状態の基布61を後方から見たときに、主部構成部62及び下部構成部40Aを、
図5に示された展開状態の基布30と実質的に同じ状態にする。このとき
図15に示されるように、補強部40A2を挿入部構成布45の直前に位置させる。より詳細には、各接続口構成部40A3の上縁部を挿入部構成布45の接続口構成部45Aの上縁部の直前に位置させ、且つ、各接続口構成部40A3の下縁部を接続口構成部45Aの下縁部の直前に位置させる。さらに、各接続端部40A4の上縁部を各接続端部45Bの上縁部の直前に位置させ、且つ、各接続端部40A4の下縁部を各接続端部45Bの下縁部の直前に位置させる。さらに
図12及び
図13に示されるように、上部構成部41の下端部と基部40A1の互いに重ねられた部位同士を第1縫製糸49Aにより縫製して、主部構成部62と下部構成部40Aの一体物である単一の基布61を形成する。
【0053】
この後の製造要領は第1実施形態と同じである。即ち、主部構成部62の右側部36Rと左側部36Lを互いに接近するように中心線CLを中心に折り返し、上部構成部41及び下部構成部40Aを中心線CLに沿って折り畳み、且つ挿入部構成布45を中心線CLを中心に折り畳む。さらに左側部36Lと右側部36R、左側部36L及び右側部36Rと上部構成部41及び下部構成部40A、並びに左側部45Lと右側部45R、を第2縫製糸49Bを用いて縫製する。
【0054】
図16及び
図17に示されるように、このとき第2縫製糸49Bは、左側部45L及び右側部45Rの接続端部45Bの上縁部並びに各補強部40A2の接続端部40A4の上縁部を互いに縫製し、且つ、左側部45L及び右側部45Rの下縁部並びに各補強部40A2の下縁部を互いに縫製する。これにより挿入部構成布45及び補強部40A2によりインフレータ挿入部28が構成される。
【0055】
このように第1縫製糸49A及び第2縫製糸49Bを用いて基布61が縫製されると、
図3に示されたサイドエアバッグ10と同じ外形のサイドエアバッグ60が完成する。
【0056】
(作用及び効果)
次に、第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0057】
第2実施形態のサイドエアバッグ60では、挿入部構成布45及び補強部40A2によりインフレータ挿入部28が構成される。そのため、第2実施形態の挿入部構成布45は、インフレータ挿入部28のみによって構成される第1実施形態の挿入部構成布45よりも機械的強度が高い。そのため第2実施形態の挿入部構成布45は、第1実施形態の挿入部構成布45より破損し難い。
【0058】
<第3実施形態>
次に、
図18~
図20を参照しながら、本発明に係る車両シート用サイドエアバッグ装置の第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。本実施形態の車両シート用サイドエアバッグ装置は、サイドエアバッグ70及びインフレータ50を有する。
【0059】
第3実施形態のサイドエアバッグ70の基本構造はサイドエアバッグ10と同じである。但し、サイドエアバッグ70の上部チャンバ23と下部チャンバ22の境界部に、左側に向かって突出する折返突部70Aが形成されている。さらに折返突部70Aの上部である上側突部70A1と、折返突部70Aの下部である下側突部70A2の後端部同士が、第3縫製糸49Cによって互いに縫製されている。上側突部70A1と下側突部70A2の後端部同士は、下部チャンバ22及び上部チャンバ23にガスが流入するか否かに拘わらず、互いに接触状態を維持する。
【0060】
(作用及び効果)
次に、第3実施形態の作用及び効果について説明する。
【0061】
第3実施形態のサイドエアバッグ70の上側突部70A1と下側突部70A2の後端部同士は第3縫製糸49Cによって縫製されている。そのため下部チャンバ22及び上部チャンバ23にガスが流入したときに、上側突部70A1と下側突部70A2の後端部は、ガスが流入する前の形状を維持しようとする。従って、
図20に示されるように、下部チャンバ22及び上部チャンバ23にガスが流入したときに、上部チャンバ23の後端部は上部チャンバ23の前端部よりも右方側に大きく倒れようとする。そのため、上部チャンバ23は全体として、下部チャンバ22に対して右方側へ倒れようとする。
【0062】
そのため第3実施形態では、側突に起因してサイドエアバッグ70の上部チャンバ23が膨張展開されたときに、上部チャンバ23がショルダウェビング16Aの後面と頭部P1hの側面との間で膨張展開され易い。即ち、上部チャンバ23はショルダウェビング16Aの後面から頭部P1hに接近する方向の反力を受けながら頭部P1hと対向し易い。
【0063】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0064】
第2実施形態のサイドエアバッグ60に第3実施形態の折返突部70Aを設けてもよい。
【0065】
右側の前席に本発明のサイドエアバッグを設けてもよい。
【0066】
サイドエアバッグの膨張展開完了状態を前後方向に見たときに、上部チャンバ23がショルダウェビング16Aの後面と頭部P1hの側面との間に膨張展開されないように、前席(後席)、シートベルト装置14及びサイドエアバッグを構成してもよい。
【0067】
インナーチューブ26の上端部が、下部チャンバ22内で開口してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 サイドエアバッグ(車両シート用サイドエアバッグ装置)
12 前席(シート)
12B シートバック
21 バッグ本体
22 下部チャンバ
23 上部チャンバ
26 インナーチューブ
28 インフレータ挿入部
30 基布
35 バッグ基布
40 チューブ構成布
40A 下部構成部(チューブ構成布)
45 挿入部構成布
50 インフレータ(車両シート用サイドエアバッグ装置)
60 サイドエアバッグ(車両シート用サイドエアバッグ装置)
61 基布
70 サイドエアバッグ(車両シート用サイドエアバッグ装置)
P1 ダミー(乗員)
P1h 頭部
P1w 腰部