(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】主軸装置及び主軸装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20240806BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240806BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20240806BHJP
F16N 7/12 20060101ALI20240806BHJP
F16N 11/00 20060101ALI20240806BHJP
B23Q 11/12 20060101ALI20240806BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20240806BHJP
F16N 31/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/06
F16C19/26
F16N7/12
F16N11/00
B23Q11/12 E
B23B19/02 Z
F16N31/00 B
(21)【出願番号】P 2021008786
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小栗 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 好史
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-163465(JP,A)
【文献】実開昭57-025298(JP,U)
【文献】特開昭63-123657(JP,A)
【文献】特開平09-096316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
F16N 31/00
F16N 7/12
F16N 11/00
B23Q 11/12
B23B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
該ハウジングに対して、主軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、
を備える主軸装置であって、
前記転がり軸受の外輪は、径方向に貫通する基油供給孔を備え、
前記ハウジングは、前記基油供給孔と連通するグリース用経路を備え、
前記転がり軸受の軸受空間内には、グリースが封入されており、
前記主軸装置の運転状態において、前記グリース用経路は、グリース溜まりを構成して
おり、
前記主軸装置の使用開始から前記転がり軸受を交換するまでの間、又は、前記主軸装置自体を交換するまでの間において、前記基油供給孔と反対側のグリース用経路の開口が封止栓によって封止されている、
ことを特徴とする主軸装置。
【請求項2】
前記グリース用経路は、前記複数の転がり軸受ごとに対応する複数のグリース用経路を有する、請求項
1に記載の主軸装置。
【請求項3】
前記グリース用経路は、共通の経路から分岐し、前記複数の転がり軸受とそれぞれ連通する複数の分岐経路を有し、
前記複数の分岐経路は、それぞれ異なる径を有する、請求項
1に記載の主軸装置。
【請求項4】
前記グリース用経路の前記基油供給孔と連続する直線状部分が、前記主軸の軸方向に対して傾斜している、請求項1~
3のいずれか1項に記載の主軸装置。
【請求項5】
前記転がり軸受と前記グリース用経路との間には軸方向に延びるグリース溝が形成される、請求項1~
4のいずれか1項に記載の主軸装置。
【請求項6】
工作機械用である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の主軸装置。
【請求項7】
高速モータ用である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の主軸装置。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の主軸装置の製造方法であって、
前記転がり軸受の軸受空間内にグリースを封入する封入工程と、
前記主軸装置が運転される前に、前記グリース用経路にグリースを貯蔵する貯蔵工程と、
前記主軸装置が運転される前に、前記基油供給孔と反対側のグリース用経路の開口を前記封止栓によって封止する封止工程と、
を備える、主軸装置の製造方法。
【請求項9】
前記封入工程において、封入される前記グリースの少なくとも一部は、前記グリース用経路及び前記基油供給孔を介して行われる、請求項
8に記載の主軸装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸装置及び主軸装置の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械用主軸の高速化は著しく発展しており、主軸の高速化を可能にするための軸受の潤滑方法として、オイルエア潤滑が広く行われている。しかし、近年では環境対策・省エネ化・省資源化が求められており、オイルエア潤滑には、圧送するエアの風切り音によって発生する騒音やオイル飛散による環境面への配慮が必要なこと、大量のエアが必要であることの他、オイルエア供給装置のような付帯設備が必要となるためコスト面でも不利な点がある。
【0003】
エアを使用せず、低騒音でオイルが飛散しない潤滑方法としては、グリース潤滑がある。グリース潤滑は、装置に組込まれた軸受にグリースを予め封入し、この封入されたグリースの基油により軸受を潤滑する。軸受に封入可能なグリース(基油)量には限りがあり、グリースの封入量は、グリース寿命(軸受寿命)に影響する。軸受に封入するグリース量を増加させればグリース寿命は延びるが、グリースの充填量を増やすと粘性抵抗や攪拌抵抗が増大するため、特に高速回転時に発熱して、軸受が高温になる可能性がある。軸受の温度上昇によりグリースが早期劣化すると、基油の油膜切れが発生して、軸受が焼き付きに至る可能性がある。このため、軸受のグリース封入量は、高速回転時の昇温特性とグリース寿命とのバランスを考慮して定められている。尚、過剰なグリースを軸受に封入した場合、グリースをなじませるための慣らし運転時間が長くなり、軸受交換後の生産ライン復帰に時間を要するため、生産効率が低下してしまう。
【0004】
特許文献1に記載の転がり軸受では、グリース寿命を延ばすために、軸受に隣接する間座にグリース溜まり形成部品を装着し、グリース溜まり形成部品と外輪との隙間からグリース中の基油を、運転時の温度差を利用して滲み出させて、軸受を潤滑するようにしたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の転がり軸受では、グリース溜まり形成部品を外輪の軌道面に隣接させるため、外輪の加工が必要であり、また、多量のグリースが軸受の転走面に入り込んだ場合、急な温度上昇が発生し焼き付きに至る虞がある。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸受内部のグリースの量を長期に亙って安定して維持することができ、長時間の慣らし運転も不要で、グリース寿命を延ばし、長寿命化が図られた主軸装置及び主軸装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) ハウジングと、
該ハウジングに対して、主軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、
を備える主軸装置であって、
前記転がり軸受の外輪は、径方向に貫通する基油供給孔を備え、
前記ハウジングは、前記基油供給孔と連通するグリース用経路を備え、
前記転がり軸受の軸受空間内には、グリースが封入されており、
前記主軸装置の運転状態において、前記グリース用経路は、グリース溜まりを構成していることを特徴とする主軸装置。
(2) (1)に記載の主軸装置の製造方法であって、
前記転がり軸受の軸受空間内にグリースを封入する封入工程と、
前記主軸装置が運転される前に、前記グリース用経路にグリースを貯蔵する貯蔵工程と、
を備える、主軸装置の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の主軸装置及び主軸装置の製造方法によれば、ハウジング側のグリース用経路に貯蔵されているグリースの基油が増ちょう剤の毛細管現象によって軸受内部のグリースへと供給される。これにより、軸受内部のグリースの量を長期に亙って安定して維持することができ、長時間の慣らし運転も不要で、グリース寿命を延ばし、長寿命化が図られた主軸装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る主軸装置の半断面図である。
【
図2】(a)は、
図1のII部拡大図であり、(b)は、
図1のII´部拡大図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る主軸装置の要部断面図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係る主軸装置の要部断面図である。
【
図5】本発明の第4実施形態に係る主軸装置の要部断面図である。
【
図6】本発明の第4実施形態の変形例に係る主軸装置の要部断面図である。
【
図7】本発明の第5実施形態に係る主軸装置の要部断面図である。
【
図9】(a)~(d)は、第5実施形態の変形例に係る主軸装置の
図8に対応する断面図である。
【
図10】本発明の第5実施形態の他の変形例に係る主軸装置の要部断面図である。
【
図11】(a)は、本発明の第6実施形態に係る主軸装置の部分断面図であり、(b)は、第7実施形態の変形例に係る部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る主軸装置として、工作機械用主軸装置の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の工作機械用主軸装置100では、主軸101は、転がり軸受であるアンギュラ玉軸受40及び円筒ころ軸受20によってハウジング103内に回転自在に支持されている。
【0013】
ハウジング103は、ハウジング本体104と、ハウジング本体104の前端(図中左側)に内嵌固定された前側軸受ハウジング105と、ハウジング本体104の後側(図中右側)に内嵌固定された後側軸受ハウジング106と、を備えている。前側軸受ハウジング105の端部には、外輪押さえ部材107が設けられており、外輪押さえ部材107は、主軸101に締結された内輪押さえ部材108との間にラビリンスシールを形成する。ハウジング103の後端面は、カバー109によって覆われている。後側軸受ハウジング106には、円筒ころ軸受を支持するスリーブ114が内嵌されている。
【0014】
図2(a)にも示すように、前側軸受ハウジング105に内嵌する4つのアンギュラ玉軸受40は、外輪41、内輪42、外輪41及び内輪42間に接触角を持って転動自在に配置される転動体としての複数の玉43、及び該玉43を円周方向に等間隔に保持する保持器44を備える。また、
図2(b)に示すように、スリーブ114に内嵌する1つの円筒ころ軸受20も、外輪21、内輪22、外輪21及び内輪22間に転動自在に配置される転動体としての複数のころ23、及び該ころ23を円周方向に等間隔に保持する図示しない保持器を備える。
【0015】
4つのアンギュラ玉軸受40の外輪41間には、外輪間座110が配置されており、前側軸受ハウジング105に外輪押さえ部材107を固定することで、各外輪41が位置決め固定される。また、内輪42間には、内輪間座111が配置されており、主軸101に内輪押さえ部材108を締結することで、各内輪42が位置決め固定されている。さらに、円筒ころ軸受20の外輪21の後側にも、外輪押さえ部材112が配置されており、スリーブ114に外輪押さえ部材112が固定されることで、外輪21が位置決め固定される。また、内輪22の軸方向両側には内輪間座113が配置されており、主軸101にナット115を締結することで内輪22が位置決め固定される。
なお、本実施形態では、カバー109及びスリーブ114及び外輪押さえ部材112もハウジング103の一部を構成するものとする。
【0016】
図1に戻って、主軸装置100は、ロータ120とステータ121とにより構成されるビルトインモータを内蔵している。主軸101の軸方向の略中央部には、ロータ120が外嵌固定されている。ロータ120の外周面側には、ステータ121が所定距離離れて同軸配置されている。ステータ121は、ステータ121の外周面側に配置されたステータ固定部材122を介してハウジング本体104に固定されている。ハウジング本体104とステータ固定部材122との間には、主軸101の周方向に沿って複数の溝123が形成されている。この複数の溝123内には、ステータ121の冷却用の冷媒が流される。
【0017】
同様に、前側軸受ハウジング105と該ハウジング105に外嵌する冷却スリーブ125との間であって、アンギュラ玉軸受40の外周側にあたる部位には、ハウジング及び軸受冷却用の冷媒が流される複数の溝124が形成されている。複数の溝124は、前側軸受ハウジング105の外周面に、周方向に沿って形成されている。
【0018】
ハウジング103内には、各転がり軸受40,20にそれぞれ対応する複数のグリース用経路133a~133eが円周方向に異なる位相で形成されている(
図1では、便宜上、各グリース用経路133a~133eを同一断面に図示している)。具体的に、各アンギュラ玉軸受40に対応するグリース用経路133a~133dは、各アンギュラ玉軸受40の外輪41が嵌合する前側軸受ハウジング105の内周面に開口しており、該開口から径方向に延びた後に後方に屈曲して、ハウジング本体104との接続面まで延び、さらに、ハウジング本体104、後側軸受ハウジング106、及びカバー109内を軸方向に沿って延び、カバー109の後端面に開口する。また、円筒ころ軸受20に対応するグリース用経路133eは、円筒ころ軸受20の外輪21が嵌合するスリーブ114の内周面に開口しており、該開口から径方向に延びた後に後方に屈曲して、外輪押さえ部材112との接続面まで延び、さらに、外輪押さえ部材112を通って、外輪押さえ部材112の後端面に開口する。
【0019】
各軸受40,20の外輪41,21には、径方向に貫通する基油供給孔47,27がそれぞれ形成されている。各基油供給孔47,27は、内径側が軌道面41a、21aの近傍にそれぞれ開口し、外径側が外輪41,21の外径面にそれぞれ開口している。各グリース用経路133a~133eの軸受側の開口は、各外輪41,21の基油補給孔47,27に連通している。また、基油供給孔47,27と反対側の各グリース用経路133a~133eの開口は、主軸装置100の運転状態において、封止栓126によって封止されている。
【0020】
なお、本実施形態では、基油補給孔47,27と連続する出口側の各グリース用経路133a~133eの直線状部分(本実施形態では、径方向経路)134a~134eは、断面円形状であり、いずれも同じ径寸法(断面積)を有する。各直線状部分134a~134eの径寸法は軸受幅以下、望ましくはφ12mm以下、より望ましくはφ1~φ5mmが望ましい。
また、各グリース用経路133a~133eは、主軸装置100の運転状態において鉛直方向上方寄りに配置されることが、グリースに作用する重力によって基油が供給されやすいため、好ましい。
【0021】
本実施形態において、転がり軸受40,20の軸受空間内には、軸受内部の空間容積に対して、おおむね10~30%に相当するグリースが封入されている。また、主軸装置100の運転状態において、ハウジング103に形成されたグリース用経路133a~133eは、グリース溜まりを構成しており、グリースが貯蔵されている。
【0022】
軸受に封入されたグリース及び各グリース用経路133a~133eに貯蔵されたグリースは、潤滑油である基油と、基油を保持する繊維構造の増ちょう剤とを有している。基油は、毛細管現象により、増ちょう剤の繊維間を移動可能であり、慣らし運転後にできる外輪41,21の外径面に形成されたグリース溜まりとしてのグリース用経路133a~133eと外輪41,21の基油供給孔47,27とが接することで、基油が移動に必要な増ちょう剤もつながる。その結果、グリース用経路133a~133eの基油が軸受に封入したグリースの基油に加わる(補給される)ことになる。
【0023】
本実施形態では、このメカニズムを利用して、軸受内部のグリースの基油が消耗しても、ハウジング側のグリース用経路133a~133eに貯蔵されているグリースの基油が増ちょう剤の毛細管現象によって軸受内部のグリースへと供給される。また、外輪41,21の基油供給孔47,27は外輪41,21の軌道面41a,21aのごく近い箇所に設けているため、効率よく基油の供給が可能となる。
【0024】
よって、基油不足による潤滑不良が発生する事なく、常時基油が軸受内部へ供給されるので、軸受内部のグリースの量を長期に亙って安定して維持することができ、グリース寿命を延ばし、主軸装置100の長寿命化が図られる。即ち、主軸装置100の使用開始から転がり軸受40,20を交換するまでの間、又は、主軸装置100自体を交換するまでの間、グリースを外部から供給する必要がなく、長期メンテナンスフリーを実現できる。
【0025】
また、本実施形態では、軸受空間内には、軸受内部の空間容積に対して、略10~30%のグリースが封入されているので、長時間の慣らし運転も不要となる。
【0026】
特に、本実施形態のような高速回転する工作機械用主軸装置100においては、軸受周辺部の温度も上昇するが、それに伴い周辺近傍のグリースも温度が上昇し、軟化するため、より基油も流動しやすい傾向にある。そして、グリース溜まり(グリース用経路133a~133e)からグリースの基油を供給するため、高速回転で長期間使用される場合においても、グリース寿命を延命することができる。また、軸受内の封入グリースは空間容積に対して適量の10~30%としているため、慣らし運転時間も短くなり、軸受交換後の生産ライン復帰時間を短縮することができる。また、基油は、増ちょう剤の毛細管現象により供給されるため、供給過剰となることなく、適量を軸受内のグリースに補給することができる。
【0027】
なお、本実施形態の主軸装置100を組み立てる際には、転がり軸受40,20の軸受空間内にグリースを封入する(封入工程)。そして、主軸装置100が運転される前のグリース用経路133a~133e内へのグリースの貯蔵は、基油供給孔47,27と反対側の開口に接続された補給装置200によって行うことができる(貯蔵工程)。そして、グリース用経路133a~133e内へのグリースの貯蔵が完了したら、該補給装置200を取り外して、該開口に封止栓126が取り付けられる(封止工程)。
したがって、補給装置200は、グリース用経路133a~133e内へのグリース貯蔵のために使用されるもので、主軸装置100の製造の際に使用されるもので、実際に主軸装置100が運転されている際(即ち、主軸装置100による生産が行われている際)には必要がなく、主軸装置100の製造コストを抑えることができる。
【0028】
また、軸受空間内のグリースは、軸受40,20を主軸装置100に組み込む前に、軸受空間内に所定の量が予め封入されてもよいが、グリースの少なくとも一部は、補給装置200を用いて、グリース用経路133a~133e及び基油供給孔47,27を介して封入されてもよい。この場合、グリース封入後に、グリースが貯蔵されたグリース用経路133a~133eがグリース溜まりを構成する。
【0029】
また、グリース用経路133a~133e及び基油供給孔47,27を介してのグリースの封入は、慣らし運転の前に行われてもよいし、慣らし運転中に行われてもよい。即ち、軸受内部のグリースは、主軸101を回転させながら、グリース用経路133a~133eのグリースを補給装置200のポンプ等で圧送して封入しても良い。
【0030】
さらに、軸受空間内及び基油供給孔47,27に所定の量のグリースが予め封入されている場合には、軸受40,20を主軸装置100に組み込む前に、補給装置200を用いてグリース用経路133a~133e内にグリースが貯蔵される。
【0031】
(第2実施形態)
次に、
図3を参照して、第2実施形態の主軸装置について説明する。この主軸装置100aでは、グリース用経路133a~133dは、第1実施形態同様、前側のアンギュラ玉軸受40ごとに対応してそれぞれ形成されている。一方、本実施形態では、各グリース用経路133a~133dの直線状部分(本実施形態では、径方向経路)134a~134dの径は、ビルトインモータからの距離が近くなるにつれて大径としている(Da<Db<Dc<Dd)。
【0032】
ビルトインモータを搭載している等、主軸装置内部の発熱が高い場合、高温によりグリースの基油が蒸発し潤滑不良が発生しやすくなる。このため、本実施形態のように、各軸受40で温度差が発生するような主軸内部状況においては、直線状部分134a~134dの径を高温側で大径、低温側で小径に設計しても良い。基油供給孔47近傍の直線状部分134a~134dに多量のグリースが貯蔵されることで、直線状部分134a~134d内のグリースの基油を基油供給孔47を介して軸受内部に供給しやすい。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0033】
(第3実施形態)
次に、
図4を参照して、第3実施形態の主軸装置について説明する。この主軸装置100bでは、前側の4つのアンギュラ玉軸受40に対応する1つのグリース用経路133が形成されており、このグリース用経路133は、共通の経路135の軸方向部分135aから分岐し、複数のアンギュラ玉軸受40の基油供給路47とそれぞれ連通する複数の分岐経路(径方向経路)136a~136dを有する。
【0034】
また、この場合、各軸受40に連通する分岐経路136a~136dの径は同じでも良いが、
図4に示すように、グリースを補給装置200(
図1参照)のポンプで圧送して封入する場合は、各軸受40の分岐経路136a~136dの径を、補給装置200からより遠くにしたがって大きくしても良い(Da>Db>Dc>Dd)。これにより、グリースが行き渡った複数の分岐経路136a~136dには、均一にグリースを貯蔵することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0035】
なお、各軸受40に対応して複数のグリース用経路が形成される場合、また、各軸受40に共通の1つのグリース用経路が形成される場合のいずれにおいても、グリース用経路133a~133dの直線状部分134a~134d、また、グリース用経路133の分岐経路136a~136dの径寸法は、上記以外の要因を考慮して設計されてもよい。
例えば、温度により粘度が変化するグリースが使用される際には、高温側のグリース用経路のグリースの供給が多くなりやすい。このため、グリース用経路133a~133dの直線状部分134a~134d、また、グリース用経路133の分岐経路136a~136dの径は、高温側で小さくする、低温側で大きくするようにさらに考慮して設計してもよい。
【0036】
(第4実施形態)
次に、
図5を参照して、第4実施形態の主軸装置について説明する。この主軸装置100cでは、グリース用経路133a~133dは、前側の各軸受40に対応してそれぞれ形成されている。このうち、グリース用経路133a~133cは、前側軸受ハウジング105内において、出口側の直線状部分134a~134cが、主軸101の軸方向に対して傾斜している。これにより、直線状部分134a~134cの開口寸法が、軸方向に広くなり、基油供給孔47と軸方向位置がずれても問題なく基油が供給される。
【0037】
また、出口側の直線状部分134a~134cが傾斜することで、基油が重力方向に流れ落ちやすくなり、より安定した基油の供給が可能となる。さらにグリースを圧送して軸受内部に封入する場合等では、経路が90°屈曲した部分で発生するグリースのよどみが無くなるため、グリースをスムーズに軸受内部へ送ることができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0038】
なお、
図5に示す主軸装置100cでは、グリース用経路133a~133cの直線状部分134a~134cは、径方向に延びるグリース用経路133dの直線状部分134dと同じ軸方向位置から、それぞれ異なる角度で形成されている。ただし、
図6に示す変形例の主軸装置100dのように、グリース用経路133a~133cの直線状部分134a~134cは、45~90°の範囲で、同じ角度で形成され、軸方向部分137に接続することもできる。
【0039】
(第5実施形態)
次に、
図7及び
図8を参照して、第5実施形態の主軸装置について説明する。この主軸装置100eでは、前側の4つのアンギュラ玉軸受40に対応する1つのグリース用経路133が形成されている。グリース用経路133は、共通の経路135の軸方向部分135aから分岐し、複数のアンギュラ玉軸受40とそれぞれ連通する複数の分岐経路(径方向経路)136a~136dを有する。
【0040】
また、前側軸受ハウジング105の内周面には、複数の分岐経路136a~136dと円周方向において同位相に、軸方向に沿って延びるグリース溝140が形成されている。したがって、グリース溝140は、複数の分岐経路136a~136dと連通すると共に、各アンギュラ玉軸受40の基油供給孔47と連通する。
この場合、グリース溝140は、4つのアンギュラ玉軸受の基油供給孔47を連通する軸方向長さを有しており、本実施形態では、モータ寄りのアンギュラ玉軸受40の位置から前側軸受ハウジング105の先端まで形成されている。
【0041】
これにより、グリース溝140もグリース溜まりとして機能し、軸受内部のグリースの基油が消耗した際に、グリース用経路133及びグリース溝140内のグリースの基油を供給することができる。特に、グリース溝140には、軸受交換時にもグリースを容易に貯蔵させることができ、グリース寿命を容易に延ばしやすい。
【0042】
なお、グリース溝140の形状は、
図8に示すような断面三角形に限らず、
図9(a)~(d)に示すような、半円形、矩形、台形、などの断面形状であってもよい。
【0043】
また、
図10に示す変形例の主軸装置100fでは、1つのグリース用経路133の直線状部分134がグリース溝140に開口し、グリース用経路133は、グリース溝140を介して基油供給孔47と連通している。この場合、グリース溝140も、グリース用油路133の一部であり、グリース溜まりを構成している。
【0044】
(第6実施形態)
次に、
図11(a)を参照して、第6実施形態の主軸装置について説明する。この主軸装置100gでは、前側軸受として円筒ころ軸受が適用される場合を示している。この場合、基油供給孔27が外輪21の軌道面21aの円筒ころ23と対向する位置に形成されており、基油供給孔27とグリース用経路133とが連通している。また、主軸装置100gの運転状態において、グリース用経路133がグリース溜まりを構成している。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0045】
なお、
図11(b)に示す主軸装置100hのように、基油供給孔27は、円筒ころ23から軸方向に離れた外輪21の軌道面21aに開口する位置としてもよい。
【0046】
なお、本発明は、前述した各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
例えば、上記実施形態では、工作機械主軸用主軸装置を用いて本発明の主軸装置について説明したが、本発明の主軸装置は、ACサーボモータ等の高速モータ用主軸を支持する主軸装置にも適用できる。
【0047】
また、グリース用経路133a~133eが開口する前側軸受ハウジング105、スリーブ114の内周面と外輪41,21の基油供給孔47,27が開口する外輪41,21の外周面との少なくとも一方には、円周方向溝を設けて、グリース用経路133a~133eと基油供給孔47,27との周方向の位相を合わせるようにしてもよい。
【0048】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) ハウジングと、
該ハウジングに対して、主軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、
を備える主軸装置であって、
前記転がり軸受の外輪は、径方向に貫通する基油供給孔を備え、
前記ハウジングは、前記基油供給孔と連通するグリース用経路を備え、
前記転がり軸受の軸受空間内には、グリースが封入されており、
前記主軸装置の運転状態において、前記グリース用経路は、グリース溜まりを構成していることを特徴とする主軸装置。
この構成によれば、ハウジング側のグリース用経路に貯蔵されているグリースの基油が増ちょう剤の毛細管現象によって軸受内部のグリースへと供給される。これにより、軸受内部のグリースの量を長期に亙って安定して維持することができ、長時間の慣らし運転も不要で、グリース寿命を延ばし、長寿命化が図られる。
【0049】
(2) 前記主軸装置の運転状態において、前記基油供給孔と反対側のグリース用経路の開口が封止されている、(1)に記載の主軸装置。
この構成によれば、基油供給孔と反対側のグリース用経路の開口からのグリースの漏れを防止できる。
(3) 前記グリース用経路は、前記複数の転がり軸受ごとに対応する複数のグリース用経路を有する、(1)又は(2)に記載の主軸装置。
この構成によれば、各転がり軸受にグリースを安定して供給することができる。
【0050】
(4) 前記グリース用経路は、共通の経路から分岐し、前記複数の転がり軸受とそれぞれ連通する複数の分岐経路を有し、
前記複数の分岐経路は、それぞれ異なる径を有する、(1)又は(2)に記載の主軸装置。
この構成によれば、ハウジングに形成するグリース用経路の数を少なくでき、容易に加工することができる。
【0051】
(5) 前記グリース用経路の前記基油供給孔と連続する直線状部分が、前記主軸の軸方向に対して傾斜している、(1)~(4)のいずれか1項に記載の主軸装置。
この構成によれば、
【0052】
(6) 前記転がり軸受と前記グリース用経路との間には軸方向に延びるグリース溝が形成される、(1)~(5)のいずれか1項に記載の主軸装置。
この構成によれば、グリース溝にもグリースを貯蔵することができ、軸受内部のグリースの量を長期に亙って安定して維持することができる。
【0053】
(7) 工作機械用である、(1)~(6)のいずれかに記載の主軸装置。
この構成によれば、高速回転する工作機械用主軸装置の主軸を、長寿命化が図られた軸受により支持でき、メンテナンスが容易となる。
【0054】
(8) 高速モータ用である、請求項1~6のいずれかに記載の主軸装置。
この構成によれば、高速回転する高速モータ用主軸装置の主軸を、長寿命化が図られた軸受により支持でき、メンテナンスが容易となる。
【0055】
(9) (1)~(8)のいずれかに記載の主軸装置の製造方法であって、
前記転がり軸受の軸受空間内にグリースを封入する封入工程と、
前記主軸装置が運転される前に、前記グリース用経路にグリースを貯蔵する貯蔵工程と、
を備える、主軸装置の製造方法。
この構成によれば、ハウジング側のグリース用経路に貯蔵されているグリースの基油が増ちょう剤の毛細管現象によって軸受内部のグリースへと供給される。これにより、軸受内部のグリースの量を長期に亙って安定して維持することができ、長時間の慣らし運転も不要で、グリース寿命を延ばし、主軸装置の長寿命化が図られる。
【0056】
(10) 前記主軸装置が運転される前に、前記基油供給孔と反対側のグリース用経路の開口を封止する封止工程をさらに備える、(9)に記載の主軸装置の製造方法。
この構成によれば、基油供給孔と反対側のグリース用経路の開口からのグリースの漏れを防止できる。
【0057】
(11) 前記封入工程において、封入される前記グリースの少なくとも一部は、前記グリース用経路及び前記基油供給孔を介して行われる、(9)又は(10)に記載の主軸装置の製造方法。
この構成によれば、外輪の軌道面近傍にもグリースを封入することができ、慣らし運転時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0058】
20 円筒ころ軸受(転がり軸受)
21,41 外輪
22,42 内輪
23 円筒ころ(転動体)
27,47 基油供給孔
40 アンギュラ玉軸受(転がり軸受)
43 玉(転動体)
44 保持器
100,100a~100h 主軸装置
101 主軸
103 ハウジング
133,133a~133e グリース用経路
134,134a~134e 直線状部分
135 共通の経路
136a~136d 分岐経路
140 グリース溝