(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】牽引車の後方障害物検出装置および牽引車の後方障害物検出方法
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20240806BHJP
【FI】
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2021017910
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】林 隆司
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-131039(JP,A)
【文献】特開昭58-022744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0363727(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引車と、
前記牽引車により牽引される台車群と、を備え、
前記牽引車の後方の障害物を検出する牽引車の後方障害物検出装置であって、
前記牽引車の側面の後部に設けられ、前記台車群の側方をレーザ光の走査域に含むレーザセンサと、
前記台車群の側面の最前方に設けられ、前記レーザセンサにより特徴点として検出可能な前方反射体と、
前記台車群の側面の最後方に設けられ、前記レーザセンサにより特徴点として検出可能な後方反射体と、
前記レーザセンサにより検出された前記前方反射体および前記後方反射体と、前記レーザセンサと、
により区画される特定検出域を設定する特定検出域設定部と、
前記レーザセンサが前記特定検出域にて物体を検出するとき、前記物体を障害物と判別する障害物判別部と、を備えることを特徴とする牽引車の後方障害物検出装置。
【請求項2】
前記牽引車は、
走行駆動部と、
前記走行駆動部を制御する走行制御部を備え、
前記走行制御部は、前記障害物判別部が前記物体を障害物と判別したとき、前記牽引車が停止するように前記走行駆動部を制御することを特徴とする請求項1記載の牽引車の後方障害物検出装置。
【請求項3】
前記牽引車は、前記レーザセンサが受光するレーザ反射光の反射率が閾値以上のとき前記レーザセンサからのレーザ光を反射する物体を特徴点と判別する特徴点判別部を備え、
前記前方反射体および前記後方反射体は、前記レーザセンサが受光するレーザ反射光の反射率を閾値以上とするように前記レーザセンサからのレーザ光を反射する反射部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の牽引車の後方障害物検出装置。
【請求項4】
前記特徴点判別部が前記特徴点を一つのみである判別するとき、前記特定検出域設定部は前記特定検出域を設定しないことを特徴とする請求項3記載の牽引車の後方障害物検出装置。
【請求項5】
前記障害物判別部が前記物体を障害物と判別した後、前記レーザセンサにより前記後方反射体が特徴点として検出されないとき、前記特定検出域設定部は、前記特定検出域を一定時間維持することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載の牽引車の後方障害物検出装置。
【請求項6】
前記前方反射体および前記後方反射体を前記台車群に対して傾動可能とする傾動機構と、
傾動状態の前記前方反射体および前記後方反射体を傾動前の原位置へ復帰可能とする付勢部材と、を備えることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項記載の牽引車の後方障害物検出装置。
【請求項7】
前記反射部は、凸曲面状の反射面を備えることを特徴とする請求項3記載の牽引車の後方障害物検出装置。
【請求項8】
台車群を牽引する牽引車の後方の障害物を検出する牽引車の後方障害物検出方法において、
前記牽引車の側面の後部に設けられ、前記台車群の側方をレーザ光の走査域に含むレーザセンサと、
前記台車群の側面の最前方に設けられ、前記レーザセンサにより特徴点として検出可能な前方反射体と、
前記台車群の側面の最後方に設けられ、前記レーザセンサにより特徴点として検出可能な後方反射体と、を備え、
前記レーザセンサが前記前方反射体および前記後方反射体を検出するとき、少なくとも、前記前方反射体と、前記後方反射体と、前記レーザセンサと、
により区画される特定検出域を設定し、
前記特定検出域に物体が検出されるとき、前記物体を障害物と判別することを特徴とする牽引車の後方障害物検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、牽引車の後方障害物検出装置および牽引車の後方障害物検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製造工場や物流倉庫等では、製品や部品等の荷の搬送を行う無人搬送車が普及しており、荷の搬送の効率化・省人化が進んでいる。荷を搬送する無人搬送車では、進行方向の障害物を検出する障害物センサを備えていることが多い(例えば、特許文献1を参照)。したがって、進行方向に障害物が存在する場合、無人搬送車が備えるコントローラは、障害物センサが障害物を検出すると、例えば、無人搬送車の走行を停止する制御を行うか、あるいは、障害物と干渉しないように進路変更する制御を行う。
【0003】
一方、牽引車を用いた荷の搬送も広く知られている。牽引車を用いた荷の搬送では、牽引車が荷を搭載した台車群を牽引する。この場合、牽引車がカーブをするとき、牽引車の走行軌跡と台車群の走行軌跡が相違する。具体的には、牽引される台車群の走行軌跡は、牽引車の走行軌跡のカーブよりも内側を通る。因みに、最後尾の台車が最も内側を通る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、自動運転による無人牽引車を用いた荷の搬送では、進行方向の障害物だけでなく、牽引される台車群との干渉のおそれのある障害物の有無を検出する必要がある。 しかしながら、特許文献1は、無人搬送車の前方の障害物を検出するに過ぎず、カーブ走行中の牽引車の後方における障害物を検出する点を開示されていない。
【0006】
一方、牽引車に牽引される各台車に障害物検出のための障害物検出センサを設けることも考えられるが、台車同士および牽引車との連結の度に電気配線を接続し、台車の切り離しの際は電気配線の接続を解除する作業が必要となり、作業効率が悪化するという問題が生じる。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、カーブ走行時に台車群と干渉するおそれのある障害物を確実に検出できる牽引車の後方障害物検出装置および牽引車の後方障害物検出方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、牽引車と、前記牽引車により牽引される台車群と、を備え、前記牽引車の後方の障害物を検出する牽引車の後方障害物検出装置であって、前記牽引車の側面の後部に設けられ、前記台車群の側方をレーザ光の走査域に含むレーザセンサと、前記台車群の側面の最前方に設けられ、前記レーザセンサにより特徴点として検出可能な前方反射体と、前記台車群の側面の最後方に設けられ、前記レーザセンサにより特徴点として検出可能な後方反射体と、前記レーザセンサにより検出された前記前方反射体および前記後方反射体と、前記レーザセンサと、により区画される特定検出域を設定する特定検出域設定部と、前記レーザセンサが前記特定検出域にて物体を検出するとき、前記物体を障害物と判別する障害物判別部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明では、前方反射体および後方反射体がカーブの内側となるように、牽引車がカーブを走行すると、レーザセンサが前方反射体および後方反射体を検出し、特定検出域設定部は、レーザセンサと、前方反射体と、後方反射体とにより区画される特定検出域を設定する。特定検出域は、台車群の側方に台車群が通る予定経路を含む領域であり、障害物判別部は、特定検出域においてレーザセンサにより物体が検出されるとき物体を障害物と判別する。したがって、特定検出域における物体を障害物と判別することにより、カーブ走行時に台車群と干渉するおそれのある障害物を確実に検出できる。
【0010】
また、上記の牽引車の後方障害物検出装置において、前記牽引車は、走行駆動部と、前記走行駆動部を制御する走行制御部を備え、前記走行制御部は、前記障害物判別部が前記物体を障害物と判別したとき、前記牽引車が停止するように前記走行駆動部を制御する構成としてもよい。
この場合、障害物判別部が特定検出域においてレーザセンサにより検出されるときの物体を障害物と判別するとき、走行制御部は牽引車が停止するように走行駆動部を制御するので、台車群と障害物との干渉を防止することができる。
【0011】
また、上記の牽引車の後方障害物検出装置において、前記牽引車は、前記レーザセンサが受光するレーザ反射光の反射率が閾値以上のとき前記レーザセンサからのレーザ光を反射する物体を特徴点と判別する特徴点判別部を備え、前記前方反射体および前記後方反射体は、前記レーザセンサが受光するレーザ反射光の反射率を閾値以上とするように前記レーザセンサからのレーザ光を反射する反射部を有する構成としてもよい。
この場合、前方反射体および後方反射体が有する反射部は、レーザセンサが受光するレーザ反射光の反射率を閾値以上とするようにレーザセンサからのレーザ光を反射する。したがって、特徴点判別部は、レーザセンサが前方反射体および後方反射体からのレーザ反射光を受光することにより、前方反射体および後方反射体を確実に特徴点として判別することができる。
【0012】
また、上記の牽引車の後方障害物検出装置において、前記特徴点判別部が前記特徴点を一つのみ判別するとき、前記特定検出域設定部は前記特定検出域を設定しない構成としてもよい。
この場合、特徴点判別部が特徴点を一つのみである判別するとき、牽引車および台車群が直進走行しているものとして特定検出域設定部は前記特定検出域を設定しない。したがって、直進走行では、牽引車の後方の障害物を検出する処理が行われないので、障害物判別部の負荷を軽減することができる。
【0013】
また、上記の牽引車の後方障害物検出装置において、前記障害物判別部が前記物体を障害物と判別した後、前記レーザセンサにより前記後方反射体が特徴点として検出されないとき、前記特定検出域設定部は、前記特定検出域を一定時間維持する構成としてもよい。
この場合、特定検出域において検出された物体がレーザ光を妨げることによってレーザセンサが後方反射体を検出できなくなっても、特定検出域が直ちに縮小又は解消されることはなく、物体を障害物として一定時間検出することができる。
【0014】
また、上記の牽引車の後方障害物検出装置において、前記前方反射体および前記後方反射体を前記台車群に対して傾動可能とする傾動機構と、傾動状態の前記前方反射体および前記後方反射体を傾動前の原位置へ復帰可能とする付勢部材と、を備える構成としてもよい。
この場合、前方反射体および後方反射体を台車群の台車に対して傾動可能とすることで、前方反射体および後方反射体が物体等と干渉しても前方反射体および後方反射体自体が干渉する物体に対して障害となり難い。また、付勢部材によって傾動状態の前方反射体および後方反射体を傾動前の原位置へ復帰可能とするので、前方反射体および後方反射体としての機能を保つことができる。
【0015】
また、上記の牽引車の後方障害物検出装置において、前記反射部材は、凸曲面状の反射面を備える構成としてもよい。
この場合、牽引車および台車群が走行するカーブの曲率に関わらず、レーザセンサのレーザ光を確実にレーザセンサへ向けて反射させることができる。
【0016】
また、本発明は、台車群を牽引する牽引車の後方の障害物を検出する牽引車の後方障害物検出方法において、前記牽引車の側面の後部に設けられ、前記台車群の側方をレーザ光の走査域に含むレーザセンサと、前記台車群の側面の最前方に設けられ、前記レーザセンサにより特徴点として検出可能な前方反射体と、前記台車群の側面の最後方に設けられ、前記レーザセンサにより特徴点として検出可能な後方反射体と、を備え、前記レーザセンサが前記前方反射体および前記後方反射体を検出するとき、少なくとも、前記前方反射体と、前記後方反射体と、前記レーザセンサと、により区画される特定検出域を設定し、前記特定検出域に物体が検出されるとき、前記物体を障害物と判別することを特徴とする。
本発明によれば、カーブ走行時に台車群と干渉するおそれのある障害物を確実に検出できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カーブ走行時に台車群と干渉するおそれのある障害物を確実に検出できる牽引車の後方障害物検出装置および牽引車の後方障害物検出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施形態に係る牽引車の後方障害物検出装置の概略側面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る牽引車の後方障害物検出装置の概略平面図である。
【
図3】第1の実施形態に係る牽引車の後方障害物検出装置の制御ブロック図である。
【
図4】(a)前方反射体を示す斜視図であり、(b)は後方反射体を示す斜視図である。
【
図5】後部障害物検出装置が後方の障害物を検出する手順を示すフロー図である。
【
図6】台車群を牽引する牽引車がカーブ走行するときの平面図である。
【
図7】第2の実施形態に係る牽引車の後方障害物検出装置の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る牽引車の後方障害物検出装置および牽引車の後方障害物検出方法について図面を参照して説明する。本実施形態の牽引車は、自己位置を推定しつつ自動運転による無人での走行が可能な自動運転タイプの小型牽引車であり、荷を載置可能とする複数の台車を自動運転により牽引して走行する。
【0020】
図1、
図2に示すように、牽引車の後方障害物検出装置(以下、「後方障害物検出装置」と表記する)10は、牽引車11と、牽引車11に牽引される複数の台車12と、を備えている。牽引車11の車体13の前部には、前輪としての操舵輪14を備えている。車体13の後部には後輪としての左右一対の駆動輪15を備えている。車体13には、駆動輪15を駆動する駆動モータ16と、駆動モータ16を駆動するための電力を蓄えるバッテリ17と、牽引車11の各部を制御する制御装置18と、を備えている。
【0021】
牽引車11は、操舵輪14を自動的に操舵する自動操舵機構19を有している。自動操舵機構19は、牽引車11が予め設定された目的地までの走行経路を走行するように操舵輪14を操舵するため制御装置18により制御される。なお、
図1に示す牽引車11は、運転席を備えるが、自己位置を推定しつつ自動運転による無人走行を行う。駆動輪15は駆動モータ16によって駆動される。駆動モータ16はバッテリ17からの電力の供給を受けて駆動され、制御装置18により制御される。駆動モータ16は走行駆動部に相当し、制御装置18は走行制御部に相当する。バッテリ17は充放電可能であるほか、駆動モータ16の回生時に生じる電力を蓄電する機能を有する。
【0022】
図3に示すように、制御装置18は、中央演算処理部(CPU)20、記憶部21、モータ駆動部22を有する。中央演算処理部20は、各種プログラムを実行し、牽引車11の自動運転に必要な処理を行う。記憶部21は各種プログラムや各種データを記憶する。モータ駆動部22は、駆動モータ16を制御するためのドライブ回路(図示せず)を有している。また、制御装置18は、後方障害物検出装置10が牽引車11の後方の障害物を検出するために必要な処理を行う。
【0023】
図2に示すように、牽引車11の車体13における左右の側面32の後部には、レーザセンサ25がそれぞれ備えられている。レーザセンサ25は、車体13の後方にレーザ光の走査域を設定することができ、レーザ光の走査域は平面視で扇形である。レーザ光が走査可能な最大走査角度θは、例えば、120度である。最大走査距離は牽引車11に連結される最大数の台車12の最後尾よりも長く設定されている。例えば、牽引される台車12の最大数が6台の場合では、最大走査距離は牽引する30mであるが、最大走査距離の調整は可能である。
【0024】
なお、レーザセンサ25は、台車12の上端よりも低い位置となるように車体13に取り付けられている。このため、牽引車11が直進走行する場合では、レーザ光の走査域は、台車12により遮られる走査角度の相当分は狭くなる。また、牽引車11および台車12が直進走行する場合と、カーブ走行する場合では、レーザ光の走査域は変動する。なお、左右のレーザセンサ25を区別する場合、右のレーザセンサ25Rとし、左のレーザセンサ25Lとする。
【0025】
レーザ光の走査域に物体が存在すると、レーザセンサ25のレーザ光が物体により反射し、レーザセンサ25が物体により反射したレーザ反射光を受光することで、物体を検出することが可能である。また、レーザセンサ25はレーザ反射光の受光によって物体までの距離および方向のほか、レーザ反射光の反射率等の情報を取得し、出力する。レーザセンサ25は制御装置18と接続されており、レーザセンサ25の出力は制御装置18に伝達される。
【0026】
牽引車11の車体前部には、進行方向の前方の障害物を検出する障害物センサ26が備えられている。障害物センサ26は、レーザセンサ25と同様にレーザ光の走査により物体を検出するレーザセンサとしてもよいし、複数のレンズを備えるステレオカメラであってもよい。障害物センサ26は制御装置18と接続されており、障害物センサ26の出力は制御装置18に伝達される。
【0027】
次に、台車12を説明する。台車12の台車本体27は、前輪28および後輪29を備えている。前輪28および後輪29は自由に転動可能な車輪である。前輪28は進行方向に応じて車輪の向きを変更できる車輪である。台車本体27は荷Wを搭載することが可能な荷台30を備えている。台車12の前部には連結杆31が備えられている。先頭の台車12は、連結杆31を介して牽引車11の後部と連結されている。また、連結杆31が台車12の後部と連結されることにより台車12同士が連結される。本実施形態の牽引車11は連結される台車12の最大数を6台であるが、説明の便宜上、3台の台車12が連結される例について説明する。この場合、先頭の台車12の後方において最後尾の台車12が2台目の台車12に連結され、牽引される。3台の台車12からなる台車群を構成する。なお、台車群は、一以上の台車12からなるとする。
【0028】
台車本体27の左右の側面32における前部には、第1反射体33がそれぞれ備えられている。両側面32における後部には、第2反射体34がそれぞれ備えられている。先頭の台車12の第1反射体33は、台車群の側面の最前方に設けられる前方反射体に相当し、最後尾の台車12の第2反射体34は、台車群の側面の最後方に設けられる後方反射体に相当する。なお、左右の第1反射体33および左右の第2反射体34を区別する場合、右の第1反射体33R、右の第2反射体34Rとし、左の第1反射体33L、左の第2反射体34Lとする。
【0029】
第1反射体33は、台車本体27の側面32から側方に突出しており、側面32に対して傾動可能である。具体的には、
図4(a)に示すように、第1反射体33は、レーザ光を高い反射率で反射させ、レーザ反射光をレーザセンサ25に受光させるための円柱状の反射部35と、反射部35を側面32に対して傾動可能とする傾動機構として支持部36と、を備えている。反射部35の形状は円柱であり、円柱の外周面である同じ凸曲面による反射面37を有している。したがって、反射面37は、閾値以上の反射率でレーザ光を反射させる。
【0030】
支持部36は反射部35を支持する板部材であり、支持部36は側面32に対してピン38を支点として前後に傾動可能である。つまり、反射部35に前後方向の外力が加わると、支持部36は側面32に対して前方又は後方に傾動する。支持部36の前後には、支持部36が側方へ向かうように支持部36を付勢する付勢部材としてコイルばね39、40が備えられている。また、外力が加えられることにより傾いた支持部36は、外力が解除されたときにはコイルばね39、40の復元力により反射部35は傾動前の原位置に復帰する。したがって、支持部36は、第1反射体33を台車12に対して傾動可能とする傾動機構に相当する。コイルばね39、40は傾動状態の第1反射体33を傾動前の原位置へ復帰可能とする付勢部材に相当する。
【0031】
第2反射体34は、第1反射体33と同一構成であり、台車本体27の側面32から側方に突出しており、側面32に対して傾動可能である。
図4(b)に示すように、第2反射体34は、レーザ光を高い反射率で反射させ、レーザ反射光をレーザセンサ25に受光させるための円柱状の反射部41と、反射部41を側面32に対して傾動可能な支持部42と、を備えている。反射部41の形状は、反射部41と同じ円柱であり、反射面43を有している。支持部42は反射部41を支持する水平の軸部材であり、支持部42は側面32に対してピン44を支点として前後に傾動可能である。支持部42の前後には、支持部42が側方へ向かうように支持部42を付勢する付勢部材としてコイルばね45、46が備えられている。支持部42は傾動機構に相当する。コイルばね45、46は付勢部材に相当する。
【0032】
次に、後方障害物検出装置10による障害物の検出の手順について説明する。後方障害物検出装置10による牽引車11の後方の障害物を検出する一連のステップS01~S11を
図5に示す。
図5に示す一連のステップS01~S11の処理を行うためのプログラムは制御装置18に記憶されている。
【0033】
後方障害物検出装置10は、牽引車11が走行するとレーザセンサ25の走査を開始する(ステップS01を参照)。例えば、
図6に示すように、3台の台車12を牽引する牽引車11が、右へ向けてカーブ走行する場合、点線のハッチングによって示されるレーザセンサ25Rの走査域ARとレーザセンサ25Lの走査域ALは相違する。レーザセンサ25Lの走査域ALは扇形であるが、レーザセンサ25Rの走査域ARは、台車12によってレーザセンサ25のレーザ光が遮られるため、レーザセンサ25Lの走査域ALと比べて狭い。レーザセンサ25Rは台車12を物体として検出する。なお、レーザセンサ25Rの走査域ARは、
図6では白抜きされた後述する特定検出域Tを含む。
【0034】
次に、レーザセンサ25により片側で2個以上の特徴点が検出されたか否かを判別する(ステップS03を参照)。レーザセンサ25は、閾値以上の反射率でレーザセンサ25のレーザ光を反射する物体を検出すると、制御装置18はその物体を特徴点と判別する。したがって、制御装置18は、レーザセンサ25が受光するレーザ反射光の反射率が閾値以上のときレーザセンサ25からのレーザ光を反射する物体を特徴点と判別する特徴点判別部に相当する。
【0035】
台車12が備える第1反射体33および第2反射体34は、レーザセンサ25のレーザ光を閾値以上の反射率で反射するので、特徴点となり得る。片側とは台車12の左側方、右側方のいずれかを指す。
図6では、各台車12においてカーブの内側に面する右の側面32の第1反射体33Rおよび第2反射体34Rが特徴点として判別される。
【0036】
ステップS02において、片側で2個以上の特徴点を検出すると判別すると、制御装置18は、牽引車11がカーブを牽引走行していると認識し、特定検出域Tを設定する(ステップS03を参照)。特定検出域Tは、レーザセンサ25と検出された複数の特徴点によって区画される領域であり、カーブの内側となる台車12の側方に設定される。したがって、制御装置18は、レーザセンサ25により検出された第1反射体33および第2反射体34と、レーザセンサ25と、により区画される特定検出域Tを設定する特定検出域設定部に相当する。なお、特定検出域Tは、先頭の台車12の第1反射体33および最後尾の台車12の第2反射体34を特徴点として含み、先頭の台車12および最後尾の台車12を除く台車12の第1反射体33および第2反射体34を特徴点として含む。したがって、特定検出域Tは、レーザセンサ25により検出された前方反射体および後方反射体と、レーザセンサ25と、により区画されると言える。
【0037】
特定検出域Tには、台車12の通過が予定される予定経路が含まれる。最後尾の台車12は特定検出域Tにおいて最もカーブの内側を通ることになる。特定検出域Tは牽引車11および台車12のカーブ走行が進行することによって位置および形状が変わる。
図6では、特定検出域Tはレーザセンサ25Rの走査域ARにおいて白抜きされた領域となる。
【0038】
次に、制御装置18は、特定検出域Tに物体を検出したか否かを判別する(ステップS04を参照)。レーザセンサ25により特定検出域Tにおいて物体が検出されると、制御装置18は、特定検出域Tに検出された物体を障害物と判別する(ステップS05を参照)。したがって、制御装置18は、レーザセンサ25が特定検出域Tにて物体を検出するとき、物体を障害物と判別する障害物判別部に相当する。
【0039】
次に、制御装置18は、特定検出域Tの障害物が台車12と干渉するおそれがあるため、牽引車11を停車させる(ステップS06を参照)。したがって、台車12は特定検出域Tの障害物と干渉することはない。
【0040】
ところで、ステップS02において、片側で2個以上の特徴点を検出すると判別されない場合があるが、この場合、制御装置18は、台車12の両側で1個の特徴点を検出するか否かを判別する(ステップS07を参照)。台車12の両側で1個の特徴点を検出すると判別されると、制御装置18は、牽引車11が直進走行していると判別する(ステップS10を参照)。この場合、ステップS02へ戻る。
【0041】
ステップS07において、台車12の両側で1個の特徴点を検出しないと判別されると、制御装置18は、レーザセンサ25が特徴点および台車12を検出しないか否かを判別する(ステップS08を参照)。特徴点および台車12が検出されないと判別されると、制御装置18は、牽引車11は台車12を牽引しない単独走行を行っている判別する(ステップS09を参照)。そして、制御装置18は処理を終了する。
【0042】
ステップS08において、特徴点および台車12が検出されないと判別されないとき、制御装置18は検出異常と判別する(ステップS11を参照)。具体的には、例えば、レーザセンサ25が特徴点を検出しても、台車12を検出しない場合である。制御装置18は検出異常と判別すると、牽引車11を停車する。
【0043】
次に、後方障害物検出装置10による牽引車11の後方の障害物を検出する後方障害物検出方法の具体例について説明するが、まず、牽引車11が3台の台車12を牽引する場合の後方障害物検出方法について説明する。
【0044】
牽引車11は自己位置を推定しつつ、目的地へ向けて自動運転される。
図6に示すように、牽引車11が、右へ向けてカーブ走行すると、レーザセンサ25Rは、各台車12の右側の側面32の第1反射体33Rおよび第2反射体34Rを特徴点として検出するほか、台車12を物体として検出する。レーザセンサ25Lの走査域ALには検出対象が存在しない。
【0045】
制御装置18は、特徴点として検出される第1反射体33Rおよび第2反射体34Rと、レーザセンサ25Rとにより特定検出域Tを設定し、特定検出域Tにおいて物体がレーザセンサ25Rにより検出されるか判別する。
図6に示すように、特定検出域Tに移動体Mが入り込んでくると、レーザセンサ25Rは移動体Mを検出するので、制御装置18は、移動体Mを障害物と判別し、牽引車11が停車するようにモータ駆動部22を制御する。なお、移動体Mは、例えば、移動可能な作業車両であり、作業者であってもよい。制御装置18は、レーザ光の走査域ARにおいて特定検出域Tを除く領域にてレーザセンサ25により検出される物体を障害物と判別しない。
【0046】
ところで、移動体Mが特定検出域Tに入り込むとき、最後尾の台車12の右の第2反射体34Rとレーザセンサ25Rとの間に移動体Mが位置することにより、レーザセンサ25Rは最後尾の台車12の右の第2反射体34Rを検出できなくなる。本実施形態では、レーザセンサ25Rが最後尾の台車12の右の第2反射体34Rを検出できなくなっても、制御装置18は、直ちに、特定検出域Tを縮小することなく、一定時間(例えば、1秒間)は特定検出域Tを維持する。これにより、移動体Mが障害物として判別されなくなることが防止される。
【0047】
特定検出域Tに入り込む障害物がなく、牽引車11が右へ向けてカーブ走行を継続するとき、台車12のカーブ走行に応じて特定検出域Tは変形する。最後尾の台車12のカーブ走行が終了に近づくにつれて、レーザセンサ25Rにより検出される特徴点が減少するので特定検出域Tは縮小される。最後尾の台車12が直進走行するときには、左右のレーザセンサ25R、25Lは先頭の台車12の第1反射体33R、33Lのみを検出するので、台車12の左右の側方には特定検出域Tは設定されない。つまり、台車12の左右の両側で1個の特徴点がそれぞれ検出されるだけであり、制御装置18は直進走行と認識する。
【0048】
次に、牽引車11が1台の台車12を牽引する場合の障害物の検出について説明する。牽引される台車12が1台の場合、台車12は先頭の台車であって最後尾の台車でもある。牽引車11が右へ向けてカーブ走行すると、レーザセンサ25Rによる特徴点の検出により特定検出域Tが設定される。特定検出域Tは、台車12の右の側面32における第1反射体33Rおよび第2反射体34Rおよびレーザセンサ25Rの3点により設定される。特定検出域Tに物体を検出すると、制御装置18は特定検出域Tの物体を障害物と判別する。
【0049】
牽引車11が台車12を牽引しない単独走行の場合、カーブ走行をしてもレーザセンサ25R、25Lより台車12および特徴点が検出されないので、特定検出域Tは設定されない。なお、特徴点を検出しないにも関わらず台車12を検出する場合、制御装置18は検出異常と判別する。検出異常としては、例えば、第1反射体33および第2反射体34の異常やレーザセンサ25の故障である。
【0050】
本実施形態は以下の効果を奏する。
(1)第1反射体33および第2反射体34がカーブの内側となるように、牽引車11がカーブを走行すると、レーザセンサ25が特徴点として第1反射体33および第2反射体34を検出する。制御装置18は、特徴点としての第1反射体33および第2反射体34と、レーザセンサ25と、により区画される特定検出域Tを設定する。特定検出域Tは、台車12の側方に台車12が通る予定コースを含む領域であり、制御装置18は、特定検出域Tにおいてレーザセンサ25により物体が検出されるとき物体を障害物と判別する。したがって、特定検出域Tにおける物体を障害物と判別することにより、カーブ走行時に台車12と干渉するおそれのある障害物を確実に検出できる。つまり、牽引車11が通り過ぎた後方の特定検出域Tに移動体Mが障害物として入り込んでいるか否かを判別することができる。
【0051】
(2)牽引車11は、駆動モータ16と、駆動モータ16を制御するモータ駆動部22を備え、制御装置18は、物体を障害物と判別したとき、牽引車11が停止するようにモータ駆動部22を制御する。このため、牽引車11および台車12がカーブを走行するときに、台車12と障害物との干渉を防止することができる。
【0052】
(3)牽引車11は、レーザセンサ25が受光するレーザ反射光の反射率が閾値以上のときレーザセンサ25からのレーザ光を反射する物体を特徴点と判別する制御装置18を備える。第1反射体33(第2反射体34)は、レーザセンサ25が受光するレーザ反射光の反射率を閾値以上とするようにレーザセンサ25からのレーザ光を反射する反射部35(41)を有する。このため、第1反射体33の反射部35および第2反射体34の反射部41は、レーザセンサ25が受光するレーザ反射光の反射率を閾値以上とするようにレーザセンサ25からのレーザ光を反射する。したがって、制御装置18は、レーザセンサ25が第1反射体33および第2反射体34からのレーザ反射光を受光することにより、第1反射体33および第2反射体34を確実に特徴点として判別することができる。
【0053】
(4)制御装置18は、特徴点を1つのみ判別するとき、牽引車11および台車12が直進走行しているものとして特定検出域Tを設定しない。したがって、牽引車11および台車12の直進走行では、牽引車11の後方の障害物を検出する処理が行われないので、制御装置18の負荷を軽減することができる。
【0054】
(5)制御装置18が特定検出域Tの物体を障害物と判別した後、特定検出域Tにおいて検出された物体がレーザ光を妨げることにより第2反射体34が特徴点として検出されないとき、制御装置18は、特定検出域Tを一定時間維持する。このため、特定検出域Tにおいて検出された物体がレーザ光を妨げることによってレーザセンサ25が第2反射体34を検出できなくなっても、特定検出域Tが直ちに縮小又は解消されることはなく、特定検出域Tの物体を障害物として一定時間検出することができる。
【0055】
(6)第1反射体33および第2反射体34を台車12に対して傾動可能とする傾動機構と、傾動状態の第1反射体33および第2反射体34を傾動前の原位置へ復帰可能とする付勢部材としてのコイルばね39、40と、を備える。このため、第1反射体33および第2反射体34を台車12に対して傾動可能とすることで、第1反射体33および第2反射体34が物体等と干渉しても第1反射体33および第2反射体34自体が干渉する物体に対して障害となり難い。また、コイルばね39、40によって傾動状態の第1反射体33および第2反射体34を傾動前の原位置へ復帰可能とするので、第1反射体33および第2反射体34としての機能を保つことができる。
【0056】
(7)反射部35(41)は、凸曲面状の反射面37(43)を備えるので、牽引車11および台車12が走行するカーブの曲率に関わらず、レーザセンサ25のレーザ光を確実にレーザセンサ25へ向けて反射させることができる。
【0057】
(8)台車12に障害物を検出するためのセンサ類や配線を接続するコネクタを設ける必要がないので、牽引車11と台車12との接続や切り離しのほか、台車12同士の接続および切り離しの際に、配線を接続したり取り外したりする作業は生じない。よって、牽引車11と台車12との接続や切り離しや台車12同士の接続および切り離しの作業性が低下することはない。
【0058】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態について説明する。本実施形態では、牽引車が2台以上の台車を牽引する点と、台車が側面の後部にのみ反射部を備える点で第1の実施形態と相違する。本実施形態では、第1の実施形態と同じ構成については第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0059】
図7に示すように、本実施形態の後方障害物検出装置50は、牽引車11と、3台の台車12と、を有している。台車12の左右の側面32の後部には反射体51(51R、51L)が備えられている。反射体51は、第1反射体33および第2反射体34と同じ構成である。本実施形態では、牽引車11が3台の台車12を牽引する例であり、3台の台車12からなる台車群を構成する。先頭の台車12の反射体51が台車群の側面の最前方に設けられる前方反射体に相当し、最後尾の台車の反射体51が台車群の側面の最後方に設けられる後方反射体に相当する。
図7に示すように、右へ向けてカーブする場合に設定される特定検出域Tは、特徴点として検出される各台車12の反射体51Rと、レーザセンサ25と、によって設定される。つまり、特定検出域Tは、レーザセンサ25により検出された前方反射体および後方反射体と、レーザセンサ25と、
により区画される。
【0060】
本実施形態によれば、牽引車11が牽引する台車12を2台以上とする台車群とすれば、台車12の側面32に設ける反射体51を1個としても、特定検出域Tを設定することができる。したがって、後方障害物検出装置50の製作コストを抑制しつつ、カーブ走行時に台車12と干渉するおそれのある障害物を確実に検出できる。なお、牽引される台車12を2台とした場合、前方反射体に相当する先頭の台車12の反射体51と、後方反射体に相当する最後尾の台車12の反射体と、レーザセンサ25と、により特定検出域Tを設定することができる。
【0061】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0062】
○ 上記の実施形態では、前部反射部および後部反射部は傾動機構および付勢部材を備えたが、これに限らない。前部反射部および後部反射部は傾動機構および付勢部材を必ずしも備えていなくてもよい。また、傾動機構は、前部反射部および後部反射部を台車に対して傾動可能とする構成であればよい。
○ 上記の実施形態では、いずれも3台の台車を牽引する場合について例示して説明したが、台車の数は3台に限定されない。第1の実施形態では、台車群における台車の数は一以上であればよく、例えば、牽引車が牽引する台車は1台であってもよい。牽引される台車が1台の場合では、先頭の台車が最後尾の台車である。したがって、第1の実施形態の台車1台が台車群を構成する場合、台車の側面の前方に備えられる第1反射体が、台車群の側面の最前方に設けられる前方反射体に相当し、台車の側面の後方に備えられる第2反射体が、台車群の側面の最後方に設けられる後方反射体に相当する。第2の実施形態では、台車は2台以上とすればよい。第2の実施形態の台車2台が台車群を構成する場合、先頭の台車の反射体が、台車群の側面の最前方に設けられる前方反射体に相当し、最後尾の台車の反射体が、台車群の側面の最後方に設けられる後方反射体に相当する。
○ 上記の実施形態では、牽引車のカーブを走行中に移動体が特定検出域に入り込み、特定検出域に入り込んだ移動体を障害物と判別する場合について説明したがこれに限らない。例えば、牽引車の進路によっては柱や棚等が特定検出域に存在してしまうことが考えられ、この場合は柱や棚等を障害物と判別する。
【符号の説明】
【0063】
10、50 牽引車の後方障害物検出装置
11 牽引車
12 台車
16 駆動モータ(走行駆動部)
18 制御装置(走行制御部・特定検出域設定部・特徴点判別部)
22 モータ駆動部
25 レーザセンサ
27 台車本体
28 前輪
29 後輪
30 荷台
31 連結杆
32 側面
33(33R、33L) 第1反射体
34(34R、34L) 第2反射体
35、41 反射部
37、43 反射面
38、44 ピン
39、40、45、46 コイルばね(付勢部材)
51(51R、51L) 反射体
AR レーザ光の走査域(右)
AL レーザ光の走査域(左)
M 移動体(障害物)
T 特定検出域
θ 走査角度