(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】慣性センサおよび慣性センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01C 19/5691 20120101AFI20240806BHJP
H01L 29/84 20060101ALI20240806BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20240806BHJP
B81C 3/00 20060101ALI20240806BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G01C19/5691
H01L29/84 Z
B81B3/00
B81C3/00
B81C1/00
(21)【出願番号】P 2021032561
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明石 照久
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 優輝
(72)【発明者】
【氏名】川合 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】船橋 博文
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0094024(US,A1)
【文献】特開2012-042452(JP,A)
【文献】特開2009-264933(JP,A)
【文献】特開2014-186244(JP,A)
【文献】特開平10-062284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0277215(US,A1)
【文献】Jae Yoong Cho et al.,0.00016 deg/√hr Angle Random Walk(ARW) and 0.0014 deg/hr Bias Instability(BI) from a 5.2M-Q and 1-cm Precision Shell Integrating(PSI) Gyroscope,2020 IEEE International Symposium on Inertial Sensors and Systems (INERTIAL),2020年,https://dx.doi.org/10.1109/INERTIAL48129.2020.9090086
【文献】T.Nagourney et al.,MICROMACHINED HIGH-Q FUSED SILICA BELL RESONATOR WITH COMPLEX PROFILE CURVATURE REALIZED USING 3D MICRO BLOWTORCH MOLDING,2015 Transducers-2015 18th International Conference on Solid-State Sensors,Actuators and Microsystems(TRANSDUCERS),2015年,https://dx.doi.org/10.1109/TRANSDUCERS.2015.7181172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/5691
H01L 29/84
B81B 3/00
B81C 3/00
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
慣性センサであって、
環状曲面を備える曲面部(21)および前記曲面部から凹んだ凹部(22)を有する微小振動体(2)と、
前記微小振動体の前記凹部が嵌め込まれる枠体状の内周枠(511)と、前記内周枠を囲む枠体状の外周枠(512)と、互いに距離を隔てつつ、前記外周枠を囲む配置とされる複数の電極部(53)とを有してなる上部基板(5)が、下部基板(4)に接合されてなる実装基板(3)と、
少なくとも一部が前記内周枠の内側に配置され、前記微小振動体と前記実装基板とを接合する接合部材(52)と、を備え、
前記微小振動体は、前記曲面部が中空状態となっており、
前記実装基板は、前記下部基板のうち前記内周枠の内側の領域、および前記内周枠の少なくとも一方に設けられ、前記内周枠の内側に配置される前記接合部材の余剰部分が流れ込む逃げ溝(43、55、56)を有する、慣性センサ。
【請求項2】
前記逃げ溝は、前記内周枠で囲まれた領域と、前記外周枠と前記内周枠との間の領域とを繋いでいる、請求項1に記載の慣性センサ。
【請求項3】
前記逃げ溝は、前記下部基板の一部であって、前記内周枠を跨ぐ配置とされている、請求項1または2に記載の慣性センサ。
【請求項4】
前記逃げ溝は、前記内周枠に設けられている、請求項1または2に記載の慣性センサ。
【請求項5】
前記逃げ溝は、前記内周枠のうち前記下部基板と向き合う下面(511b)に設けられた下端溝(56)である、請求項4に記載の慣性センサ。
【請求項6】
前記内周枠は、前記下面とは反対側の上面(511a)と前記下面とを繋ぐ方向に沿って設けられたサイド溝(57)を有し、
前記サイド溝は、一端が前記下端溝に連通している、請求項5に記載の慣性センサ。
【請求項7】
前記逃げ溝は、前記内周枠のうち前記下部基板と向き合う下面(511b)とは反対側の上面(511a)に設けられた上端溝(55)である、請求項4に記載の慣性センサ。
【請求項8】
前記内周枠は、円環形状である、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項9】
環状曲面を備える曲面部(21)および前記曲面部から凹んだ凹部(22)を有する微小振動体(2)と、
下部基板(4)と、前記微小振動体の前記凹部が嵌め込まれる枠体状の内周枠(511)を有し、前記下部基板に接合される上部基板(5)と、によりなり、接合部材(52)を介して前記内周枠の内側領域に前記微小振動体の前記凹部が接合される実装基板(3)と、を備え、
前記微小振動体が前記内周枠に搭載されたとき、前記曲面部が中空状態となる慣性センサ(1)の製造方法であって、
前記微小振動体を用意することと、
前記実装基板を用意することと、
前記実装基板のうち前記内周枠の内側領域に前記接合部材を配置することと、
前記接合部材を配置した後、前記内周枠の内側領域に、前記微小振動体のうち前記凹部を嵌め込み、前記接合部材と前記微小振動体の前記凹部とを接触させることと、
前記実装基板を加熱して前記接合部材を溶融させ、固化させることで、前記微小振動体を前記実装基板に接合することと、を含み、
前記実装基板を用意することにおいては、前記内周枠を囲む枠体状の外周枠(512)と、互いに距離を隔てつつ、前記外周枠を囲む配置とされる複数の電極部(53)と、前記下部基板のうち少なくとも前記内周枠の内側領域または前記内周枠に設けられる逃げ溝(43、55、56)と、を有する前記実装基板を用意し、
前記微小振動体を接合することにおいては、前記微小振動体の前記凹部を前記下部基板の側に押圧し、溶融した前記接合部材のうち余剰部分を前記逃げ溝に押し出す、慣性センサの製造方法。
【請求項10】
前記接合部材を配置することにおいては、AuSnを主成分とする導電性材料を成形してなる板状部材を前記内側領域に配置する、請求項9に記載の慣性センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小振動体を備える慣性センサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動運転のシステム開発が進められており、この種のシステムでは、高精度の自己位置の推定技術が必要である。例えば、いわゆるレベル3の自動運転向けに、GNSS(Global Navigation Satellite Systemの略)とIMU(Inertial Measurement Unitの略)とを備える自己位置推定システムの開発が進められている。IMUは、例えば、3軸のジャイロセンサと3軸の加速度センサから構成される6軸の慣性力センサである。将来的に、いわゆるレベル4以上の自動運転を実現するためには、現状よりもさらに高感度のIMUが求められる。
【0003】
このような高感度のIMUを実現するためのジャイロセンサとしては、BRG(Bird-bath Resonator Gyroscopeの略)が有力視されている。BRGは、ワイングラスモードで振動する三次元曲面を有する微小振動体が実装基板に搭載されてなる(例えば特許文献1)。この微小振動体は、振動の状態を表すQ値が106以上に達するため、従来よりも高感度が見込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2019/0094024A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この微小振動体は、例えば、数十μmの厚みの石英等で構成されるため、実装基板への搭載において傷を付けない取り扱いが求められる。微小振動体のベースとなる基材(例えば石英等)やその表面に形成される電極膜に傷が付いたり、電極膜が剥がれたりすると、Q値が低下し、ジャイロセンサの感度が低下してしまう。
【0006】
特許文献1に記載のBRGは、実装基板の一部として微小振動体の位置決め用の可動治具が形成されており、微小振動体を実装基板に載置し、可動治具により微小振動体の位置調整を行った後に、微小振動体が接合部材で実装基板に接合されることで製造される。その後、実装基板のうち可動治具の部分は、エッチング等の処理により実装基板から解放され、除去される。
【0007】
しかし、この手法は、実装基板における微小振動体の位置決め精度を確保できるものの、プロセスが多く、製造コストが増大するおそれがある。そのため、微小振動体を傷付けず、かつ実装基板に対する微小振動体の位置決めを簡便にすることが求められる。
【0008】
また、上記のBRGでは、実装基板のうち枠体状の実装部分の内側に接合部材を配置し、接合部材を溶融させ、固化させることにより微小振動体が実装基板に接合される。このとき、溶融した接合部材により微小振動体が一時的に浮かんだ状態となって、微小振動体が傾くおそれがあるため、微小振動体の傾きを抑制する必要がある。しかし、特許文献1では、この微小振動体の接合時における傾き抑制については記載されていない。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑み、この種の微小振動体を備える慣性センサにおいて、微小振動体を実装基板に搭載する際の微小振動体の位置決めの簡便化および接合部材による傾き抑制を両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の慣性センサは、環状曲面を備える曲面部(21)および曲面部から凹んだ凹部(22)を有する微小振動体(2)と、微小振動体の凹部が嵌め込まれる枠体状の内周枠(511)と、内周枠を囲む枠体状の外周枠(512)と、互いに距離を隔てつつ、外周枠を囲む配置とされる複数の電極部(53)とを有してなる上部基板(5)が、下部基板(4)に接合されてなる実装基板(3)と、少なくとも一部が内周枠の内側に配置され、微小振動体と実装基板とを接合する接合部材(52)と、を備え、微小振動体は、曲面部が中空状態となっており、実装基板は、下部基板のうち少なくとも内周枠の内側の領域、または内周枠に設けられ、内周枠の内側に配置される接合部材の余剰部分が流れ込む逃げ溝(43、55、56)を有する。
【0011】
これによれば、微小振動体の凹部が嵌め込まれる枠体状の内周枠、およびこれを囲む外周枠を有する上部基板と下部基板とが接合されてなる実装基板の内周枠に、曲面部および凹部を有する微小振動体の凹部が嵌め込まれてなる慣性センサとなる。この慣性センサは、微小振動体が嵌め込まれる内周枠を有することで、実装基板に対する微小振動体の位置決め精度が所定以上となると共に、位置決め工程が簡便化されつつ、位置決め後の微小振動体の位置ズレが抑制される構造となっている。
【0012】
また、慣性センサは、実装基板のうち下部基板または内周枠に逃げ溝を有することで、実装基板のうち内周枠の内側領域に接合部材を配置し、微小振動体を接合するに際して、溶融した接合部材の余剰部分が逃げ溝に流れ込む構造となっている。そのため、微小振動体の凹部と実装基板の接合面との間に必要以上の接合部材が介在することが抑止され、微小振動体が傾くことが抑制された慣性センサとなる。
【0013】
したがって、この慣性センサは、微小振動体の位置決めが簡便かつ高精度でなされ、面内方向での微小振動体の位置ズレが抑制されつつ、接合時における微小振動体の傾きが抑制された構造となる。
【0014】
請求項9に記載の慣性センサの製造方法は、環状曲面を備える曲面部(21)および曲面部から凹んだ凹部(22)を有する微小振動体(2)と、下部基板(4)と、微小振動体の凹部が嵌め込まれる枠体状の内周枠(511)を有し、下部基板に接合される上部基板(5)と、によりなり、接合部材(52)を介して内周枠の内側領域に微小振動体の凹部が接合される実装基板(3)と、を備え、微小振動体が内周枠に搭載されたとき、曲面部が中空状態となる慣性センサ(1)の製造方法である。そして、微小振動体を用意することと、実装基板を用意することと、実装基板のうち内周枠の内側領域に接合部材を配置することと、接合部材を配置した後、内周枠の内側領域に、微小振動体のうち凹部を嵌め込み、接合部材と微小振動体の凹部とを接触させることと、実装基板を加熱して接合部材を溶融させ、固化させることで、微小振動体を実装基板に接合することと、を含む。実装基板を用意することにおいては、内周枠を囲む枠体状の外周枠(512)と、互いに距離を隔てつつ、外周枠を囲む配置とされる複数の電極部(53)と、下部基板のうち少なくとも内周枠の内側領域または内周枠に設けられる逃げ溝(43、55、56)と、を有する実装基板を用意する。微小振動体を接合することにおいては、微小振動体の凹部を下部基板の側に押圧し、溶融した接合部材のうち余剰部分を逃げ溝に押し出す。
【0015】
これによれば、微小振動体の凹部が嵌め込まれる枠体状の内周枠、およびこれを囲む外周枠を有する上部基板と下部基板とが接合され、下部基板のうち少なくとも内周枠の内側領域、または内周枠に逃げ溝が形成された実装基板を用いる。そして、当該実装基板のうち内周枠の内側領域に接合部材を配置した後に、内周枠に微小振動体を嵌め込み、接合部材を溶融・固化させて、微小振動体を接合する。このとき、溶融した接合部材の余剰部分を実装基板の逃げ溝に押し出し、微小振動体と実装基板とが接合された慣性センサを製造する。
【0016】
微小振動体の凹部を実装基板の内周枠に嵌め込むことで、実装基板に対する微小振動体の位置決めを簡素化することができる。また、微小振動体の接合時に、接合部材の余剰部分を実装基板の逃げ溝に逃がすことで、微小振動体の凹部と実装基板の実装面との間に必要以上の接合部材が介在することを抑止し、微小振動体の傾きを抑制することができる。
【0017】
したがって、慣性センサの製造において、微小振動体の位置決めの簡便化および接合部材による微小振動体の傾きを両立することができる。
【0018】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る慣性センサを示す上面レイアウト図である。
【
図3】
図2のIII-III間の断面を示す断面図である。
【
図4A】微小振動体の形成工程のうち部材の用意工程を示す図である。
【
図6】
図1のVI-VI間の断面を示す断面図である。
【
図7】微小振動体が搭載される前の実装基板を示す上面レイアウト図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII間の断面を示す断面図である。
【
図9】
図7のIX-IX間の断面を示す断面図である。
【
図10】
図7のX-X間の断面を示す断面図である。
【
図11A】慣性センサの製造における微小振動体の搭載工程を示す図であって、部材の用意工程を示す図である。
【
図12A】比較例の実装基板に微小振動体を接合する様子を示す図である。
【
図12B】
図12Aに続く工程を示す図であって、接合時における微小振動体の傾き発生を説明するための説明図である。
【
図13】第2実施形態の慣性センサに係る実装基板を示す上面レイアウト図である。
【
図14】
図13のXIV-XIV間の断面を示す断面図である。
【
図16】第2実施形態の慣性センサを示す断面図である。
【
図17】第3実施形態の慣性センサに係る実装基板を示す上面レイアウト図である。
【
図18】
図17のXVIII-XVIII間の断面を示す断面図である。
【
図19】第3実施形態の慣性センサを示す断面図である。
【
図20】第3実施形態の慣性センサに係る実装基板の変形例を示す上面レイアウト図である。
【
図21】
図20のXXI-XXI間の断面を示す断面図である。
【
図22】第3実施形態の慣性センサの変形例を示す断面図である。
【
図23】第4実施形態の慣性センサに係る実装基板を示す上面レイアウト図である。
【
図24】
図23のXXIV-XXIV間の断面を示す断面図である。
【
図25】第4実施形態の慣性センサを示す断面図である。
【
図26】第5実施形態の慣性センサに係る実装基板を示す上面レイアウト図である。
【
図27】
図26のXXVII-XXVII間の断面を示す断面図である。
【
図28】
図26のXXVIII-XXVIII間の断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0021】
(第1実施形態)
第1実施形態の慣性センサ1について、
図1~
図10を参照して説明する。
【0022】
図2では、後述する微小振動体2の構成を分かり易くするため、微小振動体2の外郭のうち
図2に示す角度から見えない部分については破線で示している。
図5、
図6では、見易くするため、微小振動体2のうち
図2に示す後述の導電層23を省略している。見易くするための導電層23の省略については、
図11A以降の図についても同様である。
【0023】
以下、説明の便宜上、
図1に示すように、紙面における左右方向に沿った方向を「x方向」と、同紙面上においてx方向に直交する方向を「y方向」と、xy平面に対する法線方向を「z方向」と、それぞれ称する。
図3以降の図中のx、y、z方向は、
図1のx、y、z方向にそれぞれ対応するものである。また、本明細書における「上」とは、図中のz方向に沿った方向であって、矢印側を意味し、「下」とは上の反対側を意味する。さらに、本明細書では、例えば
図1等に示すように、z方向上側から慣性センサ1または実装基板3を見た状態を「上面視」と称することがある。
【0024】
〔基本構成〕
慣性センサ1は、例えば、
図1に示すように、微小振動体2と、実装基板3とを備え、微小振動体2の一部が実装基板3に接合されてなる。慣性センサ1は、ワイングラスモードで振動することが可能な微小振動体2と実装基板3のうち後述する複数の電極部53との間における静電容量の変化に基づき、慣性センサ1に印加された角速度を検出する構成となっている。慣性センサ1は、例えば、BRG構造のジャイロセンサであって、自動車等の車両に搭載される用途に適用されると好適であるが、勿論、他の用途にも適用されうる。
【0025】
微小振動体2は、例えば、
図2に示すように、略半球形の三次元曲面の外形を有する曲面部21と、環状曲面形状の曲面部21の頂点側から半球の中心側に向かうように凹んだ凹部22とを備える。微小振動体2は、例えば
図3に示すように、凹部22のうち外側の面が実装基板3に接続される際の吸着搬送に用いられる吸着面22aであり、凹部22のうち吸着面22aとは反対側が実装基板3に接続される実装面22bである。微小振動体2は、実装面22bの径が実装基板3のうち後述する枠体状の内周枠511の内側領域の径に対応する径とされており、実装基板3への搭載時に内周枠511に嵌合する寸法となっている。微小振動体2は、例えば、慣性センサ1が駆動していない状態においてリム211と複数の電極部53との間隔が等間隔となるように、リム211が略円筒形状とされる。微小振動体2は、曲面部21が椀状の三次元曲面を有し、その振動のQ値が例えば10
6以上となっている。
【0026】
微小振動体2は、例えば、石英、ガラス、シリコンやセラミック等の材料で構成されるが、三次元曲面形状とされた曲面部21および凹部22を形成でき、ワイングラスモードで振動することが可能なものであればよく、これらの材料に限定されない。微小振動体2は、例えば、その厚みが20μm~80μmといった具合の数十μmの薄肉構成となっている。微小振動体2は、例えば、実装基板3の厚み方向に沿った方向を高さ方向として、高さ方向の寸法が2.5mm、その径が5mmといったミリサイズの形状である。微小振動体2は、その表面が導電層23で覆われている。導電層23は、例えば、限定するものではないが、下地側からCr(クロム)あるいはTi(チタン)と、Au(金)やPt(白金)等の任意の導電性材料との積層膜で構成され、電極膜として機能する。
【0027】
微小振動体2は、例えば、次のような工程により形成される。
【0028】
まず、例えば
図4Aに示すように、石英板20、三次元曲面形状を形成するための型Mおよび型Mを冷却するための冷却体Cを用意する。型Mは、例えば、石英板20に三次元曲面形状を形成する際のスペースとなる凹部M1と、凹部M1の中心において、凹部M1の深さ方向に沿って延設され、加工時に石英板20の一部を支える支柱部M2とを備え、凹部M1の底面に貫通孔M11が形成されている。冷却体Cは、型Mが嵌め込まれる嵌め込み部C1と、嵌め込み部C1の底面に排気用の排気口C11とを備え、石英板20を加工する際に型Mを冷却する役割を果たす。石英板20は、型Mの凹部M1の全域を覆うように配置される。
【0029】
続けて、例えば
図4Bに示すように、石英板20に向けてトーチTから火炎Fを吹きかけ、石英板20を溶融させる。このとき、型Mの凹部M1は、図示しない真空機構により冷却体Cの排気口C11を通じて真空引きされている。これにより、石英板20のうち溶融した部分は、凹部M1の底面に向かって引き延ばされると共に、その中心周辺領域が支柱部M2により支えられた状態となる。その後、石英板20の加熱をやめて冷却することで、石英板20は、略半球形の三次元曲面形状とされた曲面部位201と、曲面部位201の中心近傍で凹んだ凹部位202と、曲面部位201の外周端に位置し、平坦形状とされた端部203とを有する形状となる。
【0030】
次いで、型Mの凹部M1を常圧に戻し、加工後の石英板20を取り外し、例えば
図4Cに示すように、任意の硬化性樹脂材料によりなる封止材Eで石英板20を封止する。その後、例えば、封止材Eを端部203側の面から研磨およびCMP(Chemical Mechanical Polishingの略)を行い、封止材Eごと端部203を除去し、凹部位202を残す。そして、加熱や薬液を用いた溶解等の任意の方法により、封止材Eをすべて除去し、石英板20を取り出す。最後に、例えば、スパッタリング、蒸着、原子層堆積(ALD)や化学蒸着(CVD)等の任意の成膜プロセスにより、上記の加工後の石英板20の両面に導電層23を形成する。
【0031】
なお、微小振動体2は、例えば、上記のような製造プロセスにより製造され、Z方向を回転軸として回転対称な略ハーフトロイダル形状とされるが、上記の方法に限定されるものではなく、他の公知の方法が採用されても構わない。また、微小振動体2は、ワイングラスモードで振動可能な形状であればよく、BRの形状に限定されるものではない。
【0032】
微小振動体2は、例えば、
図5や
図6に示すように、凹部22の実装面22b側が実装基板3に接合されたとき、リム211を含む三次元曲面形状の部分が中空の状態となり、ワイングラスモードで振動することが可能となっている。微小振動体2は、例えば
図6に示すように、実装基板3に接合されたとき、中空状態のリム211が実装基板3のうち複数の電極部53と距離を隔てて配置される。
【0033】
微小振動体2は、例えば、凹部22が
図7等に示す実装基板3のうち後述する内周枠511に嵌め込まれることで、所定以上の位置合わせ精度で実装基板3に搭載されると共に、面内方向、すなわちxy平面方向における実装基板3との位置のズレが抑制される。この詳細については後述する。
【0034】
実装基板3は、例えば
図7に示すように、下部基板4と、上部基板5とを備え、これらが接合された構成となっている。例えば、実装基板3は、絶縁材料のホウケイ酸ガラスにより構成された下部基板4に、半導体材料のSi(シリコン)により構成された上部基板5を陽極接合することで得られる。実装基板3は、微小振動体2が搭載される実装部51と、実装部51を囲むように互いに離隔して配置された複数の電極部53と、電極部53を囲む配置とされた枠体状の外枠部54とを備える。
【0035】
実装部51は、例えば
図5に示すように、微小振動体2の凹部22が嵌め込まれる枠体形状の内周枠511と、内周枠511を囲む枠体形状の外周枠512とにより構成されている。内周枠511および外周枠512は、例えば
図7に示すように、上面視にて、円環形状とされるが、枠体形状であればよく、この形状に限定されない。内周枠511は、その内周側が微小振動体2の凹部22の外形寸法に応じた寸法とされ、例えば、微小振動体2の凹部22が嵌め込まれたときのクリアランスが5μm~10μm程度となる寸法とされる。なお、実装部51は、実装基板3に対する微小振動体2が接合部材52により固定される部位であると共に、微小振動体2の位置決めに用いられる部位でもあるため、微小振動体2程の位置決め固定部としての役割を果たす。
【0036】
実装基板3は、例えば
図7に示すように、上面視にて、円環形状の外周枠512よりも外周側の位置に、実装部51を囲む環状のエッチング溝41が形成されている。これにより、微小振動体2が実装基板3に搭載されたとき、
図5や
図6に示すように、微小振動体2のリム211を含む曲面部21が他の部位に接触しない中空状態となる。実装基板3は、下部基板4のエッチング溝41を跨ぐブリッジ配線42を備え、実装部51と外枠部54とが電気的に接続され、同電位となっている。ブリッジ配線42は、例えばAl(アルミニウム)等の導電性材料により構成されると共に、複数の電極部53の間を通過する配置とされ、複数の電極部53とは電気的に独立している。
【0037】
例えば、実装基板3は、
図5や
図6に示すように、環状の内周枠511の内側領域がAuSn(金錫)等を主成分とする接合部材52が配置される領域となっており、接合部材52を介して微小振動体2が接合される。また、実装基板3は、例えば
図8に示すように、ブリッジ配線42の一端が内周枠511により、他端が外枠部54により、一端と他端との途中部分が外周枠512により、それぞれ覆われている。これにより、実装基板3は、微小振動体2が搭載されたとき、内周枠511、外周枠512、ブリッジ配線42および外枠部54が微小振動体2と電気的に接続された状態となる。
【0038】
実装基板3は、例えば
図7に示すように、下部基板4のうち外周枠512よりも内側に位置する領域内に、複数の逃げ溝43が形成されている。実装基板3は、例えば
図9に示すように、内周枠511で囲まれた領域(以下「内側領域」という)と、内周枠511と外周枠512との間の領域(以下「外側領域」という)とが下部基板4に設けられた逃げ溝43により連通している。逃げ溝43は、内側領域と外側領域とを繋ぐ溝であり、
図6に示すように、内周枠511の内側に配置される接合部材52の余剰部分を内側領域から外側領域に誘導し、微小振動体2が接合時に傾くことを抑制するために設けられる。この詳細については、後述する慣性センサ1の製造方法において説明する。
【0039】
なお、複数の逃げ溝43は、微小振動体2の接合時において、溶融した接合部材52の余剰部分の流れに偏りが生じないようにする観点から、例えば
図7に示すように、上面視にて対称配置されることが好ましいが、これに限定されるものではない。また、逃げ溝43の数、深さや寸法等についても、微小振動体2や内周枠511等の寸法等に応じて、適宜変更されうる。下部基板4のうち逃げ溝43が設けられていない部分については、
図10に示すように、内周枠511により内側領域と外側領域とが区画されている。
【0040】
実装基板3は、例えば
図1や
図6に示すように、エッチング溝41の外周側の位置において、実装部51を囲むように互いに離れて配置された複数の電極部53を備える。複数の電極部53は、微小振動体2が搭載されたとき、微小振動体2のリム211と所定の距離を隔てた状態となり、それぞれが微小振動体2とキャパシタを形成する。複数の電極部53は、上面に電極膜531が形成されると共に、例えば、電極膜531に図示しないワイヤが接続され、図示しない外部の回路基板等と電気的に接続される。これにより、実装基板3は、複数の電極部53を介して、微小振動体2との間の静電容量を検出したり、微小振動体2との間に静電引力を生じさせ、微小振動体2をワイングラスモードで振動させたりすることが可能となっている。複数の電極部53は、例えば
図1に示すように、上面視にて、内周側および外周側の辺がそれぞれ円弧状となっており、内周側および外周側の辺それぞれを繋げると、径の異なる断続的な円を描く状態となっている。言い換えると、複数の電極部53は、実装部51を囲む円環を所定間隔で均等に分割した構成となっている。
【0041】
なお、実装基板3の「内周側」とは、
図7に示すような上面視において、内周枠511に囲まれた内側領域の中心側を意味し、「外周側」とは、内周側とは反対に位置する側を意味する。また、
図1等には、実装基板3に16個の電極部53が互いに離れて環を描くように均等配置された例を示しているが、これに限定されるものではなく、電極部53の数や配置については微小振動体2の形状やサイズ等に応じて適宜変更されうる。
【0042】
外枠部54は、それぞれ、例えば
図7や
図8に示すように、上面にAl等によりなる電極膜541を備えると共に、電極膜541に図示しないワイヤが接続され、図示しない外部の回路基板等と電気的に接続される。これにより、実装基板3は、電極膜541に接続される図示しない外部の電源等により、外枠部54を介して微小振動体2の電位を所望の値に制御することが可能となっている。
【0043】
実装基板3は、例えば、次のような工程により製造されうる。
【0044】
まず、例えば、ホウケイ酸ガラスによりなる下部基板4を用意し、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより円環状のエッチング溝41および複数の逃げ溝43を形成する。その後、エッチング溝41を跨ぐブリッジ配線42をAlのスパッタによる成膜を用いたリフトオフ法により形成する。なお、ブリッジ配線42の厚みは、例えば、0.1μm程度とされる。
【0045】
続けて、例えば、SiによりなるSi基板(後の上部基板5)を用意し、ホウケイ酸ガラスの下部基板4と陽極接合する。次にSi基板に後の内周枠511、外周枠512、電極部53、外枠部54となる領域に区画する溝を公知のエッチング方法により形成する。
【0046】
具体的には、例えば、DRIE(Deep Reactive Ion Etchingの略)によりトレンチエッチングを行って、下部基板4を露出させ、内周枠511、外周枠512、電極部53、外枠部54の各領域を分離させる。これにより、Si基板は、互いに離隔した実装部51、複数の電極部53、および外枠部54を備える上部基板5となる。また、この工程により、下部基板4に形成された複数の逃げ溝43は、上面視にて、内周枠511を跨ぐ配置となる。
【0047】
最後に、例えば、複数の電極部53および外枠部54の上面にスパッタリング等の真空成膜法により電極膜531、541を形成する。このような工程の結果、上述した構造の実装基板3が得られる。そして、実装基板3に微小振動体2を搭載する際に、内周枠511に囲まれた内側領域に、接合部材52として例えばAuSnを主成分とする板状部材が配置される。
【0048】
なお、
図7等で示す1つの実装基板3は、例えば、ウエハに上記構造の複数の実装基板3となる領域を形成し、ダイシングカット等により個片化することにより得られる。言い換えると、実装基板3の製造については、ウエハレベルでの対応が可能である。
【0049】
以上が、慣性センサ1の基本的な構成である。慣性センサ1は、駆動時には、複数の電極部53の一部と微小振動体2との間に静電引力を生じさせることで、微小振動体2をワイングラスモードで振動させる。慣性センサ1は、微小振動体2が振動状態のときに、外部からコリオリ力が印加されると、微小振動体2が変位してその振動モードの節の位置が変化する。慣性センサ1は、この振動モードの節の変化を微小振動体2と複数の電極部53との静電容量で検出することで、慣性センサ1に働く角速度の検出が可能となっている。
【0050】
慣性センサ1の製造においては、内周枠511および外周枠512によりなる実装部51と、逃げ溝43とを有する実装基板3を用いることにより、簡便に、微小振動体2の実装基板3に対する位置決め精度の確保および傾き抑制の両立が可能となっている。
【0051】
〔慣性センサの製造方法〕
次に、本実施形態の慣性センサ1の製造方法について
図11A~
図11Fを参照して説明するが、微小振動体2および実装基板3自体の製造については上記したため、ここでは、微小振動体2を実装基板3に接合する工程について主に説明する。
【0052】
なお、
図11A~
図11Fは、
図9に示す断面図に相当するものである。また、
図11C~
図11Fでは、見易くするため、後述するピックアップ機構300の一部のみを簡易的に示すと共に、コレット302の内部を破線で示している。
【0053】
まず、
図11Aに示すように、例えば、上記の方法により製造した微小振動体2および実装基板3を用意する。その後、例えば、
図11Bに示すように、内周枠511に囲まれた内側領域に接合部材52を配置する。接合部材52としては、例えば、AuSn板材やAuペーストやAg(銀)ペースト等の導電性の接合材料が用いられ、板材の場合には図示しないピンセット等を用いることによって、ペースト状の場合にはシリンジ等を用いて塗布されることによって配置される。
【0054】
なお、接合部材52としては、微小振動体2の接合工程の安定化やアウトガス低減の観点から、AuSn等によりなる板状部材が用いられることが好ましい。接合部材52が板状部材である場合、微小振動体2を内周枠511に嵌め込む前に接合部材52の一部が逃げ溝43に過度に流れ込むことを抑止でき、後述する微小振動体2の接合工程が安定する。また、接合部材52として板状部材を用いることで、ペースト材料を用いる場合に比べて、微小振動体2を実装基板3に接合した後の後述する真空封止において、接合部材52から生じるアウトガスの量を低減できる。接合部材52として板状部材を用いる場合には、例えば、Au80%Sn20%の組成で構成され、厚み50μm~200μm程度の板状の成形はんだを用いることができる。接合部材52の厚みについては、内周枠511の厚み以下であればよく、上記の例に限られず、適宜変更されうる。
【0055】
そして、例えば、実装基板3を図示しないマウンタ装置の吸着面に載置し、真空吸着により実装基板3を固定する。なお、この図示しないマウンタ装置は、吸着面を加熱可能な加熱機構を備えた構成となっている。
【0056】
続いて、例えば
図11Cに示すように、微小振動体2のうち凹部22の吸着面22aにピックアップ機構300の一部を挿入し、真空吸着により微小振動体2を把持する。ピックアップ機構300は、例えば、台座部301と、略円筒形状のコレット302とを備え、台座部301が図示しない搬送部および真空機構に接続されており、コレット302による真空吸着と、吸着した物体の搬送とが可能な構成となっている。ピックアップ機構300は、例えば、コレット302の最大径が凹部22の内径よりも小さくされ、コレット302の先端部の外径が他の部分よりも小さくなっている。また、ピックアップ機構300は、コレット302の長さが微小振動体2の凹部22の深さよりも大きくなっており、コレット302を微小振動体2の凹部22に挿入した際に、コレット302が微小振動体2の吸着面22a以外に当接しない構成となっている。これにより、微小振動体2を搬送する際に、微小振動体2の導電層23や基材に傷が生じることが抑止される。
【0057】
一方、図示しないマウンタ装置により実装基板3を吸着した状態で加熱し、接合部材52を溶融もしくは軟化させておく。これにより、接合部材52は、例えば
図11Cに示すように、一部が逃げ溝43に入り込みつつ、残部が内周枠511の内側領域に残った状態となる。
【0058】
なお、ここでは、微小振動体2を内周枠511に嵌め込む前に、実装基板3を加熱する例について説明したが、これに限定されるものではなく、微小振動体2を内周枠511に嵌め込んだ後に実装基板3を加熱しても構わない。
【0059】
そして、例えば
図11Dに示すように、上記のピックアップ機構300を用いて、微小振動体2の吸着面22aを真空吸着により把持しつつ、微小振動体2を実装基板3のうち環状の内周枠511に嵌め込んで内側領域に挿入する。これにより、実装基板3に対する微小振動体2の位置決めが簡便かつ高精度になされると共に、その後の面内方向、すなわちxy平面上における微小振動体2の位置ズレが抑制される効果が得られる。続けて、微小振動体2を実装基板3側に近づけていき、微小振動体2の実装面22bを接合部材52に接触させる。
【0060】
微小振動体2の実装基板3に対する位置合わせについては、例えば、微小振動体2および実装基板3を撮像し、公知の画像処理技術によりエッジ検出により特徴点を抽出することで、相対位置を調整するといった方法で行うことができる。
【0061】
また、内周枠511は、前述したように、微小振動体2の凹部22の外径に対して所定のクリアランスが生じる内径寸法とされている。そのため、画像処理技術による微小振動体2と実装基板3との相対位置調整に加え、内周枠511への微小振動体2の嵌め込みにより、簡便に、実装基板3に対する微小振動体2の位置合わせ精度を確保することが可能となっている。
【0062】
その後、ピックアップ機構300により微小振動体2を実装基板3側に押し込み、実装面22bで溶融した接合部材52を押圧する。このとき、例えば
図11Eに示すように、溶融した接合部材52の余剰部分は、逃げ溝43に押し出され、逃げ溝43を通じて内側領域から外側領域に流れ込む。これにより、微小振動体2の実装面22bと下部基板4のうち実装面22bと向き合う搭載面との間に必要以上の接合部材52が介在しないため、これらの面同士の距離が所定以下となり、微小振動体2が実装基板3に対して傾くことを抑制できる。
【0063】
その後、図示しないマウンタ装置等の吸着面の温度を下げ、溶融した接合部材52を固化させることで微小振動体2と実装基板3とを接合する。そして、例えば
図11Fに示すように、コレット302の内部を常圧に戻して微小振動体2の真空吸着を解除し、ピックアップ機構300を退避させ、コレット302を微小振動体2の凹部22から抜き出す。
【0064】
続いて、図示しないマウンタ装置等による吸着を解除し、微小振動体2が接合された実装基板3を吸着面から取り外す。そして、実装基板3を図示しない回路基板等に搭載し、実装基板3の電極膜531、541にワイヤボンディングをし、回路基板等と実装基板3の電極部53および外枠部54とを電気的に接続し、真空気密封止を行うことで慣性センサ1を製造することができる。
【0065】
以上が、本実施形態の慣性センサ1の基本的な製造方法である。
【0066】
〔実装基板の逃げ溝〕
逃げ溝43による微小振動体2の傾き抑制効果について、例えば
図12Aに示す比較例の実装基板6に微小振動体2を接合する場合と対比して説明する。
【0067】
比較例の実装基板6は、下部基板4に上部基板5が接合されてなり、上部基板5には1つの環状枠体で構成された実装部61が形成されている。比較例の実装基板6は、実装部61で囲まれた領域に接合部材52が配置され、微小振動体2の凹部22が接合部材52を介して接合される。実装部61は、その内径が微小振動体2の凹部22の外径に対して大きく、微小振動体2が挿入されたとき、例えば数十μmのクリアランスが生じ、微小振動体2とは当接しない寸法となっている。そして、比較例の実装基板6は、逃げ溝43が形成されていない。
【0068】
比較例の実装基板6に微小振動体2を接合する場合、微小振動体2は、例えば
図12Bに示すように、実装基板6に対して傾くおそれがある。これは、比較例の実装基板6では、接合部材52のすべてが環状の実装部61内に留まることで、下部基板4と微小振動体2との間に必要以上の接合部材52が介在し、微小振動体2の実装面22bと下部基板4の搭載面との距離が大きくなるためである。この場合、接合部材52が固化するまでの間に、微小振動体2が接合部材52上で泳ぐような状態となり、比較例の実装基板6に対して傾き得る。
【0069】
これに対して、本実施形態に係る実装基板3は、下部基板4のうち実装部51の内側領域に逃げ溝43が設けられており、溶融した接合部材52の余剰部分が外側領域に誘導される構成となっている。その結果、微小振動体2を接合する際に、微小振動体2の実装面22bと下部基板4の搭載面との間に必要以上の接合部材52が介在することが抑制され、これらの面同士の距離が小さくなる。そのため、微小振動体2は、溶融した接合部材52が再び固化するまでの間に、接合部材52上で泳ぐこと、すなわち、実装基板3に対して傾くことが抑制される。
【0070】
〔微小振動体の把持、実装基板の内周枠〕
上記の製造方法における微小振動体2の把持方法および実装基板3の内周枠511の効果について説明する。
【0071】
BRG構造の慣性センサ1を製造する場合、微小振動体2のリム211と複数の電極部53とのそれぞれの間隔を同じとし、1つの電極部53と対向する微小振動体2とで構成されるキャパシタにおける初期の静電容量を一定にする必要がある。これは、電極部53ごとに微小振動体2とのギャップが異なると、外力が慣性センサ1に印加されたときの微小振動体2の変位に伴う上記キャパシタにおける静電容量の変化が電極部53ごとに異なることとなり、センサ精度が低下するためである。そのため、微小振動体2を実装基板3に搭載するとき、その位置決めについては所定以上の高い精度が求められる。
【0072】
このような高精度が求められる位置決め実装としては、画像処理を利用してエッジ検出を行い、各部材の特徴点を抽出する方法が挙げられる。具体的には、微小振動体2および実装基板3を撮像した後、公知の画像処理により微小振動体2や実装基板3のエッジを検出して特徴点を抽出し、その位置関係を推定し、位置合わせをしつつ、微小振動体2を実装基板3に搭載することが想定される。
【0073】
しかし、三次元曲面形状の微小振動体2の曲面部21やリム211を把持すると、把持機構により微小振動体2の一部が隠れてしまい、エッジ検出による微小振動体2の特徴点の抽出が難しくなる。そのため、画像処理だけを利用した微小振動体2の実装方法は、工程が煩雑となり、位置ズレによって微小振動体2やその電極膜に傷が付いたり、製造コストが増大したりするおそれがある。
【0074】
そこで、本発明者らは、微小振動体2のうち凹部22にコレット302を挿入し、吸着面22aへの真空吸着により微小振動体2を把持する方法を考案した。これによれば、把持機構により微小振動体2の外郭が隠される領域が減少し、画像処理における微小振動体2の特徴点抽出が容易となると共に、微小振動体2に傷が生じることを抑制できる。
【0075】
また、本発明者らは、実装基板3の実装部51を環状の内周枠511とこれを囲む外周枠512とにより構成し、内周枠511の内径を微小振動体2の凹部22の外径に対応させ、微小振動体2を内周枠511に嵌め込む方法を考案した。これによれば、画像処理により微小振動体2と実装基板3との相対位置を大まかに調整しておけば、微小振動体2を実装基板3の内周枠511に嵌め込むことが容易となる。また、微小振動体2を内周枠511に嵌め込むことで実装基板3に対する位置合わせがなされるため、簡便に、所定以上の精度での位置決めが可能となる。
【0076】
本実施形態によれば、実装部51が内周枠511と外周枠512とによりなり、内側領域と外側領域とが逃げ溝43で連通した構成の実装基板3に、微小振動体2が搭載された構造の慣性センサ1となっている。内周枠511に微小振動体2を嵌め込まれるため、微小振動体2の位置決めが簡便かつ高精度となると共に、実装基板3の逃げ溝43により微小振動体2の傾きが抑制されるため、信頼性が高く、高感度な慣性センサ1となる。
【0077】
(第2実施形態)
第2実施形態の慣性センサ1について、
図13~
図16を参照して説明する。
【0078】
本実施形態の慣性センサ1は、例えば
図13に示すように、実装基板3が逃げ溝43の代わりに、内周枠511の上端に形成された上端溝55を有する点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0079】
実装基板3は、本実施形態では、例えば
図14に示すように、接合部材52の余剰部分を内側領域から外側領域に逃がす上端溝55が、内周枠511のうち上面511aに形成されている。なお、内周枠511の上面511aとは、
図15に示すように、内周枠511のうち下部基板4と向き合う面を下面511bとして、下面511bの反対面であり、内周枠511の上端に位置する。実装基板3は、例えば、内周枠511に複数の上端溝55を有し、上面視にて、複数の上端溝55が対称配置された構成となっている。
【0080】
上端溝55は、例えば、DRIE等のトレンチエッチングにより、上部基板5を内周枠511、外周枠512、電極部53および外枠部54に分離する工程において形成される。具体的には、例えば上部基板5のトレンチエッチングにおいて、エッチング開始当初には上部基板5のうち分離する領域を露出させつつ、上端溝55に相当する領域を覆うマスクを用いる。そして、エッチングの途中で上部基板5のうち分離する領域および上端溝55に相当する領域を露出させた別のマスクに切り替え、下部基板4の一部が上部基板5から露出するまでエッチングを行う。上端溝55は、例えば、上記のような工程で形成されるが、上部基板5の分離工程とは別の工程でエッチングを行うことで形成されてもよい。なお、上端溝55の数、配置、寸法等については、適宜変更されうる。上端溝55は、上記第1実施形態における逃げ溝43に相当し、逃げ溝43と同様の役割を果たす。
【0081】
内周枠511は、上端溝55が形成された部分については、例えば
図14に示すように外周枠512よりも高さが小さく、その他の部分については、例えば
図15に示すように外周枠512と同じ高さとなっている。
【0082】
本実施形態の慣性センサ1は、下部基板4の逃げ溝43の代わりに、内周枠511の上端溝55を有する実装基板3を用意することを除き、上記第1実施形態と同様の工程により製造される。この実装基板3に微小振動体2を接合すると、接合部材52の余剰部分は、例えば
図16に示すように、実装基板3の上側に這い上がって上端溝55の高さにまで押し出され、上端溝55を通じて、内側領域から外側領域に流入する。これにより、微小振動体2の実装面22bと実装基板3の搭載面との間に必要以上の接合部材52が介在することが抑制され、これらの面同士の距離が小さくなる。その結果、微小振動体2が実装基板3に対して傾くことが抑制され、信頼性が高く、高感度な慣性センサ1を製造することができる。
【0083】
本実施形態によれば、内周枠511に設けられた上端溝55が接合部材52の余剰部分を内側領域から外側領域に逃がす逃げ溝として機能する構成の実装基板3を用いた慣性センサ1となる。これにより、上記第1実施形態と同様に、実装基板3に対する微小振動体2の簡便な位置決めおよび傾き抑制を両立することが可能となり、信頼性が高く、高感度な慣性センサ1が得られる。
【0084】
(第3実施形態)
第3実施形態の慣性センサ1について、
図17~
図19を参照して説明する。
【0085】
図17では、内周枠511の構成を分かり易くするため、内周枠511のうち後述する下端溝56に隣接する別断面の外郭を破線で示している。
【0086】
本実施形態の慣性センサ1は、例えば
図17および
図18に示すように、実装基板3が逃げ溝43の代わりに、内周枠511の下端に形成された下端溝56を有する点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0087】
実装基板3は、本実施形態では、例えば
図18に示すように、内周枠511が複数の下端溝56を有し、下部基板4に逃げ溝43が形成されていない構成となっている。
【0088】
下端溝56は、例えば、
図18に示すように、内周枠511の下端側において平面方向、すなわちxy平面に属する方向に沿って設けられ、下部基板4の内側領域と外側領域とを連通する貫通孔である。下端溝56は、本実施形態では、微小振動体2の接合時において、上記第1実施形態の逃げ溝43と同様に、接合部材52の余剰部分が押し出される溝であって、当該余剰部分を内側領域から外側領域に逃がす役割を果たす。下端溝56は、例えば、後に上部基板5となるSi基板のうち下部基板4との接合面にDRIEによって溝を形成しておき、下部基板4とSi基板との接合後に、内周枠511を形成する工程において当該溝を内周枠511の側面に連通させることで形成される。下端溝56の数、配置や寸法等については、図示された例に限定されるものではなく、適宜変更されうる。
【0089】
つまり、実装基板3は、例えば
図19に示すように、微小振動体2が接合される際に、接合部材52の余剰部分が下端溝56を通じて内側領域から外側領域に流れ、微小振動体2の実装面22bと下部基板4の実装面との隙間が小さくなる構成である。この実装基板3を用いた慣性センサ1は、内周枠511への嵌め込みにより、簡便かつ高精度に微小振動体2の位置決めがされつつも、微小振動体2の傾きを抑制された構造となる。
【0090】
本実施形態によれば、微小振動体2の搭載時に、内周枠511に設けられた下端溝56により接合部材52の余剰部分を内側領域から外側領域に逃がすことが可能な構成の実装基板3を用いた慣性センサ1となる。これにより、上記第1実施形態と同様に、実装基板3に対する微小振動体2の簡便かつ高精度な位置決めがなされ、微小振動体2の傾きが抑制されるため、信頼性が高く、高感度な慣性センサ1が得られる。
【0091】
(第3実施形態の変形例)
実装基板3は、例えば
図20や
図21に示すように、内周枠511が下端溝56に加えて、下端溝56に連通する複数のサイド溝57を有する構成であってもよい。
【0092】
サイド溝57は、例えば、内周枠511の上面511aと下面511bとを繋ぐ高さ方向、すなわち
図21に示すz方向に沿って設けられた有底溝である。サイド溝57は、例えば、下端溝56と同じ数だけ内周枠511に設けられ、一端が下端溝56のうち外周枠512側の開口部に繋がるように延設されている。サイド溝57は、例えば
図22に示すように、微小振動体2を実装基板3に接合する際に、下端溝56を通じて外側領域に流れ出た接合部材52の余剰部分の一部を、内周枠511の上端側に誘導する役割を果たす。つまり、サイド溝57は、接合部材52の余剰部分が意図しない領域に流出することを抑制するために形成される。
【0093】
サイド溝57は、例えば、Si基板(後の上部基板5)と下部基板4とを接合した後、DRIEによりSi基板を内周枠511、外周枠512、電極部53および外枠部54の各領域に分離するエッチング工程において同時に形成される。サイド溝57は、例えば
図20に示すように、上面視にて、略U字形状とされるが、下端溝56から外側領域に流れ出た溶融状態の接合部材52の余剰部分を誘導できる形状であればよく、略V字形状や他の形状であってもよい。サイド溝57の数や配置等については、下端溝56の数や配置等に応じて適宜変更されうる。
【0094】
また、実装基板3が内周枠511にサイド溝57を備えることで、例えば
図22に示すように、内側領域から外側領域に流れ出た接合部材52の余剰部分が外周枠512に到達することが抑制される。そのため、実装基板3は、サイド溝57が設けられる場合には、外周枠512が上面視にて切れ目のある枠体形状とされてもよい。
【0095】
本変形例によっても、上記第3実施形態と同様の効果が得られる慣性センサ1となる。また、下端溝56に連通するサイド溝57により、接合部材52の余剰部分が内周枠511の上端に誘導されるため、意図しない領域に接合部材52が流れ出ることを抑制する効果も得られる。
【0096】
(第4実施形態)
第4実施形態の慣性センサ1について、
図23~
図25を参照して説明する。
【0097】
本実施形態の慣性センサ1は、例えば
図23に示すように、実装基板3の逃げ溝43が内周枠511の内側領域にのみ形成された内溝となっている点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0098】
実装基板3の逃げ溝43は、本実施形態では、例えば
図24に示すように、内側領域にのみ設けられた内溝である。逃げ溝43は、本実施形態では、例えば
図25に示すように、微小振動体2の接合時において、接合部材52の余剰部分を外側領域ではなく、z方向下側に逃がし、微小振動体2の傾きを抑制する。また、逃げ溝43は、下部基板4の内側領域における微小振動体2との接合に寄与する部位、すなわちマウント部を明確にする溝としても機能し、微小振動体2とマウント部との接合を安定化させる役割も果たす。なお、ここでいうマウント部とは、
図23に示す例では、下部基板4の内側領域のうち環状の逃げ溝43に囲まれた領域となるが、この例に限定されるものではない。
【0099】
なお、逃げ溝43は、上面視にて、例えば環状とされるが、微小振動体2と下部基板4との接合領域を確保しつつ、接合部材52の余剰部分を逃がすことができればよく、形状、数や配置等について適宜変更され得る。例えば、逃げ溝43は、上面視にて、環状以外の枠体状の溝であってもよく、内周枠511の形状等に応じて適宜その形状が変更されうる。
【0100】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる慣性センサ1が得られる。
(第5実施形態)
第5実施形態の慣性センサ1について、
図26~
図28を参照して説明する。
【0101】
本実施形態の慣性センサ1は、例えば
図26に示すように、実装基板3の逃げ溝43が内側領域に設けられた環状の内溝431と、内溝431から外側領域に向かって延設された複数の連通溝432とによりなる点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0102】
実装基板3は、本実施形態では、下部基板4に逃げ溝43が形成されている。逃げ溝43は、内側領域にのみ設けられた環状の内溝431と、一端が内溝431に、他端が外側領域にそれぞれ連通する複数の連通溝432とにより構成されている。
【0103】
内溝431は、本実施形態では、例えば
図27に示すように、内側領域にのみ形成された溝である。内溝431は、例えば、上面視にて、複数の連通溝432を繋ぐ円環形状の溝となっている。内溝431は、微小振動体2の接合時において、溶融した接合部材52の余剰部分の一部を逃がす溝として機能すると共に、内側領域におけるマウント部を明確にする役割も果たす。
【0104】
複数の連通溝432は、例えば
図26に示すように、上面視にて、対称配置されている。連通溝432は、例えば
図28に示すように、下部基板4において内側領域と外側領域とを連通しており、微小振動体2の接合時において、溶融した接合部材52の余剰部分を内側領域から外側領域に逃がす役割を果たす。連通溝432の数や配置等については、
図26に示す例に限定されるものではなく、適宜変更されうる。
【0105】
本実施形態によれば、実装基板3の下部基板4に設けられた逃げ溝43により、微小振動体2の接合時における接合部材52の余剰部分を外側領域および内溝431内に逃がす構成の慣性センサ1となっている。そのため、上記第1実施形態および上記第4実施形態と同様の効果が得られる。
【0106】
(他の実施形態)
本発明は、実施例に準拠して記述されたが、本発明は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範疇や思想範囲に入るものである。
【0107】
例えば、実装基板3は、上記第1実施形態の逃げ溝43と、上記第3実施形態のサイド溝57とを備える構成であってもよい。この場合、実装基板3は、例えば、上面視にて、内周枠511の外側領域側の壁面のうち、下部基板4の逃げ溝43上に位置する部位にサイド溝57が設けられた構成とされ得る。このように、慣性センサ1を構成する実装基板3は、可能な範囲内で、上記各実施形態の構成要素を自由に組み合わせた構成であってもよい。
【符号の説明】
【0108】
1・・・慣性センサ、2・・・微小振動体、21・・・曲面部、22・・・凹部、
3・・・実装基板、4・・・下部基板、43・・・逃げ溝、5・・・上部基板、
511・・・内周枠、511a・・・上面、511b・・・下面、512・・・外周枠、
52・・・接合部材、53・・・電極部、55・・・上端溝、56・・・下端溝、
57・・・サイド溝