(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】希土類磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20240806BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240806BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240806BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
B22F3/00 F
B22F3/24 K
B22F3/24 L
(21)【出願番号】P 2021042183
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 紀次
(72)【発明者】
【氏名】庄司 哲也
(72)【発明者】
【氏名】木下 昭人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-234971(JP,A)
【文献】特開2020-120101(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148145(WO,A1)
【文献】特開2020-095990(JP,A)
【文献】特開2018-110208(JP,A)
【文献】特開2011-211068(JP,A)
【文献】特開2020-136343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、41/02
B22F 3/00、3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル比でR
1
2T
14
Bで表される組成を有している主相、及び
前記主相の周囲に存在している粒界相を備えており、
前記R
1
が、Y及び希土類元素からなる元素群のうち、Ce、La、Nd、及びTbを必須として、合計四種以上を含み、
前記Tが、遷移元素からなる元素群のうち、Fe及びCoを必須として、合計二種以上を含み、
前記主相は、コア部、及びコア部の周囲に存在しているシェル部を有しており、
前記コア部において、前記コア部全体のR
1
を基準として、Y、Sc、及びCeの合計のモル比が0.10未満であり、かつ、Laのモル比が0.01~0.20であり、
前記コア部において、前記コア部全体のTを基準として、Coのモル比が0.10~0.40であり、
前記シェル部における
Tbのモル比が、前記コア部における
Tbのモル比よりも高くなっており、かつ、
前記シェル部の4fサイトを占有する
Tb及びCeそれぞれの存在割合を
Tb
4f及びCe
4f、前記シェル部の4gサイトを占有する
Tb及びCeそれぞれの存在割合を、
Tb
4g及びCe
4gとしたとき、下記の関係を満足している、希土類磁石:
0.50≦
Tb
4g/(
Tb
4f+
Tb
4g)≦
0.60及び
0.04≦(Ce
4f+Ce
4g)/(
Tb
4f+
Tb
4g)。
【請求項2】
請求項1に記載の希土類磁石の製造方法であって、
モル比でR
1
2T
14
Bで表される組成を有する主相、及び前記主相の周囲に存在する粒界相を備える希土類磁石前駆体を準備すること、並びに、
Tb及びCeを少なくとも含有する改質材を、前記希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透すること、
を含
み、
前記希土類磁石前駆体において、
前記R
1
が、Y及び希土類元素からなる元素群のうち、La及びNdを必須として、合計二種以上を含み、
前記Tが、遷移元素からなる元素群のうち、Fe及びCoを必須として、合計二種以上を含み、
前記R
1
を基準として、Y、Sc、及びCeの合計のモル比が0.10未満であり、かつ、Laのモル比が0.01~0.20であり、かつ、
前記Tを基準として、Coのモル比が0.10~0.40であり、かつ、
前記改質材において、
Tb及びCeの合計のモル比が0.60~0.90であり、残部がCu及び不可避的不純物である、
希土類磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、希土類磁石及びその製造方法に関する。本開示は、特に、保磁力に優れるR1-T-B系希土類磁石及びその製造方法に関する。ただし、R1は、Y及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の元素であり、Tは、Fe、Co、及びNiからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素である。
【背景技術】
【0002】
R1-T-B系希土類磁石は、R1
2T14Bで表される組成を有する主相を備えている。この主相により、R1-T-B系希土類磁石は磁気を発現する。
【0003】
R1-T-B系希土類磁石の代表は、R1としてNdを選択したNd-T-B系希土類磁石である。しかし、近年では、要求される機能(特性)に応じて、R1として、複数種類の希土類元素を選択する試みがなされている。また、R1として、複数種類の希土類元素を選択するに際し、主相中の希土類元素の配置を、希土類磁石の種類ごとに変化させる試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、主相中の4fサイト及び4gサイトを占有するCeの存在割合を、それぞれCe4f及びCe4gとしたとき、0.8≦Ce4f/(Ce4f+Ce4g)≦1.0の関係を満足する、R1-T-B系希土類磁石が開示されている。そして、特許文献1には、このような関係を満足する希土類磁石が、モータの回転子に貼り付けられ、モータが回転して希土類磁石に遠心力が作用しても、希土類磁石が回転子から剥離し難く、密着性が高いことが開示されている。なお、主相中の4fサイト及び4gサイトについては、非特許文献1を参照することができる。
【0005】
また、R1-T-B系希土類磁石において、R1として、複数種類の希土類元素を選択する方法として、例えば、Nd-T-B系希土類磁石を前駆体として、その前駆体に重希土類元素を拡散浸透することが、従来から行われてきた。これにより、高価な重希土類元素の使用量が比較的少量であっても、保磁力が向上することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】K. Saito et al., “Quantitative evaluation of site preference in Dy-substituted Nd2Fe14B”, Journal of Alloys and Compounds, Volume 721, 15 October 2017, Pages 476-481.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
希土類磁石前駆体に、重希土類元素を拡散浸透すると、上述したように、保磁力が向上する。しかし、重希土類元素は高価であり、また、今後、重希土類元素の価格が、一層高騰することも予想される。そのため、保磁力の向上を維持しつつ、重希土類元素の使用量を一層低減することが望まれている、という課題を本発明者らは見出した。
【0009】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。本開示は、保磁力の向上を維持しつつ、重希土類元素の使用量を一層低減した希土類磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、本開示の希土類磁石及びその製造方法を完成させた。本開示の希土類磁石及びその製造方法は、次の態様を含む。
〈1〉モル比でR1
2T14B(R1は、Y及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の元素、Tは、Fe、Co、及びNiからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素)で表される組成を有している主相、及び
前記主相の周囲に存在している粒界相を備えており、
前記主相は、コア部、及びコア部の周囲に存在しているシェル部を有しており、
前記シェル部におけるR2(R2は、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選ばれる一種以上の元素)のモル比が、前記コア部におけるR2のモル比よりも高くなっており、かつ、
前記シェル部の4fサイトを占有するR2及びCeそれぞれの存在割合をR2
4f及びCe4f、前記シェル部の4gサイトを占有するR2及びCeそれぞれの存在割合を、R2
4g及びCe4gとしたとき、下記の関係を満足している、希土類磁石:
0.44≦R2
4g/(R2
4f+R2
4g)≦0.70及び
0.04≦(Ce4f+Ce4g)/(R2
4f+R2
4g)。
〈2〉前記R1が、Ce、Nd、及びR2を必須とする一種以上のY及び希土類元素であり、
前記Tが、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素であり、
前記コア部において、前記コア部全体のR1を基準として、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比が0.10未満であり、
前記コア部において、前記コア部全体のTを基準として、Coのモル比が0.10未満であり、かつ、
下記の関係を満足する、〈1〉項に記載の希土類磁石:
0.47≦R2
4g/(R2
4f+R2
4g)≦0.54。
〈3〉前記R1が、Ce、La、Nd、及びR2を必須とする一種以上のY及び希土類元素であり、
前記Tが、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素であり、
前記コア部において、前記コア部全体のR1を基準として、Y、Sc、及びCeの合計のモル比が0.10未満であり、かつ、Laのモル比が0.01~0.20であり、
前記コア部において、前記コア部全体のTを基準として、Coのモル比が0.10~0.40であり、かつ、
下記の関係を満足している、〈1〉項に記載の希土類磁石:
0.50≦R2
4g/(R2
4f+R2
4g)≦0.60。
〈4〉前記R1が、Ce、Nd、及びR2を必須とする一種以上のY及び希土類元素であり、
前記Tが、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素であり、
前記コア部において、前記コア部全体のR1を基準として、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比が0.10~0.90であり、
前記コア部において、前記コア部全体のTを基準として、Coのモル比が0.40以下であり、かつ、
下記の関係を満足している、〈1〉項に記載の希土類磁石:
0.44≦R2
4g/(R2
4f+R2
4g)≦0.51。
〈5〉前記コア部と前記シェル部の間に副シェル部を有しており、かつ、
前記副シェル部におけるR4(R4は、Pr、Nd、Pm、Sm、及びEuからなる群より選ばれる一種以上の元素)のモル比が、前記コア部におけるR4のモル比よりも高くなっている、
〈1〉~〈4〉項のいずれか一項に記載の希土類磁石。
〈6〉〈1〉項に記載の希土類磁石の製造方法であって、
モル比でR1
2T14B(R1は、Y及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の元素、Tは、Fe、Co、及びNiからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素)で表される組成を有する主相、及び前記主相の周囲に存在する粒界相を備える希土類磁石前駆体を準備すること、並びに、
R2及びCeを少なくとも含有する改質材を、前記希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透すること、
を含む、希土類磁石の製造方法。
〈7〉前記希土類磁石前駆体において、
前記R1が、Ndを必須とする一種以上のY及び希土類元素であり、
前記Tが、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素であり、
前記R1を基準として、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比が0.10未満であり、かつ、
前記Tを基準として、Coのモル比が0.10未満である、
〈6〉項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈8〉前記希土類磁石前駆体において、
前記R1が、La及びNdを必須とする一種以上のY及び希土類元素であり、
前記Tが、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素であり、
前記R1を基準として、Y、Sc、及びCeの合計のモル比が0.10未満であり、かつ、Laのモル比が0.01~0.20であり、かつ、
前記Tを基準として、Coのモル比が0.10~0.40である、
〈6〉項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈9〉前記希土類磁石前駆体において、
前記R1が、Ce及びNdを必須とする一種以上のY及び希土類元素であり、
前記Tが、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素であり、
前記R1を基準として、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比が0.10~0.90であり、かつ、
前記Tを基準として、Coのモル比が0.40以下である、
〈6〉項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈10〉前記希土類磁石前駆体の内部に前記改質材を拡散浸透する前に、前記希土類磁石前駆体の内部に予備改質材を拡散浸透すること、
をさらに含み、
前記予備改質材が、R4(R4は、Pr、Nd、Pm、Sm、及びEuからなる群より選ばれる一種以上の元素)を少なくとも含有する、
〈6〉~〈9〉項のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、Ceの多くが主相中の4fサイトに占有することによって、保磁力の向上に寄与する重希土類元素の多くが、主相中で保磁力の向上に寄与する4gサイトに占有し易くすることができる。これにより、希土類元素中の重希土類元素の含有割合から予測されるよりも高い保磁力を得ることができる。そして、このような希土類磁石は、希土類磁石前駆体に、重希土類元素及びCeの両方を含有する改質材を拡散浸透することによって得られる。これらのことから、本開示によれば、保磁力の向上を維持しつつ、重希土類元素の使用量を一層低減した希土類磁石及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の希土類磁石の組織の一例を模式的に示す説明図である。
【
図2A】
図2Aは、希土類磁石前駆体に、改質材を接触させた状態の一例を模式的に示す説明図である。
【
図2B】
図2Bは、改質材が希土類磁石前駆体の粒界相に拡散浸透した状態の一例を模式的に示す説明図である。
【
図2C】
図2Cは、主相にコア/シェル構造が形成された状態の一例を模式的に示す説明図である。
【
図3】
図3は、主相の結晶構造を模式的に示す説明図である。
【
図4】
図4は、各希土類元素のイオン半径を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本開示の希土類磁石が副シェル部を有している態様の組織の一例を模式的に示す説明図である。
【
図6A】
図6Aは、希土類磁石前駆体に、予備改質材を接触させた状態の一例を模式的に示す説明図である。
【
図6B】
図6Bは、予備改質材が希土類磁石前駆体の粒界相に拡散浸透した状態の一例を模式的に示す説明図である。
【
図6C】
図6Cは、主相に副シェルが形成された状態の一例を模式的に示す説明図である。
【
図6D】
図6Dは、副シェルが形成された主相を備える希土類磁石前駆体に改質材を接触させた状態の一例を模式的に示す説明図である。
【
図6E】
図6Eは、改質材が、主相に副シェルが形成された希土類磁石前駆体の粒界相に拡散浸透した状態の一例を模式的に示す説明図である。
【
図6F】
図6Fは、主相にコア/副シェル/シェル構造が形成された状態の一例を模式的に示す説明図である。
【
図7】
図7は、表1の試料について、改質材のCeのモル比と保磁力の関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、表2の試料について、改質材のCeのモル比と保磁力の関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、表3の試料について、改質材のCeのモル比と保磁力の関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、表1の試料について、R
2
4g/(R
2
4f+R
2
4g)と保磁力の関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、表2の試料について、R
2
4g/(R
2
4f+R
2
4g)と保磁力の関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、表3の試料について、R
2
4g/(R
2
4f+R
2
4g)と保磁力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の希土類磁石及びその製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本開示の希土類磁石及びその製造方法を限定するものではない。
【0014】
理論に拘束されないが、本開示の希土類磁石が、重希土類元素の含有割合から予測されるよりも高い保磁力を有している理由について図面を用いて説明する。また、理論に拘束されないが、本開示の希土類磁石が、重希土類元素及びCeの両方を含有する改質材を拡散浸透することによって得られる理由を、図面を用いて、併せて説明する。
【0015】
図1は、本開示の希土類磁石100の組織の一例を模式的に示した説明図である。本開示の希土類磁石100は、主相10及び粒界相20を備えている。粒界相20は主相10の周囲に存在している。また、主相10は、コア部12及びシェル部14を有している。シェル部14は、コア部12の周囲に存在している。
【0016】
図1に示したように、本開示の希土類磁石100の主相10は、コア/シェル構造を有している。このコア/シェル構造は、希土類磁石前駆体50に改質材60を拡散浸透することによって得られる。これについて、図面を用いて説明する。
【0017】
図2Aは、希土類磁石前駆体50に、改質材60を接触させた状態の一例を模式的に示す説明図である。
図2Bは、改質材60が希土類磁石前駆体50の粒界相20に拡散浸透した状態の一例を模式的に示す説明図である。
図2Cは、主相にコア/シェル構造が形成された状態の一例を模式的に示す説明図である。
【0018】
図2Aに示したように、希土類磁石前駆体50に改質材60が拡散浸透する前においては、主相10は単相である。単相とは、結晶構造及び組成が実質的に単一である相を意味する。
図2Aに示したように、希土類磁石前駆体50に改質材60を接触した状態で加熱すると、
図2Bに示したように、改質材60が粒界相20に拡散浸透する。そして、
図2Cに示したように、粒界相20に拡散浸透した改質材60が、さらに、主相10の外周部に拡散浸透し、コア部12及びシェル部14が形成される。単相の主相10にコア/シェル構造が形成される際、単相の主相10の外周部に存在する希土類元素の一部と、粒界相20に拡散浸透した改質材60の希土類元素の一部が入れ替わり、シェル部14が形成される。一方、コア部12は、単相の主相10と同じ組成を維持する。このようにして得られた本開示の希土類磁石100の主相10は、
図1に示したように、コア/シェル構造を有する。
【0019】
次に、主相10の結晶構造について説明する。
【0020】
図3は、主相10の結晶構造を模式的に示す説明図である。
図3の出典は、非特許文献1である。
図4は、各希土類元素のイオン半径を示すグラフである。
【0021】
図3に示すように、主相10においては、コア部12及びシェル部14のいずれにおいても、R
1、T、及びBが、原子数比で、2:14:1の割合で存在し、概ね正方晶構造を有している。R
1は、正方晶の内部の4fサイトと、正方晶の外部に面している4gサイトに占有している。R
1のうち、イオン半径の小さい原子は4fサイトを占有し易く、イオン半径の大きい原子は4gサイトを占有し易い。
【0022】
4fサイトは主相の結晶構造全体の磁気異方性と概ね直交している。そのため、4fサイトを占有するR1は、異方性磁界の向上に殆ど寄与しない。一方、4gサイトは主相の結晶構造全体の磁気異方性と概ね平行である。そのため、4gサイトを占有するR1は、異方性磁界の向上に大きく寄与する。また、重希土類元素は、重希土類元素以外の希土類元素と比較して、異方性磁界の向上に寄与する。これらのことから、できるだけ多くの重希土類元素が、4gサイトを占有すると、異方性磁界の向上に一層寄与し、その結果、保磁力の向上に一層寄与する。
【0023】
また、コア部12においてよりもシェル部14において、重希土類元素が多いと、主相10全体の異方性磁界が高くなり、保磁力を向上することができる。これは、主相10の表面(シェル部14の表面)において、磁化反転の核生成、及び隣接する主相粒子の核成長を抑制できるためである。このことから、実質的に重希土類元素を含有しない希土類磁石前駆体50に、重希土類元素を含有する改質材60を拡散浸透させて、異方性磁化の向上への寄与が大きいシェル部14にだけ重希土類元素を存在することが、従来から行われてきた。そして、異方性磁化の向上への寄与が小さいコア部12には、高価な重希土類元素が存在することを回避していた。
【0024】
本開示の希土類磁石100では、コア部12において、高価な重希土類元素が存在することをできるだけ回避し、シェル部14において、重希土類元素の多くが存在するようにするだけではなく、シェル部14での重希土類元素の占有位置を特定する。すなわち、本開示の希土類磁石100では、シェル部14において、重希土類元素の多くが4gサイトを占有する。そして、シェル部14において、重希土類元素の多くが4gサイトを占有するように、重希土類元素とCeの両方を含有する改質材60を拡散浸透する。
【0025】
改質材60が、重希土類元素以外の希土類元素を含有すると、シェル部14への重希土類元素の拡散浸透量が相対的に減少し、異方性磁界が低下して、保磁力が低下すると、従来は考えられていた。特に、改質材60が、Ceのような軽希土類元素を含有すると、異方性磁界が低下して、保磁力が低下することが顕著であると、従来は考えられていた。しかし、理論に拘束されないが、重希土類元素とCeの両方を含有する改質材60を使用すると、次のような理由で、従来よりも保磁力が向上すると考えられる。
【0026】
主相10中の希土類元素は3価であることが多い。ただし、主相10中のCeは4価であることが知られている。そして、
図4に示したように、他の希土類元素イオンと比較して、Ceイオン(4価)は、そのイオン半径が小さい。上述したように、Y及び希土類元素(R
1)のうち、イオン半径の小さい原子は4fサイトを占有し易く、イオン半径の大きい原子は4gサイトを占有し易い。また、上述したように、希土類磁石前駆体50に改質材60を拡散浸透すると、単相の主相10の外周部に存在する希土類元素の一部と、粒界相20に拡散浸透した改質材60の希土類元素の一部が入れ替わり、シェル部14が形成される。この入れ替わりの際、改質材60が重希土類元素とCeの両方を含有すると、Ceが、優先的にシェル部14の4fサイトを占有する。これにより、重希土類元素が、シェル部14の4gサイトを占有し易くなる。これは、
図4に示したように、Ce(4価)のイオン半径は、重希土類元素のイオン半径よりも小さいためである。また、上述したように、4gサイトは、4fサイトと比較して、異方性磁界の向上への寄与が大きいため、重希土類元素の多くが4gサイトを占有すると、保磁力が向上する。
【0027】
Ceは、異方性磁界を非常に低下させる。しかし、Ceは、異方性磁界の向上に寄与する重希土類元素が4gサイトに占有することを助け、Ce自体は、異方性磁界の向上に殆ど影響しない4fサイトを占有する。これにより、重希土類元素が、異方性磁界の向上に殆ど影響しない4fサイトを占有することを回避する。その結果、高価な重希土類元素を使用しているにも拘わらず、それに見合った保磁力の向上が達成できない、という課題を解決することができる。
【0028】
これまで説明した知見に基づく、本開示の希土類磁石及びその製造方法の構成要件を次に説明する。
【0029】
《希土類磁石》
まず、本開示の希土類磁石の構成要件について説明する。
【0030】
図1に示したように、本開示の希土類磁石100は、主相10及び粒界相20を備えている。以下、主相10及び粒界相20それぞれについて説明する。
【0031】
〈主相〉
主相10は、コア部12及びシェル部14を有している。シェル部14は、コア部12の周囲に存在している。本開示の希土類磁石100は、主相10によって、磁気を発現する。主相10の粒径は、特に制限はない。主相10の平均粒径は、1.0μm以上、1.1μm以上、1.2μm以上、1.3μm以上、1.5μm以上、2.0μm以上、3.0μm以上、4.0μm以上、5.0μm以上、5.9μm以上、又は6.0μm以上であってよく、20μm以下、15μm以下、10μm以下、9.0μm以下、8.0μm以下、又は7.0μm以下であってよい。本開示の希土類磁石100は、重希土類元素とCeの両方を含有する改質材60を拡散浸透して得られる。改質材が重希土類元素を含有するため、拡散浸透温度は比較的高温になる。そのため、主相10が上述のような平均粒径を有していることによって、改質材の拡散浸透中に、主相10の粗大化を抑制し易い。なお、主相の「平均粒径」は、次のように測定される。走査型電子顕微鏡像又は透過型電子顕微鏡像で、磁化容易軸の垂直方向から観察した一定領域を規定し、この一定領域内に存在する主相に対して磁化容易軸と垂直方向に複数の線を引き、主相の粒子内で交わった点と点の距離から主相の径(長さ)を算出する(切断法)。主相の断面が円に近い場合は、投影面積円相当径で換算する。主相の断面が長方形に近い場合は、直方体近似で換算する。このようにして得られた径(長さ)の分布(粒度分布)のD50の値が、平均粒径である。
【0032】
主相10は、モル比で、R1
2T14Bで表される組成を有している。R1は、Y及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の元素である。Tは、Fe、Co、及びNiからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素である。Yはイットリウム、Feは鉄、Coはコバルト、そして、Niはニッケルである。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Tは、Fe、Co、及びNiからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、Tが、Fe、Co、及びNi以外の遷移元素を含み得ることを意味する。典型的には、Tのうち、Fe、Co、及びNiからなる群より選ばれる一種以上の元素の合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Fe、Co、及びNi以外の遷移元素としては、例えば、Ga、Al、及びCu等が挙げられる。これらの元素は、主として粒界相20に存在するが、その一部が、侵入型又は置換型で主相10に存在してもよい。
【0033】
本明細書において、特に断りがない限り、希土類元素は、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuの16元素である。このうち、特に断りがない限り、Sc、La、及びCeは、軽希土類元素である。また、特に断りがない限り、Pr、Nd、Pm、Sm、及びEuは、中希土類元素である。そして、特に断りがない限り、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuは、重希土類元素である。なお、一般に、重希土類元素の希少性は高く、軽希土類元素の希少性は低い。中希土類元素の希少性は、重希土類元素と軽希土類元素の間である。なお、Scはスカンジウム、Laはランタン、Ceはセリウム、Prはプラセオジム、Ndはネオジム、Pmはプロメチウム、Smはサマリウム、Euはユウロビウム、Gdはガドリニウム、Tbはテルビウム、Dyはジスプロシウム、Hoはホルミウム、Erはエルビウム、Tmはツリウム、Ybはイッテルビウム、そして、Luはルテニウムである。
【0034】
図3に示したように、主相10においては、コア部12及びシェル部14のいずれにおいても、R
1、T、及びBが、原子数比で、2:14:1の割合で存在し、概ね正方晶構造を有している。また、R
1は、正方晶の内部の4fサイトと、正方晶の外部に面している4gサイトに占有している。4fサイト及び4gサイトについては、後程、詳述する。
【0035】
上述したように、本開示の希土類磁石100は、希土類磁石前駆体50に、重希土類元素とCeの両方を含有する改質材60を拡散浸透して得られる。この拡散浸透により、コア部12及びシェル部14が得られる。そのため、コア部12は、希土類磁石前駆体50の主相10そのままの組成を有している。また、シェル部14は、希土類磁石前駆体50の主相10の外周部に存在する希土類元素の一部と、改質材60の希土類元素の一部が入れ替わっている。このことから、シェル部14における重希土類元素のモル比は、コア部12における重希土類元素のモル比よりも高くなっている。重希土類元素は、R2で表され、R2は、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選ばれる一種以上の元素である。したがって、本開示の希土類磁石100では、シェル部14におけるR2のモル比は、コア部12におけるR2のモル比よりも高くなっている。残留磁化を可能な限り低下させずに保磁力を向上させる観点からは、R2は、Tb及びDyからなる群より選ばれる一種以上の元素が好ましく、Tbがより好ましい。
【0036】
シェル部14におけるR2のモル比とコア部12におけるR2のモル比の差は、例えば、0.01以上、0.05以上、0.10以上、0.11以上、0.12以上、0.13以上、0.14以上、又は0.15以上であってよく、0.50以下、0.45以下、0.40以下、0.38以下、0.37以下、0.36以下、0.34以下、0.32以下、0.30以下、0.29以下、0.28以下、0.27以下、0.26以下、0.24以下、0.22以下、又は0.20以下であってよい。
【0037】
次に、コア部12及びシェル部14それぞれの詳細について説明する。なお、説明の都合上、シェル部14から説明する。
【0038】
〈シェル部〉
図3に示したように、R
1は、正方晶の内部の4fサイトと、正方晶の外部に面している4gサイトに占有している。R
1のうち、イオン半径の小さい原子は4fサイトを占有し易く、イオン半径の大きい原子は4gサイトを占有し易い。このことから、上述したように、
図4を参照すると、改質材60に由来するR
2及びCeに関し、イオン半径の小さいCeは4fを占有し易く、イオン半径の大きいR
2は4gサイトを占有し易い。この観点からは、R
2は、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群より選ばれる一種以上の元素であることが好ましい。
【0039】
シェル部14の4fサイトを占有するR2及びCeそれぞれの存在割合は、モル比に基づいて、それぞれR2
4f及びCe4fで表すことができる。また、シェル部14の4gサイトを占有するR2及びCeそれぞれの存在割合は、モル比に基づいて、それぞれR2
4g及びCe4gで表すことができる。このとき、本開示の希土類磁石100は、次の(1)及び(2)の関係を満足する。
0.44≦R2
4g/(R2
4f+R2
4g)≦0.70 ・・・(1)
0.04≦(Ce4f+Ce4g)/(R2
4f+R2
4g) ・・・(2)
【0040】
R2
4g/(R2
4f+R2
4g)が0.44以上であれば、シェル部14において、R2の多くが4gサイトを占有しており、主相10全体の異方性磁界が向上し、その結果、保磁力が向上する。この観点からは、R2
4g/(R2
4f+R2
4g)は、0.45以上、0.46以上、0.47以上、0.48以上、0.49以上、又は0.50以上であってもよい。R2
4g/(R2
4f+R2
4g)が0.70以下であれば、シェル部14において、R2の多くが4gサイトを占有するように、4fサイトを占有するCeが過剰に存在することはなく、その結果、R2の使用量に見合うだけの保磁力の向上を維持することができる。この観点からは、R2
4g/(R2
4f+R2
4g)は、0.65以下、0.64以下、0.63以下、0.62以下、0.61以下、0.60以下、0.59以下、0.58以下、0.57以下、0.56以下、0.55以下、0.54以下、0.53以下、0.52以下、又は0.51以下であってもよい。
【0041】
また、シェル部14において、R2が優先的に4gサイトを占有するには、R2に対して、一定量のCeが必要である。このことから、シェル部14において、(Ce4f+Ce4g)/(R2
4f+R2
4g)は0.04以上である必要がある。この観点からは、(Ce4f+Ce4g)/(R2
4f+R2
4g)は、0.06以上、0.11以上、0.13以上、0.15以上、0.20以上、0.25以上、0.27以上、又は0.30以上であってもよく、2.50以下、2.03以下、2.00以下、1.70以下、1.66以下、1.50以下、1.47以下、1.14以下、1.10以下、1.00以下、0.84以下、0.80以下、0.55以下、0.52以下、0.50以下、0.45以下、0.43以下、0.40以下、又は0.37以下であってもよい。
【0042】
〈コア部〉
上述したように、コア部12は、希土類磁石前駆体50の主相10そのままの組成を有している。そのため、コア部12の組成は、希土類磁石前駆体50の性質を表す。
【0043】
シェル部14においてよりもコア部12においてR2のモル比が高く、かつ、R2
4g/(R2
4f+R2
4g)及び(Ce4f+Ce4g)/(R2
4f+R2
4g)が上記(1)及び(2)の関係を満足すれば、コア部12の組成は、特に制限されない。これは、本開示の希土類磁石100の製造時に、希土類磁石前駆体50の組成が特に制限されないことを意味する。希土類磁石前駆体50については、「《製造方法》」で説明する。しかし、コア部12の組成を特定することによって、本開示の希土類磁石100(改質材60を拡散浸透した後の希土類磁石)の特定の磁気特性を向上させたり、磁気特性を維持しつつ、Y及び軽希土類元素の使用量を増加させてコスト低減を図ったりしてもよい。これらを、第一態様~第三態様の希土類磁石として説明する。
【0044】
〈第一態様〉
第一態様の希土類磁石は次のとおりである:
R1が、Ce、Nd、及びR2を必須とする一種以上のY及び希土類元素であり、
Tが、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素であり、
コア部において、コア部全体のR1を基準として、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比が0.1未満であり、
コア部において、コア部全体のTを基準として、Coのモル比が0.1未満であり、かつ、
0.47≦R2
4g/(R2
4f+R2
4g)≦0.54の関係を満足する。
【0045】
第一態様の希土類磁石は、主としてNdを含有し、Y及び軽希土類元素並びにCoの含有量が少ない希土類磁石前駆体を用いて得られる。第一態様の希土類磁石は、残留磁化と保磁力のバランスに優れる。
【0046】
第一態様の希土類磁石では、R1が、Ce、Nd、及びR2を必須とする一種以上のY及び希土類元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Ce、Nd、及びR2を必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、R1が、Ce、Nd、及びR2以外の元素を含み得ることを意味する。典型的には、R1のうち、Ce、Nd、及びR2の合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Ndは、主として、希土類磁石前駆体に由来し、Ce及びR2は、主として、改質材に由来する。Ndの一部又は全部が、Prで置換されていてもよい。
【0047】
Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、Tが、Fe及びCo以外の遷移元素を含み得ることを意味する。典型的には、Tのうち、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素の合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Fe及びCo以外の遷移元素としては、例えば、Ga、Al、及びCu等が挙げられる。これらの元素は、主として粒界相20に存在するが、その一部が、侵入型又は置換型で主相10に存在してもよい。
【0048】
第一態様の希土類磁石では、コア部において、コア部全体のR1を基準として、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比が、0.10未満、0.05以下、0.03以下であってよく、0であってもよい。また、コア部において、コア部全体のTを基準として、Coのモル比が、0.10未満、0.05以下、0.03以下であってよく、0であってもよい。上述したように、コア部において、Y、Sc、La、及びCe、並びにCoが少量であることは、希土類磁石前駆体に由来する。このような希土類磁石前駆体は、残留磁化と保磁力のバランスに優れ、これに改質材を拡散浸透することによって、さらに保磁力を向上することができる。
【0049】
第一態様の希土類磁石では、さらに、0.47≦R2
4g/(R2
4f+R2
4g)≦0.54を満足する。これを満足することにより、保磁力の向上を特に認識することができる。この観点からは、R2
4g/(R2
4f+R2
4g)は、0.48以上、又は0.50以上であってもよく、0.53以下、又は0.52以下であってもよい。
【0050】
〈第二態様〉
第二態様の希土類磁石は次のとおりである:
R1が、Ce、La、Nd、及びR2を必須とする一種以上のY及び希土類元素であり、
Tが、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素であり、
コア部において、コア部全体のR1を基準として、Y、Sc、及びCeの合計のモル比が0.1未満であり、かつ、Laのモル比が0.01~0.20であり、
コア部において、コア部全体のTを基準として、Coのモル比が0.1~0.4であり、かつ、
0.50≦R2
4g/(R2
4f+R2
4g)≦0.60の関係を満足する。
【0051】
第二態様の希土類磁石は、LaとCoが共存した希土類磁石前駆体を用いて得られる。第二態様の希土類磁石は、Laを含有すると主相が不安的になることを、LaとCoを共存させることで、安定化を図り、安価なLaを用いても残留磁化の低下を抑制できる。
【0052】
第二態様の希土類磁石では、R1が、Ce、La、Nd、及びR2を必須とする一種以上のY及び希土類元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Ce、La、Nd、及びR2を必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、R1が、Ce、La、Nd、及びR2以外の元素を含み得ることを意味する。典型的には、R1のうち、Ce、La、Nd、及びR2の合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。La及びNdは、主として、希土類磁石前駆体に由来し、Ce及びR2は、主として、改質材に由来する。Ndの一部又は全部が、Prで置換されていてもよい。
【0053】
Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、Tが、Fe及びCo以外の遷移元素を含み得ることを意味する。典型的には、Tのうち、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素の合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Fe及びCo以外の遷移元素としては、例えば、Ga、Al、及びCu等が挙げられる。これらの元素は、主として粒界相20に存在するが、その一部が、侵入型又は置換型で主相10に存在してもよい。
【0054】
第二態様の希土類磁石では、コア部において、コア部全体のR1を基準として、Y、Sc、及びCeの合計のモル比が、0.1未満、0.05以下、0.03以下であってよく、0であってもよい。また、コア部において、コア部全体のR1を基準として、Laのモル比が、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、又は0.05以上であってよく、0.20以下、0.15以下、0.10以下、0.08以下、又は0.06以下であってよい。また、コア部において、コア部全体のTを基準として、Coのモル比は、0.10以上、0.15以上、又は0.20以上であってよく、0.40以下、0.35以下、0.30以下、又は0.25以下であってよい。上述したように、コア部において、LaとCoが共存することは、希土類磁石前駆体に由来する。このような希土類磁石前駆体は、安価なLaを用いても残留磁化の低下を抑制でき、これに改質材を拡散浸透することによって、保磁力を向上することができる。
【0055】
第二態様の希土類磁石では、さらに、0.50≦R2
4g/(R2
4f+R2
4g)≦0.60を満足する。これを満足することにより、保磁力の向上を特に認識することができる。この観点からは、R2
4g/(R2
4f+R2
4g)は、0.52以上、0.54以上、又は0.56以上であってもよく、0.59以下、0.58以下、又は0.57以下であってもよい。
【0056】
〈第三態様〉
第三態様の希土類磁石は次のとおりである:
R1が、Ce、Nd、及びR2を必須とする一種以上のY及び希土類元素であり、
Tが、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素であり、
コア部において、コア部全体のR1を基準として、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比が0.10~0.90であり、
コア部において、コア部全体のTを基準として、Coのモル比が0.40以下であり、かつ、
0.44≦R2
4g/(R2
4f+R2
4g)≦0.51の関係を満足する。
【0057】
第三態様の希土類磁石は、軽希土類元素を含有する希土類磁石前駆体を用いて、Ndの使用量を削減しつつ、所望の残留磁化及び保磁力を維持する。
【0058】
第三態様の希土類磁石では、R1が、Ce、Nd、及びR2を必須とする一種以上のY及び希土類元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Ce、Nd、及びR2を必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、R1が、Ce、Nd、及びR2以外の元素を含み得ることを意味する。典型的には、R1のうち、Ce、Nd、及びR2の合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Ndは、主として、希土類磁石前駆体に由来し、R2は、主として、改質材に由来する。Ceは、希土類磁石前駆体及び改質材の両方に由来する。
【0059】
Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、Tが、Fe及びCo以外の遷移元素を含み得ることを意味する。典型的には、Tのうち、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素の合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Fe及びCo以外の遷移元素としては、例えば、Ga、Al、及びCu等が挙げられる。これらの元素は、主として粒界相20に存在するが、その一部が、侵入型又は置換型で主相10に存在してもよい。
【0060】
第三態様の希土類磁石では、コア部において、コア部全体のR1を基準として、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比が、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上、又は0.50以上であってよく、0.90以下、0.80以下、0.70以下、又は0.60以下であってよい。また、コア部において、コア部全体のTを基準として、Coのモル比は、0.40以下、0.30以下、0.20以下、又は0.10以下であってよく、0であってもよい。このようにすることで、軽希土類元素を積極的に使用してNdの使用量を削減した希土類磁石前駆体を用いて、残留磁化及び保磁力を維持しつつ、これに改質材を拡散浸透することによって、さらに、保磁力を向上することができる。
【0061】
第三態様の希土類磁石では、さらに、R2
4g/(R2
4f+R2
4g)が、0.44以上、0.45以上、0.46以上、又は0.47以上であり、かつ、R2
4g/(R2
4f+R2
4g)が0.51以下、0.50以下、0.49以下、又は0.48以下であることによって、保磁力の向上を認識することができる。
【0062】
〈副シェル部〉
本開示の希土類磁石は、任意で、副シェル部を有していてもよい。これについて、図面を用いて説明する。
図5は、本開示の希土類磁石が副シェル部を有している態様の組織の一例を模式的に示す説明図である。本開示の希土類磁石100のこの態様においては、コア部12とシェル部14の間に副シェル部16を有している。
【0063】
副シェル部は、予備改質材の拡散浸透に由来する。予備改質材は、R4を少なくとも含有する。R4は、Pr、Nd、Pm、Sm、及びEuからなる群より選ばれる一種以上の元素である。すなわち、R4は中希土類元素である。希土類磁石前駆体の内部に上述した改質材(R2及びCeの両方を少なくとも含有する改質材)を拡散浸透する前に、希土類磁石前駆体の内部に予備改質材を拡散浸透する。
【0064】
副シェル部は、予備改質材の拡散浸透に由来するため、副シェル部におけるR4のモル比が、コア部におけるR4のモル比よりも高くなっている。副シェル部におけるR4のモル比とコア部におけるR4のモル比の差は、例えば、0.01以上、0.05以上、0.10以上、0.11以上、0.12以上、0.13以上、0.14以上、又は0.15以上であってよく、0.50以下、0.45以下、0.41以下、0.40以下、0.38以下、0.37以下、0.36以下、0.34以下、0.32以下、0.30以下、0.29以下、0.28以下、0.27以下、0.26以下、0.24以下、0.22以下、又は0.20以下であってよい。これは、単相の主相の外周部に存在する希土類元素の一部と、粒界相に拡散浸透した予備改質材の希土類元素の一部が入れ替わり、副シェル部が形成されるためである。予備改質材の拡散浸透によって副シェル部が形成されることについては、「《製造方法》」で詳述する。
【0065】
〈粒界相〉
図1に示したように、本開示の希土類磁石100は、これまで説明してきた主相10の他に、粒界相20を備える。粒界相20は、主相10の周囲に存在する。
【0066】
粒界相20には、改質材60が拡散浸透している。改質材60は、重希土類元素とCeの両方を含有している他に、一般的に、希土類元素以外の遷移元素、例えば、銅を含有している。これにより、粒界相20においては、希土類元素の含有割合(濃度)が高くなるだけでなく、銅のような非磁性の元素の含有割合も高くなる。そのため、粒界相20は、多くの場合、非磁性である。このことから、粒界相20が、個々の主相10を磁気的に分断し、保磁力向上に寄与する。
【0067】
《製造方法》
次に、本開示の希土類磁石の製造方法について説明する。
【0068】
本開示の希土類磁石の製造方法は、希土類磁石前駆体準備工程及び改質材拡散浸透工程を含む。また、本開示の希土類磁石の製造方法は、任意で、予備改質材拡散浸透工程を含んでもよい。以下、それぞれの工程について説明する。
【0069】
〈希土類磁石前駆体準備工程〉
主相及び粒界相を備える希土類磁石前駆体を準備する。主相は、モル比で、R1
2T14Bで表される組成を有する。R1及びTは、「《希土類磁石》」で説明したとおりである。
【0070】
図2Aに示したように、改質材60を拡散浸透する前の希土類磁石前駆体50中の主相10は単相である。また、粒界相20は、主相10の周囲に存在する。
【0071】
希土類磁石前駆体50の組成は、希土類磁石前駆体50中に主相10及び粒界相20を備えていれば特に制限はないが、粒界相20中にα-Fe相が可能な限り存在しないようにすることが好ましい。そのためには、粒界相20が、所謂R1リッチ相であることが好ましい。R1リッチ相とは、粒界相20のR1の含有割合(モル比)が、主相10のR1の含有割合(モル比)よりも高い相を意味する。粒界相20が所謂R1リッチ相になっていると、α-Fe相による保磁力の低下を回避することができる。また、粒界相20中にα-Fe相が存在すると、改質材60の拡散浸透を阻害するが、粒界相20が所謂R1リッチ相になっていることによって、改質材60の拡散浸透の阻害を回避できる。
【0072】
希土類磁石前駆体50として、改質材60を拡散浸透する前の、R1
2T14Bで表される組成を有する主相を備える、周知の希土類磁石を用いてもよい。希土類磁石前駆体50の組成(全体組成)は、例えば、モル比で、R1
pT(100-p-q)Bq(ただし、12.0≦p≦20.0及び5.0≦q≦20.0)であってよい。Tは、これまで説明ひてきた元素の他に、不可避的不純物元素を含んでもよい。不可避的不純物元素の多くは粒界相に存在するが、一部は主相に存在し得る。なお、本明細書において、不可避的不純物元素とは、希土類磁石の原材料に含まれる不純物元素、あるいは、製造工程で混入してしまう不純物元素等、その含有を回避することができない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことをいう。製造工程で混入してしまう不純物元素等には、製造上の都合により、磁気特性に影響を与えない範囲で含有させる元素を含む。
【0073】
後述する改質材拡散浸透工程で、希土類磁石前駆体50の単相の主相10の外周部付近に、改質材60が拡散浸透する。これによって、本開示の希土類磁石100(改質材60が拡散浸透した後の希土類磁石)においては、
図2Cに示したように、主相10がコア/シェル構造を備える。このことから、「《希土類磁石》」の「〈コア部〉」で説明したように、本開示の希土類磁石100(改質材60が拡散浸透した後の希土類磁石)の主相10においては、コア部12の組成は、希土類磁石前駆体50における単相の主相10の組成そのままである。したがって、希土類磁石前駆体50の主相10の組成については、「《希土類磁石》」の「〈コア部〉」の説明を参照することができる。以下、「《希土類磁石》」の「〈コア部〉」で説明した、第一態様~第三態様の希土類磁石の製造に用いる希土類磁石前駆体について概説する。
【0074】
〈第一態様の希土類磁石の製造に用いる希土類磁石前駆体〉
第一態様の希土類磁石の製造に用いる希土類磁石前駆体(以下、「第一態様の希土類磁石前駆体」ということがある。)は、モル比で、R1
2T14Bで表される主相を有しており、その主相の組成は次のとおりであってよい。
【0075】
R1は、Ndを必須とする一種以上のY及び土類元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Ndを必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、R1が、Nd以外の元素を含み得ることを意味する。典型的には、R1のうち、Ndが、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Ndの一部又は全部が、Prで置換されていてもよい。
【0076】
Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、Tが、Fe及びCo以外の遷移元素を含み得ることを意味する。典型的には、Tのうち、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素の合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Fe及びCo以外の遷移元素としては、例えば、Ga、Al、及びCu等が挙げられる。これらの元素は、主として粒界相に存在するが、その一部が、侵入型又は置換型で主相に存在してもよい。
【0077】
また、R1を基準として、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比が、0.10未満、0.05以下、0.03以下であってよく、0であってもよい。そして、Tを基準として、Coのモル比が、0.1未満、0.05以下、0.03以下であってよく、0であってもよい。
【0078】
第一態様の希土類磁石前駆体が、上述した組成を有することによって、その希土類磁石前駆体は、残留磁化と保磁力のバランスに優れる。そして、これに改質材を拡散浸透することによって、本開示の希土類磁石は、さらに保磁力を向上することができる。
【0079】
希土類磁石前駆体の組成(全体組成)が、例えば、モル比で、R1
pT(100-p-q)Bq(ただし、12.0≦p≦20.0及び5.0≦q≦20.0)である場合には、R1を基準としたときの、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比と、Tを基準ときの、Coのモル比は、主相について上述したモル比と同一であると考えてよい。これは、主相と粒界相とで、R1及びTそれぞれを構成する元素のモル比は同一と考えてよいためである。
【0080】
〈第二態様の希土類磁石の製造に用いる希土類磁石前駆体〉
第二態様の希土類磁石の製造に用いる希土類磁石前駆体(以下、「第二態様の希土類磁石前駆体」ということがある。)は、モル比で、R1
2T14Bで表される主相を有しており、その主相の組成は次のとおりであってよい。
【0081】
R1は、La及びNdを必須とする一種以上のY及び希土類元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「La及びNdを必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、R1が、La及びNd以外の元素を含み得ることを意味する。典型的には、R1のうち、La及びNdの合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Ndの一部又は全部が、Prで置換されていてもよい。
【0082】
Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、Tが、Fe及びCo以外の遷移元素を含み得ることを意味する。典型的には、Tのうち、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素の合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Fe及びCo以外の遷移元素としては、例えば、Ga、Al、及びCu等が挙げられる。これらの元素は、主として粒界相20に存在するが、その一部が、侵入型又は置換型で主相10に存在してもよい。
【0083】
また、R1を基準として、Y、Sc、及びCeの合計のモル比が、0.1未満、0.05以下、0.03以下であってよく、0であってもよい。そして、R1を基準として、Laのモル比が、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、又は0.05以上であってよく、0.20以下、0.15以下、0.10以下、0.08以下、又は0.06以下であってよい。さらに、Tを基準として、Coのモル比は、0.10以上、0.15以上、又は0.20以上であってよく、0.40以下、0.35以下、0.30以下、又は0.25以下であってよい。
【0084】
第二態様の希土類磁石前駆体が、上述した組成を有することによって、その希土類磁石前駆体は、安価なLaを用いても、Coと共存することによって、残留磁化の低下を抑制できる。そして、これに改質材を拡散浸透することによって、本開示の希土類磁石は、保磁力を向上することができる。
【0085】
希土類磁石前駆体の組成(全体組成)が、例えば、モル比で、R1
pT(100-p-q)Bq(ただし、12.0≦p≦20.0及び5.0≦q≦20.0)である場合には、R1を基準としたときの、Y、Sc、及びCeの合計のモル比並びにLaのモル比と、Tを基準ときの、Coのモル比は、主相についての上述したモル比と同一であると考えてよい。これは、主相と粒界相とで、R1及びTそれぞれを構成する元素のモル比は同一と考えてよいためである。
【0086】
〈第三態様の希土類磁石の製造に用いる希土類磁石前駆体〉
第三態様の希土類磁石の製造に用いる希土類磁石前駆体(以下、「第三態様の希土類磁石前駆体」ということがある。)は、モル比で、R1
2T14Bで表される主相を有しており、その主相の組成は次のとおりであってよい。
【0087】
R1は、Ce及びNdを必須とする一種以上のY及び希土類元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Ce及びNdを必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、R1が、Ce及びNd以外の元素を含み得ることを意味する。典型的には、R1のうち、Ce及びNdの合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Ndの一部又は全部をPrで置換してもよい。
【0088】
Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする一種以上の遷移元素である。「必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、対象元素以外の元素を含み得ることを意味する。すなわち、「Tは、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素を必須とする」とは、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を損なわない限りにおいて、Tが、Fe及びCo以外の遷移元素を含み得ることを意味する。典型的には、Tのうち、Fe及びCoからなる群より選ばれる一種以上の元素の合計が、80原子%以上、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、又は99原子%以上であってよく、100原子%であってもよい。Fe及びCo以外の遷移元素としては、例えば、Ga、Al、及びCu等が挙げられる。これらの元素は、主として粒界相20に存在するが、その一部が、侵入型又は置換型で主相10に存在してもよい。
【0089】
R1を基準として、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比が、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上、又は0.50以上であってよく、0.90以下、0.80以下、0.70以下、又は0.60以下であってよい。そして、Tを基準として、Coのモル比は、0.40以下、0.30以下、0.20以下、又は0.10以下であってよく、0であってもよい。
【0090】
第三態様の希土類磁石前駆体が、上述した組成を有する、すなわち、軽希土類元素を積極的に使用してNdの使用量を削減した希土類磁石前駆体を用いて、残留磁化及び保磁力を維持しつつ、これに改質材を拡散浸透することによって、さらに、保磁力を向上することができる。
【0091】
希土類磁石前駆体の組成(全体組成)が、例えば、モル比で、R1
pT(100-p-q)Bq(ただし、12.0≦p≦20.0及び5.0≦q≦20.0)である場合には、R1を基準としたときの、Y、Sc、La、及びCeの合計のモル比と、Tを基準ときの、Coのモル比は、主相についての上述したモル比と同一であると考えてよい。これは、主相と粒界相とで、R1及びTそれぞれを構成する元素のモル比は同一と考えてよいためである。
【0092】
〈希土類磁石前駆体の製造方法〉
希土類磁石前駆体の製造方法に、特に制限はない。典型的には、次のような製造方法が挙げられる。希土類磁石前駆体の組成(全体組成)を有する溶湯を冷却し、磁性薄帯を得る。磁性薄帯を粉砕し、磁性粉末を得る。磁性粉末を圧粉し、磁場中で圧粉体を得る。そして、圧粉体を無加圧焼結して、希土類磁石前駆体を得る。この他に、焼結せずに、磁性薄帯を希土類磁石前駆体としてもよいし、あるいは、磁性粉末を希土類磁石前駆体としてもよい。
【0093】
希土類磁石前駆体の組成(全体組成)を有する溶湯を冷却する速度は、例えば、1~1000℃/sであってよい。このような速度で冷却すると、平均粒径が1~20μmの主相を備える磁性薄帯が得られる。このような平均粒径を有する主相は、磁性粉末の無加圧焼結時及び改質材の拡散浸透時に粗大化し難い。このことから、本開示の希土類磁石(改質材の拡散浸透後の希土類磁石)中の主相の平均粒径は、磁性粉末中の主相の平均粒径と、ほぼ同一であると考えてよい。磁性薄帯を得る過程で減耗することがある元素については、その減耗分を見込んでおいてもよい。
【0094】
希土類磁石前駆体の組成(全体組成)を有する溶湯を冷却する方法に、特に制限はない。上述の冷却速度を得る観点からは、例えば、ストリップキャスト法及びブックモールド法等が挙げられる。希土類磁石前駆体の偏析が少ない観点からは、ストリップキャスト法が好ましい。
【0095】
磁性薄帯の粉砕方法としては、例えば、磁性薄帯を粗粉砕した後、ジェットミル等で、さらに粉砕する方法等が挙げられる。粗粉砕の方法としては、例えば、ハンマミルを用いる方法、及び磁性薄帯を水素脆化する方法並びにこれらの組合せ等が挙げられる。
【0096】
磁性粉末の圧粉時の成形圧力は、例えば、50MPa以上、100MPa以上、200MPa以上、又は300MPa以上であってよく、1000MPa以下、800MP以下、又は600MPa以下であってよい。印加する磁場は、0.1T以上、0.5T以上、1.0T以上、1.5T以上、又は2.0T以上であってよく、10.0T以下、8.0T以下、6.0T以下、又は4.0T以下であってよい。このように、磁場を印加しつつ、磁性粉末を圧粉すると、本開示の希土類磁石に異方性を付与することができる。
【0097】
圧粉体の焼結温度は、例えば、900℃以上、950℃以上、又は1000℃以上であってよく、1100℃以下、1050℃以下、又は、1040℃以下であってよい。焼結時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、又は4時間以上であってよく、24時間以下、18時間以下、12時間以下、又は6時間以下であってよい。焼結中の圧粉体の酸化を抑制するため、焼結雰囲気は、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【0098】
〈改質材拡散浸透工程〉
R2及びCeを少なくとも含有する改質材を、希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透する。改質材の組成については、R2及びCeを少なくとも含有し、希土類磁石前駆体の主相を粗大化することなく、改質材を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透することができれば、改質材の組成は、特に制限されない。改質材は、典型的には、R2及びCeを少なくとも含有し、かつ、希土類元素以外の遷移元素を含有する組成物である。改質材がこのような組成物であると、改質材の融点を、R2及びCeよりも低くすることができ、比較的低温で、改質材を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透することができ、拡散浸透時に主相の粗大化を回避できる。
【0099】
改質材の組成は、例えば、モル比で、(R2
(1-r-s)CerR3
s)(1-t)M1
tで表される組成物であってよい。R3は、R2及びCe以外の希土類元素並びにYからなる群より選ばれる一種以上の元素である。M1は、Y及び希土類元素以外の遷移元素並びに不可避的不純物元素である。すなわち、M1は、R1以外の遷移元素及び不可避的不純物元素である。M1は、R2及びCe、特にR2と合金化して、改質材の融点を、R2の融点よりも低下する元素が好ましい。このようなM1としては、例えば、Cu、Al、Co、及びFeから選ばれる一種以上の元素が挙げられる。改質材の融点低下の観点からは、M1はCuが好ましい。
【0100】
Ceの含有割合(モル比)rが0.05以上であれば、Ceが4fサイトを占有し、R2が4gサイトを占有して、保磁力の向上に寄与する。この観点からは、rは、0.10以上、0.20以上、又は0.30以上であってもよい。rが0.90以下であれば、Ceの含有割合が過剰になり、相対的にR2の存在割合が低下して、保磁力の低下を招くことはない。この観点からは、rは、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、又は0.40以下であってもよい。改質材は、R3、すなわち、R2及びCe以外の希土類元素並びにYの含有を許容する。R3の含有割合(モル比)sは、0.30以下、0.20以下、0.10以下、又は0.05以下であってよく、0であってもよい。改質材の拡散浸透温度が、主相の粗大化を回避できる温度になるように、M1の含有割合(モル比)tを適宜決定すればよい。tは、0以上、0.10以上、0.20以上、又は0.30以上であってよく、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、又は0.40以下であってよい。tが0であるとは、改質材が実質的に希土類元素のみであることを意味し、このような改質材は、改質材の拡散浸透に、例えば、気相法を適用する。気相法等、改質材の拡散浸透方法については後述する。
【0101】
改質材の製造方法については、上述した組成の改質材が得られれば、改質材の製造方法に、特に制限はない。改質材の製造方法としては、例えば、改質材の組成を有する溶湯を、液体急冷法又はストリップキャスト法等を用いて薄帯等を得る方法が挙げられる。これらの方法では、溶湯が急冷されるため、改質材に偏析が少ない。また、改質材の製造方法としては、例えば、ブックモールド等の鋳型に、改質材の組成を有する溶湯を鋳造することが挙げられる。この方法では、比較的簡便に多量の改質材を得られる。改質材の偏析を少なくするためには、ブックモールドは、熱伝導率の高い材料で造られていることが好ましい。また、鋳造材を均一化熱処理して、偏析を抑制することが好ましい。さらに、改質材の製造方法としては、容器に改質材の原材料を装入し、その容器中で原材料をアーク溶解して、溶融物を冷却して鋳塊を得る方法が挙げられる。この方法では、原材料の融点が高い場合でも、比較的容易に改質材を得ることができる。改質材の偏析を少なくする観点から、鋳塊を均一化熱処理することが好ましい。
【0102】
希土類磁石前駆体の内部に、改質材を拡散浸透する方法については、特に制限されないが、主相の粗大化を回避することができる方法が好ましい。改質材の拡散浸透方法としては、典型的には、
図2A~
図2Cに示したように、希土類磁石前駆体50に改質材60を接触し、これを加熱し、改質材60の融液を希土類磁石前駆体50の内部に拡散浸透する方法(液相法)等が挙げられる。不活性ガス雰囲気中で改質材60を拡散浸透することが好ましい。これにより、希土類磁石前駆体50及び改質材60の酸化を抑制することができる。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【0103】
液相法で改質材を拡散浸透する場合、拡散浸透温度(加熱温度)は、例えば、750℃以上、775℃以上、又は800℃以上であってよく、1000℃以下、950℃以下、925℃以下、又は900℃以下であってよい。また、拡散浸透時間(加熱時間)としては、例えば、5分以上、10分以上、15分以上、又は30分以上であってよく、180分以下、150分以下、120分以下、90分以下、60分以下、又は40分以下であってよい。
【0104】
改質材の拡散浸透量は、所望量のR2が4fサイトを占有するように適宜決定すればよい。典型的には、希土類磁石前駆体100モル部に対して、改質材を、0.1モル部以上、1.0モル部以上、2.0モル部以上、2.5モル部以上、又は3.0モル部以上であってよく、15.0モル部以下、10.0モル部以下、5.0モル部以下であってよい。
【0105】
改質材を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透する方法としては、上述の液相法の他に、例えば、気相法が挙げられる。気相法は、改質材を真空中で気化させて、改質材を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透する。気相法で改質材を拡散浸透する場合、改質材の組成については、例えば、モル比で、(R2
(1-r-s)CerR3
s)(1-t)M1
tで表される組成物を用いる場合には、t=0であることが好ましい。これにより、粒界相に残留するM1の含有を極少化することができ、残留磁化の向上に寄与する。
【0106】
気相法で改質材を拡散浸透する場合、拡散浸透温度は、例えば、850℃以上、875℃以上、又は900℃以上であってよく、1000℃以下、950℃以下、又は925℃以下であってよい。拡散浸透時間としては、5分以上、10分以上、15分以上、又は30分以上であってよく、180分以下、150分以下、120分以下、90分以下、60分以下、又は40分以下であってよい。改質材の拡散浸透量は、液相法の場合に準じることができる。
【0107】
〈予備改質材拡散浸透工程〉
本開示の希土類磁石の製造方法は、任意で、予備改質材拡散浸透工程を含んでもよい。以下、予備改質材拡散浸透工程について、図面を用いて説明する。
図6Aは、希土類磁石前駆体に、予備改質材を接触させた状態の一例を模式的に示す説明図である。
図6Bは、予備改質材が希土類磁石前駆体の粒界相に拡散浸透した状態の一例を模式的に示す説明図である。
図6Cは、主相に副シェルが形成された状態の一例を模式的に示す説明図である。
図6Dは、副シェルが形成された主相を備える希土類磁石前駆体に改質材を接触させた状態の一例を模式的に示す説明図である。
図6Eは、改質材が、主相に副シェルが形成された希土類磁石前駆体の粒界相に拡散浸透した状態の一例を模式的に示す説明図である。
図6Fは、主相にコア/副シェル/シェル構造が形成された状態の一例を模式的に示す説明図である。
【0108】
図6A~
図6Fに示したように、改質材60を希土類磁石前駆体50の内部に拡散浸透する前に、予備改質材62を希土類磁石前駆体50に拡散浸透する。すなわち、
図6Aに示したように、単相の主相10を備える希土類磁石前駆体50の表面に予備改質材62を接触させる。この状態で加熱すると、
図6Bに示したように、予備改質材62が粒界相20に拡散浸透する。そして、
図6Cに示したように、粒界相20に拡散浸透した予備改質材62が、さらに、主相10の外周部に拡散浸透し、主相10に、コア部12及び副シェル部16が形成される。この際、主相10の外周部に存在する希土類元素の一部と、粒界相20に拡散浸透した予備改質材62の希土類元素の一部が入れ替わり、副シェル部16が形成される。一方、コア部12は、単相の主相10と同じ組成を維持する。
【0109】
図6Dに示したように、副シェル部16が形成された主相10を備える希土類磁石前駆体50の表面に改質材60を接触させる。この状態で加熱すると、
図6Eに示したように、改質材60が粒界相20に拡散浸透する。そして、
図6Fに示したように、粒界相20に拡散浸透した改質材60が、さらに、副シェル部16の外周部に拡散浸透し、副シェル部16及びシェル部14が形成される。この際、副シェル部16の外周部に存在する希土類元素の一部と、粒界相20に拡散浸透した改質材60の希土類元素の一部が入れ替わり、シェル部14が形成される。一方、副シェル部16は、改質材60を拡散浸透する前の組成を維持する。
【0110】
予備改質材62は、R4を少なくとも含有する。上述したように、R4は、Pr、Nd、Pm、Sm、及びEuからなる群より選ばれる一種以上の元素である。予備改質材には、可能な限り、R2の含有量を低減することが好ましい。R2は、希少性が高く、高価な元素であるが、異方性磁界の向上効果が高い。異方性磁界の向上効果が高い元素が、主相10で最外郭に存在すると、保磁力の向上への寄与が大きくなる。そのため、副シェル部には、可能な限り、R2の含有割合が低いことが好ましい。
【0111】
予備改質材拡散浸透工程の追加は、第三態様の希土類磁石のように、軽希土類元素を積極的に使用してNdの使用量を削減した希土類磁石前駆体を用いる場合に特に有効である。軽希土類元素の使用量が増加すると、残留磁化及び保磁力が低下する。しかし、R4、すなわち中希土類元素を含有する予備改質材を拡散浸透することにより、残留磁化及び異方性磁界の低下を補うことができる。軽希土類元素と比較して、中希土類元素は希少性が高く、高価である。残留磁化及び異方性磁界に有利な中希土類元素を、コア部よりも外側の副シェル部に多く存在するようにすることにより、少ない中希土類元素で残留磁化及び異方性磁界を向上することができる。特に、異方性磁界を向上することができるため、保磁力の向上に大きく寄与する。
【0112】
予備改質材の組成は、例えば、モル比で、(R4
(1-i)R5
i)(1-j)M2
jで表される組成物であってよい。R5は、R4以外のY及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の元素である。M2は、Y及び希土類元素以外の遷移元素並びに不可避的不純物元素である。すなわち、M2は、R1以外の遷移元素及び不可避的不純物元素である。M2は、R4と合金化して、改質材の融点をR4の融点よりも低下する元素が好ましい。このようなM2としては、例えば、Cu、Al、Co、及びFeから選ばれる一種以上の元素が挙げられる。改質材の融点低下の観点からは、M2はCuが好ましい。
【0113】
予備改質材は、R5、すなわち、R4以外のY及び希土類元素の含有を許容する。R5の含有割合(モル比)iは、0.30以下、0.20以下、0.10以下、又は0.05以下であってよく、0であってもよい。また、予備改質材の拡散浸透温度が、主相の粗大化を回避できる温度になるように、M2の含有割合(モル比)jを適宜決定すればよい。jは、0以上、0.10以上、0.20以上、又は0.30以上であってよく、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、又は0.40以下であってよい。jが0であるとは、改質材が実質的に希土類元素のみであることを意味し、このような改質材の場合は、改質材の拡散浸透に、例えば、気相法を適用する。
【0114】
希土類磁石前駆体の内部に、予備改質材を拡散浸透する方法については、特に制限されないが、主相の粗大化を回避することができることが好ましい。予備改質材の拡散浸透方法としては、液相法が典型的である。不活性ガス雰囲気中で予備改質材を拡散浸透することが好ましい。これにより、希土類磁石前駆体及び予備改質材の酸化を抑制することができる。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【0115】
液相法で予備改質材を拡散浸透する場合、拡散浸透温度(加熱温度)は、例えば、750℃以上、775℃以上、又は800℃以上であってよく、1000℃以下、950℃以下、925℃以下、又は900℃以下であってよい。拡散浸透時間(加熱時間)としては、5分以上、10分以上、15分以上、又は30分以上であってよく、240分以下、180分以下、165分以下、150分以下、120分以下、90分以下、60分以下、又は40分以下であってよい。
【0116】
予備改質材の拡散浸透量は、所望量のR4が副シェル部に存在するように、適宜決定すればよい。典型的には、希土類磁石前駆体100モル部に対して、予備改質材を、0.1モル部以上、1.0モル部以上、2.0モル部以上、2.5モル部以上、又は3.0モル部以上であってよく、15.0モル部以下、10.0モル部以下、又は5.0モル部以下であってよい。
【0117】
予備改質材を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透する方法としては、上述の液相法の他に、例えば、気相法が挙げられる。気相法は、予備改質材を真空中で気化させて、予備改質材を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透する。気相法で改質材を拡散浸透する場合、予備改質材の組成については、例えば、モル比で、(R4
(1-i)R5
i)(1-j)M2
jで表される組成物を用いる場合には、j=0であることが好ましい。これにより、粒界相に残留するM2の含有を極少化することができ、残留磁化の向上に寄与する。
【0118】
気相法で予備改質材を拡散浸透する場合、拡散浸透温度は、例えば、850℃以上875℃以上、又は900℃以上であってよく、1000℃以下、950℃以下、又は925℃以下であってよい。拡散浸透時間としては、5分以上、10分以上、15分以上、又は30分以上であってよく、180分以下、150分以下、120分以下、90分以下、60分以下、又は40分以下であってよい。予備改質材の拡散浸透量は、液相法の場合に準じることができる。
【0119】
予備改質材の製造方法は、上述した組成の改質材が得られれば、予備改質材の製造方法に、特に制限はない。また、予備改質材の製造方法は、改質材の製造方法を参照することができる。
【0120】
これまで説明してきた製造方法で得た希土類磁石は、モル比で、R1
pT(100-p-q)Bq・((R2
(1-r-s)CerR3
s)(1-t)M1
t)m・(R4
(1-i)R5
i)(1-j)M2
j)nで表される全体組成を有する。この式で、R1
pT(100-p-q)Bqは希土類磁石前駆体に由来し、(R2
(1-r-s)CerR3
s)(1-t)M1
tは改質材に由来し、そして、(R4
(1-i)R5
i)(1-j)M2
jは予備改質材に由来する。また、m及びnは、それぞれ、100モル部の希土類磁石前駆体に対する、改質材及び予備改質材の拡散浸透量(モル部)に相当する。
【0121】
〈変形〉
これまで説明してきたこと以外でも、本開示の希土類磁石及びその製造方法は、特許請求の範囲に記載した内容の範囲内で種々の変形を加えることができる。例えば、改質材として、R2及びCeを少なくとも含有するフッ化物を用い、この改質材を気相法で、希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透することが挙げられる。これにより、本開示の希土類磁石全体で、希土類元素及び鉄族元素以外の含有割合を低減することができ、残留磁化を向上することができる。また、改質材の拡散浸透前に、800~1050℃で1~24時間にわたり、希土類磁石前駆体を均質化熱処理してもよい。これにより、希土類磁石前駆体内の偏析を抑制することができる。さらに、改質材の拡散浸透前後で、所謂最適化熱処理をしてもよい。最適化熱処理の条件としては、例えば、850~1000℃で50~300分にわたり保持した後、0.1~5.0℃/分の速度で450~700℃まで冷却することが挙げられる。最適化熱処理により、残留磁化及び保磁力を向上することができる。
【実施例】
【0122】
以下、本開示の希土類磁石及びその製造方法を実施例及び比較例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の希土類磁石及びその製造方法は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
【0123】
《試料の準備》
次の手順で、実施例1~18、比較例1~3、及び参考例1~3の試料を準備した。
【0124】
〈実施例1の試料の準備〉
モル比での全体組成が、(Nd0.81Pr0.19)14(Fe0.99Co0.01)79.3B5.9Ga0.4Al0.2Cu0.2である希土類磁石前駆体を準備した。この希土類磁石前駆体は、モル比で、(Nd0.81Pr0.19)14(Fe0.99Co0.01)79.3B5.9Ga0.4Al0.2Cu0.2で表される組成を有する溶湯をストリップキャスト法で冷却して得た磁性薄帯に基づいて準備した。磁性粉末を水素粉砕した後、これをさらにシェットミルを用いて粉砕し、磁性粉末を得た。この磁性粉末に2Tの磁場を印加しながら圧粉して、圧粉体を得た。そして、この圧粉体を1050℃で4時間にわたり無加圧焼結して、希土類磁石前駆体を得た。この希土類磁石前駆体中の主相の組成は、(Nd0.81Pr0.19)2(Fe0.99Co0.01)14Bであった。溶湯中のGa、Al、及びCuの殆どは粒界相中に存在し、主相中では、Ga、Al、及びCuの含有量は、測定限界以下であった。また、主相の平均粒径は、4.9μmであった。
【0125】
上述のようにして得た希土類磁石前駆体に、改質材を拡散浸透して、実施例1の試料を得た。改質材の組成は、(Tb0.9Ce0.1)0.7Cu0.3であった。拡散浸透温度は950℃、拡散浸透時間は15分であった。100モル部の希土類磁石前駆体に、2.5モル部の改質材を拡散浸透した。
【0126】
〈実施例2~5の試料の準備〉
実施例2~5について改質材の組成が、それぞれ、(Tb0.8Ce0.2)0.7Cu0.3、(Tb0.7Ce0.3)0.7Cu0.3、(Tb0.6Ce0.4)0.7Cu0.3、及び(Tb0.4Ce0.6)0.7Cu0.3であること以外、実施例1と同様に、実施例2~5の試料を準備した。なお、実施例1~5の試料は、上述の第一態様の希土類磁石に相当する。
【0127】
〈比較例1の試料の準備〉
改質材の組成が、Tb0.7Cu0.3であること以外、実施例1と同様に、比較例1の試料を準備した。
【0128】
〈参考例1の試料の準備〉
改質材の組成が、Ce0.7Cu0.3であること以外、実施例1と同様に、参考例1の試料を準備した。
【0129】
〈実施例6の試料の準備〉
モル比での全体組成が、(Nd0.77Pr0.18La0.05)14.4(Fe0.8Co0.2)79.1B5.7Ga0.4Al0.2Cu0.2である希土類磁石前駆体を準備した。この希土類磁石前駆体は、モル比で、(Nd0.77Pr0.18La0.05)14.4(Fe0.8Co0.2)79.1B5.7Ga0.4Al0.2Cu0.2で表される組成を有する溶湯をストリップキャスト法で冷却して得た磁性薄帯に基づいて準備した。磁性粉末を水素粉砕した後、これをさらにシェットミルを用いて粉砕し、磁性粉末を得た。この磁性粉末に2Tの磁場を印加しながら圧粉して、圧粉体を得た。そして、この圧粉体を1050℃で4時間にわたり無加圧焼結して、希土類磁石前駆体を得た。この希土類磁石前駆体中の主相の組成は、(Nd0.77Pr0.18La0.05)2(Fe0.8Co0.2)14Bであった。溶湯中のGa、Al、及びCuの殆どは粒界相中に存在し、主相中では、Ga、Al、及びCuの含有量は、測定限界以下であった。また、主相の平均粒径は、5.2μmであった。
【0130】
上述のようにして得た希土類磁石前駆体に、改質材を拡散浸透して、実施例1の試料を得た。改質材の組成は、(Tb0.9Ce0.1)0.7Cu0.3であった。拡散浸透温度は950℃、拡散浸透時間は15分であった。100モル部の希土類磁石前駆体に、2.5モル部の改質材を拡散浸透した。
【0131】
〈実施例7~11の試料の準備〉
実施例7~11について改質材の組成が、それぞれ、(Tb0.7Ce0.3)0.7Cu0.3、(Tb0.6Ce0.4)0.7Cu0.3、(Tb0.5Ce0.5)0.7Cu0.3、(Tb0.4Ce0.6)0.7Cu0.3、及び(Tb0.3Ce0.7)0.7Cu0.3であること以外、実施例6と同様に、実施例7~11の試料を準備した。なお、実施例6~11の試料は、上述の第二態様の希土類磁石に相当する。
【0132】
〈比較例2の試料の準備〉
改質材の組成が、Tb0.7Cu0.3であること以外、実施例6と同様に、比較例2の試料を準備した。
【0133】
〈参考例2の試料の準備〉
改質材の組成が、Ce0.7Cu0.3であること以外、実施例6と同様に、参考例2の試料を準備した。
【0134】
〈実施例12の試料の準備〉
モル比での全体組成が、(Nd0.5Ce0.375La0.125)13.1Fe80.5B6Cu0.1Ga0.3である希土類磁石前駆体を準備した。この希土類磁石前駆体は、モル比で、(Nd0.5Ce0.375La0.125)13.1Fe80.5B6Cu0.1Ga0.3で表される組成を有する溶湯をストリップキャスト法で冷却して得た磁性薄帯に基づいて準備した。磁性粉末を水素粉砕した後、これをさらにシェットミルを用いて粉砕し、磁性粉末を得た。この磁性粉末に2Tの磁場を印加しながら圧粉して、圧粉体を得た。そして、この圧粉体を1050℃で4時間にわたり無加圧焼結して、希土類磁石前駆体を得た。この希土類磁石前駆体中の主相の組成は、(Nd0.5Ce0.375La0.125)2Fe14Bであった。溶湯中のGa及びCuの殆どは粒界相中に存在し、主相中では、Ga及びCuの含有量は、測定限界以下であった。また、主相の平均粒径は、5.0μmであった。
【0135】
上述のようにして得た希土類磁石前駆体に、予備改質材を拡散浸透した。予備改質材の組成は、Nd0.9Cu0.1であった。拡散浸透温度は950℃、拡散浸透時間は165分であった。100モル部の希土類磁石前駆体に、4.7モル部の改質材を拡散浸透した。予備改質材を拡散浸透した後の副シェル部の組成は、(Nd0.91Ce0.08La0.01)2Fe14Bであった。
【0136】
上述の副シェル部を有する希土類磁石前駆体に、さらに、改質材を拡散浸透して、実施例12の試料を得た。改質材の組成は、(Tb0.9Ce0.1)0.7Cu0.3であった。拡散浸透温度は950℃、拡散浸透時間は15分であった。100モル部の希土類磁石前駆体に、2.5モル部の改質材を拡散浸透した。
【0137】
〈実施例13~18の試料の準備〉
実施例7~11について改質材の組成が、それぞれ、(Tb0.8Ce0.2)0.7Cu0.3、(Tb0.7Ce0.3)0.7Cu0.3、(Tb0.6Ce0.4)0.7Cu0.3、(Tb0.5Ce0.5)0.7Cu0.3、(Tb0.4Ce0.6)0.7Cu0.3、及び(Tb0.3Ce0.7)0.7Cu0.3であること以外、実施例12と同様にして、実施例13~18の試料を準備した。なお、実施例12~18の試料は、上述の第二態様の希土類磁石に相当する。
【0138】
〈比較例3の試料の準備〉
改質材の組成が、Tb0.7Cu0.3であること以外、実施例12と同様に、比較例3の試料を準備した。
【0139】
〈参考例3の試料の準備〉
改質材の組成が、Ce0.7Cu0.3であること以外、実施例12と同様に、参考例3の試料を準備した。
【0140】
《評価》
振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)を用いて、各試料の磁気特性を300Kで測定した。磁気特性は、改質材の拡散浸透前後で測定した。予備改質材を拡散浸透した場合には、その前後で磁気特性を拡散浸透した。また、Cs-STEM-EDX(Cs Corrected-Scanning Transmission Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray spectroscope:球面収差補正機能付き-走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析器)を用いて、シェル部の組成を分析し、R2
4g/(R2
4f+R2
4g)及び(Ce4f+Ce4g)/(R2
4f+R2
4g)を求めた。分析に際しては、試料に電子線を[110]方向から入射した。これにより、R1の4fサイト及び4gサイトが交互に並ぶため、各サイトについて、原子レベルでの分解能で、組成分析をすることができた。
【0141】
結果を表1~3に示す。
図7は、表1の試料について、改質材のCeのモル比と保磁力の関係を示すグラフである。
図8は、表2の試料について、改質材のCeのモル比と保磁力の関係を示すグラフである。
図9は、表3の試料について、改質材のCeのモル比と保磁力の関係を示すグラフである。
図10は、表1の試料について、R
2
4g/(R
2
4f+R
2
4g)と保磁力の関係を示すグラフである。
図11は、表2の試料について、R
2
4g/(R
2
4f+R
2
4g)と保磁力の関係を示すグラフである。
図12は、表3の試料について、R
2
4g/(R
2
4f+R
2
4g)と保磁力の関係を示すグラフである。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
図7~9の破線は、Ceのモル比が0の改質材(Tb
0.7Cu
0.3)を拡散浸透した試料の保磁力の値と、Ceのモル比が1の改質材(Ce
0.7Cu
0.3)を拡散浸透した試料の保磁力の値を結んだ線である。従来、改質材中のCeのモル比が高くなるにつれて、保磁力が低下すると考えられていた。したがって、従来は、破線に沿って保磁力が低下すると考えられていた。しかし、Tb(R
2)とCeが共存する改質材((Tb
(1-x)Ce
x)
0.7Cu
0.3で0<x<1の範囲)を拡散浸透した実施例の試料は、破線よりも上の位置にある保磁力の値を有している。このことから、本開示の希土類磁石は、希土類磁石中の重希土類元素(R
2)の含有割合から予測されるよりも高い保磁力を有していることが理解できる。また、このような保磁力を有する本開示の希土類磁石は、表1~3から、0.44≦R
2
4g/(R
2
4f+R
2
4g)≦0.70及び0.04≦(Ce
4f+Ce
4g)/(R
2
4f+R
2
4g)を満足していることを理解できる。
【0153】
また、表1及び
図10から、第一態様の希土類磁石では、0.47≦R
2
4g/(R
2
4f+R
2
4g)≦0.54を満足すると、特に高い保磁力を有していることが理解できる。また、表2及び
図11から、第二態様の希土類磁石では、0.50≦R
2
4g/(R
2
4f+R
2
4g)≦0.60を満足すると、特に高い保磁力を有していることが理解できる。そして、表3及び
図12から、第三態様の希土類磁石では、0.44≦R
2
4g/(R
2
4f+R
2
4g)≦0.51を満足すると、特に高い保磁力を有していることが理解できる。
【0154】
以上の結果から、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を確認できた。
【符号の説明】
【0155】
10 主相
12 コア部
14 シェル部
16 副シェル部
20 粒界相
50 希土類磁石前駆体
60 改質材
62 予備改質材
100 本開示の希土類磁石