(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】電子ビーム収束機構及び電界放射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 35/06 20060101AFI20240806BHJP
H01J 19/24 20060101ALI20240806BHJP
H01J 35/14 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01J35/06 A
H01J19/24
H01J35/14
(21)【出願番号】P 2021049813
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大造
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】実公昭47-012930(JP,Y1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0254767(US,A1)
【文献】特開2017-224399(JP,A)
【文献】登録実用新案第3222797(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/06
H01J 19/24
H01J 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを放出する電子放出体を収容可能な筒体を有し、
前記筒体には、前記電子放出体の電子放出面を露出する開口部が形成され、
前記開口部の周縁部は、凸曲面を成し、
前記周縁部は、対向する
高さが互いに同等の一対の縁部と、この一対の縁部と高さが異なって対向する
高さが互いに同等の他の一対の縁部と、を有し、
前記一対の縁部の高さは、前記他の一対の縁部の高さよりも低く設定され、
前記周縁部の高さは、前記一対の縁部から前記他の一対の縁部に至るに連れて次第に
高くなることを特徴とする電子ビーム収束機構。
【請求項2】
前記開口部は、
前記一対の縁部に沿う一対の辺の曲率半径
が前記他の一対の縁部に沿う他の一対の辺の曲率半径よりも
大きいこと
を特徴とする
請求項1に記載の電子ビーム収束機構。
【請求項3】
前記筒体は、円筒体であることを特徴とする請求項
1に記載の電子ビーム収束機構。
【請求項4】
請求項
1に記載の電子ビーム収束機構を有する電界放射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子管、照明装置、X線管等の機器に適用される電子放出体とこれを備えた電界放射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管としては熱陰極型または冷陰極型のものが挙げられる。例えば
図4に示された熱陰極型のX線管1は電子源としてフィラメント6が適用される。これに対して、
図5に例示の冷陰極型のX線管1は、フィラメント6の代わりにエミッタ31が電子源として適用される。この冷陰極型のX線管1は、熱陰極型のものよりも、消費電力が少ないことに加えて小型化が可能であり、また、応答速度が速く、電子が高密度であるので、優位性がある(非特許文献1)。
【0003】
X線管の焦点サイズの大きさは撮影画像の画質に影響する。例えば、焦点サイズが大きいと撮影画像はぼやけたものとなる一方で焦点サイズが小さいと詳細な画像となる。このことから、X線管においては焦点サイズを小さくする目的で電子源の小型化、収束筒の設置、ターゲットに角度をつける等の手段が採られる(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】高橋大造、深井利眞、錦織祐市、高橋怜那、「冷陰極可動式エックス線管の開発」、明電時報 通巻360号 2018 No.3
【特許文献】
【0005】
【文献】特許4390847号公報
【文献】特許5424098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
X線管の焦点には2種類ある。電子源から出た電子ビームが細い線束としてターゲットに衝突した場合、ターゲット表面に衝突した領域であって正面から観たものが実焦点と称される。一方、X線射出方向から観たターゲットの衝突領域は実効焦点と称される。一般的に焦点といえば実効焦点を意味する。
【0007】
図4に示された熱陰極型のX線管1のフィラメントから放出する電子ビームの実効焦点の領域は、長方形を成す。ターゲットへの電子ビームの衝突により生じるX線の実効焦点は、ターゲットの配置角度により一面が小さく現れる。前記実効焦点はターゲットの配置角度が小さくなるにつれて小さくなる。このことを利用すれば、フィラメントから発生する電子ビームは長方形でも最終的に正方形に近づき、撮影画像のぼやけが抑制され、焦点の縮小化が図られる。
【0008】
一方、
図5に示された冷陰極型のX線管1は、エミッタ31の電子放出面30が円形を成すことが多い。これは、部品の加工の観点から、エミッタ31を保護するエミッタカバー33が円筒体に形成されるからである。このエミッタカバー33の開口部330から露出したエミッタ31の電子放出面30からの電子線L1がターゲット41に衝突して発生したX線の実効焦点は、同図(a)に示したように、楕円を成し、正円に近づけることが困難であるので、鮮明な画像を得ることができない。
【0009】
エミッタやカバーによる電子ビームの収束さらには実効焦点の縮小化を図るものとして、特許文献1,2に開示の電子放出体があるが、これらも実効焦点の楕円や矩形となることへの対処がなされていない。
【0010】
本発明は、以上の事情を鑑み、冷陰極型の電子放出体からの電子ビームの実効焦点を長短軸または長短辺を有することなく収束して当該電子ビームによる撮影画像の画質の改善を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明の一態様は、電子ビームを放出する電子放出体を収容可能な筒体を有し、前記筒体には、前記電子放出体の電子放出面を露出する開口部が形成され、前記開口部の周縁部は、凸曲面を成し、前記周縁部は、対向する一対の縁部と、この一対の縁部と高さが異なって対向する他の一対の縁部と、を有し、前記周縁部の高さは、前記一対の縁部から前記他の一対の縁部に至るに連れて次第に異なる電子ビーム収束機構である。
【0012】
本発明の一態様は、電子ビームを放出する電子放出体を収容する筒体を有し、前記筒体には、前記電子放出体の電子放出面を露出する開口部が形成され、前記開口部の周縁部は、凸曲面を成し、前記開口部は、対向する一対の辺の曲率半径がこの一対の辺に隣接して対向する他の一対の辺の曲率半径と異なる電子ビーム収束機構である。
【0013】
本発明の一態様は、前記電子ビーム収束機構において、前記筒体は、円筒体である。
【0014】
本発明の一態様は、上記の電子ビーム収束機構を有する電界放射装置である。
【発明の効果】
【0015】
以上の本発明によれば、冷陰極型の電子放出体からの電子ビームの実効焦点が長短軸または長短辺を有することなく収束するので、当該電子ビームによる撮影画像の画質の改善が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の電子ビーム収束機構の一態様が適用される電界放射装置の概略構成図。
【
図2】(a)前記電界放射装置のエミッタカバーの斜視図、(b)当該エミッタカバーのX断面図及びY断面図。
【
図3】(a)は前記電界放射装置における実効焦点の制御説明図、(b)は(a)のA矢視図。
【
図4】熱陰極型の電界放射装置における実効焦点の制御説明図。
【
図5】(a)従来のエミッタカバーを備えた冷陰極型の電界放射装置における実効焦点の制御説明図、(b)は(a)のA矢視図。
【
図6】本発明の電子ビーム収束機構の一態様であるエミッタカバーの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1に示されたX線管1は、本発明の電子ビーム収束機構の一態様が適用された電界放射装置の一例である。X線管1は、筒状の絶縁体2の一端部及び他端部がエミッタユニット3及びターゲットユニット4により各々封止されることで、絶縁体2内に真空室10が確保された真空容器11が構成される。エミッタユニット3とターゲットユニット4との間には、真空室10の横断方向に延在するグリッド電極5が設けられる。
【0019】
絶縁体2は、セラミック等を素材とする円筒状の同径の絶縁部材21,22から成る。絶縁部材21,22は、エミッタユニット3とターゲットユニット4との間でグリッド電極5を介して直列に配されて蝋付けされることで、真空室10を形成する。
【0020】
エミッタユニット3は、エミッタ31、エミッタ支持部32及びエミッタカバー33を備える。
【0021】
エミッタ31は、本発明の電子放出体の一態様であって、カーボンナノチューブ等の炭素素材から成り、円柱状に形成され、真空室10内でターゲットユニット4と対向し、ターゲット41またはグリッド電極5との間での電圧印加により電子ビームとして電子線L1を放出する。
【0022】
エミッタ支持部32は、エミッタカバー33内でエミッタ31を支持する。エミッタ支持部32の端部には、このエミッタ支持部32を操作する操作部34が接続される。操作部34は、例えば
図1に示したエミッタカバー33内に挿入可能な円盤状を成すが、エミッタ支持部32を操作できるものでればよいので、エミッタ支持部32の端部に同軸接続される棒状を成すものであってもよい。
【0023】
エミッタカバー33は、ステンレス等の材料から成り、エミッタ31及びエミッタ支持部32を収容して真空室10を密閉する。エミッタカバー33としては、エミッタ31の電子放出面30の外周側に配され、操作部34の可動によりエミッタカバー33にエミッタ31が当接した際にエミッタ31からの電子線L1の分散を抑制できるものであれば、種々の形態を適用できる。
【0024】
エミッタカバー33の具体的な態様例としては、エミッタ31を支持したエミッタ支持部32が挿入される異径の円筒体35を成す。ターゲットユニット4と対向する円筒体35の一端部には、エミッタ31の電子放出面30を露出する開口部330が形成されている。また、円筒体35の他端部には、絶縁部材22の端部から真空室10を密閉するフランジ部37が具備されている。さらに、円筒体35内の段差部36にはベローズ38の一端が配置される。ベローズ38は、円筒体35内の段差部36と操作部34との間に気密に介在して操作部34の操作により伸縮する。以上の態様により、ベローズ38の取付作業が容易となると共にその取付構造も安定化する。また、円筒体35が前記他端部から前記一端部に近づくに連れて縮径することで、エミッタ31の電子放出面30は開口部330に向かって案内されながらエミッタカバー33内を移動できる。尚、操作部34が上述の図示省略の棒状に形成された場合、ベローズ38は、エミッタ支持部32の端部とフランジ部37との間に気密に介在して操作部34の操作により伸縮できるように、円筒体35内に配置される。
【0025】
図2に示されたエミッタカバー33の開口部330の周縁部331は、
図3のターゲット41の傾斜面40の短軸aと同一平面のX断面(以下、同様)を介して対向する一対の縁部332と、この縁部332の高さと異なってX断面に垂直なY断面(以下、同様)を介して対向する他の一対の縁部333を有する。また、周縁部331は凸曲面を成し、その高さは縁部332から縁部333に至るに連れて次第に異なる。例えば、縁部332の高さAは縁部333に至るに連れて高くなり縁部333の高さBに近づくように設定される(高さB>高さA)。
【0026】
ターゲットユニット4は、エミッタ31の電子放出面30と対向する円柱状のターゲット41と、絶縁部材21の端部に固定されて真空室10を密閉するフランジ部42と、を備える。ターゲット41は、エミッタ31の電子放出面30から放出された電子線L1が衝突して例えばX線L2を放出する。エミッタ31と対向するターゲット41の部位には、電子線L1に対して所定角度で傾斜する傾斜面40が確保される。そして、この傾斜面40に電子線L1が衝突することで、X線L2は、ターゲット41(傾斜面40)に照射された電子線L1の実焦点f1が実効焦点f2に縮小するように収束されて、電子線L1の照射方向から折曲した方向に照射される。尚、ターゲット41は絶縁部材21の全長方向に移動自在に備えてもよい。
【0027】
グリッド電極5は、エミッタユニット3とターゲットユニット4との間に介在し、エミッタユニット3の電子放出面30から放出された電子線L1を適宜制御する。グリッド電極5は、真空室10の横断方向に延在して配置され、電子線L1が通過する通過孔50が形成された電極部51と、この電極部51に接続されて絶縁部材21,22の間から引き出される引出端子52と、を備える。
【0028】
以下、本態様のX線管1の作用効果について説明する。
【0029】
図5(a)に示された従来の冷陰極型のX線管1は、エミッタカバー33の周縁部331の高さが均等であること以外は、
図1のX線管1の態様と同様である。これにより、断面円形S1のエミッタ31からターゲット41に達する電子線L1の実焦点f1は断面円形S1よりも縮小した楕円形に収束する。ここで、エミッタ31からターゲット41に至る電子線L1の実効焦点f2の幅は、ターゲット41における傾斜面40の配置角度の恩恵を受けないため、
図5(b)に示されたエミッタカバー33の周縁部331のみにより収束された電子線L1の実焦点f1の幅と略同等となる。そして、ターゲット41に衝突した電子線L1はX線L2を発生させる。このとき、X線L2の実効焦点f2は、同図(a)に示したようにターゲット41の配置角度の効果により実焦点f1よりも縮小するため、楕円形となる。
【0030】
これに対して、
図1に示された本実施形態のX線管1において、
図2に示したようにエミッタカバー33の周縁部331は、縁部332よりも高位の縁部333のX断面がターゲット41の傾斜面40の短軸aと同一平面に配されている。このとき、
図3(a)に示されたように、対向する一対の縁部332の作用により、ターゲット41に達する電子線L1の実焦点f1はエミッタ31の断面円形S1よりも縮小した円形に収束される。そして、同図(b)に示されたように、対向する一対の縁部333の作用により、縁部332による収束と比べて、電子線L1の実焦点f1がさらに縮小した円形に収束する。以上のように、本態様のエミッタカバー33の周縁部331の高さを均等としないことで、ターゲット41から発するX線L2の実効焦点f2が、楕円(または長方形)でなく真円(または正方形)に縮小するように収束する。
【0031】
したがって、以上のX線管1によれば、エミッタ31から放出された電子線L1の実焦点f1から長短軸(または長短辺)を有さないX線L2の実効焦点f2が得られるので、冷陰極型の電子放出体からの電子ビームを利用した撮影画像の画質の改善が図られる。
【0032】
以上の電子ビーム収束機構は、さらに、従来の電子ビームを収束させる技術(カバー形状、グリッド電極形状、エミッタ、グリッド電極、ターゲット配置等)と組み合わせたX線放射装置の態様とするよい。本態様によれば、X線の実効焦点のさらなる縮小化が可能となり、撮影画像の画質の改善をさらに図ることができる。
【0033】
尚、本発明の電子ビーム収束機構の他の態様としては、例えば
図6に示したエミッタカバー33が挙げられる。このエミッタカバー33は、周縁部331が均等な高さの凸曲面を成すが、その開口部330は、X断面を介して対向する一対の辺334の曲率半径R1がこの一対の辺334に隣接してY断面を介して対向する他の一対の辺335の曲率半径R2と異なる(R1>R2)。本態様によっても
図2のエミッタカバー33と同様の効果が得られる。さらに、
図6の周縁部331は縁部333の高さを縁部332よりも高く設定すれば、前記効果がさらに高まる。
【符号の説明】
【0034】
1…X線管、10…真空室、11…真空容器
3…エミッタユニット、30…電子放出面、31…エミッタ、33…エミッタカバー、35…円筒体、330…開口部、331…周縁部、332,333…縁部、A,B…高さ、334,335…辺、R1,R2…曲率半径
4…ターゲットユニット、40…傾斜面、a…傾斜面40の短軸、41…ターゲット
5…グリッド電極