IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小野薬品工業株式会社の特許一覧

特許7533330PD-1/CD3二重特異性タンパク質による血液がん治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】PD-1/CD3二重特異性タンパク質による血液がん治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240806BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240806BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20240806BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240806BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K45/00
A61P35/00
A61P7/00
A61P35/02
A61P43/00 121
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C12N15/62 Z
C07K16/46
【請求項の数】 47
(21)【出願番号】P 2021067509
(22)【出願日】2021-04-13
(62)【分割の表示】P 2020115367の分割
【原出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2021105053
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2019126503
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019139752
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴山 史朗
(72)【発明者】
【氏名】新坊 拓也
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/011911(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/072286(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/070047(WO,A1)
【文献】特表2011-525808(JP,A)
【文献】特表2018-520169(JP,A)
【文献】稲葉亨、西村博志,血管免疫芽球性T細胞リンパ腫,臨床検査,2013年,57,p.1634-1637
【文献】HUANG, J. et al.,A skewed distribution and increased PD-1+Vβ+CD4+/CD8+ T cells in patients with acute myeloid leukemia,J. Leukoc. Biol.,2019年05月28日,106,p.725-732
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有し、PD-1およびCD3に対して各々特異的に結合する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む、血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、PD-1に特異的に結合する第一アームが、
(A)(a)配列番号6のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号7のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号8のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(B)(a)配列番号9のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号10のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号11のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(C)(a)配列番号12のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号13のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(D)(a)配列番号15のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号16のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号17のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、ならびに
(E)(a)配列番号18のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号19のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号20のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVHから選択される何れか一つのVH、ならびに
(F)(a)配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、
(b)配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および
(c)配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を有するVLを含み、
当該二重特異性抗体またはその抗体断片のCD3に特異的に結合する第二アームが、
(A)(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVHならびに
(B)(a)配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、
(b)配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および
(c)配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を有するVLを含む、当該(但し、PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの治療剤であって、(A)PD-1に特異的に結合する第一アームが、配列番号5のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有し、ならびに(B)CD3に特異的に結合する第二アームが、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、当該剤を除く。)
【請求項2】
(i)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号6のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号7のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号8のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、請求項1記載の剤。
【請求項3】
(i)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号9のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号10のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号11のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、請求項1記載の剤。
【請求項4】
(i)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号12のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号13のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、請求項1記載の剤。
【請求項5】
(i)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号15のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号16のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号17のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、請求項1記載の剤。
【請求項6】
(i)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号18のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号19のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号20のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、請求項1記載の剤。
【請求項7】
PD-1に特異的に結合する第一アームのVHのFR1、FR2およびFR3領域が、生殖細胞系列型V遺伝子IGHV7-4-1の体細胞突然変異を受けていてもよい当該遺伝子にコードされるアミノ酸配列に各々対応し、FR4領域が、生殖細胞系列型J遺伝子JH6cの体細胞突然変異を受けていてもよい当該遺伝子にコードされるアミノ酸配列(但し、VH-CDR3領域に含まれるアミノ酸配列を除く。)からなる、請求項1~の何れか一項記載の剤。
【請求項8】
PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列、または当該VHのアミノ酸配列と少なくとも80%同一なアミノ酸配列からなる、請求項1~の何れか一項記載の剤。
【請求項9】
CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、配列番号36のアミノ酸配列、または当該VHのアミノ酸配列と少なくとも80%同一なアミノ酸配列からなる、請求項1~の何れか一項記載の剤。
【請求項10】
PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、配列番号36のアミノ酸配列からなる、請求項1記載の剤。
【請求項11】
PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号1のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸配列からなる、請求項1または2記載の剤。
【請求項12】
PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号2のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸配列からなる、請求項1または記載の剤。
【請求項13】
PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号3のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸配列からなる、請求項1または記載の剤。
【請求項14】
PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号4のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸配列からなる、請求項1または記載の剤。
【請求項15】
PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号5のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸配列からなる、請求項1または記載の剤。
【請求項16】
PD-1に特異的に結合する第一アームおよび/またはCD3に特異的に結合する第二アームが、各々、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、請求項1~1の何れか一項に記載の剤。
【請求項17】
PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有し、PD-1およびCD3に対して各々特異的に結合する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、(A)PD-1に特異的に結合する第一アームが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有し、ならびに
(B)CD3に特異的に結合する第二アームが、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、当該剤(但し、PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの治療剤であって、(A)PD-1に特異的に結合する第一アームが、配列番号5のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有し、ならびに(B)CD3に特異的に結合する第二アームが、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、当該剤を除く。)。
【請求項18】
PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有し、PD-1およびCD3に対して各々特異的に結合する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、当該PD-1に特異的に結合する第一アームが、(1)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、PD-1に特異的に結合する第一アームのPD-1への結合もしくは(2)当該VHおよびVLからなるPD-1に特異的に結合するモノクローナル抗体の可変領域のPD-1への結合に交差競合する、当該剤(但し、PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの治療剤であって、(A)PD-1に特異的に結合する第一アームが、配列番号5のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有し、ならびに(B)CD3に特異的に結合する第二アームが、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、当該剤を除く。)。
【請求項19】
PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有し、PD-1およびCD3に対して各々特異的に結合する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、当該PD-1に特異的に結合する第一アームによるPD-1への結合が、(1)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、PD-1に特異的に結合する第一アームもしくは(2)当該VHおよびVLからなるPD-1に特異的に結合するモノクローナル抗体の可変領域によって交差競合される、当該剤(但し、PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの治療剤であって、(A)PD-1に特異的に結合する第一アームが、配列番号5のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有し、ならびに(B)CD3に特異的に結合する第二アームが、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、当該剤を除く。)。
【請求項20】
さらに、当該CD3に特異的に結合する第二アームが、(1)配列番号36のアミノ酸配列からなるVHおよび配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、CD3に特異的に結合する第二アームのCD3への結合または(2)当該VHおよびVLからなるCD3に特異的に結合するモノクローナル抗体の可変領域のCD3への結合に交差競合する、請求項18または19記載の剤。
【請求項21】
当該二重特異性抗体が、IgG抗体である、請求項1~2の何れか一項に記載の剤。
【請求項22】
当該IgG抗体が、IgG1抗体またはIgG4抗体である、請求項2記載の剤。
【請求項23】
当該IgG抗体が、IgG1抗体である、請求項2記載の剤。
【請求項24】
当該IgG1抗体のFc受容体への結合が消失あるいは減弱された、請求項2記載の剤。
【請求項25】
当該IgG1抗体の2個の重鎖定常領域中のEUナンバリングシステムにおける235番目のロイシンが各々グリシンに置換され、および/または236番目のグリシンが各々アルギニンに置換された、請求項2記載の剤。
【請求項26】
PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖における定常領域中のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシンがリシンに置換され、かつ366番目のスレオニンがリシンに置換され、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖における定常領域中の351番目のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換された、請求項2~2の何れか一項に記載の剤。
【請求項27】
PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖における定常領域中のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換され、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖における定常領域中の351番目のロイシンがリシンに置換され、かつ366番目のスレオニンがリシンに置換された、請求項2~2の何れか一項に記載の剤。
【請求項28】
当該IgG1抗体の2個の重鎖定常領域中のEUナンバリングシステムによる447番目のリシンが各々欠如している、請求項2~2の何れか一項に記載の剤。
【請求項29】
当該IgG抗体のFcRn受容体への結合が消失あるいは減弱した、請求項2~2の何れか一項記載の剤。
【請求項30】
当該IgG1抗体における2個の重鎖定常領域中の(1)EUナンバリングシステムにおける252番目のメチオニンがグルタミン酸、プロリン、アルギニンもしくはアスパラギン酸に、(2)EUナンバリングシステムにおける434番目のアスパラギンがロイシンに、および/または(3)EUナンバリングシステムにおける438番目のグルタミンがグルタミン酸に各々置換された、請求項2~2の何れか一項記載の剤。
【請求項31】
当該IgG1抗体における2個の重鎖定常領域中のEUナンバリングシステムにおける252番目のメチオニンが各々アスパラギン酸に置換された、請求項2~3の何れか一項記載の剤。
【請求項32】
当該IgG抗体がIgG4抗体であって、その2個の重鎖定常領域中のEUナンバリングシステムによる228番目のセリンが各々プロリンに置換された、請求項2記載の剤。
【請求項33】
PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖が、配列番号23、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46および配列番号47から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含む、請求項1~3の何れか一項記載の剤。
【請求項34】
CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖が、配列番号24、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52および配列番号53から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含む、請求項1~3および3の何れか一項記載の剤。
【請求項35】
PD-1に特異的に結合する第一アームのVLを有する軽鎖および/またはCD3に特異的に結合する第二アームのVLを有する軽鎖が、配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の剤。
【請求項36】
PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有し、PD-1およびCD3に対して各々特異的に結合する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、ここで、当該二重特異性抗体は、
(A)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖、
(B)PD-1に特異的に結合する第一アームのVLを有する軽鎖、
(C)CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖、および
(D)CD3に特異的に結合する第二アームのVLを有する軽鎖からなり、
(a)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号23、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46および配列番号47から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含み、
(b)PD-1に特異的に結合する第一アームのVLを有する軽鎖が、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLおよび配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を含み、
(c)CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖が、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号24、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52および配列番号53から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含み、および
(d)CD3に特異的に結合する第二アームのVLを有する軽鎖が、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLおよび配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を含む、当該剤(但し、PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの治療剤であって、ここで、当該二重特異性抗体は、
(A)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖、
(B)PD-1に特異的に結合する第一アームのVLを有する軽鎖、
(C)CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖、および
(D)CD3に特異的に結合する第二アームのVLを有する軽鎖からなり、
(a)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖が、配列番号5のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号23のアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を有し、
(b)PD-1に特異的に結合する第一アームのVLを有する軽鎖が、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLおよび配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を有し、
(c)CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖が、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号24のアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を有し、ならびに
(d)CD3に特異的に結合する第二アームのVLを有する軽鎖が、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLおよび配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を有する、当該剤を除く。)。
【請求項37】
当該血液がんが、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、白血病、中枢神経系原発悪性リンパ腫および骨髄増殖症候群から選択される1以上のがんである、請求項1~3の何れか一項記載の剤。
【請求項38】
PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの治療剤であって、
(A)PD-1に特異的に結合する第一アームが、配列番号5のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有し、ならびに
(B)CD3に特異的に結合する第二アームが、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有し、
当該血液がんが、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、白血病、中枢神経系原発悪性リンパ腫および骨髄増殖症候群から選択される1以上のがんである、当該剤。
【請求項39】
当該血液がんが悪性リンパ腫であり、悪性リンパ腫が非ホジキンリンパ腫またはホジキンリンパ腫である、請求項3または3記載の剤。
【請求項40】
悪性リンパ腫が非ホジキンリンパ腫であり、非ホジキンリンパ腫がB細胞性非ホジキンリンパ腫またはT/NK細胞性非ホジキンリンパ腫である、請求項39記載の剤。
【請求項41】
非ホジキンリンパ腫がB細胞性非ホジキンリンパ腫であり、B細胞性非ホジキンリンパ腫が、前駆B細胞リンパ芽球性リンパ腫、前駆B細胞急性リンパ球芽性白血病、慢性Bリンパ性白血病、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、節性辺縁帯B細胞性リンパ腫、節外性辺縁帯B細胞性リンパ腫、脾原発辺縁帯B細胞性リンパ腫、有毛細胞白血病、有毛細胞白血病・バリアント型、濾胞性リンパ腫、小児型濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・非特定型、脾びまん性赤脾髄小型B細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、バーキットリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、単クローン性B細胞リンパ球増加症、脾B細胞リンパ腫/白血病・分類不能型、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症・IgM型、μ重鎖病、λ重鎖病、α重鎖病、形質細胞骨髄腫、骨孤在性形質細胞腫、骨外性形質細胞腫、単クローン性免疫グロブリン沈着病、IRF4再構成を伴う大細胞型B細胞リンパ腫、原発性皮膚濾胞中心リンパ腫、T細胞/組織球豊富型大細胞型B細胞リンパ腫、原発性中枢神経系びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、原発性皮膚びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・下肢型、EBV陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・非特定型、EBV陽性粘膜皮膚潰瘍、慢性炎症関連びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、ALK陽性大細胞型B細胞リンパ腫、形質芽球性リンパ腫、原発性体腔液リンパ腫、HHV8陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・非特異型、11q異常を伴うバーキット様リンパ腫、MYCおよびBCL2とBCL6の両方か一方の再構成伴う高悪性度B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫・非特異型またはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と古典的ホジキンリンパ腫の中間的特徴を伴うB細胞リンパ腫・分類不能型である、請求項4記載の剤。
【請求項42】
非ホジキンリンパ腫がT/NK細胞性非ホジキンリンパ腫であり、T/NK細胞性非ホジキンリンパ腫が、前駆T細胞リンパ芽球性リンパ腫、慢性Tリンパ球性白血病、T細胞急性リンパ性白血病、T細胞型大顆粒リンパ球性白血病、大顆粒NK細胞性白血病、急速進行性NK細胞白血病、末梢性T細胞リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫・非特定型、分類不能末梢性T細胞リンパ腫、血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫、未分化大細胞(CD30陽性)リンパ腫、血管中心性リンパ腫、腸管T細胞性リンパ腫、腸症型T細胞リンパ腫、肝脾型γ-δT細胞リンパ腫、皮下脂肪組織炎様T細胞リンパ腫、菌状息肉症、セザリー症候群、ホジキン様/ホジキン関連未分化大細胞リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、成人T細胞性リンパ腫、T細胞前リンパ球性白血病、慢性NK細胞リンパ増殖異常症、小児全身性EBV陽性T細胞リンパ腫、種痘様水疱症様リンパ増殖異常症、節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型、腸症関連T細胞リンパ腫、単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫、胃腸管緩徐進行性T細胞リンパ増殖異常症、肝脾T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性T細胞リンパ増殖異常症、リンパ腫様丘疹症、原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫、原発性皮膚γδT細胞リンパ腫、原発性皮膚CD8陽性急速進行性表皮向性細胞傷害性T細胞リンパ腫、原発性皮膚先端型CD8陽性T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD4陽性小型/中型T細胞リンパ増殖性症、濾胞T細胞リンパ腫、濾胞ヘルパーT細胞形質を伴う節性末梢性T細胞リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫・ALK陽性型、未分化大細胞リンパ腫・ALK陰性型または乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫である、請求項4記載の剤。
【請求項43】
悪性リンパ腫がホジキンリンパ腫であり、ホジキンリンパ腫が古典的ホジキンリンパ腫または結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫である、請求項39記載の剤。
【請求項44】
当該血液がんが白血病であり、白血病が、急性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄異形成症候群または慢性骨髄性白血病である、請求項3または3記載の剤。
【請求項45】
非ホジキンリンパ腫がT/NK細胞性非ホジキンリンパ腫であり、T/NK細胞性非ホジキンリンパ腫が、末梢性T細胞リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫または成人T細胞性リンパ腫である、請求項4記載の剤。
【請求項46】
さらに、他の抗がん薬と併用される請求項1~4の何れか一項記載の剤。
【請求項47】
当該他の抗がん薬が、アルキル化薬、白金製剤、代謝拮抗剤、リボヌクレオチドリダクターゼ阻害薬、ヌクレオチドアナログ、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管重合阻害薬、微小管脱重合阻害薬、抗腫瘍性抗生物質、サイトカイン製剤、分子標的薬およびがん免疫治療薬から選択される一以上の薬剤である、請求項4記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PD-1およびCD3に各々特異的に結合することができる二重特異性タンパク質
(以下、「PD-1/CD3二重特異性タンパク質」と略記することがある。)の医薬治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
PD-1は免疫グロブリンファミリーに属する免疫抑制受容体であり、抗原レセプターからの刺激により活性化したT細胞の免疫活性化シグナルを抑制する機能を持つ分子である。PD-1ノックアウトマウスの解析等から、PD-1シグナルは、自己免疫性拡張型心筋症、ループス様症候群、自己免疫性脳脊髄炎、全身性ループスエリテマトーデス、移植片対宿主病、I型糖尿病およびリウマチ性関節炎などの自己免疫疾患の抑制に重要な役割を果たすことが知られている。したがって、PD-1シグナルを増強する物質は自己免疫疾患等の予防または治療剤となり得ることが指摘されている。
【0003】
これまでにPD-1シグナルを増強する物質として、PD-1を認識する二重特異性抗体が知られている(特許文献1ないし3)。この二重特異性抗体は、T細胞受容体複合体のメンバーであるCD3を認識する抗体の抗原認識部位とPD-1を認識する抗体の抗原認識部位とを遺
伝子工学的に連結されたものであり、PD-1をT細胞受容体複合体近傍に位置させる頻度を上げることによって、T細胞受容体複合体に対するPD-1の抑制シグナルを増強する作用をもつ。さらに、同特許文献には、PD-1二重特異性抗体が自己免疫疾患等の予防または治療に使用できることも記載されている。
【0004】
しかしながら、PD-1/CD3二重特異性タンパク質が血液がんの予防または治療に有効であることの報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2003/011911号パンフレット
【文献】国際公開第2004/072286号パンフレット
【文献】国際公開第2013/022091号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、血液がんに対する予防、症状進展抑制、再発抑制または治療のための新たな薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは鋭意検討した結果、かかる課題を解決し得る物質として、本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質に着目し、これらが血液がんの予防または治療に効果が期待できることを確認し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アームを
有する二重特異性タンパク質(本明細書において、「PD-1およびCD3に各々特異的に結合
することができる二重特異性タンパク質」と同義であり、これについても、「PD-1/CD3二重特異性タンパク質」と略記することがある。)を有効成分として含む、血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤。
[2] 当該二重特異性タンパク質が、PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に
特異的に結合する第二アームを有する二重特異性抗体(以下、「PD-1/CD3二重特異性抗体」と略記することがある。)またはその抗体断片(以下、これらをあわせて「PD-1/CD3二重特異性抗体等」と略記することがある。)である、前項[1]記載の剤。
[3] 当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームが、
(A)(a)配列番号6のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域の相補性決定領域1(以下、「重鎖可変領域の相補性決定領域1」を、VH-CDR1と略記することがある。)、
(b)配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域の相補性決定領域2(以下、「重鎖可変領域の相補性決定領域2」を、VH-CDR2と略記することがある。)および
(c)配列番号8のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域の相補性決定領域3(以下、「重鎖可変領域の相補性決定領域3」を、VH-CDR3と略記することがある。)を有する重鎖可
変領域(以下、「重鎖可変領域」を、VHと略記することがある。)、
(B)(a)配列番号9のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号10のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号11のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(C)(a)配列番号12のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号13のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(D)(a)配列番号15のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号16のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号17のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、ならびに
(E)(a)配列番号18のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号19のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号20のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVHから選択される何れか一
つのVHを有し、ここで、PD-1に特異的に結合する第一アームにおける、VH-CDR1、VH-CDR2およびVH-CDR3の何れか一つまたは複数のVH-CDRにおいて、各々その任意の1~5個のア
ミノ酸残基が他のアミノ酸(好ましくは、その保存的アミノ酸)に置換されていてもよい、前項[2]記載の剤。
[4] 当該二重特異性抗体等のCD3に特異的に結合する第二アームが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVHを有し、ここで、CD3に特異的に結合する第二アームにおける、VH-CDR1、VH-CDR2およびVH-CDR3の何れか一つまた
は複数のVH-CDRにおいて、各々その任意の1~5個のアミノ酸残基が他のアミノ酸(好ましくは、その保存的アミノ酸)に置換されていてもよい、前項[2]または[3]の何れか一項記載の剤。
[5] 当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームが、
(A)(a)配列番号6のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号7のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号8のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(B)(a)配列番号9のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号10のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号11のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(C)(a)配列番号12のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号13のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(D)(a)配列番号15のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号16のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号17のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、ならびに
(E)(a)配列番号18のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号19のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号20のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVHから選択される何れか一
つのVHを有する、前項[2]~[4]の何れか一項記載の剤。
[6] 当該二重特異性抗体等のCD3に特異的に結合する第二アームが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVHを有する、前項[2]~[
5]の何れか一項記載の剤。
[7] (i)当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号6のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号7のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号8のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)当該二重特異性抗体等のCD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、前項[2]記載の剤。
[8] (i)当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号9のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号10のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号11のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)当該二重特異性抗体等のCD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、前項[2]記載の剤。
[9] (i)当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号12のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号13のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)当該二重特異性抗体等のCD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、前項[2]記載の剤。
[10] (i)当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号15のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号16のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号17のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)当該二重特異性抗体等のCD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、前項[2]記載の剤。
[11] (i)当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号18のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号19のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号20のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)当該二重特異性抗体等のCD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、前項[2]記載の剤。
[12] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アーム
を有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの予防、症状
進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、PD-1に特異的に結合する第一アームが、
(a)HYJLHで表されるアミノ酸配列[配列中、Jは、G(グリシン)またはA
(アラニン)を表わし、ここで、Jが表わす、あるいはその他のアルファベットは、各々アミノ酸の一文字略号を表わす。]からなるVH-CDR1、
(b)WJNTNTUNPTXAQGFTGで表されるアミノ酸配列[配列中、J
は、L(ロイシン)またはI(イソロイシン)を表わし、Uは、E(グルタミン酸)またはG(グリシン)を表わし、Xは、F(フェニルアラニン)またはY(チロシン)を表わし、ここで、J、UおよびXが各々表わす、あるいはその他のアルファベットは、各々上記と同じ意味を表わす。]からなるVH-CDR2、および
(c)GDJVVPTTIWNYYUMZVで表されるアミノ酸配列[配列中
、Jは、M(メチオニン)またはL(ロイシン)を表わし、Uは、H(ヒスチジン)またはY(チロシン)を表わし、Xは、F(フェニルアラニン)またはY(チロシン)を表わし、Zは、D(アスパラギン酸)またはE(グルタミン酸)を表わし、ここで、J、U、XおよびZが各々表わす、あるいはその他のアルファベットは、各々上記と同じ意味を表わす。]からなるVH-CDR3を有するVHを有し、ならびに
CD3に特異的に結合する第二アームが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVHを有する、当該剤。
[13] (a)JはG(グリシン)を表わし、JはL(ロイシン)を表わし、U
はE(グルタミン酸)を表わし、XはF(フェニルアラニン)を表わし、JはM(メチオニン)を表わし、UはH(ヒスチジン)を表わし、XはF(フェニルアラニン)を表わし、およびZはD(アスパラギン酸)を表わすか、
(b)JはG(グリシン)を表わし、JはI(イソロイシン)を表わし、UはG(
グリシン)を表わし、XはY(チロシン)を表わし、JはL(ロイシン)を表わし、UはH(ヒスチジン)を表わし、XはY(チロシン)を表わし、およびZはE(グルタミン酸)を表わすか、
(c)JはA(アラニン)を表わし、JはL(ロイシン)を表わし、UはE(グル
タミン酸)を表わし、XはY(チロシン)を表わし、JはM(メチオニン)を表わし、UはY(チロシン)を表わし、XはY(チロシン)を表わし、およびZはD(アスパラギン酸)を表わすか、または
(d)JはA(アラニン)を表わし、JはL(ロイシン)を表わし、UはE(グル
タミン酸)を表わし、XはF(フェニルアラニン)を表わし、JはM(メチオニン)を表わし、UはH(ヒスチジン)を表わし、XはF(フェニルアラニン)を表わし、およびZはD(アスパラギン酸)を表わす、前項[12]記載の剤。
[14] 当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームのVHのフレームワーク(以下、「フレームワーク」を、FRと略記することがある。)領域のうち、フレームワーク1(以下、FR1と略記することがある。)、フレームワーク2(以下、FR2と略記することがある。)およびフレームワーク3(以下、FR3と略記することがある。)領域が
、生殖細胞系列型V遺伝子IGHV7-4-1あるいはその体細胞突然変異を受けた当該遺伝子にコードされるアミノ酸配列に各々対応する、前項[2]~[13]の何れか一項記載の剤。[15] 当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームのVHのフレームワーク4(以下、「フレームワーク4」を、FR4と略記することがある。)領域が、生殖細
胞系列型J遺伝子JH6cあるいはその体細胞突然変異を受けた当該遺伝子にコードされるア
ミノ酸配列(但し、VH-CDR3領域に含まれるアミノ酸配列を除く。)からなる、前項[1
4]記載の剤。
[16] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHのFR領域が、生殖細胞系列型V遺伝子IGHV7-4-1の体細胞突然変異を受けていてもよい当該遺伝子にコードされ、当該体細胞突然変異により、配列番号21のアミノ酸配列中の位置13のリシンがグルタミンに、位置16の
アラニンがバリンに、または位置19のリシンがメチオニンに各々置換されるか、あるいはそれらの任意の複数の組み合わせで置換されたあるいは置換されていてもよいFR1領域を
含む、前項[14]または[15]記載の剤。
[17] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHのFR領域が、生殖細胞系列型V遺伝子IGHV7-4-1の体細胞突然変異を受けていてもよい当該遺伝子にコードされ、当該体細胞突然変異により、配列番号21のアミノ酸配列中の位置37のバリンがロイシンに置換されたあるいは置換されていてもよいFR2領域を含む、前項[14]~[16]の何れか一項記載
の剤。
[18] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHのFR領域が、生殖細胞系列型V遺伝子IGHV7-4-1の体細胞突然変異を受けていてもよい当該遺伝子にコードされ、当該体細胞突然変異により、配列番号21のアミノ酸配列中の位置77のセリンがスレオニンに、または位置84のシステインがセリンもしくはアスパラギンに各々置換されるか、あるいはそれらの任意の複数の組み合わせで置換されたあるいは置換されていてもよいFR3領域を含む、前
項[14]~[17]の何れか一項記載の剤。
[19] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHのFR4領域が、生殖細胞系列型J遺伝子JH6cの体細胞突然変異を受けていてもよい当該遺伝子(但し、VH-CDR3領域をコードする
遺伝子領域を除く。)にコードされ、そのFR4領域のアミノ酸配列(Trp-Gly-Lys-Gly-Thr-Thr*-Val-Thr-Val-Ser-Ser)(配列番号41)中のリシン(Lys)がグルタミンもしくはアスパラギンに、および/または*印のスレオニン(Thr)がロイシンに置換されたある
いは置換されていてもよい、前項[14]~[18]の何れか一項記載の剤。
[20] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列、または当該VHのアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、98%もしくは99%同一なアミノ酸配列からなる、前項[2]~[19]の何れか一項記載の剤。
[21] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる、前項[2]~[11]の何れか一項記載の剤。
[22] CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、配列番号36のアミノ酸配列、ま
たは当該VHのアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、98%もしくは99%同一なアミノ酸配列からなる、前項[2]~[21]の何れか一項記載の剤。
[23] CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、配列番号36のアミノ酸配列から
なる、前項[2]~[21]の何れか一項記載の剤。
[24] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、配列番号36のアミノ酸配列からなる、前項
[2]~[6]の何れか一項記載の剤。
[25] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アーム
を有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、
PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列、または当該VHのアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、98%もしくは99%同一なアミノ酸配列からなり、
CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、配列番号36のアミノ酸配列、または当該VH
のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、98%もしくは99%同一なアミノ酸配列からなる、当該剤。
[26] PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号1のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸配
列からなる、前項[2]~[7]の何れか一項記載の剤。
[27] PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号2のアミノ酸配列
からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸配
列からなる、前項[2]~[6]および[8]の何れか一項記載の剤。
[28] PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号3のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸配
列からなる、前項[2]~[6]および[9]の何れか一項記載の剤。
[29] PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号4のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸配
列からなる、前項[2]~[6]および[10]の何れか一項記載の剤。
[30] PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号5のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸配
列からなる、前項[2]~[6]および[11]の何れか一項記載の剤。
[31] 当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームおよび/またはCD3に特異的に結合する第二アームが、各々、
(a)配列番号26のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の相補性決定領域1(以下、「軽鎖可変領域の相補性決定領域1」を、VL-CDR1と略記することがある。)、
(b)配列番号27のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の相補性決定領域2(以下、「軽鎖可変領域の相補性決定領域2」を、VL-CDR2と略記することがある。)、および
(c)配列番号28のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の相補性決定領域3(以下、「軽鎖可変領域の相補性決定領域3」を、VL-CDR3と略記することがある。)を有する軽鎖
可変領域(以下、「軽鎖可変領域」を、「VL」と略記することがある。)を有する、前項[2]~[30]の何れか一項記載の剤。
[32] 当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームおよび/またはCD3に特異的に結合する第二アームが、各々、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有
する、前項[2]~[30]の何れか一項記載の剤。
[33] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アーム
を有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、
(A)PD-1に特異的に結合する第一アームが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有し、、ならびに
(B)CD3に特異的に結合する第二アームが、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHな
らびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、当該剤。
[34] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アーム
を有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、当該PD-1に特異的に結合する第一アームが、(1)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、PD-1に特異的に結合する第一アームのPD-1への結合もしくは(2)当該VHおよびVLからなるPD-1に特異的に結合するモノクローナル抗体の可変領域のPD-1への結合に交差競合する、当該剤。
[35] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アーム
を有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、当該PD-1に特異的に結合する第一アームによるPD-1への結合が、(1)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一のアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、PD-1に特異的に結合する第一アームもしくは(2)当該VHおよびVLからなるPD-1に特異的に結合するモノクローナル抗体の可変領域によって交差競合される、当該剤。
[36] さらに、当該CD3に特異的に結合する第二アームが、(1)配列番号36のア
ミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、CD3に
特異的に結合する第二アームのCD3への結合または(2)当該VHおよびVLからなるCD3に特異的に結合するモノクローナル抗体の可変領域のCD3への結合に交差競合する、前項[3
4]または[35]記載の剤。
[37] CD3に特異的に結合する第二アームが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVHを有する、前項[34]
または[35]記載の剤。
[38] CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、配列番号36のアミノ酸配列、ま
たは当該VHのアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、98%もしくは99%同一なアミノ酸配列からなる、前項[34]または[35]記載の剤。
[39] CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、配列番号36のアミノ酸配列から
なる、前項[34]または[35]記載の剤。
[40] CD3に特異的に結合する第二アームが、
(a)配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、
(b)配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および
(c)配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を有するVLを有する、前項[34]
、[35]および[37]~[39]の何れか一項記載の剤。
[41] CD3に特異的に結合する第二アームが、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、前項[34]、[35]および[37]~[39]の何れか一項記載の剤。
[42] 当該二重特異性抗体が、IgG抗体である、前項[2]~[41]の何れか一項
記載の剤。
[43] 前項[42]記載のIgG抗体が、IgG1抗体またはIgG4抗体である、前項[42
]記載の剤。
[44] 前項[42]記載のIgG抗体が、IgG1抗体である、前項[42]記載の剤。
[45] 前項[42]記載のIgG抗体が、IgG4抗体である、前項[42]記載の剤。
[46] 当該IgG1抗体のFc受容体への結合が消失あるいは減弱された前項[44]記載の剤。
[47] 前項[44]記載のIgG1抗体における2個の重鎖定常領域中のEUナンバリング
システムにおける235番目のロイシンが各々グリシンに置換され、および/または236番目のグリシンが各々アルギニンに置換された前項[44]記載の剤。
[48] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖における定常領域中のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシンおよび366番目のスレオニンがともにリシンに置換され、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖における定常領域中
の351番目のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換された前項[44]、[46]または[47]記載の剤。
[49] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖における定常領域中のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換され、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有す
る重鎖における定常領域中の351番目のロイシンおよび366番目のスレオニンがともにリシンに置換された前項[44]、[46]または[47]記載の剤。
[50] 前項[44]および[46]~[49]の何れか一項記載のIgG1抗体の2個の
重鎖定常領域中のEUナンバリングシステムによる447番目のリシンが各々欠如している、
前項[44]および[46]~[49]の何れか一項記載の剤。
[51] 当該IgG抗体の胎児性Fc受容体(以下、「FcRn」と略記することがある。)へ
の結合が消失あるいは減弱した前項[42]~[50]の何れか一項記載の剤。
[52] 当該IgG1抗体における2個の重鎖定常領域中の(1)EUナンバリングシステム
における252番目のメチオニンがグルタミン酸、プロリン、アルギニンもしくはアスパラ
ギン酸に、(2)EUナンバリングシステムによる434番目のアスパラギンがロイシンに、
および/または(3)EUナンバリングシステムによる438番目のグルタミンがグルタミン
酸に各々置換された前項[44]、[46]~[51]の何れか一項記載の剤。
[53] 当該IgG1抗体における2個の重鎖定常領域中のEUナンバリングシステムにおけ
る252番目のメチオニンがアスパラギン酸に各々置換された前項[44]、[46]~[
52]の何れか一項記載の剤。
[54] 前項[52]または[53]記載のIgG1抗体の血液中での半減期が、当該アミノ酸置換されていないもとの抗体に比べ短縮された前項[52]または[53]記載の剤。
[55] 前項[52]または[53]記載のIgG1抗体の血液中での半減期が、当該アミノ酸置換されていないもとの抗体に比べ、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%短縮された前項[52]または[53]記載の剤。
[56] 前項[45]記載のIgG4抗体における2個の重鎖定常領域中のEUナンバリング
システムによる228番目のセリンが各々プロリンに置換された前項[45]記載の剤。
[57] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖が、配列番号23、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46および配列番号47から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含む、前項[2]~[42]、[44]、[46]、[47]および[49]~[55]の何れか一項に記載の剤。
[58] CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖が、配列番号24、配列
番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52および配列番号53から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含む、前項[2]~[42]、[44]、[46]、[47]、[49]~[55]および[57]の何れか一項に記載の剤。
[59] PD-1に特異的に結合する第一アームのVLを有する軽鎖および/またはCD3に特
異的に結合する第二アームのVLを有する軽鎖が、配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を含む、前項[2]~[58]の何れか一項記載の剤。
[60] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アーム
を有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤であって、
(A)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号23、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46および配列番号47から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含み、
(B)PD-1に特異的に結合する第一アームのVLを有する軽鎖が、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLおよび配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を含み、
(C)CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖が、配列番号36のアミノ酸
配列からなるVHならびに配列番号24、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52および配列番号53から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含み、および
(D)CD3に特異的に結合する第二アームのVLを有する軽鎖が、配列番号25のアミノ酸
配列からなるVLおよび配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を含む、当該剤。
[61] 当該二重特異性抗体等のPD-1に特異的に結合する第一アームは、抗PD-1抗体のVHおよびVLを含み、当該二重特異性抗体等のCD3に特異的に結合する第二アームは、抗CD3抗体のVHおよびVLを含む、前項[2]記載の剤。
[62] 当該抗PD-1抗体が、Nivolumab、Cemiplimab、Pembrolizumab、Spartalizumab
、Tislelizumab、Dostarlimab、Toripalimab、Camrelizumab、Genolimzumab、Sintilimab、Lodapolimab、Retifanlimab、Balstilimab、Serplulimab、Budigalimab、Prolgolimab
、Sasanlimab、Cetrelimab、Zimberelimab、AMP-514、STI-A1110、ENUM 388D4、ENUM 244
C8、GLS010、CS1003、BAT-1306、AK105、AK103、BI 754091、LZM009、CMAB819、Sym021、GB226、SSI-361、JY034、HX008、ISU106およびCX-188の何れかから選択される、前項[61]記載の剤。
[63] 当該抗CD3抗体が、Foralumab、Muromonab-CD3、Otelixizumab、Teplizumabお
よびVisilizumabの何れかから選択される、前項[61]または[62]の記載の剤。
[64] PD-1およびCD3が、各々ヒトPD-1およびヒトCD3である、前項[1]~[63]の何れか一項記載の剤。
[65] CD3が、CD3εである、前項[1]~[64]の何れか一項記載の剤。
[66] 当該二重特異性抗体が、モノクローナル抗体である、前項[2]~[65]の何れか一項記載の剤。
[67] 当該二重特異性抗体が、単離抗体である、前項[2]~[66]の何れか一項記載の剤。
[68] 当該二重特異性タンパク質が、Scaffold分子または修飾型ペプチドである、前項[1]記載の剤。
[69] 当該Scaffold分子が、Adnectin、Affibody(登録商標)、Anticalin(登録商
標)、Avimer、DARPin、LRRP、Affilin(登録商標)、AffitinまたはFynomerの形態であ
り、当該修飾型ペプチドが特殊環状ペプチド、Addbody(登録商標)またはMirabody(登
録商標)の形態である、前項[68]記載の剤。
[70] 当該二重特異性タンパク質または当該二重特異性抗体もしくはその抗体断片が、標的細胞である血液がんのがん細胞に発現するPD-1およびエフェクター細胞であるリンパ球(例えば、T細胞リンパ球)に発現するCD3に各々特異的に結合する、前項[1]~[69]の何れか一項記載の剤。
[71] 当該二重特異性タンパク質または当該二重特異性抗体もしくはその抗体断片が、標的細胞であるT細胞由来のがん細胞に発現するPD-1およびCD3に各々特異的に結合する、前項[1]~[69]の何れか一項記載の剤。
[72] PD-1に特異的に結合する第一アームが、PD-1およびPD-L1間の相互作用を許容
する、前項[1]~[70]の何れか一項記載の剤。
[73] 当該血液がんが、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、白血病、中枢神経系原発悪性リンパ腫および骨髄増殖症候群から選択される1以上のがんである、前項[1]~[72
]の何れか一項記載の剤。
[74] 当該血液がんが悪性リンパ腫であり、悪性リンパ腫が、非ホジキンリンパ腫またはホジキンリンパ腫である、前項[73]記載の剤。
[75] 悪性リンパ腫が非ホジキンリンパ腫であり、非ホジキンリンパ腫が、B細胞性非ホジキンリンパ腫またはT/NK細胞性非ホジキンリンパ腫である、前項[74]記載の剤。
[76] 非ホジキンリンパ腫がB細胞性非ホジキンリンパ腫であり、B細胞性非ホジキンリンパ腫が、前駆B細胞リンパ芽球性リンパ腫、前駆B細胞急性リンパ球芽性白血病、慢性Bリンパ性白血病、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、節性辺縁帯B細胞性リンパ腫、節外性辺縁帯B細胞性リンパ腫、脾原発辺縁帯B細胞性リンパ腫、有毛細胞白血病、有毛細胞白血病・バリアント型、濾胞性リンパ腫、小児型濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・非特定型、脾びまん性赤脾髄小型B細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、バーキットリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、単クローン性B細胞リンパ球増加症、脾B細胞リンパ腫/白血病・分類不能型、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症・IgM型、μ重鎖病、λ重鎖病、α重鎖病、形
質細胞骨髄腫、骨孤在性形質細胞腫、骨外性形質細胞腫、単クローン性免疫グロブリン沈着病、IRF4再構成を伴う大細胞型B細胞リンパ腫、原発性皮膚濾胞中心リンパ腫、T細胞/組織球豊富型大細胞型B細胞リンパ腫、原発性中枢神経系びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、原発性皮膚びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・下肢型、EBV陽性びまん性大細胞型
B細胞リンパ腫・非特定型、EBV陽性粘膜皮膚潰瘍、慢性炎症関連びまん性大細胞型B細
胞リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、ALK陽性大細胞型B
細胞リンパ腫、形質芽球性リンパ腫、原発性体腔液リンパ腫、HHV8陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・非特異型、11q異常を伴うバーキット様リンパ腫、MYCおよびBCL2とBCL6の両方か一方の再構成伴う高悪性度B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫・非特異型またはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と古典的ホジキンリンパ腫の中間的特徴を伴うB細胞リンパ腫・分類不能型である、前項[75]記載の剤。
[77] 非ホジキンリンパ腫がT/NK細胞性非ホジキンリンパ腫であり、T/NK細胞性非ホジキンリンパ腫が、前駆T細胞リンパ芽球性リンパ腫、慢性Tリンパ球性白血病、T細胞急性リンパ性白血病(T細胞リンパ芽球性白血病)、T細胞型大顆粒リンパ球性白血病、大顆粒NK細胞性白血病、急速進行性NK細胞白血病、末梢性T細胞リンパ腫、末梢性T細胞
リンパ腫・非特定型、分類不能末梢性T細胞リンパ腫、血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫、未分化大細胞(CD30陽性)リンパ腫、血管中心性リンパ腫、腸管T細胞性リンパ腫、腸症型T細胞リンパ腫、肝脾型γ-δT細胞リンパ腫、皮下脂肪組織炎様T細胞リンパ腫、菌状息肉症、セザリー症候群、ホジキン様/ホジキン関連未分化大細胞リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、成人T細胞性リンパ腫、T細胞前リンパ球性白血病、慢性NK細胞リンパ増殖異常症、小児全身性EBV陽性T細胞リンパ腫、種痘様水疱症様リンパ増殖異常症、
節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型、腸症関連T細胞リンパ腫、単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫、胃腸管緩徐進行性T細胞リンパ増殖異常症、肝脾T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性T細胞リンパ増殖異常症、リンパ腫様丘疹症、原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫、原発性皮膚γδT細胞リンパ腫、原発性皮膚CD8陽性急速進行性表皮向性細胞傷害性T
細胞リンパ腫、原発性皮膚先端型CD8陽性T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD4陽性小型/中型T細胞リンパ増殖性症、濾胞T細胞リンパ腫、濾胞ヘルパーT細胞形質を伴う節性末梢性T細胞リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫・ALK陽性型、未分化大細胞リンパ腫・ALK陰性型または乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫である、前項[75]記載の剤。
[78] 悪性リンパ腫がホジキンリンパ腫であり、ホジキンリンパ腫が、古典的ホジキンリンパ腫(例えば、結節硬化型、混合細胞型、リンパ球豊富型およびリンパ球減少型)または結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫である、前項[74]記載の剤。
[79] 当該血液がんが白血病であり、白血病が、急性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄異形成症候群または慢性骨髄性白血病である、前項[73]記載の剤。
[80] 当該血液がんが、小児の血液がんである、前項[1]~[79]の何れか一項記載の剤。
[81] 非ホジキンリンパ腫がT/NK細胞性非ホジキンリンパ腫であり、T/NK細胞性非ホジキンリンパ腫が、末梢性T細胞リンパ腫または成人T細胞性リンパ腫である、前項[75]記載の剤。
[82] 当該血液がんが、他の抗がん薬による治療効果が不十分あるいは十分ではない血液がんである、前項[1]~[81]の何れか一項記載の剤。
[83] 当該血液がんが、他の抗がん薬による治療後に増悪した血液がんである、前項[1]~[82]の何れか一項記載の剤。
[84] 血液がん患者が、他の抗がん薬による治療歴のない、前項[1]~[81]の何れか一項記載の剤。
[85] 当該血液がんが、再発性および/または難治性である、前項[1]~[84]の何れか一項記載の剤。
[86] さらに、他の抗がん薬と併用される、前項[1]~[85]の何れか一項記載の剤。
[87] 当該他の抗がん薬が、アルキル化薬、白金製剤、代謝拮抗剤(例えば、葉酸代謝拮抗薬、ピリジン代謝阻害薬、プリン代謝阻害薬)、リボヌクレオチドリダクターゼ阻害薬、ヌクレオチドアナログ、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管重合阻害薬、微小管脱重合阻害薬、抗腫瘍性抗生物質、サイトカイン製剤、分子標的薬およびがん免疫治療薬から選択される一以上の薬剤である、前項[82]、[83]または[86]記載の剤。
[88] 前項[87]記載の他の抗がん薬の何れか一以上の薬剤を投与される患者に投与されることを特徴とする、前項[86]または[87]記載の剤。
[89] 前項[87]記載の他の抗がん薬の何れか一以上の薬剤の投与後に投与されることを特徴とする、前項[86]または[87]記載の剤。
[90] 前項[87]記載の他の抗がん薬の何れか一以上の薬剤の投与前に投与されることを特徴とする、前項[86]または[87]記載の剤。
[91] ステロイド薬とともに投与されることを特徴とする、前項[1]~[85]の何れか一項記載の剤。
[92] ステロイド薬の投与後に投与されることを特徴とする、前項[1]~[85]何れか一項記載の剤。
[93] 静脈内注射用の前項[1]~[85]何れか一項記載の剤。
[94] 前項[1]~[72]の何れか一項に記載の二重特異性タンパク質または二重特異性抗体もしくはその抗体断片を有効成分として含む、血液がん細胞増殖抑制剤。
[1-1] 前項[1]~[72]の何れか一項に記載の二重特異性タンパク質または二重特異性抗体もしくはその抗体断片の有効量を患者に投与することからなる、血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療方法。
[2-1] 血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に使用される、前項[1]~[72]の何れか一項に記載の二重特異性タンパク質または二重特異性抗体もしくはその抗体断片。
[3-1] 血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療のための医薬の製造における、前項[1]~[72]の何れか一項に記載の二重特異性タンパク質または二重特異性抗体もしくはその抗体断片の使用。
[4-1] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二アー
ムを有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む医薬組成物であって、PD-1に特異的に結合する第一アームが、
(A)(a)配列番号6のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号7のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号8のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(B)(a)配列番号9のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号10のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号11のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(C)(a)配列番号12のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号13のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、
(D)(a)配列番号15のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号16のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号17のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVH、ならびに
(E)(a)配列番号18のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号19のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号20のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVHから選択される何れか一
つのVH、ならびに
(F)(a)配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、
(b)配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および
(c)配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を有するVLを含み、
CD3に特異的に結合する第二アームが、
(A)(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有するVHならびに
(B)(a)配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、
(b)配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および
(c)配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を有するVLを含む、当該医薬組成物

[4-2] (i)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号6のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号7のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号8のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、前項[4-1]記載の医
薬組成物。
[4-3] (i)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号9のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号10のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号11のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、前項[4-1]記載の医
薬組成物。
[4-4] (i)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号12のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号13のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、前項[4-1]記載の医
薬組成物。
[4-5] (i)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号15のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号16のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号17のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、前項[4-1]記載の医
薬組成物。
[4-6] (i)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、
(a)配列番号18のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号19のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号20のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有し、
(ii)CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、
(a)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
(b)配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および
(c)配列番号39のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を有する、前項[4-1]記載の医
薬組成物。
[4-7] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームのVHが、配列番号36のアミノ酸配列からなる、前
項[4-1]記載の医薬組成物。
[4-8] PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号1のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸
配列からなる、前項[4-1]または[4-2]記載の医薬組成物。
[4-9] PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号2のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ酸
配列からなる、前項[4-1]または[4-3]記載の医薬組成物。
[4-10] PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号3のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ
酸配列からなる、前項[4-1]または[4-4]記載の医薬組成物。
[4-11] PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号4のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ
酸配列からなる、前項[4-1]または[4-5]記載の医薬組成物。
[4-12] PD-1に特異的に結合する第一アームにおけるVHが、配列番号5のアミノ酸配列からなり、CD3に特異的に結合する第二アームにおけるVHが、配列番号36のアミノ
酸配列からなる、前項[4-1]または[4-6]記載の医薬組成物。
[4-13] PD-1に特異的に結合する第一アームおよび/またはCD3に特異的に結合す
る第二アームが、各々、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、前項[4-1]~[4-12]の何れか一項記載の医薬組成物。
[4-14] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二ア
ームを有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む医薬組成物であって、
(A)PD-1に特異的に結合する第一アームが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有し、、ならびに
(B)CD3に特異的に結合する第二アームが、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHな
らびに配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する、当該医薬組成物。
[4-15] 当該二重特異性抗体が、IgG抗体である、前項[4-1]~[4-14]
の何れか一項記載の医薬組成物。
[4-16] 当該IgG抗体が、IgG1抗体である、前項[4-15]記載の医薬組成物。
[4-17] 当該IgG1抗体のFc受容体への結合が消失あるいは減弱された、前項[4-16]記載の医薬組成物。
[4-18] 当該IgG1抗体の2個の重鎖定常領域中のEUナンバリングシステムにおける235番目のロイシンが各々グリシンに置換され、および/または236番目のグリシンが各々アルギニンに置換された、前項[4-16]記載の医薬組成物。
[4-19] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖における定常領域中のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシンがリシンに置換され、かつ366番目のスレオニンがリシンに置換され、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖
における定常領域中の351番目のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換された、前項[4-16]~[4-18]の何れか一項記載の医薬組成物。
[4-20] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖における定常領域中のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換され、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを
有する重鎖における定常領域中の351番目のロイシンがリシンに置換され、かつ366番目のスレオニンがリシンに置換された、前項[4-16]~[4-18]の何れか一項記載の医薬組成物。
[4-21] 当該IgG1抗体の2個の重鎖定常領域中のEUナンバリングシステムによる447番目のリシンが各々欠如している、前項[4-16]~[4-20]の何れか一項記載
の医薬組成物。
[4-22] PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖が、配列番号23のアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含む、前項[4-1]~[4-16]の何れか一項記載の医薬組成物。
[4-23] CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖が、配列番号24の
アミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含む、前項[4-1]~[4-16]および[4-22]の何れか一項記載の医薬組成物。
[4-24] PD-1に特異的に結合する第一アームのVLを有する軽鎖および/またはCD3
に特異的に結合する第二アームのVLを有する軽鎖が、配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を含む、前項[4-1]~[4-23]の何れか一項記載の医薬組成物。[4-25] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD3に特異的に結合する第二ア
ームを有する二重特異性抗体またはその抗体断片を有効成分として含む医薬組成物であって、
(A)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVHならびに配列番号23のアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含み、
(B)PD-1に特異的に結合する第一アームのVLを有する軽鎖が、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLおよび配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を含み、
(C)CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖が、配列番号36のアミノ酸
配列からなるVHならびに配列番号24のアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を含み、および
(D)CD3に特異的に結合する第二アームのVLを有する軽鎖が、配列番号25のアミノ酸
配列からなるVLおよび配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域を含む、当該医薬組成物。
[4-26] さらに、薬学的に許容できる担体を含む、前項[4-1]~[4-25]の何れか一項記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質(好ましくは、PD-1/CD3二重特異性抗体またはその抗体断片)は、血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】共通軽鎖のVLおよび定常領域のアミノ酸配列を示す。
図2】共通軽鎖のVLの各CDRのアミノ酸配列を示す。
図3】生殖細胞系列型V遺伝子IGHV7-4-1およびIGHV3-33によって各々コードされるアミノ酸配列を示す。
図4】PD-1に特異的に結合する抗体(以下、抗PD-1抗体と略記することがある。)各クローンのVHと、生殖細胞系列型遺伝子IGHV7-4-1およびJH6cとの配列アラインメントを示す。図中、各クローンのアミノ酸配列中の“-”は、対応する生殖細胞系列型遺伝子IGHV7-4-1あるいはJH6cのアミノ酸配列と同一であるアミノ酸を表わし、アミノ酸の略字が記載されている部分は、同生殖細胞系列型遺伝子のアミノ酸配列と相違するアミノ酸を表わす。
図5】抗PD-1抗体各クローンのVHのアミノ酸配列を示す。
図6】抗PD-1抗体各クローンのVH中の各CDRのアミノ酸配列を示す。
図7】CD3に特異的に結合する抗体(以下、抗CD3抗体と略記することがある。)クローンCD3-2のVHのアミノ酸配列を示す。
図8】抗CD3抗体クローンCD3-2のVH中の各CDRのアミノ酸配列を示す。
図9】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の各重鎖定常領域のアミノ酸配列を示す。
図10】WO2005/118635に記載された抗CD3抗体クローン15C3のVHのアミノ酸配列を示す。なお、下線で示したアミノ酸は、クローンCD3-1の作製においてアラニンに変換される55番目のグリシンを表わす。
図11】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体各クローンのPD-1およびCD3に対する結合活性を各々確認したBiacore(登録商標)測定結果を示す。
図12】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体各クローンのPD-1およびCD3への同時結合性を確認したフローサイトメトリーを示す。
図13】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体各クローンのPD-1/PD-L1相互作用への影響を確認したフローサイトメトリーを示す。
図14】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体各クローンのPD-1への結合に対するPD1-5(Bi)の交差競合性を示す。
図15】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンPD1-5(Bi)(0.01~1000ng/mL)のB細胞リンパ腫細胞株EB-1(図中A)およびヒトPD-1強制発現SU-DHL-4(図中B)に対する細胞増殖抑制作用を示す。
図16】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンPD1-5(Bi)(0.01~1000ng/mL)の多発性骨髄腫細胞株RPMI8226に対する細胞増殖抑制作用を示す。
図17】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンPD1-5(Bi)(0.1~1000ng/mL)の成人T細胞性リンパ腫細胞株ILT-Matに対する細胞増殖抑制作用を示す。
図18】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンPD1-5(Bi)(0.1~1000ng/mL)のヒトPD-1強制発現Jurkat(急性T細胞性白血病細胞株)に対する細胞増殖抑制作用を示す。
図19】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンPD1-5(Bi)およびMut1~Mut3のヒトFcRn結合性を、Biacore(登録商標)にて評価した結果を示す。
図20】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンMut4~Mut6のヒトFcRn結合性を、Biacore(登録商標)にて評価した結果を示す。
図21】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンPD1-5(Bi)、Mut1およびMut4のマウスFcRn結合性を、Biacore(登録商標)にて評価した結果を示す。
図22】PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンPD1-5(Bi)(0.1~1000ng/mL)のT細胞急性リンパ性白血病細胞株HPB-ALLに対する細胞増殖抑制作用を示す。
図23】標的細胞のPD-1分子数と、PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンPD1-5(Bi)存在下でのヒト末梢血T細胞による標的細胞(ヒトPD-1強制発現SU-DHL-4、EB-1およびRPMI8226)に対する細胞傷害活性(EC50(ng/mL))の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
PD-1(Programmed Cell Death-1)は、ヒトにおいては、GenBank登録番号NP_005009で
示されるアミノ酸配列から成る膜型タンパク質である。本明細書において「PD-1」と記載される場合、特に限定しない限り、そのすべてのアイソフォーム、および本発明にかかる「PD-1に特異的に結合する第一アーム」のエピトープが保存された、それら改変体をも含むものとして使用される場合がある。本発明において、PD-1として好ましくは、ヒトPD-1である。
【0012】
CD3は、T細胞受容体と会合してT細胞受容体複合体を形成する膜型タンパク質である
。本明細書において「CD3」と記載される場合、特に限定しない限り、そのサブタイプ(
ε、δ、γおよびζサブタイプ)、および本発明にかかる「CD3に特異的に結合する第二
アーム」のエピトープが保存された、それら改変体をも含むものとして使用される場合がある。本発明において、CD3として好ましくはCD3εであり、また、ヒトCD3であり、より
好ましくはヒトCD3εである。
【0013】
本明細書において「単離」とは、宿主細胞から抽出された、複数ないし無数の成分が含まれる夾雑物の中から同定、分離および/または精製されることにより、実質的に単一の純粋な成分となることを意味する。
【0014】
本明細書において、「二重特異性タンパク質」とは、二つの異なる抗原分子あるいはエピトープに対する結合特異性を一分子に備え持つタンパク質を意味するが、当該結合特異性を有する限りにおいてその形態は何れであってもよく、例えば、二重特異性抗体およびその抗体断片、Scaffold分子(Current Opinion in Biotechnology (2006), Vol. 17, No. 6, p.653-658、Current Opinion in Biotechnology (2007), Vol. 18, p.1-10、Current Opinion in Structural Biology (1997), Vol. 7, p.463-469またはProtein Science (2006), Vol. 15, p.14-27参照)および修飾型ペプチド(例えば、特殊環状ペプチド(J. Synth. Org. Chem., Jpn. (2017), Vol.75, No.11, p.1171-1178)、Addbody(登録商標)およびMirabody(登録商標)など)などが挙げられるが、それに限定されない。さらに、そのようなScaffold分子の例としては、例えば、Adnectin(WO2001/64942参照)、Affibody(登録商標)(WO95/19374およびWO2000/63243参照)、Anticalin(登録商標)(WO99/16873参照)、Avimer(Nature Biotechnology (2005),Vol. 23, p.1556-1561参照)、DARPin(Nature Biotechnology (2004),Vol. 22, p.575-582参照)、LRRP(Nature (2004),Vol. 430,No. 6996, p.174-180参照)、Affilin(登録商標)(WO2001/04144およびWO2004/106368参照)、Affitin(Journal of molecular biology (2008),Vol. 383,No. 5, p.1058-1068参照)およびFynomer(WO2011/023685)などが挙げられるが、それらに限定され
ない。
【0015】
本明細書において「モノクローナル抗体」とは、同一の特定の抗原に対して結合する、実質的に均一である抗体集団から得られた抗体を意味する。
【0016】
本明細書において「二重特異性抗体」とは、二つの異なる抗原分子あるいはエピトープに対する結合特異性を一分子に備え持つ抗体を意味し、「二重特異性モノクローナル抗体」とは、さらに、実質的に均一である抗体集団から得られた二重特異性抗体を意味する。
【0017】
本発明は、PD-1およびCD3に各々特異的に結合することができる二重特異性タンパク質
(本明細書において、PD-1/CD3二重特異性タンパク質と略記することがある。)に関する。本発明において、PD-1/CD3二重特異性タンパク質として好ましくは、PD-1/CD3二重特異性抗体およびその抗体断片であり、さらに、PD-1/CD3二重特異性抗体として好ましくは、PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体であり、より好ましくは、単離PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体であり、さらに好ましくは、単離ヒトPD-1/ヒトCD3二重特異性モノクローナル抗体である。ここで、「単離ヒトPD-1/ヒトCD3二重特異性モノクローナル抗体」とは、ヒトPD-1とヒトCD3に対する、単離された二重特異性モノクローナル抗体を意味
する。
【0018】
ここで、二重特異性抗体の形態には、例えば、ダイアボディ、二重特異性sc(Fv)2、二
重特異性ミニボディ、二重特異性F(ab′)2、二重特異性ハイブリッド抗体、共有結合型ダイアボディ(二重特異性DART)、二重特異性(FvCys)、二重特異性F(ab′-ジッパー)2、二重特異性(Fv-ジッパー)2、二重特異性三鎖抗体および二重特異性mAb2等がある。
【0019】
ダイアボディとは、異なる抗原を認識するVH、VL同士がペプチドリンカーで連結された一本鎖ペプチドの二量体である(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993), Vol. 90, No.14:
p.6444-6448参照)。
【0020】
二重特異性sc(Fv)2とは、異なる抗原を認識する2つの抗体の2組のVH/VLがペプチドリンカーを介して連続する一本鎖の形態で産生されるよう改変された低分子化抗体である(J.
Biological Chemistry (1994), Vol. 269: p.199-206参照)。
【0021】
二重特異性F(ab′)2とは、異なる2つの抗原を認識する抗体のFab′断片が、ジスルフィ
ド結合等により共有結合した低分子化抗体である。
【0022】
二重特異性ミニボディとは、各々異なる抗原を認識するscFvに抗体の定常領域CH3ドメ
インが連結されるよう改変された低分子抗体断片を、そのCH3ドメイン上のジスルフィド
結合等によって共有結合した低分子化抗体である(Biochemistry (1992), Vo.31, No.6, p.1579-1584参照)。
【0023】
二重特異性ハイブリッド抗体とは、異なる2つの抗原を認識する抗体の重鎖/軽鎖複合
体がジスルフィド結合等によって共有結合したインタクトな抗体である。
【0024】
本発明において、好ましい二重特異性抗体の形態としては、二重特異性ハイブリッド抗体である。
【0025】
二重特異性ハイブリッド抗体は、例えば、ハイブリッドハイブリドーマ法(US4474893
参照)で作製されたハイブリドーマから産生させることができる。また、異なる抗原を認識する抗体の重鎖および軽鎖を各々コードする計4種類のcDNAを哺乳動物細胞に共発現な
らびに分泌させて製造することができる。
【0026】
本発明において使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(例えば、KohlerおよびMilsteinら, Natur (1975), Vol. 256, p.495-97、Hongoら, Hybridoma (1995),
Vol. 14, No. 3, p.253-260、Harlowら, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988), Vol. 2)およびHammerlingら, Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas, p.563-681(Elsevier, N.Y., 1981)参照)、組換えDNA法(例えば、US4816567参照)、ファージディスプレイ方法(例えば、LadnerらのUS5223409、US5403484およびUS5571698、DowerらのUS5427908およびUS5580717、McCaffertyらのUS5969108およびUS6172197およびGriffithsらのUS5885793、US6521404、US6544731、US6555313、US6582915およびUS6593081参照)で作製することができる。
【0027】
抗体あるいはモノクローナル抗体は、ヒトに投与される場合には、その抗原性を低減あるいは消失させるために、キメラ抗体、ヒト化抗体あるいは完全ヒト型抗体の形態で作製することができる。
【0028】
「キメラ抗体」は、可変領域配列と定常領域配列が別々の哺乳動物に由来する抗体を意味し、例えば、可変領域配列がマウス抗体に由来し、定常領域配列がヒト抗体に由来するものがある。キメラ抗体は、上記のハイブリドーマ法、組換えDNA法あるいはファージデ
ィスプレイ方法で単離された抗体産生ハイブリドーマから、公知の手法により単離された抗体可変領域をコードする遺伝子を、公知の方法を用いて、ヒト由来の抗体定常領域をコードする遺伝子に連結させ、作製することができる(例えば、CabillyらのUS4816567参照)。
【0029】
「ヒト化抗体」とは、マウスのような別の哺乳動物の生殖細胞型に由来する相補性決定領域(CDR)配列をヒトフレームワーク配列上に移植した抗体を意味する。ヒト化抗体の
場合も、上記方法で単離された抗体産生ハイブリドーマから、公知の手法により単離された抗体CDR領域をコードする遺伝子を、公知の方法を用いて、ヒト由来の抗体フレームワ
ーク領域をコードする遺伝子に連結させ、作製することができる(例えば、WinterのUS5225539およびUS5530101、QueenらのUS5585089号およびUS6180370参照)。
【0030】
「ヒト抗体」または「完全ヒト型抗体」とは、フレームワーク領域およびCDR領域から
なる可変領域ならびに定常領域の両方ともにヒト生殖細胞型免疫グロブリン配列に由来する抗体を意味する。本発明において使用されるヒト抗体は、ヒト抗体を産生するように形
質転換されたマウス、例えば、Humabマウス(例えば、LonbergとKayらによるUS5545806、US5569825、US5625126、US5633425、US5789650、US5877397、US5661016、US5814318、US5874299およびUS5770429参照)、KMマウス(例えば、IshidaらのWO2002/43478参照)、Xenoマウス(例えば、US5939598、US6075181、US6114598、US6150584およびUS6162963参照)またはTcマウス(例えば、Tomizukaら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2000), p.722-727参照)を用いた方法で作製することができる。また、免疫によりヒト抗体応答が起こるように、ヒト免疫細胞を再構築したSCIDマウス(例えば、WilsonらのUS5476996およびUS5698767参照)を用いても調製できる。さらに、本発明において使用されるヒト抗体は、上記したファージディスプレイ方法でも作製することができる。
【0031】
本明細書において、PD-1/CD3二重特異性抗体の「抗体断片」とは、全長抗体の一部であって、PD-1に対する抗原結合部分およびCD3に対する抗原結合部分を有する抗体であり、
例えば、F(ab′)2などが挙げられる。ここで、抗原結合部分とは、抗体がその抗原に結合することができる最少単位を意味し、例えば、VHおよびVLにある各々3つずつのCDRとそ
れらCDRの組合せにより目的の抗原が認識できるようCDRを配置するフレームワーク領域から構成される。
【0032】
本明細書において、「共通軽鎖」とは、異なる2種以上の重鎖と会合し、各々の抗原に対して結合能を示し得る軽鎖を意味する(De Wildt RMら、J. Mol. Biol. (1999), Vol. 285, p.895-901、De Kruifら、J. Mol. Biol. (2009), Vol. 387, p.548-58、WO2004/009618、WO2009/157771およびWO2014/051433)。そのような共通軽鎖として好ましくは、例え
ば、ヒトκ軽鎖IgVκ1-39*01/IGJκ1*01(IMGTデータベースによる命名法)生殖細胞系列型遺伝子によりコードされる軽鎖(以下、IGVK1-39/JK1共通軽鎖と略記することがある。)であり、より好ましくは、例えば、配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、配
列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を含むVLを有する当該軽鎖、さらに好ましくは、例えば、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する当該軽鎖である。また、共通軽鎖の定常領域として好ましくは、配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域が挙げられる。本発明において使用される共通軽鎖のVLおよび定常領域の各々アミノ酸配列を図1に示し、その可変領域の各CDRのアミノ酸配列を図2に示す。
【0033】
本明細書において「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgMまたはIgG)を称するものとして使用される。本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体として好ましいアイソタイプは、IgGであり、より好ましくはIgG1
たはIgG4である。ここで、IgG1としては、Fc受容体(例えば、Fcγ受容体)への結合が消失あるいは減弱したものが好ましい。具体的には、その重鎖定常領域の任意のアミノ酸を置換、欠損あるいは挿入することによって、Fc受容体への結合が消失あるいは減弱されたIgG1抗体を得ることができる。例えば、二重特異性抗体の各々二つの重鎖定常領域あるいはヒンジ領域上において、EUナンバリングシステムによる235番目のロイシンがグリシン
に置換され、および/または236番目のグリシンがアルギニンに置換された抗体が挙げら
れる。また、抗体の不均一性を低減させるために、C末端のアミノ酸、例えば、EUナンバリングシステムによる447番目のリシンを欠損した抗体が好ましい。さらに、血液中での
半減期を短縮させるためには、特に、FcRn受容体への結合が消失あるいは減弱したものも好ましい。具体的には、重鎖定常領域におけるFcRn受容体結合部位に属するアミノ酸の置換または欠損により同受容体への結合を消失あるいは減弱させることができるが、IgG1抗体である場合、そのような抗体としては、(1)EUナンバリングシステムによる252番目
のメチオニンがグルタミン酸、プロリン、アルギニンもしくはアスパラギン酸に、(2)EUナンバリングシステムによる434番目のアスパラギンがロイシンに、および/または(
3)EUナンバリングシステムによる438番目のグルタミンがグルタミン酸に各々置換され
たものが挙げられる。一方、二重特異性抗体がIgG4である場合、抗体分子内におけるスワ
ッピングを抑制するように、その重鎖定常領域の任意のアミノ酸が置換、欠損あるいは挿入した改変体がより好ましい。例えば、ヒンジ領域に位置する、EUナンバリングシステムによる228番目のセリンをプロリンに置換した抗体が好ましい。なお、本明細書におい
て、抗体の可変領域のCDRとフレームワークに割り当てられるアミノ酸位置はKabatにしたがって規定される場合がある(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., (1987)および(1991)参照)。また、定常領域のアミノ酸はKabatのアミノ酸位置に準じたEUナンバリングシステム(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No. 91-3242参照)に従って表わ
される。
【0034】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体のFc領域は、二つの異なる重鎖が会合し易いように、その領域の任意のアミノ酸が置換されていてもよい。好ましい態様としては、例えば、PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖上の定常領域のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシンがリシンに置換され、かつ366番目のスレオニンがリシンに置換され、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖における定常領域中
の351番目のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換されたPD-1/CD3二重特異性抗体が挙げられる。また、PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖における定常領域中のEUナンバリングシステムによる351番目
のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換
され、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖における定常領域中の351番目のロイシンがリシンに置換され、かつ366番目のスレオニンがリシンに置換されたPD-1/CD3二重特異性抗体も挙げられる。
【0035】
PD-1に特異的に結合する第一アーム
本明細書において、「PD-1に特異的に結合する第一アーム」(以下、「第一アーム」と略記することがある。)は、本発明にかかる二重特異性タンパク質の一部であるか、あるいはそれ自体単体として存在するかに関わらず、PD-1に特異的に結合するタンパク質であり、当該二重特異性タンパク質が二重特異性抗体である場合、当該第一アームは、抗体あるいは抗体断片の一部に含まれるか、あるいは一部ではなく、それ自体単体として存在するか否かにかかわらず、少なくとも、PD-1に特異的に結合する抗体(以下、抗PD-1抗体と略記することがある。)のVHおよびVLを含み、PD-1に特異的に結合することができる抗体部分を意味する。例えば、このような第一アームには、抗PD-1抗体の抗原結合部位を構成するVHおよびVLからなる抗体のFv部、当該VHおよびVLを含む抗体のFab′部およびFab部もこれに含まれる。ここで、「PD-1に特異的に結合する」とは、少なくとも、1x10-5M、好
ましくは1x10-7M、より好ましくは1x10-9Mより高い親和性(解離定数(Kd値))を有する結合活性でPD-1に対して直接結合することができ、少なくとも、CD28、CTLA-4およびICOSなどの、所謂、CD28ファミリー受容体に属するほかの受容体メンバーには実質的に結合しない特徴として使用される。また、「PD-1に特異的に結合する抗体」あるいは「抗PD-1抗体」における「抗体」とは、全長抗体、すなわち、ジスルフィド結合で連結された2つの重鎖および2つの軽鎖からなる完全長の抗体を意味するが、好ましくは、そのモノクローナル抗体である。
【0036】
ここで、「PD-1に特異的に結合する第一アーム」が抗体部分を構成する場合、その好ましい態様としては、例えば、
(a)HYJLHで表されるアミノ酸配列[配列中、Jは、G(グリシン)またはA
(アラニン)を表わし、ここで、Jが表わす、あるいはその他のアルファベットは、各々アミノ酸の一文字略号を表わす。]からなるVH-CDR1、
(b)WJNTNTUNPTXAQGFTGで表されるアミノ酸配列[配列中、J
は、L(ロイシン)またはI(イソロイシン)を表わし、Uは、E(グルタミン酸)またはG(グリシン)を表わし、Xは、F(フェニルアラニン)またはY(チロシン)
を表わし、ここで、J、UおよびXが各々表わす、あるいはその他のアルファベットは、各々上記と同じ意味を表わす。]からなるVH-CDR2、ならびに
(c)GDJVVPTTIWNYYUMZVで表されるアミノ酸配列[配列中
、Jは、M(メチオニン)またはL(ロイシン)を表わし、Uは、H(ヒスチジン)またはY(チロシン)を表わし、Xは、F(フェニルアラニン)またはY(チロシン)を表わし、Zは、D(アスパラギン酸)またはE(グルタミン酸)を表わし、ここで、J、U、XおよびZが各々表わす、あるいはその他のアルファベットは、各々上記と同じ意味を表わす。]からなるVH-CDR3を有するVHを有するものが挙げられる。ここ
で、好ましい「PD-1に特異的に結合する第一アーム」の態様としては、例えば、
(1a)そのVH-CDR1であるHYJLH配列中のJがG(グリシン)を表わし、そのVH-CDR2であるWJNTNTUNPTXAQGFTG配列中のJがL(ロイシン)を、UがE(グルタミン酸)を、XがF(フェニルアラニン)を各々表わし、そのVH-CDR3であるGDJVVPTTIWNYYUMZV配列中のJがM(メチオニ
ン)を、UがH(ヒスチジン)を、XがF(フェニルアラニン)を、ZがD(アスパラギン酸)を各々表わす、各々VH-CDRを有するVH、
(2a)そのVH-CDR1であるHYJLH配列中のJがG(グリシン)を表わし、そのVH-CDR2であるWJNTNTUNPTXAQGFTG配列中のJがI(イソロイシン)を、UがG(グリシン)を、XがY(チロシン)を各々表わし、そのVH-CDR3であ
るGDJVVPTTIWNYYUMZV配列中のJがL(ロイシン)を、UがH(ヒスチジン)を、XがY(チロシン)を、ZがE(グルタミン酸)を各々表わす、各々VH-CDRを有するVH、
(3a)そのVH-CDR1であるHYJLH配列中のJがA(アラニン)を表わし、そのVH-CDR2であるWJNTNTUNPTXAQGFTG配列中のJがL(ロイシン)を、UがE(グルタミン酸)を、XがY(チロシン)を各々表わし、そのVH-CDR3であ
るGDJVVPTTIWNYYUMZV配列中のJがM(メチオニン)を、UがY(チロシン)を、XがY(チロシン)を、ZはD(アスパラギン酸)を各々表わす、各々VH-CDRを有するVH、または
(4a)そのVH-CDR1であるHYJLH配列中のJがA(アラニン)を表わし、そのVH-CDR2であるWJNTNTUNPTXAQGFTG配列中のJがL(ロイシン)を、UがE(グルタミン酸)を、XがF(フェニルアラニン)を各々表わし、そのVH-CDR3であるGDJVVPTTIWNYYUMZV配列中のJがM(メチオニ
ン)を、UがH(ヒスチジン)を、XがF(フェニルアラニン)を、ZがD(アスパラギン酸)を各々表わす、各々VH-CDRを有するVHを有するものが挙げられる。
【0037】
また、「PD-1に特異的に結合する第一アーム」が抗体部分を構成する場合、その別の態様として好ましくは、例えば、(1b)配列番号6のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、配列
番号7のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および配列番号8のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を含むVH、
(2b)配列番号9のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、配列番号10のアミノ酸配列からな
るVH-CDR2および配列番号11のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を含むVH、
(3b)配列番号12のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、配列番号13のアミノ酸配列から
なるVH-CDR2および配列番号14のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を含むVH、
(4b)配列番号15のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、配列番号16のアミノ酸配列から
なるVH-CDR2および配列番号17のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を含むVH、ならびに
(5b)配列番号18のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、配列番号19のアミノ酸配列から
なるVH-CDR2および配列番号20のアミノ酸配列からなるVH-CDR3を含むVHから選択される何れか一つのVHを有するものが挙げられる。
【0038】
さらに、本発明における、「PD-1に特異的に結合する第一アーム」が抗体部分を構成する場合、それらには、上記(1a)~(4a)または(1b)~(5b)から選択される何れか一
つのVHにおける各々のVH-CDRにおいて、その任意の1~5個のアミノ酸残基が他のアミノ酸(好ましくは、その保存的アミノ酸)に置換され、かつ、当該アミノ酸に置換されていない元の第一アームによるPD-1への結合活性と実質的に同等の結合活性を有するものも含まれる。例えば、VH-CDR1の場合には、1個のアミノ酸残基が他のアミノ酸(好ましくは、
その保存的アミノ酸)に置換され、VH-CDR2またはVH-CDR3の場合には、各々1~5個のアミノ酸残基が他のアミノ酸(好ましくは、その保存的アミノ酸)に置換されたものが挙げられる。また、図4に示されるように、PD-1に特異的に結合する第一アームに各々対応する抗PD-1抗体クローンの各CDRにおいて、各クローン間で相違する各アミノ酸またはそれら
の任意の複数の組み合わせは当該クローン間において相互に置換可能である。ここで、保存的アミノ酸による置換は、類似する側鎖を有する残基の可換性を意味し、例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群においては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンであり、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群においては、セリンおよびトレオニンであり、アミド含有側鎖を有するアミノ酸の群においては、アスパラギンおよびグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸の群においては、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸の群においては、リシン、アルギニンおよびヒスチジンであり、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の群においては、システインおよびメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸による置換の例としては、バリン、ロイシンおよびイソロイシン間での置換、フェニルアラニンおよびチロシン間での置換、リシンおよびアルギニン間での置換、アラニンおよびバリン間での置換ならびにアスパラギンおよびグルタミン間での置換が挙げられる。また、ここで、上記の「当該アミノ酸に置換されていない元の第一アームによるPD-1への結合活性と実質的に同等の結合活性を有する」とは、当該アミノ酸に置換された第一アームのPD-1への結合活性が、当該アミノ酸に置換されていない元の第一アームの結合活性の95%以上であり、好ましくは98%以上であり、より好ましくは99%以上であることを意味する。
【0039】
さらに、本発明における「PD-1に特異的に結合する第一アーム」が抗体部分を構成する場合、それらには、そのVHにおいて、上述の特定のアミノ酸配列を有する各VH-CDRを含み、そのVHのフレームワークのアミノ酸配列が、特定の生殖細胞系列型遺伝子もしくはその体細胞突然変異を受けた当該遺伝子にコードされるVHを有するものも含まれる。例えば、上記(1a)~(4a)または(1b)~(5b)から選択される何れかで示されるVHは、生殖細胞系列型V遺伝子がIGHV7-4-1であって、生殖細胞系列型J遺伝子がJH6cであるVDJ組換遺伝子もしくはその体細胞突然変異を受けた当該遺伝子にコードされ得る。ここで、生殖細胞系列型のV遺伝子IGHV7-4-1によって各々コードされるアミノ酸配列は、配列番号21のアミノ酸配列に対応する(図3)。
【0040】
本発明にかかるPD-1に特異的に結合する第一アームが抗体部分を構成する場合、そのVHのフレームワークは、生殖細胞系列型のVDJ組換遺伝子が体細胞突然変異を受けた当該遺
伝子によってコードされる場合がある。例えば、生殖細胞系列型V遺伝子がIGHV7-4-1で
ある、上記(1a)~(4a)または(1b)~(5b)から選択される何れかで示されるVHのFR1、FR2、FR3は、図4に示すアミノ酸位置において、IGHV7-4-1遺伝子がコードするアミノ酸配列と相違するため、当該各位置において体細胞突然変異を受けている。例えば、FR1
領域については、配列番号21のアミノ酸配列中の位置13のリシンがグルタミンに、位置16のアラニンがバリンに、または位置19のリシンがメチオニンに各々置換されるか、あるいはそれらの任意の複数の組み合わせで置換されていてもよい。FR2領域については、配
列番号21のアミノ酸配列中の位置37のバリンをロイシンに置換されてもよい。FR3領域
については、配列番号21のアミノ酸配列中の位置77のセリンがスレオニンに、位置84のシステインがセリンもしくはアスパラギンに各々置換されるか、あるいは任意の複数の組み合わせで置換されてもよい。また、上記(1a)~(4a)または(1b)~(5b)から選択される何れかで示されるVHのFR4領域については、J遺伝子JH6cに由来するFR4領域アミノ酸配列(Trp-Gly-Lys-Gly-Thr-Thr*-Val-Thr-Val-Ser-Ser)(配列番号41)中のリシン
(Lys)がグルタミンもしくはアスパラギンに、および/または*印のスレオニン(Thr)がロイシンに置換されていてもよい。上記何れかのアミノ酸置換の組み合わせを有する各々FR1、FR2、FR3およびFR4も、PD-1に特異的に結合する第一アームの機能に実質的な影響を与えず、フレームワークとして使用することができる。
【0041】
さらに、本発明における「PD-1に特異的に結合する第一アーム」が抗体部分を構成する場合、それらには、上述の特定のアミノ酸配列を有する各CDRを含み、かつ、そのVHのFR
のアミノ酸配列が、特定の生殖細胞系列型遺伝子もしくはその体細胞突然変異を受けた当該遺伝子にコードされるものも含まれる。例えば、そのような第一アームとして、配列番号1~5から選択されるアミノ酸配列からなるVHを有するものが挙げられる。
【0042】
さらに、そのような「PD-1に特異的に結合する第一アーム」には、例えば、配列番号1~5から選択される何れか一つのアミノ酸配列と少なくとも80%同一であり、好ましくは少なくとも90%同一であり、より好ましくは少なくとも95%同一であり、さらに好ましくは少なくとも98%同一であり、さらにより好ましくは少なくとも99%同一であるアミノ酸配列からなるVHを有し、かつ、元の第一アームのVHのアミノ酸配列との相違がPD-1への結合活性に実質的に影響しないもの(以下、相同第一アームと略記することがある。)も含まれる。ここで、アミノ酸配列に関する同一性の比較において使用される「%同一」とは、2つの配列を整列させ、参照するアミノ酸配列(ここで、最大のパーセントの同一性を達成するために必要な場合には、ギャップを導入した後の参照するアミノ酸配列)と同一であるアミノ酸配列の百分率と定義される。また、ここで、「元の第一アームのVHのアミノ酸配列との相違がPD-1への結合活性に実質的に影響しない」とは、相同第一アームのPD-1への結合活性が元の第一アームの当該結合活性の95%以上であり、好ましくは98%以上であり、より好ましくは99%以上であることを意味する。
【0043】
さらに別の態様において、本発明における「PD-1に特異的に結合する第一アーム」が抗体部分を構成する場合、それらには、(1)上記(1a)~(4a)または(1b)~(5b)か
ら選択される何れかで示されるVHあるいは配列番号1~5から選択されるアミノ酸配列からなるVHおよび共通軽鎖のVLを有する第一アームのPD-1への結合または(2)当該VHおよ
びVLからなるPD-1に特異的に結合するモノクローナル抗体の可変領域のPD-1への結合に交差競合する抗PD-1抗体の可変領域(ここで、当該可変領域は、それを構成するVHおよびVLを含む。)を有するものも含まれ、また、PD-1への結合が、(3)上記(1a)~(4a)ま
たは(1b)~(5b)から選択される何れかで示されるVHあるいは配列番号1~5から選択されるアミノ酸配列からなるVHおよび共通軽鎖のVLを有する第一アームまたは(4)当該VHおよびVLからなるPD-1に特異的に結合するモノクローナル抗体の可変領域により交差競
合される抗PD-1抗体の可変領域を有するものも含まれる。ここで、「PD-1への結合に交差競合する」とは、本明細書において例示された第一アームと同一のあるいは一部重複するエピトープに結合することによって、当該第一アームのPD-1への結合をその程度に関わらず阻害する、あるいは当該例示された第一アームと同一のあるいは一部重複するエピトープに結合する抗体によるPD-1への結合が、当該例示された第一アームによってその程度に関わらず阻害されることを意味し、交差競合するかどうかは競合結合アッセイによって評価することができる。例えば、ビアコア分析、フローサイトメトリー、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、蛍光エネルギー転移測定法(FRET)や蛍光微量測定技術(FMAT(登録
商標))を用いて判断することができる。
【0044】
例えば、上記(5b)に示されるVHおよび共通軽鎖のVLを有する第一アームによるPD-1への結合に交差競合するものとして、例えば、上記(1b)~(4b)から選択される何れかで示されるVHおよび共通軽鎖のVL(好ましくは、配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を有するVL)を有する第一アーム、さらには、配列番号1~4から選択さ
れるアミノ酸配列からなるVHおよび共通軽鎖のVL(好ましくは、配列番号25のアミノ酸配列からなるVL)を有する第一アームが挙げられる。
【0045】
また、例えば、上記(1b)~(4b)から選択される何れかで示されるVHあるいは配列番号1~4から選択されるアミノ酸配列からなるVHおよび共通軽鎖のVLを有する第一アームによるPD-1への結合に交差競合するものとして、例えば、上記(5b)に示されるVHおよび共通軽鎖のVL(好ましくは、配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、配列番号2
7のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を有するVL)を有する第一アーム、さらには、配列番号5のアミノ酸配列からなるVHおよび共通軽鎖のVL(好ましくは、配列番号25のアミノ酸配列からなるVL)を有する第一アームが挙げられる。
【0046】
ここで、本発明における「PD-1に特異的に結合する第一アーム」が抗体部分を構成する場合、それらとして好ましくは、上記(1b)~(5b)から選択される何れかで示されるVHを有する第一アームが挙げられ、さらに、この好ましい第一アームには、上述したように、そのVHの各CDRにおいて、その任意の1~5個のアミノ酸残基が他のアミノ酸(好ましく
は、その保存的アミノ酸)に置換され、かつ、そのアミノ酸置換がPD-1への結合活性に実質的に影響しないものも含まれ、また、さらに、上述したように、VHのフレームワークのアミノ酸配列が、生殖細胞系列型V遺伝子IGHV7-4-1もしくは同J遺伝子JH6cまたはそれ
らの体細胞突然変異を受けた当該遺伝子にコードされるVHを有するものも含まれる。そして、当該第一アームとしてより好ましくは、配列番号1~5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVHを有するものが挙げられる。
【0047】
さらに、本発明における「PD-1に特異的に結合する第一アーム」が抗体部分を構成する場合、そのVLは、共通軽鎖のVLであることが好ましく、そのような共通軽鎖として好ましくは、例えば、IGVK1-39/JK1共通軽鎖であり、より好ましくは、例えば、配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を含むVLを有する軽鎖であり、さらに好ましく
は、例えば、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する軽鎖である。また、共通軽鎖の定常領域として好ましくは、配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域が挙げられる。
【0048】
本発明における「PD-1に特異的に結合する第一アーム」は、一つの実施態様として、PD-1およびPD-L1との相互作用、PD-1およびPD-L2との相互作用、またはそれら両相互作用を許容する。ここで、「PD-1およびPD-L1との相互作用、PD-1およびPD-L2との相互作用、またはそれら両相互作用を許容する」とは、本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体が可溶型PD-L1またはPD-L2の濃度の20倍過剰に存在する状況下においても、当該PD-L1とPD-1と
の相互作用、当該PD-L2とPD-1との相互作用、またはそれら両相互作用が、本発明にかか
るPD-1/CD3二重特異性抗体が存在しない時の当該相互作用に比べて50%以上維持され、好ましくは70%以上維持され、より好ましくは80%以上維持されることを意味する。また、「PD-1およびPD-L1との相互作用、PD-1およびPD-L2との相互作用、またはそれら両相互作用を許容する」という定義は、「PD-1およびPD-L1との相互作用、PD-1およびPD-L2との相互作用、またはそれら両相互作用を実質的に阻害しない」という意味と同義で使用されることがある。
【0049】
本発明における「PD-1に特異的に結合する第一アーム」は、別の実施態様として、PD-1およびPD-L1との相互作用、PD-1およびPD-L2との相互作用、またはそれら両相互作用を阻害する場合がある。
【0050】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体を構築するために取得された抗PD-1モノクロー
ナル抗体の各クローンと、それらのVHのアミノ酸配列およびその配列番号との対応関係を図5に、ならびに当該抗PD-1モノクローナル抗体の各クローンのVH中の各CDRのアミノ酸
配列とその配列番号との対応関係を図6に示す。
【0051】
また、その他の「PD-1に特異的に結合する第一アーム」としては、例えば、公知の抗PD-1抗体のVHおよびVLの組合せが挙げられ、そのような公知の抗PD-1抗体としては、例えば、Nivolumab、Cemiplimab、Pembrolizumab、Spartalizumab、Tislelizumab、Dostarlimab、Toripalimab、Camrelizumab、Genolimzumab、Sintilimab、Lodapolimab、Retifanlimab、Balstilimab、Serplulimab、Budigalimab、Prolgolimab、Sasanlimab、Cetrelimab、Zimberelimab、AMP-514、STI-A1110、ENUM 388D4、ENUM 244C8、GLS010、CS1003、BAT-1306、AK105、AK103、BI 754091、LZM009、CMAB819、Sym021、GB226、SSI-361、JY034、HX008、ISU106およびCX-188などが挙げられ、さらに、以下の公開特許出願:US20180222982、US20180312564、WO2004/056875、WO2006/121168、WO2008/156712、WO2010/029434、WO2010/029435、WO2010/036959、WO2011/110604、WO2011/110621、WO2014/179664、WO2014/194302、WO2014/206107、WO2015/035606、WO2015/036394、WO2015/085847、WO2015/112800、WO2016/014688、WO2016/015685、WO2016/068801、WO2016/077397、WO2016/092419、WO2016/106159、WO2016/127179、WO2016/197497、WO2016/210129、WO2017/011580、WO2017/016497、WO2017/019846、WO2017/024465、WO2017/024515、WO2017/025016、WO2017/025051、WO2017/040790、WO2017/055443、WO2017/055547、WO2017/058115、WO2017/058859、WO2017/079112、WO2017/079116、WO2017/087599、WO2017/096026、WO2017/106656、WO2017/107885、WO2017/124050、WO2017/125815、WO2017/132827、WO2017/133540、WO2017/166804、WO2017/198741、WO2017/201766、WO2017/214182、WO2018/020476、WO2018/026248、WO2018/034226、WO2018/036472、WO2018/052818、WO2018/053106、WO2018/068336、WO2018/085358、WO2018/085468、WO2018/087143、WO2018/091661、WO2018/113258、WO2018/119474、WO2018/162944、WO2018/192089、WO2018/210230、WO2018/217227、WO2018/226580、WO2019/005635またはWO2019/051164にて特定される特許出願明細書に各々記載された抗PD-1抗体のVHおよびVLの組合せも、PD-1に特異的に結合する第一アームの例として挙げられる。また、上記抗PD-1抗体のVHと共通軽鎖との組み合わせも、PD-1に特異的に結合する第一アームの例として挙げられる。
【0052】
CD3に特異的に結合する第二アーム
本明細書において、「CD3に特異的に結合する第二アーム」(以下、「第二アーム」と
略記することがある。)とは、本発明にかかる二重特異性タンパク質の一部であるか、あるいはそれ自体単体として存在するかに関わらず、CD3に特異的に結合するタンパク質で
あり、当該二重特異性タンパク質が二重特異性抗体である場合、当該第二アームは、抗体あるいは抗体断片の一部に含まれるか、あるいは一部ではなく、それ自体単体として存在するか否かにかかわらず、少なくとも、CD3に特異的に結合する抗体(以下、抗CD3抗体と略記することがある。)のVHおよびVLを含み、CD3に特異的に結合することができる抗体
部分を意味する。例えば、このような第二アームには、抗CD3抗体の抗原結合部位を構成
するVHおよびVLからなる抗体のFv部、当該VHおよびVLを含む抗体のFab′部およびFab部もこれに含まれる。ここで、「CD3に特異的に結合する」とは、少なくとも、1x10-5M、好ましくは1x10-7M、より好ましくは1x10-9Mより高い親和性(解離定数(Kd値))を有する結合活性でCD3に対して直接結合することができ、他のタンパク質には実質的に結合しない
特徴として使用される。また、「CD3に特異的に結合する抗体」あるいは「抗CD3抗体」における「抗体」とは、全長抗体、すなわち、ジスルフィド結合で連結された2つの重鎖お
よび2つの軽鎖からなる完全長の抗体を意味するが、好ましくは、そのモノクローナル抗
体である。
【0053】
ここで、「CD3に特異的に結合する第二アーム」が抗体部分を構成する場合、それらの
好ましい態様としては、例えば、(1c)配列番号37のアミノ酸配列からなるVH-CDR1、
配列番号38のアミノ酸配列からなるVH-CDR2および配列番号39のアミノ酸配列からな
るVH-CDR3を含むVHを有するものが挙げられる。
【0054】
さらに、本発明における、「CD3に特異的に結合する第二アーム」が抗体部分を構成す
る場合、それらには、上記(1c)のVHにおける各々のCDRにおいて、その任意の1~5個の
アミノ酸残基が他のアミノ酸(好ましくは、その保存的アミノ酸)に置換され、かつ、当該アミノ酸に置換されていない元の第二アームによるCD3への結合活性と実質的に同等の
結合活性を有するものも含まれる。例えば、CDR1の場合には、1個のアミノ酸残基が他の
アミノ酸(好ましくは、その保存的アミノ酸)に置換され、CDR2またはCDR3の場合には、各々1~5個のアミノ酸残基が他のアミノ酸(好ましくは、その保存的アミノ酸)に置換されたものが挙げられる。ここで、「当該アミノ酸に置換されていない元の第二アームによるCD3への結合活性と実質的に同等の結合活性を有する」とは、当該アミノ酸置換された
第二アームのCD3への結合活性が、当該アミノ酸に置換されていない元の第二アームの結
合活性の95%以上であり、好ましくは98%以上であり、より好ましくは99%以上であることを意味する。なお、第二アームの各VH-CDRにおける「保存的アミノ酸による置換」には、例えば、上述の第一アームにおけるアミノ酸置換の例が挙げられる。
【0055】
さらに、本発明における、「CD3に特異的に結合する第二アーム」が抗体部分を構成す
る場合、それらには、そのVHにおいて、上述の特定のアミノ酸配列を有する各CDRを含み
、そのVHのFRのアミノ酸配列が、特定の生殖細胞系列型遺伝子もしくはその体細胞突然変異を受けた当該遺伝子にコードされるVHを有するものも含まれる。例えば、上記(1c)のVHは、生殖細胞系列型V遺伝子がIGHV3-33であるVDJ組換え遺伝子もしくはその体細胞突
然変異を受けた当該遺伝子にコードされる。ここで、生殖細胞系列型のV遺伝子IGHV3-33
によってコードされるアミノ酸配列(配列番号22)を図3に示す。さらに、そのような第二アームとして、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHを有するものが挙げられる。また、そのような第二アームには、例えば、配列番号36のアミノ酸配列と少なくとも80%同一であり、好ましくは少なくとも90%同一であり、より好ましくは少なくとも95%同一であり、さらに好ましくは少なくとも98%同一であり、さらにより好ましくは少なくとも99%同一であるアミノ酸配列からなるVHを有し、かつ、元の第二アームのVHのアミノ酸配列との相違がCD3への結合活性に実質的に影響しないもの(以下、相同第二アームと略
記することがある。)も含まれる。ここで、「元の第二アームのVHのアミノ酸配列との相違がCD3への結合活性に実質的に影響しない」とは、相同第二アームのCD3への結合活性が元の第二アームの当該結合活性の95%以上であり、好ましくは98%以上であり、より好ましくは99%以上であることを意味する。
【0056】
さらに別の態様において、本発明における「CD3に特異的に結合する第二アーム」が抗
体部分を構成する場合、それらには、(1)上記(1c)で示されるVHまたは配列番号36のアミノ酸配列からなるVHおよび共有軽鎖のVLを有する第二アームのCD3への結合または
(2)当該VHおよびVLからなるCD3に特異的に結合するモノクローナル抗体の可変領域のCD3への結合に交差競合する抗CD3抗体の可変領域(ここで、当該可変領域は、それを構成
するVHおよびVLを含む。)を有するものも含まれる。ここで、「CD3への結合において交
差競合する」とは、本明細書において例示された第二アームと同一のあるいは一部重複するエピトープに結合することによって、当該第二アームのCD3への結合を、その程度に関
わらず阻害することを意味する。ここで、交差競合するかどうかは、「PD-1に特異的に結合する第一アーム」に関する説明において記載された方法に準じて、同様に測定することができる。
【0057】
ここで、本発明における「CD3に特異的に結合する第二アーム」が抗体部分を構成する
場合、それらとして好ましくは、上記(1c)で示されるVHを有する第二アームが挙げられ、さらに、この好ましい第二アームには、上述したように、そのVHの各CDRにおいて、そ
の任意の1~5個のアミノ酸残基が他のアミノ酸(好ましくは、その保存的アミノ酸)に置換され、かつ、そのアミノ酸置換がCD3への結合活性に実質的に影響しないものも含まれ
、また、さらに、上述したように、VHのフレームワークのアミノ酸配列が、生殖細胞系列型遺伝子IGHV3-33もしくはその体細胞突然変異を受けた当該遺伝子にコードされるVHを有するものも含まれる。そして、当該第二アームとしてより好ましくは、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHを有するものが挙げられる。
【0058】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体を構築するための抗CD3抗体の各クローンと、
それらのVHのアミノ酸配列およびその配列番号との対応関係を図7に、ならびに当該抗CD3抗体の各クローンのVH中の各CDRのアミノ酸配列とその配列番号との対応関係を図8に示す。
【0059】
本発明における「CD3に特異的に結合する第二アーム」が抗体部分を構成する場合、そ
のVLは、共通軽鎖のVLであることが好ましく、そのような共通軽鎖として好ましくは、例えば、IGVK1-39/JK1共通軽鎖であり、より好ましくは、例えば、配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を含むVLを有する軽鎖であり、さらに好ましくは、例え
ば、配列番号25のアミノ酸配列からなるVLを有する軽鎖である。また、共通軽鎖の定常領域として好ましくは、配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖定常領域が挙げられる。
【0060】
本発明における「CD3に特異的に結合する第二アーム」として好ましくは、CD3εに特異的に結合するものが挙げられる。
【0061】
また、その他の「CD3に特異的に結合する第二アーム」としては、例えば、公知の抗CD3抗体のVHおよびVLの組合せが挙げられ、そのような抗CD3抗体としては、例えば、Foralumab、Muromonab-CD3、Otelixizumab、TeplizumabおよびVisilizumabなどが挙げられ、また、Blinatumomab、Catumaxomab、Cibisatamab、Duvortuxizumab、Ertumaxomab、Flotetuzumab、Pasotuxizumab、Solitomab、Tebentafusp、Tepoditamab、AMG-596、MOR209、REGN1979、XmAb13676およびXmAb14045の何れかの二重特異性抗体のCD3結合部位を構成するVHお
よびVLの組合せも、CD3に特異的に結合する第二アームの例として挙げられる。さらに、
以下の公開特許出願:US20190016823、WO2018/223004、WO2018/223002、US2018/0291114
、WO2018/114754、CN107501412、CN106810611、US20170218079、US20170174779、CN106349391、WO2017/070943、WO2017/053856、WO2017/021349、CN106084049、WO2017/021354、WO2016/179003、US20160176980、WO2016/014974、WO2016/016859、US20150266966、CN104098698、WO2014/151438、WO2013/186613、CN102219856、WO2010/052013、WO2010/037836、WO2007/042261、WO2007/033230、WO2003/026692、WO2000/005268、CN106084046、CN106146661またはWO2010/037835にて特定される特許出願明細書に記載された抗CD3抗体または二重特異性抗体のCD3結合部位のVHおよびVLの組合せも、CD3に特異的に結合する第二アームの例として挙げられる。さらに、上記抗CD3抗体のVHと共通軽鎖との組み合わせも、CD3に特異的に結合する第二アームの例として挙げられる。
【0062】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体として好ましいアイソタイプとしてはIgG抗体
であり、さらに好ましくは、IgG1もしくはIgG4抗体であり、さらにより好ましくはIgG1抗体である。
【0063】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体として好ましい態様としては、例えば、PD-1に特異的に結合する第一アームが、
(A)上記(1a)~(4a)または(1b)~(5b)から選択される何れかで示されるVHにお
ける、VH-CDR1、VH-CDR2およびVH-CDR3から選択される何れか一つまたは複数のCDRにおい
て、各々その任意の1~5個のアミノ酸残基が他のアミノ酸(好ましくは、その保存的アミノ酸)に置換されていてもよいVH、および
(B)配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を含む共通軽鎖のVLを有し、ならびに
CD3に特異的に結合する第二アームが、
(C)上記(1c)で示されるVHにおける、VH-CDR1、VH-CDR2およびVH-CDR3から選択される何れか一つまたは複数のCDRにおいて、各々その任意の1~5個のアミノ酸残基が他のア
ミノ酸(好ましくは、保存的アミノ酸)に置換されていてもよいVH、および
(D)配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を含む共通軽鎖のVLを有することを特徴とする、PD-1/CD3二重特異性抗体が挙げられる。
【0064】
より好ましくは、例えば、PD-1に特異的に結合する第一アームが、
(A)上記(1a)~(4a)または(1b)~(5b)から選択される何れか一つのVH、および
(B)配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を含む共通軽鎖のVLを有し、ならびに
CD3に特異的に結合する第二アームが、
(C)上記(1c)で示されるVH、および
(D)配列番号26のアミノ酸配列からなるVL-CDR1、配列番号27のアミノ酸配列からなるVL-CDR2および配列番号28のアミノ酸配列からなるVL-CDR3を含む共通軽鎖のVLを有することを特徴とする、PD-1/CD3二重特異性抗体が挙げられる。
【0065】
また、本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体として好ましい別の態様としては、例えば、PD-1に特異的に結合する第一アームが、
(A)配列番号1~5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVH、または当該VHのアミノ酸配列と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列からなるVH、および
(B)配列番号25のアミノ酸配列からなる共通軽鎖のVLを有し、ならびに、
CD3に特異的に結合する第二アームが、
(C)配列番号36のアミノ酸配列からなるVH、または当該VHのアミノ酸配列と少なくと
も80%同一であるアミノ酸配列からなるVH、および
(D)配列番号25のアミノ酸配列からなる共通軽鎖のVLを有することを特徴とする、PD-1/CD3二重特異性抗体が挙げられる。
この別の態様としてより好ましくは、例えば、PD-1に特異的に結合する第一アームが、(A)配列番号1~5から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなるVH、および
(B)配列番号25のアミノ酸配列からなる共通軽鎖のVLを有し、ならびに、
CD3に特異的に結合する第二アームが、
(C)配列番号36のアミノ酸配列からなるVH、および
(D)配列番号25のアミノ酸配列からなる共通軽鎖のVLを有することを特徴とする、PD-1/CD3二重特異性抗体が挙げられる。
【0066】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体のうち、同抗体がIgG1抗体である場合には、各々二つの重鎖定常領域あるいはヒンジ領域上において、EUナンバリングシステムによる235番目のロイシンがグリシンに置換され、および/または236番目のグリシンがアルギニンに置換されたIgG1抗体が好ましい。さらに、それら二重特異性抗体の重鎖C末端のアミノ酸、例えば、EUナンバリングシステムによる447番目のリシンを欠損した抗体がより好ま
しい。また、PD-1/CD3二重特異性抗体がIgG4抗体である場合には、そのヒンジ領域に位置する、EUナンバリングシステムによる228番目のセリンをプロリンに置換した抗体が好ま
しい。
【0067】
さらに、これらPD-1/CD3二重特異性抗体がIgG1抗体である場合に好ましい態様としては、PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖における定常領域中のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシンがリシンに置換され、かつ366番目のスレオニンがリシンに置換され、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖における定常領
域中の351番目のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換されたIgG1抗体が挙げられる。また、PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖における定常領域中のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシン
がアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換され、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖における定常領域中の351番目のロイシン
がリシンに置換され、かつ366番目のスレオニンがリシンに置換されたIgG1抗体も同様に
好ましい。
【0068】
さらに、これらPD-1/CD3二重特異性抗体がIgG1抗体である場合に好ましい態様としては、各々二つの重鎖における定常領域中の(1)EUナンバリングシステムによる252番目のメチオニンがグルタミン酸、プロリン、アルギニンもしくはアスパラギン酸に、(2)EUナ
ンバリングシステムによる434番目のアスパラギンがロイシンに、および/または(3)EUナンバリングシステムによる438番目のグルタミンがグルタミン酸に各々置換されたIgG1
抗体が挙げられる。これらアミノ酸置換により、当該PD-1/CD3二重特異性抗体の血液中での半減期が、同アミノ酸置換がされていない同抗体に比べ、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%短縮されることが期待できる。
【0069】
重鎖定常領域における上記したすべてのアミノ酸置換を取り入れたPD-1/CD3二重特異性IgG1抗体の好ましい態様としては、例えば、PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖が、配列番号23、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46および配列番号47から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を有し、CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖が、配列番号2
4、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52および配列番号53から選択される何れか一つのアミノ酸配列からなる重鎖定常領域を有する抗体が挙げられる。それらのアミノ酸配列のいくつかを図9に示す。
【0070】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体の態様として最も好ましくは、本明細書実施例8において作製された、クローンPD1-1(Bi)、クローンPD1-2(Bi)、クローンPD1-3(Bi)、
クローンPD1-4(Bi)およびクローンPD1-5(Bi)ならびに実施例17において作製されたクローンMut1、クローンMut2、クローンMut3、クローンMut4、クローンMut5およびクローンMut6である。
【0071】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質として好ましい特徴としては、(1)PD-1およびPD-L1との相互作用、PD-1およびPD-L2との相互作用、またはそれら両相互作用を
許容するもの、(2)サイトカイン産生が十分に低減されたもの、および/または(3)標的細胞である血液がんのがん細胞に発現するPD-1およびエフェクター細胞であるリンパ球(例えば、傷害性リンパ球)に発現するCD3に各々特異的に結合するものが挙げられる。
ここで、「PD-1およびPD-L1との相互作用、PD-1およびPD-L2との相互作用、またはそれら両相互作用を許容する」とは、「PD-1に特異的に結合する第一アーム」に関する説明において記載された定義と同じ意味を表わす。一方、「サイトカイン産生が十分に低減された」とは、例えば、本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体を点滴等により静脈内投与中、あるいは投与してから24時間以内において、例えば、血中あるいは組織中のIL-2、IFN-γおよび/またはTNF-αを含むサイトカインの濃度が増加しないか、増加しても、ステロイド投与により抑制可能な程度であることを意味する。また、「標的細胞」とは、エフェク
ター細胞であるリンパ球の細胞傷害作用を受ける細胞を意味し、「エフェクター細胞」とは、標的細胞に対して細胞傷害作用を及ぼす細胞を意味する。
【0072】
PD-1/CD3二重特異性抗体の製造および精製方法
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質のうち、特に、二重特異性抗体およびその抗体断片は、WO2014/051433、WO2013/157953あるいはWO2013/157954に開示された方法
でも製造することができる。
【0073】
具体的には、(1)PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖をコードする
ポリヌクレオチド、(2)CD3に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖をコードするポリヌクレオチド、および(3)共通軽鎖をコードするポリヌクレオチドが各々挿入さ
れた発現ベクターを、哺乳動物細胞に遺伝子導入して形質転換させ、両重鎖および共有軽鎖を共に発現ならびに分泌させて製造することができる。
【0074】
ここで、本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体を発現する宿主細胞は、発現ベクターを遺伝子導入でき、導入された発現ベクターを発現することができるいかなる宿主細胞でもよい。好ましくは、SF-9およびSF-21細胞のような昆虫細胞、より好ましくは、CHO細胞、BHK細胞、SP2/0細胞およびNS-0ミエローマ細胞を含むマウス細胞、COSおよびVero細胞
のような霊長類細胞、MDCK細胞、BRL 3A細胞、ハイブリドーマ、腫瘍細胞、不死化した初代細胞、W138、HepG2、HeLa、HEK293、HT1080またはPER.C6のような胚性の網膜細胞等の
哺乳類細胞が挙げられる。なお、発現システムの選択においては、抗体が適切にグリコシル化されるように、哺乳類の細胞の発現ベクターおよび宿主を用いることがある。ヒト細胞株、好ましくはPER.C6は、ヒトにおけるグリコシル化パターンと一致する抗体を得るために有利に用いられる。
【0075】
発現ベクターの遺伝子導入によって形質転換された宿主細胞における蛋白質の産生は、例えば、Current Protocols in Protein Science (1995), Coligan JE, Dunn BM, Ploegh
HL, Speicher DW, Wingfield PT, ISBN 0-471-11184-8,Bendig, 1988を参考に実施することができ、さらに、宿主細胞の培養の生産性を最大にするための一般的な指針、手順および実用的な方法は、Mammalian Cell Biotechnology: a Practical Approach (M. Butler, ed., IRL Press, 1991)を参考に実施できる。宿主細胞での抗体の発現は、例えば、EP0120694、EP0314161、EP0481790、EP0523949、US4816567およびWO2000/63403などの公開
公報に記述されている。
【0076】
ここで、宿主細胞の培養条件は、公知の方法により最適化でき、蛋白質の生産量を最適化することができる。培養は、例えば、培養シャーレ、ローラーボトルもしくは反応槽の中で、バッチ培養、流加培養、連続培養、中空糸による培養で実施できる。細胞培養により、大規模かつ連続的な組み換えタンパク質の生産をするためには、細胞に懸濁液の中で増殖させることが好ましい。また、動物もしくはヒト由来血清または動物もしくはヒト由来の血清の構成要素がない条件下で細胞の培養をさせることが好ましい。
【0077】
宿主細胞で発現され、その細胞または細胞培地から公知の方法により回収された抗体は、公知の方法を用いて精製することができる。精製方法には、免疫沈降法、遠心分離法、ろ過、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、陽イオンおよび/または陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー等が含まれる。さらに、プロテインAまたはプロテインG親和性クロマトグラフィーが好適に用いられる場合がある(例えば、US4801687およびUS5151504参照)。
【0078】
[医薬的用途]
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質は、血液がんの予防、症状進展抑制、再
発抑制および/または治療に有用である。
【0079】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質が予防、症状進展抑制および/または治療可能な血液がんとしては、例えば、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫(例えば、B細胞性非ホジキンリンパ腫(例えば、前駆B細胞リンパ芽球性リンパ腫、前駆B細胞急性リンパ球芽性白血病、慢性Bリンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫あるいは前駆細胞性白血病)、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、節性辺縁帯B細胞性リンパ腫、節外性辺縁帯B細胞性リンパ腫(MALTリンパ腫)、脾原発辺縁帯B細胞性リンパ腫、有毛細胞白血病、有毛細胞白血病・バリアント型、濾胞性リンパ腫、小児型濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・非特定型、脾びまん性赤脾髄小型B細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、バーキットリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、単クローン性B細胞リンパ球増加症、脾B細胞リンパ腫/白血病・分類不能型、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症・IgM型、μ重鎖病
、λ重鎖病、α重鎖病、形質細胞骨髄腫、骨孤在性形質細胞腫、骨外性形質細胞腫、単クローン性免疫グロブリン沈着病、IRF4再構成を伴う大細胞型B細胞リンパ腫、原発性皮膚濾胞中心リンパ腫、T細胞/組織球豊富型大細胞型B細胞リンパ腫、原発性中枢神経系びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、原発性皮膚びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・下肢型、EBV陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・非特定型、EBV陽性粘膜皮膚潰瘍、慢性炎症関連びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、ALK陽性大細胞型B細胞リンパ腫、形質芽球性リンパ腫、原発性体腔液リンパ腫、HHV8陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・非特異型、11q異常を伴うバーキット様リンパ腫、MYCおよびBCL2とBCL6の両方か一方の再構成伴う高悪性度B細胞リンパ腫、高悪性度B
細胞リンパ腫・非特異型およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と古典的ホジキンリンパ腫の中間的特徴を伴うB細胞リンパ腫・分類不能型)、T/NK細胞性非ホジキンリンパ腫(例えば、前駆T細胞リンパ芽球性リンパ腫、慢性Tリンパ球性白血病、T細胞急性リンパ性白血病(T細胞リンパ芽球性白血病)、T細胞型大顆粒リンパ球性白血病、大顆粒NK細胞性白血病、急速進行性NK細胞白血病、末梢性T細胞リンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫・非特定型、分類不能末梢性T細胞リンパ腫、血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫、未分化大細胞(CD30陽性)リンパ腫、血管中心性リンパ腫、腸管T細胞性リンパ腫、腸症型T細胞リンパ腫、肝脾型γ-δT細胞リンパ腫、皮下脂肪組織炎様T細胞リンパ腫、菌状息肉症、セザリー症候群、ホジキン様/ホジキン関連未分化大細胞リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、成人T細胞性リンパ腫、T細胞前リンパ球性白血病、慢性NK細胞リンパ増殖異常症、小児全身性EBV陽性T細胞リンパ腫、種痘様水疱症様リンパ増殖異常症、節外性NK/T細
胞リンパ腫・鼻型、腸症関連T細胞リンパ腫、単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫、胃腸管緩徐進行性T細胞リンパ増殖異常症、肝脾T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性T細胞リンパ増殖異常症、リンパ腫様丘疹症、原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫、原発性皮膚γδT細胞リンパ腫、原発性皮膚CD8陽性急速進行性表皮向性細胞傷害性T細胞リンパ腫
、原発性皮膚先端型CD8陽性T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD4陽性小型/中型T細胞リンパ増殖性症、濾胞T細胞リンパ腫、濾胞ヘルパーT細胞形質を伴う節性末梢性T細胞リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫・ALK陽性型、未分化大細胞リンパ腫・ALK陰性型および乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫))およびホジキンリンパ腫(例えば、古典的ホジキンリンパ腫(例えば、結節硬化型、混合細胞型、リンパ球豊富型およびリンパ球減少型)または結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫))、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性リンパ芽球性白血病(リンパ芽球性リンパ腫)、慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫)、骨髄異形成症候群および慢性骨髄性白血病)、中枢神経系原発悪性リンパ腫、および骨髄増殖症候群などが挙げられる。
【0080】
本発明において「治療」とは、例えば、ある疾患もしくはその症状を治癒させることまたは改善させることを意味し、「予防」とは、ある疾患もしくは症状の発現を未然に防止
するあるいは一定期間遅延させることを意味し、「症状進展抑制」とは症状の進展または悪化を抑制して病態の進行を止めることを意味する。なお、「予防」の意味には再発抑制も含まれる。「再発抑制」とは、ある疾患もしくは症状の再発を防止または再発の可能性を低減させることを意味する。
【0081】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質は、通常、全身的または局所的に、非経口の形で投与される。かかる投与方法として、具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射などが挙げられ、静脈内注射の場合には、点滴による投与が好ましい。その投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、成人一人当たり、一回につき、0.1μg/kgから300mg/kgの範囲で、特に好ましくは、0.1mg/kgから10mg/kgの範囲で、一日一回から数回非経口投与されるか、または一日30分から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。もちろん前記したように、投与量は種々の条件により変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて投与の必要な場合もある。
【0082】
製剤
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質は、注射剤または点滴のための輸液として製剤化されて用いられる場合、当該注射剤または輸液は、水溶液、懸濁液または乳濁液のいずれの形態であってもよく、また、用時に溶剤を加えることにより、溶解、懸濁または乳濁して使用されるように、薬学的に許容できる担体とともに、固形剤として製剤化されていてもよい。注射剤または点滴のための輸液に使用される溶剤として、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖溶液および等張液(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、プロピレングリコール等の溶液)等を用いることができる。
【0083】
ここで、薬学的に許容できる担体としては、例えば、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤、防腐剤、pH調整剤および抗酸化剤等が挙げられる。安定剤としては、例えば、各種アミノ酸、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、マンニトール、グルコース、デキストラン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン等を用いることができる。溶解補助剤としては、例えば、アルコール(例えば、エタノール等)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート20(登録商標)、ポリソルベート80(登録商標)、HCO-50等)等を用いることができる。懸濁化剤としては、例えば、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。乳化剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等を用いることができる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等を用いることができる。防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。pH調整剤としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等を用いることができる。抗酸化剤として、例えば、(1)アスコルビン酸、
システインハイドロクロライド、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナ
トリウム等のような水溶性抗酸化剤、(2)アスコルビルパルミテート、ブチル化ハイド
ロキシアニソール、ブチル化ハイドロキシトルエン、レシチン、プロピルガレート、α-トコフェロール等のような油溶性抗酸化剤および(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢
酸、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート剤等を用いることができる。
【0084】
注射剤または点滴のための輸液は、その最終工程において滅菌するかあるいは無菌操作法、例えば、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することによって製造することができる。また、注射剤または点滴のための輸液は、真空乾燥および凍結乾燥による無菌粉末(薬学的に許容できる担体の粉末を含んでいてもよい。)を、適切な溶剤に用時溶解して使用することもできる。
【0085】
併用または配合剤
さらに、本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質は、血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に使用される他の薬剤とともに組み合わせて使用してもよい。本発明において、他の薬剤とともに組み合わせて使用する場合(併用)の投与形態には、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態であっても、また別々の製剤としての投与形態であってもよい。その併用により、その他の薬剤の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療効果を補完したり、投与量あるいは投与回数を維持ないし低減することができる。本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質と他の薬剤を別々に投与する場合には、一定期間同時投与し、その後、PD-1/CD3二重特異性タンパク質のみあるいは他の薬剤のみを投与してもよい。また、本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性抗体等を先に投与し、その投与終了後に他の薬剤を投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、その投与終了後に本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質を後に投与してもよく、各々の投与方法は同じでも異なっていてもよい。本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質を含む製剤と他の薬剤を含む製剤のキットとして提供することもできる。ここで、他の薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、他の薬剤は任意の2種以上を適宜の割合で組み合わせて投与してもよい。また、前記他の薬剤には、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
【0086】
例えば、アルキル化薬(例えば、Dacarbazine、Nimustine、Temozolomide、Fotemustine、Bendamustine、Cyclophosphamide、Ifosfamide、Carmustine、ChlorambucilおよびProcarbazine等)、白金製剤(例えば、Cisplatin、Carboplatin、NedaplatinおよびOxaliplatin等)、代謝拮抗剤(例えば、葉酸代謝拮抗薬(例えば、Pemetrexed、LeucovorinおよびMethotrexate等)、ピリジン代謝阻害薬(例えば、TS-1(登録商標)、5-fluorouracil、UFT、Carmofur、Doxifluridine、FdUrd、CytarabineおよびCapecitabine等)、プリン
代謝阻害薬(例えば、Fludarabine、CladribineおよびNelarabine等)、リボヌクレオチ
ドリダクターゼ阻害薬、ヌクレオチドアナログ(例えば、Gemcitabine等))、トポイソ
メラーゼ阻害薬(例えば、Irinotecan、NogitecanおよびEtoposide等)、微小管重合阻害薬(例えば、Vinblastine、Vincristine、Vindesine、VinorelbineおよびEribulin等)、微小管脱重合阻害薬(例えば、DocetaxelおよびPaclitaxel等)、抗腫瘍性抗生物質(例
えば、Bleomycin、Mitomycin C、Doxorubicin、Daunorubicin、Idarubicin、Etoposide、Mitoxantrone、Vinblastine、Vincristine、Peplomycin、Amrubicin、AclarubicinおよびEpirubicin等)、サイトカイン製剤(例えば、IFN-α2a、IFN-α2b、ペグIFN-α2b、天然型IFN-βおよびインターロイキン-2等)、分子標的薬、がん免疫治療薬およびその他の抗体医薬等から選択される何れか一以上の薬剤と組み合わせて使用してもよい。
【0087】
ここで、分子標的薬としては、例えば、ALK阻害剤(例えば、Crizotinib、Ceritinib、Ensartinib、AlectinibおよびLorlatinib等)、BCR-ABL阻害剤(例えば、ImatinibおよびDasatinib等)、AXL阻害剤(例えば、ONO-7475およびBemcentinib等)、CDK阻害剤(例え
ば、Dinaciclib、Abemaciclib、Palbociclibおよびtrilaciclib等)、BTK阻害剤(例えば、IbrutinibおよびAcalabrutinib等)、PI3K-δ/γ阻害剤(例えば、Umbralisib、ParsaclisibおよびIPI-549等)、JAK-1/2阻害剤(例えば、ItacitinibおよびRuxolitinib等)、FAK阻害剤(例えば、Defactinib等)、Syk/FLT3 dual阻害剤(例えば、Mivavotinib等)
、ATR阻害剤(例えば、Ceralasertib等)、WEE1キナーゼ阻害剤(例えば、Adavosertib等)、mTOR阻害剤(例えば、Temsirolimus、Everolimus、VistusertibおよびIrinotecan等
)、HDAC阻害剤(例えば、Vorinostat、Romidepsin、Entinostat、Chidamide、Mocetinostat、Citarinostat、Panobinostat、およびValproate等)、EZH2阻害剤(例えば、Tazemetostat等)、STAT3阻害剤(例えば、Napabucasin等)、DNMT阻害剤(例えば、Azacitidine等)、BCL-2阻害剤(例えば、NavitoclaxおよびVenetoclax等)、SMO阻害剤(例えば、Vismodegib等)、抗CD20抗体(例えば、Rituximab、Blontuvetmab、Epitumomab、Ibritumomab tiuxetan、Ocaratuzumab、Ocrelizumab、Technetium (99mTc) nofetumomab merpentan、Tositumomab、Veltuzumab、Ofatumumab、Ublituximab、ObinutuzumabおよびNofetumomab等)、抗CD30抗体(例えば、Brentuximab VedotinおよびIratumumab等)、抗CD38抗体
(例えば、Daratumumab、Isatuximab、Mezagitamab、AT13/5およびMOR202等)、抗TNFRSF10B抗体(例えば、Benufutamab、Conatumumab、Drozitumab、Lexatumumab、Tigatuzumab
、Eftozanermin alfaおよびDS-8273a等)、抗CD40抗体(例えば、Bleselumab、Dacetuzumab、Iscalimab、Lucatumumab、Mitazalimab、Ravagalimab、Selicrelumab、Teneliximab
、ABBV-428およびAPX005M等)、抗CD70抗体(例えば、Cusatuzumab、Vorsetuzumab、Vorsetuzumab mafodotinおよびARGX-110等)、抗TNFRSF10A抗体(例えば、Mapatumumab等)、抗CD79b抗体(例えば、Iladatuzumab、Iladatuzumab vedotinおよびPolatuzumab vedotin等)、抗TNFSF11抗体(例えば、Denosumab等)、抗NCAM1抗体(例えば、Lorvotuzumab mertansine等)、抗CD37抗体(例えば、Lilotomab、Lutetium (177lu) lilotomab satetraxetan、Naratuximab、Naratuximab emtansineおよびOtlertuzumab等)、抗CD200抗体(例え
ば、Samalizumab等)、抗CD30-CD16A二重特異性抗体(例えば、AFM13等)、抗IL3RA-CD3
二重特異性抗体(FlotetuzumabおよびVibecotamab)、抗GPRC5D-CD3二重特異性抗体(Talquetamab)、抗CD3-CD19二重特異性抗体(例えば、DuvortuxizumabおよびBlinatumomab)、抗TNFRSF17-CD3二重特異性抗体(Teclistamab)、抗CLEC12A-CD3二重特異性抗体(Tepoditamab)、および抗CD20-CD3二重特異性抗体(例えば、Plamotamab、Odronextamab、Mosunetuzumab、Glofitamab、EpcoritamabおよびREGN1979等)等が挙げられる。
【0088】
また、がん免疫治療薬としては、例えば、抗PD-1抗体(例えば、Nivolumab、Cemiplimab、Pembrolizumab、Spartalizumab、Tislelizumab、Dostarlimab、toripalimab、Camrelizumab、Genolimzumab、Sintilimab、Lodapolimab、Retifanlimab、Balstilimab、Serplulimab、Budigalimab、Prolgolimab、Sasanlimab、Cetrelimab、Zimberelimab、AMP-514、STI-A1110、ENUM 388D4、ENUM 244C8、GLS010、CS1003、BAT-1306、AK105、AK103、BI 754091、LZM009、CMAB819、Sym021、GB226、SSI-361、JY034、ISU106、HX008およびCX-188等)、抗PD-L1抗体(例えば、Atezolizumab、Avelumab、Durvalumab、Manelimab、Pacmilimab、Envafolimab、Cosibelimab、BMS-936559、STI-1010、STI-1011、STI-1014、SHR-1316、CS1001、MSB2311、BGB-A333、KL-A167、AK106、AK104、ZKAB001、FAZ053、CBT-502およびJS003等)、PD-1拮抗剤(例えば、AUNP-12、BMS-M1~BMS-M10の各化合物、BMS-1、BMS-2、BMS-3、BMS-8、BMS-37、BMS-200、BMS-202、BMS-230、BMS-242、BMS-1001、BMS-1166
、Incyte-1~Incyte-6の各化合物、CAMC-1~CAMC-4の各化合物、RG_1およびDPPA-1等)、PD-L1/VISTA拮抗剤(例えば、CA-170)、PD-L1/TIM3拮抗剤(例えば、CA-327)、抗PD-L2抗体、PD-L1融合タンパク質、PD-L2融合タンパク質(例えば、AMP-224等)、抗CTLA-4抗
体(例えば、Ipilimumab、Zalifrelimab、NurulimabおよびTremelimumab等)、抗LAG-3抗体(例えば、Relatlimab、Ieramilimab、Fianlimab、EncelimabおよびMavezelimab等)、抗TIM3抗体(例えば、MBG453およびCobolimab等)、抗KIR抗体(例えば、Lirilumab、IPH2101、LY3321367およびMK-4280等)、抗BTLA抗体、抗TIGIT抗体(例えば、Tiragolumab、Etigilimab、VibostolimabおよびBMS-986207等)、抗VISTA抗体(例えば、Onvatilimab等
)、抗CD137抗体(例えば、UrelumabおよびUtomilumab等)、抗CSF-1R抗体・CSF-1R阻害
剤(例えば、Cabiralizumab、Emactuzumab、LY3022855、Axatilimab、MCS-110、IMC-CS4
、AMG820、Pexidartinib、BLZ945およびARRY-382等)、抗OX40抗体(例えば、MEDI6469、Ivuxolimab、MEDI0562、MEDI6383、Efizonerimod、GSK3174998、BMS-986178およびMOXR0916等)、抗HVEM抗体、抗CD27抗体(例えば、Varlilumab等)、抗GITR抗体・GITR融合蛋白質(例えば、Efaprinermin alfa、Efgivanermin alfa、MK-4166、INCAGN01876、GWN323およびTRX-518等)、抗CD28抗体、抗CCR4抗体(例えば、Mogamulizumab等)、抗B7-H3抗体
(例えば、Enoblituzumab、Mirzotamab、Mirzotamab clezutoclaxおよびOmburtamab等)
、抗ICOSアゴニスト抗体(例えば、VopratelimabおよびGSK3359609等)、抗CD4抗体(例
えば、ZanolimumabおよびIT1208等)、抗DEC-205抗体/NY-ESO-1融合蛋白質(例えば、CDX-1401)、抗SLAMF7抗体(例えば、Azintuxizumab、Azintuxizumab vedotinおよびElotuzumab等)、抗CD73抗体(例えば、OleclumabおよびBMS-986179等)、PEG化IL-2(Bempegaldesleukin)、抗CD40アゴニスト抗体(例えば、ABBV-428、APX005MおよびRO7009789等)、IDO阻害剤(例えば、Epacadostat、IndoximodおよびLinrodostat等)、TLRアゴニスト(
例えば、Motolimod、CMP-001、G100、Tilsotolimod、SD-101およびMEDI9197等)、アデノシンA2A受容体拮抗剤(例えば、Preladenant、AZD4635、TaminadenantおよびCiforadenant等)、抗NKG2A抗体(例えば、Monalizumab等)、抗CSF-1抗体(例えば、PD0360324等)
、免疫増強剤(例えば、PV-10等)、IL-15スーパーアゴニスト(例えば、ALT-803)、可
溶性LAG3(例えば、IMP321等)、抗CD47抗体・CD47拮抗剤(例えば、ALX148等)およびIL-12拮抗剤(例えば、M9241等)等が挙げられる。
【0089】
さらに、その他の抗体医薬としては、例えば、抗IL-1β抗体(例えば、Canakinumab等
)および抗CCR2抗体(例えば、Plozalizumab等)などが挙げられる。
また、本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質は、ステロイド薬(例えば、コルチゾン、コルチゾン酢酸エステル、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンリン酸エステルナトリウム、ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム、フルドロコルチゾン酢酸エステル、プレドニゾロン、プレドニゾロン酢酸エステル、プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム、ブチル酢酸プレドニゾロン、プレドニゾロンリン酸エステルナトリウム、ハロプレドン酢酸エステル、メチルプレドニゾロン、メチルプレドニゾロン酢酸エステル、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム、トリアムシノロン、酢酸トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、デキサメタゾン酢酸エステル、デキサメタゾン吉草酸エステル、デキサメタゾンシペシル酸エステル、デキサメタゾンプロピオン酸エステル、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、デキサメタゾンパルミチン酸エステル、デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム、パラメタゾン、パラメタゾン酢酸エステル、ベタメタゾン、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、ベタメタゾン吉草酸エステル、ベタメタゾン酢酸エステル、ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルおよびベタメタゾンリン酸エステルナトリウム等)と組み合わせて使用してもよい。
【0090】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例
【0091】
実施例1:組換えヒトPD-1-Fc融合タンパクを用いたMeMo(登録商標)マウスへの免疫
本発明にかかるPD-1に特異的に結合する第一アームが抗体部分を構成する場合それらを取得する方法として、MeMo(登録商標)マウス(WO2009/157771参照)に組換ヒトPD-1タ
ンパク質を免疫する方法を選択した。MeMo(登録商標)マウスは、非組換ヒト重鎖V遺伝子領域、D遺伝子領域およびJ遺伝子領域ならびに組換ヒトκ軽鎖IgVκ1-39*01/IGJκ1*01生殖細胞系列型遺伝子を含む遺伝子断片が、マウス定常領域遺伝子に連結されるように
遺伝子改変されたマウスであり、抗体の標的タンパクを直接免疫することによって、多様性を有する重鎖と共通軽鎖からなる抗体を産生させることができる。
【0092】
12~16週齢の12匹のMeMo(登録商標)MS5B/MS9マウスに、Gerbu adjuvant MM(Gerbu Biotechnik、型番#3001)を用いてエマルジョン化した、組換ヒトPD-1-Fc融合タンパク質
(R&D Systems、型番1086-PD)を14日間隔で各々免疫した。免疫0日目、14日目および28
日目に同組換ヒトPD-1-Fc融合タンパク質を皮下投与し、以降のタイミングでは、PBSに溶解した同組換ヒトPD-1-Fc融合タンパク質を皮下投与した。免疫21日目、35日目、56日目
、77日目および98日目にヒトPD-1強制発現HEK293T細胞株を用いたフローサイトメトリー
により、血清中抗体価を評価した。1000倍希釈した血清においてヒトPD-1強制発現HEK293T細胞株を染色した場合、コントロールとなるヒトPD-1非発現HEK293T細胞株と比較してMFI値が3倍以上増加したマウスのリンパ組織を、ファージディスプレイ・ライブラリーの構築に用いた。ライブラリー構築に進む基準を満たしたマウスは、抗体価の評価日から3日
間、組換PD-1-Fc融合タンパク質で追加免疫し、脾臓およびそ径リンパ節を回収した。ヒ
トPD-1およびカニクイザルPD-1に対する血清中抗体価が1/100以上、かつ追加免疫によっ
て抗体価が上昇しないマウスも、脾臓およびそ径リンパ節を回収した。それらのリンパ組織からRNAを抽出したのち、cDNA合成を行った。
【0093】
実施例2:PD-1に特異的に結合する第一アームを有する抗PD-1抗体取得のためのファージディスプレイ・ライブラリーの構築(タンパク免疫)
実施例1にて調製したDNAを使用して、イムノグロブリン重鎖可変領域ファミリーに特
異的なプライマーを用いてPCR反応を行った。同PCR産物を制限酵素SfiIとXhoIで切断した後、同制限酵素を用いて切断したMV1473ファージミドベクター[共通軽鎖をコードする遺伝子(ヒトκ軽鎖IgVκ1-39*01/IGJκ1*01生殖細胞系列型遺伝子)を含む]に挿入し、同ライブラリーを構築した。
【0094】
実施例3:PD-1に特異的に結合する第一アームを有する抗PD-1抗体のスクリーニング
ヒトPD-1-Fc融合タンパク質、ヒトPD-1-Hisタグ融合タンパク質、カニクイザルPD-1-Hisタグ融合タンパク質またはマウスPD-1-Hisタグ融合タンパク質をコートさせたプレート
を用いて、PD-1への結合性に基づいたファージセレクションを実施した。ヒトPD-1-Fc融
合タンパク質を用いた場合、ファージとインキュベーションする間、ヒトIgG(SIGMA、型番I4506)を添加することによって、Fc反応性クローンを吸収した。ヒトPD-1、カニクイ
ザルPD-1およびマウスPD-1に結合する結合ファージが濃縮された。カニクイザルPD-1発現HEK293T細胞株でのセレクションにより、カニクイザルPD-1に結合するファージが濃縮さ
れた。セレクションによって得られたファージで形質転換させた大腸菌株TG1のクローン
を取得し、マスタープレートを作製した。
【0095】
さらに、ヒトPD-1-Fc融合タンパク質を吸着させたプレート上のPD-1への結合性に基づ
いて、上記セレクションから得られたクローンのペリプラズム抽出物から、ファージセレクションを実施した。なお、選択する基準として、陰性対照ウェル(PBS)で得られたシ
グナル(OD450値)に対して、3倍以上のシグナルが得られたものを陽性クローンとした
【0096】
実施例4:PD-1に特異的に結合する第一アームを有する抗PD-1抗体の候補クローンのDNA
シークエンス
実施例3のスクリーニングによって取得された陽性クローンの重鎖可変領域遺伝子のDNAシークエンスを実施した。解析されたDNA配列はスーパークラスター(CDR3が同一の長さであって、CDR3のアミノ酸配列が70%以上相同である一群)とクラスター(重鎖CDR3のアミノ酸配列が同一である一群)に分類した。924個のクローンが取得され、それらは146種のスーパークラスターおよび194種のクラスターに分類された。
【0097】
実施例5:PD-1発現細胞に対する結合性評価によるスクリーニング
分類された各々スーパークラスターから、以下の条件を満たす抗PD-1モノクローナル抗体クローンを選別し、単離した。
(1)CDR領域に高頻度に体細胞突然変異が導入され、
(2)使用頻度の高いVHの生殖細胞系列型遺伝子を有し、および
(3)ヒトPD-1-Fc融合タンパク質に対する結合性スクリーニングにおいて高いシグナル
が得られた。
【0098】
それらのペリプラズム抽出物に含まれるFabフラグメントを用いて、ヒトPD-1発現CHO-S細胞株、カニクイザルPD-1発現CHO-S細胞株に対する結合性を抗マウスIgGポリクローナル抗体で検出することにより評価した。評価した117個のクローン(105種のクラスター)のうち、抗PD-1モノクローナル抗体クローンPD1-1、PD1-2、PD1-3およびPD1-4を含む22個のクローンでヒトPD-1発現CHO-S細胞株に対する結合性が認められた。
【0099】
実施例6:PD-1に特異的に結合する第一アームを有する抗PD-1モノクローナル抗体のアミノ酸置換体の作製
クローンPD1-1およびPD1-4は、その重鎖可変領域のフレームワーク4に脱アミド化モチ
ーフ(Asn-Gly)を含む。脱アミド化のリスクを低減した第一アームの取得を目的として
、この脱アミド化モチーフを変換した変異体を作製した。クローンPD1-4のEUナンバリン
グシステムによる119番目のアスパラギン(Asn)が、公知の部位特異的変異法により、グルタミンとなるよう改変されたクローンPD1-5を作製し、単離した。同クローンもヒトPD-1発現CHO-S細胞に対する結合性はクローンPD1-4と同等であった。
【0100】
実施例7:CD3に特異的に結合する第二アームを有する抗CD3モノクローナル抗体のスクリーニング
WO2005/118635に記載された抗CD3抗体クローン15C3のVHおよびIGVK1-39/JK1共通軽鎖からなる抗CD3抗体クローンに基づき、さらにより荷電不均一性が低減された安定なCD3結合Fabを取得すべく、下記の方法にて、本発明にかかる「CD3に特異的に結合する第二アーム」を有する抗CD3抗体を取得した。
【0101】
図10に示す15C3のVHのアミノ酸配列中、下線で示される55番目グリシンをアラニンに変換することにより、前記抗CD3抗体クローンと同等のヒトCD3結合性を有し、かつ荷電不均一性が改善された抗CD3抗体クローンCD3-1を取得した。
【0102】
さらに、共通軽鎖(IgVκ1-39*01/IGJκ1*01)とのVH/VL相互作用を改善させる複数のCD3結合Fabを得るために、クローンCD3-1のVHに基づいて、そのアミノ酸残基が置換されたクローンCD3-1のVH変異体からなるFabを複数発現するファージディスプレイ・ライブラリーを構築した。このファージライブラリーを、HBP-ALL細胞または組換ヒトCD3ε-Fcタン
パク質を用いて、スクリーニングを行った。組換ヒトCD3ε-Fcタンパク質に結合するファージを化学的に溶出させ、細菌の再感染に使用した。複数の生き残った細菌コロニーを摘出した後、ファージを抽出し、フローサイトメトリーによって細胞表面発現CD3への結合
についてスクリーニングした。CD3結合を示したすべてのファージについて、コロニーPCRを行ってVHをコードするcDNAを増幅させ、そのDNA配列を決定した。
【0103】
その結果取得された、配列番号36のアミノ酸配列からなるVHを有する抗CD3抗体クロ
ーンCD3-2は、クローンCD3-1と同等のCD3結合性および荷電均一性を示した。
【0104】
実施例8:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の調製
PD-1に特異的に結合する第一アームが抗体部分を構成する場合、その抗体の各々の重鎖
を発現する発現ベクターは、実施例5にて選択した抗PD-1モノクローナル抗体クローンPD1-1~PD1-5およびPD1-6の各々の重鎖可変領域をコードするDNAを、IgG1重鎖定常領域をコードするDNAに各々連結して作製した。一方、CD3に特異的に結合する第二アームの重鎖を発現する発現ベクターは、実施例7にて選択した抗CD3モノクローナル抗体クローンでCD3-2の重鎖可変領域をコードするDNAを、IgG1重鎖定常領域をコードするDNAに連結して作製した。ここで、それらの重鎖定常領域を発現する遺伝子には、PD-1に特異的に結合する第一アームの場合には、L351D/L368E変異(DE変異)を有するFc領域を発現するものを使用
し、CD3に特異的に結合する第二アームの場合には、L351K/T366K変異(KK変異)を有するFc領域を発現するものを使用した。これら発現ベクターには、IGVK1-39/JK1共通軽鎖もともに発現するように、これをコードする遺伝子を含むように構築された。さらに、これらの重鎖定常領域を発現する遺伝子には、各々、Fcエフェクター活性を消失させるため、重鎖定常領域の235番目ロイシンがグリシンに、236番目グリシンがアルギニンに置換されて発現するように改変されており、さらに、翻訳後のプロセシングを回避するため、重鎖定常領域C末端447番目のリジンが欠失するよう改変されたものを使用した。これら発現ベ
クターを、ともに、Free Style 293F細胞に遺伝子導入し、培養上清中に抗体を産生させ
た。培養上清を回収し、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーにて処理するこ
とにより、本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体である、クローンPD1-1(Bi)、クローンPD1-2(Bi)、クローンPD1-3(Bi)、クローンPD1-4(Bi)およびクローンPD1-5(Bi)を各々精製した。また、クローンPD1-6(Bi)についても、同様の方法にて作製された。なお、これらPD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンは、その作製において使用された抗PD-1モノクローナル抗体クローンPD1-1、PD1-2、PD1-3、PD1-4およびPD1-5な
らびにPD1-6に由来する、PD-1に特異的に結合する第一アームを有する点において、それ
ら抗PD-1モノクローナル抗体クローンに各々対応している。
【0105】
実施例9:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の結合性評価
ヒトIgG1-Fc融合ヒトPD-1細胞外領域組換タンパク質または6×Hisタグ融合カニクイザ
ルPD-1細胞外領域組換タンパク質を用いたBiacore(登録商標)測定にて、実施例8にお
いて取得したPD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の第一アームの、各PD-1組換タンパク質への結合親和性を評価した。なお、当該組換タンパク質の固定化には、Series S Sensor Chip CM5センサーチップ(GEヘルスケア、型番29-1049-88)を使用した。同様に、ヒトIgG1-Fc融合CD3δ/CD3ε細胞外領域組換タンパク質を用いたBiacore(登録商標)測定
にて、同抗体の第二アームのCD3結合親和性を評価した。各クローンの第一アームのPD-1
への結合親和性(Kd値)ならびに第二アームのCD3δ/CD3εへの結合親和性を図11に示
す。
【0106】
実施例10:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の結合性確認
実施例8において取得したPD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体がPD-1およびCD3に
同時に各々特異的に結合することを確認した。
まず、ヒトCD3を発現しているヒトPD-1欠損Jurkat細胞株(ヒトT細胞株)に対して、
クローンPD1-1(Bi)~PD1-6(Bi)を各々添加し、氷上にて15分間インキュベートした。細胞を洗浄した後、3倍量のビオチン標識した可溶性PD-1組換タンパク質(R&D systems、型
番1086-PD-050)を添加し、氷上にて15分間インキュベートした。細胞を洗浄した後、Alexa Fluor 488標識ストレプトアビジン(BioLegend、型番405235)1.25μg/mLを100μL添
加して氷上にて15分間インキュベートした。細胞を洗浄した後、フローサイトメトリーにて可溶性PD-1組換タンパク質の結合量を評価した。当該アッセイの結果を図12に示す。
【0107】
いずれのクローンもPD-1およびCD3に同時に結合した。なお、この実験系での非特異的
結合は検出されなかった。
【0108】
実施例11:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の第一アームの結合特性評価
実施例8において取得したPD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の第一アームのPD-1/PD-L1結合への影響を評価するため、同二重特異性モノクローナル抗体クローンと可溶性PD-L1組換タンパク質のPD-1への結合に関する競合結合アッセイを行った。まず、ヒトPD-1発現CHO-S細胞株に対してクローンPD1-1(Bi)~PD1-6(Bi)を各々添加し、氷上にて30分間インキュベートした。さらに、1/20量のビオチン標識した可溶性PD-L1組換タンパク質(R&D systems,型番156-B7-100)を添加し、氷上にて30分間インキュベートした。細胞を洗浄した後、PE標識ストレプトアビジン(BD Pharmingen,型番554061)を添加して氷上に
て30分間インキュベートした。細胞を洗浄した後、フローサイトメトリーにて可溶性PD-L1組換タンパク質の結合量を評価した。その結果を図13に示す。
【0109】
クローンPD1-1(Bi)~PD1-5(Bi)は、可溶性PD-L1組換タンパク質に対して20倍量存在し
ているにも拘わらず、PD-1に対する可溶性PD-L1組換タンパク質の結合を許容した。一方
、PD1-6(Bi)は、同条件でPD-1に対する可溶性PD-L1組換タンパク質の結合を完全に阻害した。
【0110】
実施例12:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体各クローンのPD-1への結合に対するPD1-5(Bi)の交差競合性の評価
実施例8において取得したPD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体各クローンPD1-1(Bi)~PD1-5(Bi)のPD-1への結合に対するPD1-5(Bi)の交差競合性を評価するため、競合結合
アッセイを行った。
【0111】
まず、ヒトPD-1発現CHO-S細胞株に対してクローンPD1-5(Bi)を添加し、氷上にて20分間インキュベートした。さらに、添加されたクローンPD1-5(Bi)に対して1/100量のビオチン標識したクローンPD1-1(Bi)~PD1-5(Bi)を各々添加し、氷上にて20分間インキュベートした。細胞を洗浄した後、PE標識ストレプトアビジン(BD Pharmingen,型番554061)を添
加して氷上にて20分間インキュベートした。細胞を洗浄した後、フローサイトメトリーにてビオチン標識したクローンPD1-1(Bi)~PD1-5(Bi)の結合量を評価した。その結果を図14に示す。
【0112】
PD1-5(Bi)は、クローンPD1-1(Bi)~PD1-4(Bi)のPD-1への結合を阻害し、同クローンが
、それらのPD-1への結合に対して交差競合することが示された。
【0113】
実施例13:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体のB細胞リンパ腫細胞株に対する細胞増殖抑制作用
健常人末梢血由来pan-T細胞(STEMCELL,型番ST-70024)(ヒトT細胞)を用いて、B細胞リンパ腫細胞株に対する細胞増殖抑制作用を評価した。U底96ウェルプレートにヒトT
細胞と、Vybrant DiD Cell-Labeling Solution(Thermo Fisher,型番V22887)で標識し
たB細胞リンパ腫細胞株EB-1またはヒトPD-1強制発現SU-DHL-4を播種し、PD-1/CD3二重特
異性モノクローナル抗体であるクローンPD1-5(Bi)を添加して、48時間共培養した。各ウ
ェルから細胞を回収し、Cell Viability Solutionで染色して、フローサイトメーターでDiD陽性生細胞数をカウントした。抗体非添加サンプルのDiD陽性生細胞数を100%として、PD1-5(Bi)添加サンプルのDiD陽性生細胞の減少率を細胞増殖抑制率として算出した。その結果を図15(A)および(B)各々に示す。PD1-5(Bi)添加によりいずれのB細胞リンパ腫細胞株も増殖抑制された。
【0114】
実施例14:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の多発性骨髄腫細胞株に対する細胞増殖抑制作用
健常人末梢血由来pan-T細胞(STEMCELL,型番ST-70024)(ヒトT細胞)を用いて、多
発性骨髄腫細胞株に対する細胞増殖抑制作用を評価した。U底96ウェルプレートにヒトT細胞と、Vybrant DiD Cell-Labeling Solution(Thermo Fisher,型番V22887)で標識し
た多発性骨髄腫細胞株RPMI8226を播種し、PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体であるクローンPD1-5(Bi)を添加して、48時間共培養した。各ウェルから細胞を回収し、Cell Viability Solutionで染色して、フローサイトメーターでDiD陽性生細胞数をカウントした
。抗体非添加サンプルのDiD陽性生細胞数を100%として、PD1-5(Bi)添加サンプルのDiD陽性生細胞の減少率を細胞増殖抑制率として算出した。その結果を図16に示す。PD1-5(Bi)添加によりRPMI8226が増殖抑制された。
【0115】
実施例15:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の成人T細胞性リンパ腫細胞株に対する細胞増殖抑制作用
健常人末梢血由来pan-T細胞(STEMCELL,型番ST-70024)(ヒトT細胞)を用いて、成
人T細胞性リンパ腫細胞株に対する細胞増殖抑制作用を評価した。U底96ウェルプレートにヒトT細胞と、Vybrant DiD Cell-Labeling Solution(Thermo Fisher,型番V22887)で標識した成人T細胞性リンパ腫細胞株ILT-Matを播種し、PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体であるクローンPD1-5(Bi)を添加して、48時間共培養した。各ウェルから細胞を
回収し、Cell Viability Solutionで染色して、フローサイトメーターでDiD陽性生細胞数をカウントした。抗体非添加サンプルのDiD陽性生細胞数を100%として、PD1-5(Bi)添加
サンプルのDiD陽性生細胞の減少率を細胞増殖抑制率として算出した。その結果を図17
に示す。PD1-5(Bi)添加によりILT-Matが増殖抑制された。
【0116】
実施例16:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の急性T細胞性白血病細胞株に対
する細胞増殖抑制作用
健常人末梢血由来pan-T細胞(STEMCELL,型番ST-70024)(ヒトT細胞)を用いて、急
性T細胞性白血病細胞株に対する細胞増殖抑制作用を評価した。U底96ウェルプレートに
ヒトT細胞と、Vybrant DiD Cell-Labeling Solution(Thermo Fisher,型番V22887)で標識したヒトPD-1強制発現Jurkat(急性T細胞性白血病細胞株)を播種し、PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体であるクローンPD1-5(Bi)を添加して、48時間共培養した
。各ウェルから細胞を回収し、Cell Viability Solutionで染色して、フローサイトメー
ターでDiD陽性生細胞数をカウントした。抗体非添加サンプルのDiD陽性生細胞数を100%
として、PD1-5(Bi)添加サンプルのDiD陽性生細胞の減少率を細胞増殖抑制率として算出した。その結果を図18に示す。PD1-5(Bi)添加によりヒトPD-1強制発現Jurkatが増殖抑制
された。
【0117】
実施例17:ヒトFcRn結合部位のアミノ酸に変異を導入したPD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の作製とFcRn結合性評価
PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンPD1-5(Bi)の重鎖定常領域中のEUナン
バリングシステムにおける252番目のメチオニンを、各々グルタミン酸、プロリン、アル
ギニンおよびアスパラギン酸に置換した抗体クローンMut1、Mut2、Mut3およびMut4を、各々、アミノ酸置換に関する公知の技術に準じた方法にて作製した。さらに、同クローンPD1-5(Bi)の重鎖定常領域中のEUナンバリングシステムにおける434番目のアスパラギンをロイシンに置換した抗体クローンMut5、438番目のグルタミンをグルタミン酸に置換した
抗体クローンMut6を、同様の方法にて各々作製した。
【0118】
次に、それら抗体クローン各々について、ヒトFcRnまたはマウスFcRnに対する結合親和性を、表面プラズモン共鳴を用いて評価した。Biacore T200(GEヘルスケア)にBiotin CAPture Kit(GEヘルスケア、型番28-9202-34)のSeries S Sensor Chip CAPをセットし、Human FcRn-human B2M(Immunitrack、型番ITF01)およびMurine FcRn-murine B2M(Immunitrack、型番ITF07)を各々固定化した。pH6.0の条件でPD1-5(Bi)およびMut1~Mut6の結合性を各々評価した。ヒトFcRnへの結合性実験結果を図19および20に、マウスFcRnへの結合性実験結果を図21に各々示す。
【0119】
Mut1~Mut6のヒトFcRnへの各親和性は、PD1-5(Bi)(解離定数(KD値):2.75×10-8M)に比較して低下し、特に、Mut4とMut2が顕著に低下した。Mut1およびMut4のマウスFcRnへの各親和性はPD1-5(Bi)(KD値:1.61×10-8M)より低下し(Mut1のKD値:4.67×10-8M)
、特に、Mut4が顕著に低下した。
【0120】
実施例18:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンMut4の血中動態
次に、ヒトCD3ε/ヒトPD-1ノックインC57BL/6マウスを用いて、クローンMut4のin vivo血中動態を評価した。なお、ヒトCD3ε/ヒトPD-1ノックインC57BL/6マウスは、Genesis. 2009 Jun;47(6):414-22に記載された方法に準じて作製されたヒトCD3εノックインマウスおよびヒトPD-1ノックインマウスを、公知の方法により交配させることによって作製した。
【0121】
同クローンを当該C57BL/6マウスの尾部静脈内に投与後30分ならびに1、2、4、8、
24および288時間の時点において、マウスの尾静脈を剪刃で一部傷つけて、約40μLの血液をヘパリン処理済みのチューブに採取した。採血液を遠心分離して血漿を調製し、電気化学発光(ECL)法を用いて同クローンの血漿中濃度を測定した。血漿中濃度の推移から
、その血中半減期を算出した。
【0122】
測定の結果、同クローンの血中半減期は8.0時間であり、もとのPD1-5(Bi)の血中半減期約160時間よりも短縮された。
【0123】
実施例19:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体のT細胞急性リンパ性白血病細胞
株に対する細胞増殖抑制作用
健常人末梢血由来単核細胞(HemaCare,型番PB009C-1)(ヒトPBMC)を用いて、T細胞
急性リンパ性白血病細胞株に対する細胞増殖抑制作用を評価した。U底96ウェルプレートにヒトPBMCと、Vybrant DiD Cell-Labeling Solution(Thermo Fisher,型番V22887)で
標識したT細胞急性リンパ性白血病細胞株HPB-ALLを播種し、PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体であるクローンPD1-5(Bi)を添加して、72時間共培養した。各ウェルから細胞
を回収し、Cell Viability Solutionで染色して、フローサイトメーターでDiD陽性生細胞数をカウントした。抗体非添加サンプルのDiD陽性生細胞数を100%として、PD1-5(Bi)添
加サンプルのDiD陽性生細胞の減少率を細胞増殖抑制率として算出した。その結果を図2
2に示す。PD1-5(Bi)添加によりHPB-ALLが増殖抑制された。
【0124】
実施例20:PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の皮膚T細胞リンパ腫細胞株に対する細胞増殖抑制作用
健常人末梢血由来単核細胞(Precision for Medicine,型番93000-10M)(ヒトPBMC)
を用いて、皮膚T細胞リンパ腫細胞株に対する細胞増殖抑制作用を評価した。U底96ウェルプレートにヒトPBMCと、Vybrant DiD Cell-Labeling Solution(Thermo Fisher,型番V22887)で標識した皮膚T細胞リンパ腫(菌状息肉症)細胞株MJを播種し、PD-1/CD3二重
特異性モノクローナル抗体であるクローンPD1-5(Bi)を添加して、72時間共培養した。各
ウェルから細胞を回収し、SYTOX Green Dead Cell Stain(Thermo Fisher Scientific,
型番S34860)で染色して、フローサイトメーターでDiD陽性生細胞数をカウントした。抗
体非添加サンプルのDiD陽性生細胞数を100%として、PD1-5(Bi)添加サンプルのDiD陽性生細胞の減少率を細胞増殖抑制率として算出した。PD1-5(Bi)添加により、皮膚T細胞リン
パ腫細胞株MJが増殖抑制された。
【0125】
実施例21:標的細胞上のPD-1発現量とPD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体の細胞傷害活性の評価
ヒトPD-1強制発現SU-DHL-4、EB-1およびRPMI8226の各標的細胞に対する、PD-1/CD3二重特異性モノクローナル抗体クローンPD1-5(Bi)の細胞傷害活性を、実施例13および1
4に記載した方法に準じて各々測定し、そのEC50(ng/mL)を算出した。一方、これら標
的細胞の表面に発現する1細胞当たりのPD-1分子数をフローサイトメーターで測定した。
各標的細胞のPD-1分子数と細胞傷害活性のEC50との関係を散布図として図23に示す。なお、図中の破線は、非線形回帰分析(両対数モデル:Y = 10^(slope × logX + Yintercept)、Y:EC50 (ng/mL)、X:PD-1分子数、slope:直線の傾き、Yintercept:Y切片)
に基づき算出されたものであり、図中の数式は、当該両対数モデルの数式に対応する。また、R2は決定係数を表す。
【0126】
標的細胞におけるPD-1発現量の増加に応じて、PD1-5(Bi)存在下におけるヒト末梢血T細胞の標的細胞に対する細胞傷害活性が増強していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明にかかるPD-1/CD3二重特異性タンパク質は、血液がんの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
0007533330000001.app