(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】全固体電池及び全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240806BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/38 20060101ALN20240806BHJP
H01M 4/58 20100101ALN20240806BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2021113719
(22)【出願日】2021-07-08
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】李 西濛
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/026480(WO,A1)
【文献】特開2008-123954(JP,A)
【文献】特開2022-082060(JP,A)
【文献】特開2017-010816(JP,A)
【文献】特開2015-008073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
10/36-10/39
4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池であって、第1電極層と第1固体電解質層と第2固体電解質層と第2電極層とをこの順に有し、
前記第1固体電解質層が第1表面を有し、
前記第2固体電解質層が前記第1表面と接触する第2表面を有し、
前記第1表面の最大高さRz
1と前記第2表面の最大高さRz
2とが以下の関係(1)を満た
し、
前記第1電極層が正極活物質層を含み、
前記第2電極層が負極活物質層を含み、
前記正極活物質層が正極活物質としての硫黄を含む、
全固体電池。
0.15≦Rz
1/Rz
2≦0.25 … (1)
【請求項2】
前記第2固体電解質層が前記第2表面とは反対側に第3表面を有し、
前記第2電極層が前記第3表面と接触する第4表面を有し、
前記第3表面の最大高さRz
3と前記第4表面の最大高さRz
4とが以下の関係(2)又は(3)を満たす、
請求項1に記載の全固体電池。
0.45≦Rz
3/Rz
4≦1.00 … (2)
0.45≦Rz
4/Rz
3≦1.00 … (3)
【請求項3】
前記負極活物質層が負極活物質としての金属リチウムを含む、
請求項
1又は2に記載の全固体電池。
【請求項4】
全固体電池の製造方法であって、
基材の表面に第1固体電解質層を形成して転写材を得ること、
前記転写材と第1電極層とを積層したうえで積層方向に圧力P
1を加え、前記転写材の前記第1固体電解質層を前記第1電極層に転写して、前記第1電極層と前記第1固体電解質層との第1積層体を得ること、
第2電極層に対して第2固体電解質層を構成する材料を塗工して、前記第2電極層と前記第2固体電解質層との第2積層体を得ること、及び、
前記第1積層体と前記第2積層体とを積層したうえで積層方向に前記圧力P
1よりも小さい圧力P
2を加え、前記第1電極層と前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層と前記第2電極層とをこの順に有する全固体電池を得ること、
を含
み、
前記第1電極層が正極活物質層を含み、
前記第2電極層が負極活物質層を含む、
製造方法。
【請求項5】
前記負極活物質層が負極活物質としての金属リチウムを含む、
請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記正極活物質層が正極活物質としての硫黄を含む、
請求項
4又は
5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は全固体電池及び全固体電池の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、全固体電池の正極層と負極層との間に2層の固体電解質層を介在させることにより、正極層と負極層との間を貫通するピンホールを低減する技術が開示されている。また、特許文献2には、負極活物質として金属リチウムを用いた全固体電池において、正極層と負極層との間に2種以上の固体電解質を介在させ、且つ、各々の固体電解質層の材料やイオン伝導度を調整することで、全固体電池の安全性や信頼性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/010043号
【文献】特開2004-206942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の新たな知見によると、全固体電池の正極層と負極層との間に2層の固体電解質層を介在させたとしても、全固体電池の充放電時に活物質が膨張又は収縮すること等によって固体電解質層に応力が加わって固体電解質層にクラックが生じた場合に、一方の固体電解質層から他方の固体電解質層へとクラックが伝搬して短絡が生じる虞がある。この点、従来技術においては、固体電解質層におけるクラックの伝搬を抑制して全固体電池の耐短絡性を向上させることについて、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
全固体電池であって、第1電極層と第1固体電解質層と第2固体電解質層と第2電極層とをこの順に有し、
前記第1固体電解質層が第1表面を有し、
前記第2固体電解質層が前記第1表面と接触する第2表面を有し、
前記第1表面の最大高さRz1と前記第2表面の最大高さRz2とが以下の関係(1)を満たす、
全固体電池
を開示する。
0.15≦Rz1/Rz2≦0.25 … (1)
【0006】
本開示の全固体電池において、
前記第2固体電解質層が前記第2表面とは反対側に第3表面を有してもよく、
前記第2電極層が前記第3表面と接触する第4表面を有してもよく、
前記第3表面の最大高さRz3と前記第4表面の最大高さRz4とが以下の関係(2)又は(3)を満たしてもよい。
0.45≦Rz3/Rz4≦1.00 … (2)
0.45≦Rz4/Rz3≦1.00 … (3)
【0007】
本開示の全固体電池において、
前記第1電極層が正極活物質層を含んでいてもよく、
前記第2電極層が負極活物質層を含んでいてもよい。
【0008】
本開示の全固体電池において、
前記負極活物質層が負極活物質としての金属リチウムを含んでいてもよい。
【0009】
本開示の全固体電池において、
前記正極活物質層が正極活物質としての硫黄を含んでいてもよい。
【0010】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
全固体電池の製造方法であって、
基材の表面に第1固体電解質層を形成して転写材を得ること、
前記転写材と第1電極層とを積層したうえで積層方向に圧力P1を加え、前記転写材の前記第1固体電解質層を前記第1電極層に転写して、前記第1電極層と前記第1固体電解質層との第1積層体を得ること、
第2電極層に対して第2固体電解質層を構成する材料を塗工して、前記第2電極層と前記第2固体電解質層との第2積層体を得ること、及び、
前記第1積層体と前記第2積層体とを積層したうえで積層方向に前記圧力P1よりも小さい圧力P2を加え、前記第1電極層と前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層と前記第2電極層とをこの順に有する全固体電池を得ること、
を含む、製造方法
を開示する。
【0011】
本開示の製造方法において、
前記第1電極層が正極活物質層を含んでいてもよく、
前記第2電極層が負極活物質層を含んでいてもよい。
【0012】
本開示の製造方法において、
前記負極活物質層が負極活物質としての金属リチウムを含んでいてもよい。
【0013】
本開示の製造方法において、
前記正極活物質層が正極活物質としての硫黄を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示の全固体電池においては、第1固体電解質層及び第2固体電解質層のうちの一方の層にクラックが生じた場合でも、当該クラックが他方の層に伝搬することが抑制され易く、優れた耐短絡性が確保され易い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】全固体電池100の構成を概略的に示している。
【
図2】全固体電池100の構成を分解して概略的に示している。
【
図3】固体電解質層の表面の最大高さRzの測定方法を概略的に示している。
【
図4】全固体電池100の製造方法の流れの一例を示している。
【
図5A】工程S1により得られる転写材の構成を概略的に示している。
【
図5B】工程S2の流れと工程S2により得られる第1積層体の構成とを概略的に示している。
【
図5C】工程S3の流れと工程S3により得られる第2積層体の構成とを概略的に示している。
【
図5D】工程S4の流れと工程S4により得られる全固体電池の構成とを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.全固体電池
図1及び2に示されるように、一実施形態に係る全固体電池100は、第1電極層11と第1固体電解質層21と第2固体電解質層22と第2電極層12とをこの順に有する。
図2に示されるように、前記第1固体電解質層21は第1表面21xを有し、前記第2固体電解質層22は前記第1表面21xと接触する第2表面22xを有する。また、前記第1表面21xの最大高さRz
1と前記第2表面22xの最大高さRz
2とは以下の関係(1)を満たす。
0.15≦Rz
1/Rz
2≦0.25 … (1)
【0017】
1.1 第1電極層
図1及び2に示されるように、第1電極層11は、活物質層11aと集電体層11bとを備えるものであってよい。第1電極層11は、正極層であっても負極層であってもよいが、特に正極層である場合に高い効果が期待できる。すなわち、第1電極層11は、正極活物質層11aを含んでいてもよく、さらに、正極集電体層11bを含んでいてもよい。
【0018】
1.1.1 正極活物質層
正極活物質層11aは、少なくとも正極活物質を含む。正極活物質層11aは、正極活物質に加えて、さらに任意に固体電解質、バインダー及び導電助剤等を含んでいてもよい。
【0019】
正極活物質としては全固体電池の正極活物質として公知のものを用いればよい。公知の活物質のうち、所定のイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)の異なる2つの物質を選択し、貴な電位を示す物質を正極活物質とし、卑な電位を示す物質を後述の負極活物質として、それぞれ用いることができる。例えば、リチウムイオン電池を構成する場合は、正極活物質としてコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、マンガン酸リチウム、スピネル系リチウム化合物等の各種のリチウム含有複合酸化物;硫黄又は硫黄化合物等を用いることができる。正極活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。特に、正極活物質層11aが正極活物質としての硫黄を含む場合に、一層高い効果が期待できる。すなわち、正極活物質としての硫黄は、充放電時の膨張及び収縮量が大きく、この膨張や収縮に伴うストレスが正極活物質層と固体電解質層との間に溜まり易く、当該ストレスが緩和されずに固体電解質層にクラックを発生させ易いものと考えられるところ、本開示の技術によって、固体電解質層に生じたクラックの伝搬が抑制され、全固体電池の耐短絡性が向上し易い。正極活物質の表面には、正極活物質と固体電解質との接触による反応を抑制するために、ニオブ酸リチウム層やチタン酸リチウム層やリン酸リチウム層等の被覆層が設けられていてもよい。正極活物質は、例えば、粒子状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。正極活物質の粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよい。正極活物質の粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。正極活物質の粒子の平均粒子径は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。尚、本願にいう平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径、D50)である。
【0020】
正極活物質層11aに含まれ得る固体電解質としては、全固体電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、有機ポリマー電解質と比較してイオン伝導度が高い。また、有機ポリマー電解質と比較して耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質;Li2S、P2S5、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2等の硫化物固体電解質を例示することができる。特に硫化物固体電解質が優れた性能を有する。固体電解質は、非晶質であってもよく、結晶であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。正極活物質層11aに含まれ得る固体電解質は粒子状であってもよい。固体電解質の粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。固体電解質の平均粒子径は、例えば10nm以上、0.1μm以上、0.5μm以上又は1μm以上であってもよく、また、100μm以下、50μm以下、10μm又は5μm以下であってもよい。
【0021】
正極活物質層11aに含まれ得るバインダーは、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0022】
正極活物質層11aに含まれ得る導電助剤は、例えば、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の炭素材料、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。
【0023】
正極活物質層11aにおける各成分の含有量は従来と同様とすればよい。正極活物質層11aは、例えば、10質量%以上90質量%以下の正極活物質と、0質量%以上60質量%以下の固体電解質と、0質量%以上30質量%以下の導電助剤と、任意に残部としてのバインダーとを含んでいてもよい。正極活物質層11aの形状も従来と同様とすればよい。全固体電池100をより容易に構成できる観点から、シート状の正極活物質層11aであってもよい。正極活物質層11aの厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上2mm以下であってもよい。下限は1μm以上であってもよく、上限は1mm以下であってもよい。
【0024】
1.1.2 正極集電体層
正極集電体層11bは、全固体電池の集電体層として一般的なものをいずれも採用可能である。正極集電体層11bは、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体層11bは、複数枚の金属箔からなっていてもよい。正極集電体層11bを構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、正極集電体層11bがAlを含むものであってもよい。正極集電体層11bは、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体層11bが複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体層11bの厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0025】
1.2 第1固体電解質層
図1及び2に示されるように、第1固体電解質層21は、第1電極層11と第2固体電解質層22との間に配置され、双方と接触し得る。すなわち、第1固体電解質層21は、第2固体電解質層22と接触する第1表面21xを有するものであってよく、また、第1電極層11と接触する第5表面21yを有するものであってよい。
【0026】
第1固体電解質層21は、少なくとも固体電解質を含む。第1固体電解質層21は、固体電解質に加えて、バインダー等を含んでいてもよい。
【0027】
第1固体電解質層21に含まれる固体電解質は、上記の正極活物質層11aに含まれ得る固体電解質と同じであっても異なっていてもよい。固体電解質は、上記の無機固体電解質であってもよく、特に上記の硫化物固体電解質が優れた性能を有する。固体電解質は、非晶質であってもよく、結晶であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。第1固体電解質層21に含まれる固体電解質は粒子状であってもよい。固体電解質の平均粒子径は、例えば10nm以上、0.1μm以上、0.5μm以上又は1μm以上であってもよく、また、100μm以下、50μm以下、10μm又は5μm以下であってもよい。
【0028】
第1固体電解質層21に含まれ得るバインダーは、上記の正極活物質層11aに含まれ得るバインダーと同じであっても異なっていてもよく、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0029】
第1固体電解質層21における固体電解質及びバインダーの含有量は特に限定されるものではない。第1固体電解質層21は、例えば、80質量%以上又は90質量%以上の固体電解質と、20質量%以下又は10質量%以下のバインダーとを含んでいてもよい。特に第1固体電解質層21がバインダーを0.6質量%以上10質量%以下含む場合に高い性能が確保され易い。第1固体電解質層21は、例えば、シート状であってもよい。第1固体電解質層21の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上2mm以下であってもよい。下限は1μm以上であってもよく、上限は1mm以下であってもよい。第1固体電解質層21は、後述の第2固体電解質層22よりも厚くても薄くてもよいが、厚いほうがより効果的と考えられる。
【0030】
1.3 第2固体電解質層
図1及び2に示されるように、第2固体電解質層22は、第1固体電解質層21と第2電極層12との間に配置され、双方と接触し得る。すなわち、第2固体電解質層22は、第1固体電解質層21と接触する第2表面22xを有するものであってよく、また、第2電極層12と接触する第3表面22yを有するものであってよい。
【0031】
第2固体電解質層22は、少なくとも固体電解質を含む。第2固体電解質層22は、固体電解質に加えて、バインダー等を含んでいてもよい。
【0032】
第2固体電解質層22に含まれる固体電解質は、上記の正極活物質層11aや第1固体電解質層21に含まれ得る固体電解質と同じであっても異なっていてもよい。特に、第1固体電解質層21に含まれる固体電解質と同じ種類のものを用いるとよい。固体電解質は、上記の無機固体電解質であってもよく、特に上記の硫化物固体電解質が優れた性能を有する。固体電解質は、非晶質であってもよく、結晶であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。第2固体電解質層22に含まれる固体電解質は粒子状であってもよい。固体電解質の平均粒子径は、例えば10nm以上、0.1μm以上、0.5μm以上又は1μm以上であってもよく、また、100μm以下、50μm以下、10μm又は5μm以下であってもよい。第1固体電解質層21に含まれる固体電解質と、第2固体電解質層22に含まれる固体電解質とは、実質的に同等の粒子径を有するものであってもよい。例えば、第1固体電解質層21に含まれる固体電解質の平均粒子径D1と、第2固体電解質層22に含まれる固体電解質の平均粒子径D2との比D1/D2は、0.5以上、0.7以上又は0.9以上であってもよく、1.5以下、1.3以下又は1.1以下であってもよい。
【0033】
第2固体電解質層22に含まれ得るバインダーは、上記の正極活物質層11aや第1固体電解質層21に含まれ得るバインダーと同じであっても異なっていてもよく、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0034】
第2固体電解質層22における固体電解質及びバインダーの含有量は特に限定されるものではない。第2固体電解質層22は、例えば、80質量%以上又は90質量%以上の固体電解質と、20質量%以下又は10質量%以下のバインダーとを含んでいてもよい。特に第2固体電解質層22がバインダーを0.6質量%以上10質量%以下含む場合に高い性能が確保され易い。第2固体電解質層22は、例えば、シート状であってもよい。第2固体電解質層22の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上2mm以下であってもよい。下限は1μm以上であってもよく、上限は1mm以下であってもよい。第2固体電解質層22は、上述の第1固体電解質層21よりも厚くても薄くてもよいが、薄いほうがより効果的と考えられる。また、全固体電池100においては、
図1及び2に示されるように、第2固体電解質層22の表面22x、22yの面積が、第1電極層11の表面11xの面積や第1固体電解質層21の表面21x、22yの面積よりも大きくてもよい。
【0035】
1.4 第2電極層
図1及び2に示されるように、第2電極層12は、活物質層12aと集電体層12bとを備えるものであってよい。第2電極層12は、正極層であっても負極層であってもよいが、特に負極層である場合に高い効果が期待できる。すなわち、第2電極層12は、負極活物質層12aを含んでいてもよく、さらに、負極集電体層12bを含んでいてもよい。
【0036】
1.4.1 負極活物質層
負極活物質層12aは、少なくとも負極活物質を含む。負極活物質層12aは、負極活物質に加えて、さらに任意に固体電解質、バインダー及び導電助剤等を含んでいてもよい。
【0037】
負極活物質としては公知の活物質を用いればよい。例えば、リチウムイオン電池を構成する場合は、負極活物質としてSiやSi合金や酸化ケイ素等のシリコン系活物質;グラファイトやハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の各種酸化物系活物質;金属リチウム(リチウム単体又はリチウム合金)等を用いることができる。尚、負極活物質としての金属リチウムは他の活物質と比較して軟質であり、金属リチウムと第2固体電解質層22とを密着させる際に高い圧力を付与すると、第2固体電解質層22の隙間等に金属リチウムが入り込み、当該金属リチウムが正極側に到達してしまう虞がある。また、軟質である金属リチウムの表面に第2固体電解質層22を転写することも難しい。この点、本開示の技術においては、後述するような製造方法を採用することで、負極活物質層12aが負極活物質としての金属リチウムを含むものであったとしても、負極活物質層12aを第2固体電解質層22に対して適切に密着させ易く、負極活物質層12aと第2固体電解質層22との界面においてイオン伝導パス等が確保され易い。これにより、電池の充放電の際に接触不良に起因してデンドライトが成長することも抑制され易い。負極活物質は、例えば、粒子状であってもよく、或いは、後述するように箔状であってもよい。
【0038】
負極活物質層12aに含まれ得る固体電解質、バインダー及び導電助剤は正極活物質層11aに含まれ得るものとして例示したものの中から適宜選択して用いることができる。
【0039】
負極活物質層12aにおける各成分の含有量は従来と同様とすればよい。負極活物質層12aは、例えば、10質量%以上100質量%以下の負極活物質と、0質量%以上60質量%以下の固体電解質と、0質量%以上30質量%以下の導電助剤と、任意に残部としてのバインダーとを含んでいてもよい。負極活物質層12aの形状も従来と同様とすればよい。全固体電池100をより容易に構成できる観点から、シート状の負極活物質層12aであってもよい。負極活物質層12aの厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上2mm以下であってもよい。下限は1μm以上であってもよく、上限は1mm以下であってもよい。全固体電池100においては、負極活物質層12aとして金属リチウムからなる層(例えば、金属リチウム箔)を用いてもよい。また、全固体電池100においては、
図1及び2に示されるように、第2電極層12の表面12xの面積が、第1電極層11の表面11xの面積や第1固体電解質層21の表面21x、21yの面積よりも大きくてもよい。
【0040】
1.4.2 負極集電体層
負極集電体層12bは、全固体電池の集電体層として一般的なものをいずれも採用可能である。負極集電体層12bは、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよいし、カーボンシートによって構成されていてもよい。特に、金属箔やカーボンシートが取扱い性等に優れる。負極集電体層12bは、複数枚の金属箔又はカーボンシートからなっていてもよい。負極集電体層12bを構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点及びリチウムと合金化し難い観点等から、負極集電体層12bがCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよく、カーボンシートからなるものであってもよい。負極集電体層12bは、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、負極集電体層12bが複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体層12bの厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0041】
1.5 表面粗さの関係
図2に示されるように、第1電極層11は、第1固体電解質層21と接触する第6表面11xを有していてもよい。また、第1固体電解質層21は、第2固体電解質層22と接触する第1表面21xと、第1電極層11の第6表面11xと接触する第5表面21yとを有していてもよい。また、第2固体電解質層22は、第1固体電解質層21の第1表面21xと接触する第2表面22xと、第2電極層12と接触する第3表面22yとを有していてもよい。さらに、第2電極層12は、第2固体電解質層22の第3表面22yと接触する第4表面12xを有していてもよい。各々の表面は、所定の表面粗さを有し得る。以下、各々の表面粗さの関係について説明する。
【0042】
1.5.1 第1固体電解質層と第2固体電解質層との界面における関係
全固体電池100においては、第1表面21xの最大高さRz1と第2表面22xの最大高さRz2とが上記の関係(1)を満たすことが重要である。すなわち、Rz1とRz2との比Rz1/Rz2が0.15以上0.25以下である。当該比Rz1/Rz2は、第1固体電解質層21と第2固体電解質層22との接触状態を表現したものといえる。本発明者の新たな知見によると、比Rz1/Rz2が小さ過ぎる場合、第1固体電解質層21と第2固体電解質層22とで表面粗さの差が大き過ぎることから、第1固体電解質層21と第2固体電解質層22との間に空隙が多量に生じ易くなり、第1固体電解質層21と第2固体電解質層22との間で充分なイオン伝導パスを確保することが難しい。一方で、比Rz1/Rz2が1.00近傍である場合、第1固体電解質層21の表面の凹凸と第2固体電解質層22の表面の凹凸とが互いに噛み合って、第1固体電解質層21と第2固体電解質層22との間の接触面積が大きくなる。この場合、イオン伝導パスは確保され易いものの、第1固体電解質層21と第2固体電解質層22とが互いに追従し易くなることから、第1固体電解質層21と第2固体電解質層22のうちの一方の層にクラックが生じた場合に他方の層にもクラックが生じ易く、また、一方の層に生じたクラックが他方の層へと容易に伝搬し易い。結果として、全固体電池の耐短絡性を向上させることが難しい。これに対し、上記の通り、比Rz1/Rz2が0.15以上0.25以下であることで、第1固体電解質層21と第2固体電解質層22との間で必要なイオン伝導パスが確保され、且つ、第1固体電解質層21と第2固体電解質層22とが過度に密着することがないため一方の層から他方の層へのクラックの伝搬を抑制することもできる。
【0043】
全固体電池100において、第1固体電解質層21の第1表面21xの最大高さRz1の具体的な値は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上、0.2μm以上又は0.3μm以上であってもよく、3.0μm以下、2.0μm以下、1.0μm以下、0.9μm以下、0.8μm以下又は0.7μm以下であってもよい。また、全固体電池100において、第2固体電解質層22の第2表面22xの最大高さRz2の具体的な値は、特に限定されるものではないが、例えば、0.5μm以上、0.8μm以上、1.0μm以上又は1.5μm以上であってもよく、5.0μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下又は2.0μm以下であってもよい。
【0044】
1.5.2 第2固体電解質層と第2電極層との界面における関係
全固体電池100においては、第2固体電解質層22が第2表面22xとは反対側に第3表面22yを有してもよく、第2電極層12が第3表面22yと接触する第4表面12xを有してもよく、この場合、第3表面22yの最大高さRz3と第4表面12xの最大高さRz4とが以下の関係(2)又は(3)を満たしてもよい。
【0045】
0.45≦Rz3/Rz4≦1.00 … (2)
0.45≦Rz4/Rz3≦1.00 … (3)
【0046】
上記の比Rz3/Rz4又は比Rz4/Rz3が0.45以上であることで、第2固体電解質層22の表面の凹凸と第2電極層12の表面の凹凸とが互いに噛み合って、第2固体電解質層22と第2電極層12との間の接触面積を大きくすることができる。これにより、第2固体電解質層22と第2電極層12との間でイオン伝導パスが確保され易い。尚、第2固体電解質層22と第2電極層12との間においては、クラックの伝搬を抑制する必要はない。仮に、第2電極層12から第2固体電解質層22へとクラックが伝搬したとしても、上記の通り、第2固体電解質層22から第1固体電解質層21へのクラックの伝搬が抑制されることから、全固体電池100において十分な耐短絡性が確保され得る。比Rz3/Rz4又は比Rz4/Rz3の上限は特に限定されず、上記の通り、1.00以下であってもよく、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下又は0.50以下であってもよい。
【0047】
全固体電池100において、第2固体電解質層22の第3表面22yの最大高さRz3の具体的な値は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、0.8μm以上又は1.0μm以上であってもよく、5.0μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下又は2.0μm以下であってもよい。また、第2電極層12の第4表面12xの最大高さRz4の具体的な値は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、0.8μm以上又は1.0μm以上であってもよく、5.0μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下又は2.0μm以下であってもよい。
【0048】
1.5.3 第1固体電解質層と第1電極層との界面における関係
全固体電池100においては、第1固体電解質層21が第1表面21xとは反対側に第5表面21yを有してもよく、第1電極層11が第5表面21yと接触する第6表面11xを有してもよく、この場合、第5表面21yの最大高さRz5と第6表面11xの最大高さRz6とが以下の関係(4)又は(5)を満たしてもよい。これにより、第1固体電解質層21の表面の凹凸と第1電極層11の表面の凹凸とが互いに噛み合って、第1固体電解質層21と第1電極層11との間の接触面積を大きくすることができ、第1固体電解質層21と第1電極層11との間でイオン伝導パスが確保され易くなる。
【0049】
0.45≦Rz5/Rz6≦1.00 … (4)
0.45≦Rz6/Rz5≦1.00 … (5)
【0050】
1.5.4 最大高さRzの測定方法
本願において、各層の表面の最大高さRzは、全固体電池の断面をSEM等によって観察することで特定することができる。例えば、
図3に示されるように、全固体電池100の第1固体電解質層21と第2固体電解質層22との界面近傍について、SEM等によって断面観察を行い、当該断面の二次元画像を取得する。当該二次元画像には、第1固体電解質層21及び第2固体電解質層22の各々について、その表面の凸部が5個以上含まれるようにする。上記凸部のうち、2つ頂点P1、P2を特定し、当該P1とP2とを結ぶ直線L1を特定する。ここで、直線L1の延長線上にP1、P2を超えるような高さを有する凸部(直線L1から突出するような凸部)が無いことを確認する。続けて、直線L1の平行線L2を仮定し、当該平行線L2を、固体電解質層の表面の最も深い凹部の底点B1と交差させる。ここで、平行線L2の延長線上にB1を超えるような深さを有する凹部(平行線L2の位置よりも深い凹部)が無いことを確認する。直線L1と平行線L2との間の距離H1を最大高さRzとする。
【0051】
或いは、全固体電池から各層を剥がし取る等して各層の表面を露出させたうえで、露出させた表面に対してJIS B0601:2001に準拠してRzを測定してもよい。或いは、各層の表面を露出させたうえで、当該表面の凹凸について樹脂等で型を取り、当該表面と実質的に同様の凹凸が転写された当該樹脂等に対してJIS B0601:2001に準拠してRzを測定して、これを各層の表面のRzとみなしてもよい。この場合、株式会社小坂研究所製SE-600を用いて、10mm×10mmサイズに切り出したサンプルに対して、測定長さ8mm、カットオフ値0.5mmの測定条件にてRzを求めることができる。上記の画像解析によるRz及びJIS規格に準じて測定されたRzのうち、いずれか一方でも上記の関係を満たせばよい。
【0052】
1.5.5 表面粗さについての補足
尚、全固体電池においては、一つの電極層の一つの表面Aにおいて、当該表面Aの全体に亘って略一定に凹凸が形成され、また、一つの固体電解質層の一つの表面Bにおいて、当該表面Bの全体に亘って略一定に凹凸が形成される。言い換えれば、各層の表面の最大高さRzは、各層の表面の算術平均粗さRaと実質的に相関する。すなわち、各層の表面の最大高さRzを特定することで、各層の表面全体に亘る凹凸の状態を表現できているものといえる。
【0053】
全固体電池100において、各層11、12、21、22の表面11x、12x、21x、21y、22x、22yの算術平均粗さRaの比や具体値は特に限定されるものではない。例えば、上記のRzとの関係において、RaとRzとの比Ra/Rzが0.1以上0.2以下であってもよい。
【0054】
1.6 その他の部材
全固体電池100は、少なくとも上記の各層を有するものであればよく、これ以外にその他の部材を有していてもよい。以下に説明される部材は、全固体電池100が有し得るその他の部材の一例である。
【0055】
1.6.1 外装体
全固体電池100は、上記の各層が外装体の内部に収容されたものであってもよい。より具体的には、全固体電池100から外部へと電力を取り出すためのタブ又は端子等を除いた部分が、外装体の内部に収容されていてもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。例えば、外装体としてラミネートフィルムを用いてもよい。また、複数の全固体電池100が、電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。
【0056】
1.6.2 封止樹脂
全固体電池100においては、上記の各層が樹脂によって封止されていてもよい。例えば、各層からなる積層体の少なくとも側面(積層方向に沿った面)が樹脂によって封止されてもよい。これにより、各層の内部への水分の混入等が抑制され易くなる。封止樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が採用され得る。
【0057】
1.6.3 拘束部材
全固体電池100は、各層を積層方向に拘束するための拘束部材を有していてもよい。拘束部材によって各層に対して積層方向に拘束圧を付与することによって、各層の内部抵抗が低減され易い。この場合の拘束圧は、通常、後述する圧力P1や圧力P2よりも小さく、例えば、50MPa以下、30MPa以下又は10MPa以下であってよく、また、0.1MPa以上又は1.0MPa以上であってよい。
【0058】
2.全固体電池の製造方法
本開示の技術は全固体電池の製造方法としての側面も有する。
図4及び
図5A~Dに示されるように、一実施形態に係る全固体電池の製造方法は、
基材31の表面に第1固体電解質層21を形成して転写材41を得ること(工程S1、
図5A参照)、
前記転写材41と第1電極層11とを積層したうえで積層方向に圧力P
1を加え、前記転写材41の前記第1固体電解質層21を前記第1電極層11に転写して、前記第1電極層11と前記第1固体電解質層21との第1積層体51を得ること(工程S2、
図5B参照)、
第2電極層12に対して第2固体電解質層22を構成する材料22aを塗工して、前記第2電極層12と前記第2固体電解質層22との第2積層体52を得ること(工程S3、
図5C参照)、及び、
前記第1積層体51と前記第2積層体52とを積層したうえで積層方向に前記圧力P
1よりも小さい圧力P
2を加え、前記第1電極層11と前記第1固体電解質層21と前記第2固体電解質層22と前記第2電極層12とをこの順に有する全固体電池100を得ること(工程S4、
図5D参照)、
を含む。
【0059】
2.1 工程S1
図4及び
図5Aに示されるように、工程S1においては、基材31の表面に第1固体電解質層21を形成して転写材41を得る。
【0060】
基材31は、後述する工程S2において圧力P1を加えた後に、第1固体電解質層21から剥がし取ることが可能なものであればよい。例えば、基材31として、金属箔や樹脂フィルム等が採用され得る。
【0061】
工程S1において、基材31の表面に第1固体電解質層21を形成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、第1固体電解質層21を構成する材料を含むスラリーを基材31の表面に塗工したうえで乾燥することによって、転写材41を得てもよい。或いは、第1固体電解質層21を構成する材料を、基材31とともに乾式成形することによって、転写材41を得てもよい。
【0062】
2.2 工程S2
図4及び
図5Bに示されるように、工程S2においては、転写材41と第1電極層11とを積層したうえで積層方向に圧力P
1を加える。
【0063】
第1電極層11は、上記の通り、活物質層11aと集電体層11bとを有するものであってよい。この場合、例えば、活物質層11aを構成する材料を含むスラリーを集電体層11bの表面に塗工したうえで乾燥することによって、第1電極層11を得てもよい。或いは、活物質層11aを構成する材料を、集電体層11bとともに乾式成形することによって、第1電極層11を得てもよい。
【0064】
工程S2においては、例えば、転写材41の第1固体電解質層21と、第1電極層11の活物質層11aとを重ね合わせて積層し、積層方向に圧力P1を加えて第1固体電解質層21と活物質層11aとの界面を密着させる。圧力P1は、第1固体電解質層21に含まれる固体電解質を塑性変形させ得る圧力であってもよい。具体的には、圧力P1は、100MPa超、200MPa以上、300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上又は600MPa以上であってもよい。圧力P1の上限は特に限定されず、各層が破損しない程度の圧力であればよい。工程S2における加圧方法は特に限定されるものではなく、CIP、HIP、ロールプレス、一軸プレス、金型プレス等の種々の加圧方法を採用可能である。
【0065】
尚、工程S2及び後述の工程S4において、「積層方向に圧力を加える」とは、少なくとも積層方向に圧力P1又は圧力P2を加えることを意味し、積層方向への圧力P1又は圧力P2とともに、積層方向以外の方向への圧力が含まれていてもよい。
【0066】
工程S2においては、上記のようにして転写材41と第1電極層11とを積層して加圧した後、転写材41から基材31を剥がし取る等して除去することで、第1電極層11と第1固体電解質層21との第1積層体51を得ることができる。
【0067】
2.3 工程S3
図4及び
図5Cに示されるように、工程S3においては、第2電極層12に対して第2固体電解質層22を構成する材料22aを塗工して、前記第2電極層12と前記第2固体電解質層22との第2積層体52を得る。
【0068】
第2電極層12は、上記の通り、活物質層12aと集電体層12bとを有するものであってよい。この場合、例えば、活物質層12aを構成する材料を含むスラリーを集電体層12bの表面に塗工したうえで乾燥することによって、第2電極層12を得てもよい。或いは、活物質層12aを構成する材料を、集電体層12bとともに乾式成形することによって、第2電極層12を得てもよい。より具体的には、集電体層12bとしての金属箔の表面に活物質層12aとしての金属リチウム箔を貼り付けることによって、第2電極層12を得てもよい。
【0069】
工程S3においては、例えば、第2固体電解質層22を構成する材料を含むスラリーを第2電極層12の活物質層12aの表面に塗工したうえで乾燥することによって、第2積層体52を得る。ここで、工程S3においては、第2積層体52を加圧してもよいし、加圧しなくてもよい。加圧する場合は、上記圧力P1よりも小さな圧力で加圧するものとする。特に、活物質層12aとして金属リチウムを含む層を採用した場合、当該金属リチウムが軟質であることから、第2積層体52に対して大きな圧力を加えると当該金属リチウムが第2固体電解質層22の内部へと過剰に浸透する虞がある。この点、工程S3においては、塗工法を採用することで、第2積層体52の加圧をせずとも、第2積層体52において第2固体電解質層22と第2電極層12とを密着させることが可能であり、後述の工程S4を経た後において、上記したような比Rz3/Rz4又は比Rz4/Rz3を容易に達成することができる。
【0070】
工程S3においては、塗工法を採用して第2積層体52を得て、且つ、第2積層体52を加圧しないか、或いは、圧力P1よりも小さな圧力で加圧することで、第2固体電解質層22の第2表面22xにおいて、固体電解質粒子等に由来する凹凸が残り易い。すなわち、第2表面22xの最大高さRz2が大きくなり易く、上記した比Rz1/Rz2が満たされ易い。
【0071】
一方、工程S3において、仮に、工程S1及びS2のような転写法を採用した場合、第2固体電解質層22の第2表面22xの最大高さRz2が、第1固体電解質層21の第1表面21xの最大高さRz1と同等となり、上記した比Rz1/Rz2が満たされ難くなる。また、第2電極層12の活物質層12aが軟質な金属リチウムを含む層である場合、活物質層12aの表面に第2固体電解質層22を転写すること自体、そもそも難しい。
【0072】
2.4 工程S4
図4及び
図5Dに示されるように、工程S4においては、第1積層体51と第2積層体52とを積層したうえで積層方向に圧力P
1よりも小さい圧力P
2を加え、第1電極層11と第1固体電解質層21と第2固体電解質層22と第2電極層12とをこの順に有する全固体電池100を得る。
【0073】
工程S4においては、第1積層体51と第2積層体52とを接合する必要はなく、第1積層体51と第2積層体52とが適度に接触する程度に加圧すればよい。また、上記の通り、電極層において活物質として金属リチウムを採用した場合、過度の加圧によって金属リチウムの不要な変形、固体電解質層への浸透及び短絡が懸念される。さらに、過度の加圧によって、第2固体電解質層22の第2表面22xの表面の凹凸が解消されてしまい、上記したような比Rz1/Rz2を満たすことが困難となる。この点、工程S4において、圧力P2は工程S2における圧力P1よりも低いことが重要である。具体的には、圧力P2は、200MPa未満、180MPa以下、150MPa以下、120MPa以下又は100MPa以下であってもよい。圧力P2の下限は特に限定されず、電池材料の界面の接触が確保される程度の圧力であればよい。工程S4における加圧方法は特に限定されるものではなく、CIP、HIP、ロールプレス、一軸プレス、金型プレス等の種々の加圧方法を採用可能である。
【0074】
2.5 その他の工程
全固体電池の製造方法は、上記のようにして得られた全固体電池を外装体内に収容する工程や、端子等の電池として必要な部材を取り付ける工程等を含んでいてもよい。全固体電池の製造方法における自明な工程については説明を省略する。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
1.比較例1
1.1 正極合材の作製
正極合材を構成する出発原料として、1.05gの硫黄(S)と、0.852gのP2S5と、0.57gのVGCFとを用い、当該出発原料をメカニカルミリングによって複合化した。具体的には、露点温度が-70℃以下のグローブボックス内で上記の出発原料を秤量後、メノウ乳鉢で15分混練した。予め60℃で乾燥させたポット(45mL、ZrO2製)とジルコニアボール(φ4mm、約96g、約500個)とを用意し、混練後の粉をジルコニアボールとともにポットに入れて、500rpmで1時間のメカニカルミリングと、15分間の停止と、逆回転且つ500rpmで1時間のメカニカルミリングと、15分間の停止と、を48時間繰り返すことで、正極合材を得た。
【0077】
1.2 第1電極層の作製
SBRを5質量%含むメシチレン溶液と、メシチレンとをポリプロピレン製の容器に投入し、振とう機で3分間混合した。ここに、正極合材(S8-P2S5/C)を投入したうえで、振とう機で3分間混合することと、超音波分散装置によって30秒混合することとを各々2回繰り返した。続けて、超音波分散装置で5秒混合した直後に得られた正極合材スラリーを、塗工ギャップが250μmのドクターブレードを用いて、正極集電体層としてのAl箔上に塗工した。塗工した正極合材の表面が乾燥したことを目視で確認した後、さらに、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させることで、第1電極層としての正極層を得た。
【0078】
1.3 第1固体電解質層の作製
ABRを5質量%含むヘプタン溶液と、ヘプタンと、酪酸ブチルとをポリプロピレン製の容器に投入し、振とう機で3分間混合した。ここに、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-Li2S-P2S5系固体電解質、D50=0.5μm)を投入したうえで、振とう機で3分間混合することと、超音波分散装置によって30秒混合することとを各々2回繰り返した。続けて、超音波分散装置で5秒混合した直後に得られた固体電解質スラリーを、塗工ギャップが350μmのアプリケータを用いて、基材としてのAl箔上に塗工した。塗工した固体電解質の表面が乾燥したことを目視で確認した後、さらに、165℃のホットプレート上で30分間乾燥させることで、基材と固体電解質層とからなる転写材を得た。固体電解質層に含まれるABRの量は0.6質量%であった。
【0079】
1.4 第2固体電解質層の作製
第1固体電解質層の作製と同様の方法で、基材と固体電解質層とからなる転写材を得た。固体電解質層に含まれるABRの量は0.6質量%であった。
【0080】
1.5 全固体電池の作製
正極層の表面に転写材を重ね合わせて600MPaでプレスした後、転写材から基材を剥がし取ることで、正極層の表面に第1固体電解質層を転写し、正極集電体層と正極活物質層と第1固体電解質層とをこの順に有する第1積層体を得た。続けて、第1積層体の第1固体電解質層の表面に新たに転写材を重ね合わせて600MPaでプレスした後、転写材から基材を剥がし取ることで、正極集電体層と正極活物質層と第1固体電解質層と第2固体電解質層とをこの順に有する第2積層体を得た。その後、第2積層体の第2固体電解質層の表面に、負極活物質層としての金属リチウム箔と、負極集電体層としてのNi箔とを積層して、100MPaでプレスすることで、正極集電体層と正極活物質層と第1固体電解質層と第2固体電解質層と負極活物質層と負極集電体層とをこの順に有する全固体電池を得た。得られた全固体電池をラミネートフィルム内に封止したうえで、積層方向に10MPaで拘束して評価を行った。
【0081】
2.比較例2
第1固体電解質層及び第2固体電解質層に含まれるABRの量を10質量%としたこと以外は、比較例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0082】
3.比較例3
第1固体電解質層に含まれるABRの量を0.6質量%とする一方で、第2固体電解質層に含まれるABRの量を10質量%としたこと以外は、比較例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0083】
4.実施例1
4.1 第1積層体の作製
比較例1と同様にして第1電極層としての正極層と、第1固体電解質層の転写材とを作製した。その後、正極層の表面に転写材を重ね合わせて600MPaでプレスした後、転写材から基材を剥がし取ることで、正極層の表面に第1固体電解質層を転写し、正極集電体層と正極活物質層と第1固体電解質層とをこの順に有する第1積層体を得た。
【0084】
4.2 第2積層体の作製
Li箔(厚さ70μm)を負極集電体層としてのNi箔の表面に貼り付けて、第2電極層としての負極層を得た。一方で、ABRを5質量%含むヘプタン溶液と、ヘプタンと、酪酸ブチルとをポリプロピレン製の容器に投入し、振とう機で3分間混合した。ここに、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-Li2S-P2S5系固体電解質、D50=0.5μm)を投入したうえで、振とう機で3分間混合することと、超音波分散装置によって30秒混合することとを各々2回繰り返した。続けて、超音波分散装置で5秒混合した直後に得られた固体電解質スラリーを、塗工ギャップが350μmのアプリケータを用いて、負極層のLi箔上に塗工した。塗工した固体電解質の表面が乾燥したことを目視で確認した後、さらに、165℃のホットプレート上で30分間乾燥させることで、第2固体電解質層と第2電極層としての負極層との第2積層体を得た。固体電解質層に含まれるABRの量は0.6質量%であった。
【0085】
4.3 全固体電池の作製
第1積層体と第2積層体とを積層し、100MPaでプレスすることで、正極集電体層と正極活物質層と第1固体電解質層と第2固体電解質層と負極活物質層と負極集電体層とをこの順に有する全固体電池を得た。得られた全固体電池をラミネートフィルム内に封止したうえで、積層方向に10MPaで拘束して評価を行った。
【0086】
5.実施例2
第1固体電解質層及び第2固体電解質層に含まれるABRの量を10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0087】
6.実施例3
第1固体電解質層に含まれるABRの量を0.6質量%とする一方で、第2固体電解質層に含まれるABRの量を10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0088】
7.実施例4
負極活物質層としてのLi箔に替えて、Li-Mg合金箔を用いたこと以外は、実施例3と同様にして全固体電池を作製した。
【0089】
8.全固体電池の評価方法
8.1 表面粗さの測定
実施例及び比較例に係る全固体電池の各々について、第1固体電解質層と第2固体電解質層との界面における各々の層の表面の最大高さRzを測定した。Rzの測定方法については上記した通りである。結果を下記表1に示す。
【0090】
8.2 耐短絡性
60℃の恒温槽に3時間置くことで、全固体電池を均熱化した。その後、0.46mA/cm2の電流密度で放電及び充電を行った。カットオフ電圧は1.5-3.1Vであった。実施例及び比較例に係る全固体電池の各々について、短絡に至るまでに得られた最大の充電容量を測定し、これを「耐短絡容量」として全固体電池の耐短絡性を評価した。耐短絡容量が大きいものほど、耐短絡性に優れるものといえる。結果を下記表1に示す。
【0091】
【0092】
9.評価結果
表1においては、バインダー量を基準に、比較例1と実施例1とが対比され、比較例2と実施例2とが対比され、比較例3と実施例3とが対比され得る。実施例4は実施例3の変形例といえる。表1に示される結果から明らかなように、第1固体電解質層と第2固体電解質層との界面において、第1固体電解質層の表面の最大高さRz1と、第2固体電解質層の表面の最大高さRz2との比Rz1/Rz2が0.15以上0.25以下の範囲内である場合に、全固体電池が優れた耐短絡性を有することが分かる(実施例1~4)。一方で、比Rz1/Rz2が1.00に近付くと、全固体電池の耐短絡性が低下することが分かる(比較例1~3)。これは以下のメカニズムによるものと考えられる。
【0093】
まず、比Rz1/Rz2が小さ過ぎる場合、第1固体電解質層と第2固体電解質層とで表面粗さの差が大き過ぎることから、第1固体電解質層と第2固体電解質層との間に空隙が多量に生じ易くなり、第1固体電解質層と第2固体電解質層との間で充分なイオン伝導パスを確保することが難しいものと考えられる。そのため、電池として十分な容量が確保できないものと考えられる。この点、実施例1~4においては、比Rz1/Rz2が0.15以上であることで、第1固体電解質層と第2固体電解質層との間で必要なイオン伝導パスが確保され、十分な容量が確保されたものと考えられる。
【0094】
一方で、比Rz1/Rz2が1.00近傍である場合、第1固体電解質層の表面の凹凸と第2固体電解質層の表面の凹凸とが互いに噛み合って、第1固体電解質層と第2固体電解質層との間の接触面積が大きくなることから、イオン伝導パスは確保され易いものの、第1固体電解質層と第2固体電解質層とが互いに追従し易く、第1固体電解質層と第2固体電解質層のうちの一方の層にクラックが生じた場合に当該クラックが他方の層に伝搬し易くなるものと考えられる。この点、比較例1~3においては、当該クラックの伝搬によって、全固体電池の耐短絡容量が低下したものと考えられる。一方で、実施例1~4においては、比Rz1/Rz2が0.25以下であることで、固体電解質層におけるクラックの伝搬が抑制され、全固体電池の耐短絡容量が増大したものと考えられる。
【0095】
10.補足
尚、本発明者は実験により以下のことについても確認済である。まず、第1積層体及び第2積層体のいずれについても塗工法によって作製したうえで、第1積層体と第2積層体とを重ね合わせて100MPaでプレスした場合、第1固体電解質層と第2固体電解質層との界面における比Rz1/Rz2が1.00に近付くことに加え、正極層と第1固体電解質層との界面等においてイオン伝導パスが確保され難く、電池としての最大容量が小さくなってしまう。結果として、耐短絡容量も小さくなってしまう。この点、第1積層体及び第2積層体のうちの一方を転写法で作製することのメリットがある。
【0096】
また、負極活物質として金属リチウムを用いた場合、当該金属リチウムが軟質であり高いプレス圧をかけることができないため、当該金属リチウムを含む負極活物質層の表面に固体電解質層を転写することは困難である。仮に軽圧下で負極活物質層の表面に固体電解質層が転写できたとしても、負極活物質層と固体電解質層との接触が不良となり、電池の充放電の際、デンドライトが成長することが懸念される。これに対し、金属リチウムを含む負極活物質層の表面に固体電解質材料を塗工することで、負極活物質層と固体電解質層との間の接触性が増加し、接触不良によるデンドライトの成長を抑制し易くなる。この点、第1積層体及び第2積層体のうちの一方(特に、負極活物質として金属リチウムを含む第2積層体)を塗工法で作製することのメリットがある。
【0097】
さらに、第1積層体及び第2積層体を積層して圧力を加える場合、当該圧力が高過ぎると、負極活物質としての金属リチウムの不要な変形及び金属リチウムの固体電解質層への浸透が生じるほか、第1固体電解質層と第2固体電解質層との界面における凹凸も解消され、比Rz1/Rz2が1.00に近付く。結果として、全固体電池において十分な耐短絡容量を確保することが難しくなる。この点、第1積層体及び第2積層体を積層して圧力P2を加える場合に、当該圧力P2が第1積層体を得る際に加えられる圧力P1よりも小さいことのメリットがある。
【0098】
尚、上記の実施例及び比較例においては、全固体電池としてリチウム硫黄電池を採用した場合について説明したが、本開示の技術はリチウム硫黄電池以外の全固体電池に適用した場合おいても全固体電池の耐短絡性を向上させることができるものと考えられる。本開示の技術は、第1固体電解質層と第2固体電解質層との界面の状態に注目したものであり、第1電極層や第2電極層は自由に変更可能である。例えば、正極活物質として硫黄以外の活物質を採用してもよいし、負極活物質として金属リチウム(単体リチウム及びリチウム合金)以外の活物質を採用してもよい。ただし、正極活物質として硫黄を用いた場合、電池の充放電時における当該硫黄の膨張量、収縮量が大きく、この膨張や収縮に伴うストレスが正極活物質層と固体電解質層との間に溜まり易く、当該ストレスが緩和されずに固体電解質層にクラックを発生させ易いものと考えられるところ、本開示の技術によって固体電解質層におけるクラックの伝搬を抑制することで、高い効果が期待できる。また、本開示の技術は、負極活物質として金属リチウムを用いた場合に生じる特有の課題(軟質であり、固体電解質層を転写できないこと等)を解決したい場合にも適用可能と考えられる。
【0099】
また、上記の実施例及び比較例においては、第1電極層としての正極層と第2電極層としての負極層とを有する全固体電池を例示したが、本開示の技術は、第1電極層としての負極層と第2電極層としての正極層を有する全固体電池に適用した場合においても同様の効果が発揮されるものと考えられる。
【0100】
以上の実施例及び比較例の結果から、以下の構成(1)及び(2)を有する全固体電池は、固体電解質層におけるクラックの伝搬が生じ難く、優れた耐短絡性を有するものといえる。
【0101】
(1)第1電極層と第1固体電解質層と第2固体電解質層と第2電極層とをこの順に有すること。
(2)前記第1固体電解質層が第1表面を有し、前記第2固体電解質層が前記第1表面と接触する第2表面を有し、前記第1表面の最大高さRz1と前記第2表面の最大高さRz2とが0.15≦Rz1/Rz2≦0.25なる関係を満たすこと。
【0102】
また、以下の工程S1~S4を含む製造方法により、上記の構成を有する全固体電池を容易に製造できることが分かる。尚、下記S1~S3はこの順番に限定されない。
【0103】
(S1)基材の表面に第1固体電解質層を形成して転写材を得ること。
(S2)前記転写材と第1電極層とを積層したうえで積層方向に圧力P1を加え、前記転写材の前記第1固体電解質層を前記第1電極層に転写して、前記第1電極層と前記第1固体電解質層との第1積層体を得ること。
(S3)第2電極層に対して第2固体電解質層を構成する材料を塗工して、前記第2電極層と前記第2固体電解質層との第2積層体を得ること。
(S4)前記第1積層体と前記第2積層体とを積層したうえで積層方向に前記圧力P1よりも小さい圧力P2を加え、前記第1電極層と前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層と前記第2電極層とをこの順に有する全固体電池を得ること。
【符号の説明】
【0104】
11 第1電極層
12 第2電極層
21 第1固体電解質層
22 第2固体電解質層
31 基材
41 転写材
51 第1積層体
52 第2積層体
100 全固体電池