(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】トーションビーム式サスペンション
(51)【国際特許分類】
B60G 9/04 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
B60G9/04
(21)【出願番号】P 2021113761
(22)【出願日】2021-07-08
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河津 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】奈良 洋二
(72)【発明者】
【氏名】山内 洋二郎
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-182142(JP,A)
【文献】特開2007-331723(JP,A)
【文献】特開平10-236123(JP,A)
【文献】実開昭54-120020(JP,U)
【文献】中国実用新案第210283815(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2012/0306176(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車長方向に延び、一端が車体に連結し、他端が車輪を支持する左右1対のトレーリングアームと、
車幅方向に延び、両端がそれぞれ左右1対の前記トレーリングアームに結合しているクロスビームと、
前記トレーリングアームの、前記クロスビームが結合している位置よりも車長方向において前記車輪の側に固定され、車幅方向内側に向けて延び、ダンパを前記トレーリングアームに連結するための連結部材と、
前記連結部材の車幅方向内側端と、前記クロスビームの、前記トレーリングアームに結合している位置よりも車幅方向内側の部分とに結合している補強ブラケットであって、当該補強ブラケットは、一端で前記連結部材と結合し、他端で前記クロスビームと結合する、水平面に対して交差する縦板部分を有する、補強ブラケットと、
を備えたトーションビーム式サスペンション。
【請求項2】
請求項1に記載のトーションビーム式サスペンションであって、前記補強ブラケットの前記縦板部分と前記クロスビームの結合位置が、前記補強ブラケットの前記縦板部分と前記連結部材の結合位置よりも車幅方向内側に位置する、トーションビーム式サスペンション。
【請求項3】
請求項1または2に記載のトーションビーム式サスペンションであって、前記補強ブラケットの前記縦板部分の上縁と下縁の少なくとも一方に、当該補強ブラケットの前記連結部材との結合位置と、前記クロスビームとの結合位置との間に延びるフランジが形成されている、トーションビーム式サスペンション。
【請求項4】
請求項3に記載のトーションビーム式サスペンションであって、前記フランジは、前記クロスビームの表面に沿って延び、前記クロスビームに結合されている延伸部分を有する、トーションビーム式サスペンション。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のトーションビーム式サスペンションであって、前記連結部材は、
前記トレーリングアームと前記補強ブラケットとに挟持される、トーションビーム式サスペンション。
【請求項6】
請求項5に記載のトーションビーム式サスペンションであって、前記連結部材は、前記ダンパに備えられたブッシュの内筒である、トーションビーム式サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーションビーム式サスペンションに関し、特にその構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車長方向に延び、一端において車体に連結し、他端において車輪を支持する、左右1対のトレーリングアームと、車幅方向に延びて両端がそれぞれ左右のトレーリングアームに結合しているクロスビームとを有するトーションビーム式サスペンションが知られている。トーションビーム式サスペンションは、クロスビームの位置が、車軸とほぼ一致するアクスルビーム型、トレーリングアームの車体連結部付近にあるピボットビーム型、これらの中間にあるカップルドビーム型に分類される。
【0003】
下記特許文献1には、カップルドビーム式のトーションビーム式サスペンションが示されている。下記特許文献1のサスペンションにおいて、スプリング(14)を受けるスプリングシート(7)がトレーリングアーム(2)に溶接され、またトーションビーム(11)に溶着されたガゼット(12)に溶接されている(段落0024,0033等参照)。なお、上記の( )内の符号は、下記特許文献1で用いられた符号であり、本願の実施形態の説明で用いられる符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ピボットビーム式およびカップルドビーム式のトーションビーム式サスペンションは、トレーリングアームが、クロスビームが結合する位置と車輪を支持する端の間が片持ち支持の梁構造となる。車輪に横力が加わると、トレーリングアームの片持ちの梁構造部分がたわむ。
【0006】
本発明は、車輪に加わる横力によるトレーリングアームのたわみを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るトーションビーム式サスペンションは、車長方向に延び、一端が車体に連結し、他端が車輪を支持する左右1対のトレーリングアームと、車幅方向に延び、両端がそれぞれ左右1対のトレーリングアームに結合しているクロスビームとを備える。さらに、本発明に係るサスペンションは、ダンパをトレーリングアームに連結するための連結部材を備え、連結部材は、トレーリングアームの、クロスビームが結合している位置よりも車長方向において車輪の側に固定され、車幅方向内側に向けて延びている。さらに、本発明に係るサスペンションは、連結部材の車幅方向内側端と、クロスビームの、トレーリングアームに結合している位置よりも車幅方向内側の部分とに結合している補強ブラケットを備える。補強ブラケットは、一端で連結部材と結合し、他端でクロスビームと結合する水平面に対して交差する縦板部分を有する。
【0008】
車輪に加わる横力の一部が連結部材および補強ブラケットを介してクロスビームに伝達される。
【0009】
さらに、補強ブラケットの縦板部分とクロスビームの結合位置が、補強ブラケットの縦板部分と連結部材の結合位置よりも車幅方向内側に位置するものとすることができる。補強ブラケットが車輪に加わる横力に対して傾斜して配置されることで、より大きな力を分担することができる。
【0010】
さらに、補強ブラケットは、当該補強ブラケットの縦板部分の上縁と下縁の少なくとも一方に、当該補強ブラケットの連結部材との結合位置と、クロスビームとの結合位置との間に延びるフランジが形成されているものとすることができる。フランジを設けることで、補強ブラケット自体の剛性を高めることができる。
【0011】
さらに、補強ブラケットのフランジは、クロスビームの表面に沿って延びてクロスビームに結合されている延伸部分を有するものとすることができる。延伸部分によって、補強ブラケットとクロスビームの結合部分の剛性を高めることができる。
【0012】
さらに、連結部材は、トレーリングアームと補強ブラケットとに挟持されるものとすることができ、特にダンパに備えられたブッシュの内筒とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
補強ブラケットが、車輪に加わる応力の一部を負担することにより、トレーリングアームのたわみを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】カップルドビーム型のトーションビーム式サスペンションの概略構成を示す図である。
【
図2】右側のトレーリングアームおよびその周囲の構成をスプリング-ダンパユニットを取り外して示す斜視図である。
【
図3】右側のトレーリングアームおよびその周囲の構成をスプリング-ダンパユニットを取り外して示す平面図である。
【
図4】右側のトレーリングアームおよびその周囲の構成を示す背面図である。
【
図6】単体の補強ブラケットを、
図5とは別の角度から見た状態を示す斜視図である。
【
図10】補強ブラケットの作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。以下の説明において、特段の断りがない限り、前後左右上下等の相対位置および向きを表す語句は、車両に関する相対位置および向きを表す。また、車両の前後方向を車長方向、車両の左右方向を車幅方向と記す。車幅方向において、車長方向に延びる中心線に近い側を車幅方向内側、遠い側を車幅方向外側と記す。各図において、矢印FRの向きが前方、矢印RRの向きが後方、矢印UPの向きが上方、矢印LHの向きが左方、矢印RHの向きが右方、矢印OUTの向きが車幅方向外側である。
【0016】
図1は、乗用車に広く普及しているカップルドビーム型のトーションビーム式サスペンション10の概略構成を示す斜視図である。トーションビーム式サスペンション10は、車長方向に延びる左右1対のトレーリングアーム12と、車幅方向に延び、両端がそれぞれ左右のトレーリングアーム12に結合されたクロスビーム14を備える。トレーリングアーム12は、一端、特に前端12aが車体に連結され、他端、特に後端12bが車輪16(
図4参照)を支持する。
図1においては、車輪16が結合されるホイールハブ18が示されている、トレーリングアーム12には、ホイールハブ18を回転可能に支持するハブキャリア(不図示)が固定されるハブキャリア台座20(
図2参照)が設けられている。クロスビーム14は、トレーリングアーム12の前端12aと後端12bの間の位置に結合されている。左右のトレーリングアーム12の、クロスビーム14が結合している位置よりも後端側に、スプリング-ダンパユニット22が配置されている。スプリング-ダンパユニット22は、ダンパ24と、ダンパ24を取り巻くように配置されたコイルスプリング26を含む(
図4参照)。ダンパとコイルスプリングは、別々に配置されてもよい。
【0017】
トレーリングアーム12は、その前端12aにおいて、車幅方向に直交する面内で回動可能に車体に支持され、この回動運動により車輪16の上下方向の運動が許容される。左右の車輪16が同位相で上下運動する場合、車輪16の上下運動は、スプリング-ダンパユニット22によって抑制される。左右の車輪16が逆位相で運動する場合、または左右のサスペンションストロークが異なる場合、クロスビーム14がねじられ、スプリング-ダンパユニット22に加えクロスビーム14によっても車輪16の運動が抑制される。
【0018】
図2~4は、本発明に係るトーションビーム式サスペンション10の、右側のトレーリングアーム12およびその周囲の構成を示す図であり、
図2は右後方上方から見下ろした状態を示す斜視図、
図3は平面図、
図4は背面図である。
【0019】
トレーリングアーム12の前端12aには前端ブッシュ28が設けられている。前端ブッシュ28は、同軸に配置された外筒と内筒の間にゴムが充填された構造を有し、ゴムの弾性により外筒と内筒の相対変位が許容される。前端ブッシュ28の内筒が車体に対して固定される。前端ブッシュ28のゴム部分の変形により、車体に対するトレーリングアーム12の動きが許容される。前述のように、トレーリングアーム12の後端12bには、ハブキャリア台座20が設けられている。トレーリングアーム12の前端12aと後端12bの間の位置にクロスビーム14が、例えば溶接によって結合されている。
【0020】
トレーリングアーム12の車幅方向内側には、補強ブラケット30が配置されている。補強ブラケット30の前縁は、クロスビーム14の、トレーリングアーム12に接合する端よりも車幅方向内側の位置に、溶接等の手法によって接合されている。補強ブラケット30は、クロスビーム14から後方かつ下方に向けて、トレーリングアーム12と並列するように延びている。
【0021】
補強ブラケット30と、トレーリングアーム12の車幅方向内側の側面との間に、ダンパ24とトレーリングアーム12を連結するための連結部材32が配置されている。連結部材32は、トレーリングアーム12と補強ブラケット30に固定される。連結部材32は、ダンパ24の下端に設けられたダンパロワブッシュ34、特にダンパロワブッシュ34の内筒である。ダンパロワブッシュ34は、前述の前端ブッシュ28と同様、同軸に配置された外筒と内筒の間にゴムが充填された構造を有する。以下、ダンパロワブッシュ34の内筒に符号32を付して説明する。
【0022】
トレーリングアーム12は、車幅方向内側の側面にダンパロワブッシュ34の内筒32を受けるロワブッシュ受け座36を有している。ダンパロワブッシュ34の内筒32を貫通するボルト38をロワブッシュ受け座36に固定されたナット(不図示)にねじ結合することにより、内筒32をロワブッシュ受け座36と補強ブラケット30によって挟持して、ダンパロワブッシュ34をトレーリングアーム12に固定する。これにより、内筒32は、トレーリングアーム12の側面から車幅方向内側に向けて延びた状態でトレーリングアーム12に固定され、またダンパ24がトレーリングアーム12と連結する。
【0023】
図5~9は、補強ブラケット30を単体で示す図である。
図5,6は斜視図、
図7は平面図、
図8は側面図、
図9は背面図である。補強ブラケット30は、全体として水平面に対して交差するように配置されている。特に、補強ブラケット30の主要部分である縦板部分40は、水平面に対して交差するように、特に縦方向に配置され、前端でクロスビーム14の、それ自身の長手方向に対する側面に結合し、後端でダンパロワブッシュ34の内筒32に結合している。ここで、水平面とは、車体の上下方向に直交する平面である。縦板部分は、クロスビーム14に対して、例えば溶接によって結合され、またダンパロワブッシュ34の内筒32に対しては、ボルト38の締結力により結合される。ボルト38は、内筒32の中空空間を貫通すると共に、補強ブラケット30、特に縦板部分40に形成されたボルト孔42を貫通し、締結力により補強ブラケット30と内筒32を結合する。補強ブラケット30の縦板部分40は、クロスビーム14との結合位置が、内筒32との結合位置よりも車幅方向において内側に寸法dだけずれている。
【0024】
縦板部分40の上縁および下縁にはフランジ44,46が設けられている。上縁に設けられたフランジを上縁フランジ44、下縁に設けられたフランジを下縁フランジ46と記す。上縁フランジ44および下縁フランジ46は、補強ブラケット30の、クロスビーム14との結合位置と、内筒32との結合位置との間に延びている。また、上縁フランジ44は、縦板部分40の上縁から車幅方向内側に向けて延びており、下縁フランジ46は、縦板部分40の下縁から車幅方向外側に向けて延びている。上縁フランジ44および下縁フランジ46を設けることにより、縦板部分40の剛性が向上する。また、上縁フランジ44と下縁フランジ46のいずれか一方のみを設けるようにしてもよい。
【0025】
上縁フランジ44は、クロスビーム14側の端に、クロスビーム14の表面に沿って延びる延伸部分48を有している。延伸部分48は、概略車幅方向内側に向けて延び、その先端において、やや上方に向けて斜めに延びている。延伸部分48は、溶接等によってクロスビーム14に結合されている。また、下縁フランジ46は、クロスビーム14側の端に、クロスビーム14の表面に沿って延びる延伸部分50を有している。延伸部分50は、概略車幅方向外側に向けて延び、溶接等によってクロスビーム14に結合されている。上縁フランジ44の延伸部分48および下縁フランジ46の延伸部分50がクロスビーム14と結合することによって、クロスビーム14に対する補強ブラケット30の倒れが抑制され、結合剛性が高められる。
【0026】
図10は、補強ブラケット30の作用を説明するための図である。車輪16からの横力F1は、トレーリングアーム12の、クロスビーム14との結合位置より後方の部分を車幅方向内側に曲げるように作用する。横力F1の一部が、ダンパロワブッシュ34の内筒32と補強ブラケット30を介して分力F2,F3としてクロスビーム14に伝わる。トレーリングアーム12に加わる横力F1の一部を補強ブラケット30が負担することで、トレーリングアーム12の曲げが抑制される。
【0027】
補強ブラケット30の縦板部分40がクロスビーム14に結合する位置が、内筒32に結合する位置よりも車幅方向において寸法dだけ内側に位置することで、補強ブラケット30を介して伝わる分力が、車幅方向の成分を有する。これにより、寸法dが0の場合、つまり、縦板部分40の前端と後端の結合位置が車幅方向においてそろっている場合に比して、補強ブラケット30が横力F1を負担する割合が高くなり、トレーリングアーム12の曲げが抑制される。
【0028】
また、この実施形態においては、ダンパロワブッシュ34がトレーリングアーム12と補強ブラケット30によって両持ち支持となる。このため、トレーリングアーム12による片持ち支持の場合に比べて、ダンパ24とトレーリングアーム12の連結剛性を高めることができる。
【0029】
上述のトーションビーム式サスペンションは、カップルドビーム型であったが、トレーリングアームの車体に連結される側の端付近にクロスビームが配置されたピボットビーム型とすることもできる。
【符号の説明】
【0030】
10 トーションビーム式サスペンション、12 トレーリングアーム、14 クロスビーム、16 車輪、24 ダンパ、30 補強ブラケット、32 連結部材(内筒)、34 ダンパロワブッシュ、40 縦板部分、44 上縁フランジ、46 下縁フランジ、48 上縁フランジの延伸部分、50 下縁フランジの延伸部分。