(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】トルク推定方法、トルク推定装置、及びトルク推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
G01L3/10 317
(21)【出願番号】P 2021114553
(22)【出願日】2021-07-09
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】羽多野 顕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 太郎
(72)【発明者】
【氏名】美馬 直生
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-97896(JP,A)
【文献】特開2002-333376(JP,A)
【文献】特開2020-26237(JP,A)
【文献】特許第6583592(JP,B1)
【文献】特開2010-014492(JP,A)
【文献】特開2001-82595(JP,A)
【文献】特開昭64-3811(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014006094(DE,A1)
【文献】特表2005-538371(JP,A)
【文献】特許第5758028(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/00-5/28
B62D 5/00-6/10
H02K 7/00-7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と出力軸とを備える回転運動伝達機構の軸トルクの値を推定するトルク推定方法であって、
前記入力軸と前記出力軸とのねじれ角の測定値が0である時点から前記軸トルクの値を推定する時点までの前記ねじれ角の最大値を特定するステップと、
前記軸トルクの値を推定する時点での前記ねじれ角の測定値と、前記ねじれ角の最大値と、に基づいて、前記軸トルクの値を推定するステップと、を有し、
前記ねじれ角の最大値を特定するステップにおいて、第1の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値と、第2の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値との差に基づいて、前記ねじれ角の最大値を特定する、
トルク推定方法。
【請求項2】
前記ねじれ角の最大値を特定するステップにおいて、
前記第1の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされたねじれ角の測定値と、前記第2の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされたねじれ角の測定値と、の差を算出し、
前記ねじれ角の差の正負が反転した時点を、前記ねじれ角が極値をとる時点として検出し、
検出された前記ねじれ角の極値のうち最も絶対値の大きい極値を、ねじれ角の最大値として特定する、
請求項1に記載のトルク推定方法。
【請求項3】
前記軸トルクの値を推定するステップにおいて、
前記ねじれ角の最大値から前記軸トルクのヒステリシスの値を推定し、
前記ヒステリシスの値に基づいて軸トルクの値を推定する、
請求項1又は2に記載のトルク推定方法。
【請求項4】
前記軸トルクの値を推定するステップにおいて、
回転運動を停止させるときの前記軸トルクの値を推定する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のトルク推定方法。
【請求項5】
前記入力軸に取り付けられた第1のセンサと、前記出力軸に取り付けられた第2のセンサと、から前記入力軸と前記出力軸のねじれ角を検出する、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトルク推定方法。
【請求項6】
入力軸と出力軸とを備える回転運動伝達機構の軸トルクを推定するトルク推定装置であって、
入力軸に取り付けられた第1のセンサと、
出力軸に取り付けられた第2のセンサと、
遮断周波数がそれぞれ異なる第1及び第2のローパスフィルタと、
前記第1のセンサ及び前記第2のセンサから検出した前記入力軸と前記出力軸のねじれ角の測定値に基づいて、前記軸トルクの値を推定する制御部と、を備え、
前記制御部は、
第1の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値と、第2の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値との差に基づいて、前記入力軸と前記出力軸とのねじれ角の測定値が0である時点から前記軸トルクの値を推定する時点までの前記ねじれ角の最大値を特定し、
前記軸トルクの値を推定する時点での前記ねじれ角の測定値と、前記ねじれ角の最大値と、に基づいて、前記軸トルクの値を推定する、
トルク推定装置。
【請求項7】
入力軸と出力軸とを備える回転運動伝達機構の軸トルクを推定する処理をコンピュータに実行させるトルク推定プログラムあって、
前記入力軸と前記出力軸とのねじれ角の測定値が0である時点から前記軸トルクの値を推定する時点までの前記ねじれ角の最大値を特定するステップと、
前記軸トルクの値を推定する時点での前記ねじれ角の測定値と、前記ねじれ角の最大値と、に基づいて、前記軸トルクの値を推定するステップと、を有し、
前記ねじれ角の最大値を特定するステップにおいて、第1の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値と、第2の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値との差に基づいて、前記ねじれ角の最大値を特定する、
トルク推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトルク推定方法、トルク推定装置、及びトルク推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
変速機等の回転運動伝達機構の入力軸と出力軸との間には、ねじれ角が発生することがある。このねじれ角から、回転運動伝達機構の軸トルクを推定する技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
回転運動を行っていた回転運動伝達機構を停止させたとき、軸トルクの値が0になっても、入力軸と出力軸の間のねじれ角の値が0にならない現象いわゆるヒステリシスが知られている。このヒステリシスの大きさは、ねじれ角の値が0になってから再び0に戻るまでの軸トルクの最大値に依存することが、非特許文献1に開示されている。
【0004】
そのため、ねじれ角から軸トルクを推定する場合、ヒステリシスの大きさを推定し、推定したヒステリシスの大きさを加味して、軸トルクの値を推定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Rached Dhaouadi、他2名著、「A New Dynamic Model of Hysteresis in Harmonic Drives」、IEEE TRANSCATIONS ON INDUSTRIAL ELECTRONICS 50巻6号 2003年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された技術においては、上述したヒステリシスの値を推定するために、ねじれ角の値を長期間に渡ってデータとして取得し、その傾向を分析している。しかしながら、この手法は長期間に渡ってねじれ角の値をデータとして記憶しておく必要があるので、メモリリソースを消費してしまう問題点があった。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、軸トルクを推定するのに必要なメモリリソースを抑制可能なトルク推定方法、トルク推定装置、及びトルク推定プログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るトルク推定方法は、
入力軸と出力軸とを備える回転運動伝達機構の軸トルクの値を推定するトルク推定方法であって、
前記入力軸と前記出力軸とのねじれ角の測定値が0である時点から前記軸トルクの値を推定する時点までの前記ねじれ角の最大値を特定するステップと、
前記軸トルクの値を推定する時点での前記ねじれ角の測定値と、前記ねじれ角の最大値と、に基づいて、前記軸トルクの値を推定するステップと、を有し、
前記ねじれ角の最大値を特定するステップにおいて、第1の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値と、第2の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値との差に基づいて、前記ねじれ角の最大値を特定するトルク推定方法である。
【0010】
上述の本発明の一態様に係るトルク推定方法では、まず、第1の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされたねじれ角の測定値と、第2の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされたねじれ角の測定値との差に基づいて、推定時点でのねじれ角の最大値を特定する。そして、特定されたねじれ角の最大値と、推定時点でのねじれ角の値に基づいて、軸トルクの値を推定する。
このように、本発明の一態様に係るトルク推定方法は、少なくともねじれ角の最大値を記憶しておけば実行可能であるため、軸トルクを推定するのに必要なメモリリソースを抑制することができる。
【0011】
上述のトルク推定方法において、前記ねじれ角の最大値を特定するステップは、
前記第1の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされたねじれ角の測定値と、前記第2の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされたねじれ角の測定値と、の差を算出し、
前記ねじれ角の差の正負が反転した時点を、前記ねじれ角が極値をとる時点として検出し、
検出された前記ねじれ角の極値のうち最も絶対値の大きい極値を、ねじれ角の最大値として特定してもよい。
このように、本発明の一態様に係るトルク推定方法は、少なくとも最も値の大きい極値を記憶しておけば、ねじれ角の最大値を特定することができるため、軸トルクを推定するのに必要なメモリリソースを抑制することができる。
【0012】
上述のトルク推定方法において、前記軸トルクの値を推定するステップは、
前記ねじれ角の最大値から前記軸トルクのヒステリシスの値を推定し、
前記ヒステリシスの値に基づいて軸トルクの値を推定してもよい。
このように、本発明の一態様に係るトルク推定方法は、単一の値(ねじれ角の最大値)からヒステリシスの値を推定することができるため、軸トルクを推定するのに必要なメモリリソースを抑制することができる。
【0013】
上述のトルク推定方法において、軸トルクの値を推定するステップは、
回転運動を停止させるときの軸トルクの値を推定してもよい。
ヒステリシスは回転運動が停止するときの軸トルクの推定値に特に影響を及ぼすので、本発明の一態様に係るトルク推定方法は、回転運動が停止する時の軸トルクの値を推定するときに特に効果を奏する。
【0014】
上述のトルク推定方法は、前記入力軸に取り付けられた第1のセンサと、前記出力軸に取り付けられた第2のセンサと、から前記入力軸と前記出力軸のねじれ角を検出してもよい。
【0015】
本発明の一態様に係るトルク推定装置は、
入力軸と出力軸とを備える回転運動伝達機構の軸トルクを推定するトルク推定装置であって、
入力軸に取り付けられた第1のセンサと、
出力軸に取り付けられた第2のセンサと、
遮断周波数がそれぞれ異なる第1及び第2のローパスフィルタと、
前記第1のセンサ及び前記第2のセンサから検出した前記入力軸と前記出力軸のねじれ角の測定値に基づいて、前記軸トルクの値を推定する制御部と、を備え、
前記制御部は、
第1の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値と、第2の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値との差に基づいて、前記入力軸と前記出力軸とのねじれ角の測定値が0である時点から前記軸トルクの値を推定する時点までの前記ねじれ角の最大値を特定し、
前記軸トルクの値を推定する時点での前記ねじれ角の測定値と、前記ねじれ角の最大値と、に基づいて、前記軸トルクの値を推定するトルク推定装置である。
【0016】
本発明の一態様に係るトルク推定プログラムは、
入力軸と出力軸とを備える回転運動伝達機構の軸トルクを推定する処理をコンピュータに実行させるトルク推定プログラムあって、
前記入力軸と前記出力軸とのねじれ角の測定値が0である時点から前記軸トルクの値を推定する時点までの前記ねじれ角の最大値を特定するステップと、
前記軸トルクの値を推定する時点での前記ねじれ角の測定値と、前記ねじれ角の最大値と、に基づいて、前記軸トルクの値を推定するステップと、を有し、
前記ねじれ角の最大値を特定するステップにおいて、第1の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値と、第2の遮断周波数におけるローパスフィルタ処理がなされた前記ねじれ角の測定値との差に基づいて、前記ねじれ角の最大値を特定するトルク推定プログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、軸トルクを推定するのに必要なメモリリソースを抑制することが可能なトルク推定方法、トルク推定装置、及びトルク推定プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】回転運動伝達機構のねじれ角と軸トルクの大きさの関係を示したグラフである。
【
図2】回転運動伝達機構のねじれ角と軸トルクの大きさの関係を示したグラフである。
【
図3】第1の実施形態に係るトルク推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】第1の実施形態に係るトルク推定方法の処理を示すフローチャートである。
【
図5】ねじれ角の最大値を特定するステップの処理を示すフローチャートである。
【
図6】第1の実施形態に係るトルク推定方法の処理を説明するためのグラフである。
【
図7】ねじれ角の極値を検出する処理を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0020】
(第1の実施形態)
<ねじれ角と軸トルクとの関係におけるヒステリシスの説明>
本実施形態に係るトルク推定方法は、ヒステリシスに起因する軸トルクの推定の誤差を補正するものである。
まず、
図1及び2を用いて、このヒステリシスについて詳しく説明する。
図1、
図2は、回転運動伝達機構のねじれ角と軸トルクの大きさの関係を示したグラフである。
図1では、原点P0から軸トルクが変動し始めて、点P1で最大値をとって再び0に戻る場合と、点P2で最大値をとって再び0に戻る場合との2つの場合を図示している。
【0021】
ヒステリシスによって、いずれの場合においても、軸トルクが0に戻った時点でのねじれ角の値は0にならず、それぞれの場合において異なるねじれ角の値をとる(点P3及びP4)。つまり、これら点P3及びP4がとるねじれ角の値は、点P1及びP2の値、すなわち軸トルクの最大値にそれぞれ依存している。
【0022】
図2では、原点P0から軸トルクが変動し始めて、点P1、P3、P5、及びP6を記載の順に経て、点P7に至るように変化していく様子を図示している。
図1と同様に、点P1を経て軸トルクの値が0に戻った場合、ヒステリシスに起因して原点P0には戻らず、点P3に至る。この点P3の値は、前述した通り、点P1の軸トルクの値に依存している。
【0023】
点P3に至った後に、逆方向に軸トルクをかけると、点P5においてねじれ角の値は0になる。ここで、点P5から点P6を経由して点P7に至った場合、点P7のねじれ角の値は点P6での軸トルクの値のみに依存し、点P1の軸トルクの値には依存しない。つまり、軸トルクの最大値は、ねじれ角の値が0になった時点でリセットされる。言い換えると、ヒステリシスの大きさは、ねじれ角の値が0になってから再び0に戻るまでの軸トルクの最大値に依存する。
なお、本明細書において、軸トルクの値とは、軸トルクの大きさ、すなわち絶対値のことを指している。
【0024】
以上のことから、ねじれ角の値が0になってから再び0に戻るまでの軸トルクの最大値を知ることができれば、ヒステリシスの値を推定できる。さらに、軸トルクの最大値は、ねじれ角の最大値から推定可能である。そのため、ねじれ角の値が0になってから再び0に戻るまでのねじれ角の最大値を知ることができれば、ヒステリシスの値を推定できる。
【0025】
そのため、本実施形態では、ねじれ角の値が0になってから再び0に戻るまでのねじれ角の最大値を特定することによって、ヒステリシスに起因する軸トルクの推定誤差を補正する。
【0026】
<トルク推定装置の構成>
次に、
図3を参照して、第1の実施形態に係るトルク推定装置について説明する。
図3は、第1の実施形態に係るトルク推定装置の構成を示すブロック図である。
図3には、本実施形態に係るトルク推定装置1に加え、回転運動伝達機構2、動力源3、及び動力出力対象部材4も示されている。
【0027】
回転運動伝達機構2は、例えば変速機であり、動力源3が出力した回転運動を動力出力対象部材4に伝達するための装置である。回転運動伝達機構2は入力軸S1及び出力軸S2を備えており、入力軸S1に入力された回転運動を、適切な角速度、向きに変更して、出力軸S2から出力する。
【0028】
動力源3は例えば、エンジンやモーターなどの回転運動を出力することが可能な装置である。動力源3は、入力軸S1と連結されている。
動力出力対象部材4は、例えば、移動体のホイールやロボットアームのリンクであり、回転運動が出力される対象である。動力出力対象部材4は出力軸S2と連結されている。
【0029】
図3に示すように、トルク推定装置1は、入力軸側エンコーダ11、出力軸側エンコーダ12、ねじれ角算出部13、制御部14、及びローパスフィルタLPF1、LPF2を備えている。
入力軸側エンコーダ11は、入力軸S1に取り付けられるセンサ(第1のセンサ)であり、入力軸S1の回転角を検出する。入力軸側エンコーダ11は、検出した入力軸S1の回転角の情報をねじれ角算出部13に対して出力する。
【0030】
出力軸側エンコーダ12は、出力軸S2に取り付けられるセンサ(第2のセンサ)であり、出力軸S2の回転角を検出する。出力軸側エンコーダ12は、検出した出力軸S2の回転角の情報をねじれ角算出部13に対して出力する。
【0031】
ねじれ角算出部13は、入力軸側エンコーダ11から取得した入力軸S1の回転角の情報と、出力軸側エンコーダ12から取得した出力軸S2の回転角の情報とに基づいて、ねじれ角を算出する。ねじれ角算出部13が算出したねじれ角は、ノイズを含むため、ローパスフィルタLPF1、LPF2に出力される。
【0032】
ローパスフィルタLPF1、LPF2は、それぞれ異なる遮断周波数を有するローパスフィルタである。ローパスフィルタLPF1、LPF2は、ねじれ角算出部13が算出したねじれ角に対し、それぞれ異なる遮断周波数でローパスフィルタ処理(以下、LPF処理)を行う。ローパスフィルタLPF1、LPF2は、LPF処理したねじれ角を制御部14に出力する。
【0033】
なお、本実施形態においては、ローパスフィルタ(第1のローパスフィルタ)LPF1の遮断周波数が、ローパスフィルタ(第2のローパスフィルタ)LPF2の遮断周波数よりも小さいものとするが、この大小関係は逆であってもよい。
また、以後、ローパスフィルタLPF1によってLPF処理されたねじれ角をねじれ角Lと呼び、ローパスフィルタLPF2によってLPF処理されたねじれ角をねじれ角Hと呼ぶこととする。
【0034】
制御部14は、ローパスフィルタLPF1、LPF2から、ねじれ角L及びねじれ角Hの値を取得する。そして、制御部14は、取得したねじれ角L及びねじれ角Hの値に基づいて、回転運動伝達機構2に作用する軸トルクの値を推定する。
【0035】
ここで、制御部14は、例えば、推定した軸トルクの値に基づいて、動力源3の出力を制御する。制御部14は、推定した軸トルクの値に基づいて、より精密に回転運動を制御できる。
なお、制御部14は、動力源3の出力を制御せずに、軸トルクの値を推定するだけでもよい。
【0036】
より具体的には、
図3に示すように、制御部14は、減算部141、ねじれ角最大値リセット部142、ねじれ角最大値検出部143、及びトルク推定部144を備える。
減算部141は、ローパスフィルタLPF1、LPF2から、ねじれ角L及びねじれ角Hの値を取得し、ねじれ角Lからねじれ角Hを引いた値、すなわち、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値を算出する。減算部141は、算出した(ねじれ角L―ねじれ角H)の値をねじれ角最大値検出部143に出力する。
【0037】
ねじれ角最大値リセット部142は、ローパスフィルタLPF1からねじれ角Lの値を取得する。ねじれ角最大値リセット部142は、ねじれ角Lの値の正負の反転を検出し、ねじれ角Lの値の正負の反転が検出された場合は、ねじれ角最大値検出部143に通知する。
【0038】
ねじれ角最大値検出部143は、減算部141から(ねじれ角L―ねじれ角H)の値を取得し、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負の反転を検出する。ねじれ角最大値検出部143は、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負の反転を検出した場合、その時点を、ねじれ角が極値をとる時点とみなし、その時点のねじれ角Lの値をローパスフィルタLPF1から取得する。
【0039】
ねじれ角最大値検出部143は、取得したねじれ角Lの値が、その時点でのねじれ角Lの最大値よりも大きかった場合、ねじれ角の最大値を、取得したねじれ角Lの値に更新する。ねじれ角最大値検出部143は、トルク推定部144にねじれ角Lの最大値を出力する。
なお、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負が反転した時点を、ねじれ角が極値をとる時点とみなせる理由については後述する。
【0040】
さらに、ねじれ角最大値検出部143は、ねじれ角最大値リセット部142から通知を受けた場合、ねじれ角の最大値をリセットする。具体的には、ねじれ角の最大値を0に更新する。
【0041】
トルク推定部144は、ローパスフィルタLPF1からねじれ角Lの値を取得し、ねじれ角最大値検出部143からねじれ角の最大値を取得する。そして、トルク推定部144は、ねじれ角L及びねじれ角Lの最大値に基づいて、回転運動伝達機構2の軸トルクの値を推定する。具体的には、トルク推定部144は、ねじれ角Lの最大値からヒステリシスの大きさを推定し、推定したヒステリシスの大きさと、ねじれ角Lの値に基づいて、回転運動伝達機構2の軸トルクの値を推定する。
【0042】
なお、トルク推定部144は、回転運動伝達機構2が継続的に回転運動を続けている場合はねじれ角Lの値のみに基づいて軸トルクの値を推定し、回転運動伝達機構2が回転運動を停止する場合にねじれ角L及びねじれ角Lの最大値に基づいて軸トルクの値を推定してもよい。
【0043】
また、制御部14は、例えば図示しないCPU(Central Processing Unit)などの演算部と、軸トルクの値を推定するためのプログラムやデータ等が格納されたRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶部と、を備えている。すなわち、制御部14は、コンピュータとしての機能を有しており、上記プログラムに基づいて軸トルクの値を推定する。
【0044】
そのため、
図1に示す制御部14を構成する各機能ブロックは、ハードウェア的には、上記CPU、記憶部、その他の回路等によって構成でき、ソフトウェア的には、記憶部に格納された軸トルクの値を推定するためのプログラムなどによって実現できる。すなわち、制御部14は、ハードウェア、ソフトウェア、あるいは両者の組み合わせによって、様々な形態で実現できる。
【0045】
<トルク推定方法>
次に、
図4を用いて、トルク推定装置1が回転運動伝達機構2に作用する軸トルクの値を推定するための処理すなわち本実施形態に係るトルク推定方法について詳しく説明する。
図4は、第1の実施形態に係るトルク推定方法の処理を示すフローチャートである。
図4の説明においては、
図3を適宜参照する。
まず、
図4に示すように、トルク推定装置1において、入力軸側エンコーダ11が入力軸S1の回転角の情報を検出すると共に、出力軸側エンコーダ12が出力軸S2の回転角の情報を検出する(ステップST1)。
【0046】
次に、ねじれ角算出部13は、入力軸側エンコーダ11が検出した入力軸S1の回転角の情報と出力軸側エンコーダ12が検出した出力軸S2の回転角の情報とから、入力軸S1と出力軸S2とのねじれ角を算出する(ステップST2)。
次に、算出されたねじれ角には、ノイズが含まれているため、それを除去するためにローパスフィルタLPF1によってLPF処理を行う(ステップST3)。なお、ローパスフィルタLPF2によってLPF処理を行ってもよい。
【0047】
次に、制御部14は、詳細には後述する処理によって、入力軸S1と出力軸S2とのねじれ角の値が0の時点から、軸トルクの値を推定する時点までの、ねじれ角の最大値を特定する(ステップST4)。
【0048】
最後に、制御部14は、軸トルクの値を推定する時点でのねじれ角の測定値と、ステップST4で特定したねじれ角の最大値と、に基づいて、回転運動伝達機構2の軸トルクの値を推定する(ステップST5)。具体的には、制御部14は、ステップST4で特定したねじれ角の最大値からヒステリシスの大きさを推定し、推定したヒステリシスの大きさに基づいて、軸トルクの値を推定する。
【0049】
ヒステリシスが軸トルクの推定値に大きな影響を与えるのは、特に回転運動を停止させるときである。そのため、本実施形態に係るトルク推定装置1は、特に、回転運動を停止させるときの軸トルクの値を推定する場合に、
図4に示すような処理によって、軸トルクを推定してもよい。また、トルク推定装置1は、回転運動が継続している場合は、ヒステリシスの値を考慮せずに軸トルクを算出するようにしてもよく、例えば、ねじれ角に固有のばね定数をかけることで軸トルクを算出するようにしてもよい。このような構成にすると、軸トルクの推定に必要な処理を簡素化できる。
【0050】
以下、
図5を用いて、前述したねじれ角の最大値を特定するステップ(
図4のステップST4)における処理について、さらに詳しく説明する。
図5は、ねじれ角の最大値を特定するステップの処理を示すフローチャートである。本実施形態に係るトルク推定装置1は、第1の遮断周波数におけるLPF処理がなされたねじれ角の測定値と、第2の遮断周波数におけるLPF処理がなされたねじれ角の測定値との差に基づいて、ねじれ角の最大値を特定する。
【0051】
まずは、
図4のステップST2においてねじれ角算出部13が算出したねじれ角に対して、遮断周波数の小さいLPF処理(以下、弱いLPF処理と記載)と、遮断周波数の大きいLPF処理(以下、強いLPF処理と記載)を行い、ねじれ角L及びねじれ角Hを出力する(ステップST41)。具体的には、弱いLPF処理は、ローパスフィルタLPF1によるLPF処理であり、強いLPF処理は、ローパスフィルタLPF2によるLPF処理である。
なお、ねじれ角L及びねじれ角Hのうちいずれか一方として、
図3におけるステップST3でLPF処理を行ったねじれ角を用いてもよい。本実施形態では、ねじれ角Lとして、
図3におけるステップST3でLPF処理を行ったねじれ角を用いる。
【0052】
次に、減算部141は、ねじれ角Lの値からねじれ角Hの値を引く処理を行う。つまり、減算部141は、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値を算出する(ステップST42)。なお、ねじれ角Hの値からねじれ角Lの値を引いてもよい。
次に、ねじれ角最大値検出部143は、ステップST42で求めた(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負が反転したか否かを判定する(ステップST43)。
【0053】
図6は、
図5のステップST41~ST43に対応する処理の実例を示すためのグラフである。
図6に記載された4つのグラフの横軸は、トルク推定装置1のデータ取得数を表しており、実質的に時間を表している。また、これら4つのグラフは、横軸の値を揃えて記載されている。
図6のグラフa~dは、LPF処理を行う前のねじれ角、ねじれ角L、ねじれ角H、及び(ねじれ角L―ねじれ角H)の値をそれぞれ縦軸にとっている。
【0054】
なお、これらのグラフには測定された全てのねじれ角が記載されているが、これは、説明を簡潔に行うために記載されているのであって、トルク推定装置1がグラフに記載された全てのねじれ角を同時に記憶している訳ではない。
【0055】
上述した通り、ねじれ角最大値検出部143は、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負が反転した時点を、ねじれ角が極値をとる時点として検出する。そこで、
図6のグラフdの正負が反転した時点に着目する。直線L1~L6は、それぞれ、
図6のグラフdの正負が反転した時点を含み、横軸に対して垂直な直線である。この直線L1~L6とグラフb及びcを参照すると、確かに直線L1~L6は、ねじれ角L及びねじれ角Hが極値をとる時点の近傍を通過していることがわかる。
【0056】
図5のフローチャートの説明に戻る。
(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負が反転しない場合(ステップST43NO)、後述するステップST46に移行する。
他方、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負が反転した場合(ステップST43YES)、その時点におけるねじれ角Lの値を新たに検出したねじれ角Lの極値であると判定する。そして、新たに検出したねじれ角Lの極値が、その時点でのねじれ角Lの最大値よりも大きいか否か判定する(ステップST44)。
【0057】
新たに検出したねじれ角Lの極値が、その時点でのねじれ角Lの最大値よりも大きい場合(ステップST44YES)、ねじれ角Lの最大値を、新たに検出したねじれ角Lの極値へと更新する(ステップST45)。そして、後述するステップST46に移行する。
他方、新たに検出したねじれ角Lの極値が、その時点でのねじれ角Lの最大値よりも小さい場合(ステップST44NO)、ねじれ角Lの最大値を更新せずに、ねじれ角Lの値の正負が反転しているかどうかを判定する(ステップST46)。
【0058】
正負が反転した場合(ステップST46YES)、ねじれ角Lの値が0になった時点があったと判定し、ねじれ角Lの最大値をリセットし(ステップST47)、そのまま処理を終了する。
他方、正負が反転しない場合(ステップST46NO)、ねじれ角Lの最大値をリセットせずに、ステップST41に戻る。すなわち、ねじれ角Lの最大値がリセットされるまで、ステップST41~ST46を繰り返す。ねじれ角Lの最大値がリセットされると、
図5に示した処理を新たに開始する。
【0059】
以上説明したような処理によってねじれ角Lの最大値を特定する場合、制御部14が記憶しておく必要があるのは、ねじれ角の最大値のみである。そのため、このような処理でねじれ角の最大値を特定することで、軸トルクを推定するのに必要なメモリリソースを抑制することができる。
なお、ねじれ角最大値検出部143が行うステップST43~ST45と、ねじれ角最大値リセット部142が行うステップST46は、実際には並行して行われる処理である。
【0060】
<ねじれ角の極値の特定方法>
前述した通り、本実施形態に係るトルク推定装置1は、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負が反転した時点を、ねじれ角Lが極値をとる時点として判定する。以下、このような処理によって、ねじれ角Lが極値をとる時点を特定できる理由について、
図7を用いて詳しく説明する。
【0061】
図7は、ねじれ角の極値を検出する処理を説明するためのグラフである。
図7は、ねじれ角の値を時間に対してプロットしたグラフであり、ねじれ角101L及びねじれ角101Hのグラフが重ねて表記されている。ねじれ角101L及びねじれ角101Hは、極大値をもつねじれ角に対して、それぞれ弱いLPF処理及び強いLPF処理を行ったものである。
ここで、点P8は、ねじれ角101Lが極大値をとる点であり、その時刻を時刻t1とする。また、点P9は、ねじれ角L及びねじれ角Hが交わる点であり、その時刻を時刻t2とする。
【0062】
ねじれ角に対して遮断周波数の異なるLPF処理を行った場合、遮断周波数の大きいLPF処理を行ったねじれ角は、遮断周波数の小さいLPF処理を行ったねじれ角と比較して、値の増減が遅延する。そのため、
図7に示すねじれ角101L及びねじれ角101Hのグラフを見ると、ねじれ角101Hのグラフが、ねじれ角101Lに対して遅延しているように見える。
なお、これは、遮断周波数の異なるLPF処理を行うことによって、疑似的な時間差分を作り出していると言える。
【0063】
ねじれ角101L及びねじれ角101Hが極大値をもつ場合、
図7に示すように、ねじれ角101L及びねじれ角101Hのグラフが交わる時刻、すなわち時刻t2を境界として、ねじれ角101L及びねじれ角101Hの値の大小関係は入れ替わる。
つまり、時刻t2は、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負が反転する時点に対応している。
【0064】
時刻t2は、厳密にはねじれ角Lが極大値をとる時刻t1とは一致しない。しかし、弱いLPF処理及び強いLPF処理におけるそれぞれの遮断周波数を調整することによって、時刻t1と時刻t2との差は、誤差範囲にまで小さくすることができる。よって、弱いLPF処理及び強いLPF処理におけるそれぞれの遮断周波数が適切に設定されていれば、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負が反転した時点を、ねじれ角Lが極値をとる時点として判定してもよい。
【0065】
以上説明した理由から、本実施形態に係るトルク推定装置1は、(ねじれ角L―ねじれ角H)の値の正負が反転した時点を、ねじれ角Lが極値をとる時点として判定してもよい。このように特定した場合、本実施形態に係るトルク推定装置1は、ねじれ角Lの極値を特定するためにねじれ角の値を記憶しておく必要がないので、メモリリソースを抑制することができる。
【0066】
なお、上述したねじれ角の極値の特定方法に関連する方法として、ねじれ角の値から所定の時間前のねじれ角の値を引き、その値の正負が反転した時点をねじれ角が極値をとる時点として特定する方法が想定される。しかしながら、この方法は、少なくとも所定の時間分のねじれ角の値を記憶しておく必要があるため、トルク推定に必要なメモリリソースを抑制することは難しい。
【0067】
以上、説明したような構成にすることによって、本実施形態に係るトルク推定装置1は、軸トルクの推定に必要なメモリリソースを抑制することができる。
【0068】
本実施形態に係るトルク推定方法は、トルク推定装置1に搭載されたトルク推定プログラムによって、実行されてもよい。
【0069】
なお、プログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、Solid-State drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、digital versatile disc(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、又はその他の形式の伝搬信号を含む。
【0070】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0071】
1 トルク推定装置
2 回転運動伝達機構
3 動力源
4 動力出力対象部材
11 入力軸側エンコーダ
12 出力軸側エンコーダ
13 ねじれ角算出部
14 制御部
141 減算部
142 ねじれ角最大値リセット部
143 ねじれ角最大値検出部
144 トルク推定部
LPF1、LPF2 ローパスフィルタ
S1 入力軸
S2 出力軸