(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】回復方法及び回復システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2021137686
(22)【出願日】2021-08-26
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】駒形 将吾
(72)【発明者】
【氏名】堀場 貴裕
【審査官】小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112271349(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112349989(CN,A)
【文献】国際公開第2012/111338(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を含む電極合材が形成された電極と、該電極に接触し金属イオンをキャリアイオンとし電解液溶媒を含む電解液と、を有する蓄電デバイスの前記電極活物質の容量を回復させる回復方法であって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、前記電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、前記電解液に用いられる電解液溶媒とを含む溶液である回復剤へ、前記蓄電デバイスの電極を浸漬させ、電極の状態を維持して前記電極活物質の容量を回復させる電極回復工程、を含む、回復方法。
【請求項2】
請求項1に記載の回復方法であって、
前記電極回復工程に加え又はこれに代えて、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、前記電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、を含み前記電解液に用いられる電解液溶媒を含まない溶液である分解回復剤へ、前記蓄電デバイスの電極を浸漬させ、前記電極合材を分解しつつ前記電極活物質の容量を回復させる分解回復工程、を含む、回復方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の回復方法であって、
前記蓄電デバイスの電極の劣化度を取得する劣化取得工程、を含み、
前記劣化度が所定の許容範囲内であるときには該蓄電デバイスの電極に対し前記電極回復工程を実行する一方、前記劣化度が前記許容範囲外であるときには該蓄電デバイスの電極に対し
、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、前記電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、を含み前記電解液に用いられる電解液溶媒を含まない溶液である分解回復剤へ、前記蓄電デバイスの電極を浸漬させ、前記電極合材を分解しつつ前記電極活物質の容量を回復させる分解回復工程を実行する、回復方法。
【請求項4】
電極活物質を含む電極合材が形成された電極と、該電極に接触し金属イオンをキャリアイオンとし電解液溶媒を含む電解液と、を有する蓄電デバイスの前記電極活物質の容量を回復させる回復方法であって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、前記電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、を含み前記電解液に用いられる電解液溶媒を含まない溶液である分解回復剤へ、前記蓄電デバイスの電極を浸漬させ、前記電極合材を分解しつつ前記電極活物質の容量を回復させる分解回復工程、を含む、回復方法。
【請求項5】
前記回復剤溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルエーテル(DME)、ジエチルエーテル(DEE)、ジグライム(G2)、トリグライム(G3)、テトラグライム(G4)のうち1以上を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の回復方法。
【請求項6】
前記電解液溶媒は、カーボネート系化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の回復方法。
【請求項7】
前記芳香族炭化水素化合物は、式(1)~(2)の化合物のうち1以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の回復方法。
【化1】
【請求項8】
前記還元状態の芳香族炭化水素化合物は、濃度が0.1mol/L以上3mol/L以下の範囲である、請求項1~7のいずれか1項に記載の回復方法。
【請求項9】
前記電極活物質は、リチウム遷移金属複合化合物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の回復方法。
【請求項10】
電極活物質を含む電極合材が形成された電極と、該電極に接触し金属イオンをキャリアイオンとし電解液溶媒を含む電解液と、を有する蓄電デバイスの前記電極活物質の容量を回復させる回復システムであって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、前記電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、前記電解液に用いられる電解液溶媒とを含む溶液である回復剤へ、前記蓄電デバイスの電極を浸漬させ、電極の状態を維持して前記電極活物質の容量を回復させる電極回復処理を実行する回復部、
を備えた回復システム。
【請求項11】
前記回復部は、前記電極回復処理に加え又はこれに代えて、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、前記電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、を含み前記電解液に用いられる電解液溶媒を含まない溶液である分解回復剤へ、前記蓄電デバイスの電極を浸漬させ、前記電極合材を分解しつつ前記電極活物質の容量を回復させる分解回復処理を実行する、請求項10に記載の回復システム。
【請求項12】
請求項
10に記載の回復システムであって、
前記蓄電デバイスの電極の劣化度を取得する劣化取得部、を備え、
前記回復部は、前記劣化度が所定の許容範囲内であるときには該蓄電デバイスの電極に対し前記電極回復処理を実行する一方、前記劣化度が前記許容範囲外であるときには該蓄電デバイスの電極に対し
、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、前記電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、を含み前記電解液に用いられる電解液溶媒を含まない溶液である分解回復剤へ、前記蓄電デバイスの電極を浸漬させ、前記電極合材を分解しつつ前記電極活物質の容量を回復させる分解回復処理を実行する、回復システム。
【請求項13】
前記回復剤溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルエーテル(DME)、ジエチルエーテル(DEE)、ジグライム(G2)、トリグライム(G3)、テトラグライム(G4)のうち1以上を含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の回復システム。
【請求項14】
前記電解液溶媒は、カーボネート系化合物である、請求項10~13のいずれか1項に記載の回復システム。
【請求項15】
前記芳香族炭化水素化合物は、式(1)~(2)の化合物のうち1以上である、請求項10~14のいずれか1項に記載の回復システム。
【化1】
【請求項16】
前記還元状態の芳香族炭化水素化合物は、濃度が0.1mol/L以上3mol/L以下の範囲である、請求項10~15のいずれか1項に記載の回復システム。
【請求項17】
前記電極活物質は、リチウム遷移金属複合化合物である、請求項10~16のいずれか1項に記載の回復システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、回復方法及び回復システムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池のリサイクル方法としては、使用済み二次電池を溶融塩中に浸漬させ、溶融塩中で溶融した溶融金属を抜き取り、溶融塩中に溶解したイオンを溶融塩電解で回収し、溶融塩が、溶融金属よりも小さい比重の組成であるものが提案されています(例えば、特許文献1参照)。また、正極材を含む廃棄物に対して湿式処理を施し、コバルトイオン、ニッケルイオン及び不純物を含有する酸性溶液から、溶媒抽出によりコバルトイオンを抽出するとともに逆抽出すし、この工程で得られる逆抽出後液から溶媒抽出によりコバルトイオンを抽出するとともに逆抽出し、第二抽出工程で得られる逆抽出後液にシュウ酸を添加し、シュウ酸塩を含む沈殿物を得るCo回収用の沈殿工程を含むものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法では、所定の不純物を有効に除去することができる、としている。リチウムイオンを含有する溶液を、官能基としてスルホン酸ナトリウム基を含む強酸性陽イオン交換樹脂に供給し接触させることにより、リチウムイオンを強酸性陽イオン交換樹脂に吸着させ、イオン交換樹脂を、ナトリウム塩を含有する溶離液に供給し接触させることにより、強酸性陽イオン交換樹脂に吸着したリチウムイオンを溶離するものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法では、薬剤コストを抑えつつ、高い溶離率でリチウムを溶離させて回収することができるとしている。また、使用済みリチウムイオン電池を粉砕し、電極活物質が主体の細粉砕物と、細粉砕物より粗粒の粗粉砕物に篩分けし、細粉砕物を回収して水を加えて懸濁スラリーにし、懸濁スラリーに界面活性剤を加えて負極活物質のカーボンと正極活物質由来の細粉砕物とを互いに分離して分散させ、懸濁スラリーに含まれる正極活物質由来の細粉砕物を磁着させて該懸濁スラリーから選択的に分離回収するものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。この方法では、正極活物質由来の粉砕物と負極材由来のカーボンとを分離することができるとしている。
【0003】
更に、二次電池のリサイクル方法としては、例えば、使用済みの正極材料を酸で分解し、水酸化物として取り出し、炭酸リチウムを用いて再度酸化物に再生するものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。また、失活したLiCoO2正極における、LiOH/Li2SO4水溶液を用いた水熱合成、あるいは、Li2CO3を用いた固相合成、焼成による活物質への可動Liの付与を行うものが提案されている(例えば、非特許文献2参照)。また、失活したLiNiCoMnO2正極におけるLi+を含む溶融塩を用いた活物質への可動Liの付与を行うものが提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-80491号公報
【文献】特開2020-105599号公報
【文献】特開2019-44246号公報
【文献】特開2020-129505号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Green Chem.,2013,15,1183-1191
【文献】Green Chem.,2018,20,851-862
【文献】Adv.Energy Mater,2019,9.1900454
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1~4や非特許文献1では、電極を分解し正極を合成原料まで分解して再合成を行うため、多段階の工程を要していた。また、上述の非特許文献2では、水熱合成や子相合成では800℃を超える高温での処理が必要であった。また、上述の非特許文献3では、電極を分解し、高温での溶融塩の処理を要し、エネルギー消費に課題があった。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、電極活物質の状態に応じてより適切な容量回復をより容易に実行することができる新規な回復方法及び回復システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、所定の回復剤に電極を浸漬すると、電極合材を分解しつつ電極活物質の容量回復を行うことができ、更に、この回復剤に電解液を加えると、電極合材を分解せずに電極活物質の容量回復を行うことができることを見いだし、本開示を完成するに至った。
【0009】
即ち、本明細書で開示する回復方法は、
電極活物質を含む電極合材が形成された電極と、該電極に接触し金属イオンをキャリアイオンとし電解液溶媒を含む電解液と、を有する蓄電デバイスの前記電極活物質の容量を回復させる回復方法であって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、前記電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、前記電解液に用いられる電解液溶媒とを含む溶液である回復剤へ、前記蓄電デバイスの電極を浸漬させ、電極の状態を維持して前記電極活物質の容量を回復させる電極回復工程、を含むものである。
【0010】
あるいは、本開示の回復方法は、
電極活物質を含む電極合材が形成された電極と、該電極に接触し金属イオンをキャリアイオンとし電解液溶媒を含む電解液と、を有する蓄電デバイスの前記電極活物質の容量を回復させる回復方法であって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、前記電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、を含み前記電解液に用いられる電解液溶媒を含まない溶液である分解回復剤へ、前記蓄電デバイスの電極を浸漬させ、前記電極合材を分解しつつ前記電極活物質の容量を回復させる分解回復工程、を含むものである。
【0011】
本開示の回復システムは、
電極活物質を含む電極合材が形成された電極と、該電極に接触し金属イオンをキャリアイオンとし電解液溶媒を含む電解液と、を有する蓄電デバイスの前記電極活物質の容量を回復させる回復システムであって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、前記電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、前記電解液に用いられる電解液溶媒とを含む溶液である回復剤へ、前記蓄電デバイスの電極を浸漬させ、電極の状態を維持して前記電極活物質の容量を回復させる電極回復処理を実行する回復部、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本開示は、電極活物質の状態に応じてより適切な容量回復をより簡便に実行することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、蓄電デバイスと同じキャリアイオンを含む還元状態の芳香族炭化水素化合物を含む処理溶液は、電解液に用いられる電解液溶媒を添加するか否かで、褐色液体か濃緑色液体化のいずれかを示し、還元力が変化するものと推察される。還元状態の芳香族炭化水素化合物を含み電解液溶媒を加えない処理溶液は、還元力が高く、電極活物質に対して電子とキャリアイオンとを供与することによりその容量を回復することができる上に、電極合材に含まれる結着材であるフッ素系高分子に対して電子を供与することで炭化を進め、同時に結着性を低下させることができる。この結果、この処理溶液では、電極活物質の容量を回復すると共に電極合材を分解させる分解回復剤として機能する。一方、還元状態の芳香族炭化水素化合物と電解液溶媒とを含む処理溶液は、還元力が穏やかであり、電極合材を分解せず、電極の状態で電極活物質の容量回復を図ることができる。このように、本開示では、使用済みの電極を処理溶液に浸漬することによって、電極活物質の状態に応じてより適切な容量回復をより簡便に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】回復判定処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【
図6】実験例14,15の浸漬時間のルート値に対する正極のLi量の関係図。
【
図7】Liナフタレニドの配合量に対するLi回復量の関係図。
【
図8】THF回復剤の配合量に対するLi回復量の関係図。
【
図9】DME回復剤の配合量に対するLi回復量の関係図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(回復システム)
本明細書で開示する回復システム10の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、回復システム10の一例を示す概略説明図である。
図2は、回復判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図3は、正極の還元に関する反応式である。
図4は、結着材の還元に関する反応式である。回復システム10は、使用済みの蓄電デバイス40の電極活物質の容量を回復し、リサイクルするシステムである。この回復システム10は、検出装置16と、制御装置20と、回復部30とを備えている。回復システム10では、検出装置16や制御装置20がLANやインターネットなどを含む回線12を介して情報をやりとりする。この回復システム10は、電極活物質を含む電極合材が形成された電極と、この電極に接触し金属イオンをキャリアイオンとし電解液溶媒を含む電解液と、を有する蓄電デバイスの電極活物質の容量を回復させるシステムである。ここでは、回復システム10は、蓄電デバイス40の正極活物質の容量を回復させることを主として説明する。
【0015】
蓄電デバイス40は、正極活物質を含む正極合材42が形成された正極43と、負極活物質を含む負極合材45が形成された負極46と、この正極43及び負極46に接触し金属イオンをキャリアイオンとし電解液溶媒を含む電解液48と、を備える。蓄電デバイス40は、例えば、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムやナトリウムのアルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池、空気電池などが挙げられる。キャリアイオンとしての金属イオンは、例えば、Li、Na、Kなどのアルカリ金属イオンや、Mg、Ca、Srなどの第2族イオン(アルカリ土類金属イオン)などが挙げられ、このうちリチウムイオンが好ましい。このうち、蓄電デバイス40としては、リチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池が好ましい。ここでは、蓄電デバイス40がリチウム二次電池であるものとして主として説明する。蓄電デバイス40は、例えば、リチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質を有する正極43と、リチウムイオンを吸蔵放出する負極活物質を有する負極46と、正極43及び負極46の間に介在しリチウムイオンを伝導する電解液48と、を備えるものとしてもよい。この蓄電デバイス40は、正極43と負極46との間にセパレータ47を配置してもよい。正極43は、集電体41の表面に形成された正極合材42を備えるものとしてもよい。正極合材42には、正極活物質のほか、導電材や結着材などが含まれるものとしてもよい。正極活物質としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む化合物が挙げられ、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物が好ましい。正極活物質は、例えば、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物などを用いることができる。あるいは、正極活物質は、リン酸鉄リチウムとしてもよい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。負極46は、集電体44の表面に形成された負極合材45を備えるものとしてもよい。負極合材45には、負極活物質のほか、導電材や結着材などが含まれるものとしてもよい。負極活物質としては、例えば、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。電解液48は、例えば、支持塩を溶解した電解液とすることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6やLiBF4、などのリチウム塩が挙がられる。電解液の溶媒は、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類等が挙げられる。また、電解液48は、固体のイオン伝導性ポリマーや、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。なお、電解液48は、その電解液溶媒が後述する回復剤31や分解回復剤32の回復剤溶媒と異なるものとしてもよい。集電体41,44としては、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのうち1以上を用いることができる。セパレータ47としては、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜などが挙げられる。
【0016】
検出装置16は、蓄電デバイス40に電気的に接続し、蓄電デバイス40の充放電特性などを測定し、この蓄電デバイス40の劣化度を導出する。劣化度は、例えば、初期容量に対する劣化後の容量の割合などで定義することができる。検出装置16は、例えば、充放電容量のほか、交流インピーダンスなども測定できるものとし、この交流インピーダンスに基づいて劣化度を推定するものとしてもよい。
【0017】
制御装置20は、回復システム10の全体を制御するコンピュータである。この制御装置20は、制御部21と、記憶部22と、入力装置27と、表示装置28と、を備える。制御部21は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、装置全体を制御する。制御部21は、検出装置16に対して測定開始指令を出力すると共に、検出装置16から測定結果を入力する。この制御部21は、再利用判定プログラム26を実行することによって、蓄電デバイス40のリサイクルの方式についての判定処理を実行する。入力装置27は、各種入力を行うマウスやキーボードなどを含む。表示装置28は、画面を表示するものであり、例えば液晶ディスプレイである。
【0018】
記憶部22は、例えば、HDDなど、大容量の記憶装置として構成されており許容範囲23や、劣化度情報24、劣化判定プログラム25、再利用判定プログラム26などが記憶されている。許容範囲23は、蓄電デバイス40の劣化状態から再利用手法を判定する際に用いられる閾値である。この許容範囲23は、例えば、蓄電デバイス40のまま電極活物質の容量を回復するか電極へ解体して容量を回復するかを判定する電池許容範囲の閾値や、電極のまま電極活物質の容量を回復するか電極合材を分解して電極活物質の容量を回復するかを判定する電極許容範囲の閾値などが含まれる。電池許容範囲は、例えば、蓄電デバイス40の状態で十分回復、再利用可能な劣化度の範囲に経験的に定められているものとしてもよい。また、電極許容範囲は、例えば、上記電池許容範囲を下回る範囲で、蓄電デバイス40の電極の状態で十分回復、再利用可能な劣化度の範囲に経験的に定められているものとしてもよい。具体的には、電池許容範囲が劣化度40%未満の範囲に定められ、電極許容範囲が劣化度60%以下の範囲に定められているものとしてもよい。劣化度情報24は、検出装置16で測定した蓄電デバイス40の劣化度を含む情報であり、検出装置16から回線12を介して取得する。劣化判定プログラム25は、検出装置16
の測定結果から劣化度を導出するプログラムである。再利用判定プログラム26は、蓄電デバイス40のリサイクル内容を判定するプログラムであり、
図2に示す回復判定処理ルーチンを含む。
【0019】
回復部30は、蓄電デバイス40の電極の容量を回復する設備又は装置である。この回復部30は、回復剤31を用いて電極を回復剤31に浸漬させ電極の状態を維持して電極活物質の容量を回復させる電極回復処理を実行するか、蓄電デバイスの電極を分解回復剤32に浸漬させ、電極合材を分解しつつ電極活物質の容量を回復させる分解回復処理を実行するか、のいずれかを実行する。回復剤31は、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、キャリアイオンと同種の金属イオンと、電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、電解液に用いられる電解液溶媒とを含む溶液である。また、分解回復剤32は、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、キャリアイオンと同種の金属イオンと、電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒とを含み、電解液に用いられる電解液溶媒を含まない溶液である。なお、説明の便宜上、回復剤31及び分解回復剤32を総称して処理溶液とも称する。
【0020】
回復部30で用いる回復剤31及び分解回復剤32(処理溶液)は、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む。この処理溶液は、次式(1)及び式(2)のうち1以上である芳香族炭化水素化合物を含むものとしてもよい。また、処理溶液は、次式(3)及び式(4)のうち1以上により得られたものとしてもよい。即ち、芳香族炭化水素化合物に金属を反応させ、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むものとする。回復剤溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)に代えてジメチルエーテル(DME)としてもよい。金属は、芳香族炭化水素化合物と反応するよう反応性が高いものが好ましく、アルカリ金属や第2族元素の金属などが好ましい。この処理溶液は、ナフタレン、ビフェニル、オルトターフェニル、アントラセン及びパラターフェニルのうち1以上である芳香族炭化水素化合物を含むものとしてもよい。芳香族炭化水素化合物としては、ナフタレンやビフェニルが好ましい。また、処理溶液は、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンのうち1以上である金属イオンを含むものとしてもよい。この金属イオンのうち、リチウムイオンがより好ましい。
【0021】
また、処理溶液は、回復剤溶媒として、電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物を含む。この回復剤溶媒は、例えば、環状エーテル系化合物としてもよいし、鎖状エーテル系化合物としてもよい。この回復剤溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン、ジオキサンや、ジメチルエーテル(DME)、ジエチルエーテル(DEE)、ジメトキシエタン(G1)、ジグライム(G2)、トリグライム(G3)、テトラグライム(G4)のうち1以上が挙げられ、このうちTHFやDMEがより好ましく、THFが更に好ましい。この処理溶液は、例えば、式(5)~(7)に示すように、溶媒をTHFとし、ナフタレン、ビフェニル、オルトターフェニルのいずれかにLi金属を反応させたものが好ましい。このような処理溶液を用いると、電極活物質の回復を図りやすい。また、このような処理溶液を分解回復剤32として用いると、電極合材を分解しやすく好ましい。また、電解液溶媒は、蓄電デバイス40の電解液溶媒と同じであってもよいし、異なっていてもよい。この電解液溶媒は、カーボネート系化合物であるものとしてもよい。この電解液溶媒は、例えば、上述した環状カーボネート類や、鎖状カーボネート類等が挙げられる。また、電解液溶媒は、支持塩を含む電解液として処理溶液に含まれていてもよい。支持塩は、蓄電デバイス40で説明したもののいずれかを用いることができる。
【0022】
更に、処理溶液において、回復剤は、溶媒をTHFとし還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むTHF回復剤と、溶媒をDMEとし還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むDME回復剤との混合溶液であるものとしてもよい。更にまた、分解回復剤は、THF回復剤とDME回復剤と電解液溶媒との混合溶液であるものとしてもよい。この処理溶液において、THF回復剤は、その配合比が20体積%以上80体積%以下の範囲が好ましく、30体積%以上が好ましく、50体積%以上であるものとしてもよい。また、処理溶液において、DME回復剤は、その配合比が20体積%以上80体積%以下の範囲が好ましく、30体積%以上が好ましく、50体積%以上であるものとしてもよい。また、処理溶液において、電解液溶媒は、その配合比が10体積%以上50体積%以下の範囲が好ましく、20体積%以上40体積%以下がより好ましく、30体積%以下であるものとしてもよい。電解液溶媒が10体積%以上では、処理溶液の還元性が抑えられ、電極合材の分解を抑制することができる。また、電解液溶媒が10体積%以上では、還元状態の芳香族炭化水素化合物の量が相対的に多くなり、電極活物質の回復をより確実に行うことができる。この処理溶液において、THF回復剤(T)とDME回復剤(D)との混合比率T/Dは、体積比で、例えば、1以上5以下の範囲が好ましく、1.5以上4以下の範囲がより好ましい。また、この処理溶液において、還元状態の芳香族炭化水素化合物は、処理溶液全体に対する濃度が0.1mol/L以上3mol/L以下の範囲であることが好ましく、0.5mol/L以上がより好ましく、1mol/L以上が更に好ましい。この濃度が高いほど電極活物質の回復をより確実に行うことができる。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
回復部30は、蓄電デバイス40の電極を処理溶液に浸漬させるが、その温度は、特に限定されず、10℃以上60℃以下の範囲としてもよいし、20℃以上40℃以下の範囲としてもよい。電極の回復温度は、室温近傍(20℃~25℃)が望ましい。また、回復部30での電極の浸漬時間は、電極の回復状態に応じて適宜設定すればよいが、例えば、10分以上が好ましく、30分以上が好ましい。また、浸漬時間は、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、8時間以下としてもよい。この回復部30は、蓄電デバイス40の劣化度が所定の電極許容範囲内であるときには、この蓄電デバイス40の電極に対し電極回復処理を実行する一方、蓄電デバイス40の劣化度が電極許容範囲外であるときには、この蓄電デバイス40の電極に対し分解回復処理を実行する。なお、回復処理は、作業者が行うものとしてもよいし、装置が自動で行うものとしてもよい。
【0027】
(回復方法)
次に、こうして構成された本実施形態の回復システム10の動作、特に、制御装置20が実行する回復処理について説明する。まず、
図2に示す回復判定処理ルーチンについて説明する。このルーチンは、記憶部22に記憶された再利用判定プログラム26に含まれており、作業者に実行に伴って制御部21によって実行される。このルーチンを実行すると、制御部21は、まず、蓄電デバイス40の劣化度を検出装置16から取得する(S100)。作業者は、予め、検出装置16に使用済みの蓄電デバイス40を接続しておく。検出装置16は、測定開始指令を制御部21から取得すると、蓄電デバイス40の劣化度を測定し、測定結果を制御部21へ出力する。制御部21は、測定結果と劣化判定プログラム25を用いて蓄電デバイス40の劣化度を取得してもよい。
【0028】
次に、制御部21は、蓄電デバイス40の劣化度が電池許容範囲内であるか否かを判定し(S110)、劣化度が電池許容範囲内にあるときには、実行する回復処理に回復剤注入処理を設定する(S120)。制御部21は、許容範囲23に設定された電池許容範囲を用いる。また、回復剤注入処理は、回復剤を蓄電デバイス40の内部へ少量注入し、セルのまま電極活物質を回復する処理である。この処理については、本開示ではその詳細な説明を省略する。一方、S120で劣化度が電池許容範囲外にあるときには、制御部21は、蓄電デバイス40を解体し電極を取り出す取出処理を設定し(S130)、劣化度が電極許容範囲内であるか否かを判定する(S140)。制御部21は、許容範囲23に設定された電極許容範囲を用いる。劣化度が電極許容範囲内にあるときには、制御部21は、実行する回復処理に、解体した電極を回復剤へ浸漬する電極回復処理を設定する(S150)。一方、S140で劣化度が電極許容範囲外にあるときには、制御部21は、実行する回復処理に、解体した電極を分解回復剤へ浸漬する分解回復処理を設定する(S160)。S150、S160又はS120のあと、制御部21は、設定した処理内容を記憶すると共に、表示装置28へ表示出力し(S170)、このルーチンを終了する。作業者は、この設定された処理内容を確認し回復部30で蓄電デバイス40の処理を実行する。
【0029】
電極回復処理では、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、キャリアイオンと同種の金属イオンと、電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、電解液に用いられる電解液溶媒とを含む溶液である回復剤へ、蓄電デバイス40の電極を浸漬させ、電極の状態を維持して電極活物質の容量を回復させる処理を行う。この処理条件は、上記説明した条件を適宜採用して行えばよい。例えば、正極43を回復剤31へ浸漬させると、
図3に示すような反応が進行し、正極活物質の充放電活性が回復する。この回復処理後の正極43は、そのまま、蓄電デバイス40に再利用可能である。
【0030】
分解回復処理では、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、キャリアイオンと同種の金属イオンと、電解液溶媒とは異なるエーテル系化合物の回復剤溶媒と、を含み電解液に用いられる電解液溶媒を含まない溶液である分解回復剤へ、蓄電デバイス40の電極を浸漬させ、電極合材を分解しつつ電極活物質の容量を回復させる処理を行う。この処理条件は、上記説明した条件を適宜採用して行えばよい。例えば、正極43を分解回復剤32へ浸漬させると、
図3に示すような反応が進行し、正極活物質の充放電活性が回復する。さらに、分解回復剤32では、
図4に示すような反応が進行し、正極合材42に含まれる結着材の結着性が低下して正極合材42が集電体41と、正極活物質33と、合材部材34とに分解する。合材部材34には、正極活物質33以外の導電材や結着材の成分などが含まれる。この回復処理では、集電体41や合材部材34は、部材として再利用可能となり、回復された正極活物質33も、そのまま部材として再利用可能となる。
【0031】
以上説明した本実施形態の回復システム10及び回復方法では、電極活物質の状態に応じてより適切な容量回復をより簡便に実行することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、蓄電デバイス40と同じキャリアイオンを含む還元状態の芳香族炭化水素化合物を含む回復剤は、電解液に用いられる電解液溶媒を添加するか否かで、褐色液体か濃緑色液体化のいずれかを示し、還元力が変化するものと推察される。還元状態の芳香族炭化水素化合物を含み電解液溶媒を加えない処理溶液は、還元力が高く、電極活物質に対して電子とキャリアイオンとを供与することによりその容量を回復することができる上に、電極合材に含まれる結着材であるフッ素系高分子に対して電子を供与することで炭化を進め、同時に結着性を低下させることができる。この結果、この処理溶液では、電極活物質の容量を回復すると共に電極合材を分解させる分解回復剤として機能する。一方、還元状態の芳香族炭化水素化合物と電解液溶媒とを含む処理溶液は、還元力が穏やかであり、電極合材を分解せず、電極の状態で電極活物質の容量回復を図ることができる。このように、本開示では、使用済みの電極を処理溶液に浸漬することによって、電極活物質の状態に応じてより適切な容量回復をより簡便に実行することができる。
【0032】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0033】
以下には、本開示の回復方法及び回復システムを具体的に検討した例を実験例として説明する。実験例1~24が本開示の実施例に相当し、実験例25が比較例に相当する。
【0034】
(蓄電デバイスの作製)
正極には、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM、戸田工業製)を92質量%、導電材としてのアセチレンブラック(デンカ株式会社製)を5質量%、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ製)を3質量%の割合で含む正極合材を、目付量7mg/cm2となるようにアルミ集電箔の片面に形成したものを用いた。負極には、Li金属を用いた。電解液には、エチレンカーボネート(EC)を30体積%、ジメチルカーボネート(DMC)を40体積%、エチルメチルカーボネート(EMC)を30体積%の割合で含む混合溶媒に、LiPF6を1.1Mの濃度となるように溶解させたものを用いた。正極と負極の間に、1mLの電解液を含侵させたポリプロピレンセパレータを挟み、ラミネートセルを作製した。これを劣化前電池とした。セルの電極面積は正極、負極ともに10cm2とした
【0035】
(劣化電池)
作製したラミネートセルにおいて、電圧範囲3.0Vから4.1Vでのセルの電気容量の50%に相当する容量(SOC=50%)まで充電を行うことで、正極からLiを引き抜いて、模擬的に容量を減少させた状態の正極を得た(劣化正極とも称する)。その後セルを解体し、劣化正極を取り出した。そして、正極として劣化正極を用いた以外は劣化前電池の作製と同様にして、ラミネートセルを作製した。これを劣化電池とした。
【0036】
(回復剤)
不活性雰囲気下において、テトラヒドロフラン(THF)溶媒に対して1.0mol/Lになるようにナフタレンを溶解させ、その後、1.0mol/Lのリチウム金属を加えて撹拌し、上記式(7)に示す反応により、回復剤原液である濃緑色のラジカルアニオン液体組成物(THF回復剤)を調製した。また、THF溶媒に代えて、ジメトキシエタン(DME)溶媒を用い、同様の手法でDME回復剤を調製した。THF回復剤、DME回復剤及び上述した電解液の3成分を表1に示すような体積比率の組成となるように混合し、回復剤とした。
【0037】
(回復処理)
表1に示す組成とした回復剤の溶液に対して、充電状態の電極を20℃で30分浸漬させ、その後の電極の状態と、正極に含まれるLi量を調べた。Li量の測定は、ICP発光分光分析によって行った。
【0038】
(結果と考察)
表1に実験例1~25の回復剤の配合比とLi増加量と、回復後の電極の状態をまとめた。なお、表1では、各試料を複数測定し、得られた複数の値を平均値で示した。
図5は、回復剤に用いた3成分の配合比の説明図である。
図6は、実験例14,15の浸漬時間のルート値に対する正極のLi量の関係図である。
図7は、Liナフタレニドの配合量に対するLi回復量の関係図である。
図8は、THF回復剤の配合量に対するLi回復量の関係図である。
図9は、DME回復剤の配合量に対するLi回復量の関係図である。
図6に示すように、回復剤に充電状態の正極を浸漬すると、浸漬時間のルート値に対して直線的にLi量が増加することがわかった。したがって、十分な還元状態の芳香族炭化水素化合物を含む回復剤では、浸漬時間に応じてLi回復量を制御することができることがわかった。
【0039】
表1、
図7~9に示すように、回復剤に電極を浸漬した場合、正極活物質は、Li量が増加し、回復していることがわかった。これは、
図3に示すように、リチウムナフタレニドが正極活物質であるリチウム複合酸化物へ電子とLiイオンとを供与することによるものと推察された。また、電解液を含まない回復剤である実験例1~8では、電極合材が集電体から剥離した。一方、電解液を含む実験例9~24では、電極合材は集電体から剥離しなかった。この理由は、例えば、Liイオンを有する還元状態の芳香族炭化水素化合物を含む回復剤は、電解液を添加するか否かで、褐色液体か濃緑色液体化のいずれかを示し、還元力が変化するものと推察された。還元状態の芳香族炭化水素化合物を含み電解液を加えない溶液は、還元力が高く、その容量を回復することができる上に、
図4に示すように、電極合材に含まれる結着剤であるフッ素系高分子に対して電子を供与することにより炭化を進め、同時に結着性を低下させることができるものと推察された。この結果、この溶液は、電極活物質の容量を回復すると共に電極合材を分解させ
る分解
回復剤として機能することがわかった。一方、還元状態の芳香族炭化水素化合物と電解液とを含む溶液は、還元力が穏やかであり、電極合材を分解せず、電極の状態で電極活物質の容量回復を図ることができた。このように、本実施例では、使用済みの電極を回復剤あるいは分解回復剤に浸漬することによって、電極活物質の状態に応じてより適切な容量回復をより簡便に実行することができることがわかった。
【0040】
また、
図7~9に示すように、電極を回復剤に浸漬して電極活物質を回復する場合は、その回復剤溶媒は、DMEに比してTHFの方が良好であるものと推察された。これは、THF回復剤を横軸のベースにしている
図8では、THF回復剤の配合量とLi増加量との関係は明確でないが、DME回復剤を横軸のベースにしている
図9では、DME回復剤の配合比の増加に伴い、Li増加量が低下する傾向を示したためである。また、還元状態の芳香族炭化水素化合物の濃度は、0.1mol/L以上3mol/L以下の範囲であることが好ましいと推察された。
【0041】
【0042】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本開示は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 回復システム、12 回線、16 検出装置、20 制御装置、21 制御部、22 記憶部、23 許容範囲、24 劣化度情報、25 劣化判定プログラム、26 再利用判定プログラム、27 入力装置、28 表示装置、30 回復部、31 回復剤、32 分解回復剤、33 正極活物質、34 合材部材、40 蓄電デバイス、41 集電体、42 正極合材、43 正極、44 集電体、45 負極合材、46 負極、47 セパレータ、48 電解液。