(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04537 20160101AFI20240806BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240806BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20240806BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M8/04537
H01M8/00 Z
H01M8/04858
H01M8/249
(21)【出願番号】P 2021154675
(22)【出願日】2021-09-22
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長沼 良明
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-186137(JP,A)
【文献】特開2016-174519(JP,A)
【文献】特開2007-109569(JP,A)
【文献】特開2008-218398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力端に接続されている燃料電池ユニットと、
前記燃料電池ユニットに並列に接続されているバッテリユニットと、
目標出力電力が前記燃料電池ユニットに対して設定されている出力電力下限値を下回っている場合、前記燃料電池ユニットの出力電圧がゼロよりも大きく前記バッテリユニットの出力電圧よりも低い所定のアイドリング電圧を保持するように前記燃料電池ユニットを制御する制御器と、
を備えて
おり、
前記燃料電池ユニットは、並列に接続されている第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックであって、第1出力電力下限値が設定されている第1燃料電池スタックと、第2出力電力下限値が設定されている第2燃料電池スタックを含んでおり、
前記制御器は、
(1)前記目標出力電力が前記第1出力電力下限値を上回っており、かつ、前記第1出力電力下限値と前記第2出力電力下限値の合計を下回っている場合、前記第1燃料電池スタックの出力電力が前記目標出力電力以上となるように前記第1燃料電池スタックを制御し、前記第2燃料電池スタックの出力電圧がゼロより大きく前記バッテリユニットの出力電圧よりも低い第2アイドリング電圧を保持するように前記第2燃料電池スタックを制御し、
(2)前記目標出力電力が前記第1出力電力下限値と前記第2出力電力下限値の合計を上回っている場合、前記第1燃料電池スタックの出力電力が前記第1出力電力下限値を上回り、前記第2燃料電池スタックの出力電力が前記第2出力電力下限値を上回り、かつ、前記第1燃料電池スタックと前記第2燃料電池スタックの合計出力が前記目標出力電力以上となるように前記第1燃料電池スタックと前記第2燃料電池スタックを制御し、
(3)前記目標出力電力が前記第1出力電力下限値と前記第2出力電力下限値のそれぞれを下回っている場合、前記第1燃料電池スタックの出力電圧がゼロより大きく前記バッテリユニットの出力電圧よりも低い第1アイドリング電圧を保持するように前記第1燃料電池スタックを制御し、前記第2燃料電池スタックの出力電圧が前記第2アイドリング電圧を保持するように前記第2燃料電池スタックを制御する、
燃料電池システム。
【請求項2】
前記第1出力電力下限値は前記第2出力電力下限値以下である、請求項1に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、電源として用いることができる燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
出力端に複数の燃料電池スタックが並列に接続されている燃料電池システムが特許文献1に開示されている。燃料電池システムの制御器は、目標出力電力を得るために必要最小限の個数の燃料電池スタックを運転する。幾つかの燃料電池スタックを運転しないでよい場合は、累積発電時間の長い燃料電池スタックを止める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池スタックは、停止(出力電圧ゼロの状態)と起動を数多く繰り返すと劣化が進む。本明細書は、劣化を抑制することのできる燃料電池システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する燃料電池システムは、出力端に接続されている燃料電池ユニットと、燃料電池ユニットに並列に接続されているバッテリユニットと、制御器を備える。燃料電池ユニットは燃料電池スタックを含む。燃料電池ユニットは、燃料電池スタックの出力電圧を昇圧する昇圧コンバータを含んでいてもよい。制御器は、燃料電池システムの目標出力電力が燃料電池ユニットに対して設定されている出力電力下限値を下回っている場合、燃料電池ユニットの出力電圧がゼロよりも大きくバッテリユニットの出力電圧よりも低い所定のアイドリング電圧を保持するように燃料電池ユニットを制御する。例えば、燃料電池スタックへ供給する酸素(空気)の量を調整することで、燃料電池ユニットの出力電圧をアイドリング電圧まで下げることができる。
【0006】
本明細書が開示する燃料電池システムでは、目標出力電力が小さい場合には、燃料電池ユニットの出力電圧をバッテリユニットの出力電圧よりも低くする。燃料電池ユニット(燃料電池スタック)からは電流が出力されず、バッテリユニットの電力だけが出力端から出力される。そして、制御器は、燃料電池ユニットの出力電圧をアイドリング電圧に保持する。燃料電池ユニット(燃料電池スタック)は、停止してはいないが電力を出力しない状態に保持される。電力を出力しない間も燃料電池ユニット(燃料電池スタック)を停止しないので、劣化が抑制される。
【0007】
アイドリング電圧の一例は、燃料電池スタックの単セルの保全電圧に燃料電池スタックのセル数を乗じた値以上の値である。保全電圧は、劣化が進み難い出力電圧であり、単セルの物理的特性に基づいて予め定められている。
目標出力電力が小さい場合、燃料電池ユニットは電力を出力せず、しかし、燃料電池ユニットの出力電圧をアイドリング電圧に保持する。燃料電池ユニットの出力電圧をバッテリユニットの出力電圧よりも低いアイドリング電圧に保持することにより、燃料電池スタックの劣化が抑えられる。
【0008】
燃料電池ユニットは、燃料電池スタックの出力電圧を昇圧する昇圧コンバータを備えていてもよい。その場合、制御器は、目標出力電力が出力電力下限値を上回っている場合、燃料電池ユニットの出力電力が目標出力電力以上となるように燃料電池スタックを制御するとともに、燃料電池ユニットの出力電圧がバッテリユニットの出力電圧を上回るように昇圧コンバータを制御する。バッテリユニットからは電力が出力されず、燃料電池ユニットの出力電力が出力端から出力されるようになる。
【0009】
燃料電池ユニットは、並列に接続される複数の燃料電池スタック(第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタック)を含んでいてもよい。第1燃料電池スタックには第1出力電力下限値が設定されており、第2燃料電池スタックには第2出力電力下限値が設定されている。その場合、制御器は、次の3通りの処理のいずれかを実行する。(1)目標出力電力が第1出力電力下限値を上回っており、かつ、第1出力電力下限値と第2出力電力下限値の合計を下回っている場合、制御器は、第1燃料電池スタックの出力電力が目標出力電力以上となるように第1燃料電池スタックを制御する。制御器は、第2燃料電池スタックの出力電圧がゼロより大きくバッテリユニットの出力電圧よりも低い第2アイドリング電圧を保持するように第2燃料電池スタックを制御する。(2)目標出力電力が第1出力電力下限値と第2出力電力下限値の合計を上回っている場合、制御器は、第1燃料電池スタックの出力電力が第1出力電力下限値を上回り、第2燃料電池スタックの出力電力が第2出力電力下限値を上回り、かつ、第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックの合計出力が目標出力電力以上となるように第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックを制御する。(3)目標出力電力が第1出力電力下限値と第2出力電力下限値のそれぞれを下回っている場合、制御器は、第1燃料電池スタックの出力電圧がゼロより大きくバッテリユニットの出力電圧よりも低い第1アイドリング電圧を保持するように第1燃料電池スタックを制御する。制御器は、第2燃料電池スタックの出力電圧が第2アイドリング電圧を保持するように第2燃料電池スタックを制御する。いずれの場合も、第1/第2燃料電池スタックの電圧をバッテリ電圧よりも低い所定の値(第1/第2アイドリング電圧)に保つことで、燃料電池スタックの劣化が抑えられる。
【0010】
第1/第2燃料電池スタックの出力電圧が第1/第2アイドリング電圧に保持されている間は、バッテリユニットの電力が出力端から出力される。
【0011】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施例の燃料電池システムのブロック図である。
【
図2】燃料電池ユニットの出力電流と出力電圧の関係を示したグラフである。
【
図3】燃料電池ユニット制御のフローチャートである(第1実施例)。
【
図4】第2実施例の燃料電池システムのブロック図である。
【
図5】燃料電池ユニット制御のフローチャートである(第2実施例)。
【
図6】第3実施例の燃料電池システムのブロック図である。
【
図7】燃料電池ユニット制御のフローチャートである(第3実施例)。
【
図8】燃料電池ユニット制御のフローチャートである(
図6の続き)。
【
図9】燃料電池ユニット制御のフローチャートである(
図7の続き)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施例)図面を参照して第1実施例の燃料電池システム2を説明する。
図1に、燃料電池システム2のブロック図を示す。燃料電池システム2は、燃料電池ユニット10、バッテリユニット3、出力端4、制御器5を備えている。燃料電池システム2は、出力端4から電力を出力することができる。
図1の構成では、出力端4に電気デバイス90が接続されており、燃料電池システム2は、電気デバイス90に電力を供給する。
図1の破線矢印線は、通信線を表している。以下では、説明の便宜上、「燃料電池」を「FC」と略記する。燃料電池ユニット10はFCユニット10と表記し、燃料電池スタック11はFCスタック11と表記する。
【0014】
制御器5には操作盤5aが接続されている。操作盤5aには、出力端4から出力すべき電力(目標出力電力)を設定するスイッチ類が備えられている。燃料電池システム2のユーザは、操作盤5aのスイッチを操作し、制御器5に目標出力電力を入力する。出力端4にはFCユニット10とバッテリユニット3が並列に接続されており、制御器5は、出力端4から出力される電力が目標出力電力に一致するようにFCユニット10を制御する。
【0015】
バッテリユニット3は、バッテリ3aと電圧コンバータ3bを含んでいる。電圧コンバータ3bは、バッテリ3aの出力電圧を昇圧して出力端4へ供給する昇圧機能と、FCユニット10の出力電圧を降圧してバッテリ3aに供給する降圧機能を有する。そのような電圧コンバータ3bは、双方向DC-DCコンバータと呼ばれる。制御器5が電圧コンバータ3bを制御し、バッテリユニット3の出力電圧を調整する。バッテリ3aの残電力量が少ないとき、制御器5は、FCユニット10と電圧コンバータ3bを制御し、FCユニット10の出力電力でバッテリ3aをチャージする。
【0016】
FCユニット10は、複数の単セルが直列に接続されているFCスタック11と、FCスタック11の出力電圧を昇圧する昇圧コンバータ12を含む。良く知られているように、FCスタック11(複数の単セル)は、水素と酸素を反応させて電気を得る。
【0017】
FCユニット10には、燃料タンク30、および、FCユニット10を運転するための様々な電気デバイスが接続されている。FCユニット10を運転するための電気デバイスは補機と呼ばれることがある。補機には、例えば、燃料(水素)をFCスタック11に送るためのインジェクタ32、FCスタック11を通過した残ガスを残水素ガスと水に分離する気液分離器33、残水素ガスを再びFCスタック11に戻すポンプ34、酸素(空気)をFCスタック11に供給するエアコンプレッサ35、FCスタック11を冷却する冷却器36などが含まれる。FCユニット10には他にも複数の圧力センサやバルブが付随するが、それらの説明は省略する。制御器5は、補機を制御し、FCスタック11に供給される水素ガスと酸素(空気)の量を調整することで、FCスタック11の出力電力を調整することができる。また、制御器5は、昇圧コンバータ12を制御し、FCユニット10の出力電圧を調整することができる。
【0018】
FCユニット10の出力電圧と出力電流はそれぞれ電圧センサ13と電流センサ14により計測される。電圧センサ13と電流センサ14の計測値は制御器5に送られる。制御器5は、電圧センサ13と電流センサ14の計測値からFCユニット10の出力電圧と出力電流を得る。出力電圧に出力電流を乗じることで、FCユニット10の出力電力が得られる。
【0019】
実施例のFCシステム2は、バッテリユニット3を備えている。要求電力をバッテリユニット3で賄える場合は、FCユニット10(FCスタック11)を使わずに済ませたい。しかし、FCスタック11は、停止と起動を頻繁に繰り返すと劣化が進むことが知られている。そこで、制御器5は、要求電力(目標出力電力)が小さい場合は、次の通りにFCユニット10を制御する。すなわち、目標出力電力が小さい場合、制御器5は、FCユニット10が出力端4へ電力を出力することなく、かつ、出力電圧がアイドリング電圧を保持するように、FCユニット10を制御する。なお、先に述べたように、「FCユニット10を制御する」とは、(1)FCスタック11に供給される酸素または水素の量(または、酸素と水素の両方)を調整すること、(2)昇圧コンバータ12の昇圧比を制御すること、の一方または両方を意味する。
【0020】
アイドリング電圧とは、FCスタック11の単セルの保全電圧にFCスタック11が有する単セル数を乗じた値に設定されている。ここで、単セルの保全電圧とは、単セルが劣化の進行を抑えつつ安定して出せる電圧を意味する。保全電圧は、単セルの物理特性に応じて予め定められている。FCユニット10(FCスタック11)の出力電圧がアイドリング電圧のとき、FCユニット10に含まれるそれぞれの単セルの劣化が抑えられる。
【0021】
ここで、
図2を参照して、FCスタック11の電流/電圧特性とアイドリング電圧との関係を説明する。
図2は、FCスタック11の出力電流と出力電圧をそれぞれ横軸と縦軸に表したグラフである。なお、理解を助けるために、昇圧コンバータ12の昇圧比は1とした。すなわち、FCスタック11の出力電圧はFCユニット10の出力電圧に等しい。
【0022】
良く知られているように、FCスタックは、供給する酸素と水素の量が多いほど、グラフが上へ移動する。
図2の例では、グラフG1が、酸素と水素の供給量が最も多い状態を示している。また、FCスタックは、出力電流が大きいほど出力電圧が下がる傾向がある。FCスタックに接続される負荷の内部抵抗が小さいと、FCスタックから負荷に流れる電流が大きくなり、電圧は下がる。負荷の内部抵抗が大きいと、あるいは、FCスタックの出力端が開放されると、FCスタックから電流が出力されなくなるが、FCスタックの出力端の電圧は最大となる。出力電流がゼロのとき、FCスタックの内部では、水素と酸素の反応が進まなくなり、FCスタックの内部に電荷がチャージされた状態が保持される。
【0023】
FCスタック11(FCユニット10)とバッテリユニット3が出力端4に並列に接続されている。従って、FCスタック11の出力電圧はバッテリユニット3の電圧V_BTを上回っているときにはFCスタック11から電力が出力される。一方、FCスタック11の出力電圧が電圧V_BTを下回るとFCスタック11から電力は出力されなくなる。FCスタック11の特性がグラフG1のとき、FCスタック11の動作点はポイントP1で維持される。ここで、FCスタック11への酸素供給を停止すると、グラフは徐々に下方に移動する。FCスタック11は、出力電流=ゼロ、および、出力電圧=V_BTとなる特性(グラフG2)で反応が止まる。すなわち、FCスタック11は、電力(電流)を出力しないが出力電圧がバッテリユニット3の電圧(バッテリ電圧V_BT)と等しくなる動作点(
図2のポイントP2)で維持される。
【0024】
後述するアイドリング電圧V_Idleは、バッテリ電圧V_BTよりも低い値に設定されている。FCスタック11の出力電圧がアイドリング電圧V_IdleとなるようにFCスタック11(FCユニット10)を制御すると、FCスタック11の特性はグラフG3となり、ポイントP3で反応が止まる。ポイントP3では、FCスタック11の電圧V_Idleはバッテリ電圧V_BTよりも小さいので、FCスタック11(FCユニット10)から電力(電流)は出力されないが、電圧V_Idleは保持される。
【0025】
実施例では、燃料電池システム2の出力目標は電力の単位(目標出力電力)で表すが、燃料電池システム2の出力目標は、電流の単位(目標出力電流)で表してもよい。目標出力電流は、FCユニット10の出力電圧がバッテリ電圧V_BTに等しくなったときの電流(グラフG1の場合は電流I1)で表される。目標電力出力は、FCユニット10の出力電圧がバッテリ電圧V_BTに等しくなったときの電流I1と、バッテリ電圧V_BTの積(I1×V_BT)で表される。
【0026】
制御器5が実行する処理のフローチャートを
図3に示す。以下の説明、および、
図3では、FCユニット10の出力電圧をFC電圧と称し、バッテリユニット3の電圧をバッテリ電圧と称する場合がある。
【0027】
先に述べたように、目標出力電力は、ユーザによって設定される。制御器5は、目標出力電力を出力電力下限値と比較する(ステップS2)。出力電力下限値は、FCユニット10に対して予め設定されている。
【0028】
目標出力電力が出力下限値を超えている場合(ステップS2:NO)、制御器5は、FCユニット10の出力電力が目標出力電力以上になるように、FCユニット10を制御する(ステップS4)。同時に制御器5は、FC電圧(昇圧コンバータ12の出力電圧)がバッテリ電圧よりも高くなるように、昇圧コンバータ12を制御する。FC電圧がバッテリ電圧よりも高くなることで、FCユニット10の出力電力が出力端4から出力される。バッテリユニット3のバッテリ3aは再充電が可能な二次バッテリであり、バッテリ3aが満充電状態ではない場合、FCユニット10の出力電力の一部でバッテリ3aが充電される。
【0029】
バッテリ3aが満充電の場合、制御器5は、FCユニット10の出力電力が目標出力電力に一致するようにFCユニット10を制御する。この場合、FCユニット10の出力電力の全てが出力端4から出力され、電気デバイス90に供給される。
【0030】
ステップS2において、目標出力電力が出力電力下限値を下回っている場合(ステップS2:YES)、制御器5は、FC電圧がアイドリング電圧となるように、FCユニット10を制御する。このとき、制御器5は、昇圧比が1となるように昇圧コンバータ12を制御する。FC電圧(FCユニット10の出力電圧)はFCスタック11の電圧に等しくなる。すなわち、FCスタック11の電圧がアイドリング電圧に保持される。
【0031】
先に述べたように、アイドリング電圧は、FCスタック11の単セルの保全電圧にFCスタック11が有する単セル数を乗じた値に設定されている。また、アイドリング電圧は、バッテリ電圧よりも低い。それゆえ、FC電圧がアイドリング電圧に保持されているとき、FCユニット10からは電力が出力されず、バッテリユニット3の出力電力が出力端4から出力される。すなわち、電気デバイス90には、FCユニット10からは電力が供給されず、バッテリユニット3の電力が供給される。
【0032】
先に述べたように、FC電圧(FCスタック11の出力電圧)をアイドリング電圧に保持することで複数の単セルの電圧を低く抑えることができ(ただし、単セルの電圧はゼロではない)、FCスタック11の劣化が抑えられる。
【0033】
(第2実施例)
図4に、第2実施例の燃料電池システム102のブロック図を示す。燃料電池システム102は、FCユニット10と出力端4の間にFCリレー15が配置されていることのみが、第1実施例の燃料電池システム2と相違する。FCリレー15以外の燃料電池システム102の構成については説明を割愛する。FCリレー15が開くと、FCユニット10が出力端4から電気的に遮断される。なお、FCリレー15が開いても、バッテリユニット3と出力端4の電気的な接続は保持される。
【0034】
図5に、燃料電池システム102の制御器105が実行する処理のフローチャートを示す。ステップS2、S3、S4は、
図3のフローチャートと同じである。
図5では、ステップS3の次にステップS5が加わっている。すなわち、目標出力電力が出力電力下限値を下回っている場合、制御器105は、FC電圧をアイドリング電圧に保持したら、FCリレー15を開く(ステップS3、S5)。ステップS3にて、制御器105は、昇圧コンバータ12を運転し(昇圧コンバータ12の出力電圧>バッテリ電圧)、FCスタック11の出力電圧がアイドリング電圧に下がるまで、FCスタック11の電力をバッテリユニット3へ出力する。別言すれば、制御器105は、FCスタック11の電力をくみ出してバッテリユニット3へ送る。制御器は、FCスタック11の出力電圧がアイドリング電圧に下がったら昇圧コンバータ12を停止し、FCリレー15を開く(ステップS5)。昇圧コンバータ12を停止すると、昇圧コンバータ12の昇圧比は1になる。このとき、FCユニット10の出力電圧はFCスタック11の出力電圧に等しくなる。すなわち、FC電圧(FCユニット10の出力電圧)がアイドリング電圧に等しくなる。FCリレー15を開いてFCユニット10を出力端4から電気的に遮断することで、FCユニット10から電力が確実に出力されなくなる。FCユニット10から電力が出力されなくなるので、FCユニット10の出力電圧が安定する。
【0035】
(第3実施例)
図6に、第3実施例の燃料電池システム202のブロック図を示す。燃料電池システム202のFCユニット210は、2個のFCスタック(第1FCスタック11aと第2FCスタック11b)を備える。2個のFCスタック11a、11bは、バッテリユニット3とともに、出力端4に並列に接続されている。第1FCスタック11aの出力端には昇圧コンバータ12aが接続されており、第2FCスタック11bには昇圧コンバータ12bが接続されている。FCスタック11a、11b、昇圧コンバータ12a、12bは、それぞれ、第1実施例のFCスタック11、昇圧コンバータ12と同じである。2個のFCスタック11a、11bには、共通の燃料タンク30から燃料ガス(水素ガス)が供給される。
図6では、インジェクタ、気液分離器、ポンプ、エアコンプレッサなど、FCスタックに付随する補機の図示は省略した。
【0036】
FCスタック11a(11b)の出力電圧と出力電流は、電圧センサ13a(13b)と電流センサ14a(14b)により計測される。電圧センサ13a(13b)と電流センサ14a(14b)の計測値は制御器205に送られる。
図6では、通信線の図示は省略してある。電圧センサ13a(13b)と電流センサ14a(14b)の計測値から、制御器205は、FCスタック11a(11b)の出力電圧、出力電流、出力電力を得ることができる。
【0037】
制御器205には操作盤5aが接続されており、ユーザが操作盤5aを用いて、出力端4から出力すべき電力(目標出力電力)を制御器205に入力する。制御器205は、出力端4から出力される電力が目標出力電力に一致するように、FCユニット210(FCスタック11a、11b)を制御する。
【0038】
FCスタック11a(11b)は、FCリレー15a(15b)を介して出力端4に接続されている。制御器205がFCリレー15a(15b)を開くと、FCスタック11a(11b)が出力端4から電気的に遮断される。以下では、FCリレー15aを第1FCリレー15aと称し、FCリレー15bを第2FCリレー15bと称する場合がある。
【0039】
FCスタック11a、11bのそれぞれにも出力電力下限値が設定されている。第1FCスタック11aの出力電力下限値を第1出力電力下限値と称し、第2FCスタック11bの出力電力下限値を第2出力電力下限値と称する。第1出力電力下限値と第2出力電力下限値は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。説明の便宜上、第1出力電力下限値は第2出力電力下限値以下であると仮定する。
【0040】
FCスタック11a、11bのそれぞれにもアイドリング電圧が設定されている。FCスタック11a(11b)の出力電圧をアイドリング電圧に保つと、FCスタック11a(11b)に含まれている複数の単セルの劣化が抑えられる。第1FCスタック11aのアイドリング電圧を第1アイドリング電圧と称し、第2FCスタック11bのアイドリング電圧を第2アイドリング電圧と称する。第1アイドリング電圧と第2アイドリング電圧は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。第1/第2アイドリング電圧は、いずれも、ゼロよりも大きく、バッテリユニット3の電圧よりも低い。
【0041】
制御器205は、FCスタック11a、11bの劣化が進まないように、FCスタック11a、11bを制御する。
図7-
図9に、制御器205が実行する処理のフローチャートを示す。なお、以下の説明、および、
図7-9では、第1FCスタック11aの出力電圧を第1FC電圧と称し、第2FCスタック11bの出力電圧を第2FC電圧と称する。
【0042】
制御器205は、ユーザによって入力された目標出力電力を第1出力電力下限値と比較する(ステップS12)。先に述べたように、第1出力電力下限値は第2出力電力下限値以下であると仮定しているので、目標出力電力が第1出力下限値よりも小さい場合は、当然に目標出力電力は第2出力電力下限値よりも小さい。
【0043】
目標出力電力が第1出力電力下限値と第2出力電力下限値のそれぞれを下回っている場合(ステップS12:YES)、制御器205は、第1FC電圧が第1アイドリング電圧となるように第1FCスタック11aを制御し、第2FC電圧が第2アイドリング電圧となるように第2FCスタック11bを制御する(ステップS13)。第1、第2実施例で説明したように、FCスタック11a(11b)の出力電圧がバッテリ電圧(バッテリユニット3の出力電圧)よりも低いアイドリング電圧に下がるまで、制御器205は昇圧コンバータ12a(12b)を駆動する。FCスタック11a(11b)の電力がバッテリ3aに供給され、第1FC電圧と第2FC電圧が下がっていく。FCスタック11a、11bの出力電圧がそれぞれのアイドリング電圧まで下がったら、制御器205は昇圧コンバータ12a、12bを停止し、第1FCリレー15aと第2FCリレー15bを開く(ステップS14)。
【0044】
FCリレー15a、15bを開いているので、FCスタック11a、11bの出力は出力端4には流れない。出力端4からは、バッテリユニット3の電力が出力される。なお、FCリレー15a(15b)が閉じていてもFCスタック11a(11b)から出力端4へは電力は流れない。なぜならば、FCスタック11a(11b)の出力電圧は第1アイドリング電圧(第2アイドリング電圧)に設定されており、第1アイドリング電圧(第2アイドリング電圧)はバッテリユニット3の電圧よりも低いからである。FCリレー15a、15bを開くのは、FCスタック11a、11bの出力を確実に止めるためである。
【0045】
ステップS12において、目標出力電力が第1出力電力下限値を上回っている場合は、制御器205は、
図8のステップS21の処理に移る。
【0046】
ステップS21では、制御器205は、目標出力電力を、第1出力電力下限値と第2出力下限値の合計(下限値合計)と比較する。目標出力電力が下限値合計を上回っている場合、制御器205は、FCスタック11a、11bの出力電力の合計が目標出力電力以上となるようにFCスタック11a、11bを制御する。さらにこのとき、制御器205は、第1FCスタック11aの出力電力が第1出力電力下限値よりも大きくなるように、かつ、第2FCスタック11bの出力電力が第2出力電力下限値よりも大きくなるように、FCスタック11a、11bを制御する。さらに制御器205は、FCスタック11a、11bのそれぞれの出力電圧(昇圧コンバータ12a、12bのそれぞれの出力電圧)がバッテリユニット3の電圧よりも大きくなるようにFCスタック11a、11bを制御する(ステップS22)。
【0047】
昇圧コンバータ12a、12bの出力電圧がバッテリユニット3の電圧よりも高いので、FCスタック11a、11bから出力端4へ電力が流れる。
【0048】
ステップS21の処理において、目標出力電力が下限値合計を下回っている場合は、制御器205は、
図9のステップS31の処理に移る。
【0049】
目標出力電力が第1出力電力下限値よりも大きく(ステップS12:NO)、かつ、下限値合計を下回っている場合(ステップS21:NO)、制御器205は、第1FCスタック11aからは電力が出力されるが第2FCスタック11bからは電力が出力されないように、FCスタック11a、11bを制御する。具体的には、制御器205は、まず、第2FCスタック11bの出力電圧が第2アイドリング電圧を保持するように第2FCスタック11bを制御する(ステップS31)。先に述べたように、制御器205は、第2FCスタック11bの出力電圧が第2アイドリング電圧に下がるまで、昇圧コンバータ12bを駆動する(昇圧コンバータ12bの出力電圧>バッテリ電圧)。第2FCスタック11bの電力がバッテリユニット3のバッテリ3aに流れ、第2FCスタック11bの電圧が下がっていく。第2FCスタック11bの出力電圧が第2アイドリング電圧まで下がったら、制御器105は、昇圧コンバータ12bを停止し、第2FCリレー15bを開く(ステップS32)。
【0050】
続いて制御器205は、第1FCリレー15aを閉じる(ステップS33)。制御器205は、第1FCスタック11aの出力電力が目標出力電力以上となり、第1FCスタック11bの出力電圧(昇圧コンバータ12aの出力電圧)がバッテリユニット3の電圧を上回るように、第1FCスタック11aを制御する(ステップS34)。
【0051】
第2FCスタック11bの出力電圧は第2アイドリング電圧に保持されており、第2アイドリング電圧はバッテリユニット3の電圧よりも低いので、第2FCスタック11bから出力端4へは電力が流れない。第2FCスタック11bの出力電圧は第2アイドリング電圧に保持されているため、第2FCスタック11bの複数の単セルの劣化が抑えられる。
【0052】
一方、第1FCスタック11aの出力電圧(昇圧コンバータ12aの出力電圧)はバッテリユニット3の電圧を超えているので、第1FCスタック11aの出力電力が出力端4から出力される。第1FCスタック11aにより、出力端4から目標出力電力が出力される。
【0053】
以上説明したように、実施例の燃料電池システムは、FCユニット(FCスタック)の出力電圧がアイドリング電圧以上となるように制御されるので、複数の単セルの劣化が抑えられる。
【0054】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。第3実施例では2個のFCスタック11a、11bが出力端4に接続されている。3個以上のFCスタックが出力端に並列に接続されていてもよい。
【0055】
実施例のFCシステムは、目標出力電力が小さい場合でもFCユニット(FCスタック)を停止せず、FCスタックの出力電圧をアイドリング電圧に保持する。実施例のFCシステムは、起動と停止の繰り返し数を抑えることができ、その結果、劣化を抑えることができる。FCスタックの出力電圧を下げるには、FCスタックに供給する酸素(空気)の量を減らす処理が好適である。
【0056】
FCスタックの出力電圧をアイドリング電圧に保持することで劣化を抑制できるが、大電流を出力しているFCスタックと比較すると、相対的に劣化が進む。複数のFCスタックが並列に接続されている場合であって、少なくとも1個のFCスタックの出力電圧をアイドリング電圧に保持する場合、出力特性が低いFCスタックを選択するとよい。複数のFCスタックの劣化の進み具合を平準化することができる。ここで、「出力特性が低い」とは、同一の電流を出力しているときに最も出力電圧が低くなったFCスタックを意味する。
【0057】
先に述べたように、実施例の説明における「目標出力電力」、「FCユニットの出力電力」、「出力電力下限値」は、それぞれ、「目標出力電流」、「FCユニットの出力電流」、「出力電流下限値」と呼び変えても技術的には等価である。
【0058】
FCリレー15、15a、15bは必須ではないが、出力電圧がアイドリング電圧に保持されたFCユニットの出力を確実に止めるには有効である。昇圧コンバータがトランス式の場合、昇圧コンバータを停止すると昇圧コンバータの両端が電気的に遮断されるので、FCリレーは不要となる。
【0059】
実施例のFCシステムのFCユニットは、FCスタックと昇圧コンバータを備えている。昇圧コンバータは無くてもよい。ただし、FCユニットが昇圧コンバータを備えていると次の利点が得られる。昇圧コンバータを使ってFCユニットの出力電圧をバッテリユニットの電圧よりも高くすることで、FCスタックの電力をバッテリユニットに移すことができる。この電力移送を活用して、FCスタックの出力電圧をアイドリング電圧まで素早く下げることができる。
【0060】
実施例のFCシステムのバッテリユニットは、バッテリと電圧コンバータを備えている。電圧コンバータは無くてもよい。
【0061】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0062】
2、102、202:燃料電池システム 3:バッテリ 4:出力端 5、105、205:制御器 5a:操作盤 10、210:燃料電池ユニット 11、11a、11b:燃料電池スタック 12、12a、12b:昇圧コンバータ 13、13a、13b:電圧センサ 14、14a、14b:電流センサ 15、15a、15b:FCリレー 30:燃料タンク 32:インジェクタ 33:気液分離器 34:ポンプ 35:エアコンプレッサ 36:冷却器 90:電気デバイス