(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】希土類焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240806BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240806BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240806BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20240806BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20240806BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240806BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240806BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20240806BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20240806BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
C22C28/00 A
C22C33/02 H
B22F1/00 R
B22F3/24 K
B22F9/04 C
B22F9/08 A
B22F9/24 Z
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/00 N
B22F1/00 S
(21)【出願番号】P 2021179152
(22)【出願日】2021-11-02
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2020188449
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 瑛
(72)【発明者】
【氏名】大橋 徹也
(72)【発明者】
【氏名】廣田 晃一
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-014668(JP,A)
【文献】特開2019-062158(JP,A)
【文献】特開2019-062156(JP,A)
【文献】特開2020-155762(JP,A)
【文献】特開2013-045844(JP,A)
【文献】特開2020-161789(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0000586(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0096575(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0191833(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0312492(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
C22C 38/00
C22C 28/00
C22C 33/02
B22F 1/00
B22F 3/24
B22F 9/04
B22F 9/08
B22F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R
1
2T
14X組成(R
1は希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Pr及び/又はNdを必須とする、TはFe、Co、Al、Ga、Cuから選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする、Xはホウ素及び/又は炭素)を主相とするR
1-T-X系焼結体を得る焼結体作製工程、
R
2、M及びBを含有する合金(R
2は希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Dy及び/又はTbを必須とする、MはFe、Cu、Al、Co、Mn、Ni、Sn及びSiからなる群から選ばれる1種以上の元素、Bはホウ素)の粉末を得る粉末調製工程、
前記焼結体の表面に前記合金の粉末を存在させる粉末付与工程、及び
前記合金の粉末及び前記焼結体を、真空又は不活性ガス雰囲気中で前記焼結体の焼結温度以下の温度に加熱、保持する熱処理工程を含み、
前記粉末調製工程で調製される合金が、5~60at%のR
2、5~70at%のM、20at%を超え70at%以下のBを含むことを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記合金が、主相として、R
2MB
4相、R
2M
2B
2相、R
2M
4B
4相、R
2
3MB
7相、R
2
5M
2B
6相の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記粉末調製工程が、R
2、M及びBを含む原料金属を高周波誘導加熱溶解、プラズマ溶解又はアーク溶解する工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記粉末調製工程が、前記合金を、500~1200℃で1~500時間、真空中もしくは不活性ガス雰囲気中で均質化する均質化工程を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記粉末調製工程が、前記合金を不活性ガス雰囲気中で粉砕する粉砕工程を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記粉末調製工程が、前記合金からガスアトマイズ法により、球状粒子として合金粉末を得るガスアトマイズ工程を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記粉末調製工程が、ゾル-ゲル法により金属塩及び/又は金属塩水和物を原料としてR
2、M及びBの酸化物粉を作製し、還元剤を用いて還元拡散反応させる工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記粉末調製工程において、前記粉末の平均粒子径を、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積基準メジアン径D
50で、1~50μmに調整することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い残留磁束密度と高い保磁力を両立した希土類焼結磁石の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B系焼結磁石は、ハードディスクドライブからエアコン、産業用モータ、ハイブリッド自動車や電気自動車の発電機・駆動モータ等へとその応用範囲を拡大し続けている。そして、今後の発展が期待される用途であるエアコンのコンプレッサモータや車載用途では磁石が高温に曝されるために、高温下での特性の安定性、即ち耐熱性が要求されている。
【0003】
Nd-Fe-B磁石の耐熱性を担う保磁力機構はニュークリエーションタイプであり、R2Fe14B主相結晶粒界面での逆磁区の核生成が保磁力を支配すると言われている。Rの一部をDyやTbで置換するとR2Fe14B相の異方性磁界が増大するため逆磁区の核生成が生じにくくなり、保磁力(以下、「HcJ」と略記する場合がある)が向上する。しかし、DyやTbを原料合金に添加した場合、主相粒の界面近傍だけでなく、粒内部までDyやTbで置換されるため、飽和磁束密度の低下に伴い残留磁束密度(以下、「Br」と略記する場合がある)が低減する。更に、希少で資源としての供給リスクの高いTbやDyの使用量が多くなるという問題もある。
【0004】
粒界拡散技術は、焼結体母材の表面にDy、Tbなどの元素を配置して熱処理を施すことで、DyやTbが焼結体の粒界部を主な経路として焼結体母材の内部まで拡散し、粒界部や焼結体主相粒内の粒界部近傍に高濃度に濃化した組織を形成することで効率的に保磁力(HcJ)を増大させることができる。これまでこの粒界拡散技術に関して種々の手法が考案され、例えば、蒸着やスパッタリング法を用いてNd-Fe-B磁石表面にYb、Dy、Pr、Tbなどの希土類金属を成膜した後に熱処理を行う方法(特許文献1、非特許文献1~2)や、Dy蒸気雰囲気中で焼結体表面からDy元素を拡散させる方法(特許文献2)、希土類を含む金属間化合物粉末を用いる方法(特許文献3)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2008/023731号
【文献】国際公開第2007/102391号
【文献】特開2009-289994号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】K. T. Park, K. Hiraga and M. Sagawa, “Effect of Metal-Coating and Consecutive Heat Treatment on Coercivity of Thin Nd-Fe-B Sintered Magnets”, Proceedings of the Sixteen International Workshop on Rare-Earth Magnets and Their Applications, Sendai, p.257 (2000)
【文献】町田憲一、川嵜尚志、鈴木俊治、伊東正浩、堀川高志、“Nd-Fe-B系焼結磁石の粒界改質と磁気特性”、粉体粉末冶金協会講演概要集 平成16年度春季大会、p.202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の先行技術文献で報告されているような手法では、DyやTbを含む単金属またはDyやTbを含む希土類元素と遷移金属元素による金属間化合物を拡散源として磁石表面に配置することで膜を形成し、次いで熱処理において拡散源が溶融した磁石粒界部に浸透し拡散、あるいはDyやTbを、気相を介して磁石表面から磁石内部に浸透させ拡散させるため、磁石表面近傍において粒界相中のDyやTb濃度が著しく増加した結果、R2Fe14B主相結晶粒内部までDyやTbが拡散し、飽和磁化が大幅に低下する場合がある。
【0008】
また、当該粒界拡散技術を用いた量産技術においては、熱処理中に拡散源がそれ自体若しくは溶融した磁石粒界相成分との反応により溶融して磁石内部に拡散するため、磁石同士が接触していると溶融した拡散源が隣接するもう一方の磁石表面と互いに溶着してしまう虞がある。
【0009】
さらに、特許文献2に報告されるような、気相を介した拡散技術においては、個々の磁石が気相との界面を有する必要があるため、複数の磁石を処理する場合、相互に距離を置く必要がある。この対策として製品を敷板上に磁石を平置きして熱処理されるが、敷板と一緒に熱処理するため炉内の磁石の実質積載重量が低減し生産性を著しく悪化させるという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、粒界拡散処理によるR-Fe-B系希土類磁石の残留磁束密度(Br)の低下を可及的に抑制しながら保磁力(HcJ)を十分に増大させることができ、高い残留磁束密度(Br)と高い保磁力(HcJ)を両立した希土類焼結磁石を生産性良く製造することができる希土類希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、R1-T-X系焼結体の表面にR2、M及びBを含有する合金粉末を存在させ(ただし、R1及びR2は希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、R1はPr及び/又はNdを必須とし、R2はDy及び/又はTbを必須とする、TはFe、Co、Al、Ga、Cuから選ばれる1種以上を含む元素であり、Feを必須とする、Xはホウ素及び/又は炭素、MはFe、Cu、Al、Co、Mn、Ni、Sn及びSiからなる群から選ばれる1種以上の元素、Bはホウ素)、熱処理してR2を焼結体に吸収拡散させることによりHcJを向上させ、高HcJの希土類焼結磁石を得る際に、拡散源のR2を含む合金に20at%を超え70at%以下のホウ素を添加すると共に、R2及びMの含有量を調節することにより、磁石表面近傍のDyおよびTb濃度の著しい上昇が抑制され、その結果、拡散処理後のBr低下を効果的に抑制できることを知見した。そして、そのような合金を利用した粒界拡散処理では、複数の磁石が接触する場合でも相互の反応が抑えられることで磁石同士の溶着を防ぐことができ、生産性も向上することを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0012】
従って、本発明は、以下の希土類磁石の製造方法を提供するものである。
1. R1
2T14X組成(R1は希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Pr及び/又はNdを必須とする、TはFe、Co、Al、Ga、Cuから選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする、Xはホウ素及び/又は炭素)を主相とするR1-T-X系焼結体を得る焼結体作製工程、
R2、M及びBを含有する合金(R2は希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Dy及び/又はTbを必須とする、MはFe、Cu、Al、Co、Mn、Ni、Sn及びSiからなる群から選ばれる1種以上の元素、Bはホウ素)の粉末を得る粉末調製工程、
前記焼結体の表面に前記合金の粉末を存在させる粉末付与工程、及び
前記合金の粉末及び前記焼結体を、真空又は不活性ガス雰囲気中で前記焼結体の焼結温度以下の温度に加熱、保持する熱処理工程を含み、
前記粉末調製工程で調製される合金が、5~60at%のR2、5~70at%のM、20at%を超え70at%以下のBを含むことを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
2. 前記合金が、主相として、R2MB4相、R2M2B2相、R2M4B4相、R2
3MB7相、R2
5M2B6相の少なくとも1種を含むことを特徴とする1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
3. 前記粉末調製工程が、R2、M及びBを含む原料金属を高周波誘導加熱溶解、プラズマ溶解又はアーク溶解する工程を含むことを特徴とする1または2に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
4. 前記粉末調製工程が、前記合金を、500~1200℃で1~500時間、真空中もしくは不活性ガス雰囲気中で均質化する均質化工程を含むことを特徴とする1~3のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
5. 前記粉末調製工程が、前記合金を不活性ガス雰囲気中で粉砕する粉砕工程を含むことを特徴とする1~4のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
6. 前記粉末調製工程が、前記合金からガスアトマイズ法により、球状粒子として合金粉末を得るガスアトマイズ工程を含むことを特徴とする1~4のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
7. 前記粉末調製工程が、ゾル-ゲル法により金属塩及び/又は金属塩水和物を原料としてR2、M及びBの酸化物粉を作製し、還元剤を用いて還元拡散反応させる工程を含むことを特徴とする1又は2に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
8. 前記粉末調製工程において、前記粉末の平均粒子径を、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積基準メジアン径D50で、1~50μmに調整することを特徴とする1~7のいずれかに記載のR-Fe-X系希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の希土類磁石の製造方法によれば、粒界拡散処理による残留磁束密度の低下を可及的に抑制しつつも保磁力を増大させることができ、高い残留磁束密度(Br)と高い保磁力(HcJ)を両立した希土類焼結磁石を生産性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1において得られた、粉末調製用の合金の均質化処理前の反射電子組成像である。
【
図2】実施例1において得られた、粉末調製用の合金の均質化処理後の反射電子組成像である。
【
図3】実施例2において、磁石表面(本発明磁石4)に形成された、合金粉のBの含有率が40at%の残留層及びB分布を示す二次電子像である。
【
図4】実施例2において、磁石表面(本発明磁石5)に形成された、合金粉のBの含有率が30at%の残留層及びB分布を示す二次電子像である。
【
図5】比較例3において、磁石表面(比較磁石7)に形成された、合金粉のBの含有率が20at%の残留層及びB分布を示す二次電子像である。
【
図6】比較例3において、磁石表面(比較磁石8)に形成された、合金粉のBの含有率が0at%の残留層及びB分布を示す二次電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の希土類焼結磁石の製造方法は、上記のように、R1
2T14X組成を主相とするR1-T-X系焼結体を得る焼結体作製工程、R2、M及びBを含有する合金の粉末を得る粉末調製工程、前記焼結体の表面に前記合金の粉末を付着させる粉末付与工程、
前記合金の粉末及び前記焼結体を加熱、保持する熱処理工程、を含む。
【0016】
上記焼結体作製工程で作成されるR1-T-X系焼結体は、希土類焼結磁石の母材となるもので(以下、「焼結体母材」と称する場合がある)、その組成は、特に制限されるものではないが、12~17at%のR1、4~8at%のX、及び残部Tからなる組成であることが好ましく、不可避不純物を含んでいてもよい。
【0017】
上記R1は、Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Pr及び/又はNdを必須とする。良好な保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を有する焼結磁石を得る観点から、R1の含有率は12~17at%が好ましく、16at%以下であることがより好ましい。
【0018】
上記Xは、ホウ素及び/又は炭素であり、主相の体積率を十分に確保する観点又は異相の比率の増加による磁気特性の低下を抑制する観点から、Xの含有率は4~8at%が好ましく、5.0~6.7at%であることがより好ましい。
【0019】
上記Tは、Fe、Co、Al、Ga、Cuから選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。Tの含有率は焼結体全体組成に対して残部であるが、好ましくは75at%以上、より好ましくは77at%以上で、好ましくは84at%以下、より好ましくは83at%以下である。必要に応じてTの一部をSi、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pb、Biなどの元素で置換してもよいが、磁気特性の低下を避けるために置換量は、焼結体全体に対して10at%以下が好ましい。
【0020】
上記焼結体は、酸素及び窒素の含有を許容することができるが、その含有率はより低い方が好ましく、含有していないことがより好ましい。しかしながら、製造工程上、これらの混入を完全に避けることが出来ない場合、O(酸素)の含有率は1.5at%以下、特に1.2at%以下、N(窒素)の含有率は0.5at%以下、特に0.3at%以下まで許容し得る。
【0021】
これらの元素以外に不可避不純物として、H,F,Mg,P,S,Cl,Caなどの元素の含有を、上述した焼結体構成元素と、不可避不純物との合計に対し、不可避不純物の合計として0.1at%以下まで許容するが、これらの不可避不純物の含有も少ないほうが好ましい。
【0022】
このR1-T-X系焼結体の結晶粒の平均径は、保磁力が低下するなどの悪影響を抑制する観点及び微粉の生産性を良好に保つ観点から、6μm以下が好ましく、5.5μm以下がより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。また、1.5μm以上が好ましく、2μm以上であることがより好ましい。結晶粒の平均径の制御は、例えば後述する微粉砕時の合金微粉末の平均粒径を調整することで可能である。結晶粒の平均径の測定は、例えば次の手順で行うことができる。まず、焼結体の断面を鏡面になるまで研磨した後、例えばビレラ液(例えば、混合比がグリセリン:硝酸:塩酸=3:1:2の混合液)などのエッチング液に浸漬して粒界相を選択的にエッチングした断面を、レーザー顕微鏡にて観察する。次に、得られた観察像をもとに、画像解析にて個々の粒子の断面積を測定し、等価な円としての直径を算出する。そして、各粒度の占める面積分率のデータを基に、平均径を求める。なお、平均径は、例えば、異なる20個所の画像における合計約2,000個の粒子の平均とすればよい。
【0023】
この焼結体作製工程で作成されるR1-T-X系焼結体の残留磁束密度Brは、室温(約23℃)で11kG(1.1T)以上、特に11.5kG(1.15T)以上、とりわけ12kG(1.2T)以上であることが好ましい。一方、このR1-T-X系焼結体の保磁力HcJは、室温(約23℃)で6kOe(478kA/m)以上、特に8kOe(637kA/m)以上、とりわけ10kOe(796kA/m)以上であることが好ましい。
【0024】
このR1-T-X系焼結体(焼結体母材)を作製する焼結体作製工程は、基本的には、通常の粉末冶金法と同様とすればよく、例えば、所定の組成を有する合金微粉を調製する工程(この工程には、原料を溶解して原料合金を得る溶融工程と、原料合金を粉砕する粉砕工程とが含まれる)、合金微粉を磁場印加中で圧粉成形し成形体を得る工程、成形体を焼結し焼結体を得る焼結工程、及び焼結後の冷却工程を含む。
【0025】
この焼結体作製工程における上記溶融工程では、上述したような所定の組成、例えば、12~17at%のR1(R1は、Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Pr及び/又はNdを必須とする)、4~8at%のX(Xはホウ素及び/又は炭素)、及び残部T(TはFe、Co、Al、Ga、Cuから選ばれる1種以上を含む元素であり、Feを必須とする)の組成(通常はO及びNを含まない組成)に合わせて、原料の金属又は合金を秤量し、例えば、真空中又は不活性ガス雰囲気、好ましくはArガスなどの不活性ガス雰囲気で、例えば高周波溶融により原料を溶解し、冷却して、原料合金を製造する。原料合金の鋳造は、平型やブックモールドに鋳込む通常の溶解鋳造法を用いても、ストリップキャスト法を用いてもよい。α-Feの初晶が鋳造合金中に残る場合は、この合金を、例えば、真空中又はArガスなどの不活性ガス雰囲気中で700~1,200℃において1時間以上熱処理して、微細組織を均一化し、α-Fe相を消去することができる。また、本系合金の主相であるR2Fe14X化合物組成に近い合金と焼結助剤となる希土類に富む合金とを別々に作成して粗粉砕後に秤量混合する、いわゆる2合金法も焼結体母材の作製に適用可能である。
【0026】
この焼結体作製工程における上記粉砕工程では、上記合金はまず0.05~3mm程度に粗粉砕される。粗粉砕においては通常ブラウンミルや水素化粉砕などが用いられる。粗粉はさらにジェットミルやボールミルなどにより微粉砕される。例えば高圧窒素を用いたジェットミルの場合、通常は平均粒径が0.5~20μm、更に好ましくは1~10μm程度の微粉末となるようにする。なお、原料合金の粗粉砕又は微粉砕の一方又は双方において、必要に応じて潤滑剤等の添加剤を添加してもよい。
【0027】
上記成形工程においては、微粉砕された合金微粉を、磁界印加中、例えば5kOe(398kA/m)~20kOe(1,592kA/m)の磁界印加中で、合金粉末の磁化容易軸方向を配向させながら、圧縮成形機で圧粉成形する。成形は、合金微粉の酸化を抑制するため、真空中、窒素ガス雰囲気、Arガスなどの不活性ガス雰囲気などで行うことが好ましい。上記焼結工程においては、成形工程で得られた成形体を焼結する。焼結は真空又は不活性ガス雰囲気中、通常900~1250℃、好ましくは1000~1100℃で行われる。更にその後、必要に応じて熱処理を行ってもよい。また、酸化を抑制するために、一連の工程の全て又は一部を酸素低減した雰囲気で行ってもよい。焼結体は、更に必要に応じて所定形状に研削加工してよい。
【0028】
この焼結体作製工程で作製する焼結体は、正方晶R2T14X化合物(R1
2T14X化合物)を主相として好ましくは60~99体積%、より好ましくは80~98体積%含有するものが好ましい。また、焼結体の残部に含まれるものとしては、0.5~20体積%の希土類に富む相、0.1~10体積%の希土類酸化物及び不可避的不純物により生成した希土類炭化物、窒化物、水酸化物のうち少なくとも1種又はこれらの混合物若しくは複合物などが挙げられる。
【0029】
上記粉末調製工程では、R2、M及びBを含有する合金(R2は希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Dy及び/又はTbを必須とする、MはFe、Cu、Al、Co、Mn、Ni、Sn及びSiからなる群から選ばれる1種以上を含む元素、Bはホウ素)の粉末を調製する。
【0030】
R2、M及びBを含有する合金の組成について説明すると、特に限定されるものではないが、5~60at%のR2、5~70at%のM、及び20at%を超え70at%以下のBを含む組成を有することが好ましく、不可避不純物を含んでいてもよい。具体的にはR2MB4、R2M2B2、R2M4B4、R2
3MB7、又はR2
5M2B6を主相とする合金であることが好ましい。
【0031】
R2は、上記のとおり、希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Dy及び/又はTbを必須とする。本発明では、上記合金におけるR2の含有率を5~60at%とするものであり、好ましくは10at%以上で、上限は60at%以下、特に50at%以下であることが好ましい。R2の含有率が5at%未満では、粒界拡散が起こりにくく供給されるR2の量も不十分のため十分な保磁力が得られない。一方、60at%を超えると過剰なR2が磁石内へ拡散し、主相比率の低下とR2を構成するDy及び/又はTbの磁石主相内への体拡散により残留磁束密度が低下する。また、60at%を超えると、拡散熱処理の過程において磁石内部より染み出した低融点の液相成分とR2が反応することで磁石表面に形成する溶融層の量が多くなり、接触する磁石や冶具に溶着しやすくなり生産性が低下する。
【0032】
Mは、上記のとおり、Fe、Cu、Al、Co、Mn、Ni、Sn及びSiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。本発明では、上記合金におけるMの含有率を5~70at%とするものであり、好ましくは8at%以上で、上限は60at%以下、特に50at%以下であることが好ましい。
【0033】
また本発明では、上記合金におけるBの含有率を20at%を超え70at%以下とするものであり、好ましくは30at%以上、より好ましくは35at%以上で、上限は60at%以下であることが好ましい。その理由は次の通りである。拡散熱処理の過程において磁石内部より染み出した低融点の液相成分とBを含有する合金粉が反応した結果、Bを多く含む高融点相(例えばR2Fe4B4相)が磁石の表面に形成される。その際、拡散源のBの含有率が増加すると、磁石表面の残留層中のBを多く含む相の割合が増え、拡散熱処理時に接触する磁石同士や磁石と治具の溶着が防止されて、作業性が改善し、生産性が向上する。拡散源のB含有率が20at%以下ではBを多く含む相の割合が少なくなり溶着が十分に防げない。一方、B含有率が70at%を超えると拡散熱処理の過程においてBの磁石内への拡散量が多くなり、母材磁石組成の最適値からのズレが大きくなり磁気特性が低下する。
【0034】
このR2、M及びBを含有する合金において、これら元素以外の不可避不純物としての元素の含有は、上述した合金の構成元素と不可避不純物との合計に対し、不可避不純物の合計として10質量%以下まで許容するが、これらの不可避不純物の含有も少ないほうが好ましい。
【0035】
上記の合金は高周波誘導加熱溶解、プラズマ溶解、又はアーク溶解により作製することができる。このような方法で作製した合金は、好ましくは500~1200℃で1~500時間、より好ましくは1~100時間、真空中もしくは不活性ガス雰囲気中で均質化することが好ましい。均質化処理を行うことで、粗大で、かつ安定な金属間化合物結晶が形成され、粉砕性が改善する。このため、高効率で不純物濃度の低い合金粉末を作成することができる。また、上記合金の組成では、均質化熱処理を行うことでR2を多く含んだ化合物相やR2とMからの構成される化合物相の体積比率が減少し、R2、M及びBから成る化合物相(R2MB4、R2M2B2、R2M4B4、R2
3MB7、R2
5M2B6)が主相となるため、R2-Fe-Mから成る金属間化合物と比較して、着火、燃焼の危険性が低減でき、粉砕工程、合金の塗布工程の安全性を向上させることができる。
【0036】
上記のようにして得られた合金インゴットを、ボールミル、ジェットミル、スタンプミル、ディスクミル等による公知の粉砕方法により、平均粒径が好ましくは1~50μm、より好ましくは1~20μmに粉砕し合金粉末とする。なお、上記の粉砕方法以外に、例えば水素化粉砕などの手法を用いてもよい。平均粒径は、例えばレーザー回折法などによる粒度分布測定装置等を用いて質量平均値D50(即ち、累積質量が50%になるときの粒子径又はメジアン径)などとして求めることができる。
【0037】
上述した高周波誘導加熱溶解、プラズマ溶解、アーク溶解等で作製した合金インゴットから、ガスアトマイズ法により、球状粒子としてR2、M及びBを有する合金粉末を得ることもできる。
【0038】
また、上記粉末調製工程では、ゾル-ゲル法により金属塩及び/又は金属塩水和物を原料としてR2、M及びBの酸化物粉を作製し、還元剤を用い還元拡散反応させて合金を得る方法を採用することもできる。この方法で得られる合金は、既に上記のR2、M及びBから成る化合物相を主相として含む粉末となっている。
【0039】
次に、上記粉末付与工程で、前記合金の粉末を前記焼結体の表面に存在させる。焼結体母材の表面上に合金粉末を存在させる方法としては、例えば、合金粉末をアルコールなどの有機溶剤や水などに分散させ、このスラリーに焼結体母材を浸漬し、引き上げたのち温風や真空により乾燥させたり、自然乾燥させたりすればよい。塗布量をコントロールするために粘性が付与された溶媒を用いる方法も有効であり、また、スプレーによる塗布等も可能である。
【0040】
続いて、上記熱処理工程では、この合金粉末を付着させた焼結体母材を、表面に合金粉末存在させた状態で、真空又はAr、He等の不活性ガス雰囲気中で焼結温度以下の温度で熱処理する。
【0041】
この場合、合金粉末を付着させた焼結体母材は、上下に積重して熱処理を行うことも可能である。熱処理条件は付着させた合金粉末の構成元素や組成によって異なるが、R2が焼結体内部の粒界部や焼結体主相内の粒界部近傍に濃化する条件が好ましい。また、Bが焼結体内部の粒界部や焼結体主相内へ濃化しない条件が好ましい。具体的には、特に制限されるものではないが、十分な保磁力の増大効果を得る観点及び粒成長による保磁力の低下を抑制する観点からは、例えば、600℃超、特に700℃以上、とりわけ800℃以上で、1100℃以下、特に1050℃以下、とりわけ1000℃以下の温度に加熱してR2元素を焼結体に粒界拡散させる条件を例示することができる。
【0042】
上記熱処理時間は1分~50時間とすることが好ましく、特に30分~30時間とすることがより好ましい。磁石内部より染み出した低融点の液相成分と合金粉末との反応や拡散処理を十分に完了させる観点、また、焼結体の組織が変質したり、不可避な酸化や成分の蒸発が磁気特性に悪い影響を与えたり、R2やM、Bが粒界部や主相粒内の粒界部近傍だけ濃化せずに主相粒の内部まで拡散したりする問題を抑制する観点から、上記の範囲が好ましい。
【0043】
また、上記拡散熱処理後にいわゆる時効処理を行ってもよく、時効処理を行う場合は400℃以上、特に430℃以上で、600℃以下、特に550℃以下の温度で30分以上、特に1時間以上、10時間以下、特に5時間以下の条件で熱処理を行うのが好ましい。熱処理雰囲気は、真空中又はArガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0044】
上記合金粉末を用いた熱処理工程における拡散熱処理の過程では、焼結体母材内部より染み出した低融点の液相成分と焼結体母材表面に塗布された合金粉末が反応し、焼結体母材表面においてM(例えばFe)濃度の高い安定相を形成する。この過程で、余剰の塗布合金構成元素のR2が磁石内部へ拡散することで磁石表面近傍のR2濃度の著しい上昇が抑制された結果、拡散処理後のBr低下を低減できる。そして、このような合金を利用した粒界拡散処理では、複数の磁石が接触する場合でも相互の反応が抑えられることで磁石同士の溶着を防ぐことができると考えられる。なお、溶着の程度については、熱処理後に積重している複数の磁石を手ではがすなどして判断することができる。また、荷重試験機を用いて積重している複数の磁石をせん断方向にスライドさせるようにはがし、その際の荷重を測定することでも判断することができる。この場合、荷重は約10N以下であることが望ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0046】
[実施例1]
Ndメタル、Prメタル、フェロボロン合金、電解Co、Alメタル、Cuメタル、Gaメタル、ジルコニウムメタルおよび電解鉄を用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、原子%でTRE13.1、Co1.0、B6.0、Al0.5、Cu0.1、Zr0.1、Ga0.1、Febal.となるように秤量・配合し、それらの原料を溶解してストリップキャスト法により鋳造し、厚み0.2~0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金を水素加圧雰囲気で水素脆化することで粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸を粗粉砕粉に対して0.1質量%添加・混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が約3μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積基準メジアン径である(以下、同じ)。この微粉砕粉を不活性ガス雰囲気中で成形装置の金型に充填し、15kOe(1.19MA/m)の磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に加圧成形した。この時の成形体密度は3.0~4.0g/cm3であった。得られた成形体を、真空中、1050℃以上で5時間焼結し、焼結体母材を得た。得られた焼結体母材の密度は7.5g/cm3以上、BHトレーサー(東英工業(株)、以下同じ)で測定した残留磁束密度(Br)は1.478T、パルストレーサー(東英工業(株)、以下同じ)で測定した保磁力(HcJ)は878kA/mであった。
【0047】
Tbメタル、フェロボロン合金および電解鉄を用いて原子比でTb
5Fe
2B
6の組成となるように秤量、配合し、それら原料をアーク溶解炉で溶解して合金を得た。次いでインゴットを800℃で50時間、Ar雰囲気中で均質化のため熱処理した。均質化処理前後の反射電子組成像をそれぞれ
図1および
図2に示す。
図1および
図2のとおり、均質化処理を実施することで結晶粒径が10μm以上のTb
5Fe
2B
6相が主に形成していることを確認した。
【0048】
次いで、熱処理後の合金をボールミルで粉砕してD50が約10μmの合金粉末を調製し、当該合金粉末とエタノールを1:1の重量比率で混合してスラリーを得た。
【0049】
20×20×3.2mmに加工した上記焼結体母材を上記スラリーに浸漬し、引き上げたのち温風で乾燥させる操作を複数回繰り返すことで単位面積当たり合金粉末の塗着量が69~192μg/mm2となるよう合金粉末を磁石母材表面に塗着させた。次いでこれらの試料を3枚上下に積重して熱処理炉内に装入し、900℃で20時間、真空雰囲気中で保持した後、300℃まで徐冷した。引き続き同熱処理炉内で500℃まで昇温し、2時間保持後、300℃まで急冷した。
【0050】
得られた磁石の磁気特性をB-Hトレーサー及びパルストレーサーで測定した結果を表1に示す。表1のとおり、拡散前後でほとんどBrの低下がなくHcJを大幅に向上させることができた。また、積み重ねた3枚の磁石間での溶着は全く確認されなかった。
【0051】
【0052】
[比較例1]
Tbメタルおよび電解Coを用いて原子比でTb3Co1の組成となるように秤量、配合し、それら原料をアーク溶解炉で溶解し合金を得た。均質化処理は実施せず、ボールミルで粉砕し、D50が約18μmの合金粉末を作成し、当該合金粉末とエタノールを1:1の重量比率で混合してスラリーを得た。
【0053】
焼結体母材は実施例で作製した試料と同じものを用い、予め20×20×3.2mmに加工した磁石試料を上記スラリーに浸漬し、引き上げたのち温風で乾燥させる操作を複数回繰り返すことで単位面積当たり合金粉末塗着量が106~178μg/mm2となるよう合金粉末を磁石母材表面に塗着させた。次いで、これらの試料を3枚上下に積重して熱処理炉内に装入し、900℃で20時間、真空雰囲気中で保持した後、300℃まで徐冷した。引き続き同熱処理炉内で500℃まで昇温し、2時間保持後、300℃まで急冷した。
【0054】
得られた磁石の磁気特性をBHトレーサー及びパルストレーサーで測定した結果を表2に示す。表2のとおり、HcJの高い増大効果は認められるもののBrは0.014~0.032T低下し、かつ磁石間での溶着が認められた。
【0055】
【0056】
[比較例2]
Ndメタル、Prメタル、フェロボロン合金、電解Co、Alメタル、Cuメタル、Zrメタルおよび電解鉄を用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、原子%でTRE14.8、Co1.0、B6.0、Al0.5、Cu0.1、Zr0.1、Febal.となるように秤量・配合し、それらの原料を溶解してストリップキャスト法により鋳造し、厚み0.2~0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金を水素加圧雰囲気で水素脆化することで粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸を粗粉砕粉に対して0.1質量%添加・混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が約3.5μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。この微粉砕粉を不活性ガス雰囲気中で成形装置の金型に充填し、15kOe(1.19MA/m)の磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に加圧成形した。この時の成形体密度は3.0~4.0g/cm3であった。得られた成形体を、真空中、1050℃以上で5時間焼結し、焼結体母材を得た。得られた焼結体母材の密度は7.5g/cm3以上、残留磁束密度(Br)は1.409T、保磁力(HcJ)は973kA/mであった。
【0057】
TbメタルおよびCuメタルを用い、原子%でTb70、Cu30の配合比となるように秤量、配合し、それら原料を高周波加熱で溶解し、回転するCuロール上に溶湯を落として急冷し、合金薄帯を得た。この合金薄には均質化処理は実施せず、ボールミルで粉砕してD50が約48μmの合金粉末を調製し、当該合金粉とエタノールを1:1の重量比率で混合してスラリーを得た。
【0058】
上記焼結体母材を20×20×3.2mmに加工して磁石試料とし、これを上記スラリーに浸漬し、引き上げたのち温風で乾燥させる操作を複数回繰り返すことで単位面積当たり合金粉末塗着量が78~133μg/mm2となるように合金粉末を磁石母材表面に塗着させた。次いで、これらの試料を3枚上下に積重して熱処理炉内に装入し、875℃で10時間、真空雰囲気中で保持した後、300℃まで徐冷した。引き続き同熱処理炉内で500℃まで昇温し、2時間保持後、300℃まで急冷した。
【0059】
得られた磁石の磁気特性をB-Hトレーサー及びパルストレーサーで測定した結果を表3に示す。表3のとおり、HcJの高い増大効果は認められるものの、Brは0.015~0.024T低下した。また、磁石間での溶着も認められた。
【0060】
【0061】
[実施例2、比較例3]
Tbメタル、及びFeB原料を用いて原子比でTb20Fe40B40(実施例)、Tb30Fe40B30(実施例)、Tb20Fe55B25(実施例)、Tb20Fe58B22(実施例)、Tb20Fe60B20(比較例)、Tb20Fe80(比較例)の組成となるように秤量、配合し、それら原料をアーク溶解炉で溶解し合金を得た。均質化処理は実施せず、ボールミルで粉砕し、D50が約10μmの合金粉末を作成し、当該合金粉末とエタノールを1:1の重量比率で混合してスラリーを得た。実施例1と同じ焼結体母材を用い、予め20×20×3.2mmに加工した磁石試料をスラリーに浸漬し、引き上げたのち温風で乾燥させる操作を複数回繰り返すことで単位面積当たり合金粉末塗着量が199~290μg/mm2となるように合金粉末を磁石母材表面に塗着させた。次いで、これらの試料を2枚上下に積重して熱処理炉内に装入し、900℃で20時間、真空雰囲気中で保持した後、300℃まで徐冷した。引き続き同熱処理炉内で500℃まで昇温し、2時間保持後、300℃まで急冷した。
【0062】
荷重試験機を用いて2枚をせん断方向にスライドさせるようにして拡散熱処理後の積重した2枚の磁石をはがした。表4に積重した磁石をはがすのにかかった荷重を示す。手作業で磁石を剥離して回収するには、必要な荷重は約10N以下であることが望ましく、本発明品の荷重の大きさはこれより十分に小さい。
【0063】
得られた磁石の拡散熱処理後の磁石表面には、磁石内部より染み出した低融点の液相成分と、付着した合金粉が反応した結果、残留物が付着している。磁石表面に形成された、合金粉のBの含有率が40at%(本発明磁石4)、30at%(本発明磁石5)、20at%(比較磁石7)、0at%(比較磁石8)の残留層の二次電子像、及びB分布をそれぞれ
図3~
図6に示す。
図3~
図6の通り、Bの含有率が増加するにつれて、残留層中のR
2Fe
4B
4相の割合が増加する。表4に残留層中に含まれるR
2Fe
4B
4相の面積分率を示す。残留層中のR
2Fe
4B
4相の増加により、溶着の程度が小さくなり、拡散熱処理後の磁石回収の作業性に改善が見られた。実用的には、剥離に要する荷重を約10N以下にすることが望ましく、Bを多く含む相が残留物中の約40体積%以上を占めることが好ましい。
【0064】