(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】アロラクトースの製造法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/18 20060101AFI20240806BHJP
C12N 9/38 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/56 20060101ALI20240806BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C12P19/18 ZNA
C12N9/38
C12N15/56
C12N1/21
(21)【出願番号】P 2021512071
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014313
(87)【国際公開番号】W WO2020203885
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019068796
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢萩 大貴
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-259449(JP,A)
【文献】HUBER, R. E. et al.,Efflux of beta-galactosidase products from Escherichia coli,J. Bacteriol.,1980年,Vol. 141(2),pp. 528-33
【文献】URRUTIA, P. et al.,Detailed analysis of galactooligosaccharides synthesis with β-galactosidase from Aspergillus oryzae,J. Agric. Food Chem.,2013年,Vol. 61(5),pp. 1081-7
【文献】JUERS, D. H. et al.,Structural basis for the altered activity of Gly794 variants of Escherichia coli beta-galactosidase,Biochemistry,2003年,Vol. 42(46),pp. 13505-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-19/64
C12N 1/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アロラクトースの製造方法であって、下記工程(A):
(A)アロラクトースの加水分解を阻害する物質Xの存在下でβ-ガラクトシダーゼを有する微生物の菌体とラクトースを接触させる工程
を含み、
前記菌体が、膜の透過性を高める処理が実施されていない菌体であり、
前記工程(A)におけるラクトースと物質Xの総濃度が、1Eq/L以上であり、
前記物質Xが、グルコースおよび/またはガラクトースであり、
前記工程(A)におけるラクトースの濃度が、120g/L以上であり、且つ、前記工程(A)における前記物質Xの濃度が、120g/L以上である、方法。
【請求項2】
遺伝子発現誘導剤の製造方法であって、下記工程(A):
(A)アロラクトースの加水分解を阻害する物質Xの存在下でβ-ガラクトシダーゼを有する微生物の菌体とラクトースを接触させる工程
を含み、
前記菌体が、膜の透過性を高める処理が実施されていない菌体であり、
前記工程(A)におけるラクトースと物質Xの総濃度が、1Eq/L以上であり、
前記物質Xが、グルコースおよび/またはガラクトースであり、
前記工程(A)におけるラクトースの濃度が、120g/L以上であり、且つ、前記工程(A)における前記物質Xの濃度が、120g/L以上であり、
前記遺伝子発現誘導剤が、アロラクトースを含む、方法。
【請求項3】
前記工程(A)が、30℃以下で実施される、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(A)が、10~30℃で実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記菌体が、乾燥処理、凍結融解処理、界面活性剤処理、および有機溶媒処理のいずれも実施されていない菌体である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記微生物が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記微生物が、非改変株と比較してβ-ガラクトシダーゼの活性が増大するように改変された微生物である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記β-ガラクトシダーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法:
(a)配列番号16に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号16に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、アロラクトース生成活性およびアロラクトース加水分解活性を有するタンパク質;
(c)配列番号16に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、アロラクトース生成活性およびアロラクトース加水分解活性を有するタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アロラクトースの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
lacオペロンの発現(すなわちlacプロモーターからの遺伝子発現)は、ラクトースの存在下で誘導される。lacプロモーターの真の発現誘導剤は、ラクトースの異性体であるアロラクトースである。アロラクトースは、例えば、β-ガラクトシダーゼ(BGL)の触媒作用によりラクトースから生成する。BGLとしては、lacオペロンのlacZ遺伝子にコードされるLacZタンパク質が挙げられる。
【0003】
微生物のBGLを精製酵素または菌体酵素として利用して、高濃度ラクトースからアロラクトースを含有するガラクトオリゴ糖混合物を調製したことが報告されている(非特許文献1~4)。
【0004】
生命工学の分野においては、ラクトースのアナログであるイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)がlacプロモーターの誘導剤として汎用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Claudia VY et al., Galactooligosaccharide Production from Pantoea anthophila Strains Isolated from "Tejuino", a Mexican Traditional Fermented Beverage. Catalysts 2017, 7(8), 242.
【文献】Arreola SL et al., Two β-galactosidases from the human isolate Bifidobacterium breve DSM 20213: molecular cloning and expression, biochemical characterization and synthesis of galacto-oligosaccharides. PLoS One. 2014 Aug 4;9(8):e104056.
【文献】Urrutia P et al., Detailed analysis of galactooligosaccharides synthesis with β-galactosidase from Aspergillus oryzae. J Agric Food Chem. 2013 Feb 6;61(5):1081-7.
【文献】Rodriguez-Colinas B et al., Production of Galacto-oligosaccharides by the β-Galactosidase from Kluyveromyces lactis: comparative analysis of permeabilized cells versus soluble enzyme. J Agric Food Chem. 2011 Oct 12;59(19):10477-84.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アロラクトースの製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、β-ガラクトシダーゼ(BGL)を有するEscherichia coli菌体を高濃度のグルコースの存在下で高濃度のラクトースに作用させることにより効率的にアロラクトースを製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
アロラクトースの製造方法であって、下記工程(A):
(A)アロラクトースの加水分解を阻害する物質Xの存在下でβ-ガラクトシダーゼを有する微生物の菌体とラクトースを接触させる工程
を含み、
前記菌体が、膜の透過性を高める処理が実施されていない菌体であり、
前記工程(A)におけるラクトースと物質Xの総濃度が、1Eq/L以上である、方法。
[2]
遺伝子発現誘導剤の製造方法であって、下記工程(A):
(A)アロラクトースの加水分解を阻害する物質Xの存在下でβ-ガラクトシダーゼを有する微生物の菌体とラクトースを接触させる工程
を含み、
前記菌体が、膜の透過性を高める処理が実施されていない菌体であり、
前記工程(A)におけるラクトースと物質Xの総濃度が、1Eq/L以上である、方法。
[3]
前記物質Xが、グルコースおよび/またはガラクトースである、前記方法。
[4]
前記物質Xが、グルコースである、前記方法。
[5]
前記工程(A)におけるラクトースの濃度が、120g/L以上である、前記方法。
[6]
前記工程(A)における前記物質Xの濃度が、120g/L以上である、前記方法。
[7]
前記工程(A)が、30℃以下で実施される、前記方法。
[8]
前記菌体が、乾燥処理、凍結融解処理、界面活性剤処理、および有機溶媒処理のいずれも実施されていない菌体である、前記方法。
[9]
前記微生物が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、前記方法。
[10]
前記微生物が、非改変株と比較してβ-ガラクトシダーゼの活性が増大するように改変された微生物である、前記方法。
[11]
前記β-ガラクトシダーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記方法:
(a)配列番号16に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号16に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、アロラクトース生成活性およびアロラクトース加水分解活性を有するタンパク質;
(c)配列番号16に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、アロラクトース生成活性およびアロラクトース加水分解活性を有するタンパク質。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】LacZ精製酵素を利用した2%ラクトースからのアロラクトース生産結果を示す図。
【
図2】LacZ精製酵素を利用した20%ラクトースからのアロラクトース生産結果を示す図。
【
図3】LacZ精製酵素を利用した10%グルコース存在下での20%ラクトースからのアロラクトース生産結果を示す図。
【
図4】LacZ精製酵素を利用した20%グルコース存在下での20%ラクトースからのアロラクトース生産結果を示す図。
【
図5】LacZを有するEscherichia coli生菌体を利用した各種糖液からのアロラクトース生産結果を示す図。
【
図6】LacZを有するEscherichia coli生菌体を利用した20%グルコース存在下での20%ラクトースからのアロラクトース生産における温度の影響を示す図。
【
図7】調製したアロラクトースによるlacプロモーターからのDasherGFPの誘導発現の結果を示す図(写真)。
【
図8】調製したアロラクトースによるlacプロモーターからのT7-polymeraseの誘導発現を介したGH1-2タンパク質の誘導発現の結果を示す図(写真)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の方法は、アロラクトースの加水分解を阻害する物質の存在下でβ-ガラクトシダーゼ(BGL)を有する微生物の菌体とラクトースを接触させる工程を含む、アロラクトースの製造方法である。同工程を、「変換工程」または「変換反応」ともいう。同微生物を、「本発明の微生物」ともいう。同菌体を、「本発明の菌体」ともいう。アロラクトースの加水分解を阻害する物質を、「物質X」ともいう。
【0012】
変換工程により、アロラクトースが生成する。すなわち、変換工程は、物質Xの存在下で本発明の菌体とラクトースを接触させることによりアロラクトースを生成する工程であってよい。変換工程により、具体的には、ラクトースからアロラクトースが生成する。すなわち、変換工程は、具体的には、物質Xの存在下で本発明の菌体とラクトースを接触させることによりラクトースからアロラクトースを生成する工程であってよい。
【0013】
<1>本発明の微生物および本発明の菌体
<1-1>本発明の微生物
本発明の微生物は、β-ガラクトシダーゼ(BGL)を有する微生物である。「微生物がBGLを有する」とは、具体的には、微生物がその菌体内にBGLを有することを意味する。言い換えると、本発明の菌体はBGLを有する。本発明の微生物は(すなわち本発明の微生物の菌体は)、1種のBGLを有していてもよく、2種またはそれ以上のBGLを有していてもよい。
【0014】
BGLは、BGLをコードする遺伝子から発現する。BGLをコードする遺伝子を「β-ガラクトシダーゼ遺伝子(BGL遺伝子)」ともいう。よって、本発明の微生物は、BGL遺伝子を有する。本発明の微生物は、具体的には、BGL遺伝子を発現可能に有する。本発明の微生物は、本来的にBGL遺伝子を有するものであってもよく、なくてもよい。本発明の微生物は、例えば、本来的にはBGL遺伝子を有さないが、BGL遺伝子を有するように改変されたものであってもよい。BGL遺伝子を有するように改変された微生物は、BGL遺伝子を有さない微生物にBGL遺伝子を導入することにより取得できる。遺伝子を導入する手法については後述する。本発明の微生物は、1種のBGL遺伝子を有していてもよく、2種またはそれ以上のBGL遺伝子を有していてもよい。本発明の微生物は、1コピーのBGL遺伝子を有していてもよく、2コピーまたはそれ以上のBGL遺伝子を有していてもよい。
【0015】
本発明の微生物は、BGLの活性が増大するように改変されていてよい。本発明の微生物は、具体的には、非改変株と比較してBGLの活性が増大するように改変されていてよい。例えば、本来的にBGL遺伝子を有さない微生物をBGLの活性が増大するように改変してもよい。すなわち、本来的にBGL遺伝子を有さない微生物にBGL遺伝子を導入することにより、同微生物のBGL活性を増大させる(同宿主にBGL活性を付与する)ことができる。また、例えば、本来的にBGL遺伝子を有する微生物をBGLの活性が増大するように改変してもよい。「BGLの活性が増大する」とは、少なくともアロラクトース生成活性が増大することを意味してよい。「BGLの活性が増大する」とは、典型的には、アロラクトース生成活性とアロラクトース加水分解活性の両方が増大することを意味してよい。タンパク質(酵素等)の活性を増大させる手法については後述する。
【0016】
本発明の微生物としては、下記のような微生物を、そのまま、あるいは適宜改変(例えば、BGL遺伝子の導入やBGL活性の増強)して用いることができる。すなわち、本発明の微生物は、下記のような微生物に由来する改変株であってよい。なお、本発明の微生物またはそれを構築するための親株を、「宿主」ともいう。
【0017】
本発明の微生物またはそれを構築するための親株として用いられる微生物は、特に制限されない。微生物としては、細菌や酵母が挙げられる。
【0018】
細菌としては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌やコリネ型細菌が挙げられる。
【0019】
腸内細菌科に属する細菌としては、エシェリヒア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、パントエア(Pantoea)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、エルビニア(Erwinia)属、フォトラブダス(Photorhabdus)属、プロビデンシア(Providencia)属、サルモネラ(Salmonella)属、モルガネラ(Morganella)等の属に属する細菌が挙げられる。具体的には、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)で用いられている分類法により腸内細菌科に分類されている細菌を用いることができる。
【0020】
エシェリヒア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア属に分類されている細菌が挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、Neidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に記載されたものが挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。エシェリヒア・コリとして、具体的には、例えば、W3110株(ATCC 27325)やMG1655株(ATCC 47076)等のエシェリヒア・コリK-12株;エシェリヒア・コリK5株(ATCC 23506);BL21(DE3)株等のエシェリヒア・コリB株;およびそれらの派生株が挙げられる。
【0021】
エンテロバクター属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエンテロバクター属に分類されている細菌が挙げられる。エンテロバクター属細菌としては、例えば、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)やエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)が挙げられる。エンテロバクター・アグロメランスとして、具体的には、例えば、エンテロバクター・アグロメランスATCC12287株が挙げられる。エンテロバクター・アエロゲネスとして、具体的には、例えば、エンテロバクター・アエロゲネスATCC13048株、NBRC12010株(Biotechonol Bioeng. 2007 Mar 27; 98(2) 340-348)、AJ110637株(FERM BP-10955)が挙げられる。また、エンテロバクター属細菌としては、例えば、欧州特許出願公開EP0952221号明細書に記載されたものが挙げられる。なお、Enterobacter agglomeransには、Pantoea agglomeransと分類されているものも存在する。
【0022】
パントエア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりパントエア属に分類されている細菌が挙げられる。パントエア属細菌としては、例えば、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、パントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)が挙げられる。パントエア・アナナティスとして、具体的には、例えば、パントエア・アナナティスLMG20103株、AJ13355株(FERM BP-6614)、AJ13356株(FERM BP-6615)、AJ13601株(FERM BP-7207)、SC17株(FERM BP-11091)、SC17(0)株(VKPM B-9246)、及びSC17sucA株(FERM BP-8646)が挙げられる。なお、エンテロバクター属細菌やエルビニア属細菌には、パントエア属に再分類されたものもある(Int. J. Syst. Bacteriol., 39, 337-345 (1989); Int. J. Syst. Bacteriol., 43, 162-173 (1993))。例えば、エンテロバクター・アグロメランスのある種のものは、最近、16S rRNAの塩基配列分析等に基づき、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、パントエア・ステワルティイ等に再分類された(Int. J. Syst. Bacteriol., 39, 337-345 (1989))。パントエア属細菌には、このようにパントエア属に再分類された細菌も包含されてよい。
【0023】
エルビニア属細菌としては、エルビニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、エルビニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)が挙げられる。クレブシエラ属細菌としては、クレブシエラ・プランティコーラ(Klebsiella planticola)が挙げられる。
【0024】
コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、およびミクロバクテリウム(Microbacterium)属等の属に属する細菌が挙げられる。
【0025】
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような種が挙げられる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)
コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)
コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)
コリネバクテリウム・クレナタム(Corynebacterium crenatum)
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)
コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)
コリネバクテリウム・メラセコーラ(Corynebacterium melassecola)
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(コリネバクテリウム・エフィシエンス)(Corynebacterium thermoaminogenes (Corynebacterium efficiens))
コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium flavum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・イマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・スタティオニス)(Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis))
ブレビバクテリウム・アルバム(Brevibacterium album)
ブレビバクテリウム・セリナム(Brevibacterium cerinum)
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)
【0026】
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような菌株が挙げられる。
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC 13870
Corynebacterium acetoglutamicum ATCC 15806
Corynebacterium alkanolyticum ATCC 21511
Corynebacterium callunae ATCC 15991
Corynebacterium crenatum AS1.542
Corynebacterium glutamicum ATCC 13020, ATCC 13032, ATCC 13060, ATCC 13869, FERM BP-734
Corynebacterium lilium ATCC 15990
Corynebacterium melassecola ATCC 17965
Corynebacterium efficiens (Corynebacterium thermoaminogenes) AJ12340 (FERM BP-1539)
Corynebacterium herculis ATCC 13868
Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 14020
Brevibacterium flavum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13826, ATCC 14067, AJ12418(FERM BP-2205)
Brevibacterium immariophilum ATCC 14068
Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13869
Brevibacterium roseum ATCC 13825
Brevibacterium saccharolyticum ATCC 14066
Brevibacterium thiogenitalis ATCC 19240
Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis) ATCC 6871, ATCC 6872
Brevibacterium album ATCC 15111
Brevibacterium cerinum ATCC 15112
Microbacterium ammoniaphilum ATCC 15354
【0027】
なお、コリネバクテリウム属細菌には、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが、現在コリネバクテリウム属に統合された細菌(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1991))も含まれる。また、コリネバクテリウム・スタティオニスには、従来コリネバクテリウム・アンモニアゲネスに分類されていたが、16S rRNAの塩基配列解析等によりコリネバクテリウム・スタティオニスに再分類された細菌も含まれる(Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 60, 874-879(2010))。
【0028】
酵母は出芽酵母であってもよく、分裂酵母であってもよい。酵母は、一倍体の酵母であってもよく、二倍体またはそれ以上の倍数性の酵母であってもよい。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属、ピチア・シフェリイ(Pichia ciferrii)、ピチア・シドウィオラム(Pichia sydowiorum)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)等のピヒア属(ウィッカーハモマイセス(Wickerhamomyces)属ともいう)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)等のキャンディダ属、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等のハンゼヌラ属、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属に属する酵母が挙げられる。
【0029】
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
【0030】
<1-2>β-ガラクトシダーゼ(BGL)
「β-ガラクトシダーゼ(beta-galactosidase;BGL)」とは、ラクトースを異性化してアロラクトースを生成する反応を触媒する活性およびアロラクトースを加水分解してグルコースとガラクトースを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう。前者の活性を「アロラクトース生成活性」ともいう。後者の活性を「アロラクトース加水分解活性」ともいう。BGLは、さらに、ラクトースを加水分解してグルコースとガラクトースを生成する反応を触媒する活性を有していてもよい。同活性を「ラクトース加水分解活性」ともいう。BGLをコードする遺伝子を「β-ガラクトシダーゼ遺伝子(BGL遺伝子)」ともいう。BGLとしては、lacZ遺伝子にコードされるLacZタンパク質が挙げられる。LacZタンパク質等のBGLとして、具体的には、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌(例えば、E. coli等のEscherichia属細菌)やコリネ型細菌(例えば、C. glutamicum等のCorynebacterium属細菌)のものが挙げられる。E. coli K-12 MG1655株のlacZ遺伝子の塩基配列を配列番号15に、同遺伝子がコードするLacZタンパク質のアミノ酸配列を配列番号16に示す。
【0031】
すなわち、BGL遺伝子は、例えば、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列を有する遺伝子であってよい。また、BGLは、例えば、上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。なお、「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、特記しない限り、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」ことを意味し、当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合も包含する。
【0032】
BGL遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したBGL遺伝子(例えば、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列を有する遺伝子)のバリアントであってもよい。同様に、BGLは、元の機能が維持されている限り、上記例示したBGL(例えば、上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列を有するタンパク質)のバリアントであってもよい。なお、そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。また、上記遺伝子名で特定される遺伝子および上記タンパク質名で特定されるタンパク質には、それぞれ、上記例示した遺伝子およびタンパク質に限られず、それらの保存的バリアントも包含されてよい。すなわち、例えば、「lacZ遺伝子」という用語は、上記例示したlacZ遺伝子(例えば、配列番号15に示す塩基配列を有する遺伝子)に加えて、それらの保存的バリアントを包含してよい。同様に、例えば、「LacZタンパク質」という用語は、上記例示したLacZタンパク質(例えば、配列番号16に示すアミノ酸配列を有するタンパク質)に加えて、それらの保存的バリアントを包含してよい。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示した遺伝子やタンパク質のホモログや人為的な改変体が挙げられる。
【0033】
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(例えば、活性や性質)に対応する機能(例えば、活性や性質)を有することを意味する。すなわち、BGL遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントがBGLをコードすることを意味する。また、BGLについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがアロラクトース生成活性およびアロラクトース加水分解活性を有することを意味する。
【0034】
アロラクトース生成活性は、例えば、酵素を基質(すなわち、ラクトース)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(すなわち、アロラクトース)の生成を測定することにより、測定できる。
【0035】
アロラクトース加水分解活性は、例えば、酵素を基質(すなわち、アロラクトース)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(すなわち、グルコースまたはガラクトース)の生成を測定することにより、測定できる。
【0036】
ラクトース加水分解活性は、例えば、酵素を基質(すなわち、ラクトース)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(すなわち、グルコースまたはガラクトース)の生成を測定することにより、測定できる。
【0037】
以下、保存的バリアントについて例示する。
【0038】
BGL遺伝子のホモログまたはBGLのホモログは、例えば、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列または上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、BGL遺伝子のホモログは、例えば、コリネ型細菌等の生物の染色体を鋳型にして、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
【0039】
BGL遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものであってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお、上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、または1~3個であってよい。
【0040】
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/または付加は、タンパク質の元の機能が維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0041】
また、BGL遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列全体に対して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0042】
また、BGL遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列から調製され得るプローブ、例えば上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、例えばDNA、であってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味してよい。一例を示せば、同一性が高いDNA同士、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の同一性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件を挙げることができる。
【0043】
上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上述の遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0044】
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、BGL遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。すなわち、BGL遺伝子は、遺伝コードの縮重による上記例示したBGL遺伝子のバリアントであってもよい。例えば、BGL遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
【0045】
なお、アミノ酸配列間の「同一性」とは、blastpによりデフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11, Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味する。また、塩基配列間の「同一性」とは、blastnによりデフォルト設定のScoring Parameters(Match/Mismatch Scores=1,-2;Gap Costs=Linear)を用いて算出される塩基配列間の同一性を意味する。
【0046】
なお、上記の遺伝子やタンパク質の保存的バリアントに関する記載は、BGL遺伝子およびBGL以外の任意の遺伝子およびタンパク質にも準用できる。
【0047】
<1-3>タンパク質の活性を増大させる手法
以下に、タンパク質の活性を増大させる手法について説明する。
【0048】
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して増大することを意味してよい。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株に対して増大していることを意味してよい。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味してよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、各微生物種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、微生物の説明において例示した菌株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわち本発明の微生物が属する種の基準株)と比較して増大してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13869株と比較して増大してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13032株と比較して増大してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、E. coli K-12 MG1655株と比較して増大してもよい。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。また、「タンパク質の活性が増大する」ことには、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することも包含される。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、好適な標的のタンパク質の活性を付与してもよい。
【0049】
タンパク質の活性の増大の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して増大していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、非改変株が標的のタンパク質の活性を有していない場合は、同タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより同タンパク質が生成されていればよいが、例えば、同タンパク質はその活性が測定できる程度に生産されていてよい。
【0050】
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成できる。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味してよい。「遺伝子の発現が上昇する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して増大することを意味してよい。「遺伝子の発現が上昇する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」ことには、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることも包含される。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを意味してもよい。
【0051】
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
【0052】
遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、本発明の実施に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。
【0053】
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
【0054】
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであってよい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有していてよい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。エシェリヒア・コリ等の腸内細菌科の細菌において自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社より入手可)、pACYC184、pMW219(ニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233‐2(クロンテック社)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、pCold TF DNA(TaKaRa)、pACYC系ベクター、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pHM1519(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));pAM330(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));これらを改良した薬剤耐性遺伝子を有するプラスミド;pCRY30(特開平3-210184);pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE、およびpCRY3KX(特開平2-72876、米国特許5,185,262号);pCRY2およびpCRY3(特開平1-191686);pAJ655、pAJ611、およびpAJ1844(特開昭58-192900);pCG1(特開昭57-134500);pCG2(特開昭58-35197);pCG4およびpCG11(特開昭57-183799);pPK4(米国特許6,090,597号);pVK4(特開平No. 9-322774);pVK7(特開平10-215883);pVK9(WO2007/046389);pVS7(WO2013/069634);pVC7(特開平9-070291)が挙げられる。また、コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pVC7のバリアントであるpVC7H2も挙げられる。
【0055】
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、宿主により発現可能であればよい。具体的には、遺伝子は、宿主で機能するプロモーターによる制御を受けて発現するように保持されていればよい。「宿主において機能するプロモーター」とは、宿主においてプロモーター活性を有するプロモーターを意味してよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、本明細書に記載するようなより強力なプロモーターを利用してもよい。
【0056】
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、宿主において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。ターミネーターとして、具体的には、例えば、T7ターミネーター、T4ターミネーター、fdファージターミネーター、tetターミネーター、およびtrpAターミネーターが挙げられる。
【0057】
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
【0058】
また、2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に宿主に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2またはそれ以上の遺伝子を導入する」場合、例えば、2またはそれ以上のタンパク質(例えば、酵素)をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一のタンパク質複合体(例えば、酵素複合体)を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、またはそれらの組み合わせを導入してよい。
【0059】
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、遺伝子を改変することにより、そのバリアントを取得することができる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。すなわち、例えば、部位特異的変異法により、コードされるタンパク質が特定の部位においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer, W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。あるいは、遺伝子のバリアントを全合成してもよい。
【0060】
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、それらのサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、遺伝子の発現を上昇させることによりタンパク質の活性を増大させる場合、それらのサブユニットをそれぞれコードする遺伝子の全ての発現を増強してもよく、一部の発現のみを増強してもよい。通常は、それらのサブユニットをコードする遺伝子の全ての発現を増強するのが好ましい。また、複合体を構成する各サブユニットは、複合体が標的のタンパク質の機能を有する限り、1種の生物由来であってもよく、2種またはそれ以上の異なる生物由来であってもよい。すなわち、例えば、複数のサブユニットをコードする、同一の生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよく、それぞれ異なる生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよい。
【0061】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、遺伝子の発現に影響する部位の総称であってよい。発現調節配列としては、例えば、プロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域が挙げられる。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節配列の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)により行うことができる。
【0062】
遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味してよい。より強力なプロモーターとしては、例えば、公知の高発現プロモーターであるT7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、thrプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプロモーター、msrAプロモーター、Bifidobacterium由来のPm1プロモーター、PRプロモーター、およびPLプロモーターが挙げられる。また、コリネ型細菌で利用できるより強力なプロモーターとしては、例えば、人為的に設計変更されたP54-6プロモーター(Appl. Microbiol. Biotechnol., 53, 674-679(2000))、コリネ型細菌内で酢酸、エタノール、ピルビン酸等で誘導できるpta、aceA、aceB、adh、amyEプロモーター、コリネ型細菌内で発現量が多い強力なプロモーターであるcspB、SOD、tuf(EF-Tu)プロモーター(Journal of Biotechnology 104 (2003) 311-323, Appl Environ Microbiol. 2005 Dec;71(12):8587-96.)、P2プロモーター(WO2018/079684)、P3プロモーター(WO2018/079684)、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、F1プロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
【0063】
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味してよい。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene, 1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5'-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
【0064】
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。例えば、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
【0065】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
【0066】
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0067】
また、タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、タンパク質の比活性を増強することによっても達成できる。比活性の増強には、フィードバック阻害の脱感作(desensitization to feedback inhibition)も包含されてよい。比活性が増強されたタンパク質は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来のタンパク質に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。導入される変異は、例えば、タンパク質の1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されるものであってよい。変異の導入は、例えば、上述したような部位特異的変異法により行うことができる。また、変異の導入は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、in vitroでDNAを直接ヒドロキシルアミンで処理し、ランダム変異を誘発してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
【0068】
形質転換の方法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。例えば、エシェリヒア・コリ K-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A., J. Mol. Biol. 1970, 53, 159-162)や、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E., 1977. Gene 1: 153-167)を用いることができる。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類、及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Choen, S. N., 1979. Mol. Gen. Genet. 168: 111-115; Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A. 1978. Nature 274: 398-400; Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. 1978. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 1929-1933)も応用できる。あるいは、コリネ型細菌について報告されているような、電気パルス法(特開平2-207791)を利用することもできる。
【0069】
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
【0070】
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
【0071】
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、マイクロアレイ、RNA-seq等が挙げられる(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
【0072】
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。タンパク質の量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
【0073】
上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、任意のタンパク質の活性増強や任意の遺伝子の発現増強に利用できる。
【0074】
<1-4>本発明の菌体の製造
本発明の菌体は、本発明の微生物を培地で培養することにより製造することができる。
【0075】
培養条件は、本発明の微生物が増殖でき、且つ、機能するBGLが発現する限り、特に制限されない。培養条件は、微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
【0076】
培地としては、例えば、エシェリヒア・コリ等の細菌の培養に用いられる通常の培地を、そのまま、あるいは適宜改変して、用いることができる。培地としては、例えば、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有する液体培地を用いることができる。培地成分の種類や濃度は、当業者が適宜設定してよい。
【0077】
炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸類、グリセロール、粗グリセロール、エタノール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
また、生育にアミノ酸等の栄養素を要求する栄養要求性株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。また、抗生物質耐性遺伝子を搭載するベクターを用いて遺伝子を導入した際は、培地に対応する抗生物質を添加するのが好ましい。
【0083】
培養は、例えば、通気培養または振盪培養により、好気的に行うことができる。酸素濃度は、例えば、飽和溶存酸素濃度の5~50%、好ましくは飽和溶存酸素濃度の20~40%となるように制御されてよい。培養温度は、例えば、20~45℃、25~40℃、または30~37℃であってよい。培養中のpHは、例えば、5~9であってよい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、例えば、炭酸カルシウム、アンモニアガス、アンモニア水等、を使用することができる。培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。また、培養は、前培養と本培養とに分けて行われてもよい。その場合、種培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。前培養は、例えば、平板培地や液体培地を用いて行ってよい。培養は、例えば、本発明の微生物が所望の程度に増殖するまで実施することができる。培養期間は、例えば、10時間~120時間であってよい。培養は、例えば、培地中の炭素源が消費されるまで、あるいは本発明の微生物の活性がなくなるまで、継続してもよい。
【0084】
培養の際には、必要に応じて、BGL遺伝子の発現誘導を行ってよい。発現誘導の条件は、プロモーターの種類等の諸条件に応じて適宜選択することができる。
【0085】
上記のようにして本発明の微生物を培養することにより、BGLを有する菌体(本発明の菌体)が生成し、以て同菌体を含有する培養液が得られる。
【0086】
菌体は、培養液(具体的には培地)に含まれたまま変換反応に用いてもよく、培養液(具体的には培地)から回収して変換反応に用いてもよい。菌体を培養液から回収する手法は特に制限されず、例えば、公知の手法を利用できる。そのような手法としては、例えば、自然沈降、遠心分離、濾過が挙げられる。また、凝集剤(flocculant)を利用してもよい。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて利用してよい。回収した菌体は、適当な媒体を用いて適宜洗浄してよい。また、回収した菌体は、適当な媒体を用いて適宜再懸濁してよい。洗浄や懸濁に利用できる媒体としては、例えば、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。すなわち、菌体は、例えば、所望の程度に単離された形態で変換反応に用いてもよく、培養液や再懸濁液等の素材に含有された形態で変換反応に用いてもよい。すなわち、本発明の菌体としては、培養液から回収した菌体や、培養液や再懸濁液等の菌体を含有する素材が挙げられる。言い換えると、本発明の菌体としては、培養液から回収した菌体や、培養液や再懸濁液等の素材に含有される菌体が挙げられる。菌体やそれを含有する画分は、適宜、希釈、濃縮、pH調整等に供してから、変換反応に用いてもよい。また、菌体は、例えば、アクリルアミドやカラギーナン等の担体へ固定化された固定化菌体の形態で変換反応に用いてもよい。
【0087】
変換反応に用いられる菌体の状態は、機能するBGLを有する限り、特に制限されない。菌体は、生菌体であってもよく、死菌体であってもよい。菌体は、生菌体を含有する形態で使用されてよい。すなわち、菌体は、例えば、生菌体からなるものであってもよく、生菌体と死菌体の混合物であってもよい。菌体中の生菌体の比率は、菌数基準で、例えば、10%以上、30%以上、50%以上、70%以上、または90%以上であってよい。生菌数は、colony forming unit(コロニー形成単位;cfu)として測定することができる。菌体は、特に、膜の透過性を高める処理に供することなく変換反応に用いてよい。すなわち、本発明の菌体は、特に、膜の透過性を高める処理が実施されていない菌体であってよい。膜の透過性を高める処理が実施されていない菌体を、「未処理菌体」ともいう。すなわち、本発明においては、未処理菌体を利用してもアロラクトースを製造できる。具体的には、例えば、高浸透圧条件で変換反応を実施することにより、未処理菌体を利用してアロラクトースを製造できる。膜の透過性を高める処理としては、乾燥処理、凍結融解処理、界面活性剤処理、有機溶媒処理が挙げられる。すなわち、未処理菌体としては、乾燥処理、凍結融解処理、界面活性剤処理、有機溶媒処理のいずれも実施されていない菌体が挙げられる。
【0088】
<2>アロラクトースの製造
本発明の菌体とラクトースを利用して変換反応を実施することにより、アロラクトースを製造することができる。
【0089】
変換反応は、適当な液体中で実施できる。変換反応が実施される液体を「反応液」ともいう。具体的には、変換反応は、適当な反応液中で本発明の菌体とラクトースとを共存させることにより実施できる。変換反応は、例えば、バッチ式で実施してもよく、カラム式で実施してもよい。バッチ式の場合は、例えば、反応容器内の反応液中で本発明の菌体とラクトースとを混合することにより、変換反応を実施できる。変換反応は、静置条件で実施してもよく、撹拌条件または振盪条件で実施してもよい。カラム式の場合は、例えば、固定化菌体を充填したカラムにラクトースを含有する反応液を通液することにより、変換反応を実施できる。反応液としては、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。
【0090】
変換反応は、物質X(アロラクトースの加水分解を阻害する物質)の存在下で実施される。すなわち、反応液は、さらに、物質Xを含有する。変換反応においては、アロラクトースの加水分解が物質Xにより阻害され、以てアロラクトースが効率的に生成蓄積してよい。アロラクトースの加水分解は、完全に阻害されてもよく、部分的に阻害されてもよい。物質Xにより阻害されるアロラクトースの加水分解は、本発明の微生物により(すなわち本発明の微生物の菌体により)触媒されるものであってよい。物質Xにより阻害されるアロラクトースの加水分解は、具体的には、本発明の微生物が(すなわち本発明の微生物の菌体が)有するBGLにより触媒されるものであってよい。アロラクトースの加水分解は、例えば、生成物阻害により阻害されてよい。すなわち、物質Xとしては、アロラクトースの加水分解産物が挙げられる。アロラクトースの加水分解産物としては、グルコースやガラクトースが挙げられる。アロラクトースの加水分解産物としては、特に、グルコースが挙げられる。なお、物質Xとしての「アロラクトースの加水分解産物」とは、アロラクトースの加水分解により生成し得る成分を意味し、実際にアロラクトースの加水分解により生成したかは問わない。すなわち、物質Xとしての「アロラクトースの加水分解産物」(例えば、グルコースやガラクトース)は、いずれの手段で取得したものであってもよい。物質Xとしては、1種の物質を用いてもよく、2種またはそれ以上の物質を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
物質Xは、ラクトースの加水分解を阻害する物質として機能してもよい。すなわち、変換反応においては、ラクトースの加水分解が物質Xにより阻害され、以てアロラクトースが効率的に生成蓄積してもよい。ラクトースの加水分解は、完全に阻害されてもよく、部分的に阻害されてもよい。具体的には、例えば、ラクトースの加水分解が阻害されることにより、ラクトースが効率的にアロラクトースの生成に利用され、以てアロラクトースが効率的に生成蓄積してもよい。物質Xにより阻害されるラクトースの加水分解は、本発明の微生物により(すなわち本発明の微生物の菌体により)触媒されるものであってよい。物質Xにより阻害されるラクトースの加水分解は、具体的には、本発明の微生物が(すなわち本発明の微生物の菌体が)有するBGLにより触媒されるものであってよい。ラクトースの加水分解は、例えば、生成物阻害により阻害されてよい。例えば、アロラクトースの加水分解産物は、ラクトースの加水分解産物でもある。よって、アロラクトースの加水分解産物(すなわちラクトースの加水分解産物)は、生成物阻害によりラクトースの加水分解を阻害してもよい。
【0092】
なお、変換反応の際にラクトースから物質Xが生成する場合(アロラクトース等の他の成分を経由してラクトースから物質Xが生成する場合も含む)にあっては、当該生成した物質Xのみの存在下で変換反応が実施される場合は「変換反応が物質Xの存在下で実施される」ことには該当しないものとする。言い換えると、「変換反応が物質Xの存在下で実施される」とは、少なくとも外部から供給された物質Xの存在下で変換反応が実施されることを意味する。
【0093】
反応液は、さらに、ラクトース、物質X、および本発明の菌体以外の成分を含有してよい。ラクトース、物質X、および本発明の菌体以外の成分を、「他の成分」ともいう。他の成分は、アロラクトースが所望の程度に生成する限り、特に制限されない。他の成分としては、pH緩衝剤や培地成分が挙げられる。
【0094】
変換反応の条件(各成分の濃度、反応時間、反応温度、反応液のpH、等)は、アロラクトースが所望の程度に生成する限り特に制限されない。
【0095】
反応条件は、変換反応の開始から終了まで均一であってもよく、変換反応中に変化してもよい。「反応条件が変換反応中に変化する」とは、反応条件が時間的に変化することに限られず、反応条件が空間的に変化することを含む。「反応条件が空間的に変化する」とは、例えば、カラム式で変換反応を実施する場合に、反応条件が流路上の位置に応じて異なっていることをいう。
【0096】
ラクトースの濃度は、例えば、高濃度であってよい。ラクトースの濃度は、例えば、120g/L以上、130g/L以上、140g/L以上、150g/L以上、160g/L以上、170g/L以上、180g/L以上、190g/L以上、200g/L以上、220g/L以上、または250g/L以上であってもよく、飽和濃度以下、400g/L以下、350g/L以下、300g/L以下、250g/L以下、220g/L以下、または200g/L以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。ラクトースの濃度は、具体的には、例えば、120g/L~飽和濃度、150g/L~飽和濃度、または180g/L~飽和濃度であってもよい。また、ラクトースの濃度は、具体的には、例えば、120g/L~400g/L、150g/L~300g/L、または180g/L~250g/Lであってもよい。なお、溶解できないラクトース(例えば飽和濃度を超えた分のラクトース)が反応系に存在していてもよく、いなくてもよい。
【0097】
物質Xの濃度は、例えば、高濃度であってよい。物質Xの濃度は、例えば、120g/L以上、130g/L以上、140g/L以上、150g/L以上、160g/L以上、170g/L以上、180g/L以上、190g/L以上、200g/L以上、220g/L以上、または250g/L以上であってもよく、飽和濃度以下、400g/L以下、350g/L以下、300g/L以下、250g/L以下、220g/L以下、または200g/L以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。物質Xの濃度は、具体的には、例えば、120g/L~飽和濃度、150g/L~飽和濃度、または180g/L~飽和濃度であってもよい。また、物質Xの濃度は、具体的には、例えば、120g/L~400g/L、150g/L~300g/L、または180g/L~250g/Lであってもよい。物質Xが2種またはそれ以上の成分で構成される場合、「物質Xの濃度」とは、物質Xの総濃度を意味する。なお、溶解できない物質X(例えば飽和濃度を超えた分の物質X)が反応系に存在していてもよく、いなくてもよい。
【0098】
反応液中の本発明の菌体の濃度は、例えば、600nmにおける光学密度(OD)に換算して、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、7以上、10以上、15以上、または20以上であってもよく、300以下、200以下、150以下、100以下、70以下、50以下、30以下、20以下、10以下、5以下、4以下、3以下、または2以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。反応液中の本発明の菌体の濃度は、具体的には、例えば、600nmにおける光学密度(OD)に換算して、1~300、2~100、または3~20であってもよい。
【0099】
変換反応は、例えば、高浸透圧条件で実施してもよい。変換反応を高浸透圧条件で実施することにより、例えば、菌体からBGL等の細胞内成分が反応液中に溶出し、以て、アロラクトースが効率的に生成蓄積してもよい。「高浸透圧条件」とは、例えば、反応液中の溶質濃度が、1Eq/L以上、1.1Eq/L以上、1.2Eq/L以上、1.3Eq/L以上、1.4Eq/L以上、1.5Eq/L以上、1.6Eq/L以上、1.7Eq/L以上、1.8Eq/L以上、1.9Eq/L以上、または2Eq/L以上である条件を意味してよい。反応液中の溶質濃度は、例えば、4Eq/L以下、3Eq/L以下、2.5Eq/L以下、2.2Eq/L以下、2Eq/L以下、1.9Eq/L以下、1.8Eq/L以下、1.7Eq/L以下、1.6Eq/L以下、または1.5Eq/L以下であってもよい。反応液中の溶質濃度は、例えば、上記例示した範囲の矛盾しない組み合わせであってもよい。反応液中の溶質濃度は、具体的には、例えば、1~4Eq/L、1.3~3Eq/L、または1.5~2Eq/Lであってもよい。ここでいう「溶質」とは、反応液に溶解している成分を意味する。すなわち、例えば、溶質の総濃度(すなわち反応液に溶解している全て成分の総濃度)が、上記例示した溶質濃度に設定されてよい。言い換えると、「高浸透圧条件」とは、例えば、反応液中の溶質の総濃度が上記例示した溶質濃度である条件を意味してもよい。溶質としては、ラクトースや物質Xが挙げられる。すなわち、例えば、ラクトースと物質Xの総濃度が、上記例示した溶質濃度に設定されてもよい。言い換えると、「高浸透圧条件」とは、例えば、反応液中のラクトースと物質Xの総濃度が上記例示した溶質濃度である条件を意味してもよい。溶質がイオン化しない物質である場合、「Eq/L」は「M」と読み替えてよい。例えば、ラクトースや上記例示したような物質X(例えば、グルコースやガラクトース等の、アロラクトースの加水分解産物)は、いずれも、イオン化しない物質とみなしてよい。よって、例えば、ラクトースと上記例示したような物質Xの総濃度を上記例示した溶質濃度に設定する場合、「Eq/L」は「M」と読み替えてよい。
【0100】
各成分は、変換反応の全期間において上記例示した濃度で反応液に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。各成分は、例えば、変換反応の開始時に上記例示した濃度で反応液に含有されていてよい。すなわち、「変換反応における或る成分の濃度が或る範囲である」とは、少なくとも当該成分が当該濃度で変換反応が実施される期間があることを意味し、具体的には、当該成分が当該濃度で変換反応が開始されることを意味してもよい。「反応開始時」とは、ラクトース、物質X、および本発明の菌体が、それぞれ所定の濃度で反応系に共存する状態になった時点を意味してよい。「反応開始時」とは、具体的には、ラクトース、物質X、および本発明の菌体がそれぞれ上記例示した濃度で反応系に共存する状態になった時点を意味してよい。各成分の濃度は、例えば、変換反応中に変動してもよい。例えば、変換工程中にラクトースの濃度が低下してもよい。具体的には、例えば、変換工程中にラクトースが消費され、以てラクトースの濃度が低下してもよい。また、例えば、変換工程中に本発明の菌体の濃度が低下してもよい。具体的には、例えば、変換工程中に本発明の菌体が溶菌し、以て本発明の菌体の濃度が低下してもよい。また、例えば、変換工程中に物質Xの濃度が増大してもよい。具体的には、例えば、変換工程中にラクトースおよび/またはアロラクトースが加水分解され、以て物質Xの濃度が増大してもよい。
【0101】
変換反応中にラクトース、物質X、本発明の菌体、および他の成分から選択される成分を、単独で、あるいは任意の組み合わせで、反応液に供給してもよい。例えば、ラクトースの消費に応じて反応液にラクトースを追加で供給してもよい。いずれの成分も、1回または複数回供給されてもよく、連続的に供給されてもよい。
【0102】
反応時間は、例えば、12時間以上、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、7日以上、10日以上、15日以上、または20日以上であってもよく、210日以下、180日以下、150日以下、120日以下、90日以下、60日以下、40日以下、30日以下、20日以下、15日以下、10日以下、7日以下、5日以下、4日以下、または3日以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせの範囲であってもよい。反応時間は、具体的には、例えば、12時間~20日、1日~15日、または3日~10日であってもよい。カラム法の場合、反応液の通液速度は、例えば、反応時間が上記例示した反応時間の範囲となるような速度であってよい。
【0103】
変換反応は、例えば、所望の程度にアロラクトースが生成蓄積するまで実施してよい。アロラクトースの蓄積量は、例えば、1g/L以上、2g/L以上、5g/L以上、10g/L以上、15g/L以上、20g/L以上、25g/L以上、30g/L以上、35g/L以上、40g/L以上、45g/L以上、または50g/L以上であってよい。
【0104】
反応温度は、例えば、10℃以上、15℃以上、20℃以上、または30℃以上であってもよく、35℃以下、30℃以下、25℃以下、20℃以下、または15℃以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせの範囲であってもよい。反応温度は、特に、30℃以下であってもよい。反応温度は、具体的には、例えば、10~30℃、15~30℃、または20~30℃であってもよい。反応温度は、制御されてもよく、されなくてもよい。変換反応は、例えば、室温(例えば25℃)で実施してもよい。反応温度は、典型的には変換反応の全期間において上記例示した温度の範囲内であってよいが、一時的にその範囲外となってもよい。すなわち、「変換反応における温度が或る範囲である」または「変換反応が或る温度範囲で実施される」とは、変換反応の全期間において温度が当該範囲内である場合に限られず、温度が一時的に当該範囲外となる場合も包含する。「一時的」の長さは、アロラクトースが所望の程度に生成する限り、特に制限されない。「一時的」とは、例えば、変換反応の全期間の内の、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、3%以下、または1%以下の期間を意味してよい。
【0105】
反応pHは、例えば、4以上、5以上、6以上、7以上、または8以上であってもよく、10以下、9以下、8以下、7以下、または6以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせの範囲であってもよい。反応pHは、具体的には、例えば、6~8であってもよい。反応pHは、制御されてもよく、されなくてもよい。反応pHは、典型的には変換反応の全期間において上記例示したpHの範囲内であってよいが、一時的にその範囲外となってもよい。すなわち、「変換反応におけるpHが或る範囲である」または「変換反応が或るpH範囲で実施される」とは、変換反応の全期間においてpHが当該範囲内である場合に限られず、pHが一時的に当該範囲外となる場合も包含する。「一時的」の長さは、アロラクトースが所望の程度に生成する限り、特に制限されない。「一時的」とは、例えば、変換反応の全期間の内の、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、3%以下、または1%以下の期間を意味してよい。
【0106】
このようにして変換反応を実施することにより、アロラクトースを含有する反応液が得られる。
【0107】
アロラクトースが生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて利用してよい。
【0108】
アロラクトースを含有する反応液は、そのまま、あるいは適宜、濃縮、希釈、加熱、除菌等の処理をしてから、利用することができる。
【0109】
また、生成したアロラクトースは、適宜反応液から回収することができる。すなわち、本発明の方法は、生成したアロラクトースを反応液から回収することを含んでいてよい。アロラクトースの回収は、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法、膜処理法、沈殿法、および晶析法が挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて利用してよい。アロラクトースの精製は、所望の程度に行うことができる。また、アロラクトースが反応液中に析出する場合は、遠心分離又は濾過等により回収することができる。また、反応液中に析出したアロラクトースは、反応液中に溶解しているアロラクトースを晶析した後に、併せて単離してもよい。
【0110】
尚、回収されるアロラクトースは、アロラクトースに加えて、アロラクトース以外の成分を含有していてよい。アロラクトース以外の成分としては、菌体、反応液成分、水分が挙げられる。回収されたアロラクトースの純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
【0111】
<3>アロラクトースの利用
製造したアロラクトースの用途は特に制限されない。アロラクトースは、例えば、遺伝子発現の誘導のために用いることができる。すなわち、アロラクトースは、遺伝子発現誘導剤として利用できる。すなわち、アロラクトースの製造方法は、遺伝子発現誘導剤の製造方法であってもよい。
【0112】
アロラクトースは、具体的には、例えば、アロラクトース誘導性プロモーターの制御下での遺伝子の誘導発現のために用いることができる。「アロラクトース誘導性プロモーター」とは、直下流に連結された遺伝子をアロラクトースの存在下で誘導発現するプロモーターをいう。「アロラクトースの存在下」とは、具体的には、培地中にアロラクトースが存在することであってよい。「遺伝子がアロラクトースの存在下で誘導発現される」とは、具体的には、例えば、アロラクトース存在下における遺伝子の発現量が、アロラクトース非存在下における遺伝子の発現量の、2倍以上、3倍以上、または4倍以上であることであってもよい。「遺伝子がアロラクトースの存在下で誘導発現される」ことには、アロラクトース非存在下では遺伝子が発現しないが、アロラクトース存在下では遺伝子が発現する場合も包含される。アロラクトース誘導性プロモーターの制御下で誘導発現する遺伝子を、「目的遺伝子」ともいう。
【0113】
「目的遺伝子がアロラクトース誘導性プロモーターの制御下で発現する」とは、目的遺伝子がアロラクトース誘導性プロモーターから直接発現する場合(直接発現)に限られず、アロラクトース誘導性プロモーターからの他の遺伝子(目的遺伝子以外の遺伝子)の発現を経由して目的遺伝子の発現が間接的に誘導される場合(間接発現)も包含する。直接発現の場合、例えば、アロラクトース誘導性プロモーターの下流に目的遺伝子を接続し、アロラクトース誘導性プロモーターからの同遺伝子の発現を誘導することにより、同遺伝子をアロラクトース誘導性プロモーターから直接発現することができる。間接発現の場合、例えば、アロラクトース誘導性プロモーターから直接発現する他の遺伝子の産物(転写産物や翻訳産物)を介して、他のプロモーター(アロラクトース誘導性プロモーター以外のプロモーター)からの目的遺伝子の発現を間接的に誘導することができる。例えば、T3プロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーターからの遺伝子の転写は、それぞれ、ファージ由来のT3 RNAポリメラーゼ、T5 RNAポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼにより行われる。よって、例えば、目的遺伝子をT3プロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、またはSP6プロモーターの下流に接続し、対応するRNAポリメラーゼをアロラクトース誘導性プロモーターから誘導発現することにより、目的遺伝子の発現を間接的に誘導することができる。アロラクトース誘導性プロモーターからの遺伝子の発現の誘導を、「アロラクトース誘導性プロモーターの誘導」ともいう。
【0114】
アロラクトース誘導性プロモーターとしては、lacプロモーターやtacプロモーターが挙げられる。すなわち、アロラクトース誘導性プロモーターは、例えば、lacプロモーターまたはtacプロモーターの公知の塩基配列を有するプロモーターであってよい。また、アロラクトース誘導性プロモーターは、例えば、上記例示したアロラクトース誘導性プロモーターの保存的バリアント(例えばlacプロモーターまたはtacプロモーターの公知の塩基配列を有するプロモーターの保存的バリアント)であってもよい。すなわち、例えば、上記例示したアロラクトース誘導性プロモーター(例えばlacプロモーターまたはtacプロモーターの公知の塩基配列を有するプロモーター)は、そのまま、あるいは適宜改変して用いることができる。「lacプロモーター」という用語は、上記例示したlacプロモーター(例えばlacプロモーターの公知の塩基配列を有するプロモーター)に加えて、その保存的バリアントを包含するものとする。「tacプロモーター」という用語は、上記例示したtacプロモーター(例えばtacプロモーターの公知の塩基配列を有するプロモーター)に加えて、その保存的バリアントを包含するものとする。アロラクトース誘導性プロモーターの保存的バリアントについては、上述したBGL遺伝子の保存的バリアントに関する記載を準用できる。例えば、アロラクトース誘導性プロモーターは、元の機能が維持されている限り、lacプロモーターまたはtacプロモーターの公知の塩基配列に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNAであってもよい。lacプロモーターのバリアントとして、具体的には、lacUV5プロモーターが挙げられる。tacプロモーターのバリアントとして、具体的には、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)が挙げられる。なお、アロラクトース誘導性プロモーターについての「元の機能」とは、その直下流に接続された遺伝子をアロラクトースの存在下で誘導発現する機能をいう。アロラクトース誘導性プロモーターの機能は、例えば、培地へのアロラクトースの供給による遺伝子の誘導発現を確認することにより、確認することができる。遺伝子の誘導発現は、例えば、レポーター遺伝子を用いて確認することができる。同様に、アロラクトース誘導性プロモーターをT3プロモーター等の他のプロモーターと併用する場合、それら他のプロモーターも、そのまま、あるいは適宜改変して用いることができる。
【0115】
目的遺伝子の種類は、特に制限されない。目的遺伝子としては、目的物質の生産に有効な遺伝子が挙げられる。目的物質の種類は、特に制限されない。目的物質としては、SAM依存性代謝物、アルデヒド、L-アミノ酸、核酸、有機酸、γ-グルタミルペプチド、スフィンゴイド、タンパク質、RNAが挙げられる。目的物質の生産に有効な遺伝子としては、活性の増大が目的物質の生産に有効であるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。そのようなタンパク質としては、目的物質の生合成酵素が挙げられる。また、目的物質が遺伝子の発現産物(例えば、タンパク質やRNA)である場合、目的物質の生産に有効な遺伝子としては、目的物質をコードする遺伝子が挙げられる。
【0116】
目的遺伝子の発現は、例えば、目的遺伝子を有する微生物の培養時に誘導することができる。すなわち、本発明は、例えば、目的遺伝子の発現を誘導する方法であって、アロラクトースを含有する培地で目的遺伝子を有する微生物を培養する工程を含み、目的遺伝子がアロラクトース誘導性プロモーターの制御下で発現する方法を提供する。目的遺伝子を有する微生物の培養については、アロラクトースにより目的遺伝子を誘導発現すること以外は、本発明の微生物の培養についての記載を準用できる。目的遺伝子を有する微生物は、本来的にアロラクトース誘導性プロモーターの制御下で発現する目的遺伝子を有するものであってもよく、なくてもよい。目的遺伝子を有する微生物は、例えば、本来的にはアロラクトース誘導性プロモーターの制御下で発現する目的遺伝子を有さないが、アロラクトース誘導性プロモーターの制御下で発現する目的遺伝子を有するように改変されたものであってもよい。微生物については、本発明の微生物の説明における微生物についての記載を準用できる。微生物の改変については、本発明の微生物の説明における微生物の改変についての記載を準用できる。
【0117】
アロラクトースは、培養の全期間において培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間においてのみ培地に含有されていてもよい。すなわち、「アロラクトースを含有する培地で目的遺伝子を有する微生物を培養する」とは、アロラクトースが培養の全期間において培地に含有されていることを必ずしも意味しない。例えば、アロラクトースは、培養開始時から培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。アロラクトースが培養開始時に培地に含有されていない場合は、培養開始後に培地にアロラクトースが供給される。供給のタイミングは、培養時間等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、菌体が所望の程度に生育してからアロラクトースを培地に供給してもよい。培地中のアロラクトース濃度は、目的遺伝子の発現が誘導される限り、特に制限されない。培地中のアロラクトース濃度は、例えば、0.005mM以上、0.01mM以上、0.05mM以上、0.1mM以上、0.5mM以上、または1mM以上であってもよく、10mM以下、5mM以下、2mM以下、1mM以下、0.5mM以下、または0.1mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地中のアロラクトース濃度は、具体的には、例えば、0.005~10mM、0.01~5mM、または0.05~2mMであってもよい。アロラクトースは、培養の全期間において上記例示した濃度範囲で培地に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。アロラクトースは、例えば、培養開始時に上記例示した濃度範囲で培地に含有されていてもよく、上記例示した濃度範囲となるように培養開始後に培地に供給されてもよい。
【0118】
目的遺伝子を有する微生物は、アロラクトースによる遺伝子の誘導発現が可能である限り、任意の性質を有していてよい。目的遺伝子を有する微生物は、例えば、BGLの活性が低下するように改変されていてよい。目的遺伝子を有する微生物は、具体的には、例えば、非改変株と比較してBGLの活性が低下するように改変されていてよい。「BGLの活性が低下する」とは、少なくともアロラクトース加水分解活性が低下することを意味してよい。「BGLの活性が低下する」とは、典型的には、アロラクトース生成活性とアロラクトース加水分解活性の両方が低下することを意味してよい。BGLの活性は、例えば、BGL遺伝子の発現を低下させることにより、またはBGL遺伝子を破壊することにより、低下させることができる。BGLの活性は、例えば、特に、BGL遺伝子の欠失により、低下させることができる。
【0119】
アロラクトースによる目的遺伝子の誘導発現を利用して、例えば、目的物質を製造することができる。具体的には、例えば、目的遺伝子が目的物質の生産に有効な遺伝子である場合、アロラクトースによる目的遺伝子の誘導発現を利用して、目的物質を製造することができる。目的物質は、例えば、培養時に目的遺伝子を誘導発現することにより製造されてもよい。また、目的物質は、例えば、目的遺伝子を誘導発現した菌体を利用して製造されてもよい。すなわち、本発明は、例えば、目的物質の製造方法であって、アロラクトースを含有する培地で目的遺伝子を有する微生物を培養して目的物質を生成する工程を含み、目的遺伝子がアロラクトース誘導性プロモーターの制御下で発現する方法を提供する。また、本発明は、例えば、目的物質の製造方法であって、アロラクトースを含有する培地で目的遺伝子を有する微生物を培養して該微生物の菌体を生成する工程;および前記菌体を利用して目的物質を生成する工程を含み、目的遺伝子がアロラクトース誘導性プロモーターの制御下で発現する方法を提供する。目的物質は、例えば、炭素源から生成してもよく、目的物質の前駆体から生成してもよい。培養による目的物質の製造や菌体を利用した目的物質の製造については、例えば、既報(WO2018/079687、WO2018/079686、WO2018/079685、WO2018/079684、WO2018/079683、WO2017/073701、WO2018/079705、WO2017/122747、WO2015/060391、WO2018/030507、WO2015/060391、WO2016/104814、WO2015/133547、WO2017/039001、WO2017/033463、WO2017/033464、WO2018/074578、WO2018/074579、等)を参照できる。
【実施例】
【0120】
以下、非限定的な実施例によって、本発明をさらに具体的に説明する。
【0121】
実施例中、濃度の単位として用いられる「%」は、特記しない限り、「%(w/v)」を示す。
【0122】
(l)β-galactosidase(LacZ)発現株の構築およびβ-galactosidase(LacZ)精製酵素の調製
Escherichia coli K-12 MG1655株(ATCC 47076)のゲノムDNAをテンプレートに、プライマー(配列番号1と2)を用いたPCRによりβ-galactosidase(LacZ)をコードするlacZ遺伝子断片を増幅した。また、pET24aプラスミド(Novagen)をテンプレートに、プライマー(配列番号3と4)を用いたPCRによりプラスミドの外側断片を増幅した。増幅したPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)により連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させ、形質転換体を得た。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて、β-galactosidase(LacZ)をコードするlacZ遺伝子断片が組み込まれたpET24a-lacZ-His6プラスミドを得た。同プラスミドによれば、LacZはC末端にHisタグが付加された形態で発現する。
【0123】
次に、pET24a-lacZ-His6プラスミドでE. coli Rosetta(TM) 2(DE3)pLysS Competent Cells(Novagen)を形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。形成されたコロニーをLB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)に画線し、シングルコロニーを取得することでEcLZH6株を得た。
【0124】
EcLZH6株を試験管内の3 mlの50 mg/Lカナマイシンを含むLB培地に植菌し、37℃、120 rpmで一晩振とう培養した。得られた培養液を、50 mlの坂口フラスコ内の50 mg/Lカナマイシンを含むLB培地に1/100量植菌し、OD600が0.8になるまで37℃、120 rpmで振とう培養した。次に、坂口フラスコを13℃のボックスシェーカー内に移して、13℃、120 rpmで1時間振とう培養した。その後、1 mMになるようにIPTGを添加し、17時間培養した。培養後、遠心(4℃, 5000 rpm, 5 min)して菌体を回収し、-20℃のフリーザーで1時間凍結させた。その後、Ni-NTA Fast Start Kit(QIAGEN)を用いて非変性条件で菌体から可溶化タンパク溶液を抽出し、キットに付属のNi-NTAアフィニティカラム、洗浄バッファー、溶出バッファーを用いてLacZを精製した。LacZを含む溶出画分は、Amicon Ultra-15 30 kDa cut off(Merck Millipore)限外ろ過膜フィルターと50 mM リン酸ナトリウムバッファー(pH=6.5)を用いて脱塩および濃縮し、LacZの精製酵素溶液を得た。
【0125】
(2)β-galactosidase(LacZ)精製酵素によるラクトースからのアロラクトース生成
上記(1)で得たLacZ精製酵素溶液を用いて、in vitroでのラクトースからのアロラクトースの生成を確認した。
【0126】
すなわち、基質溶液として2%または20%のラクトースを含有する50 mMリン酸ナトリウムバッファー(pH=6.5)を用い、LacZ精製酵素溶液をタンパク質濃度に換算して30 ng/mlとなるように添加して37℃で反応を行った。経時的に反応液のサンプリングを行い、95℃10分間の加熱に供して酵素を失活させ、上清を0.22 μm孔径のフィルターを通過させサンプルとした。それらのサンプルをイオン交換クロマトグラフィーに供し、生成物を分析および定量した。イオン交換クロマトグラフィーの条件を表1~2に示す。
【0127】
結果を
図1~2に示す。2%および20%のラクトース溶液のいずれにおいても、アロラクトースの生成が認められた。2%のラクトース溶液においては、最大で約2 g/Lのアロラクトースが生成し、その後アロラクトース濃度が減少した(
図1)。20%のラクトース溶液においては、最大で約28 g/Lのアロラクトースの生成が生成し、その後アロラクトース濃度が減少した(
図2)。これらの結果から、LacZによりラクトースからアロラクトースが生成すること、基質であるラクトースの濃度を上昇させるとアロラクトースの生成濃度と生成収率が上昇すること、および生成したアロラクトースが分解されることが示された。LacZによるラクトースからのアロラクトースの生成収率は、基質濃度を高めた20%ラクトース溶液を用いた条件でも約14%であった。
【0128】
【0129】
【0130】
(3)β-galactosidase(LacZ)精製酵素によるラクトースからのアロラクトース生成におけるグルコースの影響の評価
上記(1)で得たLacZ精製酵素溶液を用いて、in vitroでのラクトースからのアロラクトースの生成におけるグルコースの影響を評価した。
【0131】
すなわち、基質溶液として、20%のラクトースに加え、10%または20%のグルコースを含有する50 mM リン酸ナトリウムバッファー(pH=6.5)を用い、LacZ精製酵素溶液をタンパク質濃度に換算して30 ng/mlとなるように添加して37℃で反応を行った。経時的に反応液のサンプリングを行い、上記(2)と同様の手順で生成物を分析した。
【0132】
結果を
図3~4に示す。その結果、20%のラクトースに加え、10%および20%のグルコースを含有する基質溶液のいずれを用いた場合にも、アロラクトースの生成濃度が50 g/Lを超え、ラクトースからのアロラクトースの生成収率がグルコースを添加しない場合の約14%から25%超まで大幅に上昇した。また、20%のラクトースに加え、10%および20%のグルコースを含有する基質溶液のいずれを用いた場合にも、アロラクトースの分解の抑制が認められた。すなわち、グルコースがβ-galactosidase(LacZ)によるアロラクトースの加水分解を生成物阻害により阻害したと考えられる。また、10%のグルコースを含有する基質溶液を用いた場合と比較して、20%のグルコースを含有する基質溶液を用いた場合に、アロラクトースの分解の強い抑制が認められた。すなわち、アロラクトースの分解の抑制のためには、グルコース濃度が高い方が望ましいことが示された。
【0133】
(4)β-galactosidase(LacZ)を有するE. coli生菌体によるラクトースからのアロラクトースの生成
β-galactosidase(LacZ)精製酵素の利用には、酵素の精製等に手間やコストがかかる。そこで、β-galactosidase(LacZ)を有する無処理のE. coli生菌体を用いて、in vitroでのラクトースからのアロラクトースの効率的な生成を試みた。
【0134】
上記(1)に記載の方法でEcLZH6株を培養して調製したE. coli生菌体を、表3に記載の10種類の基質溶液にOD600=5.0になるように投入し、室温(26℃)で保管し、反応を進行させた。経時的に反応液のサンプリングを行い、上記(2)と同様の手順で生成物を分析した。
【0135】
結果を
図5に示す。主に20%のラクトースを含有する基質溶液を用いた場合に、アロラクトースの蓄積が認められた。特に、20%のラクトースに加え20%のグルコースを含有する基質溶液において顕著なアロラクトースの蓄積が認められた。20%のラクトースに加え20%のソルビトールを含有する基質溶液を用いた場合にも、アロラクトースの生成が認められたが、その生成濃度は比較的に低く、また長期間(6週間)の保管において消失した。一方、20%のラクトースのみを含有する基質溶液を用いた場合には、アロラクトースの蓄積はほぼ検出されなかった。これらの結果から、β-galactosidase(LacZ)を有する無処理の生菌体を用いてラクトースからアロラクトースを製造するには、ソルビトールよりもグルコースを基質溶液に含有させるのが効果的であること、および基質溶液中のラクトース濃度とグルコース濃度を高めることが効果的であることが示された。以上より、グルコースによるβ-galactosidase(LacZ)の加水分解反応の生成物阻害(例えば、アロラクトースおよび/またはラクトースの分解抑制)と、高浸透圧条件下による生菌体からの酵素を含む細胞内成分の溶出とが、相乗的にアロラクトースの生成蓄積を向上させた可能性が考えられる。よって、例えば、高浸透圧条件を他の成分の添加によって模倣することや、ガラクトース等のβ-galactosidase(LacZ)の加水分解反応の生成物阻害を引き起こす他の成分を用いることも効果的であり得る。
【0136】
【0137】
(5)β-galactosidase(LacZ)を有するE. coli生菌体によるラクトースからのアロラクトースの生成における温度の影響の評価
β-galactosidase(LacZ)を有する無処理のE. coli生菌体を用いて、in vitroでのラクトースからのアロラクトースの生成における温度の影響を評価した。
【0138】
上記(1)に記載の方法でEcLZH6株を培養して調製したE. coli生菌体を、表3のL20:G20:S0の基質溶液にOD600=10になるように投入し、室温(26℃)、37℃、または42℃で保管し、反応を進行させた。経時的に反応液のサンプリングを行い、上記(2)と同様の手順で生成物を分析した。
【0139】
結果を
図6に示す。37℃または42℃で反応を進行させた場合には、アロラクトースの蓄積濃度は比較的早期に低下した。一方、室温(26℃)で反応を進行させた場合には、アロラクトースの蓄積濃度の低下は認められなかった。これらの結果から、アロラクトースが高濃度に蓄積した状態を長期に維持するためには、高温で反応を進行させるよりも、室温(26℃)等の低温で反応を進行させることが効果的であることが示された。
【0140】
(6)調製したアロラクトースのlacプロモーター誘導能の評価1
E. coli JM109株とpUC19プラスミドを用いたBlue-White screening法により、アロラクトースのlacプロモーター誘導能を評価した。
【0141】
E. coli JM109のコンピテントセル(タカラバイオ)をpUC19プラスミド(タカラバイオ)で形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。形成されたコロニーをLB寒天培地(50 mg/L アンピシリンを含む)に画線し、シングルコロニーを取得することでJM109+pUC19株を得た。この株は、pUC19プラスミド上のlacプロモーターから発現するLacZ酵素の一部(LacZα)によるα相補性によって、β-galactosidase活性を発揮する。つまり、この株は、lacプロモーターからの遺伝子発現が誘導された場合にβgalactosidase活性を発揮する。なお、JM109株のβ-galactosidase活性は、α相補性が発揮されない限り失われている。
【0142】
上記(4)で得た55.8 g/Lのアロラクトースを含有する反応液を、95℃10分間の加熱に供して酵素を失活させ、上清を0.22 μm孔径のフィルターを通過させアロラクトース溶液を得た。得られたアロラクトース溶液を表4に記載の各倍率でLB寒天培地に希釈添加し、さらにX-Gal(Thermo Fisher Scientific)を加えることで、各濃度のアロラクトースとX-galを含むBlue-White screening用のLB寒天培地を調製した。X-galはβ-galactosidaseにより分解され、その分解産物である4-chloro-3-bromo-indigoは青色呈色する。
【0143】
Blue-White screening用の各LB寒天培地にJM109+pUC19株を画線して37℃で一晩培養し、シングルアイソレーションされたコロニーの着色を観察した。
【0144】
結果を表4に示す。表中、「×」は青色呈色が認められないこと、「△」は不明瞭な青色呈色が認められること、「○」は明らかな青色呈色が認められることを示す。特に、アロラクトースの濃度が0.03~1.5 mMの条件において、コロニーに青色の着色が観察され、すなわち、pUC19プラスミド上のlacプロモーターからの遺伝子発現の誘導が認められた。一方、アロラクトースの濃度が0.0075~0.015 mMの条件においては、青色呈色が不明瞭になり、すなわち、アロラクトースによるlacプロモーター誘導能が弱化していることが示唆された。
【0145】
【0146】
(6)調製したアロラクトースのlacプロモーター誘導能の評価2
上記(5)における評価では、X-galのβ-galactosidase(LacZ)による分解生産物の青色呈色を評価指標としているため、そのレポーター遺伝子であるβ-galactosidase(LacZ)によってアロラクトースが分解され、その結果としてアロラクトースの濃度が0.0075~0.015 mMの条件においては、アロラクトースによるlacプロモーター誘導能が弱化したと推測された。そこで、レポーター遺伝子をβ-galactosidaseではなく蛍光タンパク質であるDasherGFPに変更し、アロラクトースを分解しない菌株におけるアロラクトースのlacプロモーター誘導能を評価した。
【0147】
FPB-27-441プラスミド(コスモ・バイオ)をテンプレートに、プライマー(配列番号5と6)を用いたPCRによりDasherGFPをコードする遺伝子断片を増幅した。また、pUC19プラスミド(タカラバイオ)をテンプレートに、プライマー(配列番号7と8)を用いたPCRによりプラスミドの外側断片を増幅した。増幅したPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)により連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させ、形質転換体を得た。得られた形質転換体からWizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて、LacZα遺伝子がDasherGFP遺伝子に置換されたpUC19-DGFPプラスミドを得た。次に、E. coli K-12 MG1655株のゲノムDNA(ATCC 47076)をテンプレートに、プライマー(配列番号9と10)を用いたPCRによりLacIリプレッサーをコードするlacI遺伝子断片を増幅した。また、pUC19-DGFPプラスミドをテンプレートに、プライマー(配列番号11と12)を用いたPCRによりプラスミドの外側断片を増幅した。増幅したPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)により連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させ、形質転換体を得た。得られた形質転換体からWizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて、LacZα遺伝子がDasherGFP遺伝子に置換され、且つPtac-LacIが組み込まれたpUC19-DGFP-PtIプラスミドを得た。Ptac-LacIを組み込んだのは、lacプロモーター非誘導時のDasherGFPの発現を強く抑制することにより、lacプロモーター誘導時のDasherGFPの蛍光呈色を観察しやすくするためである。
【0148】
E. coli JM109のコンピテントセル(タカラバイオ)をpUC19-DGFP-PtIプラスミドで形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。形成されたコロニーをLB寒天培地(50 mg/L アンピシリンを含む)に画線し、シングルコロニーを取得することでJM109+pUC-DGFP-PtI株を得た。
【0149】
上記(5)で得たアロラクトース溶液を21736倍でLB寒天培地に希釈添加し、0.0075 mMのアロラクトースを含むLB寒天培地を調製した。
【0150】
0.0075 mMのアロラクトースを含むLB寒天培地およびアロラクトースを含まないLB寒天培地にそれぞれJM109+pUC-DGFP-PtI株を画線して37℃で一晩培養し、シングルアイソレーションされたコロニーを得た。また、比較対象として、LB寒天培地にJM109+pUC19株を画線して37℃で一晩培養し、コロニーをシングルアイソレーションした。各条件で得られたコロニーの蛍光呈色をUVイルミネーター体で観察した。
【0151】
結果を
図7に示す。アロラクトースを0.0075 mMで含む条件においても、JM109+pUC-DGFP-PtI株のコロニーの蛍光呈色が認められた。すなわち、β-galactosidaseによるアロラクトースの分解が生じない条件では、アロラクトースは非常に低い濃度でもpUC19プラスミド上のlacプロモーターを誘導できることが示された。これらの結果から、アロラクトースをlacプロモーターの誘導に用いる際には、分解酵素であるβ-galactosidase活性を欠損させることが効果的であることが示唆された。
【0152】
(7)調製したアロラクトースのlacプロモーター誘導能の評価3
アロラクトースのlacプロモーター誘導能を、異種タンパク質生産に汎用されるpET発現系の誘導能を指標として評価した。pET発現系においては、lacプロモーターから誘導発現するT7-polymeraseが、T7プロモーター下流の遺伝子(例えば異種タンパク質をコードする遺伝子)を高発現する。生産させる異種タンパク質としては、糸状菌Talaromyces cellulolyticusのβ-glucosidase遺伝子(以下、「gh1-2遺伝子」ともいう)を用いた。
【0153】
T. cellulolyticus Y-94株(CBS 136886)の菌体からRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNAを調製し、同RNA溶液からSMARTer(R) RACE 5'/3' kitによって完全長cDNA溶液を調製した。このcDNA溶液をテンプレートに、プライマー(配列番号13と14)を用いたPCRによりgh1-2遺伝子のcDNA断片を増幅した。また、pET24aプラスミド(Novagen)をテンプレートに、プライマー(配列番号3と4)を用いたPCRによりプラスミドの外側断片を増幅した。PCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)により連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させ、形質転換体を得た。得られた形質転換体からWizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて、gh1-2遺伝子のcDNA断片が組み込まれたpET24a-gh1-2-His6プラスミドを得た。
【0154】
ET24a-gh1-2-His6プラスミドでE. coli Rosetta(TM) 2(DE3)pLysS Competent Cells(Novagen)を形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。形成されたコロニーをLB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)に画線し、シングルコロニーを取得することでEcGHH6株を得た。
【0155】
EcGHH6株を試験管内の3 mlの50 mg/Lカナマイシンを含むLB培地に植菌し、37℃、120 rpmで一晩振とう培養した。得られた培養液を、50 mlの坂口フラスコ内の50 mg/Lカナマイシンを含むLB培地に1/100量植菌し、OD600が0.8になるまで37℃、120 rpmで振とう培養した。次に、坂口フラスコを13℃のボックスシェーカー内に移して、13℃、120 rpmで1時間振とう培養した。その後、終濃度1 mMでIPTGを、あるいは、終濃度1mM、0.1mM、0.01mM、0,001mM、または0.0001mMになるように上記(5)で得たアロラクトース溶液を添加し、14時間培養した。培養後、遠心(4℃, 5000 rpm, 5 min)して菌体を回収し、10倍濃度に濃縮した菌体濃縮液の5 μlをSDS-PAGEに供した。
【0156】
結果を
図8に示す。液体培養においても、1 mMのIPTGでlacプロモーター下のT7-polymeraseの発現を誘導させた場合とほぼ同等の異種タンパク質発現を、終濃度0.1 mMのアロラクトースによる誘導で実現できることが示された。0.1 mM未満のアロラクトース濃度では、アロラクトース濃度の低下により異種タンパク質の発現量が低下していくことが示唆された。EcGHH6株では、β-galactosidaseをコードするLacZ遺伝子が破壊されていない。上記(6)の結果から、異種タンパク質生産株においてLacZを破壊すれば、0.1 mM未満のアロラクトース濃度においても、異種タンパク質の発現が十分に誘導されると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明により、アロラクトースを効率よく製造することができる。
【0158】
<配列表の説明>
配列番号1~14:プライマー
配列番号15:E. coli K-12 MG1655株のlacZ遺伝子の塩基配列
配列番号16:E. coli K-12 MG1655株のLacZタンパク質のアミノ酸配列
【配列表】