(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】磁性部材形成用樹脂組成物、及び磁性部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240806BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240806BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20240806BHJP
C08K 3/11 20180101ALI20240806BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240806BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240806BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240806BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/36
C08K3/01
C08K3/11
C08L63/00 C
H01F17/04 F
H01F41/02 D
H01F27/255
(21)【出願番号】P 2021520646
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2020015869
(87)【国際公開番号】W WO2020235246
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019093896
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019199674
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将人
(72)【発明者】
【氏名】野辺 若菜
(72)【発明者】
【氏名】野津 賢祐
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-155554(JP,A)
【文献】特開昭61-152004(JP,A)
【文献】特開2016-072406(JP,A)
【文献】特開平06-333714(JP,A)
【文献】特開2016-174142(JP,A)
【文献】国際公開第2019/112002(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01F 17/04、27/255、41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮成形に用いる磁性部材形成用樹脂組成物であって、
熱硬化性樹脂と、
磁性体粒子と、
前記磁性体粒子に比べて、比重が小さく、かつ、累積50%粒子径D
50が小さい非磁性体粒子と、
を含み、
25℃で固体であ
り、
前記磁性部材がコイルの磁性コアであり、
前記非磁性体粒子が、シリカ粒子を含み、
前記非磁性体粒子の累積50%粒子径D
50
が、0.05μm以上3.0μm以下であり、
前記樹脂組成物中の前記磁性体粒子の含有量が、樹脂組成物全体を基準として、70体積%以上であり、
80℃~250℃の範囲で測定したときの当該磁性部材形成用樹脂組成物の最低溶融粘度が、50Pa・s以上500Pa・s以下である、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記非磁性体粒子の比重が、1.5以上6.0以下である、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記非磁性体粒子が表面処理されてなる、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記非磁性体粒子の含有量が、前記非磁性体粒子および前記磁性体粒子の合計100体積%中、体積換算で、1体積%以上10体積%以下である、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記磁性体粒子が、鉄基粒子を含む、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項
5に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記鉄基粒子が、鉄基アモルファス粒子を含む、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項
5又は
6に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記鉄基粒子が、Feを85質量%以上有するものを含む、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項
5~
7のいずれか一項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記磁性体粒子が、平均粒子径が異なる2種以上の前記鉄基粒子を含む、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記
非磁性体粒子および前記磁性体粒子の含有量が、当該磁性部材形成用樹脂組成物の固形分100体積%中、体積換算で、
70体積%以上95体積%以下である、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含む、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項11】
請求項
10に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、分子内に3個以上のエポキシ基を備える多官能エポキシ樹脂を含む、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項
11に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂を含む、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項13】
請求項
12に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
前記多官能エポキシ樹脂が有するエポキシ基のモル数をM1とし、前記ビスフェノール型エポキシ樹脂が有するエポキシ基のモル数をM2としたとき、M1/M2の値が、0.2以上1.8以下である、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか一項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
離型剤を含む、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか一項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
硬化剤を含む、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1~
15のいずれか一項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
硬化触媒を含む、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1~
16のいずれか一項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
粉末状、または顆粒状である、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項18】
請求項1~
17のいずれか一項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物であって、
80℃~250℃の範囲で測定したときの当該磁性部材形成用樹脂組成物の溶融粘度が最小となる温度が、100℃以上150℃以下の範囲内にある、磁性部材形成用樹脂組成物。
【請求項19】
圧縮成形装置を用いて、請求項1~
18のいずれか1項に記載の磁性部材形成用樹脂組成物を金型中に配置し、前記磁性部材形成用樹脂組成物が硬化した磁性部材を得る、磁性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性部材形成用樹脂組成物、及び磁性部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで磁性部材形成用樹脂組成物の成形方法について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、磁性粉末に有機樹脂を混合し、得られた混合物を射出成形またはトランスファー成形することが記載されている(特許文献1の請求項1,11など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の磁性粉末と有機樹脂とを混合してなる組成物において、圧縮成形時における樹脂バリの点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
磁性体粒子と熱硬化性樹脂とを含む磁性部材形成用樹脂組成物の成形方法としては、上述の通り、トランスファー成形が一般的である。
ただし、トランスファー成形には材料ロスが生じるため、他の成形手段の検討が必要とされている。他の技術分野では、他の成形手段として圧縮成形が知られている。圧縮成形には、一般的に高い圧力が必要とされることが多いため、磁性部材形成用樹脂組成物の技術分野では使用は難しいと考えられてきた。このため、磁性部材形成用樹脂組成物の技術分野において、圧縮成形について十分な検討がなされていなかった。
【0006】
そこで、本発明者が圧縮成形の検討を進めた結果、実際には、それほど高い圧力を用いなくとも、トランスファー成形時と同程度の低い圧力を用いても、磁性部材形成用樹脂組成物の成形が可能であることが判明した。
しかしながら、磁性体粒子と熱硬化性樹脂とを含む磁性部材形成用樹脂組成物を圧縮成形したときに、樹脂バリが発生することがあった。
これに対して、本発明者はさらに検討したところ、磁性体粒子に比べて、比重が小さく、かつ、累積50%粒子径D50が小さい非磁性体粒子を併用することで、圧縮成形における樹脂バリを低減できるため、圧縮成形に好適な磁性部材形成用樹脂組成を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば、
圧縮成形に用いる磁性部材形成用樹脂組成物であって、
熱硬化性樹脂と、
磁性体粒子と、
前記磁性体粒子に比べて、比重が小さく、かつ、累積50%粒子径D50が小さい非磁性体粒子と、
を含み、
25℃で固体である、磁性部材形成用樹脂組成物が提供される。
【0008】
また本発明によれば、
圧縮成形装置を用いて、上記の磁性部材形成用樹脂組成物を金型中に配置し、前記磁性部材形成用樹脂組成物が硬化した磁性部材を得る、磁性部材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧縮成形時における樹脂バリが抑制された磁性部材形成用樹脂組成物、及びそれを用いた磁性部材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】磁性コアを備えるコイルを模式的に示す図である。
【
図2】磁性コアを備えるコイル(
図1のものとは別の態様)を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0012】
本明細書中、「略」という用語は、特に明示的な説明の無い限りは、製造上の公差や組立て上のばらつき等を考慮した範囲を含むことを表す。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0013】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0014】
本実施形態の磁性部材形成用樹脂組成物の概要を説明する。
【0015】
本実施形態の磁性部材形成用樹脂組成物は、圧縮成形に用いる磁性部材形成用樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂と、磁性体粒子と、磁性体粒子に比べて、比重が小さく、かつ、累積50%粒子径D50が小さい非磁性体粒子と、を含む。磁性部材形成用樹脂組成物は、25℃で固体である。
【0016】
本発明者の知見によれば、磁性体粒子に比べて、比重が小さく、かつ、累積50%粒子径D50が小さい非磁性体粒子を併用することによって、圧縮成形時における樹脂バリを抑制できるため、圧縮成形に好適な磁性部材形成用樹脂組成物を実現できる。
【0017】
詳細なメカニズムは定かでないが、低比重・小粒子径の非磁性体粒子は、圧縮成形時において、金型からベントに向かって、磁性体粒子に比べて流れ出やすいため、ベント中における溶融物中に非磁性体粒子が適度に分散される。非磁性体粒子が分散された溶融物は、粘度やチキソ性が高くなるため、ベントから流れ出に難くなるため樹脂バリが抑制されると、考えられる。一方で、磁性体粒子は金型中の溶融物に残存するため、その硬化物で構成された磁性部材において、鉄損や比透磁率などの磁気特性が十分に得られる、と考えられる。
【0018】
本実施形態の磁性部材形成用樹脂組成物を用いることによって、圧縮成形時における樹脂バリの発生を抑制できる。樹脂バリを低減することで、連続成形性を高めることが可能である。また、磁気特性に優れた磁性部材を成形できる。
【0019】
また、磁性部材の製造工程において、トランスファー成形と比べて、材料ロスを低減できる。また、圧縮成形による磁性部材の製造工程において、低圧成形が可能であり、磁性体粒子の高充填化が比較的に容易である。
【0020】
本実施形態の磁性部材は、各種用途に用いることができるが、たとえば、電気・電子デバイス中の磁性部品などとして好適に用いることができる。より具体的には、コイルの磁性コアなどとして好適に用いられる。
【0021】
<樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物が含むことができる成分について説明する。
【0022】
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と磁性体粉末とを含む。
【0023】
(熱硬化性樹脂)
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネートエステル樹脂、シリコーン樹脂、オキセタン樹脂(オキセタン化合物)、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。耐熱性の観点から、例えば、エポキシ樹脂を用いてもよい。
【0024】
(エポキシ樹脂)
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含んでもよい。
エポキシ樹脂は、エポキシ基を含む限り任意のものであってよい。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を挙げることができる。
エポキシ樹脂は、室温(25℃)において半硬化(固形)状のものであってもよい。
【0025】
エポキシ樹脂は、分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及び/又は150℃のICI粘度が0.1~50mPa・sの低粘度エポキシ樹脂を含んでもよい。
【0026】
特に、エポキシ樹脂は、多官能エポキシ樹脂の一例としてトリスフェニルメタン構造を含むエポキシ樹脂および、低粘度エポキシ樹脂の一例としてビスフェノール構造を含むエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含むことが好ましい。これらエポキシ樹脂の構造の適度な剛直性により、硬化挙動をより適切なものとしやすく、ひいては成形性を一層向上できると考えられる。
【0027】
(エポキシ樹脂(A1))
本実施形態の樹脂組成物は、トリアリールメタン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)(単に「エポキシ樹脂(A1)」とも表記する)を含んでもよい。
「トリアリールメタン骨格を有する」とは、具体的には、メタン(CH4)の4つの水素原子のうちの3つが芳香環で置換された部分構造を含む。ここでの「芳香環」は、ベンゼン環やナフタレン環などのベンゼン系芳香環であってもよいし、フラン、チオフェン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン等の複素芳香環であってもよい。また、3つの芳香環は、同一のものであっても異なっていてもよい。
ただし、コストの観点や、成形物(磁性部材)の機械特性などの観点からは、芳香環は、ベンゼン環やナフタレン環などのベンゼン系芳香環であることが好ましい。また、3つの芳香環は同一であることが好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂(A1)は、好ましくは、以下一般式(a1)で表される構造単位を有する。一般式(a1)で表される構造単位が2つ以上連なることで、トリアリールメタン骨格(トリフェニルメタン骨格)が構成される。
エポキシ樹脂(A1)として、一般式(a1)で表される構造単位を有するものを用いることで、特に、磁性部材を形成したときの良好な耐熱性の効果をより確実に得ることができる。
【0029】
【0030】
一般式(a1)において、
R11は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
R12は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
iは、0~3の整数であり、
jは、0~4の整数である。
【0031】
R11およびR12の1価の置換基としては、1価の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基等を挙げることができる。
【0032】
1価の有機基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基などを挙げることができる。1価の有機基の炭素数は、例えば1~30、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~6である。
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基の例としては、アリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基の例としては、エチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基の例としては、メチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基の例としては、トリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基の例としては、トリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基の例としては、アダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基の例としては、エポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
【0033】
iおよびjは、それぞれ独立に、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。
一態様として、iおよびjはともに0である。つまり、一態様として、一般式(a1)中のベンゼン環の全ては、1価の置換基としては、明示されたグリシジルオキシ基以外の置換基を有しない。
【0034】
エポキシ樹脂(A1)の数平均分子量は、特に限定されないが、典型的には200~700程度である。なお、数平均分子量は、通常、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0035】
(エポキシ樹脂(A2))
本実施形態の樹脂組成物は、以下一般式(a2-1)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂および以下一般式(a2-2)で表される構造のビスフェノール型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種のエポキシ樹脂(A2)(単に「エポキシ樹脂(A2)」とも表記する)を含んでもよい。
【0036】
【0037】
一般式(a2-1)中、
Cyは脂環構造を含む2価の有機基を表し、
R21は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
lは、0~3の整数である。
【0038】
【0039】
一般式(a2-2)中、
2つのRはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、
R22は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
R23は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
pおよびqは、それぞれ独立に、0~4の整数である。
【0040】
一般式(a2-1)におけるCyが含む脂環構造は、特に限定されず、単環構造であっても多環構造であってもよい。溶融時の適度な粘度や、得られる磁性部材の機械物性などの観点からは、多環構造を含むことが好ましい。
Cyの炭素数は、典型的には5~20、好ましくは6~18、より好ましくは6~15である。
【0041】
脂環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環、シクロドデカン環などの単環の脂環(3~15員、好ましくは5~6員程度のシクロアルカン環等)を挙げることができる。
また、デカリン環(パーヒドロナフタレン環)、パーヒドロインデン環(ビシクロ[4.3.0]ノナン環)、パーヒドロアントラセン環、パーヒドロフルオレン環、パーヒドロフェナントレン環、パーヒドロアセナフテン環、パーヒドロフェナレン環、ノルボルナン環(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環)、イソボルナン環、アダマンタン環、ビシクロ[3.3.0]オクタン環、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカン環などの、多環の脂環(橋架け炭素環)も挙げることができる。なお、「多環」とは、好ましくは2~4環程度のことをいう。
Cyは、例えばこれらの単環または多環の脂環から2つの水素原子を除いた2価の基であることができる。
【0042】
Cyが含む脂環構造は、置換基を有していてもいなくてもよい。例えば、脂環構造中の水素原子の1つ以上が、任意の置換基により置換されていてもよい。置換基としては、例えば、一般式(a1)におけるR11およびR12の1価の置換基として説明したものを挙げることができる。
また、Cyは、カルボニル構造(=O)などを含んでいてもよい。
【0043】
なお、Cyは、脂環構造そのものであってもよいし、脂環構造とその他の構造を有していてもよい。例えば、脂環構造は、直接(単結合により)ベンゼン環に結合していてもよいし、任意の連結基を介してベンゼン環に結合していてもよい。
後者の場合をより具体的に説明すると、一般式(a2-1)の-Cy-の部分は、-Cy'-L-と表すことができる。ここで、Cy'は脂環(具体例としては前掲の単環または多環の脂環)、Lは2価の連結基である。Lの2価の連結基としては、アルキレン基(例えば炭素数1~6)、シクロアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、これらの2つ以上が連結した基などを挙げることができる。
【0044】
一般式(a2-1)におけるR21の1価の置換基の具体例としては、一般式(a1)におけるR11およびR12の1価の置換基として説明したものと同様のものを挙げることができる。
【0045】
一般式(a2-1)において、lは、好ましくは0~2、より好ましくは0~1である。
一態様として、lは0である。つまり、一態様として、一般式(a2-1)中のベンゼン環は、1価の置換基としては、明示されたグリシジルオキシ基以外の置換基を有しない。
【0046】
一般式(a2-2)におけるR22およびR23の1価の置換基の具体例としては、一般式(a1)におけるR11およびR12の1価の置換基として説明したものと同様のものを挙げることができる。ここで、R22およびR23の1価の置換基としては、アルキル基が好ましく、直鎖または分枝状の炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0047】
一般式(a2-2)におけるpおよびqは、それぞれ独立に、好ましくは0~3、より好ましくは0~2である。
なお、溶融時の適度な流動性の観点などから、2つのRがメチル基である場合には、pおよびqは好ましくは0であり、2つのRが水素原子である場合には、pおよびqは好ましくは1または2である。
【0048】
一般式(a2-1)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂の数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算値)は、特に限定されないが、例えば200~400である。
【0049】
ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂とは、具体的には、2つのベンゼン環が単結合で連結している構造を含むエポキシ樹脂のことである。ここでのベンゼン環は、置換基を有していてもいなくてもよい。
具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP)で表される部分構造を有する。
【0050】
【0051】
一般式(BP)において、
RaおよびRbは、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
rおよびsは、それぞれ独立に、0~4であり、
*は、他の原子団と連結していることを表す。
【0052】
RaおよびRbの1価の有機基の具体例としては、後述の一般式(AM)におけるR1、R2およびR3の1価の有機基として列挙されているものを挙げることができる。
rおよびsは、それぞれ独立に、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。一態様として、rおよびsはともに0である。
【0053】
より具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP1)で表される構造単位を有する。
【0054】
【0055】
一般式(BP1)において、
RaおよびRbの定義および具体的態様は、一般式(BP)と同様であり、
rおよびsの定義および好ましい範囲は、一般式(BP)と同様であり、
Rcは、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
tは、0~3の整数である。
【0056】
Rcの1価の有機基の具体例としては、後述の一般式(AM)におけるR1、R2およびR3の1価の有機基として列挙されているものを挙げることができる。
tは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。
【0057】
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ樹脂として150℃でのICI粘度が低いものを含んでもよい。
樹脂組成物は、150℃でのICI粘度が、より好ましくは0.1~50mPa・s、さらに好ましくは0.5~45mPa・s、特に好ましくは1~40mPa・sのエポキシ樹脂を含んでもよい。このような数値範囲のICI粘度を有するエポキシ樹脂として、エポキシ樹脂(A2)が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
ICI粘度の測定装置としては、エム.エス.ティー.エンジニアリング株式会社などのICIコーンプレート粘度計を使用することができる。
【0059】
エポキシ樹脂の分子量(数平均分子量)は、特に限定されないが、例えば100~3,000、好ましくは100~2,000、より好ましくは100~1,000程度である。
【0060】
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ樹脂を1種のみ含んでもよいし、2種類以上含んでもよい。また、同種のエポキシ樹脂であっても異なる重量平均分子量のものを併用してもよい。
樹脂組成物中のエポキシ樹脂の量は、樹脂組成物全体を基準として、例えば0.1~20質量%であり、好ましくは0.5~10質量%である。
また、エポキシ樹脂の含有量は、樹脂組成物全体を基準として、例えば1~30体積%であり、好ましくは5~25体積%である。
【0061】
エポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)の量比を適切に調整することで、耐熱性、成形性および耐ブロッキング性の鼎立をより高度なレベルで実現することができる。
具体的には、エポキシ樹脂(A1)が有するエポキシ基のモル数をM1とし、エポキシ樹脂(A2)が有するエポキシ基のモル数をM2としたとき、M1/M2の値は、例えば、0.2~1.8、好ましくは0.5~1.5、より好ましくは0.6~1.4、さらに好ましくは0.8~1.2である。
なお、M1/M2の値は、エポキシ樹脂(A1)およびエポキシ樹脂(A2)の分子量やエポキシ当量などから、モル計算により求めることができる。
また、樹脂組成物が多官能エポキシ樹脂及びビスフェノール型エポキシ樹脂を含む場合、上記M1/M2中、M1は多官能エポキシ樹脂が有するエポキシ基のモル数とし、M2は、ビスフェノール型エポキシ樹脂が有するエポキシ基のモル数としてよい。
【0062】
樹脂組成物中の、エポキシ樹脂(A1)およびエポキシ樹脂(A2)の合計量は、樹脂組成物全体を基準として、例えば0.1~20質量%であり、好ましくは0.5~10質量%である。
樹脂組成物中の、エポキシ樹脂(A1)およびエポキシ樹脂(A2)の合計量は、樹脂組成物全体を基準として、例えば1~30体積%であり、好ましくは5~25体積%である。
このような数値範囲とすることにより、成形性を一層向上させることができ、得られる硬化物(磁性部材)の機械特性や磁気特性を一層向上させることができる。
【0063】
本実施形態の樹脂組成物は、硬化剤を含んでもよい。硬化剤は、熱硬化性樹脂と反応するものであれば特に限定されない。熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂が用いられる場合、硬化剤は、たとえば、フェノール樹脂または芳香族ジアミンを用いてもよい。
【0064】
(フェノール系硬化剤)
本実施形態の樹脂組成物は、フェノール系硬化剤を含んでもよい。
フェノール系硬化剤は、フェノール性ヒドロキシ基を含み、エポキシ樹脂(A1)および/またはエポキシ樹脂(A2)と反応しうるものである限り、特に限定されない。フェノール系硬化剤は、低分子であっても高分子であってもよい。
【0065】
本実施形態の樹脂組成物は、トリアリールメタン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)と、上記一般式(a2-1)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂および上記一般式(a2-2)で表される構造のエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種のエポキシ樹脂(A2)と、フェノール系硬化剤(B)とを含んでもよい。
【0066】
フェノール系硬化剤は、好ましくは、ビフェニル骨格、ノボラック骨格、及びトリフェニルメタン骨格からなる群より選ばれるいずれかの骨格を含む。フェノール系硬化剤がこれらの骨格のいずれかを含むことで、特に磁性部材の耐熱性を高めることができる。
【0067】
「ビフェニル骨格」とは、2つのベンゼン環が単結合を介して連結された骨格のことを言う。より具体的には以下一般式(BP)で表される骨格である。
【0068】
【0069】
一般式(BP)において、
R1およびR2は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
rおよびsは、それぞれ独立に、0~4であり、
*は、他の原子団と連結していることを表す。
【0070】
R1およびR2の1価の置換基の具体例としては、一般式(a1)におけるR11およびR12の1価の置換基として説明したものと同様のものを挙げることができる。
rおよびsは、それぞれ独立に、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。一態様として、rおよびsはともに0である。
【0071】
ビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤として、具体的には以下一般式(BP1)で表される構造単位を有するものを挙げることができる。
【0072】
【0073】
一般式(BP1)において、
R1およびR2の定義および具体例は、一般式(BP)と同様であり、
rおよびsの定義および好ましい範囲は、一般式(BP)と同様であり、
R3は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
tは、0~3の整数である。
【0074】
R3の1価の置換基の具体例としては、一般式(a1)におけるR11およびR12の1価の置換基として説明したものと同様のものを挙げることができる。
tは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。
【0075】
ノボラック骨格を有するフェノール系硬化剤として、具体的には以下一般式(N)で表される構造単位を有するものを挙げることができる。
【0076】
【0077】
一般式(N)において、
R4は、1価の置換基を表し、
uは、0~3の整数である。
【0078】
R4の1価の置換基の具体例としては、一般式(a1)におけるR11およびR12の1価の置換基として説明したものと同様のものを挙げることができる。
uは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1であり、更に好ましくは0である。
【0079】
フェノール系硬化剤が高分子またはオリゴマーである場合、フェノール系硬化剤の数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算値)は、特に限定されないが、例えば200~800程度である。
【0080】
樹脂組成物中のフェノール系硬化剤の含有量は、樹脂組成物全体を基準として、例えば0.1~20質量%、好ましくは0.5~10質量%である。
また、樹脂組成物中のフェノール系硬化剤の含有量は、樹脂組成物全体を基準として、例えば、1~30体積%、好ましくは5~25体積%である。
フェノール系硬化剤の量を適切に調整することにより、成形性を一層向上させることができ、得られる硬化物(磁性部材)の機械特性や磁気特性を向上させることができる。
【0081】
(芳香族ジアミン)
本実施形態の樹脂組成物は、芳香族ジアミンを含んでもよい。
芳香族ジアミンとしては、一分子中に、1つ以上の芳香環構造と2つのアミノ基(-NH2)を有する化合物であれば、特に限定なく用いることができる。芳香族ジアミンとして好ましくは、アミノ基が芳香環に直結している構造を有するものである。
【0082】
エポキシ樹脂と、芳香族ジアミンと、磁性体粒子とを含む樹脂組成物により、成形性と耐熱性の両方を良好とできる理由は、必ずしも明らかではないが、おそらくは、(1)エポキシ樹脂が有するエポキシ基と、芳香族ジアミンのアミノ基との反応速度が適当であることにより適度な流動性が得られることと、(2)溶融した樹脂組成物が硬化した後においては、エポキシ樹脂-芳香族ジアミンの架橋構造や芳香族ジアミン自体の剛直な芳香環骨格等によりガラス転移温度が高くなる(硬化物中の分子の熱運動が制限される)ことが関係していると推定される。
なお、この推定により本発明が限定されるものではない。
【0083】
芳香族ジアミンの選択にあたっては、融点を1つの参考とすることができる。適当な融点の芳香族ジアミンを用いることで、樹脂組成物の混練/成形の際に、芳香族ジアミンが適切に溶融する。これにより、流動性をより良好とすることができる。また、樹脂組成物をより均一に混練できることとなるため、最終的に得られる硬化物(磁性部材)の耐熱性や機械物性(強度など)を高められるとも考えられる。
具体的には、芳香族ジアミンの融点は、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。
芳香族ジアミンの融点の下限値は特にないが、例えば60℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。
なお、芳香族ジアミンとして市販品を用いる場合、融点についてはカタログ値を採用することができる。
【0084】
ちなみに、芳香族ジアミンは、常温(25℃)において固体であり、液体ではないことが好ましい。また、本実施形態の樹脂組成物は、芳香族ジアミン以外のアミン化合物を含んでもよいが、そのアミン化合物も、常温(25℃)においては固体であり、液体ではないことが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、典型的には粒状やタブレット状に調製される。その調製のやりやすさや、調製により得られた粒状またはタブレット状の樹脂組成物の取り扱い性の観点などから、芳香族ジアミン(および、場合によっては芳香族ジアミン以外のアミン化合物)は、常温で固体であることが好ましい。
【0085】
樹脂組成物は、芳香族ジアミンとして、以下一般式(AM)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0086】
【0087】
一般式(AM)において、
Xは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、単結合、直鎖または分岐のアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル基およびこれらのうち2以上が連結された基からなる群より選択されるいずれかの基であり、
Yは、単結合、直鎖または分岐のアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル基およびこれらのうち2以上が連結された基からなる群より選択されるいずれかの基であり、
R1、R2およびR3は、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
k、lおよびmは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、
nは、0以上の整数である。
【0088】
XおよびYの直鎖または分岐のアルキレン基としては、炭素数1~6のものが好ましく、炭素数1~3のものがより好ましい。
なお、XおよびYの一部または全部が分岐のアルキレン基であることにより、芳香族ジアミンの骨格を適度に剛直とすることができる。このことは、上述の「融点」を適切とすることとも関連すると考えられる。また、芳香族ジアミンの骨格が適度に剛直であることで、硬化物(磁性部材)の耐熱性の一層の向上、機械強度の向上などの効果も得られると考えられる。
【0089】
R1、R2およびR3の1価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基などを挙げることができる。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、例えばアリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、例えばエチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基としては、例えばメチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばトリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基としては、例えばトリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基としては、例えばエポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
R1、R2およびR3の1価の有機基の総炭素数は、それぞれ、例えば1~30、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、特に好ましくは1~6である。
【0090】
k、lおよびmは、それぞれ独立に、好ましくは0または1の整数である。
一態様として、k、lおよびmは、全て0である。つまり、一態様として、一般式(AM)中のベンゼン環の全ては、アミノ基以外の原子団により置換されていない。
nは、好ましくは0~3、より好ましくは0~2である。
【0091】
芳香族ジアミンの具体例を以下に示す。なお、芳香族ジアミンは以下にのみ限定されるものではない。また、当然ながら、後述の実施例で用いられている1,3-ビス[1-(4-アミノフェニル)-1-メチルエチル]ベンゼン、2,2'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンなどを挙げることもできる。
【0092】
【0093】
芳香族ジアミンについては、市販品を用いてもよい。芳香族ジアミンは、例えば、セイカ株式会社、三井化学ファイン株式会社、富士フイルム和光純薬株式会社などから入手することができる。
【0094】
本実施形態の樹脂組成物は、芳香族ジアミンを1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
樹脂組成物中の芳香族ジアミンの量は、樹脂組成物全体を基準として、例えば0.1~20質量%、好ましくは0.5~10質量%である。
また、樹脂組成物中の芳香族ジアミンの量は、樹脂組成物全体を基準として、例えば1~30体積%、好ましくは5~25体積%である。このような数値範囲とすることにより、成形性および機械的特性を向上させることができる。
【0095】
なお、組成物中の芳香族ジアミンの量は、エポキシ樹脂との関係で適切に調整されることが好ましい。
具体的には、芳香族ジアミンが有するアミノ基のモル数に対する、エポキシ樹脂が有するエポキシ基のモル数の比(つまり、エポキシ樹脂が有するエポキシ基のモル数/芳香族ジアミンが有するアミノ基のモル数)が、好ましくは1~3、より好ましくは1.5~2.5、さらに好ましくは1.7~2.3である。
1つのアミノ基(-NH2)は、2つのエポキシ基と反応しうる。よって、上述の比が2前後となるようにエポキシ樹脂と芳香族ジアミンの量比を調整することで、硬化時のアミノ基とエポキシ基の架橋構造がより密とすることができると考えられる。そして、硬化物(磁性部材)のガラス転移温度を高め、耐熱性を高めることができると考えられる。
なお、上述の比は、組成物中に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ当量またはエポキシ価、エポキシ樹脂の分子量(これらは通常エポキシ樹脂のカタログに示されている)、芳香族ジアミンの分子量などから計算して求めることができる。
【0096】
(磁性体粒子)
本実施形態の樹脂組成物は、磁性体粒子を含む。
磁性体粒子としては、本実施形態の樹脂組成物を用いて作製した成形物が磁性を示す限りにおいて、任意のものを用いることができる。
【0097】
磁性体粒子は、好ましくは、Fe、Cr、Co、Ni、AgおよびMnからなる群より選択される1種または2種以上の元素を含む。これらの磁性体粒子のいずれかを選択することで、磁気特性をより高めることができる。
特に、磁性体粒子としてFeを85質量%以上含むものを用いることで、磁気特性を一層高めることができる。
【0098】
本実施形態では、磁性体粒子は、鉄基粒子を含む。
なお、鉄基粒子とは、鉄原子を主成分とする(化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い)粒子のことを言い、より具体的には化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い鉄合金のことをいう。
【0099】
鉄基粒子は、鉄基アモルファス粒子を含むものであればよく、鉄基アモルファス粒子のみで構成されてもよいが、鉄基アモルファス粒子および鉄基結晶粒子を含んでもよい。また、鉄基粒子としては、1種の化学組成からなるものを用いてもよいし、異なる化学組成のものを2種以上併用してもよい。
【0100】
鉄基粒子としてより具体的には、軟磁性を示し、鉄原子(Fe)の含有率が85質量%以上である粒子(軟磁性鉄高含有粒子)を用いることができる。なお、軟磁性とは、保磁力が小さい強磁性のことを指し、一般的には、保磁力が800A/m以下である強磁性のことを軟磁性という。
【0101】
このような粒子の構成材料としては、構成元素としての鉄の含有率が85質量%以上である金属含有材料が挙げられる。このように構成元素としての鉄の含有率が高い金属材料は、透磁率や磁束密度等の磁気特性が比較的良好な軟磁性を示す。このため、成形されたとき、良好な磁気特性を示し得る樹脂組成物が得られる。
【0102】
上記の金属含有材料の形態としては、例えば、単体の他、固溶体、共晶、金属間化合物のような合金等が挙げられる。このような金属材料で構成された粒子を用いることにより、鉄に由来する優れた磁気特性、すなわち、高透磁率や高磁束密度等の磁気特性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0103】
また、上記の金属含有材料は、構成元素として鉄以外の元素を含んでいてもよい。鉄以外の元素としては、例えば、B、C、N、O、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0104】
上記の金属含有材料の具体例としては、例えば、純鉄、ケイ素鋼、鉄-コバルト合金、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、鉄-アルミニウム合金、カルボニル鉄、ステンレス鋼、またはこれらのうちの1種もしくは2種以上を含む複合材料等が挙げられる。入手性、磁気特性などの観点からケイ素鋼粉末を好ましく用いることができる。
【0105】
上記では鉄基粒子を中心に説明したが、もちろん、磁性体粒子はそれ以外の粒子であってもよい。例えば、Ni基軟磁性粒子、Co基軟磁性粒子等を含む磁性体粒子であってもよい。
【0106】
また、磁性体粒子は、表面処理が施されていてもよい。例えば、表面をカップリング剤で処理したり、プラズマ処理したりすることが挙げられる。このような表面処理により、磁性体粒子の表面に官能基を結合させることが可能である。官能基は、これらの粒子表面の一部または全面を被覆することができる。
このような官能基としては、下記一般式(1)で表される官能基を用いることができる。
*-O-X-R ・・・(1)
[式中、Rは、有機基を表し、Xは、Si、Ti、Al、またはZrであり、*は、磁性体粒子を構成する原子の1つである。]
【0107】
上記官能基は、例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤等の公知のカップリング剤による表面処理によって形成された残基であるが、シラン系カップリング剤およびチタン系カップリング剤からなる群より選択されるカップリング剤の残基であることが好ましい。これにより、磁性体粒子を樹脂組成物に配合して樹脂組成物としたとき、その流動性をより高めることができる。
【0108】
カップリング剤で表面処理する場合、その方法としては、磁性体粒子をカップリング剤の希釈溶液に浸漬したり、磁性体粒子にカップリング剤を直接噴霧したりする方法が挙げられる。
カップリング剤の使用量は、磁性体粒子の100質量部に対して、例えば、0.01~1質量部であるのが好ましく、0.05~0.5質量部であるのがより好ましい。
カップリング剤と磁性体粒子を反応させるときの溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。また、このときのカップリング剤の使用量は、溶媒100質量部に対して、0.1~2質量部であるのが好ましく、0.5~1.5質量部であるのがより好ましい。
カップリング剤と磁性体粒子との反応時間(例えば希釈溶液への浸漬時間等)は、1~24時間であることが好ましい。
【0109】
また、上述したような官能基を結合させる際には、磁性体粒子に対する表面処理の一環として、あらかじめプラズマ処理を施してもよい。例えば、酸素プラズマ処理を施すことにより、磁性体粒子の表面にOH基が生じて、酸素原子を介した磁性体粒子とカップリング剤の残基との結合が容易になる。これにより、より強固に官能基を結合させることができる。
【0110】
ここでのプラズマ処理は、酸素プラズマ処理であるのが好ましい。これにより、磁性体粒子の表面に対して効率よくOH基を修飾することができる。
酸素プラズマ処理の圧力は、特に限定されないが、100~200Paであることが好ましく、120~180Paであることがより好ましい。
酸素プラズマ処理における処理ガスの流量は、特に限定されないが、1000~5000mL/分であることが好ましく、2000~4000mL/分であることがより好ましい。
酸素プラズマ処理の出力は、特に限定されないが、100~500Wであることが好ましく、200~400Wであることがより好ましい。
酸素プラズマ処理の処理時間は、上述の各種条件に応じて適宜設定されるが、5~60分であることが好ましく、10~40分であることがより好ましい。
【0111】
また、酸素プラズマ処理を施す前に、さらにアルゴンプラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、磁性体粒子の表面にOH基を修飾するための活性点を形成することができるので、OH基の修飾をより効率よく行うことができる。
【0112】
アルゴンプラズマ処理の圧力は、特に限定されないが、10~100Paであることが好ましく、15~80Paであることがより好ましい。
アルゴンプラズマ処理における処理ガスの流量は、特に限定されないが、10~100mL/分であることが好ましく、20~80mL/分であることがより好ましい。
アルゴンプラズマ処理の出力は、100~500Wであることが好ましく、200~400Wであることがより好ましい。
アルゴンプラズマ処理の処理時間は、5~60分であることが好ましく、10~40分であることがより好ましい。
【0113】
なお、磁性体粒子とカップリング剤の残基とが酸素原子を介して結合していることは、例えばフーリエ変換赤外分光光度計によって確認することができる。
また、上述したような表面処理は、樹脂組成物中に含まれるすべての粒子に施されてもよく、一部の粒子のみに施されてもよい。
【0114】
また、上述した表面処理の下地には、別のコート処理が施されてもよい。かかるコート処理としては、例えば、シリコーン樹脂のような樹脂コートの他、リン酸コート、シリカコート等が挙げられる。このようなコート処理が施されることにより、磁性体粒子の絶縁性をより高めることができる。このようなコート処理は、必要に応じて施されればよく、省略されてもよい。このコート処理は、上述した表面処理の下地としてではなく、単独で施されていてもよい。
【0115】
磁性体粒子は、別観点として、真円(真球)に近い形状であることが好ましい。これにより、粒子同士の摩擦が少なくなり、流動性を一層高めることができると考えられる。
具体的には、以下で定義される「真円度」を、磁性体粒子の任意の10個以上(好ましくは50個以上)について求め、その値を平均することで求められる平均真円度が0.60以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましい。
真円度の定義:磁性体粒子の輪郭を走査型電子顕微鏡で観察したときの、当該輪郭から求められる等面積円相当径をReq、当該輪郭に外接する円の半径をRcとしたときの、Req/Rcの値。
【0116】
また、鉄基粒子の、体積基準におけるメジアン径D50(平均粒子径)は、たとえば、0.5~100μm以下、好ましくは1.0~75μm、より好ましくは3.1~60μmである。粒径(メジアン径)を適切に調整することで、成形時の流動性を更に良好にしたり、磁性性能を向上させたりすることができる。鉄基アモルファス粒子の平均粒子径も、鉄基粒子の平均粒子径の上記数値範囲内としてもよい。
良好な流動性や、高充填による磁性性能の向上の観点などから、磁性体粒子の粒径は適宜調整されることが好ましい。
【0117】
本実施形態の樹脂組成物は、平均粒子径が異なる2種以上の鉄基粒子を含んでもよい。これにより、鉄基粒子の高充填化を図ることが可能になり、磁気特性や機械的強度を高められる。
【0118】
また、本実施形態の樹脂組成物は、平均粒子径が異なる2種以上の鉄基粒子を含んでもよい。これによって、さらに磁気特性を向上できる。たとえば、D50が30μm以上100μm以下の第一鉄基粒子と、D50が3.0μm超30μm未満の第二鉄基粒子とを併用してもよい。
【0119】
なお、メジアン径D50は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により得ることができる。具体的には、HORIBA社製の粒子径分布測定装置「LA-950」により、磁性体粒子を乾式で測定することで粒子径分布曲線を得、この分布曲線を解析することでD50を求めることができる。
【0120】
樹脂組成物中の鉄基粒子(磁性体粒子)の含有量は、樹脂組成物全体を基準として、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは93質量%以上である。樹脂組成物中の鉄基粒子(磁性体粒子)の含有量の上限については、現実的に樹脂組成物の流動性を確保する点などから、例えば99質量%以下である。鉄基粒子の含有量を十分多くすることで、磁気性能(透磁率や鉄損など)を向上させることができる。
【0121】
また、体積基準において、樹脂組成物中の磁性体粒子の含有量は、樹脂組成物全体を基準として、好ましくは60体積%以上、より好ましくは70体積%以上、さらに好ましくは80体積%以上である。これの上限については、現実的に樹脂組成物の流動性を確保する点などから、例えば95体積%以下である。
【0122】
(非磁性体粒子)
本実施形態の樹脂組成物は、流動性の調整などの観点で、非磁性を示す非磁性体粒子を含んでもよい。
非磁性体粒子には、磁性体粒子に比べて、比重が小さく、かつ、累積50%粒子径D50が小さい粒子が用いられる。
なお、本明細書において、非磁性とは、強磁性を有さないことを指す。
【0123】
樹脂組成物が非磁性体粒子を含むことで、圧縮成形時における樹脂バリの発生が抑制される。このため、樹脂組成物の連続成形性がより良好となる。したがって、成形不良の少ない成形体が得られる。
【0124】
非磁性体粒子の構成材料としては、例えば、セラミックス材料、ガラス材料等が挙げられる。このうち、セラミックス材料を含むものが好ましく用いられる。このような非磁性体粒子は、熱硬化性樹脂との親和性が高いため、樹脂組成物の流動性を維持することができる。
【0125】
セラミックス材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、カルシア等の酸化物系セラミックス材料、窒化ケイ素、窒化アルミニウムのような窒化物系セラミックス材料、炭化ケイ素、炭化ホウ素のような炭化物系セラミックス材料等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、非磁性体粒子は、シリカ粒子やアルミナ粒子を含んでもよい。
【0126】
また、セラミックス材料は、シリカを含むのが好ましい。シリカは、熱硬化性樹脂との親和性が高く、絶縁性が高いため、非磁性体粒子の構成粒子として有用である。このため、非磁性体粒子はシリカ粒子を含んでもよい。
【0127】
非磁性体粒子の比重は、1.5~6.0であるのが好ましく、1.7~5.0であるのがより好ましく、1.8~4.5であるのがさらに好ましい。このような非磁性体粒子は、比重が小さいため、樹脂組成物の溶融物とともに流動し易い。このため、成形時において樹脂組成物の溶融物が成形型の隙間等に向かって流動するとき、その溶融物とともに非磁性体粒子が流れ易くなる。
【0128】
磁性体粒子や非磁性体粒子の比重は、気相置換法による粉体密度計を用いて測定できる。
【0129】
非磁性体粒子の、体積基準の粒子径分布曲線における累積50%の粒子径D50(メジアン径)の下限は、例えば、0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.15μm以上である。これにより、樹脂組成物の粘度の上昇を抑制できる。一方、上記非磁性体粒子の粒子径D50の上限は、例えば、3.0μm以下、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは2.0μm以下である。これにより、樹脂バリを抑制できる。また、上記の粒子径は、前述の「染み出し」を防ぐのに好ましい粒子径であって、かつ、樹脂組成物の溶融物とともに流れ易い粒子径である。
【0130】
また、非磁性体粒子の、体積基準の粒子径分布曲線における累積50%粒子径D50値は、3.0μm以下であってかつ磁性体粒子のD50より小さければ好ましいが、その差が1.0μm以上であるとより好ましく、1.5μm以上であるのがさらに好ましく、2.0μm以上であるのが特に好ましい。
【0131】
非磁性体粒子は、各種の形状のものを使用できるが、樹脂組成物の粘度の上昇を抑制する観点から、球状のものを使用することが好ましい。
【0132】
また、非磁性粒子の平均真円度(この定義は、磁性体粒子におけるものと同じである)は特に限定されないが、0.50~1であるのが好ましく、0.75~1であるのがより好ましい。真円度がこの範囲内であることにより、非磁性体粒子自体の転がりを活かして樹脂組成物の流動性を確保できる一方、非磁性体粒子が隙間等に詰まり易くなって熱硬化性樹脂の染み出しを抑制し易くなる。すなわち、樹脂組成物の流動性と、熱硬化性樹脂の染み出しの抑制と、を両立させることができる。
【0133】
非磁性体粒子は、表面処理が施されていてもよい。例えば、表面をカップリング剤で処理する方法を用いてもよい。
カップリング剤として、例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤等の公知のカップリング剤を用いてもよい。この中でも、シラン系カップリング剤、またはチタン系カップリング剤を用いてもよい。これにより、非磁性体粒子を樹脂組成物に配合して樹脂組成物としたとき、その流動性をより高めることができる。
【0134】
非磁性体粒子の含有量は、比重に応じて適切に選択されるが、樹脂組成物全体を基準として、質量換算で、例えば、0.1~5.0質量%が好ましく、0.5~3.0質量%がより好ましい。これにより、磁気特性の低下や樹脂バリの発生を抑制できる。
【0135】
非磁性体粒子の含有量の下限は、体積換算で、非磁性体粒子および磁性体粒子の合計100体積%中、例えば、1体積%以上、好ましくは1.5体積%以上、より好ましくは2体積%以上である。これにより、樹脂バリの発生を抑制できる。一方、上記非磁性体粒子の含有量の下限は、体積換算で、非磁性体粒子および磁性体粒子の合計100体積%中、例えば、10体積%以下、好ましくは7体積%以下、より好ましくは5体積%以下である。これにより、磁気特性の低下を抑制できる。
【0136】
また、非磁性体粒子および磁性体粒子の含有量の下限は、体積換算で、樹脂組成物100体積%中、例えば、60体積%以上、好ましくは70体積%以上、より好ましくは75体積%以上である。これにより、磁気特性を向上できる。一方、上記非磁性体粒子および磁性体粒子の含有量の上限は、体積換算で、樹脂組成物100体積%中、例えば、95体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは83体積%以下である。これにより、樹脂組成物の流動性を確保でき、良好な成形品を得ることができる。
【0137】
本実施形態の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、硬化剤、磁性体粒子及び磁性体粒子以外の任意の成分を含んでもよい。以下、任意成分について説明する。
【0138】
(離型剤)
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含んでもよい。これにより、成形時の樹脂組成物の離型性を高めることができる。
離型剤としては、例えばカルナバワックス等の天然ワックス、モンタン酸エステルワックスや酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類、ならびにパラフィン等が挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
離型剤を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物全体を基準として、好ましくは0.01~3質量%であり、より好ましくは0.05~2質量%である。これにより、離型性向上の効果を確実に得ることができる。
【0140】
(硬化触媒)
本実施形態の樹脂組成物は、硬化触媒を含んでもよい。これにより、樹脂組成物の硬化性を向上させることができる。
【0141】
硬化触媒としては、エポキシ樹脂の硬化反応を促進させるものであれば任意のものを用いることができる。例えば、公知のエポキシ硬化触媒を用いることができる。
具体的には、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2-メチルイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化触媒);1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物などを挙げることができる。
【0142】
硬化触媒を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
硬化触媒を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.03~0.5質量%である。このような数値範囲とすることにより、十分に硬化性向上の効果が得られる。
【0143】
(熱可塑性樹脂)
本実施形態の樹脂組成物は、流動性や成形性の調整の観点などから、熱可塑性樹脂を含んでもよい。
【0144】
熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン等)、熱可塑性ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。
【0145】
熱可塑性樹脂を用いる場合は、1種を単独で用いてもよいし、異なる2種以上を併用してもよい。また、同種の樹脂であっても異なる重量平均分子量の2種以上を併用してもよい。さらに、ある樹脂と、そのプレポリマーとを併用してもよい。
熱可塑性樹脂を用いる場合、その量は、樹脂組成物全体を基準として、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。これにより、流動性や成形性の調整効果を十分に得られると考えられる。
【0146】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物は、上述した成分以外の成分を含んでいてもよい。例えば、本実施形態の樹脂組成物は、低応力剤、カップリング剤、密着助剤、着色剤、酸化防止剤、耐食剤、染料、顔料、難燃剤等を含んでもよい。
【0147】
低応力剤としては、ポリブタジエン化合物、アクリロニトリルブタジエン共重合化合物、シリコーンオイル、シリコーンゴム等のシリコーン化合物が挙げられる。低応力剤を用いる場合、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0148】
カップリング剤としては、上述の、磁性体粒子の表面処理に用いられるカップリング剤を用いることができる。例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニア系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。カップリング剤を用いる場合、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0149】
80℃~250℃の範囲で測定したときの磁性部材形成用樹脂組成物の最低溶融粘度は、例えば、50Pa・s以上500Pa・s以下、好ましくは60Pa・s以上450Pa・s以下、好ましくは70Pa・s以上400Pa・s以下である。溶融粘度を上記上限値以下とすることにより、流動性を高め、優れた成形性を実現することができる。また、溶融粘度を上記下限値以上とすることにより、圧縮成形時に金型から樹脂漏れが発生することを抑制でき、圧縮成形時に樹脂組成物中の磁性体粉末が沈降してしまうことを抑制できる。
【0150】
80℃~250℃の範囲で測定したときの磁性部材形成用樹脂組成物の溶融粘度が最小となる温度は、例えば、100℃以上150℃以下、好ましくは105℃以上145℃以下、より好ましくは110℃以上140℃以下の範囲内にある。このような範囲内とすることにより、圧縮成形時における粘度を適切に制御することが可能である。
【0151】
(樹脂組成物の性状や製造方法など)
本実施形態の樹脂組成物は、室温25℃において固形である。
本実施形態の樹脂組成物の性状は、粉末状、または顆粒状等とすることができる。
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、まず(1)各成分をミキサーを用いて混合し、(2)その後、ロールを用いて混練物を得、(3)そして得られた混練物を冷却後粉砕することにより製造することができる。(以上により、粉末状の樹脂組成物を得ることができる。)
【0152】
<磁性部材の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、圧縮成形法により、所望の形状に成形される。
圧縮成形装置を用いて、上述の樹脂組成物を金型中に配置し、それが硬化した磁性部材を得ることができる。成形物は、電気・電子デバイス中の磁性部品などとして好適に用いることができる。より具体的には、成形物は、コイル(用途や目的により、リアクトルやインダクタなどとも呼ばれる)の磁性コアなどとして好適に用いられる。
【0153】
圧縮成形における各種条件は、任意に設定することができる。例えば、予熱の温度は60~100℃、溶融の際の加熱温度は150~200℃、金型温度は150~200℃、金型に樹脂組成物の溶融物を注入する際の圧力は1~20MPaの間で適宜調整することができる。
【0154】
<磁性部材およびコイル>
本実施形態の樹脂組成物により形成された磁性部材(本実施形態の樹脂組成物を硬化させて形成した磁性部材)、および、その磁性部材を磁性コアまたは外装部材として備えるコイルの態様について説明する。
【0155】
(第1の態様)
図1(a)および
図1(b)は、本実施形態の樹脂組成物の硬化物で構成された磁性コアを備えるコイル100(リアクトル)を模式的に示した図である。
図1(a)は、上面から見たコイル100の概要を示す。
図1(b)は、
図1(a)におけるA-A'断面視における断面図を示す。
【0156】
コイル100は、
図1に示されるように、巻線10および磁性コア20を備えることができる。磁性コア20は、空芯コイルである巻線10の内部に充填されている。
図1(a)に示す一対の巻線10は、並列した状態で連結されている。この場合、環状の磁性コア20は、
図1(b)に示す1対の巻線10の内部を貫通する構造を有する。これらの磁性コア20と巻線10とは一体化した構造を有することができる。
なお、コイル100は、巻線10と磁性コア20との間に、これらの絶縁を確保する観点から、不図示のインシュレータを介在させた構造としてもよい。
【0157】
コイル100において、巻線10および磁性コア20は、外装部材30(封止部材)で封止されていてもよい。例えば、筐体(ケース)中に巻線10および磁性コア20を収容し、そこに液状樹脂を導入し、必要に応じて液状樹脂を硬化することにより、巻線10および磁性コア20の周囲に外装部材30を形成してもよい。このとき巻線10は、巻線の端部を外装部材30の外部に引き出した不図示の引き出し部を有していてもよい。
【0158】
巻線10は、通常、金属線の表面に絶縁被覆を施した巻線を巻回した構造により構成される。金属線は、導電性の高いものが好ましく、銅、銅合金が好適に利用できる。また、絶縁被覆は、エナメルなどの被覆が利用できる。巻線の断面形状は、円形や矩形、六角形などが挙げられる。
【0159】
一方、磁性コア20の断面形状は、特に限定されないが、例えば、断面視において、円形形状や、四角形や六角形などの多角形状とすることができる。
【0160】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物によれば、成形性および磁気特性に優れた磁性コア20を実現できる。すなわち、この磁性コア20を備えるコイル100は、量産適性が良好であり、また、鉄損が小さいことなどが期待される。また、機械的特性に優れた磁性コア20を実現できるため、コイル100の耐久性や信頼性、製造安定性を高めることが可能である。このため、コイル100は、昇圧回路用や大電流用のリアクトルとして用いることができる。
【0161】
(第2の態様)
上記のコイルとは別の態様として、本実施形態の樹脂組成物の硬化物で構成された外装部材を備えるコイル(インダクタ)の概要を、
図2を参照しつつ説明する。
図2(a)は、コイル100Bの上面からみたコイルの概要を示す。
図2(b)は、
図2(a)におけるB-B'断面視における断面図を示す。
【0162】
コイル100Bは、
図2に示されるように、巻線10Bおよび磁性コア20Bを備えることができる。磁性コア20Bは、空芯コイルである巻線10Bの内部に充填されている。
図2(a)に示される一対の巻線10Bは、並列した状態で連結されている。この場合、環状の磁性コア20Bは、
図2(b)に示される1対の巻線10Bの内部を貫通する構造を有する。これらの磁性コア20Bと巻線10Bとは、それぞれ個別に作成し、組み合わせた組合せ構造を有することができる。
なお、コイル100Bは、巻線10Bと磁性コア20Bとの間に、これらの絶縁を確保する観点から、不図示のインシュレータを介在させた構造としてもよい。
【0163】
コイル100Bにおいて、巻線10Bおよび磁性コア20Bは、外装部材30B(封止部材)で封止されている。例えば、巻線10Bに充填された磁性コア20Bを金型に配置し、本実施形態の樹脂組成物を用いて、圧縮成形等の金型成形することにより、当該樹脂組成物を硬化させて、巻線10Bおよび磁性コア20Bの周囲に外装部材30Bを形成することができる。このとき巻線10Bは、巻線の端部を外装部材30Bの外部に引き出した不図示の引き出し部を有してもよい。
【0164】
巻線10Bは、通常、金属線の表面に絶縁被覆を施した導線を巻回した構造により構成される。金属線は、導電性の高いものが好ましく、銅、銅合金が好適に利用できる。また、絶縁被覆は、エナメルなどの被覆が利用できる。巻線10Bの断面形状は、円形や矩形、六角形などが挙げられる。
【0165】
一方、磁性コア20Bの断面形状は、特に限定されないが、例えば、断面視において、円形形状や、四角形や六角形などの多角形状とすることができる。磁性コア20Bは、例えば、磁性粉とバインダーとで構成された圧粉鉄芯を用いることができる。
【0166】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物によれば、成形性および磁気特性に優れた外装部材30Bを実現できるため、磁性コア20Bを備えるコイル100Bにおいては、低磁気損失が期待される。また、機械的特性に優れた外装部材30Bを実現できるため、コイル100Bの耐久性や信頼性、製造安定性を高めることが可能である。
【0167】
(第3の態様)
更に別の態様として、本実施形態の樹脂組成物の硬化物で構成された磁性コアと外装部材を備える一体型インダクタの概要を、
図3を参照しつつ説明する。
図3(a)は、一体型インダクタ100Cの上面からみた構造体の概要を示す。
図3(b)は、
図3(a)におけるC-C'断面視における断面図を示す。
【0168】
一体型インダクタ100Cは、
図3に示されるように、巻線10Cおよび磁性コア20Cを備えることができる。磁性コア20Cは、空芯コイルである巻線10のC内部に充填されている。巻線10Cおよび磁性コア20Cは、外装部材30C(封止部材)で封止されている。磁性コア20Cおよび外装部材30Cは、本実施形態の樹脂組成物の硬化物で構成することができる。磁性コア20Cおよび外装部材30Cは、シームレスの一体部材として形成されていてもよい。
【0169】
一体型インダクタ100Cの製造方法としては、例えば、巻線10Cを金型に配置し、本実施形態の樹脂組成物を用いて、圧縮成形等の金型成形をする。これにより、樹脂組成物を硬化させて、巻線10C中に充填された磁性コア20Cおよびこれらの周囲に外装部材30Cを一体的に形成することができる。このとき、巻線10Cは、巻線の端部を外装部材30Cの外部に引き出した不図示の引き出し部を有してもよい。
【0170】
巻線10Cは、通常、金属線の表面に絶縁被覆を施した導線を巻回した構造により構成される。金属線は、導電性の高いものが好ましく、銅、銅合金が好適に利用できる。また、絶縁被覆は、エナメルなどの被覆が利用できる。巻線10Cの断面形状は、円形や矩形、六角形などが挙げられる。
【0171】
一方、磁性コア20Cの断面形状は、特に限定されないが、例えば、断面視において、円形形状や、四角形や六角形などの多角形状とすることができる。磁性コア20Cは、本実施形態の樹脂組成物の圧縮成形品で構成されるため、所望の形状を有することが可能である。
【0172】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物によれば、成形性および磁気特性に優れた磁性コア20Cおよび外装部材30Cを実現できるため、これらを有する一体型インダクタ100Cにおいては、低磁気損失が期待される。また、機械的特性に優れた外装部材30Cを実現できるため、一体型インダクタ100Cの耐久性や信頼性、製造安定性を高めることが可能である。このため、一体型インダクタ100Cは、昇圧回路用や大電流用のインダクタとして用いることができる。
【0173】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0174】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0175】
<樹脂組成物の調製>
非磁性体粒子に磁性体粒子を加えて混合し、その他の表1に示す各成分を、表1の配合比率に従ってミキサーを用いて混合して混合物を得た。得られた混合物をロール混練し、得られた混練物を粉砕して、粉粒状の樹脂組成物を得た。
【0176】
表1に記載の各成分の量は、質量部である。
表1に記載の原料成分は、具体的には以下である。
【0177】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:以下化学式で表されるエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、品番E1032H60、25℃で固形、150℃でのICI粘度:650mPa・s)
【0178】
【0179】
・エポキシ樹脂2:以下化学式で表されるエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、品番YL6810、25℃で固形、150℃でのICI粘度:15mPa・s)
【0180】
【0181】
(フェノール系硬化剤)
・フェノール樹脂1:以下化学式で表されるノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、品番PR-HF-3、25℃で固形)
【0182】
【0183】
(離型剤)
・離型剤1:合成ワックス(クラリアントケミカルズ株式会社製、WE-4)
【0184】
(硬化触媒)
・硬化触媒1:イミダゾール系硬化触媒(四国化成工業株式会社製、キュアゾール2PZ-PW)
【0185】
(磁性体粒子)
・磁性体粒子1:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス株式会社製、KUAMET6B2、メジアン径D50:50μm、Fe:88質量%、比重:6.9)
・磁性体粒子2:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス株式会社製、AW2-08、メジアン径D50:3.4μm、Fe:88質量%、比重:6.9)
【0186】
(非磁性体粒子)
・シリカ粒子1:微粉シリカ(球状、溶融シリカ、メジアン径D50:0.5μm、比重:2.2)
・シリカ粒子2:微粉シリカ(球状、溶融シリカ、メジアン径D50:1.5μm、比重:2.2)
・シリカ粒子3:微粉シリカ(球状、溶融シリカ、メジアン径D50:0.2μm、比重:2.2)
・アルミナ粒子1:微粉アルミナ(球状、メジアン径D50:0.2μm、比重:3.7)
【0187】
粒子のメジアン径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した。比重は、気相置換法による粉体密度計を用いて測定した。
【0188】
<性能評価>
各樹脂組成物について、以下の評価を行った。
(圧縮成形性)
得られた樹脂組成物を、圧縮成形機(TOWA株式会社製、PMC1040)を用いて、金型温度175℃、成形圧力9MPa、硬化時間180秒で行い、縦:62mm×横:220mmの基板の表面に、縦:54mm×横:214mm×厚み:3mmtの成形体(磁性部材)を形成した。
圧縮成形後、金型から成形体を取り出し、基板の側面側の端面から流出している樹脂バリの状態について、目視で観察した。4mm以上の樹脂バリが発生していない場合を○、4mm超の樹脂バリ発生している場合を×と評価した。
【0189】
(飽和磁束密度)
得られた樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒間で注入成形し、直径16mmΦ、高さ32mmの円柱状成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間で後硬化して、飽和磁束密度評価用試験片を作製した。
次いで、 室温(25℃)にて、交流直流磁化特性試験装置(メトロン技研株式会社製、MTR-3368)を用いて、上記成形品に、外部磁場100kA/mを印加した。これにより室温での飽和磁束密度(T)を測定した。
【0190】
(比透磁率)
得られた樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒間で注入成形し、直径16mmΦ、高さ32mmの円柱状成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間で後硬化して、比透磁率評価用試験片を作製した。得られた円柱状成形品に対して直流交流磁化特性試験装置(メトロン技研株式会社製「MTR-3368」)を用いて、B-H初磁化曲線をH=0~100kA/mの範囲で測定し、B-H初磁化曲線のH=5kA/mの値を比透磁率とした。
【0191】
(鉄損(50mT,20kHz))
得られた樹脂組成物を低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒間で注入成形し、外径27mmΦ、内径15mmΦ、厚み3mmのリング状成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間で後硬化して、リング状試験片を作製した。得られたリング状試験片に対してBHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bm:50mT、測定周波数:20kHzにおけるヒステリシス損Wh(kW/m3)及び渦電流損We(kW/m3)を測定し、ヒステリシス損Wh+渦電流損Weを鉄損(kW/m3)として算出した。
【0192】
各樹脂組成物の組成と評価結果を下表にまとめて示す。
【0193】
【0194】
(最低溶融粘度)
実施例1の樹脂組成物について、レオメーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製「HAAKEMARS III)を用いて、昇温速度10℃/分、周波数1Hzの条件下、80℃~250℃における溶融粘度(Pa・s)を測定した。結果、実施例1の最低溶融粘度は、136℃における150Pa・sであった。
【0195】
実施例1~3の樹脂組成物は、比較例1と比べて圧縮成形時における樹脂バリの発生を抑制できる結果を示したことから、圧縮成形に好適に用いられることが分かった。
また、実施例1~3の樹脂組成物を圧縮成形することによって得られた成形体は、実用上に問題ないレベルの比透磁率および鉄損を示したため、磁性部材に用いることができる。
【0196】
この出願は、2019年5月17日に出願された日本出願特願2019-093896号、および、2019年11月1日に出願された日本出願特願2019-199674号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0197】
10 巻線
20 磁性コア
30 外装部材
100 コイル
10B 巻線
20B 磁性コア
30B 外装部材
100B コイル
10C 巻線
20C 磁性コア
30C 外装部材
100C 一体型インダクタ