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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】スタックケース
(51)【国際特許分類】
   B60L 50/72 20190101AFI20240806BHJP
   H01M 8/2475 20160101ALI20240806BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240806BHJP
   H01M 8/00 20160101ALN20240806BHJP
【FI】
B60L50/72
H01M8/2475
H01M8/04 Z
H01M8/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022032840
(22)【出願日】2022-03-03
(65)【公開番号】P2023128476
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 秀幸
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-69821(JP,A)
【文献】特開2013-112271(JP,A)
【文献】特開2021-126969(JP,A)
【文献】特開2020-202063(JP,A)
【文献】特開2018-73718(JP,A)
【文献】特開2000-30725(JP,A)
【文献】特開2017-74819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 50/70-50/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池セルを積層させた状態で収容するスタックケースであって、
複数の前記燃料電池セルの積層方向における一方の端部に形成されている開口部を備えるケース本体と、
前記開口部を覆う蓋部であって、前記ケース本体の内部から生成水を排出する排出管を備える前記蓋部と、
前記開口部と前記蓋部との間に配置されるシールと、
を備えており、
前記スタックケースが車両内に配置されたときに、
前記積層方向は、前記排出管に近づくほど水平方向に対して下方に変位するように傾斜し、
前記ケース本体の上面は、前記排出管に近づくほど水平方向に対して上方に変位するように傾斜する、
スタックケース。
【請求項2】
前記スタックケースが前記車両内に配置されたときに、前記ケース本体の下面は、前記排出管に近づくほど水平方向に対して下方に変位するように傾斜する、請求項1に記載のスタックケース。
【請求項3】
前記ケース本体の前記上面を構成している壁の車両上下方向における厚さは、前記排出管に近づくほど厚くなるように変化している、請求項1または2に記載のスタックケース。
【請求項4】
前記ケース本体は鋳造品であり、
前記ケース本体の内部空間の鉛直方向の高さが前記排出管に近づくほど大きくなるように、抜き勾配が形成されており、
前記スタックケースが前記車両内に、前記排出管側の位置が低くなるように水平方向に対して傾斜角を有して配置されたときに、前記抜き勾配の角度が前記傾斜角よりも大きくなる、請求項1~3の何れか1項に記載のスタックケース。
【請求項5】
前記ケース本体の前記上面には、前記積層方向と交差する方向に延びているリブが形成されており、
前記リブの一部の高さが低くされている、請求項1~4の何れか1項に記載のスタックケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、燃料電池セルを積層させた状態で収容するスタックケースに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池スタックを格納したスタックケースの側方端部から生成水を排出する構造において、排出端部に進むにつれて下方に傾斜するようにスタックケースを配置する技術が開示されている。重力を利用することで、生成水を容易に排出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-77569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スタックケースの排出端部に形成されている開口部を、生成水を排出する排出管を備えた蓋部で塞ぐ構造が採用される場合がある。この構造では、開口部と蓋部との間にシールを配置して気密性を高める必要がある。しかし、スタックケースの上面に雨水などが侵入すると、傾斜によって排出端部側に水が移動し、蓋部の近傍に溜まってしまう場合がある。水によってシールが劣化してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するスタックケースは、複数の燃料電池セルを積層させた状態で収容するスタックケースである。スタックケースは、複数の燃料電池セルの積層方向における一方の端部に形成されている開口部を備えるケース本体を備える。スタックケースは、開口部を覆う蓋部を備える。蓋部は、ケース本体の内部から生成水を排出する排出管を備える。スタックケースは、開口部と蓋部との間に配置されるシールを備える。スタックケースが車両内に配置されたときに、積層方向は、排出管に近づくほど水平方向に対して下方に変位するように傾斜し、ケース本体の上面は、排出管に近づくほど水平方向に対して上方に変位するように傾斜する。
【0006】
上記構造によれば、積層方向は、排出管に近づくほど水平方向に対して下方に変位するように傾斜しているため、重力により生成水を容易に排出することができる。また、ケース本体の上面は、排出管に近づくほど水平方向に対して上方に変位するように傾斜しているため、スタックケース上面に溜まった水を、開口部が形成されている端部と対向する反対側の端部に移動させることができる。蓋部の近傍に水が溜まることを防止することができるため、シールの劣化を抑制することが可能となる。
【0007】
スタックケースが車両内に配置されたときに、ケース本体の下面は、排出管に近づくほど水平方向に対して下方に変位するように傾斜してもよい。これにより、複数の燃料電池セルの積層方向を、排出管に近づくほど水平方向に対して下方に変位するように傾斜させることができる。
【0008】
ケース本体の上面を構成している壁の車両上下方向における厚さは、排出管に近づくほど厚くなるように変化していてもよい。これにより、ケース本体の上面を、排出管に近づくほど水平方向に対して上方に変位するように傾斜させることができる。
【0009】
ケース本体は鋳造品であってもよい。ケース本体の内部空間の鉛直方向の高さが排出管に近づくほど大きくなるように、抜き勾配が形成されていてもよい。スタックケースが車両内に、排出管側の位置が低くなるように水平方向に対して傾斜角を有して配置されたときに、抜き勾配の角度が傾斜角よりも大きくなってもよい。これにより、抜き勾配を用いて、ケース本体の上面を傾斜させることが可能となる。
【0010】
ケース本体の上面には、積層方向と交差する方向に延びているリブが形成されていてもよい。リブの一部の高さが低くされていてもよい。リブの高さが低くされている部分によって、水の排水経路を形成することができる。
【0011】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】燃料電池システム1の概略構成を説明する断面図である。
図2】比較例の燃料電池システム101の概略構成を説明する断面図である。
図3】実施例2に係るスタックケース210の上面図である。
図4】変形例に係る燃料電池システム1の概略構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
<燃料電池システム1の概略構成>
図1に、燃料電池システム1の概略構成を説明する断面図を示す。燃料電池システム1は、車両のフロントコンパートメント(不図示)の内部に配置されている。燃料電池システム1は、スタックケース10および燃料電池パワーコントロールユニット(FCPC)20を備えている。なお、フロントコンパートメント内のその他の部品については、記載および説明を省略する。また、図1を含む各図において、矢印FRは車両前方向を示し、矢印RHは車両右方向を示し、矢印UPは車両上方向を示す。以後の図でも、座標系の意味は同じである。
【0014】
FCPC20は、スタックケース10内の燃料電池スタック14の電圧をモニタして発電状態を制御する部位である。FCPC20は、その上面20uが水平方向HDと平行になるように、フロントコンパートメント内に配置されている。上面20u上には、スタックケース10が配置されている。スタックケース10は、ケース本体11、スタックマニホールド12、シール13、燃料電池スタック14、を備える。
【0015】
燃料電池スタック14は、ケース本体11の内部空間ISに収容されている。燃料電池スタック14は、長方形の板状部材である燃料電池セル16を、複数積層させた構造を有する。具体的には、エンドプレート15がスタックマニホールド12から最も遠い端部に位置している。そしてエンドプレート15の平面と燃料電池セル16の平面とが並行となるように、複数の燃料電池セル16が積層されている。そして燃料電池セル16の各々の平面に対して垂直な方向が、積層方向LDとなる。
【0016】
ケース本体11は、一面が開口している箱型の部材である。ケース本体11は、支持部11f、下側壁11b、上側壁11u、側面壁11s、開口部11a、を備えている。開口部11aは、壁が備えられていない領域である。開口部11aは、積層方向LDにおける、車両後方側の端部に形成されている。
【0017】
支持部11fは、ケース本体11をFPCP20の上面20uに載置する際の台座となる部品である。支持部11fは、ケース本体11と一体に形成されていてもよい。支持部11fは、フランジ形状を有していてもよい。
【0018】
ケース本体11は、アルミニウムなどの金属材料の鋳造品である。矢印で示す取り外し方向RDに金型を取り外すことによって、上側壁11uおよび下側壁11bが形成される。金型の取り外しを容易にするために、ケース本体11の内部空間ISの鉛直方向(紙面上下方向)の高さが、開口部11aに近づくほど大きくなるように、抜き勾配が形成されている。これにより下側壁11bは、取り外し方向RDに対して鋳抜き角CA1を備えている。また上側壁11uは、取り外し方向RDに対して鋳抜き角CA2を備えている。鋳抜き角CA1およびCA2の大きさは、特に限定されない。また鋳抜き角CA1とCA2とは、異なっていてもよい。
【0019】
燃料電池スタック14は、下側壁11bの内壁上に配置されている。従って、積層方向LDの水平方向HDに対する傾斜角TA1は、下側壁11bの鋳抜き角CA1と等しくなる。すなわち積層方向LDは、スタックマニホールド12が備える排出管に近づくほど(すなわち車両後方へ行くほど)水平方向HDに対して下方に変位するように傾斜している。これにより、重力によって生成水を容易に排出することが可能とされている。
【0020】
上側壁11uの上面は、スタックマニホールド12が備える排出管に近づくほど(すなわち車両後方へ行くほど)水平方向HDに対して上方に変位するように傾斜している。本実施例では、上側壁11uの水平方向HDに対する傾斜角TA2は、鋳抜き角CA2と等しくなる。
【0021】
スタックマニホールド12は、燃料電池スタック14に水素、空気、冷却水などを供給する配管部品である。スタックマニホールド12は、複雑な3D形状のアルミ鋳造部品と、各種配管を構成する樹脂を一体成形した部品である。スタックマニホールド12はケース本体11とは同時に成形できないため、別部品として形成した上で、開口部11aに取り付ける必要がある。スタックマニホールド12は、不図示のボルト等によって、開口部11aに取り付けられている。スタックマニホールド12は、開口部11aを覆う蓋部としても機能する。
【0022】
スタックマニホールド12には、冷却用冷媒の供給管および排出管、燃料ガスの供給管、燃料オフガスの排出管、酸化剤ガスの供給管、酸化剤オフガスの排出管、などが備えられている。図1の断面図には、燃料ガスの供給管12p1および燃料オフガスの排出管12p2が表出している。燃料オフガスには生成水が含まれているため、燃料オフガスの排出管12p2は、ケース本体11の内部から生成水を排出する排出管としても機能する。
【0023】
シール13は、開口部11aとスタックマニホールド12との間に配置される。シール13によって、内部空間ISの気密性を高めることができる。シール13の材質は特には限定されない。シール13は、Oリングであってもよい。なお、スタックマニホールド12と対向している側面壁11sには、開口部およびシールは配置されていない。
【0024】
<効果>
図2の比較例の燃料電池システム101を用いて、課題を説明する。比較例のFCPC220の上面220uは、水平方向HDに対して搭載傾斜角TA100を有している。従ってスタックケース110は、車両後方へ行くほど下方へ変位するように、搭載傾斜角TA100を有して配置されている。また比較例のケース本体111は、鋳抜き角を有していない。積層方向LDの水平方向HDに対する傾斜角TA1は、搭載傾斜角TA100と同一の傾斜角を有するため、重力により生成水を容易に排出することができる。そして上側壁11uの水平方向HDに対する傾斜角TA2も、搭載傾斜角TA100と同一の傾斜角を有する。すなわち上側壁111uの上面は、スタックマニホールド12が備える排出管に近づくほど(すなわち車両後方へ行くほど)水平方向HDに対して下方に変位するように傾斜している。そしてスタックケース10の上部には、雨水やタイヤからの巻き上げ水などの、各種の水が侵入する場合がある。上側壁111uの上面に到達した水は、重力によりスタックマニホールド12側へ移動する(矢印Y100参照)。すると、シール13の近傍に水溜りPDが形成されてしまう場合がある。水溜りPDによってシール13が劣化してしまうおそれがある。
【0025】
一方、図1に示す本実施例の燃料電池システム1では、上側壁11uの上面は、スタックマニホールド12が備える排出管に近づくほど水平方向HDに対して上方に変位するように傾斜している。これにより、上側壁11uの上面に到達した水を、重力により、開口部11aが形成されている端部と対向する反対側の側面壁11s側に移動させることができる(矢印Y2参照)。シール13の近傍に水溜りPDが形成されることを防止することができるため、シール13の劣化を抑制することが可能となる。
【実施例2】
【0026】
図3に、実施例2に係るスタックケース210の上面図を示す。実施例2のスタックケース210は、実施例1のスタックケース10に比して、上側壁11uの上面にリブを備える点が異なっている。実施例2のスタックケース210と実施例1のスタックケース10との間で共通する要素には同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0027】
上側壁11uの上面には、積層方向LDと交差する方向に延びているリブR1、および、積層方向LDと平行な方向に延びているリブR2が、それぞれ複数形成されている。リブR1およびR2は、壁形状の突起部分である。リブR1およびR2は、上側壁11uと一体に形成されていてもよい。
【0028】
複数のリブR1の各々には、高さが低くされている排水領域DAが、その一部に形成されている。積層方向LDに隣接している排水領域DA同士が結合することによって、排水路を形成することができる。これにより、リブ形成によるスタックケース210の強度向上と、上側壁11uの上面からの排水性の向上とを両立することが可能となる。
【0029】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0030】
<変形例>
図4に示すように、上側壁11uの車両上下方向における厚さは、スタックマニホールド12が備える排出管に近づくほど厚くなるように変化していてもよい。このような構造によっても、上側壁11uの上面を、排出管に近づくほど水平方向HDに対して上方に変位するように傾斜させることができる。
【0031】
スタックケース10(図1)が、比較例で説明した搭載傾斜角TA100を備えるFCPC220の上面220u(図2)に配置されてもよい。すなわち、開口部11a側の位置が低くなるように、水平方向に対して搭載傾斜角TA100を有してスタックケース10が配置されてもよい。この場合、上側壁11uの鋳抜き角CA2が、搭載傾斜角TA100よりも大きくなるように配置すればよい。これにより、上側壁11uの上面を、スタックマニホールド12が備える排出管に近づくほど(すなわち車両後方へ行くほど)水平方向HDに対して下方に変位するように傾斜させることができる。
【0032】
上側壁11uの上面に他の部材(例:FCPC20)が配置されていてもよい。
【0033】
ケース本体11の材料や成形方法は、様々であって良い。例えば、繊維強化プラスチックなどのプラスチックを成形してケース本体11を製造してもよい。
【0034】
スタックマニホールド12は、蓋部の一例である。
【符号の説明】
【0035】
1:燃料電池システム 10:スタックケース 11:ケース本体 11a:開口部 11u:上側壁 12:スタックマニホールド 13:シール LD:積層方向 HD:水平方向 TA1、TA2:傾斜角
図1
図2
図3
図4