(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】調光シート
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20240806BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20240806BHJP
G02F 1/1339 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1334
G02F1/1339 500
(21)【出願番号】P 2022045320
(22)【出願日】2022-03-22
(62)【分割の表示】P 2020189124の分割
【原出願日】2020-11-13
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 泰佑
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-532982(JP,A)
【文献】特表2015-503773(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0060826(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1334
G02F 1/1339
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘイズの値が6%以下であり、観測対象の輪郭を調光シートを通して視覚認識可能とする透明状態と、前記観測対象の前記輪郭を前記調光シートを通して視覚認識不能とする白濁した状態である不透明状態とを有するように構成された前記調光シートであって、
第1透明電極層と、
第2透明電極層と、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層とに挟まれた調光層であって、複数の空隙を含む透明高分子層と、各空隙に充填され、液晶分子を含む液晶組成物とを含む前記調光層と、
前記調光層のなかに位置する複数のスペーサーと、を備え、
各スペーサーは、ポリメタクリル酸メチル樹脂によって形成され、
前記調光層は、単位体積当たりにおいて40質量%以上60質量%以下の前記透明高分子層を含
み、
前記第1透明電極層を支持する第1透明基材と、
前記第2透明電極層を支持する第2透明基材と、を備え、
前記第1透明基材および前記第2透明基材は、透明合成樹脂から形成される
調光シート。
【請求項2】
前記透明高分子層は、芳香環を含む単位構造を含み、
前記調光層における前記芳香環を含む前記単位構造の配合比が、15質量%以下である
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記スペーサーの屈折率が、1.5であり、
前記透明高分子層の屈折率と、前記スペーサーの屈折率との差が、0.04以下である
請求項1または2に記載の調光シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両の各種窓が備える透明部材に取り付けられる調光シートに関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、第1透明電極層、第2透明電極層、および、調光層を備えている。調光層は、第1透明電極層と第2透明電極層とに挟まれている。調光層は、例えば、透明高分子層と液晶組成物とを備えている。透明高分子層は複数の空隙を有し、各空隙には液晶組成物が充填されている。液晶組成物は、液晶分子を含んでいる。液晶分子は、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態と、一対の透明電極層間に電位差が生じている状態とにおいて、互いに異なる配向を有する。例えば、調光シートは、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態での配向によって不透明な状態を有し、かつ、一対の透明電極層間に電位差が生じた状態での配向によって透明な状態を有する(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
調光シートは、透明な状態と不透明な状態とを有することが可能であるから、調光シートを介して隣り合う2つの空間を区切る仕切りとして用いられる。例えば、調光シートは、建物が有する窓に嵌め込まれた透明部材、および、建物の室内空間を区切るパーティションなどに取り付けられる。近年では、調光シートの適用範囲の拡張に伴い、車両の各種窓が備える透明部材に対する調光シートの取り付けが提案されている。車両は、建物に比べて過酷な環境、特に高温での使用が想定されるから、調光シートには、車両が使用されうる環境においても高い信頼性を有することが求められる。
【0005】
本発明は、信頼性を高めることを可能とした調光シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための調光シートは、ヘイズの値が6%以下であり、観測対象の輪郭を調光シートを通して視覚認識可能とする透明状態と、前記観測対象の前記輪郭を前記調光シートを通して視覚認識不能とする白濁した状態である不透明状態とを有するように構成される。前記調光シートは、第1透明電極層と、第2透明電極層と、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層とに挟まれた調光層であって、複数の空隙を含む透明高分子層と、各空隙に充填され、液晶分子を含む液晶組成物とを含む前記調光層と、前記調光層のなかに位置する複数のスペーサーとを備える。各スペーサーは、ポリメタクリル酸メチル樹脂によって形成されている。前記調光層は、単位体積当たりにおいて40質量%以上60質量%以下の前記透明高分子層を含む。
【0007】
上記調光シートにおいて、前記第1透明電極層を支持する第1透明基材と、前記第2透明電極層を支持する第2透明基材と、を備え、前記第1透明基材および前記第2透明基材は、透明合成樹脂から形成されてもよい。
【0008】
上記調光シートにおいて、前記透明高分子層の屈折率と、前記スペーサーの屈折率との差が、0.04以下であってよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、調光シートの信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ノーマル型の調光シートにおいて透明電極層間に電圧差が生じていない状態を示す断面図。
【
図2】ノーマル型の調光シートにおいて透明電極層間に電圧差が生じている状態を示す断面図。
【
図3】リバース型の調光シートにおいて透明電極層間に電圧差が生じていない状態を示す断面図。
【
図4】リバース型の調光シートにおいて透明電極層間に電圧差が生じている状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1から
図4を参照して、調光シートの一実施形態を説明する。以下では、調光シート、および、実施例を順に説明する。
[調光シート]
調光シートは、車両が備える窓に嵌め込まれた透明部材に取り付けられる。透明部材は、例えば、ウィンドシールドガラス、サイドウィンドウガラス、リヤウィンドウガラス、および、ルーフガラスなどであってよい。調光シートは、透明部材の形状に追従することが可能な可撓性を有している。そのため、調光シートが透明部材に貼り付けられている状態において、調光シートは曲面状を有してよい。調光シートの型式は、ノーマル型であってもよいし、リバース型であってもよい。
【0012】
図1、および、
図2を参照して、ノーマル型の調光シート、および、ノーマル型の調光シートを備えた調光装置を説明する。
図1は、ノーマル型の調光シートが不透明状態であるときの調光シートの断面構造を示し、
図2は、ノーマル型の調光シートが透明状態であるときの調光シートの断面構造を示す。
【0013】
図1が示すように、調光シート10Nは、第1透明電極層11A、第2透明電極層11B、調光層12、および、スペーサー13を備えている。調光層12は、第1透明電極層11Aと第2透明電極層11Bとに挟まれている。調光層12は、透明高分子層12Aと液晶組成物12Bとを含んでいる。透明高分子層12Aは、複数の空隙12Dを含んでいる。液晶組成物12Bは、液晶分子12BLを含み、各空隙12Dに充填されている。各スペーサー13は、調光層12のなかに位置している。
【0014】
各スペーサー13は、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)によって形成されている。PMMAは、以下に示す単位構造を含み、当該単位構造が繰り返された構造を有している。PMMAは、飽和炭化水素から構成されたメタクリル酸メチル(C5H8O2)の重合体である。スペーサー13は、モノマーであるメタクリル酸メチルのみが重合されたPMMA、言い換えればメタクリル酸メチルの単独重合体によって形成されている。
【0015】
【0016】
従来、調光シート10Nが備えるスペーサー13には、芳香環を含む材料、例えば以下に示すジビニルベンゼンを主成分とするスペーサーが多用されていた。
【0017】
【0018】
芳香環を含む材料からなるスペーサーでは、過酷な環境での使用、特に高温な環境での使用において、芳香環を含む部分が遊離する。遊離した芳香環は、調光層12が含む液晶分子12BLとの相互作用によって液晶分子12BLの駆動を妨げるから、調光シート10Nに液晶分子を駆動するための電圧が印加された状態において、調光シート10Nの光学特性が劣化する。そのため、ノーマル型の調光シート10Nでは、調光シート10Nが透明状態である場合に調光シート10Nの光学特性が劣化する。例えば、調光シート10Nが透明状態である場合に、調光シート10Nが有するヘイズが高くなる。
【0019】
この点で、本開示の調光シート10Nによれば、スペーサー13が、飽和炭化水素によって構成されたPMMAによって形成されるから、高温な環境において、調光シート10Nが有する光学特性の劣化が抑えられる。したがって、調光シート10Nの信頼性が高められる。上述したように、調光シート10Nは、車載用の調光シートである。車両の搭載される部品には、車両に課される高い安全基準を満たす必要がある。そのため、車載用の調光シート10Nにも、他の用途に比べて、より高い信頼性が求められる。この点、PMMA製のスペーサー13を備える調光シート10Nによれば、高温での信頼性を高めることが可能であるから、当該調光シート10Nは、車載用の調光シートとして好適である。
【0020】
調光シート10Nは、条件1を満たすことが好ましい。
(条件1)透明高分子層12Aの屈折率と、スペーサー13の屈折率との差が、0.04以下である。
【0021】
透明高分子層12Aの屈折率とスペーサー13の屈折率との差が0.04以下であるから、調光シート10Nが透明状態である場合に、透明高分子層12Aとスペーサー13との間における屈折率の差による入射光の散乱に起因した調光シート10Nの白濁が抑えられる。ノーマル型の調光シート10Nでは、第1透明電極層11Aと第2透明電極層11Bとの間に電位差が生じ、これによって液晶分子が駆動された状態において、調光シート10Nは透明である。そのため、上述した屈折率の差が0.04以下であることによって、透明電極層11A,11B間に電位差が生じている状態において、調光シート10Nの透明度を高めることが可能である。
【0022】
調光層12において、液晶組成物の保持型式は、ポリマーネットワーク型、高分子分散型、カプセル型からなる群から選択されるいずれか一種である。透明高分子層12Aは、液晶組成物の保持形式に応じた構造を有している。ポリマーネットワーク型は、3次元の網目状を有したポリマーネットワークを備える。ポリマーネットワークは、透明高分子層12Aの一例である。ポリマーネットワークは、相互に連通した網目状の空隙のなかに液晶組成物を保持する。高分子分散型は、孤立した多数の空隙を区画する透明高分子層12Aを備え、透明高分子層12Aに分散した空隙のなかに液晶組成物を保持する。カプセル型は、カプセル状を有した液晶組成物を透明高分子層12Aのなかに保持する。なお、
図1から
図4には、液晶組成物の保持形式がポリマーネットワーク型である場合の調光シートが示されている。
【0023】
透明高分子層12Aは、紫外線重合性化合物の重合体である。透明高分子層12Aは、2種以上の紫外線重合性化合物から形成されてよい。例えば、2種以上の紫外線重合性化合物には、芳香環を含む紫外線重合性化合物が含まれてよい。すなわち、透明高分子層12Aは、2種以上の単位構造が重合した高分子によって形成されてよい。2種以上の単位構造は、芳香環を含む単位構造を含んでもよい。
【0024】
透明高分子層12Aは、透明高分子層12Aを構成する高分子が複雑に絡み合った構造を有するため、透明高分子層12Aを構成する単位構造が芳香環を含んでいても、スペーサー13が芳香環を含む材料によって構成される場合に比べて、芳香環の遊離が生じにくい。この点、上記調光シートによれば、透明高分子層12Aを構成する単位構造に芳香環を含む単位構造を用いることが可能であるから、透明高分子層12Aを形成する材料の選択における自由度、ひいては、透明高分子層が有する屈折率の自由度を高めることが可能である。
【0025】
調光層12は、例えば、塗膜に対する紫外線の照射によって形成される。塗膜は、透明高分子層12Aを形成するための紫外線重合性化合物と、液晶組成物12Bとの混合物である。
【0026】
液晶組成物12Bは、空隙12Dに充填されている。液晶分子12BLは、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系からなる群から選択される一種である。液晶組成物12Bは、第1の液晶分子12BLと、第1の液晶分子12BLとは異なる種類の第2の液晶分子12BLを含んでもよい。液晶組成物12Bの主成分は、液晶分子12BLである。
【0027】
液晶組成物12Bにおける主成分の重量濃度は、液晶組成物12Bに対して80%以上である。液晶組成物12Bは、主成分以外の成分として、二色性色素、耐候剤、および、調光層12の形成に際して混入する不可避成分を含んでもよい。耐候剤は、液晶組成物12Bの劣化を抑制するための紫外線吸収剤、あるいは、光安定剤である。不可避成分は、例えば、透明高分子層12Aの形成に用いられる紫外線重合性化合物の未反応成分である。
【0028】
複数のスペーサー13は、調光層12のなかに分散している。調光層12の厚さ方向において、スペーサー13の有する長さは、調光層12の厚みとほぼ等しい。複数のスペーサー13は、調光層12の厚さにばらつきが生じることを抑える。なお、調光シート10Nは、第1の大きさを有したスペーサーと、第2の大きさを有したスペーサーとを含んでもよい。スペーサー13は、例えば、粒状スペーサーである。粒状スペーサーは、球状スペーサー、および、非球状スペーサーを含む。非球状スペーサーは、直方体状スペーサー、十字状スペーサー、および、棒状スペーサーを含む。上述したように、各スペーサー13は、PMMAによって形成されている。
【0029】
スペーサー13は、調光層12と接する他の層に対して定着性を有してもよい。例えば、スペーサー13は、透明電極層11A,11B、あるいは、調光層12と接する樹脂層と接着するように表面処理が施されたスペーサーであってもよい。
【0030】
一対の透明電極層11A,11Bは、調光層12の厚さ方向において、調光層12を挟んでいる。各透明電極層11A,11Bは、可視光領域の光を透過する。各透明電極層11A,11Bを形成する材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、銀からなる群から選択されるいずれか一種である。
【0031】
調光シート10Nは、第1透明基材14Aおよび第2透明基材14Bを備えている。一対の透明基材14A,14Bは、調光層12の厚さ方向において、一対の透明電極層11A,11Bを挟んでいる。各透明基材14A,14Bは、可視光領域の光を透過する。各透明基材14A,14Bを形成する材料は、例えば、透明ガラス、または、透明合成樹脂などである。
【0032】
調光層12は、透明状態と不透明状態とを有する。調光層12は、液晶分子12BLの配向を変える電圧の印加に応じて、液晶分子12BLの配向を変える。調光層12は、液晶分子12BLの配向の変化に基づいて、透明状態と不透明状態とに切り替わる。調光層12の透明状態は、観測対象の輪郭を、調光シート10Nを通して視覚認識可能とする状態である。調光層12の不透明状態は、観測対象の輪郭を、調光シート10Nを通して視覚認識不能とする状態である。
【0033】
図1の調光シート10Nは、配向を変える電圧が印加されていない状態を示す。配向を変える電圧が調光層12に印加されていないとき、各空隙12Dに位置する液晶分子12BLの配向方向はランダムである。一対の透明基材14A,14Bのいずれかから調光シート10Nに入射した光は、調光層12において様々な方向に散乱される。結果として、ノーマル型の調光層12は、電圧が印加されていないときに、濁った状態である不透明状態を有する。不透明状態の調光層12は、白色であり、かつ、濁りを有した状態であってもよいし、有色であり、かつ、濁りを有した状態であってもよい。調光層12が有色である場合には、調光層12は色素を含む。
【0034】
図2が示すように、液晶分子12BLの配向を変える電圧が駆動回路10Dから調光層12に印加されると、複数の液晶分子12BLの配向がランダムな配向から光を透過する方向に変わる。例えば、各液晶分子12BLは、調光層12が広がる平面に対して、液晶分子12BLの長軸がほぼ垂直であるように、配向を変える。一対の透明基材14A,14Bのいずれかから調光シート10Nに入射した光は、調光層12においてほぼ散乱されることなく、調光層12を透過する。結果として、ノーマル型の調光層12は、電圧が印加されるときに透明状態を有する。
【0035】
図3、および、
図4を参照して、リバース型の調光シート、および、リバース型の調光シートを備えた調光装置を説明する。
図3は、リバース型の調光層12が透明状態であるときの断面構造を示し、
図4は、リバース型の調光層12が不透明状態であるときの断面構造を示す。
【0036】
図3が示すように、リバース型の調光シート10Rは、一対の透明電極層11A,11B、調光層12、および、一対の透明基材14A,14Bに加えて、一対の配向層15A,15Bを備えている。一対の配向層15A,15Bは、調光層12の厚さ方向において調光層12を挟み、かつ、調光層12の厚さ方向において一対の透明電極層11A,11Bよりも調光シート10Rの中央部寄りに位置している。
【0037】
第1配向層15Aは、調光層12と第1透明電極層11Aとの間に位置している。第1配向層15Aは、液晶分子12BLに配向規制力を作用させる。第2配向層15Bは、調光層12と第2透明電極層11Bとの間に位置している。第2配向層15Bは、液晶分子12BLに配向規制力を作用させる。各配向層15A,15Bを形成する材料は、有機化合物、無機化合物、または、これらの混合物であってよい。有機化合物は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物などであってよい。無機化合物は、シリコン酸化物、酸化ジルコニウムなどであってよい。また、各配向層15A,15Bを形成する材料は、シリコーンであってもよい。
【0038】
各配向層15A,15Bが垂直配向層である場合、液晶分子12BLの配向を変える電圧が調光層12に印加されていないとき、各空隙12Dに位置する液晶分子12BLの配向方向は、垂直配向である。そして、一対の透明基材14A,14Bのいずれかから調光シート10Rに入射した光は、調光層12においてほぼ散乱されることなく、調光層12を透過する。結果として、リバース型の調光層12は、液晶分子12BLの配向を変える電圧が印加されていないときに、透明状態を有する。
【0039】
図4が示すように、液晶分子12BLの配向を変える電圧が駆動回路10Dから調光層12に印加されるとき、複数の液晶分子12BLの配向は、例えば、垂直配向から水平配向に変わる。このとき、各液晶分子12BLは、液晶分子12BLの長軸が、調光層12が広がる平面に沿って延びるように、空隙12Dに位置する。一対の透明基材14A,14Bのいずれかから調光シート10Rに入射した光は、調光層12によって散乱される。結果として、リバース型の調光層12は、液晶分子12BLの配向を変える電圧が印加されるときに、不透明状態を有する。
【0040】
[実施例]
表1を参照して実施例および比較例を説明する。なお、以下に説明する実施例および比較例では、以下に記載の第1モノマーから第7モノマーのうち、複数のモノマーによって透明樹脂層を形成した。
【0041】
[モノマー名]
・第1モノマー アクリル酸ヘキシル(屈折率1.428)
・第2モノマー アクリル酸ドデシル(屈折率1.443)
・第3モノマー エトキシ化o‐フェニルフェノールアクリレート(屈折率1.577)
・第4モノマー シクロヘキシルアクリレート(屈折率1.460)
・第5モノマー ペンタエリスリトールトリアクリレート(屈折率1.480)
・第6モノマー 9,9‐ビス[4‐(2‐アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン(屈折率1.622)
・第7モノマー ウレタンアクリレート(サートマー・ジャパン(株)製、CN962)(屈折率1.482)
【0042】
[実施例1]
調光層を形成するための塗液における全固形分量に対して、液晶(メルク社製、MNC‐6609)を50質量%、第1モノマーを9質量%、第4モノマーを18質量%、第5モノマーを6質量%、第7モノマーを15質量%に設定した。これにより、塗液のうちで、透明樹脂層を形成する材料が硬化された状態での屈折率を1.50に調整した。また、塗液における全固形分量に対して、重合開始剤(IGM Resins社製、Omnirad 184(Irgacure 184))(OmniradおよびIrgacureは登録商標)を1質量%、PMMA製のスペーサー(早川ゴム(株)製、SD‐BD15)(屈折率1.50)を1質量%に設定した。
【0043】
透明導電膜を支持する透明基材を一対準備した。一対の透明導電膜間に塗液を挟んだ状態で、塗液に紫外線を照射することによって、塗液を硬化させた。これにより、実施例1の調光シートを得た。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、塗液の組成を以下のように変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例2の調光シートを得た。すなわち、塗液における全固形分量に対して、第2モノマーを9質量%、第4モノマーを18質量%、第5モノマーを6質量%、第7モノマーを15質量%に設定した。これにより、透明樹脂層を形成する材料が硬化された状態での屈折率を1.51に調整した。
【0045】
[実施例3]
実施例1において用いたスペーサーとは異なる直径を有したスペーサー(早川ゴム(株)製、SD‐BD17)(屈折率1.50)に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例3の調光シートを得た。
【0046】
[実施例4]
実施例3において、塗液の組成を以下のように変更した以外は、実施例3と同様の方法によって、実施例4の調光シートを得た。すなわち、塗液における全固形分量に対して、第3モノマーを9質量%、第4モノマーを18質量%、第6モノマーを6質量%、第7モノマーを15質量%に設定した。これにより、透明樹脂層を形成する材料が硬化された状態での屈折率を1.55に調整した。
【0047】
[比較例1]
実施例4において、ジビニルベンゼン共重合体製のスペーサー(積水化学(株)製、SP‐215)(屈折率1.57)を用いた以外は、実施例4と同様の方法によって、比較例1の調光シートを得た。
【0048】
[比較例2]
実施例1において、ジビニルベンゼン共重合体製のスペーサー(積水化学(株)製、SP‐215)(屈折率1.57)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例2の調光シートを得た。
【0049】
【0050】
[評価方法]
各調光シートについて、透明状態でのヘイズを測定した。この際に、JIS K 7136:2000に準拠した方法を用いて、調光シートのヘイズを測定した。また、調光シートにおけるヘイズの値が飽和する電圧を一対の透明電極層間に印加したときのヘイズを透明状態でのヘイズとして測定した。その後、各調光シートを110℃に維持された空間内に720時間にわたって静置することによって、各調光シートに対する加速試験を行った。そして、加速試験後の各調光シートについて、試験前と同様の方法によって透明状態でのヘイズを測定した。
【0051】
なお、試験前および試験後の各々において、ヘイズの値が5%未満である場合を○に設定し、ヘイズの値が5%以上6%以下である場合を△に設定し、ヘイズの値が6%を超える場合を×に設定した。
【0052】
[評価結果]
加速試験前と加速試験後の各々においてヘイズを測定した結果は、以下の表2に示す通りであった。なお、液晶を除いた組成においてモノマーを硬化させた場合に得られる透明高分子層の屈折率は、液状体での屈折率よりも0.04だけ高いことが認められている。液晶を含む組成においてモノマーを硬化させた場合においても液晶と分離された状態でモノマーの硬化が進むため得られる透明高分子層の屈折率は液状体での屈折率よりも0.04だけ高いと推定される。
【0053】
【0054】
表2が示すように、加速試験前において、実施例1から実施例3、および、比較例1の調光シートでは、ヘイズの値が○であることが認められた。これに対して、加速試験前において、実施例4および比較例2の調光シートでは、ヘイズの値が△であることが認められた。
【0055】
加速試験後において、試験例1から試験例3の調光シートでは、ヘイズの値が○であることが認められた。また、加速試験後において、試験例4の調光シートでは、ヘイズの値が△であることが認められた。これに対して、比較例1および比較例2の調光シートでは、ヘイズの値が×であることが認められた。このように、実施例1から実施例4の調光シートでは、加速試験の前後においてヘイズの値が変化しない一方で、比較例1および比較例2の調光シートでは、加速試験の前後においてヘイズの値が変化することが認められた。こうした結果から、実施例1から実施例4の調光シートによれば、PMMA製のスペーサーを用いることによって、高温下での調光シートの信頼性が高められることが認められた。
【0056】
また、加熱試験前において、実施例1から実施例3、および、比較例1ではヘイズの値が○である一方で、実施例4および比較例2ではヘイズの値が△であることから、透明状態でのヘイズの値を低める上では、透明高分子層の屈折率とスペーサーの屈折率との差は、0.05未満であることが好ましいと言える。
【0057】
以上説明したように、調光シートの一実施形態によれば以下に記載の効果を得ることができる。
(1)スペーサー13が、飽和炭化水素によって構成されたPMMAによって形成されるから、高温な環境において、調光シート10N,10Rが有する光学特性の劣化が抑えられる。したがって、調光シート10N,10Rの信頼性が高められる。
【0058】
(2)透明高分子層12Aの屈折率とスペーサー13の屈折率との差が0.04以下であるから、調光シート10N,10Rが透明状態である場合に、透明高分子層12Aとスペーサー13との間における屈折率の差による入射光の散乱に起因した調光シート10N,10Rの白濁が抑えられる。
【0059】
(3)透明高分子層12Aを構成する単位構造に芳香環を含む単位構造を用いる場合には、透明高分子層12Aを形成する材料の選択における自由度、ひいては、透明高分子層が有する屈折率の自由度を高めることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
10N,10R…調光シート
11A…第1透明電極層
11B…第2透明電極層
12…調光層
13…スペーサー
14A…第1透明基材
14B…第2透明基材
15A…第1配向層
15B…第2配向層