(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 19/12 20060101AFI20240806BHJP
F02M 25/025 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
F02D19/12 A
F02M25/025 K
(21)【出願番号】P 2022069002
(22)【出願日】2022-04-19
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】土屋 富久
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157751(JP,A)
【文献】特開2016-200021(JP,A)
【文献】特開2017-218994(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0301716(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/12
F02M 25/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路に水を噴射する水噴射弁と、
前記吸気通路における気筒との接続口を開閉する吸気バルブと、
前記気筒に連通しているとともにクランクシャフトを収容しているクランク室と、
を有する内燃機関を制御対象とし、
前記吸気バルブが閉弁した時点から、当該吸気バルブが一旦開いた後に再度閉弁する時点までを1サイクルとしたとき、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記クランク室内のガスの圧力を算出する圧力算出処理と、
前記1サイクルの中での前記吸気バルブの開弁中に前記水噴射弁から第1噴射量の水を噴射させる第1噴射処理と、
前記1サイクルの中での前記吸気バルブの閉弁中に前記水噴射弁から第2噴射量の水を噴射させる第2噴射処理と、
を実行し、
前記圧力が予め定められた規定値以上の場合、前記圧力が前記規定値未満の場合に比較して、前記第1噴射量と前記第2噴射量との和に対する前記第1噴射量の割合を小さな値に設定する
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記1サイクルの中で前記気筒内に供給する水の量の目標値である目標噴射量を算出する目標算出処理と、
前記第1噴射量を前記目標噴射量以下の値に設定する第1設定処理と、
前記第2噴射量を前記目標噴射量と前記第1噴射量との差分の値に設定する第2設定処理と、
を実行し、
前記第1設定処理では、前記圧力が前記規定値以上の場合、前記圧力が前記規定値未満の場合に比較して、前記第1噴射量を小さな値に設定する
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記圧力が前記規定値以上の場合、
前記第1設定処理では、前記第1噴射量を前記目標噴射量の半分未満の値に設定する
請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記規定値を第1規定値としたとき、
前記圧力が前記第1規定値よりも大きい値として予め定められた第2規定値以上の場合、前記第1設定処理では、前記圧力が前記第1規定値以上であり且つ前記第2規定値未満の場合に比べて、前記第1噴射量を小さな値に設定する
請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記圧力が前記第2規定値以上の場合、前記第2設定処理では、前記第2噴射量を、前記目標噴射量のうち前記吸気バルブの閉弁中に前記水噴射弁から噴射させることができる水の量の最大値である最大噴射量に設定し、
前記圧力が前記第1規定値以上であり且つ前記第2規定値未満の場合、前記第2設定処理では、前記第2噴射量を前記最大噴射量よりも小さくし、且つ、前記第1設定処理では、前記第1規定値と前記圧力との差が大きいほど前記第1噴射量を小さな値に設定する
請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記第2規定値は大気圧である
請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関及びその制御装置が開示されている。特許文献1に開示された内燃機関は、気筒、気筒に接続している吸気通路、及び吸気通路の途中に位置する水噴射弁を有する。また、特許文献1に開示された制御装置は、内燃機関が高負荷の運転状態にある場合、水噴射弁から水を噴射させる。水噴射弁が噴射した水は、吸気通路を介して気筒内に流入する。この水は気筒内で蒸発する。このときの気化熱で気筒内の温度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように吸気通路を介して気筒内に水を供給する技術において、気筒内に至った水が気筒の壁面に付着することがある。気筒の壁面に水が付着した状態でピストンが往復動すると、気筒の壁面とピストンとの摺動に伴い、水がクランク室内に入り込むことがある。クランク室内に至った上記の水がクランク室内で蒸発すると、クランク室内のガスの圧力の増加を招く。したがって、気筒の壁面に付着する水の量が多くなると、クランク室内のガスの圧力が過度に高くなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための内燃機関の制御装置は、吸気通路に水を噴射する水噴射弁と、前記吸気通路における気筒との接続口を開閉する吸気バルブと、前記気筒に連通しているとともにクランクシャフトを収容しているクランク室と、を有する内燃機関を制御対象とし、前記吸気バルブが閉弁した時点から、当該吸気バルブが一旦開いた後に再度閉弁する時点までを1サイクルとしたとき、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記クランク室内のガスの圧力を算出する圧力算出処理と、前記1サイクルの中での前記吸気バルブの開弁中に前記水噴射弁から第1噴射量の水を噴射させる第1噴射処理と、前記1サイクルの中での前記吸気バルブの閉弁中に前記水噴射弁から第2噴射量の水を噴射させる第2噴射処理と、を実行し、前記圧力が予め定められた規定値以上の場合、前記圧力が前記規定値未満の場合に比較して、前記第1噴射量と前記第2噴射量との和に対する前記第1噴射量の割合を小さな値に設定する。
【0006】
吸気バルブの開弁中に水噴射弁から水を噴射させる場合、その噴射による勢いと、吸気の流れとが相まって、水が気筒内に勢いよく流入する。それに伴い、水が気筒の壁面にまで至り易い。この場合、気筒の壁面に付着する水が多くなり得る。これに対して、吸気バルブの閉弁中に水噴射弁から水を噴射した場合、水は即座に気筒内に流入するのではなく、吸気通路で一旦滞留する。そして水は、水噴射弁からの噴射の勢いが収まった後に吸気バルブの開弁と共に気筒内に流入する。したがって、水噴射弁からの噴射の勢いが無い分、気筒内へ流入する際の水の速度は低くなる。この場合、水は気筒の壁面にまでは至り難い。この特性を利用し、上記構成では、クランク室内のガスの圧力が高い場合、第1噴射量を少なくし、その分、第2噴射量を多くする。したがって、気筒の壁面に付着してクランク室内へ入り込む水の量を抑えることができる。このことにより、クランク室内のガスの圧力が過度に高くなることを防止できる。
【0007】
内燃機関の制御装置は、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記1サイクルの中で前記気筒内に供給する水の量の目標値である目標噴射量を算出する目標算出処理と、前記第1噴射量を前記目標噴射量以下の値に設定する第1設定処理と、前記第2噴射量を前記目標噴射量と前記第1噴射量との差分の値に設定する第2設定処理と、を実行し、前記第1設定処理では、前記圧力が前記規定値以上の場合、前記圧力が前記規定値未満の場合に比較して、前記第1噴射量を小さな値に設定してもよい。
【0008】
上記構成のように、目標噴射量を第1噴射量と第2噴射量とに振り分けることで、目標噴射量の水を噴射するにあたって気筒の壁面に付着してクランク室内へ入り込む水の量を抑えることができる。
【0009】
内燃機関の制御装置において、前記圧力が前記規定値以上の場合、前記第1設定処理では、前記第1噴射量を前記目標噴射量の半分未満の値に設定してもよい。
上記構成では、吸気バルブの開弁中に水噴射弁から噴射させる水の量である第1噴射量が相当に少なくなる。これにより、気筒の壁面に付着してクランク室内へ入り込む水の量を相当に抑えることができる。そのため、クランク室内のガス圧が過度に高くなることを防止するのに好適である。
【0010】
内燃機関の制御装置において、前記規定値を第1規定値としたとき、前記圧力が前記第1規定値よりも大きい値として予め定められた第2規定値以上の場合、前記第1設定処理では、前記圧力が前記第1規定値以上であり且つ前記第2規定値未満の場合に比べて、前記第1噴射量を小さな値に設定してもよい。
【0011】
第2噴射処理によって吸気バルブの閉弁中に水噴射弁から水を噴射させた場合、吸気バルブの開弁までの間に水が吸気通路の壁面に付着し得る。このとき壁面に付着した水がその後も吸気通路に留まって気筒内に流入しないことがあり得る。この場合、目標噴射量の水を気筒内に供給できないことになる。こうした事情から、第1噴射処理と第2噴射処理との双方を行うにしても、第2噴射量を極力少なくするとともに第1噴射量を極力多くすることが好ましい。一方で、クランク室内のガスの圧力が増加することを抑える上では、第1噴射量を極力少なくすることが好ましい。
【0012】
そこで、上記構成では、クランク室内のガスの圧力に応じて第1噴射量を変更する。そして、クランク室内のガスの圧力が未ださほど高くないとき、つまり、クランク室内のガスの圧力に対する対処よりも気筒内への水の供給を優先できる余裕があるときには、第1噴射量を多めにする。一方で、クランク室内のガスの圧力が相当に高いとき、つまりクランク室内のガスの圧力に対する対処が特に必要なときには第1噴射量を少なめにする。このようにして、優先度に応じて第1噴射量を変更することで次の二つのことを両立できる。一つは、気筒内へ必要な量の水を供給することである。もう一つは、クランク室内のガスの圧力が過度に高くなるのを防止することである。
【0013】
内燃機関の制御装置において、前記圧力が前記第2規定値以上の場合、前記第2設定処理では、前記第2噴射量を、前記目標噴射量のうち前記吸気バルブの閉弁中に前記水噴射弁から噴射させることができる水の量の最大値である最大噴射量に設定し、前記圧力が前記第1規定値以上であり且つ前記第2規定値未満の場合、前記第2設定処理では、前記第2噴射量を前記最大噴射量よりも小さくし、且つ、前記第1設定処理では、前記第1規定値と前記圧力との差が大きいほど前記第1噴射量を小さな値に設定してもよい。
【0014】
上記構成では、クランク室内のガスの圧力が相当に高いときには、第2噴射量を最大限に多くする。そのことによって第1噴射量を最大限に少なくする。したがって、クランク室内のガスの圧力が現状よりもさらに高くなるのを効果的に防止できる。また、上記構成では、クランク室内のガスの圧力が未ださほど高くないときでも、第1規定値と圧力との差が大きければ、つまり、第1規定値に対して圧力が高い状況にあるときには第1噴射量を少なくする。したがって、クランク室内のガスの圧力が高くなることを極力抑制できる。
【0015】
内燃機関の制御装置において、前記第2規定値は大気圧であってもよい。
クランク室内のガスの圧力は、基本的には負圧である。例えばクランク室の気密を保つためのシール部品といった各種部品は、クランク室内のガスの圧力が負圧であることを前提に設計されている。したがって、クランク室内のガスの圧力が大気圧よりも相当に大きくなると、各種部品が適正に機能しなくなるおそれがある。この点、上記構成のように、第2規定値を大気圧にしておけば、クランク室内のガスの圧力が大気圧よりも相当に大きくなることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図2は、水噴射制御に伴う水噴射の態様の例を表した図である。
【
図3】
図3は、水噴射制御の処理手順を表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、内燃機関の制御装置の一実施形態を、図面を参照して説明する。
<内燃機関の概要>
図1に示すように、車両300は、内燃機関1を有する。内燃機関1は、車両300の駆動源である。
【0018】
内燃機関1は、オイルパン13、シリンダブロック12、及びシリンダヘッド18を有する。オイルパン13は、オイルを貯留している。シリンダブロック12は、オイルパン13から視て上に位置している。シリンダヘッド18は、シリンダブロック12から視て上に位置している。
【0019】
内燃機関1は、複数の気筒2、複数のピストン6、複数のコネクティングロッド14、クランク室11、及びクランクシャフト7を有する。なお、
図1では、複数の気筒2のうちの1つのみを示している。ピストン6及びコネクティングロッド14についても同様である。気筒2の数は、4つである。気筒2は、シリンダブロック12に区画された空間である。気筒2内では吸入空気(以下、吸気と記す。)と燃料との混合気が燃焼する。クランク室11は、気筒2から視て下に位置している。クランク室11は、シリンダブロック12及びオイルパン13で区画された空間である。クランク室11は、各気筒2と連通している。クランク室11は、クランクシャフト7を収容している。ピストン6は、気筒2毎に設けられている。ピストン6は、気筒2内に位置している。ピストン6は、気筒2内を往復動する。ピストン6は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト7に連結している。ピストン6の動作に応じてクランクシャフト7は回転する。
【0020】
内燃機関1は、複数の点火プラグ19及び複数の燃料噴射弁17を有する。なお、
図1では、複数の点火プラグ19のうちの1つのみを示している。燃料噴射弁17についても同様である。点火プラグ19は、気筒2毎に設けられている。点火プラグ19は、気筒2内の混合気に点火を行う。燃料噴射弁17は、気筒2毎に設けられている。燃料噴射弁17は、後述の吸気通路3を介さずに気筒2内に直接燃料を噴射する。
【0021】
内燃機関1は、吸気通路3、インタークーラ60、及びスロットルバルブ29を有する。吸気通路3は、気筒2に吸気を導入するための通路である。吸気通路3は、各気筒2に接続している。詳しい図示は省略するが、吸気通路3の下流の部分は、シリンダヘッド18の内部に区画された複数の吸気ポート3Aとして構成されている。吸気通路3は、その途中の位置でこれら複数の吸気ポート3Aに分岐している。なお、
図1では、複数の吸気ポート3Aのうちの1つのみを示している。吸気ポート3Aは、気筒2毎に設けられている。吸気ポート3Aは、気筒2に接続している。スロットルバルブ29は、吸気通路3における、複数の吸気ポート3Aへの分岐箇所から視て上流側に位置している。スロットルバルブ29は、開度調整が可能である。スロットルバルブ29の開度に応じて、吸気通路3を流れる吸気の量GAが変わる。インタークーラ60は、吸気通路3における、スロットルバルブ29から視て上流側に位置している。インタークーラ60は、吸気を冷却する。
【0022】
内燃機関1は、複数の水噴射弁4、タンク78、接続通路76、及びポンプ77を有する。なお、
図1では、複数の水噴射弁4のうちの1つのみを示している。水噴射弁4は、気筒2毎に設けられている。詳しい図示は省略するが、水噴射弁4の先端は、吸気ポート3A内に位置している。水噴射弁4は、吸気ポート3A内に水を噴射する。水噴射弁4が噴射した水は、吸気ポート3Aを介して気筒2内に至る。タンク78は、水を貯留している。接続通路76は、タンク78と各水噴射弁4とを接続している。ポンプ77は、タンク78内の水を各水噴射弁4に圧送する。ポンプ77は、例えば電動モータで駆動される電気式である。本実施形態では、予め定められた一定の設定圧力の水が水噴射弁4に供給される。
【0023】
内燃機関1は、排気通路8を有する。排気通路8は、気筒2から排気を排出するための通路である。排気通路8は、各気筒2に接続している。なお、排気通路8における上流の部分は、シリンダヘッド18の内部に区画された複数の排気ポート8Aとして構成されている。
図1では、複数の排気ポート8Aのうちの1つのみを示している。
【0024】
内燃機関1は、過給機40を有する。過給機40は、吸気通路3と排気通路8とを跨いで設けられている。過給機40は、コンプレッサホイール41及びタービンホイール42を有する。コンプレッサホイール41は、吸気通路3における、インタークーラ60から視て上流側に位置している。タービンホイール42は、排気通路8の途中に位置している。タービンホイール42は、排気の流れに応じて回転する。コンプレッサホイール41は、タービンホイール42と一体回転する。このときコンプレッサホイール41は吸気を圧縮して送り出す。すなわち、吸気が過給される。
【0025】
内燃機関1は、バイパス通路80及びをウェイストゲートバルブ(以下、WGVと記す。)81を有する。バイパス通路80は、排気通路8における、タービンホイール42から視て上流側の部分と下流側の部分とを接続している。すなわち、バイパス通路80は、タービンホイール42を迂回する通路である。WGV81は、バイパス通路80の下流端に位置している。なお、
図1では、便宜上、WGV81をバイパス通路80の途中に示している。WGV81は、開度調整が可能である。WGV81が全開よりも小さい開度になると、タービンホイール42を通過する排気の量が多くなる。それとともに、タービンホイール42及びコンプレッサホイール41の回転速度が上昇する。そして、内燃機関1は、過給状態になる。
【0026】
内燃機関1は、クランク室11内のブローバイガスを吸気通路3に戻するためのブローバイガス処理機構を有する。ブローバイガスは、ピストン6と気筒2との隙間を通じて気筒2内からクランク室11内へ漏れ出すガスである。ブローバイガス処理機構は、第1通路91、第2通路92、及びPCVバルブ97を有する。第1通路91は、吸気通路3における、コンプレッサホイール41から視て上流側の部分と、クランク室11とを連通している。第2通路92は、吸気通路3における、スロットルバルブ29から視て下流側の部分と、クランク室11とを連通している。PCVバルブ97は、第2通路92の途中に位置している。PCVバルブ97は、吸気通路3における、スロットルバルブ29から視て下流側の吸気の圧力が低くなると開弁する。
【0027】
例えば内燃機関1が非過給状態である場合等、機関負荷率KLが低いときには、吸気通路3におけるスロットルバルブ29の下流側の吸気圧が低くなる。この場合、PCV97バルブが開弁する。そして、クランク室11内のブローバイガスが第2通路92を通じて吸気通路3に排出されるようになる。このときには吸気通路3内の吸気が第1通路91を通じてクランク室11内に流れる。一方、例えば内燃機関1が過給状態である場合等、機関負荷率KLが中程度又は高いときには、クランク室11内のガスの圧力(以下、クランク室内圧Jと記す。)は、吸気通路3におけるコンプレッサホイール41よりも上流側の部分の圧力よりも高くなる。この場合、クランク室11内のブローバイガスは第1通路91を通じて吸気通路3に排出されるようになる。なお、機関負荷率KLの定義については後述する。また、以下では、クランク室内圧Jに関して、一般的な意味合いのクランク室内圧Jを指すときには単にクランク室内圧Jと呼称し、リアルタイムのクランク室内圧Jを指すときは現状のクランク室内圧Jと呼称する。
【0028】
内燃機関1は、複数の吸気バルブ15、吸気カム軸25、及び吸気バルブ可変装置27を有する。なお、
図1では、複数の吸気バルブ15のうちの1つのみを示している。吸気バルブ15は、吸気ポート3A毎に設けられている。吸気バルブ15は、吸気ポート3Aにおける、気筒2との接続口に位置している。吸気バルブ15は、吸気カム軸25と連結している。吸気バルブ15は、吸気カム軸25が回転することに応じて動作する。その動作によって、吸気バルブ15は、吸気ポート3Aの上記接続口を開閉する。吸気カム軸25には、クランクシャフト7の回転が伝達される。すなわち、吸気カム軸25は、クランクシャフト7と連動して回転する。吸気バルブ可変装置27は、クランクシャフト7の回転位置(以下、クランク位置と記す。)Scrに対する吸気カム軸25の相対的な回転位置を変更する。その結果として、クランク位置Scrに対して吸気バルブ15の開閉タイミングが変わる。吸気バルブ可変装置27は、例えば、電動モータで駆動される電気式である。
【0029】
内燃機関1は、複数の排気バルブ16、排気カム軸26、及び排気バルブ可変装置を有する。なお、
図1では、複数の排気バルブ16のうちの1つのみを示している。また、
図1では、排気バルブ可変装置の図示を省略している。排気バルブ16は、排気ポート8A毎に設けられている。排気バルブ16は、排気ポート8Aにおける、気筒2との接続口に位置している。排気バルブ16は、排気カム軸26と連結している。排気バルブ16は、排気カム軸26が回転することに応じて動作する。その動作によって、排気バルブ16は、排気ポート8Aの上記接続口を開閉する。排気カム軸26には、クランクシャフト7の回転が伝達される。すなわち、排気カム軸26は、クランクシャフト7と連動して回転する。排気バルブ可変装置は、クランク位置Scrに対する排気カム軸26の相対的な回転位置を変更する。その結果として、クランク位置Scrに対する排気バルブ16の開閉タイミングが変わる。排気バルブ可変装置は、例えば、電動モータで駆動される電気式である。
【0030】
内燃機関1は、当該内燃機関1の運転状態を示すパラメータを検出するセンサとして、クランクポジションセンサ35、エアフロメータ31、及び圧力センサ32を有する。また、内燃機関1は、上記パラメータを検出するセンサとして、吸気カムポジションセンサ36及び排気カムポジションセンサ34を有する。クランクポジションセンサ35は、クランクシャフト7の近傍に位置している。クランクポジションセンサ35は、クランク位置Scrを検出する。エアフロメータ31は、吸気通路3における、コンプレッサホイール41から視て上流側に位置している。エアフロメータ31は、吸気通路3における、当該エアフロメータ31の設置箇所を流れる吸気の量GAを検出する。圧力センサ32は、クランク室11内に位置している。圧力センサ32は、クランク室内圧Jを検出する。吸気カムポジションセンサ36は、吸気カム軸25の回転位置CGを検出する。排気カムポジションセンサ34は、排気カム軸26の回転位置CEを検出する。これらの各センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の制御装置100に繰り返し送信する。
【0031】
車両300は、アクセルセンサ38及び車速センサ39を有する。アクセルセンサ38は、車両300におけるアクセルペダルの踏み込み量をアクセル操作量ACCとして検出する。車速センサ39は、車両300の走行速度を車速SPとして検出する。これらの各センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の制御装置100に繰り返し送信する。
【0032】
<制御装置の概略構成>
図1に示すように、車両300は、制御装置100を有する。制御装置100は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。なお、制御装置100は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはそれらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。プロセッサは、CPU111及び、RAM並びにROM等のメモリ112を含む。メモリ112は、処理をCPU111に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ112すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。メモリ112は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリを含む。
【0033】
制御装置100は、車両300における各種センサからの検出信号を繰り返し受信する。制御装置100は、受信した検出信号に基づいて、以下のパラメータを随時算出する。制御装置100は、クランクポジションセンサ35が検出するクランク位置Scrに基づいて、クランクシャフト7の回転速度である機関回転速度NEを算出する。また、制御装置100は、機関回転速度NE、及びエアフロメータ31が検出する吸気の量GAに基づいて機関負荷率KLを算出する。機関負荷率KLは、現状の機関回転速度NEにおいてスロットルバルブ29を全開とした状態で内燃機関1を定常運転したときの気筒流入空気量に対する、現状の気筒流入空気量の比率を表している。なお、気筒流入空気量は、吸気行程において1つの気筒2内に流入する吸気の量である。
【0034】
制御装置100は、内燃機関1を制御対象とする。制御装置100は、アクセル操作量ACC、車速SP、機関回転速度NE、及び機関負荷率KL等に基づいて、例えば、燃料噴射弁17の燃料噴射、点火プラグ19の点火時期といった、内燃機関1の各種事項についての制御を行う。そうした制御を通じて、制御装置100は、複数の気筒2で順に混合気を燃焼させる。なお、上記の各種事項は、例えばスロットルバルブ29の開度調整、WGV81の開度調整等も含んでいる。
【0035】
制御装置100は、内燃機関1の各種制御の一環として、吸気バルブ15の開閉タイミング(以下、吸気バルブタイミングと記す。)、及び排気バルブ16の開閉タイミングについての制御を行う。例えば、吸気バルブタイミングの制御に関して、制御装置100は次のような処理を行う。本実施形態において、制御装置100は、吸気バルブタイミングが最も遅角側のタイミングになっている状態を初期値の「0」として取り扱う。そして、制御装置100は、この初期値からの吸気バルブタイミングの進角量を調整することによって吸気バルブタイミングを調整する。制御装置100は、吸気バルブタイミングを調整するにあたり、機関回転速度NE及び機関負荷率KL等に基いて、吸気バルブタイミングの進角量の目標値である目標進角量を算出する。そして、制御装置100は、実際の吸気バルブタイミングの進角量が目標進角量と一致するように、吸気バルブ可変装置27を制御する。制御装置100は、吸気バルブタイミングが初期値となっているときに各気筒2の吸気バルブ15が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを予め記憶している。したがって、制御装置100は、このクランク位置Scrに対して目標進角量だけ進角したクランク位置Scrを算出することで、現状において吸気バルブ15が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを把握できる。同様に、制御装置100は、吸気バルブタイミングが初期値となっているときに各気筒2の吸気バルブ15が閉弁タイミングTCとなるクランク位置Scrを予め記憶している。したがって、制御装置100は、現状において吸気バルブ15が閉弁タイミングTCとなるクランク位置Scrを把握できる。このようにして、制御装置100は、初期値に対応するクランク位置Scrと目標進角量とに基づいて、各気筒2の吸気バルブ15が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scr、及び閉弁タイミングTCとなるクランク位置Scrを常時把握している。
【0036】
<水噴射制御の概要>
制御装置100は、水噴射制御を実行可能である。水噴射制御は、水噴射弁4からの水の噴射タイミング、水の噴射量を制御するためのものである。なお、本実施形態では、ある特定の気筒2で吸気バルブ15が閉弁した時点から、当該吸気バルブ15が一旦開いた後に再度閉弁する時点までを1燃焼サイクルと呼称する。すなわち、
図2に示すように、1燃焼サイクルは、吸気バルブ15の閉弁時点である閉弁タイミングTCから、吸気バルブ15の開弁時点である開弁タイミングTSを経て再び吸気バルブ15の閉弁タイミングTCAとなるまでの期間である。この1燃焼サイクルの中で、上記特定の気筒2は、圧縮行程、膨張行程、排気行程、吸気行程を1度ずつ迎えることになる。以下では、吸気バルブ15が閉弁状態となっている期間、すなわち吸気バルブ15の閉弁タイミングTCから開弁タイミングTSまでの期間を吸気バルブ15の閉弁中U1と呼称する。また、吸気バルブ15が開弁状態となっている期間、すなわち吸気バルブ15の開弁タイミングTSから閉弁タイミングTCAまでの期間を吸気バルブ15の開弁中U2と呼称する。
【0037】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、目標算出処理を実行可能である。制御装置100は、目標算出処理では、内燃機関1の運転状態に基づいて、1燃焼サイクルの中で1つの気筒2内に供給する水の量の目標値である目標噴射量Qsを算出する。制御装置100は、目標噴射量Qsを算出するための情報として、目標水量マップM1を予め記憶している。目標水量マップM1は、機関回転速度NEと、機関負荷率KLと、1燃焼サイクルにおいて1つの気筒2に供給する必要のある水の量である要求水量との関係を表したものである。目標水量マップM1において、機関回転速度NEと機関負荷率KLと要求水量とは、基本的には次のような関係になっている。機関負荷率KLが後述の設定負荷率未満の場合、機関回転速度NEの大小に拘わらず要求水量は「0」である。一方、機関負荷率KLが設定負荷率以上の場合、機関回転速度NEの大小に拘わらず要求水量は「0」よりも大きい。詳細には、機関負荷率KLが設定負荷率以上の場合、ある機関回転速度NEについてみると、機関負荷率KLが高いほど要求水量は多くなっている。ここで、水噴射弁4が噴射した水は気筒2内で蒸発する。このときの気化熱で気筒2内の温度は低下する。目標水量マップM1に設定されている要求水量は、内燃機関1の各運転状態に応じて要求される気筒2内の冷却を実現できる値になっている。また、上記の設定負荷率は、水噴射弁4からの水の供給により、気筒2内の温度を低下させることが必要な機関負荷率KLの最低値である。目標水量マップM1は、例えば実験又はシミュレーションを基に作成されている。
【0038】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、噴射判定処理を実行可能である。制御装置100は、噴射判定処理では、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ15の開弁中U2に、水噴射弁4から目標噴射量Qsの水を気筒2内に供給できるか否かを判定する。ここで、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ15の開弁中U2を対象としたとき、水噴射弁4からの水の噴射によって1つの気筒2内に供給可能な水の量の最大値を許容噴射量Qvと呼称する。制御装置100は、噴射判定処理では、目標噴射量Qsと許容噴射量Qvとの大小関係に基づいて上記の内容を判定する。制御装置100は、許容噴射量Qvを算出する上で必要な情報として、到達期間Lを予め記憶している。到達期間Lは、水噴射弁4が水を噴射したタイミングから、その水が気筒2内に至るまでの時間の長さである。到達期間Lは、例えば実験又はシミュレーションを基に定められている。本実施形態において、到達期間Lは固定値である。また、制御装置100は、許容噴射量Qvを算出する上で必要な情報として、噴射マップM2を予め記憶している。1つの水噴射弁4がある一定期間に亘って水の噴射を継続したときの水の噴射量を可能噴射量と呼称する。噴射マップM2は、水噴射弁4が水の噴射を継続する期間である噴射期間と、上記可能噴射量との関係を表したものである。噴射マップM2では、噴射期間が長いほど可能噴射量は多くなっている。なお、噴射マップM2は、水噴射弁4に供給される水の圧力が上記の設定圧力であることを前提に作成されている。
【0039】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、特定噴射処理を実行可能である。制御装置100は、噴射判定処理の判定結果が否定である場合に特定噴射処理を行う。制御装置100は、特定噴射処理では、1燃焼サイクルの中で吸気バルブ15の閉弁中U1から開弁中U2にかけて、水噴射弁4から目標噴射量Qsの水を噴射させる。
【0040】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、第1噴射処理及び第2噴射処理を実行可能である。制御装置100は、噴射判定処理の判定結果が肯定である場合にこれら第1噴射処理及び第2噴射処理を行う。制御装置100は、第1噴射処理では、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ15の開弁中U2に、水噴射弁4から第1噴射量Q1の水を噴射させる。一方、制御装置100は、第2噴射処理では、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ15の閉弁中U1に、水噴射弁4から第2噴射量Q2の水を噴射させる。なお、第1噴射量Q1は、第1噴射処理で水噴射弁4から噴射させる水の量の目標値である。第2噴射量Q2は、第2噴射処理で水噴射弁4から噴射させる水の量の目標値である。後述のとおり、第1噴射量Q1は「0」のことがある。この場合、制御装置100が第1噴射処理で水噴射弁4から噴射させる水の量は「0」である。すなわち、この場合、実質的には水噴射弁4は水を噴射しない。同様に、第2噴射量Q2は「0」のことがある。この場合、制御装置100が第2噴射処理で水噴射弁4から噴射させる水の量は「0」である。すなわち、この場合も水噴射弁4は水を噴射しない。
【0041】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、圧力算出処理を実行可能である。制御装置100は、圧力算出処理では、内燃機関1の運転状態に基づいて現状のクランク室内圧Jを算出する。本実施形態において、制御装置100は、内燃機関1の運転状態を示すパラメータの1つであるクランク室内圧Jについて、当該クランク室内圧Jそのものを検出するセンサである圧力センサ32の検出値に基づいて、現状のクランク室内圧Jを算出する。
【0042】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、第1設定処理及び第2設定処理を実行可能である。制御装置100は、第1噴射処理に先立って第1設定処理を行う。また、制御装置100は、第2噴射処理に先立って第2設定処理を行う。制御装置100は、第1設定処理では、上記第1噴射量Q1を設定する。制御装置100は、第1設定処理では、第1噴射量Q1を目標噴射量Qs以下の値に設定する。制御装置100は、第2設定処理では、上記第2噴射量Q2を設定する。制御装置100は、第2設定処理では、第2噴射量Q2を、目標噴射量Qsと第1噴射量Q1との差分の値に設定する。なお、後述のとおり、制御装置100は、必ずしも第2設定処理を第1設定処理の後に行うわけではなく、第1設定処理に先立って第2設定処理を行うこともある。この場合も、制御装置100は、第1噴射量Q1と第2噴射量Q2との和が目標噴射量Qsになるように、且つ、第1噴射量Q1が目標噴射量Qs以下になるようにこれら第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を設定する。したがって、制御装置100が第2設定処理を第1設定処理に先立って行う場合でも、結果としては、第2噴射量Q2が目標噴射量Qsと第1噴射量Q1との差分の値になる。つまり、制御装置100は、第1設定処理及び第2設定処理の順序に拘わらず、第1噴射量Q1を目標噴射量Qs以下に、且つ第2噴射量Q2を目標噴射量Qsと第1噴射量Q1との差分の値に設定する。
【0043】
制御装置100は、現状のクランク室内圧Jの大小に応じて第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2の設定の仕方を変更する。制御装置100は、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2の設定の仕方を変更する上での基準となる2つの閾値を予め記憶している。2つの閾値のうちの1つは、第1規定値K1である。第1規定値K1は、次のようなクランク室内圧Jとして予め定められている。後述の作用の欄で詳しく説明する通り、吸気バルブ15の開弁中U2に水噴射弁4から水を噴射すると、その水がクランク室11内に至ることがある。その水がクランク室11内で蒸発するとクランク室内圧Jが増加する。第1規定値K1は、水噴射弁4からの水の噴射に応じたクランク室内圧Jの更なる上昇を許容できるものの、クランク室内圧Jが現状に対して過剰に増えることを回避する処置が必要な値である。第1規定値K1は、例えば実験又はシミュレーションで定められている。2つの閾値のうちの別の1つは、第2規定値K2である。第2規定値K2は、第1規定値K1よりも大きい。第2規定値K2は、次のようなクランク室内圧Jとして予め定められている。第2規定値K2は、水噴射弁4からの水の噴射に応じたクランク室内圧Jの更なる上昇を許容できない値である。本実施形態の第2規定値K2は、大気圧である。ここで、仮に水噴射弁4からの水の噴射が無い状態で内燃機関1を運転したとする。このときのクランク室内圧Jは負圧であることが多い。クランク室内圧Jが第2規定値K2以上になる状況は、仮に水噴射弁4からの水の噴射が無いとすると、内燃機関1の運転中においてクランク室内圧Jが取り得る範囲のうちの上限に近い状況であり、比較的稀な状況である。
【0044】
<第1パターンについて>
制御装置100は、上記の2つの閾値に対する現状のクランク室内圧Jの大小に応じて、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を以下の3つのパターンのいずれかに設定する。
【0045】
制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1未満の場合、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を第1パターンに設定する。この第1パターンにおける第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2の設定の様式は以下のとおりである。制御装置100は、第1設定処理を通じて、第1噴射量Q1として目標噴射量Qsを設定する。制御装置100は、第2設定処理を通じて、第2噴射量Q2として、目標噴射量Qsと第1噴射量Q1との差分である「0」を設定する。この第1パターンを設定した場合、
図2の(a)に示すように、制御装置100は、第1噴射処理によって目標噴射量Qsの水を水噴射弁4から噴射させることになる。
【0046】
<第2パターンについて>
制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1以上であり且つ第2規定値K2未満の場合、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を第2パターンに設定する。この第2パターンにおける第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2の設定の様式は以下のとおりである。制御装置100は、第1設定処理を通じて、第1噴射量Q1として後述の調整噴射量Qaを設定する。制御装置100は、第2設定処理を通じて、第2噴射量Q2として、目標噴射量Qsから第1噴射量Q1を減算した値を設定する。この第2噴射量Q2は、第3パターンで説明する最大噴射量Qmよりも小さい値である。この第2パターンを設定した場合、
図2の(b)に示すように、制御装置100は、第1噴射処理と第2噴射処理との双方を合わせて目標噴射量Qsの水を水噴射弁4から噴射させることになる。
【0047】
上記の調整噴射量Qaは、クランク室内圧Jが過剰に高くならないように値を調整した水の噴射量である。制御装置100は、調整噴射量Qaを算出する上で必要な情報として、調整マップM3を予め記憶している。ここで、上記のとおり、水噴射弁4が噴射した水がクランク室11内に至るとクランク室内圧Jが増加する。調整マップM3を説明する前提として、水噴射に伴うクランク室内圧Jの増加量を示すパラメータについて説明する。いま、吸気バルブ15の開弁中U2に1つの水噴射弁4からある量の水を噴射したとする。そして、その水の噴射に対する応答としてクランク室内圧Jが第1値から第2値へと変化したとする。第2値から第1値を減算した値を圧力変化値と呼称する。なお、水噴射弁4が水を噴射してから、その水がクランク室11に至って蒸発するまでには時間差がある。つまり、圧力変化値は、水噴射弁4による水の噴射に対して将来的なクランク室内圧Jの変化を示す値である。調整マップM3は、1つの水噴射弁4から噴射する水の量である噴射水量と、圧力変化値との関係を定めたものである。さて、圧力変化値は、ブローバイガス処理機構を通じてクランク室11から吸気通路3に排出されるブローバイガスの流量(以下、単に、ブローバイガスの放出量と記す。)に応じて変わる。つまり、クランク室11から吸気通路3へとブローバイガスが排出されると、それに伴ってクランク室内圧Jが減少する。この減少分は、水噴射弁4からの水の噴射に応じたクランク室内圧Jの増加分を相殺する。こうした点を踏まえ、調整マップM3は、詳細には、上記噴射水量と、圧力変化値と、ブローバイガスの放出量との関係を表したものになっている。調整マップM3では、基本的には、ブローバイガスの放出量が同じであれば、噴射水量が多いほど圧力変化値は大きくなっている。ブローバイガスの放出量が多い場合、噴射水量が多くても、圧力変化値は「0」に近い値になっている。調整マップM3は、例えば実験又はシミュレーションを基に作成されている。
【0048】
制御装置100は、第2パターンで第1噴射量Q1を算出するにあたっては、第2規定値K2から現状のクランク室内圧Jを減算した値を圧力差分値ΔJとして算出する。そして、この圧力差分値ΔJを調整マップM3の圧力変化値に当てはめることで、圧力差分値ΔJに対応する噴射水量を調整噴射量Qaのベース値として逆算する。上記の調整マップM3の設定上、ブローバイガスの放出量が同じであれば、圧力差分値ΔJが大きいほど調整噴射量Qaのベース値は大きくなる。つまり、制御装置100は、第2規定値K2と現状のクランク室内圧Jとの差が大きいほど調整噴射量Qaのベース値ひいては第1噴射量Q1を大きな値に設定する。逆に、制御装置100は、第2規定値K2と現状のクランク室内圧Jとの差が小さいほど、つまり現状のクランク室内圧Jが第2規定値K2に近い値であるほど第1噴射量Q1を小さい値に設定する。ここで、第2規定値K2と現状のクランク室内圧Jとの差が小さいことは、第1規定値K1と現状のクランク室内圧Jとの差が大きいことを意味する。したがって、制御装置100は、第2パターンで第1噴射量Q1を算出するにあたっては、ブローバイガスの放出量が同じであれば、第1規定値K1と現状のクランク室内圧Jとの差が大きいほど第1噴射量Q1を小さな値に設定することになる。
【0049】
第2パターンで設定する第1噴射量Q1と目標噴射量Qsとの関係を説明する。前提として、第2パターンを設定する状況、すなわちクランク室内圧Jが第1規定値K1以上であり且つ第2規定値K2未満となっている状況を所定状況と呼称する。また、目標水量マップM1に設定されている要求水量のうち、内燃機関1が所定状況となる機関運転領域において取り得る最小値を最小要求水量と呼称する。最小要求水量は、内燃機関1が所定状況であるときに取り得る目標噴射量Qsの最小値である。また、内燃機関1が所定状況となる機関運転領域におけるブローバイガスの放出量の最大値を最大放出量と呼称する。次の段落の内容に関して、ブローバイガスの放出量は、最大放出量であるとする。なお、機関運転領域は、機関回転速度NEと機関負荷率KLとで規定される内燃機関1の運転領域である。
【0050】
内燃機関1が所定状況にある場合、第2規定値K2から現状のクランク室内圧Jを減算した値である上記圧力差分値ΔJは、現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1であるときに最大となる。そこで、第2規定値K2と第1規定値K1との差分を最大差分と呼称する。調整マップM3において、この最大差分に対応する噴射水量を最大水量と呼称する。調整マップM3の設定上、最大水量は、内燃機関1が所定状況であるときに取り得る噴射水量の最大値である。そして、調整マップM3の設定上、上記の最大水量は、最大差分が大きいほど、つまり第2規定値K2に対して第1規定値K1が小さいほど、多くなる。この最大水量が上記の最小要求水量未満になるように、第1規定値K1は設定してある。このことで、最大水量が最小要求水量未満であるという関係が成立する。つまり、所定状況で取り得る第1噴射量Q1の最大値は、所定状況で取り得る目標噴射量Qsの最小値未満という関係が成立している。そして、この関係上、第2パターンで設定する第1噴射量Q1は常に目標噴射量Qs未満になる。
【0051】
さて、第2パターンで設定する第1噴射量Q1が目標噴射量Qs未満であることから、次のことがいえる。ここで、第1パターンを設定する状況、すなわちクランク室内圧Jが第1規定値K1未満となっている状況を第1状況と呼称する。また、機関回転速度NEと機関負荷率KLとの組み合わせを運転ポイントと呼称する。同じ運転ポイントについて、内燃機関1が第1状況になるときと所定状況になるときとがある。例えば、同じ運転ポイントであっても、オイルパン13内のオイルの温度、クランク室11内の温度等が違っていることで、クランク室11内に入った水の蒸発量が異なる場合がある。この場合、同じ運転ポイントであっても内燃機関1は第1状況にも所定状況にもなり得る。さて、同じ運転ポイントについて、内燃機関1が第1状況であるときと所定状況であるときとを比較する。これら2つの状況において目標噴射量Qsは同じである。しかし、第1パターンを設定する第1状況において、制御装置100は、第1噴射量Q1として目標噴射量Qsを設定する。一方、第2パターンを設定する所定状況において、制御装置100は、第1噴射量Q1として、目標噴射量Qsよりも小さい値を設定する。つまり、制御装置100は、所定状況では、第1状況に比較して、第1噴射量Q1を小さい値に設定することになる。このように、同じ運転ポイントで比較したとき、制御装置100は、第2パターンでは第1パターンに比べて第1噴射量Q1を小さい値に設定する。したがって、第2パターンでは、第1パターンに比べて、第1噴射量Q1と第2噴射量Q2との和に対する第1噴射量Q1の割合が小さくなる。
【0052】
なお、以下の理由により、第2パターンで設定される第1噴射量Q1は、「0」よりも大きい。内燃機関1が所定状況にある場合、現状のクランク室内圧Jは第2規定値K2未満である。つまり、内燃機関1が所定状況にある場合、第2規定値K2から現状のクランク室内圧Jを減算した値である上記圧力差分値ΔJは、必ず「0」よりも大きくなる。圧力差分値ΔJが「0」よりも大きければ、調整マップM3に基づいてこの圧力差分値ΔJから逆算する第1噴射量Q1も「0」よりも大きくなる。
【0053】
<第3パターンについて>
制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第2規定値K2以上である場合、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を第3パターンに設定する。この第3パターンにおける第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2の設定の様式は以下のとおりである。制御装置100は、第2設定処理を通じて、第2噴射量Q2として後述の最大噴射量Qmを設定する。制御装置100は、第1設定処理を通じて、第1噴射量Q1として、目標噴射量Qsから第2噴射量Q2を減算した値を設定する。
【0054】
上記の最大噴射量Qmは、目標噴射量Qsのうち、吸気バルブ15の閉弁中U1に水噴射弁4から噴射させることができる水の量の最大値である。本実施形態において、制御装置100は、最大噴射量Qmとして目標噴射量Qsそのものを設定する。理由は以下のとおりである。第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を第3パターンに設定する状況は、目標噴射量Qsが許容噴射量Qv以下の状況である。この許容噴射量Qvは、吸気バルブ15の開弁中U2に水噴射弁4が噴射することのできる水の量の最大値である。吸気バルブ15が閉弁中U1となっている期間は、吸気バルブ15が開弁中U2となっている期間よりも長い。このことから、水噴射弁4は、吸気バルブ15の閉弁中U1に許容噴射量Qvよりも多い量の水を噴射することができる。上記のとおり、目標噴射量Qsは許容噴射量Qv以下であることから、水噴射弁4は吸気バルブ15の閉弁中U1に目標噴射量Qsの水を噴射できる。こうした関係上、最大噴射量Qmは目標噴射量Qsになる。したがって、制御装置100は、第3パターンを利用する場合、第2噴射量Q2として目標噴射量Qsを設定する。この結果、制御装置100は、第3パターンでは、第1噴射量Q1として、目標噴射量Qsと最大噴射量Qmとの差分である「0」を設定する。第1噴射量Q1が「0」であることから、この第1噴射量Q1は、第2パターンで設定する第1噴射量Q1よりも小さい。したがって、第3パターンでは、第2パターンに比べて、第1噴射量Q1と第2噴射量Q2との和に対する第1噴射量Q1の割合が小さくなる。また、第1噴射量Q1が「0」であることから、この第1噴射量Q1は、目標噴射量Qsの半分未満の値である。上記の第1噴射量Q1と第2噴射量Q2との設定上、
図2の(c)に示すように、制御装置100は、第3パターンを設定する場合、第2噴射処理によって目標噴射量Qsの水を水噴射弁4から噴射させることになる。
【0055】
<水噴射制御の具体的な処理手順>
以下に説明する水噴射制御の一連の処理は、1つの気筒2を対象としたものである。すなわち、制御装置100は、以下の水噴射制御の一連の処理を気筒2毎、つまり水噴射弁4毎に行う。制御装置100は、内燃機関1の運転中、水噴射制御を繰り返し行う。内燃機関1の運転中とは、機関回転速度NEが「0」よりも大きいときのことである。制御装置100は、各気筒2について、1燃焼サイクルにつき1度、水噴射制御の一連の処理を行う。その際、制御装置100は、1燃焼サイクルの開始タイミングで水噴射制御を開始する。上記のとおり、1燃焼サイクルの開始タイミングは、吸気バルブ15の閉弁タイミングTCである。制御装置100は、クランクポジションセンサ35から受信する最新のクランク位置Scrが、吸気バルブ15が閉弁タイミングTCとなるクランク位置Scrと一致することをもって、吸気バルブ15が閉弁タイミングTCになったと判断する。制御装置100は、後述の第1噴射処理を開始する際も、同様の要領で、最新のクランク位置Scrに基づいて吸気バルブ15が開弁タイミングTSになったと判断する。特定噴射処理の開始タイミングの判断についても同様である。なお、逐一の説明は割愛するが、制御装置100が水噴射制御の一連の処理で参照したり利用したりする吸気バルブ15の閉弁タイミングTC及び開弁タイミングTSは、当該水噴射制御の実行対象の気筒2についてのものである。
【0056】
図3に示すように、制御装置100は、水噴射制御を開始すると、先ずステップS100の処理を行う。ステップS100において、制御装置100は、目標噴射量Qsを算出する。具体的には、制御装置100は、最新の機関回転速度NE、最新の機関負荷率KL、及び目標水量マップM1を参照する。目標水量マップM1は、上記のとおり、機関回転速度NEと、機関負荷率KLと、気筒2に供給する必要のある水の量である要求水量との関係を表したものである。制御装置100は、この目標水量マップM1に基づいて、最新の機関回転速度NEと最新の機関負荷率KLとに対応する要求水量を目標噴射量Qsとして算出する。この後、制御装置100は、処理をステップS110に進める。なお、ステップS110の処理は、目標算出処理である。
【0057】
ステップS110において、制御装置100は、許容噴射量Qvを算出する。以下のとおり、許容噴射量Qvは、吸気バルブ15の開弁中U2の期間のうち、上記の到達期間Lを除いた期間において水噴射弁4が噴射できる水の量である。到達期間Lは、水噴射弁4が噴射した水が気筒2内に至るまでの時間の長さである。制御装置100は、許容噴射量Qvを算出する上で、先ず、最新の機関回転速度NEに基づいて、到達期間Lを最新の機関回転速度NEに応じたクランク回転量に換算する。そして、制御装置100は、得られた値をオフセット値とする。クランク回転量は、クランクシャフト7がある回転位置から別の回転位置に回転する間のクランクシャフト7の回転角度の大きさである。制御装置100は、オフセット値を算出すると、限界クランク位置を算出する。具体的には、制御装置100は、吸気バルブ15が閉弁タイミングTCAとなるクランク位置Scrからオフセット値だけ遡ったクランク位置Scrを限界クランク位置として算出する。上記の閉弁タイミングTCAは、
図2に示すように、今回の燃焼サイクルの終了タイミングである。制御装置100は、限界クランク位置を算出すると、許容回転量を算出する。許容回転量は、吸気バルブ15が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrから、限界クランク位置までのクランク回転量である。制御装置100は、許容回転量を算出すると、最新の機関回転速度NEに基づいて、当該許容回転量を最新の機関回転速度NEに応じた時間の長さに換算する。そして、制御装置100は、得られた値を許容期間とする。この後、制御装置100は、噴射マップM2を参照する。上記のとおり、噴射マップM2は、噴射期間と可能噴射量との関係を表したものである。制御装置100は、この噴射マップM2に基づいて、上記の許容期間に対応する可能噴射量を許容噴射量Qvとして算出する。このとき、制御装置100は、許容期間を、噴射マップM2における噴射期間に当てはめればよい。
図3に示すように、制御装置100は、許容噴射量Qvを算出すると、処理をステップS120に進める。
【0058】
ステップS120において、制御装置100は、次の特定条件が成立しているか否かを判定する。特定条件は、目標噴射量Qsが「0」よりも大きく、且つ、目標噴射量Qsが許容噴射量Qv以下であることである。制御装置100は、ステップS100で算出した目標噴射量QsとステップS110で算出した許容噴射量Qvとを参照することで、特定条件が成立しているか否かを判定する。制御装置100は、特定条件が成立していない場合(ステップS120:NO)、処理をステップS510に進める。処理がステップS510に進む状況は、吸気バルブ15の開弁中U2に水噴射弁4から目標噴射量Qsの水を気筒2内に供給できない状況である。なお、例外として、目標噴射量Qsが「0」であることに起因してステップS120の判定がNOになることもある。ステップS120の処理は、噴射判定処理である。
【0059】
ステップS510において、制御装置100は、この後の特定噴射処理のための必要情報を算出する。具体的には、制御装置100は、特定噴射処理の開始タイミングを算出する。制御装置100は、先ず、ステップS100で算出した目標噴射量QsからステップS110で算出した許容噴射量Qvを減算した値を設定噴射量とする。この後、制御装置100は、噴射マップM2を参照する。そして、制御装置100は、噴射マップM2に基づいて、設定噴射量に対応する噴射期間を設定噴射期間として算出する。この後、制御装置100は、最新の機関回転速度NEに基づいて、設定噴射期間を最新の機関回転速度NEに応じたクランク回転量に換算する。そして、制御装置100は、得られた値を設定回転量とする。この後、制御装置100は、吸気バルブ15の開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrから設定回転量だけ遡ったクランク位置Scrを特定噴射処理の開始タイミングとする。この後、制御装置100は、処理をステップS520に進める。なお、制御装置100は、水噴射制御の開始後、ステップS100から上記のステップS510までの処理を速やかに行う。したがって、処理がこの後のステップS520に進むタイミングは、実質的に、1燃焼サイクルの開始タイミング、すなわち吸気バルブ15の閉弁タイミングTCと略同じである。
【0060】
ステップS520において、制御装置100は、特定噴射処理を行う。具体的には、制御装置100は、ステップS510で算出した開始タイミングまで待機する。そして、制御装置100は、開始タイミングになると、特定噴射処理を開始する。すなわち、制御装置100は、水噴射弁4に水の噴射を開始させる。そして、制御装置100は、ステップS100で算出した目標噴射量Qsの水を水噴射弁4から噴射させる。制御装置100は、目標噴射量Qsの水の噴射が完了すると、水噴射制御の一連の処理を一旦終了する。そして、制御装置100は、1燃焼サイクルの開始タイミングになると、再度ステップS100の処理を実行する。
【0061】
一方、ステップS120において、制御装置100は、特定条件が成立している場合(ステップS120:YES)、処理をステップS130に進める。処理がステップS130に進む状況は、吸気バルブ15の開弁中U2に水噴射弁4から目標噴射量Qsの水を気筒2内に供給できる状況である。
【0062】
ステップS130において、制御装置100は、現状のクランク室内圧Jを算出する。具体的には、制御装置100は、圧力センサ32から受信した最新のクランク室内圧Jを参照する。そして、制御装置100は、その参照した値を現状のクランク室内圧Jとして算出する。この後、制御装置100は、処理をステップS140に進める。なお、ステップS130の処理は、圧力算出処理である。
【0063】
ステップS140において、制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1未満であるか否かを判定する。制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1未満である場合(ステップS140:YES)、処理をステップS150に進める。
【0064】
ステップS150において、制御装置100は、第1噴射量Q1を設定する。具体的には、制御装置100は、第1噴射量Q1として、ステップS100で算出した目標噴射量Qsを設定する。この後、制御装置100は、処理をステップS160に進める。なお、ステップS150の処理は、第1パターンを設定する第1設定処理である。
【0065】
ステップS160において、制御装置100は、第2噴射量Q2を設定する。具体的には、制御装置100は、第2噴射量Q2として、ステップS100で算出した目標噴射量QsとステップS150で設定した第1噴射量Q1との差分である「0」を設定する。この後、制御装置100は、処理をステップS170に進める。ステップS160の処理は、第1パターンを設定する第2設定処理である。なお、ステップS170、及びその後のステップS180については後述する。
【0066】
さて、ステップS140において、制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1以上である場合(ステップS140:NO)、処理をステップS200に進める。
【0067】
ステップS200において、制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第2規定値K2未満であるか否かを判定する。制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第2規定値K2未満である場合(ステップS200:YES)、処理をステップS210に進める。
【0068】
ステップS210において、制御装置100は、第1噴射量Q1を設定する。制御装置100は、第1噴射量Q1を設定するにあたり、先ず、現状のブローバイガスの放出量を算出する。制御装置100は、最新の機関回転速度NE、最新の機関負荷率KL、エアフロメータ31から受信した最新の吸気の量GA等を参照する。そして、制御装置100は、これらのパラメータに基づいて、現状のブローバイガスの放出量を算出する。制御装置100は、ブローバイガスの放出量を算出するにあたり、例えば、予め記憶しているマップを参照する。このマップは、例えば、機関回転速度NE、機関負荷率KL、及び吸気の量GA等の各種パラメータと、ブローバイガスの放出量と、の関係を表したものである。制御装置100は、ブローバイガスの放出量を算出すると、圧力差分値ΔJを算出する。具体的には、制御装置100は、第2規定値K2から、ステップS130で算出した現状のクランク室内圧Jを減じた値を圧力差分値ΔJとする。制御装置100は、圧力差分値ΔJを算出すると、調整マップM3を参照する。上記のとおり、調整マップM3は、1つの水噴射弁4からの噴射水量と、噴射水量に応じた圧力変化値と、ブローバイガスの放出量との関係を表したものである。制御装置100は、この調整マップM3に基づいて、現状のブローバイガスの放出量と、圧力差分値ΔJと、に対応する噴射水量を、調整噴射量Qaのベース値として算出する。このとき、制御装置100は、圧力差分値ΔJを、調整マップM3の圧力変化値に当てはめればよい。制御装置100は、調整マップM3に基づいて調整噴射量Qaのベース値を算出すると、このベース値の4分の1の値を暫定値とする。さらに、制御装置100は、この暫定値から調整値を減算した値を調整噴射量Qaとして算出する。なお、ベース値の4分の1を調整噴射量Qaの暫定値に設定しているのは、水噴射制御を気筒2毎に行っていることによる。つまり、調整マップM3の設定上、4つの水噴射弁4が全て上記の調整噴射量Qaの暫定値を噴射すると、クランク室内圧Jが第2規定値K2近傍に至ることになる。また、調整値は、水噴射弁4からの水の噴射に応じてクランク室内圧Jが第2規定値K2にまでは至らないようにするための補正値である。調整値は、暫定値に対して極僅かな大きさである。調整値は、例えば暫定値の5%の値である。暫定値に対する調整値の比率は、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。制御装置100は、この比率を予め記憶している。制御装置100は、調整噴射量Qaを算出すると、第1噴射量Q1としてこの調整噴射量Qaを設定する。この後、制御装置100は、処理をステップS220に進める。なお、ステップS210の処理は、第2パターンを設定する第1設定処理である。
【0069】
ステップS220において、制御装置100は、第2噴射量Q2を設定する。具体的には、制御装置100は、ステップS100で算出した目標噴射量QsからステップS210で設定した第1噴射量Q1を減じた値を第2噴射量Q2に設定する。この後、制御装置100は、処理をステップS170に進める。なお、ステップS220の処理は、第2パターンを設定する第2設定処理である。
【0070】
一方、ステップS200において、制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第2規定値K2以上である場合(ステップS200:NO)、処理をステップS310に進める。
【0071】
ステップS310において、制御装置100は、第2噴射量Q2を設定する。具体的には、制御装置100は、第2噴射量Q2として、最大噴射量Qmを設定する。最大噴射量Qmは、ステップS100で算出した目標噴射量Qsである。この後、制御装置100は、処理をステップS320に進める。なお、ステップS320の処理は、第3パターンを設定する第2設定処理である。
【0072】
ステップS320において、制御装置100は、第1噴射量Q1を設定する。具体的には、制御装置100は、第1噴射量Q1として、ステップS100で算出した目標噴射量QsとステップS310で設定した第2噴射量Q2との差分となる「0」を設定する。この後、制御装置100は、処理をステップS170に進める。ステップS320の処理は、第3パターンを設定する第1設定処理である。なお、ステップS510で説明したのと同様、制御装置100は、水噴射制御の開始後、ステップS100から上記のステップS320までの処理を速やかに行う。したがって、処理がこの後のステップS170に進むタイミングは、実質的に、1燃焼サイクルの開始タイミング、すなわち吸気バルブ15の閉弁タイミングTCと略同じである。この点、ステップS160を経て処理がステップS170に進む場合も、ステップS220を経て処理がステップS170に進む場合も同じである。
【0073】
ステップS170において、制御装置100は、速やかに第2噴射処理を開始する。すなわち、制御装置100は、水噴射弁4に水の噴射を開始させる。制御装置100は、この第2噴射処理では、ステップS160、ステップS220、及びステップS310のいずれかで算出した第2噴射量Q2の水を水噴射弁4から噴射させる。上記のとおり、第2噴射量Q2が「0」の場合、制御装置100は、水噴射弁4から「0」の水を噴射させる。つまり、水噴射弁4は水を噴射しない。制御装置100は、第2噴射量Q2の水の噴射が完了すると、処理をステップS180に進める。
【0074】
ステップS180において、制御装置100は、第1噴射処理を行う。具体的には、制御装置100は、吸気バルブ15の開弁タイミングTSまで待機する。そして、制御装置100は、吸気バルブ15の開弁タイミングTSになると、第1噴射処理を開始する。すなわち、制御装置100は、水噴射弁4に水の噴射を開始させる。制御装置100は、この第1噴射処理では、ステップS150、ステップS210、及びステップS320のいずれかで算出した第1噴射量Q1の水を水噴射弁4から噴射させる。第1噴射量Q1が「0」の場合については、第2噴射量Q2が「0」の場合と同じである。制御装置100は、第1噴射量Q1の水の噴射が完了すると、水噴射制御の一連の処理を一旦終了する。そして、制御装置100は、1燃焼サイクルの開始タイミングになると、再度ステップS100の処理を実行する。
【0075】
<実施形態の作用>
(A)各噴射処理がクランク室内圧に及ぼす影響について
第1噴射処理では、吸気バルブ15の開弁中U2に水噴射弁4から水を噴射させる。この場合、水噴射弁4が噴射した水を気筒2内に至らせ易い一方で、次のような懸念がある。すなわち、吸気バルブ15の開弁中U2に水噴射弁4から水を噴射させる場合、その噴射による勢いと、吸気の流れとが相まって、水が気筒2内に勢いよく流入する。それに伴い、その水は、気筒2を区画しているシリンダブロック12の壁面(以下、気筒2の壁面と記す。)にまで至り易い。気筒2内に勢いよく流入した水がそのまま気筒2の壁面のある箇所にまとまって付着すると、その水は粗大水滴を形成する。こうした粗大水滴は、蒸発し難い。そのため、粗大水滴は、気筒2の壁面を流下し、やがてクランク室11内に入り込む。クランク室11内に入った水がクランク室11内で蒸発すると、クランク室内圧Jの増加を招く。
【0076】
上記第1噴射処理とは異なり、第2噴射処理では、吸気バルブ15の閉弁中U1に水噴射弁4から水を噴射させる。吸気バルブ15の閉弁中U1に水噴射弁4から水を噴射させる場合、噴射した水は即座に気筒2内に流入するのではなく、吸気ポート3Aで一旦滞留する。そしてこの水は、水噴射弁4からの噴射の勢いが収まった後に吸気バルブ15の開弁と共に気筒2内に流入する。したがって、水噴射弁4からの噴射の勢いが無い分、水が気筒2内へ流入する際の速度は低くなる。したがって、水は気筒2の壁面までは至り難い。そのため、第2噴射処理を行った場合、クランク室11への水の流入、さらにはクランク室内圧Jの増加は生じ難い。一方で、吸気バルブ15の閉弁中U1に水噴射弁4から水を噴射させた場合、次のような懸念がある。すなわち、水噴射弁4から噴射した水が吸気バルブ15の開弁前までの期間に吸気ポート3A内を滞留している際、この水は吸気ポート3Aの壁面に付着し得る。仮にこの水が粗大水滴を形成すると、この水は吸気ポート3Aの壁面から蒸発し難くなる。この場合、粗大水滴となった水は吸気ポート3Aに留まることになる。この結果として、水噴射弁4から噴射した水を気筒2内に全て供給できないことになる。
【0077】
水噴射制御では、このような、各噴射処理に応じた水の様相を踏まえた上で、状況に応じて2つの噴射処理を使い分けている。
(B)水噴射制御に伴う水噴射の態様について
いま、クランク室内圧Jが第1規定値K1未満であるとする(ステップS140:YES)。この場合、制御装置100は、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を第1パターンに設定する。上記のとおり、第1パターンは、第1噴射量Q1として目標噴射量Qsを設定するとともに、第2噴射量Q2として「0」を設定するパターンである。この第1パターンの設定に応じて、制御装置100は、
図2の(a)に示すように、第1噴射処理によって吸気バルブ15の開弁中U2に水噴射弁4から目標噴射量Qsの水を噴射させる。上記のとおり、第1噴射処理を行う場合、クランク室内圧Jが増加し得る。そのため、第1噴射処理のみを繰り返す状況が続くと、すなわちクランク室内圧Jが第1規定値K1未満の状況が継続すると、クランク室内圧Jが徐々に上昇し得る。そして、クランク室内圧Jが第1規定値K1以上になり得る(ステップS140:NO)。
【0078】
クランク室内圧Jが第1規定値K1以上且つ第2規定値K2未満になると(ステップS140:NO、ステップS200:YES)、制御装置100は、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を第2パターンに設定する。上記のとおり、第2パターンは、第1噴射量Q1として調整噴射量Qaを設定するとともに、第2噴射量Q2として目標噴射量Qsと調整噴射量Qaとの差分を設定するパターンである。この第2パターンの設定に応じて、制御装置100は、
図2の(b)に示すように、1燃焼サイクルの中で2回に分けて水噴射弁4から水を噴射する。すなわち、制御装置100は、先ず吸気バルブ15の閉弁中U1に第2噴射処理を行う。その後、制御装置100は、吸気バルブ15の開弁中U2に第1噴射処理を行う。制御装置100は、これら2回の噴射処理を通じて、1燃焼サイクルの中でトータルとして水噴射弁4から目標噴射量Qsの水を噴射させる。ここで、制御装置100が第1噴射量Q1として設定している調整噴射量Qaは、第2規定値K2と現状のクランク室内圧Jとの差である圧力差分値ΔJが大きいほど多くなる。このことは次のことを意味する。すなわち、現状のクランク室内圧Jが第2規定値K2に至るまでの余裕が相当にあるときには、その分第1噴射量Q1を多くする。これにより、クランク室内圧Jの過度な増加を避けつつ、極力多くの水を吸気バルブ15の開弁中U2に水噴射弁4から水を噴射させる。吸気バルブ15の開弁中U2に水噴射弁4から水を噴射させることで、より多くの水を気筒2内に確実に供給できる。一方、第2パターンの設定では、圧力差分値ΔJが小さいとき、つまり現状のクランク室内圧Jが第2規定値K2に至るまでの余裕がさほどないときには第1噴射量Q1を少なくする。これにより、水の噴射に応じたクランク室内圧Jの増加量を極力小さくし、当該クランク室内圧Jが第2規定値K2に至るのを避けることができる。この第2パターンに応じた噴射処理により、現状のクランク室内圧Jは基本的には第1規定値K1以上且つ第2規定値K2未満に収まる。制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1以上且つ第2規定値K2未満に収まる状況が続く間、第2パターンに応じた噴射処理を繰り返す。
【0079】
さて、例えば内燃機関1が過給状態と非過給状態とで切り替わること等に伴って機関負荷率KLが変わったとする。この場合、ブローバイガスの放出経路が切り替わる。機関負荷率KLが急変した場合、ブローバイガスの放出経路に切り替わりに際して、ブローバイガスの放出量が一時的に少なくなることがあり得る。そして、それに伴ってクランク室内圧Jが急増することがあり得る。この場合、クランク室内圧Jが第2規定値K2以上になり得る(ステップS200:NO)。クランク室内圧Jが第2規定値K2以上になると、制御装置100は、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を第3パターンに設定する。上記のとおり、第3パターンは、第1噴射量Q1として「0」を設定するとともに、第2噴射量Q2として目標噴射量Qsを設定するパターンである。この第3パターンに応じた噴射処理により、制御装置100は、
図2の(c)に示すように、第2噴射処理によって吸気バルブ15の閉弁中U1に水噴射弁4から目標噴射量Qsの水を噴射させる。吸気バルブ15の閉弁中U1に水噴射弁4から水を噴射させれば、上記のとおり、クランク室内圧Jの増加は生じない。そのため、クランク室内圧Jが、大気圧である第2規定値K2よりも相当に高くなることはない。やがてブローバイガスの放出経路の切り替わりが完了し、ブローバイガスの放出量が回復すると、クランク室内圧Jは第2規定値K2未満へと減少する。
【0080】
<実施形態の効果>
(1)上記作用に記載したとおり、制御装置100は、第1規定値K1及び第2規定値K2という2つの閾値を基準として、現状のクランク室内圧Jが高い場合には、低い場合に比べて、第1噴射量Q1を少なくし、その分、第2噴射量Q2を多くする。このことにより、現状のクランク室内圧Jが高い場合には、上記作用の(A)に記載した第1噴射処理と第2噴射処理との特性により、クランク室11に入る水の量を抑えることができる。したがって、クランク室内圧Jが過度に高くなることを防止できる。
【0081】
(2)上記作用の(A)に記載したとおり、第1噴射処理と第2噴射処理とには、それぞれの特性に応じた利点と欠点がある。それらを踏まえ、制御装置100は、クランク室内圧Jの大小に応じて第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2の設定の仕方を変更する。制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1未満であるとき(ステップS140:YES)には、第1噴射量Q1として目標噴射量Qsを設定する。つまり、制御装置100は、クランク室内圧Jの増加を抑える必要のない状況では、第1噴射量Q1を最大限に多くするとともに第2噴射量Q2を最大限に少なくする。そして、第1噴射処理で目標噴射量Qsの総量の噴射を賄う。このことで、目標噴射量Qsの略全ての水を気筒2内に供給することができる。一方、制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1以上且つ第2規定値K2未満であるとき(ステップS140:NO、ステップS200:YES)には、第1噴射量Q1として、目標噴射量Qsよりも少なく且つ「0」よりも大きい値を設定する。つまり、制御装置100は、クランク室内圧Jの更なる増加を未だ許容できるものの、クランク室内圧Jを抑えるための対処を行う必要のある状況では、第1噴射処理と第2噴射処理との双方で目標噴射量Qsの噴射を賄う。このことで、気筒2内へ極力多くの水を供給しつつ、且つ、クランク室内圧Jの増加を相応に抑えることができる。さらに、制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第2規定値K2以上であるとき(ステップS200:NO)には、第1噴射量Q1として「0」を設定する。つまり、制御装置100は、クランク室内圧Jの増加を確実に抑える必要のある状況では、第1噴射量Q1を最大限に少なくするとともに第2噴射量Q2を最大限に多くする。そして、第2噴射処理で目標噴射量Qsの総量の噴射を賄う。このことによって、クランク室内圧Jが現状よりも高くなることを防止できる。このように、制御装置100は、クランク室内圧Jの増加を抑えることについての優先度の高低に応じて第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を変更する。こうした本実施形態の構成は、気筒2内へ極力多くの水を供給し、且つ、クランク室内圧Jが高くなるのを防止できる。
【0082】
(3)現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1以上且つ第2規定値K2未満である状況は、クランク室内圧Jの増加を抑える必要のない状況と、クランク室内圧Jの増加を確実に抑える必要のある状況との間の過渡的な状況である。したがって、上記の状況の中でも、クランク室内圧Jが第1規定値K1寄りのときと、第2規定値K2寄りのときとでは、クランク室内圧Jの増加を抑えることについての優先度が異なる。そこで、制御装置100は、現状のクランク室内圧Jが第1規定値K1以上且つ第2規定値K2未満であるときには、第2規定値K2と現状のクランク室内圧Jとの差である圧力差分値ΔJに応じて第1噴射量Q1を可変に設定する。そして、クランク室内圧Jが第1規定値K1寄りのときには第1噴射量Q1を多くする一方で、クランク室内圧Jが第2規定値K2寄りのときには第1噴射量Q1を少なくする。このようにして第1噴射量Q1を可変に設定することで、上記過渡的な状況下において気筒2内への水の供給とクランク室内圧Jの増加の抑制との双方を両立するにあたって、現状のクランク室内圧Jに見合った最適な値を設定できる。
【0083】
(4)クランク室内圧Jは、基本的には負圧である。ここで、内燃機関1は、クランク室11の気密を保つためのシール部品を有する。シール部品の一例は、シリンダブロック12等における、クランクシャフト7が貫通している貫通孔と、クランクシャフト7との隙間を塞ぐ所謂オイルシールである。上記のようなシール部品を含め、クランク室11に設けられている各種部品は、クランク室内圧Jが負圧又は小さな正圧であることを前提に設計されている。したがって、クランク室内圧Jが大気圧よりも相当に大きくなると、各種部品が適正に機能しなくなるおそれがある。
【0084】
本実施形態では、第2規定値K2として大気圧を設定している。そして、現状のクランク室内圧Jが大気圧以上になった場合には、第1噴射量Q1を「0」にする。そのため、現状のクランク室内圧Jが一旦は大気圧以上になったとしても、現状のクランク室内圧Jがさらに高くなることを防止できる。したがって、現状のクランク室内圧Jを、内燃機関1の各種部品が適正に機能する範囲に収めることができる。
【0085】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0086】
・第2噴射処理の噴射開始タイミングは、上記実施形態の例に限定されない。第2噴射処理の開始タイミングは、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ15の閉弁中U1のタイミングであり、且つ当該閉弁中U1に水噴射弁4から第2噴射量Q2の水を噴射しきることのできるタイミングであればよい。例えば、第2噴射処理を、吸気バルブ15の閉弁タイミングTCよりも相応の後に開始してもよい。第2噴射処理の開始タイミングは、上記の条件を満たしていればよい。
【0087】
・第1噴射処理の開始タイミングは、上記実施形態の例に限定されない。第1噴射処理の開始タイミングは、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ15の開弁中U2のタイミングであり、且つ当該開弁中U2に水噴射弁4から第1噴射量Q1の水を噴射しきることができるタイミングであればよい。
【0088】
・第3パターンで設定する最大噴射量Qmは、上記実施形態の例に限定されない。上記実施形態では、吸気バルブ15の閉弁中U1の全期間に亘って第2噴射処理の実行が許容されていた。その結果として、最大噴射量Qmが常に目標噴射量Qsとなっていた。ここで、何らかの制御の制約等により、吸気バルブ15の閉弁中U1の全期間に亘って第2噴射処理の実行を許容できないこともある。そしてそれに付随して、最大噴射量Qmが目標噴射量Qs未満になることもあり得る。最大噴射量Qmが目標噴射量Qs未満の場合に当該最大噴射量Qmを第2噴射量Q2に設定すると、目標噴射量Qsと第2噴射量Q2との差分の第1噴射量Q1は、「0」よりも大きな値になる。
【0089】
・第3パターンで設定する第2噴射量Q2は、最大噴射量Qm未満でもよい。第3パターンで設定する第1噴射量Q1が、第2パターンで設定する第1噴射量Q1に比べて小さい値になるように第2噴射量Q2が設定してあればよい。
【0090】
・第3パターンで設定する第2噴射量Q2を、目標噴射量Qsの半分未満の値にしてもよい。それとともに、第3パターンで設定する第1噴射量Q1を、目標噴射量Qsの半分以上の値にしてもよい。この場合でも、第3パターンで設定する第1噴射量Q1が第2パターンで設定する第1噴射量Q1に比べて小さい値になっていればよい。
【0091】
・第3パターンで設定する第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2に関して、第2噴射量Q2を先に設定することは必須ではない。第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2のうち、第1噴射量Q1を先に設定してもよいし、これらの双方を同時に設定してもよい。第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を設定する順序に拘わらず、第3パターンで設定する第1噴射量Q1が、第2パターンで設定する第1噴射量Q1に比べて小さい値になっていればよい。
【0092】
・第2パターンで設定する第1噴射量Q1の定め方は、上記実施形態の例に限定されない。第2パターンで設定する第1噴射量Q1は、第1パターンで設定する第1噴射量Q1に比べて小さい値であればよい。第2パターンで第1噴射量Q1を設定するにあたり、第1規定値K1と現状のクランク室内圧Jとの差が大きいほど第1噴射量Q1が小さい値になるように第1噴射量Q1を可変に設定する態様を採用すれば、次の観点において好ましい。すなわち、現状のクランク室内圧Jに合わせて、気筒2内への水の供給とクランク室内圧Jの増加の抑制との両立を図るのに適した第1噴射量Q1を設定し易い。第2パターンで設定する第1噴射量Q1は、第1規定値K1と現状のクランク室内圧Jとの差の大小に拘わらず常に同一の固定値でもよい。
【0093】
・第2パターンで設定する第1噴射量Q1を目標噴射量Qsの半分未満の値にしてもよい。この場合でも、第2パターンで設定する第1噴射量Q1が、第1パターンで設定する第1噴射量Q1に比べて小さい値になっていればよい。
【0094】
・第2パターンで設定する第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2に関して、第1噴射量Q1を先に設定することは必須ではない。第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2のうち、第2噴射量Q2を先に設定してもよいし、これらの双方を同時に設定してもよい。第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を設定する順序に拘わらず、第2パターンで設定する第1噴射量Q1が、第1パターンで設定する第1噴射量Q1に比べて小さい値になっていればよい。
【0095】
・第1パターンで設定する第1噴射量Q1は、上記実施形態の例に限定されない。つまり、第1パターンで設定する第1噴射量Q1は目標噴射量Qs未満でもよい。上記のとおり、第1パターン、第2パターン、及び第3パターンの順に第1噴射量Q1が小さくなるという関係が成立していればよい。
【0096】
・他のパターンと同様、第1パターンで第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を設定する際のこれらの設定の順序は問わない。
・第2規定値K2は、上記実施形態の例に限定されない。第2規定値K2に合わせて、第3パターンで設定する第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2を適切な値にすればよい。第2規定値K2は、第1規定値K1よりも大きければよい。
【0097】
・水噴射制御において、ステップS200、ステップS310、及びステップS320の処理を廃止してもよい。そして、ステップS140の判定がNOの場合に、処理をステップS210に進めてもよい。つまり、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2の設定の仕方を第1規定値K1によって1段階のみ変更するようにしてもよい。この場合でも、第2パターンで設定する第1噴射量Q1が、第1パターンで設定する第1噴射量Q1に比べて小さい値になっていればよい。
【0098】
・第1規定値K1は、上記実施形態の例に限定されない。第1規定値K1は、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2の設定の仕方を変更する上で適切な値であればよい。
・上記実施形態から第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2の設定の仕方を変更する場合でも、第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2は次の条件を満たした値であることが好ましい。第1噴射量Q1は、目標噴射量Qs以下である。第2噴射量Q2は、目標噴射量Qsと第1噴射量Q1との差分の値である。これらの条件を満たす場合、第2噴射量Q2については、第1噴射量Q1と第2噴射量Q2の設定の順序に拘わらず、結果として目標噴射量Qsと第1噴射量Q1との差分の値になっていればよい。また、例えば、上記実施形態では、第2パターンの第2噴射量Q2を設定する上で、目標噴射量Qsから第1噴射量Q1を減算して当該第2噴射量Q2を算出していた。第1噴射量Q1及び第2噴射量Q2の定め方は、このような減算を利用したものに限定されない。第1噴射量Q1が目標噴射量Qs以下であり、且つ第2噴射量Q2が目標噴射量Qsと第1噴射量Q1との差分の値になっていれば、算出の過程で採用する手法は問わない。なお、第1噴射量Q1と第2噴射量Q2との和が目標噴射量Qsになっていることは必須ではない。第1噴射量Q1と第2噴射量Q2との和が目標噴射量Qsになっていなくても、次の関係が成立していればよい。すなわち、第2パターンでは、第1パターンに比べて、第1噴射量Q1と第2噴射量Q2との和に対する第1噴射量Q1の割合が小さくなっていればよい。第3パターンが存在する場合、第3パターンでは、第2パターンに比べて、第1噴射量Q1と第2噴射量Q2との和に対する第1噴射量Q1の割合が小さくなっていればよい。これらの関係が成立するように第1噴射量Q1と第2噴射量Q2とを設定するにあたり、第1噴射量Q1が「0」であったり、第2噴射量Q2が「0」であったりすることもあり得る。
【0099】
・現状のクランク室内圧Jの算出手法は、上記実施形態の例に限定されない。現状のクランク室内圧Jは、内燃機関1の運転状態に基づいて算出してあればよい。上記実施形態では、内燃機関1の運転状態を示すパラメータの1つであるクランク室内圧Jそのものを直接検出し、その検出値から現状のクランク室内圧Jを算出していた。この態様に代えて、クランク室内圧Jそのものではないパラメータに基づいて現状のクランク室内圧Jを算出してもよい。この場合のパラメータは、クランク室内圧Jと関連するパラメータであって且つ内燃機関1の運転状態を示すパラメータであればよい。例えば、機関回転速度NEと機関負荷率KLとに基づいて現状のクランク室内圧Jを算出してもよい。この場合、例えば、機関回転速度NEと機関負荷率KLとクランク室内圧Jとの関係を表したマップを予め作成しておけばよい。機関回転速度NEと機関負荷率KL以外にも、クランク室内圧Jと関連するパラメータであって且つ内燃機関1の運転状態を示すパラメータとして、例えば次のものが挙げられる。吸気の量GA、吸気通路3を流れる吸気の圧力、ブローバイガス処理機構の各通路を流れるガスの圧力等である。こうしたパラメータに基づいてクランク室内圧Jを算出してもよい。吸気通路3を流れる吸気の圧力を利用する場合、吸気通路3の途中の位置に、吸気の圧力を検出する吸気圧センサを設ければよい。また、ブローバイガス処理機構の各通路を流れるガスの圧力を利用する場合、これらの通路に当該通路を流れるガスの圧力を検出するセンサを設ければよい。また、クランク室内圧Jは、クランク室11内の温度と関連する。そのため、現状のクランク室内圧Jを算出する上で、クランク室11の温度と関連するパラメータを利用することも有効である。この場合、クランク室11内の温度そのものはもちろん、オイルパン13が貯留しているオイルの温度、シリンダブロック12を流れる冷却水の温度等を利用することが考えられる。これらのパラメータを利用して現状のクランク室内圧Jを算出する場合、各パラメータを検出する上で適切な箇所に各種のセンサを設ければよい。また、例えば、内燃機関1の運転を開始してからの継続時間といった、センサを利用することなく把握できる内燃機関1の運転状態に基づいて現状のクランク室内圧Jを算出してもよい。
【0100】
・目標水量マップM1の内容は、上記実施形態の例に限定されない。目標水量マップM1は、内燃機関1の運転状態に応じて、気筒2内を必要な分だけ冷却する上で必要な水を噴射できるように設定してあればよい。
【0101】
・到達期間Lは、固定値でなく、例えば吸気の量GA等に応じて可変に設定してもよい。到達期間Lを「0」にしてもよい。この場合でも、目標噴射量Qsのうちの概ねの量の水は気筒2内に至る。
【0102】
・内燃機関1の運転中、当該内燃機関1の運転状態に応じて、水噴射弁4に供給する水の圧力を変化させてもよい。この場合、そうした水の圧力変更に合わせて適切に水噴射弁4を制御できるように各種マップ等を作成しておけばよい。例えば、噴射マップM2を次のような内容にすればよい。すなわち、噴射期間と可能噴射量との関係を、水噴射弁4に供給する水の圧力毎に定める。このような噴射マップM2であれば、水噴射弁4に供給する水の圧力に応じた許容噴射量Qvを算出できる。
【0103】
・吸気バルブ15が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを把握する手法は、上記実施形態の例に限定されない。例えばクランクポジションセンサ35、及び吸気カムポジションセンサ36の検出値を利用して吸気バルブ15の開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを把握してもよい。吸気バルブ15が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを適切に把握できるのであれば、その手法は問わない。吸気バルブ15が閉弁タイミングTCとなるクランク位置Scrについても同様である。
【0104】
・内燃機関1の全体構成は、上記実施形態の例に限定されない。気筒2の数を変更してもよい。また、ブローバイガス処理機構の構成を変更してもよい。例えば、ブローバイガス処理機構は、上記実施形態の構成に加えて、第3通路、吸気バイパス通路、及びエゼクタを有してもよい。吸気バイパス通路は、吸気通路3における、コンプレッサホイール41から視て上流側の部分と下流側の部分とを接続する。すなわち、吸気バイパス通路は、コンプレッサホイール41を迂回する通路である。エゼクタは、吸気バイパス通路の途中に設ける。エゼクタは、負圧を発生するための絞りを有する。第3通路は、クランク室11とエゼクタとを接続する。この構成を加えた場合、内燃機関1が過給状態になると、コンプレッサホイール41前後の吸気の圧力に応じて、吸気の一部が吸気バイパス通路を通じてコンプレッサホイール41から視て下流側から上流側へと戻る。このとき、吸気バイパス通路の途中に位置するエゼクタは負圧を発生する。そして、エゼクタは、第3通路を通じてクランク室11内のブローバイガスを吸引する。このブローバイガスは、吸気バイパス通路を介して吸気通路3へと流れる。こういったブローバイガス処理機構を採用してもよい。なお、内燃機関1が過給機40を有することは必須ではない。内燃機関1は、水噴射弁4と、クランク室11と、吸気バルブ15とを有していればよい。
【0105】
・車両300の全体構成は、上記実施形態の例に限定されない。車両300は、例えば、当該車両300の駆動源として内燃機関1のみならず発電電動機を有していてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1…内燃機関
2…気筒
3…吸気通路
4…水噴射弁
7…クランクシャフト
11…クランク室
15…吸気バルブ
100…制御装置