(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】内燃機関制御装置
(51)【国際特許分類】
F02M 26/53 20160101AFI20240806BHJP
F02M 26/05 20160101ALI20240806BHJP
F02M 26/66 20160101ALI20240806BHJP
F02D 21/08 20060101ALI20240806BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
F02M26/53
F02M26/05
F02M26/66
F02D21/08
F02D45/00 345
(21)【出願番号】P 2022069003
(22)【出願日】2022-04-19
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭一
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-202137(JP,A)
【文献】特開2014-240631(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0197863(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/00
F02D 21/08
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路と、排気通路と、前記排気通路を流れる排気の一部をEGRガスとして前記吸気通路に還流させるEGR装置と、を備えた内燃機関に適用される内燃機関制御装置であって、
前記EGR装置は、第1端が前記排気通路に接続されているとともに第2端が前記吸気通路に接続されているEGR通路と、前記EGR通路に設けられているEGRバルブと、を有するものであり、
前記EGRバルブは、
前記EGR通路が形成されている金属製のバルブハウジングと、前記バルブハウジングに設けられているバルブシートと、前記バルブシートから離間する離間方向及び前記離間方向の反対方向であって前記バルブシートに接近する方向である接近方向に移動可能な状態で前記バルブハウジングに支持されている弁体と、前記離間方向及び前記接近方向に前記弁体を移動させるべく作動するアクチュエータと、を有し、
閉弁時には前記バルブシートに前記弁体を押し付けることによって前記EGR通路における前記EGRガスの流通を規制する一方、開弁時には前記バルブシートから前記離間方向に前記弁体を離間させることによって前記EGR通路における前記EGRガスの流通を許容するものであり、
前記内燃機関制御装置は、前記アクチュエータを作動させることによって前記EGRバルブを制御する実行装置を備え、
前記実行装置は、
前記内燃機関の温度が外気温と同程度であるか否かを判定する判定処理と、
前記内燃機関の運転停止中において、前記判定処理で前記内燃機関の温度が外気温と同程度であると判定した場合に、前記EGRバルブを開閉動作させる軸ずれ解消処理と、を実行する
内燃機関制御装置。
【請求項2】
前記実行装置は、前記判定処理において、前記内燃機関を循環する冷却水の温度が判定温度以下である場合に、前記内燃機関の温度が外気温と同程度であると判定する
請求項1に記載の内燃機関制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関は車両に搭載されるものであり、
前記実行装置は、前記車両の走行距離の累積値が判定距離以上である場合には前記軸ずれ解消処理の実行を禁止する
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関制御装置。
【請求項4】
前記実行装置は、前記EGRバルブの動作回数の累積値が判定回数以上である場合には前記軸ずれ解消処理の実行を禁止する
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気通路を流れる排気の一部をEGRガスとして吸気通路に還流させるEGR装置を備える内燃機関に適用される内燃機関制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関のEGR装置を制御する制御装置が開示されている。EGR装置は、EGR通路とEGR通路に設けられている電子制御式のEGRバルブとを備えている。EGR通路の第1端は、排気通路のうち、過給器のタービンよりも上流の部分に接続されている一方、EGR通路の第2端は、吸気通路のうち、スロットルバルブよりも下流の部分に接続されている。
【0003】
制御装置は、EGRバルブを閉弁させているときに吸気通路に流れるEGRガスの量であるEGRガス漏れ量が所定量以上である場合に、内燃機関の運転停止時にEGRバルブの開閉動作を複数回繰り返し実行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、EGRバルブは、EGR通路が内部に形成されている金属製のバルブハウジングと、バルブハウジングに設けられているバルブシートと、弁体とを備えている。弁体は、バルブシートから離間する離間方向、及び、離間方向の反対方向であってバルブシートに接近する方向である接近方向に移動可能な状態でバルブハウジングに支持されている。こうしたEGRバルブは、開弁時には弁体をバルブシートから離間させることによってEGRガスの通過を許容する。一方、EGRバルブは、閉弁時には弁体をバルブシートに押し付けることによってEGRガスの通過を規制する。
【0006】
こうしたEGRバルブは、バルブシートの中心軸と弁体の中心軸とが実質的に一致するように組み立てられている。しかし、内燃機関の運転時には、高温のEGRガスがEGR通路を流れることになる。すなわち、EGRバルブは高温のEGRガスに晒されることになる。その結果、弁体を支持するバルブハウジングが熱変形し、バルブシートの中心軸から弁体の中心軸が相対的にずれてしまうことがある。このようにバルブシートの中心軸から弁体の中心軸が相対的にずれているときにEGRバルブを閉弁した場合、バルブシートの中心軸から弁体の中心軸が相対的にずれたままでバルブシートに弁体が押し付けられる。この場合、EGRバルブを閉弁させてもバルブシートと弁体との間に比較的大きな隙間が形成されることになる。この状態でバルブハウジングが冷却されて当該バルブハウジングの熱変形が解消されても、バルブシートと弁体との間で摩擦力が発生するため、バルブシートの中心軸から弁体の中心軸が相対的にずれた状態が保持される。すなわち、バルブシートと弁体との間に比較的大きな隙間が形成されたままとなる。その結果、EGRバルブを閉弁させているにも拘わらず、当該EGRバルブを介して吸気通路に漏出するEGRガスの量が比較的多くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための内燃機関制御装置は、吸気通路と、排気通路と、前記排気通路を流れる排気の一部をEGRガスとして前記吸気通路に還流させるEGR装置と、を備えた内燃機関に適用される装置である。前記EGR装置は、第1端が前記排気通路に接続されているとともに第2端が前記吸気通路に接続されているEGR通路と、前記EGR通路に設けられているEGRバルブと、を有するものである。前記EGRバルブは、前記EGR通路が形成されている金属製のバルブハウジングと、前記バルブハウジングに設けられているバルブシートと、前記バルブシートから離間する離間方向及び前記離間方向の反対方向であって前記バルブシートに接近する方向である接近方向に移動可能な状態で前記バルブハウジングに支持されている弁体と、前記離間方向及び前記接近方向に前記弁体を移動させるべく作動するアクチュエータと、を有している。前記EGR装置は、閉弁時には前記バルブシートに前記弁体を押し付けることによって前記EGR通路における前記EGRガスの流通を規制する一方、開弁時には前記バルブシートから前記離間方向に前記弁体を離間させることによって前記EGR通路における前記EGRガスの流通を許容する。前記内燃機関制御装置は、前記アクチュエータを作動させることによって前記EGRバルブを制御する実行装置を備えている。前記実行装置は、前記内燃機関の温度が外気温と同程度であるか否かを判定する判定処理と、前記内燃機関の運転停止中において、前記判定処理で前記内燃機関の温度が外気温と同程度であると判定した場合に、前記EGRバルブを開閉動作させる軸ずれ解消処理と、を実行する。
【0008】
内燃機関の運転時においてEGRバルブが開弁している場合には、高温のEGRガスがEGR通路を流れるため、バルブハウジングが熱変形する。その結果、EGRバルブでは、バルブシートの中心軸から弁体の中心軸が相対的にずれてしまう。この状態でEGRバルブを閉弁させてバルブシートに弁体を押し付けたとしても、バルブシートと弁体との間に比較的大きな隙間が形成されてしまう。
【0009】
ここで、内燃機関の運転の停止直後では、バルブハウジングの温度も高く、バルブハウジングの熱変形の度合いも比較的大きい。そのため、運転の停止直後にEGRバルブを開閉動作させても、バルブシートの中心軸と弁体の中心軸との相対的なずれを解消できない。しかし、内燃機関の運転の停止時点から時間が経過すると、内燃機関の温度が徐々に低下するため、バルブハウジングの温度も低下していく。バルブハウジングの温度が低下するほど、バルブハウジングの熱変形の度合いも小さくなる。すなわち、バルブハウジングの形状が元の形状に戻っていく。
【0010】
そこで、上記内燃機関制御装置では、内燃機関の運転停止後において、内燃機関の温度が外気温と同程度まで低下したと判定されると、軸ずれ解消処理が実行される。すなわち、バルブハウジングの熱変形の度合いが十分に小さくなってから軸ずれ解消処理が実行される。弁体を支持するバルブハウジングの熱変形の度合いが十分に小さくなってからEGRバルブを開閉動作させることにより、バルブシートの中心軸と弁体の中心軸との相対的なずれを解消できる。その結果、EGRバルブの閉弁時におけるバルブシートと弁体との間の隙間を小さくできる。これにより、EGRバルブの閉弁時にEGRバルブを介して吸気通路に漏出するEGRガスの量を減少できるようになる。
【0011】
上記内燃機関制御装置の一例において、前記実行装置は、前記判定処理において、前記内燃機関を循環する冷却水の温度が判定温度以下である場合に、前記内燃機関の温度が外気温と同程度であると判定する。
【0012】
上記内燃機関制御装置では、冷却水の温度を用いて、内燃機関の温度が外気温と同程度であるか否かを判定できる。
上記内燃機関制御装置の一例が適用される内燃機関は車両に搭載されるものである。この場合、前記実行装置は、前記車両の走行距離の累積値が判定距離以上である場合には前記軸ずれ解消処理の実行を禁止することが好ましい。
【0013】
EGRバルブの開閉動作が繰り返されると、バルブシート及び弁体の摩耗が進行していく。すなわち、バルブシート及び弁体の形状が変形していく。このようにバルブシート及び弁体の形状が変形していくと、バルブシートの中心軸から弁体の中心軸が相対的にずれたままであっても、EGRバルブの閉弁時における当該EGRバルブを介した吸気通路へのEGRガスの漏れ量があまり多くならない。すなわち、軸ずれ解消処理を実行するメリットが徐々に小さくなる。
【0014】
そこで、上記内燃機関制御装置では、車両の走行距離の累積値が判定距離以上になった場合には、EGRバルブの開閉動作の回数が十分に大きくなってバルブシート及び弁体の摩耗が進行したため、軸ずれ解消処理を実行するメリットが小さくなったと判断する。そして、このような判断がなされた以降では軸ずれ解消処理の実行が禁止される。これにより、車両の走行距離の累積値が判定距離以上になった場合には、内燃機関の運転の停止中における電力消費を抑制できる。
【0015】
上記内燃機関制御装置の一例において、前記実行装置は、前記EGRバルブの動作回数の累積値が判定回数以上である場合には前記軸ずれ解消処理の実行を禁止する。
上記内燃機関制御装置では、EGRバルブの動作回数の累積値が判定回数以上になった場合には、バルブシート及び弁体の摩耗が進行したため、軸ずれ解消処理を実行するメリットが小さくなったと判断する。そして、このような判断がなされた以降では軸ずれ解消処理の実行が禁止される。これにより、EGRバルブの動作回数の累積値が判定回数以上である場合には、内燃機関の運転の停止中における電力消費を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、内燃機関制御装置と、内燃機関制御装置が適用される内燃機関とを備える車両の概略を示す構成図である。
【
図2】
図2は、同内燃機関が備えるEGR装置において、EGRバルブを示す断面図である。
【
図3】
図3は、同EGRバルブにおいて、バルブシートの中心軸から弁体の中心軸が相対的にずれた状態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、同内燃機関制御装置のCPUが実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、同EGRバルブを介した吸気通路へのEGRガスの漏れ量と、EGRバルブの動作回数との関係の実験結果の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、同EGRバルブを介した吸気通路へのEGRガスの漏れ量の推移の実験結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、内燃機関制御装置の一実施形態を
図1~
図6に従って説明する。
図1に示す車両10は、内燃機関20と、検出系70と、内燃機関20の運転を制御する制御装置80とを備えている。制御装置80が「内燃機関制御装置」に対応する。
【0018】
<内燃機関>
内燃機関20は、複数の気筒21とクランク軸22とを備えている。
図1では、複数の気筒21のうちの1つのみを図示している。内燃機関20は、複数の気筒21を冷却する冷却水が流れるウォータージャケット23を備えている。気筒21内には、気筒21内で往復動するピストン24が設けられている。ピストン24は、コネクティングロッド25を介してクランク軸22に連結されている。複数の気筒21内においてピストン24が往復動することにより、クランク軸22が回転する。
【0019】
内燃機関20は、吸気通路26と、吸気バルブ27と、電子制御式のスロットルバルブ28とを備えている。吸気通路26は、複数の気筒21内に導入する空気が流れる通路である。吸気通路26を流れる空気は、吸気バルブ27が開弁している場合に気筒21内に導入される。スロットルバルブ28は、吸気通路26を流れる空気の量である吸入空気量を調整する。
【0020】
内燃機関20は、燃料噴射弁29と点火装置30と排気通路31と排気バルブ32とを備えている。燃料噴射弁29は、気筒21内に供給する燃料を噴射する。気筒21内では、吸気通路26から導入された空気と燃料噴射弁29から噴射された燃料とを含む混合気が点火装置30の点火によって燃焼される。混合気の燃焼によって得た動力によって気筒21内でピストン24が往復動する。また、気筒21内では混合気の燃焼によって排気が生成される。こうした排気は、排気バルブ32が開弁している場合に気筒21内から排気通路31に排出される。
【0021】
内燃機関20は、排気駆動式の過給器35を備えている。過給器35は、タービン36とコンプレッサ37とを有している。タービン36は排気通路31に設けられている。コンプレッサ37は、吸気通路26のうち、スロットルバルブ28よりも上流の部分に設けられている。タービン36は、排気通路31を流れる排気の流勢によって駆動する。コンプレッサ37は、タービン36の駆動と同期して駆動する。タービン36が駆動することにより、吸気通路26を流れる空気が加圧されて気筒21内に導入される。
【0022】
内燃機関20は、EGR装置40を備えている。EGR装置40は、排気通路31を流れる排気の一部をEGRガスとして吸気通路26に還流させる装置である。EGR装置40は、EGR通路41と、EGR通路41に設けられている電子制御式のEGRバルブ42とを有している。EGR通路41の第1端は排気通路31に接続されている一方、EGR通路41の第2端は吸気通路26に設けられている。具体的には、EGR通路41の第1端は、排気通路31のうち、タービン36よりも上流の部分に接続されている。EGR通路41の第2端は、吸気通路26のうち、スロットルバルブ28よりも下流の部分に接続されている。
【0023】
図2及び
図3を参照し、EGRバルブ42について詳述する。
EGRバルブ42は、金属製のバルブハウジング51と、バルブシート52と、弁体53と、アクチュエータ56とを有している。
【0024】
バルブハウジング51は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成されている。EGR通路41はバルブハウジング51を貫通している。すなわち、バルブハウジング51にEGR通路41が形成されている。EGR通路41のうち、バルブハウジング51内に形成されている部分を「ハウジング内通路41a」という。EGRバルブ42が開弁している場合、
図2に矢印で示す方向にEGRガスがハウジング内通路41aを流れる。
【0025】
ハウジング内通路41aは、上流端部411と中間部412と下流端部413とを有している。中間部412は、ハウジング内通路41aにおけるEGRガスの流動方向において、上流端部411と下流端部413との間に位置している。つまり、中間部412は、上流端部411及び下流端部413の何れにも接続している。上流端部411の直径は中間部412の直径よりも大きいため、上流端部411と中間部412との境界には段差414が形成されている。
【0026】
バルブシート52は段差414に配置されている。バルブシート52は環状をなしている。例えば、バルブシート52は、レーザクラッド加工によってバルブハウジング51に設けられている。EGRバルブ42が開弁している場合には、バルブシート52よりも内側をEGRガスが通過する。
【0027】
弁体53は、シャフト54と、シャフト54に固定されている弁本体55とを有している。シャフト54は、バルブハウジング51に対して進退移動可能な状態で支持されている。弁本体55は、バルブシート52の全周に接触可能に構成されている。本実施形態では、バルブシート52の中心軸52zと、弁体53のシャフト54の中心軸53zとが実質的に一致するように、EGRバルブ42が設計されている。2つの中心軸52z,53zが実質的に一致するとは、
図2に示すように2つの中心軸52z,52zが完全に重なる場合だけではなく、製造上の誤差の範囲で2つの中心軸52z,52zが多少ずれている場合も含んでいる。なお、以降では、弁体53のシャフト54の中心軸53zを、単に「弁体53の中心軸53z」という。
【0028】
弁体53は、離間方向X1と、離間方向X1の反対方向である接近方向X2に移動可能である。弁体53が離間方向X1に移動すると、弁本体55がバルブシート52から離間するため、EGRバルブ42が開弁する。このようにEGRバルブ42が開弁している場合、EGRバルブ42は、EGR通路41を吸気通路26に向けてEGRガスが流れることを許容する。一方、弁体53が接近方向X2に移動すると、弁本体55がバルブシート52に押し付けられるため、EGRバルブ42が閉弁する。このようにEGRバルブ42が閉弁している場合、EGRバルブ42は、EGR通路41を吸気通路26に向けてEGRガスが流れることを規制する。
【0029】
アクチュエータ56は、制御装置80からの指令に応じて作動する。アクチュエータ56が作動すると、アクチュエータ56の出力が弁体53に伝達されることにより、弁体53が離間方向X1に移動する。このため、EGRバルブ42が開弁する。一方、アクチュエータ56の作動が停止すると、アクチュエータ56の出力が弁体53に伝達されなくなる。そのため、弁体53が接近方向X2に移動して弁体53がバルブシート52に押し付けられる。その結果、EGRバルブ42が閉弁する。
【0030】
内燃機関20が運転している状況下でEGRバルブ42が開弁している場合、EGR通路41を高温のEGRガスが流れる。すなわち、バルブハウジング51は高温のEGRガスに晒される。そのため、バルブハウジング51が受熱することによって、バルブハウジング51が熱変形する。バルブハウジング51に弁体53のシャフト54が支持されているため、バルブハウジング51が熱変形すると、
図3に示すように弁体53の中心軸53zがバルブシート52の中心軸52zから相対的にずれてしまうおそれがある。弁体53の中心軸53zとバルブシート52の中心軸52zとが相対的にずれた状態のままEGRバルブ42が閉弁された場合、バルブシート52と弁本体55との間に比較的大きな隙間が形成されるおそれがある。
【0031】
<検出系>
図1に示すように、検出系70は複数種類のセンサを備えている。複数種類のセンサは、検出結果に応じた信号を制御装置80に出力する。検出系70は、センサとして、水温センサ71と外気温センサ72とオドメータ73とを備えている。水温センサ71は、内燃機関20内を循環する冷却水、すなわちウォータージャケット23を流れる冷却水の温度である水温を検出する。外気温センサ72は、車両10の外気温を検出する。オドメータ73は、車両10の走行距離の累積値である累積走行距離を検出する。以降の記載では、水温センサ71が検出した水温を「水温TPw」といい、外気温センサ72が検出した外気温を「外気温TPo」といい、オドメータ73が検出した累積走行距離を「累積走行距離La」という。
【0032】
<制御装置>
制御装置80は、複数種類のセンサ71~73の検出値に基づいて、スロットルバルブ28の開度、燃料噴射弁29の燃料噴射量、及び点火装置30による点火タイミングを調整する。また、制御装置80は、EGRバルブ42のアクチュエータ56を作動させることにより、EGRバルブ42の開閉を制御する。
【0033】
制御装置80はCPU81とメモリ82とを備えている。メモリ82には、CPU81によって実行される各種の制御プログラムが記憶されている。本実施形態では、CPU81が「実行装置」に対応する。
【0034】
CPU81は、判定処理と軸ずれ解消処理とを実行する。
判定処理は、内燃機関20の温度が外気温と同程度であるか否かを判定する処理である。例えば、判定処理において、CPU81は、水温TPwに基づいて、内燃機関20の温度が外気温と同程度であるか否かを判定する。このとき、CPU81は、水温TPwが判定温度TPwth以下である場合には内燃機関20の温度が外気温と同程度であると判定する。一方、CPU81は、水温TPwが判定温度TPwthよりも高い場合には内燃機関20の温度が外気温と同程度ではないと判定する。判定温度TPwthは、水温TPwが外気温と同等であるか否かの判断基準として設定されている。
【0035】
軸ずれ解消処理は、内燃機関20の運転停止中において、判定処理で内燃機関20の温度が外気温と同程度であると判定された場合に実行される処理である。軸ずれ解消処理において、CPU81は、EGRバルブ42を開閉動作させる。本実施形態では、CPU81は、軸ずれ解消処理において、EGRバルブ42を1回だけ開閉動作させる。なお、軸ずれ解消処理の実行に伴うEGRバルブ42の開閉動作の回数は2回以上であってもよい。
【0036】
図4を参照し、EGRバルブ42におけるバルブシート52の中心軸52zと弁体53の中心軸53zとの相対的なずれを解消するためにCPU81が実行する処理ルーチンについて説明する。メモリ82に記憶されている制御プログラムをCPU81が繰り返し実行することにより、本処理ルーチンは所定の制御サイクル毎に実行される。
【0037】
本処理ルーチンにおいてステップS11では、CPU81は、実行済みフラグFLGにオフがセットされているか否かを判定する。実行済みフラグFLGには、軸ずれ解消処理が実行済みである場合にはオンがセットされる一方、軸ずれ解消処理が未だ実行されていない場合にはオンがセットされるフラグである。内燃機関20の運転が開始されると、実行済みフラグFLGにはオフがセットされる。実行済みフラグFLGにオフがセットされている場合(S11:YES)、CPU81は処理をステップS13に移行する。一方、実行済みフラグFLGにオンがセットされている場合(S11:NO)、CPU81は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0038】
ステップS13において、CPU81は、軸ずれ解消処理の禁止条件が成立しているか否かを判定する。例えば、CPU81は、累積走行距離Laが判定距離Lath以上である場合には禁止条件が成立していると判定する一方、累積走行距離Laが判定距離Lath未満である場合には禁止条件が成立していないと判定する。
【0039】
ここで、
図5を参照し、禁止条件を設けた理由について説明する。
図5は、EGRバルブ42の動作回数とEGR漏れ量との関係の実験結果を示すグラフである。ここでいう動作回数とは、EGRバルブ42の開閉動作の回数である。ここでいうEGR漏れ量とは、内燃機関20の運転停止中においてEGRバルブ42を介して吸気通路26に漏出するEGRガスの量である。動作回数が少ない場合には、動作回数が増えるにつれてEGR漏れ量が多くなる。EGRバルブ42が何度も開閉動作するにつれ、バルブシート52及び弁体53の弁本体55の摩耗が少しずつ進行するため、EGR漏れ量が増えると推測される。しかしながら、動作回数が判定回数Cntthを越えた以降では、動作回数が増えるにつれてEGR漏れ量が少なくなる。これは、バルブシート52及び弁本体55の摩耗が進行したことにより、バルブシート52の形状が、弁本体55の形状に対応した形状となったことにより、EGRバルブ42の閉弁時にバルブシート52と弁本体55との間に隙間が形成されにくくなったためと推測される。
【0040】
そこで、本実施形態では、判定回数Cntthに相当する車両10の走行距離の累積値が、判定距離Lathとして設定されている。そこで、累積走行距離Laが判定距離Lath以上である場合は、軸ずれ解消処理を実行することによるEGR漏れ量の減少効果が高くない可能性があると見なす。そのため、累積走行距離Laが判定距離Lath以上である場合は、禁止条件が成立していると判定する。
【0041】
図4に戻り、ステップS13において禁止条件が成立していると判定した場合(YES)、CPU81は本処理ルーチンを一旦終了する。一方、禁止条件が成立していないと判定した場合(S13:NO)、CPU81は処理をステップS15に移行する。
【0042】
ステップS15において、CPU81は、内燃機関20の運転が停止中であるか否かを判定する。内燃機関20の運転が停止中である場合(S15:YES)、CPU81は処理をステップS17に移行する。一方、内燃機関20が運転中である場合(S15:NO)、CPU81は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0043】
ステップS17において、CPU81は、内燃機関20の温度が外気温と同程度であるか否かを判定する。すなわち、ステップS17が「判定処理」に対応する。内燃機関20の温度が外気温と同程度であると判定した場合(S17:YES)、CPU81は処理をステップS19に移行する。一方、内燃機関20の温度が外気温と同程度ではないと判定した場合(S17:NO)、CPU81は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0044】
ステップS19において、CPU81は軸ずれ解消処理を実行する。すなわち、CPU81は、内燃機関20の運転停止中において、内燃機関20の温度が外気温と同程度であると判定した場合に、軸ずれ解消処理を実行する。軸ずれ解消処理の実行に伴うEGRバルブ42の開閉動作が完了すると、CPU81は処理をステップS21に移行する。
【0045】
ステップS21において、CPU81は実行済みフラグFLGにオンをセットする。その後、CPU81は本処理ルーチンを一旦終了する。
<本実施形態の作用及び効果>
図6は、EGR漏れ量の推移の実験結果を示すグラフである。ここでいうEGR漏れ量とは、内燃機関20の運転停止中においてEGRバルブ42を介して吸気通路26に漏出するEGRガスの量である。
図6の実線は、内燃機関20の温度が常温と同程度であるときにEGRバルブ42を閉弁させた際におけるEGR漏れ量の推移を示す。
図6の破線は、内燃機関20の温度が常温よりも高いときにEGRバルブ42を閉弁させた際におけるEGR漏れ量の推移を示す。
【0046】
図6に示すように、内燃機関20の温度が高温である状況下でEGRバルブ42を閉弁させた場合では、バルブシート52の中心軸52zから弁体53の中心軸53zが相対的にずれているため、バルブシート52と弁本体55との間の隙間が比較的広い。一方、内燃機関20の温度が常温と同程度である状況下でEGRバルブ42を閉弁させた場合では、バルブシート52の中心軸52zから弁体53の中心軸53zがあまりずれていないため、バルブシート52と弁本体55との間の隙間が比較的狭い。そのため、内燃機関20の温度が高温である状況下でEGRバルブ42を閉弁させた場合では、内燃機関20の温度が常温と同程度である状況下でEGRバルブ42を閉弁させた場合と比較してEGR漏れ量が多い。
【0047】
ここで、内燃機関20の運転の停止直後では、EGRバルブ42のバルブハウジング51の温度も高く、バルブハウジング51の熱変形の度合いも比較的大きい。そのため、内燃機関20の運転の停止直後にEGRバルブ42を開閉動作させても、バルブシート52の中心軸52zと弁体53の中心軸53zとの相対的なずれを解消できない。しかし、内燃機関20の運転の停止時点から時間が経過するにつれ、内燃機関20の温度が徐々に低下するため、バルブハウジング51の温度も低下していく。バルブハウジング51の温度が低下すると、バルブハウジング51の熱変形の度合いも小さくなる。すなわち、バルブハウジング51の形状が元の形状に戻っていく。
【0048】
そこで、本実施形態では、内燃機関20の運転停止後において、内燃機関20の温度が外気温と同程度まで低下したと判定されると、軸ずれ解消処理が実行される。すなわち、バルブハウジング51の温度が十分に低下して、バルブハウジング51の熱変形の度合いが十分に小さくなってから軸ずれ解消処理が実行される。バルブハウジング51の形状が元に戻ってからEGRバルブ42を開閉動作させると、弁本体55がバルブシート52から離れている間に、バルブシート52の中心軸52zと弁体53の中心軸53zとのずれが解消される。この状態で弁本体55がバルブシート52に押し付けられるため、バルブシート52と弁本体55との間の隙間を小さくできる。これにより、EGRバルブ42を介して吸気通路26に漏出するEGRガスの量を減少できる。すなわち、軸ずれ解消処理の実行後にあっては、
図6に示したEGR漏れ量を、内燃機関20の温度が常温と同程度である状況下でEGRバルブ42を閉弁させた場合のEGR漏れ量と同程度とすることができる。
【0049】
本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)バルブハウジング51の熱変形の度合いが大きい状態でEGRバルブ42が閉弁されると、上述したようにバルブシート52の中心軸52zから弁体53の中心軸53zが相対的にずれる。バルブハウジング51の温度が十分に低くなってバルブハウジング51の熱変形が解消された後でもバルブシート52の中心軸52zから弁体53の中心軸53zがずれている場合、バルブハウジング51に支持されているシャフト54に外力が作用する。そのため、バルブシート52の中心軸52zから弁体53の中心軸53zがずれた状態が長期に亘って継続すると、シャフト54が変形するおそれがある。この点、本実施形態では、バルブハウジング51の温度が十分に低くなってバルブハウジング51の熱変形の度合いが十分に小さくなると、軸ずれ解消処理の実行によってバルブシート52の中心軸52zと弁体53の中心軸53zとの相対的なずれが解消される。これにより、シャフト54に作用する上記外力を小さくできるため、EGRバルブ42が閉弁している場合にシャフト54が変形することを抑制できる。
【0050】
(2)本実施形態では、内燃機関20内を循環する冷却水の温度である水温TPwを用いて、内燃機関20の温度が外気温と同程度になったか否かを判定するようにした。すなわち、バルブハウジング51の温度を検出したり、バルブハウジング51の変形度合いを検出したりする検出系を内燃機関20に新たに設けなくてもよい。
【0051】
(3)本実施形態では、累積走行距離Laが判定距離Lath以上になった場合には、軸ずれ解消処理を実行するメリットが小さくなったと判断できるため、軸ずれ解消処理の実行が禁止される。これにより、内燃機関20の運転の停止中に内燃機関20で消費される電力量を少なくできる。
【0052】
(変更例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0053】
・
図4に示した処理ルーチンのステップS13では、EGRバルブ42の動作回数の累積値を用いて禁止条件が成立しているか否かを判定するようにしてもよい。この場合、EGRバルブ42の動作回数の累積値が判定回数Cntth以上である場合には禁止条件が成立していると判定する一方、動作回数の累積値が判定回数Cntth未満である場合には禁止条件が成立していないと判定するとよい。これにより、EGRバルブ42の動作回数の累積値が判定回数Cntth以上である場合には軸ずれ解消処理の実行を禁止できる。この場合であっても、上記実施形態の効果(3)と同等の効果を得ることができる。
【0054】
・
図4に示した処理ルーチンにおいて、ステップS13の処理を省略してもよい。
・判定温度TPwthを所定温度で固定してもよいし、そのときの外気温に応じて判定温度TPwthを可変させてもよい。この場合、外気温TPoが高いほど高い温度を判定温度TPwthとして設定するとよい。
【0055】
・上記実施形態では、内燃機関20内を循環する冷却水の温度である水温TPwを用いて、内燃機関20の温度が外気温と同程度になったか否かを判定するようにしたが、これに限らない。例えば、内燃機関20の運転が停止された状態の継続時間を用いて、内燃機関20の温度が外気温と同程度になったか否かを判定してもよい。この場合、当該継続時間が所定の判定継続時間以上である場合は、内燃機関20の温度が外気温と同程度になったと判定するようにしてもよい。
【0056】
・制御装置80は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御装置80は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)制御装置80は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0057】
(b)制御装置80は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは「Field Programmable Gate Array」の略記である。
【0058】
(c)制御装置80は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0059】
・車両は、内燃機関20及び制御装置80を備えるのであれば、動力源としてモータジェネレータも備えるハイブリッド車両であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…車両
20…内燃機関
26…吸気通路
31…排気通路
40…EGR装置
41…EGR通路
42…EGRバルブ
51…バルブハウジング
52…バルブシート
52z…中心軸
53…弁体
53z…中心軸
56…アクチュエータ
80…制御装置
81…CPU