(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】中庭付き建物
(51)【国際特許分類】
E04H 1/02 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
E04H1/02
(21)【出願番号】P 2022087951
(22)【出願日】2022-05-30
【審査請求日】2023-04-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)展示による公開 令和3年6月19日から、下記住宅展示場において公開 イズ・ロイエ広島アスタ展示場(広島県広島市東区牛田新町2-2-10-12) (2)刊行物への掲載による公開 令和3年6月12日から、出願人が発行する下記リーフレット等に掲載 a.デザインオフィス広島 新モデルハウス案内リーフレット b.デザインオフィス広島 モデルハウスコンセプトブック c.関係取引先向けモデルハウス案内チラシ d.法人・企業向けモデルハウス案内リーフレット
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢谷 百代
(72)【発明者】
【氏名】新子 佳永子
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩司
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-169738(JP,A)
【文献】特開2020-103050(JP,A)
【文献】特開2021-169737(JP,A)
【文献】特開2021-001483(JP,A)
【文献】特開2020-002659(JP,A)
【文献】特開2022-125397(JP,A)
【文献】特開2022-114751(JP,A)
【文献】特開平11-148238(JP,A)
【文献】特開2001-32539(JP,A)
【文献】特開2002-322733(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1915216(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周長の過半部分が建物本体によって囲まれた中庭を備えて、前記中庭に植栽が施され、
前記建物本体には窓を介して前記中庭に臨む居室空間が設けられ、
前記中庭を挟んで前記窓と相対する位置に、前記窓の高さよりも高い目隠し壁が設けられた中庭付き建物において、
前記窓が、前記居室空間の床面近傍から天井面近傍まで開口するように設けられ、
前記窓の下辺部に沿う前記居室空間の床面に、前記居室空間の基準床高よりも低く掘り込まれた植栽ピットが設けられることにより、
前記居室空間から前記窓を通じて前記中庭を見たときに、前記植栽ピットと前記中庭とが視覚的に連続するように構成され
るとともに、
前記目隠し壁の下部には前記中庭の地面まで開口する開口部が形成され、
前記中庭の地盤面が前記開口部を通じて前記目隠し壁の外側まで拡張され、
前記目隠し壁の外側に、前記開口部よりも高さおよび幅の大きい外構壁が、前記目隠し壁と相対するように立設されることにより、
前記目隠し壁と前記外構壁との間から前記開口部を通じて前記中庭に採光および通風が得られるように構成されたことを特徴とする中庭付き建物。
【請求項2】
請求項1に記載された中庭付き建物において、
前記開口部の高さが前記居室空間の基準床高プラス1.2m以下であることを特徴とする中庭付き建物。
【請求項3】
請求項1または2に記載された中庭付き建物において、
前記中庭の地盤面が前記窓側から前記目隠し壁側に向かって上り勾配となるように形成されていることを特徴とする中庭付き建物。
【請求項4】
請求項1または2に記載された中庭付き建物において、
前記居室空間は、前記窓に面する部分が複数階層の吹抜け空間となされ、
前記窓が前記吹抜け空間の天井面近傍まで開口するように設けられていることを特徴とする中庭付き建物。
【請求項5】
請求項4に記載された中庭付き建物において、
前記居室空間における前記植栽ピットの上方に、シースルー構造の階段が設けられていることを特徴とする中庭付き建物。
【請求項6】
周長の過半部分が建物本体によって囲まれた中庭を備えて、前記中庭に植栽が施され、
前記建物本体には窓を介して前記中庭に臨む居室空間が設けられ、
前記中庭を挟んで前記窓と相対する位置に、前記窓の高さよりも高い目隠し壁が設けられた中庭付き建物において、
前記窓が、前記居室空間の床面近傍から天井面近傍まで開口するように設けられ、
前記窓の下辺部に沿う前記居室空間の床面に、前記居室空間の基準床高よりも低く掘り込まれた植栽ピットが設けられることにより、
前記居室空間から前記窓を通じて前記中庭を見たときに、前記植栽ピットと前記中庭とが視覚的に連続するように構成されるとともに、
前記居室空間は、前記窓に面する部分が複数階層の吹抜け空間となされ、
前記窓が前記吹抜け空間の天井面近傍まで開口するように設けられ、
前記植栽ピットの屋内側に、前記居室空間の基準床高よりも高い高床部が隣接して設けられていることを特徴とする中庭付き建物。
【請求項7】
請求項6に記載された中庭付き建物において、
前記居室空間における前記植栽ピットの上方に、シースルー構造の階段が設けられ、
前記高床部が前記階段の登り口に連続する踊り場を兼ねていることを特徴とする中庭付き建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する発明は、中庭付き建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物本体と壁体とによって中庭を囲い込んだ、コートハウスと称される建物構造が公知である。例えば特許文献1には、建物本体の母屋部分によって平面視L字形ないしコ字形に囲まれた屋外領域に中庭を設けて、その中庭に面した複数か所の居室から中庭を鑑賞できるようにしたものが開示されている。
【0003】
このような中庭付き建物においては、中庭と敷地外との境界付近に植栽や壁体を設けて、敷地外から中庭や屋内への視線を遮るようにするのが一般的である。建物外側の開口面を小さくし、中庭を囲む開口面を大きくすることで、プライバシーを確保しつつ屋内に採光や通風を取り込むことができる。敷地が狭い場合や隣戸が近接している場合でも屋内が明るくなり、敷地外からの視線を気にせずに中庭の景観を楽しむことができ、屋内空間と屋外空間との一体感も得ることができるので、特に都市型の戸建て住宅や店舗等に採用されることが多い。建物に隣接する壁で箱形に囲まれて上部が開放された屋外空間は、ロジアとも称される。
【0004】
また、例えば特許文献1~3には、2階建てないし3階建ての住宅において、中庭に面する屋内に2層吹抜けの居室空間を設けることで、屋内の明るさや開放感をさらに高める空間構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-155873号公報
【文献】特開2002-227433号公報
【文献】特開2019-196662号公報
【文献】特開2021-119280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような中庭付き建物も、敷地面積に余裕がなければ中庭が手狭になる。そのような中庭では、中庭を囲む壁面の圧迫感が増して、屋内から中庭を見たときの開放感や屋内外の一体感が得られにくい。採光が中庭の上空からしか採れなければ植栽の生育が悪くなり、風通しが悪いと湿気が籠もって居住性が損なわれる。
【0007】
本願が開示する発明は前述のような問題を改善するために想起されたものであって、中庭の面積が限定される場合でも、中庭周りの空間には実際の中庭の面積以上の拡がりが感じられ、採光・通風も十分に得ることができる中庭付き建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するため、本願が開示する発明は、周長の過半部分が建物本体によって囲まれた中庭を備えて、前記中庭に植栽が施され、前記建物本体には窓を介して前記中庭に臨む居室空間が設けられ、前記中庭を挟んで前記窓と相対する位置に、前記窓の高さよりも高い目隠し壁が設けられた中庭付き建物において、前記窓が、前記居室空間の床面近傍から天井面近傍まで開口するように設けられ、前記窓の下辺部に沿う前記居室空間の床面に、前記居室空間の基準床高よりも低く掘り込まれた植栽ピットが設けられることにより、前記居室空間から前記窓を通じて前記中庭を見たときに、前記植栽ピットと前記中庭とが視覚的に連続するように構成されたものとして特徴付けられる。
【0009】
前述の発明特定事項において、「植栽が施され(る)」とは、樹木やグランドカバー(地被植物)等によって空間が審美的かつ機能的に構成されることである。「居室空間」とは、居住、執務、作業、集会、娯楽等のために人が継続的に使用する室のことである。「中庭に臨む」とは、透光性を有する窓を介して中庭の景観を鑑賞し得ることである。また、「床面近傍」とは床面プラス10cm以下、「天井面近傍」とは天井面マイナス30cm以上、の高さを目安とする。
【0010】
さらに本願が開示する発明は、前述のように構成される中庭付き建物において、前記目隠し壁の下部には前記中庭の地面まで開口する開口部が形成され、前記中庭の地盤面が前記開口部を通じて前記目隠し壁の外側まで拡張され、前記目隠し壁の外側に、前記開口部よりも高さおよび幅の大きい外構壁が、前記目隠し壁と相対するように立設されることにより、前記目隠し壁と前記外構壁との間から前記開口部を通じて前記中庭に採光および通風が得られるように構成されたものとして特徴付けられる。
【0011】
前述の構成において、前記開口部の高さは、前記居室空間の基準床高プラス1.2m以下である、とするのが好ましい。
【0012】
また、前述のように構成される中庭付き建物においては、前記中庭の地盤面が前記窓側から前記目隠し壁側に向かって上り勾配となるように形成されていてもよい。
【0013】
また、前述のように構成される中庭付き建物においては、前記居室空間が、前記窓に面する部分が複数階層の吹抜け空間となされ、前記窓が前記吹抜け空間の天井面近傍まで開口するように設けられていてもよい。
【0014】
さらに、前記居室空間における前記植栽ピットの上方に、シースルー構造の階段が設けられていてもよい。
【0015】
さらに、前記植栽ピットの屋内側に、前記居室空間の基準床高よりも高い高床部が隣接して設けられていてもよい。その高床部は、前記階段の登り口に連続する踊り場を兼ねていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
前述のように構成される中庭付き建物は、中庭に臨む居室空間の床面に、中庭の地面よりも低く掘り込まれた植栽ピットが設けられているので、居室空間から中庭を見たときに、植栽ピットと中庭とが視覚的に連続し、中庭が屋内まで入り込んでくるような雰囲気を創出する。
【0017】
さらに、中庭を囲う目隠し壁の下部に開口部が形成されて、中庭の地盤面がその開口部の外側まで拡張されることにより、中庭の地面の終端が屋内側から見えにくくなって、中庭の面積を実際以上に広く感じさせる効果を奏する。目隠し壁の外側に外構壁が立設されることで、プライバシーや防犯性を確保しつつ、目隠し壁の外側からも中庭に対して採光および通風を得ることが可能になる。
【0018】
これらによって、中庭の面積に制約を受ける場合でも、中庭周りの空間には実際の面積以上の拡がり感や屋内外の一体感が創出されることとなり、緑豊かな植栽の景観を楽しむことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本願が開示する発明の一実施形態に係る中庭付き建物の1階平面図兼外構図である。
【
図4】前記中庭付き建物における
図1中のX地点から中庭側を見た内観図である。
【
図5】同、
図1中のY地点から中庭側を見た内観図である。
【
図6】同、
図1中のZ地点から植栽ピット側を見た内観図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1~
図6は、本願が開示する発明の一実施形態に係る中庭付き建物を示す。
【0021】
この中庭付き建物1は、陸屋根型の2階建て住宅である。敷地全体は正方形に近い矩形で、西側が道路に面し、北側、南側および東側が隣地に接している。建物本体も正方形に近い略矩形の平面形状を有し、道路境界線および三方の敷地境界線との間に略等間隔の余地を残すように配置されて、北西側に玄関へのアプローチが設けられている。
【0022】
建物本体の1階には、北側に玄関ホール11と玄関収納室12、中央部分にリビングルーム13、南側にダイニング・キッチン14とパントリー兼家事室15、北東部分にオーディオルーム16が、それぞれ配置されている。リビングルーム13とダイニング・キッチン14とは、間仕切りを介さず空間的に一体化されている。
【0023】
リビングルーム13の東側略半部は2階までの吹抜け17になっており、その吹抜け17に階段18が設けられている。リビングルーム13の西側の一部にも、東側よりは小さい2階までの吹抜け19が設けられている。
【0024】
建物本体の2階には、階段18に接続して吹抜け17を囲む通路スペース21が設けられ、その通路スペースの周りには、南側に書斎22と学習室23、北側に寝室24、ウォークインクローゼット25、洗面室26、フィットネスルーム27、浴室28等が配置されている。通路スペース21の西側には、屋根のないパティオ31と、屋根付きのバルコニー32とが設けられている。
【0025】
建物本体の東側には平面視コ字形の凹所が形成され、その凹所に中庭33が設けられている。例示形態における凹所の内寸は、間口約3.7×奥行き約2.3mである。この中庭33は上方が天空に開放されて自然光が射し込み、雨が落ちる屋外空間である。中庭33の地面には土や石が敷かれ、人の目線以上の高さのシンボルツリーを含む中高木やグランドカバー等が植設されて、小規模な庭園の景観が形成されている。
【0026】
中庭33は、1階部分においてはオーディオルーム16、リビングルーム13およびパントリー兼家事室15によって囲まれ、2階部分においては吹抜け17と通路スペース21とによって囲まれている。オーディオルーム16には、中庭33に面して、床面近傍から天井面近傍まで開口する掃き出し窓34が設置されている。リビングルーム13および吹抜け17は、梁部35を挟んで1階の床面近傍から2階の天井面近傍まで大きく開口するハイサッシ型の吹抜け窓36を介して中庭33に臨んでいる。この吹抜け窓36は、1階部分が引戸式の開口部と嵌め殺し部との組み合わせ窓であり、2階部分が嵌め殺し窓になっている。パントリー兼家事室15には、床面近傍から数十cmの高さまで開口する地窓37が、中庭33側の壁面に設けられている。これらの窓34、36、37には全て透明のガラス面材が用いられている。
【0027】
本願が開示する発明は、リビングルーム13、吹抜け窓36および中庭33を横切る東西方向の断面に表れた屋内外の空間構成(
図3)によって特徴付けられる。まず、屋内側にあっては、吹抜け窓36の下辺部に沿って植栽ピット41が設けられている。植栽ピット41は、階段18の下方であって、リビングルーム13の床面を、吹抜け窓36の開口幅の略一杯にわたり、中庭33の地面よりも低く掘り込んで形成されている。例示形態における植栽ピット41の奥行き(短辺)は約80cm、1階の基準床高(1FL)となるリビングルーム13の床面からの深さは約36cmである。植栽ピット41の底床面には排水処理が施されている。その底床面に鉢植えの植栽を置き、それらの隙間に割栗石を敷くなどして、中庭33に類似した地植え風の景観が、中庭33の地面と略同じ高さに見えるように施工されている。
【0028】
階段18は、植栽ピット41の上方に、昇降方向を吹抜け窓36と平行にして配置されている。この階段18には、吹抜け窓36の視界を妨げにくいシースルー階段(スケルトン階段)が採用されている。
【0029】
植栽ピット41の屋内側(リビングルーム13側)には、リビングルーム13の床面から階段3段分程度(30~70cm、例示形態では約57cm)、高くなったステージ状の高床部(ステージリビング)42が、吹抜け窓36の開口幅の略一杯にわたって設けられている。この高床部42は、階段18の登り口に連続する踊り場を兼ねている。
【0030】
他方、屋外側にあっては、中庭33の地面が、吹抜け窓36から離れる側に向かって緩い上り勾配の法面となされている。そして、中庭33を挟んで吹抜け窓36と相対する位置に目隠し壁51が設けられている。例示の目隠し壁51は、建物本体の外壁に連続して、建物本体の最上部(陸屋根におけるパラペット位置)まで立ち上がる構造壁である。この目隠し壁51の下部には、中庭33の地面まで開口する横長矩形の開口部52が、中庭33の間口の略一杯にわたって形成されている。開口部52の高さは、リビングルーム13におけるアイレベル(EL:1FLプラス1.2~1.4m)を超えない高さに設定される。例示形態における開口部52の高さは、1FLプラス1.0m、GL(基準地盤面)プラス1.6m程度である。
【0031】
中庭33の地面は、この開口部52を通じて目隠し壁51の外側まで拡張されている。そして目隠し壁51のさらに外側に、適宜の間隔をおいて外構壁53が立設されている。この外構壁53は、防犯等のために設置されるフェンスや塀のような、建物本体の構造体からは独立した比較的軽量の壁体であり、敷地外からの視線の遮蔽と中庭33の法面の土留めの役割をなす。外構壁53は、目隠し壁51よりは十分に低く、ただし目隠し壁51の開口部52に相対する部分は開口部52の幅および高さよりも大きくなるように設定されている。例示形態における外構壁53はコンクリートブロック塀で、目隠し壁51とは約0.8mの間隔をおいて立設されている。外構壁53の、開口部52に相対する部分の高さはGLプラス1.8m程度で、その南北両端に直交接続する短い袖部分の高さはGLプラス0.8m程度である。
【0032】
このように構成された中庭付き建物1によれば、中庭33に臨む吹抜け窓36の屋内側の床面に、中庭33の地面よりも低く掘り込まれた植栽ピット41が設けられているので、リビングルーム13から中庭33を見たときに、植栽ピット41と中庭33とが視覚的に連続し、中庭33が屋内まで入り込んだような雰囲気が創出される。植栽ピット41には鉢植えの植栽を置くことで、土や水の処理にかかる手間を軽減するとともに、植物の入れ替え等のメンテナンスを容易にしつつ、中庭33との連続性を感じさせることができる。
【0033】
このような空間構成は1層分だけの高さの居室空間でも成立するが、中庭33に臨む居室空間が2層以上の吹抜け17になれば、中庭33と居室空間とが上下方向にも一体感を増し、より明るくて開放的な雰囲気が創出される。その吹抜け17に設ける階段18をシースルー階段にして植栽ピット41の上方に配置することで、デッドスペースになりがちな階段下の空間を、中庭33の延長部分として魅力的に引き立てることができる。
【0034】
植栽ピット41と居室空間の間に、居室空間の基準床高よりも高い高床部42を、植栽ピット41に隣接させて設けると、居室空間から見た中庭33の奥行き感がさらに強調される。その高床部42を、階段18の登り口に連続する踊り場とすれば、階段18周りの空間の浮遊感が増大する。
【0035】
また、中庭33を囲う目隠し壁51の下部に開口部52が形成されて、中庭33の地盤面がその開口部52の外側まで拡張されることにより、中庭33の地面の終端が屋内側から見えにくくなって、中庭33の面積が実際以上に広く感じられることになる。中庭33の地面を目隠し壁51側に向かって上り勾配の法面とすれば、中庭33の広さが一層、強調される。目隠し壁51の外側に外構壁53が立設されることで、プライバシーや防犯性も確保できる。目隠し壁51と外構壁53の二重構造にすることで、それらの間に光の反射や回遊が生じ、中庭33の地面に届く光量が増幅される。目隠し壁51の開口部52を通じて中庭33の通風も促進されるので、植物の生育が良好になり、緑豊かな植栽の景観を楽しむことが可能になる。
【0036】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。特許請求の範囲および明細書において使用している構成要素の名称は、発明を具体的に理解し易くするための便宜的なものであって、その名称が当該構成要素の概念や性状を必要以上に限定するものではない。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の詳細な形状、寸法、構造、材質、数量、他要素との結合形態、相対的な位置関係等を、例示形態と実質的に同等以上の作用効果が得られる範囲内で適宜、改変することが可能である。
【0037】
例えば、中庭を囲む建物本体の平面形態は、少なくとも中庭の周長の過半部分を囲む形態であれば、例示のようなコ字形に限らずL字形等でもよい。その場合、中庭を挟んで建物本体に相対する二面に目隠し壁や外構壁が配置されてもよい。中庭の広さや形状も、建物全体の規模や敷地形状に応じて適宜、設計されればよい。また、中庭は二か所以上に設けられていてもよいし、建物の二階以上の部分に設けられていてもよい。中庭を囲む目隠し壁および外構壁は、建物本体の構造体の一部であってもよいし、建物本体から独立した簡易的な遮蔽体であってもよい。中庭は、多少の植栽が施されていれば、一部がウッドデッキや透水性ブロック等で舗装されていてもよい。
【0038】
また、中庭に臨む居室空間は、吹抜けのない1層分だけの高さの空間であってもよい。中庭に面する窓は、開閉可能な開き窓でもよいし、一部または全部が嵌め殺し窓になっていてもよい。中庭の地面と、居室空間の床面、植栽ピットの深さ、窓開口の高さ等との相対的な高さ関係については、居住者の体格や居室空間の広さ等に応じて適宜、調整されればよい。居室の床面、天井面、壁面等の形状や仕上げの仕様に関しても、屋内外で一定の調和を創出し得る範囲内で、様々な構造、寸法的納まり、材質、施工方法等を採用することができる。
【0039】
本明細書に開示した実施形態その他の事項は、以下の付記に示す技術的思想として把握することもできる。
(付記1)
周長の過半部分が建物本体によって囲まれた中庭を備えて、前記中庭に植栽が施され、
前記建物本体には窓を介して前記中庭に臨む居室空間が設けられ、
前記中庭を挟んで前記窓と相対する位置に、前記窓の高さよりも高い目隠し壁が設けられた中庭付き建物において、
前記窓が、前記居室空間の床面近傍から天井面近傍まで開口するように設けられ、
前記窓の下辺部に沿う前記居室空間の床面に、前記居室空間の基準床高よりも低く掘り込まれた植栽ピットが設けられることにより、
前記居室空間から前記窓を通じて前記中庭を見たときに、前記植栽ピットと前記中庭とが視覚的に連続するように構成されたことを特徴とする中庭付き建物。
(付記2)
付記1に記載された中庭付き建物において、
前記目隠し壁の下部には前記中庭の地面まで開口する開口部が形成され、
前記中庭の地盤面が前記開口部を通じて前記目隠し壁の外側まで拡張され、
前記目隠し壁の外側に、前記開口部よりも高さおよび幅の大きい外構壁が、前記目隠し壁と相対するように立設されることにより、
前記目隠し壁と前記外構壁との間から前記開口部を通じて前記中庭に採光および通風が得られるように構成されたことを特徴とする中庭付き建物。
(付記3)
付記2に記載された中庭付き建物において、
前記開口部の高さが前記居室空間の基準床高プラス1.2m以下であることを特徴とする中庭付き建物。
(付記4)
付記1、2または3に記載された中庭付き建物において、
前記中庭の地盤面が前記窓側から前記目隠し壁側に向かって上り勾配となるように形成されていることを特徴とする中庭付き建物。
(付記5)
付記1~4のいずれか一つに記載された中庭付き建物において、
前記居室空間は、前記窓に面する部分が複数階層の吹抜け空間となされ、
前記窓が前記吹抜け空間の天井面近傍まで開口するように設けられていることを特徴とする中庭付き建物。
(付記6)
付記1~5のいずれか一つに記載された中庭付き建物において、
前記居室空間における前記植栽ピットの上方に、シースルー構造の階段が設けられていることを特徴とする中庭付き建物。
(付記7)
付記1~6のいずれか一つに記載された中庭付き建物において、
前記植栽ピットの屋内側に、前記居室空間の基準床高よりも高い高床部が隣接して設けられていることを特徴とする中庭付き建物。
(付記8)
付記6を引用する付記7に記載された中庭付き建物において、
前記高床部が前記階段の登り口に連続する踊り場を兼ねていることを特徴とする中庭付き建物。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本願が開示する発明は、戸建て住宅だけでなく、集合住宅、公共施設、商業施設その他の事業用建物等における中庭周りの空間構成において幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 中庭付き建物
11 玄関ホール
12 玄関収納室
13 リビングルーム
14 ダイニング・キッチン
15 パントリー兼家事室
16 オーディオルーム
17 吹抜け
18 階段
19 吹抜け
21 通路スペース
22 書斎
23 学習室
24 寝室
25 ウォークインクローゼット
26 洗面室
27 フィットネスルーム
28 浴室
31 パティオ
32 バルコニー
33 中庭
34 掃き出し窓
35 梁部
36 吹抜け窓
37 地窓
41 植栽ピット
42 高床部
51 目隠し壁
52 開口部
53 外構壁