(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】二軸配向ポリエステルフィルムロール
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240806BHJP
B65H 18/28 20060101ALI20240806BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20240806BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B65H18/28
B29C55/12
B65D65/40 Z
(21)【出願番号】P 2022100182
(22)【出願日】2022-06-22
(62)【分割の表示】P 2020553854の分割
【原出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2018203615
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 信之
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-103023(JP,A)
【文献】特開2013-086263(JP,A)
【文献】特開昭62-222954(JP,A)
【文献】特開2013-144725(JP,A)
【文献】特開平11-059986(JP,A)
【文献】特開平08-092727(JP,A)
【文献】特開2008-138103(JP,A)
【文献】国際公開第2020/090673(WO,A1)
【文献】特開2015-003408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
B65H 18/00-18/28
B29C 55/00-55/30、61/00-61/10
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが9μm以上であり、フィルムの両側表面の樹脂成分が共重合成分を10モル%以下含むかあるいは含まないポリエチレンテレフタレートからなる二軸配向ポリエステルフィルムを巻芯に巻き取ってなる幅が1500mm以上、巻長が2000m以上65000m以下のポリエステルフィルムロールであって、下記要件(1)~(
6)を満たすことを特徴とする食品包装用途に用いられる蒸着フィルム基材用ポリエステルフィルムロール。
(1)前記ポリエステルフィルムロールの表面の平均巻硬度が500以上700以下の範囲である。
(2)前記ポリエステルフィルムロールの表面の巻硬度のフィルム幅方向の変動率が1%以上5%以下である。
(3)前記ポリエステルフィルムロールの表面から巻芯までの巻硬度の変動率が3%以上10%以下である。
(4)前記二軸配向ポリエステルフィルムの一方の巻内面の算術平均高さが0.010μm以上0.050μm以下である。
(5)前記二軸配向ポリエステルフィルムの幅方向の厚み変動率が10%以下である。
(6)前記ポリエステルフィルムロールの端面における、凹凸の高さが3mm以下である。
【請求項2】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの巻外面及び巻内面の動摩擦係数がいずれも0.2以上0.60以下である請求項1
に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項3】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの厚みが40μm以下である請求項1
又は2に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムロールの幅が3000mm以下である請求項1~
3のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸配向ポリエステルフィルムを巻き取ってなるフィルムロールに関するものであり、シワやフィルム表面の欠点が少なく、巻ズレがなく、コートや蒸着などの二次加工に適したものに関する。さらには、二次加工後の被覆フィルムの品質も優れるポリエステルフィルムロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルフィルムは、その優れた機械的強度、熱的特性および光学特性等から包装用材料や工業用材料など広範囲の分野に数多く利用されている。特に、二軸配向ポリエステルフィルムは酸素バリア性に優れるもの、食品用やレトルト品用、医薬品などの包装用途においては、内容物の変質や劣化に関係する酸素バリア性、水蒸気バリア性に対する要求が高くなってきており、内容物の変質や劣化が生じてしまう問題がある。
【0003】
そのため、食品用やレトルト品用、医薬品などの包装用途で使用される二軸配向ポリエステルフィルムには、酸素や水蒸気等におけるガスバリア性をさらに向上する方策がとられている。ガスバリア性を向上させる方法として、ポリエステルフィルムにポリ塩化ビニリデンやポリエチレンビニルアルコール共重合体などのガスバリア性の良好なフィルムを張り合わせる方法、二軸配向ポリエステルフィルムにアルミニウムなどの金属や酸化アルミニウムなどの金属酸化物を蒸着させ、薄膜を形成させる方法がよく利用されている。
特に、後者の金属や金属酸化物をフィルム表面に設けた蒸着ポリエステルフィルムは、耐熱性や透明性の面で優れている。
【0004】
また、得られる蒸着ポリエステルフィルムのガスバリア性の性能は、その基材に使用される二軸配向ポリエステルフィルムの表面状態に大きく依存していることが知られており、基材である二軸配向ポリエステルフィルムの表面粗さや突起数を規定したもの(例えば、特許文献1参照)、二軸配向ポリエステルフィルムの融解サブピークを規定したもの(例えば、特許文献2参照)、フィルム内のオリゴマー発生量を規定したもの(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、同じ特性の二軸配向ポリエステルフィルムであっても、コートや蒸着などの工程後の被覆フィルムの品質にばらつきがあったり、時には許容範囲外の品質となる場合があった。また、その原因も不明であった。
【0006】
被覆フィルムの品質を低下させる要因として、製品として購入されたポリエステルフィルムロールから巻出す前のポリエステルフィルムロールのフィルムのシワも挙げられるが、このような問題を改善する方法としては、巻き芯シワと表層シワを低減したポリエステルフィルムロールが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-119172号公報
【文献】特開平11-010725号公報
【文献】特開2006-299078号公報
【文献】特開昭63-252853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、このような問題点を改善し、シワやフィルム表面の欠点が少なく、巻ズレがなく、コートや蒸着などの二次加工に適したポリエステルフィルムロールを提供することである。
さらには、二次加工後の被覆フィルムの品質も優れるポリエステルフィルムロールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、二軸配向ポリエステルフィルムを巻芯に巻き取ってなるポリエステルフィルムロールの巻芯から表面までの巻硬度のばらつきを一定にし、かつフィルムロールの表面の巻硬度を特定の範囲とすることにより、シワやフィルム表面の欠点が少なく、巻ズレがなく、コートや蒸着などの二次加工に適したポリエステルフィルムロールを提供することができる。
より好適には、巻シワや巻ズレ、ロール端面のスポーキングシワが発生しにくく、スタティックマークや放電痕などの帯電による品質不良が少ないポリエステルフィルムロールが得られる。
その為、二次加工後も部分的にコートや蒸着薄膜の斑や抜け等による品質の低下、二次加工後の巻取り後のシワによる外観不良といったトラブルを少なくすることができる。
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成からなる。
1.二軸配向ポリエステルフィルムを巻芯に巻き取ってなるポリエステルフィルムロールであって、下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とするポリエステルフィルムロール。
(1)前記ポリエステルフィルムロールの表面の平均巻硬度が500以上700以下の範囲である。
(2)前記ポリエステルフィルムロールの表面の巻硬度のフィルム幅方向の変動率が1%以上5%以下である。
(3)前記ポリエステルフィルムロールの表面から巻芯までの巻硬度の変動率が3%以上10%以下である。
【0011】
2.前記ポリエステルフィルムの幅方向の厚み変動率が10%以下である1.に記載のポリエステルフィルムロール。
3.前記二軸配向ポリエステルフィルムの巻外面及び巻内面の動摩擦係数がいずれも0.2以上0.60以下である1.又は2.に記載のポリエステルフィルムロール。
4.前記二軸配向ポリエステルフィルムの巻内面の算術平均高さが0.010μm以上0.050μm以下である1.~3.に記載のポリエステルフィルムロール。
【0012】
5.前記二軸配向ポリエステルフィルムの厚みが5μm以上40μm以下である1.~4.のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
6.前記二軸配向ポリエステルフィルムの巻長が2000m以上65000m以下である1.~5.のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
7.前記ポリエステルフィルムロールの幅が400mm以上3000mm以下である1.~6.のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【0013】
8.前記二軸配向ポリエステルフィルムが蒸着フィルム基材用である1.~7.のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエステルフィルムロールは、シワやフィルム表面の欠点が少なく、巻ズレがなく、コートや蒸着などの二次加工に適したものである。
より好適には、巻シワや巻ズレ、スポーキングシワが発生しにくく、スタティックマーや放電痕などの帯電による品質不良が少ないポリエステルフィルムロールが得られる。
その為、二次加工後も部分的にコートや蒸着薄膜の斑や抜け等による品質の低下、二次加工後の巻取り後のシワによる外観不良といったトラブルを少なくすることができる。
【0015】
より好適には、巻取り時の巻シワや巻ズレ、ロール端面のスポーキングシワが発生せず、スタティックマークや放電痕などの帯電による品質不良が少ないポリエステルフィルムロールを得ることが可能となる。この場合、蒸着加工時の蒸着斑や蒸着後の巻取り時のシワによる外観不良や蒸着薄膜の部分的な弾きによる斑や抜け等の後加工で不良品発生などのトラブルを少なくすることができる。
特に近年は、二軸配向ポリエステルフィルムの加工効率を高めるためにポリエステルフィルムロールの広幅化、長尺化が進められているが、最初に巻き取ったサイズの大きなフィルムロールを小分けにするためにスリットしながら再度フィルムロールを作製しても、それぞれのフィルムロール間での品質の均一性を向上させることができる。また、フィルムロールの長尺化がなされる場合、ポリエステルフィルムは電気絶縁性を有するためフィルム製造工程では搬送ロールとの接触、剥離などにより帯電しやすい条件にあるが、それでも品質を維持しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】フィルムロール端面からみた表層、中間層、巻芯層の関係を示す図
【
図2】フィルムロールから巻き出したフィルムの表面の強く帯電した箇所を、帯電分布判定トナーにより、可視化した状態のフィルム表面の写真 スタティックマークが観察される。
【
図3】フィルムロールから巻き出したフィルム表面の放電痕がある箇所を、帯電分布判定トナーにより可視化した状態のフィルム表面の写真 放電痕が観察される。
【
図4】巻取り中のフィルムロールとコンタクトロールの図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは下記のポリエステル樹脂、好ましくは下記の微粒子又は/及び下記の添加剤を含むポリエステル樹脂組成物からなる。
本発明における二軸延伸ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から合成されるポリマーである。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートが挙げられ、機械的特性および耐熱性、コストなどの観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
また、これらのポリエステルには、本発明の目的が損なわれない範囲であれば、他の成分が共重合されていてもよい。具体的には、共重合成分としては、ジカルボン酸成分では、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4-ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸およびそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。また、ジオール成分としてはジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコールも挙げられる。共重合量としては、構成する繰り返し単位あたり10モル%以内が好ましく、5モル%以内がより好ましい。
【0019】
本発明における二軸延伸ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂の製造方法としては、まず、前述のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成誘導体とを主たる出発原料として、常法に従い、エステル化またはエステル交換反応を行った後、さらに高温・減圧下で重縮合反応を行うことによって製造する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂の極限粘度としては、製膜性や再回収性などの点から0.50~0.9dl/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.55~0.8dl/gの範囲である。
【0021】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルム中には、フィルム製造時や蒸着などの二次加工時の滑り性を良好にするために、滑剤として、微粒子を添加することが好ましい。滑り性の指標としては動摩擦係数及び静止摩擦係数を用いることができる。
使用する微粒子としては、例えば、無機系微粒子、及び有機系微粒子が挙げられる。無機系微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムからなる粒子が挙げられる。有機系微粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレンからなる微粒子を挙げることができる。
微粒子の平均粒径は、コールターカウンタで測定した重量平均粒径が0.05~3.0μmの範囲内であることが好ましい。重量平均粒径が0.05μm以上であると、動摩擦係数を高めやすく、重量平均粒径が3.0μm以下であると、動摩擦係数を高くしすきないようにしやすい。
【0022】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムの動摩擦係数及び静止摩擦係数を調整するための微粒子としては、二軸配向ポリエステルフィルムのヘイズを低減する点、でシリカ、炭酸カルシウム、又はアルミナからなる無機系微粒子、若しくはポリメタクリレート、ポリメチルアクリレート、又はその誘導体からなる有機系微粒子が好ましく、シリカ、又は炭酸カルシウムからなる無機系微粒子がより好ましく、中でもシリカからなる無機系微粒子が特に好ましい。
【0023】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルム中に上記微粒子を配合する方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うのも好ましい。
【0024】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルム中の微粒子の含有量の下限は好ましくは100重量ppmであり、より好ましくは900重量ppmであり、特に好ましくは1500質量ppmである。
微粒子の含有量が100重量ppm以上であると動摩擦係数と静摩擦整数を低くしやすく、またマスターロールをスリットし、巻芯にフィルムを巻き取る時に巻き込む空気の量が多くならず、巻取った後のフィルムロール中の、フィルム間及びフィルム表面に形成された突起と突起の間の凹部の空気が抜けた後も、フィルムの弛みやシワが入りにくくなる。
微粒子の含有量の上限は好ましくは20000重量ppmであり、より好ましくは2000重量ppmであり、特に好ましくは1800重量ppmである。微粒子の含有量が20000重量ppm以下であると、透明性が低下しにくくなるばかりか、フィルムの動摩擦係数が低くなり過ぎず、端面のズレが生じにくくなる。
【0025】
また、本発明における二軸配向ポリエステルフィルム中には本発明の目的を損なわない範囲において、少量の他の重合体や酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料またはその他の添加剤等が含有されていてもよい。
【0026】
[二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法]
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムの好適な例を下記に述べるが、下記に制限されものではない。
例えば、上記のポリエステル樹脂を主成分とする組成物を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す方法により製造することによって得ることができる。
【0027】
ポリエステル樹脂組成物を溶融押し出しする際には、ポリエステル樹脂組成物をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル樹脂組成物を乾燥させた後に、押出機を利用して、200~300℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。あるいは、ポリエステル樹脂、微粒子、及び添加物は別々の押出機で送り出し、合流させた後に混合溶融しシート状に押し出してもよい。溶融樹脂組成物の押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0028】
そして、押し出し後のシート状の溶融ポリエステル樹脂組成物を急冷することによって、その未延伸シートを得ることができる。なお、溶融ポリエステル樹脂組成物を急冷する方法としては、溶融ポリエステル樹脂組成物を口金より回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂組成物シートを得る方法を好適に採用することができる。回転ドラムの温度は30℃以下に設定するのが好ましい。
【0029】
さらに、得られた未延伸シートを、以下のような長手方向および幅方向の延伸条件、熱固定条件、熱弛緩条件等の製膜条件を適宜組み合わせることで達成可能となる。以下に詳細に説明する。長手方向とは、未延伸シートを走行させる方向を、幅方向とはそれと直角方向を意味する。
【0030】
延伸方法は長手方向と幅方向の延伸を同時に行う同時二軸延伸でも、長手方向と幅方向の延伸をどちらか一方を先に行う逐次二軸延伸でも可能であるが、製膜速度が速く生産性が高いという点からは逐次二軸延伸が最も好ましい。
【0031】
長手方向の延伸温度としては、フィルム表面の巻硬度の幅方向のばらつきを一定にする観点から(Tg+15)~(Tg+55)℃の範囲、延伸倍率としては3.3~4.7倍の範囲とすることが好ましい。
延伸温度が(Tg+55)℃以下であり、さらに3.3倍以上である場合、長手方向と幅方向の分子配向のバランスがよく、長手方向と幅方向の物性差が小さく好ましい。また、得られる二軸延伸ポリエステルフィルムの平面性も良く好ましい。
一方、MD方向の延伸温度が(Tg+15)℃以上であり、さらに延伸倍率が4.7倍以下の場合、収縮応力が増加しすぎず、ボーイングが低減されるため好ましい。
【0032】
また、長手方向の延伸において、一段階での延伸でなく、複数のロール間で多段階に延伸する方法では、延伸速度を制御しながら徐々に長手方向に延伸されるため、フィルム幅方向での物性差をより低減させることができる。効果や設備面、コストの点から二段~五段延伸が好ましい。
【0033】
幅方向に延伸する場合、未延伸フィルムを長手方向に延伸したフィルムの両端をクリップで把持して加熱することができるテンター装置に導き、熱風によりフィルムを所定の温度まで加熱した後、長手方向に搬送しながらクリップ間の距離を広げることでフィルムを幅方向に延伸する。
幅方向の延伸温度がTg+5℃以上であると、延伸時に破断が生じにくくなり、好ましい。またTg+40℃以下であると、均一な幅方向の延伸がしやすくなり、幅方向の厚み斑が大きくなりにくいため、フィルムロール表面の巻硬度の幅方向のばらつきが大きくなりにくく好ましい。より好ましくはTg+8℃以上Tg+37℃以下であり、更に好ましくはTg+11℃以上Tg+34℃以下である。
幅方向の延伸倍率は2倍以上6倍以下が好ましい。延伸倍率が2倍以上であると、物質収支的に高い収率が得られやすい上に、力学強度が低下しないほか、幅方向の厚み斑が大きくなりにくく、フィルムロールの幅方向の巻硬さのばらつきが生じにくく好ましい。また延伸倍率が6倍以下であると、延伸製膜時に破断しにくくなり好ましい。
【0034】
幅方向に延伸したフィルムの熱固定温度としては、220~245℃が好ましい。熱固定温度が245℃以下の場合、ボーイングが増加しにくく好ましい。一方、220℃以上の場合、長手方向および幅方向ともに熱収縮率が高くなりすぎず、蒸着加工時の熱寸法安定性が良くなるため好ましい。またTD熱固定温度が245℃以下の場合、ボーイングが増加しにくく好ましい。
【0035】
熱弛緩処理工程では、フィルムが熱緩和により収縮されるまでの間、幅方向の拘束力が減少して自重により弛んでしまったり、また、フィルム上下に設置されたノズルから吹き出す熱風の随伴気流によってフィルムが膨らんでしまうことがあるため、フィルムが非常に上下に変動し易い状況下にある。このため、この熱弛緩処理工程では、フィルムの搬送状態により、得られる二軸延伸ポリエステルフィルムの配向角や斜め熱収縮率差の変化量が大きく変動する。これらを軽減させる方法としては、例えば、上下部のノズルから吹き出す熱風の風速を調整することで、フィルムが平行になるように保つことが挙げられる。
幅方向の弛緩率としては、4~8%が好ましい。熱緩和率が4%以上の場合、得られる二軸延伸ポリエステルフィルムの幅方向の熱収縮率が高くなりすぎず、蒸着加工時の寸法安定性が良きなるため好ましい。一方、熱弛緩率が8%以下の場合、フィルムの幅方向中央部のフィルムへの進行方向とは逆方向へかかる引張応力(ボーイング現象)が大きくなり過ぎず、幅方向のフィルム厚み変動率が大きくならないため、フィルムロール表面の平均巻硬度の幅方向の変動率が大きくならず好ましい。
熱固定工程と熱弛緩処理工程は別々に行ってもよく、同時に行っても良い。
【0036】
上記の方法で延伸製膜された幅広の二軸配向ポリエステルフィルムは、ワインダー装置により巻き取られ、マスターロールが作製される。マスターロールの幅は5000mm以上10000mm以下が好ましい。ロールの幅が5000mm以上であると、その後スリ ット工程、蒸着加工や印刷加工においてフィルム面積あたりのコストが低くなり好ましい。
マスターロールの巻長は10000m以上100000mm以下が好ましい。ロールの巻長が5000mm以上であると、その後スリット工程、蒸着加工や印刷加工においてフィルム面積あたりのコストが低くなり好ましい。
【0037】
マスターロールの二軸配向ポリエステル系フィルムロールのフィルム厚みは、5~40μmが好ましい。5μm以上であるとフィルムとしての強度やコシ感が低下せず、フィルムロールにシワが入りにくく好ましい。一方、フィルム厚みは厚くてもフィルムロールとして問題はないが、コストの観点から薄肉化することが好ましい。フィルムの厚みは8~30μmがより好ましく、9μm~20μmが特に好ましい。
【0038】
マスターロールの二軸配向ポリエステル系フィルムの幅方向の厚み変動率は10%以下であることが好ましい。また、厚み変動率は実施例で示すような連続接触式厚み計を用いて測定するものとする。幅方向の全体の厚みムラは、下記の式1において算出されるものとする。フィルム厚み変動率が10%以下であると幅方向の巻硬度は一定になりやすく好ましい。厚み変動率の値は、小さければ小さいほど好ましい。
幅方向のフィルム厚み変動率={(厚みの最大値-厚みの最小値)÷平均厚み}×100(%)・・・式1
【0039】
マスターロールの二軸配向ポリエステルフィルムの巻外面と巻内面のフィルム面同士の静摩擦係数と動摩擦係数はいずれも0.20以上0.60以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.23以上0.50以下であり、最も好ましくは0.25以上0.40以下である。0.20以上であるとフィルムが滑りすぎず、巻ズレが生じにくく好ましいい。また、0.60以下であると、マスターロールをスリットし、巻芯にフィルムを巻き取る時スリット時に巻き込む空気の量が多くならず、巻き上がった後のフィルムロール中のフィルム間及びフィルム表面に形成フィルム表面に形成された突起と突起の間の凹部の空気が抜けても、フィルムに弛みやシワが入りにくくなる。
【0040】
マスターロールの二軸配向ポリエステルフィルの巻内面の算術平均高さは、0.010~0.050μmが好ましい。フィルム表面の巻内面の算術平均高さが0.010μm以上であるとフィルムロール内のフィルム同士が癒着する(ブロッキング現象)が発生しにくく、マスターロールからの巻出し時に異音(癒着したフィルムが剥離する音)が発生しにくく、フィルム破断もしにくいため好ましい。また、フィルム表面の巻内面の算術平均高さが0.050μm以下であると、スリットし、巻芯に巻き取ったフィルムロール中の二軸配向ポリエステルフィルムの表面上における、二次加工後のコートや蒸着薄膜の抜けや欠陥などにつながる、表面突起が少なくなり、被覆フィルムの品質が低下しにくいため好ましい。フィルム表面の巻外面の算術平均高さも同様の範囲が好ましい。
【0041】
[フィルムロール]
上記のマスターロールは、後述のスリット工程において、フィルムの長手方向にテンションを掛けながら、さらに、フィルムロールの上からコンタクトロールによる圧力を掛けながら、後述の幅にスリットされ、巻芯に巻き取られて、製品に適したポリエステルフィルロールとして出荷される。
【0042】
本発明のポリエステルフィルムロールの幅は400mm以上3000mm以下が好ましい。フィルムロールの幅が400mm以上であると、その後の蒸着加工や印刷加工においてフィルム面積あたりのコストが高くならず好ましい。また、フィルムロールの幅が3000mm以下であると、二次加工におけるハンドリング性の観点から好ましい。フィルムロールの幅はより好ましくは、500mm以上2500mm以下であり、特に好ましくは、600mm以上2300mm以下である。
マスターロールの巻長は10000m以上100000mm以下が好ましい。ロールの巻長が5000mm以上であると、その後スリット工程、蒸着加工や印刷加工においてフィルム面積あたりのコストが低くなり好ましい。
【0043】
得られたマスターロールから巻き出した二軸延伸ポリエステルフィルムをスリッターを用いて指定の幅、巻長にスリットして巻芯に巻取り、ポリエステルフィルムロールが得られる。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムロールに用いる巻芯は、特に限定されるものではなく、通常、直径3インチ(37.6mm)、6インチ(152.2mm)、8インチ(203.2mm)等のサイズのプラスチック製、金属製、あるいは紙管製の筒状の巻芯を使用することができる。
【0044】
スリット工程におけるフィルムの長手方向にかけるテンション、及びフィルムロールの上からコンタクトロールによりかける圧力(以下、面圧)がフィルムロール表面及びフィルムロール中の巻硬度の制御において、特に重要であるが、具体的な好適なスリット条件の例をスリット工程の進行順に説明する。
【0045】
[巻取り開始時]
(1)巻芯への巻取り開始時のフィルムにかける巻取張力(初期張力)は50N/m以上100N/m以下が好ましく、60N/m以上80N/m以下が更に好ましい。初期張力が50N/m以下であると、巻芯の巻き硬さが低くなり、巻取り開始時のフィルム走行速度の増速時にシワが入りにくく好ましい。また、110N/m以下であると、硬さが高くなりすぎず、フィルムロールの巻取りコアとなる紙管が変形しにくくなるため好ましい。
【0046】
(2)巻取り開始時のコンタクトロールの面圧(初期面圧)は、500N/m以上800N/m以下にすることが好ましい。初期面圧が500N/m以上であると、巻取り開始のフィルム走行速度の増速時にフィルムを押さえる効果があり、シワが入りにくくなり好ましい。更に巻きが柔らかくなりずぎず、例えば倉庫でフィルムロールを長期間(例えば半年間)保管すると、スリット時にフィルムロールに巻き込まれたエアーがフィルム同士の間から抜けることにより生じるフィルムロールの歪、フィルムの弛みやシワが発生しにくくなるので好ましい。また、800N/m以下であると、フィルムロールの硬さが高くなりすぎず、ロールのコアとなる紙管が変形しにくくなるため好ましい。より好ましくは、550N/m以上750N/m以下であり、特に好ましくは600N/m以上700N/m以下である。
【0047】
[巻取り開始から、巻き径200~300mmまで]
(1)巻取り開始から巻き径200~300mmまでのフィルム走行速度の加速度は50m/min2以上、200m/min2以下が好ましく、75m/min2以上175m/min2以下が更に好ましい。フィルム走行速度の加速度が50m/min2以上であるとフィルム走行速度の増速時に巻芯近く(巻芯層)にシワが入にくくなり好ましい。また、加速度が200m/min2以下であると、フィルム走行速度の増速時に巻芯近く(巻芯層)に端面ズレが生じにくく好ましい。巻芯近く(巻芯層)にシワや端面ズレが入ると、その後もシワや端面ズレが継続して起こる。
ここでいう巻き径とは巻き取られたフィルムロールの直径から巻芯の直径を差し引いた木距離(mm)を意味する。
【0048】
[巻き径200~300mmから、巻取り終了時まで]
(1)巻き径200~300mmからのフィルム走行速度は一定であることが好ましく、フィルム走行速度は400m/min以上、800m/min以下が好ましく、500m/min以上700m/min以下が更に好ましい。
【0049】
[巻取り開始から、巻取り終了時まで]
(1)巻取り開始から、巻取り終了時までのフィルムにかける巻取張力は一定あるいは漸増とすることが好ましく、50N/m以上100N/m以下が好ましく、60N/m以上80N/m以下が更に好ましい。
(2)巻取り開始から、巻取り終了時までのコンタクトロールの面圧は、一定あるいは漸増とすることが好ましく、巻取り開始時のコンタクトロールの面圧(初期面圧)に対する巻取り終了時のコンタクトロールの面圧(最終面圧)の割合を示す面圧増加率が100%以上190%以下であることが好ましい。面圧増加率は下記の式2において算出されるものとする。
面圧増加率=(巻終わり時の面圧÷初期面圧)×100・・・式2
【0050】
面圧増加率が200%以下であると、巻取りの進行に従って、初期面圧から最終面圧に面圧を変化させる際の巻硬さの変化の差が小さいため、フィルムロール端面にスポーキングシワと呼ぶ花模様や車輪のスポーク状の形状をしたシワが入りにくく好ましい。より好ましくは、110%以上180%以下であり、特に好ましくは120%以上170%以下である。
巻取り途中の面圧増加率が大きくなるほど、フィルムロール半径方向の巻硬度の変化の差が大きくなり、フィルムの巻取り時のロール半径方向にかかる応力が大きくなり、その層のフィルムロール端面付近のフィルムの幅方向の伸びとが関与し、スポーキングシワが発生するものと推測している。ポリエステルフィルムロールの表面から巻芯までの巻硬度の変動率が3%以上10%以下とするのが好ましい。
【0051】
[巻取り終了時]
巻取り終了時のコンタクトロールの面圧(最終面圧)は700N/m以上950N/m以下であることが好ましい。最終面圧が700N/m以上であると、巻きが柔らかくなりすぎず、フィルムロール表層の端面ズレが生じにくい。
【0052】
[ポリエステルフィルムロールの特性]
[巻長]
本発明のポリエステルフィルムロールの巻長は2000m以上65000m以下であることが好ましい。ここで、巻長とはフィルムロール最表面のフィルム端部からフィルムを巻き出して、フィルム端部から5m除去した箇所から、巻芯に固定したフィルム端部からフィルムロール最表面に向かって長手方向に100mの箇所までの、フィルムの長手方向の長さを言うものとする。巻長が2000m以上であると、印刷工程において頻繁にフィルムロールを交換する手間が少なくなり、コストの面で好ましい。また、巻長は長い方が好ましいが、65000m以下であるとロール径が大きくなりすぎない他、ロール重量が重くなりすぎず、ハンドリング性が低下せず好ましい。
[巻幅]
本発明のポリエステルフィルムロールの巻幅は400mm以上3000mm以下であることが好ましい。ここで、巻幅とはフィルムロール表面の一方の端部からもう一方の端部までの最短距離を言うものとする。巻幅が400mm以上であると、印刷工程において頻繁にフィルムロールを交換する手間が少なくなり、コストの面で好ましい。また、巻幅は長い方が好ましいが、3000mm以下であるとロール幅が大きくなりすぎない他、ロール重量が重くなりすぎず、ハンドリング性が低下せず好ましい。巻幅は1000mm以上3000mm以下がより好ましく、1500mm以上3000mm以下がさらに好ましい。
【0053】
[巻硬度]
本発明のポリエステルフィルムロールの表面の巻硬度をフィルム幅方向200mmの間隔で測定した際の平均巻硬度が500以上700以下の範囲であることが好ましい。
「フィルムロールの表面」とはフィルムロールの最表面のフィルム端部からフィルムを巻き出して、フィルム端部から5mまでの範囲を除去した後のフィルムロール表面を言うものとする。
フィルムロールの表面の幅方向の測定点は、フィルムロールの巻芯から最表面に向かうフィルムの巻方向が右回転になるフィルム端部側からから5cmの幅方向に移動した位置、それからさらに200mmずつ移動した位置とする。このとき最後の位置がフィルム端部から5cm未満の場合は、計算からは除外するものとする。
また、巻硬度はスイス プロセオ社製の硬さ試験機パロテスター2を使用して測定するものとする。幅方向の平均巻硬度が500以上であると、フィルムロールの巻きが崩れにくく、もしくは端面がズレにくく、端面が揃いやすい(所謂、巻ズレがない)。また、幅方向の平均巻硬度が700以下であるとフィルムロール内のフィルム表面に静電気放電等に起因するスタティックマークと呼ばれる局所的に強い帯電や放電痕が発生しにくく、コートや蒸着といった二次加工時にコートや蒸着薄膜の斑や抜けが生じにくく、品質が低下しにくく好ましい。平均巻硬度はより好ましくは、650以上690以下である。なお、本発明における巻硬度は、スイス プロセオ社製の硬さ試験機パロテスター2を使用し、測定を行う。
【0054】
本発明のポリエステルフィルムロールの表面の巻硬度をフィルムロールの幅方向200mmの間隔で測定した際の巻硬度の変動率が1%以上5%以下であることが好ましい。巻硬度の変動率は下記の式3において算出されるものとする。
フィルムロールの幅方向の巻硬度の変動率
=(巻硬度の最大値-巻硬度の最小値)÷硬さ×100(%) ・・・式3
【0055】
巻硬度の変動率が5%を超えると、フィルムロールに巻ズレが生じやすく、フィルムロールに部分的なたるみが生じる原因となり、コートや蒸着などの二次加工時にかかる張力におけるフィルムの変形やシワが発生しやすくなり、安定したコートや蒸着薄膜が行えないため好ましくない。巻硬度の変動率は0%が理想ではあるが、実質的に達成は困難であり、せいぜい1%が下限と考えられる。
【0056】
本発明のポリエステルフィルムロールの表面から巻芯まで長手方向に10分割して測定した際の硬さのばらつきが3%以上10%以下であることが好ましい。硬さのばらつきは下記の式4において算出されるものとする。
硬さのばらつき(長手方向)
=(硬さの最大値-硬さの最小値)÷硬さ×100(%) ・・・式4
【0057】
ここで、ポリエステルフィルムロールの表面から巻芯まで長手方向に10分割するとはフィルムロール最表面のフィルム端部からフィルムを巻き出して、フィルム端部から5m除去した箇所から、巻芯に固定したフィルム端部からフィルムロール最表面に向かって長手方向に100mの箇所までを10分割することを意味し、各分割位置までフィルムを巻き取って、フィルムロールの表面の巻硬度をフィルム幅方向200mmの間隔で測定する。
フィルムロールの表面の幅方向の測定点は、フィルムロールの巻芯から最表面に向かうフィルムの巻方向が右回転になるフィルム端部側からから5cmの幅方向に移動した位置、それからさらに200mmずつ移動した位置とする。このとき最後の位置がフィルム端部から5cm未満の場合は、計算からは除外するものとする。
巻硬度の変動率が10%を超えると、フィルムロール中の異なる位置の層での巻硬度の差が大きくなるため、フィルムの巻取り時のロール半径方向にかかる応力が大きくなり、スポーキングシワが入りやすくなったり、フィルムに部分的なたるみが生じる原因となり、コートや蒸着といった二次加工時の張力におけるフィルムの変形やシワが発生しやすくなり、被覆フィルムの品質が低下しやすいため好ましくない。巻硬度の変動率は0%が理想ではあるが、実質的に達成は困難であり、せいぜい3%が下限と考えられる。
【0058】
[フィルム厚み]
本発明のポリエステルフィルムロールのフィルムの巻内面の算術平均高さは、0.010~0.050μmが好ましい。算術平均高さが0.010μm以下であるとロール内のフィルム同士の癒着(ブロッキング現象)が発生していまい、二次加工のためにポリエステルフィルムロールの巻出す時に異音(癒着したフィルムが剥離する音)が発生したり、フィルムが破断したりするため好ましくない。また、フィルムの算術平均高さが0.050μmを超えるとコートや蒸着といった二次加工した被覆フィルムの品質が低下しやすくなるため好ましくない。
本発明のポリエステルフィルムロールのフィルム厚みは、5~40μmが好ましい。5μm以上であるとフィルムとしての強度不足やコシ感が著しく低下しにくく、フィルムロール中のフィルムにシワが入りにくくなり好ましい。一方、フィルム厚みは厚くてもフィルムロールとして問題はないが、コストの観点から薄肉化することが好ましい。フィルムの厚みは8~30μmがより好ましく、9μm~20μmが特に好ましい。
【0059】
[フィルム厚み変動率]
本発明のポリエステルフィルムロールの幅方向の二軸配向ポリエステルフィルムの厚み変動率は10%以下であることが好ましい。また、厚み変動率は、実施例で示すような連続接触式厚み計を用いて測定するものとする。フィルムの幅方向の厚み変動率は連続厚み測定器を用いて、5m/秒で連続的に幅方向の厚みを測定し、下記の式1において算出されるものとする。
フィルムの幅方向の厚み変動率が10%以下であるとフィルムのシワが生じにくくなるので好ましい。フィルムの幅方向の厚み変動率は、小さければ小さいほど好ましい。
フィルムの幅方向の厚み変動率={(厚みの最大値-厚みの最小値)÷平均厚み}×100(%)・・・式1
【0060】
[算術平均高さ]
本発明のポリエステルフィルムロールのフィルムの巻内面の算術平均高さは、0.010~0.050μmが好ましい。算術平均高さが0.010μm以下であるとロール内のフィルム同士の癒着(ブロッキング現象)が発生していまい、二次加工のためにポリエステルフィルムロールの巻出す時に異音(癒着したフィルムが剥離する音)が発生したり、フィルムが破断したりするため好ましくない。また、フィルムの算術平均高さが0.050μmを超えるとコートや蒸着といった二次加工した被覆フィルムの品質が低下しやすくなるため好ましくない。
[静摩擦係数、動摩擦係数]
【0061】
本発明のポリエステルフィルムロールの二軸配向ポリエステルフィルムの巻外面と巻内面のフィルム面同士の静摩擦係数と動摩擦係数はいずれも0.20以上0.60以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.23以上0.50以下であり、最も好ましくは0.25以上0.40以下である。0.20より低いと滑りすぎて巻ズレが生じて好ましくない。また、0.60より大きいと、スリット時にエアーの巻き込み量が多くなり、フィルムロール時に凹部のエアー抜けにより弛みやシワが入りやすくなることがある。
【0062】
[フィルムロールの巻ズレ]
フィルムロールの端面における、凹凸の高さが3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがよりこのましい。凹凸の高さが3mm以下であると、フィルムにシワが入りにくく、また二次加工の際にフィルムの走行がスムーズになりやすい。
【0063】
[フィルムロールのシワ]
製造直後のフィルムロールの最表層と、フィルムロールを巻き出して巻芯に固定されたフィルム端から、フィルムロール表面方向に100m移動した箇所の2箇所からA4サイズのフィルムを取り、蛍光灯下で観察した時に、シワの後が見えないことが好ましい。
【0064】
[フィルムロール端面のスポーキングシワ]
フィルムロール端面の花模様や車輪のスポーク状のシワの長さを測定し、シワの長さが30mm以上のシワがないことが好ましい。この場合、二次加工後にコートや蒸着薄膜の斑や抜けなどが少なくなりやすい。
【0065】
[スタティックマーク]
フィルムロールをスリッターに設置し、フィルムロール最表面のフィルム端部からフィルムを巻き出して、フィルム端部から4m除去した後にフィルムを幅方向の中央部10cm、長手方向に10cmの長さでサンプリングし、春日電機社製の帯電分布判定トナーを使用し、フィルム表面の帯電状態を可視化しときに、局所的に強い帯電や放電痕が見えなことが好ましい。この場合、二次加工後にコートや蒸着薄膜の斑や抜けなどが少なくなりやすい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。
【0067】
ポリエステル樹脂の評価方法は下記の通りである。
[ガラス転移転(Tg)]
示差走査熱量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DSC6220型)を用いて、試料を窒素雰囲気下にて280℃まで溶融し、5分間保持した後、液体窒素にて急冷し、室温より昇温速度20℃/分の条件にて測定した。
【0068】
[固有粘度(IV)]
ポリエステル0.2gをフェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン(60/40(重量比))の混合溶媒50ml中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。単位はdl/g。
【0069】
ポリエステルフィルムロールの評価方法は下記の通りである。
[フィルムの厚み]
JIS K7130-1999 A法に準拠し、ダイアルゲージを用いて測定した。
【0070】
[フィルムの厚み変動率]
フィルムロールをスリッターに設置した。その後、フィルムロール最表面のフィルム端部からフィルムを巻き出して、フィルム端部から1m除去した後にフィルムを幅方向に全幅、長手方向に40mmの長さでサンプリングし、フジワーク社製のフィルムテスター連続厚み測定器を用いて、5m/秒で連続的に幅方向の厚みを測定した。厚み変動率は下記式1において算出する。
フィルムの幅方向の厚み変動率={(厚みの最大値-厚みの最小値)÷平均厚み}×100(%)・・・式1
【0071】
[算術平均高さ]
フィルムロールをスリッターに設置した。その後、フィルムロール最表面のフィルム端部からフィルムを巻き出して、フィルム端部から2m除去した後にフィルムを幅方向の中央部10cm、長手方向に10cmの長さでサンプリングし、Zygo社製の白色レーザー干渉計(NEW VIEW8300)を使用した。
干渉計に20倍レンズを取り付けて、走査を行い、算術平均高さ(μm)を測定した。測定は、一方の表面のMD方向に0.82μm、 幅方向に0.82μmの範囲で行い、未溶融物や埃等の異物を除く表面を対象とした。
測定箇所は10cm×10cmのサンプルの任意の箇所10点で測定した平均値を、測定値として用いた。
【0072】
[摩擦係数]
フィルムロールをスリッターに設置した。その後、フィルムロール最表面のフィルム端部からフィルムを巻き出して、フィルム端部から3m除去した後にフィルムを幅方向の中央部10cm、長手方向に10cmの長さでサンプリングし、 JIS K-7125に準拠し、引張試験機(A&D社製テンシロンRTG-1210)を用い、23℃・65%RH環境下で、フィルム巻内面と巻外面とを接合させた場合の静摩擦係数と動摩擦係数を求めた。なお、上側のフィルムを巻きつけたスレッド(錘)の重量は、1.5kgであり、スレッドの底面積の大きさは、39.7mm2であった。また、摩擦測定の際の引張速度は、200mm/minであった。
【0073】
[スタティックマーク]
フィルムロールをスリッターに設置した。その後、フィルムロール最表面のフィルム端部からフィルムを巻き出して、フィルム端部から4m除去した後にフィルムを幅方向の中央部10cm、長手方向に10cmの長さでサンプリングし、春日電機社製の帯電分布判定トナーを使用し、フィルム表面の帯電状態を可視化した。
局所的に強い帯電や放電痕が見える場合を、スタティックマークあり(×)と判定し、見えない場合をスタティックマークなし(○)と判定した。測定後、スリッターで中間層まで巻返して上述した方法でフィルムロールの帯電評価を行った。更に巻芯層まで巻返してフィルムロールの帯電評価を繰り返し行った。
【0074】
[フィルムロールの表面の巻硬度]
スイス プロセオ社製の硬さ試験機パロテスター2を使用してフィルムロールの硬さを測定した。具体的には、スリッターで巻取り作製した本発明のフィルムロールを、フィルム巻き出し機を用いて、ロールの巻き解きと硬さの測定を繰り返しながら評価していく。最表層のロール硬さは、ロールから5mフィルムを除去した後、ロール幅方向に200mmの間隔で硬さを測定し、巻硬度の平均を求める。
「フィルムロールの表面」とはフィルムロールの最表面のフィルム端部からフィルムを巻き出して、フィルム端部から5mまでの範囲を除去した後のフィルムロール表面を言うものとする。
フィルムロールの表面の幅方向の測定点は、フィルムロールの巻芯から最表面に向かうフィルムの巻方向が右回転になるフィルム端部側からから5cmの幅方向に移動した位置、それからさらに200mmずつ移動した位置とする。このとき最後の位置がフィルム端部から5cm未満の場合は、計算からは除外するものとする。
【0075】
[フィルムロール表面の幅方向の巻硬度の変動率]
(1)で得た値を用いて、下記式3で計算した値とした。
フィルムロール表面の幅方向の巻硬度の変動率
=(巻硬度の最大値-巻硬度の最小値)÷硬さ×100(%) ・・・式3
【0076】
[フィルムロールの長手方向の巻硬度の変動率]
フィルムロール最表面のフィルム端部からフィルムを巻き出して、フィルム端部から5m除去した箇所から、巻芯に固定したフィルム端部からフィルムロール最表面に向かって長手方向に100mの箇所までを10分割し、各分割位置までフィルムを巻き取って、フィルムロールの表面の巻硬度をフィルム幅方向200mmの間隔で、上記(1)と同様に測定し、下記式42で計算した値とした。
フィルムロールの長手方向の巻硬度の変動率
=(硬さの最大値-硬さの最小値)÷硬さ×100(%) ・・・式4
【0077】
[フィルムロールの巻ズレ]
フィルムロールの端面における、凹凸の有無およびその高さを測定した。ロールの端面に凹凸が存在しない場合もしくは、凹凸があるがその高さが3mm以下の場合を巻ズレなし(○)とし、3mmを超える凹凸がある場合は巻ズレあり(×)とした。
【0078】
[フィルムロールのシワ]
シワの評価は、製造直後のフィルムロールの最表層と、フィルムロールを巻き出して巻芯に固定されたフィルム端から、フィルムロール表面方向に100m移動した箇所の2箇所からA4サイズのフィルムを取り、蛍光灯下で観察した時に、シワの後が見える場合をシワあり(×)と判定し、見えない場合をシワなし(○)と判定した。
【0079】
[フィルムロール端面のスポーキングシワ]
フィルムロール端面のスポーキングシワ(花模様や車輪のスポーク状のシワ)の長さを測定し、シワの長さが30mm以上のシワをNG(×)とし、シワがない場合もしくは、シワの長さが30mm未満の場合はOK(○)とした。
【0080】
[実施例1]
平均粒径が2.4μmのシリカを0.15重量%含有したポリエチレンテレフタレート(極限粘度=0.62dl/g、Tg=78℃)を、乾燥後、押出機に供給し、285℃で溶融し、T字の口金から吐出させ、キャスティングドラムにて冷却固化させ、未延伸のポリエチレンテレフタレートシートを得た。このシートを115℃に加熱し、一段目を1.24倍、二段目を1.4倍、3段目を2.6倍とした三段延伸にて、全延伸倍率4.5倍で長手方向に延伸した。引き続き、温度140℃、延伸倍率4.3倍にて幅方向に延伸し、245℃で熱固定し、幅方向に5%熱弛緩処理させた。次いで該当延伸後のフィルムの両端部を裁断除去後、コロナ放電処理を経てワインダーでロール状に巻取ることで、厚み12μmの二軸配向ポリエステルフィルムのマスターロール(巻長68000m、幅8000mm)を作製した。
得られたマスターロールから二軸配向ポリエステルフィルムを巻出し、直径6インチ(152.2mm)の巻芯に、2200mm幅でスリットしながら、コンタクトロールでフィルムロールに面圧と、2軸ターレットワインダーでフィルムに張力をかけながら、フィルムロールを巻き取った。
そのときの条件を表1に示した。また、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示した。
【0081】
[実施例2]
スリット張力を105N/mにし、コンタクトロール面圧の、初期面圧を700N/m、最終面圧を700N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルム及びマスターロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0082】
[実施例3]
コンタクトロール面圧の、初期面圧を700N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0083】
[実施例4]
スリット加速度を100m/min2にし、コンタクトロール面圧の、初期面圧を700N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0084】
[実施例5]
スリット加速度を100m/min2にし、スリット張力を75N/mにし、コンタクトロール面圧の、初期面圧を700N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0085】
[比較例1]
コンタクトロール面圧の、初期面圧を450N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0086】
[比較例2]
コンタクトロール面圧の、初期面圧を300N/m、最終面圧を650N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0087】
[比較例3]
コンタクトロール面圧の、最終面圧を500N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0088】
[比較例4]
巻取張力の巻取り途中のフィルムにかかる巻取張力を62N/mにし、最終的にかかる巻取張力を59N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0089】
[比較例5]
スリット加速度を250m/min2に変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0090】
[比較例6]
スリット加速度を50m/min2にし、スリット張力を55N/mにし、コンタクトロール面圧の、初期面圧を350N/m、最終面圧を450N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0091】
[比較例7]
スリット加速度を50m/min2にし、スリット張力を85N/mにし、コンタクトロール面圧の、初期面圧を900N/m、最終面圧を1100N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。スリット条件を表1に、得られたフィルムロールの物性及び評価結果を表2に示す。
【0092】
評価の結果、実施例1~5のフィルム及びマスターロールは、フィルムロールの平均硬さ、硬さのばらつき、算術平均高さが規定の範囲内となるため、スリットで巻き上がり直後のロールでの表層、巻芯でのシワ、巻ズレ、端面のスポーキングシワが発生せず、スタティックマークや放電痕が発生しておらず、蒸着加工性に優れたフィルムロールであった。
【0093】
比較例1は、フィルムロールの最表層の硬さの平均値、ばらつきは規定の範囲内であるものの、最表層から巻芯まで10分割して測定した際の硬さのばらつきが規定の範囲外であり、面圧増加率が高いために、初期面圧から巻取りの進行に従い最終面圧に変化させる際の硬さの差が大きすぎるためスポーキングシワが生じ、二次加工性に劣るフィルムロールであった。
【0094】
比較例2は、フィルムロールの最表層の硬さの平均値、ばらつきは規定の範囲内であるものの、最表層から巻芯まで10分割して測定した際の硬さのばらつきが規定の範囲外であり、面圧増加率が高いために、初期面圧から巻取りの進行に従い最終面圧に変化させる際の硬さの差が大きすぎるためスポーキングシワが生じ、また、コンタクトロール面圧の初期面圧が低いため、巻ズレが生じ、二次加工性に劣るフィルムロールであった。
【0095】
比較例3は、最終面圧が低すぎるため巻ズレ及びシワが生じてしまい、二次加工性に劣るフィルムロールであった。
【0096】
比較例4は、巻取張力の最終的にかかる巻取張力が低く、最終面圧に変化させる際の硬さの差が大きすぎるためスポーキングシワが生じてしまい、二次加工性に劣るフィルムロールであった。
【0097】
比較例5は、巻取り開始のフィルム増速時の加速度が高いために、フィルムロールの最表層の硬さのばらつきが大きくなり、フィルムロールがたるみやすくなることで巻ズレが生じ、二次加工性に劣るフィルムロールであった。
【0098】
比較例6のフィルムは、フィルムロールの硬さの平均値が低いために、巻ズレが生じていまい、二次加工性に劣るフィルムロールであった。
【0099】
比較例7は、フィルムロールの硬さの平均値が高いために、スタティックマークや放電痕が生じてしまい、二次加工性に劣るフィルムロールであった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムロールは、シワやフィルム表面の欠点が少なく、巻ズレがなく、コートや蒸着などの二次加工に適したものに関する。さらには、二次加工後の被覆フィルムの品質も優れており、食品包装用フィルムとして好適に使用することができる。特に、生産性を向上させた広幅化、長尺化したフィルムロールにおいて有用である。
【0101】
【0102】