IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

特許7533531摺動機構保護部材の故障予兆検知システム、摺動機構保護部材の故障予兆検知方法及び摺動機構保護部材の故障予兆検知プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】摺動機構保護部材の故障予兆検知システム、摺動機構保護部材の故障予兆検知方法及び摺動機構保護部材の故障予兆検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/045 20190101AFI20240806BHJP
   G01H 3/14 20060101ALI20240806BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20240806BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G01M13/045
G01H3/14
B23Q17/00 A
G05B23/02 R
G05B23/02 301X
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022100365
(22)【出願日】2022-06-22
(65)【公開番号】P2023097323
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2021212466
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】南保 由人
(72)【発明者】
【氏名】川合 窒登
(72)【発明者】
【氏名】小山 友二
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 和明
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138817(JP,A)
【文献】国際公開第2020/071514(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0370803(US,A1)
【文献】特開2009-092183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 -13/045
G01M 99/00
G01H 3/00 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部(2)と、この固定部に沿って摺動機構を介して移動する移動部(3)とを備える移動装置において、
前記移動部と前記固定部との隙間を覆うように配置される摺動機構保護部材(5)の故障の予兆を検知するもので、
移動部が摺動機構を介して移動する経路に沿って配置され、前記移動装置が稼働した際に発生する音響信号を取得する音響信号取得部(11)と、
取得された音響信号の周波数成分に現れる特徴的な周波数成分のレベルである特徴量を抽出する特徴量抽出部(16)と、
抽出された特徴量に基づいて、前記摺動機構保護部材の故障の予兆を検知する摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項2】
前記固定部は、直線状のレールであり、
前記移動部は、前記レールに沿って直線移動する請求項1記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項3】
前記故障の予兆を検知する検知部を備える請求項1又は2記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項4】
前記特徴量抽出部は、前記周波数成分を解析する周波数解析部を備える請求項1又は2記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項5】
前記特徴量抽出部を、オンプレミスにより構成した請求項1又は2記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項6】
前記特徴量抽出部を、クラウドサービスを利用して構成した請求項1又は2記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項7】
前記特徴量抽出部を、エッジコンピューティングにより構成した請求項1又は2記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項8】
検知した予兆を作業者に通知する通知部を備える請求項1又は2記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項9】
前記通知部は、パーソナルコンピュータのディスプレイであり、前記ディスプレイに表示を行うことで通知する請求項8記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項10】
前記通知部は、点灯表示部であり、前記点灯表示部に点灯表示を行うことで通知する請求項8記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項11】
前記通知部は、通信ネットワークを介して接続された通信端末であり、前記通信端末にメッセージ又はアイコンを送信して通知する請求項8記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項12】
前記音響信号取得部を、前記固定部の近傍に配置する請求項1又は2記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項13】
前記音響信号取得部を、前記移動部の近傍に配置する請求項1又は2記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項14】
前記音響信号取得部を、前記移動部に搭載されている移動物の近傍に配置する請求項1又は2記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【請求項15】
固定部と、この固定部に摺動機構を介して配置され、前記固定部に沿って移動する移動部とを備える移動装置において、前記移動部に、当該移動部と前記固定部との隙間を覆うように配置される摺動機構保護部材の故障の予兆を検知する方法であって、
前記移動部が移動する経路に沿って配置され、前記移動装置が稼働した際に発生する音響信号を取得し、
取得された音響信号の周波数成分に現れる特徴的な周波数成分のレベルである特徴量を抽出し、
抽出された特徴量に基づいて、前記摺動機構保護部材の故障の予兆を検知する摺動機構保護部材の故障予兆検知方法。
【請求項16】
前記固定部は、直線状のレールであり、
前記移動部は、前記レールに沿って直線移動する請求項15記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知方法。
【請求項17】
前記周波数成分を解析することで前記特徴量を抽出する請求項15又は16記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知方法。
【請求項18】
固定部と、この固定部に摺動機構を介して配置され、前記固定部に沿って移動する移動部とを備える移動装置において、前記移動部に、当該移動部と前記固定部の隙間を覆うように配置される摺動機構保護部材の故障の予兆を検知する装置が備えるコンピュータにより実行されるもので、
前記移動部が移動する経路に沿って配置され、前記移動装置が稼働した際に発生する音響信号を取得させ、
取得させた音響信号の周波数成分に現れる特徴的な周波数成分のレベルである特徴量を抽出させ、
抽出された特徴量に基づいて、前記摺動機構保護部材の故障の予兆を検知させる摺動機構保護部材の故障予兆検知プログラム。
【請求項19】
前記固定部は、直線状のレールであり、
前記移動部は、前記レールに沿って直線移動する請求項18記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知プログラム。
【請求項20】
前記周波数成分を解析させることで前記特徴量を抽出させる請求項18又は19記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動機構に使用される保護部材が故障する予兆を検知するシステム、方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生産設備に使用される機器に経年劣化による摩耗や破損が生じると、設備が異常停止したり故障が発生して生産性が低下するおそれがある。例えばLMガイド(登録商標)のような直線案内装置は、固定部である軌道レールと、可動部であるスライダとの間にボールを介在させることで、スライダを軌道レールに沿って直線的に移動させる。このような装置では、軌道レールとスライダとの隙間に外部から異物が侵入すると、レールやボール等の機構部が摩耗するため寿命が低下する。そこで、従来は、機構部に摩耗が生じたことを検知する技術や、摩耗が生じた時点以降の寿命を予測する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-287625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、上記のような直線案内装置では、軌道レールとスライダとの隙間に異物が侵入することを防止するため、その隙間を塞ぐように配置されるシール材を設けているものがある。このシール部材はスライダ側に固定されるため、スライダが摺動することでシール部材自体にも摩耗や損傷が生じることは避けられない。しかしながら、このような、シール部材自体に生じる摩耗や損傷を検知するため技術は、今まで提案されていない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、摺動機構に使用される保護部材が故障する予兆を検知するシステム、方法及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システムによれば、摺動機構保護部材は、移動装置の移動部に、その移動部と固定部との隙間を覆うように配置される。音響信号取得部は、移動部が移動する経路に沿って配置され、移動装置が稼働した際に発生する音響信号を取得する。特徴量抽出部は、取得された音響信号の周波数成分に現れる特徴的な周波数成分のレベルである特徴量を抽出する。そして、抽出された特徴量に基づいて、摺動機構保護部材が故障する予兆を検知する。
【0007】
すなわち、移動装置が稼働する際には、移動部と共に摺動機構保護部材が移動するので、固定部と接触している部分で音が発生する。その音の周波数成分は、摺動機構保護部材の形状が経時的に変化することに伴い変化する。したがって、取得された音響信号の周波数成分ついて特徴量を抽出すれば、移動装置が稼働しているノイズが多い環境下であっても、摺動機構保護部材の形状の変化が進んである程度劣化したことが判別できる。これにより、保護部材が故障状態に至る予兆を検知できる。
【0008】
請求項4記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システムによれば、特徴量抽出部は、周波数解析部により音響信号の周波数成分を解析するので、解析された周波数成分に現れる特徴量に基いて、保護部材が故障状態に至る予兆を検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態であり、故障予兆検知システムの構成を示す機能ブロック図
図2】処理の概要を示すフローチャート
図3】処理の概要をモデル的に示す図
図4】LMガイドを使用した設備の一例をモデル的に示す図
図5】スライダを動作させる速度パターンの一例を示す図
図6】シール材が新品状態の場合のスペクトログラムを示す図
図7】シール材が摩耗した場合のスペクトログラムを示す図
図8】LMガイドが故障した場合のスペクトログラムを示す図
図9】LMガイドの平面図
図10】LMガイドの側面図
図11】保持部材に取り付けられたシール材の正面図
図12】第2実施形態であり、統計処理により故障予兆検知を行う場合を説明する図
図13】第3実施形態であり、機械学習により故障予兆検知を行う場合を説明する図(その1)
図14】機械学習により故障予兆検知を行う場合を説明する図(その2)
図15】機械学習により故障予兆検知を行う場合を説明する図(その3)
図16】機械学習により故障予兆検知を行う場合を説明する図(その4)
図17】機械学習により故障予兆検知を行う場合を説明する図(その5)
図18】第4実施形態であり、故障予兆検知システムの構成を示す機能ブロック図
図19図18に示す構成をベースとして、オンプレミスにより構成した場合を示す機能ブロック図
図20】同クラウドサービスを利用して構成した場合を示す機能ブロック図
図21】同エッジコンピューティングにより構成した場合を示す機能ブロック図
図22】第5実施形態であり、作業者に対して処理結果を通知する形態のバリエーションを示す図(その1)
図23】同バリエーションを示す図(その2)
図24】第6実施形態であり、マイクロフォンを配置する態様のバリエーションを示す図
図25】第7実施形態であり、故障の予兆を検知した場合の対応例を説明する図(その1)
図26】同対応例を説明する図(その2)
図27】同対応例を説明する図(その3)
図28】同対応例を説明する図(その4)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について説明する。図9及び図10に示すように、移動装置、又は直線案内装置の一例であるLMガイド1は、直線状のレール2に沿って移動部であるスライダ3を、図示しない摺動機構であるベアリング等を介して摺動させつつ、図中の左右方向に移動させる構成である。レール2の長さは1000mm,幅は53mm,高さは43mmである。スライダ3の長さは193mmである。
【0011】
図3に示すように、スライダ3の左右両端面には、保持部材4に取り付けられたシール材5が配置されている。図11に示すように、レール2の断面形状は中央部が幅狭となっており、保護部材であるシール材5は、その断面形状の外形に沿った形をしている。シール材5の材質は、例えばニトリルゴムであり、その厚さ寸法は例えば5mm程度である。保持部材4の寸法は、縦71mm,横100mmであり、レール2の高さ9mmの部分から上方側に配置される。保持部材4はねじ止めによりスライダ3の両端面に固定される。このシール材5によって、レール2とスライダ3との間にあるベアリング等に、異物が侵入することを防止している。
【0012】
図3に示すように、LMガイド1におけるスライダ3の移動経路に沿う近傍にマイクロフォン11を配置し、LMガイド1が稼動する際にスライダ3が移動することに伴い、シール材5がレール2に摺動することで発生させる音響信号を取得する。その音響信号の周波数成分の特徴量を見ることで、シール材5の劣化状態を判定する。特徴量とは、音響信号の周波数成分に現れる特徴的な周波数成分のレベルである。マイクロフォン11は音響信号取得部の一例である。
【0013】
図4に一例を示すように、スライダ3を2つ使用し、支持部材6を介して取り付けたカッター7を、図中の左右方向に移動させる。尚、図中の左方向が「前」となる。図5に示すように、スライダ3を初期位置から急加速させて前進させたのち急減速させると、等速で移動させる。それから、スライダ3を減速させて停止させると、急加速により後退させたのち急減速させると前進時よりも早い等速で後退させて、初期位置に戻した時点で停止させる。
【0014】
図1に示す故障予兆検出システム10では、マイクロフォン11で取得した音響信号を、オーディオインターフェイス12を介してデータロガー13に入力する(図2;S1~S3)。そこで音響信号はA/D変換された後、CSV(Comma Separated Value)ファイルに出力される。CSVファイルは、LAN通信用のHUB14を介してNAS(Network Attached Storage)15に記憶される。
【0015】
ここで、音響信号取得部として、マイクロフォン11の他にオーディオインターフェース12を用いることで、当該インターフェース12に内蔵されているアンプのゲイン調整や周波数調整ができ、後段処理の負荷低減をすることができる。また、音響信号の音圧が低いときには、アンプのゲインを調整することで、必要な音圧を確保できる。また、音響信号の音圧が十分なレベルであれば、マイクロフォン11と中継機とを直接接続しても良い。尚、上記の中継機の機能は、音響信号がアナログ信号であればA/D変換したり、状態検出部との中継をするものである。
【0016】
また、データ記録媒体としてNAS15を用いることで、データを社外へ流出させるリスクを最小限にすることができる。また、NAS15に替えてクラウドサービスを用いれば、ストレージの容量等を気にすることなく、どこからでもデータにアクセスできる。尚、 データ記憶媒体を使用せずに、エッジ処理で行うこともできる。尚、これらに関連した図示は、後述する第4実施形態で示す。
【0017】
パーソナルコンピュータ;PC16は、HUB14を介してNAS15にアクセスし、CSVファイルに格納されている音響信号のデータ;マイクデータを読み込むと、FFTによる周波数解析や統計処理、又は機械学習等を行うことで、マイクデータに含まれている周波数成分の特徴量を算出する。PC16は特徴量抽出部の一例である。
【0018】
図6に示すように、シール材5が新品状態の場合には、周波数解析した結果を示すスペクトログラムに、際立って特徴的なものは見られない。これに対して、図7に示すように、シール材5がある程度摩耗した状態になると、凡そ500Hz~6000Hz周辺の成分の音圧が増加していることが分かる。シール材5の劣化が進むことで、シール材5の粉体等がレール2とスライダ3との間に混入してしまうと、LMガイド1が故障した状態となる。故障した状態とは、レール2とスライダ3とが接触する部分が、混入した粉体等により擦れて傷が発生し、LMガイド1の動的・静的精度が悪化した状態を言う。この場合、図8に示すように、図7に示すケースよりも周波数成分の音圧は低下するが、同様の特徴を示している。
【0019】
PC16は、ディスプレイ17に上記の処理結果についてトレンドを表示させ、また、特徴量に基づいてシール材5の劣化状態を判定し(S4)、判定結果を表示させる。また、PC16は、処理結果等をNAS15に記憶させる。判定結果がシール材5の劣化を示すものであれば、それを故障の予兆と捉えて異常判定を行ない、ディスプレイ17に警報を表示させ、また、作業者にメンテナンスを促す表示等を行う(S5)。尚、「シール材5が故障する」とは、その摩耗が進むことで、図8に示すようにLMガイド1を故障に至らしめるような状態を言う。
【0020】
ここで、作業者への通知を行う通知部、又は媒体としてPC16のディスプレイ17を用いることで、PC6で処理された内容や、トレンドグラフなど、様々な情報と照らし合わせる確認がすぐできる。また、点灯表示部の一例として行灯を用いれば、遠方にいる人にも知らせることができるので、ディスプレイ17の近くに人を配置しないで済む。更に、メールやチャットなどを用い、インターネット接続されている端末を用意すれば、どこでも判定結果を知ることができる。尚、これらに関連した図示は、後述する第5実施形態で示す。
【0021】
以上のように本実施形態によれば、故障予兆検知システム10において、シール材5は、LMガイド1のスライダ3に、そのスライダ3とレール2との隙間を覆うように配置される。マイクロフォン11は、スライダ3が移動する経路に沿って配置され、LMガイド1が稼働した際に発生する音響信号を取得する。PC16は、取得された音響信号の周波数成分に現れる特徴的な周波数成分のレベルである特徴量を抽出する。具体的には、音響信号の周波数成分を解析し、その周波数成分に現れる特徴量を抽出する。そして、抽出された特徴量に基づいて、シール材5が故障する予兆を検知する。
【0022】
すなわち、LMガイド1が稼働する際に、シール材5がレール2と接触している部分で発生する音の周波数成分は、シール材5の形状が経時的に変化することに伴い変化する。したがって、取得した音響信号の周波数成分ついて特徴量を抽出すれば、LMガイド1が稼働しているノイズが多い環境下であっても、シール材5の形状の変化が進んである程度劣化したことが判別できる。これにより、シール材5が故障状態に至る予兆を検知できる。尚、システム10は、シール材5が既に故障している場合についても検知できるものであることは言うまでもない。
【0023】
ここで、マイクロフォン11を、スライダ3の外部で且つレール2と接触しない位置に設置すれば、設備を停止させることなく設置できる。また、スライダ3の外部で且つスライダ3の動作と干渉しないようなレール2上に設置すれば、音の発生源に近付くことでSN比を向上させることができる。更に、スライダ3の内部、又は保持部材4等の共に移動するものを含む上方に設置すれば、スライダ3の動作に関わらずシール材5とマイクロフォン11との距離を一定にでき、音響信号の音圧の絶対値を比較することができる。
【0024】
また、予兆検知後の対応として、レール2への給油を行うことで、シール材5の摩耗・劣化促進を妨げることができる。また、シール材5のみを新品へ交換すれば、スライダ3の内部に異物が大量に侵入して、ベアリングの劣化が加速することを防止できる。更に、 シール材5のみを交換した際に、シール材5の取り付け状態に異常があることでに特徴量に変化が出る場合は、取り付け状態の検知も可能になる。尚、これらに関連した図示は、後述する第6実施形態で示す。
【0025】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。第2実施形態は、PC16において、統計処理により判定を行う一例を示す。図6図8に示すスペクトログラムの横軸では、0s~6sがスライダ3の前進期間であり、6s~10sが同後退期間となる。スライダ3が後退する期間に、周波数1000Hz~6000Hzの帯域について、周波数成分の強度の合計値及び平均値を求める。
【0026】
図12に示すように、シール材5が新品の場合の合計値は「8.88」、平均値は「0.00056」であるのに対し、シール材5が摩耗して劣化した場合の合計値は「23.75」、平均値は「0.0015」であり、何れの値も上昇している。この数値上昇のトレンドを監視し、閾値を適用することで故障状態に至る予兆を検知する。
【0027】
(第3実施形態)
第3実施形態は、PC16において、機械学習により判定を行う一例を示す。処理の概要を以下に示す。
(1)シール材5が新品の場合、つまり正常状態の音響信号の波形を複数用意する。
(2)各波形を時間窓で区切って周波数を解析する(図13図14参照)。
(3)周波数の分布を一定区間で区切り、各区間について信号レベルの最大値や平均値を求める。
(4)(2)、(3)を繰り返すことで、波形毎の特徴量を抽出する(図15参照)。
(5)例えば、教師なし学習の外れ値検出の手法、所謂Isolation Forestを用いて、正常状態の特徴量からモデルを作成する。
(6)正常状態と摩耗状態のデータを比較し、正常状態からの変化の度合いを数値化して判定する。
【0028】
図16に示すように、Isolation Forestの評価値のヒストグラムが現れたものとする。新品のデータ数は49、摩耗品のデータ数は55である。この場合、評価値の閾値を例えば0.64程度に設定すれば、図17に示すように、実際の運用では評価値の平均値のトレンドを監視することで劣化の判定が可能になる。
【0029】
(第4実施形態)
第4実施形態は、前述した図1に示すシステム10の構成のバリエーションを図示する。図18は、図1に示す機能ブロック図を、若干上位概念化したものである。システム21において、設備22は、LMガイド1等を含むもので、摺動機構23、摺動機構保護部材24及び音響信号取得部25を備える。
【0030】
音響信号取得部25によって取得された音響信号は、中継機26を介して状態検出部27に入力される。状態検出部27は、データロガー13のように音響データを記憶するストレージや、PC16の周波数解析や統計処理の機能を備えたものに相当する。状態検出部27による処理結果は、例えばディスプレイ17等に対応する表示装置28に表示され、作業者29に提示される。
【0031】
図19図21は、図18に示す構成をベースとした実施形態のバリエーションを示す。図19に示すシステム21Aは、オンプレミスにより実現した構成を示し、中継機26及び状態検出部27に対応する部分を、PC等30及びNASサーバ31によって実現している。
【0032】
図20に示すシステム21Bは、図19に示すNASサーバ31を、クラウドサービス32に置き換えて実現した構成を示す。また、図21に示すシステム21Cは、図20に示すNASサーバ31を削除して、エッジコンピューティングにより実現した構成を示す。システム21Cでは、NASサーバ31等のストレージを使用することなく、周波数解析等の処理をリアルタイムで処理する。
【0033】
(第5実施形態)
第5実施形態は、前述した作業者29に対して処理結果を通知する形態のバリエーションを図示する。図22は、工場内の設備22に行灯33を設け、行灯33により点灯表示を行うことで、設備22より遠方に位置する作業者29にも通知できるようにした場合である。また、設備22の近傍に配置したPC31のディスプレイにおいても通知を行う。
【0034】
また、図23は、工場とは別の拠点に、例えばインターネットのような通信ネットワークを介して接続された通信端末であるPC31やタブレット34、スマホ35等を配置し、それらにメールやチャット等によりメッセージやアイコン等を送信し、ディスプレイに表示させて通知を行う。
【0035】
(第6実施形態)
第6実施形態は、前述したマイクロフォン11を配置する態様のバリエーションを図示する。図24に示す星形のシンボルが、マイクロフォン11を示しており、レール2やスライダ3、スライダ3に搭載される例えば指示部材6やカッター7のような移動物の近傍に配置する。
【0036】
(第7実施形態)
第7実施形態は、前述した故障の予兆を検知した場合の対応例を図示する。尚、図中に示す「転動体」は、摺動機構を構成するベアリング等である。図25は、シール材5が健全な状態を示し、図26は、シール材5が摩耗した状態を示している。図27は、摺動機構部分に油等の潤滑剤36を注入することで、劣化の進行を抑制する場合を示す。図28は、シール材5を新品に交換した状態を示す。
【0037】
(その他の実施形態)
必ずしもPC16等を使用する必要はなく、作業者がディスプレイ17に表示されたスペクトログラムを目視することで判定を行なっても良い。
周波数成分に現れる特徴は、LMガイド1のサイズや形状、シール材5のサイズ、形状や材質、スライダ3の動作パターン等に応じて異なる。
直線案内装置はLMガイド1に限らない。
データロガー13からPC16までを単一の装置で構成し、その装置を構成するコンピュータによって実行される単一のプログラムで処理を実行させても良い。
【0038】
尚、音響信号の波形に影響を及ぼすパラメータとしては、例えば以下のものがある。
<レール>
・幅、長さ、高さ、断面形状、材質。
<スライダ>
・幅、長さ、高さ、断面形状、材質。
<側面シール材>
・レール接触周回形状又はレール断面形状、レール接触周回長、レール接触幅、材質。
<LMガイド制御部>
・移動速度、速度パターン。
<センサ>
・配置、シール材までの距離、センサの種類、センサスペック。
<移動物>
・重量、重心位置。
<環境>
・異物量、異物サイズ、異物材質、ブロー周期、温度、湿度、給油の量、油の種類、給油周期。
【0039】
これらパラメータの条件や値が変化した場合でも、事前の評価又は運転中における古典的な統計手法や機械学習を用いたセンサ信号処理により、異常検知に必要な音の強度や周波数、ノイズの強度や周波数、判定閾値について適切に補正や調整ができる。
また、保護部材の材質は、温度や吸水率等の搭載環境状態によっても異なり、例えば、高度等の変化による影響を受ける。それらの環境状態をセンサによって取得し、複合的に判断する。
音響信号の特徴量は、直動案内装置やその他の移動装置の構成のみならず、異物の形状、例えば球状、楕円状、凹凸形状や、材料物性、例えば硬度、粘度によっても変化する。その異物の違いによる特徴を検出することもできる。
【0040】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0041】
各装置等が提供する手段および/または機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、制御装置がハードウェアである電子回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、またはアナログ回路によって提供することができる。
【0042】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
請求項4
前記特徴量抽出部は、前記周波数成分を解析する周波数解析部を備える請求項1から3の何れか一項に記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
請求項5
前記特徴量抽出部を、オンプレミスにより構成した請求項1から4の何れか一項に記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
請求項6
前記特徴量抽出部を、クラウドサービスを利用して構成した請求項1から4の何れか一項に記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
請求項7
前記特徴量抽出部を、エッジコンピューティングにより構成した請求項1から4の何れか一項に記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
請求項8
検知した予兆を作業者に通知する通知部を備える請求項1から7の何れか一項に記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
請求項12
前記音響信号取得部を、前記固定部の近傍に配置する請求項1から11の何れか一項に記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
請求項13
前記音響信号取得部を、前記移動部の近傍に配置する請求項1から11の何れか一項に記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
請求項14
前記音響信号取得部を、前記移動部に搭載されている移動物の近傍に配置する請求項1から11の何れか一項に記載の摺動機構保護部材の故障予兆検知システム。
【符号の説明】
【0043】
図面中、1はLMガイド、2はレール、3はスライダ、5はシール材、10は故障予兆検知システム、11はマイクロフォン、16はパーソナルコンピュータを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28