(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】全固体二次電池用電極、全固体二次電池、及び全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240806BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240806BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240806BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240806BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240806BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240806BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/0585
H01M10/0565
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2022532539
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2021023977
(87)【国際公開番号】W WO2021261561
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2020110037
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯泉 暢
(72)【発明者】
【氏名】中山 剛成
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-212990(JP,A)
【文献】特開2018-181750(JP,A)
【文献】特開2018-152253(JP,A)
【文献】特開2018-206755(JP,A)
【文献】特開2003-173769(JP,A)
【文献】特開2016-012561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質とバインダー樹脂とを含む電極活物質層を集電体上に有する電極であって、
前記バインダー樹脂が、ポリイミド系樹脂を含み、かつ、
前記電極活物質層が、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩、
及び導電助剤を含み、
前記リチウム塩が、無機リチウム塩、パーフルオロアルカンスルホン酸塩、LiN(FSO
2
)
2
、パーフルオロアルカンスルホニルイミド塩、パーフルオロアルカンスルホニルメチド塩、フルオロアルキルフッ化リン酸塩、及びオキサラトボレート塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、
固体電解質を含まないことを特徴とする全固体二次電池用電極。
【請求項2】
前記リチウム塩が、25℃におけるイオン伝導度が1×10
-4S/cm以上であることを特徴とする請求項
1に記載の電極。
【請求項3】
前記リチウム塩が、LiN(FSO
2)
2、パーフルオロアルカンスルホニルイミド塩、又はその両方であることを特徴とする請求項
1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記リチウム塩は、LiN(FSO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(CF
3CF
2SO
2)
2、及びLiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
正極と、固体電解質層と、負極とを有する全固体二次電池であって、
前記正極及び/又は前記負極が、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電極であることを特徴とする全固体二次電池。
【請求項6】
電極活物質と、バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂、又はその前駆体と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩と、
導電助剤と、溶剤とを含み、
前記リチウム塩が、無機リチウム塩、パーフルオロアルカンスルホン酸塩、LiN(FSO
2
)
2
、パーフルオロアルカンスルホニルイミド塩、パーフルオロアルカンスルホニルメチド塩、フルオロアルキルフッ化リン酸塩、及びオキサラトボレート塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、固体電解質を含まない電極合剤ペーストを集電体上に塗布する工程と、
塗布した電極合剤ペーストを乾燥、又は熱処理して、電極活物質層を形成する工程と
を有することを特徴とする全固体二次電池用電極の製造方法。
【請求項7】
電極活物質と、バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩
と、導電助剤とを含み、
前記リチウム塩が、無機リチウム塩、パーフルオロアルカンスルホン酸塩、LiN(FSO
2
)
2
、パーフルオロアルカンスルホニルイミド塩、パーフルオロアルカンスルホニルメチド塩、フルオロアルキルフッ化リン酸塩、及びオキサラトボレート塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、固体電解質を含まない電極活物質層を集電体上に有する電極シートを準備する工程と、
前記電極シートと、固体電解質を含む固体電解質含有シートと、対極シートとを積層し、一体化する工程と
を有することを特徴とする全固体二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記電極シートを準備する工程が、
電極活物質と、バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂、又はその前駆体と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩と、
導電助剤と、溶剤とを含み、
前記リチウム塩が、無機リチウム塩、パーフルオロアルカンスルホン酸塩、LiN(FSO
2
)
2
、パーフルオロアルカンスルホニルイミド塩、パーフルオロアルカンスルホニルメチド塩、フルオロアルキルフッ化リン酸塩、及びオキサラトボレート塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、固体電解質を含まない電極合剤ペーストを集電体上に塗布する工程と、
塗布した電極合剤ペーストを乾燥、又は熱処理して、電極活物質層を形成する工程と
を有することを特徴とする請求項
7に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記電極シートと、前記固体電解質含有シートと、前記対極シートとを、乾式法により積層し、一体化することを特徴とする請求項
7又は
8に記載の全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用電極、及び全固体二次電池、並びに全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるため、移動情報端末の駆動電源等として広く利用されている。近年は、大容量を必要とする電気・ハイブリッド自動車への搭載等産業用途での使用も広まりつつあり、更なる高容量化や高性能化のための検討がなされている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化が求められる一方で、電池の安全性を確保、向上するために、リチウム塩等の電解質塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液に代えて、不燃性の無機の固体電解質を用いた全固体二次電池の検討が行われている。全固体二次電池は、正極及び負極と、これらの間に配置された固体電解質層とを備え、性能の点から、一般的に、各電極、具体的には、正極活物質層及び負極活物質層にも固体電解質が添加されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、正極活物質層、無機固体電解質層及び負極活物質層をこの順に有する全固体二次電池であって、該正極活物質層、該無機固体電解質層及び該負極活物質層が、特定のポリマー及び無機固体電解質を含む全固体二次電池が開示されている。特許文献2には、粉末状の活物質、固体電解質、導電助剤の混合物が、特定のバインダーにより結着されて、集電体上に活物質層が膜状に形成されている固体電解質電池用電極、及び、この固体電解質電池用電極が正極と負極の少なくとも一方に用いられている固体電解質電池が開示されている。さらに、特許文献3には、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層及び前記固体電解質層が、周期律表第1族又は第2族に属する金属元素のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、イオン伝導性物質、具体的には無機固体電解質又は液体電解質を内包するバインダー粒子とを含む層である全固体二次電池が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、正極と、負極と、正極と負極間に設けられた固体電解質からなる固体電解質層とを備え、前記負極は、負極活物質と、固体電解質に結着し、当該固体電解質に対して不活性な第1の結着剤と、負極集電体に対する結着性が前記第1の結着剤よりも優れた第2の結着剤とを有し、前記第2の結着剤は高弾性樹脂を含有する固体電池が開示されている。特許文献4には、負極は固体電解質を含まない、と記載されているが、実施例では、電解質層塗工液を負極構造体上に塗工した後、乾燥させて、負極構造体上に電解質層を形成している。この方法では、固体電池の製造時、つまり、電解質層塗工液を負極上に塗工した時に、電解質層から負極層に固体電解質が膨潤(浸透)するため、形成される負極層には固体電解質が含まれることになる。
【0006】
特許文献5には、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層をこの順に有する全固体二次電池であって、該正極活物質層及び該負極活物質層の少なくとも1層における無機固体電解質の含有量が、各層を構成する全固形分に対し0~10質量%であり、前記固体電解質層は硫化物系固体電解質を含有し、前記正極活物質層及び前記負極活物質層の少なくとも1層がバインダーを含有し、かつ、前記負極活物質層が特定の負極活物質を含有する全固体二次電池が開示されている。しかしながら、特許文献5の実施例では、二次電池用正極シートの正極活物質層の上に固体電解質組成物を塗布し、加熱して、固体電解質層を形成した後、二次電池負極用組成物を乾燥後の固体電解質層上に塗布し、加熱して、負極活物質層を形成している。この方法では、特許文献4に記載の方法と同様に、正極活物質層及び負極活物質層に固体電解質が浸透するため、形成される正極活物質層及び負極活物質層には固体電解質が含まれることになる。
【0007】
また、無機の固体電解質ではなく、有機の固体電解質、すなわち高分子固体電解質を用いた全固体二次電池の検討も行われているが、その場合も、性能の点から、一般的に、各電極(具体的には、正極活物質層及び負極活物質層)には固体電解質が添加される。例えば、特許文献6には、遷移金属酸化物を主体とする化合物を正極活物質として用いた正極と、リチウム金属、リチウム合金又はリチウムイオンを吸蔵・放出可能な物質を負極活物質として用いた負極と、電解質とを含み、前記電解質に、特定の高分子固体電解質を用いたことを特徴とする高分子固体電解質リチウム電池が開示されている。しかしながら特許文献6の実施例では、形成した正極活物質層の上に、高分子固体電解質の前駆体を含浸し、電子線照射により硬化して、電解質を含有する複合正極を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/125716号
【文献】特開2013-45683号公報
【文献】国際公開第2017/099248号
【文献】特開2014-116154号公報
【文献】特開2016-212990号公報
【文献】特開2003-92138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来の全固体二次電池用電極では必須成分であった固体電解質を電極活物質層が含まなくても、実用可能な全固体二次電池が得られる全固体二次電池用電極、及び、電極活物質層が固体電解質を含まない電極を用いた、実用可能な全固体二次電池、並びに全固体二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の項に関する。
[1]
電極活物質とバインダー樹脂とを含む電極活物質層を集電体上に有する電極であって、
前記バインダー樹脂が、ポリイミド系樹脂を含み、かつ、
前記電極活物質層が、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩を含み、固体電解質を含まないことを特徴とする全固体二次電池用電極。
[2]
前記電極活物質層が、導電助剤をさらに含むことを特徴とする前記項[1]に記載の電極。
[3]
前記リチウム塩が、25℃におけるイオン伝導度が1×10-4S/cm以上であることを特徴とする前記項[1]又は[2]に記載の電極。
[4]
前記リチウム塩が、LiN(FSO2)2、パーフルオロアルカンスルホニルイミド塩、又はその両方であることを特徴とする前記項[1]~[3]のいずれか1項に記載の電極。
[5]
前記リチウム塩は、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、及びLiN(CF3SO2)(C4F9SO2)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記項[1]~[4]のいずれか1項に記載の電極。
[6]
正極と、固体電解質層と、負極とを有する全固体二次電池であって、
前記正極及び/又は前記負極が、前記項[1]~[5]のいずれか1項に記載の電極であることを特徴とする全固体二次電池。
[7]
電極活物質と、バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂、又はその前駆体と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩と、溶剤とを含み、固体電解質を含まない電極合剤ペーストを集電体上に塗布する工程と、
塗布した電極合剤ペーストを乾燥、又は熱処理して、電極活物質層を形成する工程とを有することを特徴とする全固体二次電池用電極の製造方法。
[8]
電極活物質と、バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩とを含み、固体電解質を含まない電極活物質層を集電体上に有する電極シートを準備する工程と、
前記電極シートと、固体電解質を含む固体電解質含有シートと、対極シートとを積層し、一体化する工程と
を有することを特徴とする全固体二次電池の製造方法。
[9]
前記電極シートを準備する工程が、
電極活物質と、バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂、又はその前駆体と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩と、溶剤とを含み、固体電解質を含まない電極合剤ペーストを集電体上に塗布する工程と、
塗布した電極合剤ペーストを乾燥、又は熱処理して、電極活物質層を形成する工程と
を有することを特徴とする前記項[8]に記載の全固体二次電池の製造方法。
[10]
前記電極シートと、前記固体電解質含有シートと、前記対極シートとを、乾式法により積層し、一体化することを特徴とする前記項[8]又は[9]に記載の全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の全固体二次電池用電極では必須成分であった固体電解質を電極活物質層が含まなくても、実用可能な全固体二次電池が得られる全固体二次電池用電極、及び、電極活物質層が固体電解質を含まない電極を用いた、実用可能な全固体二次電池、並びに全固体二次電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0013】
本実施形態の全固体二次電池用電極は、電極活物質と、バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩(好ましくは25℃における少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であり、かつ、25℃におけるイオン伝導度が1×10-4S/cm以上であるリチウム塩)とを含み、固体電解質を含まない電極活物質層を集電体上に有するものである。本実施形態の全固体二次電池用電極の電極活物質層は、イオン性液体も含まないことが好ましい。ここで、イオン性液体とは、1気圧25℃の環境下で液体状態の電解質を言う。
【0014】
本実施形態の全固体二次電池は、正極と、固体電解質層と、負極とを有し、正極及び/又は負極が、本実施形態の全固体二次電池用電極であるものである。すなわち、本実施形態の全固体二次電池は、正極と固体電解質層と負極とを有し、正極が、正極活物質と、正極バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩(好ましくは25℃における少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であり、かつ、25℃におけるイオン伝導度が1×10-4S/cm以上であるリチウム塩)とを含み、固体電解質を含まない正極活物質層を正極集電体上に有するものであるか、又は、負極が、負極活物質と、負極バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩(好ましくは25℃における少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であり、かつ、25℃におけるイオン伝導度が1×10-4S/cm以上であるリチウム塩)とを含み、固体電解質を含まない負極活物質層を負極集電体上に有するものである。
【0015】
本実施形態において、電極活物質層に含まれるリチウム塩は、好ましくは25℃で固体状のリチウム塩である。
【0016】
なお、電極が正極の場合、含まれる電極活物質とバインダー樹脂は、それぞれ、正極活物質と正極バインダー樹脂と言い、電極活物質層と集電体は、それぞれ、正極活物質層と正極集電体と言う。電極が負極の場合、含まれる電極活物質とバインダー樹脂は、それぞれ、負極活物質と負極バインダー樹脂と言い、電極活物質層と集電体は、それぞれ、負極活物質層と負極集電体と言う。また、正極と負極の一方を電極、他方を対極と言うこともある。例えば、正極が本実施形態の全固体二次電池用電極の場合は、正極を電極、負極を対極と言い、負極が本実施形態の全固体二次電池用電極の場合は、負極を電極、正極を対極と言うこともある。ただし、いずれの場合も、対極も、本実施形態の全固体二次電池用電極であってよい。
【0017】
以下、本実施形態の全固体二次電池用電極、及び全固体二次電池について構成要素ごとに説明する。
【0018】
<電極>
本実施形態の全固体二次電池用電極は、電極活物質(正極活物質又は負極活物質)と、バインダー樹脂としてポリイミド系樹脂と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩(好ましくは25℃における少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であり、かつ、25℃におけるイオン伝導度が1×10-4S/cm以上であるリチウム塩)とを含み、固体電解質を含まない電極活物質層(正極活物質層又は負極活物質層)を集電体(正極集電体又は負極集電体)上に有する。電極活物質層は、さらに、導電助剤や、他の添加剤を含むものであってもよい。
【0019】
ポリイミド系樹脂は、一般に、イオン伝導性がほとんどないことが知られている。しかしながら、イオン伝導性がほとんどないにもかかわらず、ポリイミド系樹脂を電極活物質層のバインダー樹脂として用いることにより、さらに、好ましくは25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩を電極活物質層に添加することにより、従来の全固体二次電池用電極では必須成分であった固体電解質を電極活物質層に添加しなくても、実用可能な全固体二次電池を得ることが可能になる。本実施形態において、電極活物質層に含まれない「固体電解質」とは、少なくとも1気圧25℃の環境下では固体状態であり、固体状態で、陽イオン(Liイオン)を放出するイオンの供給源となる材料であるか、又は、固体状態で、イオンの輸送機能を示し、電解質として機能する材料であって、一般的に知られ、用いられている無機固体電解質及び高分子固体電解質を指す。なお、本実施形態の全固体二次電池用電極の電極活物質層は、リチウム塩、好ましくは25℃で固体状のリチウム塩を含むものであり、また、リチウムを含有している電極活物質を含むものであってよい。
【0020】
<<バインダー樹脂>>
本実施形態においては、バインダー樹脂として、ポリイミド系樹脂を用いる。ここで、ポリイミド系樹脂とは、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸成分には、テトラカルボン酸に加えて、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸エステル等のテトラカルボン酸誘導体も含まれていてもよいが、好ましくはテトラカルボン酸二無水物である。)及びジアミン成分(ジアミン成分には、ジアミンに加えて、ジイソシアネート等も含まれていてもよいが、好ましくはジアミンである。)に由来する、イミド構造を有する繰り返し単位を少なくとも1種含むポリマー及びオリゴマーを意味し、例えばポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド等も含まれる。また、本実施形態において用いるポリイミド系樹脂は、イミド化率が100%未満である部分イミド化ポリアミック酸であってもよい。
【0021】
本実施形態においてバインダー樹脂として用いるポリイミド系樹脂は、例えば、下記化学式(1)で表される繰返し単位を含むポリイミド系樹脂であることが好ましく、下記化学式(1)で表される繰り返し単位からなるポリイミド系樹脂であることが好ましい。
【0022】
【0023】
(式中、Aは、テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基を表し、Bは、ジアミンからアミノ基を除いた2価の基を示す。)
【0024】
化学式(1)において、
Aは、テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基の1種以上であり、好ましくは下記化学式(A-1)~(A-7)のいずれかで表される4価の基の1種以上であり、特に好ましくは、その10~100モル%、好ましくは15~70モル%、より好ましくは20~60モル%、特に好ましくは20~50モル%が下記化学式(A-1)で表される4価の基であり、その90~0モル%、好ましくは85~30モル%、より好ましくは80~40モル%、特に好ましくは80~50モル%が下記化学式(A-2)及び/又は下記化学式(A-3)で表される4価の基であり、
Bは、ジアミンからアミノ基を除いた2価の基の1種以上であり、好ましくは1~4個の芳香族環を有する2価の基の1種以上であり、より好ましくは下記化学式(B-1)~(B-5)のいずれかで表される2価の基の1種以上であり、特に好ましくは下記化学式(B-1)~(B-3)のいずれかで表される2価の基の1種以上である。
【0025】
【0026】
【0027】
ただし、化学式(B-3)において、Xは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルホキシル基、スルホニル基、1,1’-エチリデン基、1,2-エチリデン基、2,2’-イソプロピリデン基、2,2’-ヘキサフルオロイソプロピリデン基、シクロヘキシリデン基、フェニレン基、1,3-フェニレンジメチレン基、1,4-フェニレンジメチレン基、1,3-フェニレンジエチリデン基、1,4-フェニレンジエチリデン基、1,3-フェニレンジプロピリデン基、1,4-フェニレンジプロピリデン基、1,3-フェニレンジオキシ基、1,4-フェニレンジオキシ基、ビフェニレンジオキシ基、メチレンジフェノキシ基、エチリデンジフェノキシ基、プロピリデンジフェノキシ基、ヘキサフルオロプロピリデンジフェノキシ基、オキシジフェノキシ基、チオジフェノキシ基、又はスルホンジフェノキシ基のいずれかである。
【0028】
前記化学式(1)で表される繰返し単位からなるポリイミド系樹脂を得るために好適に使用できるテトラカルボン酸成分としては、例えば、4,4’-オキシジフタル酸類[前記化学式(A-1)で表される4価の基を与えるテトラカルボン酸成分]、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類[前記化学式(A-2)で表される4価の基を与えるテトラカルボン酸成分]、ピロメリット酸類[前記化学式(A-3)で表される4価の基を与えるテトラカルボン酸成分]、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸類[前記化学式(A-4)で表される4価の基を与えるテトラカルボン酸成分]、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸類[前記化学式(A-5)で表される4価の基を与えるテトラカルボン酸成分]、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類[前記化学式(A-6)で表される4価の基を与えるテトラカルボン酸成分]、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸類[前記化学式(A-7)で表される4価の基を与えるテトラカルボン酸成分]、p-ターフェニルテトラカルボン酸類、m-ターフェニルテトラカルボン酸類等が挙げられる。
【0029】
前記化学式(1)で表される繰返し単位からなるポリイミド系樹脂を得るために好適に使用できるジアミン成分としては、例えば、p-フェニレンジアミン[前記化学式(B-2)で表される2価の基を与えるジアミン成分]、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,4-ビス(β-アミノ-tert-ブチル)トルエン、ビス-p-(1,1-ジメチル-5-アミノ-ペンチル)ベンゼン、1-イソプロピル-2,4-m-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,3-ジアミノ安息香酸、3,4-ジアミノ安息香酸、3,5-ジアミノ安息香酸等の1個の芳香族環を有する芳香族ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル[前記化学式(B-1)で表される2価の基を与えるジアミン成分]、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェニル)メタン、ビス(p-β-アミノ-tert-ブチルフェニル)エーテル等の2個の芳香族環を有する芳香族ジアミン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン[前記化学式(B-5)で表される2価の基を与えるジアミン成分]、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン[前記化学式(B-4)で表される2価の基を与えるジアミン成分]、ビス(p-β-メチル-6-アミノフェニル)ベンゼン等の3個の芳香族環を有する芳香族ジアミン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン[Xが2,2’-イソプロピリデン基である前記化学式(B-3)で表される2価の基を与えるジアミン成分]、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン[Xがスルホニル基である前記化学式(B-3)で表される2価の基を与えるジアミン成分]、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル[Xが直接結合である前記化学式(B-3)で表される2価の基を与えるジアミン成分]等の4個の芳香族環を有する芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0030】
本実施形態においてバインダー樹脂として用いるポリイミド系樹脂としては、例えば、テトラカルボン酸成分又はジアミン成分の少なくとも一方が、より好ましくはテトラカルボン酸成分又はジアミン成分のいずれか一方が、脂肪族化合物を50モル%以上、より好ましくは80モル%以上含むポリイミド系樹脂も好ましく、例えば、Aが、1個又は2個の芳香族環を有する4価の基の1種以上であり、Bが、炭素数1~20の2価のアルキレン基の1種以上である前記化学式(1)で表される繰返し単位からなるポリイミド系樹脂が特に好ましい。このポリイミド系樹脂において、Aは、前記化学式(A-1)~(A-3)、(A-6)のいずれかで表される4価の基の1種以上であることが好ましく、Bは、炭素数3~16のアルキレン基、より好ましくは炭素数3~14のアルキレン基の1種以上であることが好ましい。なお、Bは、直鎖アルキレン基であっても、分岐アルキレン基であってもよい。
【0031】
このポリイミド系樹脂を得るために好適に使用できるテトラカルボン酸成分としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸類、ピロメリット酸類、ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、4,4’-オキシジフタル酸類、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸類、p-ターフェニルテトラカルボン酸類、m-ターフェニルテトラカルボン酸類等の芳香族テトラカルボン酸類を挙げることができ、また、例えば、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸類等の脂肪族テトラカルボン酸類を挙げることができる。
【0032】
このポリイミド系樹脂を得るために好適に使用できるジアミン成分としては、例えば、1,2-プロパンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、2-メチル-1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,3-ジアミノペンタン、1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン(ヘキサメチレンジアミン)、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン等の脂肪族ジアミンを挙げることができ、また、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェニル)メタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0033】
バインダー樹脂として用いるポリイミド系樹脂としては、市販品を用いることもできる。例えば、上記した化学式(1)の構造を含むポリイミド系樹脂の市販品としては、宇部興産株式会社製のUPIA(登録商標)-LB-1001、UPIA(登録商標)-LB-2001、UPIA(登録商標)-AT、UPIA(登録商標)-ST等を好適に用いることができる。
【0034】
バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、本実施形態の全固体二次電池用電極においては、本実施形態の特性を損なわない範囲で、好ましくは50質量%未満、より好ましくは30質量%未満、さらに好ましくは10質量%未満の範囲で、電極のバインダー樹脂として一般的に用いられる他のバインダー樹脂1種以上を併用することもできるが、ポリイミド系樹脂以外のバインダー樹脂は含まないことが好ましい。
【0036】
<<電極活物質>>
本実施形態の全固体二次電池の正極に用いる電極活物質(正極活物質)は特に限定されず、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものであればよく、公知の正極活物質いずれも用いることができる。正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
正極活物質としては、例えば、リチウムを含有し、Co、Ni、Fe、Mn、Cu、及びVからなる群より選択される1種以上の遷移金属元素を含有する遷移金属酸化物が挙げられる。また、これらの遷移金属元素の一部が、リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P、B等で置換されているものも用いることができる。
【0038】
より具体的には、(1)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(2)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(3)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(4)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物、(5)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。正極活物質としては、中でも、(1)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましい。
【0039】
(1)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物としては、例えば、LiCoO2(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi2O2(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])、LiNi0.5Mn0.5O2(マンガンニッケル酸リチウム)等が挙げられる。
【0040】
(2)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物としては、例えば、LiMn2O4(LMO)、LiCoMnO4、Li2FeMn3O8、Li2CuMn3O8、Li2CrMn3O8、Li2NiMn3O8等が挙げられる。
【0041】
(3)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4及びLi3Fe2(PO4)3等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP2O7等のピロリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類、Li3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩等が挙げられる。
【0042】
(4)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、Li2FePO4F等のフッ化リン酸鉄塩、Li2MnPO4F等のフッ化リン酸マンガン塩、Li2CoPO4F等のフッ化リン酸コバルト類等が挙げられる。
【0043】
(5)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、Li2CoSiO4等が挙げられる。
【0044】
正極活物質の平均粒子径は特に限定されないが、通常、0.1~50μmが好ましい。
【0045】
本実施形態の全固体二次電池の負極に用いる電極活物質(負極活物質)は特に限定されず、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものであればよく、公知の負極活物質いずれも用いることができる。負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
負極活物質としては、例えば、炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体や、リチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、及び、SnやSi等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。負極活物質としては、中でも、炭素質材料、又はリチウム複合酸化物が好ましい。また、金属複合酸化物としては、特に限定されないが、チタン及び/又はリチウムを含有していることが好ましい。
【0047】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛、PAN(ポリアクリロニトリル)系樹脂やフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。さらに、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維、活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー、平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0048】
負極活物質として用いられる金属酸化物、及び金属複合酸化物としては、特に非晶質酸化物が好ましく、金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイトも好ましい。非晶質酸化物、及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及びカルコゲナイドが好ましく、周期律表第13(IIIB)族~第15(VB)族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb、及びBiからなる群より選ばれる1種単独あるいはそれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物、及びカルコゲナイドがより好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドとしては、例えば、Ga2O3、SiO、GeO、SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb2O4、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O5、Bi2O3、Bi2O4、SnSiO3、GeS、SnS、SnS2、PbS、PbS2、Sb2S3、Sb2S5、SnSiS3等が挙げられる。また、これらは、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、Li2SnO2等であってもよい。
【0049】
負極活物質としては、チタン原子を含有するものも好ましく、チタン原子を含有する負極活物質としては、例えば、Li4Ti5O12(チタン酸リチウム[LTO])等が挙げられる。
【0050】
負極活物質として、Si元素を含有するものを用いることも好ましい。一般的にSi元素を含有する負極活物質を用いた負極は、従来の炭素(黒鉛、アセチレンブラック等)を負極活物質として用いた負極に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵でき、電池容量を大きくすることができる。
【0051】
負極活物質の平均粒子径は特に限定されないが、通常、0.1~60μmが好ましい。
【0052】
<<リチウム塩>>
本実施形態の全固体二次電池用電極に用いるリチウム塩は、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩である。
【0053】
ここで、有機溶媒として、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、テトラメチル尿素等の窒素含有有機溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール系有機溶媒に代表される極性溶剤;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の炭化水素系有機溶媒;フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等の芳香族系有機溶媒;酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、安息香酸ブチル、安息香酸エチル、安息香酸メチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等のエステル系有機溶媒に代表される非極性溶剤が挙げられる。
【0054】
本実施形態の全固体二次電池用電極に用いられるリチウム塩の25℃における溶解度は、0.2g/100g溶媒以上であることが好ましく、1g/100g溶媒以上、2g/100g溶媒以上、5g/100g溶媒以上、10g/100g溶媒以上、30g/100g溶媒以上、50g/100g溶媒以上のように、通常、溶解度が高くなるほど好ましい。特に、水、窒素含有有機溶媒、アルコール系有機溶媒、エステル系有機溶媒の少なくとも1種、好ましくはこれら全てに対する溶解度が高いリチウム塩は、バインダー樹脂であるポリイミド系樹脂と組み合わせることによって、相乗的に全固体電池の特性を向上させることができる。
【0055】
なお、リチウム塩の25℃における水、あるいは有機溶媒に対する溶解度の上限値は特に限定されず、通常、溶解度が高い方が好ましい。上限値としては、例えば、220g/100g溶媒以下であることが好ましく、200g/100g溶媒以下であることがより好ましく、180g/100g溶媒以下であることがさらに好ましい。
【0056】
本実施形態の全固体二次電池用電極に用いるリチウム塩は、25℃におけるイオン伝導度が、好ましくは1×10-5S/cm以上、より好ましくは1×10-4S/cm以上、さらに好ましくは1×10-3S/cm以上である。リチウム塩のイオン伝導度の上限値は特に限定されないが、通常、例えば、1S/cm以下であることが好ましく、5×10-1S/cm以下であることがより好ましく、1×10-1S/cm以下であることがさらに好ましく、1.5×10-2S/cm以下であることがよりさらに好ましく、1×10-2S/cm以下であることが一層さらに好ましい。
【0057】
なお、リチウム塩のイオン伝導度は、交流インピーダンス測定によって測定することができる。例えば、「電気化学測定マニュアル、基礎編、2002、45、電気化学会編、丸善株式会社」に記載の方法に準拠して、リチウム塩のイオン伝導度の測定を行うことができる。すなわち、白金電極を向かい合わせに組み合わせたガラス製電気化学セルに、あらかじめ電気伝導度が既知の標準液でセル定数を算出した後、調製したリチウム塩溶液(溶媒:プロピレンカーボネート、溶液濃度:1mol/dm3)をこの電気化学セルに注入し密封する。得られた電気化学セルを、20℃恒温槽中に1時間静置した後、複素インピーダンス法により溶液抵抗を測定する。得られた溶液抵抗値より、各溶液のイオン伝導度が算出できる。こうして測定された溶液のイオン伝導度を、本実施形態では、リチウム塩のイオン伝導度として取り扱う。
【0058】
また、本実施形態の全固体二次電池用電極に用いるリチウム塩は、好ましくは25℃で固体状のリチウム塩である。
【0059】
リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本実施形態の全固体二次電池用電極に用いるリチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6等の無機フッ化物塩、LiClO4、LiBrO4、LiIO4等の過ハロゲン酸塩、LiAlCl4等の無機塩化物塩等の無機リチウム塩や;LiCF3SO3等のパーフルオロアルカンスルホン酸塩;LiN(FSO2)2や;LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)等のパーフルオロアルカンスルホニルイミド塩;LiC(CF3SO2)3等のパーフルオロアルカンスルホニルメチド塩;Li[PF5(CF2CF2CF3)]、Li[PF4(CF2CF2CF3)2]、Li[PF3(CF2CF2CF3)3]、Li[PF5(CF2CF2CF2CF3)]、Li[PF4(CF2CF2CF2CF3)2]、Li[PF3(CF2CF2CF2CF3)3]等のフルオロアルキルフッ化リン酸塩等の含フッ素有機リチウム塩や:リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート等のオキサラトボレート塩等が挙げられる。
【0061】
全固体二次電池用電極に用いるリチウム塩としては、上記の中でも、極性溶剤に対する安定性の点から、LiN(FSO2)2;LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)等のパーフルオロアルカンスルホニルイミド塩;又はその両方であることが好ましい。全固体二次電池用電極に用いるリチウム塩の具体例としては、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、及びLiN(CF3SO2)(C4F9SO2)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0062】
これらのリチウム塩は、いずれも、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が、1g/100g溶媒以上である。
【0063】
<<電極活物質層>>
本実施形態の全固体二次電池用電極の電極活物質層は、前述のようなポリイミド系樹脂を含むバインダー樹脂と、電極活物質と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩(好ましくは25℃における少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であり、かつ、25℃におけるイオン伝導度が1×10-4S/cm以上であるリチウム塩)とを含む。
【0064】
電極を正極とする場合、電極活物質層中の正極活物質の含有量は特に限定されないが、通常、10~95質量%が好ましく、55~80質量%がより好ましい。
【0065】
電極を負極とする場合、電極活物質層中の負極活物質の含有量は特に限定されないが、通常、10~80質量%が好ましく、20~70質量%がより好ましい。
【0066】
電極活物質層中のリチウム塩(25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩)の含有量は特に限定されないが、通常、0.1~30質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましい。
【0067】
電極活物質層は、必要に応じて、導電助剤をさらに含むこともできる。導電助剤は、電子の伝導性を助けるものであり、導電助剤としては特に限定されず、全固体二次電池で一般的に用いられているものいずれも用いることができる。
【0068】
導電助剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック類、ニードルコークス等の無定形炭素、気相成長炭素繊維やカーボンナノチューブ等の炭素繊維類、グラフェンやフラーレン等の炭素質材料や、銅、ニッケル等の金属粉、金属繊維、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体等の導電性高分子が挙げられる。導電助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
電極活物質層中の導電助剤の含有量は特に限定されないが、通常、5質量%以下が好ましい。
【0070】
電極活物質層には、さらに、必要に応じて、塗工性向上のための界面活性剤等の添加剤を加えることもできる。
【0071】
電極活物質層の厚さは特に限定されないが、正極の場合も、負極の場合も、通常、1~1000μmが好ましく、3~500μmがより好ましい。
【0072】
正極活物質層の単位面積(cm2)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではなく、所望の電池容量に応じて、適宜選択することができる。負極活物質層の単位面積(cm2)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)も特に限定されるものではなく、所望の電池容量に応じて、適宜選択することができる。
【0073】
<<集電体>>
本実施形態の全固体二次電池用電極に用いる集電体は、化学変化を起こさない電子伝導体が好ましい。
【0074】
正極の集電体を形成する材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン等が挙げられる。その他にも、アルミニウム、アルミニウム合金、又はステンレス鋼の表面に、カーボン、ニッケル、チタン、銀等を処理させたもの(薄膜を形成したもの)も用いることができる。正極の集電体としては、その中でも、アルミニウム、アルミニウム合金が好ましい。
【0075】
負極の集電体を形成する材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン等が挙げられる。その他にも、アルミニウム、銅、銅合金、又はステンレス鋼の表面に、カーボン、ニッケル、チタン、銀等を処理させたもの(薄膜を形成したもの)も用いることができる。負極の集電体としては、その中でも、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼が好ましい。ステンレス鋼としては、例えば、ニッケルメッキ鋼等も好適に使用することができる。
【0076】
集電体の形状としては、通常、箔状(フィルムシート状)のものが用いられるが、ネット、パンチされたもの、多孔質体、繊維群の成形体等も用いることができる。また、集電体は、表面処理により表面に凹凸を付けたものであってもよい。
【0077】
集電体の厚さは特に限定されないが、通常、1~500μmが好ましい。
【0078】
<<電極の製造方法>>
本実施形態の全固体二次電池用電極は、電極活物質と、バインダー樹脂としてのポリイミド系樹脂、又はその前駆体と、25℃における水あるいは少なくとも1種の有機溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であるリチウム塩と、溶剤とを含み、固体電解質を含まない電極合剤ペーストを調製し、これを集電体上に塗布した後、乾燥、又は熱処理して、電極活物質層を形成することによって製造することができる。電極合剤ペーストは、電極活物質と、バインダー樹脂又はその前駆体と、リチウム塩と、溶剤とを混合して、スラリー化することにより調製することができる。
【0079】
ポリイミド系樹脂をバインダー樹脂として用いた電極の製造方法の例を概略的に示すと、
(1)ポリイミド前駆体(特にポリアミック酸)溶液に電極活物質、リチウム塩、導電助剤等を加え、さらに、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、脱水剤等を選択して加えたポリイミド前駆体溶液組成物(電極合剤ペースト)を集電体上に塗布し、加熱により脱水環化、脱溶媒することにより、ポリイミド前駆体をポリイミドに転化して、集電体上に電極活物質層を形成し、電極を製造する方法(熱イミド化);
(2)ポリイミド前駆体(特にポリアミック酸)溶液に電極活物質、リチウム塩、導電助剤等を加え、さらに、環化触媒及び脱水剤を加えたポリイミド前駆体溶液組成物(電極合剤ペースト)を集電体上に塗布し、化学的に脱水環化させて、これを加熱により脱溶媒、イミド化することにより、ポリイミド前駆体をポリイミドに転化して、集電体上に電極活物質層を形成し、電極を製造する方法(化学イミド化);
(3)ポリイミドが有機溶媒に可溶の場合、ポリイミド溶液に電極活物質、リチウム塩、導電助剤等を加えたポリイミド溶液組成物(電極合剤ペースト)を集電体上にキャストし、加熱等により溶媒を除去して、集電体上に電極活物質層を形成し、電極を製造する方法
等が挙げられる。
【0080】
まず、ポリイミド前駆体溶液及びポリイミド溶液の製造について説明する。ポリイミド前駆体溶液又はポリイミド溶液は、略等モルのテトラカルボン酸成分とジアミン成分を、有機溶媒中で、又は、水中で重合することにより得られる。反応の方法は、好ましくはジアミン成分を溶剤(有機溶媒又は水)に溶解した溶液に、テトラカルボン酸成分を一度に、又は、多段階で添加し、加熱して重合を行う方法が好適である。
【0081】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とのモル比[ジアミン成分に対するテトラカルボン酸成分のモル比(テトラカルボン酸成分/ジアミン成分)]は略等モル、具体的には0.95~1.05、好ましくは0.97~1.03になるようにすることが好ましい。
【0082】
また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリイミド前駆体を合成しておき、各ポリイミド前駆体溶液を一緒にした後、反応条件下で混合してもよい。
【0083】
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン等のアミド溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。さらに、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、安息香酸ブチル、安息香酸エチル、安息香酸メチル等のエステル系溶媒、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、N-メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒、生分解性の乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、その他の一般的な有機溶剤も使用できる。使用する有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
溶媒として水を使用する場合は、1,2-ジメチルイミダゾール等のイミダゾール類、あるいはトリエチルアミン等の塩基を、生成するポリアミック酸(ポリイミド前駆体)のカルボキシル基に対して、好ましくは0.8倍当量以上の量で、添加することが好ましい。
【0085】
ポリイミド前駆体溶液及びポリイミド溶液をそれぞれ得るための重合反応を実施するに際して、有機溶媒中の全モノマー(ポリイミド前駆体溶液又はポリイミド溶液の固形分濃度と実質等しい)の濃度は、使用するモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよい。得られるポリイミド前駆体溶液又はポリイミド溶液の固形分濃度は、特に限定されるものではないが、ポリイミド前駆体又はポリイミドと溶媒との合計量に対して、好ましくは3~45質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは7~30質量%である。固形分濃度が3質量%より低いと生産性、及び使用時の取り扱いが悪くなることがあり、45質量%より高いと溶液の流動性がなくなり、集電体上への均一な塗布が困難となることがあるが、上記の固形分濃度とすることで、このような不具合の発生をより効果的に抑制することができる。
【0086】
また、ポリイミド前駆体溶液又はポリイミド溶液の30℃における溶液粘度は、特に限定されないが、好ましくは1000Pa・s以下、より好ましくは0.1~500Pa・s、さらに好ましくは0.1~300Pa・s、特に好ましくは0.1~200Pa・sであることが取り扱い上好適である。溶液粘度が1000Pa・sを超えると、溶液の流動性がなくなり、集電体上への均一な塗布が困難となることがあり、また、0.1Pa・sよりも低いと、集電体上への塗布時にたれやハジキ等が生じることがあり、また高い特性の電極活物質層、及び電極を得ることが難しくなることがあるが、上記の溶液粘度とすることで、このような不具合の発生をより効果的に抑制することができる。
【0087】
ポリイミド前駆体溶液の製造方法の一例として、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との重合反応を、例えば、それぞれを実質的に等モル、あるいは、どちらかの成分(酸成分又はジアミン成分)を少し過剰にして混合し、例えば、反応温度100℃以下、好ましくは80℃以下にて、約0.2~60時間反応させることにより、ポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
【0088】
ポリイミド溶液の製造方法の一例として、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との重合反応を、例えば、それぞれを実質的に等モル、あるいは、どちらかの成分(酸成分又はジアミン成分)を少し過剰にして混合し、公知の方法で反応させることにより、例えば、反応温度120℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上(好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下)にて、約0.5~60時間反応させることにより実施して、ポリイミド溶液を得ることができる。
【0089】
なお、重合反応は、空気雰囲気下で行ってもよいが、通常は不活性ガス雰囲気下(例えば、アルゴンガス雰囲気下、ヘリウムガス雰囲気下、窒素ガス雰囲気下)、好ましくは窒素ガス雰囲気下で行われる。
【0090】
このようにして得られたポリイミド前駆体溶液又はポリイミド溶液はそのまま、あるいは必要であれば溶媒を除去し、又は、新たに溶媒を加えて、電極活物質層の形成や、電極の製造に使用することができる。
【0091】
ポリイミド前駆体溶液には、熱イミド化[(1)の方法]であれば、必要に応じて、イミド化触媒、有機リン含有化合物等を加えてもよい。ポリイミド前駆体溶液には、化学イミド化[(2)の方法]であれば、必要に応じて、環化触媒及び脱水剤等を加えてもよい。
【0092】
イミド化触媒としては、例えば、置換又は非置換の含窒素複素環化合物;該含窒素複素環化合物のN-オキシド化合物;置換又は非置換のアミノ酸化合物;ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物又は芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2-ジメチルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N-ベンジル-2-メチルイミダゾール等の低級アルキルイミダゾール;5-メチルベンズイミダゾール等のベンズイミダゾール;イソキノリン、3,5-ジメチルピリジン、3,4-ジメチルピリジン、2,5-ジメチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、4-n-プロピルピリジン等の置換ピリジン等を好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01~2倍当量、特に0.02~1倍当量程度であることが好ましい。
【0093】
有機リン含有化合物としては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルや、これらリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。アミンとしてはアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0094】
環化触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチレンジアミン等の脂肪族第3級アミン、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン、及びイソキノリン、ピリジン、α-ピコリン、β-ピコリン等の複素環第3級アミン等が挙げられる。
【0095】
脱水剤としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族カルボン酸無水物、及び無水安息香酸等の芳香族カルボン酸無水物等が挙げられる。
【0096】
電極の製造では、このようにして得られたポリイミド前駆体溶液又はポリイミド溶液に、電極活物質及びリチウム塩を加え、さらに、必要に応じて、導電助剤や、他の添加剤を加えて混合することにより、電極合剤ペーストを調製し、調製した電極合剤ペーストを集電体上に流延あるいは塗布し、好ましくは加圧下で加熱処理を行うことによりイミド化及び脱溶媒(ポリイミド溶液のときは主として脱溶媒)することによって、集電体上に電極活物質層を形成し、電極を製造することができる。
【0097】
電極合剤ペーストの集電体上への流延方法は、特に限定されないが、例えばスピンコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、電着法等の従来公知の方法が挙げられる。
【0098】
ポリイミド前駆体溶液を用いた場合の加熱処理条件は、特に限定されないが、例えば50~150℃の温度範囲で乾燥した後、最高加熱温度として例えば150~600℃、好ましくは200~550℃、より好ましくは250~500℃で加熱処理することが好ましい。ポリイミド溶液を用いた場合の加熱処理条件は、特に限定されないが、最高加熱温度として例えば100~600℃、好ましくは150~500℃、より好ましくは200~450℃で加熱処理することが好ましい。
【0099】
なお、加熱処理は、空気雰囲気下で行ってもよいが、通常は不活性ガス雰囲気下(例えば、アルゴンガス雰囲気下、ヘリウムガス雰囲気下、窒素ガス雰囲気下)、好ましくは窒素ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0100】
<全固体二次電池>
本実施形態の全固体二次電池は、正極及び負極と、これらの間に配置された固体電解質層とを有し、正極及び/又は負極が前述のような本実施形態の全固体二次電池用電極である。より具体的には、本実施形態の全固体二次電池は、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、正極集電体をこの順に有し、負極活物質層及び/又は正極活物質層が、固体電解質を含まないものである。また、後述するように、正極が本実施形態の全固体二次電池用電極であれば、負極は本実施形態の全固体二次電池用電極でなくてもよく、例えば、負極は炭素質材料のシートや、金属箔等であってもよく、その場合、本実施形態の全固体二次電池は、負極、固体電解質層、固体電解質を含まない正極活物質層、正極集電体をこの順に有するものにすることができる。負極が本実施形態の全固体二次電池用電極であれば、正極は本実施形態の全固体二次電池用電極でなくてもよく、例えば、正極はリチウム箔等の金属箔等であってもよく、その場合、本実施形態の全固体二次電池は、負極集電体、固体電解質を含まない負極活物質層、固体電解質層、正極をこの順に有するものにすることができる。
【0101】
本実施形態の全固体二次電池は、負極(負極集電体及び負極活物質層)、固体電解質層、正極(正極活物質層及び正極集電体)以外に、機能性の層あるいは部材等を適宜設けてもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。例えば、乾電池の形態とするには、全固体二次電池の基本構造である負極(負極集電体及び負極活物質層)と固体電解質層と正極(正極活物質層及び正極集電体)が、適当な筐体に封入される。筐体は、アルミニウム合金、ステンレス鋼等の金属製であっても、樹脂(プラスチック)製であってもよい。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0102】
<<固体電解質層>>
本実施形態の全固体二次電池の固体電解質層は、固体電解質を含む層である。
【0103】
固体電解質層は、例えば、高分子固体電解質(固体高分子のみで構成された真性高分子固体電解質)からなる層であることが好ましい。高分子固体電解質としては、特に限定されず、公知の高分子固体電解質いずれも用いることができ、例えば、ポリエチレンオキサイド系ポリマー、ポリプロピレンオキサイド系ポリマー、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホンや、その他のイオン性基を有する芳香族炭化水素系高分子電解質等を用いることができる。
【0104】
また、例えば、特開2015-165461号公報に記載されているような、イオン性基を有する芳香族系高分子電解質がイオン性基以外の部位で少なくとも1種以上の架橋成分によって連結されてなる架橋芳香族系高分子電解質が、多孔性基材の空孔に充填された複合電解質膜も、固体電解質層として好適に用いることができる。
【0105】
また、本実施形態の全固体二次電池の固体電解質層は、無機固体電解質とバインダー樹脂(固体電解質層バインダー樹脂)とを含む無機固体電解質層であることも好ましい。以下、無機固体電解質層について説明する。
【0106】
<<無機固体電解質層>>
固体電解質層中の無機固体電解質の含有量は特に限定されないが、通常、80~99.9質量%が好ましく、90~99.7質量%がより好ましく、95~99.5質量%がさらに好ましい。
【0107】
固体電解質層中のバインダー樹脂の含有量は特に限定されないが、通常、0.1~20質量%であることが好ましく、0.3~10質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることがさらに好ましい。
【0108】
固体電解質層は、必要に応じて、1種又は2種以上のリチウム塩をさらに含むこともできる。リチウム塩としては特に限定されず、全固体二次電池で一般的に用いられている公知のリチウム塩のいずれも用いることができ、例えば、無機リチウム塩、含フッ素有機リチウム塩、オキサラトボレート塩等が挙げられる。このリチウム塩の具体例としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6等の無機フッ化物塩;LiClO4、LiBrO4、LiIO4等の過ハロゲン酸塩;及びLiAlCl4等の無機塩化物塩等の無機リチウム塩や;LiCF3SO3等のパーフルオロアルカンスルホン酸塩;LiN(FSO2)2;LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)等のパーフルオロアルカンスルホニルイミド塩;LiC(CF3SO2)3等のパーフルオロアルカンスルホニルメチド塩;及びLi[PF5(CF2CF2CF3)]、Li[PF4(CF2CF2CF3)2]、Li[PF3(CF2CF2CF3)3]、Li[PF5(CF2CF2CF2CF3)]、Li[PF4(CF2CF2CF2CF3)2]、Li[PF3(CF2CF2CF2CF3)3]等のフルオロアルキルフッ化リン酸塩等の含フッ素有機リチウム塩や;リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート等のオキサラトボレート塩等が挙げられる。
【0109】
固体電解質層中のリチウム塩の含有量は特に限定されないが、通常、無機固体電解質100質量部に対して0質量部を超えることが好ましく、通常、無機固体電解質100質量部に対して0.1~10質量部がより好ましく、0.5~5質量部がさらに好ましい。
【0110】
固体電解質層の厚さは特に限定されないが、通常、1~1000μmが好ましく、3~500μmがより好ましい。
【0111】
<<<無機固体電解質>>>
固体電解質層に用いる無機固体電解質は特に限定されず、周期律表第1族又は第2族に属する金属(好ましくはリチウム)を含み、この金属のイオン(好ましくはリチウムイオン)の伝導性を有するものであればよく、全固体二次電池で用いられている公知の無機固体電解質いずれも用いることができる。無機固体電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
無機固体電解質としては、例えば、(1)硫化物系無機固体電解質、(2)酸化物系無機固体電解質が挙げられる。
【0113】
(1)硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子(S)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属を含み、イオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記の式で表されるものが挙げられる。
LiaMbPcSd
(式中、Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al、及びGeからなる群より選択される元素であり、a~dは各元素の組成比を表し、a:b:c:d=1~12:0~1:1:2~9、好ましくはa:b:c:d=1~9:0:1:3~7、より好ましくはa:b:c:d=1.5~4:0:1:3.25~4.5である。)
【0114】
Li、P、及びSを含有するLi-P-S系の固体電解質におけるLi2SとP2S5との比率(モル比)は、Li2S:P2S5=60:40~90:10であることが好ましく、Li2S:P2S5=68:32~78:22であることがより好ましい。
【0115】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶であっても、結晶化していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。
【0116】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、Li2Sと、第13族~第15族の元素の硫化物とを原料組成物としてなるものも挙げられる。原料の組み合わせとして、より具体的には、Li2S-P2S5、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-ZnS、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li10GeP2S12等が挙げられる。各原料の混合比は、適宜選択することができる。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質を合成する方法としては、例えば、メカニカルミリング法や溶融急冷法等の非晶質化法を挙げることができる。
【0117】
硫化物系無機固体電解質は、例えば、Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235、及び、Chem.Lett.,(2001),pp872-873等を参考にして合成することができる。
【0118】
(2)酸化物系無機固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属を含み、イオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
【0119】
酸化物系無機固体電解質としては、例えば、LixLayTiO3(式中、x=0.3~0.7、y=0.3~0.7である。)(LLT)、Li7La3Zr2O12(LLZ、ランタンジルコン酸リチウム)、LISICON型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4、NASICON型結晶構造を有するLiTi2P3O12、Li1+m+n(Al,Ga)m(Ti,Ge)2-mSinP3-nO12(式中、0≦m≦1、0≦n≦1である。)、ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12等が挙げられる。
【0120】
酸化物系無機固体電解質としては、例えば、Li、P、及びOを含むリン化合物も挙げられる。より具体的には、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウムの酸素原子の一部を窒素原子で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、及びAu等からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す。)等が挙げられる。また、酸化物系無機固体電解質としては、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、及びGa等からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す。)等も挙げられる。
【0121】
無機固体電解質の平均粒子径は特に限定されないが、通常、0.01~100μmが好ましく、0.1~50μmがより好ましい。
【0122】
<<<固体電解質層バインダー樹脂>>>
本実施形態において用いる固体電解質層のバインダー樹脂は特に限定されず、全固体二次電池で一般的に用いられているバインダー樹脂いずれも用いることができる。固体電解質層のバインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0123】
固体電解質層のバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニレンジフルオリド(PVdF)、ポリビニレンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)等のフッ素系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ブチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の炭化水素系樹脂;(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとスチレンとの共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとアクリロニトリルとの共重合体、(メタ)アクリル酸ブチルとアクリロニトリルとスチレンとの共重合体等のアクリル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリウレア系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリエーテル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;セルロース誘導体樹脂等が挙げられる。
【0124】
<<本実施形態の全固体二次電池用電極以外の電極>>
本実施形態の全固体二次電池は、正極が、電極活物質層が固体電解質を含まない本実施形態の全固体二次電池用電極であれば、負極は、固体電解質を含む電極活物質層を集電体上に有するものであってもよいし、あるいは、炭素質材料や、金属(合金も含む)又は金属酸化物等のシートであってもよい。また、負極が、電極活物質層が固体電解質を含まない本実施形態の全固体二次電池用電極であれば、正極は、固体電解質を含む電極活物質層を集電体上に有するものであってもよいし、あるいは、金属(合金も含む)又は金属酸化物等のシートであってもよい。
【0125】
固体電解質を含む電極活物質層を集電体上に有する電極は、電極活物質とバインダー樹脂と固体電解質(好ましくは無機固体電解質)とを含む電極活物質層を集電体上に有する電極であり、電極活物質層が固体電解質を含み、バインダー樹脂がポリイミド系樹脂でなくてもよい以外は、前述のような本実施形態の全固体二次電池用電極と同様のものである。
【0126】
電極活物質層(正極活物質層及び負極活物質層)中の無機固体電解質の含有量は特に限定されないが、通常、10~40質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。電極活物質層に含有させる固体電解質としては、特に限定されないが、例えば、前述の固体電解質層に用いる無機固体電解質と同様のものが挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0127】
固体電解質を含む電極活物質層に用いるバインダー樹脂としては、特に限定されず、従来公知の正極バインダー樹脂及び負極バインダー樹脂いずれも用いることができる。バインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ブチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の炭化水素系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アミド系樹脂、アクリルアミド系樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。さらに、アニオン系ポリマーである、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスルホン酸、及びこれらの塩等が挙げられ、また、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、及びこれらの塩等も挙げられる。また、固体電解質を含む電極活物質層に用いるバインダー樹脂として、前述のようなポリイミド系樹脂を用いることもできる。固体電解質を含む電極活物質層においても、バインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0128】
電極は、電極活物質層を集電体上に有するものに限らず、例えば、電極活物質材料からなるシート、あるいは、電極活物質層が形成されていない集電体のみを電極として用いることもできる。具体的には、負極としては、炭素質材料のシートや、金属(合金も含む)又は金属酸化物等のシートを用いることができ、中でも、炭素質材料のシートを好適に用いることができる。また、正極としては、金属(合金も含む)又は金属酸化物等のシートを用いることができ、中でも、リチウム箔や、リチウム含有遷移金属酸化物等のリチウム含有化合物のシート、特に好ましくはリチウム箔を好適に用いることができる。
【0129】
<<全固体二次電池の製造方法>>
本実施形態の全固体二次電池は、前述のようにして本実施形態の全固体二次電池用電極である正極のシート及び負極のシートをそれぞれ作製し、これらとは別に、前述のような固体電解質を含む固体電解質含有シートを作製し、正極シートと固体電解質含有シートと負極シートとを、例えば乾式法により積層して一体化することによって、製造することができる。本実施形態の全固体二次電池用電極以外の電極、すなわち、固体電解質を含む電極活物質層を集電体上に有する電極、あるいは、炭素質材料や、金属(合金も含む)又は金属酸化物等のシートを用いる場合も、同様に、正極のシート及び負極のシートをそれぞれ作製し(炭素質材料や、金属(合金も含む)又は金属酸化物等のシートを用いる場合は、シートを準備し)、これらとは別に、固体電解質含有シートを作製した後、正極シートと固体電解質含有シートと負極シートとを積層し、一体化することによって、本実施形態の全固体二次電池を製造することができる。
【0130】
<<<固体電解質含有シートの作製>>>
固体電解質含有シートは、前述のような固体電解質と固体電解質層用のバインダー樹脂と溶剤とを混合して、スラリー化することにより固体電解質含有ペーストを調製し、これを基材上に塗布した後、乾燥して、固体電解質層を基材上に形成し、形成した固体電解質層を基材から剥離することによって製造することができる。
【0131】
固体電解質含有ペーストを調製するための混合条件は特に限定されず、適宜選択することができる。リチウム塩、その他の添加剤を固体電解質層に含有させる場合には、固体電解質及びバインダー樹脂と同時に溶剤に添加して混合してもよく、別途添加して混合してもよい。
【0132】
固体電解質含有ペーストの溶剤としては特に限定されず、一般的に用いられているものいずれも用いることができる。溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等のアルコール系溶媒:アルキレングリコールアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等のアミド系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン等の脂環式炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、吉草酸ブチル、γ-ブチロラクトン、ヘプタン等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒が挙げられる。溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0133】
固体電解質含有ペースト中の溶剤の含有量は特に限定されないが、通常、20~99質量%が好ましく、25~90質量%がより好ましく、30~80質量%がさらに好ましい。
【0134】
なお、固体電解質含有ペーストにおいて、バインダー樹脂は、溶剤に対して溶解していても、不溶であってもよい。
【0135】
固体電解質含有ペーストを塗布する基材としては、基材上に固体電解質層を形成できるものであれば特に限定されず、例えば、有機材料又は無機材料のシート等を用いることができる。基材の有機材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース等の各種ポリマー等が挙げられる。無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等が挙げられる。
【0136】
固体電解質含有ペーストを基材上に塗布する方法は特に限定されず、適宜選択することができる。塗布方法としては、例えば、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布等が挙げられる。
【0137】
基材上に塗布した固体電解質含有ペーストの乾燥処理条件は特に限定されず、適宜選択することができる。乾燥温度は特に限定されないが、通常、30~300℃が好ましく、60~250℃がより好ましく、80~200℃がさらに好ましい。乾燥は、真空中で行っても、大気中、乾燥空気中、あるいは、不活性ガス中(例えば、アルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)で行ってもよい。
【0138】
このようにして形成した固体電解質層を基材から剥離することによって、固体電解質含有シートを得ることができる。
【0139】
<<<本実施形態の全固体二次電池用電極以外の電極シートの作製>>>
固体電解質を含む電極活物質層を集電体上に有する電極は、前述のような電極活物質と固体電解質、好ましくは無機固体電解質と電極活物質層用のバインダー樹脂と溶剤とを混合して、スラリー化することにより、電極活物質及び固体電解質含有ペースト(電極合剤ペースト)を調製し、これを集電体上に塗布した後、乾燥して、電極活物質層を集電体上に形成することによって製造することができる。この電極活物質層の形成は、電極活物質を添加する以外は、前述の固体電解質含有シートの固体電解質層の形成と同様にして行うことができる。
【0140】
また、固体電解質を含む電極活物質層用のバインダー樹脂としてポリイミド系樹脂を用いることもできるが、その場合は、電極合剤ペーストに固体電解質を添加し、リチウム塩を添加しない以外は、前述の本実施形態の全固体二次電池用電極の製造方法と同様にして、電極を製造することができる。
【0141】
<<<正極シート、固体電解質含有シート及び負極シートの積層>>>
前述のようにして作製した正極シート及び負極シート(本実施形態の電極シート)と固体電解質含有シートとを用い、正極シート、固体電解質含有シート、負極シートの順に積層して、一体化することによって全固体二次電池を製造することができる。正極シートと固体電解質含有シートとを積層した後、得られた積層体と負極シートとを積層してもよく、順序を逆にして、負極シートと固体電解質含有シートとを積層した後、得られた積層体と正極シートとを積層してもよい。
【0142】
正極シート、固体電解質含有シート、負極シートの積層体を加圧して、一体化してもよく、積層体を加圧する方法は特に限定されず、適宜選択することができるが、例えば、油圧シリンダープレス機等を用いる方法が挙げられる。積層体に加える圧力は特に限定されないが、通常、50~1500MPaの範囲であることが好ましい。加圧中の雰囲気は特に限定されず、例えば、大気中、乾燥空気中、あるいは、不活性ガス中(例えば、アルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)等で加圧を行うことができる。加圧時間も特に限定されず、適宜選択することができる。例えば、短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。
【0143】
また、正極シート、固体電解質含有シート、負極シートの積層体を加圧するのと同時に加熱してもよい。加熱温度としては、特に限定されないが、通常、30~300℃の範囲である。
【0144】
なお、加える圧力は、シート面に対して均一であっても、異なっていてもよい。また、加圧中に、加える圧力の大きさを変化させてもよい。
【0145】
このようにして得られた全固体二次電池は、必要に応じて、これを筐体に封入して使用することができる。
【0146】
本実施形態の全固体二次電池は安全性に優れ、高容量であるため、種々の用途に好適に用いることができる。例えば、本実施形態の全固体二次電池は、自動車(電気自動車等)用として好適に用いることができる。また、携帯電話、スマートフォン、タブレット、小型無人航空機(ドローン等)等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0147】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0148】
〔実施例1〕
負極活物質として一酸化ケイ素と、電極用バインダー樹脂組成物としてUPIA(登録商標)-LB-1001[宇部興産社製、ポリイミド前駆体ワニス]と、導電助剤としてアセチレンブラックと、LiTFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム;LiN(CF3SO2)2)とを77.5:4.8:14.5:3.2(質量比;UPIA-LB-1001は固形分(ポリイミド前駆体)の量)になるように配合し、スラリー濃度が約50質量%になるようにNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を加え、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを集電体であるニッケルメッキ鋼箔(厚み10μm)上に塗布し、真空乾燥機に入れて、350℃で1時間加熱処理して、厚み3μmの固体電解質を含まない電極活物質層が形成された電極(負極)を作製した。
作製した負極を3cm×5cmの大きさに切り出し、固体電解質層としてポリエチレンオキサイド系ポリマー電解質膜(厚み80μm)、対電極(正極)としてリチウム箔(厚み500μm)を用い、作製した負極と固体電解質層と対電極とをこの順で積層し、負極集電体と正極とを接続して、全固体電池を作製した。
作製した電池について、60℃の環境下において、電池電圧1mV~1Vの範囲内で、0.56mAの定電流で充放電を30サイクル行った。1サイクル目の放電容量を初期放電容量とし、30サイクル目の放電容量を初期放電容量で割った値を算出し、この値を30サイクル後の容量維持率(%)とした。
作製した電池の初期放電容量は1408mAh/g、負極材料に対する容量密度は1.0mAh/cm2、30サイクル後の容量維持率は100%であった。
【0149】
〔参考例1〕
負極合剤ペーストにLiTFSIを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、全固体電池を作製した。
作製した電池について、実施例1と同様に、60℃の環境下において、電池電圧1mV~1Vの範囲内で、0.56mAの定電流で充放電を30サイクル行った。1サイクル目の放電容量を初期放電容量とし、30サイクル目の放電容量を初期放電容量で割った値を算出し、この値を30サイクル後の容量維持率(%)とした。
作製した電池の初期放電容量は1245mAh/g、負極材料に対する容量密度は1.0mAh/cm2、30サイクル後の容量維持率は97%であった。
【0150】
〔実施例2〕
負極活物質としてケイ素と、電極用バインダー樹脂組成物としてUPIA-LB-1001[宇部興産社製、ポリイミド前駆体ワニス]と、導電助剤としてアセチレンブラックとLiTFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム;LiN(CF3SO2)2)とを77.5:1.9:17.4:3.2(質量比;UPIA-LB-1001は固形分(ポリイミド前駆体)の量)になるように配合し、スラリー濃度が約60質量%になるようにNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を加え、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを集電体であるニッケルメッキ鋼箔(厚み10μm)上に塗布し、真空乾燥機に入れて、350℃で1時間加熱処理して、厚み3μmの固体電解質を含まない電極活物質層が形成された電極(負極)を作製した。
作製した負極を3cm×5cmの大きさに切り出し、固体電解質層としてポリエチレンオキサイド系ポリマー電解質膜(厚み80μm)、対電極(正極)としてリチウム箔(厚み500μm)を用い、作製した負極と固体電解質層と対電極とをこの順で積層し、負極集電体と正極とを接続して、全固体電池を作製した。
作製した電池について、60℃の環境下において、電池電圧1mV~1Vの範囲内で、0.59mAの定電流で充放電を30サイクル行った。1サイクル目の放電容量を初期放電容量とし、30サイクル目の放電容量を初期放電容量で割った値を算出し、この値を30サイクル後の容量維持率(%)とした。
作製した電池の初期放電容量は2615mAh/g、負極材料に対する容量密度は1.0mAh/cm2、30サイクル後の容量維持率は100%であった。
【0151】
〔参考例2〕
負極合剤ペーストにLiTFSIを添加しなかった以外は実施例2と同様にして、全固体電池を作製した。
作製した電池について、実施例2と同様に、60℃の環境下において、電池電圧1mV~1Vの範囲内で、0.56mAの定電流で充放電を30サイクル行った。1サイクル目の放電容量を初期放電容量とし、30サイクル目の放電容量を初期放電容量で割った値を算出し、この値を30サイクル後の容量維持率(%)とした。
作製した電池の初期放電容量は2142mAh/g、負極材料に対する容量密度は1.0mAh/cm2、30サイクル後の容量維持率は94%であった。
【0152】
〔実施例3〕
負極活物質として一酸化ケイ素と、電極用バインダー樹脂組成物としてUPIA-LB-1001[宇部興産社製、ポリイミド前駆体ワニス]と、導電助剤としてアセチレンブラックと、LiFSI(ビス(フルオロメタンスルホニル)イミドリチウム;LiN(FSO2)2)とを77.5:4.8:14.5:3.2(質量比;UPIA-LB-1001は固形分(ポリイミド前駆体)の量)になるように配合した以外は実施例1と同様にして、全固体電池を作製した。
作製した電池について、60℃の環境下において、電池電圧1mV~1Vの範囲内で、0.56mAの定電流で充放電を22サイクル行った。1サイクル目の放電容量を初期放電容量とし、22サイクル目の放電容量を初期放電容量で割った値を算出し、この値を22サイクル後の容量維持率(%)とした。
作製した電池の初期放電容量は1384mAh/g、負極材料に対する容量密度は1.0mAh/cm2、22サイクル後の容量維持率は100%であった。
【0153】
〔実施例4〕
負極活物質としてケイ素と、電極用バインダー樹脂組成物としてUPIA-LB-1001[宇部興産社製、ポリイミド前駆体ワニス]と、導電助剤としてアセチレンブラックと、LiFSI(ビス(フルオロメタンスルホニル)イミドリチウム;LiN(FSO2)2)とを77.5:4.8:14.5:3.2(質量比;UPIA-LB-1001は固形分(ポリイミド前駆体)の量)になるように配合した以外は実施例2と同様にして、全固体電池を作製した。
作製した電池について、60℃の環境下において、電池電圧1mV~1Vの範囲内で、0.56mAの定電流で充放電を22サイクル行った。1サイクル目の放電容量を初期放電容量とし、22サイクル目の放電容量を初期放電容量で割った値を算出し、この値を22サイクル後の容量維持率(%)とした。
作製した電池の初期放電容量は2731mAh/g、負極材料に対する容量密度は1.0mAh/cm2、22サイクル後の容量維持率は100%であった。
【0154】
なお、LiTFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム;LiN(CF3SO2)2)の25℃における水、NMP、エタノール、安息香酸メチル、安息香酸エチルに対する溶解度はいずれも50g/100g溶媒以上であり、25℃におけるイオン伝導度は5.1×10-3S/cmであった。溶解度の測定は、以下に記載の方法で行った。また、イオン伝導度の測定は、上述した方法に準拠して行った。
【0155】
(溶解度の測定)
LiTFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム;LiN(CF3SO2)2)5gに、水又は各種有機溶媒(例えば、上述したNMP、エタノール、安息香酸メチル、安息香酸エチル)のいずれか1種10gを添加し、25℃で24時間撹拌して得られた溶液を濾過したところ、濾紙上に残留物が確認されなかった。この結果から、LiTFSIの25℃における水、又は各種有機溶媒に対する溶解度は、50g/100g溶媒以上であるとした。
【0156】
本出願は、2020年6月25日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2020-110037)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明によれば、少なくとも、従来の全固体二次電池用電極では必須成分であった固体電解質を電極活物質層が含まなくても、実用可能な全固体二次電池を得ることができる。