(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】電解液および電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0568 20100101AFI20240806BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240806BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20240806BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240806BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20240806BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20240806BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/054
H01M4/46
H01M4/38 Z
H01G11/62
H01G11/60
H01G11/30
(21)【出願番号】P 2022550437
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2021031560
(87)【国際公開番号】W WO2022059461
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020157896
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅洋
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中山 有理
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03557676(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第109449543(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109244544(CN,A)
【文献】国際公開第2020/027340(WO,A1)
【文献】LI Yaqi, et al.,Electrochemically-driven interphase conditioning of magnesium electrode for magnesium sulfur batteri,JOURNAL OF ENERGY CHEMISTRY,2019年,Vol.37,pp.215-219
【文献】GAO, Tao et al.,Enhancing the Reversibility of Mg/S Battery Chemistry through Li+ Mediation,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2015年,Vol.137,pp.12388-12393
【文献】KANG Sung-Jin, et al.,Electrolyte Additive Enabling Conditioning-Free Electrolytes for Magnesium Batteries,APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2019年,Vol.11,pp.517-524
【文献】FORD Hunter O., et al.,Cross-Linked Ionomer Gel Separators for Polysulfide Shuttle Mitigation in Magnesium-Sulfur Batteries,Macromolecules,2018年,Vol.51,pp.8629-8636
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
H01G 11/00-11/86
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極としてマグネシウム電極と正極とを備えた電気化学デバイスのための電解液であって、
溶媒と、一般式(1):
[化1]
(R
3Si)
2N (1)
[前記一般式(1)中、Rは、炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基であり、6つのRは互いに同一であっても異なっていてもよい]で表されるジシラジド構造を有して成る第1マグネシウム塩と
、一般式(2):
[化2]
MgN(C
m
F
2m+1
SO
2
)
2
(2)
[前記一般式(2)中、mは1以上10以下の整数である]
で表される第2マグネシウム塩とを含んで成り、
ハロゲンを実質的に含ま
ず(ただし、前記一般式(2)で表される前記第2マグネシウム塩を構成するハロゲン元素を除く)、
前記第1マグネシウム塩に対する前記第2マグネシウム塩のモル比は、0.5以上2以下である、電解液。
【請求項2】
前記第1マグネシウム塩に対する前記第2マグネシウム塩のモル比は、0.5以上1.25以下である、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記一般式(1)中、Rが、炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基である、請求項1に記載の電解液。
【請求項4】
前記一般式(1)中、Rが、メチル基である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項5】
前記一般式(2)中、mは1以上4以下の整数である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項6】
前記一般式(2)中、mは1である、請求項
1~5のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項7】
前記溶媒が、一般式(3):
[化3]
[前記一般式(3)中、R’およびR”は、各々独立に炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは1以上10以下の整数である]
で表される直鎖エーテルである、請求項1~6のいずれかに記載の電解液。
【請求項8】
前記一般式(3)中、R’およびR”が各々独立に炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基であり、nは1以上4以下の整数である、請求項7に記載の電解液。
【請求項9】
前記一般式(3)中、R’およびR”がメチル基であり、nが2である、請求項7または8に記載の電解液。
【請求項10】
前記正極が、硫黄を含んで成る硫黄電極である、請求項1~9のいずれかに記載の電解液。
【請求項11】
負極および正極を備えた電気化学デバイスであって、
前記負極がマグネシウム電極であり、
前記電気化学デバイスの電解液が請求項1~10のいずれかに記載の電解液である、電気化学デバイス。
【請求項12】
前記正極が、硫黄を含んで成る硫黄電極である、請求項11に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液および電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスとしては、キャパシタ、空気電池、燃料電池および二次電池などがあり、種々の用途に用いられている。電気化学デバイスは、正極および負極を備え、かかる正極と負極との間のイオン輸送を担う電解液を有している。
【0003】
例えばマグネシウム電池に代表される電気化学デバイスの電極としては、マグネシウムから成る電極あるいはマグネシウムを少なくとも含んだ電極が設けられている(以下では、そのような電極を単に「マグネシウム電極」とも称し、マグネシウム電極が用いられている電気化学デバイスを「マグネシウム電極系の電気化学デバイス」とも称する)。マグネシウムは、リチウムに比べて資源的に豊富で遙かに安価である。また、マグネシウムは、酸化還元反応によって取り出すことができる単位体積当たりの電気量が一般に大きく、電気化学デバイスに用いた場合の安全性も高い。それゆえ、マグネシウム電池は、リチウムイオン電池に代わる次世代の二次電池として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許公開公報US2013/252112A1
【非特許文献】
【0005】
【文献】ACS. Appl. Mater. Interfaces, 2014, 6, 4063
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、マグネシウム電池では克服すべき課題が依然あることに気づき、そのための対策を取る必要を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者は見出した。
【0007】
負極にマグネシウムが用いられたマグネシウム電池において、エネルギー密度の向上は重要な課題の一つである。これは、Mg溶解析出時の過電圧が大きく、エネルギー密度向上が妨げられているためであると考えられる。この点、Mg電解液や正極材料などの種類によって対応することが考えられるが、エネルギー密度向上のための改善は依然望まれる現状である。
【0008】
また、電解液のハロゲンフリーも重要な課題の一つである。マグネシウム電池では、溶解析出時の過電圧が大きくなる傾向、または析出溶解しにくい傾向がある。これは、マグネシウム電池の電極表面に比較的強固な酸化被膜が形成されていることによると考えられる。例えば、特許文献1では、電解液が電解質として塩化マグネシウムMgCl2を含んでいる。ハロゲン(より具体的には、塩化物イオンCl-およびMgCl2)を含む電解液を用いることで、ハロゲンの腐食性により酸化被膜を効率的に除去し、過電圧を低減している。
一方で、ハロゲンを含む電解液はまた、ハロゲンによる腐食性ゆえに、マグネシウム電池における金属で構成される部位(例えば、電極等)を腐食させてしまう。このような理由から、析出溶解のスムーズな進行、過電圧の低減および腐食の抑制を十分に両立することができない。この点、Mg電解液の種類によって対応することが考えられるものの、ハロゲンフリーのための改善は依然望まれる現状である。例えば、非特許文献1では、ホウ素を骨格としたクラスター型の電解質が開発されているが、合成が煩雑な上、コストが比較的高いことが問題となっている。そこで、より簡単な組成でのハロゲンフリー電解液の開発が望まれている。
【0009】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。すなわち、本発明の主たる目的は、Mg析出溶解時の過電圧が低減され、従来に比べエネルギー密度がより高い電気デバイスの実現に資するハロゲンフリー電解液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された電解液の発明に至った。
【0011】
本発明では、
負極としてマグネシウム電極と正極とを備えた電気化学デバイスのための電解液であって、
溶媒と、一般式(1):
[化1]
(R3Si)2N (1)
[一般式(1)中、Rは、炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基であり、6つのRは互いに同一であっても異なっていてもよい]で表されるジシラジド構造を有して成る第1マグネシウム塩とを含んで成り、
ハロゲンを実質的に含まない、電解液
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電解液では、Mg析出溶解時の過電圧が低減され、従来に比べエネルギー密度がより高い電気デバイスがもたらされる。つまり、本発明の電解液が用いられるマグネシウム電極系の電気化学デバイスでは、電解液がジシラジド構造を有して成る第1マグネシウム塩を含み、かつハロゲンを実質的に含まない、かかる組み合わせに起因して過電圧が低減されかつエネルギー密度がより高くなる。
【0013】
尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるもので無く、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施態様のマグネシウム電極系の電気化学デバイス(特に電池)の概念図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池(円筒型のマグネシウム二次電池)の模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池(平板型のラミネートフィルム型マグネシウム二次電池)の模式的な斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施態様においてキャパシタとして供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施態様において空気電池として供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施態様において燃料電池として供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池を電池パックに適用した場合の回路構成例を示すブロック図である。
【
図8】
図8A、
図8Bおよび
図8Cは、本発明の一実施態様としてマグネシウム二次電池が適用された電動車両、電力貯蔵システムおよび電動工具の構成をそれぞれ表したブロック図である。
【
図9】
図9は、本明細書の[実施例]で作製した電池を模式的に表した展開図である。
【
図10】
図10は、本明細書の[実施例]における“サイクリックボルタンメトリー評価”の結果を示している(実施例1、比較例1)。
【
図11】本明細書の[実施例]で得られた放電曲線の結果を示している(実施例2、比較例3)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」とも称する)に係る「電気化学デバイスのための電解液」および「電気化学デバイス」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観および寸法比などは実物と異なり得る。なお、本明細書で言及する各種の数値範囲は、「未満」、「より大きい」および「より小さい」のような特段の用語が付されない限り、下限および上限の数値(すなわち、上限値および下限値)そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、特段の用語が付されない限り下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈される。
【0016】
本明細書において「電気化学デバイス」とは、広義には、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出すことができるデバイスを意味している。狭義には、「電気化学デバイス」は、一対の電極および電解質を備え、特にはイオンの移動に伴って充電および放電が為されるデバイスを意味している。あくまでも例示にすぎないが、電気化学デバイスとしては、例えば、二次電池の他、キャパシタ、空気電池および燃料電池などを挙げることができる。
【0017】
[電気化学デバイスのための電解液]
本実施形態に係る電解液は、電気化学デバイスに用いられる。つまり、本明細書で説明する電解液は、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出すことができるデバイスのための電解質に相当する。
【0018】
本実施形態に係る電解液は、その大前提として、負極としてマグネシウム電極と正極とを備える電気化学デバイスに用いられる電解液となっている。特に、負極としてマグネシウム電極を備える電気化学デバイスのための電解液である。したがって、本実施形態に係る電解液は、マグネシウム電極系の電気化学デバイス用の電解液であるともいえる(以下では、単に「マグネシウム電極系の電解液」とも称す)。
【0019】
後述でも触れるが、かかる電気化学デバイスは、その負極がマグネシウム電極である一方、正極は硫黄電極であることが好ましい。つまり、ある好適な一態様では、本実施形態に係る電解液は、マグネシウム(Mg)-硫黄(S)電極用の電解液となっている。
【0020】
ここで、本明細書で用いる「マグネシウム電極」とは、広義には、活性成分(すなわち、活物質)としてマグネシウム(Mg)を有する電極のことを指している。狭義には「マグネシウム電極」は、マグネシウムを含んで成る電極のことを指しており、例えば、マグネシウム金属あるいはマグネシウム合金を含んで成る電極、特にはそのようなマグネシウムの負極を指している。なお、かかるマグネシウム電極は、マグネシウム金属またはマグネシウム合金以外の成分を含んでいてもよいものの、ある好適な一態様ではマグネシウムの金属体から成る電極(例えば、純度90%以上、好ましくは純度95%以上、更に好ましくは純度98%以上のマグネシウム金属の単体物から成る電極)となっている。
【0021】
また、本明細書で用いる「硫黄電極」とは、広義には、活性成分(すなわち、活物質)として硫黄(S)を有する電極のことを指している。狭義には「硫黄電極」は、硫黄を少なくとも含んで成る電極のことを指しており、例えば、S8および/またはポリマー状の硫黄などの硫黄(S)を含んで成る電極、特にはそのような硫黄の正極を指している。なお、硫黄電極は、硫黄以外の成分を含んでいてよく、例えば導電助剤および結着剤などを含んでいてもよい。あくまでも例示にすぎないが、硫黄電極における硫黄の含有量は電極全体基準で5質量%以上95質量%以下であってよく、例えば70質量%以上90質量%以下程度であってよい(また、ある1つの例示態様では、硫黄電極における硫黄の含有量が5質量%~20質量%または5質量%~15質量%などとなっていてもよい)。
【0022】
本実施形態に係るマグネシウム系の電解液は、ハロゲンを実質的に含まない。本明細書で用いる「電解液は、ハロゲンを実質的に含まない」は、広義には、ハロゲンが電解液に意図的に含まれておらず、本発明の効果を阻害しない程度に微量に含まれていることを指している。本明細書において「意図的に含まれておらず」とは、例えば、不可避的にまたは偶発的に混入された結果またはハロゲン元素で構成される化合物が分解した結果、微量のハロゲンが電解液に含まれていることを指す。「電解液は、ハロゲンを実質的に含まない」は、狭義には、電解液中に含まれるハロゲンの含有量が100ppm(質量ppm)以下であり、好ましくは40ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下であることを指している。上記「ハロゲンの含有量」における「ハロゲン」の形態は、例えば、陰イオン(ハロゲン化物イオン)、および陽イオンと構成する塩(より具体的には、ハロゲン化マグネシウム)である。ハロゲンの形態が電解液中で複数存在する場合は、上記のハロゲンの含有量は、それら複数の形態の合計の含有量となる。なお、本明細書において「ハロゲンを実質的に含まないこと」を「ハロゲンフリー」とも称する。
【0023】
本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液は、少なくとも溶媒および第1マグネシウム塩を含んで成る。
【0024】
第1マグネシウム塩は、一般式(1):
[化2]
(R3Si)2N (1)
[一般式(1)中、Rは、炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基であり、6つのRは互いに同一であっても異なってもよい]で表されるジシラジド構造を有して成る。
【0025】
電解液が一般式(1)で表される第1マグネシウム塩を含んで成ることにより、そのような電解液を備える電気化学デバイスは、過電圧が低減され、エネルギー密度が向上する。
【0026】
ある好適な態様では、第1マグネシウム塩のジシラジド構造における炭化水素基は、低級アルキル基であり、それゆえ例えば炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基(より具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-ブチル基および/またはtert-ブチル基等)となっている。つまり、上記一般式(1)で表されるジシラジド構造を有する第1マグネシウム塩において、Rは脂肪族炭化水素基であり、特に炭素原子数1以上4以下のアルキル基となっていてもよい。このように一般式(1)中のRが炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基であることにより、電気化学デバイスにおいて過電圧がより低減されエネルギー密度がより向上する。(R3Si)2Nで表されるジシラジド構造を有する第1マグネシウム塩におけるRは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-ブチル基および/またはtert-ブチル基などであってよい。
【0027】
第1マグネシウム塩について、1つの好適な形態としては、メチル基を有するものである。つまり、一般式(1)中、Rは、好ましくはメチル基である。例えば、本実施形態に係る電解液に用いられる第1マグネシウム塩は、マグネシウムビス(ヘキサメチルジシラジド)、すなわち、Mg(HMDS)2である。かかる第1マグネシウム塩が用いられることによって、電気化学デバイスにおいて過電圧が低減され、エネルギー密度の向上が奏され易くなる。特に、そのようなマグネシウムビス(ヘキサメチルジシラジド)が、後述の第2マグネシウム塩と組み合わされることによって、電気化学デバイス(特にマグネシウム電池、より好ましくはマグネシウム-硫黄電池)において、過電圧が低減され、エネルギー密度の向上がより奏され易くなる。
【0028】
電解液における第1マグネシウム塩の濃度は、例えば、0.03~1M(moL/L)であってもよい。
【0029】
電解液は、好ましくは第2マグネシウム塩をさらに含んで成る。第2マグネシウム塩は、一般式(2):
[化3]
MgN(CmF2m+1SO2)2 (2)
[一般式(2)中、mは1以上10以下の整数である)
で表される。
【0030】
第2マグネシウム塩は、一般式(2)で表されるように、パーフルオロアルキルスルホニルイミドのマグネシウム塩(マグネシウムビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミド)である。電解液が、第1マグネシウム塩に加えて、第2マグネシウム塩を含むことによって、電気化学デバイス(特にマグネシウム電池、より好ましくはマグネシウム-硫黄電池)において過電圧がさらに低減され、エネルギー密度がさらに向上する。
【0031】
一般式(2)中、mは1以上10以下の整数であり、好ましくは1以上4以下の整数であり、より好ましくは1である。一般式(2)中、mが1以上4以下の整数であること(特に、1であること)によって、電気化学デバイス(特にマグネシウム電池、より好ましくはマグネシウム-硫黄電池)において、過電圧がさらに低減されエネルギー密度がさらに向上する。つまり、一般式(2)中、CmF2m+1は、炭素原子数1以上10以下のパーフルオロアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1以上4以下のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくはトリフルオロメチル基である。炭素原子数1以上10以下のパーフルオロアルキル基は、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、へプタフルオロプロピル基、およびノナフルオロブチル基である。一般式(2)中、2つのCmF2m+1は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0032】
第2マグネシウム塩について、1つの好適な形態としては、トリフルオロメチル基(一般式(2)のmが1であるパーフルオロアルキル基)を有するものである。つまり、本実施形態に係る電解液に用いられる第1マグネシウム塩は、マグネシウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、すなわち、Mg(TFSI)2である。かかるMg(TFSI)2は、第1マグネシウム塩(特に、マグネシウムビス(ヘキサメチルジシラジド))と相俟って、マグネシウム電極系の電気化学デバイスにおいて、過電圧がさらに低減されエネルギー密度をさらに向上する。
【0033】
電解液が第2マグネシウム塩をさらに含んで成る場合、ある好適な態様では、第1マグネシウム塩に対する第2マグネシウム塩のモル比は同程度(より具体的には、0.5~2)であってもよい(ある1つの具体的例でいえば、それらは互いに当モル量(すなわち、モル比1)であってよい)。ここでいう「第1マグネシウム塩に対する第2マグネシウム塩」のモル比とは、第1マグネシウム塩の物質量を“N第1Mg塩”とし、第2マグネシウム塩の物質量を“N第2Mg塩”とすると「N第2Mg塩/N第1Mg塩」に相当する値のことを指している。このようなモル比で第2マグネシウム塩が電解液(特に、後述する直鎖エーテル溶媒を溶媒として含む電解液)に含まれることによって、マグネシウム電極系の電気化学デバイスにおいて、過電圧の更なる低減およびエネルギー密度の更なる向上に寄与する。特に限定されるわけではないが、Mg(HMDS)2およびMg(TFSI)2との組合せを例に挙げていうと、Mg(HMDS)2:Mg(TFSI)2のモル比は、1:0.5~2.0程度、例えば1:0.5~1.25程度であってよい。
【0034】
本実施形態に係る電解液は、第1マグネシウム塩および第2マグネシウム塩の他に、電解質として他のマグネシウム塩をさらに含んで成ってもよい。このような他のマグネシウム塩は、上述したハロゲン化物イオンのようなハロゲンの形態で構成されておらず、例えば硝酸マグネシム(Mg(NO3)2)、硫酸マグネシム(MgSO4)、酢酸マグネシウム(Mg(CH3COO)2)、およびテトラフェニルホウ酸マグネシウム(Mg(B(C6H5)4)2)から成る群より選択される少なくとも1種類のマグネシウム塩であってもよい。
【0035】
溶媒は、エーテル系溶媒のなかでも特に直鎖エーテルであることが好ましい。つまり、テトラヒドロフランなどの環状エーテルではなく、分子が直鎖状構造を有するエーテルがマグネシウム電極系の電解液溶媒を成していることが好ましい。端的にいえば、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液における溶媒は、好ましくは直鎖エーテル溶媒である。
【0036】
本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液では、溶媒としての直鎖エーテルが、一般式(3):
[化4]
[一般式(3)中、R’およびR”は、各々独立に炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは1以上10以下の整数である]
で表される直鎖エーテルとなっていることが好ましい。
【0037】
一般式(3)から分かるように、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液に用いられる溶媒は、エチレンオキシ構造単位を1以上有する直鎖エーテルであることが好ましい。ここでいう「エチレンオキシ構造単位」とは、エチレン基と酸素原子とが結合した分子構造単位(-O-C2H4-)のことを指しており、そのような分子構造単位が電解液溶媒に1つ以上含まれている。
【0038】
直鎖エーテルの一般式(3)におけるR’およびR”は、各々独立に炭化水素基を表している。よって、R’およびR”は、各々独立に脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基および/または芳香脂肪族炭化水素基となっていてもよい。ここで、本明細書において「直鎖エーテル」とは、少なくともエチレンオキシ構造単位の部位が分岐していないこと(すなわち、枝別れ構造を有していないこと)を意味している。それゆえ、一般式(3)におけるR’およびR”については、必ずしも直鎖構造である必要はなく、枝別れ構造を有するものであってもよい。ある1つの好適な態様でいえば、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液に用いられる直鎖エーテルは、エチレンオキシ構造単位の部位が枝別れ構造を有していないだけでなく、R’およびR”もまた枝別れ構造を有していないグリコール系エーテルである。
【0039】
あくまでも1つの例示にすぎないが、かかる直鎖エーテルの具体例としては、エチレングリコールジメチルエーテル(ジメトキシエタン)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル、およびポリエチレングリコールジメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0040】
本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液に含まれ得る直鎖エーテルのある好適な1つの態様では、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基が脂肪族炭化水素基となっている。つまり、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液に含まれ得る直鎖エーテルにつき、一般式(3)中のR’およびR”は、各々独立に炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基となっていてもよい。特に限定するわけではないが、ジエチレングリコール系エーテル(一般式(3)中、nが2である直鎖エーテル)についていえば、R’およびR”の各々として例えば炭素原子数1以上8以下の脂肪族炭化水素基を有する直鎖エーテルを以下の如く例示することができる。
【0041】
一般式(3)中、R’およびR”が炭素原子数1以上8以下の脂肪族炭化水素基である直鎖エーテルは、特に限定されるわけではないが、例えば、
ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールメチルへプチルエーテル、およびジエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールエチルへプチルエーテル、およびジエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールプロピルへプチルエーテル、およびジエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルへプチルエーテル、およびジエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジペンチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、ジエチレングリコールへプチルペンチルエーテル、およびジエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールへプチルヘキシルエーテル、およびジエチレングルコールヘキシルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジへプチルエーテル、およびジエチレングリコールへプチルオクチルエーテル;ならびに
ジエチレングリコールジオクチルエーテル
を挙げることができる。
【0042】
これら直鎖エーテルの中でも、一般式(3)中、R’およびR”が各々独立に炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基であり、nは1以上4以下の整数である直鎖エーテルがより好ましく、R’およびR”がメチル基であり、nが2である直鎖エーテル(すなわち、ジエチレングリコールジメチルエーテル)が特に好ましい。本実施形態に係る電解液は、このような好適な直鎖エーテルを溶媒として含んで成ることにより、電気化学デバイスにおいて過電圧がさらに低減されエネルギー密度がさらに向上する。
【0043】
本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液では、好ましくは上述のような直鎖エーテルが、一般式(1)で表される第1マグネシウム塩と共存している。
【0044】
本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液の好適な態様において、第1マグネシウム塩および第2マグネシウム塩の溶媒となる直鎖エーテルは、2つのエチレンオキシ構造単位を有するエーテルであってよい。つまり、一般式(3)におけるnは2であってよく、それゆえ、ジエチレングリコール系のエーテルであってよい。また、直鎖エーテルにおいて、一般式(3)のR’およびR”は、互いに同じアルキル基であってよい。直鎖エーテルとしては、例えばジエチレングリコールジメチルエーテルおよび/またはジエチレングリコールジエチルエーテルなどを挙げることができる。このような直鎖エーテルの場合では、第2マグネシウム塩がパーフルオロアルキルスルホニルイミドのマグネシウム塩(例えばMg(TFSI)2)となっていてもよい。
【0045】
本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液は、マグネシウム電極を負極として備える電気化学デバイスにとって好適なものであるが、デバイスが硫黄電極を正極として備える場合が更に好適となる。つまり、本実施形態に係る電解液は、マグネシウム電極を負極として備えた電気化学デバイスのための電解液であるところ、当該電気化学デバイスの正極が、硫黄電極となっていることが好ましい。このようなマグネシウム電極-硫黄電極の対を備える電気化学デバイス(以下では「マグネシウム-硫黄電極系の電気化学デバイス」とも称する)の場合、本実施形態に係る電解液は、マグネシウム-硫黄電極系の電気化学デバイスのエネルギー密度を向上させる効果を少なくとも奏する。そして、第1マグネシウム塩(特に、ビス(ヘキサメチルジシラジド))に対して第2マグネシウム塩(特に、マグネシウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)が組み合わされることによって、更にエネルギー密度の向上をも見込むことができる。電気化学デバイスが二次電池である場合を想定すると、これは、エネルギー密度向上がより好適に達成されたマグネシウム-硫黄電池が実現され得ることを意味している。
【0046】
[電気化学デバイス]
次に本実施形態に係る電気化学デバイスを説明する。かかる電気化学デバイスは、負極および正極を備えており、当該負極としては、マグネシウム電極が設けられている。かかる電気化学デバイスは、その電解液が上述の電解液から少なくとも成ることを特徴としている。
【0047】
本実施形態に係る電気化学デバイスでは、マグネシウム電極系の電解液は、少なくとも溶媒および第1マグネシウム塩を含んで成る。
【0048】
第1マグネシウム塩は、一般式(1):
[化5]
(R3Si)2N (1)
[一般式(1)中、Rは、炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基であり、6つのRは互いに同一であっても異なっていてもよい]で表されるジシラジド構造を有して成る。
【0049】
電解液が一般式(1)で表される第1マグネシウム塩を含んで成ることにより、そのような電解液を備える電気化学デバイスは、過電圧が低減され、エネルギー密度が向上する。
【0050】
ある好適な態様では、第1マグネシウム塩のジシラジド構造における炭化水素基は、低級アルキル基であり、それゆえ例えば炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基(より具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-ブチル基および/またはtert-ブチル基等)となっている。つまり、一般式(1)で表されるジシラジド構造を有する第1マグネシウム塩において、Rは脂肪族炭化水素基であり、特に炭素原子数1以上4以下のアルキル基となっていてもよい。このように一般式(1)中のRが炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基であることにより、電気化学デバイスにおいて過電圧がより低減されエネルギー密度がより向上する。(R3Si)2Nで表されるジシラジド構造を有する第1マグネシウム塩におけるRは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-ブチル基および/またはtert-ブチル基などであってよい。
【0051】
第1マグネシウム塩について、1つの好適な形態としては、メチル基を有するものである。つまり、一般式(1)中、Rは好ましくはメチル基である。例えば、本実施形態に係る電気化学デバイスにおいて、電解液に用いられる第1マグネシウム塩は、マグネシウムビス(ヘキサメチルジシラジド)、すなわち、Mg(HMDS)2である。かかる第1マグネシウム塩が用いられることによって、電気化学デバイスにおいて過電圧が低減されエネルギー密度の向上が奏され易くなる。特に、そのようなマグネシウムビス(ヘキサメチルジシラジド)が、後述の第2マグネシウム塩と組み合わされることによって、電気化学デバイス(特にマグネシウム電池、より好ましくはマグネシウム-硫黄電池)において過電圧が低減されエネルギー密度の向上がより奏され易くなる。
【0052】
電解液における第1マグネシウム塩の濃度は、例えば、0.03~1M(moL/L)であってもよい。
【0053】
電解液は、好ましくは第2マグネシウム塩をさらに含んで成る。第2マグネシウム塩は、一般式(2):
[化6]
MgN(CmF2m+1SO2)2 (2)
[一般式(2)中、mは1以上10以下の整数である)
で表される。
【0054】
第2マグネシウム塩は、一般式(2)で表されるように、パーフルオロアルキルスルホニルイミドのマグネシウム塩(マグネシウムビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミド)である。電解液が、第1マグネシウム塩に加えて、第2マグネシウム塩を含むことによって、本実施形態に係る電気化学デバイス(特にマグネシウム電池、より好ましくはマグネシウム-硫黄電池)において過電圧がさらに低減されエネルギー密度がさらに向上する。一般式(2)中、2つのCmF2m+1は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0055】
一般式(2)中、mは1以上10以下の整数であり、好ましくは1以上4以下の整数であり、より好ましくは1である。一般式(2)中、mが1以上4以下の整数であること(特に、1であること)によって、本実施形態に係る電気化学デバイス(特にマグネシウム電池、より好ましくはマグネシウム-硫黄電池)において過電圧がさらに低減されエネルギー密度がさらに向上する。つまり、一般式(2)中、CmF2m+1は、炭素原子数1以上10以下のパーフルオロアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1以上4以下のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくはトリフルオロメチル基である。炭素原子数1以上10以下のパーフルオロアルキル基は、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、へプタフルオロプロピル基、およびノナフルオロブチル基である。
【0056】
第2マグネシウム塩について、1つの好適な形態としては、トリフルオロメチル基(一般式(2)のmが1であるパーフルオロアルキル基)を有するものである。つまり、本実施形態に係る電気化学デバイスでは、電解液に用いられる第1マグネシウム塩は、好ましくはマグネシウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、すなわち、Mg(TFSI)2である。かかるMg(TFSI)2は、第1マグネシウム塩(特に、マグネシウムビス(ヘキサメチルジシラジド))と相俟って、本実施形態に係る電気化学デバイスにおいて過電圧をさらに低減しエネルギー密度をさらに向上する。
【0057】
電解液が第2マグネシウム塩をさらに含んで成る場合、ある好適な態様では、第1マグネシウム塩に対する第2マグネシウム塩のモル比は同程度(より具体的には、0.5~2)であってもよい(ある1つの具体的例でいえば、それらは互いに当モル量であってよい)。ここでいう「第1マグネシウム塩に対する第2マグネシウム塩」のモル比とは、第1マグネシウム塩の物質量を“N第1Mg塩”とし、第2マグネシウム塩の物質量を“N第2Mg塩”とすると「N第2Mg塩/N第1Mg塩」に相当する値のことを指している。このようなモル比で第2マグネシウム塩が電解液(特に、後述する直鎖エーテル溶媒を溶媒として含む電解液)に含まれることによって、本実施形態に係る電気化学デバイスにおいて、過電圧の更なる低減およびエネルギー密度の更なる向上に寄与する。特に限定されるわけではないが、Mg(HMDS)2およびMg(TFSI)2との組合せを例に挙げていうと、Mg(HMDS)2:Mg(TFSI)2のモル比は、1:0.5~2.0程度、例えば1:0.5~1.25程度であってよい。
【0058】
本実施形態に係る電気化学デバイスでは、電解液は、第1マグネシウム塩および第2マグネシウム塩の他に、電解質として他のマグネシウム塩をさらに含んで成ってもよい。このような他のマグネシウム塩は、上述したハロゲン化物イオンのようなハロゲンの形態で構成されておらず、例えば硝酸マグネシム(Mg(NO3)2)、硫酸マグネシム(MgSO4)、酢酸マグネシウム(Mg(CH3COO)2)、およびテトラフェニルホウ酸マグネシウム(Mg(B(C6H5)4)2)から成る群より選択される少なくとも1種類のマグネシウム塩であってもよい。
【0059】
溶媒は、エーテル系溶媒のなかでも特に直鎖エーテルであることが好ましい。つまり、テトラヒドロフランなどの環状エーテルではなく、分子が直鎖状構造を有するエーテルがマグネシウム電極系の電解液溶媒を成していることが好ましい。端的にいえば、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液における溶媒は、好ましくは直鎖エーテル溶媒である。
【0060】
本実施形態に係る電気化学デバイスにおいて、直鎖エーテル溶媒が、一般式(3):
[化7]
[一般式(3)中、R’およびR”は、各々独立に炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは1以上10以下の整数である]
で表されるエーテルとなっていることが好ましい。
【0061】
このようなマグネシウム電極系の電気化学デバイスは、その電解液溶媒の直鎖エーテルが、エチレンオキシ構造単位を有している。上述したように、かかるエチレンオキシ構造単位を有する直鎖エーテルでは、一般式(3)におけるR’およびR”が、各々独立して炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基となっていてもよい。また、そのようなエチレンオキシ構造単位を有する直鎖エーテルでは、一般式(3)におけるnが2以上4以下の整数となっていてよく、それゆえ、直鎖エーテル溶媒がエチレンオキシ構造単位を2以上4以下有するエーテルとなっていてもよい。また、“エチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテルの溶媒では、一般式(3)において、R’およびR”が各々独立して炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基となっていてもよい。また、“エチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテル溶媒では、一般式(3)において、R’およびR”とが互いに同じアルキル基となっていてもよい。
【0062】
あくまでも1つの例示にすぎないが、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスでは、“エチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテル溶媒が、エチレングリコールジメチルエーテル(ジメトキシエタン)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテルおよびポリエチレングリコールジメチルエーテルから成る群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0063】
マグネシウム電極系の電気化学デバイスは、好ましくはその電解液溶媒の直鎖エーテルが第1マグネシウム塩と共存しているところ、かかる第1マグネシウム塩は、上記一般式(1)で表されるジシラジド構造を有して成る。電解液において溶媒としての直鎖エーテルと第1マグネシウム塩とが共存することによって、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスでは、過電圧がより低減されエネルギー密度がより向上することになる。
【0064】
マグネシウム電極系の電気化学デバイスの電解液溶媒として用いられる直鎖エーテルと共存させる第1マグネシウム塩は、上記一般式(1)で表されるジシラジド構造を有して成る金属塩である。上述したように、第1マグネシウム塩のジシラジド構造におけるRが、炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基となっていてよく、それは飽和炭化水素から成るものであってよいし、あるいは、不飽和炭化水素から成るものであってもよい。例えば、脂肪族炭化水素基が、アルキル基となっていてよく、好ましくは炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基であってよい。1つの好適な形態としては、ジシラジド構造にメチル基を有する第1マグネシウム塩である。かかる第1マグネシウム塩は、例えばマグネシウムビス(ヘキサメチルジシラジド)、すなわち、Mg(HMDS)2であってよい。このような第1マグネシウム塩が用いられることによって、電気化学デバイス(特にマグネシウム電極系のデバイス)において過電圧が低減されエネルギー密度の向上が奏され易くなる。さらには、そのようなマグネシウムビス(ヘキサメチルジシラジド)が、第2マグネシウム塩と組み合わされることによって、電気化学デバイスにおいて過電圧がより低減されエネルギー密度の向上がより奏され易くなる。
【0065】
マグネシウム電極系の電気化学デバイスの電解液溶媒として用いられる直鎖エーテルと共存させる第2マグネシウム塩は、上記一般式(2)で表されることが好ましい。
【0066】
本実施形態に係る電気化学デバイスでは、正極が、硫黄を少なくとも含んで成る硫黄電極であることが好ましい。つまり、本実施形態に係る電気化学デバイスの硫黄電極は、S8および/またはポリマー状の硫黄といった硫黄(S)の正極電極として構成することが好ましい。負極はマグネシウム電極ゆえ、本実施形態に係る電気化学デバイスは、マグネシウム電極-硫黄電極の対を備えた電気化学デバイスとなり、それに好適な電解液を有するので、エネルギー密度の向上を図ることができる。
【0067】
硫黄電極は、少なくとも硫黄を含んで成る電極であるところ、その他に導電助剤および/または結着剤などが含まれていてもよい。かかる場合、硫黄電極における硫黄の含有量は、当該電極の全体基準で5質量%以上95質量%以下、好ましくは70質量%以上90質量%以下となっていてもよい。
【0068】
例えば、正極として用いられる硫黄電極に含まれる導電助剤としては、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料を挙げることができ、これらの1種類又は2種類以上を混合して用いることができる。炭素繊維としては、例えば、気相成長炭素繊維(Vapor Growth Carbon Fiber:VGCF(登録商標))等を用いることができる。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラックおよび/またはケッチェンブラック等を用いることができる。カーボンナノチューブとして、例えば、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)および/またはダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)等のマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)等を用いることができる。導電性が良好な材料であれば、炭素材料以外の材料を用いることもでき、例えば、Ni粉末のような金属材料、および/または導電性高分子材料等を用いることもできる。また、正極として用いられる硫黄電極に含まれる結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)および/もしくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ならびに/またはスチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)系樹脂等の高分子樹脂を挙げることができる。また、結着剤としては導電性高分子を用いてもよい。導電性高分子として、例えば、置換又は無置換のポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、および、これらから選ばれた1種類又は2種類から成る(共)重合体等を用いることができる。
【0069】
一方、本実施形態に係る電気化学デバイスにおいて、負極を構成する材料(具体的には、負極活物質)は、“マグネシウム電極”ゆえ、マグネシウム金属単体、マグネシウム合金あるいはマグネシウム化合物から成っている。負極がマグネシウムの金属単体物(例えばマグネシウム板など)から成る場合、その金属単体物のMg純度は例えば90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上となっている。負極は、例えば、板状材料あるいは箔状材料から作製することができるが、これに限定するものではなく、粉末を用いて形成(賦形)することも可能である。
【0070】
負極は、その表面近傍に負極活物質層が形成された構造とすることもできる。例えば、負極活物質層として、マグネシウム(Mg)を含み、更に、炭素(C)、酸素(O)、硫黄(S)およびハロゲンのいずれかを少なくとも含む、マグネシウムイオン伝導性を有する層を有するような負極であってもよい。このような負極活物質層は、あくまでも例示の範疇にすぎないが、40eV以上60eV以下の範囲にマグネシウム由来の単一のピークを有するものであってよい。ハロゲンとして、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)から成る群より選ばれた少なくとも1種類を挙げることができる。かかる場合、負極活物質層その表面の垂直な方向に(深さ方向に)の表面から2×10-7mまでの深さに亙り、40eV以上60eV以下の範囲にマグネシウム由来の単一のピークを有していてもよい。負極活物質層が、その表面から内部に亙り、良好な電気化学的活性を示すからである。また、同様の理由から、マグネシウムの酸化状態が、負極活物質層の表面から深さ方向に2×10-7nmに亙りほぼ一定であってもよい。ここで、負極活物質層の表面とは、本明細書において負極活物質層の両面の内、電極の表面を構成する側の面を意味し、裏面とは、この表面とは反対側の面、即ち、集電体と負極活物質層の界面を構成する側の面を意味する。負極活物質層が上記の元素を含んでいるか否かはXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)法に基づき確認することができる。また、負極活物質層が上記ピークを有すること、および、マグネシウムの酸化状態を有することも、XPS法に基づき、同様に確認することができる。
【0071】
本実施形態に係る電気化学デバイスにおいて、正極と負極とは、両極の接触による短絡を防止しつつ、マグネシウムイオンを通過させる無機セパレータあるいは有機セパレータによって分離されていることが好ましい。無機セパレータとしては、例えば、ガラスフィルター、およびグラスファイバーを挙げることができる。有機セパレータとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンおよび/またはポリエチレン等から成る合成樹脂製の多孔質膜を挙げることができ、これらの2種類以上の多孔質膜を積層した構造とすることもできる。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は短絡防止効果に優れ、且つ、シャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。
【0072】
電気化学デバイスにおける電解質層は、上述の本実施形態に係る電解液、および、電解液を保持する保持体から成る高分子化合物から構成することができる。高分子化合物は、電解液によって膨潤されるものであってもよい。この場合、電解液により膨潤された高分子化合物はゲル状であってもよい。かかる高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、ポリスチレンおよび/またはポリカーボネートを挙げることができる。特に、電気化学的な安定性をより重視するならば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドであってよい。電解質層は固体電解質層としてもよい。
【0073】
上述したマグネシウム電極系の電気化学デバイスは、二次電池として構成することができ、その場合の概念図を
図1に示す。図示するように、充電時、マグネシウムイオン(Mg
2+)が正極10から電解質層12を通って負極11に移動することにより電気エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄電する。放電時には、負極11から電解質層12を通って正極10にマグネシウムイオンが戻ることにより電気エネルギーを発生させる。
【0074】
電気化学デバイスを、上述の本実施形態に係る電解液から構成された電池(一次電池あるいは二次電池)とするとき、かかる電池は、例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA(携帯情報端末)、携帯電話、スマートフォン、コードレス電話の親機・子機、ビデオムービー、デジタルスチルカメラ、電子書籍、電子辞書、携帯音楽プレイヤー、ラジオ、ヘッドホン、ゲーム機、ナビゲーションシステム、メモリカード、心臓ペースメーカー、補聴器、電動工具、電気シェーバ、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、ステレオ、温水器、電子レンジ、食器洗浄器、洗濯機、乾燥機、照明機器、玩具、医療機器、ロボット、ロードコンディショナー、信号機、鉄道車両、ゴルフカート、電動カート、および/または電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)等の駆動用電源又は補助用電源として使用することができる。また、住宅をはじめとする建築物又は発電設備用の電力貯蔵用電源等として搭載し、あるいは、これらに電力を供給するために使用することができる。電気自動車において、電力を供給することにより電力を駆動力に変換する変換装置は、一般的にはモータである。車両制御に関する情報処理を行う制御装置(制御部)としては、電池の残量に関する情報に基づき、電池残量表示を行う制御装置等が含まれる。また、電池を、所謂スマートグリッドにおける蓄電装置において用いることもできる。このような蓄電装置は、電力を供給するだけでなく、他の電力源から電力の供給を受けることにより蓄電することができる。この他の電力源としては、例えば、火力発電、原子力発電、水力発電、太陽電池、風力発電、地熱発電、および/または燃料電池(バイオ燃料電池を含む)等を用いることができる。
【0075】
二次電池、二次電池に関する制御を行う制御手段(または制御部)、および、二次電池を内包する外装を有する電池パックにおいて本実施形態に係る電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することができる。かかる電池パックにおいて、制御手段は、例えば、二次電池に関する充放電、過放電又は過充電の制御を行う。
【0076】
二次電池から電力の供給を受ける電子機器に本実施形態に係る電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することもできる。
【0077】
二次電池から電力の供給を受けて車両の駆動力に変換する変換装置、および、二次電池に関する情報に基づいて車両制御に関する情報処理を行う制御装置(または制御部)を有する電動車両に本実施形態に係る電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することもできる。かかる電動車両において、変換装置は、典型的には、二次電池から電力の供給を受けてモータを駆動させ、駆動力を発生させる。モータの駆動には、回生エネルギーを利用することもできる。また、制御装置(または制御部)は、例えば、二次電池の電池残量に基づいて車両制御に関する情報処理を行う。このような電動車両には、例えば、電気自動車、電動バイク、電動自転車、および鉄道車両等の他、所謂ハイブリッド車が含まれる。
【0078】
二次電池から電力の供給を受け、および/または、電力源から二次電池に電力を供給するように構成された電力システムにおける二次電池に本実施形態に係る電気化学デバイスを適用することができる。このような電力システムは、およそ電力を使用するものである限り、どのような電力システムであってもよく、単なる電力装置も含む。かかる電力システムは、例えば、スマートグリッド、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)、および/または車両等を含み、蓄電も可能である。
【0079】
二次電池を有し、電力が供給される電子機器が接続されるように構成された電力貯蔵用電源において本実施形態に係る電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することができる。かかる電力貯蔵用電源の用途は問わず、基本的にはどのような電力システム又は電力装置にも用いることができるが、例えば、スマートグリッドに用いることができる。
【0080】
本実施形態に係る電気化学デバイスのより詳細な事項、更なる具体的な態様などその他の事項は、上述の[電気化学デバイスのための電解液]で説明しているので、重複を避けるために説明を省略する。
【0081】
ここで、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスが、二次電池として供される場合について更に詳述しておく。以下では、かかる二次電池を「マグネシウム二次電池」とも称する。
【0082】
本実施形態に係る電気化学デバイスとしてのマグネシウム二次電池は、それを駆動用・作動用の電源又は電力蓄積用の電力貯蔵源として利用可能な機械、機器、器具、装置、システム(複数の機器等の集合体)に対して、特に限定されることなく、適用することができる。電源として使用されるマグネシウム二次電池(例えば、マグネシウム-硫黄二次電池)は、主電源(優先的に使用される電源)であってもよいし、補助電源(主電源に代えて、又は、主電源から切り換えて使用される電源)であってもよい。マグネシウム二次電池を補助電源として使用する場合、主電源はマグネシウム二次電池に限られない。
【0083】
マグネシウム二次電池(特に、マグネシウム-硫黄二次電池)の用途として、具体的には、ビデオカメラ、カムコーダ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、パーソナルコンピュータ、テレビジョン受像機、各種表示装置、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、音楽プレーヤー、携帯用ラジオ、電子ブック、および/または電子新聞等の電子ペーパー、PDAを含む携帯情報端末といった各種電子機器、電気機器(携帯用電子機器を含む);玩具;電気シェーバ等の携帯用生活器具;室内灯等の照明器具;ペースメーカーおよび/または補聴器等の医療用電子機器;メモリーカード等の記憶用装置;着脱可能な電源としてパーソナルコンピュータ等に用いられる電池パック;電動ドリルおよび/または電動鋸等の電動工具;非常時等に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステム等の電力貯蔵システム、ホームエネルギーサーバー(家庭用蓄電装置)、電力供給システム;蓄電ユニットおよび/またはバックアップ電源;電動自動車、電動バイク、電動自転車、および/またはセグウェイ(登録商標)等の電動車両;航空機および/または船舶の電力駆動力変換装置(具体的には、例えば、動力用モータ)の駆動を例示することができるが、これらの用途に限定するものではない。
【0084】
そのなかでも、マグネシウム二次電池(特にマグネシウム-硫黄二次電池)は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電力供給システム、電動工具、電子機器、および/または電気機器等に適用されることが有効である。電池パックは、マグネシウム二次電池を用いた電源であり、所謂組電池等である。電動車両は、マグネシウム二次電池を駆動用電源として作動(例えば走行)する車両であり、二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(例えばハイブリッド自動車等)であってもよい。電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)は、マグネシウム二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)では、電力貯蔵源であるマグネシウム二次電池に電力が蓄積されているため、電力を利用して家庭用の電気製品等が使用可能となる。電動工具は、マグネシウム二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリル等)が可動する工具である。電子機器および電気機器は、マグネシウム二次電池を作動用の電源(すなわち、電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
【0085】
以下、円筒型のマグネシウム二次電池および平板型のラミネートフィルム型のマグネシウム二次電池について説明する。
【0086】
円筒型のマグネシウム二次電池100の模式的な断面図を
図2に示す。マグネシウム二次電池100にあっては、ほぼ中空円柱状の電極構造体収納部材111の内部に、電極構造体121および一対の絶縁板112,113が収納されている。電極構造体121は、例えば、セパレータ126を介して正極122と負極124とを積層して電極構造体を得た後、電極構造体を捲回することで作製することができる。電極構造体収納部材(例えば電池缶)111は、一端部が閉鎖され、他端部が開放された中空構造を有しており、鉄(Fe)および/またはアルミニウム(Al)等から作製されている。一対の絶縁板112,113は、電極構造体121を挟むと共に、電極構造体121の捲回周面に対して垂直に延在するように配置されている。電極構造体収納部材111の開放端部には、電池蓋114、安全弁機構115および熱感抵抗素子(例えばPTC素子、Positive Temperature Coefficient 素子)116がガスケット117を介してかしめられており、これによって、電極構造体収納部材111は密閉されている。電池蓋114は、例えば、電極構造体収納部材111と同様の材料から作製されている。安全弁機構115および熱感抵抗素子116は、電池蓋114の内側に設けられており、安全弁機構115は、熱感抵抗素子116を介して電池蓋114と電気的に接続されている。安全弁機構115にあっては、内部短絡および/または外部からの加熱等に起因して内圧が一定以上になると、ディスク板115Aが反転する。これによって、電池蓋114と電極構造体121との電気的接続が切断される。大電流に起因する異常発熱を防止するために、熱感抵抗素子116の抵抗は温度の上昇に応じて増加する。ガスケット117は、例えば、絶縁性材料から作製されている。ガスケット117の表面にはアスファルト等が塗布されていてもよい。
【0087】
電極構造体121の捲回中心には、センターピン118が挿入されている。但し、センターピン118は、捲回中心に挿入されていなくてもよい。正極122には、アルミニウム等の導電性材料から作製された正極リード部123が接続されている。具体的には、正極リード部123は正極集電体に取り付けられている。負極124には、銅等の導電性材料から作製された負極リード部125が接続されている。具体的には、負極リード部125は負極集電体に取り付けられている。負極リード部125は、電極構造体収納部材111に溶接されており、電極構造体収納部材111と電気的に接続されている。正極リード部123は、安全弁機構115に溶接されていると共に、電池蓋114と電気的に接続されている。尚、
図2に示した例では、負極リード部125は1箇所(捲回された電極構造体の最外周部)であるが、2箇所(捲回された電極構造体の最外周部および最内周部)に設けられている場合もある。
【0088】
電極構造体121は、正極集電体上に(より具体的には、正極集電体の両面に)正極活物質層が形成された正極122と、負極集電体上に(より具体的には、負極集電体の両面に)負極活物質層が形成された負極124とが、セパレータ126を介して積層されて成る。正極リード部123を取り付ける正極集電体の領域には、正極活物質層は形成されていないし、負極リード部125を取り付ける負極集電体の領域には、負極活物質層は形成されていない。
【0089】
マグネシウム二次電池100は、例えば、以下の手順に基づき製造することができる。
【0090】
まず、正極集電体の両面に正極活物質層を形成し、負極集電体の両面に負極活物質層を形成する。
【0091】
次いで、溶接法等を用いて、正極集電体に正極リード部123を取り付ける。また、溶接法等を用いて、負極集電体に負極リード部125を取り付ける。次に、微多孔性ポリエチレンフィルムから成るセパレータ126を介して正極122と負極124とを積層し、捲回して、(より具体的には、正極122/セパレータ126/負極124/セパレータ126の電極構造体(すなわち、積層構造体)を捲回して)、電極構造体121を作製した後、最外周部に保護テープ(図示せず)を貼り付ける。その後、電極構造体121の中心にセンターピン118を挿入する。次いで、一対の絶縁板112,113で電極構造体121を挟みながら、電極構造体121を電極構造体収納部材111の内部に収納する。この場合、溶接法等を用いて、正極リード部123の先端部を安全弁機構115に取り付けると共に、負極リード部125の先端部を電極構造体収納部材111に取り付ける。その後、減圧方式に基づき電解液を注入して、電解液をセパレータ126に含浸させる。次いで、ガスケット117を介して電極構造体収納部材111の開口端部に電池蓋114、安全弁機構115および熱感抵抗素子116をかしめる。
【0092】
次に、平板型のラミネートフィルム型の二次電池について説明する。かかる二次電池の模式的な分解斜視図を
図3に示す。この二次電池にあっては、ラミネートフィルムから成る外装部材200の内部に、基本的に前述したと同様の電極構造体221が収納されている。電極構造体221は、セパレータおよび電解質層を介して正極と負極とを積層した後、この積層構造体を捲回することで作製することができる。正極には正極リード部223が取り付けられており、負極には負極リード部225が取り付けられている。電極構造体221の最外周部は、保護テープによって保護されている。正極リード部223および負極リード部225は、外装部材200の内部から外部に向かって同一方向に突出している。正極リード部223は、アルミニウム等の導電性材料から形成されている。負極リード部225は、銅、ニッケル、および/またはステンレス鋼等の導電性材料から形成されている。
【0093】
外装部材200は、
図3に示す矢印Rの方向に折り畳み可能な1枚のフィルムであり、外装部材200の一部には、電極構造体221を収納するための窪み(例えばエンボス)が設けられている。外装部材200は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。二次電池の製造工程では、融着層同士が電極構造体221を介して対向するように外装部材200を折り畳んだ後、融着層の外周縁部同士を融着する。但し、外装部材200は、2枚の別個のラミネートフィルムが接着剤等を介して貼り合わされたものでもよい。融着層は、例えば、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレン等のフィルムから成る。金属層は、例えば、アルミニウム箔等から成る。表面保護層は、例えば、ナイロンおよび/またはポリエチレンテレフタレート等から成る。中でも、外装部材200は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。但し、外装部材200は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレン等の高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。具体的には、ナイロンフィルムと、アルミニウム箔と、無延伸ポリプロピレンフィルムとが外側からこの順に積層された耐湿性のアルミラミネートフィルムから成っていてもよい。
【0094】
外気の侵入を防止するために、外装部材200と正極リード部223との間、および、外装部材200と負極リード部225との間には、密着フィルム201が挿入されている。密着フィルム201は、正極リード部223および負極リード部225に対して密着性を有する材料、例えば、ポリオレフィン樹脂等から成っていてよく、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂から成っていてもよい。
【0095】
上述では、二次電池を主に念頭にした説明であったが、本開示事項は他の電気化学デバイス、例えば、キャパシタ、空気電池および燃料電池などについても同様に当てはまる。以下それについて説明する。
【0096】
本実施形態に係る電気化学デバイスは、模式的な断面図を
図4に示すように、キャパシタとして供すことができる。キャパシタでは、電解液が含浸されたセパレータ33を介して、正極31および負極32が対向して配置されている。尚、セパレータ33、正極31および負極32の少なくとも1つの表面に、本実施形態に係る電解液が含浸されたゲル電解質膜が配置されてもよい。参照番号35,36は集電体を示し、参照番号37はガスケットを示す。
【0097】
あるいは、本実施形態に係る電気化学デバイスは、
図5の概念図に示すように、空気電池として供すこともできる。かかる空気電池は、例えば、水蒸気を透過し難く酸素を選択的に透過させる酸素選択性透過膜47、導電性の多孔質材料から成る空気極側集電体44、この空気極側集電体44と多孔質正極41の間に配置され導電性材料から成る多孔質の拡散層46、導電性材料と触媒材料を含む多孔質正極41、水蒸気を通過し難いセパレータおよび電解液(又は、電解液を含む固体電解質)43、マグネシウムイオンを放出する負極42、負極側集電体45、および、これらの各層が収納される外装体48から構成されている。
【0098】
酸素選択性透過膜47によって空気(例えば大気)51中の酸素52が選択的に透過され、多孔質材料から成る空気極側集電体44を通過し、拡散層46によって拡散され、多孔質正極41に供給される。酸素選択性透過膜47を透過した酸素の進行は空気極側集電体44によって部分的に遮蔽されるが、空気極側集電体44を通過した酸素は拡散層46によって拡散され、広がるので、多孔質正極41全体に効率的に行き渡るようになり、多孔質正極41の面全体への酸素の供給が空気極側集電体44によって阻害されることがない。また、酸素選択性透過膜47によって水蒸気の透過が抑制されるので、空気中の水分の影響による劣化が少なく、酸素が多孔質正極41全体に効率的に供給されるので、電池出力を高くすることが可能となり、安定して長期間使用可能となる。
【0099】
あるいは、本実施形態に係る電気化学デバイスは、
図6の概念図に示すように、燃料電池として供すこともできる。燃料電池は、例えば、正極61、正極用電解液62、正極用電解液輸送ポンプ63、燃料流路64、正極用電解液貯蔵容器65、負極71、負極用電解液72、負極用電解液輸送ポンプ73、燃料流路74、負極用電解液貯蔵容器75、およびイオン交換膜66から構成されている。燃料流路64には、正極用電解液貯蔵容器65および正極用電解液輸送ポンプ63を介して、正極用電解液62が連続的又は断続的に流れており(循環しており)、燃料流路74には、負極用電解液貯蔵容器75および負極用電解液輸送ポンプ73を介して、負極用電解液72が連続的又は断続的に流れてたり又は循環しており、正極61と負極71との間で発電が行われる。正極用電解液62として、本実施形態に係る電解液に正極活物質を添加したものを用いることができ、負極用電解液72として、本実施形態に係る電解液に負極活物質を添加したものを用いることができる。
【0100】
なお、電気化学デバイスにおける負極についていえば、Mg金属板を用いることができるほか、以下の手法で製造することもできる。例えば、MgCl2とEnPS(エチル-n-プロピルスルホン)とを含むMg電解液(Mg-EnPS)を準備し、このMg電解液を用いて、電解メッキ法に基づきCu箔上にMg金属を析出させて、負極活物質層としてMgメッキ層をCu箔上に形成してよい。ちなみに、かかる手法で得られたMgメッキ層の表面をXPS法に基づき分析した結果、Mgメッキ層の表面にMg、C、O、SおよびClが存在することが明らかになり、また、表面分析で観察されたMg由来のピークは分裂しておらず、40eV以上60eV以下の範囲にMg由来の単一のピークが観察された。更には、Arスパッタ法に基づき、Mgメッキ層の表面を深さ方向に約200nm掘り進め、その表面をXPS法に基づき分析した結果、Arスパッタ後におけるMg由来のピークの位置および形状は、Arスパッタ前におけるピークの位置および形状と比べて変化がないことが分かった。
【0101】
本実施形態に係る電気化学デバイスは、
図1~
図3を参照して説明したようにマグネシウム二次電池として特に用いることができるが、かかるマグネシウム二次電池の幾つかの適用例についてより具体的に説明しておく。尚、以下で説明する各適用例の構成は、あくまで一例であり、構成は適宜変更可能である。
【0102】
マグネシウム二次電池は電池パックの形態で用いることができる。かかる電池パックは、マグネシウム二次電池を用いた簡易型の電池パック(所謂ソフトパック)であり、例えば、スマートフォンに代表される電子機器等に搭載される。それに代えて又はそれに加えて、2並列3直列となるように接続された6つのマグネシウム二次電池から構成された組電池を備えていてもよい。尚、マグネシウム二次電池の接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。
【0103】
本実施形態に係るマグネシウム二次電池を電池パックに適用した場合の回路構成例を表すブロック図を
図7に示す。電池パックは、セル(例えば組電池)1001、外装部材、スイッチ部1021、電流検出抵抗器1014、温度検出素子1016および制御部1010を備えている。スイッチ部1021は、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を備えている。また、電池パックは、正極端子1031および負極端子1032を備えており、充電時には正極端子1031および負極端子1032は、それぞれ、充電器の正極端子および負極端子に接続され、充電が行われる。また、電子機器使用時には、正極端子1031および負極端子1032は、それぞれ、電子機器の正極端子および負極端子に接続され、放電が行われる。
【0104】
セル1001は、複数の本開示におけるマグネシウム二次電池1002が直列および/または並列に接続されることで、構成される。尚、
図7では、6つのマグネシウム二次電池1002が、2並列3直列(2P3S)に接続された場合を示しているが、その他、p並列q直列(但し、p,qは整数)のように、どのような接続方法であってもよい。
【0105】
スイッチ部1021は、充電制御スイッチ1022およびダイオード1023、並びに、放電制御スイッチ1024およびダイオード1025を備えており、制御部1010によって制御される。ダイオード1023は、正極端子1031からセル1001の方向に流れる充電電流に対して逆方向、負極端子1032からセル1001の方向に流れる放電電流に対して順方向の極性を有する。ダイオード1025は、充電電流に対して順方向、放電電流に対して逆方向の極性を有する。尚、例ではプラス(+)側にスイッチ部を設けているが、マイナス(-)側に設けてもよい。充電制御スイッチ1022は、電池電圧が過充電検出電圧となった場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に充電電流が流れないように制御部1010によって制御される。充電制御スイッチ1022が閉状態となった後には、ダイオード1023を介することによって放電のみが可能となる。また、充電時に大電流が流れた場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に流れる充電電流を遮断するように、制御部1010によって制御される。放電制御スイッチ1024は、電池電圧が過放電検出電圧となった場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に放電電流が流れないように制御部1010によって制御される。放電制御スイッチ1024が閉状態となった後には、ダイオード1025を介することによって充電のみが可能となる。また、放電時に大電流が流れた場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に流れる放電電流を遮断するように、制御部1010によって制御される。
【0106】
温度検出素子1016は例えばサーミスタから成り、セル1001の近傍に設けられ、温度測定部1015は、温度検出素子1016を用いてセル1001の温度を測定し、測定結果を制御部1010に送出する。電圧測定部1012は、セル1001の電圧、およびセル1001を構成する各マグネシウム二次電池1002の電圧を測定し、測定結果をA/D変換して、制御部1010に送出する。電流測定部1013は、電流検出抵抗器1014を用いて電流を測定し、測定結果を制御部1010に送出する。
【0107】
スイッチ制御部1020は、電圧測定部1012および電流測定部1013から送られてきた電圧および電流を基に、スイッチ部1021の充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を制御する。スイッチ制御部1020は、マグネシウム二次電池1002のいずれかの電圧が過充電検出電圧若しくは過放電検出電圧以下になったとき、および/または、大電流が急激に流れたときに、スイッチ部1021に制御信号を送ることにより、過充電および過放電、過電流充放電を防止する。充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024は、例えばMOSFET等の半導体スイッチから構成することができる。この場合、MOSFETの寄生ダイオードによってダイオード1023,1025が構成される。MOSFETとして、pチャネル型FETを用いる場合、スイッチ制御部1020は、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024のそれぞれのゲート部に、制御信号DOおよび制御信号COを供給する。充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024は、ソース電位より所定値以上低いゲート電位によって導通する。即ち、通常の充電および放電動作では、制御信号COおよび制御信号DOをローレベルとし、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を導通状態とする。そして、例えば過充電若しくは過放電の際には、制御信号COおよび制御信号DOをハイレベルとし、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を閉状態とする。
【0108】
メモリ1011は、例えば、不揮発性メモリであるEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)等から成る。メモリ1011には、制御部1010で演算された数値および/または製造工程の段階で測定された各マグネシウム二次電池1002の初期状態におけるマグネシウム二次電池の内部抵抗値等が予め記憶されており、また、適宜、書き換えが可能である。また、マグネシウム二次電池1002の満充電容量を記憶させておくことで、制御部1010と共に例えば残容量を算出することができる。
【0109】
温度測定部1015では、温度検出素子1016を用いて温度を測定し、異常発熱時に充放電制御を行い、また、残容量の算出における補正を行う。
【0110】
次に、マグネシウム二次電池の電動車両への適用について説明する。電動車両の一例であるハイブリッド自動車といった電動車両の構成を表すブロック図を
図8Aに示す。電動車両は、例えば、金属製の筐体2000の内部に、制御部2001、各種センサ2002、電源2003、エンジン2010、発電機2011、インバータ2012,2013、駆動用のモータ2014、差動装置2015、トランスミッション2016およびクラッチ2017を備えている。その他、電動車両は、例えば、差動装置2015および/またはトランスミッション2016に接続された前輪駆動軸2021、前輪2022、後輪駆動軸2023、および後輪2024を備えている。
【0111】
電動車両は、例えば、エンジン2010又はモータ2014のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン2010は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジン等である。エンジン2010を動力源とする場合、エンジン2010の駆動力(例えば回転力)は、例えば、駆動部である差動装置2015、トランスミッション2016およびクラッチ2017を介して前輪2022又は後輪2024に伝達される。エンジン2010の回転力は発電機2011にも伝達され、回転力を利用して発電機2011が交流電力を発生させ、交流電力はインバータ2013を介して直流電力に変換され、電源2003に蓄積される。一方、変換部であるモータ2014を動力源とする場合、電源2003から供給された電力(例えば直流電力)がインバータ2012を介して交流電力に変換され、交流電力を利用してモータ2014を駆動する。モータ2014によって電力から変換された駆動力(例えば回転力)は、例えば、駆動部である差動装置2015、トランスミッション2016およびクラッチ2017を介して前輪2022又は後輪2024に伝達される。
【0112】
制動機構(図示せず)を介して電動車両が減速すると、減速時の抵抗力がモータ2014に回転力として伝達され、その回転力を利用してモータ2014が交流電力を発生させるようにしてもよい。交流電力はインバータ2012を介して直流電力に変換され、直流回生電力は電源2003に蓄積される。
【0113】
制御部2001は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源2003は、本実施形態に従った1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。電源2003は、外部電源と接続され、外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積する構成とすることもできる。各種センサ2002は、例えば、エンジン2010の回転数を制御すると共に、スロットルバルブ(図示せず)の開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。各種センサ2002は、例えば、速度センサ、加速度センサ、および/またはエンジン回転数センサ等を備えている。
【0114】
尚、電動車両がハイブリッド自動車である場合について説明したが、電動車両は、エンジン2010を用いずに電源2003およびモータ2014だけを用いて作動する車両(例えば電気自動車)でもよい。
【0115】
次に、マグネシウム二次電池の電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)への適用について説明する。電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)の構成を表すブロック図を
図8Bに示す。電力貯蔵システムは、例えば、一般住宅および商業用ビル等の家屋3000の内部に、制御部3001、電源3002、スマートメータ3003、および、パワーハブ3004を備えている。
【0116】
電源3002は、例えば、家屋3000の内部に設置された電気機器(例えば電子機器)3010に接続されていると共に、家屋3000の外部に停車している電動車両3011に接続可能である。また、電源3002は、例えば、家屋3000に設置された自家発電機3021にパワーハブ3004を介して接続されていると共に、スマートメータ3003およびパワーハブ3004を介して外部の集中型電力系統3022に接続可能である。電気機器(例えば電子機器)3010は、例えば、1又は2以上の家電製品を含んでいる。家電製品として、例えば、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機および/または給湯器等を挙げることができる。自家発電機3021は、例えば、太陽光発電機および/または風力発電機等から構成されている。電動車両3011として、例えば、電動自動車、ハイブリッド自動車、電動オートバイ、電動自転車、および/またはセグウェイ(登録商標)等を挙げることができる。集中型電力系統3022として、商用電源、発電装置、送電網、および/またはスマートグリッド(例えば次世代送電網)を挙げることができるし、また、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所、および/または風力発電所等を挙げることもできるし、集中型電力系統3022に備えられた発電装置として、種々の太陽電池、燃料電池、風力発電装置、および/またはマイクロ水力発電装置、地熱発電装置等を例示することができるが、これらに限定するものではない。
【0117】
制御部3001は、電力貯蔵システム全体の動作(電源3002の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源3002は、本実施形態にしたがった1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。スマートメータ3003は、例えば、電力需要側の家屋3000に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能である。そして、スマートメータ3003は、例えば、外部と通信しながら、家屋3000における需要・供給のバランスを制御することで、効率的で安定したエネルギー供給が可能となる。
【0118】
かかる電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統3022からスマートメータ3003およびパワーハブ3004を介して電源3002に電力が蓄積されると共に、独立電源である自家発電機3021からパワーハブ3004を介して電源3002に電力が蓄積される。電源3002に蓄積された電力は、制御部3001の指示に応じて電気機器(例えば電子機器)3010および電動車両3011に供給されるため、電気機器(例えば電子機器)3010の作動が可能になると共に、電動車両3011が充電可能になる。即ち、電力貯蔵システムは、電源3002を用いて、家屋3000内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
【0119】
電源3002に蓄積された電力は、任意に利用可能である。そのため、例えば、電気料金が安価な深夜に集中型電力系統3022から電源3002に電力を蓄積しておき、電源3002に蓄積しておいた電力を電気料金が高い日中に用いることができる。
【0120】
以上に説明した電力貯蔵システムは、1戸(例えば1世帯)毎に設置されていてもよいし、複数戸(例えば複数世帯)毎に設置されていてもよい。
【0121】
次に、マグネシウム二次電池の電動工具への適用について説明する。電動工具の構成を表すブロック図を
図8Cに示す。電動工具は、例えば、電動ドリルであり、プラスチック材料等から作製された工具本体4000の内部に、制御部4001および電源4002を備えている。工具本体4000には、例えば、可動部であるドリル部4003が回動可能に取り付けられている。制御部4001は、電動工具全体の動作(電源4002の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源4002は、本実施形態に従った1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。制御部4001は、動作スイッチ(図示せず)の操作に応じて、電源4002からドリル部4003に電力を供給する。
【0122】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【0123】
例えば、上述した電解液の組成、製造に用いた原材料、製造方法、製造条件、電解液の特性、電気化学デバイス、電池の構成または構造は例示であり、これらに限定するものではなく、また、適宜、変更することができる。本実施形態に係る電解液を有機ポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルおよび/またはポリフッ化ビニリデン(PVdF))と混合してゲル電解質として使用することもできる。
【実施例】
【0124】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本発明の効果を確認すべく以下の実証試験を行った。
【0125】
[電解液のCV測定による電気化学特性評価]
(実施例1)
以下の仕様を有する電解液を調製した。
(電解液の仕様)
・第1マグネシウム塩:マグネシウムビス(ヘキサメチルジシラジド)(Mg(HMDS)2)、シグマアルドリッチ製
・第2マグネシウム塩:マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2):富山薬品工業製
・溶媒(直鎖エーテル溶媒):ジエチレングリコールジメチルエーテル(G2):富山薬品工業製
【0126】
第1マグネシウム塩としてのMg(HMDS)2および第2マグネシウム塩としてのMg(TFSI)2をそれぞれ0.3Mとなるようにジエチレングリコールジメチルエーテルに加え、120℃で一晩攪拌した。これにより、電解液(モル比(N第2Mg塩/N第1Mg塩)=1)を調製した。得られた電解液は、意図的にハロゲンが含まれておらず、ハロゲンが実質的に含まれていない電解液(すなわち、ハロゲンフリーの電解液)であった。
【0127】
電解液の電気化学特性を評価するために、電解液について三極式のサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を以下の条件で実施した。
(測定条件)
・作用極:白金(Pt)電極(φ1.6mm)
・参照極:Mg棒(φ1.6mm)
・対極:Mg棒(φ1.6mm)
・掃引速度:25mV/s
・測定温度:25℃
【0128】
(比較例1)
Mg(HMDS)2の濃度を0.3Mから0Mに変更し、Mg(TFSI)2の濃度を0.3Mから0.6Mに変更した以外は、実施例1と同様にして電解液を調製した。得られた比較例1の電解液は、Mg(TFSI)2のみが溶解している電解液であった。実施例1と同様に、比較例1の電解液についてCV測定を実施した。
【0129】
(比較例2)
Mg(HMDS)2を過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO4)2、シグマ―アルドリッチ製)に変更した以外は、実施例1と同様にして電解液を調製した。得られた比較例2の電解液は、Mg(TFSI)2およびMg(ClO4)2が溶解している電解液であった。実施例1と同様に、比較例2の電解液についてCV測定を実施した。
【0130】
(結果)
図10に、各電解液のCV曲線(
図10中、実線:実施例1、破線:比較例1)を示す。比較例1の電解液(Mg(TFSI)
2のみが溶解している電解液)のCV曲線では、Mg溶解・析出の間の電圧差(すなわち、Mg溶解析出時の過電圧)が2V程度(
図10中、点線の両矢印で示される)であった。なお、この過電圧はMg(TFSI)
2の濃度によらず、2V程度以上であることが確認された。また、比較例2のCV曲線(不図示)でも、比較例1と同様に過電圧は、2V程度以上であった。これに対して、実施例1の電解液(Mg(HMDS)
2が溶解している電解液)のCV曲線では、過電圧が0.5V以下(
図10中、点線の両矢印で示される)であった。
【0131】
上記結果から、実施例1の、電解質としてMg(HMDS)2を含む電解液は、比較例1~2の、電解質としてMg(HMDS)2を含まない電解液に対して、過電圧が低下することが示された。また、実施例1のハロゲンフリーの電解液は、比較例2のハロゲンを含む電解液に対して過電圧が低下することが示された。このことから、過電圧の低減は、電解液に含まれるMg(HMDS)2に起因する特有の効果であることが明らかとなった。
【0132】
[二次電池の充放電による電気化学特性評価]
(実施例3)
電気化学デバイスとして以下の仕様を有するマグネシウム-硫黄二次電池を作製した。
(マグネシウム-硫黄二次電池の仕様)
●電解液:実施例1の電解液(第1マグネシウム塩および第2マグネシウム塩と、溶媒とを含み、ハロゲンフリーである電解液)
●負極:マグネシウムを含む電極(φ16mmのMg板(厚み200μmのMg板/純度99.9%)
●正極:硫黄電極(S8硫黄を含有した電極、導電助剤としてケッチェンブラック(KB)を含有、結着剤としてPTFEを含有、集電メッシュとしてSUS箔(φ15mm)を含有)
●セパレータ:グラスファイバー(Advantec製グラスファイバー)
●二次電池形態:コイン電池CR2016タイプ
【0133】
図9に作製した電池を模式的な展開図で示す。正極23は、硫黄(S
8)10質量%、導電助剤としてケッチェンブラック60質量%、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)30質量%を瑪瑙製の乳鉢を用いて混合した。そして、アセトンで馴染ませながらローラーコンパクターを用いて10回程度圧延成型した。その後、70℃の真空乾燥で12時間乾燥し、正極合材シートを得た。得られた正極合材シートを、円形状に打ち抜き、正極23(直径15mm)を得ることができた。集電メッシュSUS箔を用い正極に取り付けて用いた。
【0134】
コイン電池缶21にガスケット22を載せ、硫黄から成る正極23、グラスファイバー製のセパレータ24、直径15mm、厚さ200μmのMg板から成る負極25、厚さ0.5mmのステンレス鋼板から成るスペーサ26、コイン電池蓋27の順に積層した後、コイン電池缶21をかしめて封止した。スペーサ26はコイン電池蓋27に予めスポット溶接しておいた。電解液は、コイン電池20のセパレータ24に含ませる形態で用いた。
【0135】
作製した電池を充放電に付した。(初回)放電条件は、以下の通りである。
(充放電条件)
放電条件:CC放電0.1mA/0~2.2Vカットオフ
【0136】
(比較例3)
実施例1の電解液を比較例1の電解液に変更した以外は、実施例3と同様にしてマグネシウム-硫黄二次電池を作製し、実施例1と同様の充放電に付した。
【0137】
(結果)
図11に、各マグネシウム-硫黄二次電池の初回時の放電電圧(
図11中、実線:実施例2、破線:比較例3)を示す。比較例3の二次電池(Mg(TFSI)
2のみが溶解している電解液を用いた二次電池)の放電電圧は、2つのプラトーを示し、それぞれ0.7Vおよび0.3V程度であった。これに対して、実施例2の二次電池(Mg(HMDS)
2が溶解している電解液を用いた二次電池)の放電電圧は、1V程度であった。
【0138】
上記結果から、実施例2の二次電池(Mg(HMDS)2を含み、ハロゲンフリーである電解液を備えた二次電池)は、比較例3の二次電池(Mg(HMDS)2を含まない電解液を備えた二次電池)に対して、高い放電電圧を示し、エネルギー密度が向上することが明らかとなった。
【0139】
以上を踏まえて総括すると、以下の事項を本実証試験から見出すことができた。
・電解液が「一般式(R3Si)2Nで表されるジシラジド構造を有する第1マグネシウム塩」を含み、ハロゲンフリーであることで、過電圧を低減し、そのような電解液を備えるマグネシウム電池のエネルギー密度が向上する。
・“ジシラジド”の第1マグネシウム塩は、炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基(より具体的には、メチル基)を有していたことから、そのような特徴は、過電圧の低減に寄与し得る。また、そのような第1マグネシウム塩を含む電解液を備えるマグネシウム電池のエネルギー密度の向上に寄与し得る。
・電解液が「一般式MgN(CmF2m+1SO2)2で表される第2マグネシウム塩」をさらに含むことから、そのような特徴は、過電圧の低減に寄与し得る。また、そのような電解液を備えるマグネシウム電池のエネルギー密度の向上に寄与し得る。
・第2マグネシウム塩は、mが1以上4以下の整数(より具体的には、1)で示されるパーフルオロアルキル基を有することから、そのような特徴は、過電圧の低減に寄与し得る。また、そのような第2マグネシウム塩を含む電解液を備えるマグネシウム電池のエネルギー密度の向上に寄与し得る。
・電解液が溶媒として一般式(3)で表される直鎖エーテルであることから、過電圧の低減に寄与し得る。また、そのような電解液を備えるマグネシウム電池のエネルギー密度の向上に寄与し得る。
・一般式(3)で表される直鎖エーテルは、nが1以上10以下の整数で示されるエチレンオキシド構造を有することから、そのような特徴は、過電圧の低減に寄与し得る。また、そのような直鎖エーテルを含む電解液を備えるマグネシウム電池のエネルギー密度の向上に寄与し得る。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の電解液は、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出す様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の電解液は、二次電池はもちろんのこと、それに限らず、キャパシタ、空気電池および燃料電池などの種々の電気化学デバイスに用いられる。
【符号の説明】
【0141】
10・・・正極、11・・・負極、12・・・電解質層、31・・・正極、32・・・負極、33・・・セパレータ、35,36・・・集電体、37・・・ガスケット、41・・・多孔質正極、42・・・負極、43・・・セパレータおよび電解液、44・・・空気極側集電体、45・・・負極側集電体、46・・・拡散層、47・・・酸素選択性透過膜、48・・・外装体、51・・・空気(大気)、52・・・酸素、61・・・正極、62・・・正極用電解液、63・・・正極用電解液輸送ポンプ、64・・・燃料流路、65・・・正極用電解液貯蔵容器、71・・・負極、72・・・負極用電解液、73・・・負極用電解液輸送ポンプ、74・・・燃料流路、75・・・負極用電解液貯蔵容器、66・・・イオン交換膜、100・・・マグネシウム二次電池、111・・・電極構造体収納部材(電池缶)、112,113・・・絶縁板、114・・・電池蓋、115・・・安全弁機構、115A・・・ディスク板、116・・・熱感抵抗素子(PTC素子)、117・・・ガスケット、118・・・センターピン、121・・・電極構造体、122・・・正極、123・・・正極リード部、124・・・負極、125・・・負極リード部、126・・・セパレータ、200・・・外装部材、201・・・密着フィルム、221・・・電極構造体、223・・・正極リード部、225・・・負極リード部、1001・・・セル(組電池)、1002・・・マグネシウム二次電池、1010・・・制御部、1011・・・メモリ、1012・・・電圧測定部、1013・・・電流測定部、1014・・・電流検出抵抗器、1015・・・温度測定部、1016・・・温度検出素子、1020・・・スイッチ制御部、1021・・・スイッチ部、1022・・・充電制御スイッチ、1024・・・放電制御スイッチ、1023,1025・・・ダイオード、1031・・・正極端子、1032・・・負極端子、CO,DO・・・制御信号、2000・・・筐体、2001・・・制御部、2002・・・各種センサ、2003・・・電源、2010・・・エンジン、2011・・・発電機、2012,2013・・・インバータ、2014・・・駆動用のモータ、2015・・・差動装置、2016・・・トランスミッション、2017・・・クラッチ、2021・・・前輪駆動軸、2022・・・前輪、2023・・・後輪駆動軸、2024・・・後輪、3000・・・家屋、3001・・・制御部、3002・・・電源、3003・・・スマートメータ、3004・・・パワーハブ、3010・・・電気機器(電子機器)、3011・・・電動車両、3021・・・自家発電機、3022・・・集中型電力系統、4000・・・工具本体、4001・・・制御部、4002・・・電源、4003・・・ドリル部