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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/04 20060101AFI20240806BHJP
   H02K 21/12 20060101ALI20240806BHJP
   H02K 1/12 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H02K3/04 E
H02K21/12 Z
H02K1/12 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022559197
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2021039643
(87)【国際公開番号】W WO2022092148
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2020183988
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕樹
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/175222(WO,A1)
【文献】特開昭54-125404(JP,A)
【文献】特開2019-122230(JP,A)
【文献】特開2020-178491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/04
H02K 21/12
H02K 3/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に極性が交互となる複数の磁極を有する界磁子(410)と、
相あたり複数の部分巻線(441)からなる相巻線を有する3相の電機子巻線(431)、及び前記電機子巻線の径方向内側及び径方向外側のうち前記界磁子とは逆側に設けられたティースレスでかつ円筒状の電機子コア(432)を含む電機子(430)と、
を備え、前記界磁子と前記電機子とが径方向内外に対向配置された回転電機(400)であって、
前記部分巻線は、周方向に所定間隔を離して設けられる一対の中間導線部(442)と、軸方向一端側及び他端側に設けられ前記一対の中間導線部を環状に接続する渡り部(443,444)とを有し、前記一対の中間導線部及び前記各渡り部にて導線材が多重に巻回されて構成され
前記部分巻線において、前記一対の中間導線部は全節巻間隔で離して設けられており、当該一対の中間導線部の間に、他2相の前記部分巻線における前記中間導線部が1つずつ配置され、かつ周方向に前記渡り部が重複する前記部分巻線どうしで、少なくとも一方の部分巻線の前記渡り部が径方向に屈曲されることで互いの干渉が回避されており、
前記中間導線部が、前記電機子コアの外周面又は内周面における曲面に沿って並べて配置されており、
前記中間導線部は、その横断面が長方形状をなし、前記電機子コア側の径方向端面において前記電機子コアとの間の径方向寸法が周方向で異なっており、
径方向に屈曲された前記渡り部において径方向に延びる湾曲部分の内側に、前記部分巻線を前記電機子コア又は当該電機子コアに一体化された一体物に固定する固定部(455a,457a)が設けられている回転電機。
【請求項2】
前記各中間導線部において前記電機子コア側の径方向端面は、前記中間導線部の周方向中心位置と回転電機の軸心とを通る直線に直交する向きとなっており、当該径方向端面において周方向中央部と周方向両端部とで前記電機子コアとの間の径方向寸法が異なっている請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記各中間導線部における径方向端面と前記電機子コアとの間に、絶縁性の封止材(447)が介在しており、
前記封止材の熱伝導率が前記導線材の絶縁被膜の熱伝導率よりも高い請求項1又は2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記複数の部分巻線は、軸方向両端の前記渡り部のうち少なくともいずれかが径方向内側に屈曲された内曲がり巻線を含み、
前記内曲がり巻線において、前記渡り部は、径方向に延びる一対の基端部(443a)と、その一対の基端部の間で周方向に延びる連結部(443b)とを有し、前記連結部は、その中央部分が径方向外側又は軸方向に凸となるように湾曲形成されている請求項1~3のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項5】
前記界磁子は、表面磁石型の界磁子であり、周方向に極数分の磁石を有しており、
前記回転電機の磁極数を4n、前記部分巻線の数を6nとする場合に(nは自然数)、前記電機子巻線の直径が、「φ40~100mm」×nである請求項1~のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項6】
前記界磁子は、表面磁石型の界磁子であり、周方向に極数分の磁石を有しており、
1極分の前記磁石の周方向の幅をW、前記磁石と前記電機子コアとの間の径方向距離をLgとする場合に、W/Lg=2.5~7である請求項1~のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項7】
前記界磁子は、表面磁石型の界磁子であり、周方向に極数分の磁石を有しており、
前記磁石は、
磁極中心であるd軸の側において、磁極境界であるq軸の側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされているか、
又は、互いに対向しかつ磁束の流入流出面となる一対の作用面に対して磁石容易軸の向き傾いており、かつその傾斜の向きが、前記電機子巻線の側でd軸に近づくようにd軸に対して傾斜する向きとなっている請求項1~のいずれか1項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年11月2日に出願された日本出願番号2020-183988号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
この明細書における開示は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、周方向に極性が交互となる複数の磁極を有する界磁子と、多相の電機子巻線を有する電機子と、を備える回転電機が知られている。また、電機子において、ティースを有していないティースレス構造の電機子コアを用い、その電機子コアに対して電機子巻線を組み付けるようにした構成も知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6669203号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、ティースレス構造の電機子では、電機子コアの外周面又は内周面に沿わせて電機子巻線が配置される。この場合、電機子巻線において電機子コアに径方向内外に対向するコイルサイド部分では、相ごとの巻線の横断面を四角形状とするとともに、その電機子コア側の巻線端面を、電機子コアの外周面又は内周面における曲面に合わせて弧状に形成することが考えられる。ただし、中間導線部及び電機子コアの各対向面を共に曲面として互いに密接させた構成の既存技術においては、電機子巻線の放熱の観点において改善の余地があると考えられる。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ティースレス構造の電機子を有する回転電機において、電機子での放熱を適正に行わせることを目的とする。
【0007】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【0008】
手段1は、
周方向に極性が交互となる複数の磁極を有する界磁子と、
相あたり複数の部分巻線からなる相巻線を有する多相の電機子巻線、及び前記電機子巻線の径方向内側及び径方向外側のうち前記界磁子とは逆側に設けられたティースレスでかつ円筒状の電機子コアを含む電機子と、
を備え、前記界磁子と前記電機子とが径方向内外に対向配置された回転電機であって、
前記部分巻線は、周方向に所定間隔を離して設けられる一対の中間導線部と、軸方向一端側及び他端側に設けられ前記一対の中間導線部を環状に接続する渡り部とを有し、前記一対の中間導線部及び前記各渡り部にて導線材が多重に巻回されて構成され、前記中間導線部が、前記電機子コアの外周面又は内周面における曲面に沿って並べて配置されており、
前記中間導線部は、その横断面が長方形状をなし、前記電機子コア側の径方向端面において前記電機子コアとの間の径方向寸法が周方向で異なっている。
【0009】
本手段の回転電機では、電機子をティースレス構造とし、円筒状をなす電機子コアの径方向内側又は径方向外側に、電機子巻線を構成する複数の部分巻線を組み付けた構成としており、電機子コアの外周面又は内周面に沿わせて各部分巻線が周方向に並べて配置されている。そして、中間導線部の横断面を長方形状とするとともに、その中間導線部における電機子コア側の径方向端面において電機子コアとの間の径方向寸法を周方向で異ならせる構成とした。これにより、回転電機に求められる放熱性能の向上を図ることができる。すなわち、上記構成では、中間導線部と電機子コアとの間の径方向寸法が周方向で異なっており、換言すれば、中間導線部の径方向端面が、電機子コアに近い部位と電機子コアに遠い部位とを有するものとなっている。この場合、ティースレス構造の電機子においてバックヨークである電機子コアに対して近接状態での各部分巻線の組み付けを可能としつつ、中間導線部と電機子コアとの間に、部分巻線で生じた熱を放出させる放熱部を確保することができる。その結果、ティースレス構造の電機子を有する回転電機において、電機子での放熱を適正に行わせることができる。
【0010】
なお、電機子コアの曲面上に横断面が長方形状をなす中間導線部を配置する構成では、仮に部分巻線のサイズが同等であれば、電機子コアの曲面の半径(コア半径)が小さいほど、換言すれば同曲面の曲率が大きいほど、中間導線部と電機子コアとの間の径方向寸法の差(周方向中央部及び周方向両端部での径方向寸法の差)が大きくなる。例えば、電機子のコア半径が小さくかつ磁極数の小さい回転電機、すなわち部分巻線の数が少ない回転電機では、中間導線部と電機子コアとの間の径方向寸法の差が顕著となる。この場合、コア半径の小さい電機子では、コア半径の大きい電機子に比べて、熱容量が小さいと考えられるが、中間導線部と電機子コアとの間の径方向寸法の差が大きくなることで、放熱性を向上させることができる。
【0011】
手段2では、手段1において、前記各中間導線部において前記電機子コア側の径方向端面は、前記中間導線部の周方向中心位置と回転電機の軸心とを通る直線に直交する向きとなっており、当該径方向端面において周方向中央部と周方向両端部とで前記電機子コアとの間の径方向寸法が異なっている。
【0012】
上記構成では、各中間導線部における径方向端面が、中間導線部の周方向中心位置と回転電機の軸心とを通る直線に直交する向きとなっていることで、中間導線部と電機子コアとの間において周方向中央部と周方向両端部とで径方向寸法が異なるようになっている。具体的には、電機子コアの径方向外側に電機子巻線が配置される構成(例えばアウタロータ式の回転電機)では、周方向両端部において周方向中央部よりも径方向寸法が大きくなり、逆に電機子コアの径方向内側に電機子巻線が配置される構成(例えばインナロータ式の回転電機)では、周方向中央部において周方向両端部よりも径方向寸法が大きくなる。この場合、電機子巻線において、電機子コアの曲面に沿って並ぶ各中間導線部を、電機子コアに対していずれも同じ状態で配置することができる。
【0013】
手段3では、手段1又は2において、前記各中間導線部における径方向端面と前記電機子コアとの間に、絶縁性の封止材が介在しており、前記封止材の熱伝導率が前記導線材の絶縁被膜の熱伝導率よりも高い。
【0014】
上記構成では、各中間導線部における径方向端面と電機子コアとの間に、絶縁性の封止材が介在しており、その封止材を介しての放熱と、封止材による中間導線部の固定が可能になっている。また、封止材の熱伝導率が導線材の絶縁被膜の熱伝導率よりも高いため、各部分巻線の放熱性能が高められるものとなっている。
【0015】
手段4では、手段1~3のいずれかにおいて、前記複数の部分巻線は、軸方向両端の前記渡り部のうち少なくともいずれかが径方向内側に屈曲された内曲がり巻線を含み、前記内曲がり巻線において、前記渡り部は、径方向に延びる一対の基端部と、その一対の基端部の間で周方向に延びる連結部とを有し、前記連結部は、その中央部分が径方向外側又は軸方向に凸となるように湾曲形成されている。
【0016】
部分巻線として、渡り部が径方向内側に屈曲された内曲がり巻線を含む構成では、その内曲がり巻線が周方向に隣り合う場合に、各内曲がり巻線の渡り部どうしの干渉が生じ易くなると考えられる。この点、内曲がり巻線の渡り部において、一対の基端部の間で周方向に延びる連結部が、その中央部分が径方向外側又は軸方向に凸となるように湾曲形成されている構成とした。これにより、各内曲がり巻線の渡り部どうしが周方向に干渉することを抑制できる。また、渡り部において周方向に延びる連結部が湾曲していることで、その湾曲部分が、一対の基端部の先端どうしの間隔を調整する間隔調整部となり、周方向における渡り部どうしの干渉抑制に寄与するものとなっている。この場合特に、連結部が径方向外側又は軸方向に凸となるように湾曲しているため、電機子の径方向内側において、利用可能なスペースの拡張を可能にしたり、径方向内側への突出を抑えて回転電機の回転軸等との干渉抑制を可能にしたりすることができる。
【0017】
手段5は、
周方向に極性が交互となる複数の磁極を有する界磁子と、
相あたり複数の部分巻線からなる相巻線を有する多相の電機子巻線、及び前記電機子巻線の径方向内側及び径方向外側のうち前記界磁子とは逆側に設けられたティースレスでかつ円筒状の電機子コアを含む電機子と、
を備え、前記界磁子と前記電機子とが径方向内外に対向配置された回転電機であって、
前記部分巻線は、周方向に所定間隔を離して設けられる一対の中間導線部と、軸方向一端側及び他端側に設けられ前記一対の中間導線部を環状に接続する渡り部とを有し、前記一対の中間導線部及び前記各渡り部にて導線材が多重に巻回されて構成され、
前記中間導線部において、径方向外側では、径方向内側に比べて周方向に並ぶ前記導線材どうしの間隔が広くなっている。
【0018】
本手段の回転電機では、電機子をティースレス構造とし、円筒状をなす電機子コアの径方向内側又は径方向外側に、電機子巻線を構成する複数の部分巻線を組み付けた構成としており、電機子コアの外周面又は内周面に沿わせて各部分巻線が周方向に並べて配置されている。そして、中間導線部において、径方向外側では、径方向内側に比べて周方向に並ぶ導線材どうしの間隔が広くなっている構成とした。これにより、回転電機に求められる放熱性能の向上を図ることができる。すなわち、上記構成は、径方向の内外で電機子巻線における円周長さが相違することを鑑みてなされたものであり、中間導線部において、径方向内側では周方向に並ぶ導線材が密の状態となり、径方向内側では周方向に並ぶ導線材が粗の状態になるようにした。これにより、各導線材どうしの間に、各部分巻線で生じた熱を放出させる放熱部を確保することができる。その結果、ティースレス構造の電機子を有する回転電機において、電機子での放熱を適正に行わせることができる。
【0019】
手段6では、手段5において、前記部分巻線において前記導線材は断面が四角形の角線であり、その角線が側面どうしを径方向及び周方向に互いに対向させて多重に巻回されており、前記中間導線部では、径方向及び周方向にそれぞれ前記導線材が複数に並んでおり、径方向において前記角線の側面どうしが近接対向し、かつ周方向において前記角線の側面どうしが径方向よりも離れて対向している。
【0020】
上記構成によれば、径方向では角線の側面どうしが近接対向し、周方向では角線の側面どうしが径方向よりも離れて対向している。そのため、中間導線部の径方向の厚さは、角線(導線材)の巻き数に応じた所定厚さになっているとともに、中間導線部の周方向の幅は、角線どうしの離間距離に応じて径方向内外で相違するものとなっている。この場合、中間導線部の径方向の厚さが周方向で一定とされつつ、径方向内外での周方向の幅寸法のみが調整されるものとなっている。
【0021】
手段7では、手段5又は6において、前記各中間導線部において前記導線材どうしの間に、絶縁性の封止材が介在しており、前記封止材の熱伝導率が前記導線材の絶縁被膜の熱伝導率よりも高い。
【0022】
上記構成では、各中間導線部において導線材どうしの間に、絶縁性の封止材が介在しており、その封止材を介しての放熱と、封止材による導線材の固定が可能になっている。また、封止材の熱伝導率が導線材の絶縁被膜の熱伝導率よりも高いため、各部分巻線の放熱性能が高められるものとなっている。
【0023】
手段8では、手段1~7のいずれかにおいて、前記電機子巻線は3相巻線であり、前記部分巻線において、前記一対の中間導線部は全節巻間隔で離して設けられており、当該一対の中間導線部の間に、他2相の前記部分巻線における前記中間導線部が1つずつ配置され、かつ周方向に前記渡り部が重複する前記部分巻線どうしで、少なくとも一方の部分巻線の前記渡り部が径方向に屈曲されることで互いの干渉が回避されており、径方向に屈曲された前記渡り部において径方向に延びる湾曲部分の内側に、前記部分巻線を前記電機子コア又は当該電機子コアに一体化された一体物に固定する固定部が設けられている。
【0024】
3相の電機子巻線では、部分巻線における一対の中間導線部の間に、他2相の部分巻線における中間導線部を1つずつ配置し、かつ周方向に渡り部が重複する部分巻線どうしで、少なくとも一方の部分巻線の渡り部を径方向に屈曲させることで、各部分巻線の互いの干渉を回避しつつ、電機子コアの周面に沿って各中間導線部を周方向に並べて配置することができる。また、渡り部が径方向に屈曲される構成を鑑み、渡り部の湾曲部分の内側で、部分巻線を電機子コア又はその一体物に固定する構成としたため、ティースレス構造の電機子において、部分巻線を好適に固定できるものとなっている。
【0025】
手段9では、手段1~8のいずれかにおいて、前記界磁子は、表面磁石型の界磁子であり、周方向に極数分の磁石を有しており、前記回転電機の磁極数を4n、前記部分巻線の数を6nとする場合に(nは自然数)、前記電機子巻線の直径が、「φ40~100mm」×nである。
【0026】
表面磁石型回転電機では、界磁子において極数分の磁石が周方向に並べて配置されており、電機子巻線の直径(コイル径)と極数とに応じて、磁極ごとの磁石の仕様が定められる。この場合、極数に対するコイル径が小さすぎると、各磁極において磁石の周方向の幅が小さくなり、磁気装荷の低下が懸念される。またその反面、極数に対するコイル径が大きすぎると、磁石の周方向の幅が大きくなることで磁気装荷の増加が見込めるものの、電気装荷の増加がさほど見込めず、回転電機の大型化に見合うトルク増強効果が期待できないことが懸念される。
【0027】
この点、本願開示者は、磁気装荷と電気装荷とのバランスを図る上で、極数に対するコイル径の適正範囲があることを見出し、回転電機の磁極数を4n、部分巻線の数を6nとする場合に、電機子巻線の直径を「φ40~100mm」×nとすることとした。これにより、回転電機におけるトルクの適正化を実現できる。
【0028】
手段10では、手段1~9のいずれかにおいて、前記界磁子は、表面磁石型の界磁子であり、周方向に極数分の磁石を有しており、1極分の前記磁石の周方向の幅をW、前記磁石と前記電機子コアとの間の径方向距離をLgとする場合に、W/Lg=2.5~7である。
【0029】
表面磁石型のティースレス回転電機において、1極分の磁石の周方向の幅Wと、磁石及び電機子コアの間の径方向距離Lgとの比である「W/Lg」は、電機子巻線の1ターン当たりのトルクを示すトルク定数[Nm/A]と相関があり、「W/Lg」が大きくなるほど、トルク定数が大きくなる。ただしこの場合、「W/Lg」の増加に対するトルク定数の増加の傾きは、「W/Lg」の大きさに依存して異なるものとなる。詳しくは、「W/Lg」とトルク定数とには図66に示す相関があり、その相関では「W/Lg」に対するトルク定数の傾きが変化する変曲点が存在する。この場合、「W/Lg」を変曲点付近の範囲A内で定めることで、磁気装荷と電気装荷との良好なバランスを実現することができる。つまり、「W/Lg」が範囲Aよりも小さい場合には、磁気装荷が過少になることに起因するトルクダウンの懸念が生じる一方、「W/Lg」が範囲Aよりも大きい場合には、「W/Lg」を大きくしてもトルク定数の増加がさほど見込めなくなる。そこで、変曲点付近での「W/Lg」を採用し、具体的には、「W/Lg=2.5~7」とする。なお、図66の関係では、磁石として焼結ネオジム磁石を用い、磁石厚さを極ピッチの1/2としている。
【0030】
手段11では、手段1~10のいずれかにおいて、前記界磁子は、表面磁石型の界磁子であり、周方向に極数分の磁石を有しており、前記磁石は、磁極中心であるd軸の側において、磁極境界であるq軸の側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされているか、又は、互いに対向しかつ磁束の流入流出面となる一対の作用面に対して磁石容易軸の向き傾いており、かつその傾斜の向きが、前記電機子巻線の側でd軸に近づくようにd軸に対して傾斜する向きとなっている。
【0031】
上記構成では、各磁極における磁石磁束の強化が可能となる反面、渦電流損の増加が懸念される。この点、電機子巻線を、導線材を多重に巻回してなる部分巻線を用いた構成としたため、渦電流損の低減が可能となっている。なお、部分巻線において、導線材が、複数の素線が撚り合わされた撚り線により構成されていると、より一層の渦電流の低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本開示についての上記目的およびその他の目的、特徴や利点は、添付の図面を参照しながら下記の詳細な記述により、より明確になる。その図面は、
図1図1は、第1実施形態における回転電機の全体を示す斜視図であり、
図2図2は、回転電機の平面図であり、
図3図3は、回転電機の縦断面図であり、
図4図4は、回転電機の横断面図であり、
図5図5は、回転電機の分解断面図であり、
図6図6は、回転子の断面図であり、
図7図7は、磁石ユニットの断面構造を示す部分横断面図であり、
図8図8は、実施形態の磁石について電気角と磁束密度との関係を示す図であり、
図9図9は、比較例の磁石について電気角と磁束密度との関係を示す図であり、
図10図10は、固定子ユニットの斜視図であり、
図11図11は、固定子ユニットの縦断面図であり、
図12図12は、コアアセンブリを軸方向一方側から見た斜視図であり、
図13図13は、コアアセンブリを軸方向他方側から見た斜視図であり、
図14図14は、コアアセンブリの横断面図であり、
図15図15は、コアアセンブリの分解断面図であり、
図16図16は、3相の各相巻線における部分巻線の接続状態を示す回路図であり、
図17図17は、第1コイルモジュールと第2コイルモジュールとを横に並べて対比して示す側面図であり、
図18図18は、第1部分巻線と第2部分巻線とを横に並べて対比して示す側面図であり、
図19図19は、第1コイルモジュールの構成を示す図であり、
図20図20は、図19(a)における20-20線断面図であり、
図21図21は、絶縁カバーの構成を示す斜視図であり、
図22図22は、第2コイルモジュールの構成を示す図であり、
図23図23は、図22(a)における23-23線断面図であり、
図24図24は、絶縁カバーの構成を示す斜視図であり、
図25図25は、各コイルモジュールを周方向に並べた状態でのフィルム材のオーバーラップ位置を示す図であり、
図26図26は、コアアセンブリに対する第1コイルモジュールの組み付け状態を示す平面図であり、
図27図27は、コアアセンブリに対する第1コイルモジュール及び第2コイルモジュールの組み付け状態を示す平面図であり、
図28図28は、固定ピンによる固定状態を示す縦断面図であり、
図29図29は、バスバーモジュールの斜視図であり、
図30図30は、バスバーモジュールの縦断面の一部を示す断面図であり、
図31図31は、固定子ホルダにバスバーモジュールを組み付けた状態を示す斜視図であり、
図32図32は、バスバーモジュールを固定する固定部分における縦断面図であり、
図33図33は、ハウジングカバーに中継部材を取り付けた状態を示す縦断面図であり、
図34図34は、中継部材の斜視図であり、
図35図35は、回転電機の制御システムを示す電気回路図であり、
図36図36は、制御装置による電流フィードバック制御処理を示す機能ブロック図であり、
図37図37は、制御装置によるトルクフィードバック制御処理を示す機能ブロック図であり、
図38図38は、変形例において磁石ユニットの断面構造を示す部分横断面図であり、
図39図39は、インナロータ構造の固定子ユニットの構成を示す図であり、
図40図40は、コアアセンブリに対するコイルモジュールの組み付け状態を示す平面図であり、
図41図41は、第2実施形態における回転電機の全体を示す斜視図であり、
図42図42は、回転電機の平面図であり、
図43図43は、回転電機の縦断面図であり、
図44図44は、回転電機の横断面図であり、
図45図45は、回転電機の横断面図であり、
図46図46は、回転電機の分解断面図であり、
図47図47は、固定子ユニットの分解斜視図であり、
図48図48は、固定子の分解斜視図であり、
図49図49は、固定子の分解斜視図であり、
図50図50は、固定子ユニットの分解断面図であり、
図51図51は、部分巻線の構成を示す斜視図であり、
図52図52は、部分巻線において絶縁カバーを分解して示す分解斜視図であり、
図53図53は、部分巻線の構成を示す斜視図であり、
図54図54は、部分巻線において絶縁カバーを分解して示す分解斜視図であり、
図55図55は、部分巻線を周方向に並べて配置した状態を示す平面図であり、
図56図56は、固定子ホルダの横断面図であり、
図57図57は、固定子ユニットを配線モジュールの側から見た斜視図であり、
図58図58は、回転電機を固定部分と回転部分とで分割して示す分解断面図であり、
図59図59は、各磁石の磁石磁路の向きを示す図であり、
図60図60は、固定子コアの径方向外側に部分巻線を配置した状態を示す概略図であり、
図61図61は、中間導線部を拡大して示す横断面図であり、
図62図62は、回転子と固定子とを平面展開して示す概略図であり、
図63図63は、部分巻線の製造方法を説明するための図であり、
図64図64は、固定子コアの径方向外側に部分巻線を配置した状態を示す概略図であり、
図65図65は、(a)は4極の場合の固定子巻線を示す斜視図、(b)は8極の場合の固定子巻線を示す斜視図であり、
図66図66は、W/Lgとトルク定数との関係を示す図であり、
図67図67は、中間導線部を拡大して示す横断面図であり、
図68図68は、中間導線部を拡大して示す横断面図であり、
図69図69は、部分巻線の製造方法を説明するための図であり、
図70図70は、中間導線部を拡大して示す横断面図であり、
図71図71は、固定子コアに対する部分巻線の組み付け状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/又は関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0034】
本実施形態における回転電機は、例えば車両動力源として用いられるものとなっている。ただし、回転電機は、産業用、車両用、航空機用、家電用、OA機器用、遊技機用などとして広く用いられることが可能となっている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0035】
(第1実施形態)
本実施形態に係る回転電機10は、同期式多相交流モータであり、アウタロータ構造(外転構造)のものとなっている。回転電機10の概要を図1図5に示す。図1は、回転電機10の全体を示す斜視図であり、図2は、回転電機10の平面図であり、図3は、回転電機10の縦断面図(図2の3-3線断面図)であり、図4は、回転電機10の横断面図(図3の4-4線断面図)であり、図5は、回転電機10の構成要素を分解して示す分解断面図である。以下の記載では、回転電機10において、回転軸11が延びる方向を軸方向とし、回転軸11の中心から放射状に延びる方向を径方向とし、回転軸11を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。
【0036】
回転電機10は、大別して、回転子20、固定子ユニット50及びバスバーモジュール200を有する回転電機本体と、その回転電機本体を囲むように設けられるハウジング241及びハウジングカバー242とを備えている。これら各部材はいずれも、回転子20に一体に設けられた回転軸11に対して同軸に配置されており、所定順序で軸方向に組み付けられることで回転電機10が構成されている。回転軸11は、固定子ユニット50及びハウジング241にそれぞれ設けられた一対の軸受12,13に支持され、その状態で回転可能となっている。なお、軸受12,13は、例えば内輪と外輪とそれらの間に配置された複数の玉とを有するラジアル玉軸受である。回転軸11の回転により、例えば車両の車軸が回転する。回転電機10は、ハウジング241が車体フレーム等に固定されることにより車両に搭載可能となっている。
【0037】
回転電機10において、固定子ユニット50は回転軸11を囲むように設けられ、その固定子ユニット50の径方向外側に回転子20が配置されている。固定子ユニット50は、固定子60と、その径方向内側に組み付けられた固定子ホルダ70とを有している。回転子20と固定子60とはエアギャップを挟んで径方向に対向配置されており、回転子20が回転軸11と共に一体回転することにより、固定子60の径方向外側にて回転子20が回転する。回転子20が「界磁子」に相当し、固定子60が「電機子」に相当する。
【0038】
図6は、回転子20の縦断面図である。図6に示すように、回転子20は、略円筒状の回転子キャリア21と、その回転子キャリア21に固定された環状の磁石ユニット22とを有している。回転子キャリア21は、円筒状をなす円筒部23と、その円筒部23の軸方向一端に設けられた端板部24とを有しており、それらが一体化されることで構成されている。回転子キャリア21は、磁石保持部材として機能し、円筒部23の径方向内側に環状に磁石ユニット22が固定されている。端板部24には貫通孔24aが形成されており、その貫通孔24aに挿通された状態で、ボルト等の締結具25により端板部24に回転軸11が固定されている。回転軸11は、軸方向に交差(直交)する向きに延びるフランジ11aを有しており、そのフランジ11aと端板部24とが面接合されている状態で、回転軸11に回転子キャリア21が固定されている。
【0039】
磁石ユニット22は、円筒状の磁石ホルダ31と、その磁石ホルダ31の内周面に固定された複数の磁石32と、軸方向両側のうち回転子キャリア21の端板部24とは逆側に固定されたエンドプレート33とを有している。磁石ホルダ31は、軸方向において磁石32と同じ長さ寸法を有している。磁石32は、磁石ホルダ31に径方向外側から包囲された状態で設けられている。磁石ホルダ31及び磁石32は、軸方向一方側の端部においてエンドプレート33に当接した状態で固定されている。磁石ユニット22が「磁石部」に相当する。
【0040】
図7は、磁石ユニット22の断面構造を示す部分横断面図である。図7には、磁石32の磁化容易軸の向きを矢印にて示している。
【0041】
磁石ユニット22において、磁石32は、回転子20の周方向に沿って極性が交互に変わるように並べて設けられている。これにより、磁石ユニット22は、周方向に複数の磁極を有する。磁石32は、極異方性の永久磁石であり、固有保磁力が400[kA/m]以上であり、かつ残留磁束密度Brが1.0[T]以上である焼結ネオジム磁石を用いて構成されている。
【0042】
磁石32において径方向内側(固定子60側)の周面が、磁束の授受が行われる磁束作用面34である。磁石ユニット22は、磁石32の磁束作用面34において、磁極中心であるd軸付近の領域に集中的に磁束を生じさせるものとなっている。具体的には、磁石32では、d軸側(d軸寄りの部分)とq軸側(q軸寄りの部分)とで磁化容易軸の向きが相違しており、d軸側では磁化容易軸の向きがd軸に平行する向きとなり、q軸側では磁化容易軸の向きがq軸に直交する向きとなっている。この場合、磁化容易軸の向きに沿って円弧状の磁石磁路が形成されている。要するに、磁石32は、磁極中心であるd軸の側において、磁極境界であるq軸の側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされて構成されている。
【0043】
磁石32において、磁石磁路が円弧状に形成されていることにより、磁石32の径方向の厚さ寸法よりも磁石磁路長が長くなっている。これにより、磁石32のパーミアンスが上昇し、同じ磁石量でありながら、磁石量の多い磁石と同等の能力を発揮させることが可能となっている。
【0044】
磁石32は、周方向に隣り合う2つを1組として1磁極を構成するものとなっている。つまり、磁石ユニット22において周方向に並ぶ複数の磁石32は、d軸及びq軸にそれぞれ割面を有するものとなっており、それら各磁石32が互いに当接又は近接した状態で配置されている。磁石32は、上記のとおり円弧状の磁石磁路を有しており、q軸では周方向に隣り合う磁石32どうしでN極とS極とが向かい合うこととなる。そのため、q軸近傍でのパーミアンスの向上を図ることができる。また、q軸を挟んで両側の磁石32は互いに吸引し合うため、これら各磁石32は互いの接触状態を保持できる。そのため、やはりパーミアンスの向上に寄与するものとなっている。
【0045】
磁石ユニット22では、各磁石32により、隣接するN,S極間を円弧状に磁束が流れるため、例えばラジアル異方性磁石に比べて磁石磁路が長くなっている。このため、図8に示すように、磁束密度分布が正弦波に近いものとなる。その結果、図9に比較例として示すラジアル異方性磁石の磁束密度分布とは異なり、磁極の中心側に磁束を集中させることができ、回転電機10のトルクを高めることが可能となっている。また、本実施形態の磁石ユニット22では、従来のハルバッハ配列の磁石と比べても、磁束密度分布の差異があることが確認できる。なお、図8及び図9において、横軸は電気角を示し、縦軸は磁束密度を示す。また、図8及び図9において、横軸の90°はd軸(すなわち磁極中心)を示し、横軸の0°,180°はq軸を示す。
【0046】
つまり、上記構成の各磁石32によれば、磁石ユニット22においてd軸での磁石磁束が強化され、かつq軸付近での磁束変化が抑えられる。これにより、各磁極においてq軸からd軸にかけての表面磁束変化がなだらかになる磁石ユニット22を好適に実現することができる。
【0047】
磁束密度分布の正弦波整合率は、例えば40%以上の値とされていればよい。このようにすれば、正弦波整合率が30%程度であるラジアル配向磁石、パラレル配向磁石を用いる場合に比べ、確実に波形中央部分の磁束量を向上させることができる。また、正弦波整合率を60%以上とすれば、ハルバッハ配列のような磁束集中配列と比べ、確実に波形中央部分の磁束量を向上させることができる。
【0048】
図9に示すラジアル異方性磁石では、q軸付近において磁束密度が急峻に変化する。磁束密度の変化が急峻なほど、後述する固定子60の固定子巻線61において渦電流が増加してしまう。また、固定子巻線61側での磁束変化も急峻となる。これに対し、本実施形態では、磁束密度分布が正弦波に近い磁束波形となる。このため、q軸付近において、磁束密度の変化が、ラジアル異方性磁石の磁束密度の変化よりも小さい。これにより、渦電流の発生を抑制することができる。
【0049】
磁石32には、径方向外側の外周面に、d軸を含む所定範囲で凹部35が形成されているとともに、径方向内側の内周面に、q軸を含む所定範囲で凹部36が形成されている。この場合、磁石32の磁化容易軸の向きによれば、磁石32の外周面においてd軸付近で磁石磁路が短くなるとともに、磁石32の内周面においてq軸付近で磁石磁路が短くなる。そこで、磁石32において磁石磁路長が短い場所で十分な磁石磁束を生じさせることが困難になることを考慮して、その磁石磁束の弱い場所で磁石が削除されている。
【0050】
なお、磁石ユニット22において、磁極と同じ数の磁石32を用いる構成としてもよい。例えば、磁石32が、周方向に隣り合う2磁極において各磁極の中心であるd軸間を1磁石として設けられるとよい。この場合、磁石32は、周方向の中心がq軸となり、かつd軸に割面を有する構成となっている。また、磁石32が、周方向の中心をq軸とする構成でなく、周方向の中心をd軸とする構成であってもよい。磁石32として、磁極数の2倍の数の磁石、又は磁極数と同じ数の磁石を用いる構成に代えて、円環状に繋がった円環磁石を用いる構成であってもよい。
【0051】
図3に示すように、回転軸11の軸方向両側のうち回転子キャリア21との結合部の逆側の端部(図の上側の端部)には、回転センサとしてのレゾルバ41が設けられている。レゾルバ41は、回転軸11に固定されるレゾルバロータと、そのレゾルバロータの径方向外側に対向配置されたレゾルバステータとを備えている。レゾルバロータは、円板リング状をなしており、回転軸11を挿通させた状態で、回転軸11に同軸に設けられている。レゾルバステータは、ステータコアとステータコイルとを有し、ハウジングカバー242に固定されている。
【0052】
次に、固定子ユニット50の構成を説明する。図10は、固定子ユニット50の斜視図であり、図11は、固定子ユニット50の縦断面図である。なお、図11は、図3と同じ位置での縦断面図である。
【0053】
固定子ユニット50は、その概要として、固定子60とその径方向内側の固定子ホルダ70とを有している。また、固定子60は、固定子巻線61と固定子コア62とを有している。そして、固定子コア62と固定子ホルダ70とを一体化してコアアセンブリCAとして設け、そのコアアセンブリCAに対して、固定子巻線61を構成する複数の部分巻線151を組み付ける構成としている。なお、固定子巻線61が「電機子巻線」に相当し、固定子コア62が「電機子コア」に相当し、固定子ホルダ70が「電機子保持部材」に相当する。また、コアアセンブリCAが「支持部材」に相当する。
【0054】
ここではまず、コアアセンブリCAについて説明する。図12は、コアアセンブリCAを軸方向一方側から見た斜視図であり、図13は、コアアセンブリCAを軸方向他方側から見た斜視図であり、図14は、コアアセンブリCAの横断面図であり、図15は、コアアセンブリCAの分解断面図である。
【0055】
コアアセンブリCAは、上述したとおり固定子コア62と、その径方向内側に組み付けられた固定子ホルダ70とを有している。言うなれば、固定子ホルダ70の外周面に固定子コア62が一体に組み付けられて構成されている。
【0056】
固定子コア62は、磁性体である電磁鋼板からなるコアシート62aが軸方向に積層されたコアシート積層体として構成されており、径方向に所定の厚さを有する円筒状をなしている。固定子コア62において回転子20側となる径方向外側には固定子巻線61が組み付けられている。固定子コア62の外周面は凹凸のない曲面状をなしている。固定子コア62はバックヨークとして機能する。固定子コア62は、例えば円環板状に打ち抜き形成された複数枚のコアシート62aが軸方向に積層されて構成されている。ただし、固定子コア62としてヘリカルコア構造を有するものを用いてもよい。ヘリカルコア構造の固定子コア62では、帯状のコアシートが用いられ、このコアシートが環状に巻回形成されるとともに軸方向に積層されることで、全体として円筒状の固定子コア62が構成されている。
【0057】
本実施形態において、固定子60は、スロットを形成するためのティースを有していないスロットレス構造を有するものであるが、その構成は以下の(A)~(C)のいずれかを用いたものであってもよい。
(A)固定子60において、周方向における各導線部(後述する中間導線部152)の間に導線間部材を設け、かつその導線間部材として、1磁極における導線間部材の周方向の幅寸法をWt、導線間部材の飽和磁束密度をBs、1磁極における磁石32の周方向の幅寸法をWm、磁石32の残留磁束密度をBrとした場合に、Wt×Bs≦Wm×Brの関係となる磁性材料を用いている。
(B)固定子60において、周方向における各導線部(中間導線部152)の間に導線間部材を設け、かつその導線間部材として、非磁性材料を用いている。
(C)固定子60において、周方向における各導線部(中間導線部152)の間に導線間部材を設けていない構成となっている。
【0058】
また、図15に示すように、固定子ホルダ70は、外筒部材71と内筒部材81とを有し、外筒部材71を径方向外側、内筒部材81を径方向内側にしてそれらが一体に組み付けられることにより構成されている。これら各部材71,81は、例えばアルミニウムや鋳鉄等の金属、又は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)により構成されている。
【0059】
外筒部材71は、外周面及び内周面をいずれも真円状の曲面とする円筒部材であり、軸方向一端側には、径方向内側に延びる環状のフランジ72が形成されている。このフランジ72には、周方向に所定間隔で、径方向内側に延びる複数の突出部73が形成されている(図13参照)。また、外筒部材71において軸方向一端側及び他端側には、それぞれ内筒部材81に軸方向に対向する対向面74,75が形成されており、その対向面74,75には、環状に延びる環状溝74a,75aが形成されている。
【0060】
また、内筒部材81は、外筒部材71の内径寸法よりも小さい外径寸法を有する円筒部材であり、その外周面は、外筒部材71と同心の真円状の曲面となっている。内筒部材81において軸方向一端側には、径方向外側に延びる環状のフランジ82が形成されている。内筒部材81は、外筒部材71の対向面74,75に軸方向に当接した状態で、外筒部材71に組み付けられるようになっている。図13に示すように、外筒部材71及び内筒部材81は、ボルト等の締結具84により互いに組み付けられている。具体的には、内筒部材81の内周側には、周方向に所定間隔で、径方向内側に延びる複数の突出部83が形成されており、その突出部83の軸方向端面と外筒部材71の突出部73とが重ね合わされた状態で、その突出部73,83どうしが締結具84により締結されている。
【0061】
図14に示すように、外筒部材71と内筒部材81とが互いに組み付けられた状態において、外筒部材71の内周面と内筒部材81の外周面との間には環状の隙間が形成されており、その隙間空間が、冷却水等の冷媒を流通させる冷媒通路85となっている。冷媒通路85は、固定子ホルダ70の周方向に環状に設けられている。より詳しくは、内筒部材81には、その内周側において径方向内側に突出し、かつその内部に入口側通路86と出口側通路87とが形成された通路形成部88が設けられており、それら各通路86,87は内筒部材81の外周面に開口している。また、内筒部材81の外周面には、冷媒通路85を入口側と出口側とに仕切るための仕切り部89が設けられている。これにより、入口側通路86から流入する冷媒は、冷媒通路85を周方向に流れ、その後、出口側通路87から流出する。
【0062】
入口側通路86及び出口側通路87は、その一端側が径方向に延びて内筒部材81の外周面に開口するとともに、他端側が軸方向に延びて内筒部材81の軸方向端面に開口するようになっている。図12には、入口側通路86に通じる入口開口86aと、出口側通路87に通じる出口開口87aとが示されている。なお、入口側通路86及び出口側通路87は、ハウジングカバー242に取り付けられた入口ポート244及び出口ポート245(図1参照)に通じており、それら各ポート244,245を介して冷媒が出入りするようになっている。
【0063】
外筒部材71と内筒部材81との接合部分には、冷媒通路85の冷媒の漏れを抑制するためのシール材101,102が設けられている(図15参照)。具体的には、シール材101,102は例えばOリングであり、外筒部材71の環状溝74a,75aに収容され、かつ外筒部材71及び内筒部材81により圧縮された状態で設けられている。
【0064】
また、図12に示すように、内筒部材81は、軸方向一端側に端板部91を有しており、その端板部91には、軸方向に延びる中空筒状のボス部92が設けられている。ボス部92は、回転軸11を挿通させるための挿通孔93を囲むように設けられている。ボス部92には、ハウジングカバー242を固定するための複数の締結部94が設けられている。また、端板部91には、ボス部92の径方向外側に、軸方向に延びる複数の支柱部95が設けられている。この支柱部95は、バスバーモジュール200を固定するための固定部となる部位であるが、その詳細は後述する。また、ボス部92は、軸受12を保持する軸受保持部材となっており、その内周部に設けられた軸受固定部96に軸受12が固定されている(図3参照)。
【0065】
また、図12図13に示すように、外筒部材71及び内筒部材81には、後述する複数のコイルモジュール150を固定するために用いる凹部105,106が形成されている。
【0066】
具体的には、図12に示すように、内筒部材81の軸方向端面、詳しくは端板部91においてボス部92の周囲となる軸方向外側端面には、周方向に等間隔で複数の凹部105が形成されている。また、図13に示すように、外筒部材71の軸方向端面、詳しくはフランジ72の軸方向外側の端面には、周方向に等間隔で複数の凹部106が形成されている。これら凹部105,106は、コアアセンブリCAと同心の仮想円上に並ぶように設けられている。凹部105,106は、周方向において同一となる位置にそれぞれ設けられ、その間隔及び個数も同じである。
【0067】
ところで、固定子コア62は、固定子ホルダ70に対する組み付けの強度を確保すべく、固定子ホルダ70に対する径方向の圧縮力を生じる状態で組み付けられている。具体的には、焼きばめ又は圧入により、固定子ホルダ70に対して所定の締め代で固定子コア62が嵌合固定されている。この場合、固定子コア62及び固定子ホルダ70は、そのうち一方による他方への径方向の応力が生じる状態で組み付けられていると言える。また、回転電機10を高トルク化する場合には、例えば固定子60を大径化することが考えられ、かかる場合には固定子ホルダ70に対する固定子コア62の結合を強固にすべく固定子コア62の締め付け力が増大される。しかしながら、固定子コア62の圧縮応力(換言すれば残留応力)を大きくすると、固定子コア62の破損が生じることが懸念される。
【0068】
そこで本実施形態では、固定子コア62及び固定子ホルダ70が互いに所定の締め代で嵌合固定されている構成において、固定子コア62及び固定子ホルダ70における径方向の互いの対向部分に、周方向の係合により固定子コア62の周方向の変位を規制する規制部を設ける構成としている。つまり、図12図14に示すように、径方向において固定子コア62と固定子ホルダ70の外筒部材71との間には、周方向に所定間隔で、規制部としての複数の係合部材111が設けられており、その係合部材111により、固定子コア62と固定子ホルダ70との周方向の位置ずれが抑制されている。なおこの場合、固定子コア62及び外筒部材71の少なくともいずれかに凹部を設け、その凹部において係合部材111を係合させる構成とするとよい。係合部材111に代えて、固定子コア62及び外筒部材71のいずれかに凸部を設ける構成としてもよい。
【0069】
上記構成では、固定子コア62及び固定子ホルダ70(外筒部材71)は、所定の締め代で嵌合固定されることに加え、係合部材111の規制により相互の周方向変位が規制された状態で設けられている。したがって、仮に固定子コア62及び固定子ホルダ70における締め代が比較的小さくても、固定子コア62の周方向の変位を抑制できる。また、締め代が比較的小さくても所望の変位抑制効果が得られるため、締め代が過剰に大きいことに起因する固定子コア62の破損を抑制できる。その結果、固定子コア62の変位を適正に抑制することができる。
【0070】
内筒部材81の内周側には、回転軸11を囲むようにして環状の内部空間が形成されており、その内部空間に、例えば電力変換器としてのインバータを構成する電気部品が配置される構成としてもよい。電気部品は、例えば半導体スイッチング素子やコンデンサをパッケージ化した電気モジュールである。内筒部材81の内周面に当接した状態で電気モジュールを配置することにより、冷媒通路85を流れる冷媒による電気モジュールの冷却が可能となっている。なお、内筒部材81の内周側において、複数の突出部83を無くし、又は突出部83の突出高さを小さくし、これにより内筒部材81の内周側の内部空間を拡張することも可能である。
【0071】
次に、コアアセンブリCAに対して組み付けられる固定子巻線61の構成を詳しく説明する。コアアセンブリCAに対して固定子巻線61が組み付けられた状態は、図10図11に示すとおりであり、コアアセンブリCAの径方向外側、すなわち固定子コア62の径方向外側に、固定子巻線61を構成する複数の部分巻線151が周方向に並ぶ状態で組み付けられている。
【0072】
固定子巻線61は、複数の相巻線を有し、各相の相巻線が周方向に所定順序で配置されることで円筒状(環状)に形成されている。本実施形態では、U相、V相及びW相の相巻線を用いることで、固定子巻線61が3相の相巻線を有する構成となっている。
【0073】
図11に示すように、固定子60は、軸方向において、回転子20における磁石ユニット22に径方向に対向するコイルサイドCSに相当する部分と、そのコイルサイドCSの軸方向外側であるコイルエンドCEに相当する部分とを有している。この場合、固定子コア62は、軸方向においてコイルサイドCSに相当する範囲で設けられている。
【0074】
固定子巻線61において各相の相巻線は各々複数の部分巻線151を有しており(図16参照)、その部分巻線151は個別にコイルモジュール150として設けられている。つまり、コイルモジュール150は、各相の相巻線における部分巻線151が一体に設けられて構成されており、極数に応じた所定数のコイルモジュール150により固定子巻線61が構成されている。各相のコイルモジュール150(部分巻線151)が周方向に所定順序で並べて配置されることで、固定子巻線61のコイルサイドCSにおいて各相の導線部が所定順序に並べて配置されるものとなっている。図10には、コイルサイドCSにおけるU相、V相及びW相の導線部の並び順が示されている。本実施形態では、磁極数を24としているが、その数は任意である。
【0075】
固定子巻線61では、相ごとに各コイルモジュール150の部分巻線151が並列又は直列に接続されることにより、各相の相巻線が構成されている。図16は、3相の各相巻線における部分巻線151の接続状態を示す回路図である。図16では、各相の相巻線における部分巻線151がそれぞれ並列に接続された状態が示されている。
【0076】
図11に示すように、コイルモジュール150は固定子コア62の径方向外側に組み付けられている。この場合、コイルモジュール150は、その軸方向両端部分が固定子コア62よりも軸方向外側(すなわちコイルエンドCE側)に突出した状態で組み付けられている。つまり、固定子巻線61は、固定子コア62よりも軸方向外側に突出したコイルエンドCEに相当する部分と、それよりも軸方向内側のコイルサイドCSに相当する部分とを有している。
【0077】
コイルモジュール150は、2種類の形状を有するものとなっており、その一方は、コイルエンドCEにおいて部分巻線151が径方向内側、すなわち固定子コア62側に折り曲げられた形状を有するものであり、他方は、コイルエンドCEにおいて部分巻線151が径方向内側に折り曲げられておらず、軸方向に直線状に延びる形状を有するものである。以下の説明では、便宜を図るべく、軸方向両端側に屈曲形状を有する部分巻線151を「第1部分巻線151A」、その第1部分巻線151Aを有するコイルモジュール150を「第1コイルモジュール150A」とも称する。また、軸方向両端側の屈曲形状を有していない部分巻線151を「第2部分巻線151B」、その第2部分巻線151Bを有するコイルモジュール150を「第2コイルモジュール150B」とも称する。
【0078】
図17は、第1コイルモジュール150Aと第2コイルモジュール150Bとを横に並べて対比して示す側面図であり、図18は、第1部分巻線151Aと第2部分巻線151Bとを横に並べて対比して示す側面図である。これら各図に示すように、各コイルモジュール150A,150B、各部分巻線151A,151Bは、軸方向長さが互いに異なり、かつ軸方向両側の端部形状が互いに異なるものとなっている。第1部分巻線151Aは、側面視において略C字状をなし、第2部分巻線151Bは、側面視において略I字状をなしている。第1部分巻線151Aには、軸方向両側に「第1絶縁カバー」としての絶縁カバー161,162が装着され、第2部分巻線151Bには、軸方向両側に「第2絶縁カバー」としての絶縁カバー163,164が装着されている。
【0079】
次に、コイルモジュール150A,150Bの構成を詳しく説明する。
【0080】
ここではまず、コイルモジュール150A,150Bのうち第1コイルモジュール150Aについて説明する。図19(a)は、第1コイルモジュール150Aの構成を示す斜視図であり、図19(b)は、第1コイルモジュール150Aにおいて構成部品を分解して示す斜視図である。また、図20は、図19(a)における20-20線断面図である。
【0081】
図19(a),(b)に示すように、第1コイルモジュール150Aは、導線材CRを多重巻にして構成された第1部分巻線151Aと、その第1部分巻線151Aにおいて軸方向一端側及び他端側に取り付けられた絶縁カバー161,162とを有している。絶縁カバー161,162は合成樹脂等の絶縁材料により成形されている。
【0082】
第1部分巻線151Aは、互いに平行でかつ直線状に設けられる一対の中間導線部152と、一対の中間導線部152を軸方向両端でそれぞれ接続する一対の渡り部153Aとを有しており、これら一対の中間導線部152と一対の渡り部153Aとにより環状に形成されている。一対の中間導線部152は、所定のコイルピッチ分を離して設けられており、周方向において一対の中間導線部152の間に、他相の部分巻線151の中間導線部152が配置可能となっている。本実施形態では、一対の中間導線部152は2コイルピッチ分を離して設けられ、一対の中間導線部152の間に、他2相の部分巻線151における中間導線部152が1つずつ配置される構成となっている。
【0083】
一対の渡り部153Aは、軸方向両側でそれぞれ同じ形状となっており、いずれもコイルエンドCE(図11参照)に相当する部分として設けられている。各渡り部153Aは、中間導線部152に対して直交する向き、すなわち軸方向に直交する方向に折り曲がるようにして設けられている。
【0084】
図18に示すように、第1部分巻線151Aは、軸方向両側に渡り部153Aを有し、第2部分巻線151Bは、軸方向両側に渡り部153Bを有している。これら各部分巻線151A,151Bの渡り部153A,153Bはその形状が互いに異なっており、その区別を明確にすべく、第1部分巻線151Aの渡り部153Aを「第1渡り部153A」、第2部分巻線151Bの渡り部153Bを「第2渡り部153B」とも記載する。
【0085】
各部分巻線151A,151Bにおいて、中間導線部152は、コイルサイドCSにおいて周方向に1つずつ並ぶコイルサイド導線部として設けられている。また、各渡り部153A,153Bは、コイルエンドCEにおいて、周方向に異なる2位置の同相の中間導線部152どうしを接続するコイルエンド導線部として設けられている。
【0086】
図20に示すように、第1部分巻線151Aは、導線集合部分の横断面が四角形になるように導線材CRが多重に巻回されて形成されている。図20は、中間導線部152の横断面を示しており、その中間導線部152において周方向及び径方向に並ぶように導線材CRが多重に巻回されている。つまり、第1部分巻線151Aは、中間導線部152において導線材CRが周方向に複数列で並べられ、かつ径方向に複数列で並べられることで、横断面が略矩形状となるように形成されている。なお、第1渡り部153Aの先端部では、径方向への折れ曲がりにより、導線材CRが軸方向及び径方向に並ぶように多重に巻回される構成となっている。本実施形態では、導線材CRを同心巻により巻回することで第1部分巻線151Aが構成されている。ただし、導線材CRの巻き方は任意であり、同心巻に代えて、アルファ巻により導線材CRが多重に巻回されていてもよい。
【0087】
第1部分巻線151Aでは、軸方向両側の第1渡り部153Aのうち、一方の第1渡り部153A(図19(b)の上側の第1渡り部153A)から導線材CRの端部が引き出されており、その端部が巻線端部154,155となっている。巻線端部154,155は、それぞれ導線材CRの巻き始め及び巻き終わりとなる部分である。巻線端部154,155のうち一方が電流入出力端子に接続され、他方が中性点に接続されるようになっている。
【0088】
第1部分巻線151Aにおいて各中間導線部152には、シート状の絶縁被覆体157が被せられた状態で設けられている。なお、図19(a)には、第1コイルモジュール150Aが、中間導線部152に絶縁被覆体157が被せられ、かつ絶縁被覆体157の内側に中間導線部152が存在する状態で示されているが、便宜上、その該当部分を中間導線部152としている(後述する図22(a)も同様)。
【0089】
絶縁被覆体157は、軸方向寸法として少なくとも中間導線部152における軸方向の絶縁被覆範囲の長さを有するフィルム材FMを用い、そのフィルム材FMを中間導線部152の周囲に巻装することで設けられている。フィルム材FMは、例えばPEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムよりなる。より具体的には、フィルム材FMは、フィルム基材と、そのフィルム基材の両面のうち片面に設けられ、発泡性を有する接着層とを含む。そして、フィルム材FMは、接着層により接着させた状態で、中間導線部152に対して巻装されている。なお、接着層として非発泡性の接着剤を用いることも可能である。
【0090】
図20に示すように、中間導線部152は、導線材CRが周方向及び径方向に並ぶことで横断面が略矩形状をなしており、中間導線部152の周囲には、フィルム材FMがその周方向の端部をオーバーラップさせた状態で被せられていることで、絶縁被覆体157が設けられている。フィルム材FMは、縦寸法が中間導線部152の軸方向長さよりも長く、かつ横寸法が中間導線部152の1周長さよりも長い矩形シートであり、中間導線部152の断面形状に合わせて折り目を付けた状態で中間導線部152に巻装されている。中間導線部152にフィルム材FMが巻装された状態では、中間導線部152の導線材CRとフィルム基材との間の隙間が接着層での発泡により埋められるようになっている。また、フィルム材FMのオーバーラップ部分OLでは、フィルム材FMの周方向の端部どうしが接着層により接合されている。
【0091】
中間導線部152では、2つの周方向側面及び2つの径方向側面においてそれらの全てを覆うようにして絶縁被覆体157が設けられている。この場合、中間導線部152を囲う絶縁被覆体157には、他相の部分巻線151における中間導線部152との対向部分、すなわち中間導線部152の2つの周方向側面のうち一方に、フィルム材FMがオーバーラップするオーバーラップ部分OLが設けられている。本実施形態では、一対の中間導線部152において、周方向の同じ側にオーバーラップ部分OLがそれぞれ設けられている。
【0092】
第1部分巻線151Aでは、中間導線部152から、軸方向両側の第1渡り部153Aにおいて絶縁カバー161,162により覆われた部分(すなわち絶縁カバー161,162の内側となる部分)までの範囲で、絶縁被覆体157が設けられている。図17で言えば、第1コイルモジュール150AにおいてAX1の範囲が絶縁カバー161,162により覆われていない部分であり、その範囲AX1よりも上下に拡張した範囲で絶縁被覆体157が設けられている。
【0093】
次に、絶縁カバー161,162の構成を説明する。
【0094】
絶縁カバー161は、第1部分巻線151Aの軸方向一方側の第1渡り部153Aに装着され、絶縁カバー162は、第1部分巻線151Aの軸方向他方側の第1渡り部153Aに装着される。このうち絶縁カバー161の構成を図21(a),(b)に示す。図21(a),(b)は、絶縁カバー161を異なる二方向から見た斜視図である。
【0095】
図21(a),(b)に示すように、絶縁カバー161は、周方向の側面となる一対の側面部171と、軸方向外側の外面部172と、軸方向内側の内面部173と、径方向内側の前面部174とを有している。これら各部171~174は、それぞれ板状に形成されており、径方向外側のみが開放されるようにして立体状に互いに結合されている。一対の側面部171はそれぞれ、コアアセンブリCAへの組み付け状態においてコアアセンブリCAの軸心に向けて延びる向きで設けられている。そのため、複数の第1コイルモジュール150Aが周方向に並べて配置された状態では、隣り合う各第1コイルモジュール150Aにおいて絶縁カバー161の側面部171どうしが当接又は接近状態で互いに対向する。これにより、周方向に隣接する各第1コイルモジュール150Aにおいて相互の絶縁が図られつつ好適なる環状配置が可能となっている。
【0096】
絶縁カバー161において、外面部172には、第1部分巻線151Aの巻線端部154を引き出すための開口部175aが設けられ、前面部174には、第1部分巻線151Aの巻線端部155を引き出すための開口部175bが設けられている。この場合、一方の巻線端部154は外面部172から軸方向に引き出されるのに対し、他方の巻線端部155は前面部174から径方向に引き出される構成となっている。
【0097】
また、絶縁カバー161において、一対の側面部171には、前面部174の周方向両端となる位置、すなわち各側面部171と前面部174とが交差する位置に、軸方向に延びる半円状の凹部177が設けられている。さらに、外面部172には、周方向における絶縁カバー161の中心線を基準として周方向両側に対称となる位置に、軸方向に延びる一対の突起部178が設けられている。
【0098】
絶縁カバー161の凹部177について説明を補足する。図20に示すように、第1部分巻線151Aの第1渡り部153Aは、径方向内外のうち径方向内側、すなわちコアアセンブリCAの側に凸となる湾曲状をなしている。かかる構成では、周方向に隣り合う第1渡り部153Aの間に、第1渡り部153Aの先端側ほど幅広となる隙間が形成される。そこで本実施形態では、周方向に並ぶ第1渡り部153Aの間の隙間を利用して、絶縁カバー161の側面部171において第1渡り部153Aの湾曲部の外側となる位置に凹部177を設ける構成としている。
【0099】
なお、第1部分巻線151Aに温度検出部(サーミスタ)を設ける構成としてもよく、かかる構成では、絶縁カバー161に、温度検出部から延びる信号線を引き出すための開口部を設けるとよい。この場合、絶縁カバー161内に温度検出部を好適に収容できる。
【0100】
図示による詳細な説明は割愛するが、軸方向他方の絶縁カバー162は、絶縁カバー161と概ね同様の構成を有している。絶縁カバー162は、絶縁カバー161と同様に、一対の側面部171と、軸方向外側の外面部172と、軸方向内側の内面部173と、径方向内側の前面部174とを有している。また、絶縁カバー162において、一対の側面部171には前面部174の周方向両端となる位置に半円状の凹部177が設けられるとともに、外面部172に一対の突起部178が設けられている。絶縁カバー161との相違点として、絶縁カバー162は、第1部分巻線151Aの巻線端部154,155を引き出すための開口部を有していない構成となっている。
【0101】
絶縁カバー161,162では、軸方向の高さ寸法(すなわち一対の側面部171及び前面部174における軸方向の幅寸法)が相違している。具体的には、図17に示すように、絶縁カバー161の軸方向の高さ寸法W11と絶縁カバー162の軸方向の高さ寸法W12は、W11>W12となっている。つまり、導線材CRを多重に巻回する場合には、巻線巻回方向(周回方向)に直交する向きに導線材CRの巻き段を切り替える(レーンチェンジする)必要があり、その切り替えに起因して巻線幅が大きくなることが考えられる。補足すると、絶縁カバー161,162のうち絶縁カバー161は、導線材CRの巻き始め及び巻き終わりを含む側の第1渡り部153Aを覆う部分であり、導線材CRの巻き始め及び巻き終わりを含むことにより、他の部分よりも導線材CRの巻き代(重なり代)が多くなり、その結果として巻線幅が大きくなることが生じうる。この点を加味して、絶縁カバー161の軸方向の高さ寸法W11が、絶縁カバー162の軸方向の高さ寸法W12よりも大きくなっている。これにより、絶縁カバー161,162の高さ寸法W11,W12が互いに同じ寸法である場合とは異なり、絶縁カバー161,162により導線材CRの巻き数が制限されるといった不都合が抑制されるようになっている。
【0102】
次に、第2コイルモジュール150Bについて説明する。
【0103】
図22(a)は、第2コイルモジュール150Bの構成を示す斜視図であり、図22(b)は、第2コイルモジュール150Bにおいて構成部品を分解して示す斜視図である。また、図23は、図22(a)における23-23線断面図である。
【0104】
図22(a),(b)に示すように、第2コイルモジュール150Bは、第1部分巻線151Aと同様に導線材CRを多重巻にして構成された第2部分巻線151Bと、その第2部分巻線151Bにおいて軸方向一端側及び他端側に取り付けられた絶縁カバー163,164とを有している。絶縁カバー163,164は合成樹脂等の絶縁材料により成形されている。
【0105】
第2部分巻線151Bは、互いに平行でかつ直線状に設けられる一対の中間導線部152と、一対の中間導線部152を軸方向両端でそれぞれ接続する一対の第2渡り部153Bとを有しており、これら一対の中間導線部152と一対の第2渡り部153Bとにより環状に形成されている。第2部分巻線151Bにおいて一対の中間導線部152は、第1部分巻線151Aの中間導線部152と構成が同じである。これに対して、一対の第2渡り部153Bは、第1部分巻線151Aの第1渡り部153Aとは構成が異なっている。第2部分巻線151Bの第2渡り部153Bは、径方向に折り曲げられることなく、中間導線部152から直線状に軸方向に延びるようにして設けられている。図18には、部分巻線151A,151Bの違いが対比して明示されている。
【0106】
第2部分巻線151Bでは、軸方向両側の第2渡り部153Bのうち、一方の第2渡り部153B(図22(b)の上側の第2渡り部153B)から導線材CRの端部が引き出されており、その端部が巻線端部154,155となっている。そして、第2部分巻線151Bでも、第1部分巻線151Aと同様に、巻線端部154,155のうち一方が電流入出力端子に接続され、他方が中性点に接続されるようになっている。
【0107】
第2部分巻線151Bでは、第1部分巻線151Aと同様に、各中間導線部152に、シート状の絶縁被覆体157が被せられた状態で設けられている。絶縁被覆体157は、軸方向寸法として少なくとも中間導線部152における軸方向の絶縁被覆範囲の長さを有するフィルム材FMを用い、そのフィルム材FMを中間導線部152の周囲に巻装することで設けられている。
【0108】
絶縁被覆体157に関する構成も、各部分巻線151A,151Bで概ね同様である。つまり、図23に示すように、中間導線部152の周囲には、フィルム材FMがその周方向の端部をオーバーラップさせた状態で被せられている。中間導線部152では、2つの周方向側面及び2つの径方向側面においてそれらの全てを覆うようにして絶縁被覆体157が設けられている。この場合、中間導線部152を囲う絶縁被覆体157には、他相の部分巻線151における中間導線部152との対向部分、すなわち中間導線部152の2つの周方向側面のうち一方に、フィルム材FMがオーバーラップするオーバーラップ部分OLが設けられている。本実施形態では、一対の中間導線部152において、周方向の同じ側にオーバーラップ部分OLがそれぞれ設けられている。
【0109】
第2部分巻線151Bでは、中間導線部152から、軸方向両側の第2渡り部153Bにおいて絶縁カバー163,164により覆われた部分(すなわち絶縁カバー163,164の内側となる部分)までの範囲で、絶縁被覆体157が設けられている。図17で言えば、第2コイルモジュール150BにおいてAX2の範囲が絶縁カバー163,164により覆われていない部分であり、その範囲AX2よりも上下に拡張した範囲で絶縁被覆体157が設けられている。
【0110】
各部分巻線151A,151Bでは、いずれにおいても絶縁被覆体157が渡り部153A,153Bの一部を含む範囲で設けられている。すなわち、各部分巻線151A,151Bには、中間導線部152と、渡り部153A,153Bのうち中間導線部152に引き続き直線状に延びる部分とに、絶縁被覆体157が設けられている。ただし、各部分巻線151A,151Bではその軸方向長さが相違していることから、絶縁被覆体157の軸方向範囲も異なるものとなっている。
【0111】
次に、絶縁カバー163,164の構成を説明する。
【0112】
絶縁カバー163は、第2部分巻線151Bの軸方向一方側の第2渡り部153Bに装着され、絶縁カバー164は、第2部分巻線151Bの軸方向他方側の第2渡り部153Bに装着される。このうち絶縁カバー163の構成を図24(a),(b)に示す。図24(a),(b)は、絶縁カバー163を異なる二方向から見た斜視図である。
【0113】
図24(a),(b)に示すように、絶縁カバー163は、周方向の側面となる一対の側面部181と、軸方向外側の外面部182と、径方向内側の前面部183と、径方向外側の後面部184とを有している。これら各部181~184は、それぞれ板状に形成されており、軸方向内側のみが開放されるようにして立体状に互いに結合されている。一対の側面部181はそれぞれ、コアアセンブリCAへの組み付け状態においてコアアセンブリCAの軸心に向けて延びる向きで設けられている。そのため、複数の第2コイルモジュール150Bが周方向に並べて配置された状態では、隣り合う各第2コイルモジュール150Bにおいて絶縁カバー163の側面部181どうしが当接又は接近状態で互いに対向する。これにより、周方向に隣接する各第2コイルモジュール150Bにおいて相互の絶縁が図られつつ好適なる環状配置が可能となっている。
【0114】
絶縁カバー163において、前面部183には、第2部分巻線151Bの巻線端部154を引き出すための開口部185aが設けられ、外面部182には、第2部分巻線151Bの巻線端部155を引き出すための開口部185bが設けられている。
【0115】
絶縁カバー163の前面部183には、径方向内側に突出する突出部186が設けられている。突出部186は、絶縁カバー163の周方向一端から他端までの間の中央となる位置に、第2渡り部153Bよりも径方向内側に突出するように設けられている。突出部186は、平面視において径方向内側ほど先細りになるテーパ形状をなしており、その先端部に、軸方向に延びる貫通孔187が設けられている。なお、突出部186は、第2渡り部153Bよりも径方向内側に突出し、かつ絶縁カバー163の周方向一端から他端までの間の中央となる位置に貫通孔187を有するものであれば、その構成は任意である。ただし、軸方向内側の絶縁カバー161との重なり状態を想定すると、巻線端部154,155との干渉を回避すべく周方向に幅狭に形成されていることが望ましい。
【0116】
突出部186は、径方向内側の先端部において軸方向の厚さが段差状に薄くなっており、その薄くなっている低段部186aに貫通孔187が設けられている。この低段部186aは、コアアセンブリCAに対する第2コイルモジュール150Bの組み付け状態において、内筒部材81の軸方向端面からの高さが、第2渡り部153Bの高さよりも低くなる部位に相当する。
【0117】
また、図23に示すように、突出部186には、軸方向に貫通する貫通孔188が設けられている。これにより、絶縁カバー161,163が軸方向に重なる状態において、貫通孔188を通じて、絶縁カバー161,163の間への接着剤の充填が可能となっている。
【0118】
図示による詳細な説明は割愛するが、軸方向他方の絶縁カバー164は、絶縁カバー163と概ね同様の構成を有している。絶縁カバー164は、絶縁カバー163と同様に、一対の側面部181と、軸方向外側の外面部182と、径方向内側の前面部183と、径方向外側の後面部184とを有するとともに、突出部186の先端部に設けられた貫通孔187を有している。また、絶縁カバー163との相違点として、絶縁カバー164は、第2部分巻線151Bの巻線端部154,155を引き出すための開口部を有していない構成となっている。
【0119】
絶縁カバー163,164では、一対の側面部181の径方向の幅寸法が相違している。具体的には、図17に示すように、絶縁カバー163における側面部181の径方向の幅寸法W21と絶縁カバー164における側面部181の径方向の幅寸法W22は、W21>W22となっている。つまり、絶縁カバー163,164のうち絶縁カバー163は、導線材CRの巻き始め及び巻き終わりを含む側の第2渡り部153Bを覆う部分であり、導線材CRの巻き始め及び巻き終わりを含むことにより、他の部分よりも導線材CRの巻き代(重なり代)が多くなり、その結果として巻線幅が大きくなることが生じうる。この点を加味して、絶縁カバー163の径方向の幅寸法W21が、絶縁カバー164の径方向の幅寸法W22よりも大きくなっている。これにより、絶縁カバー163,164の幅寸法W21,W22が互いに同じ寸法である場合とは異なり、絶縁カバー163,164により導線材CRの巻き数が制限されるといった不都合が抑制されるようになっている。
【0120】
図25は、各コイルモジュール150A,150Bを周方向に並べた状態でのフィルム材FMのオーバーラップ位置を示す図である。上述したとおり各コイルモジュール150A,150Bでは、中間導線部152の周囲に、他相の部分巻線151における中間導線部152との対向部分、すなわち中間導線部152の周方向側面でオーバーラップするようにしてフィルム材FMが被せられている(図20図23参照)。そして、各コイルモジュール150A,150Bを周方向に並べた状態では、フィルム材FMのオーバーラップ部分OLが、周方向両側のうちいずれも同じ側(図の周方向右側)に配置されるものとなっている。これにより、周方向に隣り合う異相の部分巻線151A,151Bにおける各中間導線部152において、フィルム材FMのオーバーラップ部分OLどうしが周方向に重ならない構成となっている。この場合、周方向に並ぶ各中間導線部152の間には、いずれも最多で3枚のフィルム材FMが重なる構成となっている。
【0121】
次に、コアアセンブリCAに対する各コイルモジュール150A,150Bの組み付けに関する構成を説明する。
【0122】
各コイルモジュール150A,150Bは、軸方向長さが互いに異なり、かつ部分巻線151A,151Bの渡り部153A,153Bの形状が互いに異なっており、第1コイルモジュール150Aの第1渡り部153Aを軸方向内側、第2コイルモジュール150Bの第2渡り部153Bを軸方向外側にした状態で、コアアセンブリCAに取り付けられる構成となっている。絶縁カバー161~164について言えば、各コイルモジュール150A,150Bの軸方向一端側において絶縁カバー161,163が軸方向に重ねられ、かつ軸方向他端側において絶縁カバー162,164が軸方向に重ねられた状態で、それら各絶縁カバー161~164がコアアセンブリCAに対して固定されるようになっている。
【0123】
図26は、コアアセンブリCAに対する第1コイルモジュール150Aの組み付け状態において複数の絶縁カバー161が周方向に並ぶ状態を示す平面図であり、図27は、コアアセンブリCAに対する第1コイルモジュール150A及び第2コイルモジュール150Bの組み付け状態において複数の絶縁カバー161,163が周方向に並ぶ状態を示す平面図である。また、図28(a)は、コアアセンブリCAに対する各コイルモジュール150A,150Bの組み付け状態において固定ピン191による固定前の状態を示す縦断面図であり、図28(b)は、コアアセンブリCAに対する各コイルモジュール150A,150Bの組み付け状態において固定ピン191による固定後の状態を示す縦断面図である。
【0124】
図26に示すように、コアアセンブリCAに対して複数の第1コイルモジュール150Aを組み付けた状態では、複数の絶縁カバー161が、側面部171どうしを当接又は接近状態としてそれぞれ配置される。各絶縁カバー161は、側面部171どうしが対向する境界線LBと、内筒部材81の軸方向端面の凹部105とが一致するようにして配置される。この場合、周方向に隣り合う絶縁カバー161の側面部171どうしが当接又は接近状態となることで、それら絶縁カバー161の各凹部177により、軸方向に延びる貫通孔部が形成され、その貫通孔部と凹部105の位置が一致する状態とされる。
【0125】
また、図27に示すように、コアアセンブリCA及び第1コイルモジュール150Aの一体物に対して、さらに第2コイルモジュール150Bが組み付けられる。この組み付けに伴い、複数の絶縁カバー163が、側面部181どうしを当接又は接近状態としてそれぞれ配置される。この状態では、各渡り部153A,153Bは、周方向に中間導線部152が並ぶ円上で互いに交差するように配置されることとなる。各絶縁カバー163は、突出部186が絶縁カバー161に軸方向に重なり、かつ突出部186の貫通孔187が、絶縁カバー161の各凹部177により形成された貫通孔部に軸方向に連なるようにして配置される。
【0126】
このとき、絶縁カバー163の突出部186が、絶縁カバー161に設けられた一対の突起部178により所定位置に案内されることで、絶縁カバー161側の貫通孔部と内筒部材81の凹部105とに対して絶縁カバー163側の貫通孔187の位置が合致するようになっている。つまり、コアアセンブリCAに対して各コイルモジュール150A,150Bを組み付けた状態では、絶縁カバー163の奥側に絶縁カバー161の凹部177が位置するために、絶縁カバー161の凹部177に対して突出部186の貫通孔187の位置合わせを行うことが困難になるおそれがある。この点、絶縁カバー161の一対の突起部178により絶縁カバー163の突出部186が案内されることで、絶縁カバー161に対する絶縁カバー163の位置合わせが容易となる。
【0127】
そして、図28(a),(b)に示すように、絶縁カバー161と絶縁カバー163の突出部186との重なり部分においてこれらに係合する状態で、固定部材としての固定ピン191による固定が行われる。より具体的には、内筒部材81の凹部105と、絶縁カバー161の凹部177と、絶縁カバー163の貫通孔187とを位置合わせした状態で、それら凹部105,177及び貫通孔187に固定ピン191が差し入れられる。これにより、内筒部材81に対して絶縁カバー161,163が一体で固定される。本構成によれば、周方向に隣り合う各コイルモジュール150A,150Bが、コイルエンドCEでコアアセンブリCAに対して共通の固定ピン191により固定されるようになっている。固定ピン191は、熱伝導性の良い材料で構成されていることが望ましく、例えば金属ピンである。
【0128】
図28(b)に示すように、固定ピン191は、絶縁カバー163の突出部186のうち低段部186aに組み付けられている。この状態では、固定ピン191の上端部は、低段部186aの上方に突き出ているが、絶縁カバー163の上面(外面部182)よりも上方に突き出ないものとなっている。この場合、固定ピン191は、絶縁カバー161と絶縁カバー163の突出部186(低段部186a)との重なり部分の軸方向高さ寸法よりも長く、上方に突き出る余裕代を有しているため、固定ピン191を凹部105,177及び貫通孔187に差し入れる際(すなわち固定ピン191の固定作業時)にその作業を行いやすくなることが考えられる。また、固定ピン191の上端部が絶縁カバー163の上面(外面部182)よりも上方に突き出ないため、固定ピン191の突き出しに起因して固定子60の軸長が長くなるといった不都合を抑制できるものとなっている。
【0129】
固定ピン191による絶縁カバー161,163の固定後には、絶縁カバー163に設けた貫通孔188を通じて、接着剤の充填が行われる。これにより、軸方向に重なる絶縁カバー161,163が互いに強固に結合されるようになっている。なお、図28(a),(b)では、便宜上、絶縁カバー163の上面から下面までの範囲で貫通孔188を示すが、実際には肉抜き等により形成された薄板部に貫通孔188が設けられた構成となっている。
【0130】
図28(b)に示すように、固定ピン191による各絶縁カバー161,163の固定位置は、固定子コア62よりも径方向内側(図の左側)の固定子ホルダ70の軸方向端面となっており、その固定子ホルダ70に対して固定ピン191による固定が行われる構成となっている。つまり、第1渡り部153Aが固定子ホルダ70の軸方向端面に対して固定される構成となっている。この場合、固定子ホルダ70には冷媒通路85が設けられているため、第1部分巻線151Aで生じた熱は、第1渡り部153Aから、固定子ホルダ70の冷媒通路85付近に直接的に伝わる。また、固定ピン191は、固定子ホルダ70の凹部105に差し入れられており、その固定ピン191を通じて固定子ホルダ70側への熱の伝達が促されるようになっている。かかる構成により、固定子巻線61の冷却性能の向上が図られている。
【0131】
本実施形態では、コイルエンドCEにおいて18個ずつの絶縁カバー161,163が軸方向内外に重ねて配置される一方、固定子ホルダ70の軸方向端面には、各絶縁カバー161,163と同数の18箇所に凹部105が設けられている。そして、その18箇所の凹部105で固定ピン191による固定が行われる構成となっている。
【0132】
不図示としているが、軸方向逆側の絶縁カバー162,164についても同様である。すなわち、まず第1コイルモジュール150Aの組み付けに際し、周方向に隣り合う絶縁カバー162の側面部171どうしが当接又は接近状態となることで、それら絶縁カバー162の各凹部177により、軸方向に延びる貫通孔部が形成され、その貫通孔部と、外筒部材71の軸方向端面の凹部106の位置が一致する状態とされる。そして、第2コイルモジュール150Bの組み付けにより、絶縁カバー163側の貫通孔部と外筒部材71の凹部106とに対して絶縁カバー164側の貫通孔187の位置が合致し、それら凹部106,177、貫通孔187に固定ピン191が差し入れられることで、外筒部材71に対して絶縁カバー162,164が一体で固定される。
【0133】
コアアセンブリCAに対する各コイルモジュール150A,150Bの組み付け時には、コアアセンブリCAに対して、その外周側に全ての第1コイルモジュール150Aを先付けし、その後に、全ての第2コイルモジュール150Bの組み付けと、固定ピン191による固定とを行うとよい。又は、コアアセンブリCAに対して、先に、2つの第1コイルモジュール150Aと1つの第2コイルモジュール150Bとを1本の固定ピン191で固定し、その後に、第1コイルモジュール150Aの組み付けと、第2コイルモジュール150Bの組み付けと、固定ピン191による固定とをこの順序で繰り返し行うようにしてもよい。
【0134】
次に、バスバーモジュール200について説明する。
【0135】
バスバーモジュール200は、固定子巻線61において各コイルモジュール150の部分巻線151に電気的に接続され、各相の部分巻線151の一端を相ごとに並列接続するとともに、それら各部分巻線151の他端を中性点で接続する巻線接続部材である。図29は、バスバーモジュール200の斜視図であり、図30は、バスバーモジュール200の縦断面の一部を示す断面図である。
【0136】
バスバーモジュール200は、円環状をなす環状部201と、その環状部201から延びる複数の接続端子202と、相巻線ごとに設けられる3つの入出力端子203とを有している。環状部201は、例えば樹脂等の絶縁部材により円環状に形成されている。
【0137】
図30に示すように、環状部201は、略円環板状をなし軸方向に多層(本実施形態では5層)に積層された積層板204を有しており、これら各積層板204の間に挟まれた状態で4つのバスバー211~214が設けられている。各バスバー211~214は、いずれも円環状をなしており、U相用のバスバー211と、V相用のバスバー212と、W相用のバスバー213と、中性点用のバスバー214とからなる。これら各バスバー211~214は、環状部201内において、板面を対向させるようにして軸方向に並べて配置されるものとなっている。各積層板204と各バスバー211~214とは、接着剤により互いに接合されている。接着剤として接着シートを用いることが望ましい。ただし液状又は半液状の接着剤を塗布する構成であってもよい。そして、各バスバー211~214には、それぞれ環状部201から径方向外側に突出させるようにして接続端子202が接続されている。
【0138】
環状部201の上面、すなわち5層に設けられた積層板204の最も表層側の積層板204の上面には、環状に延びる突起部201aが設けられている。
【0139】
なお、バスバーモジュール200は、各バスバー211~214が環状部201内に埋設された状態で設けられるものであればよく、所定間隔で配置された各バスバー211~214が一体的にインサート成形されるものであってもよい。また、各バスバー211~214の配置は、全てが軸方向に並びかつ全ての板面が同方向を向く構成に限られず、径方向に並ぶ構成や、軸方向に2列でかつ径方向に2列に並ぶ構成、板面の延びる方向が異なるものを含む構成などであってもよい。
【0140】
図29において、各接続端子202は、環状部201の周方向に並び、かつ径方向外側において軸方向に延びるように設けられている。接続端子202は、U相用のバスバー211に接続された接続端子と、V相用のバスバー212に接続された接続端子と、W相用のバスバー213に接続された接続端子と、中性点用のバスバー214に接続された接続端子とを含む。接続端子202は、コイルモジュール150における各部分巻線151の巻線端部154,155と同数で設けられており、これら各接続端子202には、各部分巻線151の巻線端部154,155が1つずつ接続される。これにより、バスバーモジュール200が、U相の部分巻線151、V相の部分巻線151、W相の部分巻線151に対してそれぞれ接続されるようになっている。
【0141】
入出力端子203は、例えばバスバー材よりなり、軸方向に延びる向きで設けられている。入出力端子203は、U相用の入出力端子203Uと、V相用の入出力端子203Vと、W相用の入出力端子203Wとを含む。これらの入出力端子203は、環状部201内において相ごとに各バスバー211~213にそれぞれ接続されている。これらの各入出力端子203を通じて、固定子巻線61の各相の相巻線に対して、不図示のインバータから電力の入出力が行われるようになっている。
【0142】
なお、バスバーモジュール200に、各相の相電流を検出する電流センサを一体に設ける構成であってもよい。この場合、バスバーモジュール200に電流検出端子を設け、その電流検出端子を通じて、電流センサの検出結果を不図示の制御装置に対して出力するようになっているとよい。
【0143】
また、環状部201は、固定子ホルダ70に対する被固定部として、内周側に突出する複数の突出部205を有しており、その突出部205には軸方向に延びる貫通孔206が形成されている。
【0144】
図31は、固定子ホルダ70にバスバーモジュール200を組み付けた状態を示す斜視図であり、図32は、バスバーモジュール200を固定する固定部分における縦断面図である。なお、バスバーモジュール200を組み付ける前の固定子ホルダ70の構成は、図12を参照されたい。
【0145】
図31において、バスバーモジュール200は、内筒部材81のボス部92を囲むようにして端板部91上に設けられている。バスバーモジュール200は、内筒部材81の支柱部95(図12参照)に対する組み付けにより位置決めがなされた状態で、ボルト等の締結具217の締結により固定子ホルダ70(内筒部材81)に固定されている。
【0146】
より詳しくは、図32に示すように、内筒部材81の端板部91には軸方向に延びる支柱部95が設けられている。そして、バスバーモジュール200は、複数の突出部205に設けられた貫通孔206に支柱部95を挿通させた状態で、支柱部95に対して締結具217により固定されている。本実施形態では、鉄等の金属材料よりなるリテーナプレート220を用いてバスバーモジュール200を固定することとしている。リテーナプレート220は、締結具217を挿通させる挿通孔221を有する被締結部222と、バスバーモジュール200の環状部201の上面を押圧する押圧部223と、被締結部222と押圧部223との間に設けられるベンド部224とを有している。
【0147】
リテーナプレート220の装着状態では、リテーナプレート220の挿通孔221に締結具217が挿通された状態で、締結具217が内筒部材81の支柱部95に対して螺着されている。また、リテーナプレート220の押圧部223がバスバーモジュール200の環状部201の上面に当接した状態となっている。この場合、締結具217が支柱部95にねじ入れられることに伴いリテーナプレート220が図の下方に押し込まれ、それに応じて押圧部223により環状部201が下方に押圧されている。締結具217の螺着に伴い生じる図の下方への押圧力は、ベンド部224を通じて押圧部223に伝わるため、ベンド部224での弾性力を伴う状態で、押圧部223での押圧が行われている。
【0148】
上述したとおり環状部201の上面には環状の突起部201aが設けられており、リテーナプレート220の押圧部223側の先端は突起部201aに当接可能となっている。これにより、リテーナプレート220の図の下方への押圧力が径方向外側に逃げてしまうことが抑制される。つまり、締結具217の螺着に伴い生じる押圧力が押圧部223の側に適正に伝わる構成となっている。
【0149】
なお、図31に示すように、固定子ホルダ70に対するバスバーモジュール200の組み付け状態において、入出力端子203は、冷媒通路85に通じる入口開口86a及び出口開口87aに対して周方向に180度反対側となる位置に設けられている。ただし、これら入出力端子203と各開口86a,87aとが同位置(すなわち近接位置)にまとめて設けられていてもよい。
【0150】
次に、バスバーモジュール200の入出力端子203を回転電機10の外部の外部装置に対して電気的に接続する中継部材230について説明する。
【0151】
図1に示すように、回転電機10では、バスバーモジュール200の入出力端子203がハウジングカバー242から外側に突出するように設けられており、そのハウジングカバー242の外側で中継部材230に接続されている。中継部材230は、バスバーモジュール200から延びる相ごとの入出力端子203と、インバータ等の外部装置から延びる相ごとの電力線との接続を中継する部材である。
【0152】
図33は、ハウジングカバー242に中継部材230を取り付けた状態を示す縦断面図であり、図34は、中継部材230の斜視図である。図33に示すように、ハウジングカバー242には貫通孔242aが形成されており、その貫通孔242aを通じて入出力端子203の引き出しが可能になっている。
【0153】
中継部材230は、ハウジングカバー242に固定される本体部231と、ハウジングカバー242の貫通孔242aに挿し入れられる端子挿通部232とを有している。端子挿通部232は、各相の入出力端子203を1つずつ挿通させる3つの挿通孔233を有している。それら3つの挿通孔233は、断面開口が長尺状をなしており、長手方向がいずれも略同じとなる向きで並べて形成されている。
【0154】
本体部231には、相ごとに設けられた3つの中継バスバー234が取り付けられている。中継バスバー234は、略L字状に屈曲形成されており、本体部231にボルト等の締結具235により固定されるとともに、端子挿通部232の挿通孔233に挿通された状態の入出力端子203の先端部にボルト及びナット等の締結具236により固定されている。
【0155】
なお、図示は略しているが、中継部材230には外部装置から延びる相ごとの電力線が接続可能となっており、相ごとに入出力端子203に対する電力の入出力が可能となっている。
【0156】
次に、回転電機10を制御する制御システムの構成について説明する。図35は、回転電機10の制御システムの電気回路図であり、図36は、制御装置270による制御処理を示す機能ブロック図である。
【0157】
図35に示すように、固定子巻線61はU相巻線、V相巻線及びW相巻線よりなり、その固定子巻線61に、電力変換器に相当するインバータ260が接続されている。インバータ260は、相数と同じ数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、相ごとに上アームスイッチ261及び下アームスイッチ262からなる直列接続体が設けられている。これら各スイッチ261,262はドライバ263によりそれぞれオンオフされ、そのオンオフにより各相の相巻線が通電される。各スイッチ261,262は、例えばMOSFETやIGBT等の半導体スイッチング素子により構成されている。また、各相の上下アームには、スイッチ261,262の直列接続体に並列に、スイッチング時に要する電荷を各スイッチ261,262に供給する電荷供給用のコンデンサ264が接続されている。
【0158】
上下アームの各スイッチ261,262の間の中間接続点に、それぞれU相巻線、V相巻線、W相巻線の一端が接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点にて互いに接続されている。
【0159】
制御装置270は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、回転電機10における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、各スイッチ261,262のオンオフにより通電制御を実施する。回転電機10の検出情報には、例えば、レゾルバ等の角度検出器により検出される回転子20の回転角度(電気角情報)や、電圧センサにより検出される電源電圧(インバータ入力電圧)、電流センサにより検出される各相の通電電流が含まれる。制御装置270は、例えば所定のスイッチング周波数(キャリア周波数)でのPWM制御や、矩形波制御により各スイッチ261,262のオンオフ制御を実施する。制御装置270は、回転電機10に内蔵された内蔵制御装置であってもよいし、回転電機10の外部に設けられた外部制御装置であってもよい。
【0160】
ちなみに、本実施形態の回転電機10は、スロットレス構造(ティースレス構造)を有していることから、固定子60のインダクタンスが低減されて電気的時定数が小さくなっており、その電気的時定数が小さい状況下では、スイッチング周波数(キャリア周波数)を高くし、かつスイッチング速度を速くすることが望ましい。この点において、各相のスイッチ261,262の直列接続体に並列に電荷供給用のコンデンサ264が接続されていることで配線インダクタンスが低くなり、スイッチング速度を速くした構成であっても適正なサージ対策が可能となる。
【0161】
インバータ260の高電位側端子は直流電源265の正極端子に接続され、低電位側端子は直流電源265の負極端子(グランド)に接続されている。直流電源265は、例えば複数の単電池が直列接続された組電池により構成されている。また、インバータ260の高電位側端子及び低電位側端子には、直流電源265に並列に平滑用のコンデンサ266が接続されている。
【0162】
図36は、U,V,W相の各相電流を制御する電流フィードバック制御処理を示すブロック図である。
【0163】
図36において、電流指令値設定部271は、トルク-dqマップを用い、回転電機10に対する力行トルク指令値又は発電トルク指令値や、電気角θを時間微分して得られる電気角速度ωに基づいて、d軸の電流指令値とq軸の電流指令値とを設定する。なお、発電トルク指令値は、例えば回転電機10が車両用動力源として用いられる場合、回生トルク指令値である。
【0164】
dq変換部272は、相ごとに設けられた電流センサによる電流検出値(3つの相電流)を、界磁方向(direction of an axis of a magnetic field,or field direction)をd軸とする直交2次元回転座標系の成分であるd軸電流とq軸電流とに変換する。
【0165】
d軸電流フィードバック制御部273は、d軸電流をd軸の電流指令値にフィードバック制御するための操作量としてd軸の指令電圧を算出する。また、q軸電流フィードバック制御部274は、q軸電流をq軸の電流指令値にフィードバック制御するための操作量としてq軸の指令電圧を算出する。これら各フィードバック制御部273,274では、d軸電流及びq軸電流の電流指令値に対する偏差に基づき、PIフィードバック手法を用いて指令電圧が算出される。
【0166】
3相変換部275は、d軸及びq軸の指令電圧を、U相、V相及びW相の指令電圧に変換する。なお、上記の各部271~275が、dq変換理論による基本波電流のフィードバック制御を実施するフィードバック制御部であり、U相、V相及びW相の指令電圧がフィードバック制御値である。
【0167】
操作信号生成部276は、周知の三角波キャリア比較方式を用い、3相の指令電圧に基づいて、インバータ260の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部276は、3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号(デューティ信号)を生成する。操作信号生成部276にて生成されたスイッチ操作信号がインバータ260のドライバ263に出力され、ドライバ263により各相のスイッチ261,262がオンオフされる。
【0168】
続いて、トルクフィードバック制御処理について説明する。この処理は、例えば高回転領域及び高出力領域等、インバータ260の出力電圧が大きくなる運転条件において、主に回転電機10の高出力化や損失低減の目的で用いられる。制御装置270は、回転電機10の運転条件に基づいて、トルクフィードバック制御処理及び電流フィードバック制御処理のいずれか一方の処理を選択して実行する。
【0169】
図37は、U,V,W相に対応するトルクフィードバック制御処理を示すブロック図である。
【0170】
電圧振幅算出部281は、回転電機10に対する力行トルク指令値又は発電トルク指令値と、電気角θを時間微分して得られる電気角速度ωとに基づいて、電圧ベクトルの大きさの指令値である電圧振幅指令を算出する。
【0171】
dq変換部282は、dq変換部272と同様に、相ごとに設けられた電流センサによる電流検出値をd軸電流とq軸電流とに変換する。トルク推定部283は、d軸電流とq軸電流とに基づいて、U,V,W相に対応するトルク推定値を算出する。なお、トルク推定部283は、d軸電流、q軸電流及び電圧振幅指令が関係付けられたマップ情報に基づいて、電圧振幅指令を算出すればよい。
【0172】
トルクフィードバック制御部284は、力行トルク指令値又は発電トルク指令値にトルク推定値をフィードバック制御するための操作量として、電圧ベクトルの位相の指令値である電圧位相指令を算出する。トルクフィードバック制御部284では、力行トルク指令値又は発電トルク指令値に対するトルク推定値の偏差に基づき、PIフィードバック手法を用いて電圧位相指令が算出される。
【0173】
操作信号生成部285は、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて、インバータ260の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部285は、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて3相の指令電圧を算出し、算出した3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号を生成する。操作信号生成部285にて生成されたスイッチ操作信号がインバータ260のドライバ263に出力され、ドライバ263により各相のスイッチ261,262がオンオフされる。
【0174】
ちなみに、操作信号生成部285は、電圧振幅指令、電圧位相指令、電気角θ及びスイッチ操作信号が関係付けられたマップ情報であるパルスパターン情報、電圧振幅指令、電圧位相指令並びに電気角θに基づいて、スイッチ操作信号を生成してもよい。
【0175】
(変形例)
以下に、上記第1実施形態に関する変形例を説明する。
【0176】
・磁石ユニット22における磁石32の構成を以下のように変更してもよい。図38に示す磁石ユニット22では、磁石32において磁化容易軸の向きが径方向に対して斜めであり、その磁化容易軸の向きに沿って直線状の磁石磁路が形成されている。つまり、磁石32は、固定子60側(径方向内側)の磁束作用面34aと反固定子側(径方向外側)の磁束作用面34bとの間において磁化容易軸の向きがd軸に対して斜めであり、周方向において固定子60側でd軸に近づき、かつ反固定子側でd軸から離れる向きとなるように直線的な配向がなされて構成されている。本構成においても、磁石32の磁石磁路長を径方向の厚さ寸法よりも長くすることができ、パーミアンスの向上を図ることが可能となっている。
【0177】
・磁石ユニット22においてハルバッハ配列の磁石を用いることも可能である。
【0178】
・各部分巻線151において、渡り部153の折り曲げの方向は径方向内外のうちいずれであってもよく、コアアセンブリCAとの関係として、第1渡り部153AがコアアセンブリCAの側に折り曲げられていても、又は第1渡り部153AがコアアセンブリCAの逆側に折り曲げられていてもよい。また、第2渡り部153Bは、第1渡り部153Aの軸方向外側でその第1渡り部153Aの一部を周方向に跨ぐ状態になっているものであれば、径方向内外のいずれかに折り曲げられていてもよい。
【0179】
・部分巻線151として2種類の部分巻線151(第1部分巻線151A、第2部分巻線151B)を有するものとせず、1種類の部分巻線151を有するものとしてもよい。具体的には、部分巻線151を、側面視において略L字状又は略Z字状をなすように形成するとよい。部分巻線151を側面視で略L字状に形成する場合、軸方向一端側では、渡り部153が径方向内外のいずれかに折り曲げられ、軸方向他端側では、渡り部153が径方向に折り曲げられることなく設けられている構成とする。また、部分巻線151を側面視で略Z字状に形成する場合、軸方向一端側及び軸方向他端側において、渡り部153が径方向に互いに逆向きに折り曲げられている構成とする。いずれの場合であっても、上述のように渡り部153を覆う絶縁カバーによりコイルモジュール150がコアアセンブリCAに対して固定される構成であるとよい。
【0180】
・上述した構成では、固定子巻線61において、相巻線ごとに全ての部分巻線151が並列接続される構成を説明したが、これを変更してもよい。例えば、相巻線ごとの全ての部分巻線151を複数の並列接続群に分け、その複数の並列接続群を直列接続する構成でもよい。つまり、各相巻線における全n個の部分巻線151を、n/2個ずつの2組の並列接続群や、n/3個ずつの3組の並列接続群などに分け、それらを直列接続する構成としてもよい。又は、固定子巻線61において相巻線ごとに複数の部分巻線151が全て直列接続される構成としてもよい。
【0181】
・回転電機10における固定子巻線61は2相の相巻線(U相巻線及びV相巻線)を有する構成であってもよい。この場合、例えば部分巻線151では、一対の中間導線部152が1コイルピッチ分を離して設けられ、一対の中間導線部152の間に、他1相の部分巻線151における中間導線部152が1つ配置される構成となっていればよい。
【0182】
・回転電機10を、アウタロータ式の表面磁石型回転電機に代えて、インナロータ式の表面磁石型回転電機として具体化することも可能である。図39(a),(b)は、インナロータ構造とした場合の固定子ユニット300の構成を示す図である。このうち図39(a)はコイルモジュール310A,310BをコアアセンブリCAに組み付けた状態を示す斜視図であり、図39(b)は、各コイルモジュール310A,310Bに含まれる部分巻線311A,311Bを示す斜視図である。本例では、固定子コア62の径方向外側に固定子ホルダ70が組み付けられることでコアアセンブリCAが構成されている。また、固定子コア62の径方向内側に、複数のコイルモジュール310A,310Bが組み付けられる構成となっている。
【0183】
部分巻線311Aは、概ね既述の第1部分巻線151Aと同様の構成を有しており、一対の中間導線部312と、軸方向両側においてコアアセンブリCAの側(径方向外側)に折り曲げ形成された渡り部313Aとを有している。また、部分巻線311Bは、概ね既述の第2部分巻線151Bと同様の構成を有しており、一対の中間導線部312と、軸方向両側において渡り部313Aを軸方向外側で周方向に跨ぐように設けられた渡り部313Bとを有している。部分巻線311Aの渡り部313Aには絶縁カバー315が装着され、部分巻線311Bの渡り部313Bには絶縁カバー316が装着されている。
【0184】
絶縁カバー315には、周方向両側の側面部に、軸方向に延びる半円状の凹部317が設けられている。また、絶縁カバー316には、渡り部313Bよりも径方向外側に突出する突出部318が設けられ、その突出部318の先端部に、軸方向に延びる貫通孔319が設けられている。
【0185】
図40は、コアアセンブリCAに対してコイルモジュール310A,310Bを組み付けた状態を示す平面図である。なお、図40において、固定子ホルダ70の軸方向端面には周方向に等間隔で複数の凹部105が形成されている。また、固定子ホルダ70は、液状冷媒又は空気による冷却構造を有しており、例えば空冷構造として、外周面に複数の放熱フィンが形成されているとよい。
【0186】
図40では、絶縁カバー315,316が軸方向に重なる状態で配置されている。また、絶縁カバー315の側面部に設けられた凹部317と、絶縁カバー316の突出部318において絶縁カバー316の周方向一端から他端までの間の中央となる位置に設けられた貫通孔319とが軸方向に連なっており、それら各部で、固定ピン321による固定がなされている。
【0187】
また、図40では、固定ピン321による各絶縁カバー315,316の固定位置が、固定子コア62よりも径方向外側の固定子ホルダ70の軸方向端面となっており、その固定子ホルダ70に対して固定ピン321による固定が行われる構成となっている。この場合、固定子ホルダ70には冷却構造が設けられているため、部分巻線311A,311Bで生じた熱が固定子ホルダ70に伝わり易くなっている。これにより、固定子巻線61の冷却性能を向上させることができる。
【0188】
・回転電機10に用いられる固定子60は、バックヨークから延びる突起部(例えばティース)を有するものであってもよい。この場合にも、固定子コアに対するコイルモジュール150等の組み付けがバックヨークに対して行われるものであればよい。
【0189】
・回転電機としては、星形結線のものに限らず、Δ結線のものであってもよい。
【0190】
・回転電機10として、界磁子を回転子、電機子を固定子とする回転界磁形の回転電機に代えて、電機子を回転子、界磁子を固定子とする回転電機子形の回転電機を採用することも可能である。
【0191】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態における回転電機400について説明する。本実施形態の回転電機400は、車両のインホイールモータとして用いられる。回転電機400の概要を図41図46に示す。図41は、回転電機400の全体を示す斜視図であり、図42は、回転電機400の平面図であり、図43は、回転電機400の縦断面図(図42の43-43線断面図)であり、図44は、回転電機400の横断面図(図43の44-44線断面図)であり、図45は、回転電機400の横断面図(図43の45-45線断面図)であり、図46は、回転電機400の構成要素を分解して示す分解断面図である。
【0192】
回転電機400は、アウタロータ式の表面磁石型回転電機である。回転電機400は、大別して、回転子410と、固定子430を含んでなる固定子ユニット420とを有する回転電機本体を備えており、その回転電機本体に対して、不図示の車体に固定されるスピンドル401と、不図示の車輪のホイールに固定されるハブ402とが一体化された構成となっている。スピンドル401及びハブ402は、高強度であることが要求され、例えば鉄鋼材料よりなる。
【0193】
スピンドル401は、軸方向に直交する向きに延びる鍔部403と、円柱状をなし鍔部403よりも回転電機中心側に延び、固定子ユニット420の中空部に挿通される固定軸部404とを有している。固定軸部404は、図示のように大径部と小径部とを有しているとよい。ハブ402は、固定軸部404を挿通させる挿通孔406を有している。そして、ハブ402の挿通孔406に固定軸部404が挿通された状態で、ハブ402が一対の軸受407,408により回転可能に支持されている。ハブ402は、軸方向の2位置で軸受407,408により回転可能に支持されている。軸受407,408は、例えばラジアル玉軸受であり、それぞれ外輪と内輪とそれら外輪及び内輪の間に配置された複数の玉とを有している。なお、軸受407,408は、転動体として玉に代えてころを用いたころ軸受(針状ころ軸受、円錐ころ軸受)であってもよい。
【0194】
回転電機400では、回転中心となる軸線の延びる向き(図43の左右方向)が軸方向であり、その軸方向が水平方向又は略水平方向となる向きで回転電機400が車両に取り付けられるものとなっている。なお、車輪がキャンバー角を有している場合には、キャンバー角分の傾きを付与した状態で、回転電機400の軸方向が略水平方向になっているとよい。
【0195】
回転電機400では、回転子410及び固定子430が、エアギャップを挟んで径方向に対向配置されている。また、スピンドル401に対して固定子ユニット420が固定され、ハブ402に対して回転子410が固定されている。そのため、スピンドル401及び固定子ユニット420に対して、ハブ402及び回転子410が回転可能となっている。
【0196】
図46に示すように、回転子410は、略円筒状の回転子キャリア411と、その回転子キャリア411に固定された環状の磁石ユニット412とを有している。回転子キャリア411は、円筒状をなす筒状部413と、その筒状部413の軸方向一端側に設けられた端板部414とを有しており、筒状部413の径方向内側に環状に磁石ユニット412が固定されている。回転子キャリア411の軸方向他端側は開放されている。回転子キャリア411は、磁石保持部材として機能する。端板部414の中央部には貫通孔414aが形成されており、その貫通孔414aに挿通された状態で、ハブ402がボルト等の固定具により端板部414に固定されている(図43参照)。
【0197】
磁石ユニット412は、回転子410の周方向に沿って極性が交互に変わるように配置された複数の永久磁石により構成されている。磁石ユニット412が「磁石部」に相当する。これにより、磁石ユニット412は、周方向に複数の磁極を有する。磁石ユニット412は、例えば第1実施形態の図6図7において磁石ユニット22として説明した構成を有しており、永久磁石として、固有保磁力が400[kA/m]以上であり、かつ残留磁束密度Brが1.0[T]以上である焼結ネオジム磁石を用いて構成されている。
【0198】
磁石ユニット412は、図7の磁石ユニット22と同様に、それぞれ極異方性の複数の永久磁石を有しており、それら各磁石は、d軸側(d軸寄りの部分)とq軸側(q軸寄りの部分)とで磁化容易軸の向きが相違し、d軸側では磁化容易軸の向きがd軸に平行する向きとなり、q軸側では磁化容易軸の向きがq軸に直交する向きとなっている。この場合、磁化容易軸の向きに沿って円弧状の磁石磁路が形成されている。要するに、各磁石は、磁極中心であるd軸の側において、磁極境界であるq軸の側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされて構成されている。
【0199】
なお、磁石ユニット412の各磁石は、周方向において接着等により互いに固定されるとともに、外周部においてヤーン等の固定部材が取り付けられて一体化されているとよい。また、各磁石の軸方向端部に、円環状の端板部材が取り付けられているとよい。
【0200】
磁石ユニット412において各磁石415の磁石磁路の向き(磁力線の向き)を図59に示す。なお、図59では、磁石ユニット412において周方向に並ぶ各磁石415を平面展開して示している。図59(a)に示すように、磁石415では、磁極中心であるd軸の側において、磁極境界であるq軸の側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされており、磁石415内を通る擬似円弧状の磁石磁路が形成されている。又は、図59(b)に示すように、各磁石415は、いわゆるハルバッハ配列されたものであってもよい。この場合、d軸に配置された磁石415は、磁化容易軸の向きが径方向(d軸に平行)となり、q軸に配置された磁石415は、磁化容易軸の向きが周方向(q軸に直交)となっている。
【0201】
また、図59(c)に示すように、各磁石415は、互いに対向しかつ磁束の流入流出面となる一対の作用面415a,415bに対して磁石容易軸の向きが傾いており、かつその傾斜の向きが、固定子巻線の側(図の下側)でd軸に近づくようにd軸に対して傾斜する向きとなっていてもよい。この場合、磁石415は、一対の作用面415a,415bの間における磁石厚さ寸法よりも長い長さの磁石磁路を有し、かつ磁化容易軸が磁石磁路に沿う向きとなるように配向がなされている。換言すると。磁石415は、2つの磁石表面の周方向を象る線から見て、法線方向よりも磁化容易軸がd軸側に偏る構成となっている。
【0202】
次に、固定子ユニット420の構成を説明する。図47は、固定子ユニット420の分解斜視図である。固定子ユニット420は、円環筒状の固定子430と、その固定子430を保持する固定子ホルダ460と、軸方向一端側に取り付けられる配線モジュール480と、固定子430の軸方向他端側に取り付けられるコイルエンドカバー490と、を有している。
【0203】
ここではまず、固定子430について説明する。図48図49は、固定子430の分解斜視図であり、図50は、固定子ユニット420の分解断面図である。なお、図48図49はそれぞれ、軸方向に異なる向きから見た固定子430の分解斜視図である。
【0204】
固定子430は、固定子巻線431と固定子コア432とを有している。固定子430において、固定子巻線431は3相の相巻線を有し、各相の相巻線はそれぞれ複数の部分巻線441により構成されている。部分巻線441は、回転電機400の極数に応じて設けられており、相ごとに複数の部分巻線441が並列又は直列に接続されている。本実施形態では、磁極数を24としているが、その数は任意である。
【0205】
図50に示すように、固定子430は、軸方向において、固定子コア432に径方向に対向するコイルサイドCSに相当する部分と、そのコイルサイドCSの軸方向外側であるコイルエンドCEに相当する部分とを有している。コイルサイドCSは、回転子410の磁石ユニット412に径方向に対向する部分でもある。部分巻線441は固定子コア432の径方向外側に組み付けられている。この場合、部分巻線441は、その軸方向両端部分が固定子コア432よりも軸方向外側(すなわちコイルエンドCE側)に突出した状態で組み付けられている。
【0206】
部分巻線441はそれぞれ、軸方向両端のうち一方が径方向に屈曲され、他方が径方向に屈曲されずに設けられている。そして、全ての部分巻線441のうち半数の部分巻線441は、軸方向一端側(図48の下側)が屈曲側となり、その屈曲側で径方向内側に屈曲されている。また、残りの半数の部分巻線441は、軸方向他端側(図48の上側)が屈曲側となり、その屈曲側で径方向外側に屈曲されている。なお以下の記載では、部分巻線441のうち径方向内側への屈曲部を有する部分巻線441を「部分巻線441A」、径方向外側への屈曲部を有する部分巻線441を「部分巻線441B」とも称する。
【0207】
部分巻線441A,441Bの構成を詳しく説明する。図51(a),(b)は、部分巻線441Aの構成を示す斜視図であり、図52は、部分巻線441Aにおいて渡り部443,444に取り付けられた絶縁カバー451,452を分解して示す分解斜視図である。また、図53(a),(b)は、部分巻線441Bの構成を示す斜視図であり、図54は、部分巻線441Bにおいて渡り部443,444に取り付けられた絶縁カバー453,454を分解して示す分解斜視図である。なお、図51(a),(b)は、部分巻線441Aを径方向内側及び外側からそれぞれ見た斜視図であり、図53(a),(b)も同様に、部分巻線441Bを径方向内側及び外側からそれぞれ見た斜視図である。
【0208】
部分巻線441A,441Bはいずれも、導線材を多重に巻回することで構成されており、互いに平行でかつ直線状に設けられる一対の中間導線部442と、一対の中間導線部442を軸方向両端でそれぞれ接続する一対の渡り部443,444とを有している。そして、これら一対の中間導線部442と一対の渡り部443,444とにより環状に形成されている。一対の中間導線部442は、所定のコイルピッチ分を離して設けられており、周方向において一対の中間導線部442の間に、他相の部分巻線441の中間導線部442が配置可能となっている。本実施形態では、一対の中間導線部442は2コイルピッチ分を離して設けられ、一対の中間導線部442の間に、他2相の部分巻線441における中間導線部442が1つずつ配置される構成となっている。
【0209】
部分巻線441A,441Bにおいて各中間導線部442には、シート状の絶縁被覆体445が被せられた状態で設けられている。絶縁被覆体445の構成は、上述した第1実施形態における部分巻線151の絶縁被覆体157と同様である。すなわち、絶縁被覆体445は、軸方向寸法として少なくとも中間導線部442における軸方向の絶縁被覆範囲の長さを有するフィルム材を用い、そのフィルム材を中間導線部442の周囲に巻装することで設けられている。また、絶縁被覆体445は、中間導線部442の周囲に、フィルム材の周方向の端部をオーバーラップさせた状態で設けられている。
【0210】
軸方向両側の各渡り部443,444は、いずれもコイルエンドCE(図50参照)に相当する部分として設けられ、各渡り部443,444のうち、一方の渡り部443は径方向に屈曲形成され、他方の渡り部444は径方向に屈曲されることなく形成されている。これにより、部分巻線441A,441Bは、側方から見て略L形状となっている。
【0211】
なお、部分巻線441A,441Bでは、渡り部443の径方向の屈曲方向が異なり、部分巻線441Aでは渡り部443が径方向内側に屈曲され、部分巻線441Bでは渡り部443が径方向外側に屈曲されている。この場合、各部分巻線441A,441Bを周方向に並べて配置することを想定すると、部分巻線441A,441Bにおける渡り部443の平面視の形状(径方向の平面形状)が互いに異なっているとよく、部分巻線441Aの渡り部443では先端側ほど周方向の幅が細くなり、部分巻線441Bの渡り部443では先端側ほど周方向の幅が広くなっているとよい。
【0212】
各部分巻線441A,441Bにおいて、中間導線部442は、コイルサイドCSにおいて周方向に1つずつ並ぶコイルサイド導線部として設けられている。また、各渡り部443,444は、コイルエンドCEにおいて、周方向に異なる2位置の同相の中間導線部442どうしを接続するコイルエンド導線部として設けられている。
【0213】
部分巻線441A,441Bでは、上述した部分巻線151と同様に、導線集合部分の横断面が四角形になるように導線材が多重に巻回されて形成されている。中間導線部442で言えば、導線材が周方向に複数列で並べられ、かつ径方向に複数列で並べられることで、横断面が略矩形状となるように形成されている(図20参照)。
【0214】
部分巻線441A,441Bでは、導線材が多重に巻回されていることから電流流通経路の細線化が図られている。このため、高調波磁界を含む磁石磁界が導線(中間導線部442)と鎖交する場合に、その渦電流に対する導線の過電流抑制効果を大きくすることができ、渦電流損失を低減することができる。また、導線材は、複数の素線が撚りあった集合体により構成されているとよい。これにより、各素線において磁界の印加方向が互いに逆になる部位が生じ、鎖交磁界に起因した逆起電圧が相殺される。その結果、導線を流れる渦電流の低減効果が高められる。
【0215】
ここで、各素線は、少なくともカーボンナノチューブ繊維で構成されているとよい。カーボンナノチューブの電気抵抗は、銅線の1/5程度以下となることが期待できる。また、各素線は、カーボンナノチューブ繊維の炭素のうち少なくとも一部をホウ素で置換したホウ素含有微細繊維を含む繊維で構成されているとよい。この場合、渦電流抑制効果をいっそう増大でき、渦電流損失をいっそう低減することができる。
【0216】
次に、各部分巻線441A,441Bに取り付けられた絶縁カバー451~454について説明する。絶縁カバー451~454は、各渡り部443,444において部分巻線441どうしの絶縁を図るべく設けられた絶縁部材である。絶縁カバー451~454は合成樹脂等の絶縁材料により成形されている。
【0217】
図51(a),(b)及び図52に示すように、部分巻線441Aにおいて、軸方向一端側の渡り部443には絶縁カバー451が取り付けられ、軸方向他端側の渡り部444には絶縁カバー452が取り付けられている。絶縁カバー451には、例えば金属板からなるブラケット455が埋設されている。ブラケット455は、渡り部443の先端部から径方向外側に突出する突出部455aを有し、その突出部455aには軸方向(図の上下方向)貫通する貫通孔455bが設けられている。また、絶縁カバー452には、例えば金属板からなるブラケット456が埋設されている。ブラケット456は、渡り部444の先端部から径方向外側に突出する突出部456aを有し、その突出部456aには軸方向(図の上下方向)貫通する貫通孔456bが設けられている。
【0218】
絶縁カバー451,452はそれぞれ、渡り部443,444の先端部における湾曲部分の内側に係合する係合部451a,452aを有している。これら係合部451a,452aには、ブラケット455,456の一部が下地材として一体化されているとよい。なお、ブラケット455,456は、絶縁カバー451,452に埋設される以外に、絶縁カバー451,452の外表面に接着等により固定されていてもよい。
【0219】
また、図53(a),(b)及び図54に示すように、部分巻線441Bにおいて、軸方向一端側の渡り部443には絶縁カバー453が取り付けられ、軸方向他端側の渡り部444には絶縁カバー454が取り付けられている。絶縁カバー453には、例えば金属板からなるブラケット457が埋設されている。ブラケット457は、渡り部443の先端部から径方向内側に突出する突出部457aを有し、その突出部457aには軸方向(図の上下方向)貫通する貫通孔457bが設けられている。また、絶縁カバー454には、例えば金属板からなるブラケット458が埋設されている。ブラケット458は、渡り部444の先端部から径方向内側に突出する突出部458aを有し、その突出部458aには軸方向(図の上下方向)貫通する貫通孔458bが設けられている。
【0220】
絶縁カバー453,454はそれぞれ、渡り部443,444の先端部における湾曲部分の内側に係合する係合部453a,454aを有している。これら係合部453a,454aには、ブラケット457,458の一部が下地材として一体化されているとよい。なお、ブラケット457,458は、絶縁カバー453,454に埋設される以外に、絶縁カバー453,454の外表面に接着等により固定されていてもよい。
【0221】
図55は、各部分巻線441A,441Bを周方向に並べて配置した状態を示す平面図である。なお、図55は、図48に示す固定子巻線431を軸方向一方(図の上方)から見た平面図である。
【0222】
図55では、部分巻線441Aの渡り部443が径方向内側に向けて延びるとともに、部分巻線441Bの渡り部443が径方向外側に向けて延びる構成となっている。そして、各部分巻線441A,441Bの中間導線部442よりも径方向内側では、固定子巻線431の軸方向一端側(図55の紙面奥側)において、部分巻線441Aの絶縁カバー451に設けられたブラケット455の突出部455aと、部分巻線441Bの絶縁カバー454に設けられたブラケット458の突出部458aとが軸方向に重なり、かつ各突出部455a,458aの貫通孔455b,458bの平面視の位置が一致するものとなっている。
【0223】
また、各部分巻線441A,441Bの中間導線部442よりも径方向外側では、固定子巻線431の軸方向他端側(図55の紙面手前側)において、部分巻線441Aの絶縁カバー452に設けられたブラケット456の突出部456aと、部分巻線441Bの絶縁カバー453に設けられたブラケット457の突出部457aとが、周方向に交互にかつ等間隔で並ぶものとなっている。この場合、各突出部456a,457aの貫通孔456b,457bが、固定子430の平面中心からの径方向距離が同一で、かつ周方向に等間隔で配置されるものとなっている。
【0224】
図48及び図49に示すように、固定子巻線431は、部分巻線441A,441Bにより環状に形成され、その径方向内側に固定子コア432が組み付けられる。固定子コア432は、磁性体である電磁鋼板からなるコアシートが軸方向に積層されたコアシート積層体として構成されており、径方向に所定の厚さを有する円筒状をなしている。固定子コア432の内周面及び外周面は凹凸のない曲面状をなしている。固定子コア432はバックヨークとして機能する。固定子コア432は、例えば円環板状に打ち抜き形成された複数枚のコアシートが軸方向に積層されて構成されている。
【0225】
固定子コア432として、ヘリカルコア構造を有するものを用いてもよい。ヘリカルコア構造の固定子コア432では、所定幅の帯状のコアシートが用いられ、このコアシートが環状に巻回形成されるとともに軸方向に積層されることで、全体として円筒状の固定子コア432が構成されている。
【0226】
なお、固定子コア432に対する固定子巻線431の組み付けは、固定子コア432に対して部分巻線441A,441Bを個別に組み付けることでなされてもよいし、部分巻線441A,441Bにより環状の固定子巻線431を形成した後に、その固定子巻線431を固定子コア432に組み付けることでなされてもよい。
【0227】
図49に示すように、固定子コア432の軸方向一端側の端面には、周方向に所定間隔で複数の凹部433が形成されている。固定子巻線431と固定子コア432とが一体化された状態では、各部分巻線441A,441Bの中間導線部442よりも径方向内側において、絶縁カバー451,454におけるブラケット455,458の貫通孔455b,458bと、固定子コア432の軸方向端面の凹部433とで位置合わせが行われている。そして、これら貫通孔455b,458b及び凹部433に対して、例えば金属製の固定ピンからなる結合部材が組み付けられることにより、固定子コア432に対して各部分巻線441A,441Bが固定されるようになっている。
【0228】
ここで、部分巻線441A,441Bにおいて、一対の中間導線部442は全節巻間隔で離して設けられており、一対の中間導線部442の間に、他2相の部分巻線における中間導線部442が1つずつ配置され、かつ周方向に渡り部443,444が重複する部分巻線どうしで、一方の部分巻線の渡り部443が径方向に屈曲されることで互いの干渉が回避されている(図48図49参照)。そして、径方向に屈曲された渡り部443において径方向に延びる湾曲部分の内側において、ブラケット455,457の突出部455a,457aにより各部分巻線441A,441Bが固定されるものとなっている(図55参照)。なお、ブラケット455,457の突出部455a,457aが「固定部」に相当する。
【0229】
固定子巻線431の軸方向一端側では、部分巻線441Aが、中間導線部442の径方向内側において、ブラケット455の突出部455aにより固定子コア432に固定されるようになっている。また、固定子巻線431の軸方向他端側では、部分巻線441Bが、中間導線部442の径方向外側において、ブラケット457の突出部457aにより後述するコイルエンドカバー490に固定されるようになっている(図47参照)。なお、コイルエンドカバー490は、固定子ホルダ460を介して固定子コア432に対して固定されるものであり、固定子コア432に一体化された一体物に相当する。
【0230】
次に、固定子ホルダ460の構成を説明する。ここでは、図50図56とを用いて固定子ホルダ460の構成を説明する。図56は、固定子ホルダ460の横断面図(図45と同じ位置での横断面図)である。
【0231】
図50図56に示すように、固定子ホルダ460は、それぞれ円筒状をなす外筒部材461と内筒部材462とを有し、外筒部材461を径方向外側、内筒部材462を径方向内側にしてそれらが一体に組み付けられることにより構成されている。これら各部材461,462は、例えばアルミニウムや鋳鉄等の金属、又は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)により構成されている。
【0232】
外筒部材461の筒部の内径寸法は、内筒部材462の筒部の外径寸法よりも大きい。そのため、外筒部材461の径方向内側に内筒部材462が組み付けられた状態では、これら各部材461,462の間に環状の隙間が形成され、その隙間空間が、冷却水等の冷媒を流通させる冷媒通路463となっている。冷媒通路463は、固定子ホルダ460の周方向に環状に設けられている。内筒部材462には、冷媒の入口となる入口側通路464と、冷媒の出口となる出口側通路465とが形成されており、冷媒通路463において入口側通路464と出口側通路465との間には仕切り部466が設けられている。入口側通路464及び出口側通路465は、それぞれ仕切り部466を挟んで両側で冷媒通路463に連通され、かつ軸方向に延びるように設けられている。入口側通路464から流入する冷媒は、冷媒通路463を周方向に流れ、その後、出口側通路465から流出する。
【0233】
入口側通路464及び出口側通路465の一端は、それぞれ内筒部材462の軸方向端面に開口している。軸方向端面において、入口側通路464の開口部には入口配管ポート467が設けられ、出口側通路465の開口部には出口配管ポート468が設けられている(図42参照)。
【0234】
不図示とするが、入口配管ポート467と出口配管ポート468とには、冷媒を循環させる循環経路が接続されるようになっている。循環経路には、例えば電動式のポンプと、ラジエータ等の放熱装置とが設けられ、ポンプの駆動に伴い循環経路と回転電機400の冷媒通路463とを通じて冷媒が循環する。
【0235】
固定子ホルダ460の径方向外側、詳しくは外筒部材461の径方向外側には、固定子コア432が組み付けられる。固定子ホルダ460(外筒部材461)に対する固定子コア432の組み付けは、例えば接着により行われる。また、焼きばめ又は圧入により、固定子ホルダ460に対して所定の締め代で固定子コア432が嵌合固定される構成であってもよい。
【0236】
内筒部材462は、円筒状をなし、かつ軸方向一端側に端板部471を有している。端板部471の中央には、軸方向に貫通する貫通孔472が設けられ、その貫通孔472の内周面にはスプラインが形成されている。内筒部材462の貫通孔472には、スピンドル401の固定軸部404が挿通可能となっており、貫通孔472にスピンドル401の固定軸部404が挿通された状態では、貫通孔472側のスプラインが固定軸部404側のスプラインと噛み合う構成となっている。
【0237】
また、内筒部材462の内周側には、周方向に所定間隔で複数の突出部473が設けられている。これら各突出部473は、内筒部材462の中空部において径方向内側に突出するように設けられており、軸方向においては端板部471から軸方向中間位置までの範囲で設けられている(図50参照)。突出部473は、内筒部材462の補強材として機能する。
【0238】
内筒部材462の端板部471には、貫通孔472の径方向外側となる位置に、軸方向に貫通する開口部474が設けられている。この開口部474は、後述する各相の電力線485を軸方向に挿通させる挿通孔部である。内筒部材462において開口部474の軸方向外側には端子台475が設けられており(図41参照)、その端子台475には、外部配線を接続可能とする外部端子501が取り付けられるようになっている。
【0239】
また、内筒部材462の端板部471には、貫通孔472の径方向外側であり、かつ周方向において開口部474との間に少なくとも1つの突出部473を介在させた位置に、軸方向に貫通する挿通孔476が設けられている。この挿通孔476は、後述するレゾルバ信号線522を軸方向に挿通させる孔部である。
【0240】
次に、配線モジュール480について説明する。配線モジュール480は、固定子巻線431において各部分巻線441A,441Bに電気的に接続される巻線接続部材であり、この配線モジュール480により、各相の部分巻線441が相ごとに並列又は直列に接続され、かつ各相の相巻線が中性点接続される。図43に示すように、配線モジュール480は、固定子430の軸方向両端のうち一端側、具体的には回転子キャリア411の端板部414の側に設けられている。
【0241】
より詳しくは、固定子巻線431は、軸方向一端側が径方向内側に屈曲された部分巻線441A(第1部分巻線)と、軸方向他端側が径方向外側に屈曲された部分巻線441B(第2部分巻線)とを有しており、部分巻線441Aの屈曲側と部分巻線441Bの非屈曲側とを回転子キャリア411の端板部414側にして、それら各部分巻線441A,441Bが周方向に一部重複しつつ並べて配置されている。そして、固定子巻線431の軸方向両端のうち回転子キャリア411の端板部414側に、配線モジュール480が設けられている。
【0242】
図47に示すように、配線モジュール480は、円環状をなす環状部481と、その環状部481に沿って周方向に並べて設けられた複数の接続端子482とを有している。環状部481は、例えば樹脂等の絶縁部材により円環状に形成されている。環状部481には、相ごとの配線と中性点用の配線(いずれも図示略)が埋設されており、それら各配線に、接続端子482が電気接続されている。接続端子482は、部分巻線441ごとに設けられ、かつそれぞれ軸方向に延びる向きで固定されている。
【0243】
また、配線モジュール480において、環状部481に埋設された各相の配線には、相ごとにバスバー483が接続されている。各バスバー483は、それぞれU相電力用、V相電力用及びW相電力用の電力配線の一部であり、径方向内側に突出する向きで設けられている。
【0244】
固定子巻線431では、図47の下側の端部において、径方向に屈曲されていない渡り部444が環状に並んで配置されており、その渡り部444の径方向内側に配線モジュール480が設けられるようになっている。つまり、配線モジュール480の環状部481は、周方向に並ぶ渡り部444により形成される円環部よりも小径に形成されている。環状部481には、配線モジュール480を固定子ホルダ460に取り付けるための取付部材484が設けられている。取付部材484は、例えば金属板により構成され、周方向に所定間隔で複数の取付部を有している。
【0245】
配線モジュール480の各バスバー483には、固定子巻線431に対して相ごとに電力を供給する電力線485が接続される。電力線485は、周方向に並び、かつ軸方向に延びるようにして配置されている。電力線485は、導線自体が金属バスバー等の剛体であるか、又は導線が合成樹脂等の剛体であるチューブに挿通されたものであるとよい。これにより、回転電機400にて振動が生じても、その振動の影響を受けにくくすることができる。なお、電力線485をフレキシブルハーネスにより構成することも可能である。この場合、回転電機400での振動を吸収することで断線を抑制することができる。
【0246】
さらに、電力線485は、外周にシールド層を有するものであるとよい。これにより、外部への磁場発生を抑制することができる。また、電力線485の外層被膜がフッ素被膜であるとよい。この場合、電力線485の温度が上昇することを想定し、耐熱性を向上させることができる。
【0247】
次に、コイルエンドカバー490について説明する。
【0248】
図47に示すように、コイルエンドカバー490は、円環状をなし、固定子430の軸方向一端側のコイルエンド部、すなわち固定子430の軸方向両端のコイルエンド部のうち渡り部443が径方向外側に屈曲された側のコイルエンド部に設けられている。このコイルエンドカバー490により、固定子巻線431のコイルエンド部が軸方向に覆われるとともに、軸方向一端側での各部分巻線441A,441Bの位置決めが行われるものとなっている。
【0249】
コイルエンドカバー490には、周方向に等間隔で複数の貫通孔491が設けられており、その複数の貫通孔491が、1つ置きに、部分巻線441Aの絶縁カバー452におけるブラケット456の貫通孔456bと、部分巻線441Bの絶縁カバー453におけるブラケット457の貫通孔457bとにそれぞれ対応するものとなっている。この場合、固定子430の軸方向一端側にコイルエンドカバー490が装着された状態で、絶縁カバー452,453側の貫通孔456b,457bに対して、コイルエンドカバー490側の各貫通孔491の位置合わせが行われ、さらに各貫通孔491に例えば金属製の固定ピンからなる結合部材が組み付けられることにより、固定子430に対してコイルエンドカバー490が固定される。かかる状態において、コイルエンドカバー490により、各部分巻線441A,441Bの軸方向一端側が各々固定されるようになっている。
【0250】
また、コイルエンドカバー490には、固定子ホルダ460に対してコイルエンドカバー490を取り付けるための複数の取付孔492が設けられている。固定子巻線431に対するコイルエンドカバー490の取り付け状態を想定すると、周方向に並ぶ複数の貫通孔491は、固定子巻線431において径方向に屈曲されず軸方向に延びる渡り部444(換言すると、中間導線部442の位置)よりも径方向外側に配置され、同じく周方向に並ぶ複数の取付孔492は、固定子巻線431の渡り部444よりも径方向内側に配置されるようになっている。
【0251】
固定子ユニット420では、複数の部分巻線441A,441Bからなる固定子巻線431と固定子コア432とが一体化される。このとき、軸方向一端側(図47の下端側)において、絶縁カバー451,454のブラケット455,458を用いて、固定子コア432に対して各部分巻線441A,441Bが固定される。また、固定子巻線431及び固定子コア432からなる固定子430に対して、軸方向一方の側から固定子ホルダ460が組み付けられるとともに、固定子ホルダ460に対してコイルエンドカバー490が取り付けられる。このとき、コイルエンドカバー490の取付孔492に対して固定ピンやビス等の固定具が挿し入れられ、固定子ホルダ460に対してコイルエンドカバー490が固定される。また、コイルエンドカバー490の貫通孔491に対して固定ピンやビス等の固定具が挿し入れられ、固定子巻線431(各部分巻線441A,441B)に対してコイルエンドカバー490が固定される。
【0252】
また、軸方向においてコイルエンドカバー490の反対側では、固定子ホルダ460に対して、取付部材484により配線モジュール480が取り付けられる。この状態において、固定子ホルダ460(内筒部材462)の中空部では、各相の電力線485が、固定子ユニット420の軸方向一端側から他端側に延びるように設けられる。そして、それら各電力線485が、内筒部材462の端板部471に設けられた外部端子501に接続される。
【0253】
各電力線485は、内筒部材462(固定子ホルダ460)に対してクランプされているとよい。具体的には、図50に示すように、内筒部材462の開口部474内に、防振ゴムからなるクランプ材495を設け、開口部474を貫通して設けられる電力線485をクランプ材495によりクランプさせる構成とする。この場合、各電力線485が内筒部材462にクランプされることにより、各電力線485の耐震性を向上させることができる。特に、クランプ材495として防振ゴムを用いることにより、耐震性を一層向上させることができる。なお、内筒部材462における電力線485のクランプ位置は、開口部474以外の場所であってもよい。
【0254】
図57は、固定子ユニット420を配線モジュール480の側(すなわちコイルエンドカバー490の逆側)から見た斜視図である。なお、図57では、便宜上、固定子巻線431における各部分巻線441の具体的な図示を省略し、固定子巻線431を一体の筒状体として示している。
【0255】
図57に示すように、固定子430の一方のコイルエンド部では、固定子巻線431の径方向内側(詳しくは、周方向に並ぶ各渡り部444の径方向内側)に配線モジュール480が配置されている。この場合、図57の上側は、回転電機400の軸方向においてハブ402側、すなわち車輪ホイール側であり、配線モジュール480は、軸方向においてハブ402側、すなわち車輪ホイール側に配置されている。この構成では、配線モジュール480が、コイルエンド部での固定子巻線431の径方向内側(各渡り部444の径方向内側)に配置されることで、配線モジュール480が径方向外側に張り出すことがなく、固定子ユニット420としての小型化が可能になっている。
【0256】
なお、本実施形態の固定子巻線431では、ハブ402側のコイルエンド部において渡り部443が径方向内側に屈曲され、反ハブ側のコイルエンドにおいて渡り部443が径方向外側に屈曲されており、そのうちハブ402側(渡り部443が径方向内側に屈曲された側)に、配線モジュール480が配置されている。この場合、仮に反ハブ側に配線モジュール480が配置される構成を想定すると、渡り部444の径方向外側に張り出すように配線モジュール480とコイルエンドカバー490とが設けられ、それに伴う径方向外側への張り出しが大きくなることが懸念されるが、本実施形態の構成によればその不都合が抑制される。
【0257】
また、固定子ホルダ460の軸方向端面(詳しくは外筒部材461の軸方向端面)には端子台531が設けられており、その端子台531を介して配線モジュール480のバスバー483と電力線485とが接続されている。具体的には、バスバー483の端子部分と電力線485の端子部分とが互いに重ねられ、その重なり状態でビス等の固定具によりバスバー483及び電力線485が端子台531に対して固定されている。この場合、各電力線485を強固に固定することができる。つまり、バスバー483と電力線485とを単に相互に接続するだけでは、回転電機400に生じる振動に起因して結線部分での断線の懸念が生じるが、固定子ホルダ460(内筒部材462)の端子台531にてバスバー483と電力線485とを相互に接続する構成にしたため、振動に起因する結線部分の断線を抑制することができる。
【0258】
なお、固定子430と固定子ホルダ460との組み付けに際し、固定子ホルダ460と固定子コア432とを先に組み付けておき、その固定子ホルダ460及び固定子コア432の一体物に対して、固定子巻線431の組み付け(すなわち各部分巻線441A,441Bの組み付け)を行うようにしてもよい。
【0259】
次に、上述した回転子410や固定子ユニット420を含む回転電機400の全体構成について、図43図58とを用いて説明する。なお、図58は、スピンドル401と固定子ユニット420とを固定物として一体化し、かつハブ402と回転子410とを回転物として一体化した状態で示す回転電機400の分解断面図である。
【0260】
固定子ユニット420には、固定子ホルダ460の貫通孔472に挿通された状態でスピンドル401が組み付けられている。詳しくは、固定子ホルダ460の貫通孔472にスピンドル401の固定軸部404が挿通され、その状態で、固定子ホルダ460に対してスピンドル401がスプライン結合されるとともに、内筒部材462の端板部471にボルト等の固定具によりスピンドル401が固定されている。一方、回転子410には、ハブ402が固定されている。詳しくは、回転子キャリア411の貫通孔414aにハブ402が挿通され、その状態で、ハブ402がボルト等の固定具により端板部414に固定されている。
【0261】
そして、スピンドル401の固定軸部404がハブ402の挿通孔406に挿通された状態で、互いに径方向内外となる位置に固定子ユニット420及び回転子410がそれぞれ配置されるものとなっている。ここで、図58に示すように、スピンドル401及び固定子ユニット420の一体物には、スピンドル401の固定軸部404の周りに環状空間S1が形成されている。また、ハブ402及び回転子410の一体物には、ハブ402の周りに環状空間S2が形成されている。そして、環状空間S1にハブ402が入り込み、かつ環状空間S2に固定子ユニット420が入り込むようにして、スピンドル401及び固定子ユニット420の一体物と、ハブ402及び回転子410の一体物とが互いに組み付けられている。
【0262】
スピンドル401の固定軸部404とハブ402との間には軸受407,408が組み付けられ、その軸受407,408によりハブ402が回転可能に支持されている。つまり、軸受407,408により、スピンドル401及び固定子ユニット420に対して、ハブ402及び回転子410が回転可能に支持されている。なお、軸受407,408において内輪が固定軸部404側に組み付けられ、外輪がハブ402側に組み付けられている。
【0263】
スピンドル401及び固定子ユニット420の一体物と、ハブ402及び回転子410の一体物とが互いに組み付けられた状態において、回転子410の開放端側、すなわち軸方向においてハブ402の反対側(回転子キャリア411の端板部414の反対側)には、回転子カバー511が固定されている。回転子カバー511は、円環板状をなしており、内筒部材462との間に軸受512を介在させた状態で、回転子キャリア411にボルト等の固定具により固定されている。
【0264】
スピンドル401及び固定子ユニット420の一体物と、ハブ402及び回転子410の一体物とが互いに組み付けられた状態では、固定子ユニット420の内周側に、軸方向及び径方向に閉じた環状の閉鎖空間SAが形成されている。そして、その閉鎖空間SA内に、回転センサとしてのレゾルバ520が設けられている。レゾルバ520は、円環状をなしており、固定物側である固定子ユニット420の内筒部材462に固定されたレゾルバステータと、回転物側であるハブ402に固定されたレゾルバロータとを有する。レソルバステータの径方向内側に、レゾルバロータが対向配置されている。
【0265】
本実施形態では、上述したとおり、固定子ホルダ460における内筒部材462の内周側に、周方向に所定間隔で複数の突出部473が設けられている(図56参照)。レゾルバ520(レゾルバステータ)は、内筒部材462の突出部473の軸方向端面に取り付けられている。
【0266】
図44に示すように、レゾルバ520は、その周方向の一部に端子部521を有しており、その端子部521にはレゾルバ信号線522が接続されている。また、図42図43に示すように、レゾルバ信号線522は、内筒部材462の端板部471に設けられた挿通孔476を介して回転電機外部(回転電機400の軸方向端部)まで案内されている。なお、挿通孔476は、グロメット等のシール部材によりシールされているとよい。また、内筒部材462の軸方向端面に、レゾルバ信号線522に接続された信号線端子部が設けられていてもよい。
【0267】
本実施形態の回転電機400では、固定子ユニット420の径方向内側の閉鎖空間SAに、各相の電力線485とレゾルバ信号線522とがそれぞれ軸方向に延びるように設けられており、それら電力線485とレゾルバ信号線522との間に、電力線485により生じる電磁場を遮蔽する遮蔽部が設けられていることを特徴としている。その構成について、以下に具体的に説明する。
【0268】
本実施形態では、内筒部材462の内周側に、レゾルバ520を固定する固定部として突出部473が設けられており、その突出部473が「遮蔽部」となっている。詳しくは、図43に示すように、突出部473は、内筒部材462の軸方向一端から軸方向中間位置までの範囲で軸方向に延びるように設けられている。そして、その突出部473の軸方向端面にレゾルバ520が固定され、レゾルバ信号線522は、突出部473に沿って軸方向の反ハブ側に設けられている。つまり、内筒部材462の内周側(固定子ホルダ460の中空部)には、内筒部材462の軸方向の全範囲でなく、レゾルバ520が設けられた中間位置までの範囲(一部範囲)にわたって突出部473が設けられており、その突出部473に沿って軸方向に延び、かつ挿通孔476(図56参照)に挿通された状態でレゾルバ信号線522が設けられている。
【0269】
内筒部材462の内周側には、その軸方向一端側から他端側に延びるようにして電力線485が設けられている。図45に示すように、電力線485とレゾルバ信号線522との間には2つの突出部473が設けられている。
【0270】
また、内筒部材462の内周側には、軸体としてのスピンドル401が配置されており、突出部473はスピンドル401の固定軸部404に向けて突出形成されている。そのため、内筒部材462の内周側において、レゾルバ信号線522の周方向両側にはそれぞれ突出部473が設けられ、かつレゾルバ信号線522の径方向内側にはスピンドル401の固定軸部404が設けられた構成となっている。この場合、突出部473とスピンドル401(詳しくは固定軸部404)とが「遮蔽部」となっている。
【0271】
また、内筒部材462の内周側では、内筒部材462の軸方向一端から軸方向中間位置までの範囲にのみ突出部473が設けられており、軸方向において突出部473が設けられていない範囲、すなわち軸方向中間位置から軸方向他端までの範囲には、回転物であるハブ402の先端部が収容されている。この場合、内筒部材462の内周側において、突出部473が設けられていない領域にハブ402の先端部が収容され、かつ軸受407,408によりハブ402が回転可能に支持されている。
【0272】
また、本実施形態では、ティースレス構造の固定子430を有する回転電機400において、固定子430での放熱を適正に行わせるための構成を有しており、以下にその構成を具体的に説明する。図60は、固定子コア432の径方向外側に部分巻線441A,441Bを1つずつ配置した状態を示す概略図であり、図61は、部分巻線441における中間導線部442の1つを拡大して示す横断面図である。なお、図60では、説明の便宜上、回転電機400における極数及び部分巻線441の数を上述の構成から変更しており、磁極数が8であり、かつ部分巻線441の数が12個であるとしている。
【0273】
図60に示すように、部分巻線441Aでは、周方向において全節巻間隔で設けられた一対の中間導線部442が、径方向内側に向けて屈曲された渡り部443により連結されている。一方で、部分巻線441Bでは、同じく全節巻間隔で設けられた一対の中間導線部442が、径方向外側に向けて屈曲された渡り部443により連結されている。図60において、部分巻線441A,441Bは、互いに異なる相の部分巻線であり、例えば部分巻線441AはU相コイル、部分巻線441BはV相コイルである。
【0274】
図61に示すように、中間導線部442は、その横断面が長方形状をなしている。詳しくは、中間導線部442では、断面矩形状をなす導線材が径方向及び周方向にそれぞれ複数列で並んでおり、全体として横断面が長方形状をなしている。導線材は、角線であり、特に長辺と短辺とを備える平角線であるとよい。なお、中間導線部442の構成は、いずれの部分巻線441A,441Bにおいても同様である。中間導線部442は、径方向の厚さ寸法が周方向の幅寸法よりも小さい断面扁平状、すなわち径方向に薄い扁平状をなしている。これにより、中間導線部442の径方向厚さが薄くなり、ティースレス構造の固定子430において磁束密度を高めてトルクの増強を図ることが可能となっている。
【0275】
ここで、中間導線部442では径方向に対向する2つの径方向端面が平坦面であるのに対し、固定子コア432の外周面は曲面であることから、中間導線部442における固定子コア432側の径方向端面において、固定子コア432との間の径方向寸法が周方向で異なるものとなっている。特に、各中間導線部442の径方向端面は、中間導線部442の周方向中心位置と回転電機400の軸心とを通る直線LAに直交する向きとなっており、周方向中央部における中間導線部442と固定子コア432との間の径方向寸法をD1、周方向両端部における中間導線部442と固定子コア432との間の径方向寸法をD2とすると、D1<D2となっている。
【0276】
この場合、中間導線部442と固定子コア432との間において、部分巻線441で生じた熱を放出させる放熱部を確保することができる。つまり、中間導線部442の径方向端面は、固定子コア432に近い部位と固定子コア432に遠い部位とを有するものとなっており、特に中間導線部442の径方向端面と固定子コア432とが離れた部位において、空気等の冷媒の通過量を増やすことで、部分巻線441の好適なる冷却が可能になっている。
【0277】
なお、図61では、中間導線部442と固定子コア432との間に周方向に延びる隙間が示されているが、中間導線部442の周囲に絶縁被覆体445等の導体絶縁部が設けられていると、中間導線部442が導体絶縁部を介して固定子コア432に接触した状態になることが考えられる。ただしこの場合にも、中間導線部442の径方向端面と固定子コア432との間には、中間導線部442の周方向両端側において局所的な放熱部が確保されるものとなっている。
【0278】
また、中間導線部442と回転子410の磁石ユニット412(磁石415)との関係において、周方向中央部での中間導線部442と磁石ユニット412との間の径方向寸法をD3、周方向両端部の中間導線部442と磁石ユニット412との間の径方向寸法をD4とすると、D3>D4となっている。この場合、中間導線部442の周方向中心部において、中間導線部442の周方向両端部よりもエアギャップ(中間導線部442と磁石415との間の機械的離間距離)が大きくなるため、磁石415で生じる局部的な減磁の対策が可能となっている。
【0279】
これを図62を用いて補足説明する。なお、図62では、説明の便宜上、回転子410及び固定子430を平面展開して示している。上述したとおり磁石415には擬似円弧状の磁石磁路が形成されている。図62において、磁石415では、固定子巻線431側の角部(図のX部)が最も減磁の生じ易い部位である。この点、中間導線部442は、複数の導線材の集合体として構成され、かつ周方向中心部において周方向両端部よりもエアギャップが大きくなっているため、周方向にエアギャップが均一である場合に比べて周方向中心部での磁束密度が低くなっている。そのため、磁石415のX部に対する減磁低減を図ることができる。
【0280】
上記構成の各部分巻線441A,441Bでは、一対の中間導線部442よりも径方向内側及び外側に突出する渡り部443において形状の工夫が必要となる。この場合、図60に示すように、径方向外側に屈曲された方の渡り部443(部分巻線441Bの渡り部443)では、径方向に延びる一対の基端部443aと、その一対の基端部443aの間で周方向に延びる連結部443bとのうち連結部443bの両端の間の周方向距離が、一対の中間導線部442の間の周方向距離よりも拡張されているとよい。また、径方向内側に屈曲された方の渡り部443(部分巻線441Aの渡り部443)では、連結部443bの両端の間の周方向距離が、一対の中間導線部442の間の周方向距離よりも縮められているとよい。渡り部443では、周方向に延びる連結部443bを湾曲させることで、その湾曲部分が、一対の基端部443aの先端どうしの間隔を調整する間隔調整部となっている。
【0281】
次に、上記構成の部分巻線441A,441Bの製造方法について説明する。部分巻線441A,441Bの製造に際しては、まず図63(a)に示すように、導線材を縦長の環状に巻回することにより、側面視でI字状をなす空芯コイルを作製する。空芯コイルは、軸方向両端部が互いに対称形状で設けられ、いずれも同サイズでかつ同じ形状となっている。
【0282】
その後、図63(b)に示すように、空芯コイルの軸方向一端部を径方向に屈曲させる。このとき、空芯コイルにおいて、一対の中間導線部442に相当する部位と渡り部443に相当する部位とを各々個別に治具等で保持し、その状態で、軸方向一端側を約90度の角度で屈曲させるとよい。
【0283】
空芯コイルの軸方向一端側を屈曲させた状態では、軸方向中間位置での横断面が図63(c)のようになっている。この状態では、一対の中間導線部442の径方向端面(図の上下の端面)が互いに同一平面上に位置している。
【0284】
その後、図63(d)に示すように、各中間導線部442の角度調整用の治具Jを用い、軸方向一端側の湾曲形状を調整して渡り部443を成形しつつ、各中間導線部442の径方向端面の向きを調整する。治具Jは、各中間導線部442の径方向端面を当接させる一対の当接面Ja,Jbを有しており、各中間導線部442の径方向端面を当接面Ja,Jbにそれぞれ当接させた状態で、渡り部443の湾曲形状が調整される。各当接面Ja,Jbはそれぞれ平坦面である。この作業により、一対の中間導線部442の周方向間隔が一定に保持されつつ、各中間導線部442の径方向端面の向きが直線LAに直交する向きに調整される。このとき、中間導線部442の横断面は長方形状のまま維持される。また、図63(d)は、渡り部443を径方向外側に屈曲させた構成を示しており、かかる構成の渡り部443では、一対の基端部443aの間の連結部443bは、その両端の間の周方向距離が、一対の中間導線部442の間の周方向距離よりも拡張されるようにして変形される。
【0285】
治具Jにおいて一対の当接面Ja,Jbのなす角度θは、固定子コア432の径(コア径)に応じたものであるとよく、コア径が大きいものであれば角度θを大きくし、コア径が小さいものであれば角度θを小さくするとよい。渡り部443を径方向外側に屈曲させる場合には、角度θはθ<180°である。
【0286】
また、渡り部443を径方向内側に屈曲させる場合には、図63(e)に示すように、治具Jにおいて一対の当接面Ja,Jbのなす角度θをθ>180°にするとよい。この治具Jを用いた成形により、渡り部443において、一対の基端部443aの間の連結部443bは、その両端の間の周方向距離が、一対の中間導線部442の間の周方向距離よりも縮められるようにして変形される。この場合、渡り部443において連結部443bの長さが余剰となることから、連結部443bの中央部分が径方向内側に凸となるように変形されるとよい。
【0287】
渡り部443が径方向内側に屈曲された部分巻線441A(「内曲がり巻線」に相当)において、渡り部443が図64に示すように成形される構成であってもよい。図64では、部分巻線441Aにおいて、連結部443bの中央部分が径方向外側に凸となるように湾曲形成されている。この場合、連結部443bの湾曲形状によれば、渡り部443の径方向内側への突出量を減らすことができる。なお、部分巻線441Aにおいて、連結部443bの中央部分が軸方向のいずれかの側に凸となるように湾曲形成される構成であってもよい。
【0288】
上記のとおり固定子巻線431において複数の部分巻線441を用いた構成では、回転子410の磁極数に応じてコア径が変更されるとともに、磁極数に応じた数の部分巻線441が用いられる。例えば、上述した図48等の構成では、磁極数が24、部分巻線441の数が36であるが、これ以外に、図65(a)に示すように、磁極数を4、部分巻線441の数を6とする構成や、図65(b)に示すように、磁極数を8、部分巻線441の数を12とする構成などが可能である。この場合、4極の回転電機における固定子巻線431の外径をφ1とすると、8極の回転電機における固定子巻線431の外径φ2は「φ1×2」となる。また、回転電機の磁極数を「4×n」(nは自然数)とすると、固定子巻線431の外径は「φ1×n」として一般化できる。
【0289】
また、本願開示者によれば、ティースレス構造の表面磁石型3相回転電機において、磁極数(部分巻線441の数)ごとに、トルクの最適化を図る上での固定子巻線431の直径の最適範囲が存在していることが見出されている。つまり、回転電機の磁極数を4n、部分巻線441の数を6nとする場合に(nは自然数)、固定子巻線431の直径を、「φ40~100mm」×nとすることで、回転電機における最大トルクの増加が見込めるものとなっている。図65(a)に示すように磁極数が4である場合は、固定子巻線431の直径が「φ40~100mm」であり、図65(b)に示すように磁極数が8である場合は、固定子巻線431の直径が「φ80~200mm」であるとよい。
【0290】
この場合、一例として4極の回転電機において固定子巻線431の直径をφ80とすると、固定子巻線431の円周長さは約240mmであり、磁石ユニット412における磁石部分の全周は、コイル円周長さよりは長いものの概ね約240mmである。そのため、1極分の磁石の周方向の幅は約60mmであるとよい。また、磁石の径方向の厚みは例えば約30mmであるとよい。
【0291】
ここで、1極分の磁石415の周方向の幅をW、磁石415と固定子コア432との間の径方向距離であるギャップ寸法をLgとする場合、回転電機400において、「W/Lg」と1ターン当たりのトルクを示すトルク定数とは図66に示す関係となる。なおここでは、磁石415として焼結ネオジム磁石を用い、磁石厚さを極ピッチ(磁石幅)の1/2としている。磁石幅Wは磁石有効幅であり、ギャップ寸法Lgは、回転子410と固定子430との間において透磁率が空気程度となる部分の径方向寸法である。
【0292】
図66では、「W/Lg」が大きくなるほど、トルク定数が大きくなっている。詳しくは、「W/Lg」の増加に対するトルク定数の増加の傾きは、「W/Lg」の大きさに依存して異なり、「W/Lg」とトルク定数との相関において変曲点が存在する。この場合、「W/Lg」を変曲点付近の範囲A内で定めることで、磁気装荷と電気装荷との良好なバランスを実現することができる。つまり、「W/Lg」が範囲Aよりも小さい場合には、磁気装荷が過少になることに起因するトルクダウンの懸念が生じる一方、「W/Lg」が範囲Aよりも大きい場合には、「W/Lg」を大きくしてもトルク定数の増加がさほど見込めなくなる。そこで、「W/Lg」の適正範囲を変曲点付近とし、具体的には、「W/Lg=2.5~7」としている。
【0293】
これは、本実施形態のようなモータ構成では、磁石に対してLg(磁気回路エアギャップ)が大きくなると磁石のパーミアンス係数Pcが低下することと、Lgに反比例して巻線スペースが大きくなっていくことにより起こる状況である。パーミアンス係数Pcは、ある磁石が定まったときに、Lgが大きくなるのに比例して小さくなる反比例関係にある値であることが知られているが、このパーミアンス係数Pcによる実効磁束密度Bdの式は以下となる。
【0294】
Bd=Br/(1+(1/Pc))
この式によると、パーミアンス係数Pcが大きくなることにより、残留磁束密度Brに対して割り算となる分母の値が次第に1に近づくことが分かる。すなわち、実効磁束密度や巻線1ターン当たりのトルク定数は、パーミアンス係数Pcが高い方が有利であると分かる。このことから、従来のティースレス等のコアレスモータ類においては、Lgを小さくして薄いコイルを使用することが一般的であるが、本願開示では、銅やCNT、アルミ線といった一般的導体を利用する範囲で、一般的に薄いコイルが優れるとの議論とは逆となるコイル厚みを「W/Lg=2.5~7」という値を持つコイルこそが大トルク化に有利であるとしている。
【0295】
またここで、下限値2.5を下回る値となると、一般論と同様にコイルが厚すぎるためにモータトルクが落ちる現象が起こる。この値は、本願開示において、Br=1[T]以上、iHc=400[kA/m]以上といった大きいBH積の磁石を配向角度の工夫により、従来量産される焼結磁石よりも高い保磁力とした上で行ったものであり、W/Lgの下限値を2.5まで伸ばすことができたため、従来モータとは一線を画する高トルクモータを実現できるものとなっている。そのため、特に焼結ネオジウム磁石、焼結サマリウム磁石、L10構造を持つFe-Ni磁石、又は今後開発される同等性能且つ配向工夫を組み合わされた磁石に対して、本願開示の磁気回路の寸法関係を使用することで、特に大きな効果を奏するものである。
【0296】
図67に示すように、各中間導線部442における径方向端面と固定子コア432との間に、絶縁性の封止材447が介在する構成としてもよい。封止材447は、例えば合成樹脂である。封止材447の熱伝導率は導線材の絶縁被膜の熱伝導率よりも高くなっているとよい。この場合、封止材447を介しての放熱が可能であることに加え、封止材447による中間導線部442の固定が可能になっている。
【0297】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0298】
回転電機400において、固定子430をティースレス構造とするとともに、固定子巻線431を構成する複数の部分巻線441を、固定子コア432の外周面に沿わせて周方向に並べて配置する構成とした。また、中間導線部442の横断面を長方形状とするとともに、その中間導線部442における固定子コア432側の径方向端面において固定子コア432との間の径方向寸法を周方向で異ならせる構成とした。これにより、回転電機400に求められる放熱性能の向上を図ることができる。すなわち、上記構成では、中間導線部442と固定子コア432との間の径方向寸法が周方向で異なっており、換言すれば、中間導線部442の径方向端面が、固定子コア432に近い部位と固定子コア432に遠い部位とを有するものとなっている。この場合、ティースレス構造の固定子430においてバックヨークである固定子コア432に対して近接状態での各部分巻線441の組み付けを可能としつつ、中間導線部442と固定子コア432との間に、部分巻線441で生じた熱を放出させる放熱部を確保することができる。その結果、ティースレス構造の固定子430を有する回転電機400において、固定子430での放熱を適正に行わせることができる。
【0299】
なお、固定子コア432の曲面上に横断面が長方形状をなす中間導線部442を配置する構成では、仮に部分巻線441のサイズが同等であれば、固定子コア432の曲面の半径(コア半径)が小さいほど、換言すれば同曲面の曲率が大きいほど、中間導線部442と固定子コア432との間の径方向寸法の差(周方向中央部及び周方向両端部での径方向寸法の差)が大きくなる。例えば、固定子430のコア半径が小さくかつ磁極数の小さい回転電機、すなわち部分巻線441の数が少ない回転電機では、中間導線部442と固定子コア432との間の径方向寸法の差が顕著となる。この場合、コア半径の小さい固定子430では、コア半径の大きい固定子430に比べて、熱容量が小さいと考えられるが、中間導線部442と固定子コア432との間の径方向寸法の差が大きくなることで、放熱性を向上させることができる。
【0300】
各中間導線部442において固定子コア432側の径方向端面を、中間導線部442の周方向中心位置と回転電機400の軸心とを通る直線LAに直交する向きとし、その径方向端面において周方向中央部と周方向両端部とで固定子コア432との間の径方向寸法が異なる構成とした。この場合、固定子巻線431において、固定子コア432の曲面に沿って並ぶ各中間導線部442を、固定子コア432に対していずれも同じ状態で配置することができる。
【0301】
各中間導線部442における径方向内側の端面と固定子コア432との間に、絶縁性の封止材447を介在させ、その封止材447を介しての放熱と、封止材447による中間導線部442の固定とが可能になる構成とした。この場合、封止材447の熱伝導率を導線材の絶縁被膜の熱伝導率よりも高くしたため、各部分巻線441の放熱性能が高められるものとなっている。
【0302】
部分巻線441として、渡り部443が径方向内側に屈曲された部分巻線441A(内曲がり巻線)を含む構成では、その部分巻線441Aが周方向に隣り合う場合に、各部分巻線441Aの渡り部443どうしの干渉が生じ易くなると考えられる。この点、部分巻線441Aの渡り部443において、一対の基端部443aの間で周方向に延びる連結部443bが、その中央部分が径方向外側又は軸方向に凸となるように湾曲形成されている構成とした。これにより、各部分巻線441Aの渡り部443どうしが周方向に干渉することを抑制できる。また、渡り部443において周方向に延びる連結部443bが湾曲していることで、その湾曲部分が、一対の基端部443aの先端どうしの間隔を調整する間隔調整部となり、周方向における渡り部443どうしの干渉抑制に寄与するものとなっている。この場合特に、連結部443bが径方向外側又は軸方向に凸となるように湾曲しているため、固定子430の径方向内側において、利用可能なスペースの拡張を可能にしたり、径方向内側への突出を抑えて回転電機400の回転軸等との干渉抑制を可能にしたりすることができる。
【0303】
3相の固定子巻線431において、部分巻線441における一対の中間導線部442の間に、他2相の部分巻線441における中間導線部442を1つずつ配置し、かつ周方向に渡り部443,444が重複する部分巻線441どうしで、一方の部分巻線441の渡り部443を径方向に屈曲させるようにした。これにより、各部分巻線441の互いの干渉を回避しつつ、固定子コア432の周面に沿って各中間導線部442を周方向に並べて配置することができる。また、渡り部443が径方向に屈曲される構成を鑑み、渡り部443の湾曲部分の内側で、ブラケット455,457の突出部455a,457aにより部分巻線441を固定子コア432及びコイルエンドカバー490に固定する構成としたため、ティースレス構造の固定子430において、部分巻線441を好適に固定できるものとなっている。
【0304】
表面磁石型の回転電機400では、回転子410において極数分の磁石が周方向に並べて配置されており、固定子巻線431の直径(コイル径)と極数とに応じて、磁極ごとの磁石の仕様が定められる。この場合、極数に対するコイル径が小さすぎると、各磁極において磁石の周方向の幅が小さくなり、磁気装荷の低下が懸念される。またその反面、極数に対するコイル径が大きすぎると、磁石の周方向の幅が大きくなることで磁気装荷の増加が見込めるものの、電気装荷の増加がさほど見込めず、回転電機400の大型化に見合うトルク増強効果が期待できないことが懸念される。
【0305】
この点、本願開示者は、磁気装荷と電気装荷とのバランスを図る上で、極数に対するコイル径の適正範囲があることを見出し、回転電機400の磁極数を4n、部分巻線441の数を6nとする場合に、固定子巻線431の直径を「φ40~100mm」×nとすることとした。これにより、回転電機400におけるトルクの適正化を実現できる。
【0306】
表面磁石型のティースレス回転電機において、1極分の磁石の周方向の幅Wと、磁石及び固定子コア432の間の径方向距離Lgとの比である「W/Lg」は、固定子巻線431の1ターン当たりのトルク定数[Nm/A]と相関がある(図66参照)。これを鑑みて、「W/Lg=2.5~7」となる構成にしたため、回転電機400におけるトルクの適正化を実現できる。
【0307】
回転子410の磁石を、磁極中心であるd軸の側において、磁極境界であるq軸の側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされているか、又は、互いに対向しかつ磁束の流入流出面となる一対の作用面に対して磁石容易軸の向き傾いており、かつその傾斜の向きが、固定子巻線431の側でd軸に近づくようにd軸に対して傾斜する向きとなっている構成とした。この場合、各磁極における磁石磁束の強化が可能となる反面、渦電流損の増加が懸念されるが、固定子巻線431を、導線材を多重に巻回してなる部分巻線441を用いた構成としたため、渦電流損の低減が可能となっている。なお、部分巻線441において、導線材が、複数の素線が撚り合わされた撚り線により構成されていると、より一層の渦電流の低減効果を得ることができる。
【0308】
部分巻線441A,441Bは、いずれも同形状の空芯コイルを用いて作製することが可能であり、治具の使い分けにより、渡り部443が径方向内側に屈曲された部分巻線441Aと、渡り部443が径方向外側に屈曲された部分巻線441Bとの作製がそれぞれ可能となっている。また、極数の異なる回転電機においても、治具の変更により簡易に対応できる。これにより、部品の共用化の実現が可能となっている。
【0309】
(第3実施形態)
本実施形態では、固定子430での放熱を適正に行わせるための構成として、図68に示す構成を用いる。図68は、部分巻線441における中間導線部442の1つを拡大して示す横断面図である。なお、本実施形態において中間導線部442以外の構成は、第2実施形態と同じであるとよい。
【0310】
図68では、中間導線部442において、径方向及び周方向にそれぞれ導線材が複数に並んでおり、径方向外側では、径方向内側に比べて周方向に並ぶ導線材どうしの間隔が広くなっている。これに対し、導線どうしの径方向の間隔はいずれも略同じになっている。詳しくは、部分巻線441において導線材は断面が四角形の角線であり、その角線が側面どうしを径方向及び周方向に互いに対向させて多重に巻回されている。導線材は平角線であるとよい。そして、中間導線部442では、径方向において角線の側面どうしが近接対向し、かつ周方向において角線の側面どうしが径方向よりも離れて対向している。
【0311】
中間導線部442において、径方向端面となる2面(径方向内側及び外側の各端面)は、それぞれ略円弧状に延びるように形成されている。また、周方向端面となる2面(周方向両端の各端面)は、回転電機400の軸心から放射状に延びかつ所定角度で離れた2つの直線LBに略平行になるように形成されている。なお、2つの直線LBのなす角度は、極数(部分巻線441の数)に応じて変わり、「360°×(2/K)」(Kはコイル数)であるとよい。
【0312】
上記構成では、径方向の内外で固定子巻線431における円周長さが相違することを鑑み、中間導線部442において、径方向内側では周方向に並ぶ導線材を密の状態とし、径方向内側では周方向に並ぶ導線材を粗の状態としている。これにより、各導線材どうしの間に、各部分巻線441で生じた熱を放出させる放熱部を確保することができる。その結果、ティースレス構造の固定子430を有する回転電機400において、固定子430での放熱を適正に行わせることができる。
【0313】
また、上記構成によれば、径方向では角線の側面どうしが近接対向し、周方向では角線の側面どうしが径方向よりも離れて対向している。そのため、中間導線部442の径方向の厚さは、角線(導線材)の巻き数に応じた所定厚さになっているとともに、中間導線部442の周方向の幅は、角線どうしの離間距離に応じて径方向内外で相違するものとなっている。この場合、中間導線部442の径方向の厚さを周方向で一定としつつ、径方向内外での周方向の幅寸法のみが調整されるものとなっている。
【0314】
なお、中間導線部442の構成は、いずれの部分巻線441A,441Bにおいても同様である。中間導線部442は、径方向の厚さ寸法が周方向の幅寸法よりも小さい断面扁平状をなしている。これにより、中間導線部442の径方向厚さが薄くなり、ティースレス構造の固定子430において磁束密度を高めてトルクの増強を図ることが可能となっている。
【0315】
また、各中間導線部442において径方向及び周方向に並ぶ導線材の間には、絶縁性の封止材が介在しているとよい。これにより、その封止材を介しての放熱と、封止材による導線材の固定が可能になる。また、封止材の熱伝導率を導線材の絶縁被膜の熱伝導率よりも高くすることで、各部分巻線の放熱性能が高められるものとなっている。
【0316】
上記構成の部分巻線441は、例えば次の手順により作製されるとよい。空芯コイルを形成した後に、中間導線部442を、図69(a)に示す型枠601に入れる。型枠601は、底部602とその底部602の両側の2つの壁部603とを有している。底部602は、内側に凸の曲面状をなす底面を有し、各壁部603は、互いの間隔が開放端側に向けて拡張されるように設けられている。底部602における底面の曲率は、部分巻線441の組み付け相手である固定子コア432の外周面の曲率と同じであるとよい。
【0317】
そして、型枠601内の中間導線部442に対して、隙間調整用の押し当て治具605を押し当てることで、各導線材の間に隙間を形成する。押し当て治具605は、曲面状の板面を有するベース部606と、そのベース部606において凹面側から突出する複数の櫛歯部607とを有している。複数の櫛歯部607は、導線材の1つずつの間隔で導線材と同方向に延びるように設けられた薄板部であり、先端ほど細くなりかつ先端が尖った断面テーパ状(楔状)をなしている。櫛歯部607は、例えば弾性を有する金属又は樹脂材料により形成されているとよい。
【0318】
中間導線部442に対して押し当て治具605を押し当てた状態では、図69(b)に示すように、周方向に並ぶ導線材の間に櫛歯部607が入り込み、導線材どうしが周方向に離間した状態となる。これにより、径方向外側では、径方向内側に比べて周方向に並ぶ導線材どうしの間隔が広くなる。また、型枠601の底面の曲面形状、及びベース部606の曲面形状により、中間導線部442における径方向の両端面が曲面状に成形される。なお、櫛歯部607は、導線材の1つずつの間隔で設けられる以外に、複数個ずつの間隔(例えば2つずつの間隔)で設けられていてもよい。
【0319】
その後、中間導線部442から押し当て治具605を外し、各導線材の間の隙間に樹脂材料等の封止材を充填させる。そして、空芯コイルの軸方向端部を屈曲させて渡り部443を形成する。
【0320】
なお、空芯コイルの軸方向端部の屈曲は、上記のとおり押し当て治具605による中間導線部442の隙間形成の後に行われてもよいし、押し当て治具605による中間導線部442の隙間形成の前に行われてもよい。
【0321】
各中間導線部442を、図70に示す構成としてもよい。図70の構成では、導線材として平角線を用いており、その導線材の断面長手方向を径方向とし、かつ広面どうしを周方向に互いに対向させた状態で配置している。そして、中間導線部442において、径方向外側では、径方向内側に比べて周方向に並ぶ導線材どうしの間隔が広くなる構成としている。
【0322】
(第2,第3実施形態の変形例)
・上記実施形態では、中間導線部442の径方向端面において固定子コア432との間の径方向寸法が周方向で異なる構成として、当該径方向端面において周方向中央部と周方向両端部とで固定子コア432との間の径方向寸法が異なる構成としたが、これを変更してもよい。例えば、中間導線部442の径方向端面において、周方向一端側と周方向他端側とで固定子コア432との間の径方向寸法が異なる構成としてもよい。
【0323】
・上記実施形態では、部分巻線441A,441Bの作製に用いる空芯コイルを、軸方向両端部が互いに対称形状で設けられたものとしたが(図63(a)参照)、これを変更してもよい。例えば、空芯コイルにおいて、径方向に屈曲される軸方向端部のみを、一対の中間導線部442に相当する部位どうしの間隔よりも幅広又は幅狭にしてもよい。この場合、径方向外側に屈曲される軸方向端部を、一対の中間導線部442の間隔よりも幅広にする。また、径方向内側に屈曲される軸方向端部を、一対の中間導線部442の間隔よりも幅狭にする。各部分巻線441A,441Bで言えば、部分巻線441A用の空芯コイルと、部分巻線441B用の空芯コイルとを個別に作製するとよい。
【0324】
・上記実施形態の固定子巻線431では、側面視で略L字状をなす部分巻線441A,441Bを用いる構成としたが(図51図54参照)、これを変更してもよい。例えば、図71(a),(b)に示すように、側面視で略C字状をなす部分巻線441Cと、側面視で略I字状をなす部分巻線441Dとを用いる構成としてもよい。なお、図71(a)は、各部分巻線441C,441Dを固定子コア432から分離させた状態を示し、図71(b)は、各部分巻線441C,441Dを固定子コア432に組み付けた状態を示している。
【0325】
・上記実施形態では、部分巻線441において、一対の中間導線部442を、互いに平行でありかつ軸方向に平行に設けたが、これを変更してもよい。例えば、一対の中間導線部442を、互いに非平行にしたり、軸方向に非平行にしたりしてもよい。
【0326】
・回転電機400を、アウタロータ構造の回転電機に代えて、インナロータ構造の回転電機としてもよい。インナロータ構造の回転電機では、固定子430が径方向外側に設けられ、回転子410が径方向内側に設けられる。インナロータ構造の回転電機において、第2実施形態で説明したように、中間導線部442の横断面を長方形状とし、固定子コア432側の径方向端面において固定子コア432との間の径方向寸法を周方向で異ならせるとよい。この場合、固定子コア432の径方向外側に固定子巻線431が配置される構成(アウタロータ式の回転電機)では、周方向両端部において周方向中央部よりも径方向寸法が大きくなるのに対し、逆に固定子コア432の径方向内側に固定子巻線431が配置される構成(インナロータ式の回転電機)では、周方向中央部において周方向両端部よりも径方向寸法が大きくなるようになっている。
【0327】
・回転電機400として、界磁子を回転子、電機子を固定子とする回転界磁形の回転電機に代えて、電機子を回転子、界磁子を固定子とする回転電機子形の回転電機を採用することも可能である。
【0328】
・回転電機400の用途は車両の走行用モータ以外であってもよく、航空機を含め広く移動体に用いられる回転電機や、産業用又は家庭用の電気機器に用いられる回転電機であってもよい。
【0329】
この明細書における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
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