(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】物体検知装置および駐車支援装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/527 20060101AFI20240806BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240806BHJP
G01S 15/10 20060101ALI20240806BHJP
G01S 15/931 20200101ALI20240806BHJP
【FI】
G01S7/527
G08G1/16 D
G01S15/10
G01S15/931
(21)【出願番号】P 2023018563
(22)【出願日】2023-02-09
(62)【分割の表示】P 2018240295の分割
【原出願日】2018-12-21
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2018092052
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
(72)【発明者】
【氏名】井奈波 恒
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-255667(JP,A)
【文献】特開2017-078912(JP,A)
【文献】特開2018-163007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52 - 7/64
15/10 - 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信可能な振動子を有し、当該振動子により、所定の符号長の識別情報を付与する符号化が施された送信信号を送信し、周囲に存在する物体により反射された前記送信信号を受信信号として受信する送受信部と、
前記送信信号の送信が完了した後、前記送信信号の前記識別情報と前記受信信号の前記識別情報との類似度に対応した第1相関値を取得し、当該第1相関値の時間変化に対応した第1パターンと、
前記第1相関値の時間変化におけるメインローブとサイドロープとの関係を予め推定することで設定された基準パターンであって、前記メインローブに対応する第1ピークと当該第1ピークに隣接する前記第1ピークよりも小さい
前記サイドロープに対応する第2ピークとを含
む第2パターンの少なくとも一部との類似度に対応した第2相関値を取得する相関処理部と、
前記第2相関値と閾値との比較結果に基づいて、前記物体までの距離を検知する検知部と、
を備える、物体検知装置。
【請求項2】
前記相関処理部は、前記送信信号の送信が完了してからの経過時間に応じて、前記第2相関値の取得に使用する前記第2パターンの区間を変更する、
請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項3】
前記相関処理部は、前記送信信号の送信が完了してからの前記経過時間が短いほど、前記第2パターンの終端側の区間を、前記第2相関値の取得に使用し、前記送信信号の送信が完了してからの前記経過時間が所定時間以上の場合、前記第2パターンの全体を、前記第2相関値の取得に使用する、
請求項2に記載の物体検知装置。
【請求項4】
前記所定時間は、前記送信信号の送信が完了した直後から前記振動子の慣性による振動が治まるまでの残響時間である、
請求項3に記載の物体検知装置。
【請求項5】
前記検知部は、前記送信信号が送信されたタイミングと前記受信信号が受信されたタイミングとの差に基づいて、前記物体に関する情報として、前記物体までの距離を算出する測距部を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の物体検知装置。
【請求項6】
車両に搭載された物体検知装置であって、請求項1~5のいずれか一つに記載の物体検知装置と、
前記車両に搭載され、前記物体検知装置の前記検知部により検知された前記物体に関する情報に基づいて、前記車両の駐車支援を実行する駐車支援処理部と、
を備える、駐車支援装置。
【請求項7】
前記物体検知装置は、複数の物体検知装置を含み、
前記複数の物体検知装置は、互いに異なる前記識別情報を利用して前記物体に関する情報をそれぞれ同時並行的に検知する、
請求項6に記載の駐車支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体検知装置および駐車支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子などの振動子により超音波としての送信信号を送信するとともに、物体により反射された送信信号を受信信号として振動子により受信し、それらの超音波の送受信のタイミングの差などを取得することで、物体までの距離などといった、物体に関する情報を取得する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動子を利用した上記のような技術においては、送信信号の送信が完了しても、慣性により振動子が振動し続けるので、振動子の振動が治まるまでに時間を要する。このような時間は、残響時間と呼ばれる。ここで、残響時間中に受信信号を受信すると、当該受信信号によって発生する振動子の振動と、慣性により残っている振動子の振動と、が混在することになる。この場合、たとえば振幅に関する一定の閾値などによって受信信号のみを正確に検出するのが困難であるので、従来では、残響時間が終了するまでは、受信信号の検出を避けていた。
【0005】
しかしながら、たとえば車幅と駐車枠(壁など)との差が非常に小さい場合など、検知の対象となる物体が非常に近くに存在するような状況においては、残響時間が終了する前に、送信信号が戻ってくることも考えられる。したがって、残響時間が終了する前であっても受信信号を検出し、より近距離に存在する物体の検知を実現する技術が求められている。
【0006】
そこで、本開示の課題の一つは、より近距離に存在する物体の検知を実現することが可能な物体検知装置および駐車支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一例としての物体検知装置は、超音波を送受信可能な振動子を有し、当該振動子により、所定の符号長の識別情報を付与する符号化が施された送信信号を送信し、周囲に存在する物体により反射された前記送信信号を受信信号として受信する送受信部と、前記送信信号の送信が完了した後、前記送信信号の前記識別情報と前記受信信号の前記識別情報との類似度に対応した第1相関値を取得し、当該第1相関値の時間変化に対応した第1パターンと、前記第1相関値の時間変化におけるメインローブとサイドロープとの関係を予め推定することで設定された基準パターンであって、前記メインローブに対応する第1ピークと当該第1ピークに隣接する前記第1ピークよりも小さい前記サイドロープに対応する第2ピークとを含む第2パターンの少なくとも一部との類似度に対応した第2相関値を取得する相関処理部と、前記第2相関値と閾値との比較結果に基づいて、前記物体までの距離を検知する検知部と、を備える。
【0008】
上記のような構成によれば、第1相関値を取得する相関処理と、第2相関値を取得する相関処理と、の2回の相関処理を、送信信号の送信が完了した後に実行することで、より近距離に存在する物体の検知を実現することが可能な物体検知装置を提供することができる。
【0009】
上述した物体検知装置において、前記相関処理部は、前記送信信号の送信が完了してからの経過時間に応じて、前記第2相関値の取得に使用する前記第2パターンの区間を変更する。このような構成によれば、送信信号の送信が完了してからの経過時間に応じて、第2パターンのうちの適切な区間を使用して、適切な第2相関値を取得することができる。
【0010】
また、上述した物体検知装置において、前記相関処理部は、前記送信信号の送信が完了してからの前記経過時間が短いほど、前記第2パターンの終端側の区間を、前記第2相関値の取得に使用し、前記送信信号の送信が完了してからの前記経過時間が所定時間以上の場合、前記第2パターンの全体を、前記第2相関値の取得に使用する。このような構成によれば、送信信号の送信が完了してからの経過時間と所定時間との関係に応じて、第2相関値の取得に使用する第2パターンの区間を適切に設定することができる。
【0011】
また、上述した物体検知装置において、前記所定時間は、前記送信信号の送信が完了した直後から前記振動子の慣性による振動が治まるまでの残響時間である。このような構成によれば、残響時間を考慮して、第2相関値の取得に使用する第2パターンの区間をより適切に設定することができる。
【0012】
また、上述した物体検知装置において、前記検知部は、前記送信信号が送信されたタイミングと前記受信信号が受信されたタイミングとの差に基づいて、前記物体に関する情報として、前記物体までの距離を算出する測距部を含む。このような構成によれば、検知結果として物体までの距離を得ることができる。
【0013】
また、本開示のさらに他の一例としての駐車支援装置は、車両に搭載された物体検知装置であって、上述のいずれか一つに記載の物体検知装置と、前記車両に搭載され、前記物体検知装置の前記検知部により検知された前記物体に関する情報に基づいて、前記車両の駐車支援を実行する駐車支援処理部と、を備える。
【0014】
上記のような構成によれば、送信信号(および受信信号)に付与された識別情報を利用して、送信信号の送信が完了した直後から、送信信号が反射されて受信信号として受信されたか否かを判定することができる。これにより、残響時間が終了する前であっても、受信信号を検出することができるので、より近距離に存在する物体の検知を実現することが可能な駐車支援装置を提供することができる。
【0015】
上述した駐車支援装置において、前記物体検知装置は、複数の物体検知装置を含み、前記複数の物体検知装置は、互いに異なる前記識別情報を利用して前記物体に関する情報をそれぞれ同時並行的に検知する。このような構成によれば、同時並行的に取得される複数の検知結果に基づいて、車両の周囲の状況をより迅速かつより詳細に検知することができるので、より迅速かつより高精度な駐車支援を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、第1実施形態(および第2実施形態)にかかる物体検知装置を備えた車両を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態にかかる物体検知装置の構成を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態にかかる物体検知装置が送受信する信号の波形の例を示した例示的かつ模式的なグラフである。
【
図4】
図4は、第1実施形態にかかる物体検知装置が物体を検知するために実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【
図5】
図5は、第1実施形態の変形例にかかる物体検知装置を備えた駐車支援装置の構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の必要性を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態にかかる基準パターンを示した例示的かつ模式的な図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態にかかる2次相関処理の結果を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態にかかる物体検知装置が物体を検知するために実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態(および後述する第2実施形態)にかかる物体検知装置101~104を備えた車両1を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。詳細は後述するが、物体検知装置101~104は、超音波の送受信を行い、当該送受信の時間差などを取得することで、周囲に存在する人間を含む物体(たとえば
図2に示される障害物X1)に関する情報を検知するセンシングデバイスである。
【0019】
図1に示されるように、物体検知装置101~104は、左右一対の前輪3Fと左右一対の後輪3Rとを含んだ四輪の車両1の車体2に搭載されている。より具体的に、物体検知装置101~104は、車体2の後端のたとえばリヤバンパなどにおいて、互いに異なる位置に設置されている。
【0020】
なお、第1実施形態において、物体検知装置101~104が有するハードウェア構成および機能は、それぞれ同一である。したがって、以下では、簡単化のため、物体検知装置101~104を総称して物体検知装置100と記載することがある。
【0021】
図2は、第1実施形態にかかる物体検知装置100の構成を示した例示的かつ模式的な図である。
図2に示されるように、送受信部110と、制御部120と、を有している。
【0022】
送受信部110は、送受波器111を有している。送受波器111は、圧電素子などの振動子111aを有し、当該振動子111aにより、超音波の送受信を実現する。
【0023】
より具体的に、送受波器111は、振動子111aの振動に応じて発生する超音波を送信信号として送信し、当該送信信号として送信された超音波が外部に存在する物体で反射されて戻ってくることでもたらされる振動子111aの振動を受信信号として受信する。なお、
図2には、送受波器111からの超音波を反射する物体として、路面X2上に設置された障害物X1が例示されている。
【0024】
ここで、振動子111aを利用した上記のような技術においては、送信信号の送信が完了しても、慣性により振動子111aが振動し続けるので、振動子111aの振動が治まるまでに時間(いわゆる残響時間)を要する。ここで、残響時間中に受信信号を受信すると、当該受信信号によって発生する振動子111aの振動と、慣性により残っている振動子111aの振動と、が混在することになる。この場合、たとえば振幅に関する一定の閾値などによって受信信号のみを正確に検出するのが困難であるので、従来では、残響時間が終了するまでは、受信信号の検出を避けていた。
【0025】
しかしながら、たとえば車幅と駐車枠(壁など)との差が非常に小さい場合など、検知の対象となる物体が非常に近くに存在するような状況においては、残響時間が終了する前に、送信信号が戻ってくることも考えられる。したがって、残響時間が終了する前であっても受信信号を検出し、より近距離に存在する物体の検知を実現する技術が求められている。
【0026】
そこで、第1実施形態は、送受信部110および制御部120に以下のようなハードウェアおよび機能を持たせることで、より近距離に存在する物体の検知を実現する。
【0027】
第1実施形態において、送受信部110は、上記の送受波器111に加えて、発振器112と、変調器113と、復調器114と、を有している。これらの構成は、たとえばアナログ回路によってハードウェア的に実現される。
【0028】
発振器112は、送受波器111の振動子111aを振動させるための所定周波数の信号を発振し、発振した信号を変調器113に出力する。
【0029】
変調器113は、発振器112から入力された信号を制御部120から入力される信号に基づいて変調し、変調した信号を、振動子111aを振動させるための電圧信号として送受波器111に出力する。なお、第1実施形態において、変調方式は、振幅変調方式や位相変調方式、周波数変調方式など、一般的に知られた方式の単独または組み合わせが用いられうる。また、第1実施形態において、変調器113は、複数の変調方式を制御部120からの指示に基づいて適宜切り替えるように構成されていてもよい。
【0030】
復調器114は、送受波器111から入力された信号を復調し、復調した信号を制御部120に出力する。変調方式は、変調器113が使用する変調方式と対応したものが用いられる。
【0031】
制御部120は、記憶部121と、符号化処理部122と、相関処理部123と、測距部124と、を有している。これらの構成は、たとえば制御部120がプロセッサやメモリなどといった通常のコンピュータと同様のハードウェアを有した処理装置として構成されている場合、プロセッサがメモリに記憶されたプログラムを読み出して実行した結果として機能的に(つまりハードウェアとソフトウェアとの協働により)実現される。なお、第1実施形態では、制御部120を構成する各部が専用のアナログ回路などによってハードウェア的に実現されてもよい。
【0032】
記憶部121は、制御部120がその機能を実現するために用いられる各種のデータを記憶する。
【0033】
符号化処理部122は、変調器113による変調を利用して、送信信号に所定の符号長の識別情報を付与する符号化を行う。より具体的に、符号化処理部122は、0または1のビットの連続からなるビット列を物体検知装置100に固有の識別情報として生成する。このビット列の長さは、送信信号に付与される識別情報の符号長に対応する。符号化処理部122は、生成したビット列を変調器113に出力し、当該ビット列の各ビットに応じて変調器113に変調を実施させることで、当該ビット列に対応した識別情報を送信信号に付与する符号化を実現する。
【0034】
たとえば、変調器113は、変調方式として振幅変調方式を使用する場合、符号化処理部122から識別情報としてのビット列が入力されると、当該ビット列の各ビットが0か1かに応じて、送受波器111に出力する電圧信号の振幅の大きさを変化させる。同様に、変調器113は、変調方式として位相変調方式を使用する場合、符号化処理部122から入力されたビット列の各ビットが0か1かに応じて、送受波器111に出力する電圧信号の位相を変化させ、変調方式として周波数変調方式を使用する場合、符号化処理部122から入力されたビット列の各ビットが0か1かに応じて、送受波器111に出力する電圧信号の周波数を変化させる。
【0035】
相関処理部123は、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報との類似度(一致度)に対応した相関値を取得し、当該相関値と閾値(第1閾値)との比較結果に基づいて、類似度が所定以上のレベルであるか否かを判定する。相関値は、送信信号と受信信号との波形が一致した場合に閾値を超えてピークを迎える。このような相関値は、たとえば、一般的によく知られた相関関数などに基づいて取得(算出)することが可能である。相関処理部123は、相関関数などに基づいて取得された相関値を利用して、送信信号に付与される識別情報として符号化処理部122により生成されるビット列と、復調器114により復調された受信信号から特定される識別情報としてのビット列と、が所定以上のレベルで類似(一致)するか否かを判定し、判定結果に基づいて、復調器114により復調された受信信号が、物体により反射されて戻ってきた送信信号であるか否かを判定する。
【0036】
測距部124は、上記の類似度が所定以上のレベルであると判定された場合に、物体に関する情報(たとえば物体の有無や当該物体までの距離など)を検知する検知部である。より具体的に、測距部124は、送信信号が送信された(より具体的には送信され始めた)タイミングと、受信信号が受信された(より具体的には受信され始めた)タイミングとの差に基づくいわゆるTOF(Time Of Flight)法により、物体に関する情報として、物体までの距離を算出する。
【0037】
ここで、第1実施形態は、上記のように、送信信号に識別情報を付与し、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報との類似度に対応した相関値に基づき、復調器114により復調された受信信号が、物体により反射されて戻ってきた送信信号であるか否かを判定している。識別情報は、反射によって失われることは基本的にないので、識別情報に基づけば、残響時間中に受信信号が受信された場合においても、受信信号によって発生する振動子111aの振動と、慣性により残っている振動子111aの振動と、から、前者のみを検出することが可能になる。
【0038】
したがって、第1実施形態において、相関処理部123は、送信信号の送信が完了した直後から上記の相関値を取得し、相関値と閾値(第1閾値)との比較結果に基づいて、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報との類似度が所定以上のレベルであるか否かを判定する。
【0039】
図3は、第1実施形態にかかる物体検知装置100が送受信する信号の波形の例を示した例示的かつ模式的なグラフである。
図3に示されるグラフにおいて、横軸は、時間に対応し、縦軸は、物体検知装置100が送受波器111(振動子111a)を介して送受信する信号の信号レベル(たとえば振幅)に対応する。
【0040】
図3に示されるグラフにおいて、実線L11は、物体検知装置100が送受信する信号の信号レベル、つまり振動子111aの振動の度合の時間変化を表す包絡線の一例を表している。この実線L11からは、振動子111aがタイミングt0から時間T1だけ駆動されて振動することで、タイミングt1で送信信号の送信が完了し、その後タイミングt2に至るまでの時間T2の間は、慣性による振動子111aの振動が減衰しながら継続する、ということが読み取れる。したがって、
図3に示されるグラフにおいては、時間T2が、いわゆる残響時間に対応する。
【0041】
実線L11は、送信信号の送信が開始したタイミングt0から時間Tpだけ経過したタイミングt4で、振動子111aの振動の度合が、一点鎖線L21で表される所定の閾値Th1を超えた(または以上の)ピークを迎える。この閾値Th1は、第1閾値の一例であり、振動子111aの振動が、検知対象の物体(たとえば
図2に示される障害物X1)により反射されて戻ってきた送信信号としての受信信号の受信によってもたらされたものか、または、検体対象外の物体(たとえば
図2に示される路面X2)により反射されて戻ってきた送信信号としての受信信号の受信によってもたらされたものか、を識別するために予め設定された値である。なお、
図3には、閾値Th1が時間経過によらず変化しない一定値として設定された例が示されているが、第1実施形態において、閾値Th1は、時間経過とともに変化する値として設定されてもよい。
【0042】
たとえば、閾値Th1を超えた(または以上の)ピークを有する振動は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信信号としての受信信号の受信によってもたらされたものだと判定することができ、閾値Th1以下の(または未満の)ピークを有する振動は、検知対象外の物体により反射されて戻ってきた送信信号としての受信信号の受信によってもたらされたものだと判定することができる。したがって、実線L11からは、タイミングt4における振動子111aの振動が、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信信号としての受信信号の受信によってもたらされたものである、ということが読み取れる。
【0043】
なお、実線L11においては、タイミングt4以降で、振動子111aの振動が減衰している。したがって、タイミングt4は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信信号としての受信信号の受信が完了したタイミング、換言すればタイミングt1で最後に送信された送信信号が受信信号として戻ってくるタイミング、に対応する。また、実線L11においては、タイミングt4におけるピークの開始点としてのタイミングt3は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信信号としての受信信号の受信が開始したタイミング、換言すればタイミングt0で最初に送信された送信信号が受信信号として戻ってくるタイミング、に対応する。したがって、実線L11においては、タイミングt3とタイミングt4との間の時間ΔTが、送信信号の送信時間としての時間T1と等しくなる。
【0044】
ここで、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めるためには、送信信号が送信され始めたタイミングt0と、受信信号が受信され始めたタイミングt3と、の間の時間Tfを求めることが必要となる。この時間Tfは、タイミングt0と、受信信号の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4と、の差分としての時間Tpから、送信信号の送信時間としての時間T1に等しい時間ΔTを差し引くことで求めることができる。タイミングt0は、物体検知装置100が動作を開始したタイミングとして容易に特定することができ、時間T1は、設定などによって予め決められているので、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めるためには、タイミングt4を特定することが重要となる。
【0045】
そこで、第1実施形態は、前述したように、送信信号と受信信号とに所定の符号長の識別情報が付与されるように、送信信号に所定の符号化を施している。そして、第1実施形態は、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報との類似度に対応した相関値を取得し、当該相関値と第1閾値との比較結果に基づいて、類似度が所定以上のレベルであるか否かを判定している。なお、相関値の比較対象となる第1閾値は、上記の閾値Th1に対応した値である。このような構成によれば、類似度が所定以上のレベルであると判定されたタイミングを、受信信号が閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4として特定することができるので、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めることが可能となる。
【0046】
ところで、検知対象の物体が近距離に存在することで、残響時間が終了する前に送信信号が受信信号として戻ってくる場合について考える。この場合、
図3に示されるグラフには、タイミングt1とタイミングt2との間の時間T2(残響時間)に、破線L12のような包絡線で表される波形が表れる。
【0047】
残響時間中に戻ってくる送信信号は、短い距離しか伝播していないため減衰の度合が小さいので、振動子111aに、慣性で残っている振動(実線L11参照)よりも大きい振動(破線L12参照)をもたらす。したがって、第1実施形態では、送信信号の送信が完了したタイミングt1の直後から残響時間が終了するタイミングt2までの間においても、前述したタイミングt2以降と同様の手法により、検知対象の物体により送信信号が反射されて受信信号として戻ってきたか否かを判定することが可能である。
【0048】
ただし、タイミングt1の直後からタイミングt2までの間で検出対象となる受信信号の信号レベルと、タイミングt2以降で検出対象となる受信信号の受信レベルとは、互いに異なる。したがって、タイミングt1の直後からタイミングt2までの間に使用する第1の第1閾値の一例としての閾値Th2(二点鎖線L22参照)と、タイミングt2以降で基準として使用する第2の第1閾値の一例としての閾値Th1(一点鎖線L21参照)とは、時間に応じて切り替えて使い分ける必要がある。
【0049】
なお、送信信号は、伝播の距離が長くなるほど減衰するので、送信信号が受信信号として戻ってくるタイミングが遅くなるほど、受信信号の信号レベルは小さくなる。したがって、第1実施形態では、時間経過とともに信号レベルが小さくなる受信信号を正確に検出するために、上記の閾値Th2が、時間経過とともに小さくなるように設定される。なお、
図3には、閾値Th1を表す一点鎖線L21と、閾値Th2を表す二点鎖線L22とが、残響時間が終了するタイミングt2で連続している例が示されているが、第1実施形態では、閾値Th1と閾値Th2とが連続的に設定されていなくてもよい。
【0050】
このように、第1実施形態は、残響時間が終了した後だけでなく、送信信号の送信が完了した直後から残響時間が終了するまでの間においても、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報との類似度に対応した相関値を取得し、当該相関値と閾値との比較結果に基づいて、類似度が所定以上のレベルであるか否かを判定している。
【0051】
ただし、第1実施形態は、残響時間が終了した後に相関値と比較する閾値としての第1の第1閾値と、送信信号の送信が完了した直後から残響時間が終了するまでの間に相関値と比較する閾値としての第2の第1閾値とを、互いに異ならせる。第1の第1閾値は、上記の閾値Th1に対応した値である。また、第2の第1閾値は、上記の閾値Th2に対応した値であり、時間経過とともに小さくなるように設定される。なお、第1実施形態では、第1の第1閾値および第2の第1閾値の切り替えを、物体検知装置100(たとえば相関処理部123)が自ら実施するものとする。この場合、第1の第1閾値および第2の第1閾値は、いずれも、記憶部121に記憶される。
【0052】
なお、全ての識別情報、つまり識別情報としてのビット列の全部に基づいて類似度の判定を実施すると、判定結果の信頼性は高くなる一方、計算に時間がかかることがあり、たとえば残響時間が短い場合は、全ての識別情報に基づいて類似度の判定を実施しないことが望ましいことがある。したがって、第1実施形態は、少なくとも送信信号の送信が完了した直後から残響時間が終了するまでの間においては、識別情報の一部、たとえば識別情報としてのビット列のうち先頭に位置する数ビット分のみに基づいて類似度の判定を実施してもよい。すなわち、第1実施形態は、送信信号の送信が完了した直後から振動子111aの慣性による振動が治まるまでの残響時間が終了するまでの間、送信信号の識別情報の少なくとも一部と、受信信号の識別情報の少なくとも一部と、の類似度に対応した相関値を取得し、当該相関値と閾値(第2の第1閾値)との比較結果に基づいて、類似度が所定以上のレベルであるか否かを判定してもよい。
【0053】
図4は、第1実施形態にかかる物体検知装置100が物体を検知するために実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【0054】
図4に示される処理フローでは、まず、S401において、物体検知装置100(たとえば符号化処理部122、送受波器111、発振器112、および変調器113)は、符号化された信号を送信信号として送信する。
【0055】
そして、S402において、物体検知装置100(たとえば制御部120)は、送信信号の送信時間として設定された所定時間が経過したか否かを判断する。
【0056】
S402において、所定時間がまだ経過していないと判断された場合、S401に処理が戻る。一方、S402において、所定時間が経過したと判断された場合、S403に処理が進む。
【0057】
S403において、物体検知装置100(たとえば相関処理部123)は、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報との類似度に対応した相関値を取得する。つまり、物体検知装置100は、送信信号の送信が完了した直後から、相関値を取得する。
【0058】
そして、S404において、物体検知装置100(たとえば相関処理部123)は、残響時間が終了したか否かを判断する。この判断は、振動子111aのスペックなどに応じて予め設定された残響時間に基づいて実施されてもよいし、振動子111aの実際の振動を監視して当該振動が治まったか否かを検出することで実施されてもよい。
【0059】
S404において、残響時間が終了したと判断された場合、S405に処理が進む。そして、S405において、物体検知装置100(たとえば相関処理部123)は、S403で取得した相関値が、残響時間の終了後における相関値の比較対象として設定された第1の第1閾値以上か否かを判断する。
【0060】
S405において、相関値が第1の第1閾値未満であると判断された場合、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報とが所定以上のレベルで類似(一致)していない、つまり送信信号が反射により受信信号としてまだ戻ってきていない、と判断することができる。したがって、この場合、S403に処理が戻り、再び相関値を取得する。
【0061】
一方、S404において、残響時間がまだ終了していないと判断された場合、S406に処理が進む。そして、S406において、物体検知装置100(たとえば相関処理部123)は、S403で取得した相関値が、残響時間中における相関値の比較対象として設定された第2の第1閾値以上か否かを判断する。
【0062】
S406において、相関値が第2の第1閾値未満であると判断された場合、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報とが所定以上のレベルで類似(一致)していない、つまり送信信号が反射により受信信号としてまだ戻ってきていない、と判断することができる。したがって、この場合、S403に処理が戻り、再び相関値を取得する。
【0063】
ここで、S405において相関値が第1の第1閾値以上であると判断された場合と、S406において相関値が第2の第1閾値以上であると判断された場合と、においては、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報とが所定以上のレベルで類似(一致)している、つまり送信信号が反射により受信信号として戻ってきたと判断することができる。したがって、この場合、次のS407に処理が進む。
【0064】
S407において、物体検知装置100(たとえば測距部124)は、送信信号が送信された(より具体的には送信され始めた)タイミングと、反射により戻ってきた送信信号としての受信信号が受信された(より具体的には受信され始めた)タイミングと、の差に基づいて、TOF法により、送信信号を反射した物体までの距離を取得(算出)する。そして、処理が終了する。
【0065】
以上説明したように、第1実施形態にかかる物体検知装置100は、次のように構成された送受信部110、相関処理部123、および測距部124を有している。送受信部110は、超音波を送受信可能な振動子111aを有し、当該振動子111aにより、所定の符号長の識別情報を付与する符号化が施された送信信号を送信し、物体により反射された送信信号を受信信号として受信する。相関処理部123は、送信信号の送信が完了した直後から、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報との類似度に対応した相関値を取得し、当該相関値と第1閾値(上記の第1の第1閾値または第2の第1閾値)との比較結果に基づいて、類似度が、閾値に対応した所定以上のレベルであるか否かを判定する。測距部124は、類似度が所定以上のレベルであると判定された場合に、物体に関する情報(物体までの距離)を検知する。
【0066】
上記のような構成によれば、送信信号(および受信信号)に付与された識別情報を利用して、送信信号の送信が完了した直後から、送信信号が反射されて受信信号として受信されたか否かを判定することができる。これにより、残響時間が終了する前であっても、受信信号を検出することができるので、より近距離に存在する物体の検知を実現することができる。
【0067】
さらに、上記のような構成は、物体検知装置100が複数設けられている場合に有効である。たとえば、
図1に示されるような複数の物体検知装置101~104が設けられた構成においては、物体検知装置101~104の識別情報をそれぞれ異ならせれば、ある1つの物体検知装置100が送信した送信信号が受信信号として戻ってきた場合、当該受信信号を他の物体検知装置100が誤検出するのを回避することができる。すなわち、第1実施形態において、物体検知装置101~104は、互いに異なる識別情報を利用して、物体に関する情報をそれぞれ同時並行的に検知しうる。このような構成によれば、同時並行的に取得される複数の検知結果に基づいて、車両1の周囲の状況をより迅速かつより詳細に検知することができるので、より迅速かつより高精度な駐車支援を実現することができる。
【0068】
<変形例>
なお、上述した説明では、第1実施形態の技術が、超音波の送受信によって物体に関する情報を検知する構成に適用されているが、第1実施形態の技術は、超音波以外の波動としての、音波やミリ波、電磁波などの送受信によって物体に関する情報を検知する構成にも適用することが可能である。
【0069】
また、上述した第1実施形態では、送信信号の変調方式の切り替えや、第1の第1閾値と第2の第1閾値との切り替えなどといった動作を、物体検知装置100が自ら制御する構成が例示されている。しかしながら、これらの動作は、以下に説明する変形例のように、外からの制御のもとで実現されてもよい。
【0070】
図5は、第1実施形態の変形例にかかる物体検知装置100aを備えた駐車支援装置500の構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図5に示されるように、駐車支援装置500は、物体検知装置100aと、駐車支援ECU(Electronic Control Unit)501と、を有している。
【0071】
物体検知装置100aは、上述した第1実施形態にかかる物体検知装置100と同様の、周囲に存在する物体に関する情報を検知するセンシングデバイスである。また、駐車支援ECU501は、駐車支援(自動駐車を含む)を実現する駐車支援制御部としてのマイクロコンピュータである。物体検知装置100aと駐車支援ECU501とは、LIN(Local Interconnect Network)やUART(Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)などを利用した通信路550を介して接続されている。
【0072】
変形例において、物体検知装置100aが有する送受信部110aおよび制御部120aの基本的なハードウェア構成および機能は、上述した第1実施形態と略同様である。ただし、変形例は、送信信号の変調方式の切り替えや、第1の第1閾値と第2の第1閾値との切り替えなどといった、物体検知装置100aにおいて実施される動作が、駐車支援ECU501の制御のもとで実現されるという点で、上述した第1実施形態と異なる。このような構成によれば、物体検知装置100aの機能を簡単化することができる。
【0073】
<第2実施形態>
上述した第1実施形態では、1回の相関処理の結果として得られる相関値(のピーク)に基づいて、物体に関する情報が検知される。しかしながら、たとえば次の
図6に示されるように、1回の相関処理の結果として得られる相関値を考慮するだけでは、物体に関する情報を正確に検知するのが困難な場合も想定される。
【0074】
図6は、第2実施形態の必要性を説明するための例示的かつ模式的な図である。
図6に示される例において、実線L610は、たとえば硬い物体での反射や、近距離にある物体での反射などに応じて強いレベルで戻ってきた送信信号に基づく相関値の時間変化のパターンを表す包絡線であり、破線L620は、たとえば柔らかい物体での反射や、遠距離にある物体での反射などに応じて弱いレベルで戻ってきた送信信号に基づく相関値の時間変化のパターンを表す包絡線である。
【0075】
一般に、相関値の時間変化のパターンを表す包絡線は、メインローブと呼ばれる第1ピークと、サイドローブと呼ばれる、第1ピークに隣接する第1ピークよりも小さい第2ピークと、を有することが知られている。したがって、
図6に示される例において、実線L610は、第1ピークP611と、当該第1ピークP611の両側の第2ピークP612およびP613とを有しており、破線L620は、第1ピークP621と、当該第1ピークP621の両側の第2ピークP622およびP623とを有している。
【0076】
なお、
図6に示される例では、簡単化のため、メインローブの両側にサイドローブが1つずつ存在しており、それら2つのサイドローブのレベル(大きさ)が略一致しているが、実際には、サイドローブは2つ以上ずつ存在する可能性があるし、各サイドローブのレベルは様々に異なる可能性がある。
【0077】
また、
図6に示される例では、説明の便宜上、2種類の異なる態様での反射に応じた2種類の相関値の時間変化のパターンが、第1の態様での反射に対応した実線L610と、第2の態様での反射に対応した破線L620と、に分かれて図示されている。しかしながら、通常は、反射の態様を予め区別することはできないので、相関処理において実際に得られる相関値の時間変化のパターンは、実線L610および破線L620が合成されたパターンとなる。
【0078】
ここで、上述した第1実施形態の技術により得られる相関値おいて、閾値(第1閾値)との比較の対象になりうるのは、メインローブと呼ばれる第1ピークである。しかしながら、
図6に示される例では、第2の態様での反射に対応した破線L620の第1ピークP621が、第1の態様での反射に対応した実線L610の第2ピークP613と時系列で見て部分的に重なっているので、これらが合成されたパターンから、破線L620の第1ピークP621のみを正確に抽出することは困難である。すなわち、
図6に示される例からは、第2の態様での反射をもたらす物体に関する情報を正確に検知することが困難である。
【0079】
そこで、第2実施形態にかかる物体検知装置1100(
図2参照)は、以下に説明するような構成および処理に基づいて、たとえば
図6に示される例のような、複数(たとえば2種類)の異なる態様での反射に応じた複数(たとえば2種類)の相関値の時間変化が部分的に重なった形で表れるような状況であっても、各態様での反射をもたらす各物体に関する情報をより正確に検知することを実現する。
【0080】
なお、第2実施形態にかかる物体検知装置1100の構成は、上述した第1実施形態(
図2参照)にかかる物体検知装置100の構成と略同様である。ただし、第2実施形態においては、制御部1200の相関処理部1123および測距部1124の機能が、上述した第1実施形態と異なる。
【0081】
より具体的に、第2実施形態において、相関処理部1123は、まず、上述した第1実施形態と同様の相関処理により、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報との類似度に対応した第1相関値を取得する。たとえば、
図6に示される例では、実線L610と破線L620とが合成されたパターンが、第1相関値の時間変化に該当する。なお、以下では、第1相関値を、一次相関値と記載し、当該一次相関値を取得するための相関処理を、一次相関処理と記載することがある。一次相関処理は、一般的によく知られた相関関数などに基づいて取得することができる。
【0082】
そして、第2実施形態において、相関処理部1123は、上記の第1相関値の時間変化に対応した第1パターンと、予め設定された第2パターンとしての基準パターンの少なくとも一部との類似度に対応した第2相関値を取得する。基準パターンとは、一次相関値の時間変化におけるメインローブとサイドローブとの関係を計算などによって予め推定することで取得される、次の
図7に示されるような情報である。なお、以下では、第2相関値を、二次相関値と記載し、当該二次相関値を取得するための相関処理を、二次相関処理と記載することがある。二次相関処理も、上記の一次相関処理と同様、一般的によく知られた相関関数などに基づいて取得することができる。
【0083】
図7は、第2実施形態にかかる基準パターンの一例を示した例示的かつ模式的な図である。
図7に示される例において、実線L700が、基準パターンに該当する。
【0084】
図7に示されるように、実線L700で示される基準パターンは、
図6に示される実線L610および破線L620のそれぞれのパターンに類似した形で、第1ピークP701と、当該第1ピークP701に隣接する第1ピークP701よりも小さい第2ピークP702とを含んでいる。
【0085】
したがって、実線L700で示される基準パターンと、
図6に示される実線L610および破線L620が合成されたパターンと、に対して(二次)相関処理を実行すれば、両者の類似度に基づいて、実線L610および破線L620が合成されたパターンから、実線L610で示されるパターンに関する情報と、破線L620で示されるパターンに関する情報とを、ある程度のレベルで分離した形で取得することができる。すなわち、二次相関処理によれば、複数の態様での反射に関する情報が互いに区別不可能な状態で混在した情報(上記の一次相関値)から、次の
図8に示されるような、反射の態様毎にある程度のレベルで分離された情報を取得することができる。
【0086】
図8は、第2実施形態にかかる二次相関処理の結果を示した例示的かつ模式的な図である。
図8に示される例において、実線L801は、
図6に示される実線L610と
図7に示される実線L700とを対象とした二次相関処理の結果として表れる二次相関値の時間変化のパターンに対応し、破線L802は、
図6に示される破線L620と
図7に示される実線L700とを対象とした二次相関処理の結果として表れる二次相関値の時間変化のパターンに対応する。
【0087】
なお、
図8に示される例では、説明の便宜上、二次相関値の時間変化のパターンが、実線L801と破線L802とに分けて図示されている。しかしながら、
図6に示される実線L610および破線L602の関係と同様に、二次相関処理において実際に得られる二次相関値の時間変化のパターンは、実線L801および破線L802が合成されたパターンとなる。
【0088】
ただし、二次相関処理において実際に得られる二次相関値の時間変化のパターンは、時系列で異なる位置にピークを有する複数(たとえば2つ)のパターンにある程度のレベルで分離された形となる。たとえば、
図8に示される例では、二次相関値の時間変化のパターンが、実線L801で示されるパターンと、破線L802で示されるパターンと、にある程度のレベルで分離されている。
【0089】
ここで、実線L801で示されるパターンは、
図6に示される実線L610と
図7に示される実線L700とが類似していることに起因して表れるパターンであり、破線L802で示されるパターンは、
図6に示される破線L620と
図7に示される実線L700とが類似していることに起因して表れるパターンである。実線L801で示されるパターンと、破線L802で示されるパターンとは、時系列で異なる位置でピークを迎えるので、
図8に示される二次相関値からは、2種類の異なる態様での反射を検出することが可能である。
【0090】
このように、二次相関処理によれば、複数の態様での反射に関する情報を、反射の態様毎にある程度のレベルで分離された形で取得することができる。したがって、適切な閾値Th800を設定し、当該閾値Th800と二次相関値とを比較すれば、各態様での反射に関する情報を一括で適切に検出することができる。なお、閾値Th800は、「第2閾値」の一例である。
【0091】
たとえば、
図8に示される例では、閾値Th800以上のレベルのピークを有するパターンとして、実線L801で示されるパターンと、破線L802で示されるパターンと、の2つを検出することができる。したがって、
図8に示される例によれば、送信信号が2種類の異なる態様で反射されて2種類の異なる受信信号として戻ってきた、ということを検出することができる。
【0092】
そして、送信信号が送信されたタイミングと、上記の2種類の異なる受信信号が受信されたタイミングと、を考慮すれば、上記の2種類の態様での反射をもたらす物体のそれぞれに関する情報を検出することができる。すなわち、送信信号が送信されたタイミングと、1つ目の受信信号が受信されたタイミングと、の差分を考慮すれば、第1の態様での反射をもたらす物体までの距離を検出することができ、送信信号が送信されたタイミングと、2つ目の受信信号が受信されたタイミングと、の差分を考慮すれば、第2の態様での反射をもたらす物体までの距離を検出することができる。
【0093】
このように、第2実施形態によれば、複数の異なる態様での反射に応じた複数の一次相関値の時間変化が部分的に重なった形で表れるような状況であっても、二次相関値に基づいて、各態様での反射をもたらす各物体に関する情報をより正確に検知することを実現する。
【0094】
すなわち、第2実施形態において、相関処理部1123は、一次相関値を取得した後、当該一次相関値の時間変化に対応した第1パターンと、基準パターンとして予め設定された第2パターンの少なくとも一部と、の類似度に対応した二次相関値を取得する。そして、測距部1124は、二次相関値と第2閾値との比較結果に基づいて、物体に関する情報(物体までの距離)を検知する。
【0095】
より具体的に、相関処理部1123は、一次相関値を取得した後、二次相関値を取得し、当該第2相関値と第2閾値との比較結果に基づいて、送信信号の識別情報との類似度が所定以上のレベルである識別情報が付与された受信信号として複数の信号が受信されたか否かを判定する。そして、測距部1124は、複数の信号が受信されたと判定された場合に、物体に関する情報として、複数の信号の反射をそれぞれもたらす複数の物体に関する情報(複数の物体のそれぞれまでの距離)を検知する。
【0096】
ところで、前述したように、送信信号の送信が完了した直後(たとえば
図3におけるタイミングt1の直後)から残響時間が経過するまでの振動子111aに着目すると、慣性で残っている振動(実線L11参照)よりも大きい振動(破線L12参照)は検出が容易であるものの、慣性で残っている振動(実線L11参照)よりも小さい振動は検出するのが困難である。したがって、残響時間においては、受信信号の信号レベルの時間変化の全てを正確に検出できるとは限らないので、残響時間における一次相関値は、メインローブおよびサイドローブの全てを通常通り(つまり基準パターンの全体と類似した形で)に有しているとは限らない。
【0097】
そこで、第2実施形態において、相関処理部1123は、送信信号の送信が完了してからの経過時間に応じて、二次相関値の取得に使用する基準パターンの区間を変更する。たとえば、送信信号の送信が完了してからの経過時間が残響時間以上の場合は、受信信号の信号レベルの時間変化の全ての検出を見込めるので、一次相関値が、基準パターンの全体と類似したパターンを示すことが見込まれる。一方、送信信号の送信が完了してからの経過時間が残響時間未満の場合は、受信信号の信号レベルの時間変化のうち残響時間の経過後の終端側の部分の検出しか見込めないので、一次相関値が、基準パターンのうち時系列で終端側の部分のみと類似したパターンを示すことが見込まれる。したがって、第2実施形態では、
図7に示されるように、前者の場合、相関処理部1123は、実線L700で示される基準パターンの全区間W700を、二次相関値の取得に使用し、後者の場合、実線L700で示される基準パターンの一部の終端側の区間W701を、二次相関値の取得に使用する。
【0098】
すなわち、第2実施形態において、相関処理部1123は、送信信号の送信が完了してからの経過時間が短いほど、基準パターンの終端側の区間を、二次相関値の取得に使用し、経過時間が所定時間以上の場合、基準パターンの全体を、二次相関値の取得に使用する。なお、所定時間は、たとえば、送信信号の送信が完了した直後から振動子111aの慣性による振動が治まるまでの残響時間と一致するように設定されうる。このように設定すれば、送信信号の送信が完了してからの経過時間に応じて適切な基準パターンを使用して適切な二次相関値を取得することができる。
【0099】
図9は、第2実施形態にかかる物体検知装置1100が物体を検知するために実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【0100】
図9に示される処理フローでは、まず、S901において、物体検知装置1100(たとえば送受波器111)は、送信信号を送信する。この送信信号は、上述した第1実施形態と同様に、所定の符号長の識別情報を含むように符号化されている。
【0101】
そして、S902において、物体検知装置1100(たとえば送受波器111)は、受信信号を受信する。この受信信号は、物体により反射されて戻ってきた送信信号であるので、送信信号と同様に、所定の符号長の識別情報を含むように符号化されているはずである。
【0102】
そして、S903において、物体検知装置1100(たとえば相関処理部1123)は、S901で送信された送信信号の識別情報と、S902で受信された受信信号の識別情報と、の類似度に対応した一次相関値を取得する。
【0103】
そして、S904において、物体検知装置1100(たとえば相関処理部1123)は、S903で取得された一次相関値の時間変化のパターンと、予め設定された基準パターンと、の類似度に対応した二次相関値を取得する。
【0104】
そして、S905において、物体検知装置1100(たとえば相関処理部1123)は、S904で取得された二次相関値と、上述した所定の第2閾値と、を比較する閾値処理を実行する。この閾値処理においては、二次相関値と第2閾値との比較結果に基づいて、複数の態様での反射に関する情報、より具体的には、送信信号の識別情報との類似度が所定以上のレベルである識別情報が付与された受信信号として複数の信号が受信されたか否かが判定される。
【0105】
そして、S906において、物体検知装置1100(たとえば測距部1124)は、S905での閾値処理の結果に基づいて、物体までの距離を取得する。より具体的に、物体検知装置1100は、S905での閾値処理において、複数の信号が受信されたと判定された場合に、物体に関する情報として、複数の信号の反射をそれぞれもたらす複数の物体に関する情報(複数の物体のそれぞれまでの距離)を取得する。そして、処理が終了する。
【0106】
以上説明したように、第2実施形態にかかる物体検知装置1100は、相関処理部1123と、測距部1124と、を備えている。相関処理部1123は、送信信号の送信が完了した後、送信信号の識別情報と受信信号の識別情報との類似度に対応した一次相関値を取得し、当該一次相関値の時間変化に対応した第1パターンと、第1ピークと当該第1ピークに隣接する第1ピークよりも小さい第2ピークとを含むように予め設定された第2パターンとしての基準パターンの少なくとも一部との類似度に対応した二次相関値を取得する。測距部1124は、二次相関値と第2閾値との比較結果に基づいて、物体に関する情報(物体までの距離)を検知する。
【0107】
より具体的に、第2実施形態において、相関処理部1123は、一次相関値を取得した後、当該一次相関値の時間変化に対応した第1パターン(
図6参照)と、予め設定された第2パターンとしての基準パターン(
図7参照)の少なくとも一部と、の類似度に対応した二次相関値(
図8参照)を取得し、当該二次相関値と第2閾値との比較結果に基づいて、送信信号の識別情報との類似度が所定以上のレベルである識別情報が付与された受信信号として複数の信号が受信されたか否かを判定する。そして、測距部1124は、複数の信号が受信されたと判定された場合に、物体に関する情報として、複数の信号の反射をそれぞれもたらす複数の物体に関する情報(複数の物体のそれぞれまでの距離)を検知する。
【0108】
上記のような構成によれば、第1相関値を取得する相関処理と、第2相関値を取得する相関処理と、の2回の相関処理を、送信信号の送信が完了した後に実行することで、より近距離に存在する物体の検知を実現することができるとともに、複数の態様での反射に関する情報をより正確に検出することができる。
【0109】
ここで、第2実施形態において、相関処理部1123は、送信信号の送信が完了してからの経過時間に応じて、二次相関値の取得に使用する基準パターンの区間を変更する。このような構成によれば、送信信号の送信が完了してからの経過時間に応じて、基準パターンのうちの適切な区間を使用して、適切な二次相関値を取得することができる。
【0110】
また、第2実施形態において、相関処理部1123は、送信信号の送信が完了してからの経過時間が短いほど、基準パターンの終端側の区間を、二次相関値の取得に使用し、送信信号の送信が完了してからの経過時間が所定時間以上の場合、基準パターンの全体を、二次相関値の取得に使用する。このような構成によれば、送信信号の送信が完了してからの経過時間と所定時間との関係に応じて、二次相関値の取得に使用する基準パターンの区間を適切に設定することができる。
【0111】
なお、第2実施形態において、上記の所定時間は、たとえば、送信信号の送信が完了した直後から振動子の慣性による振動が治まるまでの残響時間である。このような構成によれば、残響時間を考慮して、二次相関値の取得に使用する基準パターンの区間をより適切に設定することができる。
【0112】
<第2実施形態の変形例>
第2実施形態においても、上述した第1実施形態の変形例と同様の変形例を適用可能であることは、言うまでもない。すなわち、第2実施形態の技術は、音波やミリ波、電磁波などの送受信によって物体に関する情報を検知する構成にも適用することが可能である。また、第2実施形態における各種の処理は、物体検知装置が自らの制御のもとで実行する形で実現されてもよいし、物体検知装置が当該物体検知装置に接続された駐車支援制御部の制御のもとで実行する形で実現されてもよい。
【0113】
以上、本開示の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0114】
1 車両
100、100a、101、102、103、104、1100 物体検知装置
110 送受信部
111a 振動子
123、1123 相関処理部
124、1124 測距部(検知部)
500 駐車支援装置
501 駐車支援ECU(駐車支援制御部)