(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】内燃機関及びシリンダブロック
(51)【国際特許分類】
F02F 1/00 20060101AFI20240806BHJP
F02F 1/08 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
F02F1/00 S
F02F1/08 Z
(21)【出願番号】P 2023052299
(22)【出願日】2023-03-28
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 泰裕
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-148158(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092176(WO,A1)
【文献】特開昭58-067924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00-1/42
F02F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダを有するシリンダブロックと、
前記シリンダ内に前記シリンダの軸線に沿って往復移動自在に収容されるピストンと、を有し、
前記シリンダは、スラスト-反スラスト方向の径が短径の楕円状内周部を有
し、
前記楕円状内周部は、上死点位置にある前記ピストンのスカート部の下端位置から下方に向けて前記スラスト-反スラスト方向と直交する方向の径を漸次長くした状態で形成されている、
内燃機関。
【請求項2】
前記シリンダは、前記楕円状内周部よりも前記ピストンの上死点側に真円状内周部を有する、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記楕円状
内周部は、燃焼・膨張行程の際の前記シリンダにおいて最大のサイドスラストを受ける位置よりも下方にある、
請求項1記載の内燃機関。
【請求項4】
ピストンを往復移動自在に収容するシリンダは、スラスト-反スラスト方向の径が短径の楕円状内周部を有
し、
前記楕円状内周部は、上死点位置にある前記ピストンのスカート部の下端位置から下方に向けて前記スラスト-反スラスト方向と直交する方向の径を漸次長くした状態で形成されている、
シリンダブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロック及び内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の内燃機関において、シリンダブロック内を摺動するピストンの摩擦損失低減を図るために、例えば、シリンダブロック内周面と接触するスカート部の外周面積を低減する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ピストンのスカート部の円周方向の形状が、ピストンピンの軸方向の長さよりも、ピストンピンの軸と直交するスラスト-反スラスト方向が長くなる楕円状に形成され、シリンダの内周面との摺動面積を減少させている。また、シリンダ側の形状を変更した構成としては、例えば、特許文献2には、スラスト-反スラスト方向が長い内周面を有するシリンダとし、この内周面内に、内側が円形或いは楕円のシリンダライナーを嵌め込んだ構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平07-008544号公報
【文献】特開2011-80436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来の特許文献1の構成では、ピストンとシリンダの摺動面積を減少させるために、ピストンのスカート部において楕円量(長軸径-短軸径)を大きくする、つまり、スラスト-反スラスト方向を長くすることが考えられる。
【0006】
しかしながら、楕円量が過大になると、その部位でのピストンとシリンダとの接触領域は減少するものの、スカート部が、燃焼圧の高いシリンダ上部で接触する際の面圧が増加する。これにより、シリンダ上部での油膜破断による摩擦悪化あるいは焼き付きが生じる恐れがあるという問題がある。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、シリンダ上部の油膜を保持しつつ、ピストンとの摩擦低減を図ることができる内燃機関及びシリンダブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内燃機関の一態様は、
シリンダを有するシリンダブロックと、
前記シリンダ内に前記シリンダの軸線に沿って往復移動自在に収容されるピストンと、を有し、
前記シリンダは、スラスト-反スラスト方向の径が短径の楕円状内周部を有し、
前記楕円状内周部は、上死点位置にある前記ピストンのスカート部の下端位置から下方に向けて前記スラスト-反スラスト方向と直交する方向の径を漸次長くした状態で形成されている、
する構成を採る。
【0009】
本発明に係るシリンダブロックの一態様は、
ピストンを往復移動自在に収容するシリンダは、スラスト-反スラスト方向の径が短径の楕円状内周部を有し、
前記楕円状内周部は、上死点位置にある前記ピストンのスカート部の下端位置から下方に向けて前記スラスト-反スラスト方向と直交する方向の径を漸次長くした状態で形成されている構成を採る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリンダ上部の油膜を保持しつつ、ピストンとの摩擦低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る内燃機関を有する車両を模式的に示す図である。
【
図4】シリンダ内において側圧が発生するピストン動作を示す断面図である。
【
図5】
図2及び
図3におけるC-C線部分のピストンとの関係を示す平断面図である。
【
図6】
図2及び
図3におけるD-D線部分のピストンとの関係を示す平断面図である。
【
図7】本実施の形態の内燃機関の構成においてシリンダ中央部を円筒形とした構成との摩擦損失を比較した図である。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すエンジン1は、エンジン本体10と、エンジン本体10に接続される変速部T/Mとを有する。エンジン1は、駆動軸2を介して駆動力が出力され車輪3を回転駆動する。
【0013】
図2は、
図1のA-A線概略縦断面図であり、
図3は、
図1のB-B線概略縦断面図である。なお、
図2及び
図3では、シリンダヘッドは図示省略しており、
図1に示すエンジン本体10のシリンダブロック11におけるシリンダ100の内周部の構成を主に示す。
また、
図4は、シリンダ内において側圧が発生するピストン動作を示す断面図であり、
図4Aは、ピストンが上死点にある状態を示し、
図4Bは、側圧が最大である状態を示す。また、
図4Cは、中央部を移動中のピストンを示し、大きな摩擦が生じている状態を示し、
図4Dは、ピストンが下死点にある状態を示す。なお、側圧は、ピストン側圧であり、サイドスラストとも称する。また、スラスト側をスラスト(T)、反スラスト側を反スラスト(AT)と称する。
【0014】
エンジン本体10は、上部にシリンダヘッド(図示省略)が設けられるシリンダブロック11の他、ピストン20に連結されたクランクシャフト(図示省略)を収容するクランク室(図示省略)と、シリンダヘッド等に接続される各吸排気系とを有する。
【0015】
シリンダブロック11は、ピストン20(
図4参照)を往復自在に収容するシリンダ100を有する。
【0016】
なお、ピストン20は、クランク軸(図示省略)にコンロッド(図示省略)を介して接続される。ピストン20は、コンロッドにピストンピン26(
図4参照)で回動自在に取り付けられており、周知のように、シリンダ100上部とともに燃焼室を画成するクラウン部22とクラウン部22の下方に接続されるスカート部24とを有する。
【0017】
クラウン部22は、頂面に凹部21を有し、外周面が断面真円状で形成されている。スカート部24の外周面は、スラスト(T)-反スラスト(AT)方向の径が、ピストンピン26の延在方向(ピストンピン26の軸方向、コンロッドの軸方向)の径よりも長い楕円状に形成されている。スカート部24の外周面は真円形状に形成されてもよい。
【0018】
シリンダ100は、シリンダブロック11に形成された中空の筒状体であり、内部をピストン20がシリンダの軸に沿って摺動する。シリンダ100は、上部110aの内周面を真円状(真円に近い略真円形状)とし、この部分を真円状内周部とする。また、シリンダ100は、中央部110bの内周面を、スラスト(T)-反スラスト(AT)方向の径が短径Lの楕円状内周面とし、中央部110bを楕円状内周部120としている。シリンダ100は、楕円状内周部120よりもピストン20の上死点側に真円状内周部を有する。
【0019】
上部110aは、上方を閉塞するシリンダヘッドに連続し、ピストン20のピストンヘッドの頂面は燃焼室の下面を形成する。
【0020】
中央部110b、つまり、楕円状内周部120は、ピストン20、具体的には、スカート部24との接触面積を、中央部110bの内周面が真円状である場合と比較して、接触面積が少なく、摺動摩擦を低減するように構成されている。本実施の形態では、楕円状内周部120は、例えば、ピストン20が最上位置(ピストンヘッドが上死点に位置した状態の位置であり
図4Aで示す位置)した際のスカート部24の下端よりも下方に形成されている。
【0021】
更に、好ましくは、楕円状内周部120は、シリンダ100において最大側圧(最大サイドスラスト)が付与されるシリンダの内周面の位置(最大側圧受け位置)112より下方に形成されている。
【0022】
中央部110b(楕円状内周部120)は、燃焼・膨張行程において燃焼圧が作用してコンロッドが傾き、ピストンがシリンダを押す分力(サイドスラスト力)を発生する位置、スカート部24のスラスト側端部24aが当接する位置、より下方に形成される。
【0023】
楕円状内周部120は、シリンダ100の内周面110において、上部110aの下端から下方に向かって、ピストンピン26の軸方向に延びる径(スラスト-反スラスト方向と直交する方向に延びる径)が、外方向に長くなるように形成されている。ピストンピン26の軸方向に延びる径は、リアR-フロントF方向に延びる径としている。
【0024】
中央部110bの軸方向(ピストン移動方向)の長さは、上部よりもピストン20(スカート部24)との摺動摩擦が大きい領域である。
【0025】
また、少なくともシリンダ100では、中央部110bの形状が、スラスト(T)-反スラスト(AT)方向の径が短径Lとなる楕円状内周面形状を有するものとして構成されていればよい。例えば、中央部110bだけ、スラスト(T)-反スラスト(AT)方向の径が短径Lを形成してもよい。
【0026】
中央部110bと下部110cとの境界114は、ピストン20が下死点にある位置(ピストン20、詳細にはピストンヘッドの下端部がある位置)であり、(
図4D参照)ピストン20の可動範囲の下端位置である。
【0027】
図5は、C-C線断面図で示すシリンダの真円状部と、サイドスラスト位置のピストンとの位置関係を示す図であり、
図6は、D-D線断面図で示すシリンダの中央部と、サイドスラスト位置のピストンとの位置関係を示す図である。
【0028】
なお、
図5及び
図6に示すシリンダ内周部とピストン20との間の隙間は、見易いように実際の隙間より誇張して表している。
【0029】
図5及び
図6では、シリンダ100内で往復摺動するピストン20が、最大サイドスラストを発生させる状態を示している。
【0030】
図5及び
図6に示すように、エンジン1(
図1参照)では、シリンダ100の上部110aは、ピストン20(ピストンヘッド)とともに真円状であるので、接触部分P2で接触して摺動し、ガスシール性の確保および焼き付き防止を実現している。
【0031】
また、シリンダ100の中央部110bは、スラスト-反スラスト方向の径を短径Lとする楕円状内周部120(中央部110b)であるので、ピストン20との接触部分P1は中央部110bの内周面を真円状とした場合よりも小さくなっている。
【0032】
図7は、エンジン1において、ピストンに対するシリンダの中央部の構成を、内周面を真円状とした場合と、本実施の形態のシリンダ中央部の構成にした場合との摩擦損失を比較したグラフである。
図7からも明らかなように、本実施の形態では、シリンダ上部では油膜を保持しつつ、シリンダ100(ライナ)の中央部110bから下部110cにかけてピストンスカートの摺動領域を低減でき、摩擦低減を実現できる。
【0033】
また、従来と異なり、ピストンスカート部の摩擦低減を目的に、スカート部の楕円量を過大に増加させてシリンダとピストンが接触する領域を減少させる必要がない。すなわち、シリンダ上部においてスカート部の面圧が増加することがなく、油膜破断による摩擦悪化あるいは焼き付きが生じることがない。
【0034】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記内燃機関の構成や各部分の形状についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る内燃機関及びシリンダブロックは、シリンダ上部の油膜を保持しつつ、ピストンとの摩擦低減を図ることができる効果を有し、ピストンとの摩擦摺動を低減する内燃機関を実現するものとして有用である。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン(内燃機関)
2 駆動軸
3 車輪
10 エンジン本体
11 シリンダブロック
20 ピストン
21 凹部
22 クラウン部
24 スカート部
24a スラスト側端部
26 ストンピン
100 シリンダ
110 内周面
110a 上部
110b 中央部
110c 下部
112 位置
114 境界
120 楕円状内周部
【要約】
【課題】シリンダ上部の油膜を保持しつつ、ピストンとの摩擦低減を図ること。
【解決手段】内燃機関は、シリンダを有するシリンダブロックと、シリンダ内にシリンダの軸線に沿って往復移動自在に収容されるピストンと、を有し、シリンダは、スラスト-反スラスト方向の径が短径の楕円状内周部を有する。
【選択図】
図3